「えーーーーーーーー」 シドはイヤそうな声を出した。 サラセン。 固い土の地面の中、 小さな崖ようになっている箇所で足をブラブラさせ、 片手にはWISオーブ。 「めんどっちぃじゃねぇかよぉー」 ここに腰掛けていると少しだけサラセンがよく見える。 汚い街だし、 薄汚れた街だし、 悪悪しい街だし、 基本的に眺めてて楽しい街ではないのだが、 人がいる。 人は好きだ。 大好きだ。 人殺しが言うのもなんだが、 人という生物が大好きで、尊敬していて、重要で、やっぱり大好きだ。 どんな理由だとしても、 人が往来している場所を眺めるのは好きだった。 ヘッドフォンで好きな音楽を聴きながら、 菓子パンでも口に咥えるのが大好きだ。 余談だが、 最近ハマっているアーティストは《Sirver Rings》。 魔族と人間の混合バンドで、 シャークという魔族のギターのでしゃばり具合が大好きだった。 そんな楽しいひと時を邪魔するWIS。 [黙れクズ。死ぬか?死にたいのか?あぁ死ねばいい。俺は死ねばいいと思うぞ。 任務を受けたのにそれをハッキリこなさないハッキリしない奴は大嫌いだ] 「ちょぉー、燻(XO)さん怒んなよ。僕だって僕なりによぉー」 [黙れシド。この世は○か×だけだ。やるかやらないかだ] 「んじゃやんねぇーよ」 [てめぇは53部隊(ジョーカーズ)の副部隊長だろが!実質シシドウの頂点だ! てめぇがまとめねぇで誰がまとめる!分かったらさっさと行け!] シドは口をとがらせ、 むくれる。 「・・・・んだよぉ。いつもは「お前が一緒に行動すると仲間まで死ぬ」とか言うくせによぉ。 なんで今日に限ってキョーチョーセーってもんを押し付けんだよ。マジ災難だぜ」 [そりゃお前がうちの切り札(ジョーカー)だからだ] WISの向こうの燻(XO)は、 楽しそうに笑ったような気がした。 ゲームを楽しみ、 強いカードでも揃った時のように。 [今回は俺達53部隊(ジョーカーズ)が光の世界に出て行くお披露目会なわけだ。 闇の中で、影の中でしか生活できなかった俺達がだ。それには手段を選ばねぇよ。 ギルド連合よりも44部隊に見せてやりてぇんだ。俺達の意義ってやつをよぉ] シドは、 足を小崖でプラプラさせながら、 ウサ耳を整えた。 整えたといっても、 片耳がペコォン・・・と垂れてるぐらいが可愛いと思っているから、 そうして遊んでみただけだった。 ハッキリ言って燻(XO)の言う事なんてどうでもいい。 自分はおもしろおかしく生きたいだけだ。 そういう堅苦しい事は抜きにしたい。 「マジメン〜・・・」 [あん?] 「マジメンドくせぇの略だぜ燻(XO)さん」 [何言ってんだてめぇ・・・] 「いや、さっきお店で教えてもらったんだぜ?サラセンってのは"さらば戦闘民族"の略だってな!」 [騙されてんだぞてめぇ] 「でもなんか略すのハマっちまった。リャクハマだな」 [・・・・・おいシド。この俺がハッキリしねぇ事が大嫌いなのは知ってんだろ?・・・あぁ!? 分かってるよなぁ!?俺は曖昧な表現とかが大嫌いなわけだ!死ね死ね大死ねって思う。 その言葉じゃねぇ。お前の態度の事言ってんだよ!ハッキリしねぇてめぇの態度が大嫌いだ!] 「だぁーら・・・後で行くって言ってんじゃねぇか」 [後で行く・・・・・その曖昧さがムカツクんだよド畜生が!!てめぇふざけ・・・・] プチ・・・ ツー・・・・ツー・・・・ ・・・・・。 WISオーブから声が聞こえなくなる。 通話を切ったからだ。 上司の通話を軽く切るシドの態度は確かに褒められたものじゃない。 だがもう、 聞くに堪えないからだ。 めんどいからだ。 マジ災難だ。 「まぁーったくよぉ。燻(XO)さんとの会話は疲れるよなぁホント・・・・ なんであぁもイライラしてんだ?世の中もっと楽しくハッピーに生きるべきなのによぉ。 その点、ギルヴァングさんのが上司としてはいいな。あの人も楽しみに生き・・・・」 チャラランチャチャチャ〜♪♪〜〜♪・・・・・ 沈黙したはずのWISオーブ。 それがまたやかましく鳴り響き、メロディを奏でる。 マイソシアではまだあまりポピュラーではないが、 着メロというやつだ。 いや、 つまるところまたWISオーブが鳴った。 「・・・・・・・・はぁ・・・・」 着メロが鳴り響く中、 シドはうなだれる。 ウサ耳が垂れ、 耳にぶらさがってるキーホルダーの一つ、 クマのキーホルダーが笑うようにクルクルと回った。 出なくても分かる。 そりゃそうだ。 「・・・・・・・はいもしもし・・・」 [てめぇこのっ!ふざけんなよシド!!俺をなんだと思ってやがる!あ!? 部隊長だぞ!大体まず俺はてめぇが敬語使わねぇってのさえ気に食わねぇんだ!!] 「・・・・・ぷー・・・ぷー・・・・只今シド君は留守にしております・・・・・」 [うそつけド畜生が!!!!!おいこらシドぉおお!!!!] 「・・・・・・・・・・・・・・・・・は・・・発信音の後・・・メッセージを・・・・」 [・・・・・・・死亡通告だ。明日にはてめぇを"バスケットケース"にして生き殺しにしてやる。 この俺、燻(XO)様の拷問玩具コレクションの仲間入りだ。良かったな。 全身に針金刺さった裸の姉ちゃんや、ケツの穴が5倍に広がったショタ少年とかと並び、 身動き一つ出来ない地下の中で朝・昼・晩と犬のクソを美味しそうに食うはめになる] 「やっぱり留守じゃありませんでした燻(XO)隊長」 [物分りがいい奴は好きだぜ] ウフフ・・・とかヒャハハとか、 電話(WIS)の向こうで燻(XO)の笑い声が聞こえる。 ホントこの人は怖い。 何考えてんだか。 絶対ハッピーを共有できない人間だ。 友達(フレンド)100人計画には絶対入れてやんない。 [とにかくてめぇが抑制きかねぇ事は分かってる。なら自由行動でいい。 とにかく闘技場に行け。行っちまえ。俺が命令すんのはそれだけだ。 あとは自由にしてろ。自由にしてようが"てめぇはどうやっても誰か殺すからな"。 ウフフ・・・・好きにしろ。ギルドの連中だろうが・・・44部隊だろうが殺せ!ハハハハハ!!!!] 「・・・・・・・」 殺す殺す。 殺す事の何が面白いんだろうか。 毎日人を殺してきたウサ耳ファンシー殺人鬼にはサッパリ分からなかった。 まったく。 人殺しが好きな人なんて最悪だ。 その点自分は凄く誠実でいいキャラだと思う。 「そういや燻(XO)さん」 [あぁん?] 「今回53部隊は何人呼んでんだ?俺はあいつら二人しか聞いてねぇんだが」 [あいつら2人とてめぇ。3人だけだ。もともと少ない部隊だ。大事に使わねぇとな] 「マジスク・・・・マジで少ないな」 [無理に略すな] 「マジゴメ」 [・・・・・ッ・・・・・] 「今のはマジでゴメンナサイって意味っすわ」 [あまりにムカツクが、言葉の意味はあまりにハッキリ分かるから今の一回だけ許してやる] 「マジアリ」 [・・・・・・・・やっぱ殺す。地下の俺コレクションに空きを一つ作っとく。覚悟しとけド畜生] 「マジですいません。ホント許してください」 軽々しい発言ができないからこの人との会話は疲れる。 ほんといやだいやだ。 マジイヤ。 ・・・。 これも略す必要はないか。 「でもいいのか?燻(XO)さんよぉ」 [何がだ] 「あいつらは暗躍部隊ジョーカーズで"たった2人の正統派"じゃね? たった2人の直接戦闘型だ。飛車と角行が抜けると将棋はしづらくなる」 [逆だ。"飛車と角行はドンドン使わなけりゃ意味がねぇ"んだ。 確かにあいつら2人を抜くと、53部隊に直接戦闘タイプは居なくなる。 お昼休みに即行でボールを持ち出してサッカーゴールを取られないように走るのはあいつらだけ。 残りの53部隊は、ゲタ箱の運動靴に画鋲を入れるような人間。そんなんばっかだからな] 暗躍部隊。 暗殺部隊。 53部隊(ジョーカーズ)。 王国騎士団52部隊の中で、存在しない53番目の部隊。 知らない部隊。 居ない部隊。 存在しない部隊。 影の中で行動する切り札(ジョーカー)。 使わなくてもゲームはできるが、 使えば最強。 それがジョーカー(53枚目)だ。 ならば、 居ないのに殺す。 存在しないのに殺す。 そんな暗殺。 そんな暗躍。 燻(XO)は"ゲタ箱の運動靴に画鋲を入れるような人間"と言い表したが、 まさにその類。 真正面から殴るでなく、 "影から姿も現さず攻撃する卑怯者" それこそが暗躍部隊ジョーカーズ。 その中でももちろん、 シシドウの中でももちろん、 イスカのような武闘派の家系もある。 いや、 "イスカは未完成"だ。 チャージスマッシュ・・・・ いや、サベージバッシュのような暗躍技は自らあまり使わない。 ここぞという時ににしか使わない。 ここぞ。 逆だ。 ジョーカーズは"ここぞ"しかない。 イスカの技もそういうものだ。 もしイスカがそのままシシドウとして、53部隊として人生を送っていたならば、 サベージバッシュしか使わないイスカになったかもしれない。 一瞬で相手を殺す、 瞬殺タイプ。 ツバメも同様だ。 相手に姿を見せず、 背後に回り、 一撃。 一撃で終わらす殺化ラウンドバック。 戦うのではなく、殺す。 それがシシドウ。 それが53部隊。 暗躍部隊。 53部隊(ジョーカーズ)には2種類の人間が居る。 "ゲタ箱の運動靴に画鋲を入れるような人間" 最初から姿も表さず、 殺す。 ズルい。 最悪の類の、 影から出てこない人間。 残りの53部隊の事だ。 そして、 "死人に口無しの真っ向タイプ" 見られる前に殺す。 見られても殺す。 イスカ、 ツバメ、 そして・・・燻(XO)とシドの言う"あいつら二人"。 「まぁた僕はのけ者か?僕はどっちタイプよ。仲間はずれは嫌いなんだよ」 [お前は"異端"だ。あまりにも普通なのに外れて産まれてきた。属しようがない。 そういう意味ではハッキリしてて好きだが、どちらかに確定しないって意味で大嫌いだ] 燻(XO)はハッキリしない事が嫌い。 ハッキリしない存在が嫌い。 シドはまさに曖昧だ。 ハッキリしているくせにカテゴリーがないという曖昧さ。 存在がハッキリしているというのに理屈がハッキリしないという曖昧さ。 異端。 カテゴリーできない人間を異端と呼ぶ。 [まぁ近接戦闘が出来るのはあの二人だけという事でもないだろ?いーじゃねぇか。 まだ"削れちまう"とは決まってねぇ。曖昧は嫌いだ。俺はハッキリ決まった事しか信じねぇ だからあいつら二人。飛車と角行は使わな損損ってかぁ?分かる?分かんだろぉ?] 何言ってんだか。 ホント何言ってんだか。 ギルド連合? 44部隊? 殺してしまえ? ハンッ・・・ "僕が行ったらその二人も死んじまうかもしれない"ってのによぉ。 そうなってもいいってハッキリ思ってんだろうな。 「まぁ出来ればあの二人を援護できるよう頑張んぜ。副部隊長としてねん」 [頼りにしてるぜ?シシドウの中のシシドウ(切り札)] ツー・・・・ツー・・・・ WISは勝手に切れた。 切るという合図も挨拶も無しだ。 「ホント勝手な人だよ。マジムカぁ〜〜ってか」 シドはジャラジャラとストラップの付いたWISオーブをしまった。 そして「ん〜〜ッ・・・・」と大きくノビをして、 体とウサ耳を伸ばすと。 「よし、もうちょっとサボっちまおう」 そう決心した。 「悪ぃな燻(XO)さん。僕が行ったら"あの二人"まで殺しちまうかもしれねぇだろ? 同じシシドウ。僕の環境と性癖みたいなんを理解してくれる数少ないフレンド候補なんでね」 お気楽マイペース。 ウサ耳ファンシー殺人鬼は、 もうちょっとサボる事を決めた。 「・・・・ってぇ事で露店主さん。今度はクロワッサンでもくれよ!」 と、 小崖に足を投げ出したまま、 シドは横を向いて元気な声で言った。 シドの横。 その小崖。 そこには一つ露店が立っていた。 露店マットがひいてあるだけではない、 テントになっているそれなりの露店で、 お菓子やオモチャから武器防具まで売っているなかなか良い露店だった。 こんな治安の悪い悪都市にもこんないい露店があったとは・・と、 穴場発見気分で気に入っていた。 WISがかかってくるまでは、 ここで売ってもらった菓子パンを食べながら露店主と雑談していたのだ。 「・・・・・ってあり?」 露店主の返事はなかった。 「・・・あ・・・ぁりゃぁ〜・・・・・」 さっきまで仲良く会話していたはずの露店主。 それは・・・ 血の流しながら倒れていた。 いや、 言うならば死んでいた。 「・・・いつの間にか殺しちゃってたか・・・・」 WIS通信がかかってくる前に殺したんだっけ? いつだっけ? いいオジサンだったんだけどなぁ。 よく覚えていない。 「サラセンは"サラバ戦闘民族"の略だ」なんてウソ教えてくれた事を、 笑いながら文句言ってやろうと思ったが、 言葉を略すプチブームを伝授してくれたのもここのオジサンで、 そのお礼も冗談交じりに言ってやろうと思ったが、 そうか、 死んじゃったか。 オジサンも運が悪かったなぁ・・・。 せっかくフレンドになれたと思ったんだけども・・・。 「・・・・あーぁオジサン・・・・こんなとこで死んでたら風邪ひくぜ?」 そう死体に言いながら、 シド=シシドウは立ち上がった。 「クロワッサン欲しかったんだけどなぁ・・・・勝手にもってったらドロボウだよな・・・。 でも金払う相手であるオッサンは殺しちまったし・・・やべぇ・・・どうしよ・・・・」 ドロボウはいけない。 人道に反する。 そんなことは絶対にしちゃいけない。 物を盗むなんて最低だ。 最悪だ。 そんな人間ダメダメだ。 そんな最悪な人間がフレンドを作ろうなんて考えちゃ駄目だ。 窃盗は犯罪だ。 犯罪は絶対にしちゃいけない。 と、 殺人鬼は思った。 「んじゃオジサン。お金(グロッド)ここ置いておくからなー?略してグロココな〜?」 そう言い、 グロッド貨幣の小銭を露店のカウンターにばらまき、 シドはクロワッサンを一つ手に取った。 「よぉーっしゃ!戦闘なんて野蛮な事より、ハッピーとフレンドを探しに行くかー! 略してハピフレ!ん〜!この略いいな!ハピフレ探しとしゃれこんじゃるかー!」 ウサ耳ファンシー殺人鬼は、 クロワッサンを口に咥え、 ヘッドフォンを被りなおし、 幸せと、 友情を探しに、 また街へ繰り出した。 「おぉー、ヤクザお姉ちゃんじゃねぇーの。どーしたん?ってうぉ!アッちゃん!!!」 闘技場の一つの入り口。 そこから出てきたのはツバメ。 ツバメは自分より少し大きなアレックスを背負い、 ズルズルと引きずって出てきた。 「アッちゃんどうしたああああああ!」 ダニエルは瞬時に駆け寄る。 「うわっ・・・ちょっとあんた近寄んないでよ!お呼びじゃないよ!」 「うっせ!のけメス肉!俺はアッちゃんに用があんだよ!・・・アッちゃあああああん!!!」 ダニエルはツバメを払いのけ、 気絶しているアレックスに夢中だった。 ツバメは突き飛ばされて、思った。 いや、 極道として生きてきたが・・・ 少し女としてのプライドが傷ついた。 「アッちゃん!?どったんだアッちゃん!!」 ダニエルは気絶したアレックスを揺り動かす。 「死んじまったのか!?なぁアッちゃん!寝てないで返事してくれえええええ!」 「いや・・・ダメージは酷いけど気絶してるだけ・・・・」 「アッちゃああああああん!!!火葬していいの!?ねぇ!?火葬していいのか!?」 「死んでねぇっつってんだよこの燃え馬鹿が!」 「火葬してぇええええええ!俺メッチャ火葬してぇえええええええええ!! 出来れば生きてるままアッちゃんを火葬してぇえええええええええええ!!!」 「・・・・・」 ツバメの話をまるで聞かないダニエル。 もうアレックスに夢中だ。 生きてて欲しい。 生きてる状態で燃やしたいから。 「・・・・・・あれ?アッちゃん生きてるじゃねぇか」 「いや・・・・・・だからそう言ってんだよ・・・うちの話聞いてなさすぎだよ・・・」 「生きてるのか!なら安心だ!」 だが、 ダニエルの手はプルプルと震えていた。 「・・・ぉ・・・ぉおおお・・・」 「?・・・どうしたんだよ?」 「も・・・燃やしてぇ・・・・けど我慢だ・・・・アッちゃんは元気な時に燃やさないと美味しくないんだ・・・。 我慢だ・・・我慢だダニー・・・でも燃やしてぇ・・・めっちゃ燃やしてぇ・・・・ あぁ無防備なアッちゃん・・・・これは誘惑か!?俺への誘惑か!?クソッ!燃やしてぇえええええ!」 「・・・・・我慢してくれ」 「駄目だあああああ!我慢できねぇ!?なぁ!?なぁツバメっち!」 「・・・・なんだい」 「ちょっとぐらいアッちゃんツマミ食いしても大丈夫かな!?な?ちょっとだけ!片腕だけ!」 「・・・・駄目」 予想以上の状態。 なるほど。 外に自分とダニエルが残されたのは、 ダニエルの見張りが必要だったからか。 ・・・・。 かなり損な役回りを任された事に今気付いた。 「ファイヤーーーーーーッ!!!!!」 「ちょっ!!!??」 突如炎が舞い上がった。 ダニエルが両手を広げ、 火花が舞っている。 ・・・・。 アレックスが燃えている。 「な、何やってんだ!!!!」 「・・・・・ハッ!?・・・が、我慢できなかった!!!」 「しろよ我慢!」 「い、いや・・・目ぇ覚まそうと思って・・・・水かけたりすんじゃん?だから代わりに・・・・」 「火で人を起こす奴がいるか!!逆に永遠に寝るわ!」 「え・・・俺は目覚まし時計は導火線で設定すんだけど・・・・」 「あんたの常識なんてお呼びじゃないんだよ! いいから早く消しな!!早く!生き火葬になってんじゃないかい!!!」 ツバメがすぐさま駆け寄り、 アレックスを転がす。 アレックスを叩く。 アレックスについた炎を消そうと蹴る。 踏む。 アレックスは寝たままだ。 「あっ・・・やばいね・・・髪の毛燃えてる髪の毛・・・」 「・・・・・・・・・ぁあ・・・いい香り・・・・この人が燃える臭い・・・俺って生きてるって実感できる・・・」 「アレックスが死ぬんだよ!あんたも消せ!消せよ!!!」 数秒後。 発火したアレックスの火は消し止めた。 顔はススだらけで、 服が所々コゲてて、 髪の一部分が少し短くなった気がするが、 まぁなんとか・・・っというところだ。 特に大事には至らなかったようだ。 「ほほぉ。いい男になったよアッちゃん。火もしたたるいい男ってやつだな!」 「ないわ。そんなことわざ」 でもツバメは呆れた。 こんな状態になっても目覚めないアレックス。 どんな神経をしているのか。 ・・・・。 いや、 逆か。 アレックスのダメージは"それほど"なのか。 気絶という言葉。 まさにその通り。 気が絶している。 意識が無いという言葉。 まさにその通り。 意識がカラッポになっている。 眠っているのではない。 何も反応できないほどのダメージ。 「こりゃぁ案外ヤバいかもわかんないね」 「あぁーん?・・・・・!?アッちゃんがかっ!アッちゃんがヤバいのか!?」 「あぁいや・・・それもあるけどそれを含めて全体的にヤバいって事だよ」 「アッちゃんが全体的にヤバイ!?」 ダニエルはアレックスを凝視する。 軽くコゲた眠り騎士。 「・・・・こりゃぁヤバいな。想像を絶する萌えキャラだ。芯まで萌えて燃やしてぇー」 「いや、だからそのアレックス坊ちゃんの状況も含めて全体的にな」 「俺の全体はアッちゃんで埋まってる」 「・・・・・話が進まないから勝手に進めさせてもらうよ」 「アッちゃあああああああああん!!!!元気出してくれええええええ!」 「聞け!!」 「あん?勝手に話進むんだろ」 「うちに独り言しろってぇのかい・・・・」 「・・・・・自分勝手だな。これだから女は面倒臭い。女は生きてる時より死んでく時に限る。 生きてる時は面倒臭いから最悪だが、死んでく時はコゲ臭くて最高だ」 なんと足踏みをさせられる男だろうか。 全く進められない。 時を止められている気分だ。 話が進まない。 完全なる停止。 赤。 彼の髪の毛のように、 炎のように。 真っ赤。 赤は停止。 「いやまぁ、聞きな」 「んもー」 「・・・・・。このお坊ちゃんが戦闘不能ってのは確かに大事だ。大問題だ。 5人の内1人が削れたんだからね。戦力は4/5になっちまったってことだよ」 「大問題だ!俺の1/1が燃え尽きてしまった!!!返事がない!ただの屍のようだ!!!」 「・・・・・・・・・・で、問題はこのアレックスお坊ちゃんがこうなってるって事は相手は生きてる」 「そいつ燃やしてやる」 「っていうかうちは見てきた」 「ズリぃ。俺呼べよ」 「アレックスの相手は生きていて、そしてイスカ嬢と今戦ってる。ロベルトとマイケル・・だったか。 そんな兄弟っぽい奴らだったね。2対1だ。イスカ嬢もこの調子じゃ負けてしまうだろうさ」 「ふーん。あのお侍女はちょいと内側に筋肉が多かったから燃やしてもいい匂いしなかったろうな。 ・・・・いや、でもだダニー。ぷにぷにしてるところもあったし意外とあぁいうのを燃やしても・・・・」 「黙れ。とにかくアレックスとイスカ嬢がやられてこちらは2人削れた事になるんだよ」 アレックスとイスカ。 5人の内2人がやられた。 「はいはいはい!」 「なんだい・・・お呼びじゃないよ」 「こうしゃべってる間にその敵二人を燃やしに言ったほうがいいと思う!!!」 「・・・・」 あまりに正論でむかついた。 ・・・・・・・から答えてやった。 「見てみな」 ツバメは親指を向けた。 先ほどツバメが出てきた闘技場の入り口。 そこは・・・ シャッターが閉まっていた。 「あっちはタイマン・・・っていうか同数戦を望んでる風だったからね。 うちが出て行って増員呼ばれるのをよしとしなかったんだろうね」 「あんなシャッター問題じゃねぇだろ?防火シャッターのつもりか? 燃やして破壊して無理矢理にでも突っ込めるだろ!燃やそうぜ!いや!俺燃やす!」 「焦るなっつってんだよ・・・・。じゃぁこの気絶した坊やはどうするんだい・・・。 このままここに放っておくのかい?せっかくなんとか生きて連れ帰ったのに・・・」 こんな闘技場の入り口に置いておいたら危険だ。 53部隊。 彼らが来た時にトドメだけ与えるサービスタイムだ。 「なるほど。アッちゃんとお侍じゃ天秤にかける必要もないな! アッちゃんのためなら俺なんでも燃やす!俺自身も燃やす!燃え滾る!! ヒャーーーハッハハハ!!萌えとは燃えで!燃え燃えはモエーーーーー!!!」 「いーや、天秤にかけるのは命じゃなくて道だよ」 「あんれぇ?・・・・・道?」 「道」 「極道ってやつかぁ〜?それともシシドウってやつかぁ〜?」 「死"始動"・・・・・死"指導"・・・死"私道"・・・"獅子"道・・・・いろんな呼び方はあるが、 うちが言ってるのは単純に人としての道だよ。イスカ嬢は「逃げろ」と言った。 そしてこれが一番の可能性のある道だとイスカ嬢は言った。イスカ嬢の考えを潰す気はないし、 イスカ嬢の決心した道を台無しにするつもりもうちにはない。そーいう事だよ」 「わけわかんねぇな」 「皆そう言うよ」 「つまり結論だけじゃ、逃げて、見捨てた・・・ってぇことじゃぁねぇーのぉー?」 「だから断ったけど、うちは最終的には承諾した」 「女と女のオッ約束ぅ〜〜♪」 とにかく、 逃げたとも、 見捨てたとも言われようとも、 ツバメは現段階でイスカを助けるつもりはないようだ。 それはイスカのためだから。 イスカの意志だからだ。 イスカがそうまでしてアレックスとツバメを助けた事に、 何か意味を持たせたかった。 無駄にはしたくなかった。 そして・・・ イスカはイスカの考えがあったのだろう。 それを潰すわけにはいかない。 ・・・・ 今となっては心を騙すいい訳になりえる決心だが・・・。 とにかく、 無駄にはしたくない。 「つまり、今ここで何かしなければいけない」 「アッちゃん燃やす!!!!」 「燃やしたくないのはあんただろ・・・」 「うーん・・・ジレンマ・・・・」 「そんなジレンマで悩むやつ初めてだよ・・・」 そう言いながら、 ツバメは闘技場の入り口を見た。 誰も入ってこない。 だから怖い。 「いつ・・・53部隊が来るか分からないのが怖いね・・・指定された時間はそろそろだけど・・・・」 「なぁーなぁー」 「・・・・なんだい」 「燃やしていい?」 「アレックスか?」 「んーんー♪」 「・・・・うち?」 「そ♪」 「ダメっつってんだろ」 「チェェー・・・・」 ダニエルはブーたれた。 「んじゃドジャっちは?」 「うちらがここを離れるわけにはいかないんだよ。 53部隊がどれだけの数で来るのか分かんないんだからね」 「でもドジャっちやべぇぜ?」 「・・・・そりゃまぁ相手は44部隊。この坊ちゃんもイスカ嬢もやられるくらいだからね」 ・・・と、 ツバメはアレックスを見た。 《聖ヨハネ教会》・・・神族部隊・・・ジャンヌダルキエル。 それらに対し、共に戦った。 頼りないクセに、やけに頼りになる男だった。 だが、 それでも負けるのだ。 イスカも負けただろう。 同じシシドウ。 自分の方が劣っているとも思わないが、 やはり同じレベルで負けていただろう。 「いやいや」 ダニエルは適当に返事した。 「問題はドジャっちも2対1な事だよな」 「・・・・・・・・・は?」 「さっき変な速い奴が入ってった。気付いてないつもりだろうけど俺は気付いてた! 俺すげぇ!見逃さねぇ!さすが神族(らしい)俺だよな!ヒャハハハハ!!」 「ちょ、ちょっと待ちな!」 「んー?」 「何か入ってったんだろ!?それ今まで悠々と黙ってたのかい?!」 「トイレとすれ違いだったしメンドかったからなー。 それに俺ドジャっち嫌いだし。でも燃やすなら俺が燃やしたいなぁとか今思ったりし・・・・」 「アホか!!あんたはどんだけ自分勝手なんだ!」 「・・・・は?」 「あんたのそのきまぐれな行動で状況が悪い方に・・・・」 「・・・・・・・・嬢ちゃん」 ダニエルは急に真剣な顔もちになり、 ツバメに迫った。 「あんたは勘違いしてる。勘違いしてるねぇ。"俺を仲間だと思ってんだろ"。 違うね。違うぜ。俺はあんたらじゃなくて"アッちゃんの味方"だ。 それだけが確定で・・・・その範囲内で俺の好きなように行動する。それだけだ」 「・・・・く・・・」 「・・・・・ニヒ♪」 ダニエルはそこで顔を緩ませる。 「ヒャーッハハハハ!!ビビった?な?ビビっちゃった?俺悪人だねー! 大丈夫!ウソウソ!嘘じゃないけどウソ!俺いい人よん♪信頼してねー♪ そうだな!結果的にアッちゃん追い詰める事になってそうだからオレ謝るぜ!俺間違ってた!」 ダニエルが指をパチンと鳴らすと、 火花が散る。 そして指先にライターのように火が灯る。 「ま、謝ったところで結果は同じだけどねー。俺達はここを動けない。 なら結果オーライ。結果オォーーーーライッ!ってなもんじゃねぇーか!」 「状況を理解するのと知らないのとでは大違いなんだよ」 「そなの?」 「そうだ」 「芋づる方式で全部燃やせばいいのにー♪それで解決!全部焼き芋!俺ホックホク!」 頭の悪い奴だ。 いや、 頭のおかしい奴だ。 完全に自由行動。 アレックスという餌があって初めて使える人間・・・か。 いや、 人間でもなかったか。 神族・・・。 ほんとにこんなのが神族なのか? 翼も無ければ空も飛べない。 こんなのが・・・・ 「・・・・・翼・・・か・・・・」 ツバメは空を見る。 といっても天井だった。 闘技場の入り口。 ホールとも呼んでいい、 室内なのに砂の地面。 「翼〜が〜欲し〜〜ぃ〜〜〜♪・・・ってかぁ?」 「・・・・」 「あれ?違うの?」 「気にするな」 「あちゃー。俺の事だったかな?いや、俺別に翼とか欲しくねぇし!それでも神族だし! だけど人間だし!ただ俺はアッちゃんが認めてくれた人間ダニエルであればそれでいい!」 「どうでも・・・・」 「"お客さんだぜ"」 「!?」 突発的なダニエルの言葉と共に、 入り口を見た。 2人。 人間が2人入ってきた。 「ん〜〜〜♪ヒャッホイ♪ここが闘技場ねぇ?入り口から入るなんて久しぶりの出来事だこりゃ」 「裏口専門家だからな俺達は」 「ま、そうだな。・・・ってあれ?そういやよぉ、やったことないから分かんねぇけど、 パンピーって用件あるときはインターホン(呼び鈴)鳴らすんじゃなかった?」 「今更常識などどうでもいいさ」 「そだな。俺達表世界の常識なんて分かりっこねぇしな」 入り口。 闘技場の入り口。 ・・・・と言っても、 扉も何もない。 ただ門のように開いている闘技場の入り口。 そこから二人の男が入ってきた。 異様な雰囲気を纏っている。 分かる。 姿を見ただけで分かった。 ・・・・。 53部隊(ジョーカーズ)だ。 「そういえばスザク」 「あぁーん?なんだ?」 「シドから連絡は」 「ねぇねぇ。ねぇーよ。むしろあったらこっちがビクついちまう。その辺ブラブラしてんだろ」 スザクと呼ばれた男。 下の名前だけでフルネームは分かる。 恐らく、 スザク=シシドウ。 片目に眼帯がついていた。 左目を覆っている眼帯には"伍参"と書かれている。 自己主張の高い暗躍者だこと。 「ふん。まぁいい。仕事は仕事だ。俺らの家業はそれさえ忠実にこなせばいい」 もう一人の男。 落ち着いた様子のある黒髪だ。 名前は呼ばれていないから分からないが、 "ツバメには分かった" 同業、 シシドウの中での知っている者はいる。 あいつは・・・・・ 「よぉよぉ、ヤクザ姉ちゃん」 「・・・・・なんだ」 「あれが53部隊だな」 「そうだ」 「ふん。一目で分かったぜ」 ・・・・。 と言っても、 ダニエルはスザクの眼帯に"伍参"と書かれているのを見て、 見抜いた気になっているだけだが。 「ん?おうおうあんちゃん!」 「どうした」 「あそこに人間が二人いやがんぜ!ヒャッホイ!あれが敵かぁ?」 向こうもこちらに気付いたようだ。 53部隊の二人の男。 ・・・・。 武器らしき者はもっていない。 ならば修道士か魔術師か。 ・・・・いや、 引き締まった体付きからして両方修道士だろう。 「ん〜〜?」 スザクは、 風景を見るかのごとく、 片手で額に傘を作ってツバメ達を眺める。 「あんりゃー?なんかキメェ赤い魔術師と・・・・うぉ!?」 眼帯の男。 スザクは、 突如何かに気付いたかのように、 片目を見開いた。 「あ・・・あの女は・・・・ヒャッホイ!!!!♪」 そして・・・・ 「なっ!?」 「来っるぜー♪」 あまりにも唐突に。 スザクという男が走り出した。 突っ込んでくる。 両腕を大きく振り、 一目散に向かってくる。 「いきなりやる気か!?」 「・・・・ヒャーッハッハ!早漏大好きよ俺♪」 ツバメが即座にダガーを構える。 ダニエルの両腕が燃え上がる。 ・・・・。 来る。 突っ込んでくる。 「ヒャッホォーーーイ♪」 そして眼帯の男。 スザクは、 ズザァーー・・・・ ・・・・とヒザで滑り込んできた。 そしてツバメの前に滑って止まり。 両手を差し出すようにツバメに向けた。 ・・・・。 両手には一輪の花があった。 見つめる。 まじまじと、 眼帯の男はツバメを・・・ そして・・・・ 「結婚してくれ!!」 「「・・・・・・・」」 ・・・・・。 プロポーズされた。 正直頭が混乱している。 敵。 53部隊は有無を言わず敵だ。 向こうもそれを理解しているはずだ。 そして初対面である。 お互いにだ。 名も分かり合ってないはずだ。 なのになんだ。 「俺に毎朝味噌汁を作ってくれ!!」 この男は突然突っ込んできて、 一輪のショボい花を差し出し、 ツバメにプロポーズを始めた。 「・・・・は?」 やっとこさ、 ツバメは疑問を口にすることが出来た。 「ん?あぁいやいや」 スザクは花をしまい、 立ち上がり、 半分微笑みながウンウンと頷く。 「突然の事で驚くのは分かってる。うん。このスザクもよぉーく分かる。 すぐに返事をくれなんて野暮な事は言わねぇ・・・ただ!」 スザクはビシッ!人差し指をツバメに突き出し、 眼帯付きの顔をニヤりと緩ませる。 「子供の名前はヒバリちゃんにしよう!」 スザクは、 何かを確信しているように自信を持っているのだろう。 わけが分からないが、 もうツバメと結婚する気まんまんのようだ。 「・・・・な、何を言ってんだいあんたは・・・・」 「うわぉ?!おい!マジかよ!もう「あんた」だって!?いや、俺マジ照れるっての」 「いやいや・・・そういう意味のあんたじゃないよ・・・・」 「えぇー?んじゃなんなんだぁ?」 「他人的な意味のあんただよ・・・まんまだまんま・・・・」 「他人じゃないのに?婚約したのにか?・・・わかんねぇ・・・女心は秋の空・・・女心は難しいな」 「いつ婚約した・・」というツバメの言葉は届いてないようで、 スザクはまた自分で勝手に解釈し、 腕を組んで、 グルグルとその場で周り、 一生懸命考え出した。 「そうか!」 スザクは何かに気付いたように嬉しそうに片目を開ききり、 ツバメを見る。 「愛情の裏返しか!」 どう解釈したらそうなる。 どんだけポジティブな男なんだこいつは。 「いや、うちはあんたと結婚なんてしないよ・・・」 「へ?俺愛人は作りたくねぇんだけど」 「・・・・違う・・・お呼びじゃないよ・・・・何を暴走してんのか知らないけどね・・・ 愛人にも妻にも・・・・ってか根っこからあんたと愛を育もうとかそういうつもりは一切ない・・・」 「・・・・・ッ・・・・!?」 スザクはオーバーに驚く。 まるでツチノコでも発見したかのように驚いたポーズをしたまま固まった。 見てはいけないものを見て、 聞いてはいけないことを聞いたように・・・。 眼帯の暗殺者が、 驚いたまま石化したように静止している。 「・・・ま・・・まさか・・・・」 そう、 そのまさかだ。 「ツンデレ!?」 違う。 「ヤバい!日陰暮らしから出た瞬間、ツンデレっ子が嫁になった! なんだこれ!すげぇ!俺すげぇ!世界ってすげぇ!なんで世界って回ってんの!?」 なんだこの眼帯は。 会話にならない。 そして眼帯の男は、 そのままツバメの手を握ってきた。 両手で包み込むように握ってきた。 「死ぬまでよろしくお願いします」 「・・・・はやく死んでくれ」 ツバメが振り払うと、 スザクはニタニタ笑う。 「これもツンデレ」とか訳の分からない事を考えているのだろう。 「うん。だが旦那としてはだな」 「誰が旦那だ誰が」 「ヘソ出して包帯みたいなサラシをブラジャーにしてるのはいただけないな。 人にそんなお前の姿は見せたくない!そんな姿は俺の前だけにしてくれ!まじそそる!」 「やかましいわ!!!」 ツバメが怒鳴ると、 さすがにスザクはビクッと驚いた。 なんで?なんで? なんで?怒ってんの? といった表情。 なるほど。 馬鹿なんだなこいつ。 直に完璧に分からせてやらないと理解しないだろう。 ってことで、 「ハッキリ言っておくよ!うちは別にあんたの事好きでもなんでもないんだよ! いや、初対面でこの数分ですでに嫌いだ!嫌いだね!分かったら・・・」 「それもツンデレだよね」 「違う!心の底からだ!ハッキリ言って今この瞬間馬に蹴られて死ねばいいと思ってるよ!」 「なっ・・・・」 スザクはまるで世界の終わりのような表情をしていた。 なんで?なんで? スザクの頭の中の理論が崩れ去った。 混乱。 なんだ。 「・・・え・・・結婚してくんないの?」 「まだ言うか・・・・」 「・・・・・」 スザクは現実を知った。 現状を理解した。 やっと・・・だが、 ガクンと崩れ落ち、 闘技場の砂の地面にうなだれる。 「・・・・・お友達からか・・・・」 「・・・・それもねぇーよ」 「・・・・・・・・」 ポジティブは尽きないのかこの男は。 まるで起き上がりこぼしだ。 叩いても叩いても跳ね返って戻ってくる。 「ヒャハハハハ!何やってんだおめぇら!面白ぇな!敵同士でいきなり結婚か? 燃えるし萌えるねぇー。燃え上がるねぇ!赤い糸は導火線・・・・っとくらぁー?」 「お前は酔っ払いかい」 「仲人だ!」 「頼んでない」 「・・・・・・・ってぇーか?」 突如、 ダニエルの右手に炎が灯り、 右手を巻き込むようにメラメラと燃えあがる。 「・・・・敵だろ?敵なんだろ?」 そして、 ダニエルは右腕を薙ぎ払った。 それと同時に、 炎がスザクを襲う。 「・・・・とぉ!」 やはり修道士なのだろう。 スザクは華麗にバックステップをしてその炎を避けた。 「いきなり何すんだてめぇ!!」 「敵なんだろ?」 ダニエルの両手。 両腕。 それは炎に包まれていて、 ダニエルの表情は怪しい笑顔に包まれていた。 「んじゃー燃やしていいってことじゃねぇか。燃やしちまっていいんだろ?あ? 自己紹介とかいるのか?いらねぇよな?試合でもなけりゃ、戦いである必要もない。 殺し合いでさえなく、相手を殺しちまえばいいんだろ?あー?ヒャーーーハハハハ!」 ひとしきり笑った後、 ダニエルがニタァーっと笑う。 「お遊戯も見てて楽しいけどよぉ、俺は前戯ばっかじゃ我慢なんねぇんだ!早漏なんだよ! 燃やしたくて燃やしたくて我慢ならねぇわけよ!分かる?分かるよなぁ!?」 ダニエルは口を限界まで広げ、 限界までヒャハハと笑う。 燃やしたくて、 燃やしたくて、 ただ燃やしたい。 それ以外にはない。 それしか欲はない。 「ヒャーーーーハハハッハハ!!ハハ・・・ハッハーー!ヒャハハハハハ!!!!」 ダニエルの両腕。 火炎に塗れる。 火炎に包まれる。 誰の肌にも感じる。 熱く・・・増徴していっている。 「理由がねぇなら作ってやる!ゴングがねぇなら鳴らしてやる!ヒャハハ!! 無理矢理でも屁理屈でもなんでもいい!燃やせればそれでいいんだ俺は!! やろう!早くやろう!すぐやろう!燃えよう!燃えてくれよ!トンッロトロによぉおおお!!!」 ダニエルが両腕を二度振った。 それは一つとなった。 「燃えて砕けて弾け飛びなぁああ!何もかも!何もかもだあああ!!!」 放たれたソレ。 それは・・・フレアバースト。 火炎弾。 否、 火炎の爆弾。 爆発する大型の火炎弾。 「ヒャーーーァァァッハハハハハ!ファァーーイヤーフラワーーー!大花火ってかぁあああ!」 その、 超ド級の火炎玉は・・・・ 上へと打ち上げられた。 誰へでもなく、 上へだ。 火炎弾は天井にぶつかり、 炸裂し、 爆発し、 轟音と地響きを伴った。 「ヒャハハハハハハハ!!!!」 直撃した天井は崩れ、 破片が飛び散り、雹のように落下する。 闘技場の入り口ホール。 その天井に、 日差しの舞い降りる大穴が開いた。 「ヒャーーッハッハ!開戦!開戦だぁあ!導火線なんて待ってられるか!ハジけようぜぇえええ!」 理由なんかいらない。 もういいからやろう。 ほれ、 攻撃してやったから、 もう戦うしかないだろ? それがダニエル。 目的のためには手段を選ばない。 いや、 手段のためには目的を選ばない。 燃やしたい。 燃やすためなら目的などどうでもいい。 逆に手段も選びようが無い。 手段など、 燃やす以外にないのだから。 「ヒャッホイ・・・・イカれてるねぇあんた」 まだパラパラと落ちてくる天井の破片の中、 「・・・・・・・燻(XO)隊長以外にこんな狂った野郎見たことねぇよ」 スザクは、 眼帯付きの顔を引きつらせる。 「・・・・・自己紹介はいらねぇーっつってたが教えてくれ。あんた名前は」 「ダニエルだ。ダニエル=スプリングフィールド。ダニーって呼んでぇん♪」 「そうかダニー」 眼帯の男。 スザクは笑った。 「あんたはいい男だ」 「お?分かる?だけど俺はてめぇと結婚しねぇよ?」 「違う違う。手段に"ソレ"を選ぶのは気が合うって事だ。つまり俺がいい男ってこと!ヒャッホイ!」 ガンッ! と鉄と鉄がぶつかったような音がした。 それはスザクの右拳と左拳。 それがぶつかった音。 それはまるで・・・・ "火打ち石" 「俺も炎なんだよ」 そして、 スザクの拳。 拳骨と言ってもいい。 そこに火の玉が燃え上がった。 スザクも炎。 拳が炎で包み込まれる。 「炎・・・」 「あぁーん?てめぇも魔術師か」 「ノーだな。俺はバッチリガッチリ修道士だ」 まるでボクサーのグローブのように赤く燃える両拳。 その右拳を突き出し、 中指をチョイチョイッと動かす。 「"炎の拳"。修道士の技だ。炎拳の焼却屋。それが俺の53部隊での仕事でねぇ。 闇の仕事は証拠隠滅が超重要。"塵も残さねぇ"ってのが俺の仕事だ」 炎を扱う修道士。 スザク=シシドウ。 焼却屋・・・か。 44部隊のようにただ戦闘を行うだけの能力ではない。 実務的な能力。 それが53部隊か。 スザクは、 突然その炎に塗れた拳。 その人差し指をツバメに向けた。 「やい!俺の嫁!」 「誰があんたの嫁だ」 「俺は絶対あんたのハートに火を付けてやる!見とけよ俺の勇士!」 「・・・・うちもあんたの敵だ」 「関係ねぇ!恋に障害は付き物だ!その方が恋の炎は燃え上がる!まさにファイヤーウォール!」 「・・・・・なんであんたはうちに固執すんだい。初対面だろ」 「一目惚れに理由はねぇ」 そう言いながら、 スザクは眼帯のついた顔をニヤりと緩ませる。 決まった・・・とでも思っているのだろう。 「・・・・と、言いたいところだが、理由のない恋なんてねぇ。 俺はこれでもストライクゾーンを小さめに作ってるつもりだが、あんたはまさにストライクだった。 一目でドンピシャだったね!心がカァー!っと熱くなって!目が飛び出るぐらいシャッター切った! こんな俺好みの女はいねぇって思った!ならそれ以上理由はねぇ!メンドいのは無し!つまり結婚!」 どんだけ飛躍するんだ。 つまるところ、 いいなと思った女にがっついただけだ。 「ヒャハハハ!また俺を無視か!?てめぇの相手は俺になったんじゃねぇーのー?」 「嫁との夫婦会話を邪魔すんな。いい気になんなよかませ犬」 「あん?」 「てめぇは俺の嫁に俺のカッコいいところを見せるためだけのかませ犬だ」 「ぉ?おーおーおー・・・そりゃムカツクな・・・ムカツク・・・ヒャハハハハハハハ!!!!」 むかついてるのになんで笑っているんだ。 だが、 ダニエルはどちらかというと嬉しそうだった。 「いいね!マジムカツクよ!いいよてめぇ!"燃やしがい"がある。 俺の放火欲っつーのはよぉ、つまるところ食欲や性欲とおんなじだ。 よりおいしくいただければ凄くイイ。怒りや哀しみってのはとてもいいスパイスなんだよ!」 ダニエルは顔を愉悦に歪ませ、 舌を爬虫類のように舐めまわした。 「もっとスパイスをくれ!スパイスかけまくってコンガリ焼いてやんよ!ヒャハハハハハ!!」 「・・・ヒャッホイ♪・・・やっぱ変態だな。なら気兼ねなく焼却できるな。見とけよ俺の嫁!!」 スザクがツバメに言い放ち、 そして、 ダニエルとスザクは本格的に対峙した。 つまるところ、 ツバメのつきいる隙はなさそうだ。 「お呼びじゃないってか・・・」 ツバメはため息をついた。 敵のスザク。 なんだかしらんが好かれているようなので、 はなからツバメを相手にしようとしていない。 ま、 それならそれで有利とも考えられるが、 味方・・・・ 味方?のダニエル。 それこそ邪魔すんなって雰囲気が感じて取れる。 俺の獲物だってな雰囲気だ。 先ほど言われてばかりだ、 ダニエルならばツバメを容赦なく燃やしてくるだろう。 「・・・・・ま、好都合だけどねぇ」 ツバメは目線を変える。 スザクが「見とけよ俺の嫁」とか言ってたが、 そんな義理はないし、 見とく理由はないし、 それに、 嫁じゃないから。 嫁じゃないからむしろ見る必要はないだろ。 という事で・・・・ 「・・・・・」 ツバメが興味あるのは"もう一人" まるで取り残されたかのように。 まるで部外者のように。 スザクと一緒に来た黒髪の男。 前髪以外、 全方向に均等に流れる黒髪の男。 闘技場の入り口で、 部外者のようにもたれかかり、 両腕を組んでいるその男。 ツバメはそちらに興味があった。 こちらは知っている。 向こうもモチロンこちらを知っている。 「ヒャッホイ!!」 「ヒャーーーハッハッハッハ!!!」 ダニエルとスザクの戦いが始まったようだ。 ひん曲がったイカれ野郎と、 真っ直ぐすぎるイカれ野郎。 炎と炎。 赤髪と、眼帯。 眼帯が突っ込んだ。 「コソコソしずに戦えるってぇのは最高だなおい!ヒャッホォーイ!!」 眼帯の修道士が、 炎の拳を持った修道士が突っ込む。 その腕は、 マッチ棒のようだ。 細いという意味ではない。 先だけ点火されている、マッチ棒のような腕。 「ヒャーッハッハ!キャラ被ってるから消してやんよ!炎キャラは俺だけでよくね? 俺=炎なわけだかんな!ってぇーことで焼却処分してやらぁ!こいや!」 一方ダニエルは待ち構えた。 ・・・・というより、 ただ両腕に炎を渦巻かせ、 ニタニタと笑いながら立っている。 「うっせぇ!焼却って言葉は俺に使わせろ!!」 拳。 炎の拳が突き出される。 真っ直ぐなパンチだ。 先ほどのプロポーズのような真っ直ぐ過ぎるパンチ。 「ヒャハハハハ!!!」 ニタニタ笑いながら、 ダニエルはその拳を掴むように止めた。 「魔術師の腕に止められるなんて恥ずかしいねぇ♪」 ダニエルは片腕で止めた。 掴むように止めた。 炎の拳を、 炎の手が止めた。 スザクの炎。 ダニエルの炎。 それが入り混じる。 双方の手がぶつかっているからこそ、 双方の手の炎が混じりあった。 「確かに・・・なっ!」 スザク。 止められた手を引く。 繰り出したパンチ。止められた右拳。 それを引く・・・ と同時、 ぐるんとその場で360度。 コマのように360度スザクは回転し、 今度は左拳。 炎を纏った左拳が、 スザクの体を軸に火の粉を振りまきながら360度回転し、 「ヒャッホイ♪」 バックブロー。 裏拳。 それがダニエルのホホに直撃し、 ダニエルの顔が弾き飛んだ。 ボクシングで汗が飛び散るように、 火の粉が飛び散った。 「・・・・・・・・・・・・・・痛ッ♪・・・・」 ぐりんと、 90度弾かれたダニエルの顔。 顔だけ弾かれたダニエル。 ダニエルはそのまま、 顔を90度弾かれた状態のまま、 「痛いじゃねぇの・・・・ヒャハ・・・ヒャハハハ!!」 爬虫類のように舌をペロンと出し、 横目でスザクを睨みながら笑う。 「燃えるじゃねぇか・・・いいスパイスだスザクちゃん!てめぇ"いい消し炭"になるぜ!」 ダニエルは愉悦の表情のまま、 両手をクロスさせるように振り上げる。 ×の字にクロスさせるように、 炎に塗れた腕を振り上げる・・・と、 「燃え尽きなぁ!!!灰に!HIGHに!廃になれぇやぁあああああ!!!」 フレアシールド。 攻撃は最大の防御・・・を間違って実践したようなスペル。 ダニエルの目の前に形成された盾状の炎が、 斜め上に、 斜め前に吹き飛ぶ。 「・・・・とぉ!ヒャッホィ!!!」 スザクは、 斜め後ろにバックステップで避けた。 斜めに、 噴水の水の一部を切り取ったように吹き上がるフレアシールドを、 避けきる。 ここはやはり魔術師と修道士の違いか。 機動性が違った。 「当たらぬ炎より当たる炎♪大は小を兼ねるってのは効果があるって前提条件の上だけだぜ?」 当たらなければ意味がない。 ズザァと斜め後ろに滑りながら、 スザクは指をチッチッと振る。 炎に塗れた指は、 その指の振り子に合わせて火の粉が小さく舞った。 「俺の炎は拳だけだが、拳だけで十分なんだよ」 「ばーか!ばぁーーーか!炎なんていっぱい出た方がイーに決まってんじゃねぇーかバーカ!!」 「それじゃすぐ種(MP)切れになっちまうよバーカ!」 「残念バーカ!ヒャハハハハハ!俺をそこらの魔術師と一緒にすんな! 俺は神族なんだぜ?ハッキリ言って底なしの魔力ってぇーなもんだ!・・・俺も知らんかったけど!」 底なしの魔力。 神族。 今だからこそ納得する。 全てが全てダニエルの魔力の炎だけじゃないしろ、 ミルレスを焼きつくしたり、 カプリコ砦とノカン村を焼き尽くしたりと、 常人に出来ない範囲の魔力がダニエルにはある。 ダニエル=スプリングフィールド。 いや、 神族カルキ=ダニエルか。 「・・・・あん?てめぇ神族なのか」 「そーっだよぉーーーーん♪・・・・多分」 「多分ってなんだよ」 スザクの眼帯をしていない方の目が怪しむ。 「大体よぉ、羽が生えてねぇじゃねぇか羽。俺ぁ羽生えてねぇと神族って認めねぇなー。 ま、俺と俺の嫁を祝福してくれる愛の使者キューピットっつーんなら大歓迎だがな!」 「ヒャハハハ!至高の愛の形、"心中"ならいつでも叶えてやんよ♪ あのヤクザ姉ちゃんも燃やしたいからな♪いーーーい肉つきしてて燃やしがいがある!」 「なっ!てめぇ!俺の嫁狙ってやがんのか!?」 「狙ってない人間なんていないよぉーん♪この世の全てを灰にしたいからな!ヒャハハハハ!」 こんな身近に世界滅亡を夢見る男がいるとは。 ダニエル=スプリングフィールド。 職業:放火魔。 趣味:放火。 種族:神。 最近の神様は放火がお好き。 さすが神様。 世界ぐらい燃やしちゃってもいいと思ってるんですね。 「俺の嫁はテメェの味方じゃねぇのか!?」 「俺の味方?ヒャーーーハッハハハハ!俺の?このダニー君の味方? ヒャハハハ!ねぇーーーーーよ!俺の味方なんてこの世にいねぇ!存在しねぇんだよ! 俺が一方的にアッちゃんの味方ってだけ!あの姉ちゃんも俺の敵じゃないってだけだ!」 「敵じゃなくても燃やすのか?」 「んー?いんやー、もし味方でも燃やすけどな!ってか味方ならなお燃やしたいじゃねぇか! 俺!何回もそれやってきたんだよね!もともと王国騎士団でさー!昔はよく居たのよ!仲間! でも仲間燃やしたらクビになった!なんで!?ヒャハハ!世の中理不尽ですよねー!! それで燃やしてクビを繰り返してギルド転々としてたら付いたあだ名が『チャッカマン』!」 点いては消える。 点いては消える。 まるでチャッカマン。 いつだろうと、 どこにいこうと、 結局チャッカマン(発火装置) 点くか消えるかしかなく、 消えてもどうせどこかで発火する。 しょうがない。 発火装置は発火するのを目的に産まれてきたのだから。 問題児はどこに行ったって火をつけるもの。 『チャッカマン』ダニエルはとても的を得ているあだ名だ。 「チッ・・・」 スザクは少しだけ、 ほんの少しだけ不機嫌になったようだ。 「危ねぇ野郎だ。俺は俺の嫁をてめぇから救うぜ」 「やってみなぁぁぁあ♪障害があったほうが燃えるのは俺も同じでなぁぁ♪ スパイスくれよ!燃やすために俺の心を燃え上がらせてくれ!ヒャーーハッハッハ!」 これじゃぁどちらが正義の味方なのか。 まぁもともと正義なんてない戦争なのだが、 立ち向かうから正義であって、 立ち向かわないのが悪だ。 逆に言えば、 立ち向かわれるようなモノは悪なのだ。 愛する女を守ろうと立ち向かう男。 ヒロインを燃やそうとする男。 焼却屋と、 放火魔。 ・・・・。 もうどっちがどっちでもいいか。 馬鹿と馬鹿だ。 ハッキリしてるのは、 どちらが死んでも世界は少し平和になるだろうってことだ。 「神様が酷く勝手事言うもんだ」 「ヒャーッハッハッハ!俺の知る限り、神様なんてのは身勝手な事しか言わねぇよ!」 「まぁそうだな。汝の隣人を愛せる人になれ・・・とかな。いやま、俺はたった今そうなったが」 スザクは、 両拳をまた火打ち石のようにゴンッゴンッとぶつけた。 定期的に発火しなければいけないのだろうか。 というより魔術師ではないのだ。 スキルの発動を定期的に行うべきなのかもしれない。 はたまたきまぐれか、 答えは分からないが、 スザクの両拳の炎がさらに増加・・・増火した事は間違いない。 「んで変態神さんよぉ」 「ヘ・ン・タ・イ・・・でいいよぉーん♪」 「あんたの炎は無限に近くて、俺だけ種切れありじゃぁたまんねぇよな。たまんねぇよ。 さらに言うと、さっき炎の拳で殴った時思ったけどよぉ、あんた、炎ダメージほぼ無いな」 炎ダメージが無い? そういえば・・・だなぁとダニエルは自分で首を傾けた。 いや、 耐性があるのは分かる。 だが、 拳が痛かっただけだった。 頬に火傷はない。 昔はこの頬も体中も"火傷だらけ"だった。 自分を燃やしても熱かった。 んじゃなんだ? どうなってるんだ・・・自分の体は。 「ふーん・・・・」 ダニエルはニタァーと笑った。 「俺、マジで神族なんかねぇ。そういう事か。俺=炎・・・これは比喩じゃないかもな。 本当にマジにそんな感じか・・・そりゃいいな。スザク君!神様がいい言葉を与えよう!」 「あ・・・あん?」 「心頭焼却すれば火もまた涼し」 「心頭焼却しちゃうのかよ」 だがまぁ、 ダニエルをよく表している言葉だ。 頭の中放火の事でいっぱいなのだから。 まぁ、 焼却はすれど、消沈はすることはないが。 「ま、だがこのままじゃ割に合わないねぇ。あんたの炎は熱ぃのに、俺の炎は無効ってんじゃぁなぁ」 「ヒャーーハッハハハハハ!!世の中理不尽ねー♪」 「だがあんたの炎が神族の体だからこそ出せる底無しの恵みの炎・・・"神炎"だとしたら・・・・」 「したら?」 「人殺しが職業の・・・影で生きてきた俺みたいなんが使うのは・・・・"獄炎"ってとこだ」 スザクが右腕を掲げる。 その先の拳。 そこで・・・ 炎が暴れ出す。 まるで落ち着きのないよう、 炎がスザクの拳の先で踊り出した。 そして左腕も掲げる。 両拳の炎が暴れる。 スザクの両腕の先で、 メラメラと踊り出す。 「じゃぁ行くぜ。俺は焼却屋。地獄への案内人。死神の獄炎を見せてやる」 ガンッ! とまた、 火打ち石のような音が聞こえる。 スザクの左手。 スザクの右手。 それが、 真っ直ぐ、ぶつかった。 そして獄炎とやらが踊る両手が揃えて突き出された。 「地獄の釜に火をつけるのは俺だ!茹で上がっちまいな!!ヒャッホイ!!!!」 揃えられた両手。 スザクの両手から・・・・ 放たれた。 両手から一つの炎となり、 一つの炎の塊が・・・・放たれた。 「・・・・ほほぉ♪飛ばせるのかい♪」 だが、 驚きはほんの少しに、 ダニエルはニタニタ笑いながら突っ立っているだけだ。 飛んでくる炎の塊。 まるで魔法。 避けない。 当然だ。 「俺に炎は効かないんだよバーーー・・・ガッ!?」 ダニエルの顔が後ろに吹っ飛ぶ。 首に切れ目の入ったゾンビのように、 パーカーの後ろのフードのように、 天井を見上げるように、 頭だけガクンッと後ろに跳ね飛ばされた。 「・・・・・あれ?痛ぇ・・・・」 炎がぶつかり・・・ 頭だけ上を向いた状態でダニエルは疑問。 なんで炎が痛いんだよ。 炎無効化。 そういう神族としてのズルい能力じゃなかったのかよ。 勘違い? 「なんで!?」 ギュイン!とダニエルは首を戻すと同時に、 疑問を飛ばす。 あっ・・首が痛い。 メッチャ痛い。 二回も攻撃食らったからか。 やべぇ、 メッチャ痛い。 ヒビ入ってねぇ?これ。 涙出そう。 でも我慢しとこう。 「なんで?なんでだろうねぇ♪ヒャッホイ♪」 ガンッ!とまた火打石。 スザクの両拳がぶつかり、 発火する。 両拳がマッチの先のように発火する。 「教えてあげるぜ?神様に授業だ。あんたは炎が無効でも・・・"気"は違うだろ?それが"俺の獄炎"」 またスザクは両手を合わせる。 両手で一つの発射台。 「もっと強力に行くぜ!茹で上がってちまいな!ぁぁぁ・・・ああああ!!!イミットバーナー!!」 発射される。 両手の発射台から、 炎の塊が。 ・・・・。 "イミットバーナー" スザクはそう言った。 つまるところ・・・ 彼の言うところの、 イミットゲイザーとの味噌汁(MIX)。 彼は炎の拳の炎を、 イミットゲイザーと混ぜ合わせる事で放射できる・・・。 異能。 獄炎。 修道士だからこその、 唯一ダニエルの天敵である炎。 神に対する死神。 神炎に対する獄炎。 「・・・・火から逃げろってか。面白くねぇ・・・・面白くねぇ♪」 と言いながら楽しそうに、 ダニエルはそれを避ける。 ニタニタ笑いながら、 それを避ける。 ・・・・ 避けれなかった。 運動神経はあるほうじゃなかった。 脇腹にぶつかる。 「あだっ!!」 「炎が痛いってどんな感じだい?ヒャッホイ!!」 すでに次の準備に入っている。 火打ち石が鳴り、 スザクの両手は発射台。 スザクの両拳は発火台。 イミットバーナー。 炎のイミットゲイザーがまた放たれる。 「ヒャッホォーーーーイ!!!」 炎。 炎のイミットゲイザー。 イミットバーナー。 なるほど。 面白い能力だ。 自分が炎に強く、 炎に耐性があり、 炎が無効だとしても食らってしまう炎。 まさか炎使いである自分が炎に怯えなければいけないなんて。 そして個体の機動力では大負けだ。 魔術師、 そして修道士。 奴は避けれるが、 自分は避け続けれない。 こんな理不尽が・・・・ 「・・・・・ん?」 ダニエルはふと思った。 飛んでくるイミットバーナー。 炎と気にミキサー。 その塊。 それを避けるのもやめ、考えた。 「あだっ!!」 今度は体ごと吹っ飛んだ。 痛いものだ。 痛いものだ。 後ろに吹っ飛び、 転がりながらダニエルは「うーん」と考えた。 「・・・・なぁ」 ダニエルは転がった後、 無様な格好のまま、顔だけ起き上がらせて聞く。 「あだだ・・・よいしょ」 神族的ななんかが覚醒してから体がちょっと頑丈になったのかな? まぁどうでもいいやと立ち上がりながら言う。 それよりも気付いた事だ。 「いや、その炎がすっげぇけどよ。いやまさか俺が怯える炎があるなんて思わなかったけどよぉ。 つまるところそれ、イミゲの気が混じってるから俺に通用するわけだろ?」 「ヒャッホイ♪そうだ!ビビったか!?」 「じゃぁ、最初からイミゲ撃てばよくね?」 「・・・・・ッ!?」 次のイミットバーナーの準備に取り掛かっていたスザクは・・・ 固まった。 ・・・・。 両手を突き出した状態で、 石のように固まった。 ・・・・。 言っちゃぁいけなかったか・・・。 「・・・・・・・・」 スザクは震えている。 あまりに・・・。 あまりに図星だったからだろう。 イミットバーナー。 確かに凄い技だ。 驚愕の新技だ。 だが、 炎はダニエルに聞かない。 イミットゲイザーが混じっているから、その気によるダメージがあるというならば。 最初から気だけでよくね? イミットゲイザーでよくね? 「・・・・おま・・・」 スザクはその眼帯付きの目を背けた。 「・・・・炎ついてた方がカッコイイだろが・・・・」 「なるほどな」 しょうがないから納得してやった。 っていうか、 まぁそれは火フェチの自分としても思うので納得してやった。 うん。 イミットゲイザーよりカッコイイな。 イミットバーナー。 「・・・・・・・・うっせぇ!!!んじゃやめだやめだやめだ!!!」 眼帯の男は、 そのまま何か駄々をこねるように両手の炎を消した。 「あん?」 「やーめだ!焼却屋やめ!」 「それはとても惜しい事するな♪放火が仕事なんて世界で一番魅力的な仕事なのによぉー♪」 「仕事はソレだが、能力は違うってぇもんだ!」 スザクは、 突如両拳に力を入れ始めた。 いや、 全身に力を入れ始めた。 眼帯の"伍参"の字がブレる。 「ぁぁああああああ!!!!」 そして・・・ 両拳・・・ 光る? いや・・・渦巻く・・・・ それは・・・・ 「ヒャッホーィ!!!」 ・・・・カミナリ。 稲妻。 電気。 スザクの両拳に、 渦巻く電撃が発生した。 「・・・・今度は"稲妻パンチ"だ」 「今度は電気屋さんッスか♪」 スザクの両拳で、 バチバチと弾ける電撃。 稲妻パンチ。 気によって発生した衝撃が、 スザクの両拳に渦巻く。 「てめぇに合わせてやってたけどよぉ、俺はこっちもイケるんだよ!」 「両刀か。あんたイケる口だねぇ♪」 「変態みたいな卑猥な言い方すんな!俺は嫁一筋だ!!ぁぁぁ・・・ああああ!!」 スザクはまた両手を合わせた。 右拳、 左拳。 その稲妻が一つに混ざり合う。 イミットバーナーの時と同じ構え。 ならば・・・ またイミットゲイザーをミックスして飛ばしてくるつもりか。 「行くぜヒャッホイ!!・・・・・イミットスパァーーークッ!!!!」 イミットスパーク。 電撃が走る。 雷が横に走る。 スザクの両腕から、 電撃によるイミットゲイザーが放たれた。 「なるほど・・・なるほどなるほどねぇ」 ダニエルはニタニタ笑う。 両腕を炎に渦巻かせたまま、 ニタニタと笑う。 「雷か・・・そいつぁ俺には関係ないわな。まんま食らっちまう。ヒャハハ! ソレなら「イミットゲイザーでよくね?」とか野暮な事言わねぇよ・・・だが」 ダニエルは、 両腕を薙ぎ払った。 下から上へ。 ×字に。 クロスさせるように振り上げる。 フレアシールド。 波を両手でバシャンと払うように、 盾状の炎がダニエルの前で斜めに吹き上がる。 「浮気はだめよん♪」 その炎によって、 スザクのイミットスパークは消し飛んだ。 いや、 相殺したというべきか。 「これで対等ってとこだぜ?いい気になんなよ♪」 「ヒャッホーィ・・・燃えるねぇ・・・そしてシビれるぜ!」 バチバチと渦巻くスザクの両腕。 対等。 いや、 これで戦いになるというべきか。 まぁ対等。 その言葉はおかしいかもしれない。 いい気になってみたが、 「ヒャハハハハハハハ!」 余裕もって馬鹿みたいに笑っているダニエルに不利だった。 さきほどから分かっている。 決まっていた。 機動力の違い。 魔術師と修道士。 その徹底的な差。 向こうの攻撃は当たり、 こちらの攻撃は当たらない。 大は小にかねる。 それならば結果は見えていた。 「でも俺神らしいし!どーにかなんじゃね!?」 「うっせ!神なんて関係ねぇよ!」 「翼が無くとも神は神〜♪あぁ!なんで神様!なんで俺には翼がないんだ!・・・・哀しくねぇけど」 「ツバサツバサうっせぇな!うっせぇよ!そんなにお呼びか!?」 「あん?!」 「へへっ・・・まぁいい。シビれる・・・シビれるぜ・・・・・・いいかっ!ここから俺の晴れ舞台だ! 電撃ビリビリ感電させて丸コゲに焼却してやるぜ!おい!!見てろよ俺の嫁!!!」 スザクは、 ビシっ!と電撃に塗れた指を突きつける。 嫁・・・ もといツバメの方に。 だが、 当たり前かもしれないが、 ツバメは見てもいなかった。 「・・・・・・・」 「・・・・・・・」 ツバメは・・・・ 向かい合っていた。 もう一人の男。 黒髪の53部隊の男と。 無言で。 何をするでもなく。 牽制し合うように。 黒髪の男は闘技場の入り口の壁に、 両腕を組んで冷静にもたれているだけだった。 「・・・・・・・・・・・・ツバメ=シシドウ」 長い硬直の後。 どれくらい間があったか。 黒髪の男は口を開いた。 「愚かだな。今更ノコノコと姿を見せるとは」 「愚かは否定しないよ。そして今更だから・・・・さ。一族に決着をつけたくてね」 「シシドウに・・・か。"死始動"。死によって始まる一族。"お前はもう死んだんだよ"」 「・・・・黙れ!」 「・・・・・」 黒髪の男は、 ふと、 闘技場の壁から背中を離した。 そして、 ・・・・フッ・・・と小さく笑った。 「さらに来客か」 冷たいその黒髪の視線。 それが突き刺さるように吹き抜ける。 背後。 とっさに見てしまった。 ダニエルとスザク。 彼らも気付く。 「・・・・・うっわっ・・・どうなってんだこりゃ・・・・」 「なんかアレだな」 「「修羅場!!」」 一つの闘技場の出入口。 そこから・・・・ 二人の男が出てきた。 「あれなんだ?マイケル」 「もしかして53部隊か?ロベルト」 「っぽいな」 「っぽいよな」 「悪者くせぇ顔してんな」 「してんなー」 「「3人もか」」 ・・・・。 どうやら、 その悪者っぽい男の中にダニエルも含まれているらしい。 それはまぁ・・ しょうがないかもしれない。 「いや、アレじゃね?違うんじゃねぇかマイケル」 「ん?」 「でもあいつは昔王国騎士団に居た奴じゃね?」 「あー、『ハッカマン』ダニエルか」 「違う違う。それじゃぁスースーしそうじゃねぇか」 「じゃぁなんだった?」 「『ヒャッカマン』じゃなかったか?」 「おー。品揃えがよさそうだな。・・・違うだろ!」 「んじゃ『バッカマン』?」 「まんま馬鹿そうだな。なら『カッカマン』」 「偉そうだな。ちげーよ。きっと『ニックマン』?」 「おいしそうだなおい。多分『ネッカマン』だろ」 「性別詐欺かよ」 「あー、わかんね」 「・・・・」 「・・・・」 「「もーーなんでもいいかー」」 ということで、 マイケル=リーガー。 ロベルト=リーガー。 リーガー兄弟の登場だった。 「・・・・チィ・・・もう来たか・・・・って事はイスカ嬢は・・・・」 ツバメは不安になる。 分かっている事。 分かっていた事だ。 あの二人。 あの二人が無事という事は・・・・ 「・・・・・」 ロベルトの後ろ。 引きずられている一つの影。 ・・・・。 イスカだった。 「やっぱ・・・無理だったんだね・・・イスカ嬢・・・」 イスカは、 気を失った状態で運ばれていた。 ここまで引きずられていた。 敗北。 44部隊の前に、 イスカは儚く負けた・・・・それが結果だったようだ。 「うぉ・・・・おい!!おい!!!」 スザク。 53部隊としても44部隊とは初対面なのだろう。 影で生きてきたのだから。 いや、 53部隊は44部隊を知っていても、 44部隊は53部隊を知らない。 その53部隊。 44部隊の影で光を浴びずに生きてきた切り札の一人が、 44部隊の姿を指差し叫んだ。 「・・・・・・・・・くそ・・・・なんてこった・・・・」 いつの間にか稲妻を消していたスザクは、 顔を片手で覆った。 "伍参"と書かれた眼帯の無いほうの目が覆われ、 スザクは、 顔を片手で覆ったまま頭を振った。 「こんなことが・・・・」 そしてスザクは片手を離し、 また現状を目にし、 驚愕の事実を目にする。 「嫁が増えた・・・・・」 「「・・・・・」」 スザクの目は、 意識のないイスカにいっていた。 「な、なんて世の中だ・・・ドストライクな女がもう一匹現れやがった・・・ふざけんな・・・ やべぇ・・・結婚しかねぇ・・・これもう結婚しかねぇよ・・・って馬鹿か俺!!」 スザクは自分で自分に活を入れる。 うん。 馬鹿だ。 自分でやっと理解してくれたか。 「さっき俺の嫁一筋だと決心してばっかだろう!なのに・・・どうしよう!あいつも俺の嫁だ! 俺の嫁が二人!?何!?そんな馬鹿な事があってたまるか!ふざけんな! お、おい!マイソシアってぇのはいつ一夫多妻制に変わるんだ!教えてくれ!!」 スザクは必死の形相で周りを見渡す。 ・・・・。 当然誰も返事をしない。 ツバメも、 ダニエルも、 マイケルも、 ロベルトも、 黒髪の男も、 誰も返事をしない。 「あぁ!なんとかしてくれ神!」 「こんな時だけ神よばわりすんじゃねーよ」 ダニエルもさすがに笑顔じゃなかった。 ダニエルでさえ呆れた。 「結婚・・・やべぇ一日に2回も結婚?結婚式ダブル?イカルス予約間に合うかな・・・・。 ま、まて!ってぇ事はハネムーンはどうなる!?どっちかを後回しになんかできねぇ! じゃぁ両方一緒に行くべきなのか!?馬鹿か!初夜はどうなるんだ!俺のナニは一本しかねぇぞ!」 一人で馬鹿のようにのたうち回っている。 苦渋。 2人の女を愛した男の苦渋。 苦汁。 全く見当違いの悩みに、スザクは悶えるように必死だった。 「そ、そんな俺を取り合うなって・・・」 ヨダレが出ている。 なんか悩みは妄想に変わったようだ。 まぁ、 もうほっとこう。 「で、」 「どうなっちゃうんだ?これ」 ロベルト。 マイケル。 彼らはイスカをずるりと地面に落とし、 聞いた。 「ギルド側が2人」 「俺ら44部隊が2人」 「53部隊が2人」 「2と2と2」 「でもあれだよな?」 「俺らは帝国アルガルド騎士団」 「44部隊と53部隊は仲間だ」 「なら2対4か?」 そうだった。 向こうは向こうで仲間なのだ。 今は最悪の状況だ。 増援が駆けつたようなものなのだ。 それも、 44部隊と53部隊。 2対4。 1人づつでもハッキリ言って負けるのに、 倍となると・・・・。 「いやー」 「でも俺らはスポーツマンシップがあるからな」 「2対2ならやるけど」 「2対4ってぇならやめとくぜ」 そうだった。 リーガー兄弟。 彼らはよく分からないスポーツマンシップとやらを持ち合わせている。 数の合わない戦いはしない。 そう考えれば・・・・。 「どうでもいいな」 黒髪の男が答えた。 「燻(XO)隊長には、手当たり次第殺せと言われている」 「・・・・ほぉ」 「俺らもか?」 「当然だ」 「そりゃぁあれだな」 「ヤバいぜ」 「「反逆行為ってやつだ」」 「俺らの仕事を知らないようだな」 黒髪の男は、 表情も変えず、 冷たい表情で言った。 「俺らはバレる前に殺す。いや、バレても殺す。そんな暗躍部隊だ。 それが仕事なんでね。"死人に口無し"それを実行するのが俺達の仕事だ。 俺とスザク。俺らが揃えば、ここに"事実など何も残らない"」 「ん?おー。ついでに死人の数さえもな」 スザクが遅れて会話に参加する。 死人に口無し。 それが彼ら。 彼らの仕事。 スザクの焼却作業も合わせて、 死人の数さえもハッキリしない消し炭が完成する。 ここに事実は残らない。 「怪談というものがある」 「ヒャッホイ♪それが俺達だ」 「居ないはずの53部隊。事実、王国騎士団員にさえ存在を知られていなかった」 「"それを見て、生きて帰った者はいない"・・・・なぁーーんて怪談あるよな? アレが俺達だが、だが、そんな怪談の方はウソだ。だってありえねーーー・・・だろ? それを見て生きて帰った者がいないなら、"誰もそれは知らない"んだからよぉ」 生きて帰った者が居ないならば、 それを伝える人間はいない。 「それを実現したのが俺達だ」 そう、 53部隊のように、 "まったく伝わらない怪談"となる。 知るものは死んでしまうんだから。 見たものは残らず死んでしまうのだから。 ウワサにさえならない怪談。 それこそが完璧。 生きて帰る者がいないというのはそういう事だ。 「ともかく、俺らはこの場において貴様らの仲間ではない」 「あらあら」 「そーーっすか」 「「そりゃ大変だな!」」 そう言いながら、 ロベルトとマイケルはニヤりと笑った。 うけてたってやるよ。 そんな表情だった。 どうすべきか。 そう考えているツバメの方に、 「俺らノケ者じゃね?ツバメッち」 ピョコピョコピョコとカニ歩きでダニエルが近づいてきた。 「・・・・・たまに可愛い動きするなお前・・・」 「だろー?ダニーちゃん可愛いー♪」 「まぁお前の言うとおり。カヤの外だな」 「だよなー。さっきまで盛り上がってたのになー」 「いや・・・同士討ちしてくれならばそれが一番だ。出来るならうちらは戦わずに数を・・・」 「そぉーーーんなのつまんねぇじゃーーーん!!」 子供が母親に文句を言うように、 ダニエルは大声で言った。 もちろん皆に聞こえただろう。 「へへー」 「ゲーマーがいるぜマイケル」 「だなロベルト」 「だけど」 「「ゲームは順番こだ」」 ロベルトとマイケル。 戦い方も考え方も違う二人だが、 左右対称のように構える。 「2対2対2か」 「なら公平」 「3つどもえでやるスポーツは少ないけど」 「公平こそがスポーツのルール」 「スポーツマンシップにのっとって」 「「試合開始といこうじゃねぇか」」 アレックス。 イスカ。 転がって気を失っている二人。 それを、 個人で倒した男が二人。 しかも、 エンチャントアーム使いの魔術師、 『ピッチングマシン』マイケル=リーガー。 爆弾ボール使いの盗賊、 『ファンタジスタ』ロベルト=リーガー。 彼らは、 個々の戦闘力を重んじる44部隊で唯一"チームプレイ"で戦う男達だ。 チームプレイは彼らの独壇場。 チームプレイこそ彼らのフィールド。 2対2対2。 2という数の戦い。 この構図は彼らが一番得意とするところだ。 「ふん」 「まぁ仕事は効率。役割分担は大事だねー」 黒髪の男と、 スザクも構えた。 スザクの腕。 それが火打ち石のようにガツンとぶつかり、 炎に塗れた。 炎の拳。 黒髪の男の腕。 それは・・・・ メシメシと軋んだ。 腕が軋んだ。 パンプアップ? いや、硬気功か鋼の肉体か、 腕が"硬質化"している。 「・・・・ざけんなよ」 ダニエルは顔をしかめた。 その理由はツバメにも分かる。 「好都合じゃないか」 その理由。 マイケルとロベルト。 黒髪の男とスザク。 奴らは・・・"双方睨み合っている"。 無視。 無視だ。 2対2対2と言っておきながら、 44部隊と53部隊が睨み合っている。 「ざけんな・・・シカトかよ・・・ありゃぁムカツク類のシカトだな・・・"無視しても問題ない"ってシカトだ」 相手とも見なされていない・・・という事か。 44部隊は53部隊を、 53部隊は44部隊を危険因子として敵視している。 スザクを見ればよく分かる。 あの眼帯の男。 炎の拳をまた発生させたということは、ダニエルを相手にする気がないという事。 「遊びは終わりか。お仕事だな」 「・・・・すぐに終わらすぞスザク」 「・・・・・ヒャッホイ♪」 「なめられたもんだなロベルト」 「あぁマイケル」 「俺達は無敵艦隊44部隊」 「最強の部隊44部隊」 「竜騎士部隊44部隊」 「世界最強ロウマ=ハートの44部隊だ」 マイケルはオーブを両手に取り出す。 ロベルトは萎んだ状態の爆弾を片手に取り出した。 「見せてやる。俺らの力」 「いや、魅せてやる。俺らの力」 「そうじゃなきゃいけない」 「俺達は負けるわけにはいかない」 「誇りがあるから・・・・・」 「プライドがあるから・・・・」 「さぁ」 「さぁ」 「プレイボールだ」 「ホイッスルだ」 「「試合開始(ゲームの始まり)だ!」」 マイケル。 ロベルト。 二人は双方に別れた。 別れた走った。 黒髪の男。 スザク。 彼らを両側から包み込むように。 「フォーメーションは覚えてるなマイケル!」 「忘れるわけねぇぜロベルト」 「コールドゲームにしてやろうか」 「あぁ」 二手に分かれたリーガー兄弟。 ツバメもやられた。 あのフォーメーション。 お互いがお互いをフォローするのではなく、 お互いがお互いを利用し、増幅する。 1度の攻撃が2度になり、 2度の攻撃が三度襲ってくる。 「ふん・・・遊びじゃないと言っただろう」 「そうさヒャッホイ!遊びでもなく、戦いでもなく、殺し合いでもねぇ!」 「俺らは殺す」 「それだけだ」 スザクの眼帯を付けた顔が、 ニヤりと笑みに変わる。 黒髪の男の無表情な顔が、 冷たくほんの微小笑みに変わる。 二人のシシドウが笑う。 「「さぁ・・・・・"死を始めよう"」」 マイケルは走った。 フォーメーション。 言い合わなくても分かる。 兄弟。 子供のころから一緒だ。 チームワークは完璧だ。 自分のオーブ。 投げたそれがはずれようとも、 "そこにはロベルトがいる"。 逆に、 ロベルトの蹴る爆弾が外れても、 "そこには自分がいる" パスは攻撃の延長。 リバウンドは攻撃の延長。 スポーツでのフォローは攻撃の延長を意味する。 それは逆に、 "ミスを恐れなくてもいい"。 個人で戦う時には分からないソレ。 個人で戦う時には考えてはならないソレ。 だが、 チームプレイだからこそ、ミスを恐れなくていい。 二人だからミスさえも攻撃に成り得る。 「それを証明してやるよ」 44部隊。 最強。 それを俺達兄弟で。 戦いは戦略。 ロベルトも分かっているはずだ。 スポーツマンシップってのは手加減してやることじゃない。 弱点ならばついてやるのがスポーツマンシップだ。 全力こそスポーツマンシップ。 「眼帯野郎。てめぇの"死角"。いただくぜ」 ・・・・・。 ・・・・。 ふと・・・・・・、 ・・・・・気付く。 自分、 ロベルト。 その間。 "居ない"。 眼帯の男は居る。 気持ち悪い笑みをしながら見ている。 だが、 居ない。 "黒髪の男はどこ行った?" 「マイケル!!!!!」 ロベルトの声が聞こえると共に・・・・ 「俺の仲間を見ていて思うんだが・・・・」 背後から声がした。 と同時、 首。 自分の首に腕が巻きつく。 締められ・・・・ 絞められて・・・・ 「前向きな性格は大事だが、後ろを振り返る事はさらに重要だ」 首・・・が・・・・ ラウンドアタック・・・・か・・・・ 「もうお前にこれから先・・・これから前・・・・・・"未来などないがな"」 マイケルの視界は、 ただ、 刹那、 真っ黒になった。 消えた。 「マイケル!!!マイケル!!!!」 ロベルトは叫ぶ。 が、 返事などあるわけもない。 一瞬。 一瞬だった。 一瞬で黒髪の男が、マイケルの背後に移動した。 そして、 マイケルの首を・・・・ "へし折った" 黒髪の男の腕の中、 生涯見てきた兄弟の首は、 一度も曲がった事のない方向に折れ曲がっていた。 ダランと・・・ 年月を重ねたヌイグルミのように、 無機物のように、 首が垂れ曲がっていた。 「仕事だスザク」 「ヒャッホイ♪」 黒髪の男は、 片手でマイケルの死体を宙に投げた。 情けなく、 動くはずの兄弟は、 全く動かず宙を舞った。 「茹で上がっちまいなあああああ!!!!」 そんなマイケルの死体に・・・ 眼帯の男が飛び掛った。 「ヒャッホォーーーイ!!!」 その、 炎に塗れた拳を、 マイケルに叩き付けた。 死んだマイケルをもう一度殺した。 そして地面に落ちたマイケルの死体の傍に立ち。 「地獄へご招待〜〜♪どうか成仏しませんように♪」 あの眼帯の男。 スザクという男は、 マイケルの死体を・・・・・・・めった殴りにした。 炎の拳で、 めった殴りにした。 「でぇーりゃでりゃでりゃでりゃ!!ヒャッホホォーーーイ♪」 殴る。 殴る殴る殴る殴る。 ゴミをゴミ箱に押し込むように。 ただ、 炎の拳でめった殴りにする。 なんだと思ってるんだ。 死体を・・・ 俺の兄弟を・・・・ なんだと・・・なんだと・・・・ 「完了♪俺、焼却屋であって火葬屋じゃねぇってのがこれで分かるっしょ?」 眼帯の男が、 ニヤッと笑った。 そこには・・・・ マイケルはいなかった。 粉々。 そして灰になっていた。 骨は砕け、 肉は炭になっていた。 サラセン闘技場の砂の地面と混ざり、 ただの黒い砂のようなものに変わり果ててしまっていた。 人の姿・・・・ というより、 物体がソコには無かった。 消し炭があるだけだった。 「てめぇえええええ!!!!!」 「わお!?」 そんなスザクが、 腕をクロスさせる。 ガードする。 それでも吹き飛んだ。 炸裂した。 「だぁ!!くっそ痛ぇ!!」 「てめぇ!マイケルに何してくれやがったああああ!!」 「・・・つぅー・・・痛ぇ・・・爆弾か・・・・ガードの上とか関係ねぇなこりゃ・・・・」 スザクは苦笑いをし、 "伍参"と書かれた眼帯が外れていないかチェックした。 ロベルトが放ってきた爆弾。 一瞬だった。 避けるヒマもなかった。 咄嗟にガードするしかなかった。 「ったぁ・・・腕は商売道具なのによぉ・・・もっぱつ食らったらヤバいかな・・・ 咄嗟とはいえ、避けれなかったのがビックリだ。さっすが44部隊とでも言っておきますかぁ?」 スザクはとぉーんとぉーんとジャンプし、 ロベルトの爆弾を直で食らった両腕を回す。 なんとか動くようだ。 「でもこれで2対1だぜアホんだら」 そう。 これで2対1。 一瞬。 本当に一瞬の出来事だった。 あの黒髪の男のラウンドアタック。 さすが暗殺部隊の技・・・ さすが53部隊。 さすがシシドウ・・・とでも言うべきか。 マイケルを背後に回って一撃。 コキッ・・・ だけで終わらせやがった。 だが手の内は分かった。 慎重に行かなければ・・・・・ 「なぁーにが2対1だってぇ?」 「ヒャハハハハハハ!!!」 ツバメが言い、 ダニエルが笑った。 さっきまでは、 むしろ同士討ちさせておこうと言っていたが、 逆に今度は自分から名乗り出た。 「ここに居るじゃないかい?お呼びじゃないってか?」 「ヒャハハハ!だな!参加させろ参加!ダニーもまーーぜーーって♪」 「って事で"うちら"も戦いに参加させてもらうよ」 「おい、俺の嫁」 「嫁じゃないってんだよ」 「でしゃばるなって。"お前じゃ俺達は無理だ"。そっちの44部隊でさえテメェ以上だよ。 嫁入り前の体に傷が付いちゃよくねぇ。黙ってみてろい。そっちの神炎野郎も後で相手してやっから」 「2対1対2になったところで話は変わらない。お前らは後回しだ」 「ヒャハハハハハ!なんか言ってるぜヤクザ姉ちゃん!」 「だね。何が2対1対2だ。"こうなったら"三つ巴のうちのが有利だからね」 「そういう事だ」 6つ目の声。 ロベルト。 スザク。 黒髪の男。 ツバメ。 ダニエル。 それ以外の、 もう一つの声。 「シシドウに関する事なのだろう?拙者は部外者ヅラで見てるわけにはいかんからな」 着物を着た女侍が、 そこには立っていた。 イスカ。 イスカ=シシドウ。 イスカだった。 ピンピンしたまま、得意のぶちょうヅラで立っていた。 「なっ!?てめぇはさっきマイケルが!」 「ふん。こんなもの傷のうちに入らん。"みねうちだ"」 ダメージは見て取れるが、 そこまでのダメージとは見て取れない。 「て、てめぇ・・・そりゃぁ"死んだフリ"っつーんだよ!」 「ふん。そうとも言うかもしれんな」 なんともない顔でイスカはそう言った。 なるほどと、 イスカが立った時ツバメは納得したのだ。 最初からこうするつもりだったのだ。 イスカは最初から、 やられたフリをするつもりだった。 悪勢は攻勢へと変化した。 「お主らにとっては任務やらいろいろなんだろうが・・・拙者は"役目"。それだけだ。 マリナ殿を守らねばならんのに、おちおちこんな所で死んでられんのでな。 死ぬわけにはいかない。そして・・・・死んでも守ると約束したのだ」 イスカは腰の鞘に手を添える。 「シシドウなどという宿命。とっとと片付けてしまわんとな。 "そんなくだらん事"でマリナ殿の傍に居れないなんてのはツラい。 ・・・・イスカ=シシドウ。何が死始動だ。そんなものすぐに終わらせてくれよう」 「カカカッ!2対1対4なら、なおさら手っ取り早いんじゃねぇの?」 そして闘技場の入り口。 一番端の出入り口。 そのゲートから・・・・・ 生意気なツラした盗賊が出てきた。 「多勢は卑怯って言ってくれよ。俺、正義の味方だから卑怯大好きだぜ?」 ドジャーは、 へへへ笑った。 「・・・・ギルバートのオッサンもやられたのか・・・」 「悪いな。すげぇ奴だったし、実際向こうの勝つ試合だった。が、"結果は俺がここに居る"」 ドジャーは、 ダガーを取り出し、 左手でクルクルと回転させてから手におさめた。 「よし、銃弾は貫通してくれたお陰で大丈夫そうだな。クソ痛ぇけど動かないほどじゃねぇ。 ま、大好きな弱いものイジメのためならこれぐらいハンデだな。十分だ。結果が入ればそれでいい。 ・・・・・・・・・・・・・・ってか・・・・・アレックス寝てやがる!!!・・・・・・・・このっ!ふざけんな馬鹿!」 ドジャーはすぐさま走りこみ、 気を失ったアレックスを、 サッカーボールのように蹴り飛ばした。 ・・・・。 反応はなかった。 「チクショウ楽しやがって・・・俺も戦えないフリでもして時間立つの待ってりゃよかったか・・・」 「・・・・ヒャッホォーィ・・・なんか沸いてきたな」 「ふん。殺す相手が合計5人になっただけだ」 「嬉しいねぇ♪そりゃ嬉しい。なんで嬉しいかって?・・・・嫁が生き返った!」 ヒャッホイと、 スザクは笑った。 イスカに視線が向けられていたが、 イスカは華麗にスルーした。 53部隊。 スザク、 黒髪の男。 44部隊。 ロベルト。 そしてギルド連合。 ドジャー、 イスカ、 ツバメ、 ダニエル。 三つ巴というならば、 それは攻勢としか言いようが無い。 2対1対4というのは、 言い換えれば、 2対5と、 1対6と、 4対3なのだから。 どれが有利かは歴然だ。 「ふん。拙者・・・ややこしい戦いは嫌いなのだがな」 「でもあんたが狙った状況だろ?イスカ嬢」 「カッ、俺としては有利に越したことねぇよ。苦戦なんて真っ平ゴメンでね。 疲れる戦い2戦もやった後なんだ。その後くらいデザートパーティーでいいだろ?」 「ヒャーーッハッハッハ!!燃やしていいの?これ、6人全部燃やしていいのこれ!?」 「・・・・やっべぇな・・・クソっ・・・マイケルが居ればこんな状況だって・・・・」 「ヒャッホー!ほんとパーティーだな!闇に紛れてた時はこんな状況無かったぜ!」 「仕事はこなすだけだ。さっさと終わらすぞ」 確実に、 3戦力、 3様。 有利と不利が交じり合った。 こうなれば・・・・ それこそだ。 一ついえることは、 ロベルトが致命的にヤバいという事。 「・・・・・ってぇ事で・・・・」 そして・・・・ 闘技場の入り口の入り口から声。 「入れてくれや。エントリーNo.8・・・・でいいのか?」 そこには、 棺桶を背負った男がいた。 「ま、いいや。エントリーNo.8。エントリーネームはないから『AAA』って入れとけ。 こんな状況でかませ犬になっちゃぁ44部隊の名が廃れちまうんでね」 「エース!」 「そ、エース。名無しのA's(エース)様がご登場だ。 俺の名刀セイキマツがあると聞いて飛んできましたー。まぁ入れてくれや」 エースは、 上着を両手で広げる。 そして、 上着の下に広がる目まぐるしい数の武器。 武器武器武器武器。 そこから、 剣とハンマーを取り出し、 手に持った。 「エース・・・またお前か」 「そんな顔しなさんなイスカさんよぉ。それほどあんたのその名刀セイキマツは魅力的なんだ。 俺のコレクションから外すわけにはいかねぇ。俺のもんになったもんだ返してもらうぜ?」 「断る。一度は不意打ちでやられただけ。不覚だっただけだ・・・・無念」 「しゃべりながら落ち込むなよ・・・いい名前してんのに変なお侍だなあんた」 そう言いながら、 エースはロベルトの方へと歩みよる。 「様子じゃぁマイケルもギルバートもやられたか。あいつらはいい名前だった。惜しいな」 「・・・・・・くそっ・・・・」 「仇とればいいじゃねぇか。名前(命)なんてぶんどっちまおうぜ。"どうせ勝利は俺達だ"」 エースは、 ロベルトへと何か確固たる自信で笑った。 44部隊たる由縁か。 「まぁた増えたな」 「やっかいだねぇおい。嫁が増えるならいいけどさぁー。男増えないでくれよマジで」 スザクは両手を広げて首を振った。 そして、 「ツバメ。邪魔が入ると面倒だ。先に決着をつけるぞ」 黒髪の男は、 ツバメを横目に、 冷静な声で言った。 「・・・・・・」 ツバメはククリを逆手に持ち、 構える。 「あぁーん?なんだぁツバメっち。シシドウ時代の知り合いかー?」 「・・・・まぁね」 「拙者とは何か関係あるか?」 「いや、これはシシドウの問題じゃなく、うちのシシドウの問題だ」 ツバメの目線は黒髪の男に真っ直ぐ向かったままだった。 逆に、 黒髪の男は、 横目に見ているだけだった。 「・・・・ツバメ。お前は死んだんだ。何故死んだままでいない」 「なんか気持ち悪かったからだよ。過去から逃げるのなんてまっぴらだからね」 「それはいい。過去を振り返る事はとてもいいことだ。未来しか見ていないのは愚かものだ。 前向きは臆病者の考え。後ろ、自分のしてきた事を振り返る勇気こそ人には必要だ」 黒髪の男は、 体を真っ直ぐツバメの方へ向けた。 「俺も同じだ。振り返った先にお前がいる。それを清算しなくては前を向けない。 目を背けたまま進むのはマッピラだ。今日ここでお前の"偽りの死"を清算し」 黒髪の男は、 右手をゆっくりと持ち上げる。 「正真正銘のシシドウとなろう。俺のシシドウはまだ始まってもいなかったのだから。 俺のシシドウの理は、お前の死がなければ始まらない。そしてお前にとってもだ。 俺達はどちらかが死ななくてはならない。シシドウは一子相伝。余計を殺して進む一族なのだから」 メシメシと・・・ 黒髪の男の腕が軋む。 「さぁ、死を始めようかツバメ」 「あぁ。死を始める決意をするよ。ツバサお兄ちゃん」 |
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