「ん〜・・・・一人でポーカーやってもなぁ・・・・」

反抗期の巣穴。
否、
反逆者の跡地。

レジスタンスの本拠地。
その唯一日光の当たる場所。
入り口にて、
シドはヒマそうにしてた。

「あーあ、あいつどーなったかな?マイフレンド」

グタァー・・・っと、
地面に寝転がる。
トランプをばら撒いて。

「燻(XO)隊長と会ってるわけだもんなぁ、死んじゃったかなぁ。もったいな」

地面にウサ耳を垂れ落としながら、
口を尖らせる。

「死んじゃったよなぁ間違いなく。そりゃ間違いないよなぁ。
 あーあ・・またフレンドが減っちゃったな。ほんとバリカナ(バリバリ哀しい)だぜ。
 でもなんで燻(XO)隊長ってば人殺しなんて好きなんだろな。面白くもなんともないのに」

その燻(XO)の何倍も人を殺してきたシドは、
いとも容易くこんなことを言う。
ただ、
その殺した人間の一人たりとも、
もはや、
仲間のツバサの顔さえも、
一切合財覚えていない。
そんな、
殺人無意識病の極みが、
このファンシーな可愛げのある男だった。

「・・・・・で、あんた誰?」

寝転がったまま、
この、
死体だらけの。
4ケタを超える死体だらけの。

燻(XO)と、
シドと、
ジャスティンしかいない。
・・・・
あぁまぁ、
もはや多分その前者二人しかいないこの空間で、
シドは話し賭ける。


「・・・・・・・・シュコー・・・・・俺が見えてるのか?」

その者は、
何もない空間から、
歪むように姿を現した。
表れたのは、
ガスマスクの男。

「んー?見えるわけないじゃん。見えないからインビジブルなんでしょ?」

「・・・・コォー・・・・なんで分かった」

「いや、その息の音漏れてるじゃん」

「・・・・・シュコー・・・」

ガスマスクの男。
スモーガスは、
言われて返す答えが無かったので、
黙った。

「ん?あれ!?」

ガバッっと体を起こすシド=シシドウ。
ウサ耳が前へ勢い良く垂れ、
耳のキーホルダー達がジャリッと揺れた。

「あんたなんか見覚えがあるな・・・・んー・・・・どっかであったような・・・・」

「・・・・コォー・・・・闘技場でな」

「あーー!・・・んー・・・うっすら覚えてる・・・会った様な会ってない様な・・・・
 でもあれじゃないか?僕が覚えてねぇってのは基本的にもう居ない人のはずだけど」

シドが覚えていない。
それは殺してしまった奴だけ。

「・・・シュコー・・・・・・あれは俺じゃない」

「へぇ」

その時。
その時には、
シドの両手の指の間には、
トランプが挟まっていた。
それは、

人狩りカミソリ。

「・・・・とと」

意識と別に、
無意識に。
シドは飛び掛っていて、
無意識に殺人衝動が動き、
そして、
1秒後には、
何十回もトランプを切り裂いた後だった。

「・・・・・シュコー・・・・」

そして、
目の前の、
ガスマスクの男は、

細切れになって崩れ落ちた。

「ごめんごめん」

シドはちゃらけた顔で謝る。
そして、
細切れになった死体。
その中で、
細切れになったガスマスク。
その隙間から見える、
細切れの顔面。

「あれ?男どころか女じゃん」

「シュコー・・・・・・それも・・・・俺じゃない」

「ありゃ?」

すぐ傍。
また違う別の場所。
そこに、
ガスマスクの男。
スモーガスが居た。

「・・・・コォー・・・・何も見えないのか?・・・・すぐ傍にいるのに」

『ワッチミー・イフユーファン』
スモーガスの二つ名。
見えるもんなら見てみろ。

「シュコー・・・・俺はどこにもいないし・・・ここにちゃんと居る」

「ぅおえ!?」

そしてさらに、
何もない場所から、
ガスマスクの男が表れる。

「・・・・コォー・・・これも俺じゃないし・・・コォー・・・俺はここに居る」

「ありゃ?りゃ?りゃりゃりゃ?」

シドはキョロキョロと見渡す。
ガスマスクの男。
男が、
1・・2・・3・・・
5人も居る!?

「シュコー・・・俺は自分が何かも分からないし、分かりもしない」
「・・・・コォー・・・・ここに居る全部が偽物かもしれないし・・・」
「代理かもしれない・・・・」
「・・・シュー・・シュコー・・・でも・・・俺は居る・・・」
「・・・・・でも見えない人間(俺)なんて・・・ちゃんと存在しているのか?」

「およ?あららら・・・」

同じ顔が5つ。
といっても全部ガスマスクだが、
同じ人間が5つ。

「影武者ってやつ?」

「・・・・コォー・・・まぁそういう事だな・・・」
「でも・・・シュコー・・・誰も本当の俺なんて知らない・・・」
「コォー・・・・どっちにしろ見えないんだから」

生まれつきのインビジ人間。
不可視の、
居るのに見えない、
存在を認識されない人間。

「だから・・・俺が死んでも誰も気付かないかもな・・・」
「シュコー・・・コォー・・・・逆に・・・生きてたって誰も気付かないかもしれない」
「苦痛だ・・・」
「コォー・・・誰か俺を見てくれよ・・・」
「・・・・すぐ傍にいるのに・・・・シュコー・・・」

「そりゃまた・・・量産型のフレンズなんて初めてだぜ!!!」

そして、
気付いた時には、
シドは歩いていて、
ゆっくり、
5人の中を通り過ぎた。
風のように、
ゆっくりと、
何もしていないように。

だが当然的に、
目にも見えない速度で両手は動いており、
そして、
5つのガスマスクは分断され、
5つの人間の体は、
その何十倍にも増えた。
細切れに。

バラバラと、
5人のスモーガスは崩れ落ちる。


「・・・・戦いに来たわけじゃぁない」

「ありゃ、まだいる」

「シュコー・・・・立場上。俺達は仲間だからな・・・」

今度は姿も現さない。
見えないところから、
声が聞こえる。

「・・・・コォー・・・・だが・・・44部隊はお前ら53部隊と相容れない・・・
 そして・・・劣っているとも思わない・・・コォー・・・・だから皆に代わって俺が来た。
 ・・・今回のこの強襲・・・貴様らが先じたとは思うなよ・・・」

44部隊とて、
やろうと思えばこのくらい。
そういうのを現すために、
スモーガスはここに姿を現した。

現してもいない人間が、姿を現したなどと表現していいのか。

「あんた、僕達みてぇだな」

「・・・・だろうな」

影に隠れ、
影に潜む、
存在しない人間。
スモーガスは、
その隠密性は、
どちらかというと53部隊よりの能力だった。

「俺は存在を感づかれない人間・・・・コォー・・・だからこの場所を知るのも楽だったよ。
 ・・・・シュコー・・・まぁ・・・俺の用事はそれだけだ。もう帰る」

帰ると言われても、
帰るのかどうかも、
姿を現さないから分からない。
だが、
一つ分かった事がある。

「お前、僕のフレンドになっちゃえよ!!」

嬉しそうに、
本当に嬉しそうに、
シドは、
満面の笑みで言った。

「僕の傍で死なない人間初めてみた!死んでも死なない人間初めてみた!
 みんな僕を置いて死んでッちゃうからなっ!あんた僕のフレンドにピッタリだぜ!」

「・・・・シュコー・・・」

空気のように、
息を吸うように、
無意識に人を殺してしまう殺人鬼にとって、
空気のように、
だが、
ガスマスクで息を吸う事だけで存在を現しているような、
存在しているかどうかも分からない、
不透明な人間。
それは・・・
シドが待ち望んだ一種だったのかもしれない。

「・・・・シュコー・・・・相容れないと言ったろ」

そして、
それっきり声も聞こえなくなった。

「・・・あれ?居なくなっちゃったんかな?見えないから分からないっての」

だが、
シドの表情は笑顔だった。
世の中にはいろんな奴がいる。
いろんなフレンドが出来るかもしれない。
それを再認識した。

影で暮らす事から解放された死の螺旋の該当者は、
それが嬉しくてたまらなかった。

「よし!僕すっげぇ頑張っちゃうじぇん!クソファイだ!
 とりあえず帰ってジャックとガルーダとソラとスザクと仲良くなってみよっと!
 あ、でも今回の戦争で誰も死んでなきゃいいなぁ」

ウサ耳ファンシー殺人鬼は、
口を尖らせて思う。

「任務はジャックとスザクだけだったけどなぁー。
 結局、全員が全員戦争に遊びに来ちゃったわけだもんなー」

53部隊。
全員が全員。

そして、
舞台は地上へ。

終わった戦争へ。




































「やってるやってる・・・・」
「怖いでヤンスね・・・」

巨大船の上で、
その手すりに隠れるようにして見下ろす二人。
バンビとピンキッド。
この戦場において、
唯一戦意の無い二人。
否、
一人と一匹。

「バ、バンビさんは行かなくていいんでヤンスか?」
「へ?」
「海賊王になるんでヤンショ?こんなところで隠れてていいんでヤンスか?」
「・・・ん・・・んー・・・」

目を背けるように、
バンビは唸った。
ピンキッドのいう事はごもっともだ。
今になって怯えて、
隠れているなんて、
そんなへっぴり腰でどうする。

だが、
間違いなく、
100人に聞いて100人が答えるだろう。
バンビじゃ無理。
もちろん、
その100人の中にバンビ自身も含めたっていい。

「そ、そりゃぁね。ぼくが行けばラクショーだよラクショー!
 でもまぁ・・・・なんていうのかな・・・うん。そうだ。・・・・危ないしね」
「そりゃ危ないでヤンスね・・・」
「危ないよね・・・」

そんな言葉で、
無理矢理納得し、
一人と一匹は待機を選択した。
逃げ場もないから、
精一杯の逃げ場が、
この戦場のど真ん中での待機だった。

「っていうかデムピアス!あんたが動かないのが納得いかないよ!」
「あ、そーでヤンス!」

甲板の袖から、
逆側の甲板の袖へと振り向くバンビとピンキッド。
デミィ、
シャーク、
そして部下達を含め、
全てが船から下り、
戦場へと向かったにも関らず、

バンビとピンキッドと共に船に残る者。

それこそデムピアス本人。

「五月蝿い。黙れ小童共」

銀色の機械仕掛けの魔物の王は、
バンビ達に背を向けたまま、
甲板の手すりの上に座っていた。

「ウキッウキッ!」

ただの鉄くずの如く、
手すりから足を投げ出して動かないデムピアスの、
肩や頭の上を、
チェチェが飛び跳ねていた。

「むぅー・・・」
「船長(キャプテン)を名乗るならちゃんと働くでヤンス!」

「お前らに言われたくはない」

ごもっともだ。

「ってか何をやってんのさ」

「見て分からんか?」

見て分からんかと聞かれても、
背を向けられているので分からない。
手すりに座り、
船の上から戦場を眺めているようにしか見えないが・・・

あぁ、
何か持ってる。
何か、
鉄の棒状のものを持ち、
何かが垂れ下がって・・・

「釣りだ」

「り、陸上ですなっ!!」

バンビは混乱してツッコミ所を間違えた。
いや、
間違ってはいないが、
なんというか、
この海賊王。
魔物の王。
機械の王で、
恐怖の王。
そのデムピアスは、
あろうことか、
船の上から糸を垂らしていた。

「釣りはいい」

魔物の王は、
そんな事を言いながら、
陸上で糸を垂らしていた。

「なんで魔物の王・・・海賊王デムピアスが戦場のど真ん中で釣りしてるんでヤンスか・・・」

「することがないからだ」

「あるでしょ!」
「戦いに行くでヤンス!」

「言っているだろう。することがないからだ」

その言葉は、
機械のように淡々としていた。

「この戦場はもう終わった戦場だ。俺が出向くまでもない。
 ただ、アインハルトにこの俺の存在を認識させればそれでいい」

それは、
つまりジャスティンが言った事が正しかったという事だ。
この戦場はもう終わった。
勝敗は決したのだ。
《昇竜会》と、
《モスディドバスターズ》
そして、
《デムピアス海賊団》
その乱入により、
もう何も覆らない、
確固たる結果が見えていた。

「することが無い時は釣りに限る。心が和むからな」

魔物の王、
デムピアスは、
そんなのん気な事を言っていた。

「海の上でもそうしている。釣り糸を垂らすという行為は、正直採算に合う行為ではないが、
 だからこそというべきか。海は怖い。全ての生命を飲み込むほどに深く、暗い。
 だが、その表面が穏やかな波だ。揺れ動くだけのな。そこに静かに干渉する。それが釣りだ」

最もな事を言っているが、
のん気としか言えない。
だがまぁ、
その表現は、
今のデムピアスにピッタリでもある。
荒れ狂うほどの闇の存在でありながら、
平穏に趣味に没頭しているのだから。
深海の表面、
穏やかな波。

「だがまぁ、釣りというのは極めて残虐な行為だ。されどキャッチ&リリースでもだ。
 趣味のための殺傷行為でしかない。これほど生命を弄ぶ遊びは聞いたことがない。
 釣りを戦いだと言う者もいるが、度し難い。海上で何をほざくか」

「つまりあんたは戦場のど真ん中で趣味に没頭してるわけね・・・」

「することがないからな」

目下で死に絶えていく魔物達を見ても、
平然と言うデムピアス。
心は、
機械のように冷たく。

「で、釣れるでヤンスか?」

「今日は不釣だな」

だろうな。
陸だからな。

「まぁ釣る事が目的ではない。ヒマを消化できればそれでよい。
 同じただ座ってるだけにしろ、釣り糸を垂らすだけで時間は有意義に変わる」

はぁ・・・
と、
バンビとピンキッドは同時にため息をついた。
恐怖の魔王。
デムピアス。
その背中がコレだ。
なんとも拍子抜けというか。
実際、
デムピアスの恐怖は理解しているが、
眠っているライオンなど見てもガッカリするだけだ。

「海賊王デムピアスはヒマ潰しに精を出す・・・か・・・」
「皮肉なもんでヤンスね」

「俺は実に有意義だ」

それは、
冗談で言ったのではないと、
次の言葉で気付いた。

「今の俺には目的がある。その中途の時間は全て有意義だ」

「目的でヤンスか?」
「そんなんだれだって・・・・」

「俺には無かった」

釣り糸を垂らしたまま、
背中を見せたまま、
デムピアスは語った。
語りかけてくるだけでも、
なにか、
デムピアスの中に丸いものがある柔らかな感覚を得た。

「一人の人間の勇者が教えてくれた。コレを夢と呼ぶそうだ」

淡々と、
デムピアスは背中越しに語った。

「生きるだけなど虚しい。一度しかない生涯、何かを夢見て進むべきだと。
 俺は自分の力でやりたい放題やってきたが、やりたい事をやってきたわけではない。
 今、俺の時間は実に充実だ。心を埋める事にガムシャラになれる」

「心を」
「埋める?」

「仇討ちだ。俺の命は、どれだけ強大だろうとも、一つの命だ。
 この命。同じ一つの命のために使うのも悪くはない。なぁチェチェ」

竿を持っていない手で、
機械の混じった手で、
肩の上の小猿を撫でる海賊王。
チェチェは、
鳴き声で答えた。

「俺は初めて、俺自身が正しいと思った最中に生きている。これを正義と言うらしい。
 心地よいものだ。・・・・闇に溺れた身だが、悪には悪の正義がある。
 眩しきスーパーヒーローに成れなくとも、俺はダークヒーローに成らんとしている」

丸くなったものだ。
丸く、
丸くなったものだ。
闇の王が。
魔王が。
海賊王のデムピアスが。

・・・。
だが、
丸くなった。
その言葉は言い得て絶妙だった。

デムピアスの心は固まったのだ。
丸く、
一つに結集するように、
丸く、
丸く、
鋼鉄のように堅く。

「ここから俺の航海は始まる。だが、バンビ、ピンキッド。付いて来るか?」

デムピアスは、
あろうことか、
問いてきた。

「これは俺の航海だ。俺の夢だけを求めた・・な。それにただ巻き込む事となる。
 お前らの夢など考慮しない。ただ俺の正義のために船を進める。それでも付いて来るか?」

バンビとピンキッドは、
お互い顔を見合わせた。
二つのバンダナが、
同じほうを向いた。

「あたりまえじゃない!勘違いしないでよ!ぼくはあんたを利用するだけだ!
 利用されるために付いてるんじゃない!ぼくは親父のような立派な海賊王になる!
 そのためにあんたを利用してるだけ。ぼくの夢(宝箱)はあんたと共にある」

「なら、よし」

その言葉は、
とても満足げなものだった。
デムピアスは、
新たに共感という感情を得ていた。
それは、
正義を知った魔王。

もしこの話が、
昔話にでもなるとしたら、
どうなるのだろう。

仲間と共に鬼が島に船を進める桃太郎。
そして、
対するは、
信念を共にする、
謝るなんて妥協のない、
正義を貫く鬼。

"勇者となったラスボス"の誕生は、
世界にどう影響する。


「何がよし・・だ」


ふと、
第三者の声。
バンビ、ピンキッド、
そしてデムピアス。
この船の上にはその三名しかいないのに、
それらではない者の声。
四者目という意味でもその表現は正しく起用していいだろうから、
やはり第三者の声。

「俺からも甘くなったと言っておこうか。デムピアス」

船首。
その巨大な船首の上に、
小さな影。
トレードでもある古びたオーブと、
顔を半分隠しているマフラーをパタパタと風に靡かせ、
身長よりも大きな大剣を背負う者が、
そこに居た。

「ふん」

デムピアスは、
相変わらず釣り糸を垂らしたまま、
顔を動かさずに鼻を鳴らした。

「カプリコ三騎士か」

「エイアグだ」

「悪いな。カプリコの見分けなどつかん」

エイアグ。
カプリコ三騎士の実質的リーダー。
生きる伝説。
同時に生まれてしまった三つの伝説。
カプリコの頂点が一匹。

「三騎士でヤンス!!」
「さささ三騎士!」

バンビとピンキッドは、
逃げるでもなく、
隠れる場所もなく、
甲板の上をぐるぐると走り回った。
そんなチンケな光景は背景に、
船首に立つエイアグと、
釣りに勤しむデムピアス。

「この俺を前にして余裕な態度だな。デムピアス」

「余裕だからな」

「粋がるなよ」

動きは無いが、
殺気と殺気がぶつかり、
入り乱れる様を、
近くに居るだけで感じる。

「ふん。戦う理由などないだろう。去れ。カプリコの伝説」

「この魔物の戦場に、海賊王デムピアス。ノカン将軍ケビン。そしてカプリコ三騎士。
 魔物の頂点が揃っているんだ。それだけで理由にはならんか?」

「いつから対等になったつもりだ。雑魔が」

そこで初めて、
デムピアスは横目で、
その紫と黒の目で、
エイアグを睨んだ。

「度し難いな」

「その方が似合ってるぞデムピアス」

エイアグは、
マフラーに隠れた口元を緩ませる。

「まぁ挑発はしてみたものの、今回は戦いというよりは話しに来た」

「黙れ。藻屑と消えろ」

突如だった。
鉄と肉の塊。
人間と魔物の混合物であり、
機械仕掛けの王。
海賊王デムピアスの右腕が突き出された。

「!?」

その右腕は、
変形した。
形を変えるから変形というのだろうが、
変に形どったというべきかもしれない。

銀色の鉄の腕が、
粘土のように形を変え、
デムピアスの右腕は・・・・

大砲を象った。

「イミットキャノン」

デムピアスの右腕が火を噴く。
煙を吹いたと思うと、
同時、

船首が吹き飛ぶ。

圧倒的な破壊。
爆発したというよりも消し飛んだ。

跡形もなかった。

「・・・・・ふん」

デムピアスの右腕が、
もとの形に戻る。
鉄混じりの右手に。

「愉快な体になったようだな」

そして、
そして。
全くの逆方向。
元いた場所の真逆。
いつ移動したのか。
直撃地点ではなく、
真逆の甲板に、
当たり前のようにエイアグがたたずんでいた。

「話しに来たと言っただろう。デムピアス」

「・・・・度し難い輩だ」

デムピアスは、
両手を釣竿に戻した。
また、
何もかもに背を。
その鉄混じりの銀髪を向けたまま。

「話せ。聞いてやるとは限らんがな」

「それは耳を傾けるつもりのある者の言葉さ」

「ふん」

依然、
殺気は入り乱れていた。
何かの拍子に、
魔物の頂点の戦いが始まりそうなほどに。

「デムピアス。お前の目的は、今回の行動で分かった。人間の頂点に牙を剥く気だな」

「・・・・・」

デムピアスは答えなかった。

「ならば、どうするかという事を聞きに来た」

やはり、
デムピアスは答えなかった。

「俺から話そう。俺は目がいい。よく見えた。どうやら人間がロッキーを取り戻してくれたようだ。
 ・・・・借りだな。奴らには返しても返しても借りが出来る。まるで利子のようだ。
 今回の件で、もしかしなくとも俺達三騎士は人間に力を貸す事になるだろう」

言葉を返してこないデムピアスだが、
エイアグは続けた。

「目指すべきものが同じとなる。だが、"仲間ではない"。だからどうすると聞いている」

「悪いが聞いていない」

「それは耳を傾けた者の言葉だ」

「ふん」

積極的な発言をしてこないのは分かる。
だから、
エイアグが一方的に続けた。

「あの人間の頂点。それを目指す団体が二つ。だが、それでも奴は一人だ。
 一つを求める二つ。譲り合う気・・・はないよな。そういう事だ」

一つしかないパンを、
分け合うのか?
じゃなければ・・・

取り合うのか。

取り合うならば、
それは、
どういうことか。
早いもの勝ち?
馬鹿な。

敵の敵は目的を共にするもの。
だが、
敵の敵は味方じゃない。
なら、

"敵の敵もまた敵"

「い、言っとくけど!」

怯えながら、
ちょっと遠いんじゃないか?
という距離から、
バンビが声をかける。

「相手が相手だから、まず倒せるか分からないんだよ!」

まぁそうだ。
相手はアインハルト。
帝国アルガルド騎士団。
目的が同じなだけで、
目的の達成がわずかにもほとんどにも無いのは、
どちらも同じ。

「そうでヤンス!なら助け合うべきでヤンス!」
「あ・・・いや・・・それは・・・・」
「?・・・なんでヤンスか?」
「い・・いやぁ・・・あいつらの仲間には戻りにくいというか・・・戻りたくないというか・・・・」
「まぁそうでヤンスね」

「なら戦う気か。デムピアス」

バンビよピンキッドの言葉を無視し、
エイアグは続けた。

「戦う理由は十分にある。そうだろ?だからその戦意の有無をハッキリとさせておきたいのだ」

銀髪。
いや、
鉄髪の魔物の王は、
微動だにしなかった。
衣類以外の何も、
無機質な体は動かなかった。

だが、
口は動いた。

「善が正義を語る時代は終わったようだ」

背中を向けたまま。

「だが俺は"正義"に生きる。俺はな。小さな一人の人間に恋をしてしまったようだ」

それは比喩でありながら、
核心を突いていた。
惚れ込んでしまった。

「彼を尊敬した。彼を敬愛した。彼を・・・あの小さなヒーローをカッコイイと思った」

「カッコイイ?それまたお前らしくもないお粗末な表現だな」

「これ以上の言葉は浮かばない。全てがその言葉に詰まっている。
 俺はそれに惚れ込んだ。俺も・・・・あのヒーローになりたいのだ」

まるで、
まるで子供のような夢を、
目標を、
目指すものを、
デムピアスの、
魔物の王の口は語った。

「善が正義を語る時代は終わった。なら、悪の王が正義を語ろう」

デムピアスは、
釣竿を立てかけ、
初めて立ち上がった。
振り向いた。

目は、
悪悪しく、
斑な紫と黒。

「ウキキ」

悪の冷たい手は、
肩の上のチェチェを撫でた。

「彼は言っていた」

そして海賊王は、
エイアグに、
悪悪しい、
悪の、
闇の、
そして真っ直ぐな堅き目線を向けた。

「正義に立ちはだかるは悪だと。何尾とたりとも、俺に立ちはだかるなら潰す」

それが俺の意志だ。
デムピアスは、
そういい捨てた。

「ふん。立ちはだかるなら潰す。か。そこだけ聞くと変わってはいないのだがな」

「変わったさ。変わっていなければ困る」

人間を夢見てしまったのだから。
悪なのに。
闇なのに。
魔なのに。
その、
王なのに。

「まぁ敵味方のどちらでもないとでも言うことか。
 手を組む方面ではないと分かっただけでヨシとしよう」

「それは聞くまでもないことだ」

「そうだな・・・さて」

エイアグは、
ゆっくりと歩き出した。
それは先ほどまで立っていて、
先ほどまでは形を残していた、
船の先。
船首の方へと。

「ここに来たのは寄り道だ。もしやと思ったのでな。
 俺は探しものがあってここらに来ただけだ。続きに行くとする」

「海賊としては、地図もなしに宝を探すのを阿呆と言う」

「いやいや、俺はよく馬鹿と言われるよ。その宝物のせいでな。ん?」

エイアグは、
砕けた船首の先を見下ろすと、
何かを見つけた。


































「あらら、お前らかっこわりぃなカッコ、笑い」

韻を踏みがてら、
0歳児は歩いていた。

「はいはいはい!デムピアスベビーのお通りだぜ!
 恰好無敵(自称)な僕様登場!YO!ROW!SHIT!QUTE!」

三つ編みの魔物が通る。
どう見ても成人している風貌な0歳児。
トラバサミのようにギザギザな歯並びの0歳児。
そんな凶悪な乳歯の生え揃ったわがまま坊主は、
両手の銃をパンパン鳴らし、
戦場を歩いた。

「はいはい、無敵!無敵!要チェケラッ!」

終わった戦場。
残務処理。
裏切りの魔物達が、
屍骸と化していくだけの戦場。
その掃除の一端を担う、
デムピアスの子供。

「はい、ダァーン!ダァーン!!キャハハッ!お前らカッコわりぃな、カッコ、笑い」

生まれたばかりの0歳児に与えられたオモチャは、
拳銃。
二丁。

「ほれほれ、足掻いてみろよ!年期の違いってのを見せてみろよ!
 銃はペンより強いってパパが言ってた!多分な!キャハハッ!」

弾丸が飛ぶ。
薬莢が跳ね上がる。
薬莢?
二丁の拳銃。
デムピアスベビーが拳銃から撃ち出しているのは・・・

「おりゃおりゃ!キャハハッ!YO!YO!YO!」

メダル。
メダルから生成、
いや精製された、
デムピアス特製メダル弾。
もちろん、
それはすでにメダルの面影はなく、
弾丸としか言いようがないが、

言うならば、
この与えられた拳銃から撃ち出されるのは、

超直接的なエンチャントアーム。

メダルの効果云々以前に、
機械や鉄を思いのままに出来るデムピアスによって、
メダル自体を弾丸に変え、
拳銃から発砲している。

生まれたばかりで、
何一つスキルのないデムピアスベビーへの、
パパからのプレゼント。
それこそが、
"エンチャントバレット"

皮肉にも、
デムピアス半人間体への媒体とされた、
エンツォ=バレットの名に文字られる形となった。

「僕様、超無敵(自称)!」

両腕をクロスさせ、
二丁の拳銃で左右の魔物を吹き飛ばす。
片方は吹き飛び、
片方は炎を浴びてぶっ飛んだ。

「あるぅ〜日、森の中〜、僕様に〜、出会あ〜った♪
 キャハハハッ!残念無念!可哀想だねカッコ、笑い!」

揃えるように両手の銃を突き出すと、
目の前のバギが、
その重い体もろとも撃ち飛ばされた。

魔力を秘めた、
いや、
メダルの技術を秘めた、
エンチャントアーム。
エンチャントバレット。

0歳児に与えられた、
最高のオモチャ。

「まぁ無敵の僕様の初陣だかんね!要チェケラできるくらい派手な方が無敵っしょ!
 ほら、みんなYO!って言えよYO!って!そんで死んじゃえ!」

三つ編みの、
ギザギザ歯、
八重歯というよりは刃歯(ヤイバ)をチャームポイントに、
デムピアスベビーは、
魔物という魔物を穴だらけに、
銃声の行進を続けていた。


何度も説明するようだが、
これは、
もう、
終わった戦争だ。

敵の魔物の数はすでに4ケタを切り、
3ケタ中盤。

戦争という垣根の中では、
それは致命的にもう減るだけ、
消滅するのを待つだけの数だった。

大逆転はない。
確定的に結果の決まった戦争。

だから、
彼の活躍は残務処理でしかなく、
終わったあとの活躍でしかない。

いや、
むしろベビーに関らず、
ここからの描写は全て番外編に近いと言ってもいいだろう。

「んれ?」

そこで0歳児は、

「なんだあれ?」

ソレと出会った。

魔物達は、
すでに戦意さえも半々で、
逃げ惑う魔物や、
それでもゲートなどという文化を持っていないため、
それでも本能のままに戦う魔物。
そういった帝国の魔物達。
負けて、
死んでいく魔物達の、
戦場のその群の中に、

一匹だけ異質な者がいた。

「・・・・?・・・ほんと何あれカッコ、笑い」

どう異質かというと、
それは、

戦場の迷子だった。

そのあまりにも小さな体は、
彼の持つ武器の半分にも満たなく、
サイズが合う服がないのか、
ローブもマフラーもブッカブカのダブダブだった。

「あーー、うーーー」

その、
その小さすぎるカプリコは、
死に絶える戦場の真ん中で、
キョロキョロと辺りを見回しながら歩いていた。

「カプリコのガキか?」

カプリコのガキ。
0歳児であるデミィが言うべきセリフでもないが、
その終わった戦場の真ん中で、

魔物の王、
デムピアスの実子、
デムピアスデビー0歳と、

魔物の伝説。
カプリコ三騎士の実子、
コロラド1歳は出会った。


「あーー、あーー」


歯も生え揃ってなく、
それ以前に言葉も話せないのか、
あまりに小さなカプリコは、
巨大なカプリコソードを背負って歩いていた。

「あーあ!うーあ!」

戦闘の真っ最中の周りに、
何かを必死で訴えながら、
コロラドは歩いていた。

まぁとりあえず、
話しかけてみた。

「おい、ガキんちょ」

度々言うが、
0歳児の言うべきセリフじゃない。

「てめぇもしかして迷子か?え?マジ?迷子っち?
 キャハハッ!マジかよだっせ!マジかっこ悪ぃったらカッコ、笑い」

「うーあー?」

コロラドもデミィに気付いた。
正真正銘、
完璧なる赤子の純粋な目は、
人も魔物も変わらなかった。

「うーうあー、あーあー」

コロラドは、
手をパタパタをさせながら、
必死に何かをデミィに伝えていた。

「え?迷子なん?」

伝わった。

「ってかお前ちゃんと言葉話せよ。カプリコなら人語使えるだろ?
 え?何?1歳?ププッ!何お前!マジかっこ悪いったらカッコ、笑い!
 お前1歳にもなってまだ自立してねぇの!?ユトリかお前!?」

そういう問題ではない。
むしろお前のような0歳児はいない。

「僕、僕様?僕様はデムピアスベビー!通称デミィ(自称)!YO!ROW!SHIT!QUTE!
 僕様はてめぇと違って大人だからな!もうバリバリ言葉しゃべれるんだぜ?」

「おーー、おーー」

「そう!僕様は超無敵(自称)!お前と違って歯を生え揃ってるし、言葉もしゃべれる!
 0歳児にして無敵!弱点はないっ!食べ物だってピーマン以外は全部食べれるもんねっ!」

「あうあー」

「でもパパはまだWISオーブ(ケータイ)は持たせてくんないんだよなー。
 まったく。子供扱いしやがって。でもワガママ言うと悪い子になれないらしいからガ・マ・ン♪

「あうあー、あうあう、あー、あー」

そんな事いいからと言わんばかりに、
手をパタパタとさせながら、
コロラド(1歳)は訴えかける。

「ん?パパを知らないかって」

「あうあー♪」

「俺のパパ?」

「あうあー!」

「お前のパパか。そりゃぁチェケラッチョしてないなぁ。
 へ?お前のパパってカプリコ三騎士なのか?」

「あうあう」

コロラド(1歳)は、
元気よく、
体いっぱい使って頷いた。

「何それ?食えるの?」

デミィは知らなかった。

「あうぅぅ・・・・」

ガッカリした・・・のではなく、
コロラド。
カプリコ三騎士の実子。
カプリコ三騎士がリーダーエイアグの実子。
彼は、
自分のパパを馬鹿にされた事に怒ったらしい。

「あうあうあうあうあ!おー、あえうあ!ああーーー!」

怒っているのかも分かりにくい、幼い表情を前面に出し、
そして、

「あうあー!」

その小さな小さな英雄の卵は、
自分の身長の二倍以上あるカプリコソードを背中から抜いた。

「うぉっとぉ、マジ?やる気なの?カッコ、笑い」

コロラドが飛び出す。
それは、
小さな小さな体からは有りえない勢いだった。
そして服装がブカブカなため、
まるで、
マフラー付きの布切れが巨大なソードを持って飛び出して来るようにしか見えなかった。

「ああぅー!」

「へっ、ガキンチョのクセに!」

お前の言うセリフでは(以下同文)
三連星と呼ばれる三騎士の子、
小さな流星は、
小柄な体いっぱいに突っ込んでくる。
それに迎え撃つように、
デムピアスベビーは両手の銃を前方に、
揃えるように構える。

「チェケラッ!!!」

パパパンッ!
と、
一瞬の連射音。
デムピアスベビーの銃の鳴き声。
ハンドガンから放たれるメダル原の弾丸達。

「うぉ?」

布切れとソードが飛んだ。
あの馬鹿デカい(コロラドが小さいためさらにデカく見える)ソードごと、
コロラドが跳んだ。
ジャンプした。
着弾地点を無視し、
空中から小さな流星が降ってくる。

「あうー!」

「ほぉ、レスペクトしてやんよ!」

ベビーは弾丸を二・三発撃ちながら、
後方へと飛んだ。
体が地面と水平になるほどに。

その弾丸を無視し、
コロラドのカプリコソードは豪快に地面に叩きつけられる。
地面が二つに割れるように跳ね上がった。

「キャハハッ!!」

ベビーは後方へ跳んだ後、
銃を持ったまま両手を地面に着き、
さらに跳ね上がる。
そして、
後方へグルン、グルンと、
二度ほど宙返りを披露する。

それは、
明らかに彼から生まれた赤ん坊(ベビー)だからこそ・・・・
だっただろう。

そのアクロバティックな動きには、
チェスターの面影があった。

だがそれは今は関係のない話。

「ディスってやんよ!!」

バク宙。
宙返りした空中から、
両手の拳銃を腕を伸ばして構える。

「バババババッキューン♪ってな感じでなっ!」

空中のアクロバッティックから放たれた弾丸の連射が、
地上のコロラドを襲う。

「あうう・・・・」

「お?」

避けもしない。
いや、
避けたのか。
コロラドは、
その小さな小さな体で、
地面に突き刺さったカプリコソードの裏に逃げこんだ。

大きなカプリコソードは、
小さな1歳児の体を完全に守りきった。
弾丸はソードの側面に全て遮られた。

「チェッ」

舌打ちと共に、
着地と共に、
さらに銃を突き出してトリガーを引く

「ケラッ!」

が、

「ありゃ?」

カチカチカチカチカチ。
弾丸は発射されない。
球切れ。

「ありゃ?ありゃ?」

不思議そうに銃をカチカチ鳴らすベビー。
そして、
やっと気付いたのか、
照れくさそうにギザギザの歯を見せた。

「算数って難しいよな♪かっこ悪ぃったらカッコ、笑い」

拳銃を持った両手で、
三つ編みの後ろ髪をかいた。
0歳にして照れ誤魔化しを覚えてるようだ。

「でも銃なんてなくたって僕様無敵だからな。なぁ、ガキンチョ。
 なんかよーわからんけど僕様が立派な悪い子になるために死んで・・・・・」

「てめぇが死ね」

「のぁっ?!」

何かが落ちてきた。
真上から。
自分より小さな何かが落ちてきて、
デムピアスベビーの真上に落下してきた。

ベビーは地面に張り付けにされるように倒れ、
その上には、

カプリコの頂点が乗っていた。

「あっだあああああ!なんだてめぇ!僕様の上に乗っかんなっ!
 のけっ!これじゃぁ僕様カッコ悪ぃったらカッコ、笑いじゃねぇか!!」

「うっせぇクソガキっ!!!!」

それは巨大な船から舞い降りたエイアグ・・・
であってエイアグでなかった。
変貌したかのような形相で、
ベビーの上に立ち、
そのまま足で踏み荒らした。

「このっこのっこのっこのっ!!俺のコロラドになにをしたっ!!」

「あでっ!あででででで!!!」

息子を襲われた怒りに、
魔物の頂点の一角は、
怒りの頂点の一角を露にし、
足でベビーを踏んづけまくった。
性格が変わったように。
というか変わっている。

「いだいっ!痛いって!やめっ!」

「俺の可愛い可愛いコロラドに酷い事した報いだっ!」

「あ、あっちが先に仕掛けてきたんだぜっ!」

「知るかっ!ケンカ両成敗だ!」

「筋通ってねぇー!」

胸の中の奮起をぶつけるように、
ベビーを踏んづけまくったのち、

「あうあー」
「おぉ・・・無事で何よりだ息子よ」

ベビーをゴミのように捨て置き、
テコテコと駆け寄ってくるコロラドに、
エイアグは自分から走って抱きついていた。

「怪我はなかったですかー?大丈夫ですかー?おーよちよち」
「あうあー♪」

180度性格を逆算したように変貌し、
エイアグはコロラドを抱きかかえて撫でまくった。
撫でまくったあげく、
自分の子にフレンチキッスを浴びせまくった。
コロラドはキャイキャイ喜んでいた。

「怖かったよなぁ・・・うんうん。もーパパが来たからには大丈夫だぞー」
「あーあー」
「でもコロラド。今度から勝手に戦場になんて付いて来ちゃダメだぞ?
 可愛い可愛いお前にもしもの事があったら・・・パパは死んでしまうかもしれん!」
「あうー?」
「だからパパの言う事はちゃぁーんと聞くんだぞー、言う事聞かない子っていうのはな」
「あうー!」
「お前の可愛さのが罪だっー!」

魔物の頂点は、
愚かしいほどに情けなく、
わが子にガッシリと抱きついて包み込んだ。

「よしよしよしよし、パパがずっと守ってやるからな!
 お前はもう、微笑んでいるだけでこの世は平和だ!
 絶対後20年は一緒に風呂に入ってやるんだからなっ!」

親バカ、
というよりバカ親は、
そう言いつつ、
振り向く。

「それに引き換え、どっかの馬鹿のクソガキは・・・・」

わが子と他人の子でどうしてこうも正反対に対応が違うのか。

「う、うっせやい!僕様が悪いんじゃないっての!そのガキンチョが・・・」

「ガキンチョ!?俺のコロラドに言ったのか!?」
「あー」
「コロラドのが1歳年上なんだぞ!それはお前より365日上回っていて、
 365倍可愛いという事だ!可愛い年長者への口の利き方を知れクソガキ!」

「て、てめぇのガキは口の利き方事体知らねぇじゃんかよっ!」

それはまぁ、
ベビーが特殊すぎる問題だろう。
口を利ける0歳児の方が異端だ。
だがまぁ、

「で」

1歳児にはバカ親がいるように、
0歳児にも当然親がいるわけで、
それは、
また同じように、
だが、
ガシャンッという、
生物には有りえない着地音を奏でながら降り立った。

「どっかのクソガキの馬鹿親がきてやったぞ」

悪しき頂点、
デムピアスもまた、
終えし戦場に降り立った。

「パパッ!」

ベビーは、
その成人にも近い体で、
機械仕掛けの魔王に駆け寄る。
だが、

「度し難い」

こっちの親の反応は正反対だった。
冷たい鋼鉄の腕でベビーを薙ぎ払って吹っ飛ばした。

「あでっ!!」

ゴンゴロと転がり、
逆さまに地面で止まり、
ベビーはベソをかいた。

「パパ・・・なんで・・・」

「お前がヘナチョコだからだ」

「だ、だって向こうが!」

「そんなことはどうでもいい。俺が怒っているのは弾の方だ。
 戦闘中に弾切れを起こすなど度し難いにもほどがある。
 それで魔王の子が勤まるか。0歳にもなってまだ戦法も分からんとは」

"0歳にもなって"て・・・。

「いいかベビー」

魔王は、
海賊王デムピアスは、
自らの子に投げかける。

「戦いの中の理屈などどうでもいい。勝たなければならない。
 勝たなければクズで、勝った者だけが正義を貫く事が出来る。
 なぜなら・・・・・・・・・・・"正義は勝つからだ"」

魔王は、
自らの英雄の言葉を語った。

「勝った者が正義。ならば勝て。足掻くほどに勝て。
 そこらのクズ共に負けるな。貴様は悪の正義を継がねばならんのだから」

「パパ・・・・」

それは、
それは、
デムピアスの思いの、
意志の、
その造型。
想像の創造。
それが指すものこそベビーだった。

ベビーの動きに、
チェスターの面影があったのも、
それはベビーを造り出したデムピアスの思惑。
デムピアスの思想は子となって排出された。
そして、
正義とは、
英雄とは、
他の者を魅了し、
受け継がれるもの。

そう、
そう解釈したデムピアス。
その結晶がデムピアスベビー。

だがまぁ、
その事柄が主軸になるのはもう少し、
ほんのちょっとだけ先の話であり、

今、
この、
もう終わった戦争の中で語られる事ではなかった。

「魔王も父か」

エイアグは笑った。
単純に可笑しくて笑った。

「まぁ子は子で、親は親。両方とも俺達親子の方が勝ってるけどな。なっ、コロラド」

「ふん。馬鹿か」

親馬鹿でもなく、
馬鹿親でもなく、
馬鹿だけがデムピアスの口から発せられた。

「・・・・・それがうちの子への侮辱であるなら、貴様とて容赦せんぞデムピアス」

「立ちはだかるなら潰すまで」

伝説と王。
魔物の頂点と頂点。
それが、
向かい合い、
睨み合い、
そして殺気をぶつけ合う。

実際、
今の状況だけでないだろう。
彼らが向かい合い、
睨み合い、
そして殺し合おうとせんばかりの理由は。

「あうぅ?」
「・・・・そうだな」

エイアグはひとしきり睨み付けた後、
顔をそむけ、
コロラドに微笑みかけた。

「デムピアス。貴様と戦っているヒマはない」

「面白い言葉だ。船上でも言ったろう。俺はヒマだからこそやってやってもいいと言っている」

「ふん」

エイアグは振り向いた。
コロラドの頭に手を置いたまま。

「アジェトロとフサムが気になる。奴らは奴の方へと行っているからな」

「奴か」

カプリコ三騎士。
海賊王デムピアス。

現存の魔物界の頂点。
そこにはもう一匹。

「ふん。だが俺やお前と違い、奴はこの終わった戦争の中心だ。
 つまるところ、奴は終わっただろうよ。負けたのだ。正義でなかったからだ」

「かもな。だが俺にとって、今ここで貴様と向かい合うより有意義なものでな」

カプリコ。
ノカン。
その因縁は、
彼ら単体の問題ではなく、
それは種族の問題。

魔物などとひとくくりにするなかれ、
種族には種族の事情がある。
その中でも、

カプリコとノカンの腐れ縁は人間界にも響くほど有名だ。
そして、

「仲良く腐った種族同士好きにするがいい」

「廃れど腐りはせん。あのノカン将軍もそう思っているだろう」

「同類か。つまりそれが貴様らの程度だ。王は一人でいい。頂点は一つだ。
 それはつまり俺だ。七つの海の英雄だ。貴様ら"量産型の種族"など勝手に死ね」

「勝手に死ねか。気に入らん言葉だが、その言葉の裏。
 貴様の思い通りに死ぬ事よりは何十倍もマシだろうな」

そう言い残し、
エイアグはコロラドを連れて去った。
この終わった戦場。
終わった戦場の戦地の真ん中から、
その真逆の場所でありながら、
唯一の戦地。
ノカン将軍ケビンの元へと。

・・・・。
これがもう、終わった戦争であるなら、
これがもう、逆転の展開もない戦争であるなら、
これがもう、結果が出来てしまった戦争であるなら、

その中心人物であり、
唯一残った事象でもあるケビン=ノカン。

その結果もまた、
決まってしまっているんじゃないだろうか。

たった一人の将軍。

彼の行方など、
もう決まりきった事だ。

終わった戦争の後残り。
それは、
終わるだけ。
終わるだけだ。

ただの残務処理。


だから最後に、
この戦争の唯一の残務処理へと、
焦点を移動しよう。





































「カス共が」

ツヴァイは槍を踊らしていた。
その華麗な槍舞、
その美麗な槍武は、
この世に脅かすものなど、
たった一人しかいないだろう。

だが、
それでもそんな彼女が燻る相手。
それは異例としか言いようがなかったが、

それは、
ケビン=ノカンでなく、

「応!」
「・・・・承知」

「魔物風情が」

アジェトロ。
フサム。
カプリコ三騎士が二端。

三分割でなく、
三倍の伝説が二倍。

その二つを、
世界の二番手が相手していた。

「貴様らに用などない!」

ツヴァイが、
この地域一帯を壊滅させてしまうんじゃないかという幻覚さえ生じる槍を振り切ると、
二つの伝説。
アジェトロとフサムは、
小さな体を回転させながら距離をとる。

「応応!そりゃぁこっちのセリフだ!」
「・・・・・ノカン将軍とケリを付けに来ただけなのだがな」

お互いが望んでもいない戦い。
ツヴァイと、
三騎士が二騎士。

だが、
それこそデムピアスと同じ。
目標が同じなら・・・・
つまり、
"敵の敵とは味方でなく敵"

戦うべくして戦っていた。

「へんっ、にしても人間でここまでやっかいな相手はあいつ以来だなっ!フサム!」
「・・・・笑止。我ら相手に半刻持った人間は確かにお主で二匹目だ」

「それは当然であって光栄でもなんでもない」

三騎士と渡り合った敵。
それで生き延びた存在は二つ。
否、
渡り合った存在は二つ。

ノカン将軍、
ケビン=ノカンと、
世界最強、
ロウマ=ハート。

たったそれだけだった。

「ふん、それどころかロウマの奴より劣っているみたいではないか」

「応応!笑える計算だねぇ!二匹相手で互角じゃ無様ってか?」
「・・・・・それは三騎士は三匹にて一匹前(一人前)と勘違いしているようだ」
「どちらにしろ本気の俺達と渡り合った者の数は同じだ」

ロウマとケビン。
彼らは、
三騎士三匹と渡り合った。
ならば二匹に燻っているツヴァイはどうなんだ?
という問いに対し、
明確な比較対象。


「・・・・・否、個別戦であるならデムピアスも追加されるがな」

カプリコ三騎士は、
個人戦においてもデムピアスと互角だと。

「いい事を教えてやろう。魔物風情。戦闘は算数ではない」

「・・・・・承知」
「ごもっともだ。ならさっさと死になっ!」

何にしろ、
間違いなく、
まごうことなく、
世界の最上級の戦いであるには違いない。

魔物の頂点、三騎士が二騎士。
人間の頂点、双子兄妹が妹。




そして、
もちろん。

ツヴァイがカプリコ三騎士と、
アジェトロとフサムが漆黒の戦乙女と戦っているという事は、


「ちょぉーちょぉーちょぉー・・・・マジ俺ちゃん涙目・・・・」

エドガイが、
絶騎将軍がノカン将軍。
ケビン=ノカンの相手をしているという事。

「俺ちゃんじゃ無理だっっちゅーの・・・・」

そう言いながら、
トリガー付きのソードから、
パワーセイバーの斬撃を飛ばす。
剣による斬撃の弾丸は撃ち放たれるたび、
エドガイの長い右前髪が跳ね上がり、
頬に隠されたバーコードが見え隠れした。

「確かに貴様じゃ役不足かな」

その幾多と放たれる飛び道具が斬撃を、
小さなピンクの体がかろやかに避ける。

「ココの部分がな」

こめかみを左手で突き刺しながら、
ケビンんは、
当たる気配もないように、
斬撃の間を縫う。

「チクショッ!当たれってのっ!」

「当たれでなく、当てるんだ。攻撃というのはな」

当たる気配がない。
透き通るように避けられる。

ケビンの動き。
それは、
まるでエドガイの攻撃を読みつくしている様。
否、
攻撃が来る場所が分かっているよう。

計算。
予測。
算々。
予想。
知力を持って武力を制す。
知略を持って戦闘を制す。

脳ある鷹は、ツメの使い方を知っている。

「今後の世界。戦いは思考の世界へ移るだろう」

ケビンは、
パワーセイバーの隙間を縫って、
エドガイへとあっという間に近づいてきた。

「だから負ける奴は能無しで脳無しと相場が決まる」

「うっせっ!!」

「暴力などよもや古い」

ガギンッと、
ケビンの剣、
赤茶のブルトガングと、
エドガイの剣、
アスタシャが重なる。

「・・・・・ぐっ・・・」

「・・・・ふん」

「戦いは考えてするもんじゃねぇ!考えるのは戦いの目的だっ!」

「ほぉ、その心は?」

「金だっ!!!」

エドガイはケビンを払いのける。
その払いのける勢いまでも吸収したように、
無傷に、
ノーダメージに、
ケビンは後ろに飛んだ。

「ふん。笑えるな人間」

ケビンは、
可笑しそうに首を振った。
呆れるように。

「戦争という愚かかつ神聖な場で、お前の目的はそれか。
 貴様は生きる理由も死ぬ理由も、そして、自らの体と行動理念さえ金属に委ねるのか」

「俺ちゃんにゃぁそれで十分でね」

「愚かだな」

「愚か?ケッ、カッコいいじゃねぇかその響きっ!!!」

エドガイはまたパワーセイバーを撃ち放った。
それも当たるはずがない。
直進的な攻撃など、
考えるまでもない。

「まるで将棋だ」

「ぁあん!?戦争はゲームか?ケッ!俺ちゃんもそりゃ同感だね!」

「だな。詰みを求めるだけの盤上のゲームだ」

ケビンは真横に走る。
それだけで、
それだけでもないが、
それだけで、
パワーセイバーは当たりもしない。

「正直に言おう。武力と暴力。それらは全て貴様が上だろう」

「分かってるっての!」

「だが将棋にでも例えるなら、この戦力差は知力で埋められるもの。
 貴様は香車しかない馬鹿で、そんなもの俺は飛車一枚でくだせる」

「そりゃぁ涙目だねぇ!ぁあ!?猪突猛進馬鹿みたいに言うなよ!?
 俺ちゃんはもうちょっとスマートなキャラに見て欲しいところだ!」

「スマート。いい言葉だ。それはつまり洗練されているという事。
 それは戦場でも重要だ。シンプル・イズ・ザ・ベスト。単純な策ほど荒がない。
 だが裏を返せばただの薄っぺらさだ。荒を全て埋め尽くしてこその知略」

万が一を埋め尽くしてこその、
万全。
まさにOne for All
全ては勝利のために。

「俺に勝ちは薄っすらとしか見えないが、負ける理由は薄っすらもない」

ケビンは卑屈にもそう言い、
そして斜めに駆け出した。
またエドガイに真っ直ぐ。

特別な事など何もない。
"ケビンに特殊な能力など何もない"
秀でた能力さえない。
ただ知力を除いて。
それだけ。
壮絶なる脅威。

「・・・・ったれっ!!」

またも、
剣と剣が重なる。
同じ。
だがそれは、
勝ちは薄っすら。
負けはない。

完璧を求めたノカン将軍の戦い。

ただ、
将軍は勝利だけを望む。

「人間、いい事を教えてやろう」

「ぁあん?そりゃ嬉しいねぇ!何を教えてくれるんだ!?冥土の土産か!?」

「そうとも言うな」

「へんっ!俺ちゃんは冥土よりメイドの可愛い子ちゃんの土産がいいな!」

ギリギリと剣と剣が押し合う。
一本の剣と、
一本の剣が。

「教えてやろう」

「ぁあ、とびっきりのいい事教えてくれや!」

「戦いはな」

そして、
剣の刃を重ねた、
そのまま、
ケビンは左手を懐に・・・・・

「戦いは算数だ」

「ごぉ・・・・」

何が起こったか。
エドガイの体が"く"の字に折れる。
敵は目の前なのに、
自分の体は左に吹き飛んだ。

「ごはっ・・・・」

そのまま真横に吹き飛ばされる。
地面を滑る。
横腹が痛い。
何か、
堅い、
重い、
小さい、
そんな何かが、
エドガイの脇腹に突き刺さった。

「・・・・もう一つ教えてやると、戦いってのは奥の手を隠しておくものだ。
 どんな小さく、儚いような手でも、隠しておけば有効なる戦略だ」

そう言いながら、
ケビンは立ったまま、
離れたエドガイを見下ろす。

その左手。

「弟の形見でね」

スナップを効かせた左手から、
糸が伝い、
ギュンギュンと回転する・・・・ヨーヨー。
ノカンヨーヨー。

なんてことはない。
なんてことはないオモチャ。
だが、
事実、
それは、
深々とエドガイに突き刺さったのだ。

「ゲホッ・・・ゲホッ・・・・オモチャを隠してたか・・・・」

「オモチャはちゃんと片付けてしまっておけと教えられただろ?」

ニヤりと笑い、
ケビンは左手を微妙に引くと、
糸が巻き取られ、
手の中にヨーヨーが収まった。

「大事に大事に使えば、それはどんなものでも受け継がれる誇りだ」

そんなケビンを見据えながら、
エドガイはヨロヨロと立ち上がった。

「・・・・へへっ、俺ちゃんは買いなおすね。そのためには・・・金が必要だよなぁ!」

「つまらん人生を歩んできたようだな」

「黙りな。金の価値も測れねぇような奴が・・・・人の人生を測るんじゃねぇ!」

エドガイが、
その片手で扱うには大きな剣を、
トリガー(引き金)を軸に、
ぐるんと回した後、
銃口。
剣先を向ける。

「お返しにすっげぇ事を教えてやるよ」

「ほぉ」

「算数の話に似てる」

「掛け算も出来ないようなツラしているがな」

「お?お前さん、ノカンのクセに人の見分けがちゃんとつくのか?偉いねぇ。
 でもそんな事言われたら俺ちゃん涙目。でもま、教えてやるよ。俺ちゃん優しいからな」

銃口を。
剣先を向けたまま、
ニタニタと傭兵会の王者は話す。

「何かを賭けて闘うだろ?例えばあんたはなんだ」

「ノカンの誇りだ。この命に賭けても闘う」

「でしょー?だっしょ。大概の奴はそう言うわけよ。個人の大事なもんを賭ける。
 そんなかで最上級は命っつわれてる。たった一つの命を賭けれる奴が一番覚悟がすげぇって」

当然だ。
一つしかないから。
孤高かつ単体で、
代わりはないからこそ、
命を賭ける覚悟こそ最上。

「でもよ。命には価値があるようにな、命とかそーいうもんには値段があるわけ。
 さぁ問題です。他人に勝手に値札を付けてみましょう。ハハハッ、
 恋人は?親友は?家族は?見知らぬオッサンは?・・・・自分の値段はおいくら?」

剣先を、
銃口を向けられたまま、
ケビンは黙ってその戯言を聞いていた。
なんと愚問。
くだらん。

「俺ちゃんはよぉ、"そーいうの"もー散々なわけよ。
 だから決まって返ってくる答えは一つ。値段に例えるなんて馬鹿馬鹿しいってな。
 じゃぁ価値も分からないもん賭けてどうするよ。つーかま、なんだ。
 価値が分からなくたって価値は決まってるんだ。人それぞれだとしてもな。
 つまりまぁ、人の命なんて賭けたってたかがしれてるわけ。その命以上にはならないわけよ」

「何が言いたい」

つまり、
お前は、
何を賭けて闘う。

「金だ。金に限界はない」

ニヤりと笑うエドガイ。
右頬のバーコード。
自分を金に売り渡した証。
命を金に換金し、
言葉通り、
魂を売った男。

「俺の覚悟は数字だ。限度のない金(グロッド)だ」

トリガーにかけた指が動く。

「"俺は無限だ"」

そして放たれた、
パワーセイバー。
やはりパワーセイバー。
先ほどより切れ味は増し、
規模も増し、
威力は増しているだろう。
だが、
やはりパワーセイバー。

「無限に成長しない能無しめ」

規模がデカかろうとも、
やはり平たい斬撃なのだ。
ケビンはいとも容易く避ける。
もちろん、
それ以上もない。
それだけだ。

「今回の金額分じゃこんなもんさ」

「金で実力を決めるのか?」

「イエス。俺ちゃんは貯金箱なもんでね。豚さん貯金箱よ。ブーブーってね♪」

「くだらん」

ケビンは、
左手のヨーヨーにスナップを利かせ、
投げ落とす。
走りながら投げ落とすと、
ヨーヨーも地面にぶつかった。
ノカンヨーヨーは、
回転のままに、
地面を急速に転がる。

「確かに言葉だけなら無限だ。だがそれを実戦に取り入れることが出来るかが策略というものだ」

そして、
ケビンは、
そのノカンヨーヨーに片足を乗せた。

「戦争は仕事(金稼ぎ)じゃない。遊びだ。将棋と同じ、誇り高き遊び。だからこそ本気になれる」

ノカンヨーヨーに片足を乗せると、
それはまるで車輪。
電動のインラインスケートが如く、
硬き荒野を滑走する。

「ぉお?面白そうだなそれ。一つ売ってくれや」

「お前と違って俺が賭けるものは誇りだ。これは弟の形見。品性は金で買えんよ」

「ケチ」

ケビンは高速で移動する。
ヨーヨーのローラーを片足に、
糸と体重移動で地面を滑走する。

「俺はまだまだ手はある。貴様にはないがな」

そして直角に曲がり、
ケビンは高速でエドガイへと突っ込む。

「そろそろ諦めたらどうだ人間!」

「諦めたら金が入らねぇだろが!!」

高速でのヨーヨー移動。
その、
すれ違いザマに、
辻切る。

ケビンの赤茶の剣が襲う。
エドガイは、
何度も見たシーンかのようにそれを剣で防ぐ。
吹っ飛ばされたのはエドガイだった。

「くそっ!!」

吹っ飛ばされながらも、
すぐさま体勢を整える。
視界。
もうケビンはヨーヨーでターンしており、
こちらに向かってきている。

「結局同じだ!」

「そう、同じだ」

何度も何度も、
同じシーン。
剣と剣がぶつかる。
今回も形が変わっただけでソレだろう。

ヨーヨーの車輪で突っ込むケビン。
迎え撃つエドガイ。

「だが俺には手がある。万全という名の万の策がな」

「違う意味での万が一だ!言葉の通りてめぇの戦い方は1万とも結局同じ単調だっての!」

エドガイがケビンの剣にぶつけるように剣を振る。
もちろん、
万策尽きずとも、
万は一。
同じ。
ケビンも剣をエドガイにぶつけていく。
違うのは。

「1万通りだから万策だ」

「!?」

跳んだ。
小さく、
飛んだ。
ほとんど進路は変わってないと言っても等しい。
だが、
それは大いに違う。

「結局同じ。戦いは算数だと言ったろう」

剣と剣がぶつかる。
だが、
もう一つ。
遠心力をオビながら、
横から、
ヨーヨーが襲う。

「くそっ!!!」

剣と剣がぶつかる音。
それはケビンの戦略の確定音。
戦いは算数。
剣が一つずつならば、
余り。
ヨーヨーは、

「ごっ・・・・」

エドガイの横腹に二度(にたび)突き刺さる。
重々しく突き刺さるヨーヨー。
エドガイは吹き飛び、
転がる。

「思考を整えろ」

ケビンは着地しながら、
ヨーヨーを手におさめ、
剣を振る。

「誰にも万の道がある」

まさに万里。
万里が頂上を極めた男。
それがノカンの将軍。
ケビン=ノカン。

「ちぃ・・・・」

肩膝をつき、
立ち上がるとも言えない状態で、
歯を食いしばるエドガイ。

アバラが数本イッてないか?
分からないが、
それほどの痛み。
きしむ。
軋む。

ヨーヨーなんてオモチャが二回当たっただけ。
戦闘用とはいえ、
それだけ。
それだけでこのダメージ。
立ち上がるのもつらくなる重み。

「ハサミも使いようというだろ」

視界の先にはケビン。
ノカンの将軍。
単体では、
それほど恐ろしさも覚えない。
怖さもない。
そんな、
そんな平凡なノカンでしかない。
しかない・・・はずなのにっ。

「だがそんな有名な言葉があるにも関らず、ハサミの有効利用法を知ってる者がどれだけいる?
 しかし俺は万策語ってやれる。どんなものにも万の道があり、使いようなんだよ」

ただ、
ただ頭いいだけ。
いや、
智謀に長けているだけ。
重苦しいほどに、
その点においては他の髄を許さないほど完璧なだけ。
知能だけ。
それだけで、
奴は、
弱きノカンという種族の長は、

最強の頂の一つに立っている。

「戦いはココだ」

トントンっ、と
御なじみのようにこめかみを人差し指で叩く。
説得力の塊のようなピンクは、
誇らしげに笑った。

「・・・・・」

自分は馬鹿だ。
いや、
人と比べてという意味でなく、
あの、
目の前の最たる知才に比べると、
どれだけ劣っているか。
だが、

「掛け算もできねぇように見えるっつったな・・・」

立ち上がる。
立ち上がってみる。

「冗談じゃねぇ。俺ちゃんはこれでも計算力はピカイチだ・・・。
 金に計算は付き物だからな。俺ちゃんは借金の膨れ方を3年先まで5秒で算出できる」

「そりゃぁめでたいな。それは俺にもできん」

「無駄な才能として円周率も50ケタまで暗記してる」

「無駄だな」

「だがつまり、俺ちゃんだって数字の凄さくらい分かる」

エドガイは、
アゴを突き上げるように、
立ち上がる。

「つまり、"たかが一万"だろ」

ヘラヘラと、
ヨロヨロと、
笑う。

「俺ちゃんの今回の給料知ってっか?これまた一生分遊べるような額頂いてる。
 まぁ部下共と分けちまえばそうでもないが、笑えるような額だ」

「亡者が」

「頂いちまってるんだよ」

ピアス付きの舌をペロリと出す。

「料金分は何が何でも働く。それが俺ちゃんなんでね。
 金さえもらえば俺ちゃんは何だってするし・・・・何だってできる」

そして、
エドガイは、
剣を構えた。
"構えた"
突き出すでなく、
銃のように構えるでなく、
剣士として、
その、
その持ち前の特殊なカスタムソードを、
脇に構えた。
居合いのような構えで。

「俺ちゃんの戦闘力はソロバンなんでね。今回はてめぇを殺す額をもらってる。
 なら何が何でも殺すし、絶対殺す。俺が金もらったからには、てめぇは死ぬしかねぇよ」

距離はある。
あるからこそ、
逆にケビンは警戒する。

"万が一を考えてこその万全"

それがモットーの策士家に油断はない。
構える意味があるのか?
剣士にとってこの距離は死活だ。

だがそれでも忘れてはいけない・・・というか忘れようがないのは、
エドガイの得意技。
パワーセイバー。
"遠距離型剣士"という異端さ。
遠距離に身を置くなど剣士の風上にもおけないが、
剣を使えば剣士なのでお門違い。
それ以前に戦争においてそれら全てがお門違い。

「この距離を吉と取るか凶と取るかだな」

遠距離型剣士に対し、
遠距離に身を置く。
それは凶なのか。
次に放ってくる技も遠距離攻撃に違いないからだ。
だからと言って近づくのが吉なのかと聞かれれば、
正体不明の技に向かうのも馬鹿というもの。

「様子見か」

遠距離型の剣士だとしても、
距離を置く事は吉だろう。
事実、
これまで避け続けているし、
遠距離に強くても距離が遠ければ遠いほど強いなんて技は存在しない。

万が一を考えれば考えるほど、
距離をとっておくのが吉。

「動かねぇんだな」

ピアス付きの舌をペロリと出すエドガイ。
剣を腰に構えたまま。

「それとも・・・か?ヘヘヘッ、」

「ふむ。この場合、貴様に敬意を称し、思惑通り・・・動けない・・・と評させてやる」

警戒すればするほど近づくわけにはいかないし、
だからといって遠距離型剣士に対して遠距離で油断するわけにもいかない。

「策士を手篭めたぁ、俺ちゃんいい気分ね♪」

「手篭め?足掻く男が手を口にするな。一手二手。三手を超えて、千手(せんじゅ)の道。
 頭で考えてこそ、手は動くんだ。まずはオツムなんだよ。手を出す前に手篭めとは言わない」

「言葉遊びが好きな事で」

エドガイが、
剣を握り締めたのが分かった。
軽口を叩きながらも、
その手に力を込めたのが。
ケビンは見逃さない。
油断はない。
警戒は消えない。
それが、
万全。
万を極めた万華鏡。

「じゃぁ、お仕事としますか」

・・・・。
分かった。
分かってしまった。

「なるほどな」

ケビンのオツムが勝った。
この遠距離。
遠い距離。
この距離で攻撃する姿勢を見せた時点。
だが、
パワーセイバーは見切っている。
見切りつくしている。
なのにここに来てパワーセイバー。
遠距離攻撃はそれしかないから。

そう見せて、

「逆」

この遠距離だからこそ、
近距離攻撃。

「・・・・・・サベージバッシュ」

聞こえないように呟いた。
"遠距離の近距離攻撃"
剣士にはそれがある。
居合いの構え。
間違いない。

瞬歩による遠距離近距離攻撃。

問題は、
それを思いついたのケビンが先だったか、
動いたエドガイが先だったか。

「俺ちゃんの財布の腹を肥やすために!腸(はらわた)でもブチまけちまいなっ!!」

否。

「臓に廃に愛にズキューン!」

握っている。
剣をだが、
剣であって剣ではない。
グリップ。
居合いの構えのまま、
トリガーに指をかけている。

「ここに来て正攻法かっ!?」

ケビンが構えた。
剣を、
守りの形に。
それに意味があったか?

エドガイは、
真横に剣を振り切った。
真横に。
水平に。
トリガーに指をかけたまま、
引き金を引いたまま、
剣を真横に振り切った。

「生命保険に入っとくんだったな!」

引き金を引いたまま真横に振り切られるアスタシャ。
ケビンの言う、
正攻法。
振り切るパワーセイバー。
剣撃。
風圧。
飛ぶ、斬撃!

しかもそれは、
トリガーを引かれた分、
剣を振り切った分、
具体的に言うと、

エドガイの前方180度全てに向け、
まるでこの空間を水平に切り裂くような、
全方位、
いや、
前方位を埋め尽くす一閃。

波紋のように広がる剣撃。
半円が広がり、

避ける場所がない。

見える範囲全てを切り裂く一振りの斬撃!

「くっ!」

想定外。
いや、
想定の範囲内だ。
ただ、
ケビンにとって、
一万通り考えた事象の中で、
最悪に近い攻撃が来ただけ。

「・・・・」

真横の一閃。
前も、
後も、
右も、
左も、

避ける場所がない。

なら、上か?
跳ぶか?

間に合わない。

「ならっ!!」

ケビンは、
真横一閃に、
真横一線に飛んでくる斬撃に、
剣を振り下ろす。

所詮、
それでも、
ケビン的に理論的に考えるならば、
それは斬撃に変わりない。

馬鹿広く、
馬鹿長いパワーセイバーに変わりない。

剣撃を剣撃で受けられない道理はない。

だから、
逆に立ち向かう。
振り落とす。

「ぐっ!!!」

だが、
だけど、
それは剣でなく、
斬撃。

固体でなく、
軌道。
気道。

波の一部を切り裂いても、
波は止まらないように、

ケビンの剣は真正面のパワーセイバーを消し飛ばしたが、
それでも一本の横に広い斬撃。
ケビンの左右、
両脇腹を切り裂いた。

「ありゃ、決め台詞のつもりで言ったんだけどねぇ。内臓に届かなかったか」

「・・・・皮と肉は十分に持っていかれた」

ケビンの両脇、
両腹は、
魚のエラの様に斬り込まれていた。
魔物の血が左右に飛んだ。

「だが不幸中の幸いを目指すのが策士・・・・最悪の中の最高と言うべきか」

不祥の事体でさえ、
最悪のリスクを避ける。
それが、
軍師、
策士。
致命傷は事実免れていた。
だが、

「全く、周りを気にして戦って欲しいものだ」

「・・・・てめぇが言うか?ツヴァイ」

ケビンのすぐ傍に、
漆黒の戦乙女。
最強なる二番手。
ツヴァイ=スペーディア=ハークスが立っていた。

「なっ!」

ケビンはすぐさま距離を取るように離れ、
剣とヨーヨーを構える。
だが、
余裕のような顔付きで、
ツヴァイはそこに立っていた。
いつの間に。
というか、

「貴様・・・三騎士の方はどうした」

「三騎士?あの二騎士の方か」

長い長い、
きめ細かい黒の中の黒の髪を靡かせながら、
黒いアメットをかぶった女帝は、
視線で指し示した。

「飽きた」

そこには、
片膝を付いているカプリコが二匹。

「三匹と二匹の違いは極端だ。単純にオレの腕は二本あるのだからな。
 許容の範囲内だった。三匹なら容量と要領のオーバーで危ないかもしれんけどな」

だからといって、
受けきるだけの腕があるからと言って、
二匹の剣、計二本を、
槍と盾、両手で受けきれる計算だからといって、
相手は、
相手はカプリコ三騎士のはず。

「戦いは算数だろ?」

エドガイが、
ケタケタと代わりに答えてやった。

「いや、二番手に勝てる者など一番手(兄上)しかいなかったというただの不等号の計算式だ」

コツッ、
コツッ、
と、
固い荒野の地面を、
黒き騎士が歩み寄る。

「・・・応!!」
「我らもまだ終わってはいないぞ」

「・・・・・カスが」

足を止め、
今一度振り向くツヴァイ。

「終わらせて欲しかったのか?」

その言葉には説得力がある。
説得力は雰囲気。
それだけで飲み込まれそうな気圧。

「オレは別にお前らを殺す事が目的でもないし、お前らにとってもそうだろう。
 ケリをつけてやっただけだ。すでにオレはわがままで戦える身分でもないからな」

カプリコ三騎士の利用価値。
それを考えていたのか、
どう考えても死闘にしかならないはずの戦いの中、
そんな余裕。
いや、

もうツヴァイは一人でないから、
独りよがりの考えを捨てただけ・・・・か。

「で、どうするカス」

ツヴァイは、
短に問いた。

「オレは貴様を殺す理由はあるが、殺さない理由もある。
 生かす利用価値もあれば、殺す価値がない事も分かる」

兄。
アインハルトにとって、
ケビンなど取って代わって置いただけの、捨て駒。
殺すも殺さないも同じ。
それは、
ケビンとて最初から重々分かっていた事だ。
重々分かっていたからこそ、
重荷にはならず、
自由で身軽な事は、
万の道を広げる結果にもなる。

「・・・・・」

正直。
分が悪い。
悪すぎる。
万の道があったとしても、
思考を巡らしたとしても、
このまま戦って、
ツヴァイ、
エドガイ、
カプリコ三騎士が二匹を同時に敵にして、
勝てる見込みは万に一つ。
万が一。
万華の彼方だ。

「・・・・・そうだな」

なら、
万全は、

「諦めよう」

いとも容易く、
ノカンの将軍は答えた。

「貴様の言った事の裏を返せば、そうまでして帝国として勝つ理由は俺にはない。
 俺に必要なのはノカン復興の道。それを考えれば"ここで負ける"という手もある」

負け。
否。
逃げる事。
退く事は負けではない。
死は八方塞。
だが、
生きれば道がある。
どれだけでも。

ケビンはヨーヨーをしまい、
その手で、人間が文化、
魔女が生み出しし人間の文化、
WISオーブを取り出した。

「出直そう」

そして目も見ずに、
人間の若者のようにダイヤルをアップするケビン。

「おっと、やけに潔いな」
「こちらとしては迷われるよりはマシだがな」

「迷うような陳腐な思考回路はしていないだけだ」

立ち向かう?
万が一に?
それは勇気でなく無謀。
この言葉は教訓としてケビンに刻み込まれている。
可能性でなく、
可能である事象にこそひれ伏すに値する。

誇り。

確かに重要事項だが、
失うよりは、
妥協する。

ここは、
退こう。

ケビンがWIS(通信)した先は、
その報告。
代理で臨時とはいえ、
世界が長、絶騎将軍(ジャガーノート)が報告する先など、
是が非でも一つ。

「俺だ」

それでもその者にはひれ伏さず、
対等で話しかけるケビン。

「戦争は終わり。終局だ。・・・俺は退くぞアインハルト」

それ、には、
ツヴァイは反応を隠せなかった。
アインハルト。
連絡先は、
アインハルト=ディアモンドハークス。

「どうせ俺は捨て駒だったのだろう。ならば問題ないはずだ。
 残っている魔物達を含め、離脱する。退却する」

魔物達を含め、
もう、
逃亡しか道は残されていない。
どうやっても、
立ち向かえば終わる。
命が費えるだけの終わった戦争。
退き際。
負けでなく退くと称せるのは今が最後だ。

もちろん、
もちろんだ。
アインハルトを前にして、
おめおめと帰っていくなんて馬鹿げた事の危険性は分かっている。
だからこそ、
道は作っておいた。

ピルゲン=ブラフォード。
漆黒紳士。

今どこに行ったか知らないが、
あいつを巻き込む事で、
それを可能にした。
最上に忠実なる僕(しもべ)。
あの参謀ピルゲンをこの戦争に巻き込む事によって、
"責任の緩和"

ケビン一人だけならば捨てられていただろう。
逃げる道など用意されなかっただろう。
だが、
ピルゲンもまとめてそうなるのは由ではないはずだ。
だからアレは、
責任に巻き込むという、
道連れという名の人質。
仲間という名の捕虜。

「異論はないな。人間の王。俺は帰る」

帰る。
まぁ、
アインハルトの下にまだ着くかは別の話としよう。
下地は揃った。

この戦争で、
現存する魔物達に自分という者を象徴することが出来た。
そして、
この荒野。
廃れたノカン村跡地。
ノカンの英雄達。
ノカンの家族達の亡骸の上で、

自分がまだ戦っているという誇りを見せることが出来た。

ここからは自分の戦いだ。
ノカン村の復興。
ピンクの意志。
桃園の誓い。

退却させる生き残った魔物達を使い、
利用し、
ここにもう一度・・・・・ノカン村を作る。
桃色(ノカン)の意志は、
白(生)と、赤(血)の狭間。

ここでの退却は終わりではない。
むしろ続き。
続きなのだ。

役目は真っ当した。
今回戦ったのは自分と同じ、捨て駒達。
失ったものは多いが、
得たものも多い。
続きだ。

道は繋がっている。
万華鏡へ。

色とりどりに輝く、
鏡の彼方へ。
万なる道。
万里が頂上。
鏡写しの万華鏡のように、

もとのノカン村をここに・・・・



[言っている意味が分からんな]


そこで、
初めて、
アインハルトからの返答が来た。
ケビンの意志と裏腹な答えが、
通信の向こうの最上から。































アインハルトは、
王座にて腰を据えていた。
ケビンからかかって来た通信。
それを取りながら、
あぁ、そういえばそうだったなといった具合に、
そういや馬鹿が戦って滅びているんだなと、
思い出すように、

王座にはアインハルト一人。
否、
横にはロゼという女性が一人。
孤高二人、
最強でなく、
完璧なる究極が一人と、
その傍らに、
究極を愛し、
究極に愛された女性が一人。

まぁ、
だから、
茶番とも言える通信に、
アインハルトは表情も変えずに返答する。


「"そのまま死ね"」

[なっ・・・・んだと・・・・]

動揺する通信先。
ケビン=ノカン。
だが、
カスの感情など知った事か。

「言ったとおりだ。わざわざ我にこんな玩具を通して口を煩わせるな」

[・・・・・貴様・・・・物事を考えてしゃべっているのか]

「それはお前の方だノカン将軍。"誰に口を聞いている"」

通信越しの、
その言葉にさえ、
気圧されたように、
少しケビンは黙った。

まるでそれらの言葉など絵空事のように、
傍らのロゼがアインハルトの胸へと手を這わせる。
アインハルトはそれを、
片手で弾いた。

「今日はゴミの日だったはずだ」

[・・・・何を言っている]

「捨てたゴミが帰ってくるなど聞いたこともない」

通信の向こうで、
メシリと、
音が鳴った。
通信は切れていないが、
別の何かが切れた音がした。

[貴様・・・・・・・てめぇ・・・]

「お前らは十分にヒマ潰しにはなった。どうでもいいんだよ。お前らがどうなろうとな。
 こちらは準備が整った。時間は消費。その消費期間がお前らだ。捨て駒だと分かっていたのだろう?
 余興だノカン将軍。奴らにとっての繋ぎ、我でなく、奴らにヒマ潰しを用意してやっただけだ。
 お前らの結果など・・・・・・・・・・・・・毛ほどに興味はない」

[・・・・・もっと理論的に考えられねぇのか]

「ふむ。理を論じたいか。なら少々だけ我の耳を汚す権利を与えよう」

[俺のことはどうでもいい・・・・俺はてめぇが似たような態度に出る事は分かっていたからな。
 だが・・・・残っている分を退かせる方がどう考えても有効だろうが。
 捨て駒だろうが持ち駒だろう。手駒もなしに貴様はどうするつもりだ。これは取引だ]

捨て駒。
持ち駒。
手駒。

人間部隊。
それは、
アレックスの策略。
99番街にて、
主要なる、
基幹なる者を一挙に壊滅させられた。

天使部隊。
それは、
ジャンヌダルキエルの失脚。
地上に住まう天使の長、
ジャンヌダルキエルと共に壊滅。

悪魔部隊。
わずかなるその部隊も、
今回の戦争にて、
飼い犬に噛まれる状況。
目には目を。
悪魔は堕落天使の手によって全滅。

そして魔物部隊。
今回の要で、
今回の大部分、
かつ、
帝国の残った大多数を占める部隊。
言うならば、
残りわずかな最後の駒とも言える。

それを、
捨て去るのか?

「我に捨てたゴミを拾う趣味はない」

その一言が全てを語っていた。
"いらないから捨てた"
それだけだった。

「論理的とかほざいたな。カスが。だが、思考を巡らす事自体が愚か。
 万策?数は多ければ多いほど底辺だ。頂点はいつも一つ。
 貴様は一万階層の下で惨めに愚かに勝手に死ね」

そして、
アインハルトは通信を切断した。
そのまま、
WISオーブを放り投げる。
放り捨てる。

「ふん」

笑いもせず、
鼻を鳴らし、
視線も動かさず、
アインハルトはその手を、
ロゼの顔の下へと伸ばす。

「もったいなかったか」

「・・・・何がですかアイン様・・・あの魔物の将軍がですか?」

「価値が無いから捨てたのだ。それに惰性はない」

「なら・・・何がもったいないのですか?」

「相手がカスすぎた」

中指を、
ロゼの首筋にそって滑らせる。

「歯応えと味があるから食事に意味はあるのだ。
 捨てたゴミ程度であいつらは半壊以下となったろう」

あまりにもったいないではないか。
世の中には楽しみが少ない。

「貴方が何を捨て去っても・・・貴方には私がおります・・・・」

「そうだな。"ゴミ拾いはお前の特権"だ」

そして、
アインハルトはその手で、
ロゼのアゴを掴み上げるように、
握りつぶすかのように力を込めた。
だがロゼは、
苦痛に顔をゆがめない。

「我の僕(しもべ)はお前一人でいい。駒は消費するから駒と言うのだからな」

後は、
余興がため、
消費し尽くせばいい。


































「・・・・・・・」

ケビンは、
WISオーブを握り締め、
そしてそのままオーブは割れた。
破片が亡き仲間の荒野に零れ落ちる。

「ここまで愚かだったか。人間の王・・・・」

得を掴もうともしない。
善を掴もうともしない。
考える事もなく、
結果は決まっている。

取捨選択などない、
全て捨てる。

知能の通用しない、
取引の通用しない、
絶対なる存在。

「会話と態度から察するに」

ツヴァイは声をかけた。

「まぁ、予想通りの返答が来たようだな」

予想通り。
誰もの予想通りだ。
だが、
理論尽くしのケビンにとっては、
有りえない返答だった。

続きがあるから道がある。
ゴミだろうが、
使えるなら拾うべきだ。
自ら首を絞める意味が分からない。

ただ、
それさえも必要ないという事なのか?

「最善を尽くさない男の、何が最上か」

「最上?最善?最強?最悪?最低?愚かな考えだ。ただ兄上は全ては最なだけ。
 全てを兼ね揃えている男に、理論など通用せんよ。何もかもが兄上にとって低級。
 失って痛いものなど何もなく、得るに値するものさえ無い。完璧で完全が究極と言うのだ」

それは自分も同じ。
兄の片割れでありながら、
何もかもが、
誰よりも秀でていながら、
何もかもが、
兄より劣っている。
自分にあって兄に無い者など根絶的に無い。
100%劣った存在。
いらない、
捨てられた存在。

アインハルト=ディアモンド=ハークスに、
必要なものなど何もない。

「んで、どうするわけ?」

肩の上で、
トントンッ、と剣を叩くエドガイ。

「俺ちゃん的には続行でも全然いいけどよぉ。
 この状況ならもの凄く楽にお仕事を終わらせれそーだし?
 でも雇い主の考え次第でどーとでも好きにしてちょーだいって感じ」

「・・・・・」

前に進む道はない。
ケビンにとって行き止まり。
生き止まり。
悪いが、
戦うなどという選択肢は無い。

「ふん。だからと言って逃げられると思うなよ?カスが。
 貴様には有りっ丈の情報を提供してもらいつつ、利用させてもらう。
 貴様の思想を考えるならば、こちらに巻き込むという手も無いわけではない」

・・・・。
裏切りか。
なるほど。
なるほど。
理に適っている。
この状況下におくならば、
アインハルトに捨てられた今に至るなら、
相手に下るほうが、
まだ、
断然にノカン復興の道はあるというものだ。
なるほど。
なるほど。

「馬鹿馬鹿しい」

ケビンは言い捨てた。

「俺達を捨てたという事は、アインハルトとてそれは百も、万も承知だろう。
 なのにそうなるなど、あいつの手の平の上の範囲内の行動すぎて馬鹿馬鹿しい」

「理論的にではなかったのか?」

「それこそ馬鹿馬鹿しい。俺はアインハルトの力を利用してノカン村復興を目指したが、
 この生涯にまだまだ失態がある事を学んだよ。利用できるものは全て利用するが、
 他人などという不確定要素に自らの夢を乗せるのは失敗だったという事だ」

剣を、
強く握る。

「種族の夢は、種族で手に入れなければならない」

「ならどうする」

「去る」

「それは出来ないと言うなら?」

「向かう」

万の道理。
考えつくしても、
その結果には至らないはずだ。
ただの自殺だ。

だが、
やはり、
誇りがあるというのは感情的というのだろう。
そういう事なのだろう。
結局、
究極的には、
誇りとは理屈抜きのものなのだ。

自分はあの愚かな人間の王とは違う。
あぁはなりたくない。
捨てたくない。
取り戻したい。

だから、
万全を捨てて、
万が一に挑む。

「すでに兵への権利さえ捨てられた。ノカンの仲間も死んだ。
 生き延びて進む道もあったが、俺の権利という権利を全て捨てられた。
 俺はこの戦争という場に置いて、一人、孤独にさせられたんだよ」

戻る事に、
行き場も、
生き場もない。

利用しようと、
ノカン村の、
己の夢に使おうとしていた道は、
策は、
全て、
"捨てるという行動で失われた"
あの絶対最悪。
あの許されたわがままの塊。
小さな感情で、
小さな命も、
小さな夢も、
全て紡ぎ取る気か。

この戦争の意味は?
死んだ奴の意志は?
個人個人の誇りは?

あいつには全部どうでもよく、
ケビンにとって重要な要素は、
あいつにとってはゴミ箱の中のどうでもいいこと。
興味のカケラもなければ、
ケビン自身への興味もない。

「なら、俺に残ったのは・・・この体と、夢、誇り。勇気と無謀は違う。
 だからこれは無謀だ。謀略がないから無謀。策士が策を捨てた時、そこの残るのは誇りだけ」

「なら俺達とやろうぜ」

そうして前に出たのは、
先ほどまで倒れていた、
カプリコ三騎士が、
アジェトロと、
フサム。

「因縁だろ」
「・・・・宿命だ」

「・・・そうだな。捨て置けない」

赤茶の剣を、
前へ突き出す。

「そう、俺は捨て置けないだけだ。結局のところそうなのだ。
 頭で考えても体は動いてしまう。1万の策があっても実行しなければ意味がない。
 この追い詰められた状況。否、追い詰められなくとも、もしかしたら・・・」

俺は・・・

「逃げなかったかもしれない。逃げれなかったかもしれない」

他のどこからなら、
そうしていただろう。
だが、

「ここは桃園。ピンクの誇り高きノカン村跡地だ。俺は逃げも隠れもしない。
 仲間達に不甲斐ないところは見せられない。・・・・・何もかも捨てられた。 
 捨てたものなど一つもないのに、何もかも捨てられた」

ノカン軍も。
ノカンの仲間も。
復興の夢も。
自分自身も。

「万の策を捨て、残る万が一は・・・結局のところ誇りなのだな。
 無謀、無策、無考。無心。感情のままに戦う。それだけか」

「それだけだ」
「そういうことだ」

「だが、その策が一番強いのかもしれない。今の俺にとって一番光が見える策だ。
 万の生きる道を捨て、初めて捨て、そして残ったこの策は・・・・万死に値する」

波乱万丈。
万場一致。
万の考えが、
一つにまとまった。

「やろうか。宿敵」

「決着をつけようか宿敵」
「・・・・ノカンとカプリコの宿命に」


「それは他でやっていただきたい」

水を差すように、
火に油を入れないように。
横から、

「終わったのでございます。さっさと終わって戴きたい」

それは、
今更になって、
今更になって表れた、
黒いハットの男。
ピルゲン。

「正直、ディアモンド様のお考えは分からない。この戦争が捨て駒ならば、
 この先、44部隊と53部隊。そして絶騎将軍(ジャガーノート)だけでどうするおつもりか。
 否、それだけで十分でもございますが、あまりに少数精鋭すぎる。お似合いにならない」

フワフワと、
ピルゲンを取り巻くように、
黒き刀。
8本。
攻撃力を殺傷力に変えた、
妖刀ホンアモリ。

「ですが、私はあの方のお考えのままに動くだけ。この戦争が終わって、貴方は用済み。
 ならばさっさと消えていただきたい。恐らく予定はおしております」

「ピルゲンか」

「なにかと考えても、お顔を合わすのはお久しぶりでございます。ツヴァイ殿」

礼儀正しく、
右手を折りたたんでお辞儀をするピルゲン。

「まぁ力添えもなく、参加もせず、なのに私が同行する意味は、つまりこうなのでしょう。
 後濁りはあの方にとって不愉快。さっさと掃除をしておけという事。
 ディアモンド様の興味の無い事を、世界で起こらしておくのがいささか良くはございません」

掃除。
後始末。

「・・・・めんどくせぇのが出てきたみてぇだな」

エドガイは顔をしかめる。

「だが料金外だ。俺ちゃんはやんなくていいよな?」
「いや、戦争参加者だから料金内だ」
「人使い荒いねぇ、雇い主さんは」

「お気になさらずとも」

ピルゲンはヒゲを弄りながら、
笑う。

「後始末をするならば、始末すべきはあのピンクの動物でございましょう?」

ピルゲンの狙いは、
後始末。
つまり、
ケビン=ノカン。

「お手をお貸しし、拝借するだけでございます」

ピルゲンの狙いは?
ツヴァイの狙いは?
エドガイの狙いは?
三騎士の狙いは?

「・・・・ふん」

覚悟の決まっているケビンは動揺のカケラもなかった。

「俺がこの生涯で置かれた中で、これほどの最悪は無かった。
 が、やってやる。やってやるさ。"逃げ道(選択肢)が無い事がこんなにも強い事とはな"」

常用的な意味で、
背水の陣。
退けないから立ち向かう。
迷いは・・・ない。

不確定要素に纏め上げられたこの状況。

これ以上の、
いや、
地面が、
地面が揺れた。

「・・・・・・・・・・ァ・・・・」

声が、
響いた。
そして、
それは、

「ドッゴラァァァァアアアアアアアアア!!!!」

地面を突き破って、
荒野を突き破って、
土の破片を撒き散らしながら飛び出した。

「・・・・・・フィ・・・・」

有りえないほど髪の逆立った、
獰猛な人間の野獣。
ギルヴァング=ギャラクティカが、
地面から出てきた。

「お?今度はちゃんとディグバンカーから出れたみてぇだな」

猛獣の目は、
辺りを見渡した。

「ん?」

そして、
牙を見せて笑った。

「メチャ面白そうなとこに出たな」

面白そう・・・か。
・・・面白そう。
面白くも無い。
今後に及んで。
今後に及んで。

終わった戦争なのに。
すでに終了した戦争なのに。
後始末だけなのに。

ここに来て・・・・。

「ま、状況は分かるぜ。頭でなく、心でな」

そう言い、
足音さえ聞こえそうな歩みで、
ケビンの前に立ち、
構えとも言えない構えを取る。
野獣。
猛獣。
ギルヴァング。

「遊びに来たんだ。このメンツ。楽しめそうじゃねぇか!!!血が燃え滾るぜ!!!」

ケビンを塞ぐように、
皆に立ちはだかるように、
迷いなく、
ギルヴァングは笑った。

ツヴァイ。
エドガイ。
アジェトロ。
フサム。

ケビン。
ギルヴァング。

最強から最強まで。
早々たるメンツが、
この場で向かい合う。

「おやおや、困ったものでございます」

黒いハットを抑えながら、
ピルゲンは頭を振った。

「私は終わりを早めてあげようと思っただけでございますのに」

「お?ピルゲンじゃねぇか」

「お気づきにもなられなかったのでございますか?全く。知性のカケラもない」

「ギャハハハ!・・・・で?てめぇは"なんでこっち向いてるんだ"?」

全く、
全くと、
ピルゲンは笑う。

「そこに居る獣(ノカン)は捨て駒なのですよ。それを掃除に来たのでございます。
 これが帝国の意志。お分かりになられましたか?ですからお退きに・・・・」

「ぉお?」

楽しそうな、
楽しそうなギルヴァングの顔は、
その時初めて、
ここ数ヶ月で初めて、
不愉快に歪んだ。

「なんだって?」

「ですから、始末なのですよ。ゴミ掃除でございます。そこのノカン将軍を始末します」

「おめぇよぉ・・・・・」

逆立つ猛獣は、
獣の威嚇。
その獰猛なる視線で、
ピルゲンを睨んだ。

「そりゃてめぇ・・・・漢じゃねぇな」

「・・・・・・・はぁ」

「メチャ漢じゃねぇよ。騒ぐ胸が歪むぜ。ウゼェよ"そーいうの"。俺様大っ嫌いだ。ざけんなっ!!!」

耳を貫くような声が、
辺りに響く。

「漢らしくねぇ!メチャ漢らしくねぇぜ!!俺様、メチャ嫌いなんだよそーいうのよぉおお!
 アインハルトとか関係ねぇ!それを今ここでヨシとして動こうとする感情が気に入らねぇ!!」

「・・・・はぁ・・・・いやはや・・・・」

ピルゲンは頭を悩ます。

「これだから野蛮な蛮人は・・・・」

何か分からないが、
何か、
ピルゲンとギルヴァング。
対立しているようだ。
置いてけぼりのように、
エドガイはポリポリと耳の上をかく。

「・・・・・んで、どうなるんだ?」



































「・・・・・・んで、どうするんだ?」
「どうするんだい?」
「どうするって言われましても・・・・」

物陰・・・といっても、
物陰などないこの荒野。
十分に、
十分すぎるほどに距離をとって、
そこからさらに怖がって遠い距離で、

4人は立ち尽くしていた。

「そんな事聞くならドジャーさんとエクスポさんが行けばいいじゃないですか・・・」
「ぼくいくー!」
「ロッキー。てめぇは黙ってろ。あんなぁ!なんだありゃ!
 化け物勢ぞろいじゃねぇか!聞いてねぇぞ!ふざけんなっ!」
「ボクはちょっと飛び込む勇気はないね」

そりゃぁそうだ。
ともかく、
アレックス、
ドジャー、
エクスポ、
ロッキー。
《MD》の4人は、
近づかず、
いや、
近づくにも近づけず、
こんな距離で見ていた。

「いやでも・・・なんか仲間割れ始まったみたいですし」
「仲間割れはよくないよ〜?ケンカはイイくないよ〜?」
「そう。まぁ僕達にとっては面白いですけど・・・」
「どうなるか分かったもんじゃないね」
「んで結論は?」

ドジャーが結果煎じと聞く。
んで結論。
そんなもん。
そんなもん聞くまでもない。

「どーしょーもないです」
「見てるしかないね」

だろうね。

「それでいいのかよ・・・」
「んじゃ混じってこればいいじゃないですか」
「俺が混じったって背景と同じだっての」
「でしょ」
「・・・・だな」
「んで僕に名案があります」

アレックスが指を立て、
笑う。
こういう名案は大したものじゃないだろう。

「なんか一段落ついた戦いが終わった位に、知らん顔して登場しましょう。
 そんで偉そうになんか説教を交えつつあの輪に混じりましょう」
「・・・・ほんと天才だなお前は」
「君は主人公とかになれないタイプだね・・・・」
「美味しい所だけもらえればいいです」
「ぼくも〜!おいしいところが食べたい〜〜!」

ロッキーがピョンピョンと跳ねている。
そんでまぁ、
様子見という事に決まるべくして決まったわけだが、

あの最強決定戦のようなメンツ。
それでも、
恐らく、
何事もなくすぐ終わるだろう。
間違いなく、
終わる。

あと数分といったところか。

なら、
ならば、



その終わりの後に残るのは・・・・。





















                 






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