「先に聞いておくぜエンツォ」

「なんでっか?」

「てめぇはなんでここに居る」

「はーん・・・・」

エンツォはニタニタと、
何が面白いのかというほどの笑顔を零しながら、
その狐目を促し、
軽快に答える。

「そんなん決まってますやん。わいの人生の心の残りはあんただけや。
 あんたに負けてからはまるであんたに世界最速の座を渡したかのようや」

固めの狐目よりも、
そして機械化した片目がギギ・・・と動く。
エンツォの体は半機械だ。
ドジャーにやられて体の大部分を失い、
生命維持が不可能になったところで、
ドラグノフに改造された。
科学力によって生きながらえている半機械人間。
いわゆる、
サイボーグというやつだ。

「わいがここにおる理由。それはあんさんを倒しに来た。それだけや」

「・・・・カッ」

ドジャーは呆れる。

「んじゃてめぇ、44部隊も53部隊も関係なく・・・・帝国とギルドも関係なく、
 ただたまたま個人的に俺を倒すって理由だけでここに居るだけってことか?」

「せや♪」

「ほんっと邪魔だなてめぇ・・・」

帝国アルガルド騎士団でもなく、
ギルド連合でもなく、
そして、
今この闘技場に理由のある44部隊と53部隊でもない。
じゃぁなんだこの存在は?
どこにも組しない。
こう考えるとかなり特殊な存在にも思える。
意志。
意思。
揺ぎ無いこだわり。
それだけを糧に人を追う存在。

「ハッキリ言っとくけどな。てめぇもう物語の外の人物なんだよ」

「なんででっか?」

「そりゃおめぇ、おめぇを倒しても物語は何一つ進まないからだ」

その通りだ。
エンツォ。
完全にこの戦いから切り離された存在。
倒したところで状況は双方のどこにも影響しない。

「逆でっせ」

エンツォは、
体の至る所から、
機械のきしむ小さな音を立て、
話す。

「あんさんはわいを倒せない。つまりあんさんはどうやっても前へは進めない。
 ・・・・・わいは世界最速。つまり世界の最先端を先頭で走っとるんや。
 わいを超えられるものも追い越せるものもおらん。つまり・・・わいより先はないんや」

「・・・・・・・・・カッ」

やはりドジャーは呆れる。
というかため息が出る。

「いらねぇボーナスゲームだ。ほんっとうざってぇ。
 つまりてめぇは帝国でもこっち側でもないのに、俺には立ちはだかるってこと」

「そうや」

「分かった分かった。掃除してやるよ」

そう言いながら、
ドジャーはセルフヒールを施す。
ギルバートとの戦い。
それで全身にダメージを受けたままだ。
さきほどまでなど、
結構フラフラだったものだ。
すぐには完治しない。

「あぁ・・・ノド渇いたなおい」

そう言い、
ドジャーは小瓶を取り出す。
赤い液体。
ヘルリクシャだ。

「あらあら、お疲れでっか?」

「ボチボチでんな・・・・ってか?心配にはおよばねぇよ。てめぇを倒すだけの体力はある」

「かなわんなぁ・・・ほんまかなわんわ・・・」

エンツォの片目。
その細い目がドジャーを睨む。

「森でもあんさんと対面したよな?ドラグノフを一緒に会った時や。
 あんときはどうやったか忘れたか?あんさんら数人がかりでもわいの足元に及ばんかった」

「・・・・・」

そうだった。
一度は倒している。
倒していると言っても、
もう一度目の戦い。
ツヴァイを探しに行った暗闇の森。
あそこでの戦い。
あの時・・・。
アレックスやジャスティンも居たにも関わらず、
エンツォには手も足もでなかった。

「なんでか分かりまっか?分かりますわなぁ。そりゃそうや。
 あんたよりわいのが速い・・・・速さの差が実力の差。それは完璧なる才能の差や」

才能。
もう聞き飽きた話だ。
今、
この戦いにおいて、
戦う相手達と自分において、
才能、
実力、
それらの差は歴然だ。
それを、
時の運、
小賢しさ、
それらだけで打ち負かしてきた。
ハッキリそう断言してもいい。
自分は・・・
戦ってきた相手より完全に弱かっただろう。
勝ってきた相手より完全に劣っていただろう。
だが、
勝ってきた。
もういいのだ。

実力。
才能。
それらは他人より劣っているのは分かっている。
表立って認めたくは無いけども。
分かっているのだ。

でもいいのだ。
やっぱり自分は分からず屋だ。
ギルバート。
奴と戦って分かった。
運も実力の内。
奴はそう言った。
運で勝つのもそれは必然。
何かの行いや動作の積み重ねの結果だと、
奴はそう言った。

・・・・・が、
もうそれらはどうでもいい。
そういう事を考えるのは疲れたのだ。
もういい。
いいんだ。
スッキリしたい。
過程のために過程を消費するのはもういい。
疲れる。
ただ、
ただ結果が手に入ればいい。
それだけでいい。

「いいからやるぞ早漏」

そう、
今考えると、
必然かもしれない。

「ぶっ殺してやる」

エンツォが自分を殺したがり、
そして実力才能最速。
それらを示して前に進みたいのと同じで、
自分もそうなのだ。

「てめぇは倒さなきゃならねぇ相手だ」

エンツォ=バレット。
こいつはもう部外者じゃねぇ。
この俺、
ロス・A=ドジャー個人に関してはもう部外者じゃなく、必然者。
倒さなきゃ前に進めない。

才能、
実力、
それらが・・・・
それらの差が・・・
"壁になれど、乗り越えられるものだと証明する"
そのために、
こいつは倒さなきゃならない相手なのだ。

「逃げないようで嬉しいでっせ」

「逃げねぇよ」

「いや、あんたは逃げるね。いざ、わいに勝てないと踏んだとき、
 プライドもなく、過程のためなら即行で逃げるタイプだと分かってんねん。
 結果が伴えばいい。そのためなら惜しみなく過程を捨てるタイプがあんたや」

「その通りだな」

「でっしゃろ?」

「だが、それは結果を求めるってことなんだよ。言ったろ?"終わりにしたい"
 課題が残るのはもういやなんだよ。逃げて終わるならいいが、てめぇはそうはいかねぇ。
 てめぇは完全なる部外者だ。敵からも影響を受けず、味方からも影響を受けない。
 完全なる部外者だから、この御時世でもなんの影響もなく生き続ける。
 俺以外の干渉を全くうけない。俺が終わらさないと絶対に終わらない・・・なら終わらす」

「分かってくれたようで嬉しいわぁ」

完全なるストーカー。
最強なる、最速なるストーカー。
エンツォに追いつける者などいないなら、
エンツォを止めれる者もいなく、
エンツォの追跡を逃れれるものもいない。
なら、
終わらすしかない。

「ほな・・・」

エンツォの機械の体が小さく、
わずかにきしみをあげる。

「いきまっせ」

そして・・・
消えた。
いや、
突如に高速で動いたからこそ消えたように見えた。
速い。
今更で今更で今更すぎるが・・・速い。

「・・・・チッ・・・」

ドジャーも駆ける。
走る。
この闘技場。
四角のリングの中を、
全力で駆ける。

「こないな狭いとこは得意やあらへんねんけどな」

ドジャー、
エンツォ。
二つの彗星。
高速で飛び回る二つの閃光。
それが闘技場の中で跳ね回る。

「おいおい。遅くなったんじゃねぇの?エンツォ」

「まだ本気やあらへんからな」

「あっそ」

いや、
・・・・・
いや間違いない。
今までも目で追えてはいたが、
今回も目で追えはする。
だが、
明らかに、
いや、
わずかに昔戦ったときより遅くなっている気がする。

「ドジャーはんは相変わらずトッロいなぁ」

「黙れウザキャラ」

自分はしょうがない。
しょうがないなんて言葉で全部片付け、
言い訳にしたくないが、
ギルバートとの戦いのダメージが残りすぎている。

「チッ・・・・少々足に来るぜ・・・・」

それでも足の踏み切りに力をいれ、
闘技場を飛び回る。
まるで二つの風。
エンツォ。
ドジャー。
二つの風が闘技場を至る方向から吹き荒れるかのように飛び回る。
目視できない。
今、部外者がこのリングにきたとして、
ドジャーとエンツォの姿を捉えることは出来ないかもしれない。
走り回る二人に気付かず、
誰も居ないと感じるかもしれない。

「にしても・・・・」

ドジャーは走り回りながら考える。
自分は弱っていて本調子なまでのスピードは出せていない。
だが、
エンツォは別だ。
別だからこそだ。
こんな弱っている自分でも追えるスピード。
ついていくのがやっとといえばやっとなのだが、
それは前も同じだった。
つまり、
どうやったってエンツォも本調子のスピードじゃないように見える。

「分かったぜてめぇ」

「あん?なんやねん」

「その機械化した体・・・重てぇんだろ?」

「あー・・・」

図星なようだ。
そりゃそうだ。
人間の体・・・肉であったものが、
完全に鉄になっているのだ。
上半身の大部分。
右手と左腕。
顔の半分。
体の半分が鉄で出来ていれば重いに決まっている。
そして・・・・
自慢の足は人間のままなのだから。

「丁度えぇハンデやわ」

「はいはい。"さよでっかー"」

「・・・・・口の達者加減はほんまかなわんあぁ」

「かなわんまんがなー」

「・・・・ほんまうっとぉしいわ」

「カッ、逆だ。俺はテメェよりうっとぉしい人間見たことねぇよ」

「目障りはお互い様やな」

駄目だ。
会話の中、
お互い、四角い闘技場(コート)の中を走り回るが・・・・

やはりついていけない。

遅くなった?
バカバカしい。
100と70の差が、
90と70になっただけのようなもの。
相手が遅くなったからといって、
自分が速くなったわけでもなく、
差が縮んだかというと、
誤差程度のものだった。

「・・・・・・」

ドジャーは地面を蹴る。
お互い牽制しあうように、
遊びあうように、
戯れあうように、
闘技場の中を駆け回る。

「土俵じゃせめぇな」

「土俵もリングもノロまが戦うために作られたもんやからな」

「ライオンの檻に閉じ込められても、足かせになってるのはライオン・・・か」

「どちらかというとわいはウサギやけどな」

「なまけものってか?」

「いーや・・・・・カメ相手に寝る余裕があるのがウサギや!」

「カッ・・・だが最後に勝つのはカメ。生きるのもカメだ!亀は万年生きまんねんってか!」

ドジャーは高速移動の中、
ダガーを投げた。
ハッキリ言って当たるとも当てるとも思わなかった。
牽制とでも言うべきだろう。

「ハハッ!」

当然の如く、
ダガーはエンツォの肌とは言えぬ地面に突き刺さる。
エンツォの姿は風とともに高速で流れたまま。

「鬼さんこちらってなもんやで」

「カッ・・・・何が鬼さんだ。ストーカー野郎が。俺追いかけてきてんのはてめぇだろ?」

「アホか」

銃声が二度。
ライフルに改造されているエンツォの右腕。
そこから発砲された二発の弾丸。
・・・・。

「・・・・チィッ!!」

エンツォでさえ目で追うのがやっとなのだ。
その高速移動から放たれた高速の弾丸。
それまで目で追うのはちと要求がデカすぎる。
一発はそれたが、
もう一発は高速移動中のドジャーのホホをカスった。

「わいは最速ゆえに常に先頭」

「!?後ろ・・・・」

「追いかけられる側なんや」

いつの間に。
いつの間にとしか表現できない。
まだまだ余力はあった。
いや、
余速。
さらに加速して一瞬でドジャーの後ろに回りこんできた。
見えなかった。
目視できなかった。
目が追いつかなかったわけじゃない。
見えなかった。
まぶたの裏側を伝ってきた。
瞬きの瞬間。
0.36秒の瞬間移動。

エンツォは改造された左手。
腕についたナイフを振り切ってくる。

「坊主になる気はねぇんだよ!!!」

ドジャーは転ぶように体を翻す。
いや、
実際転んだ。
それぐらい咄嗟にメチャクチャに避けなければ避け切れなかった。
完全に切り殺すつもりで振り切ってきた。
エンツォの左手に装着されたナイフはドジャーの髪を少し切り取った。

「このやろっ!!」

ドジャーは地面を転び、
いや、
そのまま高速移動で転んだ勢いで、
滑るように地面を転がり、
ダガーを2本エンツォに投げつけた。

「見えるってぇのはトロいってことや」

だが、
当然のようにエンツォはそこにいない。
ダガーなんかの投芸スピードより速い。
ダガーは無駄に空を切って通り過ぎた。

「スロォリィ。めっちゃスローリィや!」

「がっ!!!」

どうやって。
いや、
走った。
移動しただけ。
"速かっただけ"
エンツォは転がり滑るドジャーの先に移動し、
そのままドジャーを蹴飛ばした。

「この世は力が全て!そして力なんてもんは速さの前には通用せぇへん!
 ・・・・・・・・・・ってぇことは速い事は正義や!そして遅い事は罪やなぁ!」

エンツォはライフルを数発撃ち込んできた。
蹴飛ばしたドジャーに向かって。
ドジャーはエンツォに蹴飛ばされた状態のまま転がる。

「くっそ!!!」

転がりながら、
なんとか地面を蹴飛ばし跳ね上がる。
転びながら、
駄々くさな体勢でなんとか跳んだ。
跳べた。
吹っ飛ばされた状態から、
吹っ飛ばされ方を変えた程度の動きだったが、
なんとかエンツォの弾丸を避け、
エンツォが撃ち込んだ弾丸は闘技場の地面に弾数分だけ穴を空けた。

「空中では足は踏み切れへんで!」

エンツォはさらにそこを狙っていた。
さすが分かっている。
自分の弱点でもあるだろう。
足が速くても、
足が地面に付いてなければ無力。
ドジャーは避けることもできない。

「ほなさいなら」

エンツォはライフル(右腕)を狙い済まし、
一撃だけ。
確実なる一撃だけ撃ち放った。
それは空中のドジャーへと真っ直ぐ。
確実に、
打ち抜く弾道だった。

「なめんな!避けるだけが能じゃねぇんだよ!」

ドジャーは咄嗟にまたダガーを取り出す。

「俺は至って健康!体に鉄分は足りてるんでね!そいつはいらねぇよ!」

ドジャーはとりだしたダガーを、
手元でヒュンヒュンと回転させた。
まるで手元で手裏剣・・・いや、風車が回るようにダガーは回転し、
回転したスプーンがすくいとるように、
エンツォの弾丸を弾いた。

「逆にてめぇは血が多すぎんじゃねぇのか?」

ドジャーはニヤりと笑い、
その空中。
体勢が悪い状態のまま、
左手で何かを放り投げた。
ただハトに餌でもあたるかのように、
軽く投げる。

「なんや・・・」

「俺はギャンブルは性に合わねぇって分かったんでね。賭けるのはてめぇの命だ」

それは・・・
ギルバートから受け継いだギャンブルバッシュ用のサイコロ。
チンチロダイス。
3つのダイスがマキビシのように放り出される。

「・・・・小賢しいわ!」

チャンスだった。
エンツォはドジャーを狙い撃つため、
一度動きを止めていた。
ドジャーが空中で身動きが取れないがためだろう。
その油断。
"ウサギは分かって油断する"

「イカサマするヒマはねぇが・・・・」

ギャンブルバッシュ。
そのスキルならば、
基本的には回避不能。
もともとは近距離用の武器であるからこそだ。
近距離で発動すれば避ける術はないはずだ。
そして、
これだけは運の神がいたとしたら感謝してやろうと思った。
ダイスの目は1・1・5。
ゾロ目+5。
5の効果。

「才能・実力・能力・天武。運はどの力よりも上にいくらしいぜ?」

そして、
チンチロギャンブルバッシュ。
その3つのダイスは炸裂した。

・・・・・。
誰も居ないところで。

「一人でソリティアでもしとれや!」

エンツォはすでに回り込んできていた。
ダイスは虚しく炸裂しただけ。
効果はあったが、無効化。
居ないところにダイスは放られただけだった。
ドジャーは着地したところに、
エンツォは最速、
超速、
完全速。
目にも留まらず動きは止まず。
ライフルをドジャーに突きつけていた。

「・・・・・ま、そうだよな」

だが、
ドジャーは踏み切った。
エンツォのライフル。
至近距離で放たれた弾丸を避ける。

「お?」

「あれで限界だと思うなっての」

ブリズウィク。
ダイスを投げたのは囮。
・・・。
おっと。
それは言い訳か。
当たって欲しくてたまらなかったが、
それでも次の一手はとってあった。
ブリズウィクをかけていた。
限界じゃないさ。
ドジャーのスピードメーターはまだ先がある。

「とった!!!」

快感のようなものだった。
速さの魅力。
相手の裏を取れる魅力。
乗り越える魅力。
エンツォの気持ちを少し理解できた気がした。
エンツォ。
速さで上をいったつもりでいるエンツォの、
さらに後ろに一瞬で回りこむ。
この快感はない。
策略と体の動きが完全にうまくいった。
半円を描くように一瞬でエンツォの背後へ。

そう、
この一瞬だけでいい。
全体の能力で、
全体の才能で、
全体の実力でエンツォに負けていたっていい。
たった刹那相手が油断しただけでいい。
たった刹那相手が虚をつかれただけでいい。
それで勝てるなら、
それで勝てるならそれでよく。

"そう思える事が自分の才能"

「これが俺なりのまぶたの裏側だ!」

速すぎて、
上手く行き過ぎて、
周りがスローにさえ見えた。
回り込む自分。
エンツォの背後に。
エンツォはドジャーの背後をとったと思いライフルを構えたまま、
そのエンツォの背後をとる。
決まった。
それが・・・・・快感だった。
ただ、
ダガーを振り切った。
エンツォの首裏に向けて。

「・・・・・・・・あ・・・・・」

ただ、

そこには何も無かっただけの話。

エンツォの裏をかいて、
エンツォの裏に回って、
エンツォの背後を切り裂いた。

ただもうそこにエンツォがいなかっただけ。

「一手先をとられようが・・・・」

残像さえ残っている気がした。
居ない、
エンツォが居た空間を無駄に切り裂き、
そして、
背後から声と悪寒。

「わいは速さだけでそれを追い越せるんや」

エンツォは、
ドジャーの体の反応どころか、
頭の回転さえも置いてけぼりにした。

「・・・・・・っ・・・・・・」

自分が前に吹っ飛んでいる事に気付いた。
なんだろうか。
血が目の前に見える。
肩。
肩だ。
背中よりの左肩。
そこから血が吹き出ている。
前に出ているってことは後ろから撃たれたのか。
前に吹っ飛んでいるってことは後ろから撃たれたのか。

「が・・・はっ!」

スローモーションに感じたその一瞬から、
一気に現実に戻る。

「ぐぅ・・・・・」

目の前に地面があった。
左肩には痛みがあった。
地面には血溜まりがあった。
現実がそこにあった。
実力の差が、
才能の差がそこにあった。
敗北が・・・・・・
そこにあった。

「・・・・くそ・・・・この・・・・・」

力が出ない。
ギルバートとの戦いのダメージ。
いや、
だからそれは言い訳でしかない。
今の一撃。
そして、
敗北感。
それが・・・・・ドジャーから力を奪う。
体がダランと地面に落ちる。
起こそうという気力がおきない。

「こんなもんやな」

背後で。
うつ伏せに闘技場のリングに横たわるドジャーの後ろで、
エンツォの声が聞こえる。

「最速は最も速いから最速。ゆえにわいより上がいるはずがなかった。そんだけや」

言い返せない。
ただ、
実際に、
それだけだった。

「勝ちたいなんて気力で足速くならん。根性で速度はあがりまへんわ。
 実力の差。この戦いはギャンブルやない。ただ才能の差。
 だから途中経過なんてあらへん。最初から結果は決まってたんや」

そう。
速さ。
追いつけない。
捉えられない。
当たらない。
目にも止められない。
なら、
もう最初から結果は決まっていたとしか言えない。

「なぁ、ドジャーはん?それでもあんさんはわいに挑んできた。
 それはただの愚行で鈍考や。鈍感も鈍さ、トロさや。結果には置いてけぼり。
 今あんさんが寝ててわいが立っとるこの結果・・・つまり・・・・おい聞いてまっか?」

ドジャーは返事をしない。
いや、
返事ができない。
肩から血を流したまま、
リングに横たわったままだった。
完全に、
気力を失っていた。

「・・・・はぁ・・・・もう根あげでっか。そう、勝ち負けなんざ分からないから・・・なんて鈍考やで。
 そういやルアス城であんさんのお仲間さんと会いましたわ。同じような事言ってたで?」

城・・・
仲間・・・・

・・・・

チェスターか。

「ヒーローがどうこう言っとりましたわ。やけどありゃぁ・・・アホやな。
 止まれないとかどうこう言っとったけど、ありゃぁ死ぬ。いや死んだわな。
 勝ち負けなんて決まってない?決まっとるがな。実力差があるんやから。
 才能の差があるんやからな。それゆえに結果は確定しとる。
 まだ見えてないだけで、結果が出てないだけで・・・・"決まってない"と考える」

チェスター・・・・
やはり・・・
馬鹿なマネしやがったんだな。

「わいはそーいうのが気に食わん。実力・・・・実際に勝負はついとるのに・・・・ドジャーはん。
 あんさんの事言うてるんやで?わいはそれがおもっくそに気に食わへんねや。
 わいの方が速いと確定してんのに、結果が出切ってないからって"まだ分からない"・・・・ってな。
 やからわいはあんさんを追いかけた。わいは一番でなくちゃあかん。だから勝負をつけに・・・・」

ドジャーにもう言葉は聞こえていなかった。
薄れ行く意識。
その中、
聞こえてきた・・・
チェスターという言葉。
あいつは、
あいつは・・・・・
才能の差にどう挑んだ。
それでも前に進んだのか。
壁があるのに、
それでも・・・かたくなに・・・・







--------------------------







「うっめぇー!」

その日も、
チェスターはジュースを飲んでいた。

酒場だってのに、
酒飲めよと思った。
ガキっぽい上に、実際ガキだが、
酒は飲める年齢だろが。
喉が渇いてんのにバナナジュースって、
もっと喉渇くわ。

「だっておいしいジャン?選べるならおいしいもん飲めばいージャン!」

ま、
一理あるわな。
・・・・と俺は俺でビールに手を伸ばしてた。

「へ?何て?」

いやだからさ、

「何でお前はヒーローヒーロー言ってんのかって?」

そうそう、
その話ししてたんだよ。

「だってオイラはスーパーヒーローだからっ!」

分かったって。
だからなんでその自信が出てくんのかって聞いてんだよ。
いつもいっつも馬鹿みてぇに。
お前は自分がヒーローだっつってるんけど、
その証明はどこだよ。
てめぇはどこに自分がヒーローだって自信があんだ。
才能か?
ヒーローの才能ってのがあるんか?

「馬鹿だなドジャー。ヒーローってのは才能じゃなくて心だぜ!」

胸糞悪い言葉だ。
なぁにが心だ。
そんな抽象的なもんよぉ。
心なんてもんだったら、
思えば誰だってヒーローじゃねぇか。

「そう」

あん?

「誰だってヒーローになれるんだ!でもオイラは人一倍ヒーローだと信じる心があるから、
 だからスーパーヒーロー!オイラはスーパーヒーローのハートを持ってんジャン!」

・・・・・あっそ。

「でも証明?んー・・・・」

・・・・?

「心以外で証明するっていったら・・・やっぱ勝つ事ジャン?」

カッ、
勝てば正義ってか?

「そ。世の中そんな風らしいジャン?正義が勝つんじゃなくて勝った人が正義なんだってー」

だろうな。
上手い事できた世の中だ。
上手い事やるやつが正しくなる世の中だ。

「だからオイラは勝つよ。正義ヒーローだから勝つに決まってるんだ!」

はぁ?

「またそんな顔ー・・・でもオイラは勝ち続けてるんジャン?ならオイラは正義!」

・・・・・

「だから負けられないジャン?ようは勝てばいいんだよ。勝つんだ!
 オイラは勝つ!正義を証明するために!ヒーローであるために!」








--------------------











「お?立つかドジャーはん」

ドジャーはフラフラと立った。
なんでだろうか。
さっきはもう動けないとか思っていたが、
今思うと自然に立てる。

「勝ちゃいいんだよな・・・・勝ちゃぁ・・・・・」

「負けが確定してんのに?そりゃぁまた大層なこって」

「反論するぜ・・・俺は決まってない結果はやっぱ結果として受け入れられねぇ・・・
 それがチェスターに言わせると"諦めない"って事らしいわ。汗臭ぇだろ?」

一応足の動作をチェックする。
・・・。
異常はない。
完全でもない。

「・・・・てめぇは才能やら実力やら速さやら言ってるけどよぉ、結局勝ったもん勝ちらしいぜ?
 だからちょっくらてめぇ殺して「俺が最速でぇーす」・・・とかホラ吹いて生きてやろうかなとかな」

「それが気に食わんねや」

「だろうな」

「ならわいの勝利で完全に全てを決定・・・いや証明したるわ」

エンツォの姿が・・・・消える。
インビジ?
いや、
見えない最速。
音速。
高速。
光速。
まぶたの裏側の0.36秒。
一瞬。
一回の瞬きの時間を制する者。
瞬きするヒマもない。
その言葉を実現できる男。
エンツォが走り出したのだ。
この闘技場。
この中を・・・・・。

「・・・・・・・」

勝負は一瞬だ。
一瞬。
一瞬でいい。
いや、
一瞬しかない。
その一瞬。
0.36秒。
その間だけ、
エンツォを越す・・・
いや、
エンツォに並ぶ。
それだけ、
やらなければならない。

「・・・・・行くか・・・・限界まで・・・・」

ドジャーの周りに・・・
風が吹いた。
風が巻き起こった。

「お?なんや?ブリズ?ハッハー。さっきのはウィンドウイクやったってか?
 ・・・・んなわけあるかい。わいが一番よぉ分かっとる。さっきのはブリズや」

「・・・あぁ」

「じゃぁなんや。ブリズの重ねがけ?そんなもんは存在せぇへん」

「・・・あぁ」

だが、
ドジャーの周りには風が巻き起こっていた。
ブリズウイクよりも・・・
大きな風が一度巻き起こった。

「エンツォ・・・測定不能の・・・スピードメーター振り切るてめぇのスピード。
 それがてめぇの実力で、てめぇの才能で、てめぇの世界・・・最速の世界だ」

「せや。だれも追いついたりでけへんで」

「俺も・・・・いくぜ。"測定不能の世界へな"」

ドジャーは・・・・
足を踏み切った。







                    チェスター

                    「んー?」

                    てめぇは勝つって言ったけどよ
                    てめぇが勝てない相手はどうすんだよ

                    「オイラは絶対勝つよ!」

                    ・・・・そういうのはいんだよ・・・・
                    理論的に勝てない相手だ
                    それはどうすんだって言ってんだ
                    根性とか気でどうしようもない敵・・・・・

                    「気合で勝つ!」

                    おい・・・・

                    「ふざけてないジャン。気合で勝てるぜ!?」

                    ほぉ、
                    じゃぁ聞いてやるよ




捉えた。
捉えた。
エンツォの軌跡。
エンツォの速さ。
エンツォの才能。
見える。
エンツォがこの先に・・・・走っている。
それを・・・・
自分が追いかけている。

負けていない。




                   「ドジャーはさ、ブリズ使う時どう?」

                   は?

                   「ブリズ使った時が最高のスピードだけど、
                    それで疲れたりとかしないジャン?でしょ?」

                   あぁそうだな
                   魔力を消費するだけだ


                   「オイラはイミゲ使い切ると疲れるよ
                    気力ってのを使ってるけど、それでも体力削ってる」

                   ・・・・・・・・・・?

                   「オイラが師匠に教えてもらった事だからなぁー・・・
                    修道士の分野になるんだけどね」

                   いいから

                   「なんかねー。人間って全力使ってないらしいジャン?」

                   ・・・・あぁ、
                   脳みそも体もな。
                   よく聞く有名な話だ
                   自分の体のために無意識にセーブするらしいな

                   「もしドジャーが魔力を使い切ったとしても、
                    ドジャーは死なないジャン?それで死ねばいんだよ」

                   は?

                   「セーブされた力の先を使うんジャン。
                    リミッター超えってやつジャン!かっこいい!」

                   どうやんだよ
                   無意識にセーブしちまうんだろ?
                   ・・・・・・・あぁ、
                   メッツのバーサーカーレイジみてぇに、
                   脳みそ馬鹿にして限界まで搾り出すってことか。

                   「いや、気合で十分ジャン」

                   ・・・・・・・・


「なっ!?なんや!?」

エンツォが驚きを表情に表していた。
音速の世界。
光速の世界。
最速の世界。
その中で・・・・
ドジャーが迫っているのだから。

それはたった一瞬だけだったが、
エンツォには信じられない。
何が起こっている。
ドジャーの限界は分かっている。
マックススピードは分かっている。
この一瞬。
この刹那。
この0.36秒。
何故・・・・
どこから・・・・

才能以上の能力を搾り出した。






                「修道士のスキルに錬気法ってのがあるんだけどさ。
                 師匠が言うにはこの場合"無呼吸"ってやつらしいよ」

                無呼吸?
                息を止めるってことか?


                「そゆこと。ボクサーとかも連打の時は止めるんだ。
                 水泳選手とか陸上選手とか、アスリートは皆だね」

                すると?

                「その一瞬は全力を出せる。120%じゃないよ。
                 本当の全力。セーブ無しの全力を出せるんジャン」

                ・・・・・だから気合か、
                心の持ちようと覚悟
                それだけで鎖は外れる
                けど鍛えてなければぶっ壊れる覚悟
                無意識にセーブされる力の外
                ならぶっ壊れる覚悟はしろってか

                「そゆこと。ドジャーが無理してやろうと思うと・・・・」

                その無呼吸をしたら、
                その後はもうダメかも・・・ってか?
                隙だらけの隙だらけになるかもってな

                「うん!」

                カッ・・・・一瞬で十分だ
                よぉはその一瞬で・・・・・

                「「勝てばいい」」


勝てばいい。
勝てばいい。
そのあと限界使い果たしてぶっ倒れようとも、
その一瞬で勝てばいい。
実力で負けていようと、
才能で負けていようと、
実質負けていようと、
勝てばいい。
勝てば、
勝てばいい。

だからこその"無呼吸ブリズ"

自分の限界のブリズウイク。
いや、
もうこの際「無呼吸」なんて言葉は意味を成さない。
ようは・・・
気合。
覚悟。
その持ち用だけ。
その後を捨てるならば、
使い捨てのつもりがあるなら、
一瞬だけに全てを使うつもりがあるなら、
それでいい。
気合。
気持ち。
心だけで人は・・・・・
あぁもういいか。

つまり俺は覚悟が出来たってことだ。

「悪いなエンツォ・・・・"お前の勝ちだ"」

音速。
光速。
最速の世界。
スローに見えた。
エンツォが近づく。
ドジャーが近づくからエンツォに近づく。
ダガーを右手。

一瞬の全力。
それに頼らなければ届かなかった。
そうしなければ追いつけなかった。
だから自分の負けだ。
認める。

だから・・・・

「結果ぐらい俺にくれ」

ダガーが・・・
光速の世界の中、
最速の世界の中、
ドジャーの手から離れた。
捉えた。
追いついた。
エンツォに、
目の前のエンツォに。

すぐそこに投げつける。
不思議と外すとは思わなかった。
これが覚悟か。
ただそう思った。
















「・・・・・・・・・・ぜぇ・・・ぜぇ・・・・・」


ドジャーは息を荒立て、
闘技場の真ん中で足を広げて座り込んでいた。

「きちぃ・・・・きっちぃコレ!無理!一歩も動きたくねぇ!!!」

完全に、
一瞬のために全力を使ったドジャーは、
息を整えるのに必死だった。
全てを注ぎ込んだのだから、
体力は残ってなくて当然。

「つ・・・・疲れた!ふざけんな!こんなもん気軽に出来るか!・・・・ぜぇ・・・はぁはぁ・・・・・
 両足もガクガクでさらに体に感覚もねぇじゃねぇか!今蚊が飛んできても追い払う気力ねぇよ!」

それはつまり、
今何か襲われても、
何も反撃できないという事。
だが、
その心配はない。
ドジャーが目線を変える。
その先。

・・・・その先。

エンツォが倒れていた。
あっけなく。
あまりにあっけなく。
それはそうだ。
0.36秒の出来事だ。
あっけない以外にはない。
一瞬に全てをつぎ込んだのだ。
あっけなくなくちゃいけない。
そうじゃないと今死んでるのは逆なのだから。

「・・・・・いいツラになったな」

エンツォ。

明らかに死んでいた。

確認?
しなくても分かる。
そりゃ分かるさ。
・・・・。

ドジャーのダガーが額に生えているのだから。

「オデコにピンポイントでヒットするたぁ思わなかったけどな」

しつこく、
ウザく、
そんな最速のストーカー。
エンツォ=バレット。
だが、
今では頭にダガーが刺さって死んでいる。
あまりにあっけない。
終わりはこんなもんか・・・と思う。
いや、
だからこそ人間なのだろう。

ロウマだって、
アインハルトでさえ、
あぁなれば死ぬのだから。

「はぁ〜〜・・・・・」

ドジャーは両手をあげた。

「勝った・・・・でいいんだな」

そしてドタンと倒れた。
仰向けに。
両手をあげて広げたまま、
大の字に闘技場の真ん中に倒れた。

「釈然としねぇけど・・・・人間やりゃぁ出来るってことか・・・火事場のクソ力ってか?」

無呼吸ブリズ。
その名付けたが、
・・・・・
まぁ当分使う気にはなれなかった。
今ではガブちゃんもビックリな脱力感だ。
この疲労感。
止まった瞬間しぼったミカンのように汗が出てきた。
もういいや。
疲れた。
疲れきった。

こーいうのはもういやだ。
やっぱ自分はアレックスと気が合う。
全力なんて出せなくてもダラダラ生きてければそれが一番だ。

「・・・・・・・・・」

でも、
だが、
チェスターはいつもこんな感じで全力で生きてきたのだろうか。
馬鹿に見えるし、
馬鹿だし、
ガキだし、
猿だし、
だが、
あんな気楽そうに全力で毎日を生きてきたのか。

「・・・・きっとおめぇは全力で生きて・・・そんで全力で死んだんだろうな・・・・」

いや、
最後まで諦めず、
全力の0の0の0。
少数点の先の先の先。
0.000000000・・・・・・
その先まで、
その先まで力を使いきって、
それでも諦めず、
まだ振り絞って、
そしてそのまま全力を出したまま死んでいったんだろう。

「そりゃすげぇよチェスター・・・・ヒーローにしかできねぇって」

天上を見上げながら、
ドジャーはその先にいるだろう、
いや、
天国なんて信じないが、
その先にいるチェスターに餞を贈った。
遅れながら、
全力の、
尊敬できる仲間に・・・・・



「なんだ?!!」

突如、
爆音が鳴り響いた。
この闘技場?
このリング?

いや、
外。
入り口の方だ。
サラセン闘技場の入り口の方。
その方角から爆音。

ドジャーは咄嗟に体を起こした。

「爆音・・・・ダニエルの炎か何かか?」

恐らくそうだろう。
だが正体は分からない。
いや、
その爆音の正体よりも、
その爆音の"理由"が重要だった。

「まさか・・・・」

ダニエルが炎を使う。
こんな本気で炎を使ったとするならば・・・・
外には・・・・・

「・・・・・勘弁してくれよ・・・クタクタなんだよ・・・・・」

53部隊が到着したのか。
それとも・・・
イスカかアレックスが負けて外で、
サラセン闘技場の入り口で戦闘が始まったのか。

「悪ぃけど気合でもどうしようもねぇよ・・・使い切った後だからよ・・・息が整う少し休むわ・・・・」

























































外。

ここは外だ。

外?

リングの外?

ならばサラセン闘技場の入り口?
ツバメとダニエルが待機する、
サラセン闘技場の入り口?

いや、

違う。

そのさらに外だった。


「〜〜〜♪」

"彼"は歩いていた。

サラセン。
その街中だ。

薄汚れた、
血で汚れた街中。
悪都市サラセン。
その中を、
陽気に歩く男。

「YEAH!YEAH!そぉ〜♪愛して欲しいとぉ〜♪俺が言ったぁぁかぁああああ!」

熱唱しながら、
鼻歌を熱唱しながら歩く男。
シャカシャカ。
シャカシャカ♪
頭に、
両耳を覆っているヘッドフォンと共に、
歌と共に、
頭を揺らしながら歩く男。

「・・・・よし次の曲」

手の中、
小型のポータブルオーブに指を這わせ、
そしてそこに楽譜を入れ込む。
すると、
次の曲のイントロが流れてき、
また男は頭を振った。

「・・・・ん♪・・・・ん♪・・・・YO!♪・・・YO!♪」

馬鹿にしか見えない。
人目も気にせず、
口ずさみ、
頭を振る。
"53部隊としての仕事など頭にない様子で"
自分の世界に入り込み、
道端、
悪都市サラセンを陽気にお散歩。
曲に合わせて指をパチンパチンと鳴らし、
体を揺らして歩く。

「YO!BOOM♪着火ライ・・・あっ!」

突如、
音が無くなる。
耳に流れ込んできていた"ゴキゲンソング"が消えた。

「・・・・・チッ・・・・何すんだよ」

53部隊の彼は不機嫌になった。
音が消えた理由。
それは・・・・・
見知らぬ男が自分のヘッドフォンを取り上げたからだ。


「何すんだだぁ?このサラセンで気楽にサンポしてる馬鹿がいるっつーんでな」

53部隊の彼からヘッドフォンを取り上げた男。
いや、
"男達"。
いかにもサラセンのゴロツキですといった身なりの男達が、
彼を取り囲んでいた。
まぁ、
こんな状況になるまで気付かなかったのは、
大好きな音楽を聴き入って散歩してた自分が悪いのだが、
楽しい楽しいバックミュージック入りのお散歩を邪魔されたのだ。
彼はちょいと不機嫌にもなる。

「いやいや」
「用事ってぇんじゃねぇんだ兄ちゃん」
「なんつーの?」
「金だしなっつーか?」
「命さしだしなって感じなわけよ」

まぁ、
つまり、
53部隊の"彼"は、
サラセンのゴロツキに・・・・。

「あっ、僕からまれたわけか。そりゃ災難だぜ」

彼は、
イカつい男達に囲まれたというのに、
まるで水溜りにでも踏み込んでしまったかのような軽さだった。
そしてポケットからガムを取り出した。
モンスターのビーズ。
その絵柄が可愛いガムのフタを開け、
口に含んだ。

・・・・くっちゃくっちゃ。
からまれたというのに、
彼はその中心でガムをくっちゃくっちゃ。

「・・・・ほんと気に食わねぇ兄ちゃんだ」
「マジ命ごと身包み剥いでやる」
「おい兄ちゃん」
「名前は?」

「あん?僕か?僕に聞いてんのかこの馬ヅラ共。ったくまじ勘弁だぜ」

彼は、
ガムをくちゃくちゃと噛みながら、
一間おき、
名を口にした。

「僕はシド。シド=シシドウだ。つーわけでヨロシク。動物と友達(フレンド)になる気はねぇけどな」

そして、
シドはぷくぅーとガムを風船にして膨らました。

「最悪な僕でも友達(フレンド)を選ぶ権利くらいあんだろ?」

「あん・・・?」
「なめてんのかてめぇ・・・」
「シド・・・シシドウ・・・」
「語呂だけいいな。だが聞いた事ねぇ名前だ」
「たいした奴じゃねぇだろ」
「ってかこの状況でイカれてんじゃねぇのか?てめぇ」
「余裕こいてんじゃねぇぞ!こっちゃ何人いると思ってんだ」

「ん〜?」

パンッ・・・と
シドのガム風船が小さく破裂する。
そしてそれをまた口に含みながら、
シドはダルそうに返事をした。

「何匹だろ?」

シドはニタニタ笑いながらまたガムをクチャクチャと噛み始めた。
誰が見ても、
馬鹿が見ても、
生意気中の生意気、
舐め野郎中の舐めた野郎。

「ってかヘッドフォン返せよ野良犬共。あ?聞いてんのか?それは僕のだクズ。
 僕のお散歩邪魔しくさりやがって。人の散歩邪魔していい権限は野良犬にはねぇよ」

「・・・・・・」
「ほんっとなめた野郎だ」
「ガムくちゃくちゃ噛みながらしゃべりやがってよぉ」

「青リンゴ味だよん♪」

「知るか!」
「ほんとに頭おかしいだろてめぇ!」
「ってか狂ってんなこいつ」
「はん。そんなもんはまぁ・・・・身なり見れば分かるけどな」

身なりを見れば分かる。
シドが狂ってる事が分かる。
ふむ。
なるほど。
なるほどなるほど。
それはそれは・・・ゴロツキに分がある。
一理どころではないほど納得だ。

「あん?僕のどこが狂ってるっつーんだよ。ざけんなよ?」

シド。
シド=シシドウ。
彼の容姿はそりゃぁ無視しろという方が無理な話だった。

顔。
顔はまぁ、
顔にコンプレックスのある人間なら大概妬む事はしょうがない。
幼さと生意気さが残る童顔。
可愛さと愛くるしさがありながらトゲのある、
それでいて最強に単純な「カッコイイ」という言葉をただ表現できる容姿だ。
小憎たらしい精悍な顔つき。
20代中盤を過ぎていると分かりつつもまだ若さが残る顔だった。

「まっ、イケメンは何着ても似合うっつーし?それが僕だな。カァーチョイィー♪」

柔らかいクリーム色の髪がさらにそれを引き立てているのだろう。
整髪剤を使わずとも、
フワフワ柔らかい髪が前に重なり、
金には達しない柔らかいクリーム色。

いや、
顔とか髪とかはどうでもいい。
俗にいう「かっこ可愛い」条件をこなしているだけで、
どこにも"狂っている"なんて呼べる箇所はない。

「ま、流行の先端行き過ぎな感はあっかもしんねぇけどな♪」

ポケットに両手を突っ込み、
ガムを噛みながらシドは言う。
いや、
服装もいい。
マイソシアの魔術師に近い格好といえばそうだ。
ファッション性のある魔術師姿とでも言うべきか。
だが・・・・

「ざけんな」
「その"頭"だよ」
「脳みそにウジでも沸いてねぇとそんなんしねえよ」

「そうか?僕が可愛いと思ってっけどな」

頭。
そうだ。
それは狂っているとしか言えないだろう。
シドのクリーム色の髪の上。
そこには・・・・

2つの愛くるしい長耳。
ウサギの耳がついていた。

「イカすだろ?」

「アホか!」
「どこにウサ耳つけて堂々と歩いてる男がいんだ!」

「似合ってんだろ?女の子は可愛いって言ってくれんだぜ♪
 まぁあんまり僕がカッケーからって射精すんなよ汚らしいウジ虫ども」

まぁ確かに、
シドの顔にウサ耳は似合うには似合っていたが、
それでも、
それでもだ、
日中堂々と街中でウサ耳つけて歩く思考回路はどうだ。

そしてそれだけではなく、
よくよく見れば体中変だ。

「まぁファッションは個人の自由だろが。だからこんな格好してんだ。
 ファッションってのは化粧じゃなくてイメージであるべきだと常々思ってんだよ」

というシドの言葉を表すかのよう。

マジシャンチックな服も、
ハートや十字架、ドクロなど、
ファンシーと悪趣味が交じり合うようなトレードマークがいたるところにあり、
アクセ的な金属が服に縫いこんであった。

そして、
耳。

ピアス?
イアリング?
いやいや、
シド=シシドウ。
彼の耳にぶらさがっているのは・・・・

キーホルダー。
はたまたストラップ。

WISオーブやカバンにでも付けておくべきソレが、
耳からぶら下がっている。
小型のクマの人形や、
"I LOVE"などと刺繍されたストラップ。
その他もろもろジャラジャラと所狭し。
ゲームセンターの景品のような数々。
耳につけているやつなど見たことがない。

よく見ると、
服のスソなんかにも小さなヌイグルミなんかがぶら下がっている。

魔術師というか、
違う意味のマジシャン。
手品師やピエロ、はたまたテーマパークの店員のような"夢見心地な格好"をしていた。

「で?」

ウサ耳のファンシー野郎は、
ガムをくちゃくちゃ噛みながら、
ゴロツキどもを見下す目で言う。

「話戻んよ。何?金欲しいの?なぁ?おい。僕の金が欲しいのかって聞いてんだよ。
 この僕シド君に絡んできたご用件はつまり、そんなクソッタレな用事なわけだよな」

耳のキーホルダー。
クマの人形や数珠繋ぎのドクロ。
宝石みたいなハートのストラップ。
それらが「耳だけじゃ狭ぇよ」と言わんばかりにお互いにぶつかりながら揺れる。

「いやまぁ、何?そんなんどーでもいいわけ。どーでもいいんだけどよぉ」

シドは、
またフーセンガムを膨らまし、
そしてそれが顔の前で最大まで膨らんだと思うと、
パチンと割れた。

「あんたらさっさと逃げてくんない?」

シドはニタニタ笑いながらそう言った。

「・・・・何言ってんだてめぇ」
「追い詰めてんのはこっちだ」
「数見ろ数」
「取り囲んでんだよ俺らはよぉ!」
「分かったらさっさと覚悟しろ」

「あんたらはともかく、別に"僕は殺したいわけじゃないんだよね"」

また噛み始めたガム。
シドに恐れはなく、
余裕と生意気さだけを醸し出していた。

「別に殺してもいいし、殺さなくてもいい。ハッキリどっちでもいんだ。
 ならてめぇらの事を思うとさっさと逃げてくれた方が他観的にはハッピーだろ?」

「なめんなよ・・・・」
「てめぇが俺らを殺すってのか?」
「ざけんな」
「てめぇなんかに俺らが殺されるって・・・・・」

「いやいや」

シドがガムを噛みながら、
両手を振った。

「僕が殺す?殺さない?"そんなものはない"。そんなものはねぇんだ。
 殺人・殺害・・・それは僕の意思とは別で行われちまうんだよ。
 だから"僕が今ここで本気で降参したところで君らは僕に殺されちまうんだよ"」

「・・・・・・」
「何言ってんだこいつ」
「わけわかんねぇよ」
「やっぱ頭おかしいんじゃねぇの?」

「僕は"人を無意識に殺す"。そんだけだ」

先に、
究極にそれを説明だけしておく。
彼にとって殺人。
それは、
・・・・・・"なんとなく"。
それが究極に当てはまる一つの表現だった。

だが、
そんな曖昧な表現も、
人によっては確かに感じられる事だった。

「・・・・・あ・・・わわ・・・・・」

ゴロツキの中の一人。
彼がそうだった。
彼がガタガタと震え、
怯えていた。

「お、おいどうした・・・・」
「親分・・・こいつ・・・・"なんかヤバい"・・・・」
「なんかって・・・・」
「分からないけど・・・・・」

「僕もそう思うぜ」

シドが言った。
ポケットに手を突っ込んで突っ立ったまま、
ガムをクチャクチャと噛んだまま、

「僕ってなんかヤベェ」

シドはニコりと笑った。

「でもなんだろ。正直殺す殺されるってぇーのは僕の興味にねぇんだ。ねぇんだよ。
 世の中にはそんなもんより楽しい事はいっぱいある。世の中ハッピーでいっぱいだ!
 僕自身がそう思うんだぜ?だから血生臭い事は抜きにした解決法を提案してるわけー?」

だからさっさと逃げろ。
それでチャラだ。
そうシドは提案している。

「じゃないと"気付いたら死んでいた"・・・なんて事になりかねねぇーんだよ」

クッチャクッチャと、
ガムを噛みながら、
彼は当たり前かのように言った。
さすがに、
さすがにこれだけの自信。
これだけの数に囲まれても全く揺るがない自信。
それにゴロツキ共は少々臆した。

「いやまぁ、あんたらが逃げないなら僕が退散すっぜ。
 イヤな事は起こらない方がいい。僕はすっげーそう思うわけだ」

そして、
シドは歩く。
堂々と、
ポケットに両手を突っ込んだまま、
ガムをクチャクチャ噛みながら、
取り囲んだゴロツキ達の一角。
そこを堂々と割り込んでどこかに行こうとした。
だが、

「お、おいちょっと待てや!!」

素通りなんておめおめされてたまるものか・・・と、
ゴロツキの一人が呼び止める。
というか肩を掴む。
シドの肩を掴み、
止める。

「何シカトこいて帰ろうとしてんだハゲ!」

「ハゲじゃないぜ?耳ついてんだろ耳」

シドは自分のウサ耳を指差す。

「いやまぁそういう事じゃないか。ねぇーよな。だからバイビー」

シドはそのまま、
どこかに行ってしまおうとした。
だが、
そりゃぁだがだ、
さっきも言ったが、
このままこんな変なガキに逃げられたんじゃぁかなわない。
ゴロツキの一人は、
シドの肩を掴んだまま、
無理矢理こっちを向かせた。
力任せにシドをこっちに向かせた。

・・・・。
はずだったが。

「・・・・・あれ?」

シドはこっちを向かなかった。
肩を掴んで、
力任せに引っ張ったつもりだったが、
シドはこっちを向かなかった。
なんでだ?
シドの肩にゴロツキの手はある。
こんなヤワな男、力任せでどうとでもなるはずなのに。

「あぁなるほど」

ゴロツキは納得した。

「俺の腕がねぇえええええ!!!」

ゴロツキは自分の腕。
そこが間接からバッサリ無くなっている事に気付く。
その先、
自分の腕は、
シドの肩を掴んだまま離れていた。

「ん?・・・あっ・・・あちゃぁー・・・・」

シドは自分の肩にゴルツキの腕がブラブラ揺れている事に気付き、
顔を覆った。

「またやっちゃった・・・・」

シドは切り離した腕を投げ捨て、
振り向き、
ゴロツキの方を見て・・・・
申し訳なさそうに両手を合わせた。

「悪い!"わざとじゃねぇんだ!"」

シドは謝る。
腕の無いゴロツキに向かって。
心から申し訳なさそうに謝る。

「殺しちゃって悪ぃ!クセでさっ!」

「は?」

と疑問を頭にした時、
ゴロツキ。
腕の無くなったゴロツキの体は・・・・

バラバラと崩れ落ちた。

地面に肉片。
さっきまで人の形をしていた一人の人間一つ分のパーツ。
一人一人一つ。
それがバラバラで、
血にまみれてパズルのブロックのように転がった。

「う・・・」
「うわぁあああ!!」
「なんだ!?」
「テリーが死んだぞ!!」
「離れろ!その男からいったん離れろ!!」

ゴロツキ共が、
一人の死体を置き去りに、
シドから少し距離を置く。
蜂の子を散らしたように。

「あいつなんか持ってるぞ!」
「刃物かなんかだ!」
「テリーの体を一瞬でバラバラにしやがった!」

「い、いやちょっとてめぇら!そんな逃げんなって!
 僕そんな悪ぃ奴じゃねぇからよ!てめぇらを殺すつもりとかねぇんだからそんな目で見んなって!」

殺したのはシドなのに、
謝り、
弁解しているのもシドだった。

「殺す気なんかなかったんだって!クセだっつったろ!」

「殺す気なかっただぁ!?」
「ざけんな!」
「人一人バラバラにしたクセに何言ってやがんだ!」

「だからゴメンつってんだろ!悪気なかったんだって!」

人を一人、
完全に解体しておいて、
ゴメン。
そう謝るシド。
だが必死だ。
ケンカした友人に謝るように、
その程度のレベルで必死に謝る。

「僕に悪気はなかったっつってんだろ!逆に言えば"こいつが運が悪かった"んだ!
 僕は悪くないんだって!だからここはおうびんに行こうぜ?な?な!フレンズ!」

「ふざけ・・・・」

また一人のゴロツキ。

「ふざけんなよてめぇ!!!」

一人のゴロツキが飛び掛ってきた。
ダガーを持っている。
殺す気でこっちに向かってきている。

「いや!だからマジやめろって!僕は今人殺しとかする気とかねぇーんだよ!」

「うっせぇえええ!テリーを殺しやがって!!」

「いや、マジちょい・・・おいって!」

そして・・・・・
飛び掛った一人のゴロツキ。
ダガーを振りかざしたゴロツキ。

「・・・・・ったく・・・・」

それはシドとすれ違い・・・・
バラバラに崩れ落ちた。
先ほどのゴロツキと同じだ。
バラバラ。
パズルのように、
肉屋にならぶ商品のように、
肉片となって崩れ落ちた。

「ふざけんな!謝ってんだろ!」

怒るシド。
その両手には・・・・

たった今血まみれになったトランプのカードがあった。

「お前死にたいのかよ馬鹿野郎!!」

・・・と、
シドはもう死んだ男に叫ぶ。
血まみれになった二枚のカードをポイッと捨て、
シドの怒りと共に、
耳のキーホルダー群が所狭しと揺れた。

ゴロツキ達は唖然とした。
二人の仲間が、
一瞬でバラバラになった。

「・・・て、てめぇ・・・」
「殺人鬼かなんかか・・・・」
「簡単に人を2人も殺しやがって・・・・」

「いや、そーかもしれねぇけどそーいう呼び名はマジ僕嫌いなわけだっつーの!
 僕は別に快楽殺人鬼とかそーいうんじゃねぇから!
 殺すのが楽しいとか、殺すのを仕事にしたいとかそーいう腐った人間じゃねぇんだよ!」

シドは思い出したようにガムを吐き捨て、
死体の上に吐き捨て、
なお言う。

「僕は別に殺す事に何も感じねぇーんだ!"何一つ感じない"!
 楽しいとか、イヤだとか、苦しいとか哀しいとか!快感どころか罪悪感も感じねぇ!
 躊躇もなければ意識もない!勝手にやっちまうだけ!呼吸と一緒なんだよ!」

殺人。
殺し。
死。
・・・・。
それらに何も感じない人間がいるだろうか。
1000人殺した軍人も、
殺すときには何か思うだろう。

殺し。
それには必ず感情が働いているはずだ。
そして、
そうじゃなくとも理由が必ず存在しているはずだ。

殺し。
それを誇りに思う者もいるだろう。
哀しく思いながらもイヤイヤ殺す男もいるだろう。
殺人が楽しい者もいるだろう。
後悔する者もいるだろう。
言葉で表せない思いを抱きながら恋人を殺す者もいるだろう。
平和のためだと言い訳する者もいるだろう。
しょうがないと心に弁解する者もいるだろう。

もちろん、
人を殺していい理由など何一つ無いが、
殺しには理由が必ずある。

少なくとも、
"殺しているという意識"
それぐらいはあるだろう。

だが、
シドにはそれがない。

彼が自分で言ったと事。

"呼吸と同じ"

シドにとって殺人とはそうだった。
趣味でもなんでもない。
性だとか、欲とかでもない。
人の三大欲。
食欲、
性欲、
睡眠欲。
それらとも違う。
それらはそれらが楽しみな人間もいるだろう。
だがシドは殺人を欲しない。
殺人はシドの欲ではない。

人間が、
最低生きていくために自分で行動しなければならない事。
それは、
食べる・寝る。
その二つだ。
それらはしなければ生きていけないから人は行動する。
食べなければ死ぬ。
寝ずに遊んで寝不足で死んだ人間もいるそうだ。
しなければならない行動というものが人にはある。

だが、
呼吸。
呼吸もしなければ生きていけないのに、
わざわざ呼吸をしようと思う人間がいるだろうか?
無意識。
ただ当たり前。
それが呼吸。
究極な重要要素であるのにも関わらず、無意識。
彼にとって殺人とは、
それに等しい。

息を吸い、
息を吐く。
それと同じように行ってしまう。
人は無意識に息を吸った時、
何か快楽を得ているか?
人は息を吐いた時、
何か罪悪感を得ているか?
彼にとって、
殺人とはそういう事だった。

"なんとなく"で、"どーでもいい"
楽しくもなく、哀しくもない。

呼吸と同じで、
しようと思ってすることもできるし、
別に何も考えていない時にだって勝手にしている。

殺す事に楽しみはない。
殺す事に悲しみもない。
殺す事に理由もなく、
殺す事は自分に何かを与えてくれるわけでもない。
そして殺す事は自分から何か奪いもしない。

激しい快楽もなく、
その代わり深い罪悪感もない。
意識もない。
意味もない。
理由もない。

人を殺す事に何も思わない。

ある人はシドに問うた。

「お前はどれだけの人間を殺してきた」

シドは答えた。

「息を吸う回数を数える人間はいない」

彼にとって、
人殺しなんて行動は、
空気よりも軽い。

"なんの意味もない行動だった"





「・・・・・・・てぇ事なんだ。お開きにしねぇ?僕は別に殺しに楽しみなんてねぇんだよ」

「・・・・・」
「簡単に人を殺せる奴が何をほざく・・・」
「俺らだって人殺して生きてきてっけど」
「てめぇほど殺人者代表みてぇな奴は初めてみる」

「僕は誰よりも人を殺してきたけどよぉ、誰よりも人殺しに無関心なんだ」

それは、
"誰よりも人としてあるべき姿だった"。
人は何かを殺して生きる。
大なり、
小なり、
そうしなければ生きられない。
だが、
殺しに完全に無関心。
それは・・・・
誰よりも人を殺してきたシドが・・・・
まるで・・・・
聖人のようではないか。

「僕の興味はもっと他にあるんだぜ!楽しい事して生きていきたいってなもんだ!
 うめぇお菓子を探すのもいいし、音楽聞いて頭を振るのも最高だよな?
 チェスに没頭するのもいいし、ダチ(フレンド)とダベるのもいいだろ?」

ウサ耳の男は、
またフーセンガムを口に放り込み、
嬉しそうにそう言った。
ただ、
面白おかしく生きていきたい。
ただそれだけ。
それだけなんだと、
史上最悪の殺人鬼は無邪気に微笑んだ。

「だから僕の興味の中に殺人なんてもんは含まれてない。邪魔なだけだ。
 あっ、空気悪くなっちまったしさ!僕の夢とか聞かねぇ?な?心晴れるかもよ?」

シドは、
無邪気に、
ただ無邪気に純粋に微笑んだ。

「僕の夢は友達(フレンド)100人だ!」

そう、
誰でも殺す殺人鬼は心の底からの夢を語った。

「・・・・・・てめぇの話が本当なら」
「お前は殺人に無関心なんだろ!?」
「じゃぁ友達とやらが出来ても殺しちまうんじゃねぇのか?」

「あぁ」

シドは、
ガムを噛みながら答えた。

「僕は友達(フレンド)と楽しく生きていきたいけど、"どうしても長続きしなくてね"
 僕の体は、虫を殺すのも親友(フレンド)を殺すのも何一つ変わらないように出来てる。
 最愛の彼女を殺しても、何も感じないし、何も罪悪感はない。
 ただ、失った悲しみはあるけどな。だがやっぱり殺した自分を責める心はねぇんだ」

殺しに何も感じない。
それは後悔もなく、
反省点もない。
逆に評価点もない。

「うっせぇ!!!!!」

ゴロツキ共の親分らしき男。
彼は叫んだ。

「俺達は俺達でサラセンでハバ利かせて歩いてるプライドがあんだよ!」
「そ、そうだ!」
「からんだ相手をぬけぬけ逃がすなんてできっか!」

ゴロツキ共は、
少々臆しながらも、
下がる気はないようだった。
殺気立ち、
殺気を湯気のようにムンムンと出し、
殺気0のシドを睨み、
各々の武器を持った。

「殺す!」
「もう金目のもんとかは後で考える!」
「てめぇはとにかく殺してやる!」

「・・・・・・手品しねぇ?」

「は?」
「・・・・何?」

シドは、
突然前触れもなくそんな事を言った。
そしてトランプの束をいつの間にやら取り出し、
ガムをクッチャクッチャ噛みながら、両手で鮮やかにシャッフルを始める。

「いや、楽しもうぜ?ってこと」

ウサ耳ファンシー殺人野郎は、
そんな事を笑顔で言う。
そんなにも殺人がしたくないのか。
そんなにも興味が無いのか。
トランプの束は、
シドの右手から左手へパラパラと空中をワープするように移動した。

「ここに53枚のカードがありますよっと。で、確かにここにジョーカーがあります」

ピッ・・・と、
トランプの束の中からシドはジョーカーを取り出した。
人差し指と中指の間でケタケタと笑うジョーカー。

「そしてもっかいシャッフルするぜ?」

「・・・・誤魔化してるつもりか!?」
「てめぇにその気はなくてもこっちは大有りなんだよ!」
「てめぇからこねぇなら俺らで一斉に・・・・」

「へへっ、まぁ心晴らそうぜ?ってこと。ほい出来た」

シドは片手にトランプを広げた。
トランプ一式のカードは右手に扇のように広がった。

「ほれ、なんとジョーカーがありません!ジャッジャン♪」

扇子のように広げたトランプのカード。
その中には確かにジョーカーの姿は無かった。
ウサ耳シドは、
そのトランプを地面に放り捨てた。
サラセンの固い地面の上、
全てのカードが表向きに捨てられた。
だが、
やはりジョーカーはない。

「じゃぁどこに?なんでだろ?なんでだろ?・・・・あっ!」

・・・・と、
わざとらしく驚いた顔をシドはした後、
フーセンガムを膨らましながら、
指をさした。
それはゴロツキの中の一人の男を指し示していた。
・・・・。
フーセンガムは割れた。

「てめぇが持ってたな♪」

シドの指につられて全員がその一人の男を見た。
その男。
その男の額に・・・・・・ジョーカーが突き刺さっていた。
いつ投げたのか全く分からなかった。
それこそ手品か何かのように、
鮮やかな技の中、
一人の男は額にトランプを生やして死んでいった。

「て・・・・」
「てめぇええええええええ!!!!!」

これで3人目。
さすがにもうブチ切れた。
ゴロツキ共が、
一斉に飛び掛ってくる。

「・・・・ん〜・・・・改めて数えると多いな。10・・・3ってとこか」

今のトランプショーで人を殺した罪悪感は無い。
ただ、
気付いたら殺してたんだからしょうがない。
悪気はなかったんだから。
それより次だ。
さすがのシドも自分が死にたいとは思わない。
殺られるなら殺る。

「あーあ・・・僕、殺しはどっでもいんだけどよぉ、死体見るんは好きくないんだよなー。キモいじゃん」

そう言い、
ウサ耳ファンシー殺人鬼は、
両手にトランプを取り出した。
たった二枚のカード。
スペードとハートのエース。
それが両手に一枚づつ。
武器はそれだけだった。

「楽しいこと無いかなー・・・こんなことじゃなくてもっと楽しいこと・・・・」

シドは・・・
構えるでもなく、
ただトランプを両手に持ってるだけだった。
ガムをくちゃくちゃ噛みながら、
迫り来るゴロツキ共をまるで風景のように見ながら、
ボォーっと突っ立っていた。

「死ね!」
「このウサギ野郎!!」
「俺らの怖さを教えてやる!!」

死んだ。
死んだ。
死んだ。

「ちょーしこいてんじゃねぇぞ!」
「この野郎!」
「一人で何が出来る!」

死んだ。
死んだ。
死んだ。

死んでいった。
ゴロツキ共は、
各々が武器を持ち、
各々が好きな言葉を叫びながら、
死んでいった。

シド?
彼は立っているだけだ。
"彼らがピアノ線に突っ込んできているだけだ"
男がシドに到達するたび、
突っ立っているシドの腕が動く。
見えないようなスピードで動く。
神技とでも言うべき、
常人には見えないような速度で動く。

転がってきた空き缶を無意識に蹴り飛ばすように、
簡単に、
シドはただ殺した。

ゴロツキ達は、
シドに到達した順にバラバラになっていった。
肉片になっていった。
まるでシドがピアノ線で出来た壁のようにも見える。
シドまで到達すると、
ゴロツキはバラバラになってシドの背後へと零れていく。

「なんなんだろな・・・」

トランプを挟んだ指。
その両手が光速で動き続け、
その動きと反比例するようなトボけたツラのシド。
「ガムの味がまた無くなってきたな」・・・とか考えながら、
つまらない演劇でも見ているかのような平常。
そんなノラリクラリなシドと反比例し、
シドの背後で山積みになっていくバラバラ死体。

「世の中もっと楽しけりゃいいのに」

そして、

「皆が皆、世界中の皆が楽しく生きれりゃそれでハッピーなのにな。くだらねぇよな」

12人目の男が全壊したところで、
シドの両手は止まった。
体の前でクロスした両腕。
その先には血がポタリポタリと落ちるトランプ。

「ま、僕は僕で幸せ探しに生きるよ。まずはフレンド探しだ」

ぽぃっと投げる。
血まみれのトランプは地面にヒラリと落ちた。

「あんただけだぜ」

「・・・・く・・・・」

一人残っていた。
ゴロツキの親分だ。

「くそぉ!」

ゴロツキの親分は、
大型の剣を構える。
だが、
襲ってはこなかった。
どう考えても恐怖に怯えている。
いや、
畏怖と呼んだ方がいいだろう。
異端を見る目。
異常を見る目。

「分かる。分かるぜ?僕はこれまでどんだけそんな目で見られてきたと思ってんだ?
 友達(フレンド)を作りたくても、皆が皆僕をそんな目で見やがる。
 ま、悪気がなけりゃ何してもいいのか?って聞かれりゃ僕だって弁解はねぇさ」

ウサ耳ファンシー殺人鬼は、
苦笑いを浮かべ、
耳のキーホルダーを揺らし、
そしてまたトランプを取り出した。
トランプ一式。
53・・・いや、
54枚のカード。

「今更だけどさ、ヘッドフォン返してくんない?」

「・・・・・」

その男は、
もう考えを変えていた。
もしかしたら、
コレを返せばもうこの男と別れる事が出来るかもしれない。
先ほどからのシドの言葉と様子。
それから見ると、
本当に別に殺しがしたいわけでもなく、
逃げるならば逃がしてくれるのかもしれない。
そう考えた。

「わ、分かった・・・これは返す」

男は、
ヘッドフォンをゆっくりと地面に置いた。
そして、
剣も地面に置いた。

「・・・・終わりにしよう。俺はもうあんたから手を引く!
 部下も全部やられちまった!もう関わりたくねぇ!だから・・・」

「あ、いや・・・なんだろ・・・・」

シドはポリポリと片手で頭かいた。
クリーム色の柔らかい髪がそれに合わせて揺れる。

「僕もそれで終わりでいんだけどよぉ・・・なんっつーだ・・・経験?それらから言っちゃうとさ・・・」

「・・・・?」

「いや、なんつーの?・・・・ただ運が悪かったっていうんかな・・・・・
 あっ!僕はもちろんこれで終わりでいんだけどよ!経験上それじゃぁ済まないっつーか・・・。
 ・・・・いや、言ってあげるならもう・・・・僕に会っちまってあんた災難だったなとしか・・・・」

シドは、
54枚のカードを半分ずつ、
両手に扇状に広げた。

「もう遅ぇ・・・多分あんた死んじゃうわ・・・」

殺すのは自分であるクセに、
まるで他人事のように、
無関係なのように、
無関心な殺人鬼は言った。

「な、何言ってんだ!終わるなら終わりでいいじゃねぇか!
 ムシのいい話かもしんぇけどあんたも納得してんだろ!これ以上血ぃ流す理由なんて・・・・」

「いやさ・・・経験上分かるんだよな。多分こっからどんな流れになろうとも、
 多分僕はあんたを殺すって結果になっちゃうんだろうなーって・・・・・
 いや、もちろん僕は僕でそうしないよう努力はするつもりなんだけどよぉ」

「なんでだよ!ただあんたは俺が逃げるのをただ待ってくれりゃいいんじゃねぇか!」

「そりゃそうだけど、そうなっちまうんだろうなってよぉ」

「・・・・クソッ!!!」

男は剣を拾った。
そして構える。

「もとからテメェ俺を生かす気なんてなかったんだろ!訳分かんねぇことゴチャゴチャと!」

「ほらこういう流れだ」

シドは呆れた。
ウサ耳がダランと前に倒れた。
分かっていた。
今のはまるで自分がこうなることをしむけたような形だったが、
シドには分かっていた。
どれがどうなり、
どうなろうとも、
なんとなく自分はこの男を殺していただろう。
理由もなく、
理屈もなく、
感情も根拠もない。
ただの経験論だった。

だって、

"自分でもなんで人を殺すのか分からないのだから"

「まっいいや・・・オッサン。マジックってどう思う?」

「・・・・・ま、またその類か・・・」

「いやそりゃそうだ。どうせあんた死んじゃうんだから何かお話でもできねぇかなってな」

「・・・・・・」

「どう思う」

「マジックってそりゃ・・・魔法の事だろ・・・・便利にゃなったと思う・・・俺はできねぇが・・・」

「いや、手品の事だ」

突然、
突然だった。
シドの両手。
そこにあった54枚のカード。
それが・・・・
浮き上がった。
まるで風に巻き上がるように。
シドを取り巻くように浮き上がった。

「魔法ってのは技術の結晶だろ?あんなもん不思議でもなんでもなくね?
 だからよぉ、この世で"種も仕掛けもないのは手品だけ"なんだよ」

ウサ耳ファンシー殺人鬼は、
微笑んだ。

「だから手品でも出来りゃぁ人は驚いてくれっかな?フレンド作るきっかけになっかな?
 でもよぉ、人の心ってのも魔法だな。作りも造りも創りもできちまう。
 魔法のように想像も創造もできちまって、人を洗脳さえ出来ちまう。酷く現実的だ。
 ・・・じゃぁ俺のこの無作為な殺人衝動はなんなんだろな。理由も何もない。
 最初からあるが、理屈もない。俺の体に根付いてる殺人って行動は種も仕掛けもない」

フワフワと浮く54枚のカード。
それが・・・
全て同時に止まった。
全てが・・・
前を向いた。

「分かんねぇよ・・・・自分でも分かんねぇ」

そして・・・
一斉に飛んだ。
発射とも言い難い。
まるで一つ一つが生き物のように。

「うわっ!うわ!!!!」

男は逃げた。
一目散に逃げた。
当たり構わず、
叫びながら、
真っ先に逃げた。
だが、
振り向くと54枚のカードが自分を襲ってきていた。

「分かんねぇ・・・でもこんな僕にも・・・・フレンドができりゃぁいいけどな」

「ぎゃあああああああああああ!!!」

男の叫び声。
同時に、
トランプが、
54枚が、
男に一斉に突き刺さった。
全方向から。
360度完全に。

・・・・。
男は、
松ボックリのようにカードが突き刺さり、
カードに埋め尽くされ、
54枚のカードに切り刻まれ、
54枚のカードが突き刺さり、
そのまま倒れた。

「・・・・・・オッサンはどう思うよ?って・・あぁ・・・もう死んだのか」

次の瞬間には、
もう興味は無かった。
ヘッドフォンだけ拾いに歩き、
すでに何人殺したかもよく覚えていなかった。
それほど無関心だった。
今行った一連の殺人。
殺陣。
それは、
呼吸をしたのと同じで、
何も感じなかった。

まぁ、
話し相手がいなくなったという意味でだけ、
少しさびしかっただけで、
それもまた、
街中ですれ違う人間がいなくなっただけのような軽い感情だった。

「んお?」

遠くで音がした。
爆音だ。

「闘技場の方か。・・・あそっかメンドくせぇ・・・燻(XO)さんに言われてたな・・・・
 仕事で来てたんだった・・・。でもヤダぜ・・・殺すだけしか目的ないのに戦場とか行きたくねぇ。
 遊んで帰りてぇよ・・・・。人に殺しを強制するなんて最悪だホント」

シドは少し考え、
とりあえず味のしなくなったガムを吐き捨て、
ウサ耳をセットしなおした。

「・・・よっしゃ。もうちょっと散歩してから行こ!」

そう決断し、
ヘッドフォンをウサ耳の後ろにかぶせた。

「戦闘音聞こえたって事は"あいつら"がもう頑張ってくれてんだろ!
 じゃぁ僕が行く必要ねぇじゃん!行きたくないのに行く必要ねぇーわな!
 殺人なんてやりたい奴がやればいい!僕は遊ぶ!ハッピーとフレンドを探すぜ!」

そう決断し、
シドはポータブルオーブを取り出し、
レビアで買った新しい楽譜をセットした。
ゴキゲンな曲が流れ、
それだけでもう他の事はどうでもよくなった。


・・・・、
死体の肉片で軽くつまづいた。
「なんだよ邪魔だな」・・・と、
そう考えながらも、
「あぁ、そうか。さっき殺したんだった」
と思い出し、
自分をコツンと叱った。


ウサ耳を着け、
ヘッドフォンで音楽を聴きながら、
シドは歩く。

悪趣味な服装を自慢げに、
耳にはキホールダーとストラップを揺らし、

ただ純粋に、
友達と楽しみだけを求めるピュアな男は、
散歩に興じた。

彼は何も悪くない。
ただ、
ある一つだけが欠損している、欠陥商品なだけだ。




シド=シシドウ。

53部隊(ジョーカーズ)
副部隊長。

ツバメは皆に説明した。
「会ったら死ぬ」
そうとだけ。

人間の中の人間。
とても人間らしい感情を持った彼。
ただ、
最悪な欠陥が一つあるだけ。

それだけのウサ耳ファンシー殺人鬼。


職業: "プロフィット"

まだあまりマイソシアに普及していない職業。
それだけでも異端。
そしてあまり関係ない。
殺す手段が重要なのではない。
殺す理由が皆無という事だ。


二つ名?
あだ名?

大層なものはない。
ただ、
知っている者は口を揃えてこう言う。

『KEEP OFF(近寄るな)』


暗殺一家。
シシドウ。
シシドウとシシドウの間に生まれた。
シシドウ中のシシドウ。
シド=シシドウ。

完全なる無差別で人を殺す。

あまりに危険なため。
暗殺に部類する者達は、
彼を扱うためのマニュアルを作った。


1つ。

シドは単独で任務を与える事。同行者は死ぬ。

2つ。

あまり抑制はするな。シドは自由を好む。破棄する場合さえある。

3つ。

直談判は禁止。死にたくないなら電話(WIS)を覚えろ。

4つ。

細かい指令は諦めろ。目安としては、1人殺す任務で消費税は30人だ。




5つ。




出来れば取り扱うな。













注:本小説で取り扱う職業プロフィットは作者の想像をもとに作成されたものです。
  MMORPG「asgard」で実装されるものと異なる印象を与える可能性があります。ご了承ください


                 






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