「戦争とは哀しいものです」 そう、 終わった荒野で、 言う。 「それはこの歴史の中、大なり小なり無くなる事のないものでしょう。 でも、ですが、だけど、今、ここに、一つの戦争が終わった事は・・・・」 ぐっ、 と拳を握り、 力強く言う。 「一つの喜びであり、そして・・・・勝利です!!!」 「うっせバカ!!!」 「あだっ!!!」 ドジャーがド派手に飛び蹴りを放ち、 そしてド派手にアレックスが吹っ飛んだ。 「何するんですかっ!?」 吹っ飛んだ先でアレックスは反論する。 「何するもクソもねぇ!むしろこっちのセリフだ! 何してんだおめぇ!なんでてめぇが締めてんだよ!!」 うんうん、 と、 横で、 はたから、 エクスポとロッキーも腕を組んで頷いた。 うむ。 ハッキリ。 スッキリ。 キッカリ。 アレックスはなんもしてない。 いやいや、 アレックスの動きや作戦もあっての結果でもあるが、 最後を締めくくるのはちょっと違うはずだ。 だって、 参加してない。 というかアレックス単体はほぼまともに戦ってない気もする。 「はっ!」 アレックスはわざとらしく驚く。 「そうだった・・・・」 アレックスはわざとらしく体を崩し、 地面にうな垂れる。 「でも、そう・・・僕は一人じゃなかった・・・」 そしてぐっ、と頭を起こす。 「僕一人じゃ無力だった。けど皆が居たからこそ・・・・ そう、皆という一人一人の力があったからこそ、この険しい戦いにも勝利を・・・・」 「うっせハゲッ!!!」 「へぶっ」 追撃のドロップキック。 また幅跳びならぬ、幅飛ばされの記録が更新され、 アレックスは吹っ飛んだ。 「何するんですかっ!」 「だからお前が締めんなっつってんだろ!!」 「いいじゃないですかっ!!!」 ここでアレックスが反撃する。 「おいしいところもらうってちゃんと予告しましたもんねっ!だからもらったまでです!」 「は、恥ずかしくねぇのか!?」 「えぇ恥ずかしくないですね!だって僕の作戦とかバッチシ決まったのに終わったら地味なんですもん! ここいらで名誉を挽回して何が悪いんですか!そう・・・・人は誇りのために闘っているんです」 「無理矢理カッコつけんな!結局締めくくるような事はしてねぇのが事実だろが!」 「ドジャーさん」 アレックスは、 真剣な眼差しを送る。 「その通りです。誰がやったとかやらないとか、そんな事は関係ないですよね。 そう。・・・・それでいい。失ったものも得たものもありました。 いえ、失ったものの方が多かったかもしれません。でも・・・・ただ・・・・」 アレックスは空を見上げた。 「戦いは終わった。今はそれだけでいい・・・・それでいいんです・・・・」 「アレックス」 ドジャーはそんなアレックスの肩に手を置いた。 「本当にその通りだ。心に響く。だが、」 ドジャーはそのまま首を振りながら、言った。 「そのセリフは最終回とかで言え」 「・・・・・・・・」 ・・・・・。 そう、締めくくったところで、 アレックスのおいしいとこどりは失敗に終わった。 「でぇーもがんばったよねぇ〜〜」 「うん。その通りさ」 ぴょんぴょんと飛び跳ねるロッキーの横で、 エクスポは薄ら目を開けて言った。 「ボクは未完成の芸術は認めないからね。つまり、この勝利は完成品さ。 完成品っていうのは出来上がってる。全てをひっくるめて芸術なんだ。 その一部であるボクらも十分に美しいとボクは思うね」 「難しいこと分からな〜い」 「つまり、誰が決めたなんて事は関係ない。皆積み重ねたんだからね。 あぁロッキーには難しいんだったね。ま、ボクもアレックス君と同意見ってことさ」 「えぇ〜。じゃぁエクスポもドジャーに蹴られるのぉ〜?」 「ボクは蹴られないさ」 「なんでぇ〜?」 「アレックス君と違ってボクは本気で言ってるからさ」 「死ねぇ!!」 「チェストォ!」 「げふっ」 ドジャーとアレックスが同時に飛び蹴りを放ち、 エクスポが吹き飛んだ。 「な、何をするんだい!?」 アレックスと同じ事を言いながら、 アレックスと同じように体を起こすエクスポ。 「ボ、ボクは蹴られるほどの事は言ってない気がするけどっ!?」 アレックスとドジャーは、 並び立つように立ち構え、 エクスポに言い放った。 「蹴りたかったから!」 「蹴りたかったからです!」 「・・・・なんて理不尽な」 「うっせ!楽できたのはいいけど終盤ヒマで消化不良なんだよっ!」 「僕だけなんかダサいのはイヤだったからです!」 「さらに理不尽だ・・・・」 「いや、でも実はこれは優しさだぜ?」 「こうでもしてあげないとエクスポさんは存在感がなくて背景になってしまいますから」 「り・・・不憫だ・・・・ボク・・・・」 どういう理由でも、 理不尽かつ、 オチもなく、 ただ蹴られたエクスポは哀れでしかたがない。 「いっぱいとんだ〜!すごいすごぉ〜い!」 ロッキーは喜んでいるが。 「あぁ〜!しかも流れ星が飛んでるよぉ〜?すっごぉ〜い!」 ロッキーがその小さな指を突き出し、 唇も突き出して無邪気にそう言う。 「へ?」 「流れ星?」 それを聞き、 各々がそちらへ振り向く。 その空へ。 まだ夜など来ていない。 なのに流れ星が見える? 「・・・・・・あぁ」 「まぁ、そうでしょうね」 「自分らで撒いた種だからしょうがないさ」 その空。 向こうの方の空。 赤い。 赤い炎が飛び去っていた。 「ありゃぁ次会う時は一難かもな」 言う必要もなく。 ダニエルだった。 炎の神。 燃え盛る炎の神。 オーバーヒートさせてしまった炎神(エンジン)。 それが、 森の彼方へと飛び去っていく。 「アレックス君は、処理する気はあったのかい?」 「処理・・・って表現は悪いですけど、後始末はするつもりでした」 どちらにしろ表現は悪いが、 つまり、 ダニエルを元に戻す・・・というか落ち着かせるつもりはあった。 思いあがりとも思われるかもしれないが、 自分が、 自分がダニエルの前に姿を晒せば、 あの暴走した炎神(エンジン)も冷却できると思っていた。 彼の、 ダニエルのハンドルを握っているのは自分のはずだから。 利用したからには、 裏切って利用したからには、 ちゃんとブレーキにもなってやるつもりだった。 「運が悪かった・・・としかいえねぇが、その機会は無かったってことだな」 「はい。飛び去る方がこちら側ならまだどうかなったかもしれませんけど」 「出会わない運命ってのは美しくないね。でも、しょうがないよ。 彼を使わなければ戦争自体は負けていたんだよ?リスクの前にリターンが来ただけさ」 だから、 リスクだけが残った。 災害は、 火災害は、 野放しへ。 「むぅ〜・・・・」 ただ一人、 ロッキーだけは、 下唇を出してむくれていた。 「でもなんか〜・・・僕あの流れ星嫌い〜・・・・」 ・・・・。 それについては、 あえて説明をする必要はないだろうと、 黙っておいた。 知らない方がいい。 ロッキーは純粋なままでいい。 あの飛び立つ炎の神。 あの赤い炎。 王国騎士団の命令だったから。 それだけで済む問題じゃないだろう。 あの炎がカプリコ砦を燃やしたのだから。 あの炎がロッキーの家族を燃やしたのだから。 それだけじゃない。 あの炎が、 ノカン村をも焼いた。 そう。 今、 この地。 ノカン村跡地を、 ノカン村跡地にした張本人さえも、 あのダニエルなのだ。 全ての根源。 この戦争事体、 ダニエルが根源の、 まさに火付け役だったと遡ってもいい問題だったから。 「そう言う意味じゃぁ、調度よかったかもな」 「はい」 「何がだい?」 「察し悪ィ奴だなエクスポ。ロッキーの前で言わせんなよ」 「なんてデリカシーのない人でしょうね」 「・・・・・なんとなく分かったけどゴメンと一応言っておこうか」 「ま、てめぇは一年前のミルレスでのアレを見てねぇしな」 一年前のミルレス。 《GUN'S Revolver》との全面戦争。 あの日、 あの時のダニエルと・・・カプリコ三騎士の対立を見ていれば、 ただそういう言葉は出ていただろう。 犯人のダニエルは問題じゃなく、 被害者である三騎士にとって憎み、 憎みきるほどの相手なのだ。 あの炎の神は。 炭はまだ燃える。 燃やされた後も、 まだ燃える。 もう一度火をつける必要はない。 「そう考えると、もとからどっちかしか手に入らなかったんだな」 「ロッキーのお陰で三騎士の助力を得られそうだから・・・だね」 「あの大火力か、3つの伝説。もとより僕らはどちらかしか手に入らなかったってわけです」 どちらかしか手に入らなかった。 だから、 片方は捨てるしかない。 捨てた。 その表現は使いたくない。 そうなると、 さすがに胸が痛む。 どんな狂気な形であろうと、 ダニエルは、 アレックスが好きで愛しくてしょうがなかったのだから。 「ありゃりゃ。なんか勢ぞろいね」 「おろ。懐かしい顔がおるな」 女の声が二つ聞こえたと思うと、 それは、 マリナとイスカだった。 森の中から、 マリナがイスカを半分担ぐようにして歩いてきていた。 「森を抜けてみれば戦争どころかお仲間勢ぞろいじゃない」 「となればマリナ殿に気を使わせるまでもないか」 「そうね」 ポイッ・・という効果音が聞こえそうなほどに簡単に、 マリナはイスカから手肩を剥がした。 さすがにそこまでそっけないと、 イスカは落ち込みそうだった。 ・・・。 でもまぁ一人で歩けないほどでもない。 強くなければ。 マリナの前では。 「イスカとマリナだっ!!!」 ただ純粋に再開を喜んだのは、 やはりロッキーの方だ。 「わぁ〜い!!ひさしぶりぃ〜!」 こっちはこっちでピョコピョコとでも足音の効果音が聞こえそうな足取りで、 小さなロッキーはマリナへと走っていった。 「まぁ〜りなぁ〜!」 「あら、可愛いままで何よりね」 ロッキーは力いっぱいジャンプして、 マリナの胸へと飛び込む。 マリナも跳んで来たロッキーを抱きかかえるようにキャッチした。 「ん〜♪やっぱむさい男だらけだったから癒しは大事ね」 「あはは〜!マリナくすぐったぁーぃ!」 マリナはロッキーを抱きかかえたまま持て囃していた。 それはそれは、 心温まる光景だったが、 イスカだけはその光景が恨めしいのか、 言葉に出さずともわなわなと震えていた。 「はい終わり。イスカ、パス」 どんな豹変振りか。 マリナは可愛がり尽くしていたロッキーを、 これまたポィ・・という効果音と共に、 イスカへ投げ捨てた。 ぬいぐるみのように。 ロッキーは無邪気に喜んでいたのでいいが、 イスカは慌ててキャッチしていた。 「クールな女だな・・・・」 「もうちょっと美しい再会の光景を続ければいいのにね・・・」 「いーのいーの。別にただの一年ぶりだしね。戻ってくるって分かってたからいいの」 戻ってくると分かっていた・・・からいいか。 それはそれで、 信用のなす技かもしれない。 それだけの絆があるというなら。 「それより私に報告しなさい」 マリナは、 そう偉そうに言い放った。 「は?」 「何をだい?」 「状況は大体把握できるんじゃないですか?戦争は無事・・・ではないですけど終わりました」 「いやいや」 こう本人の前で言うと殺されるだろうが、 呆れたようにマリナは両手をおばさんのように振って、 続けた。 「私が言ってるのは話の続きよ。戻ってくるって分かってたロッキー君はいいわ。 私は"そうじゃない方"がどうだったのかって聞いてるの。ま、現状見れば分かるけどね」 やはり呆れているのだろう。 マリナはため息混じりに言った。 「メッツどうなったのよ。どーせ来てたんでしょ」 それには・・・・ 言葉はすぐには出なかった。 「・・・・ま、たしかに見た現状のまんまだ」 「マリナさんの憶測どおりメッツさんには会いましたけど・・・」 「ロッキーとすこぶる遊んで帰っちゃったよ」 「なんだかねぇ・・・・まぁメッツらしいっちゃメッツらしいけど・・・・」 それはそれで、 メッツをよく知っているからこその反応だった。 メッツは・・・ 《MD》で一番豪快で豪傑で、 それでいて単純で単細胞で・・・・。 だけど《MD》の中で一番強情で繊細だ。 考えがあってもなかろうとも、 すぐに戻ってくるような者でもない。 「まぁそんなとこでしょうね。意地張ってんでしょ」 メッツだけは、 戻ってくるか戻ってこないか分からない。 いや、 半ば確信的に、 「どーせ戻ってくるだろう」 なんても思っている。 だけど、 あの繊細な豪傑の事だ。 《MD》を引きずりまくってる単細胞の事だから。 逆、 今だ敵であるのに《MD》を名乗っているメッツの事だから、 戻ってくるか戻ってこないかではなく、 戻ってきても戻ってこなくとも同じで、 変わらずメッツで、 だからこそ、 このままかもしれない・・・。 そんな不安もあった。 「戻ってくるよぉ〜!」 だから、 純粋なロッキーは、 イスカの腕の中で笑って当たり前のように言うのだ。 「だってぼくはメッツの頭の上が一番落ち着くしぃ〜、大好きだから」 ニシシ、 と、 恥ずかしげもなく、 照れる事もなく言うからこそ、 純粋というのは凶悪だ。 「ふむ」 ロッキーを抱えたまま、 イスカは頷く。 「それで。拙者は全然状況を飲み込めないのだが」 「はん?」 「いや・・・・マリナ殿には見れば状況を把握できるとかなんとか言っておったが、 森から出てきてこの光景を見せられても、イマイチどういう結果なのか飲み込めん」 「不器用だからな」 「不器用ですからね」 「うむ。不器用だからな」 まるで自分のステータスだと言わんばかりに頷くイスカ。 森から出てきただけで、 戦場の様子はカラッキシ見てないわけだから無理もないが、 偉そうにするな。 「ま、あれを見てみることだね」 そう、 エクスポが指を指した、 遠い先。 「ふむ。いい天気だ」 「お前の目は節穴か。もっと目に入るもんがあるだろう」 それはそうだ。 それは、 遠くに見える・・・ 大きな、 大きな、 ガレオン船。 デムピアスシップ。 陸には有りえない光景でありながら、 堂々と、 そして、 今にも光に包まれ、 転送しようとしていた。 「ふむ」 イスカは頷いた。 「あまりに有りえない光景ゆえに、拙者だけが見ている幻かと思った」 「幻を華麗に受け止めるな」 「現実です」 「ふむ。とうとう世界の技術は船が陸を泳ぐようになったのか。 摩訶不思議だな。これが"でじたる"の力というものか」 全然違うが、 摩訶不思議なのは現実なので、 皆もどう突っ込めばいいのか分からなかった。 「で、なんなのあれ?」 「あれはデムピアスさんの船です。イスカさんのいう事もあながち外れてなくて、 ちょっと僕らにも原理も技術も分かりません。文明を凌駕してますから」 「ボクは恐らく記憶の書の類だと思うけどね」 「無論だ」 そう、 イスカが言ったのかと思ったが、 違った。 それは、 イスカが抱きかかえるロッキーの方だった。 「何百年も前に見たことがある。あれは今は無きメント文化の技術だ」 ロッキーは目つき鋭くそう言った。 そんなロッキーを抱えながら、 イスカは不思議そうに頭を傾けた。 「・・・・ロッキー。お主、ちょっと見ないうちに何百年も生きたのか」 「無論だ」 「無論じゃねぇだろ・・・話ややこしくすんな」 「そのロッキー君はですねぇイスカさん。オリオールさんという・・・・」 「あー、いいわ。その辺はパス。後で聞くから」 イスカを無視し、 マリナはフリフリと片手を振って話を終了させた。 ロッキー、 及びオリオールの現状は、 それは知らないものにとって驚愕の事実かと思ったが、 マリナにとっては後回しでいい問題なようだ。 どうとでもなったことよりも、 どうなったか分からない事を知りたいらしい。 「とにかくなんとなく分かったわ。デムピアスが乱入してきたのね。 ま、いろいろあったのはハショってもらっていいけど、とにかく勝ったのは間違いないのよね?」 そう言っている間にも、 デムピアスの船は空へと消えていった。 あの大きな船が、 どこかへ移動する。 それはそれこそ摩訶不思議だったが、 それも一つの終わり。 「もちろんです」 アレックスは笑った。 「そういえばツヴァイとエドガイはどうなったんだい?」 「おぉ、森の中で会ったぞ」 「まだ森の中なんじゃない?それより、ねぇ!デムピアスが来たってことはさ。 もしかしてシャークも一緒だったわけぇ?そこを知りたいのよそこを」 「そこまでは知らねぇよ」 「えー」 「でももしデムピアスさんの仲間になってたら、それは味方じゃなくなったってことですよ?」 「シャークが敵なわけないじゃない!」 「だから味方じゃなくなったってことです」 「むぅ」 マリナは腕を組んで口を尖らせた。 分かりもしない結論に対し口論する性格でもないわけで、 ただ困った。 「ま、ともかく俺らも戦況は終わった、勝った、くらいにしか知らねぇよ」 「ボクらもちょっと遠目に居た訳だしね」 「森が焦げておる」 「あーもー、無駄にそういうとこだけ気付くな。話が進まねぇ」 「とにかく戦場の真ん中は当事者しか分かりませんね」 「ジャスティンだね」 「あー、あの男前なら先帰ったよ」 「うわっ!ビックリしたぁ!?」 いつの間にか、 というしかない。 アレックスの真後ろに、 黒スーツの女ヤクザ。 ツバメが立っていた。 「そりゃビックリしてもらわないと。今今きたとこなんだから」 「早ぇな・・・あの遠くの戦場からもう移動してきたのかよ・・・」 「移動もクソも、うちを見くびってんじゃないよ?お呼びじゃないわ。 うちの能力は知ってんだろ?殺化ラウンドバック。見えさえすれば飛んで来れるんだよ」 なるほど。 脳内の記憶の書を使った、 シシドウが暗殺術。 つまり、 いつの間にか居たのではなく、 たった今。 まさに今、 アレックスの背後に飛んできた瞬間だったわけだ。 ただ、 アレックスは納得と共に、 少し寒気がした。 戦うでなく、 殺すためだけの術。 シシドウが闘い。 ツバメでなければ、 アレックスは死んでいた・・・と言ってもよかったのだから。 「んで、報告ならするよ。お呼びならね」 シュポっ、 と、 ジッポに火を灯す。 ツバメは口に咥えたタバコに火を付けた。 「あんた喫煙者だったの?」 「うっせ!悪いかアマ!?」 「・・・・・あんた・・・・私が嫌いって設定まだ生きてたのね・・・・」 「ふん」 ツバメは不機嫌そうにタバコの煙は小さく斜め下に吹いた。 「まぁいいや」 「とにかくそれなら教えてください」 「ん?あぁ。そうだね。《昇竜会》ってのは若頭の役目の一つにね、 組長のタバコの火付け役ってのがあるから組長ってのは代々タバコを・・・・」 「いや、そこじゃねぇ」 「戦争の方かい」 それ以外にはない。 じゃぁお前は何しにきたのだと問いたい。 「終わったよ。チャッカリとね」 そう、 ツバメは言い放った。 「今、残務処理の真っ最中さ」 「つまり、」 「全滅だよ。敵はね」 全滅・・・か。 そうだろうと思ってはいたが、 まさか本当に、 根絶やしにまでなるとは思っていなかった。 欲しかったのは勝利であり、 命ではないのだから。 「それ以外に終わる術はなかったよ。最後の一匹まで戦ってたからね」 最後の一匹まで・・・か。 敵ながら、 魔物ながら、 アッパレだ。 そして、 だからこそ塵も残さぬまで殺さないと、 終わらない悲しき戦争になったのかもしれない。 「で、なんであんたはここに居るのよ。本拠地の守護じゃなかったの?」 「うっせアマッ!!!」 「どうなったのだ?」 「されがさぁ、聞いておくれよイスカ嬢」 ここまで対応に違いがあると、 さすがに同情の余地はあった。 「まぁ極道として、深い深い理由があったわけだけどねぇ」 「我慢できなかったんですね」 「一言で言うならね」 「浅いな」 「それは引き金になったんだからいいじゃないかい」 まぁ・・・ いいけども。 「うちら《昇竜会》だけじゃないよ。最後の一押しになったのは、 他に《モスディドバスターズ》、そして《デムピアス海賊団》の力があったからだね」 「あぁ、そういえばモスディドの方はどうなったんですか?」 「マリとスシアが勘定の話をしに行ってるよ。 あとのもんは生き残りがいないかってことと、帰る準備をしてもらってる。 何せフレアもメテオラもいないからね。うちが指揮ってやんないと統制とれなかったよ」 そういう意味では、 ツバメは来てもらって万々歳だったかもしれない。 「ジャスティンも帰っちゃったわけだしね」 そう考えると、 反乱軍にはあまりにも統率者がいなかった。 これは一つの反省点でもある。 「で」 ツバメは、 タバコの煙を吹いた後、 真剣な顔をして言った。 「一番聞きたいことあんじゃないの」 一番聞きたい事。 戦況でもなく、 現状でもなく、 理由でもなく、 結果でもなく。 いや、 結果か。 それは敵の事ではない。 それは、 「・・・・・こちらの生き残りは?」 「二千」 アレックスに対し。 即答が帰ってくる。 「に・・・・」 一番顔をしかめたのはドジャーだった。 「二千って・・・おま・・・一万居たんだぞ」 「ここに来てウソつかないよ」 ツバメの顔に、 目に、 嘘虚実の光はなかった。 「そりゃぁ・・・美しくないね」 「勝てるかどうか分からない戦いだったということを考えれば前向きにもなれるがな」 「なれねぇよ・・・・俺達はこれが終わりじゃねぇんだぞ?」 改めて、 改めて帝国の力には感服する。 たった、 たった一回の戦いで、 戦力を1/5までに減らされてしまった。 そうまでしても、 勝てない。 勝てない。 それほど、 それほどの相手なのか・・・。 相手は・・・ あまりにも大きすぎる。 「ハッキリ言って重症だよ。《メイジプール》も半壊を軽く超えてたね。無事なのは《昇竜会》のみ」 「海賊団もアレだしな・・・やべぇな」 「敵の思う壺だったのかもね」 「がんばればだいじょーぶだよ〜?」 「丈夫どころか脆過ぎた感じですけどね」 前向き・・・か。 それだけで戦える相手でもない。 「二千・・・二千ねぇ。お店のお客で考えると1/5っていうのはもう閉店のレベルね」 「つまり、潰れたも同じダメージってことです」 「だが死んでおらぬだろう?」 イスカの言うとおりだ。 それでも、 まだ。 まだ生きている。 やらなければならない。 「とりあえず今の事より先の事です。悩むより考える事です」 「本当は美しく祝杯といきたいところだけどね」 「そんな結果じゃなかったってことだ」 「とにかく終わってすぐでナンなんですが、作戦会議といきましょう。反省会とも言いますけどね。 ツヴァイさんとエドガイさんもすぐに戻ってくるでしょうし、それに」 「パパ達もー!」 「そう。カプリコ三騎士の皆さんとも話をすべきです」 「それでも半分が《MD》で埋まる会議になってしまいそうだね」 「あぁそういえばガブちゃん野郎はどうなった」 「アレなら拾ったよ。バギの死体の上で寝てた」 「・・・・・偶然落下したとこクッションがあったのか・・・」 「神族ならではの天運とでも言っておきましょうか・・・・」 「とにかくぼくも疲れた〜〜〜」 「ってことです。とにかく一旦帰りましょう」 帰りましょう。 その言葉はあまりにも皮肉だった。 彼らの帰る場所は・・・・・・ 「・・・・・・」 一同は固まった。 アレックス。 ドジャー。 エクスポ。 マリナ。 イスカ。 ロッキー。 ツバメ。 時を同じくして、 共に転送してきた先。 スオミダンジョン。 その地下。 本拠地。 反抗期の巣窟ことコロニー。 そこは・・・・ 血まみれだった。 「ど、どうなってんのよコレ・・・」 「・・・・・言葉もない」 暗い、 暗い地下の洞窟。 おびただしい、 死臭。 おびただしい、 屍骸。 おびただしい、 血。 死。 千の死。 戦う事を知らぬ、 人々の死。 「あ・・・あ・・・」 ロッキーは怯えるように周りを見渡していて、 一番近くにいたエクスポの足にしがみ付いた。 エクスポはソッとその頭に手をやったが、 エクスポ自身も信じられない顔つきで、 固まっていた。 「・・・・ひでぇ」 ドジャーには、 それしか言える事はなかった。 「こんな・・・・」 アレックスとて、 冷静は保てなかった。 仲間であった、 いや、 新しい家族であった人々が、 地の中で、 血の中に沈んでいる。 「拙者らは・・・・外に誘き出されただけだったというのか・・・・」 「クソッ!!!!」 地面に、 地下の固い地面に思いっきり拳を付きたてたのは、 ツバメだった。 「うちが・・・・うちが守備を全うしなかったばっかりに・・・・」 「いえ・・・・」 アレックスは、 周りの空間から目を放せず、 だけどなんとか一息置き、 ツバメに声をかける。 「この惨状・・・・失礼ですがツバメさんが居たところで同じだったでしょう・・・・」 「団体の仕業では・・・ないな」 イスカが、 少し歩み、 床に屈む。 「踏み荒らされた様子がない。少数の仕業だろう」 「少数って・・・・」 たった、 たった数人に、 これだけの、 これだけの事をしてやられたのか。 否、 これだけの事をしでかすクソ野郎がいるというのか。 「少なくとも2人・・・・それにしても惨い・・・」 「うちが・・・・うちが・・・・・」 「ツバメ」 芯から悔しがり、 不甲斐なく嘆くツバメに、 背を向けたまま、 というよりもまだ惨状に目を放せないまま、 ドジャーが声をかけた。 「誰かのせいじゃない・・・誰ものせいなんだ」 そう・・・。 守りきれなかった・・・ 自分達、 全員の責任。 責任? 責を任されたところで背負いきれない。 そして、 償いきれない。 「クソ・・・・ふざけやがって・・・・・」 惨状。 そして、 地獄絵図。 その死体だらけの空間。 「ねぇ、あれ」 マリナが指を指す。 洞窟の奥。 影。 二人の影。 誰ともなく、 走り寄ると、 それは、 エドガイとツヴァイだった。 「・・・・・・」 エドガイとしても言葉もないようで、 苦虫を噛んで両手を広げるだけだった。 ・・・・。 いや、 重症なのはツヴァイの方だった。 ツヴァイは、 こちらも見ず、 ただ、 一つ。 屍骸を抱きしめていた。 「・・・・・この子は・・・・」 赤色に染まりながら、 ツヴァイは、 その小さな女の子の亡骸を強く、強く抱きしめていた。 「オレに・・・・夕顔をくれた子なんだ・・・・。生きても居なかった・・・このオレに・・・・ 初めて・・・生まれて初めて何かを与えてくれた子だったんだ・・・・」 最強の一角は、 世界の何よりも儚い表情で、 今にも壊れそうに見えた。 女の子の屍骸を抱きしめるその両肩は、 あまりに細く、 小さく見えた。 「奥も・・・・同じなんですか?」 アレックスは、 恐る恐る聞いたが、 ツヴァイは女の子を抱きしめたまま、 死んだように動かなかった。 それを見かね、 エドガイが代わりに答えた。 「分からねぇが分かる。・・・・・見てはいねぇが・・・・連なってるだろうよ」 死臭が。 どこまで。 どこまでも。 いけども、 いけども、 同じ、 同じ光景が続き、 連なる死臭が。 「見てきてくれ。俺ちゃんはツヴァイを見とく。だが気ぃつけろよ。"まだ居るかもしれねぇ"」 何が。 それは、 問う必要もなかった。 まだ、 まだ、 張本人が。 この惨状の犯人が。 まだいるかもしれない。 「クソォオオ!クソォオオオオオ!!!」 我も忘れているのはツバメだった。 あまりにも自分を責めたいのだろう。 結果的に無力で、 意味を成さなかっただろうとも、 自分はここを守るべきだったのだ。 なのに、 この有様だ。 「落ち着いてよツバメ!」 「うっせぇ!うっせぇよアマ!!うちが・・・・うちが・・・・」 崩れ落ちるツバメ。 こちらも重症だった。 そして、 これ以上見たくもない。 そんな、 そんな様子で、 そのまま両手を地面に付いて、 泣き崩れた。 「・・・・・」 アレックスとドジャーがマリナに視線を送る。 だがマリナは首を振った。 自分の足元に崩れるツバメを、 放っておけないという事だろう。 また、 今度はエクスポに視線を変えたが、 同じだった。 エクスポの足元にはロッキーがビクビクと隠れていて、 エクスポじゃなくとも、 ロッキーのような幼い子供にこれ以上を見せるのは躊躇われる。 「・・・・・」 「行きましょう。ドジャーさん」 ドジャーは少し躊躇した。 奥に潜むかもしれない、 その誰か。 いや、 その誰かに怯えるでなく、 さらに広がる現状を見据えるのがイヤだった。 「・・・・あぁ」 だが、 行くしかなかった。 ツヴァイとエドガイ。 エクスポとロッキー。 マリナとツバメ。 イスカも残る気のようだった。 いや、 強がっているように見えるが、 イスカが一番体調が悪そうだった。 もともと負っていたダメージが大きかったのもあるだろうが、 誰よりも鋭利な五感を持つ彼女に、 この腐敗した死臭と景色。 それは支障のある体には毒でしかないのだろう。 だから、 アレックスとドジャーは二人で歩んだ。 ・・・・・。 ・・・・。 ・・・。 ・・。 ・。 「・・・・・・ひでぇ」 やはり、 声に出せるのはそれしかなかった。 歩んでも、 歩んでも、 死体。 屍骸。 命尽きた、 女、 子供、 老人。 ある者は半分に切れ落ち、 ある者は体の半分が行方不明で、 共通している部分は、 皆、 赤く染まり、 命尽きていることだけだった。 「・・・くっ・・・」 歩みながらも、 ドジャーは目を背けたかった。 そして、 鼻をつまみたかった。 どこまでいっても、 赤い、 残虐なる結果の景色。 赤い、 赤い景色。 どこまでいっても、 赤い、 濁った、 腐臭。 死臭。 360度、 全てから発せられる、 非現実感、 そして、 現実として認めたくない現実。 「・・・・ドジャーさん」 アレックスは、 何かに気付き、 それを拾い上げた。 それは・・・ 「・・・・トランプ?」 一枚の、 血に汚れたカード。 「・・・・あいつか」 シド。 シド=シシドウ。 殺人鬼の申し子。 「・・・半分は彼ってことでしょう」 「なら残る半分は誰なんだよ」 誰? 誰だろうが、 そいつは最悪であることは間違いない。 だが、 これほどまでの実力者というのならば、 絞れる。 「クソォ!!!」 怒れるドジャー。 そう。 今はそんなことじゃない。 誰が。 誰がこんなことを。 そんなことじゃない。 なんてことを。 なんてことをしやがる。 そして、 なんてことになっちまった。 「・・・・・」 言葉数も少なく、 二人は歩いていた。 景色に、 投げかけてやる言葉は少なかった。 なんと現したらいいのか。 非、現実感。 「・・・異常です」 分かりきった事を、 アレックスが呟く。 「そして・・・最悪です」 「・・・・分かってるってのそんなことよぉ・・・」 「半分は違う、けど・・・半分がそうなんです」 「・・・・・・」 「シドさんによる斬殺死体。それは感情が無く表れています。 これも異常で、僕らにとっては初めて相手ですが、もう半分もそうです。 喰い散らかしたような死体。明らかに楽しんで殺した後。跡。痕。址」 確かに・・・だ。 アレックス達。 これまで戦った者達。 それは本当に数え切れないほどの者達で、 敵も、 そして味方も、 多くのものと戦った。 だけど、 感情なく人を殺す者も、 感情を剥き出しで人を殺す者も・・・ その中にはいなかった。 誰にも夢と目的があり、 その中で戦っていた。 根源的には、 皆、 戦う理由はあったが、 殺す事が目的ではなかった。 皆、 己のために戦っていたのだ。 一人、 ただ一人近しい者として、 ダニエルをあげたとして、 彼にとっても目的はあった。 それとも違う。 ただ、 殺す。 殺す。 殺すと言う生き甲斐。 死なすという生なる性衝動。 殺人欲などというのは、 有り触れているようで、 実際にそれだけを欲するクソ野郎がいるとすると、 それはここに来た、 それほどまで最悪なクソ野郎。 「理解できねぇ・・・・頭切れてやがる。だが・・・・」 ドジャーは歯を食いしばり、 その景色を後に、 それでも前へと歩を進める。 「理由云々なんて関係ねぇ・・・世の中結果だ・・・。結果として、ここまでの事をしやがった野郎を・・・・」 そう、 かもしれない。 理由なんて関係ないのかもしれない。 結果として、 殺された側には関係ない。 それを含めると、 理由あって相手を殺している自分達も言えた義理ではない。 だけど、 だが、 ここで死んでいる彼らは、 死ぬべき人間じゃなかった。 戦う者でない、 ただの生活を送る弱者だった。 戦闘能力を持たない一般人だったんだ。 殺す理由などない。 見せしめ以外の理由もない。 死に値する相手ではなかったはずだ。 「・・・・また・・・・撒き込んでしまった」 そうだ。 ドジャーはツバメに、 誰のせいでもなく、 皆のせいだと言った。 だが、 ツバメと同じように、 アレックスは自分を責めた。 「そういうイライラするセリフはやめろアレックス」 だが、 巻き込んでしまったのだ。 撒き込んでしまったのだ。 自分が、 僕が。 "アレックス=オーランドが動くと戦いが始まる" くしくも、 苦しくも、 奇しくも、 それを言ったのは、 まだ知らぬ、 メテオラ、 燻(XO)。 そしてそれは正真正銘の正解だった。 自分の、 たった一人の決意に、 何もかもを撒き込んでしまった。 犠牲は付き物だ。 そんな風には思えない。 だって、 犠牲しか残らない可能性があるから。 いや、その確率の方がずっと高い・・・ どころか、 その確率しかない勝算。 「・・・・・でっ」 そんなアレックスを、 歩きながら、 見もせずに、 ドジャーは軽く小突いた。 「ここは墓場だ。しんみりしろ。墓場じゃ死人が主役だ。お前の問題なんて後回しにしろ」 ・・・・。 そうだ。 確かに、 こんな時にまで、 自分、 自分。 「・・・・・53部隊の仕業ですかね」 「だろうな。俺にだって分かる。向こうの残る戦力は、決定的に44部隊と53部隊だけだ。 短い付き合い・・・っつーか敵対だが、44部隊がこーいう事する奴らじゃねぇってのは分かる」 なら、 53部隊の力はどれほどのものなのか。 分からない。 ただ、 強いでなく、 凶悪なのは分かる。 「・・・・・チッ」 話しを紛らわしたところで、 どうやっても目に付く死体の数。 目をあり場などない。 目を背けられない。 至る所が死体の山なのだから。 「俺はマシな人生送ってねぇが、ここまでの景色は見たことねぇよ」 たった今終わった、 魔物戦争しかり、 一年前のミルレスでのGUN'S戦しかり、 究極の悪都市サラセンしかり、 そして、 世界の端。 ルアスの99番街しかり。 "生物のいない世界"など・・・・。 「・・・・おい・・・・」 ドジャーは、 ふと、 ふと足を止めた。 「・・・・どうしました?」 「どうしたもこうしたもねぇ」 何か、 何か思い出したように。 否。 否否否。 あまりの悲劇の惨状に、 思考が働かなかったのもあるが、 それでも、 何で、、 それでも気付かなかった。 思い出さなかった。 「ジャスティンはどうした」 アレックスもハッと気付き、 そして止まった。 ドジャーに関しては止まり果てて居たと言ってもいい。 目線が動かず、 ただ、 停止したように止まったと思うと、 「クソッ!!!」 走り出した。 走った。 「ま、待ってください!」 アレックスも、 ドジャーを追いかける。 だが追いつけはしなかった。 ドジャーは全力で駆けていた。 死体の山の中を。 赤い景色の中を。 血生臭い死臭の中を。 地獄のような暗闇を。 「・・・・・ふざけんなよっ・・・・」 走る。 ドジャーは走った。 ジャスティン。 戻ってきてるのなら、 何故ここに居ない。 奥に居るのか? この、 死体の中。 屍骸の中。 生者のいないこの空間に? そんな気がしない。 まさか、 まさか・・・ 「・・・・死んでねぇよなぁ!おい!」 不安を口にすることでかき消し、 行動することで振り払う。 ジャスティン。 死んでない事だけを祈った。 死んでないと信じた。 だが、 だが、 どうしても考えてしまう。 というよりも、 この死臭の中、 誰かが生きている予感さえしない。 死んで・・・ 死んでいるんじゃないのか。 そう、 そう思ってしまう。 潜り抜ける。 踏みしめる。 死臭の大地。 死土を。 そして追いかける。 現実を。 「・・・・・ッ・・・・」 見えた。 揺れる視界。 その先。 この洞窟。 地下。 本拠地。 その最奥。 たった一つのボロいプレハブ小屋。 「・・・・・・・はぁ・・・はぁ・・・・」 その前で、 息を整えもせず、 ドジャーは立ち止まった。 その有様。 プレハブ小屋は半壊しており、 壁など、 壊れ、 くり貫かれたようにに虫食いが出来ている。 それでもなんとか、 ドジャーの心を立て直してくれるように、 なんとか、 そのプレハブ小屋は立っていた。 「・・・・・はぁ・・・はぁ・・・・」 ドジャーは振り向く。 かなり無我夢中で走ってきたようだ。 背後の景色に、 アレックスはいない。 かなり先を来てしまったようだ。 当然か。 ドジャーの全力の脚力についてこれるわけがない。 ドジャーはもう一度視線を前に戻す。 「・・・・・・マジで・・・・死んでんじゃねぇぞ・・・・」 それでも、 不安は振り切れなかった。 ドジャーは、 そのドアノブに手をかける時は、 恐る恐るだった。 だが、 一気に開け放った。 「・・・・・!?」 背後でプレハブ小屋のドアが勢い良く開いたのに気付き、 ジャスティンは振り向いた。 「・・・・・・・」 だが、 それは、 ただ風で開いただけのようだった。 この洞窟を駆け抜ける風。 カタカタと、 立て付けの悪いそのドアは、 開いたまま、 入場者もなく揺れていた。 「・・・・・」 馬鹿馬鹿しい。 こんな時にまで、 仲間の登場など、 まだ期待していたのか。 「よっそみしてんなよぉ〜?今のてめぇの相手は俺だろぉ〜?」 そう。 ジャスティンの目の前には、 紫色の悪魔が、 車椅子に座り、 淫靡な笑みを送っていた。 「あっ、ドアから誰か来たと思ったぁーん?ウフフ・・・いいねぇ・・・そういう希望をまだ残した感じ。 でも残念♪・・・・外じゃぁシドが留守番してるからな。誰も入ってこれねぇよ」 それも、そうだったか。 「・・・・・ふん。そのお留守番の殺人鬼君は俺を黙って通したぜ。教育がなってねぇんじゃねぇのか?」 「青い顔で強がんなよ」 そう、 言われれば、 返す言葉もない。 勝負は・・・一瞬だった。 一瞬しかなかった。 今ジャスティンは、 地面に横たわっていた。 先(せん)に、 右腕は持っていかれていた。 残るは骨折している左腕だけ。 まるまる無くなった右腕からは、 ドクドクと血が、 止めどく無く流れる。 「心配には及ばねぇよ・・・・」 そして、 倒れているジャスティン。 もう一つ無いもの。 それは横腹だった。 大きな魔物にでも噛み切られたように、 ジャスティンの左の腹部は跡形も無くなくなっていた。 (まだ・・・・いける・・・・) 思いあがりだった。 両足を失ったわけでもないのに、 立ち上がる気力が出てこない。 気力じゃないな。 体力だ。 片腕と、 片腹。 そこから馬鹿のように流れる大量の血。 出血多量。 致死量はすでに超えていた。 「・・・・・ふぅ・・・・・」 息を整える。 地面に伏したまま。 視界は90度傾いたまま。 壁ともいえる地面に、 車椅子の悪魔が見える。 ・・・・・。 内臓が無事なのは幸運だった。 致命傷というか、 致死傷としては十分だったが、 それでも、 生きている。 血と共に内臓が外から見え、 アバラまで露出しているが、 それでも、 内臓が無事だ。 まだ、 まだ間に合う。 「え?まだやる気なの?」 あーん? と、 燻(XO)は不思議そうだった。 「うん。いいね。そういう諦めない態度。そういうのがいたぶり甲斐がある。 そうじゃなきゃ面白くないからな。俺の性癖的に♪だけどよぉ・・・・」 車椅子に座ったまま、 燻(XO)は、 そのきめ細かい紫の髪を、 手櫛す。 「もう俺の攻撃する箇所ないわけね。それ以上はてめぇ死んじまうじゃねぇか。 俺っ・・・どぉっ・・・・・・・・・したらいいのよ!お前で遊ぼうと思ってんのによぉ!!」 理解不能な怒りをぶつけてくる。 ジャスティンは、 横たわったまま笑った。 鎌を握り、 笑った。 「そりゃぁ好都合だ・・・ぜ・・・・」 なんだか分からないが、 殺す気がないようだ。 弄ぶ為に、 生かして殺すために、 この場に置いて殺す気がないようだ。 ならば・・・ 付け入る隙はそこだ。 「俺は・・・生き延びるぞ・・・」 シドがこの本拠地の入り口にて待機している限り、 仲間の応援はない。 入ってこれない。 とすると、 逆に、 "逃げる事も出来ない" 入ることも、 出ることもできない。 これぞ絶望と云わざるをえない。 だが、 どうやっても生き延びてやる。 どうやっても。 「・・・・」 骨折した手で、 横たわりながら鎌を握り締める。 力は入らない。 当然だ。 重症以前に、 折れているのだから。 いや、 複雑骨折。 粉砕しているのだから。 筋肉だけで鎌を掴む。 光は・・・あるから。 「生き延びる?ウフフ・・・勘違いしてもらっちゃ困るね。生き延びるんじゃない。生かしてやるんだ」 それだ。 付け入る隙はどこだ。 あまりにも大きすぎる力の差。 それを逆に利用する。 油断ではない、 その慢心。 否、 その余裕を逆手にとる。 「ふふっ・・・・俺の負けはないってことか・・・・」 こうしている間にも血は流れる。 時間の問題だ。 時間の猶予はない。 フラフラと、 体を起こす。 立てない。 ならば、 片足で、 片膝でなんとか体を起こす。 「てめぇは・・・・俺を殺せないんだろ・・・・」 「違うね。殺したくないだけだ」 「結果は同じだ・・・・・あんたは殺したくない・・・・俺は生き延びたい・・・・意見が合ったな・・・」 「違うね。俺は生かしたいんじゃない。生き損ないにしたいんだ」 「何にしろ・・・・俺は・・・ここで終わらない・・・」 「違うね。てめぇはもうここで終わったんだ」 カラッ・・・ カラッ・・・ と、 車輪が動く。 この狭い空間で。 「・・・・くっ・・・」 構える。 鎌を。 片膝をついた状態で。 だが、 これに意味はあるのか? まだ、 未だ、 燻(XO)の攻撃方法が分からない。 あの何もかもを食い破る破壊力。 否、 攻撃方法以前に、 待ち構える意味があるのか? 決定的な力の差。 どうしようもない、 壁。 だが、 付け入る隙はある。 「・・・・俺は・・・ここで終わる運命じゃないんでね・・・・」 「やめれやめれ。十分にフラグは立ってる。あとはオモチャになるだけよん」 「てめぇは俺を殺せないんだろ・・・・」 ジャスティンは、 顔をあげ、 笑う。 「覚悟は決まった。俺は無敵だ」 ゆっくりと・・・・ 鎌を回す。 舐るように。 覚悟は決まった。 必要なのはそれだけだ。 あいつは俺を殺せない。 殺したくない。 なら、 思い改まるまでのひと時でいい。 それが最後のチャンス。 最後のだ。 「やぁめろっての。俺はてめぇを逃したくねぇんだよ。遊び道具にするためにな。 だぁから向かってくんな。じゃねぇと・・・・・・・・俺、てめぇを殺さなきゃなんねぇじゃねぇか」 「・・・・・出来るもんならな・・・・」 「諦めてくれよっての。もったいねぇじゃねぇか。男で弄りたくなるの相手は少ないんだぜ? ムサいのイジめても勃起しねぇもんよ。その点てめぇのツラは合格だ。 おめぇなら性的な虐待をしても楽しめそうだからよぉ。レアよレア」 「俺はゴメンだね」 「一方的なわけだからテメェの意見は聞いてねぇよ」 クソ野郎は、 まぁ寒気がするがえらく自分の事をお気に入りのようだ。 それは好都合。 好都合だ。 鎌を、 鎌を握り締める。 「おいおいやめろってば。殺すしかなくなっちゃうじゃねぇか。 逃したくねぇっつってんだろ?ここまでせっかくお膳立てしたのによぉ。 今こぉ・・・・・ぐっ・・・っといいシュチュエーションじゃねぇか。 結構俺今、盛ってきてんだぜ?ワクワクしてよぉ・・・・・それを潰す気か?てめぇ」 知るか。 てめぇの事なんか。 「・・・・・・チッ、おいおい勘弁してくれよ。ほんっとテメェみたいな獲物とはち合う確率低ぃんだぜ? それがこの場面で、こんな感じでよぉ。最高の好場面が用意されたかのようによぉ。 こんっなラッキーを逃したら俺、後悔で夜も眠れねぇよ。 あ、今夜は寝かしてやんないって地下の拷問室で言ってあげるから覚悟しててぇーん♪」 「俺は・・・・」 「あん?」 「クソったれだ」 「あぁーん?」 何を言ってるか分からないといった表情で、 燻(XO)は顔をしかめた。 だが、 ジャスティンは続ける。 「社会の底辺の町で・・・・生まれたクソッタレだ。だから・・・俺の夢は・・・ MD・・・メジャードリーム・・・・・クソッタレの逆襲だ・・・・」 「ほほぉ。クソがクソに歯向かうか」 「目に物を見せてやる。・・・へへっ、いい名だろ。このギルド・・・これから見せてやるよ」 「うぜぇなおい・・・・。反抗心があるのは大好きだけどよぉ、思い通りにならねぇのは気に食わねぇ」 「知るか」 「来る気か」 「やる気だ」 「まだ生を捨てねぇか」 「絶対に生き延びる」 「それじゃぁ俺はてめぇを殺さなきゃいけねぇじゃねぇか」 「この会話は聞き飽きた」 「その通りだ。それでも諦めろって説得してあげてんの」 「てめぇのそのワガママを逆手にとる」 「とれねぇよ」 「とる」 「諦めろよ」 「諦めたくないね」 「諦めてくれってば」 「終わり(バイバイ)を受け入れるなんて性に合わない」 「可愛がってやんのになぁ」 「思い通りにはされねぇ」 「そこは可愛いがな」 「寒気がする」 「もう無理だって。諦めろ」 「まだ言うか。諦めるわけにはいかねぇだろ!!」 「諦めろって。それが正義のつもりか?」 ・・・・。 正義。 正義? 正義?? そんなもの、 そんなもの、 無い。 ただの諦めの悪さだ。 これが、 俺達の特権だ。 クソッタレの、 逆襲だ。 「悪いね」 ジャスティンは・・・ そこでやっと・・・ 立ち上がることが出来た。 「俺はジャスティン・・・・コルト=ジャスティンだ・・・・・・正義(ジャスティス)とか一文字違いでね」 「ならクソでも食らえや!!!!!」 ドジャーは、 プレハブ小屋のドアを開け放った。 ボロボロで、 穴だらけなのに、 そこは、 あまりに暗かった。 「・・・・・・」 足を踏み入れた。 よく見えなかった。 見えなかったが、 あまりに死臭がした。 ハッキリ、 悪い気がした。 だけどそれを振り払った。 振り払っても、 部屋全体に広がる血の痕。 なんの血か分からないが、 それがジャスティンのものではないことだけを祈りたかった。 「・・・・・・・」 眼前に広がるのは、 部屋の奥の壁。 血で、 大きく、 X(エックス)と、 O(オー)。 その二文字が大きく大きく踊っていた。 ダイイングメッセージの逆のように。 血だらけ。 血だらけの死臭の部屋の中、 X(バツ)と○(マル)の、 腐った二文字だけが踊る中。 「よぉ」 ジャスティンは笑った。 「遅かったじゃねぇか」 真ん中のテーブルの上に、 カッコを付けてもたれ掛かり、 ピッと指を二本上げて、 ジャスティンはそう言った。 ドジャーは胸を撫で下ろし、 一息ついて返事をした。 「・・・・・・はぁ・・・・ったく。遅かったじゃねぇよ・・・・」 そう、 そう返事をしたが、 その先に、 ジャスティンは居なかった。 「・・・・あ・・・・・」 幻想は網膜から消えうせ、 そして現実が帰ってきた。 ジャスティンは笑っていた。 目を閉じ、 微笑んでいた。 その長い髪を自慢げに広げ、 安らかな笑顔で・・・・ テーブルの上で、 首だけが微笑んでいた。 「さぁて」 絢爛豪華な、 その王座。 ルアス城、 最上階。 その世界の頂点である場所の王座。 その玉座に、 足を組み、 世界の頂点は座っていた。 「そろそろいいだろう。なぁロゼ」 「はい・・・・アイン様・・・・整っております・・・」 その頂点。 王座の間には、 たった二人。 男と女。 アインハルト=ディアモンド=ハークスと、 ロゼ。 その二人だけが居た。 「いろいろと失ったな」 そう、 だが全く後悔もしていないというように、 アインハルトは言った。 人間部隊。 魔物部隊。 天使部隊。 悪魔部隊。 その主戦力の、 ほぼ全部を失った。 44部隊と53部隊。 それだけしか残っていないといっても差し支えの無い、 そんな状況まで、 帝国アルガルド騎士団は失っていた。 「まぁ、カスはゴミとして朽ちていけばいい」 「アイン様が言うのであれば・・・その通りです」 ロゼは、 アインハルトに手を伸ばした。 だが、 アインハルトはその手を拒まなかった。 ただ視線は彼女の方にはなかったが。 何か、 遠い何かを見据えるように。 「余興とは楽しいものだ。前座としては物足りなかったがな。 だが、何もかも、世界の何もかもが物足りない我にとっては、少し楽しめた」 「それは喜ばしい事です」 「我には喜びがある」 手かけに置いたその手を、 ゆっくりと動かす。 「喜びも分かる。楽しみもある。怒りもある。ただ、哀しみだけを知らない」 「それは・・・・」 「必要な事だろうか。ふん。哀しみを知らなくとも、人生に差し支えは全く無かった。 だが何もかもを踏越した我にとっては、それを知るのも小さな興味だ」 「アイン様は・・・・」 ロゼは、 アインハルトに縋るように、 乞いるように、 消えそうな声で聞いた。 「私が死んだら・・・哀しんでくれないのでしょうか・・・・」 「ならば死んでみるか」 何も躊躇しない。 ハッキリとした声で、 アインハルトは言い放った。 「・・・・・」 「ふん。覚悟もないのにほざくな雌豚が」 アインハルトはそう吐き捨てた。 ロゼは俯くしなかった。 「・・・まぁいい。そんなことはどうでもいい。何にしろ、お前は我の余興の最後の1パーツだ」 「・・・はい」 「整っているのならば。やれ。我を楽しませろ」 アインハルトは、 ロゼのアゴに手をやり、 爪を立てる。 ロゼは表情に小さくしか出さず、 だが喜びに満ちた顔で、 立ち上がった。 「フフッ・・・」 アインハルトは笑う。 王座に深く腰掛け、 その世界の頂点の場所で、 世界の頂点は笑う。 「ロゼ。愛しのロゼよ。気概も無く、我は楽しみでしょうがない。お前が居て良かった」 「はい」 「ロゼ。0(ゼロ)の反対の存在よ。無という名でありながら、"無の真逆の存在"よ。 1(アイン)と共に来るというのならば・・・・・・役割を果たせ」 「はい」 立ち上がったロゼ、 0の反対、 1と重なるべき存在は、 目を瞑った。 「・・・・・」 ロゼが集中すると、 闇。 何も無い、無という闇が立ち込める。 無という、 ゼロという存在が、 立ち込める。 「ククッ・・・・」 ロゼが詠唱を始めた。 始めると、 自分は何もせず、 アインハルトは、 王座の腰掛けたまま、 楽しそうに笑った。 楽しさを知っている。 喜びを知っている。 怒りを知っている。 ただ、 哀しみだけを知らない存在は、 それを見据える。 「やはり、世界など玩具でしかないな」 そう、 確信を持って、 何もかもを掌握する絶対の存在は言った。 「我の楽しみのためならば、全ては玩具に過ぎない。 王国騎士団も、アスガルドも、帝国アルガルド騎士団も、 全てはこれから始まる・・・・我の遊びの玩具でしかなかったわけだ」 玩具は、 我の思うままに遊べ。 自由などない。 「用意はいいか。ロゼ」 「はい」 闇がロゼの周りに立ち込めていたと思うと、 それが、 フッ・・・・とやむ。 詠唱も終える。 「ここまで・・・一年もかかりましたから」 「正しくは二年か。ふん。遊ぶのも楽ではないな」 だが、 いらないカスは、 全て消えうせた。 あとは、 遊び道具を呼び出すだけ・・・か。 「やれ。ロゼ」 「はい」 そして、 ロゼは両手を広げた。 今度は、 闇が立ち込めるというよりも、 集約する。 ロゼの中へと。 「無なる地獄・・・・・0なる者達よ1へと戻れ・・・・・・・・・・・天変地異・・・・・アザトース!!!」 その瞬間。 その瞬間だった。 ロゼの体。 闇の集約したその体から、 一瞬。 刹那。 闇が、 辺り全てを飲み込んだ。 一瞬だけの出来事だった。 闇。 無が、 辺り全体。 全てを飲み込んだ。 「フフッ・・・・・」 アインハルトは、 少し、 頭を下げ、 「ハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」 大声で笑った。 王座に響く、 その絶対の笑い声。 何もかもを飲み込むような笑い声。 ただそれだ。 ここには二人。 絶対の"1"なる存在、 アインハルト=ディアモンド=ハークス。 相対なる"0"の逆の存在、 ロゼ。 否。 もう一人。 この王座。 アインハルトの笑い声の中、 ソレは静かに動き出した。 「・・・・・・・・」 カタッ・・・ カタカタッ・・と、 無機質な音をあげ、 そして、 鎧のぶつかり合う音。 ソレは、 白い、 死なる、 生動のない姿のまま、 両膝をついて倒れた。 「・・・・・ふん」 ソレは、 アインハルトの王座の裏。 アインハルトは、 目もやらず、 声だけをかける。 「久しぶりだな。調子はどうだ。ディエゴ」 「・・・・・ァ・・・・・」 死し、 骨と鎧しか残らぬその騎士は、 愚かな姿で、 魂だけの姿で、 死んだまま、 声をあげた。 「・・・・俺・・・・ハ・・・・・・城を・・・・まモ・・・・・・」 「そうだ」 アインハルトは笑う。 「我が欲するのは何もかも思うままの駒だ。ただ、云われるがまま、思うままの駒だ。 それ以外は最初からいらない。全てはそのため。そのためだけに死んでもらった」 アインハルトは、 王座から立ち上がった。 マントがなびき、 片手を横に広げる。 「さぁ、52枚の愚騎達よ。今一度、我の玩具として使ってやる。 思うままに死ね。思うままに遊べ。死してなお、我の足元に屈しろ」 何もかも思う侭で、 我侭で、 それを絶対とする存在は、 人の命で遊ぶ。 意志もなく。 「もう一度終焉を始めようか」 そして物語は、 二度目の終焉へ。 |
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