「・・・・・・」 ルアス城一室。 基本的には人の立ち寄らない部屋。 ・・・・というより、 隠し部屋だ。 暗躍が仕事の彼らに用意された特別室であり、 それでいて、 ここ以外には用意されていないとも言える。 影は影らしく。 居場所はそこしかない。 「・・・・・・はぁ」 その部屋の隅。 そこでウサギの耳がタラリと垂れる。 だからと言って、 誰も近づかない。 仲間であるのに誰も近づかない。 近づいたら危険だからだ。 「なんだシドのつ。ハッキリしねぇ態度とりやがって」 車椅子がカラカラと揺れる。 燻(XO)は部屋の隅で落ち込むシドを見て、 煮え切らない態度が気に入らなかった。 沈む心などとうてい理解できないのだろう。 「燻(XO)隊長。ツバサの野郎が死んでショック受けてんだよあいつは」 「ざけんなド畜生が。俺らは殺すのが役目だ。なのに殺されたあいつが悪ぃ。 それ以外の心はいらねぇし、人殺しとしてのプライドってもんがねぇのかあいつは」 妖美な紫の唇を歪め、 妖美な紫の髪を揺らし、 燻(XO)は車椅子の上で怒りを表した。 「大体ツバサにトドメを刺したのはシド自身なんだろが。 ・・・・ったく。ハッキリしねぇ態度とりやがってド畜生が」 その通りだった。 原因としては、 イスカがツバサの腕を斬り飛ばしたせいなのだが、 直接手にかけたのはシドだった。 自らの手で、 自らの仲間をコマ切れにした。 「・・・・・」 全てを見ていたスザク。 眼帯に隠れた目。 そのもう一方の目はシドを見ていたが、 同情はしなかった。 燻(XO)のいうとおり、 "人殺しには人殺しのプライドがある" メソメソされて、 この53部隊の副部隊長を任せられるか。 「ま、分からんでもないがな」 スザクが嫁を求めるように、 シドは友を求める。 だから何もかも否定しようとはスザクは思わなかったが、 だがまぁその低落はいかんともしがたい。 「おいシド」 部屋の隅に、 隔離されたように蹲るウサ耳。 スザクは声をかける。 「燻(XO)隊長の言うとおりだ。メソメソしてんじゃねぇ。 てめぇは俺らの副部隊長だ。ツバサを殺したくらいなんだ。もっと殺すぐらいの気持ちでいやがれ」 「だってツバサが死んじまったんだぞ!」 シドの言葉。 呆れ、 その部屋に集まっていた53部隊の面々は声も漏らさない。 53部隊。 ジョーカーズ。 死を運ぶシシドウ。 人の死ぐらいで愚図愚図と・・・ そして・・・・ 最悪なのはそこではない。 シド。 シドの言葉。 「ツバサが死んでしまった」 その言葉だ。 シドは、 ツバサの死を嘆いているが、 "ツバサを殺したことに関しては無関心だ" 自分が殺したのに、 自分が殺した事に関してはまったく気にしていない。 シドは、 "殺人の罪悪感がない" 殺人とは、 常に当たり前のようにあるもので、 自分が殺したなどという事実は一切意味がない。 結論的に、 自分が手にかけようが、そいつが勝手に心臓発作で死のうが、 同じことなのだ。 シドは、 ツバサの死を落ち込むほど悲しんでいるが、 自分自身が殺した事に関しては、何一つ罪悪感がない。 悪気はない。 殺人は常に行っているくせに、 殺人に関する全ての感情が欠落した欠陥人間。 それがシド=シシドウだった。 「シドの坊やは甘々やねぇ。それがいつか命取りにならないか心配さ。 でもわっちはそんな坊やが可愛ゆうて大好きでありんす♪」 無理矢理使っているような、 ちょっと怪しい廓詞(くるわことば)の女性。 スラリと伸びた両手足。 長身に小顔。 くびれがハッキリ分かる腰まで、真っ直ぐ伸びるストレートヘア。 まるでモデルのようなプロポーションをした女性。 その長身のモデル体型に会った細長いチャイナドレスは、 彼女の大人っぽさを演出していた。 「うるせぇよジャック」 「あらスザク。初対面の時はわっちを嫁にしようとしてたくせにさ」 雀(すずめ)と書いてジャック。 孔雀を偲んでジャック。 スズメ(雀)よりジャク(雀)、ジャクよりジャック。 ジャック=シシドウ。 それが彼女の名前。 「ヒャッホイ・・・昔の話だ。てめぇの本性知ったら誰だって断るぜ」 「高嶺の花はそういうものでありんす♪そしてトゲの無い薔薇はないとしりゃんせ」 「何様だよあんた・・・」 「世界の男性のお口の恋人さね♪」 「・・・・興味ねぇ・・」 「ウブでありんすね♪」 「・・・・・」 「まぁわっちもあんたは好みじゃないさねぇ。堪忍しておくんなし♪」 「・・・・ケッ」 「わっちを手に入れたいならもっと精進しやんせ」 妖美な高い声。 なまったその言葉、 作られたその口調、 それらがイヤらしく響く。 「それにスザク」 ジャックは、 そのきめ細かな指を、 スザクのアゴに絡ませた。 「・・・・ッ・・・なんだよ」 「シドの坊やの事を気にしてるようだけど、自分の事を気にしやんせ」 「・・・どういうことだよ」 「わっち達53部隊っていうのは、暗躍、暗殺部隊でありんす。 人殺しとしてのプライドも確かに重要さね。 けど、本質はそこと違さね。そこを勘違いしないでおくんなし。 わっち達に一番重要なのは・・・・"殺すべき者を殺してるか"・・・それだけでありんす」 殺す事をどう思うかではない。 殺す事自体。 その事象事態が重要なのだ。 殺しを行う者がどんな感情で、どんな手法で・・・ そんなものは、最終的には必要ない。 殺すべき者の命を刈り取ったかどうか。 完全なる結果論。 それだけだ。 それが、 戦いではなく、殺しを仕事にしている者達に必要なもの。 「・・・・あんたは殺すべき者を殺したのかい?答えておくんなし」 スザクの目の前で、 ジャックの妖美で、真っ赤な唇が・・・ ルージュに染まった唇が笑みに歪んだ。 「・・・・44の奴を一匹始末したっての」 「一匹?やだね・・・・・一匹?・・・・・・・・・冗談はほどほどにしやんせ。 あんたとツバサ。二人で行って一匹殺しただけってのは割に合ってないと違いますえ?」 「・・・・ッ・・・んなもんシドだって!」 「話を変えないっでおくんなし。シドの坊やは命令が違うさぁね。 人殺しが殺さないで何ノコノコ帰ってきてんだい。笑えましえ。 殺すか殺されるかやない。殺すためだけにわっち達は存在してるんでありんすよ」 「・・・・クソッ!」 スザクはジャックを振り払う。 ジャックはフフッ・・・とルージュを濡らしながら、 怪しく笑った。 「ジャックの言うとおりだスザク」 「・・・・え・・・」 燻(XO)がニタニタと笑いながら言う。 「殺す。ただそれだけだ。仕事ってぇのはよぉ。つまり"それだけだ"。 ・・・・・いいか?てめぇに"次"はねぇぞ。"もしも次"オメオメと帰ってきたら・・・・ ウフフ・・・・どうなっちまうかな!ただじゃ済まさねぇよな俺!ヒヒ・・・ハハハハ!」 「そんな・・・隊長・・・」 「ヒャハハハハハ・・・・いやいや期待してまっとけって!罰は俺が用意しとくからよぉ! 何がいい?言わなくても分かってると思うが、俺は"死刑は嫌いだが私刑が大好きだ"」 燻(XO)が腐った愉悦の笑みを表す。 「そうだな・・・・おいスザク知ってるか?人間の骨の数は約200・・・平均で206本あるらしい。 だが個体差があるってのはハッキリしねぇな。てめぇでそれをテメェで確かめるってのどうだ? ウフフ・・・俺が確かめるように全部ポキポキ折ってやるよ。モチ!生かしたままな! おぉ!ついでに人間をどこまでコンパクトに出来るかもやってみるか!」 「・・・じょ・・・冗談でしょ・・・燻(XO)・・・・」 「あぁそういや、着脱しなくていい画期的な服を作ろうとも思ってたんだよな。 ヒヒ、素肌にそのまま縫いこむんだよ♪全身に針通してなぁ!ヒャハハ!痛そう! ・・・・あれ?それもうやったっけ?あぁやったわ。そいつ全身化膿して死んじまったんだった」 「・・・・隊長・・・そんな・・・・」 「いや、ケツの穴塞いじまうってのもいいな。それでパンパンになるまで食わせたら・・・ ヒヒ!どうなんのかなぁ人間!下半身破裂すんのかなぁ!見てみてぇなおい! いやいや、そういやディドと人間の子供作ってみたかったんだよな。 おいスザク。てめぇディドとヤってみたくね?ヤってみたいだろ?ヤらしてやるよ・・・・」 「・・・・隊長」 スザクは、 跪いた。 燻(XO)の車椅子の前に。 「何卒・・・・ご慈悲を・・・・」 「スザクちゃぁーん♪」 燻(XO)は見下し、 スザクにツバを吐き捨てた。 「・・・・仕事こなしてこればいいだけよ。それ以外にはねぇ。俺が怖ぇか?だが俺は善人だぜ♪ 次を用意してやってんだ。俺に感謝しろ。今回が赤点じゃないだけマシだったからこその慈悲だ。 赤点以上の仕事はしてくれたから、追試を用意してやったんだよ」 燻(XO)は、 部屋全体を見渡した。 「シド、ジャック。他の奴らも同じだ。赤点仕事するようならテメェらも"私刑"だ。 地下の俺のコレクションルームに転勤が決定する。まだ人生楽しみたいだろてめぇら? 自分で言うのも何だが、俺の私刑は悪趣味な拷問でしかねぇ。・・・ヒヒ。 豚のナニをコスったり、死ねない体でアヒアヒ言って暮らす毎日だ。 それがイヤなら仕事をこなせ!それさえすれば文句言わねぇ!労働は尊いなぁおい!!」 シドも、 スザクも、 ジャックも、 他の者達も、 もうすでに片手ほどしかいない53部隊の者達全員、 黙ってそれを聞いた。 選択肢はない。 そう、 産まれた時からだ。 シシドウとして生まれた時から、 ただ、 やるべき事を義務付けられてきた。 「まぁついでに、ここに居ねぇギルヴァングの話だとよぉ、 近いうち、ピルゲンのクソジジィと魔物軍団で戦争起こすんだとよ。 そりゃねぇよ。そりゃねぇよなド畜生。俺達がノケ者ってわけにいくかよ。 俺達も部外者として参加するぞ。スザク、ジャック。お前らは確定で行くからな」 「・・・はい」 「あい」 「あとジャック」 「あい」 ジャックは、 ボディラインに合ったドレスを折り畳み、 丁寧に頭を垂れた。 「てめぇのその、偽ものくせぇ廓詞(くるわことば)よぉ。ハッキリしねぇから嫌いだ。 どうにかなんねぇのか?使うならちゃんと使えよ。そういうのムシャクシャするんだよ」 「・・・・・これはわっちの独自語でありんす」 「あ、そなの。んじゃいいや。まぁてめぇにゃピッタリの言葉だしな。 廓・・・・つまり風俗出のてめぇなんかにゃよぉ。花魁(おいらん)淫乱大歓迎ってな。 ウフフ・・・てめぇみたいな変体・・・いや、"変態"を相手しようなんて客が居たとはねぇ。 ま、俺もその変体は大好きよ。仕事次第じゃ・・・てめぇも地下飼いになるからな」 「・・・・覚悟しやんす」 死は怖くない。 死は。 自分の死さえ。 もちろん、 相手の死も怖くない。 だからそういう意味でシドは失格だ。 だが関係ない。 仕事。 それをこなさなければ、 死より怖いものが待っている。 死など容易い。 死ねない事が怖い。 死。 何もかもの死。 死自体に恐怖はない。 生かされることが怖い。 だから、 53番目の者達は、 シシドウとして産まれた者達は、 死を始めるしかなかった。 S・O・A・D 〜System Of A Down〜 第8話 <<不可思議ほどの摩訶なる者達(Magicians&Devils&Monsters to the count over)>> 「俺のような魔物風情にこんないい部屋を与えるとはな。 魔物の地位が変わったのか。それとも弱肉強食の表れか。 ふん。違うだろうな。あいつにとってはどうでもいい事なんだろう」 魔物が済むには似つかわしくない、 ルアス城。 その与えられた部屋で、 ノカン将軍。 ケビン=ノカンは腰を下ろした。 「アインハルトとかいう人間。あいつは俺を"消耗品"としか考えていないだろう」 「その通りでございます」 その与えられた部屋の中、 闇が渦巻き、 黒尽くめの人間が現れた。 黒いハットを深くかぶり、 ヒゲを整える。 「・・・・ピルゲンとかいう人間か」 「おや。此度の戦。共に戦う仲間でございますよ。そんな口の利き方はないでございましょう」 「軍の大半は魔物(モンスター)だ。それを指揮するのも、指揮できるのも、この俺だ。 基本的にはあんたにも俺に従ってもらう。こんな"ノカン風情"にな」 「ふむ。まぁ張り切るのは好き好きでございましょう。 あなたが言ったとおり、あなたは消耗品でしかない。 デムピアスの代理品(オルタナティブ)。"代わりには代わりが利くもの"です」 「むかつく言葉だ」 「人語を扱う者に言われたくありませんな」 「共通言語を人語と捉えている人間の傲慢さが大嫌いだ俺は」 魔物。 人でなき者。 「確かに現段階、マイソシアの支配者は人間だ。一番力を持ち、一番分布している。 だが、だからといって好き放題していいと思っている人間が俺は大嫌いだ。 神にでもなったつもりか?神にも勝る傲慢さだ。世界を所有物と考えやがって。 "少数派"は全て家畜扱いか?うっとおしい。馬鹿にしやがって」 「その人間の下に付いているのはあなたでしょう?"ノカン風情"」 「俺を利用しようとしている。ならば俺も利用してやる。利害が一致しただけだ」 「それがすでに人間色に染まった考え方だと」 ピルゲンは怪しく笑う。 その表情が最悪なほどに憎らしい。 「大体、貴方は人間の武具を使用しておいて何を戯言ほざいているのです?」 その通り。 ケビンの武器。 それは・・・・赤茶の剣。 ブルトガング。 人間の武器だ。 「あるものは利用すればいい」 「そうでございますか」 「その笑い方が気に食わん。見下す目。見下す笑み。・・・・・・・・ふん。 だが全ては堪えておいてやる。私情は全て慎む。 俺はノカンの長。ノカンの将軍だ。ノカンの未来は俺にかかっている。 ノカンの未来のためならば、何もかもを投げ打ち、生きていこうと決めた」 ノカン。 ノカンという種族。 もともとはポピュラーな種族だった。 だが、 種族問題でよくカプリコ族と対立していた。 そしてノカンとカプリコの威信をかけたかけた戦い。 大戦。 その戦いは・・・・ 王国騎士団の手によって灰と帰した。 カプリコ砦、 ノカン村。 双方は炎の中に沈み、 多くの犠牲と共にマイソシアの地図からその名を消した。 カプリコ、 ノカン。 両種族共、 隠れ住むしかないほど数が激減し、 種族は存亡の危機に直面している。 「生き残った俺には・・・・義務がある。死んでいった者達を無駄にするわけにはいかない。 ブンスター、ジェイピス。そして弟のケント。奴らは戦って死んだ。 だから俺も戦わなければいけない。そして残った俺は・・・・・・・負けるわけにはいかない」 ノカンの誓い。 ノカンの夢。 ノカンの未来。 それを・・・将軍がためのマントに背負い、 土と血に塗れた赤茶のブルトガングにかける。 ノカン将軍。 ケビン=ノカン。 「言っておくぞ人間」 「ほぉ」 「ピンクの種族は消して消えない。ノカン村(桃園)は必ず復興させる。 今回の戦い。そして・・・お前ら帝国も俺達ノカンの未来の踏み台でしかない」 「この帝国を踏み台でございますか・・・」 「そうだ。桃色の未来は必ず来る」 「凄い自信があるようで」 「自信など関係ない。誇りだ。俺が背負っているものは一つの自信ではない。皆の誇り。 目指すべき未来ではない。到達しなければならない未来なのだ」 ピルゲンは笑う。 面白い魔物もいたものだ。 まるで、 まるで人間だ。 ケビンはそれを望んでいないようだが、 人間を拒み、 他を拒み、 自種族を愛するが故の思想は、 まるで人間のソレそのものだ。 散っていき、 いや、 捨てられていった王国騎士団の騎士達と同じ。 絶対の意思に捨てられそ誇り。 「いいでしょう」 「何がだ」 「私、ピルゲン=ブラフォード。そして悪魔部隊。それらの命運。貴殿に託しましょう。 もちろん楽しみのため、口は出させていただきますがね。 ノカン将軍よ。悪魔と魔物。2万の摩訶達を率いてごらんなさい」 「・・・・・ふん。企みの分かりやすい奴だ。そうやって俺ノせ、捨てやすいようにする」 「本当に貴方は頭がキレる。ですが、野蛮なる魔物と野獣。その2万。 しかも付け焼刃で集めた烏合の衆だ。それをたった一人でどう扱うつもりで?」 「ピルゲンだったな人間。アインハルトや敵にも言っておけ」 ケビンは、 そのピンクの長耳の下。 自分のコメカミに指を突きつける。 「戦はココだ」 ケビンはニッと笑った。 ノカン将軍は笑った。 「場所、地形、風、天候、数、量、密度、編成、質、武器、思考、状況そして頭脳。 戦とはその塊。俺がやってきたのは勝負ではない。幾多の"戦争"だ。 戦争は力ではない。戦術にて勝負は決する。10対1000でも俺は勝利を掴んでるやるよ。 質で負けるなら量を味方に。数で負けるなら地を味方に。どちらも勝るなら油断を殺す。 勝利とは徹底。裏をかいて勝率をあげる。なんなら裏をわざと見せ、裏の裏を用意する。 手持ちの材料で勝利を作る。それが・・・・・・・・・将軍だ」 「頼もしい限りでございますな」 「それと戦いの場所は決めてある」 「ほぉ」 「ヒマならその戦略に手を貸せ。相手を戦場に誘き寄せる必要がある。 どうにか相手に情報を漏らせ。今からお前も俺の指揮下なのだろう?」 「戦を任せると言っただけで、下につくとは言ってはいませんがね。 まぁですが、貴方の戦い見届けるため使われてやりましょう。その場所とは?」 「私念があってな。だがそれも、俺の思考さえも・・・・・・・戦の駒に過ぎんよ」 ピンクの種族。 ノカンの将軍。 ケビン=ノカン。 彼は赤茶の剣を腰に携え、 マントを背負い。 未来を作るため動き出す。 「ぬぐ・・・・」 ツヴァイはイライラしていた。 「貴様ら・・・カスのくせに・・・ふざけるなよ・・・・・」 美貌は歪み、 怒りと苛立ち。 そして焦り。 「おいおいツヴァイ。可愛い子ちゃんが台無しだぜ?」 「レディーには笑顔が一番だしな」 「そうだね。ボクもそれが美しいと思う」 「・・・・この・・・・」 「でも早くしてくんないかねぇ?」 「順番がつかえてるんだ」 「かれこれ10分は君の番なんだよ?」 「うるさいっ!!!」 ツヴァイは憤怒を露にし、 凄い形相で立ち上がった。 手に数枚のカードを握って。 「"8"を止めてるのは誰だ!スペードの8だ!クソ!卑怯だぞ!」 「卑怯っつっても」 「そーゆーゲームだしなぁ」 「見苦しいよそういうのは。美しくない」 エドガイ、 ジャスティン、 エクスポの3人は、 ツヴァイと共に並べられたトランプの周りを囲み、 同じようにトランプを手にしていた。 「うるさい!!オレは9を出したいんだ!これじゃぁ出せんだろう!!」 「だからそーゆーゲームなんだって」 「天下のツヴァイ様が見苦しいよ?ほんと」 「ほら、出せないなら言うことあるだろ?」 「・・・・・ぐっ・・・・貴様ら・・・・オレにパスと言えというのか・・・・」 「そーゆールールだから」 「パスが4回で負けと言ってただろう!」 「だなぁ」 「次4回目だね」 「でも出せないならしょうがないんじゃないかな?」 「・・・・・何を・・・クソォ・・・・・大体貴様ら!さっきからなんだ! オレがパスしたら全員同じようにパスパス言いおって! それじゃぁオレが出せないままパスが増えていくだけだろ!」 「そーゆーゲームだから」 「ってかバレバレすぎんだよツヴァイは・・・」 「ってかもう出せないんでしょ?んじゃさっさとパス4って言ってよ。潔さも美し・・・」 「言わんぞ!」 ツヴァイはむくれ、 腕を組んで座り込んだ。 「絶対言わん!自ら負けなど口にしてたまるか!」 「いや・・・でもツヴァイの番だから・・・」 「言わないと終わんないから・・・・」 「言わん!」 エドガイ、 ジャスティン、 エクスポの3人は呆れた。 これで何度目か。 ポーカーも、 大富豪も、 ダウトも、 何やってもツヴァイは負ける。 そして文句を言う。 だから分かりやすい7並べにしたのに、 それでもこれだ。 「あーもー分かった分かった」 「今回もノーカンでいいよ」 「ふん」 「てかもう辞めにしようぜ・・・・」 「そうだな・・・勝負つかないしな・・・ついてるのに・・・」 「でも変に負けず嫌いだからね・・・・」 「なぁ」 ツヴァイが言ってくる。 ほらきた。 別にゲームにしようだ。 エドガイとジャスティンとエクスポは、 延々とこれに付き合わされている。 まずほとんどカードゲームを知らないせいで、 そのたびルールを教え、 そしてツヴァイが負ける。 負けを認めない。 ノーカン。 無限ループだ。 「アレやろうアレだ」 「・・・・アレ?」 「神経衰弱だ」 「・・・・・・」 「それしか勝てないからなツヴァイは・・・・」 「今までやった中ではアレが一番面白かったぞ」 「そ、そうかぁ?」 「神経衰弱の面白さが分からんとは。カスめ」 さっき覚えてばっかのくせに。 まだ3回しかやったことないくせに。 「あぁーん?」 「何をやっておるのだお主ら」 「うちらが戦ってる間にトランプ?」 「いい身分ですね」 本拠地のプレハブ小屋の扉が開く音がすると、 アレックス、 ドジャー、 イスカ、 ツバメの4人が入ってきた。 「お?お帰り」 「怪我は治ったのかい?」 「大体な」 「ドジャーさんは怪我が多かったですからね。まだ完治じゃないでしょう」 「てめぇもだろ」 「僕は大丈夫です。一食とれば、怪我が一つ塞がります」 「どんな体質だ・・・」 「おー♪可愛い子ちゃん♪待ってたぜぇん」 エドガイがトランプを投げ捨て、 アレックスへと両手を広げてとびこむ。 凄い瞬発力だ。 だがアレックスは分かりきったようにそれを避ける。 ・・・・。 と思うと、 エドガイの方が一枚上手。 気付くとアレックスの肩に腕を回していた。 「あっちの可愛い子ちゃんは相手してくんねぇのよ♪俺ちゃん涙目♪ だーかーらー。俺ちゃんと遊ぼうっぜぇー♪」 「イヤですよ。ジャスティンさんならどうなってもいいですから僕から離れてください」 「おいアレックス君・・・」 「まぁまぁ。毎日同じもの食べるのも飽きるだろ?だから俺ちゃんと遊ぼうぜ!」 「僕は一週間35食カレーでも大丈夫な人間なので」 計算がおかしい。 アレックス的には間違っていないのだろうが。 「・・・・ダッリィ・・・・またやかましくなった・・・・・・・クソダリィ・・・・・」 ネオガブリエルは、 ソファーを占領し、 横たわって愚痴をこぼしていた。 それだけだった。 まるで家具だ。 「おぉマリナ殿!ここにおられたか!」 イスカはイスカで嬉しそうに走った。 奥にマリナが居たのだ。 マリナは全ては別事のようにギターをいじっていた。 「ん?あぁお帰り。あっちょっとそんな近寄らないでよ!」 「会いたかったぞマリナ殿!」 「そりゃどうも・・・わたしはぼちぼちよ・・・」 「マリナ殿!拙者が離れている間に危険はなかったか!?」 「・・・・全然。むしろ平和だったわ・・・」 「それはよかった!だがこれからは拙者が守る! ぬっ・・・どこかにマリナ殿に害する者がおらんか・・・」 「目の前にいるわ・・・」 「なぬ!?どこに!?」 「・・・・・・いや・・・もうちょっと離れて静かにしててイスカ・・・・」 「・・・・?・・・・・そうか」 イスカは気が高ぶっているようだ。 まるで最愛の人にめぐり合ったかのように。 いやその通りなのだが、 そのテンションがマリナには大変だった。 「相変わらずだねぇイスカ嬢は・・・・シシドウの問題やらはお呼びじゃないってねぇ・・・」 「ってかマリナさんなんでここにいるんですか?お店は?」 「それがねー・・・きいてよもう・・・」 マリナはギターを置き、 おばさん臭く話しだした。 そんな事を口に出したら命が無くなるが。 「やっぱ久しぶりのお店でしょう?仕入れ先がほとんど全滅でねぇー・・・。 コーヒーとお酒と普通食くらいしかメニュー出来ないのよ・・・ んでウォーキートォーキーマンに今現在の仕入れ情報もらってるってわけ・・・。 お店が出来たもんじゃなくてね・・・・とりあえず2・3日は休業よ・・・・」 「あらら」 「まぁ仕入れがなきゃすぐ材料も切れるわな・・・」 「そうなのよ。やんなっちゃうわ・・・・あ、ツヴァイ。お茶入れて」 「うむ」 当たり前のようにツヴァイがお茶を入れる。 なんだ? いつの間にツヴァイを躾けた。 こーいうところがマリナの怖いところだ。 「あ、ねぇーちゃん俺もー・・・よろしくー・・・・」 「天使。先に貴様はそのヤニ臭い体をどうにかしろ」 「そのうちねー・・・」 違う意味の堕天使だな。 「ってか普通そういう仕事してるOL3人組はどこいったんだよ」 「そういえばルエンさん達いませんね」 「仕事だよアレックス君。ドジャー」 「フフッ、彼女らはちゃんと仕事してるんだ。しっかりした女性ってのは美しいものだね。 君達も彼女らを見習ったらどうだい?美しさは普段の行動に出るものさ」 「トランプ持ってる奴に言われたくねぇな」 エクスポは自分の手元を見て、 そして笑顔で両手を広げた。 反応の意味が分からん。 「ちょっとちょっとー」 「お、」 「噂をすればだな」 プレハブ小屋を開け、 女が三人。 ルエン、 マリ、 スシア。 OL、ロイヤル三姉妹。 「あんたら何やってんのよー」 「変なのがうろついてるって苦情きたんだけど」 「変なの?」 「アッちゃんいたーーーー!!」 あぁ、 変なのか。 「撒けませんでしたか」 「うまいぐあいに置いてけぼりにしたと思ったけどな」 「なんだなんだ?可愛い子ちゃんには俺ちゃん以外に彼氏がいたのか?」 「僕に彼氏は一切いません」 「男にモテるなお前はほんと」 言わないで欲しい。 「でもまぁ揃ったようだな」 「あぁ」 そう切り出したのは、 ツヴァイとジャスティンだった。 なにやら改まった物言いだ。 「主要な人間が大体揃ったところで話だ。次のだな」 ジャスティンが説明を始める。 メンバーが揃うのを待っていたのか。 まぁ確かに、 すでに所狭しと集まった。 このプレハブにスペースがないほどにだ。 《MD》のメンバー。 アレックス。 ドジャー。 エクスポ。 ジャスティン。 イスカ。 マリナ。 《昇竜会》マスター。 ツバメ。 傭兵《ドライブ・スルー・ワーカーズ》隊長。 エドガイ。 天使ネオ=ガブリエルと、 天使?ダニエル。 事務員、 ルエン、 マリ、 スシア。 そしてツヴァイ。 基本的には主要メンバーが全員揃った形になる。 「次の戦いだ」 ジャスティンが片手で書類をテーブルに広げた。 左手は骨折が直らず、 まだギプスを吊っていた。 「次?」 「なんか目ぼしい狙いでもあんのか?」 「いや、また向こうからだ」 ジャスティンは広げた書類の一つを手に取り、 皆に見せるでもなく目を通し、話す。 「ミルウォーキーに頼んで仕入れた情報だ。・・・・といっても胡散臭さが滲み出てる。 わざと漏らしたような情報だ。まるで宣戦布告だな」 「ほぉ」 「今度はなんだ?」 「また53部隊ですか?」 「いや、今度は本気だ」 ジャスティンは深刻な面構えで切り出す。 「魔物を中心とした軍。そう、軍と呼んでも差し支えないほどの数。 それらをぶつけてくるつもりのようだ。その数・・・・2万」 「に・・・」 「2万!?」 「モンスターが2万匹って事かい?」 「そういう事だね。魔物というのは現段階、帝国側の主力だ。用意出来たところで不思議じゃないさ」 「だが魔物といってもいろいろといるだろう?」 「だね。もちろんモスやディドなんて片手で倒せるモンスターもいるだろうさ。 だけど一年前のミルレスを覚えているかい?あの時にいたようなのはバンバンいるだろうさ。 フランゲリオンやドロイカン。ティラノやデス系。一般人なら逃げ出すようなのも間違いなく・・・」 「そりゃそうでしょうね」 「難儀しそうだな」 「んで?こっちは?」 「まぁ・・・・」 ルエンが横から書類の一枚を手に取り、 話す。 「このコロニーにいる人間。そして地上にいる人間。 それらを全て含めて・・・捻りに捻り出せば・・・・・1万ってとこね」 「倍か」 「こっちは全軍でそれか」 「単純に倍の戦力とも言えないでしょう。先ほどジャスティンさんが言ったように、 相手は魔物。弱いものも強いものもいる。ですが総力をあげてくるという時点で・・・・」 「生半可な魔物は用意しないだろうねぇ」 「今回の戦いがボク達だけじゃない。こちらの一般兵一人一人の意味が重要になってくる。 ボクらはともかく、そこらのギルドの一般員がタイマンで強力なモンスターと戦えるかってなると・・・」 「単純に戦力は3倍程度向こうが上と思った方がいいだろな」 「カッ、気にするな」 ドジャーは鼻で笑う。 「物語ってぇのは不利な方が勝つように出来てるもんだ」 「物語ならね」 「ハッキリ言って真正面からぶつかれば勝ち目はないです」 「それに向こうは魔物。失っても他があるが、こっちは全軍だ。勝つだけじゃ意味ないのさ」 「ハッキリしているな」 「戦力を削るのが目的か」 「どんな戦いをしても半数以上の犠牲は出るだろうね」 「幸いの幸い。奇跡のような戦い方が現実に起こったとしてね」 「だが勝つのはオレ達だ」 ツヴァイが言う。 彼女が言うと自信になる。 本当にそうなんじゃないかと・・・。 「魔物(カス)風情に負けていて兄上に勝てると思うか」 「ごもっとも」 「ですけど」 アレックスが切り出す。 「何故戦わなくちゃいけないんですか?この本拠地がバレたんですか? そうでもない限り、向こうの戦力にわざわざぶつかりに行く必要はないでしょう?」 「出た。なまけ者」 「だってそうじゃないですか」 「まぁそうだな」 「わざわざ勝ち目の薄い戦いにマゾの如くぶつかる必要はないな」 「だがそうもいかないんだ。これを見てくれ」 ジャスティンが、 書類に埋もれていた一枚の大型の紙。 それは地図。 マイソシアのマップ。 テーブルの上に広がるそれに、 指を這わせる。 「ルアス城はここだろ?」 「言わんくても分かる」 「ナメてるのか?」 イスカは全然分からなかったが、 黙っていた。 「まぁ聞いてくれ。それで俺達の本拠地がココだ」 ジャスティンが指をさした場所。 森の中。 なんとも言えない場所だ。 「目印もなんもないな」 「だからこその隠れ家だからな」 「ま、スオミダンジョンの一部だからスオミよりだが、 ルアスの森やミルレスの森の鼻の先っていう森の中の森。その地下がここだ」 「まぁ普通なら分からないねぇ」 「だが奴らの進攻予定ルートはこうだ」 ジャスティンが、 ルアス城から指を這わせていく。 それは森を経由し・・・・ 「・・・・・・」 「確かに」 「そのルートで攻めてきたらこの本拠地付近を通過するな」 「ここがバレたって事?」 「いや、情報漏えいに関しては徹底したはずだが」 「だけど実際にバレているかのようなルートを通ろうとしている」 「確かに野放しにしたら本拠地が襲撃される危険性がありますね」 「ふむ・・・いや、あまり拙者はこういうのは苦手なのだが・・・」 イスカがそれでも言いたげで、 意見を発した。 「それで拙者らが食い止めにいったら、まるで炙り出された形ではないか?」 「カッ、確かにな。パンパカパン。ここが本拠地でした!ってバラすようなもんだな」 「だけど放っておくわけにはいかないんでしょ?」 「まぁな。少なくとも大体の位置の目星はつけられているんだろう」 「だからこそ行く」 ツヴァイが堂々と言った。 その言葉。 それに対し、ジャスティンがため息を漏らした。 「いや・・ね。この情報が来たときツヴァイと話したんだ」 「・・・・って言うと?」 「限界なんだよ。どうやってもね」 ため息は尽きない。 「今話してた通り、出て行こうが行かまいが、本拠地がバレる危機。それが今回だ。 ただ、まだバレると決まったわけじゃない。このまま黙っていても、 奴らの軍は素通りするかもしれないし、出て行っても食い止めることが出来るかもしれない」 「なら出て行く」 「別にそれはいいんじゃないかい?」 「やるしかない時というのはあるだろう。倒さねばならん相手なのだから」 「そう。だけど出て行くって時点。迎え撃つって時点。それは"限界"なわけだ」 アレックスが、 なるほどと頷く。 「全軍を出さなければ迎え撃てない。だけど、全軍を出すという事は・・・・」 「・・・・チッ・・・」 「つまり情報が駄々漏れってことか」 「そういうこと。主要メンバー以外は基本的に出入り禁止していた。 もしスパイが入りこもうともここから出さない。それくらい徹底していた。 だが今回全軍が出るという事はそれが全てチャラになるという事だ」 「篭っていた情報が出て行く」 「スパイがいるならばそれを解放する形になる」 「意思ある仲間達だと信じるけどね。敵の尋問にゲロしちゃう人もいるだろうね」 「つまり今回の戦いは間違いなくこの場所がバレる結果になるんだ」 「だが行く」 ツヴァイが言う。 なるほど。 ジャスティンがため息をつく理由も分かる。 「詰んだ形だな」 「本拠地がバレ、その上戦いで戦力を削られる」 「その前に勝てる可能性も少ないんだけどねぇ。全滅の可能性が7割強ってとこかい」 「やられたな」 「いつか行かねばならん事だったのだ。だから行く」 ツヴァイが言う。 繰り返すように。 「どうせその内バレる結果にはなっていた。そして総力で攻めなければならなかった。 ならばこれがその時だ。この戦いで始まる。"最終が始まる"という事だ。決意を固めろ」 そう、 ここに集ったからには、 帝国を消すと決めたからには、 いつかやらなければいけなかった。 いつか戦いにいかなければならなかった。 だが、 それが今なんだ。 目先の戦いに勝ち、 そして、 逃げも隠れもしない。 逃げも隠れもできない。 そして・・・帝国へ。 「思ったより早かったな」 「早すぎであり遅すぎだ」 「戦力をもっと集いたくとも、そうはいかない。増えても減る」 「逆に言えば今が旬かもね」 「あぁ。相手も天使部隊を失っていて、アレックス君の策略で人間部隊の兵力は削れている。 再び向こうに戦力を整えさせる時間を与えるよりも、魔物だけが要になっている今叩くべきだ」 「そう。時は来たんだ」 ツヴァイの言葉は重かった。 「此度の戦いに勝ち、そして・・・間もおかず、ルアス城へと乗り込むぞ」 ハッキリと言葉になれば、 それは重かった。 それで・・・終わる。 どんな結果になろうとも、 それで終わる。 何もかも終わってしまうかもしれなし、 終わらせることが出来るかもしれない。 最終が見える。 恐怖と希望。 それはあまりにも重い。 「ま、いい提案なんじゃね?」 と、 その空気の中、 気軽に言ったのはエドガイだった。 「いやさ、あんたらには大事かもしんないけどね。俺ちゃんは結局雇われだかんね。 どうなろうと知ったこっちゃない。だけどここに監禁されてるようなもんだっからよぉ。 仕事とれなかったんだ。それがフリーになるってのはいい事いい事♪ で、つまり今回はお仕事もらえるんしょ?ならそりゃぁすっげぇいい話だ」 「あぁ、今回は報酬弾んでやる。もう財産ケチる段階じゃない」 「根こそぎ全力使い切らなきゃ帝国には勝てないしな」 「・・・・いやいや、だが金は金だぜ?それは一つのれっきとした力だ。 こんな傭兵野郎。《ドライブ・スルー・ワーカーズ》だっけか? それにまた大金はたく気かよ。こいつら数にすりゃ十数人なんだぞ」 「たしかにな」 「数億・・・いやもっと多額のグロッドを使う事になるのに、十数・・・」 「2万の前には消費税分の人数だな」 「いや、必要だ」 ツヴァイが言う。 「オレが言うからには間違いない」 「さっすがツヴァイ♪俺ちゃんらを分かってらっしゃる。 いいかレディサジェノメン?俺達はな、このキチガイみたいな強さを持つお嬢ちゃん。 ツヴァイ=スペーディア=ハークスを十数人で追い詰めたんだぜ?お忘れ?」 言われてみればそうだ。 彼ら《ドライブ・スルー・ワーカーズ》という傭兵集団は、 エドガイを含め、 その力でツヴァイさえも押さえつけた。 絶対的存在アインハルトのたった一つの分身を。 それは言い換えると・・・・ 団体でならば絶騎将軍(ジャガーノート)さえ超えうる力かもしれない。 「ま、俺ちゃん一人でもツヴァイに負けるたぁ思わないけどな♪」 「それはない」 「・・・・冗談だよ。怒んなって!可愛い子ちゃんが台無しだぜ?」 軽い男だ。 こんな男。 そしてこんな男が引き連れる集団が、 それほどのものとは今でも信じにくい。 「カッ、確かにお前らの力は信用してやんよ」 「そりゃ俺ちゃん大歓喜♪仕事のデカさはそーゆーところで決まるからな♪」 エドガイは、 指を銃に見立て、 笑顔でドジャーに向けた。 「地獄の沙汰も金次第♪逆に言やぁ金次第でなんだってしてやるよ。 人殺しから強盗強姦♪世界征服のお手伝いから家事洗濯。あっちのお世話までな♪」 「寄るなって」 ジャスティンはエドガイを払いのける。 「つれないねぇ♪」と笑いながら、 冗談交じりにいうエドガイ。 この男はどこまでが本気か分からない。 「ま、セールスしとくな。44部隊ぐらいならうちの奴を2人・・・じゃキツいか3人だな。 3人づつ付ければそれで押さえられるぜ。あいつらザコだと思ってんだろ?違うんだな♪」 エドガイは、 そうして顔の右側に覆いかぶさるように垂れる前髪の下を見せる。 ピアスだらけのその表情。 その前髪に隠れた右ほほ。 そこには"D・T・W" 《ドライブ・スルー・ワーカーズ》のイニシャルをとった文字と、 バーコード。 「このバーコードが体に付いてりゃそりゃぁ最強の傭兵の証だ。 そしてこのバーコードは"自分の命も金クズ同然"って証でもある。 世の中金だ。俺ちゃん達ぁ金のためなら喜んで命も捨てる割とクズの集まりだ。 1か月分の食費のために死んだ馬鹿もいる。俺ちゃん達はそういう奴らなんだ」 そしてエドガイは、 片手の指で輪を作った。 「世の中小銭だよ。『ペニーワイズ(小銭稼ぎ)』のエドガイちゃんが断言する。 さぁ。まず100グロッド投入しな。それで俺ちゃんらは動きだす。 金・銀・銅のコインが俺達のエンジンだ。燃費は悪ぃが底なしってな。 運命はコインのようたぁよく言ったもんだ。意味は違うけどな」 だがその通り。 コインを投げる。 運命をそれだけで動かす。 彼らの行動理由は金だけ。 100グロッドのために火に飛び込み、 1000グロッドのために血を流す。 コインに裏も表もない。 それはただの金でしかない。 ただ金額に比例して、 どこまでも、 なにまでも、 どんなことでもやってやる。 命知らずの、 死にたがり。 傭兵部隊《ドライブ・スルー・ワーカーズ》 「まぁエドガイさんは数少ない黄金世代の生き残りですもんね」 「てめぇの親父たぁよくケンカしたっての。ま、あの頃の人間も、 アインにツヴァイ。俺ちゃんにロウマ。んでギルヴァング・・・・ってあぁ。燻(XO)もか。 あいつ惜しいよなぁー、可愛い子ちゃんたぁ言えねぇが綺麗な顔してんのによぉ」 「それ聞くとその黄金世代のメンバーってのは凄いメンツだな」 「全て絶騎将軍(ジャガーノート)以上だしね」 「まぁむしろそれぐらいの実力じゃなきゃアインハルトが生かしてないだけだろうけどな」 「エドガイが使える事は分かった。それより先の話をしようぜ」 まぁその通りだ。 「とにかく、まず何より目先の戦いだ。それに勝たなければどうしようもない。 魔物と悪魔の混合軍。2万。そっちの話をもっと具体的にしようじゃないか」 こういう話しを仕切るのは、 決まってジャスティン。 それには誰も違和感がない。 必要な立ち居地の人間だった。 「そうですね。そういえば悪魔も混じってるって事は悪魔部隊。 つまりピルゲンさんも出てくるって事ですか?」 「そうなる」 「やっかいだな」 「前に対峙した時は手も足も出なかったしな」 「ロウマさんほどの重圧はないのに、得体の知れないものがありますからね」 「それこそツヴァイと美しい自己紹介してくれたエドガイの出番じゃないかな?」 「だな」 「少なくともその二人係なら期待できるわね」 「ふん」 「金さえ弾んでくれりゃぁな」 「相手が絶騎将軍(ジャガーノート)1人ならそれでいけるな。 ピルゲンの事だから倒しきれるたぁ思わないが、押さえることは出来るかもしれねぇ」 「あれ?ですけど魔物は・・・」 アレックスは思いだしたように言う。 「そうですよ。魔物。2万もの魔物。それを指揮できる人間がいるんですか? いや、少なくとも人間には無理だと思います。デムピアスさんの引き込みに失敗してるんです。 2万もの魔物を指揮できる器。・・・それこそ魔物のカリスマ。そんな者が・・・・」 「ケビン=ノカンという名前が表記されていた」 ジャスティンが書類の一枚を前に出す。 「ミルウォーキーが調べた情報は少ないが、どうやらノカン軍の将軍だった者らしい。 カプリコ三騎士と対峙して生き残る実力者。そして魔物にして戦略家らしい」 「軍師・・・というとこだな」 「数、質、そして戦略。向こうには全て揃ってるわけですね」 「でもノカンってほとんど昔の王国騎士団の一斉討伐で潰れたんじゃないのかい?」 「その辺はダニーに聞いた方が早いかもしれません」 「ん?」 ボケェーっとしたツラで、 ダニエルが振り返った。 え?呼んだ? みたいな顔で。 「え?呼んだ?」 まさになようだ。 「お前・・・・」 「この場に居て全く話し聞いてなかったのか・・・」 「いや、よぉ分からんかったし。何?俺関係あんの?」 「ダニー。ダニーはノカン・カプリコ討伐に参加してましたよね」 「あーあーあーあー」 ダニエルは思い出したような仕草。 そしてその顔は笑みに変わる。 「ありゃぁ気持ち良かったなぁ♪・・・・ヒャハハ!思い出すだけでおっ立つぜ! そーそー、ノカン村とカプリコ砦の焼却♪その中心で動いたのは俺だ♪」 「・・・・なんでも燃やしてるなてめぇは」 「いやぁー、怒られたけどなぁ♪我慢できなくて着くなり燃やしちゃったのよ♪ ヒャハハハ!でも快感だったぜありゃぁ!カプリコもノカンもいい声出してたぜ! 言葉通じるからいいよな!ヒャハハ・・・ハハハハハ!魔物が俺に「悪魔っ!」だってよ!」 放火魔は、 嬉しそうに放火自慢。 やはり最低な奴だ。 本当に人のして腐っている。 「でもまぁもちろん俺だけで燃やしたわけじゃねぇし、全部燃やせたわけじゃねぇからな。 燃やし尽くせなかったのは心残りだぜ・・・・・砦と村はサラッと焼き尽くしたけど♪」 「クズだな」 「カスだ」 「まぁまぁ。俺は命令でやったんだから♪趣味とかぶってただけでよぉ♪」 「そりゃカプリコ三騎士に恨まれても当然だっての・・・」 「だが、それはつまりそのノカンからも恨みがあるということではないか?」 「そりゃそうだな」 「オトリ決定」 「オトリに使えるな」 「オトリだなこりゃ」 「ヒャハハハハ!オトリオトリ!!」 よくわかってないように、 ダニエルは嬉しそうに叫んでいた。 「まぁ、少なくともだ。相手に少数とはいえ悪魔の部隊が居るんだ。 神族・・・と言われているダニエルと、ネオ=ガブリエルはある種のキーパーソンだ」 「向こうが飛行タイプだとやっかいですしね」 「・・・・・んで、聞いてるのかこいつは」 ドジャーがソファーの上を見る。 寝転がっているネオ=ガブリエル。 ・・・・。 絶対聞いてない。 タバコふかしながらそっぽ向いている。 あぁ・・ ソファーの上に灰を落とすな。 「おい!ガブリエル!」 「ガブちゃんさぁーん」 「・・・・・ダリィ」 「って事は聞いてたんだな」 「・・・・・聞いてねぇよ・・・メンドくせぇ・・・・・」 「聞いてたんだねぇ」 「聞いてたみたいね」 「・・・・・クソダリィ・・・誰がそんなもん手伝うかよ・・・俺は平和が一番好きなの。 なんてったって平和の象徴天使様だからよぉー・・・・暴力反対なんよな・・・・」 「平和の象徴であるハト様。生きたいなら動け」 「平和のために手伝ってください」 「地上にしか居場所ないんだろ?なら美しく安らげる場所はそのうちなくなっちゃうんだよ?」 「いーっていーって・・・人間80年ってなぁ・・・100年後には今生きてる人間誰もいねぇんだぜ? ・・・・・俺は待つよー・・・石の上には3世紀ってなぁ・・・・我慢できる子だから俺は・・・・」 「・・・・こっちはこっちでクズだな・・・」 「カスだ」 「まぁどうにか動いてもらいたいとこですね。実力は折り紙つきなので」 「こいつうざったいわね」 そう言ったのはマリナだった。 「こーいう奴見てるとシバきたくなるのよ」 「・・・・怒らないほーがいいよー・・・ダリィし・・・・・小じわが増えるよー・・・・」 あぁ。 やっちゃった。 油に爆弾を放り込んだ。 蜂の巣に爆弾を投げ込んだ。 爆弾に爆弾を投げ込んだ。 女王蜂様の顔が閻魔様のようだ。 「ちょっと来なさい」 「お?・・・なにー?」 マリナがネオガブリエルの手を引っ張る。 ガブリエルはソファーから落っこちる。 が、 抵抗もせず、 タバコを吸いながら地面を引きづられる。 「イスカ。剣持ってついてきなさい」 「承知」 「エクスポ。爆弾あるだけ貸して」 「いいけど・・・」 「OL三人組。それぞれ線香と棺桶と葬式の準備」 「「「・・・・らじゃ」」」 「その胸に刻んである刺青と同じ墓に突っ込んであげるわ」 そして、 マリナに引きずられ、 ネオガブリエルは外へと連れ出された。 それにイスカがついていく。 ・・・・・。 遅れて悲鳴が聞こえた。 「・・・・・ほっといていいんですか?」 「止める勇気があるならな」 「なんかボクの爆弾の爆発音が聞こえるんだけど・・・」 「俺には聞き流す勇気しかないな」 「今、マシンガンの音が聞こえたねぇ・・・」 「念仏ぐらいは唱えてやろうぜ」 「エグい可愛い子ちゃんも居たもんだ・・・・」 「天使が女神に処刑されてるだけだ」 「ヒャハハ!俺も参加しにいっていい?」 「お前は座ってろ」 とりあえずは放っておこう。 止めることもできないだろう。 巻き添えだけがゴメンだ。 そう思っていると、 ドアが開いた。 「マリナ殿が、もう少しかかるから先話しててくれと申しておる」 皆は顔を見合し、 とりあえず頷いておいた。 イスカが「そうか」と了承すると、 またドアが閉まり、 外でスプラッターな音が再開された。 「あぁ・・・・んで、話しを続けよう・・・」 少しどもりながらジャスティンが続ける。 「とりあえず編成だ」 「編成っつっても全軍で行くんだろ?」 「あぁ、一部を除いてな」 「一部?」 ジャスティンの視線は、 ツバメへと動いた。 「《昇竜会》。ツバメ達に関しては残ってもらう」 「・・・・・」 ツバメは返事をしなかった。 その代わり、 他の者が代わりに聞いた。 「《昇竜会》をですか?」 「彼女らは重要・・・っていうかギルドとしての戦力としては最重要じゃないのかい?」 「だな。それを置き去りとはちょっと分かんねぇな」 「ハッキリ言えばいいじゃないかい」 少し、 少し怒った口ぶりで、 ツバメは返した。 「戦力外って言いたいんだろ。リュウの親っさんでもなく、そしてトラジでもない。 新米の女マスター(組長)じゃぁ頼りにならないって言いたいんだろ」 ツバメは、 手を思いっきりテーブルへ打ち付けた。 「なめんじゃないよ!うちを・・・うちをなめんじゃない! 確かに不肖な点はあるかもしれない!けど足手まといになるとは思ってないね!」 「それでも確定的だ」 「・・・・・なんだって?」 「それでもまだ統率力に不信な点があることは否めない」 「・・・・くっ・・・だけど!」 「そしてもう一つ確定的なのは《昇竜会》が重要な戦力だって事だ」 ジャスティンの言葉に、 ツバメは言葉を止めた。 ジャスティンは真顔で話を続ける。 「今回、ツヴァイの提案で全軍をぶつける事に決まった。 だけど裏を返すと、それは本拠地がガラ空きだってことだ。 それはヤバいだろ?なにしろ・・・相手はこちらの本拠地に気付いてる可能性は捨てきれない」 「・・・・魔物の2万はオトリで、本拠地に攻め入られる可能性は0じゃないですね」 「そう。だから少数で、さらに本拠地の護衛を頼めるのは《昇竜会》しかいない」 ジャスティンは全体へと顔を配った後、 再び視線をツバメへ返す。 「やってくれ。ツバメ」 「・・・・・・」 「このコロニーに居る人間は全てが兵士じゃない。 意思持つ戦士の妻や、世界に怯える子供もこんな地下で苦しい生活をしている。 そんな奴らを守る人間は必要なんだ。それを・・・お前に頼んでいる」 少し時間が止まったような間が空き、 そして、 ツバメはため息をついた。 「・・・・義理と人情」 「・・・ん?」 「仲間の絆は義理と人情だ」 ツバメは、 観念したように小さく笑った。 「分かったよ。引き受けるよ。うちは守るために貫く生き方をしようと決めたんだ。 それは組員全員の考えも同じ。親っさんが残した意志をこんなところで曲げるわけにはいかないね。 そして引き受けたからには筋は通す。極道ってもんはそういうもんだろ。だけど・・・」 ツバメはジャスティンに指を向ける。 「その仲間が傷ついてるのを指咥えて見てるほど極道の血は汚れちゃいない。 仲間の抗争には命を惜しんで馳せ参じる覚悟は全員に出来てる。 もしもの時はいつでも呼びな。5秒で飛んでいってやるからね」 「5秒は無理だろ」 ジャスティンは笑い、 ツバメはそれを笑い返した。 「まぁまとまった所悪いんだけどさ」 エクスポが切り出す。 「《昇竜会》が戦線に出ないのはそれはそれでキツいんじゃないのかい?」 「バンビさんら《ピッツバーグ海賊団》もどこに行ったか分かりませんしね」 「ギルド側の3本柱が2本欠け落ちるわけだしな」 「なら1本残ってるさ」 ジャスティンが笑い、 そして、 それに合わせた様に、 プレハブ小屋の扉が開いた。 「・・・・・あの・・・・いつからここは処刑場になったんでしょうか・・・・」 開くと同時に、 外のマリナのマシンガンが耳に入ってきた。 それはまぁ、 無視しとくべきだ。 それよりも、 入ってきた者。 「あ、それよりも遅れてすいません」 彼女は、 その短めにオーダーメイドしたローブのスソを持ち、 丁寧に頭を下げた。 「《メイジプール》マスター。フレア=リングラブ。到着しました」 短めのスソ。 ローブをワンピースのミニスカートのように着こなす女性。 《メイジプール》ただ一人の生き残り。 世界一のメテオ使い。 『フォーリン・ラブ』のフレア。 「お久しぶりですね。フレアさん」 「はい。なんだかんだで忙しくて1年ぶりですね。 ・・・・といっても1年前も少し顔を合わせただけなんですけどね」 そう笑顔で言い、 フレアは中に入ってきた。 「女性を立たせるのは美しくないね」 エクスポが紳士的に席を譲る。 フレアは軽い会釈と礼を言い、 その席に座った。 エクスポはいろいろウンチクを垂れていたが、 それには耳を貸さなかった。 「丁度《メイジプール》の話しをするところだったんだ」 「そうなんですか?じゃぁ遅刻ってわけじゃないんですね♪」 悪気もなさそうにそう笑顔で言う。 いや、 遅刻は遅刻だ。 「話は大体先に連絡を受けてます。2万の軍とぶつかるとか・・・」 「そういう事」 「でも《メイジプール》があったんでしたね」 「え?忘れてたんですか?傷つきました・・・」 「あっいえ・・・そういう意味じゃなくてですね・・・・」 「冗談です♪」 この人は笑顔でそんな事を言うから困る。 なんとなく辛口な事を言いづらいし・・・。 アレックス的には一番苦手なタイプだ。 「でも清楚な女性って美しいよね。マリナやイスカもこういう女性を見習うべきさ」 「あいつらの後に見るとレディーとしては手本に見えるな。俺もラスティルが居なけりゃ・・・・」 「俺ちゃんもこういう可愛い子ちゃんの方が♪」 ガチャリと扉が開く。 女王が顔を出した。 「予約が3つ聞こえたんだけど」 「「「気のせいです」」」 「そう。まぁ悲鳴とごめんなさいは同意語だからね。次は覚悟しときなさい」 そう言い、 女王マリナはまた外へ出て行った。 3人は同時に胸をなでおろした。 ガブリエルはどうなっているのだろう。 まぁ料理されているに違いない。 天使といえどミンチは免れないだろう。 天使・・・鳥肉のハンバーグが完成されない事を祈る。 「ヒャハハハ!でも《メイジプール》か!俺も昔ちょっとだけ居たぜ!」 「え、そうなんですか?」 「3日で追い出されたけどな!」 「あぁ、ダニエルさんですね。3日間で確か10名行方不明にしたとか」 いろんなとこで迷惑かけてるんだな。 さすが『チャッカマン』 点いては消える問題の火種。 「ヒャハハハ!そーそー!怒ってるー?♪」 「いえいえ、証拠が全部燃えてましたから疑えません。それに時効ですしね♪」 短い時効だ。 それに笑顔で凄い事いうもんだ。 「カッ、だが確かに今回のような戦争じゃぁ《メイジプール》は必要不可欠だな」 「確かにね。洗練された魔法は芸術だよ」 「範囲攻撃というのは団体戦じゃぁキーポイントだ。 ツヴァイも今回は《メイジプール》を前面に出す戦いを提案している」 「・・・・ふん」 ツヴァイは無愛想に壁にもたれたままだった。 「ただの有効活用だ。だがオレは実際には《メイジプール》とやらの実力を見ていないからな。 期待に応えないような働きでガッカリだけはさせないで欲しいところだ」 実際リーダーなわけだが、 偉そうな事を言うものだ。 それがツヴァイらしいと言えばツヴァイらしいが・・・。 むしろ素直なツヴァイなど気持ち悪い。 「誰様ですか♪」 フレアはフレアで笑顔で爆弾を投げる。 勘弁してくれ。 「・・・・っていうのは冗談です。ツヴァイさんも初めましてですね。 噂は兼ねてよりお伺いしてます。どうかよろしくお願いします♪」 「・・・・・ふん」 ツヴァイもやりにくそうだ。 微笑みの爆弾が一番扱いづらい。 「実力ですね。それはもちろん期待に応えます。 現状の私達《メイジプール》は私以外、全員一年前以降のメンバーのみで構成されています。 裏を返せば新設一年のギルドのようなものととれますし、それを不安に思われるかもしれませんが、 だけどこのご時世。帝国に楯突いてまで反乱側についた者達ばかりなのですから」 「それだけでも信用は十分ってか」 「えぇ♪それにプライドの高いスオミの魔術師達です。プライドには実力が伴います」 「まぁ俺達は疑ってないさ」 「事実、外現場で帝国の奴らと小競り合いを受け持ってくれてるのも《メイジプール》だしな」 「信用には足ると思ってます」 「はい。新生《メイジプール》と言っても量より質。その心構えは変わっておりません。 それは代々受け継がれてきたもの。私もマスターとして前代マスター達の方針を受け継ぎます」 「あらそう」 扉が開いた。 マリナがイスカを引きつれ、 外から出てきた。 ガブリエルについては聞かないでおこう。 「あんたがマリンの跡継ぎってことね」 「・・・・?マリンさんをご存知で?」 「マリナさんはマリンさんの姉妹。マリンさんのお姉さんってことになります」 「そうなんですか・・・・・」 フレアは椅子から立ち上がり、 マリナに頭を下げた。 「マリンさんにはお世話になりました。同じオフィサーとして戦っていた日々も。 そしてマリンさんがマスターとして引き継がれた後も。彼女は立派な方でした」 「・・・・・・」 マリナは返事もせず、 奥へと通り過ぎていく。 「・・・・・別に私はあんたになんか思う筋合いはないわ。 ただマリンは自分の思うまま戦って死に、そしてあんたは形見のように生き残った」 「はい」 「あんたがやってるギルドは、マリンが人生をかけた道なの。大事にしてやって」 「はい」 そしてマリナは、 無愛想に奥の壁にもたれながら地面に座り、 ギターに手をかけた。 そして、 睨むようにフレアを見る。 ・・・。 と思うと、 その表情は笑顔に変わった。 「後で私の知らないマリンの話でも教えてね」 その笑顔に、 フレアも嬉しそうに笑顔で返し、 「はい!」 と元気よく返した。 「マリナ殿の妹君か。だけど拙者はマリナ殿の話が聞きた・・・」 「イスカ。お座り」 「承知」 まるで飼い犬のようだ。 「ヒャハハハ!馬鹿みてぇ!」 「ダニー。黙ってて」 「あーい♪」 まるで飼い犬のようだ。 「ツヴァイ。俺ちゃんらも個室で昔話でも・・・」 「黙れカスが」 まるでノラ犬だ。 「ともかくだ」 ツヴァイが腕を組み、 壁に背をつけたままの体制で話しを戻す。 「《メイジプール》とやら魔術師軍団。そのスペルは欠かせない。 やれるかどうかでなく、やってもらわなくてはどうしようもない」 「やりますよ」 素直にフレアはそう答える。 頼りない、か弱い女性に見えて、 彼女は世界最高の魔術師団体《メイジプール》のマスター。 魔術師界の頂点に立つ者だ。 「幾度と経験してきました。私達魔術師のスペル。それによって戦況が大きく動く事も理解しています。 直接敵と交じ合うわけではないからこそ、私達の動きが重要。云わば大砲のようなもの。 高威力、高範囲。役目をこなせばこなすほど、敵に多大な被害、そして味方の被害は無くなる」 「その通りだ」 「言ってみれば、魔術師の魔法だけで致命傷を与えられるかどうかですよね」 「混戦になれば被害はどうやっても出る」 「けど、魔法だけで終われば被害は0」 「そうもうまくいかんのが戦だがな」 「とにかく、戦争なら魔術師1人は1人以上の価値があるってことだねぇ」 「ですね。特にフレアさんの広範囲メテオ。頼りにしてますよ?」 「はい♪」 手料理を承るような軽い返事だが、 彼女の凄さは分かっている。 「ふん。だがあまり過信はするな。範囲と威力が絶大という事。それは逆に取り扱いの問題だ。 間違いを犯せば自爆もあり得る。スペルは仲間をも巻き込み、ただの災害となる」 「それも分かってます。・・・・あっ!そうです!」 フレアが、 何かを思い出したような声を出した。 「えっと。重要な部下を一人連れてきたんですけども」 「部下?」 「《メイジプール》のオフィサーかなんかか?」 「はい。サブリーダー的な位置に置いてるんです。 実力も折り紙つきで、私のメテオを補助するのに最適な能力も備わってまして・・・」 「まぁそれならそれでいいが、そいつはどこなんだ?」 「えっと・・・外で待機してます」 外? なんで入ってこずに外に。 「なんか彼は狭いところがイヤだとか、人の密集してるところはイヤだとか、 なんかいろいろと言ってましたけども・・・・《MD》の方だけ外に連れてきて欲しいとか」 「は?」 「《MD》だけ?」 「はい。《MD》の方に用があるとかで。それで今回紹介ついでに連れて来たんです」 ドジャーがジャスティンに疑問の視線を送るが、 ジャスティンが首を傾けた。 「用がある相手を逆に呼び出すなんて、失礼な人だね。美しい礼儀作法がなってないよ」 「でもまぁ、とりあえず外出てみますか」 「そうだな」 「あっ、私は面倒だからここに居るわ」 「なら拙者も」 「・・・・・ほんと勝手な奴が多いな」 しょうがなく、 ジャスティン、 ドジャー、 アレックス、 エクスポの4人の《MD》メンバーだけ、 プレハブ小屋から出て行った。 「おいーっす・・・・」 入り口の横で、 ガブリエルが血だらけでタバコを吸っていた。 「大丈夫かお前・・・」 「全身血まみれじゃねぇか・・・」 「・・・・分かんねぇけど考えるのダリィーしなー・・・・全身痛いけど動くのダリィーしなぁー・・・ ・・・・まぁ赤は止まれだしよー・・・メンドいからここでタバコ吸ってるわけー・・・・」 あぁ・・・ そうですか・・・ さすが天使。 凄い生命力だ。 まるでゴキブリのようだ。 「まぁー・・・俺ん事なんてどっでもいいだろー・・・あっちにお客さんいるぜー・・・」 あっちと言いながら、 指を指し示しもせず地べたで寝転がってタバコを吸うネオ=ガブリエル。 だが、 そのお客さんとやらはすぐ近くに居た。 「あいつか」 「なんか知ってる奴かと思ったら完璧初対面だな」 「とりあえず話しかけてみるべきじゃないかな?」 プレハブ小屋の前には、 一人の魔術師の男が立っていた。 一人? ・・・・・いや、 三人? 「よぉよぉ」 その男は、 両サイドに女性二人を肩で抱き、 女性二人にダランと体を預ける形でニタニタとこちらを見ていた。 「センスの悪い帽子だ。美しくない」 エクスポが言ったのは、 その男の被っているもの。 モングリング帽と呼ばれるもので、 まぁウンコにしか見えない白い被り物だ。 その魔術師の男は、 女の肩に両手をかけたまま、 返事を返してきた。 「おっと。人をみかけで判断するなよ。この世には二種類の人間がいる。 "オシャレしてもどうしようもない男"と、俺だ。 イカした男ってのはどんな格好をしたってイカしてるもんなんだよ」 まぁ、 本当に言うだけの顔を造りはしているので悔しいものだ。 「まぁ納得言ったよ」 ジャスティンが苦笑しながら言う。 「てめぇが出てくるなら中じゃヤバいよな」 「覚えててくれたか。ありがたいねぇ」 「なんだ?ジャスティン」 「この人と知り合いなんですか?」 「・・・・まぁな」 ジャスティンは、 あまり嬉しそうではない目でその魔術師の男を見た。 「こいつは俺の前のNo.6。GUN’Sの元六銃士(リヴォルバーナンバーズ)だよ」 「!?」 「元六銃士・・・」 「よく出来ました」 その男はニタニタと笑うのをやめない。 「そう。俺は元《GUN'S Revolver》の六銃士No.6。 『メテオドライブ』のメテオラ=トンプソンだ。以後よっろしくー♪」 女を両手で抱え、 イケ好かない笑顔を送るこの男。 「元六銃士が《メイジプール》に入ってるとはね」 「俺はこのメテオラの脱退のお陰で代わりに就任したんだ」 「カッ、んでなんで元GUN’Sだとプレハブん中で話すわけにはいかねぇんだよ」 「そうですよ。GUN’Sの残兵だってギルド連合に組み込まれてるんですよ?」 「それでもフレアの姉ちゃんは気に食わないだろうよ」 メテオラは、 軽い口調で話し始める。 「《メイジプール》ってぇのはGUN’Sが大嫌いだ。 終焉戦争でオトリに使ったのを根に持ってるからな。だから一応身元は隠してんだよ俺は」 「バレバレだと思いますけどね」 「だろうな。だが分かってないフリをしてるんだろうよ、フレアの姉ちゃんはよぉ。 分をわきまえてる。知らないフリをすることで問題を起こさないようにしてるのさ。大人だねぇ」 「なるほどな」 「俺やダニエルみたいな元GUN’Sがいる中であんたが登場したら、 元六銃士だっていう発表会になっちまうしな。そん時は押さえがきかないかもな」 「フレアさんだけじゃなく、ツバメさんだってGUN’Sには恨みがあるでしょうしね」 「無意味に事を荒立てたくなかったのかい?そういう考えなか見かけによらず美しい判断だね」 「面倒が嫌いなだけだ」 メテオラという男は、 苦笑いするように顔をそむけた。 おっと、 ついでに片手が取り巻きの女の胸にいってるぞ。 なんかムカつくなこいつ。 「おっとそうだ。俺の後任のジャスティン君。なんだ?エンツォが死んだって聞いたぜ」 「あぁ」 「俺が殺したぜ。しつこい奴だった」 「結局六銃士は形の上全滅か。ま、そうだろな。見捨てといてよかったぜあんなギルド」 モンブリング帽をかぶった魔術師。 メテオラは、 そう言い捨てる。 「ま、一年前に入ったこのギルドも居心地がいいぜ。なんたって実力主義だ。 俺ぐらいの実力がありゃぁ、威張って、遊んで、部下の女も文句言わないしよ」 「な?」と、 メテオラは両肩の女性二人に問いかける。 両サイドの女二人はしぶしぶ頷いた。 「フレアの姉ちゃんにとっても俺は生命線でなぁ。優遇してもらってんぜ? 俺は『メテオドライブ』のメテオラ。俺の能力は"メテオ操作"。 あの姉ちゃんと相性はバッチシってなぁ。あっちの相性も試してみてぇもんだ」 「見かけどおり、下品な思考のようだね。美しくない」 「おいあんた」 メテオラは、 女を抱えたまま、 指だけエクスポに向けた。 「世の中には二種類の人間がいる。"見かけだけで判断しない偉い子"と、そしてあんただ。 てめぇ二度も人をみかけで判断しやがって。俺ぁそーいう奴が大嫌いなんだよ。 てめぇもしかして血液型で性格決め付ける奴か?いるよなそーいう奴。 俺はあーいう型にハメて判断されるの大嫌いでよ。・・・・ったく。そういう奴は決まってB型だ」 お前も血液型で判断してんじゃないか。 「で、何の用なんだよ」 ドジャーが聞く。 「ジャスティンのGUN’Sでの知り合いってのは分かった。 そんでもって、まぁ実力者で問題を無駄に起こす奴じゃないってのも分かった。 次の戦争のキーパーソンの一人で、ついでにイケ好かねぇ奴だってのも分かった」 「言うねぇあんた。知ってるか?世の中には二種類の人間がいるぜ? "爪を隠す脳ある鷹・・・・つまり無駄に吼えない強い犬"と、あんただ」 「弱い犬ほど口達者ってか?カッ・・・・てめぇも言えた義理かよ」 「まぁ答えてやるか。無駄にケンカもしたくはねぇ」 メテオラという男は、 右手で、 右側に抱える女の唇をちょちょいと弄りながら話し始める。 「俺が無駄に問題事を絡まない事は分かってるみたいだからその前提で話すぜ。 そう、俺は問題事が大嫌いだ。世の中二種類。壁(問題)に立ち向かう奴と俺。 GUN’Sもヤバくなるの察したから早々にこっちから切り捨てたんだよ。 俺は急がば回れ派でね。とにかく楽で楽しくて苦しくない道を選びたい」 「あっ、気が合いそうですね」 「合わねぇよ」 気軽に言った言葉だったが、 アレックスにはやけにトゲのある言葉が返ってきた。 「いいか。元六銃士って事を隠してるのも問題事を隠すためだっつったろ? とにかく問題事は大嫌いだ。だがま、今回の戦争に関しては腹は括ってやるよ。 だがな。だが、アレックス。アレックスだよなお前。俺はお前が大嫌いだ」 「へ?」 一応・・・初対面だ。 アレックスとしては全然全く断然知らない男だ。 だが、 いきなり嫌いとか言われた。 なんなんだ? それに答えるように、 メテオラは話しを続ける。 「なんでいきなり僕の事を?って顔してるな。当然だ。 ジャスティンとは旧知の仲だが、お前さんとは初対面だがな。 だがな、鎖ってのはどこにでも伸びてるもんだ。俺はあんたをよく知ってる」 ・・・・なんでだ。 初めて会ったこの男。 自分とどこに接点が・・・。 「お茶漬けは元気か?」 「ッ!?」 あまり知らない者にはわけの分からない言葉かもしれない。 お茶漬け。 それはアレックスの守護動物の名前。 GキキのG−U(ジッツー)の名前。 G−U(ジッツー)は王国騎士団で与えられたコードネームで、 愛称として呼んでいるのがお茶漬けだった。 「まぁそんな顔はすんな」 メテオラはニヤニヤと笑い、 隣の女の首を舐めながら、 視線はアレックスに向いていた。 「少し俺に興味を持ってくれたなら、俺の意見もよく聞いてくれるかもな。 そう。俺は・・・・・アレックス、てめぇに一言言いたくて今日足を運んだ」 メテオラという男は、 アレックスを睨むように、 冷たい目で、 言い放った。 「あんた消えてくれねぇか」 ただ真っ直ぐ。 ハッキリと。 「あわよくば死んでくれとさえ言いたいね」 「てめっ!」 「いきなりな言葉を言うもんだね」 「アレックス君にいきなりそんな言葉とは。さすがに聞き捨てならないな」 「世の中には二種類の人間がいる」 かき消すように、 メテオラという男は続ける。 「"巻き込まれる者"と、あんただ」 つまり・・・ アレックスは巻き込む者だと言いたいのか。 「少し考えれば分かるだろ?全ての責任はあんた。あんたなんだよアレックスさんよぉ」 「アレックスに責任だと?」 「漠然として意味が分からないな」 「だから全てだっつってんだろ。考えてもみろ。 シンボルオブジェクトを盗んで世界をギルド同士の戦争の嵐にしたのは誰だ? あんなことしたって結局はアインハルトの手に戻って今の状況になっただろが。 あんたは一年間、世界を戦いでグチャグチャに巻き込んだだけだ」 「・・・・・」 「そんであんたらを巻き込んでGUN’Sとの戦いの理由はなんだ? 結局はそこのアレックスの問題だろ。結果だけなら無駄に血が流れただけだ」 「・・・・」 「そんで今回、ギルド連合と帝国の戦いが突然激化したのはいつだ? そこのアレックスが帝国を裏切ってからだ。分かるか?分かるよな。 アレックス=オーランダ。"あんたが動くと戦いが始まるんだよ"」 「・・・・僕・・・が?」 メテオラが言う事が、 全て事実だ。 揺ぎ無い事実。 アレックス。 自分がよかれと思い動いたせいで、 多くの者が血を流す結果となっている。 争いが起こっている。 戦いが起こっている。 自分が・・・動くから? "巻き込む者" ・・・・。 それが・・・自分だと? 「いいかあんた。俺ぁあんたが仲間にいるうちは冷や冷やしてたまんねぇんだよ。 俺は自由人だからよぉ、危なくなったらこのギルド連合も放り出して逃げようってのが本音だ。 だが、あんたがいると巻き込まれるんだよ。巻き込まれてどうかなっちまう。 世の中二種類だ。片方は何も知らずに死にに行く馬鹿。そして俺は違うんだ。勘弁して欲しいね」 「てめぇ・・・・言わせておけば好き勝手・・・」 「美しくない理論だね。ここにいる者達は皆自分の意志で戦っている。 人のせいにして文句を垂れる君は美しくない。とてもとても美しくないよ」 「こいつが居なければ、あんたらの仲間は生きてたかもな」 「!?」 レイズ。 チェスター。 友にGUN’Sと戦った人たち。 さらに前、 王国騎士団の仲間達。 全て、 全て死んで・・・・。 「それ以上言うと」 「殺るぞ」 気付くと、 ドジャーはダガーを、 ジャスティンは片手を突き出し、 エクスポは指の上で爆弾を回していた。 「てめぇみてぇな野郎にそれ以上好き勝手言わせねぇ」 「友に戦う仲間は皆、美しい意志を持った人間だと思ったけどね」 「ククッ・・・所詮寄せ集めなんだよこんな団体な。 同じ意志持ってる奴もいれば、しょうがなくって奴、行く場所がなくてって奴。 そして俺みたいな奴もいる。世の中は二種類だぜ?それを勘違いするな。 "ちゃんとあんたらと同じ意志もって手ぇ繋いでる奴"と、俺みたいな奴だ」 この男・・・ メテオラ・・・。 なんだこの男は。 全てを・・・ 全てを客観的に見据え、 関係ないような、 まるで自分が同じ仲間などではないような、 それでいて敵でもないような、 なんだ・・・なんだこの男は・・・。 「ま、悪い悪い。ケンカはよそうぜ。問題事は嫌いだっつったろ? 一応俺は仲間よナーカーマ。次の戦争もちゃぁーんと仕事する重要人物だぜ? ケンカはよしとこうぜ。忠告だけしにきただけだ。仲良くやろうぜ?」 「クソ野郎・・・」 「よく言われる。だが世の中楽しんだもん勝ちだからな。 世の中二種類。負け組と俺だ。精々俺の楽しい人生の邪魔だけはしないでくれよ」 「あんたみてぇのがGUN’Sに居たと思うと気分悪くなるな。 他の六銃士は腐ったのが多かったが、GUN’Sの六銃士として戦った者ばかりだった」 「逃げるが勝ち・・・って知らねぇか?結局生き残ったのは俺だよ。 ・・・・いやいや。あんたもだろ?ジャスティンよぉ。里帰りして生き残った。のうのうとな。 世の中二種類。"震源地も分からず死ぬ奴"と俺らみたいなのだ。俺達も同属だぜ? どっちがいいか判断できる奴だけ生き残れる。そーいうもんなんだよ事実」 「まとめてもらっちゃ困るな。胸が腐る」 メテオラはニタニタ笑い、 楽しそうだった。 女を抱える両手にも力が篭っている。 クソ野郎だってのは分かる。 「もっかいアレックス。あんたに話しを戻し、問うぜ」 「・・・・・なんですか」 「あんたには賢明な判断をして欲しいからな。あんたは常に"爆心地"だ。 あんたの行動で人は死に、巻き添えを食らって地獄逝きになるんだからよぉ。 だから・・・・あんたはどっちだ。早めに選んでおけよ」 メテオラの唇が怪しく歪む。 「世の中二種類。"懸命な判断で生き残る奴"と・・・"あんたの両親"だ」 「・・・・!?・・・・あなた・・・何を・・・どこまで知って・・・・・」 「まだ言ってやんねぇよ!俺は前者だからな!死にたくないんでねぇ!」 メテオラは、 怪しく、 激しく笑い続けた。 「ノカン村・・・跡地ねぇ・・・・」 ツバメが呟く。 プレハブの中では、 作戦の続きが行われていた。 「何故・・・相手はそんな所を戦場に選んだのでしょう?」 「え?別にそこに決まったわけじゃないんでしょ?」 「まぁな。だが、ここしかないという事だ。相手の進攻ルートから選出すると、 どうやっても戦場はここになる。ここになるように仕向けられたと言ってもいい」 ノカン村跡地。 相手は、 そこを戦場に選んだ・・・という事。 「あっ、そこなら俺分かるぜ!張本人だからよ!ヒャハハ! 俺ぁ燃やして燃やして燃やしまくったからな!森ごとな! 大体2km四方はサラッサラのサラ地になってるぜ!いいザマ!」 「2万の兵と1万の兵がぶつかるには丁度いいって事だね」 「だが、やろうと思えば他の場所を戦場に選べるんではないか?」 イスカが聞く。 「敵がここに到達する前に攻撃を仕掛けるとかな」 「まっそうだねん。俺ちゃんからしてもここで戦うのは悪くないとは思うけどよぉ、 数で負けてる分、入り組んだ森の中のが有利ったぁ思うかなー?」 「いや、ここしかない」 ツヴァイが、 もう結論付いた口調で言った。 「これ以上前で戦うと逆に相手の陣地に近すぎる。 相手側のテリトリーの森の中では伏兵や増援は思いのままだ。 だから逆にこのノカン村跡地のような駄々広い所で向かえ撃つ方が安全だ」 「んじゃ逆はどうなんだい?」 「そうよ。ノカン村を通り過ぎさせて、逆にこっちの陣地近くの森で戦ったほうが・・・」 「マリナ殿。あまり近づけても逆にこちらの本拠地の居場所が特定されやすくなってしまう」 「何よー。私の意見に文句つけるのー?」 「い、いや・・・断じてそういうわけでは・・・・」 「まぁその判断もありなんだが」 ツヴァイが進める。 「もうこの際、腹を括ったのだからこちらに有利な場所まで誘いこもうとは思ったんだ。 だがそれは出来ない。それはジャスティンの提案・・・というか意見でな」 「ジャスティンの?」 「ジャスティンはなんでこんな荒野でわざわざ戦うつもりなんだい?」 「今回の戦いの一つの理由。それは相手を本拠地付近に到達させないため・・・というものだ。 明らかに相手の軍の進攻予定ルートはこちらの本拠地の場所に大まかな目星は付けている」 「またはハッキリ分かってるかもな」 「どちらにしてもだ。だがな。ジャスティンはもう一つ情報を手に入れてな。 どうやら相手側が目星を付けているのはオレ達の本拠地だけではないようだ」 ツヴァイが手探りで、 散らばった書類を漁る。 そして一枚の書類を見つけ、 地図の中心に広げた。 「敵がノカン村跡地を通過すると、本拠地付近へと到達してしまう。 だがそれ以前。その前に"ある場所"の近辺を通過するらしい」 「ある場所?」 「相手の頭がノカンの将軍であることも関係しているのだろうが・・・」 ツヴァイが地図のある地点辺りを円描くように指し示す。 そしてミルウォーキーの情報資料。 「ここらで最近カプリコの目撃証言があるらしい」 「カプリコの?」 「ノカンと同じく、大規模討伐で激減した種族カプリコ。 奴らは新たなるカプリコ砦の位置を特定されないよう、転々としているらしい」 「つまり・・・・」 「新たなカプリコ達の隠れ家をも目星に入れて進軍してくるわけだね」 「その際カプリコが襲撃に合うかもしれないからその前に叩かねばってか? 分かんねぇ。分からねぇなぁ。俺ちゃんにはカプリコを守る理由なんざ分かんねぇ」 「奴らを味方に付けられるのだろう?お前らなら」 ツヴァイの目。 それはイスカとマリナに。 「・・・・・」 「・・・・」 「カプリコ三騎士。カプリコ族。そして・・・・」 「そうか。そうだな」 「そうね」 カプリコ三騎士率いるカプリコ族。 その通りだ。 仲間なのだから。 彼は。 どうしているかも分からないが、 切れない縁。 もうこれ以上失うわけにいかない仲間の一人なのだ。 ロッキーは。 「・・・・・戦いはいつ頃なの?」 「相手は大群で大軍だ。遅くて一週間。だが早ければ到達は・・・・・3日後か」 「早いね」 「戦場はノカン村跡地。できるならば被害を抑え、相手を全滅。 そして・・・・この機会にカプリコ三騎士を味方に加えられればいいがな。ともかく・・・・」 魔物の悪魔の大軍は迫る。 本拠地と、 カプリコ砦を潰さんと行進してくる。 2万の摩訶が。 「オレ達には守るべきものがありすぎる。背中を見せるな。腹を括れ。 後戻りなどもう出来ないんだ。全身、全力で止めるぞ。戦場はそこにある」 |
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