「さぁ!どういう事かハッキリ説明して欲しいな!」

ユベンは怒りを露にしていた。
完全に、
相手にもそれがハッキリとわかるように、
隠す様子もなく、
横にロウマがいるのにも関わらずだ。
小声で「・・・何よりじゃないんだ」と付け加え、
毅然とした態度というのもおかしいが、
怒りの矛先を向けていた。

そして、
返答はこうだ。

「どーしたもこうしたも、話したまんまだバァーーーーカ。馬鹿かてめぇ?」

「なっ・・・」

「その辺ハッキリさせておこうぜ?お前馬鹿だわ。ユベンだったな。
 俺の行動は十分にハッキリしてんだ。それに対してそんな質問は馬鹿だ。
 ハッキリしてる事をハッキリさせろなんてよぉ!むかつくんだよド畜生!」

相手は、
ユベンを馬鹿にした態度をとっていたにも関わらず、
言葉の後半、
すでにイラつきをかもし出していた。
逆ギレは続く。

「言ったまんまだ!クソ!むかついてくる!それじゃぁ俺がハッキリしてねぇ見てぇじゃねぇか!
 あぁウザウザ!うぜぇ!マジうぜぇ!お前みてぇな奴死ねばいいのにな。マジ死ね。
 死んでしまえ!飯がノドに詰まったあげく、流し込んだお茶で窒息して死ね!!!」

わけの分からない怒りと共に、
いや、
わけの分からない逆ギレと共に、
ユベンに死ね死ね言ってくる男。
車椅子に乗った、
紫髪の妖美な男。
ネクロケスタの骸骨をかぶった変態。
燻(XO)だった。

「まぁ落ち着けや燻(XO)」
「落ち着いてられっかギルヴァング!?あん!?
 こいつと俺!"位"が高いのはどっちだ!?ハッキリしてんだろド畜生が!
 それなのにこのド畜生は偉そうに文句垂れてくんんだぞ!マジ死ねって感じだ!」
「・・・・ったく。てめぇはメチャ我慢強さが足りねぇっての」

ユベンの目の前。
そこには二人の男。
燻(XO)、
ギルヴァング。
第53・暗躍部隊。
ジョーカーズ。
その部隊長が二人が立っていた。

「クッ・・・いや、俺はだな・・・」
「ギルヴァング。燻(XO)。ただ意味を知りに来ただけだ。事を荒立てるつもりはない」

ユベンの声を掻き消すよう、
隣に居たロウマが言った。
堂々と、
腕を組んで立っている。

「ユベン。お前も落ち着け。喧嘩腰からは喧嘩しか産まれない。
 争いを無駄に起そうとする者は愚かな弱者だけだ」
「・・・・・はい。ロウマ隊長」

この部屋。
ルアス城の一室。
そこにいるのは、
ジョーカーズの部隊長。
ギルヴァングと燻(XO)
対面、
ロウマとユベン。

53部隊の部隊長二人と、
44部隊の部隊長、及び副部隊長。
そうそうたるメンツだ。

「意味っつっても・・・なぁ?ギルヴァング」
「ギャハハハ!確かにそれはまんまだなっ!」

燻(XO)が車椅子から見上げるよう、
ギルヴァングと共に笑う。
ユベンはそれが気に食わない。
だからもう一度聞く。
本題を。

「なんでだ」

「敬語〜」

ユベンの言葉に、
燻(XO)はニヤニヤと笑いながら言う、
ユベンは苦笑しながら、
言葉を正した。

「・・・・・・なんでですか」

「何が〜?」

「とぼけるな!!」

ユベンが怒り、
声を張り上げる。

「カードだよカード!挑戦状だ!送りつけたらしいじゃないか!ギルド連合に!
 何よりじゃない!何よりじゃないさ!なんで・・・・何故うちの名を勝手に使った!」

カード。
挑戦状。
話の発端はそこだった。

それは、
"53"と書かれたカード。
"44"と書かれたカード。

その2枚。
挑戦状としてギルド連合に送られたそのカードは、
44部隊には無許可。
53部隊の身勝手。
つまり、
この目の前の男達が勝手にやったことだ。

ロウマを含め、
44部隊にそんなつもりはさらさらない。
なのに、
53部隊によってまとめて送られた挑戦状。

「決まっ〜ってんだろぉ〜?」

燻(XO)は、
眉を斜めに下ろしながら言う。

「決めんだよ。うち(53)とそっち(44)。どっちが上かってことをだ」

燻(XO)がニヤりと笑うと、
ネクロケスタの骸骨が、
ズルりと傾いた。

「アインからとうとう許可が出たからなぁ♪
 俺らもこれで晴れて自由に部隊を動かせるってもんなんだ」
「ハッキリ言ってメチャ爽快な気分だぜぇ!!
 ウジウジ行動してんのは漢らしくなかったからよぉ!
 これからはメチャ激しく!メチャ漢らしく行動できるってもんだぜぇえええ!!」

ギルヴァングは五月蝿いほどに声を張り上げ、
笑い、
そしてそれがやんだと思うとロウマを見た。

「ロウマ。てめぇと俺様。どっちが上かってぇ決めてぇよな」

「くだらん。人は物差しではない。真の強さは己で決めるものだ」

「ダハハハハハ!!!いいぜぇ!メチャいいぜぇ!!メチャ漢らしいなぁ!!
 さすが俺様がライバルと見込んだだけの漢だ!!メチャ燃えてくる!!
 ・・・・・だけどよぉ。周りの評価ってもんがあるよなぁ。
 それじゃぁ44部隊が最強で、その頂点のテメェが史上最強だ。
 そりゃメチャ許せん・・・メチャ許せんよなぁああああ!!!!!
 俺様達53部隊は影で行動して評価どころか存在も認識されてねぇのにそりゃねぇよ!」

「燻(XO)部隊長とギルヴァング部隊長は53部隊の評価が欲しいという事か?」

「け・い・ご♪」

「・・・・ッ・・・・・そういう事なんですか!?」

ユベンをオモチャのように遊び、
燻(XO)はニタニタと楽しそうだった。
嬉しそうにキコキコと車椅子を動かし、
焦らす様に笑ったあと、
そしてやっと話し始めた。

「そゆことだ♪。44部隊より、俺達53部隊のがすげぇんだぜ?って教えてやりてぇのよ。
 世の中にも、ギルド連合にもな。・・・・・・・っつっても同じ帝国アルガルド騎士団。
 俺達が真っ向からぶつかるわけにゃぁいかねぇーだろ?いかねぇよなぁ」

それはそうだ。
ただの仲間割れ。
仲間内で"どちらが上か"を決めるために殺し合いなんてするわけにはいかない。

「いや、正直ぶっ殺してやりてぇんだけどよぉ。粉々になるまで殺してやりてぇのよ。
 でもま、しゃぁーねぇーわけだ。・・・・・だからゲーム。ゲームだ。標的はギルド連合。
 どっちがより高得点(ハイスコア)を殺(と)れるか。そーいうゲームの開催だ♪」
「ギャハハハハ!!いいねぇ!!メチャ燃えるぜぇええ!!
 血!肉!体!鬩ぎ合い!競い合い!そーいうのってマジ燃え滾るぜぇえええ!!!」

53部隊と44部隊。
直接戦うわけにはいかない。
だから、
だからという訳で、
ゲーム。
ギルド連合などゲームの得点に過ぎない。
遊び感覚で人殺し。

「くだらん。戦いは遊びではない」

ロウマは力強く言った。
ユベンは思う。
その通りだ。
ロウマの意思は自分の意思。
ロウマの言葉はいつも胸に響く。
ユベン自身、
遊びを理由にした戦いなど御免こうむる。
それが殺しであるならなおさらだ。

「燻(XO)部隊長。ギルヴァング部隊長。俺達44部隊は忙しい。
 思いつきの戦いに身を投じることなど何よりではない」

「仕事仕事ってぇ、ユベンちゃぁん?早死にするぜぇ?」
「漢は熱く!感情のままに生きてこそだろがよぉおおお!!」
「大体忙しいってよぉ。ロウマとお前はともかく、
 44部隊の奴らなんて城内で遊んでるようにしか見えないぜ?」

「・・・・・」

「ま、忙しいだろうぜ?毎日パンダと追いかけっこしてよぉ。
 44部隊は大変だなぁ。あー大変だ大変だ。死ねばいいほど大変だぁー」

馬鹿にしている。
いや、
パムパムの暴走が毎日あるのは事実だが、
挑発してきている。

「挑発にのるなユベン。自分のやるべきことをやる。それだけでいい」
「・・・・・はい」

「あんらぁー?逃げるのー?」

燻(XO)はニタニタと笑う。
ラメで紫色に輝く唇。

「44部隊ってそんなもんか。そんなもんですかー。ダッセ!すっげダッセ!
 敵に挑戦状送っておいて逃げちゃうタマ無し野郎の集まりですか〜♪」

「それは貴様らが勝手にっ!」
「ユベン。熱くなるな」
「・・・・ッ・・・」

「《MD》だっけぇ?あいつらに5人くらい殺られてるらしいじゃん〜?
 なのにお城で悠々とお仕事お仕事。冷たいねぇー冷たすぎるねぇ〜」
「っていうかいいじゃねぇか!相手は敵だぜぇ?メチャ倒すべき相手だ!
 いずれ倒さなきゃならない敵を今倒して何が悪ぃんだ?」
「向こうからこないなら呼び出しゃぁいい。うん。実に効率的だろ?」
「向こうにも漢がいるなら確実にのってくるだろうしな!!!」

確かに。
確かにだ。
挑発と分かっていてもそれは正しい。
53部隊と44部隊。
その張り合いは別として、
倒すべき相手を倒しにいく。
それは理がある。
果たし状で呼び出し、
戦う。
それ自体に問題もなく、
戦いとしては正当すぎるほどだ。

だが・・・
だが・・・・

「意志がない」

ユベンの迷いを断ち切るように、
ロウマは強い口調で、
それでいて落ち着いた低い声で言った。

「このロウマ。そして44部隊。確かに戦いのための部隊だ。
 戦いでしか能のない、戦いのためだけの部隊だ。
 だが、だからこそ戦いには誇りを持っているつもりだ。
 無闇に戦いを好み、戦いを求めるのはただの殺人狂でしかない」

その言葉。
ロウマの言葉はいつもユベンに力をくれる。

「強き者との戦いは喜ばしいと思う。だが、"殺しを生みたいとは思わない"。
 殺しを目的とし遊戯にするなど、愚かでしかない。
 ・・・・時が来たら。戦わねばならん時も来るだろう。
 このロウマ。時が来た時。戦いに参ずるのはその時でいい」

ユベンは・・・
ロウマのその言葉。
それはロウマの言葉であり、ロウマの言葉。
それ違いないとは思ったが・・・
何か・・・
何か・・・・

「行くぞユベン」
「・・あっ、はい」

ロウマはユベンを引きつれ、
部屋を出ようとした。
ハッキリと拒否。
今回の戦いへの参加の拒否を伝え、
そして出て行こうとした。

「あーあ。フラれたよギルヴァング」
「あん?」
「せっかく三つ巴の面白いゲームになると思ったんだけどよぉ。
 くっそ。死ねばいいのになぁ。死んじまえばいいぜ。
 何マジになってんだよむかつく。殺したい時に殺せばいいじゃねぇか。
 悪役が変な誇りとか持つなよウゼェ。悪役は悪役らしく思うがままでいいじゃねぇか」
「ギャハハ!てめぇは思い通りにならねぇとすぐスネんだからよぉ!」
「うっせぇなド畜生!とにかくつまんねーゲームになっちまったしよぉ。
 ギルヴァング。てめぇだけであと頼んだぜ。俺ぁ寝る」
「あん?イヤだっての。俺様はロウマが動かねぇんなら辞退だ」
「はぁ!?ざけんな!死ぬかテメェ!果たし状みてぇなの出しちまったろうが!
 俺ぁテメェと違って仕事あんだよ仕事!知ってんだろ!?もうすぐ実りそうなんだ!」
「まーイーじゃねぇか」
「何がだよ」
「俺様達抜きでもよぉ。うちの部隊の奴らだって喜びで殺気立ってるだろうよ。
 あいつらだけで好きなようにやらしとけ。副部隊長だけでもちゃんと動くだろうよ」
「・・・チッ・・・まぁいい。ロウマ!!おいロウマ!!」

出て行こうとしたロウマを、
燻(XO)は呼び止める。

「・・・・」

返事もせず、
振り向きもせず、
ロウマは立ち止まった。

「おい、ロウマ。あんな。捨て台詞的に言っておくぜ。・・・死ね。
 ハッキリしねぇ事言う奴は大嫌いなんだ俺ぁよぉ」

「燻(XO)部隊長。いや、燻(XO)将軍。
 ロウマ隊長はハッキリと拒否を示したはずだ」

「ちげぇよ。ロウマの言った言葉だよ。誇りとか?戦いがどーこーとか?
 あぁ、あーあー立派ね。立派だ立派。かっけぇよあんた。だけどよぉ・・・」

いつも人を小馬鹿にしたような表情で、
ニタニタ、
ニタニタ。
そんな燻(XO)だが、
その表情は真剣かつ冷たかった。

「さすがロウマだよ。筋が通ってねぇ。見当外れもいいとこだ。
 さすがさすが。『矛盾のスサノオ』だよなぁ。・・・矛盾だらけだ。
 な?さっきてめぇが言った事をよぉ、刻んでバラしてコマ切りにしてよぉ、
 んで、並べ替えたり貼っ付けたりしてみろよ。な?だろ?
 ふざけんな。矛盾だらけだド畜生。"てめぇの誇りは矛盾だらけなんだよ"」

「・・・・・」

ロウマは返事もせず、
そのまま扉を開けた。

「おい!逃げんな!ヒヒ・・・なぁ『矛盾のスサノオ』さんよぉ。
 戦いは好きだが戦いは求めない?ウフフ・・・ねぇーよ!ねぇよ!
 てめぇはそんなんじゃねぇ!根っから戦いが好きなジャンキーだ!
 昔はそうだったじゃねぇか!いや、昔"から"か!・・・ヒャヒャヒャヒャ!!!」

燻(XO)の腹立たしい笑い声が響く。

「ロウマ隊長・・・どういう・・・・」

「ユベンちゃぁーん。聞いとけ。こいつは尊敬する最強武人とかそんなんじゃねぇ!
 思うがまま刻んで殺して命奪って・・・なんもかんも"喰い尽くす"。ただの殺人狂だ!
 本性ってのは怖いねぇ・・・ウフフ・・・今更隠そうなんて無駄無駄!どっかでボロが出るぜ!
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・アインは待ってるぜ。あいつはお前を出し惜しみしてるんじゃねぇ。
 待ってやがんだよ。『矛盾のスサノオ』の矛盾が晴れて暴走すんのをよぉ。
 "その時が来たら"?・・・ハハッ!その時ってのはてめぇが血に飢えてる時だよ!!!」

「・・・・・」

ロウマは言葉も返さず、
そのままユベンと共に部屋を出た。

部屋の中からは、
燻(XO)の笑い声だけが止まらず響いていた。




























S・O・A・D 〜System Of A Down〜

<<44x53x99(Death March VS Jokers VS Major Dream)>>






























「・・・・全然知らんかった」

驚いたような表情で、
イスカは言った。

ここ。
ここはルアス99番街。
酒場Queen B。
開店前の誰も居ない時間。
電気は付いていて、
人も居る。

アレックス、
ドジャー、
マリナ、
エクスポ、
ジャスティン。
そしてイスカ。
《MD》のメンバーがここに揃っていた。

「知らんかった・・・って・・・・」
「お前、自分の家系の事だろ・・・」
「・・・・全く知らんかった。それは誠なのか?」
「・・・・・」

一つのテーブル。
丸い円卓に、
アレックス、ドジャー、エクスポ、ジャスティン、イスカが取り巻き、
座っている。
マリナは店の奥で忙しそうにしていた。

「シシドウだろ!?シシドウ!?」
「本当の本当に何も知らないんですか?」
「何も思いやしないさ」
「隠してるんだったら言ったほうがいいよ。仲間じゃないか」

エクスポが自分の言葉に酔いしれるように言ったが、
イスカは首を振った。

「聞いた事もない。父上も何も教えてくれずに死んでしまったからな」

知らなかった。
何を・・・というと、
シシドウについてだ。
ツバメが言った言葉。
53部隊。
騎士団の暗躍部隊ジョーカーズは、
全てシシドウの家系で構成されているという情報。

「・・・・思えば・・・父上は何も仕事について教えてくれなかった。
 どこでなにをしていたのか。拙者には何も教えてくれなかった。
 だが、ただ・・・シシドウの教えの通り、拙者に全ての技を伝え、
 そして・・・・自らその命を絶った」
「「「・・・・・・」」」

シシドウ。
死始動。
死指導。
シシドウの家系。
イスカが知っている分だけは聞いたことがある。

暗殺の血筋。
殺すためだけの技を伝える。
殺し屋の血筋と言ってもいい。
そして、
それでいて特殊なのは、

完全なる一子相伝。

自らの子。
それに技を伝えたら・・・・
前世代。
イスカでいうイスカの父は命を絶つ。
シシドウは一人。
いつも一人。
同時に存在する事はない。
継承したら死ぬ。
死をもって、次のシシドウが始まる。
死によって始まる一家。
シシドウ。
死始動。

「正直、父上が騎士団に加担していたとしてもおかしくはないだろう」
「でもですよ」
「他にもシシドウの家系があったってのはどうなんだ」
「だから全く知らん。父上はシシドウの家系についてさえ教えてくれる事なく死んだ。
 出来る事なら拙者にそんな道を進んで欲しくなかったのだろう」
「チッ、情報無しか」
「まぁいいじゃないか。後でジックリ話し合おう。
 後からツバメも来る事になっている。カードの件についてもそれからでいい」

「ねぇねぇ」

ヒョコりと、
マリナがカウンターの奥から顔を出した。

「イスカ留守番してる時になんか触ったー?」
「うむ?まぁ・・・触ってない事もないが」
「食材減ってるんだけどー」

大事な話しをしているというのに、
マリナはおかまいなしだ。
まず店。
全ての優先順位はその下なのだろう。

「一応・・・マリナ殿が帰ってきた時のために料理を・・と・・・」
「あぁー、だからフライパンに穴が空いてるのね」

納得したようにマリナはまた奥へひっこんだ。
いや、
フライパンに穴が空く?
コゲるならまだしも、
どう失敗したら穴が空くんだ?

「あーこれねー。出来てる料理あるんじゃないの。
 捨てるのもったいないし皆に食べてもらおっかー」
「げっ」
「は!?」
「ざけんな!!」

アレックスを除き、
皆が心臓に針を刺されたかのように驚いた。
なんで?
料理が出るなんて最高じゃないか。
・・・・と、
アレックスは思った。
イスカの究極なまでの料理オンチを知らないからだ。
飯がマズいとかではない。
料理が酷いのだ。
まぁ以前、
《昇竜会》が乗り込んできたとき、
厨房が吹っ飛んでいた事ぐらいはアレックスも知っている。

「お待たせ〜〜」

トレイを両手に、
死神がカウンターの奥から現れた。

「返品」
「返品」
「ごちそうさまでした」

ドジャー、エクスポ、ジャスティンが一斉に拒否する。
だがそれを尻目に、
マリナはドレスのような赤い服をヒラりと回転させながら、
テーブルに料理を並べた。
ん?
料理?

「・・・・・」
「俺らなんか悪い事したか?」
「なんで罰ゲームが始まるんだよ・・・」

アレックス、ドジャー、エクスポ、ジャスティンの前に、
2・3品づつ皿が並ぶ。
エクスポはただお馴染みの言葉を漏らした。

「・・・・・美しくない」
「あら?料理は見た目じゃないわよ?」

とは言ったものの、
さすがのアレックスもこの光景には息を飲んだ。
・・・。
黒い。
グロい。
基本的に黒で装飾されている。
なんだろう。
原材料はなんだ。
どうしたらこんな悪魔の残骸のような物体が出来る。

「・・・・これは食卓じゃない」
「食材の墓場だ・・・」

言い得て絶妙だ。
食材を殺害したという表現で正しいんじゃないだろうか。

「えっと・・・イスカさん?」
「ぬ?」
「とりあえずメニューはなんなんでしょうか」

大皿が一つ。
個別に小皿が二つ。
見た目では分からない。
見分けもかろうじて付かない。

「ふむ。身分はわきまえておるからな。とりあえず簡単なものを選んでみた。確か・・・」
「確か?」
「いや、カレーとサラダと味噌汁だ」
「まて」
「ちょっとまて」
「味噌汁が何故皿に乗っている」

どうみても固形物しかない。
カレーとサラダと思われるものでさえ、
一つの塊として構成されている上、
味噌汁と思わしきものも皿に乗っている。
いや、
どっちがカレーでどっちが味噌汁だ。

「拙者不器用でな」
「ある意味器用ですよ」
「ふむ」

イスカは褒められたと思ったのか、
椅子の上であぐらをかいたまま一度頷いた。

「ある意味芸術だね・・・どうやって作ったのか皆目検討もつかないよ」
「おいイスカ」
「まず味噌汁の調理方法を言ってみろ」
「ふむ」

イスカは両手で何かを形成する。
丸い、
なんだ?
調理方法の説明なのだから、
ボウルか何かを示しているのだろう。

「まず炊飯機にだな」
「「「・・・・・」」」

とりあえず流した。

「調味料を加えた」
「おい」
「大事なもん全部すっ飛ばしてんじゃねぇよ!」
「なんで味付けから始まるんですか・・・」
「汁ものというのはつまり味つきの液体物であろう」

間違っていないといえばいないが・・・
いや、
別に調味料がなくとも味噌汁は作れる。

「棚の端から調味料を零していった」
「量は?」
「目分量だ」
「プロかお前は」

イスカはまた褒められたと思ったのか、
うんうんと目を瞑って頷いた。
そしてまたジェスチャーが始まる。

「そして水を大さじ一杯」
「おい」
「ふざけるな」
「4人分の味噌汁が大さじ一杯の水で出来るわけないじゃないか・・・」
「奇抜な料理を狙ってみた。普通にやっても拙者の腕じゃ普通にできんからな」

謙遜を知っているのに何故失敗する。

「そしてフライパンに乗せる」
「炊飯機はどこいった」
「馬鹿かお主。あれは御飯を炊くものだ。味噌汁ができるか」
「・・・・・・」

正しい。
正しいが・・・
正しくない。
何故炊飯機をボウル代わりにする。
そして味噌汁にフライパンを使う理由までは聞かないでおこう。

「そして強火で仕上げた。外はパリパリ、中はサクサクというやつだ」
「それじゃぁ全体的にカリカリしてんじゃねぇか・・・」
「なんで味噌汁に内と外があるんだい・・・」
「で・・あの・・・」
「肝心の味噌はどこいった」
「なかなか気のきかん奴らだ。隠し味を教えろなどと・・・」
「味噌を隠すな!!!」

それで出来上がったのがコレか。
ふむ。
で、
結局どっちが味噌汁なんだ。
カレーと味噌汁の区別がつかないのは初めてだ。
両方黒い。
両方グロい。
まるで破滅的な粘土を破滅的に焼いて破滅的になったかのようだ。

「まぁボヤボヤしてないで食べなさいよ」

マリナがカウンターに持たれながら言う。
気楽なものだ。

「マリナ。君は食べないのかい?」
「私は料理人だもん。店長だもん。食べるのはお客さんよ」
「いい理屈ですね・・・」
「ゴミ処理を任された気分だ」

実際その通りだろう。
ドジャーはこっそり小声でアレックスに教える。
イスカの料理を店の裏に捨てると、
次の日カラスが大量に死んでいる・・・・と。

「フフッ・・・でもイスカはこれをマリナに食べて欲しいよね?」

・・・と、
エクスポはニヤりと笑いながら言った。

「え・・・」
「そりゃそうさ!ボクらのためにイスカが作るかい?じゃぁ決まってる。
 この芸術はイスカがマリナに食べてもらいたくて作ったに決まってるじゃないか!」

ドジャーとジャスティンは小さくガッツポーズをした。
そして同時にエクスポにグッと親指を立てた。
うまい。
マリナを道連れにする気だ。

「カカッ!そりゃそうだ!」
「な?イスカ!マリナにも食ってもうらいたいよな!」
「・・・・それはもちろんだ」

イスカが少し恥ずかしそうに俯きながら、
視線をマリナに送る。

「えっと・・・・」

カウンターにもたれながら、
マリナは少し口ごもった。
さすがにそれをイヤとは言えないはずだ。
マリナのために作った善意の料理。
悪々した醜い料理だが、
愛情の塊・・・のはずだ。
この展開なら食わざるを・・・・

「いやよ。そんなの人間の食べ物じゃないわ」

この女は鬼だった。

見ろ、
イスカが萎んでいる。
人は質量が減少するのか・・と思えるほど小さくなっている。
よほどショックだったのか。

「や、やばい・・・」
「侍どころじゃない・・・」
「イスカが落ち武者にしか見えないぞ・・・」
「・・・無念」
「いや!死ぬな!」
「ほれ!アレックスなら食ってくれるぞ!」
「アレックス君は食の無差別強姦者だからね!」
「え・・・」

アレックスは突然回ってきた死刑に戸惑う。

「アレックス!食うよな!」
「・・・・えっとですね・・・」
「アレックス!お前の好き嫌いの格言はなんだった!?」
「むっ」

アレックスの眼がキランと輝き、
立ち上がる。

「僕は!食べ物は好きと大好きしかありません!!」

自信満々に立ち上がったまま、
腰に両手を付き、
口を"へ"の字に折り曲げるアレックス。

「よし!食べるんだアレックス君!」
「え・・・」
「早く!好きと大好きしかないんだろ!?」
「いや・・・それは食べ物オンリーなので・・・・」

毒リンゴだって食べる自信はあるが、
無機物と化した物を食べる気にはならない。

「よいのだ・・・」

イスカは俯いたまま、
ボソリと言った。
そして、
椅子の上に立ち上がった。

「自分が不器用なのは分かっている。だが!決心したのだ!強く生きていこうと!」

・・・。
いや、
もともとお前が出来ない事に挑戦するのが悪いんだろ。

「まぁイスカさん。簡単な料理から挑戦していくといいですよ」
「ふむ。例えば?」
「スクランブルエッグとかなら失敗しようがないんじゃないですか?」
「馬鹿・・・」
「一度やったことあるっての・・・」
「あの時は酷かったね」
「スクランブルエッグがスクランブルし尽くしてたわよね」
「あれはスクランブルエッグじゃなかったな」
「スクラップエッグだ」

酷い。
卵を焼くだけじゃないか。
スクランブルエッグが作れないなら何が作れるというのだ。

「じゃ、じゃぁゆで卵とか・・・」

すでに調理したと言えない域だそれは。

「あれも酷かったな」
「卵が爆発したからな」
「味付けとか言って卵の殻にバター塗ってたしね」
「意味不明だったわ」

もうダメだ。
才能云々じゃない。
駄目だ。
料理が上手い下手とかじゃない。
料理ができるできないでもない。
してはいけない。

「クソォ!お主ら皆馬鹿にしおって!!」
「あっ・・・」

イスカは自ら自分の料理(おそらく味噌汁)を手で鷲掴みにし、
そして口に放り込んだ。
・・・。
イスカの顔が青ざめていく。
毛が逆立っていく。
そして、
涙がポロポロと零れ落ちていた。

「・・・・不覚」

ガタンとイスカはテーブルに項垂れながら、
口からボトンと料理(おそらく味噌汁)を吐き出した。
口からも排泄物が出るのだと初めて知った。

「あー・・・」
「話変えようぜ・・・」

当たり前のように、
自然に、
ドジャーは目の前の料理?を手でよけ、
そう言った。

「んで俺達この店にいるわけだけどよぉ。・・・・いいのか?」
「何がだい?」
「いや、この店とか帝国にもバレバレだろ。そんなところに集まって大丈夫なんかってこった」
「あぁ、それは確かにそうですね」
「大丈夫だろ。・・・とは言えないけどな。でも問題ないさ。
 99番街は広くもない街だ。出入りがあればすぐ分かる。
 以前の帝国の侵入で99番街の住人も警戒してるし、逆に攻め込みにくいだろうよ」

・・・と、
ジャスティンはアレックスを見た。
まぁ、
まさに攻め込んだのはアレックスなわけだ。

「攻め込みにくくするためにわざとここを戦場に選んだのかい?」
「あぁいえ、ぶっちゃけそこまで考えてませんでした」
「・・・・・褒め言葉なら用意してたんだが・・・・」
「あ、ならそういう事にしておいてください」
「・・・・・」
「でもアレですね」
「ん?」
「なんだい?」
「ここでこうやって《MD》の皆さんと集まるのも久しぶりですね」

アレックスは笑顔で言うと、
皆はキョトンとした顔になり、
そしてその後笑った。

「・・・ハハッ確かにそうだ」
「なんか懐かしいとは思わねぇな」
「いつも集合場所はここだったしね。思い出はいつも美しいよ」
「拙者!拙者が守ったのだぞ!」
「あーはいはい」
「感謝してるって」
「ならよい」
「ここはずっとこのままであって欲しいですね」
「このままに決まってんじゃない?私の店よ?無くなるわけないわ。
 あ、つまりアレよ?ドジャー。ツケも無くならないからね」
「げっ・・・覚えてやがった」
「ハハハッ、相変わらずだなドジャー。まだツケなんてしてたのか」
「ジャスティン。あんたも残ってるわよ」
「え・・・マジで?」
「マジで」
「ジャスティン。君はお金がない時はいつもデートにここを選んでたしね」
「そりゃそうだ。お金より愛だよ愛」
「・・・クッ・・・ハハハハっ!思い出した!そーいやよぉ!
 一回あったよな?ジャスティンがここをデートの場所に選んでよぉ!
 んで告白したんだ。確か!んでよぉ!」
「あーあーあー。フラれたんだったわね」
「公開失恋だったね」
「え?本当ですか?ジャスティンさんダサいですね」
「・・・・・」
「落ち込むなジャスティン。失敗は誰にでもあろうものだ」
「イスカ・・・・お前に言われたくない」
「カカカッ!でもまぁ・・・そういう事だよな」

ドジャーはテーブルの上で片手を広げ、
まだ軽く笑いながら言った。

「ダセぇ言い方すりゃぁ・・・・守るべきもんがある。ってことじゃね?」
「おっ、美しいねその言い方」
「正義の使者みたいですね」
「だろ?イカすだろ?ま、問題は他はどうでもいいってことだけどな」
「そりゃそうだ」
「知らん人が勝手に死のうが知ったことじゃないわね」
「ボクらのものが無事なためなら、他はどうにでもなれ」
「俺らが生きるためなら誰かも殺すさ」
「悪魔みたいなわがままですね」
「違いねぇ」
「所詮拙者らなぞゲスな悪党だ」
「正直俺らの考えもアインハルトとなんも代わりねぇよ。だから衝突してるんだ」
「でも・・・なら譲るっていう可愛げはない」
「そゆこった」

ドジャーはドンッ・・と片手をテーブルにぶつけ、
そしてその手の中指は上を向いていた。

「ぜってぇ潰すぞ。他人のわがままほどムカつくもんはねぇ。
 その火の粉が俺らに降りかかるなら容赦はしねぇ。
 俺らの自分勝手な生活を邪魔しようってんなら潰すしかねぇ」
「ですね」
「だな」
「うむ」
「クソッタレの逆襲だ」

カランコロン、
と音が鳴り響いた。
Queen B。
その扉が押し開かれる音だ。


「盛り上がってんじゃないか」

その扉が開き、
姿を現したのは・・・ツバメだった。
数人のヤクザを従え、
堂々と現れた。

「あぁ、いいよ。あんたらは帰りな」

「え、でも・・・」
「姐さん・・・」
「一人は危険ですぜ?」

「いいから。ほらっ、帰んな」

ツバメは自分の部下を追い払う。
しぶしぶと、
黒服達は外へ出て行った。

「姐さんねぇ・・・」
「《昇竜会》の新組長なわけですからね」
「っていうかツバメ。なぁに?そのカッコ」

「ん?あぁこれかい?いいだろ♪昇竜会のトップはやっぱこれじゃないか」

ツバメはそう言い、
自慢げにその姿を見せた。
スーツ。
その黒いヤクザの証であるスーツ。
それは少し丈の長いものになっており、
視覚的に威厳が増加していた。
そして、
リュウ、
トラジ、
その両名と同じよう、
前は開き、肌蹴させ、
スーツをマントのように着ていた。
そしてその下は何も無しで、
胸にだけサラシが巻かれていた。

「ヘソ丸出しだな」
「最初の感想がそれかい?カッコイイとか言っておくれよ」

そう言いながら、
ツバメはアレックス達のテーブルに歩いてき、
空いている椅子にドスンと座った。

「おいアマッ!ビール出せっ!ビール!」
「アマって言うなって言ったでしょ・・・」
「あれ?あんたアマじゃなかったのかい?いやぁービックリした。
 その胸は詰めモンでナニ生えてたのかあんた。やだねぇ。世の中怖いねぇ」
「え?そうなんですかマリナさん」
「そりゃぁ納得だ」
「拙者としてはまたとないほど好都合だ」
「・・・・・死にたいみたいね。あんたら・・・」

そう怒りながらも、
マリナはカウンターでカップを用意し始めた。
コーヒーでも入れてくれるのだろう。
この辺の気のきき方はさすがこの店のマスターといったところ。

「ありゃ?何これ?」

来てばかりのツバメは、
テーブルの上に並ぶモノに疑問を抱いた。
まぁ、
何コレ。
それしか言葉はないだろう。
何かわからないのだから。

「何だと思います?」
「・・・・・・新しく発見された化石か何かだね」
「なかなかいい表現だ」
「全てにおいて正解にしても問題ない表現だよ」
「あんま言うとイスカが怒るぜ?」

ドジャーがカカカッ!と笑いながらイスカを指差した。
だが、
ツバメの表情は少し真剣になった。

「あんたがイスカ嬢か」
「ん?」
「いや、以前も少し見たことはあったんだけどね。話すのは初めてだね」
「はい。コーヒーよー」

そう言い、
皆の前にコーヒーを置いていく。

「・・・・・」
「あら?どうしたのツバメ」
「・・・・なんでうちのだけホットミルクなんだい」
「あらら。あまりにも幼児体系だから間違えちゃったわ♪」

相変わらず仲の悪い事だ。
女と女の仁義無き戦い。

「・・・・まぁいいよ。本題に入るよ」

マリナが最後のコーヒーを置き、
そこに自分が座る。
そこで全員が揃った。
アレックス、ドジャー、ジャスティン。
エクスポ、イスカ、マリナ、ツバメ。
現存の《MD》メンバーと、
ツバメ。
7人が一つのテーブルを囲んだ。

「さっそくだけどイスカ嬢。シシドウについてはどこまで知ってるんだい」
「あぁ」
「それはさっき話してたところだ」
「ほぼ何も知らないらしいですよ」
「そうかい。それはうちとしても残念なところだね」

ツバメはホットミルクのカップを口に運び、
またカップを元の位置に戻して話しを再開する。

「でも無関係じゃない。それだけは分かって欲しい」
「無論だ」
「話の分かる人だね。さすがリュウの親っさんが認めた人だよ。どっかのアマとは違う」

ツバメはマリナに向かって舌を出して挑発した後、
マリナの反撃を待たずしてまた話す。

「話は聞いてると思うけど、うちもシシドウ。ツバメ=シシドウだ。
 そして・・・53部隊っていうのは全てその"シシドウ"で構成されている」
「ふむ」

イスカは少し口に手を当て、
考えたあと言葉を口にする。

「それはつまり、拙者とお主は親戚という事になるのか?」
「まぁそうだね。必ずしもそうとは限らないけど。そういう同じ家系の下ってこと」
「煮え切らないな」
「血は繋がってないのか?」
「シシドウの肝は一子相伝ってとこだ。それも世代交代の際に前のシシドウは死ぬってとこ。
 これにはいろんな意味がある。できるだけ暗躍的にしたいことや、技の隠蔽。
 そして何かのときに迷わないようにだ。孤独はそれだけで闇の力になる」

孤独。
親も消す。
完全なる孤独。
それは・・・
最悪の場合、世界の全てを敵にするという事。
もしもの時、
自分以外の誰もかも殺す。
迷う必要はない。
自分しかいないのだから。

「心など殺す。全て"殺すため"だけの殺人マシーンを製造する一家さ」
「ふーん」
「で?」
「血筋の話は?」
「一子相伝だよ?自らの子に技を伝えたら死ぬ。次の世代もその次の世代もだ。
 そんな危なっかしい一子相伝。簡単に伝わると思うかい?」

そりゃそうだ。
いつも一人。
伝えたら前世代のシシドウは死ぬのだから、
いつもシシドウは一人だ。
ならば、
そのシシドウが死んだら?
そのシシドウが子を残せなかったら?
それだけで終わる。

「養子を連れてくる場合もあるし、結構ゴチャゴチャしてんだよね」
「なるほどな」
「まぁいい。それを踏まえて・・・知りたいのは53部隊(ジョーカーズ)についてだ」
「一体どんな部隊なんだ?」

ツバメは頷き、
話し始める。

「部隊長の燻(XO)、ギルヴァングを除き、全てシシドウの一家。
 全員が暗殺術を・・・殺すためだけの技を備えた"殺し屋"だ」
「どんな人がいるんですか?」
「情報ができるだけ欲しいね」
「・・・残念だけど、うちもあまり知らない。染まる前に抜けたからね。
 実際、うちも53部隊として活動はしていないんだ。
 だから自分の親から教えられた情報以外は皆無だね」
「チッ・・・」
「まぁ暗躍部隊ですからね。身内にも情報はあまり流さないんでしょう」
「その通りだよ」
「じゃあさ」

マリナがコーヒーカップを置き、
ツバメに質問する。

「技はどうなの?ツバメ、あんたのラウンドバック。イスカのチャージスマッシュに似てた。
 つまるところシシドウっていうのはああいう技が多いの?」
「あんたにしちゃいい質問だ。そんでもって遠からず近からずかな。
 暗殺に・・・それに殺す事だけを考えると似た技になることが多いってだけだね。
 シシドウ。そのシシドウという家系は全てシシドウでありながら"違うシシドウ"だ」
「違うシシドウ?」
「つまり、シシドウによって伝える技も役割も違うってことかい?」
「そゆことだね。武器を扱うシシドウもいれば、魔術を使うシシドウもいる」
「カッ、つまりそこらの部隊と同じじゃねぇか」
「全員親戚ってくらいなことかい?」
「だから何度も言うけど、シシドウの特徴は・・・・殺す。その一つの概念に特化している事だよ。
 戦闘のスペシャリストなんかじゃない。殺人のスペシャリストなんだ」

殺人のスペシャリスト。
いい戦い。
そんなものは何もない。
いらない。
強い?
弱い?
関係ない。
ただ、
相手が殺せればいい。
手段もいらない選ばない。
自分を認識させる必要さえない。
ただ、
相手の命を奪うだけの集団。

「部隊長は?」
「ん?」
「燻(XO)とギルヴァングだよ。あいつらはシシドウなのか?」
「違うね」
「会ったことは?僕らはギルヴァングさんとは遭遇した事があるんですけど」
「残念ながらないね。うちに至ってはギルヴァングの方さえ見たことない。
 53部隊で仕事したことないからね。顔も知らないよ。
 イスカ嬢。あんたの親父さんなら会っていただろうけどね」
「・・・・・」

イスカはまだあまり現実味を帯びていなかった。
自分の家系。
暗殺という仕事の家系と分かっていたが、
まさか・・・
帝国に加担していて、
そして父がそんな仕事をしていたという実感。
それは突然にしてはまだ受け入れにくい。

「じゃぁ53部隊のメンバー。つまり他のシシドウ達については?」
「顔・・・それだけじゃなくて名前、特徴、技なんかも知りたいね」
「分かる範囲でなら教えるよ」
「遭遇した時、一目で分かるのか?」
「雰囲気は違うだろうけど、普通なら"遭遇しない"。そういう集団なんだから。
 今回はまた状況が違うだろうけどね。でもうちなら分かる。
 同じシシドウなら一発でね。匂いで分かる。それはイスカ嬢も同じと思うよ」

イスカは黙っていた。
が、
その通りだった。
イスカはツバメがここに現れたとき、
実際そう思ったからだ。
同じ者。
同じ匂いの者。
そう思った。
黒い、
そんな気のようなものが内側から漏れているような、
隠しているのに、
それがどうしても漏れてしまっているような。
忘れたいのに、
捨てたいのに、
・・・。
まるで自分と同じだ。

「知ってる奴については後でまとめとくよ。でもシシドウには一つ特徴がある。
 名前だよ。名前は全て"空に関係のあるもの"になってる。なんとなく風習でね。
 たとえばうちはツバメ(燕)。イスカ嬢の親父さんはヒエイ(飛影)。
 そしてイスカ嬢も鳥の名前だね。最近は鳥の名前の奴が多いらしいけど」
「いや」

口を挟むように、
それだけは言っておきたいというように、
イスカは言う。

「この名はマリナ殿に付けて貰った名だ。本当はアスカ(飛鳥)だ」
「あら、改名してたの?でもそれでも鳥の名か。・・・・・因縁だね」

因縁。
いや、
怨霊のようにも思える。
そんな縁。
シシドウはどうなってもシシドウ。
どこまでいってもシシドウ。
そう・・・ツバメは言いたそうだった。

「まぁ、一人だけ・・・一人だけ例外を言っておくよ」
「例外?」
「そう、例外。例外中の例外。ハッキリ言って危なすぎる」
「なんだよ・・・」
「あんまり脅すなよ・・・」
「例外中の例外。それでいて人間の中の人間例外。殺し屋でさえない。
 シシドウの中でも異端児でありながら、シシドウの中のシシドウ。
 シシドウとシシドウの間に生まれたシシドウ中のシシドウ。
 53部隊(ジョーカーズ)副部隊長。シド=シシドウ」
「・・・・」
「ダジャレ?」
「シシドウの傑作って言われててね。奴だけシシドウから名前を冠された。
 でも本質は真逆。空を飛ばないシド(死土)。人間だけじゃなくシシドウとして失格者。
 シシドウの中でも特殊中の特殊。例外の中の例外。異端の中の異端だよ」
「ヤバいのか?」
「"会ったら死ぬ"」

簡単に、
何の迷いもなく、
ツバメはそう言い放った。
会ったら死ぬ。
そんな言葉をハッキリと言わせる。
副部隊長。
シド=シシドウ。

「どんなやつなんですか?」
「シシドウの中でも異端ってよぉ」
「会った事はないけど有名だよ。シシドウの中ではね。
 何せまず殺し屋じゃない。なんたって殺しが嫌いだからね」
「は?」
「なのに殺す。殺すのに殺し屋じゃない。殺す衝動だけを持ってる殺人鬼だよ。
 殺す事に目的もない。見返りもない。自分自身に殺しの感動さえない。
 やりたくもないのに、殺りたくもないのに自動的に殺りまくる。そんな奴さ」
「まさに殺人マシーンか」
「マシーンでもないのさ。うちらと違ってね。感情はあまりにも人間味がある」

うちらと違って。
それは、
イスカを巻き込んだ言葉だろう。
イスカはただそれを受け入れた。
殺人マシーン。
それは・・・
自分自身でも分かっている事だ。
どれだけ隠しても、
どれだけ過去のものにしようとしても、
体が覚えている。
覚えてしまっている。
動かそうと思えば・・・すぐに動く。
殺すためだけの動き。
殺人技。

「今回そいつが出てくる事だけは間違いないよ」

今回。
それは・・・

「あの挑戦状の話だな」
「むしろそこが本題ね」

カード。
届けられた二枚のカード。
"53"と書かれたカードと、
"44"と書かれたカード。

「十中八苦、53部隊と44部隊だよな」
「イタズラの可能性は?」
「薄そうだ。タイミングがタイミングだし、
 帝国の名を使ったイタズラなんて出来る馬鹿がいるとも思えない。
 裏には日時と場所がハッキリと書かれているし、
 内容も挑発的な割に具体的だ。間違いないだろう」
「53部隊と44部隊ねぇ・・・・」
「同時に相手できるとは思えねぇけどな」
「だが罠という感じもない。何せ場所が"闘技場"だ」

闘技場。
サラセンに位置するリング。
コロシアム。
人と人が戦うためだけに作られた、
スポーツと銘打たれた殺し合いの舞台。

「こんな場所じゃあ数にものを言わせて返り討ちにしようってのは無理だろ?」
「来るのは本当に44部隊と53部隊だけって事か」
「44部隊はそんな姑息な罠を仕掛けてくると思わないですしね」
「それなんだけどさ」

エクスポが口を挟む。

「そのカード、ボクも見せてもらったけど・・・美しくないね。バレバレだ。
 何せカードの裏の文字。それが両方とも同じ筆記だ」
「同じ?」
「同一人物が書いたってことさ。
 つまりカードをよこしたのは53部隊か44部隊のどちらかの誰か」
「53と考えるのがベターね」
「44部隊は巻き込まれたって考えると・・・いろいろ合点がいきます」
「結局44は来るのか?」
「さぁな」
「来たとしてもロウマさんは来ないでしょうね。それに全員っていうのも考えにくいです」
「ツバメ。53部隊(シシドウ)の数は?」
「かなり少ないよ。どんなに多く見繕っても1ケタ。少なく見繕って3・4人」
「本当に少ねぇな」
「暗躍部隊だしね」
「じゃぁつまり・・・」

ジャスティンは右手で左手のギプスをカリカリとかいて遊んだあと、
顔をあげて言う。

「多くても5対5対5くらいになるかな」
「ちょっと・・・こっち5人で行く気?」
「多くつれてく分には問題ねぇだろ?」
「罠の可能性を捨てきれないさ」
「なんにしろツヴァイを連れてきゃ万事OKだろ」
「いや・・・やめた方がいい」

エクスポが口を挟む。

「罠かもしれないというジャスティンの意見も踏まえ、ボクの意見も言わせてくれ。
 逆に陽動かもしれない。ボクは少し気になってたんだ。当たり前すぎて気になってた。
 そのカード・・・・あの本拠地のとこに届いたんだろ?あの隠れ家に。・・・・どうやって?」

皆は黙った。
それは・・・
それはもしかするとかなりの危険性を示す事実だ。

「いや、一応カードはウォーキートォーキーマンを経由して届いたんだ。
 あの情報屋もギルド連合の隠れ家の位置までは知らない」
「だけど近づかれているのは事実だし、万が一も有り得るよ。
 つまり、戦力を闘技場に誘導して・・・・本拠地を叩くつもりかもしれない」

エクスポの意見。
彼は楽観的に見えてこういう部分は鋭い。
芸術家としての洞察眼か。

「だからツヴァイは置いておくべきだと考えるよ。
 そしてそれを無しにしても・・・ボクは今回はツヴァイ抜きでやるべきだと思うね」
「なんでだ?」
「これからさ。これからもし二箇所以上で同時に戦闘が起きるような事があったら?
 ツヴァイがどうしても戦闘に参加できない状況があったら?・・・そしてそれは100%起こるよ。
 つまり"ボクらもやれなきゃいけない"のさ。ボクらが戦力になれなきゃ勝ちはない。
 今回みたいなのでさえ乗り越えられないようならもとより帝国なんかに勝ち目はない」

エクスポの言うとおりだった。
絶騎将軍(ジャガーノート)などの強力な戦力。
それを全てツヴァイに任す気か?
ツヴァイがもし負けたら?
それで終わりか?
駄目なのだ。
やれなきゃいけない。
自分達でも勝てなきゃいけない。
"人任せでわがままは手に入らない"

「正論だな」
「正直、今ギルド連合の戦力は増えつつあるようで揺らいでいるしな。
 柱である3つのギルド。《昇竜会》《メイジプール》《BY-KINGS(ピッツバーグ海賊団)》
 差別するわけじゃないが、全て現段階マスターが女だ。それもここ1年で変わった者ばかり。
 《メイジプール》は急造だし、《昇竜会》は"今日からマスター"だ。
 《BY-KINGS》に至ってはバンビと共に行方不明。支えているのはツヴァイの存在だけだ」

不安定なギルド。
終焉戦争で《メイジプール》は大獄柱であるマスター魔道リッドを失い、
昨年、マリナの妹である新マスター、マリンも失った。
《昇竜会》も同じ。
大獄柱リュウを失い、トラジも死んでしまった。
《BY-KINGS》の大獄柱であるジャッカルも先日失ったばかりだ。

今、
ギルド連合を支えている3つのギルド。
《昇竜会》
《メイジプール》
《BY-KINGS(ピッツバーグ海賊団)》
その3つのギルドのマスターは、
フレア=リングラブ、
ツバメ=シシドウ、
バンビ=ピッツバーグ。
全て新しく継いでばかりの女性である。

「それでギルド連合のリーダーもツヴァイで女」
「こう考えるとハーレムだな」
「強い女性は美しいよ」
「ま、とにかく今のところ不安定ですね」
「踏ん張れるのは俺らだけってこった」
「無論、やるしかないな」

やるしかない。
自分達の力。
それで、やるしかない。
53部隊。
44部隊。
それらを相手するしかない。

「で、誰が行く」
「私はやーよー。こないだ十分働いたでしょ?お店やらしてよ」
「半分決まってら。ジャスティンは怪我だろ?俺、アレックスは確定として」
「確定なんですね・・・いいですけど・・・」
「言っておくけどね」

ツバメが切り出す。

「今回の戦いはギルドどうこうだけじゃない。シシドウの問題もだよ」

ツバメが言う。
そう、
そうなのだ。
53部隊。
シシドウ。
そう。
それならば・・・・

「イスカ嬢。運命ってもんを受け入れる覚悟はあるかい?これも義理ってやつだよ」
「・・・・・」

イスカは黙った。
シシドウ。
産まれてしまった。
そして出会ってしまう。
正直・・・・怖い。
何か・・・何か芽生えてしまうようで、
そして、
本当の自分を目の当たりにすることになりそうで・・・
自分が・・・
シシドウという存在がどういうものなのか。
自分がどういった人間なのか。
それを突きつけられてしまうような。
だが・・・

「無論だ」

ゆっくりとイスカは口を開いた。

「シシドウなぞ関係ない。血筋などというものがどうであろうが、関係ない。
 拙者はただのイスカ=シシドウだ。マリナ殿を守る。それだけだ。
 ならばそれ以外は何も関係ないしいらない。とうに全て捨てた。・・・・性別さえも」
「捨ててない」
「変態なだけだ」
「・・・・・」

かっこよく決めたつもりだったが、
そうじゃないらしい。
難しい。
不器用なのでな。

「ま、心配はしてないさ」
「それでこそイスカさんです」
「おめぇはおめぇだ。エクスポもそうだった」
「じゃぁ決まりね。ドジャー、アレックス君、ツバメ、イスカ。・・・あとエクスポどうするの?」
「んー。どうしようかな。全然行く気はあるんだけどね。
 だけどどうも体の調子が美しくない。疲れもあるだろうけど鈍ってるんだ。
 監禁付けの一年間からすぐさま転生、その日のうちにまた転生だからね」
「そりゃそうだろな」
「無理しないでください」
「っていっても神族であった時の記憶はそのままあるからね。
 逆にパワーアップしてるような感じもあるんだよ?」
「おめぇはおめぇだ。変わんねぇよ」
「・・・・今その言葉で片付けるのは美しくない」

だが、
実際問題エクスポは少し休ませるべきだ。
だからと言って4人というのは少しさみしい。

「そういえばシャークさんは?」
「なんかフラりとどっか行ったよ。よく分からない魔物だ」
「じゃぁ現実的に考えるとフレアでも呼ぶしかないな」
「いや、彼女を含め《メイジプール》はそこら中で戦闘を行ってもらってる。
 ハッキリ言って多忙だ。ハッキリ実働できてるのは《メイジプール》だけだからな」
「エドガイさんでも雇ったらどうです?本拠地でゴロゴロしてるんでしょ?」
「それならツヴァイ連れてくっての」
「話が戻ってしまうな」
「っていうかエクスポの神族の話で思い出したけどあいつはどーなってんのよ」

あいつ?
いや、
あいつだな。

「ガブリエルか」
「呼んでありますよ。一応敵だったのでいきなり本拠地に呼ぶの怖いですからね。
 ってことで今回の集合場所はここなんです。心配ないと思いますが念には念をです」
「あぁ、そういうこと」
「で、こねぇじゃねぇか」
「遅いですね・・・・」
「まぁあの性格だからね。美しくないよ。時間にルーズな人間は一番美しくない」
「むっ・・・いや、外に誰か・・・」

イスカが何か気配のようなものを感じ取った。
足音。
それが聞こえたらしい。
イスカの5感がそう感じたなら間違いない。
ネオ=ガブリエルか?
いや、

突然。
突然だった。
ドアが開くと思った。

そう思ったのだが・・・

ドア。
このQueen Bの入り口の扉。

それが・・・・

燃えて焼け落ちた。

「なっ!?」
「なんだ!!」

メラメラと。
その扉だけが炎に包まれ、
地面に倒れていた。

「いたーーーーーー!!!」

倒れ、
燃えている扉。
その煙の向こう。
一人の男の声。
その男は、
燃え盛る炎の上に、
当たり前のように足を踏み出した。

「いや・・・」
「いやいやいやいや・・・・」

その男の姿。
それは少々信じ難いものだった。

だが、
その男は燃える扉の上で、
両手を広げ、
陽気な笑顔を振りまき、
真っ赤な炎の上、
真っ赤な髪を振りまいて叫んだ。

「会いたかったぜアッちゃぁあああーーーーん!!!!」

「ダニー!?」

ダニエル=スプリングフィールドは、
本当に嬉しそうな笑顔を振りまきながら店に足を踏み入れた。

「ヒヒ・・・ヒャーーーーハッハッハッハハ!!!探しに探したんだよぉー♪
 噂は聞いてたけど、ちゃんと生きててくれたんだねー!
 アッちゃんは俺が燃やすんだ。俺が燃やす前に死んでないかとドキドキして・・・・」

「なんだあんた」
「動くな」

「んお?」

当たり前のように歩いてくるダニエルに、
ツバメ、
イスカ。
双方はいつの間に近寄ったのかといった速度でダニエルに近づき、
ダガーと剣を突きつけていた。

「ミルレスで見たね」
「お主、GUN'Sの生き残りか」

「まぁまぁその通りだけどよぉ!とりあえず茶ぁにしようぜ」

ダニエルは、
なんの躊躇もなく、
イスカの剣。
ツバメのダガー。
その両方を・・・素手で掴んだ。
手からはドクドクと血が流れる。
痛みを感じていないように二つの刃をどかし、
さらに店の奥へと歩みを進める。

「ざけんなよ」

ドジャーが立ちふさがった。
両手にダガーを構える。

「てめぇ・・・・なんで生きてやがる」

「・・・・さぁ?」

「とぼけんな!三騎士に追われて生きてるわけねぇだろ!」

「それどこじゃないぜぇ?燃えてミルレスの谷に落ちた。
 いやぁー、死んだと思ったねぇ。・・・・でもなんでか生きてた♪」

「そ、そこは死んどけよ・・・」

「まぁまぁ♪。とにかく落ち着こうぜ。座っていいよな?アッちゃん」

生きてるはずがない。
目撃証言もあった。
自らの体を焼いたとか。
それでいて本人の言葉だと谷に落ちた。
あのミルレスの谷にだ。
生きてるはずがない・・・
生きてるはずが・・・・

「とにかく座らせたら?害はなさそうだし」

マリナがカウンターにもたれながら、
そう言った。
落ち着いているようで、
なにか体を震わしていた。

「・・・・殺したら弁償させられないし」

・・・。
怖くて表情は見れなかったが、
恐らくマリナの顔は鬼のようになっているだろう。
店の扉を燃やされたのだから。

「んじゃ遠慮なくー♪」

そんな事には気にも留めず、
ダニエルはアレックスの横の椅子を引き、
どすんと座った。

「久しぶりだねアッちゃぁーん♪元気してたぁん?」

嬉しそうなダニエル。
アレックスは適当な返事をし、
そして他の者もテーブルに座った。
イスカだけ、
マリナにアゴで使われ、
燃えた扉の消火作業に入っていた。

「こいつ本物か?」

テーブルの向かいで、
ジャスティンが疑わしき目でダニエルを見た。

「GUN'Sに居たとき何度か見たが・・・・」
「アァー!あんた確か元六銃士!確かジャスミン!」
「ジャスティンだ」

ダニエルは「そうだったそうだった」と大笑いし、
マリナにコーヒーを注文した。

「確かに信じられねぇな。まぁ変態具合はまさしくそれだが・・・・」
「死んだはずだ」
「だーかーらー・・・いいじゃねぇか?生きてるんだからよぉ」
「ダニー。なんで生きてるんですか?」
「アッちゃんの頼みなら教えちゃう!」

ダニエルは子供のように歯を見せて笑う。

「いやまぁよぉー。ふむふむ。俺も大変だったよなー!
 俺も頑張ったと思うよ?うんうん。何頑張ったか知らんけど!」
「いいから話せ」
「あぁー?黙れドジャっち。俺はアッちゃんに話してんだよ」
「詳しく話してくださいダニー」
「オッケェー♪」

相変わらずアレックスが大好きなようだ。
・・・と言っても、
アレックスを燃やしたくてしょうがないというわけの分からない好意だが。

「ま、ミルレスん時なぁー。カプリコ三騎士に追われちゃったじゃんなー?
 そりゃそうねー?カプリコ砦燃やしたの俺だしなー♪
 で、もう追い詰められてダニー大ピンチ!俺は咄嗟の機転で自分燃やしたわけよ!
 自分バデス!あの機転はよかったね!俺はなんとか三騎士から逃げ延びた!拍手!」

どんな機転だ。
なぜ自分を燃やすという結果に陥る。

「でねー。俺はアッちゃん達を追いかけたわけよー?
 GUN'Sの本拠地に向かい、慢心相違のダニーは頑張った!
 走れメロス!負けるなダニー!それで俺は辿り着いた!やったー!」

GUN'Sの本拠地。
それは、
ミルレスの西。
ミルレスを取り囲む谷。
その絶壁。
その外側に入り口を設けられた場所。
絶壁につり橋が設けられ、
洞窟のように地下へ入る道。

「でもそのつり橋にはなんか天使がいっぱいいましたー!残念!
 そこでなんと涙!あわれ俺!力尽きてしまったのだ!
 はいハンカチ用意!なんと力尽きたダニーは谷へ突き落とされてしまったのだ!!」

ダニエルは力強く、
その拳を振り上げ、
そして一定時間静止したと思うと・・・

「んで今ここにいる!」
「おい」
「まて」
「飛ばしすぎだ」
「あぁーん?なんだよ?」
「そこまではいい!いいけどよぉ!谷に落ちてなんで生きてる!」
「わっかんねー!ヒャーーハッハッハッハ!!!」

何が可笑しいのか。
ダニエルは大笑いをする。
だが、
納得いかない。
何故?
それが本当なら生きているはずがない。

「ダニー」
「なんだいアッちゃん!!」
「あなたは本当にダニーなんですか?」
「おぉ!アッちゃん!あなたなんでアッちゃんなの!?」
「はぐらかさないでください。いえ、確かに雰囲気はダニーそのものです。
 ですが例えば・・・火傷の痕とかもなくなってますよね?」
「んあ?」

火傷の痕。
ダニーは、
顔を含め、体中に火傷の痕があった。
自分を燃やしたりするからだ。
なのに、
このダニエルにはそれがない。

「治ったんじゃね?」
「火傷っていうのはそんな簡単なものじゃないと思いますが・・・・」
「いーじゃんいーじゃん♪ハッピーエンドじゃん!!
 むしろ祝福してくれよ!おーい女将さん!ケーキない?ケーキー!」
「お、女将!?」

マリナを当たり前のように怒らせる。
悪気もない悪魔ダニエル=スプリングフィールド。

「ま、いーじゃんいーじゃんアッちゃん♪俺は今、めちゃくちゃ歓喜なわけよ!
 なんたってアッちゃんにまた会えたんだからな!」

ダニエルは満面の笑顔でアレックスを見て、
ニタニタ笑う。

「アッちゃん。アッちゃんはどんな俺でも人間だと認めてくれた!
 こんな殺人狂の人を燃やす事を快感なド変態鬼畜野郎でも・・・
 アッちゃんだけは人間だって認めてくれたんだぜ!
 俺が人間として生きてる意味は、アッちゃんが居てくれて初めて成立するんだ!
 だから俺ぁアッちゃんが死ぬまで死なねぇよ!そしてアッちゃんも死なねぇ!
 俺がアッちゃん自身を燃やすまで、俺らの命は終わらないんだ!ヒャッホーーイ!」

嬉しそうで、
無邪気で、
それでいて心がドス黒い。
こんな人間。

「えらいもん拾ったみたいだね」
「アレックス君もドジャーも男に好かれる体質あるよね」
「失礼ですよエクスポさん!僕はカッコカワイイので女性にも好かれます!」
「サド女とか」
「ストーカーとかね」
「・・・・・・」

つまりアレックスはろくなものに好かれない。

「んで・・・どうするんだこいつ」

ジャスティンがダニエルを見ながら言う。

「どうするってもねぇ・・・」
「まぁ・・大丈夫だろ。俺は大ッッッ嫌いだが、アレックスいれば言う事きくしな」
「ドジャっちドジャっち」
「あん?」
「俺もてめぇ大ッッッ嫌い♪」
「・・・ッ・・・」
「まぁちゃんとうまい事飼っておくんだね。飼育も芸術だよ?」
「あ、飼うっていえば」
「あぁ・・・ガブリエルはどうした」

ネオ=ガブリエル。
話しが戻る。

「何それ?犬?」
「ガブちゃんさんは天使ですよダニー」
「ほえぇー」

ダニエルは関心しながら、
ふむふむと頷き、

「そーいや鳥人間が一匹表で寝てたぜ?あれか?」
「は!?」
「ちょっとイスカ見てきて」

イスカはやっと扉の消化作業が終わったようで、
入り口で一度額の汗をぬぐっていた。
が、
マリナに言われてすぐさま外に飛び出る。

「・・・・・」

店の外に飛び出ると、
イスカが入り口の向こうからこちらを見た。

「上半身裸の羽の生えた刺青男が一人寝ておる」
「「「・・・・・・・」」」

何故店の前で寝た。

「連れてきて」
「おい、起きろ鳥人間」

入り口の向こうで、
イスカが何かを蹴飛ばすのが見える。
そして反応がなかったのか、
イスカは持ち上げひっぱった。

「あぁー・・・動きたくねぇよー・・・・」

声が聞こえた。
ネオ=ガブリエルだ。
イスカに両脇を抱えられ、
ズルズルと引きずられている。

「ダリィーよぉー・・・太陽好きなんだよぉー・・・寝かせてくれよぉー・・・」

文句を言いながら、
ズルズルと引きずられるガブリエル。
引きずられながらも、
カチンッとライターの開く音がし、
タバコに火をつけだした。

「んあ・・・お邪魔しまぁーす・・・・」

イスカに引きずられながら、
ガブリエルは煙を一吐きし、
片手をあげた。
ダルそうな顔だ。
動くのもダルいか。

「んご・・・」

突然ボトンとイスカが手を放し、
ガブリエルは店の中に転がる。

「自分で歩け!!!」

今更のようにイスカが言い、
ガブリエルを蹴飛ばした。
だが、
休日に動かないお父さんのようにガブリエルは反応もせず、
店の地面に転がって煙を吐いた。

「相変わらずだな・・・」
「なんで店の前で寝てたんだよ・・・」

「んあー?・・・いやさー・・・あぁー・・・話すと長くなるからダリィ・・・」

「言え」

「・・・・んーっとな・・・着いたんだけどなー・・・着いた瞬間ダルくなって・・・寝た・・・」

「短けぇじゃねぇか・・・」
「意味分からん理由だな」
「とりあえずガブちゃんさん。こっちまで来てくださいよ」

「ダァーリィーなぁ・・・・」

ガブリエルは、
足で起きるのもダルかったのか、
ブォンと翼を広げ、
一瞬だけ宙に浮くように立ち上がった。
その光景を見ると、
やはり天使なのだと分かる。

「あぁー・・最初は右足だっけー・・左足だっけー・・・まぁいいかダルい・・・・」

どっちでもいいだろ。
さっさと歩け。

ネオ=ガブリエルは、
タバコを手と口に挟みながら、
今にも寝そうな目でこちらに歩いてくる。

「歩くのダリィーなぁー・・・・でも飛ぶにはせめぇしなぁー・・・」

「いいからはよ来い」
「なんで足が付いてると思う?前に進むためだ」

「足なんか飾りだよ飾りー・・・・」

わけのわからん事を言うのをやめろ。
とにかく赤ん坊がヨタヨタ歩くように、
じれったくネオ=ガブリエルは歩く。
タバコをふかしながら、
ゆっくりと。

・・・・ふと、
ネオ=ガブリエルが視線をやると。
あるものが目に映る。



                      「ほぉ。人間にしては面白い奴がいたものだ」



ガブリエルの頭に過去の記憶がよぎった。
それは一年前の記憶で、
ジャンヌダルキエルの言葉だった。

「・・・・・・・・・」

ガブリエルは何事もなかったかのような表情で、
近場のテーブルへ行く。
アレックス達のテーブルではなく、
近場のテーブルの上に「よっこらせ・・」とジジくさい事を言いながら登り、
テーブルの上に横になった。

「あぁ・・・メンドくせ・・・・聞いてねぇぞ・・・・」

そしてそう言った。

「なんで神族がここにいる」

突然の言葉。
何を言っている?
神族?
いや、
誰が。
・・・・いや・・・・
それに値するのは・・・・

まさかと思い、
皆の視線は一人に集まった。

「面倒くせぇけどよぉー・・・・少し昔話してやんよー・・・・」

ネオ=ガブリエルは煙草を吸いながら、
テーブルの上に寝転び、
話し始める。

「何年前だっけー?・・・20?・・・・テキトーだからよく覚えてねぇけどさぁー。
 天上界(アスガルド)で新しく、神族の子供が生まれたんだよねぇー・・・」

神族の子。
まぁ、
神族も種族ならば、
子孫も残すだろう。

「だけどよぉ・・・・そいつは"腐ってたんだ"・・・・神様としてなーー・・・・
 まず翼がない・・・そんでもってー・・・禁忌つってもいい"人間の力を持つ忌み子"だったわけね・・・・」

突然話し始めたガブリエルの話しに、
皆は耳を傾けた。

「"神から人間が生まれてしまった"・・・・そんな感じでそりゃヤバいわなー・・・
 ・・・・・そいつは捨てられた。雲の上からゴミのように地上にな・・・・。
 死んだと思ってたけどよぉ・・・昨年ミルレスでジャンヌダルキエルが見つけた・・・
 俺も見てたぜー・・・・そいつがまたまた落ちていくのぉよー・・・・」

ネオ=ガブリエルは、
煙を一度吐いた。

「・・・・地上に落ちた神・・・・・『神の落とし子(スプリングフィールド)』・・・・・・
 確かそいつの名は・・・・カルキ=ダニエルっつったかなぁ・・・」

皆、
その場に居た全員。
全ての視線は・・・・

一斉にダニエルへ向いた。

「え・・・は?・・・・」

ダニエルはキョロキョロと周りを見回し・・・・


「え?何?・・・え?・・・今俺の話なん?」







                 






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