「本当によかったのか・・・・」

ユベンは頭を抱えた。
机に両肘をつき、
自然と頭を抱えていた。

「いや、いいはずはない。何よりも何よりじゃない。
 この戦いに俺達44部隊が参加する必要性なんてないんだ。
 減る可能性はあっても・・・・増える可能性なんてないのだから」

机で頭を抱え、
そしてチラりと視界に入るもの。
紙切れ。
まぁただの紙切れだ。
いつぞや、
ユベンが無意味に苦労して出来た書類。
多く書類を作ってきた中でも鮮明に覚えているある書類。

隊長・ロウマ=ハート
副隊長・ユベン=グローヴァー
グレイ
ダ=フイ
ヴァーティゴ=U218
ミヤヴィ=ザ=クリムボン
ギルバート=ポーラー
メリー・メリー=キャリー
スモーガス
エース
キリンジ=ノ=ヤジュー
マイケル=リーガー
ロベルト=リーガー
ニッケルバッカー
カゲロウマル=サルトビ
ナックル=ボーイ
サクラコ=コジョウイン
スミレコ=コジョウイン
パムパム

「・・・・・・・」

並ぶ部隊員の名前。
そのうち、
6つには斜線が引いてあった。

「名前を消すってぇのは俺的にはいけ好かねぇんだけどな」

対面。
このユベンの部屋。
机の向こう側で椅子にダラダラと座る男。
エースだった。

「いい名前だったぜ?グレイもダ=フイもヴァーティゴも、
 カゲロウマルもサクラコもナックルもな。強ぇやつらだった」

椅子を揺らしながら、
エースは数々の武器を手入れしながら話していた。

「そこに並んでいる名前ってぇのは俺の尊敬する名前が19個だ。
 俺なんて名前さえねぇ。名前さえねぇからこいつらが羨ましいって意味で尊敬だ。
 こいつらはひっそりとかもしれねぇが、歴史に名を刻んだろうよ」

「歴史?」

「そりゃそうだぜ?この乱世。この悪魔みたいな帝国アルガルド騎士団。
 そん中で最強の名前。"44部隊"に名を連ねてた奴らなんだ。名は残るさ。
 だが俺はA's(エース)。『AAA(ノーネーム)』のエースだ。ちょっと妬けるぜ」

エースは手入れしていた武器を置き、
ユベンの方へと視線を変えてニッと笑った。

「いいんじゃねぇか?ユベン」

「・・・・」

「てめぇが悔やんでんのはギルバート達の事だろ?」

「・・・・あぁ。ギルバート。ロベルト。マイケル。俺達の仲間だ。
 あいつらを止めてやればよかったとただ悔やむ。まだ間に合うからこそだ」

「あいつらは強ぇぜ?」

「分かっている。だからこそ失うわけにはいかない」

「死なねぇって」

「そんな保障は世界のどこにもない。強いものが勝つとは限らない世界だ。
 ましてや相手は53部隊と《MD》。俺とて甘く見てるつもりはない」

「何よりじゃねぇってか?」

「あぁ。何よりじゃない」

「でもあいつらの名は・・・・・」

エースは身を乗り出して揚々と言った。

「53なんかの陰気くせぇやつらよりも、スラム生まれのとーへんぼく共よりも上だ。
 正直あいつらが負ける事なんてありえねぇ。ありえねぇんだよ」

「・・・・・・・・・それでも可能性があるからこそ不安がある」

「100%負けねぇ」

エースは、
ユベンの不安など聞きもしないように言ってのけた。
確信するように。
確実なように。

「・・・・・・・どうしてだ?エース」

「心情論とかそーいうんじゃねぇ。事実的な話で言わせてもらう」

「あぁ」

「俺達44部隊ってのは今んとこ基本的にはタイマンで負けてねぇ。
 負けたとして地理の問題だったり騙まし討ちだったり経験の問題だったり」

「それが俺達でさえ負ける可能性があると示しているんじゃないのか?」

「だ・が・・・・だ。へへっ」

エースは笑った。

「リーガー兄弟はともかくギルバートのおっさんはちゃんと考えてるぜ。
 やっぱ頭回るぜあの人はよぉ。古株なだけある。年季の違いってやつか?」

「・・・なんだ」

「ぶっちゃけ、"タイマンで真正面からやれば100%俺らの勝ち"・・・ってことなんだよ」

「なるほど」

ゲームに乗ったのかと思った。
遊戯のつもりかと思った。
だが、
違う。
戦略といってもいい。
"何もないという戦略"
ユベンは思い出す。
ギルバートは闘技場でタイマン戦でぶつかるつもりだと言っていた。
闘技場。
タイマン戦。
闘技場であれば、奇を狙った戦法などない。
小細工が得意な《MD》の人間にはむしろ不利と言ってもいいだろう。

「分かるだろ?ユベン。お前ならな」

「あぁ。相手を120%の力にしない。いや、80%に押さえ込む事さえ必要ない。
 自分が必要以上の力を出す必要もない。100と100。それでいいんだ」

「そ。ただただ真正面からぶつかる。それだけで・・・・俺達(44部隊)は絶対勝てるんだからよぉ」

ギルバートは、馬鹿のように心情論で戦いに乗ったわけじゃなかった。
好機。
これ以上の好機はないからだ。
タイマン戦をやれる状況が揃っている。
自分達の力なら、ツヴァイ以外のギルド連合の人間に負けるわけがないからだ。
そして53部隊。
彼らにとっても悪条件。
闇討ちが得意な暗躍部隊の彼らとて、
リングの上で確実に44部隊に分があるからだ。

「フッ・・・・」

ユベンは笑った。
おかしくて笑った。
自分を笑った。

「俺は・・・俺はなんだ。部下の心配ばかりしてる。し過ぎている。
 なのに・・・なのになんだ。俺が一番部下の事を分かってない。
 俺が一番部下の事を信用できてなかったんじゃないか」

「いいさ。それがあんた(副部隊長)の仕事なんだからよ」

「楽じゃない。何よりじゃないな」

「そんな心配もあんたにしかできない事だぜ」

自分はまだまだ未熟だ。
勘違いをしていた。
今回の戦い。
ただ、
舞台が闘技場というだけなんじゃない。
これ以上ない好機なのだ。
自分と自分。
一人と一人。
個と個。
それなら負けるわけないのだ。
自分達は・・・・44部隊。
世界最強の部隊。
無敵艦隊44部隊なんだ。
そんな事さえ分かっていなかった。

「俺らも13人まで減ったか。2年前はこの3倍以上いたんだけどな。
 ・・・・・けどよユベン。この名前はこれ以上減らねぇさ。不動の名前だ。
 だからもうペンはいらねぇよ。その名簿表に斜線を入れる必要はないからな」

「そうだな」

「そうさ」

「・・・・エース」

「ん?」

「もし・・・いや、話は変わるんだ。もしの話し。もしも。それだけの話だ」

「んだよ気持ちわりぃな」

「もし・・・・ロウマ隊長が変わったらどうする」

「あん?」

変わったら?
ロウマが。
変わる?
何を言っているか分からないという表情がエースの顔に浮き出ていた。

「意味わかんねぇよ」

「ロウマ隊長の考えが変わったら・・・という話だ」

「ありえねぇよ」

「もし・・の話だと言ったろ?」

「あー・・はいはい。えっと?つまりロウマ隊長が44部隊の隊長をやめるとか?
 それか帝国アルガルド騎士団から抜けちまう・・・・・そんな話か?」

「好きにとらえてくれていい」

「決まってんだろ。俺の隊長はどうやったって無敵の最強ロウマ=ハートだ」

エースは、
指先を机の上の名簿表に向けた。


「そこにある名前は消すなよ。どうやったって俺は"そこ"にいる。
 そして他の奴らもそうだろう。そして・・・・てめぇもだ。そうだろ?」

そうだ。
聞くまでもなかった。
・・・。
ふと思いついただけの質問だった。
燻(XO)に煽られたせいだ。
あいつは自分を不安にさせる。
あれは何もかもをハッキリと言ってくる。
受け止めづらいことだろうと、
どれだけ腐った現実だろうと。
だが、
分かっている。
迷う必要はない。
ただ、
ただ自分達はロウマ=ハートの手足。
その部下であり、
ロウマ自身でさえそれを必要としなくとも、
無理矢理ついていってやる。
そういう奴らなんだ。

「何よりだ」

ユベンは笑った。
馬鹿だ。
俺らは馬鹿だ。
死んだ方がいい馬鹿がロウマを除いて残り12人。
死んだ方がいい馬鹿。
それが44部隊だ。
4(死)が並ぶ、死並びの部隊。
死の行進曲(デスマーチ)。

「死ぬまで隊列は崩さない・・・か。何よりだ」




































「『ファンタジスタ』。それが俺のあだ名だぜ」

アレックスがリングにのぼると、
ロベルト=リーガーは勝手にそう言った。

「見えるか?このスタジアムの光景。サポーターがいないのは本当に残念だぜ」

彼は両手を広げる。
四角に、
豆腐を繋ぎ合わせたようなリング。
サラセンを象徴したかのような周りの砂。
そして、
ボロくさい観客席。
そこには空気しか座っていないため、
アレックスの足がリングを踏むと足音がよく響いた。

「僕は戦いは避けたい人間なんで、わざわざ人目に触れたいとは思いませんけどね」

「人は観られてこそ輝けると俺は思う!」

ロベルトは笑った。
と思うと、
いきなり走り出した。
「ヒョッホー!広ぇ広ぇ!」とか言いながら、
リングの上を駆け回り、
ズザァーとヒザで滑ったと思うとガッツポーズした。
意味が分からない。
けど本人は楽しそうだ。

「アレックス部隊長。スポーツマンって幸せだと思うか?」

「・・・・はい?」

「うんしょ」

ロベルトは立ち上がり、
また少しだけ落ち着いた様子で話し始めた。

「スポーツマンは大変だ。大変なんだぜ?好きな事やって金もらえりゃそりゃ幸せだ。
 趣味が仕事になれば世の中は太平。才能があればそれはもう人生は完璧だろ?」

「僕は生きることが生き甲斐です。食べて寝る。生きる最低限の事が趣味です」

「つっまんねぇ人間だなぁアレックス部隊長。ま、聞けって」

ロベルトは嬉しそうに話し始める。
まるで夢を語りたい少年のように、
少年のような顔がさらに幼く見える。

「スポーツマンってのはエンタテイナーなんだ。つまり仕事ってのはそういう事。
 スポーツが上手だから金がもらえるんじゃない。スポーツで楽しませるから仕事なんだ。
 点を取る事がプロのアスリートじゃない。観るものを轢き付けるのがプロのアスリートさ」

まぁそれはそうだ。
サッカーしたり野球したりしたところで、
お金が生えてくるわけじゃない。
お金の発生源はつまり観る者だ。

「だからさ。スポーツマンってのはファンタジスタでなきゃいけないのさ。
 アスリートってのはつまり芸術家なんだぜ。自分のプレイを人にみせる。
 いや、魅せる。そうしてお金を稼ぐ。絵を描く芸術家となんら変わりない。
 それでも観てもらうゲームの中での"遊び"、それを否定する人間っておかしいと思わないか?」

なんだか、
単純思考な少年人間かと思っていたが、
それなりの意思みたいなものを持っているようだ。
正しいかどうかは必要じゃない。
彼は彼なりの考えを持っている。

「俺は壁にボールぶつけてるだけじゃ我慢ならないんだ。人に魅せるからスポーツマン。
 だから俺はファンタジスタになりたかったんだ。そしてなった。なったんだ!
 お前の仲間に『時計仕掛けの芸術家(チクタクアーティスト)』っているよな?
 俺の考えはそこらのスポーツ選手よりそいつに近いと考えてくれるといいぜ。
 ボクシングの試合よりもプロレスの試合を評価したい・・・・って言えば分かるかな?」

アーティスト。
芸術家。
ファンタジスタ。
彼は、
自分のプレイで夢をみせたい。

「ドジャーさんとは真逆ですね」

つまり、
結果じゃなく、
過程に重を置く。
そう考えると44部隊らしい。
そう考えるとロウマ=ハートの配下らしい考えだ。
彼は・・・
戦い自体に意味を持たせたい人間なのだ。
結果だけを求めるなら、
機械のやるゲームでも見ていればいい。

「・・・・そして僕とも趣味が合いそうにないです。
 僕はイベントを楽しむより、早く終わらせて帰って寝たい人ですから」

「そりゃぁつまんない人生だぜ?アレックス部隊長」

「僕の人生は僕が決めます。僕の生きたいように生きてるんだからつまらないもクソもないですよ」

「・・・・なるほどな!ロウマ隊長が気に入るわけだ!」

そんな言葉、
アレックスの話術の一片に過ぎないものだっただろう。
だが、
44部隊として、
ロウマの部隊員として、
彼の考え・・・・・自分なりの人生。
自分なりの強さ。
自分を自分のものさしで測り、自分の強さを目指す。
その考えの中のものだと判断したのだろう。

「ま、分かってくれたならいいです」

アレックスは槍を抜いた。

「つまり僕は完全に勝ちだけを狙っていきますよ。
 残念ながら僕は正義の勇者じゃないので勝つためなら手段を選びません。
 汚いとか言われてもイエロカードは無視させてもらいます」

「いいぜ。これはルールの無い試合だからな。勝つか負けるか。それだけの純粋なゲーム。
 用意されたルール以外で相手に戦い方(プレイマナー)を強要するのはエゴだ。
 見えない反則(マリーシア)がどうこうって言ってるんじゃねぇぞ?ルールがねぇんだからな。
 暗黙の了解?くそくらえ!スポーツは相手にこう戦えなんて強要するもんじゃねぇんだ。
 それに・・・・それにな!俺だって思ってる。思ってんだ。・・・・・・スポーツも戦いも・・・・・」

ロベルトは懐から何かを取り出した。

「根本は勝ちだけを求めて全力を出すから燃えるんだってな」

勝ち。
負け。
勝敗があるものならそれを無視することなんてできない。
その過程が輝こうとも、
その最終地点にはいつも結果は出るのだから。
ゴールがあるならゴールを目指す。
全力を出し切るから汗は出る。
それはいかに美しいか。
むしろ、
ゴールを求めるからこそ過程は美しい。
ゴールのないレースを誰が走る。

「でもそれでも俺が行くのは・・・・ファンタジスタの道だぜ!!」

ロベルトの手元。
そこにあるのは・・・丸い・・・・なんだ?
そう思っていると、
空気が突然入ったようにその丸い物体は膨らんだ。

「さっきも言ったけどよ。俺と『時計仕掛けの芸術家(チクタクアーティスト)』は似てる」

エクスポと似ている。
それは考えだけでなく・・・
その攻撃方法。

「・・・・・・・爆弾ですか」

「ヘヘッ!ボールさ」

その言葉通り。
ロベルトの手元に爆弾が現れた。
ふくらみ、
サッカーボールの大きさになる。
そしてそれはそのままロベルトの足元に落ちた。

「さぁて長引いたが、キックオフといこうかアレックス部隊長」

ロベルトの片足が、
爆弾(ボール)の上に置かれる。

「リングという名のフィールドで、1対1のボールゲームだ。
 栄冠は誰の手に!?勝利の女神はどちらに微笑むのか!?
 泣いても笑っても勝者は決まる。ベストゲームをしようぜ!!!」

ロベルトが爆弾(ボール)に足でバックスピンをかけた。
爆弾は吸い付くようにロベルトの足の甲に乗ったと思うと、
ロベルトの足の動きと共に、
大きく頭上へと舞い上がった。

「さぁキックオクだ!絶対に負けられない戦いがそこにはある・・・・・・・・」

爆弾(ボール)が落ちてくる。
それはロベルトの目の前を落下し、
そしてもう一度足元へ・・・・

「ってかぁ♪」

蹴り出された。
いや、
蹴り飛ばされた。
全力で足はスイングし、
衝突し、
爆弾(ボール)はシュートされた。

「そーいう戦い方ですか!」

シュートされた爆弾(ボール)は、
アレックス目掛けて思い切り飛んでくる。
投げるでなく、
蹴る。
それがロベルト=リーガーの戦闘方法。
爆弾という火力武器が、
投げる数倍の勢いで向かってくる。

「人工大砲の域です・・・・ね!!」

アレックスが体を翻す。
翻しながら、
爆弾のシュートをかわすと、
アレックスの後方で爆弾は爆発した。

「先取点ならずか!面白ぇぜ!!」

ロベルトは走り出していた。
この正方形のリング。
アレックスからコンパスで距離を測ったかのように横へ走り、
その手にはまた小型の爆弾。
それがポンッ!と膨らみ、
サッカーボールのサイズになる。

「だけど俺ぁミドルシュートに定評があるんだぜ!!!」

横に走りながら、
ロベルトの手からボールが軽く投げ出される。
そう思うと、
ロベルトは走りながら大きく足を横に振り切った。

「おりゃぁ!!シュートォオオオ!!!」

大きくダイレクトキック。
ロベルトが真横に振り切った右足。
爆弾がシュートされる。

「くっ・・・・」

爆弾とは思えない勢いで、
その爆弾(ボール)は再びアレックスを襲う。

「決定力はないみたいですね」

アレックスは体を屈めながら、
逆にボールへと向かった。
突っ込んだ。

「距離が足りないですよ!」

前へ屈み、走りながら槍を構える。
ボール。
その爆弾。
それはアレックスより前で落下している。
地面にぶつかり爆発していまうだろう。
届かないのだ。
そう思い、
逆に走りこんだのだが、

「え!?」

爆弾(ボール)は・・・
バウンドした。
地面にぶつかり、
跳ね上がった。

「くっ・・・・」

地面で爆発すると思われたボールは、
地面をバウンドし、下から斜め上へと飛ぶ。
髪にふれる。
爆弾はアレックスのわずか横をかすめ通り、
アレックスの背後上で爆発した。

「危なかった・・・・・反射するんですか」

「ピンポーン♪」

横に走りながら、
ロベルトはまた手元に爆弾を発生させる。

「俺の爆弾(ボール)はよく弾むぜ♪えっと・・・・技術部のやつらがなんか言ってたな・・・。
 サンドボムの砂以外に水が・・・あれ?水素と空気がなんとかかんたら・・・・」

ロベルトは横に走りながら頭をかしげ、
その手。
サッカーボールの大きさまで膨らんだ爆弾を、
走りながら指先で回していた。
バスケットボールのように。

「とにかくよく分かんねぇから魔法のボールだ!!」

「自分の武器もちゃんと理解してないんですか・・・・・・・頭はよくないみたいですね」

「ヘヘッ!母ちゃんに昔言われたことあるぜ!
 んと、「これ以上頭悪くなると困るからヘディングやめなさい」ってな!
 馬鹿だよな。男は頭じゃなくて体で考えるもんだぜ!」

・・・・・。
それが馬鹿というんじゃないんだろうか。
頭は脳がある場所でなく、
ヘディングする部位とでも思っているのだろう。
脳まで筋肉という人間はどこにでもいるものだ。

「よっしゃ!次は決めるぜ!先制点だ!」

ロベルトは手の爆弾(ボール)をふと浮かす。
走りながらまた爆弾を蹴り飛ばしてくるつもりだ。

「待ってましたよ」

アレックスはそれを見てニヤりと笑う。
二度見た。
二度だけだが、
それで十分だ。
相手の攻撃方法を理解するには十分だ。

「そこはどうしても隙だらけですよね」

すぐさま左手で十字を描き、
指先を突き出す。
パージフレアの動作。
・・・・。
ロベルトの攻撃方法。
爆弾を蹴り飛ばし、砲台のように爆弾を飛ばしてくる。
だが、
手で爆弾を投げ→蹴る。
この動作にはどうやっても"トス"という動作が産まれる。
そこは最大の隙だ。

「攻撃の時が最大のチャンスなんですよ。ゲームの基本・・・・隙だらけです!」

アレックスはロベルトの進行方向。
走行先へ魔方陣を設置する。
あとは指を突き上げるだけ。
ロベルトは爆弾(ボール)をトスし、
蹴り出す動作に入っている。
避けきれないだろう。

「アーメン!!」

突き上げた指先。
吹き上がるパージフレア。
ロベルトはそのままパージフレアに突っ込む形に・・・・

「あぶねっ!?」

咄嗟。
ロベルトは爆弾を上に蹴り上げ、
そして自身。
ロベルト自身は体を翻した。

「秘技!ロベルトターン!」

吹き上がったパージフレア。
その炎の柱。
まるでディフェンダーを避けるかのように、
体を回転させ、
コマのようにぐるりとパージフレアを抜き去る。

「へへっ・・・・」

目の前に現れたパージフレアを抜き去り、
抜き去った先でロベルトは地面に片手をつき、笑う。

「どんな局面も打破するから『ファンタジスタ』なんだぜ?」

笑うロベルト。
そして、
その頭上から降ってくる爆弾(ボール)。
見もしない。
自分が蹴り上げたのだ。
その落下位置など分かっている・・・そういう事だろう。

「強い奴が勝つとは限らないからスポーツは面白い・・・けどな」

ロベルトの目の前に爆弾(ボール)が落下する。

「それでも強い奴が勝利を呼び込むのがスポーツなんだよ!!
 練習は嘘をつかねぇ!その集大成が本番(死合)だ!!
 俺の小さな動き一つ一つも・・・・俺が歩んできた人生の・・・・」

そしてロベルトの足元に爆弾(ボール)が・・・

「集大成なんだよ!!!」

蹴り出された。
いわゆるシュート。
爆弾。
超火危物の大砲。
球状の爆弾が歪みながらその威力を表し空を裂く。

「あ・・・まずっ!」

アレックスは槍を構えた。
避け切れるか?
いや、
そんなヒマはない。
3度目の正直とでも言いたげなほど、
爆弾が恐ろしいスピードで迫ってきている。

「くっ!!」

アレックスは槍を振り切った。
避けるヒマはない。
なら、
切り落とすしかない。
愚考だとは分かっている。
愚行だとは分かっているが、
それが最善だとしか思えなかった。

「ぐっ・・・」

案の定。
槍で爆弾を斬り落としはしたが、
槍のリーチ分の距離。
爆発を回避できるほどの距離はなかった。
槍で斬り落とされたサンドボムは爆発し、
いや、
炸裂し、
アレックスを襲った。

爆発より炸裂と表現したのは、
サンドボムが粉塵爆発の原理であるという事以上に、
バウンドし、膨らむロベルトのボール型の爆弾だからだろう。
空気を多く含み、
火薬を使っているとはいえ、
燃やすというより、
衝撃を与えるタイプに近かった。

「・・・ツゥ・・・腕と槍が吹き飛んだと思いましたよ・・・
 直撃じゃなくとも何発も食らうとやばいかもしれませんね・・・」

直撃じゃなくともダメージを負ってしまうのが、
爆発系の攻撃の強みだった。
そしてそれが大砲のように蹴り出されて来る。
死ぬ死なないのダメージ以上に、
直撃を食らうと意識まで吹っ飛ばされる危険性が高かった。

「しゃぁあああああ!!!」

ロベルトが叫ぶ。

「ゴォオオオオオオオオオオッル!!!!!」

必要以上に叫び声を上げるロベルト。
両手を広げ、
無関係な方向へと走り出し、
いや、
誰もいない観客席にアピールするように走り回り、

「ロベルト選手!先取点です!ヒャッホー!これは大きな一点!
 ランキングでは格上の相手!だが実力は違うと証明する一点です!!」

ロベルトがヒザから滑り込む。
リングの上で、
ヒザからズザァと滑り込み、
両手を掲げ、
誰もいない観客へアピールする。

「・・・・何してるんですか?馬鹿なんですか?」

「何ってゴールパフォーマンスに決まってるだろ!?」

「決まってるんですか」

「決まってるさ」

ロベルトは嬉しそうに立ち上がる。

「この瞬間が最高だぜ!ここにはいないけど、皆が俺を称えてくれる瞬間だ!
 勝ちを求めるサッカーも大事だけど、俺はやっぱファンタジスタがいい!
 サッカーはショーだからだ!観るものを魅了してこそサッカーさ!
 ボールがただポンポン人の間を飛び交ってるだけなのが好きなら、
 そりゃもうゲームセンター行ってピンボールでも見てたほうがいい!」

「・・・・タイマン戦じゃないですか」

「そうさ。でも俺ん中にはチームメイトがいるぜ!」

「・・・・はえ?」

「アレックス部隊長。あんたを倒す勝利は俺だけのもんじゃねぇってことだ」

「・・・・なるほど。それは同意しますよ」

アレックスは今一度槍を構える。

「僕だけの戦いなら僕は戦いなんてしません。戦いたくないから。面倒臭いからです。
 でも違う。背負うものがあるから戦う。そーいう事でしょ?」

「そ!それが代表だ!」

ロベルトは2・3度ウォームアップするようにジャンプし、
そしてそれを終えると、
手招きするように右手の5本の指を動かした。

「今度はそっちから来いよアレックス部隊長。ゲームはシーソーゲームが一番熱いんだぜ?
 俺は眠くなる1−0の試合よりも5−4の試合がいい。勝つにしろ負けるにしろな」

「でも勝ちたい」

「そうだ」

「僕は1−0でコールド勝ちっていうのがあれば最高です♪」

「おぅおぅアレックス部隊長。気が合わねぇなぁ」

「だから戦う・・・・・・でしょ?」

アレックスが笑う。
ニヤりと、
それでいて微笑みかけるような笑顔。
それを見るとロベルトとて笑い返さざるをえなかった。

「あんたはよく分かってんよ」

「ま、とにかくお言葉に甘えてこちらからいかせてもらいます。甘いもの大好きです。
 僕はもらえるもんはもらう主義なんで。・・・・拾う勝利さえ嬉しいもんです」

気付くともう左手で十字を描き終わっていた。
慣れてきたもんだ。
自分もまだ成長していると感じる。

「アーメン!!!」

単発のパージフレア。
ロベルトの足元に浮かぶ魔法陣。
吹き出る蒼白い炎。

「おっと♪」

もちろんそんなものが当たらない事は分かっている。
ただの威嚇。
牽制だ。
その隙に走りこむための布石。
戦いも慣れてきたものだ。

「ディフェンスの方はどうなんですか?ロベルトさん!」

槍を構え、
走りこむ。
完全に接近戦を狙った動き。

「さぁな。俺は前線がポジションなんでね!サッカーでも戦争でもな!」

「そうです・・・かっ!!」

あっという間の至近距離。
ロベルトが来いと言ったのだ。
攻撃してくるはずもなく距離はすぐさま縮まった。
そして突き出す槍。
走行の勢いのまま突き出すピアシングボディ。

「だけどなアレックス部隊長」

軽く、
突き出された槍を回転するようにかわすロベルト。
ディフェンダーをかわす様に、
くるりと体を翻しながら、
逆に槍の内側に入ってくる。

「カウンターは得意だぜっ!!!」

「げほっ!」

うかつだった。
空を突いた槍。
そのアレックスの脇腹に、
思いっきりロベルトの蹴りが減り込んだ。

「これが本当の直接フリーキックってなぁ!蹴りはグレイだけの専売特許じゃねぇんだぜ!」

吹き飛ぶアレックス。
石畳の上をゴロゴロと転がり、
体を立て直す。
だがロベルトが詰めてきていた。

「っつっても俺は盗賊の部類に入るんだろうけどな!スティールは得意だったし♪」

蹴りこんでくるロベルト。
ダガーもムチも持たない盗賊。
爆弾使いロベルト。
エクスポに似ているというは確かにそうだ。
だが、
肉体を駆使しているという意味では大違いだった。

「でも部隊長がいち部隊員に負けるのはシャクですよね!」

アレックスは槍を地面に突き刺した。
壁だ。
突き刺した槍は、ロベルトの蹴りを止める。
そしてアレックスは左手を突き出していた。

「得意じゃないんですけど・・・アーメン!」

「プレイアか!」

突き出した左手。
聖なる衝撃。
だがロベルトの反応速度は異常だった。
性格やその運動神経からチェスターを思い出させる。
ロベルトは体を柔らかく仰け反らせ、
至近距離のプレイアを避ける。

「この距離で避けますか・・・」

「そしてこの距離で攻撃だぜ!」

ふと、
いつの間に用意したのだろう。
いつの間に投げたんだろう。
目の前。
空中に・・・・爆弾(ボール)が浮いていた。

「よっ」

ロベルトは片手を地面に付け、
体勢の悪いまま、
片足を上げる。

「ロベルト選手!!決定的なシーンでのボレーシュート!!!」

「くっ!」

アレックスがすぐさま槍を引き抜き、
斜め後ろへと転がる。
ロベルトは空中の爆弾(ボール)を蹴り出した。
なんとか避ける事が出来た。
至近距離だったが、

「うわっ!はずった!サポーター!顔を両手で覆う!」

ボールは地面を一度バウンドし、
あさっての空中で爆発した。

「アーメン!!」

めざとくその隙にもパージフレアを仕掛けるアレックス。
ロベルトはバク転するように、
それを後方に移動しながら避けた。

「ちぇっ・・・・惜しかったな・・・・今のは決めなきゃとか言われるんだろうなぁ・・・」

「あの至近距離で爆弾を蹴ってくるからですよ。
 普通に足の届く距離なのにそんな動作の大きな攻撃するなんてね」

「ばっかだなぁアレックス部隊長。俺はファンタジスタだぜ?
 俺はその時、一番難しく派手なプレイをするように心掛けてんのさ!」

「ありがたいこだわりです」

「さて、どんどん行こうか」

また少し距離が離れた。
といっても少し走りこめばすぐさま近距離戦になる距離。
その距離で、
ロベルトは両手に何かを用意し始めた。

「ま、強く蹴るだけでファンタジスタは勤まらねぇわな」

ぼとぼとと、
ロベルトの足元に何かが落ちていく。
爆弾?
さきほどのように、
どんどんと膨らんでいく。
ロベルトの足元で。

「俺の得意技の一つ。パンプキンパスだぜ」

パンプキン。
それはカボチャだった。
パンプキンボム。
ロベルトの足元にカボチャ型の爆弾が並ぶ。

「ほいっ♪ほいっ♪ほいっっと♪」

ロベルトが軽く。
まるで撫でるかのように、
転がすためのような柔らかいタッチで、
そのパンプキンボム達を足の裏で転がした。

「ピッタシ10匹♪やっぱ試合は11人(イレブン)でやるもんだろ?」

「悪趣味なチームメイトですね」

カボチャの行列。
カボチャ。
パンプキンボムがコロコロと転がり始めた。
扇状に、
この闘技場のリングで包囲網を作るように。
遅くもなく、
それでもユックリとアレックスの方へと転がってくる。

「フォーメーションは3−5−2だ!いくぜお前ら!!」

広がり、転がっていく10個のパンプキンボム。
陣形を組むように。
だが無機質に。
それぞれがそれぞれのスピードで真っ直ぐ広がりながら転がっていく。

「こんなヘナヘナシュート当たりませんよ!」

気をつけなきゃいけない。
全て爆弾なのだから。
つまるところ、
これは戦場だ。
地面を転がる爆弾(パンプキンボム)に注意しながらロベルトと戦う。
そういう事だ。

「でも」

アレックスはパージフレアの十字を描く。

「パージフレアは直接的に狙う攻撃なんですよ!こんな爆弾の包囲網関係ありませんね!」

そして指先でロベルトを狙う。
狙う・・・が、
狙って気付いた。
ロベルトが移動している。
こちらに走りこんできている。

「ソッコー!ソッコーだぜ!!」

「自分も爆弾が転がるフィールドに入ってくる気ですか。
 なるほど。自分の蹴った爆弾(ボール)の位置は自分がよく分かるってことですね」

規則的に。
ただそれぞれ別々にアレックスに向かってユックリと転がってくる爆弾。
パンプキンボム。
ロベルトが蹴ったのだ。
ロベルトのみがその10の爆弾(ボール)の位置関係が分かる。
まさにフォーメーションか。

「違うね!!」

「え・・・・」

おもむろにロベルトが足を振り上げた。
後方に鳥のように振り上げる。

「シューーーット!!!!」

蹴った。
パンプキンボム。
地面を転がる10のパンプキンボム。
その一つを蹴り飛ばした。

「うわっ!!」

パージフレアをやめ、
すぐさま回避行動をとるアレックス。
パンプキンボムがアレックスの横を素通りし、
闘技場の観客席にぶつかって爆発した。

「パンプキンボムを蹴った?!」

「初めてみるかい?」

「そりゃ初めて見ますよ!」

アレックスに向かってユックリと転がる残り9個のパンプキンボム。
それは・・・
すべてロベルトの攻撃手段という事か。

「っていうかチームメイトって言ってたじゃないですか!何蹴ってるんですか!?」

「馬鹿だなぁアレックス部隊長」

ロベルトは指をチッチッと振る。

「ボールは友達。つまり友達はボールと一緒だ!」

「凄い結論ですね・・・・・」

「よっしゃ!どんどん行くぜ!」

ロベルトがまた、
地面に転がるパンプキンボムの一つへと走りこみ、
足を振りかぶる。

「軌道さえ分かっていれば避けれないものじゃないと分かりましたが・・・・」

パンプキンボムはゆっくりだが、
確実にアレックスの方へ転がってきている。
地面に転がるパンプキンボムに気をつけながらも、
ロベルトの攻撃(シュート)を避けなければいけない。

「軌道さえ?へへっアレックス部隊長。サッカーはチームゲームなんだぜ!?」

また一つのパンプキンボムを蹴りこんでくるロベルト。
それは低く、
低空のシュート。

「・・・・どうにかチャンスを見つけないと・・・」

アレックスは、
その爆弾のシュートの軌道から外れながら考えていた。
だが、

「!?」

ロベルトが蹴った爆弾。
パンプキンボム。
それが・・・・
他のパンプキンボムにぶつかって軌道を変えた。

「ほーれ!パスパスパーーーーッス!!!!」

パンプキンボムがパンプキンボムに当たり、
それがまた他のパンプキンボムに・・・
まるでボールを回しているかのように、
ピンボールのように。
ビリヤードのように。
跳ね返り跳ね返り、
目まぐるしく反射し、

「こっちですか!!」

3・4度ぶつかったと思うと、
最終的に、
アレックスの左前方のパンプキンボムにぶつかり、
そのパンプキンボムがアレックスへと向かってきた。

「避けるヒマは・・・・」

なかった。
不意をつかれ、
ギリギリまでどこから攻撃がくるのか分からなかった。
一人チームワークという奴か。
しょうがない。
アレックスは槍を振り切る。
切り落とすしかなかった。

「くっ・・・・」

パンプキンボムを槍で切り落としても、
爆発の衝撃はアレックスを襲った。
サンドボムほどの衝撃がなかったのが幸いだったが、
アレックスは吹き飛ばされた。

「・・・・直撃をさけてもキツいですね・・・・もってあと2・3発ってとこですか・・・」

アレックスは吹き飛ばされた先で、
自分の両手、体を見る。
軽いやけどとダメージでヒリヒリする。
直撃はさけているとはいえ、
今言ったとおり後2・3発食らえばアウトだ。
だがそれもパンプキンボムならの話で、
・・・・サンドボムの方の直撃なら・・・・。

「ゴォオオオオオオオオオオオオル!!!」

ロベルトはまた走り回る。
いつの間にか転がっていたパンプキンボムは無くなっていた。
爆発してしまったのか、
時間が立ち過ぎて不発に終わったのか。

「これでアレックス選手!ロベルト選手に2点のビハインド!
 これは致命的!実力の差を数字に表した結果になってます!!」

そしてロベルトはビシッと人差し指をアレックスに突き出した。

「サッカーは一点が重いから面白いよな。だからこそゴールが嬉しいし感動だ。
 でもこの2点は点数の差であって実力の差じゃないよな?そうだろ?」

結果の差。
つまり、
アレックスが求める結果論について言っているのか。

「俺どんなスポーツも大好きだけど、バスケとバレーの試合はちょっと見てて面白いと思わない。
 あぁいう点数の重なるスポーツっていうのはありありと実力に結果が現れるからだぜ。
 始まる前から単調なシーソーと強いチームが勝つって結果が決まってるからな」

「じゃぁこの戦いは実力さがハッキリ結果に出ているバスケットボールだって言うんですか?」

「違う。根本的に違うぜアレックス部隊長。勝負は分からないんだから楽しもうぜって言ってんだ。
 バスケはバレーは単調な試合だ。でも、それでも人はそんなスポーツにだって惹きつけられる。
 何故なら5%のどんでん返しとファンタスティックなスーパープレイは麻薬も同然だからだ」

ロベルト。
彼はまた片手に爆弾を取り出す。
それはぷくぅと膨らみ、
彼の武器(ボール)になる。

「結果だけでいい奴は新聞見るし・・・けどそれでも観てる奴は興奮してぇのさ!
 それはやってる奴もだ!プレイヤーだって興奮する!俺も興奮してぇんだよ!
 楽しんで面白い、俺もお前も誰ももだ!全部の全員を惹きつける試合にしようぜ!」」

「言ってる意味が分かりませんね。あなたみたいに楽しんで戦えってことですか?」

「できるだろ?あんたロウマ隊長と戦った時はすんげぇ楽しそうだったらしいじゃねぇか」

ルケシオンの砂浜。
ロウマ=ハートと戦った。
もちろん勝つことなど出来なかったが、
あの時は本当に全力が出せたと思っている。
そして・・・
自分の全力を出せた事は・・・確かに楽しかった。

「サクラコが熱弁してたぜ!「キャー!やっぱあたいのアレックス部隊長はステキ!ってな
 観客として観てて燃えたんだよ!戦いってのはそーいうもんじゃなきゃなんねぇ!」

「・・・・・」

「楽しんでやろうぜってのは"本気出せ"っつってんだ!
 あんたの実力はそんなもんか!?あん!?それで帝国に勝てる気か!?
 帝国どころか44部隊の下っ端一人も倒せねぇのか?!
 八百長で楽しめるのはそれに気付いてない哀しい純粋なサポーターだけだ!」

「舞台に立てと・・・・」

アレックスの表情が変わる。

「そう挑発してきてるわけですね」

「そうだ!つまんねぇんだよ!勝つだけじゃ足んねぇ!過程(試合内容)が大事だ!
 それが隊長の教えだし、俺もそう思ってる!全力のあんたをぶっ倒してぇ!」

さきほど言っていた。
1−0の試合じゃなく、
5−4の試合がしたいと。

「はぁ・・・・」

アレックスの顔が緩む。
いや、
緩んだといってもため息をついただけで、
表情の違いは明らかにあった。

「あなた達44部隊は本当に変わっています。楽に勝てればそうでいいじゃないですか。
 それなのに・・・・変態の集まりなんですから。疲れそうなので入らないでよかったですよ」

「あんたも十分変態さ」

「イヤですよそんなの」

「ちまちま保守的(カテナチオ)に戦ってしてねぇでよぉ、
 魅せる戦いをしようぜ。あんたも・・・ファンタジスタになれるはずだ」

「・・・・・・・・・後悔しますよ」

アレックスは槍を地面に突き刺した。
槍を捨てた。
そして両腕。
左手と右手。
その全体を大きく使い、大きな十字を描いた。

「じゃぁ今度は僕から言いましょう。・・・・"かかって来て下さい"」

十字を描いた両腕。
アレックスはそれをクロスさせるように突き出した。

「サッカーは11人でするものでしたよね?了解です。
 僕の指の数も偶然。超偶然ながら10本でした」

魔方陣が浮き出た。
闘技場のリング。
そのあちこちに。
10の魔方陣。
指一本につき、一つの魔方陣。
計10のパージフレアの魔方陣。

「へへっ、こりゃいい魔方陣(フォーメーション)だ」

「逆境こそ楽しそうですね」

「それがファンタジスタ。・・・・いや、それがスポーツマンだからな!!」

ロベルトは足元に爆弾を落とす。
サンドボム。
蹴りださせて直撃した場合、
一撃でやられる可能性がある。

「後半戦キックオフだ!!!」

ロベルトが爆弾を蹴り出す。
ドリブル。
爆弾でドリブルしてくる気だ。

「なるほど。面白いかもしれませんね」

アレックスは10本の指で魔方陣の位置を定める。
魔方陣が地面を滑る。
10個の魔方陣が闘技場(ピッチ)を這い回る。

「ピッチ上の魔術師ってとこですかね♪」

その姿はまるでマリオネットを操る道化師のようにも見える。
パージフレアの魔方陣は、
アレックスの指と見えない糸で繋がっているように。

「すぐに突破してやんよ!!」

「アーメン!!」

左手の人差し指をあげた。
ロベルトを狙った一つの魔方陣。
そこから蒼白いパージフレアが噴出す。

「おっとっと♪ロベルトターン♪」

爆弾をドリブルしながら、
ロベルトは軽快にそれをさける。
まるで柱を避けるだけのように、
まるで三角コーンを避けるだけのように、
回転するように下から吹き出た炎を交わす。

「今なら身動きできないだろ!?ロベルト君ロングシュートだ!!!」

そして足元のボールをおもくそに蹴りだした。
この距離でもアレックスまで簡単に届く。
勢いが落ちることなく爆弾(ボール)はへしゃげて突き進む。

「残念。インターセプト♪」

アレックスが小指をあげる。
すると吹き出るパージフレア。
読んでいたかのように用意してあった魔方陣から、
蒼白い炎が吹き出て、
ロベルトの爆弾のシュートを撃ち落した。
蒼白い炎の中で、
サンドボムは粉塵を撒いて炸裂した。

「あちゃぁ・・・・ディフェンスうまいんね」

ロベルトは自分の額をピンッと叩いた後、
また爆弾を用意する。
それはまた自分の足元に転がした。

「ドリブル突破しないとダメみたいだな!」

「できませんけどね♪」

「それをするのがファンタジスタだぜ!」

新たにドリブルを再開するロベルト。

「残り8つのパージフレア・・・・か」

ドリブルで突破しようと迫ってくるロベルト。
残りの8本の指。
それに対応する8つの魔方陣。
それで決めなくてはいけない。
このx10のパージフレア。
これはどうしても1つに集中するより威力が落ちる。
そして、
例えば小指だけで十字を描くなど無理な話しなので、
撃ち切るまで新しく用意する事などできない。
もちろん、
ロベルト相手にそんなヒマはない。
残り8発。
これをなんとか当ててチャンスを作らなければ・・・・。

「ま、当てればいいんですけどね。アーメン」

そして噴出すパージフレア。
指をまた一本突き上げたのだ。

「そんなんじゃ俺は止められないぜぇ!!」

「ファンタジスタだからですか?」

「ファンタジスタだからだ!夢物語みたいなファンタジーを実行するからファンタジスタだ!」

なんなく避けるロベルト。
爆弾(ボール)をドリブルしながらという足かせがありながら、
パージフレアなど難なく避ける。
ドリブルなど足かせでしかない。
攻撃時に用意すればいいだけなのだが、
そんな言葉ロベルトにはきかないだろう。
「ファンタジスタだから」
その言葉で全て却下だ。

「一気にいきますよ!!!アーメン!!!」

アレックスは両腕を動かしながら、
次々とパージフレアを発動していく。
迫り来るロベルトを阻むよう、
蒼い柱が地面から昇る。

「厳しいプレスも・・・・」

だがそんな生涯物(プレッシャー)など微塵も感じず、
爆弾(ボール)を巧みに操り、
引き連れながら、

「鮮やかに抜きされ♪」

パージフレアを避けつつ迫りくるロベルト。
4本、
5本とパージフレアを発動していくが、
全て軽々と、
それでいて鮮やかに避けつつ突破されていく。

「・・・・やりますね」

アレックスも気を抜けない。
両手を巧みに動かしながら、
指を上げていく。
そのたびにパージフレアが発動していく。
それはまるで傀儡子のようで、
それでいてピアノを逆に弾いているようにも見えた。
つまり、
無機質じゃない。
アレックスの表情は真剣ながらも楽しみが見え隠れする。

「こいつが最後だろ!!」

その通り。
最後の1つのパージフレアを発動したが、
全て避けられ、
それでいて、

「ゴール前だ!!!」

ロベルトはもうすぐそこだった。

「決定力不足なんて言わせねぇ!これで決めるぜ!!!」

ボールがトンッ!と浮き上がり、
それと同時にロベルトの体も浮く。

「ジャンピングボレーシュートォオオオオ!!!!ハッハー!!!」

空中で大きく横に振り切られた右足。
ロベルトのシュート。
爆弾が原型を留めていない形で突き進み、
威力を物語る。

「くっ・・・」

近い。
避け切れる位置じゃない。
突破されてはいけなかった。
撃たせてはいけなかった。
これはロベルトの勝利。
そういうものだ。

「なんちゃって♪・・・そうなんども「くっ・・・」とか言ってられないんですよ!!」

「!?」

「ゴールポストです。残念でしたね」

ロベルトが蹴りこんだ爆弾。
それはアレックスを狙っていたにも関わらず、
アレックスに到達することはなかった。
爆弾(ボール)。
それは・・・・
アレックスの手前。
そこにあったもの。
槍。
両手でパージフレアを打つために突き刺してあった槍。
そこに直撃し、
アレックスに届く事なく炸裂した。

「なっ!誘導されてたってのか!」

「ゲームの基本ですよ♪僕は戦術タイプなんで」

アレックスは走る。
ロベルトに向かって。

「よっと。あっ、大丈夫。壊れてない。頑丈なもんですね」

ロベルトの爆弾が爆発し、
吹っ飛んだ槍。
それを走りながらキャッチし、

「でぇりゃあああああ!!!」

突き出す。
それはもうロベルトの目の前。
爆煙に紛れ、
一瞬で詰め寄ったアレックス。
一方、
攻撃で体勢を崩していたロベルト。
そこに、
ただ、
ただただ槍を突き出した。

「ぐっ!」

ロベルトも咄嗟に回避行動をとった。
さすがに反射神経だが、
避け切る事は出来ない。
槍は脇腹をえぐり、
ロベルトは後方へ勢いのまま飛ばされた。

「っ痛!!たたたっ!!!いってぇ!!ちくしょう!」

後方に吹き飛びながら体勢を整え、
ロベルトは脇腹を押さえた。

「くそっ!やってくれるじゃねぇかアレックス部隊長!」

「これで2−1ですか?」

「そゆことだな!だが勝つのは俺だぜ!!」

ふと、
ロベルトが右手をあげた。
何かを放り投げたように見えたが・・・
そこには何もない。

「そんな疑り深い顔すんなって♪」

「疑り深い性格でしてね」

「じゃぁその眼で拝みな!よっ!!」

ロベルトは跳んだ。
体を翻す。
まさに逆転する。
空中で頭が下になり、
前後も入れ替わる。
つまるところ・・・・

「魔球!オーバーヘッドキック!!!!」

そして蹴った。
何を?
何も蹴ってはいない。
空気?
違う。

「インビジ、カモフラの応用・・・見えない魔球ってやつですか!」

「ありゃ?一瞬で見抜くとは」

ドジャーも行う行動だからこそ分かった。
爆弾(ボール)を消している。
正真正銘見えない魔球。

「っつっても無駄だけどな!」

見抜いたところで見抜けない。
爆弾はどちらにしろ不可視なのだから。

「僕を舐めないでください!!!」

だが、
すでに対策はとってあった。
インビジボールなど来るとは思っていなかったが・・・

「もう十字は切ってあるんですよ!アーメン!!」

アレックスの左手。
それが勢いよくあがる。
左手がまるまる。
5本の指で空を上に切り裂くように。
ばり掻くように。

「狙いもなにもありませんけどね!」

吹き上がる5本のパージフレア。
綺麗に吹き上がる蒼白い5つの炎。

「距離感も何も絞るヒマはありませんでしたけど、壁になら十分です!」

5つの魔方陣はまさに壁。
アレックスの前方直径5mほどを、
まるまる炎が塞いだ。
ロベルトのサンドボムは、
蒼い壁にぶつかり発爆した。

「・・・・・」

「・・・・・」

ロベルトの攻撃を防ぎ、
炎は吹き上がったまま。
だが、
その炎が吹き止んだ瞬間。

「でりゃああ!!」

「てやっ!!」

その地点で二人はぶつかった。
お互いが炎の視界で消えた瞬間。
同時に飛び込んでいた。
そして中間地点でぶつかった。

アレックスが振った槍。
ロベルトが振った足。
それがぶつかる。

「・・・・ってえええ!鍛えてあっけどなぁ!」

「やむタイミングの分からない炎に突っ込んでくるなんて勇気ありますね!」

お互いがお互い、
弾き飛ばされ後方へ飛ぶ。

「オフサイドになるか冷や冷やだったけどな!」

ロベルトは逆立ちするように着地する。
そしていつ用意したのか、
振ってきた爆弾(ボール)を片足でちょぃっと蹴り上げる。

「でもゴール前で何度も外してたらストライカーとは言えねぇよな!」

ロベルトがぐるんと体を起こす。
そして降ってくる爆弾。
あれをまた蹴り出すつもりだろう。

「おりゃぁああ!!シュートォオオオ!」

「させません!」

アレックスが左手を突き出す。
得意じゃない。
この距離でダメージを与えるほどのものでもない。
だがプレイア。
左手を突き出し、
空中のボールを弾き飛ばした。
ロベルトのもとにたどり着く前に空中で爆弾は爆発した。

「ありゃ・・・サイクロンった」

落ちてくると思ったロベルトは豪快に空振りする。

「・・・ってもサポーターにかっこ悪いとこ見せてらんねぇよな」

空振りついでに・・というとおかしいが、
ロベルトは豪快に回転したのと同時に、
周りに何かを撒き散らした。
それはまた地面でぷくぅと膨らんだ。

「行くぞ俺のイレヴン!」

パンプキンボム。
10のパンプキンボムが無造作に一斉に周りに巻き散らかれた。
距離がない。
さきほど接触したばかりの距離だ。
ほんの数メートル。
少し踏み出せば槍が使えるような距離。

「俺が蹴るのと」

「僕のパージ・・・・」

「どっちが早いか分かるよな!」

撒き散らかれたパンプキンボム。
転がす事さえしないし、
陣形を組んでいるようにも見えない。
そんなヒマさえなかっただろう。
だがこれでいいのだ。
ロベルトはそれを好きなように蹴りだせばいいだけ。
この距離。
10発全部避けるのは不可能。

ならどうする。
パージフレア。
ダメだ。
動作だけでも、パンプキンボムをすでに用意してある分、
ロベルトのシュートの方が早いだろう。

なら飛び込んで槍か。
パンプキンボムの散乱する中に足を踏み入れて?
可能だ。
それくらいの覚悟はある。
だが、
ロベルトにとったら攻撃する必要はないのだ。
わざわざこの爆弾(ボール)の海に入ってきてくれるというなら願ったり叶ったり。
一瞬フェイント入れてアレックスの槍を避けて体勢を整えれば、
アレックスはまんまとカボチャ爆弾の海の中。
ご臨終だ。

どうする。
考えるヒマはない。
すでにロベルトは爆弾を蹴り出す体勢に入っている。

「もうどうにでもなれです!!!!」

やけくそってやつだ。
アレックスの行動。
もう馬鹿としか言いようがないが・・・
実に合理的。
何もかもロベルトと互角の速度で攻撃を行えるだろう行動。

「シューートォオオオオ!!!」

蹴飛ばした。
一歩踏み出し、
アレックスも散乱するパンプキンボムを蹴飛ばしたのだ。

「おまっ!馬鹿っ!」

「僕もそう思います!!」

アレックスのヘタクソな蹴り。
パンプキンボムはゴンゴロと転がる。
ロベルトのシュート?
関係ない。
10のパンプキンボムが散乱しているのだ。
アレックスのパンプキンボムを初めとし・・・・

全て爆発した。

「ぐっ!!」

「だぁっ!?」

誘爆。
誘爆に誘爆し、
誘爆の連鎖。
つまりその場は一斉に爆発した。

アレックス。
ロベルト。
お互いが後方へ吹き飛ばされる。

「無茶でしたが・・・・うまくいきました」

パンプキンボムならあと2・3発。
なら1発なら大丈夫だろうと考えたのだ。
それよりも幸運。
一応蹴り飛ばした先での爆発。
アレックスは爆風を食らっただけに過ぎないが、
吹っ飛ばされるだけにしてもそこそこのダメージがある。

「でもあなたの方はそうでもないみたいですね」

「ちっくしょ・・・・オウンゴールかよ・・・・」

煙の奥から聞こえる。
弱った声。
ロベルトの周りに撒き散らしたのだ。
それらが誘爆。
つまり、
パンプキンボムの爆発をロベルトはモロに食らったはずだ。

「やられた・・・やられたぜ。これで・・・・・」

ふと、
煙に影はうつる。

「スコアは2−2だな!!!」

「!?」

どんな精神力をしているのか。
あれだけの爆発を食らって、
立ち直すとかそういうのじゃない。
カウンター。
速攻。
食らってから一息さえ付かずに攻めてきていた。
煙を突き破ってロベルトの姿が現れる。

「これで終わりだアレックス部隊長!!!」

完全に出遅れた。
相手の覚悟が上。
ダメージがどうした。
倒れている場合なんじゃない。
食らったと同時にすでにこちらに突っ込んできていた。

「あああありゃぁああああ!!!決勝点(Vゴール)だ!!!!」

煙を付きぬけ、
アレックスの姿を確認するや、
その勢いのまま爆弾(ボール)を軽くトスする。
同時に蹴りの体勢に入っている。
すぐそこ。
目の前。
こちらは完全に不意を疲れた。
体勢など何も出来ているものじゃない。

「・・・・やっば・・・・」

パージ?
間に合うわけがない。
槍?
届かない。
避ける?
不可能だ。
成す術がない。
出来る事がない。
相手の精神力が上回った。
相手の勝ちへの執念が上回った。
どうする。
どうするどうするどうする。
・・・・。
完敗か・・・。

「ああああああああ!!!」

やけくそ。
人間がとる行動だ。
悪あがき。
どうすることも出来ないんだ。
だからそうする。
だけど、
だけどだ。
そんな行動は凄く評価すべきだ。
何せ諦めていないのだから。

追い詰められた時こそ、
偶然っていうのは起こる。
最悪の時こそ、
体が勝手に最善を選択する事がある。

「なっ!?」

槍を投げていた。
弱弱しく、
情けない姿で。
だが、
それはロベルトへ向かい、
ロベルトには当たらず・・・・

「くっそぉおおおおおおおお!!!!!」

爆弾に突き刺さった。

「ぐああああああ!!!」

ロベルトが蹴る瞬間に、
爆弾は膨らみ、
光を放ち、
そして炸裂した。

爆発する。
爆発した。
完全にロベルトを巻き込み、
轟音を奏でた。

「・・・・・・」

アレックスは立ち上がる。
爆発は終わった。
立ち上がり、
爆煙の晴れた先を見る。

「・・・・あっちゃぁ・・・・まさかのダブルオウンゴール・・・・・」

ロベルトが横たわっていた。
全身から煙を噴き上げ、
見るほどにダメージの量が確認できる。

「・・・・偶然ですけどね・・・・」

アレックスは吹き飛んで転がった槍を拾いに歩いた。
投げる。
本当に窮地に追い込まれたら人は何をするか分からないものだ。
そう自分で思う。

「やっぱ訂正します。作戦だったってことにしておいてください」

「・・・へへっ・・・どっちでもいいっての」

横たわったまま、
闘技場の天を見上げたまま、
ロベルトは笑った。

「偶然でもなんでもな・・・あんたにゃ勝ちに対する執念があったってことだ。
 燃えるような闘志があったにはあったんだ。それで今のプレイの説明は十分。
 ・・・あーあ・・・ほんとゲームってのは何が起こるか分からねぇよな・・・・」

「・・・・・」

ハッキリ思う。
実力では彼の方が上だった。
だが、
それと結果は必ずしも一致しない。
今回の勝者が自分だっただけ。
だが、
それこそ自分の求めるものだ。

「やっぱあんた燃えるぜ。俺燃えさせてもらったよ。
 やっぱお互い最後の最後まで諦めずにプレイできてこそ白熱するよな。
 予想だにしないプレイ!!・・・・・ってか?そーいうのがファンタジスタだぜ」

「アハハッ。僕もそのファンタジスタってのになれましたか?」

「おーよぉ。今回のゲーム(死合)に関してだけなら間違いなくな。スコアは3−2か・・・」

「次の死合はありませんよ」

「そりゃどうだろな。・・・あぁそうか。そうだよな。・・・そうだもんな・・・・。
 こりゃリーグ戦じゃねぇもんな・・・・世界で誰が生き残るかってトーナメントだもんな」

「はい」

勝たなければいけない。
勝ち続けなければいけない。
そうしないと・・・・
帝国に。
アインハルトには勝てない。
絶対に。

「ロベルトさん」

「あん?」

横たわってピクリとも動かないロベルト=リーガーに、
アレックスは笑いかけた。

「勉強になりました。いかに楽しようじゃなく、楽しくですね。
 いや、まぁ僕は戦いを楽しいなんて思いたくはないんですけど、
 ただ・・・・戦いをしたくないなら全力でやらなければ・・ってのは分かりました」

「・・・・ははっ・・・捉え方は人それぞれだ・・・・観るもんと対戦相手が楽しけりゃそれでいいんさ」

「それがファンタジスタですか」

「そゆこと・・・定義は十分教えたよな・・・」

「はい」

「諦めない力ってぇのは時にすげぇよな・・・・」

さすがに疲れた。
ドジャーとイスカ。
そちらの方はどうなっているだろうか。
いや、
その前に・・・・
やりたくない。
やりたくないが・・・・

「・・・・・トドメささせてもらいます」

アレックスは言う。
ロベルトの表情は分かりにくかったが、
笑っているように見えた。

「アレックス部隊長」

「はい」

ゆっくりとした口調でロベルトは言った。

「諦めない力ってのは本当に大事だと思う。
 選手が諦めたらそこでサポーターはみんな冷めちまう。
 それでも夢を見させてやるのがファンタジスタなんだ」

「?」

「"笛が鳴るまでは終わってないぜ"」

しゅるしゅる・・・・
そんな音が聞こえた。
なんの音だ?
分からない。
見渡しても何もない。
だが近づいてくるような・・・・
なんだ。
なんの音だ。

「!?」

気付いて後ろを振り返る。
と同時。
アレックスの背後。
そこに落下してきた。
・・・・。

爆弾(ボール)

「ロスタイムだ」

いつ蹴り上げたのか。
分からない。
ずっと前なのか?
分からない。
ただ。
今になって落下してきた。
そしてそれは・・・・
バックスピンがかかっており、
地面とぶつかると同時にまるでじゃれてくるように・・・・

アレックスの方へとバウンドした。

遅かった。
避けるヒマもなく、

アレックスにぶつかり炸裂した。

「・・・・あ・・・・・」

吹き飛ばされるアレックス。
ゆっくりに見えた。
考える事が出来ない。
ただ・・・

衝撃で思考回路まで吹っ飛ばされ、

地面に落ちた時には意識を失っていた。

「・・・・・・・はぁ・・・・」

ロベルトは仰向けに横たわったまま、
ため息をついた。

「・・・・・疲れたぜ・・・でもこれにて試合終了」

ロベルトは両手を広げた。
横たわったまま両手を掲げた。

「ゴォオオオオオオオオオオル!!!」

叫んだ。
そして、
上半身だけ体を起こす。

「・・・・たた・・・こりゃ重症だ・・・当分先発は無理かな」

セルフヒールをかけながら、
首や肩を動かす。
そして反対に横たわるアレックスを見る。

「アレックス部隊長。スコアは3−3だ。引き分けかな?いや、判定で俺の勝ちだろうな。
 悪いけどやっぱ俺のが一枚上手だったみたいだぜ?しゃぁねぇよな」

ロベルトはWISオーブを取り出す。

「あんたもそうだろうけどよ。俺も背負ってるんだ。負けるわけにはいかねぇ。
 俺の場合最強の44部隊代表ってのをな。戦いはチームプレイだ。
 背負うもんがある限り・・・・負けるわけにはいかねぇ。いかねぇよな・・・・」

そしてもう一度、
ロベルトは両手を掲げた。

「ロベルト=リーガー選手の勝利!」

誰もいない闘技場の中、
大歓声の幻聴を聞きながら、
ロベルトは喜んだ。


アレックスはただ敗北の中で夢を彷徨った。









                 






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