俺ぁなんつーか。
燃やすのが好きだ。

店頭に売っている何か。
こりゃぁなんだろうか。
誰かが丹念に作り上げた結晶なんだろうか?
それとも売れればいいというだけの金儲け道具なんだろうか。
どっちでもいい。
だが、
それにはわずかだろうがそれ以上だろうが価値がある。
どちらかと言うと価値ある物がすきだ。
そして、

それが燃えるのが好きだ。

パチパチと消えていく音が好きだ。

有害物質に変換されて鼻に触る異臭に変わるのが好きだ。

ただに醜い黒へと変貌していくのが好きだ。

赤色の炎だけで、

もとの形がグシャグシャに燃え尽きていくのが好きだ。


人の命。
こりゃぁなんだろうか。
年齢分の輝かしい思い出の結晶なんだろうか?
どうでもいい無駄な時間を過ごしてきた命なんだろうか?
どっちでもいい。
消えていい命なんてない。
いや、
生きたいと思っている命、
失うべきでない命であればあるほど好きだ。
そして、

それが燃えるのが好きだ。

苦しみながら炎の中であがるうめき声が好きだ。

柔らかかった人肌がただの固い黒炭に変わっていくのが好きだ。

その際に俺にへばりついてくる人油の空気が好きだ。

赤い炎になす術もなく、

最後に踊るようにもがき苦しみあがき、
そして動いていた生命が燃え尽きていくのを見ると・・・勃起しそうになる。

こんな俺。
放火魔(チャッカマン)ダニエル。

自分でも思う。
こんな俺、
こんな俺が人としていいのか?
人間であっていいのか?
そんなの関係ない。
俺はそれが好きなのだからだ。
鬼畜、
人外的快楽主義。

こんな俺でも真面目に考えるんだぜ?
人殺し。
人を殺すことに快楽を覚える。
それ。
同属殺しが趣味な生物など、
もうその種族にはあってはいけない生物なんだ。
どんな理由があってもだ。
哀しい過去?
怒れる苦しみ?
どんなドラマティックな理由があろうとも、

人殺しはクズだ。

それが趣味ならなおのこと、
外道。
外の道。
人の道を反れた人間。

人間じゃねぇんだよ。


でも、

アッちゃん。

アッちゃんは言ったよな?
そんなでもダニーはダニーだってな。
こんなでも俺は人間だってな。

そうさ。
アッちゃんは俺に意味を与えてくれた。

そして教えてくれた。

俺は"異常"だが、"以外"ではない。

クズで最悪で鬼畜で外道で死んだほうがいい公害なだけで、
人間なんだってな。

俺は人間だ。

人間なんだよ。



・・・・?

で?

今、
目の前の鳥人間はなんつった?

"俺がなんだ"っつった?

ざけんなよ。




ざけんな。
































「ふざけるなってんだ!!」

ユベンは大声を張り上げた。
ユベンらしくない、
感情のままのような言葉。
ロウマと共に、
ルアス城の廊下の一角を歩きながら、
ユベンは愚痴を吐き捨てた。

「あ、いえ・・・・取り乱しましたロウマ隊長」
「いや、いい」

ロウマの横を歩きながら、
ユベンはまだ心の怒りが収まっていなかった。
燻(XO)。
・・・燻(XO)将軍。
我が尊敬すべき隊長ロウマ=ハートを愚弄し、
そして44部隊にケンカを売ってきた。
やるせない思い。

「ロウマ隊長・・・挑発に乗るわけじゃありませんが・・・俺は悔しいです。
 あいつらは俺ら44部隊がゲームに乗ろうが乗るまいが馬鹿にしてきただろう。
 最強がたる第44番・竜騎士部隊。それを手の上で動かすのが狙い。
 それであいつは結局俺達を笑いものにしやがった・・何よりじゃない・・・・俺は・・・俺は・・・」
「ユベン」
「・・・・いえ、私情です。忘れるべきだとは思っています」
「いや、いいんだ。それでいい」
「え?」

ロウマはユベンの方も見ず、
ただ淡々とその大きな体で歩いていた。

「お前は少し業務的すぎる部分がある。それがお前のいいところでお前の強さだが、
 たまに己のために動いているのか、それが心配になるときがある。
 このロウマ。自分の部隊だろうが、いや、自分の部隊のメンバーだからこそ、
 それらには自分のために、己の強さが探求のために動いて欲しいと思っている」
「ロウマ隊長・・・」

自分は、
44部隊を馬鹿にされるのが悔しかった。
だから怒った。
だが、
ロウマはそれ以上にそれを通り越し、
自分達の事を考えていてくれている。
"自分を大切にしろ。自分のため、自分の強さのため"
そう言いながら、
他人である自分達の成長をいつも考えていてくれる。
そして、
ロウマ自身は最強に強い。
最強に強いなんて言葉はおかしいが、
言葉の上でなく、
最強に強い。
それがロウマをよくあらわしていると思った。
そして、
一生着いていこうと思った。
毎日思っている。
一度も揺らいだ事はないだ。
だから、
だからこそ、
そのロウマの部隊。
44部隊を馬鹿にされて怒っているわけで、
つまり、
自分が未熟なんだと気付かされる。

「ロウマ隊長」
「なんだ」

歩きながら、
ロウマはこちらを見ない。
そして、
ユベンもロウマを見ずに話した。

「隊長は帝国よりも、44部隊を優先してくれてるんですか」

・・・・。
ふと言った言葉だが、
危険な言葉だった。
危険な問いだった。
世界の掟。
世界の理。
そう言ってもいいほど・・・
アインハルトは絶対で、
帝国は絶対で、
それがマイソシアのルールでもあるからだ。

だが、
それでもユベンは聞いた。

「俺達は・・・帝国である前に王国騎士団です。
 それ以上に、騎士団である前に44部隊です。
 そして・・・・・・・44部隊である前にロウマ隊長の部下です」

正直に言おう。
帝国の下についているわけではない。
それは、
ユベンを始め、
44部隊全員における話だ。
一人の例外もない。
もし、
もしもだ。
ロウマが帝国でなければ44部隊は帝国ではない。
ロウマが44部隊でなければ44部隊でさえないのだ。
それが44部隊。
そういう男達なのだ。

「いえ、失言です。聞き流してくださいロウマ隊長」
「ユベン」

ロウマはやはり、
こちらも見ず、
表情も変えず、
ただの雑談のように言う。
いつものように、
ロウマのように。

「お前が何かを心配する必要はない。お前らはお前らの生きるべき道を生きていけ。
 自分の強さのために、自分のために自分の信じる道を行け。
 そしてその最中、このロウマが目標ならそれに応えよう。
 だが、このロウマ。お前らに"自分の道を行け"という以外の道標にはならない。
 だからお前らの邪魔もしない。お前らの道を変える事もしない」

これだから隊長は・・・
矛盾ばかりしている。
人に対しては自分のために自分のためにといいながら、
自分に関しては人の事ばかり。
何もかも思い通りにする力を持っていながら、
自分自身を犠牲にする。

今の立場も、
今の権力も、
この人は・・・・


「お帰りなさい。隊長。ニーニョ(ユベン)」

ふと気付くと、
すでに44部隊の部屋が並ぶ廊下。
・・・・。
の少し前まで来ていた。

「話は聞いたよ。グラッチェだね」

廊下に持たれ、
手にはワイングラス。
ヒゲに近づけ匂いをかいでいる伊達男。

「ギルバートか」
「YES」

ギルバートは廊下の壁から背を離し、
ワイングラスを静かに揺らした。

「お?」
「おお?」

その後ろ。
廊下で通行の邪魔をするように、
座りながらサッカーボールを蹴り合っている男二人。
男というより少年二人にも見える男二人。

「ユベンおつ!」
「隊長おつ!」
「「おっつかれさん!!」」

ロベルト=リーガーと、
マイケル=リーガー。
リーガー兄弟。

ギルバート=ポーラーも含め、
3人の44部隊がその廊下に居た。

「偶然・・・というより待ち伏せていたようにも見えるな」

その通りだった。
ギルバート。
ロベルト。
マイケル。
その3人は、
明らかに待ち受けているかのように廊下に居た。

「待ってたんだよ。隊長。ユベン」
「おう!」
「だな!」
「「待ってた!」」

ワイングラスを片手に、
静かに佇むギルバートの後ろ。
ロベルトとマイケルは元気よく手を上げた。

「・・・・ふぅ・・・・」

やっかいだと思った。
まぁ、
この44部隊の副部隊長をやらせてもらっている身分から言わせてもらおう。
やっかい事に違いない。
もう経験上から分かる。
ロウマ隊長のお陰で素晴らしい自由主義部隊。
だからこうだ。
やっかい事で溢れ返っている。
それを処理させられるのも、
責任をとるのも自分だというこの悲しい現実。

「53部隊の事か」

「ビンゴ♪」
「「びぃーんごー!!」」

ギルバートがニヤりと笑い、
リーガー兄弟は元気いっぱいに喜んだ。

53部隊のことだとは分かった。
耳には届いているはずだし、
このタイミング。
それ以外にはない。

「・・・・・まさかノるつもりじゃないよな」

ユベンが聞くと、
ギルバートは不敵に笑い、
リーガー兄弟はニヤニヤ笑った。

「何よりじゃない・・・」

頭が痛くなる。
今、
たった今ロウマ隊長と拒否してきてばかりだ。
なのにこれはなんだ。
いじめか?
上司いじめか?

悩めるユベンの横。
ロウマが言葉を落とした。

「理由は」

ギルバートとリーガー兄弟に投げつける声。
怒ってはいないが、
低く、重い声。

「・・・・・これはユベンだけじゃなく、むしろロウマ隊長に聞いてもらいたかった事だ」
「だなー!」
「だねー!」
「あぁ、ロベルト、マイケル。ややこしくないから俺が話す」
「「ええーーー!」」
「ちぇっ」
「ベンチかよ」

ロベルトとマイケルはすねながら、
ギルバートの後ろで落ち着きなくしていた。

「ま、話すとだね」

ギルバートはワイングラスを片手に、
廊下でおもむろに話し始める。

「結果は分かってるさ。断ったんだろ?53部隊との共戦の話」

「もちろんだ。共戦どころかゲームだと言っていた」

「そうか。まぁそんな事はいいさ。戦いの場が設けられていればね」

ギルバートのワイングラスの中、
赤いワインがユラリと揺れた。

「俺はな。アンバランスが好きだ。バランスがとれている事なんて大嫌い。
 アンバランスはブラボーだ。最高にブラボーってやつだ。知ってるだろ?」

「何の話だ」

「あいつらは戦った」

ギルバートのワインがピタリと止まった。

「帝国ではなく、王国騎士団として居たかった。だから戦った。
 それはどうかと思うけどな。理由はどうあれ戦った。
 そして・・・・グレイ、ダ=フイ、ヴァーティゴ、ミス.サクラコ。奴らは死んだ」

カタカタと、
ギルバートのワインが揺れだした。

「カゲロウマル、ナックル。奴らも職務を全うした。それで死んだ。
 ブラボー。ブラボーだよ。でもな。理由なんかどうでもいい。
 奴らは戦い、死んだ。死んだんだ。立派な戦士で立派な騎士だったよ」

「・・・・ギルバート・・だが」

「分かってる。分かってるよニーニョ。あいつらに悔いはないだろう。
 そういう奴らだ。そして、それを理解してやるのが大事だ。
 奴らのためにじゃなく、自分ために生きるべき。それは分かってる。
 それが正しいし、過去じゃなく、未来を見つめる事こそ俺達だ」

ギルバートの目は真っ直ぐだった。

「だが、だけどだ。俺はバランスのとれた事なんてあんまりなんだよ。
 その正しさ(バランス)が大事というならば、それは最悪だ。
 それならば俺はアンバランスでいい。揺らめく、アンバランスがいい。
 心も安定しないアンバランスで不完全なままでいい。つまり・・・・」

「仇討ちがしたいと」

ロウマが聞くと、
ギルバートが・・・
いや、
後ろのロベルトとマイケルも頷いた。
だが、
ユベンは首を振った。

「・・・悪いが・・・許可しない。副部隊長の権限でだ。
 53部隊はあわよくば戦闘の混乱に乗じてこちらを攻撃してこようとしている。
 今回の件で帝国アルガルド騎士団の最重要部隊として君臨しようとしているんだ。
 敵はギルド連合だけではない。53部隊との3つ巴と言っていいだろう。
 ハッキリ言って危険だ。何よりじゃない。だから許可しない。決まった事だ」

「危ないから?」
「危険だから?」
「「馬鹿馬鹿しいぜ!!」」

ロベルトとマイケル。
二人は言った。

「俺達は無敵の44部隊だぜ!?」
「そんな事で止まってられるかよ!」
「「最強は恐れない!!」」

「・・・・・・・何よりだ」

頼もしいさ。
何よりも頼もしいさ。
だからこそ自分の部下だと思う。
いや、
ロウマの下に付くべき素晴らしい部下達だと思う。

「それでも許可しない」

失うわけにはいかないから。
もうこの世界。
他に代理などいないから。
最高の44部隊であるがゆえ、
今、
こいつらを失うわけにはいかない。

「それでも行かせてくれよニーニョ。そしてロウマ隊長」

ギルバートは、
ロベルトは、
マイケルは、
真剣だった。

「グレイ、ダ=フイ、ヴァーティゴ、ミス.サクラコ。奴らは覚悟していたさ。
 アインハルトの意思に関係なく、無許可で戦闘に出て行った。
 それは死を意味すると分かっていて、それでも戦いに行った。
 あいつらにだけカッコつけされるわけにはいかないだろ?覚悟なら俺も出来てる」
「俺も!」
「俺もだ!」
「そして!」
「俺達は!」
「「生きて帰る覚悟も出来てる!!」」

覚悟・・・か。
口に出さなくても分かるさ。

「ロウマ隊長」

ギルバートはロウマを見て言う。

「あんたが導いてくれた道だ。これは俺達の道だ。
 覚悟は出来ているし、これを超えなきゃ道はない。
 アンバランスな感情は俺の道。それを無視して前へは進めない。
 ここで進まなきゃ俺は強くなれないんだよ」

ズルい。
ユベンは思った。
そうさ。
自分だって戦いたい。
この立場がなければ、いつだって飛び出したいんだ。
だが、
この立場が喜びで、
この自分が自分であると分かっているから、
こんな中間管理職を真っ当し、
我慢している。
そして何がズルいかって?
そんな質問・・・・。

「前にも言った気がする」

ロウマは言った。
そう、
ロウマが応える答えなど決まっているからズルいんだ。

「このロウマ・・・・最強と呼ばれているが、最強という名の無力な人間に過ぎない。
 お前らに成長を促してやる環境を与えてやることはできる。
 お前らに強さを求めるための助言を与えてやることはできる。
 それが入隊だったり、戦いであったり、命令であったり様々だ。
 だが・・・・俺は無力だ。お前らの進む道を止める事など出来ない」

個。
それをどれだけ重んじるのか。
それがロウマだ。
千差万別の世界の中、
十人十色の人種の中、
一つだけ変わらないもの。
それは個人は個人だということだ。
自分は自分だという事。
これは100%違わない。
だからこそロウマはそれを重んじる。
自分だけは信じられるようになれと。
それが教え。
だから・・・
だからロウマは彼らを止められない。

「だが、それでもユベンと同じように、命令だけは下しておく。
 無力な上司の足掻きだ。・・・・・・・・行くな」

ギルバート。
ロベルト。
マイケル。
3人は返事をしなかった。
分かっている。
命令など・・・・。

「・・・・ふん」

ロウマは歩いた。
その大きな体は、
ギルバート、ロベルト、マイケルの3人の間を通り越す。
この廊下。
すれ違うようにロウマは通り越す。
背中合わせのように、
見向きもせず、
ロウマは3人とすれ違い、
廊下の奥へと歩いていく。

「本当に困った部下達だ。馬鹿ばかりで困る。
 だがこのロウマ。そんなお前らを誇りに思う」

「隊長・・・」
「ロウマ隊長!」
「部隊長!」

「さっきの命令は聞けなくとも、こっちの命令は絶対に聞いてもらうぞ。
 命令だ。このロウマに賭けて必ずだ。違反を許さん」

ロウマが振り向きもせず、
遠くへ歩いていく。
廊下を歩き去っていく。

「死ぬな。以上だ」

そしてロウマは廊下の奥へと消えていった。
廊下。
ユベンを残し、
3人の違反者を残し、
廊下は静寂に包まれた。

「王国騎士団に・・・・」

だがそれでも、
ロウマに聞こえるように、
3人は大声で叫んだ。

「王国騎士団に栄光あれ!!!」









































「で、ざけんなよ!!!」

ダニエルは椅子から立ち上がり、
指を突き出して叫んだ。

「俺が神族だと!?ざけんな!俺は人間だ!
 アッちゃんが言ってくれたことだ!あん?!聞いてるのか鳥人間!!」

「・・・・・・・・・ぷはぁ〜・・・・・」

「ヤニ吸ってんじゃねぇ!!聞け!!!」

豹変したダニエルにうって変わり、
ガブリエルはテーブルの上でダラダラとしていた。
別に明日世界が終わってもいいといった表情で、
このまま大災害が起きたとしても一歩も動かず死んじゃおうかなぁといった態度で。

「うっせ・・・メンドくせ・・・黙ってりゃよかったな・・・・・」

「あん?!」

「間違いねぇよ。てめぇは神族だ・・・・薄っすらだが分かるんだよ。
 同じ神族ってのが匂いでなぁ・・・。ポケットに隠し持ってるみたいに感じる」

「うっせ!てめぇの言ってる事なんざ!知るか!
 なぁアッちゃん!俺ぁ人間だよな!?そうだよな?!」

アレックスは言葉に詰まった。
ネオ=ガブリエルの言葉には信憑性がある。
ダニエル。
彼は人間を逸している。
魔力の点でもそうだ。
どこからにじみ出ているのかというほどの強大な魔力。
町、砦、森。
それらを一人で焼けるほどの魔力が人間にあるか?
そして自分を焼いても生きてる人間がいるか?

「うっせぇな・・・間違いねぇよ・・・・」

「てめぇみたいに適当人間のいう事なんて信用できるか?!」

「ダリィ・・・俺馬鹿にしてんのか?俺ってなんだと思う?
 俺、天使。そうエンジェル。神様馬鹿にすんじゃねぇぜ」

ネオ=ガブリエルはテーブルの上に寝転んだまま、
灰皿にタバコの灰をトントンッと落とした。

「よく覚えてるよ・・・てめぇは俺の好きだったミカちゃん燃やして生まれたんだからよぉ」

「ミカちゃん?」

「うぜぇ・・・誰だって恋くらいすんだろ・・・神様だってすんだよ・・・
 あぁー・・・なんだ・・・俺の大好きなリロ=ミカエルって女神の子がお前だったんだよ。
 彼女の命を燃やして産まれたのが翼無き反則炎神(ターボエンジン)・・・お前だよ。
 だからよぉく覚えてる・・・・・・・あぁー・・・・ぶっちゃけさっきまで忘れてたけど・・・・」

どっちだ。
だが、
即席で作った話にしては出来すぎだ。
それよりまず、
ネオ=ガブリエルの性格上、
無駄な作り話などするはずもない。
そんな面倒くさい事するはずがない。

「言われてみればボクもそう感じるよ」

エクスポが言った。

「ボクは神族だった時の記憶が残ってる。つまり神族だった時の感覚が残ってるんだ。
 だからなんとなくだけどボクも感じるよ。君は神族だ。間違いない」

エクスポが後押しする。
エクスポは神だった感覚が残っている。
それはエクスポ自身、
一つの力となっているだろう。
そしてエクスポもそう言っているのだ。
つまり、
ダニエルは神族に間違いない。

「ぐっ・・・・」

ダニエル自身にも思い当たるふしはあるのだろう。
自ら炎を浴びてもどうともダメージのない体。
何より、
死滅した細胞と言ってもいい火傷の痕さえ再生している。

「ダニー」

だけど、
それでも、
アレックスはダニエルの心境は分かった。

「ダニーはダニーですよ」

自分が・・・
人間じゃないと分かった時、
どんな心境なんだろうか。
自分が人外だと宣告された時、
どう思うのだろうか。

「アッちゃん・・・・だけどアッちゃんは俺が人間だって言ってくれたじゃねぇか・・・」
「そう言った時も、ダニーはバッチリ神族だったんですよ?
 つまりあの時からダニーは変わってない。あの時のダニーのままです。
 僕が感じたダニーは何も変わってない。"人間だ"・・・って評価したダニーと同じダニーです」

他の皆は、
口が上手いものだ・・・と感心したが、
それは、
その言葉は、
ダニエルにとって十分すぎる言葉だった。

「そ、そうだよな」

笑顔が戻ると、
最悪な鬼畜放火魔だろうと、
それは喜ばしいことだと思った。

「俺は俺だよな!アッちゃんの認めてくれた俺に違いねぇよな!
 はは・・・・ヒャハハハ!!!そうだよ!そうだよな!!そうだそうだ!!!」

自分に言い聞かせるように、
ダニエルは笑う。

「ヘヘッ!!よく考えたら神族ってラッキーじゃぁぁあーーん!?
 俺、すっげぇ奴だったわけじゃねぇか!ラッキーラッキー!!
 放火の楽しみも全部、俺が神族だったから楽しめたわけじゃねぇか!
 つまり俺はやっぱ神族でよかったわけだ!そうじゃねぇか!!!」

本音と空回りが混じったその言葉。

「んじゃ俺、翼生えるんかな?」
「生えるんじゃね?」
「生やしてみたら?」
「よっしゃ!・・・オラッ!!オゥラッ!!!」

踏ん張るように力を入れるダニエル。
だが、
背中は哀愁が漂うだけだった。

「ありゃ?出ねぇ。ウンコ出すのと同じ要領でニョキッ!って出ると思ったんだがなぁ」
「ウンコて・・・」
「うりゃっ!!うりゃっ!!!・・・・あんらぁー?
 なんかイメージは掴めるんだけどなぁ。出ねぇ。便秘か?」

つっこめない。
便秘という表現はともかく、
翼など生やしたことないのだから。

「ま、いいか!そのうち生えるだろ!力めば生えるってもんじゃねぇわな。
 そんな簡単に生えるんなら便所でウンコ踏ん張るついでに生えちまうわな!」
「下品な奴だな・・・」
「でもそれでこそダニーです」
「え?そう?やっぱ?俺っぽい?俺っぽいよなアッちゃん!!!」

褒めてはいないけど。

「話終わったのー?」

いつの間にやら、
マリナはカウンターの裏へと行っていたようだ。
新たに二つのコーヒーカップを持っている。

「天使を客にすんのを初めてだわ」

そう言いながら、
一つのコーヒーカップをダニエルの前に置いた。
なんだかんだいってもこの店のマスターだ。
気が利く。

「ヒャハハハ!客っつっても金払わないけどな!」
「ま、営業時間外だしね」
「ありゃ?そんな素直な事言う顔に見えなかったけどな。
 んー・・・・・♪いいねぇいいねぇ♪接客業の鏡だねぇ」

ダニエルは指先をビシッとマリナに向けた。
その指先ではライターを灯した程度の炎が揺れた。

「どんな人間にも蓄積された何かってのはあるわけね♪俺ぁそーいうの大好きだぜ!」
「お?変なところで気が合うじゃないか」

ふと反応したのはエクスポだった。

「ボクも積み重ねた人間は美しいと思うんだ」
「言うねぇ!お前言うじゃねぇか!その通りだ!」
「うん。君のようにちょっと野蛮で汚らわしい感じは性に合わないけど、
 感性の部分では少し似た部分があるみたいだ。
 やっぱあれかな?神族を経験してる分もあるのかな?いや、関係ないか」
「ヒャーッハッハ!俺のこの性分は生まれつきだぜ!」
「ボクもだよ。性癖って言ってもいいくらいさ」
「いいねぇいいねぇ♪名前は?」
「エクスポさ。美の貴公子だよ」
「じゃぁ"エクスぽん"だな!」
「・・・・・それは美しくないね」

エクスポは苦笑いした。

「んじゃぁよエクスぽん!」
「エクスポだよ。なんだい?」
「そういう積み重ねたのってどうなるのがいいと思う?」
「ハハッ!よくぞ聞いてくれた!いいかい?ボクの美学さ。
 ボクの芸術的思考だとね、積み重ねて積み重ねて・・・そして最後に華々しく・・さ!」
「やっぱ気が合うじゃねぇかエクスぽん!」
「エクスポだよ」
「俺もよぉ!積み重ねた大事なもんとかが・・・・塵になっちまうのが大好きなんだ!
 人間でもなんでもそーいう蓄積されたもんが燃えて灰になるのに萌えんだよ!!」

言葉は似たようなものだが、
やはりダニエルとエクスポの考えは逆な気がする。
好物とこだわりは違う。
同じなのは変態なとこだけだ。

「で、冷めるんだけど」

席についていたマリナが言った。
誰にかというと、
隣のテーブルの上に寝転がっているネオ=ガブリエルにだ。
彼はコーヒーに手をつけてなかった。

「いれたコーヒーを冷まされるのは我慢ならないわ」
「あー・・・・」

ただ黙々とタバコだけをふかしていた彼。

「いやぁー・・・」

はよ返事しろ。

「おいしそうだと思うんだけどよぉ・・・・手ぇ伸ばすのダリィ・・・・」

興味などにさえ面倒を覚えるのか。
これほどのダメ人間は見たこともない。
飲みたいと思ったものを飲むのさえ面倒だと感じるなら、
これ以上釣れない魚はいない。

「そーいや神族って何食ったり飲んだりしてんだ?」
「アスガルドには他の生物が生きてる感じしませんでしたね」
「ん〜?・・・魔物みたいなんは生息してんぜぇー・・・・」

そうなのか。

「でも〜?・・・あぁー・・・なんつーの?・・・神族って別に飲食せんでも死なないんよね・・・」
「そんな不幸せな生物だったんですか」

アレックスにとって、
最悪ともいえる生態系だ。

「だぁーからぁー?神族最高ってぇーのー?俺神族やってるわけぇー。
 いらない生物だけど、だからこそなぁーーんもしなくていいわけよぉー」

神の存在意義。
他の生物に何かを与えるわけでもなく、
他の生物を採取するわけでもない。
居ても居なくてもいい存在。
その存在意義。
だからこそ、
彼はジャンヌダルキエルを裏切った。
だが、
だからこそ、
世界の理の外に居るからこそ、
彼は自分がそれに相応しいと思っているのだろう。

「適当ながら結構考えてるんですね」
「いや、むしろ何も考えたくないからこその結論だろ」
「だね」
「ってか食わなくても飲まなくても生きていけるっていいな。
 労働の義務もないわけな。超自由だな。最高じゃないか」
「うちは道を見い出せない人生なんて真っ平ごめんだけどね」
「ん〜・・・・」

ガブリエルは面倒くさそうに唸った。

「だから神ってだめなんだろなぁ〜・・・・・と・・・俺思うねぇ〜・・・・
 何をしてもいいし何もしなくてもいいって最高の自由?それだね。
 いや・・・ま、"今日出来る事を今日しなくていい"・・・・それに収束されてるね・・・」

面倒そうに、
ダルそうに、
何も変わらないように彼は言ったが、
アレックスにはその言葉に、
ガブリエル自身何かを思ってのことだと感じた。
アレックス自身、
明日出来る事は今日しない・・・・ってな怠け者だが、
今日出来る事を今日しなくていい。
それはどんな気持ちなんだろうか。

「で」

ダニエルが言葉を挟んだ。

「俺、めっちゃ食ったり飲んだりしてるわけなんだけど?」

ん?
と皆は少し考えた。
ダニエル。
彼が神族であれば、
食う必要もないし飲む必要もない。

「俺毎日腹減ったり喉乾いたりすんだけどよぉ。俺、やっぱ神じゃないわけ?」
「いやぁー・・・」

ガブリエルがまたダルそうに言う。

「神だって食欲やらはあるさぁー・・・美味いもん食ったらやっぱ美味いしなぁー。
 ある種タバコと一緒だな。こんなもん吸わなきゃならんもんじゃないっしょー?
 でも吸いたくなるし我慢ならなくなる。神にとっちゃ全部そんな感じよー」
「俺、クソとかめっちゃするんだけどよぉ」

他に言い方とか違う例えがあるだろ。

「そりゃな〜〜。食えばクソでるっしょ〜。俺だって出るさぁ〜。
 食わんけりゃ出ないけどな〜〜。死なんし〜〜」
「アスガルドにも食べ物ってあるのか?」
「あぁ・・・それ考えるの忘れてました・・・見たこともない珍味があったかもしれないのに・・・」

アレックスは残念そうだったが、

「そこに見たことも無い珍味置いてあるぞ」

脇のテーブルに除けてあったもの。
イスカの料理。
ふむ。
これについては言葉を返さないでおこう。
話がこっちに進むと自爆しかねない。

「魔物食ってるキモい神族やらはいるねぇ〜〜」
「んじゃアスガルドにも便所あるんだな」
「夢も希望もない現実ね・・・」
「実も蓋もない話だな・・・」
「クソと便所なだけにな」
「うまくないぞ」
「便所ねぇけどなー」

ガブリエルのふとした言葉に、
皆は振り向いた。

「ぁあ!?」
「食ってるやついるのに便所ねぇってどういうことだよ」
「アスガルドでは野グソが基本なのかい!?」
「あぁー〜・・・・魔物はそうだろな。けど食に意欲あんのなんて元人間くらいなわけよ〜〜」
「んじゃ元人間のガブちゃんさんは?」
「俺はこれでも綺麗好きよぉ〜?ションベンは雲の端でしてた」

そこで、
皆は固まった。
一定時間、
その言葉の真意を理解できなくて固まった。
だが・・・

「おい!!!」
「今なんつった!?」
「ってかどういう意味それ!?」
「つまり・・・何かい?・・・君は下界に尿を振りまいていた・・・と?」
「・・・・・うっせぇなぁ〜〜・・・ダリィ・・・・悪ぃかよ・・・・・・」
「悪いわ!!!」
「ざけんな!!!」

雨は神様が泣いてるんだよ?
そんなおとぎ話を聞いたことがある。
だが、
現実はどうだ。
おい。
ふざけんな。

「てめ・・・俺らの脳天に小便シャワーしてやがったってのか!?」
「あぁ〜?・・・・まぁ〜・・・俺ぐらいだろうよぉ〜・・・可能性低いってぇ〜・・・・」
「お主・・・ふざけるなよ・・・・」
「こんなにもポイ捨てを注意する人達の気持ちが分かった事はありませんよ・・・」
「これは恐ろしい話だぞ・・・」

ジャスティンが神妙な顔つきで言う。

「数百・・・いや、数十メートル上空からコインを落としたとする。
 それはただのコインだが、重力の加速により威力は増加する。
 つまり上空から投げ落としただけのコインでも人は死ぬんだ。
 雹が頭に当たって死ぬって話くらいはよく聞くよな?」
「・・・・何が言いたいんだジャスティン」
「つまり・・・?」
「鳥のフンどころの話じゃない。アスガルドからの落下だぞ?
 つまり・・・・ネオ=ガブリエルの野グソで死んだ人がいるかもしれない」

皆はゴクリとツバを飲み込んだ。
怖い。
恐怖すぎる。
こんな恐ろしい話はない。
考えたくない。
想像したくもない。

「・・・・ハハハッ〜〜・・・・それ面白いねぇ〜〜・・・・・」

のん気にタバコをふかしながら笑うガブリエル。
笑うどころじゃなく、
笑ったあと「腹筋動かすのもダリィー」とか言ってる。
ふざけるな。
笑い事じゃない。
お前のウンコで尊き命が奪われたかもしれないんだぞ。

「ヒャーーハッハッハ!!!」

でも笑ってる者がもう一人。

「ヒヒ・・・・・ヒャーーーハッハッハッハ!!それいいな!ウケる!!
 スーパー棚からボタモチってかぁ!?これぞ最強のメテオ!ヒャハハハハ!!
 うわぁ〜!メーデーメーデー!皆さん天気予報です!今日の天気は・・・・・」

ダニエル。
あんたやっぱ神族です。
それで笑ってる時点で人間としてあるまじき行為だ。
ダメだこいつら。
神族みんなダメだ。
ネオ=ガブリエルの発想は正しい気がしてきた。
神族は生かしておくべきではない。

「で、真面目な話に戻っていいか?」
「「「戻してくれ」」」
「だよな」

ジャスティンは軽く笑い、
ヒジはテーブルに、
手の平は額に当てて話し始めた。

「招待券だ。闘技場への招待券。53部隊と44部隊からのダンスパーティ」
「誰が行くかって話だったよね」
「拙者と・・・」
「うち」
「僕とドジャーさん」
「出来ればもう一人くらい欲しいって話だったよね」
「って事でおい。ガブリエル」
「ん〜?・・・・ガブちゃんでいいよ」
「お前、俺らの仲間って事を証明してみせろ。それまでは本拠地にも案内できねぇ。
 本当に俺ら側につく気があるってゆーのを今回の戦いで見せてみやがれ」
「なるほどなー」

ガブリエルまたタバコに火をつける。
何本目だ。

「ごもっともだなー・・・・・・・・・・・でも断る」
「あん?」
「なんでよ」
「話すと長くなるから・・・・・メンドいから・・・・・」
「言え」
「・・・・・・・・・・ダルい」
「だろうな」
「予想と1mmのズレもない返答でしたよ」
「コーヒーカップ投げていいか?」
「弁償してくれるならね」

皆の怒りなどまるで他人事のように、
ネオ=ガブリエルはダラダラしていた。

「とにかくついて来いガブリエル」
「ガブちゃんでいいよ。・・・・・そして断る。俺思うわけよ〜・・・
 俺みたいなやる気ないやつ連れてっても足手まといでしかないって〜」

ごもっともだがお前が言うな。

「ねぇねぇアッちゃんアッちゃん」
「あー、どうするよ」
「4人で行くしかないかもしれませんね」
「アッちゃん。アッちゃんってば」
「もともとシシドウの問題かもしれないよ」
「かもしれんな」
「じゃぁ俺とアレックスで44部隊と戦って53部隊はツバメとイスカ?」
「正直そんな分担は荷が重過ぎるんですけどね・・・・」
「アッちゃんってば!!!」

ダニエルが叫ぶ。

「・・・・・・」

皆は分かっていて無視していた。
正直分かっている。
分かっていたさ。
空気的に。
初めて彼に会った人間とて・・・・

「俺つれてってよ!」

こう言い出す事は。

「却下」
「無理」
「駄目だろ・・・・」
「なんでだよっ!!てめぇらには聞いてねぇよ!!」

ダニエルは怒ったが、
理由など決まっていた。

「てめぇなんて連れてったらそれこそ危なくてしょうがないっての」
「っていうか・・・・」
「いつからこいつが仲間になったんだい?」

それは正論だ。

「そうだよな」
「こいつ別にギルド連合のメンバーじゃないわけだよな」
「ペッラペラ重要事項も話しまくっちまった」
「なーーーんでよーーーー!!俺はアッちゃんの味方だっての!!
 な!アッちゃん!俺頑張るぜ!いろいろとよぉ!」
「・・う・・・・うーん・・・・」
「アッちゃんのためなら例え火の中火の中火の中火の中炎の中!!!
 ・・・・あーーもー!んじゃドジャっち!俺を《MD》に入れやがれ!」
「却下」
「なんでよ!!」
「ダルいから」
「ざけんな!!燃やすぞ!塵に帰してチリトリで纏めて捨てるぞ!!!」
「そーいうのが危ねぇっつってんだよ・・・」
「ダニー。もしここに居るメンバーを燃やしていいって言ったら・・・燃やすでしょ?」
「燃やす!!燃やす燃やす!燃やし炒め!!」
「だからですよ・・・・」
「なーーんで!すっごい純粋な動機じゃないか!」

純粋すぎるから危ないんだろ。
異常性癖め。

「・・・・・まぁ・・・戦力が欲しいのは確かだけどな」
「言い事言うじゃんジャスちん!」
「ジャ、ジャスちん?・・・俺か?」
「さっすがジャスちん!元仲間!GUN’Sの時はお世話になりましたー!!」
「さっきまで名前も忘れてたクセに・・・」
「あっ!よく考えたらGUN’Sもギルド連合なんしょ?
 じゃぁ!じゃあ俺もギルド連合じゃん!ほれ!おっけおっけ!!」
「あんたは超特別枠よ」
「ヒャーーーハッハッハ!やった!」
「いや・・・誰もOKしてないわよ・・・」
「どんだけポジティブなんだよ」
「あれ?」

おかしいなぁ・・・とダニエルは考えた。

「じゃぁどうやったら仲間入れてくれるんだ?」

皆は頭を抱えた。
ほんと・・・
変なもんを拾ってしまった。
貧乏神の方がまだ楽そうだ。

「・・・・ふぅ・・・・諦めたら?」
「あん?」
「こいつどう否定してもどっちにしろついてくるんじゃない?」
「まぁな・・・」
「なついた犬は餌をもらうまで離れないって言うしね」
「餌をやるから取り返しがつかなくなるんじゃないかい?」
「いや、首輪があるならよかろう」

イスカの言葉で、
皆が・・・・

「僕ですか・・・・」

アレックスを見た。

「そうよ」
「聞くところによると、ダニエルはアレックス君を燃やしたくて居るんだろ?」
「そーーでぇーーす!!ヒャーーーハハハハハ!!!」
「じゃぁアレックス君を燃やしたいがためにアレックス君を守るだろうし、」
「アレックスのいう事も聞くってことな」
「まぁ・・・そうですけど・・・・」

アレックスがダニエルを見ると、
ダニエルは目を輝かしていた。

「アッちゃん!アッちゃんは俺が守るぜ!!・・・・燃やすために!!」

命を狙っている者に命を守られるってどういう事だ。
どっちにしろ自分は死んでしまうんじゃ・・・。
・・・。
皆のいう事はごもっともで、
アレックスに選択の余地はないかもしれないけど、
だけど・・・
ここは反論を・・・・

「あの・・・・」


「ありゃ?開店前からパーティかい?」

入り口の方から声がした。
そこには、
トレカベストを着た男が立っていた。

「ま、なんでもいいけど俺っち商売しに来たぜ?」

「お、よく来てくれた」

ジャスティンが当たり前のように言う。
その男は、
情報屋『ウォーキートォーキーマン』

「そりゃ来るさ♪情報は鮮度が命!俺は地獄の沙汰さえ実況可能な商売人だ。
 代金さえ頂ければどんな事でもいつでもどこでもってとこだな。イッツァウォキトォキ♪」

チッチッと指を振ると、
ウォーキートォーキーマンは店の奥へと歩いてきた。
それを見て、
マリナが飲み物でも用意しようと立ち上がる。

「あぁーいいよマリナ。今回は飲みに来たわけじゃねぇからあんたらが客だ。
 客に気ぃ使わすのは俺っちのポリシーに反する。商売したらすぐ帰るしな」

ウォーキートォーキーマンは、
すぐ傍のテーブル。
まぁ言うところ、
ネオ=ガブリエルが寝転んでいるテーブルの椅子にドカッと座った。

「って事でさっさと仕事の話だ。情報は生ものなんでね。さっさといくぜ?
 商品は"闘技場の様子"・・・・つまり44部隊と53部隊の様子だったな」

「あぁそれだ」

「OK。アイコピー♪」

そう言うと、
ウォーキートォーキーマンは、
椅子から持たれかかり、
手を差し出した。

「代金はニコニコ前払いだぜ♪」

「分かってるよ」

ジャスティンは自分の懐を漁り、
大型のグロッド金貨を取り出した。
そしてそれを親指で弾いた。

「まいどぉ♪」

ウォーキートォーキーマンはそれをキャッチすると、
嬉しそうに笑った。

「じゃぁ内容だ。現状、闘技場に53部隊はいなかった」

「いないか」
「まぁまだ指定してきた時間じゃないしな」
「でもそれじゃぁ罠かどうかまだ探りにくいわね」

「その代わり44部隊は3名居たよ」

「あ?」
「44部隊の方が居たっつーのか」
「あの人達の方は乗ってこないと読んでたんですけどね」

「っていうか逆に伝言頼まれたぜ?ったく俺っちは郵便案内じゃねぇってのにな。
 ま、情報の売り買いも商売のうちだ。頼まれた仕事はキッチリこなすぜ」

「伝言?」
「その44部隊からか?」
「・・・・WIS通信だけならロウマさんから僕のWISオーブにできるんですけどね」

「つまり彼らはロウマなんかの命令の範囲外ってことらしい。
 ・・・・と。この情報は別料金とれたかな?ま、お得意様だからサービスだ」

そしてさらにウォーキートォーキーマンは身を乗り出し、
内容を語る。
情報屋なだけに話しをするときは生き生きしている。

「向こうのメンバーは3名きっかし。"ギルバート=ポーラー"、
 そしてリーガー兄弟こと、"ロベルト=リーガー"、"マイケル=リーガー"。
 伝言としてはこの44部隊の構成で確定って事だ」

「向こうからそう言ってきたのか?」
「その3人しかいないって証明って意味かい?」

「そういう意志を伝えたかったそうだ。だから《MD》を最低3名連れて来い。
 ・・・・・そう伝えてくれと言ってたぜ?モテるねぇおまえさん達♪」

「《MD》を3名ねぇ」
「完全に俺らが標的か」
「でも拙者、アレックス、ドジャー。3人は揃っておるな」
「借りを返したい・・・ってところだろうね」

「あんたらはどんなメンツで行くんだい?」

「今んとこ俺、イスカ、アレックス、ツバメ、ダニエルだ」

「OK♪アイコピー♪」

それを聞くと、
ウォーキートォーキーマンは椅子から立ち上がった。

「伝えとくぜ♪」

「あん?」
「どゆことですか?」

「こっちも商売だ。向こうから依頼でね。こっちっかわのメンツの情報を買いたいとさ♪」

「ちょ・・・」
「てめ・・・」

「俺っちも商売だって言ってんだろ?俺っちは情報屋『ウォーキートォーキーマン』。
 代金次第でいつでもどこでもなんでもってのがポリシーでね♪
 ま、向こうも金払ってまで手の内明かしてんだからあんたらも腹くくれって♪
 できればそのうちあんたらの本拠地の位置も教えてくれよ〜?数十億動く情報だ」

「教えねぇよ」

「だろね♪」

そう言い、
ウォーキートォーキーマンは本当に仕事だけ終えると出口の方を歩いていった。
と思うと、
おもむろに振り返る。

「そうそう、言い忘れじゃないぜ?ちゃんと覚えてたぜ?」

「何がだよ」

「向こう様からもう一個伝言だよ。"早めに来い"だそうで。
 53部隊が到着する前がお互いのためにもいいだろうってさ。
 って事でバイバイ♪そして情報の売買ならまた情報屋ウォーキートォーキーマンへ♪。
 いつでもどこでもなんでもかんでも、お金次第で売り買いするぜ?
 ってことでまたのご利用お待ちしてますぜ?イッツァウォキトォキ♪」

そう言い、
ウォーキートォーキーマンはQueen Bから出て行った。
本当に本人が郵便物のように無駄のない男だ。
何にも属さない仕事人。
不思議な存在だ。

「早めに来い・・・か」
「すぐにでもってとこですね」
「53部隊が指定してきた時間より早く終わらせたいみたいだね」
「確かに一理ある。53部隊と44部隊を同時に相手はできんだろう?」
「44部隊の奴らが相手したいのはあくまで俺達か」
「逆にそれって44部隊→53部隊って連戦にならないかい?」
「同時に相手するよりはマシだろ?あくまで奴らは仲間なんだからよ」
「なんにしろ俺を連れてくしかなくなったんじゃねぇのぉーー?ヒャハハハハハ!!」

ダニエルが笑う。
確かにその通りだ。
すぐにでも行くとなると、
もうメンバーを募っている時間はない。
アレックス、
ドジャー、
イスカ、
ツバメ、
ダニエル。
この5人で行くのが最大のメンバーだ。

「・・・・・・マリナ」
「行かないわ」
「・・・・・ガブリエル」
「・・・・だりぃ・・・・」
「・・・・・はぁ・・・しゃぁねぇか・・・・・」

確定のようだ。

「行くのなら行くとしよう」
「あらイスカ嬢。あんたさっきまでと違ってやる気まんまんだね」
「当然だ。覚悟を決めるには十分な時間があった」
「うちとあんた。つまりシシドウの問題にぶつかる覚悟ってことかい?」
「シシドウなど名だ。拙者は拙者だ。それを証明しに行く」
「そういうの好きだよ」

イスカとツバメが同時に立ち上がった。

「うちとあんた。殺しの螺旋。いや、殺しの牢獄から出たもの同士。
 でも知らないじゃすまないって事だね。血は血だ。
 目を背けて生きてはいられないってもんだよ」
「そういう事だ。空が怖くて鳥は飛べぬ」

イスカ=シシドウ。
ツバメ=シシドウ。
彼女らにとって、
53部隊とはぶつからなくてはいけない相手なのかもしれない。
いや、
かもしれないではなく、
ぶつからなくてはいけない。
血を無視して人は体は動かない
血を無視して人は生きられない。

「しゃぁーねぇな。さっさと44部隊倒すか」

ドジャーが立ち上がる。
アレックスは立ち上がりながら呆れた。

「そんな簡単な相手ですか・・・・情け無い事に向こうのが格上なんですよ?」
「俺はタイマンで一人倒してんぜ?もっかいやったら勝てる気しねぇけど」
「僕は2人です。両方不意打ちですけどね」
「ヒャハハハ!なんそれ!普通にやったら7割方向こうが勝つって事じゃねぇか!」

ダニエルはそう言ったが、
反論はできない。
ダ=フイは手負いのところを不意打ち。
サクラコは相手を利用して勝っただけ。
カゲロウマルはイスカ、マリナ、シャークの3人がかり。
グレイに関してはドジャーが勝ったといっても、
一度敗北を喫していた相手。
ヴァーティゴとナックルは・・・・《MD》で一番と言っていいチェスターが倒した。
そのチェスターは・・・もういない。
他のメンバーはチェスター以下の戦闘力といっても過言ではない。
44部隊は・・・
確実にこちらより格上なのだ。

「でもドジャー。あんたイヤにやる気ね。出来れば戦いたくない派じゃないのあんた?」
「ん?・・・そりゃぁな・・・・」

ドジャーは濁したが、
・・・分かる。
ドジャーの考えている事。
希望。
希望だ。
相手は・・・・44部隊。
そこにあるわずかな希望。

・・・・・・メッツ。

「ま♪いいから行こうぜぇ!公認で燃やせるってんならワクワクしてしゃぁねぇよ!」
「てめぇが仕切んな」
「いいからいいから!レッツゴー!!ヒャーーーハッハッハ!!!」

ダニエルが嬉しそうに先頭で店から出て行く。
それに続くようにイスカとツバメも店から出て行った。

「あとは頼んだぜジャスティン」
「おうよ」

ドジャーはジャスティンに一言だけ言い、
アレックスと共に出て行った。


戦闘メンバー5人が出て行き、
店には、
マリナ、
エクスポ、
ジャスティン、
ネオ=ガブリエルだけが残った。

「さぁて・・・・」

ジャスティンが一息つく。

「俺らは俺らに出来る事をするか」
「ん?なんだい?」
「私はお店の準備したいんだけど・・・・」
「ま、少し話し合いさ」

そう言い、
ジャスティンは少し表情を強張らせた。

「本拠地(コロニー)についでだ」

マリナとエクスポは、
とりあえず頷き、話しに耳を傾けた。
ジャスティンが話す。

「正直今回の件で少々怖いなぁと思ったんだ」
「怖い?」
「つまり・・・・所在についてかい?」
「そういうことだ。ウォーキートォーキーマンにさえバレてないほど徹底はしているが、
 ハッキリ言って時間の問題だろうと俺は思う」

本拠地がバレてしまうのが・・・
という事だろう。

「でしょうね」
「ボクはまだ足を運んでないからなんともいえないんだけどさ。
 その本拠地について、隠蔽度はどれくらいのものなんだい?」
「徹底してるって部分にはかなり自信があるぜ?
 つまるところ、本拠地を自由に出入りできる人間は限られてる。
 その他の人間は情報が漏れると問題だから、入ったら出れない」

入ったら出れない。
それがあの本拠地。
どこかの森の地下。
スオミダンジョンの一角。

「原則として、入ったらあのコロニー(反抗期の巣窟)から出さない。
 それなら情報はバレない。WISオーブも取り締まってる」

ギルド連合の人間。
あの本拠地に入った人間。
牢獄に近い。
本拠地の情報を持って外に干渉することをさえない。

「じゃあ逆に出入り可能なのは?・・・いや、本拠地を出入りしたのは?」

ジャスティンは頷き、
その人物を羅列していく。


まず《MD》のメンバー
アレックス。
ドジャー。
ジャスティン。
エクスポ。
マリナ。
イスカ。
そしてチェスター。

仕事関係を一任しているロイヤル三姉妹。
ルエン。
マリ。
スシア。

我らがリーダー。
ツヴァイ。

ギルド連合が3本柱の一つ《昇竜会》
トラジ。
ツバメ。
シシオ。

同じく《メイジプール》
フレア。

《BY=KINGS(ピッツバーグ海賊団)》。
ジャッカル。
バンビ。
ピンキッド。

「ま、いわゆる幹部クラスのみ出入り可能ってとこね」
「信用度に値する者だけが出入りしてるわけだね」
「そう、トラジ、ジャッカルを死んでしまったが、彼らがギルドマスターをしていた時。
 つまりただの幹部だった頃のツバメ、シシオ、バンビ、ピンキッドでさえ、
 まだ一回づつしか出入りしていない徹底ぶりさ」

ジャスティンは自慢げに言ったが、

「でも最近はその入れ替わりが激しい。その構図がズレ始めている」

顔は真剣で重苦しかった。

「ツヴァイが加わり、2人のギルドマスターが入れ替わった事はもちろんだ。
 これからそこのガブリエルや、ダニエルも加える事になるだろう。
 戦力的に出たり入ったりすることになるだろう事を見えている。
 そして現状、さらにそういった人間が二人居る。信用できるか分からないのに出入りする人間だ」

二人。

「シャークとエドガイだ。
 エドガイ。奴はこっちに肩入れしてくれているのは分かる・・・・が、
 ギルド連合かと言われれば危うい。念のため本拠地から出してはいないが、
 戦力として外に出す事になるだろう。・・・・金で雇っているだけなのにだ。
 シャーク。奴はマリナ。君との信頼関係で信用はしているけど・・・・
 今みたいにいきなりどこかへフラフラされると心配で仕方が無い。
 デムピアス案内人として、王国時代からあっちや魔物と接点があるのは事実だからだ」

ダニエル。
ネオ=ガブリエル。
シャーク。
エドガイ。
信用に足るか分からない者が出入りするのは危険。
そうジャスティンは言いたいらしい。

「さらにバンビと共に《BY=KINGS(ピッツバーグ海賊団)》も消息不明だ。
 ウォーキートォーキーマンに依頼はしてあるが彼らとて安心できない」
「不満と不安と問題ばっかね」
「それだけじゃない」

ジャスティンは自分でため息をつき、
さらに話す。

「ロイヤル3姉妹の話だと、最近反感も多いらしい。
 たとえば外に居る人間だ。"なんで俺達はコロニーに入れてくれない"
 まぁそりゃそうだな。外で戦ってもらっている人間は外に居てもらうしかない。
 だとしても自分達の本拠地に1年も入れてもらえないのは不満も積もるってもんだ」
「ふーん。まぁそうね」
「そして逆もしかり。コロニーの中にいる奴らもだ。
 ハッキリ言ってあんな薄暗い太陽もろくに入らない汚い洞窟。
 長い奴だともう1年もあんなところに篭りっきりだ。ストレスがやばい」
「つまり、」
「何をとっても本拠地を隠し続けるのは限界ってわけね」

ジャスティンは頷いた。
隠し通している本拠地。
だが、
隠す事を徹底しているあまり仲間内で裂け目が生じる。
そして、
隠し通すことも時期的に危なくなってきてるということ。

「でも本拠地の移動は難しいね」
「って事は」
「そろそろ時期ってことさ」

戦わなくちゃいけない事になるかもしれない。
本拠地がバレようが、
帝国と真正面から・・・・。
本拠地の中にいる人間。
彼らとて戦力。
もっと・・・
もっと大きな戦いが起こったとき・・・
彼らにも戦ってもらわなくちゃならない。
4ケタを超える人間。
それが本拠地から世に放たれる。
その時。
どうやったって本拠地の場所は隠しとおせないだろう。

「時間はいくらでもあると思ってたけどそうでもないみたいね」
「時は必ず何かを変えるさ。悪い事ばかりに見えてもいい兆しでもあるかもよ」
「そうだといいが・・・・結論を言うと、」

ジャスティンは、
結果として、
最終的に、
つまり、
言いたかっただろう予言。
いや、
予告。
それを口に出した。

「近いうちに本拠地が帝国にバレるのもやむないって事だ」

帝国に本拠地がバレる。
それで・・・
それだけで全てがひねり潰されてしまうかもしれない。
だが、
それはつまり、

帝国と真正面からぶつかる時期は近いかもしれないという事だ。

「そして一番怖いのは奴さ」

気苦労することばかりだ。
そんな表情でジャスティンは言う。

「デムピアス。奴はチェスターの守護獣。ワイキベベのチェチェの体を持ってる。
 それはつまり・・・・・・ここの位置を知ってるってことなんだ」


時はもうない。

爆弾はそこら中にある。

あとはどこから爆発するか。


それを待つだけだった。



































「汚ぇ場所だ」

ドジャーはつぶやいた。
サラセン。
悪都市のさらに奥。
修道都市サラセンの名所とも言えるその場所。
戦いの場。
闘いの場。
たたかうためだけに設けられたその場所。

闘技場(バトルコロシアム)

その門をくぐったのは、
アレックス、
ドジャー、
イスカ、
ツバメ、
ダニエル。

その5人だ。

「いらっしゃいませ。新しき挑戦者(ヒアイズニューチャレンジャー)」

門をくぐり、
奥へ入ると、
砂だらけの闘技場の入り口で、
一人の男が立っていた。
いや、
男?
魔物だ。
ゾウのような姿をした魔物。

「私はこの闘技場の受付係。ドラキと申します」

「あっそ」
「入場料でもとろうってか?」

「いえいえ。闘いに必要なのは血だけ。命だけ。いや、闘争心だけ。
 サラセン闘技場でのチケットはそれだけでございます」

ゾウの姿をした受付係はそう笑った。

「ご予約は承っておりますよ。1〜3番闘技場。
 すでに44部隊のお客様がリングでお待ちしております」

用意周到なことだ。

「舞台は整ってるってか」
「戦うだけ。戦う以外にはいらないってことだね」

「おっとお客様」

1〜3番の闘技場。
闘技場の入り口に無数にある闘技場のゲートの中、
そちらへ足を運ぼうとした5人を、
闘技場受付。
ドラキという魔物は止めた。

「すでにリングでお待ちの闘士様方は1対1をご所望のようです。
 もちろん強制はしませんが、戦いの意志を尊重するのがサラセンの掟。
 1つのリングに1名づつご入場されるのをオススメします」

44部隊の意志。
1対1で戦いたいということか。

「もちろん却下だ」
「拙者はどちらでもいいが・・・・」
「結果だけを求めるならそんな申し出聞く義理はないよ」
「俺は燃やせればなんでも♪」

「それは残念でございますね」

「いえ、1人づつ行きましょう」

他の皆の考えを否定するように、
アレックスは言った。

「後から来た53部隊と挟み撃ちになる可能性があります。
 3人だけ入り、残り二人はこの入り口で待機したほうがいいと思います」
「なるほどな」
「ごもっともだね」
「じゃぁ向こうは拙者ら《MD》を希望しているのだろう?
 拙者、アレックス、ドジャーが入るべきだろう」

べきかどうかは分からないが、
それくらいはいいだろう。
指定してきているのだ。
受けてやる。
それくらいの意志はもっている。

「ケケケ、いい挑戦者方だ。サラセンの人間はそういう人を歓迎します。
 闘技場もお喜びになるでしょう。さぁ、1,2,3番の地獄で闘士がお待ちだ。
 挑戦者様方。お帰りの保障のないリングへとご入場ください」

闘技場の男の態度は気に入らなかったが、
アレックス、ドジャー、イスカは、
それぞれ、
闘技場のゲートへと足を運んだ。

「誰がどこゲート入るよ」
「どれでも同じだ。どこに誰がおるのかも分からんし、誰がいようが相手をし、倒すだけだ」
「ですね」

ドジャーが1番闘技場へ。
アレックスが2番闘技場へ。
イスカが3番闘技場へ。
それぞれのゲートの前に立った。

「誰が最初に出てこれるか競争だな」
「リタイヤはなしですよ?」
「闘いを競おうとは拙者は思わんがな」
「ともかく、」
「ここでまた皆無事で落ち合う事だけは約束しましょう」

イスカはフッと小さく笑い、
ドジャーは軽く親指を立てた。
そして、
そのままそれぞれが闘技場へと入って行った。

「・・・・・」
「・・・・・」

闘技場の入り口。
そこには当たり前のようにツバメとダニエルが残された。

「・・・・・」

ツバメはチラリとダニエルの方を覗きこんだ。
ほとんど赤の他人。
そして変態な問題児。
そんなのとこんなところにいきなり残された。
ちょっと空気が気まずい。

「ん?何見てんの?」

ダニエルがツバメの視線に気付いた。

「・・・・・いや」

ツバメは顔をそらしたが、
ダニエルはニヤニヤニタニタと笑う。

「ねぇねぇツバメっち♪」
「・・・・・なんだよ。お呼びじゃないよ」
「俺さ!女燃やすの大好きなんだよ!柔らかくていい匂いで焼けるんだよな!
 だからさ!だーからだねー!・・・・・・・・・・・・燃やしていい?」
「・・・・・駄目」

ツバメが一番アレックス達の早い帰りを願っていた。























見渡すと、
誰も居ない客席。
円形のコロシアム。
その中心に、
正方形のリング。
砂の地面の中、
砂漠の中のオアシスのとうに石造りのリングは聳えていた。

「・・・・・・よく考えるとプレイヤーとしては初めて来ますね」

たびたびサラセン闘技場ではイベントが行われる。
トーナメントだったり、
王国騎士団のイベントだったり、
いろいろだった。
観客としてきたことはあったが、
闘士として足を運んだのは初めてだった。

「下の景色はこんな風だったんですね」


「そ♪無観客試合ってのはすっごくさびしいけどな!!」

リングの中央で言う男。
ラフな恰好をした軽い感じの男。

「や、アレックス部隊長!俺分かる?」

「ロベルト=リーガーさんですね」

「おぉ♪やっぱ俺有名!?やっぱ有名選手は照れるね!サイン欲しい?
 インタビューなら受け付けるよ?・・・・"全力を出し切るだけです"・・・・なんちゃって♪」

ロベルト=リーガーは、
リングの中央で楽しそうに笑う。

「さて、戦闘(試合)開始はすぐだよ?サポーターがいればもっと盛り上がっただろうけど、
 フーリガンが発生するのは目に見えてるし、俺らだけのプライベートゲームってのもいいかな?
 でもお客がいた方がやっぱ燃えるよな!居なくたって聞こえてくるよ。
 このスタジアムにこだまする無数の声。応援する仲間達(サポーター)の叫び声」

ロベルトは目を瞑った。

「試合の前はいつだっていい。いつになったって緊張するし、血が燃え滾る感じがする」

そして、
目を瞑ったまま、
リングの上でロベルトは静止していた。
どれくらいたっただろう、
ふと自然に、
ロベルトが目を開けた。
開けたのと同時に、
相手(アレックス)を見据えてきた。

「あがって来いよ。アレックス部隊長。入場シーンばかりじゃ盛り上がらない。
 ホイッスルを吹くのは俺達だ。始まりも・・・・・終わりもな」

ロベルトはアレックスに向けて中指を立て、
クイックイッと指を引く。

「さぁ、ベストゲームにしようぜ。悔いを残さないのがスポーツマンだ。
 勝っても負けても心地よく。だけどそれでも勝ちを目指すのが・・・・殺し合い(スポーツ)だ」

「・・・・・・」

アレックスはリングへと足をかけた。















                 






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