「さぁ、芸術を始めよう」

エクスポは両手を広げ、
笑顔で言う。
後ろの髪留めを外した姿、
束ねていた髪が振り解かれる姿は、
なびいて美しかった。

「・・・・・・って感じだ。どう?今のカッコよかった?」
「いまいち」
「まぁまぁですね」
「・・・・・・・。でも美しくはあったよね?」
「いまいち」
「まぁまぁですね」
「・・・・・・」

カッコつけて決めポーズまでとったのに、
次の瞬間にはエクスポはうな垂れていた。

「芸術や美学が分からない凡人だらけで困るよ・・・」

自分自身落ち込みながらもそういう事を言うから困る。

「どうでもいいが」

ツヴァイが後ろから、
漆黒のアメットを一度上へあげて顔を出し、
聞く。

「敵から味方になった。・・・あぁ、というより戻ったのか。
 それでこのエクスポという男は戦力的にはどうなのだ?」
「え?」
「あぁー・・・・」

アレックスとドジャー、そしてマリナ。
三人三様。
腕を組んだりアゴに手をあてたりしながら考えた。
戦力的に?
ふむ。
《MD》の一員として・・・
エクスポの戦力・・・
・・・・。

「・・・・まぁまぁ?」
「中の上?」
「あくまでB級?」
「・・・・・・評価まで美しくないね」
「だってよぉ分かんねぇじゃんオメェ」
「僕はエクスポさんの戦闘ほとんど見たことないですし」
「火力あって俊敏だけど・・・んー・・・だけど・・・って感じね」
「ふん」

ツヴァイは少し笑みを零した。

「つまるところお前らカスの仲間らしくその程度と捉えておくか」
「んだと!?なめてんのかツヴァイ!」
「それは遠まわしに私達を馬鹿にしてんの!?」
「僕がエクスポさん如きB級キャラと同じなわけないじゃないですか!」
「・・・・・おい」

エクスポは数秒で自分の立ち位置を奈落の底まで落とされた気がした。
まぁ・・・
まぁしょうがない。
皆美学の分からない馬鹿者ばかりなのだから・・と、
自分に言い聞かせる。

「ま、だけどよ」

ドジャーがダガーをクルクルっと放り投げ、
それを自分でキャッチする。

「必要なのは強さじゃねぇ。勝つかどうか・・・ってだけだ」

見る。
睨む。
その先。
倒すべき、
いや、
殺すべき対象。

「フッ・・・やはり家畜は家畜か・・・・」

ジャンヌダルキエルは笑った。
エクスポを奪還され、
さらにエクスポに騙されダメージを負った。
神は1人。
敵は7人。
しかも、
絶望を与えるどころか希望を与えてしまった。
が、
だが、
それでもジャンヌダルキエルは笑う。

「家畜から産まれてくるのはやはり家畜。そういう事だったわけだ。
 フフッ・・・それはもうわらわの誤算。盲目。計算ミスとしか言いようが無い。
 人間を利用してやろうと四x四神(フォース)を作ったが・・・・やはり・・・・」

ジャンヌダルキエルの妖美な目。
それがアレックス達を見据え、
そして、
また、
当たり前のように・・・
見下す。

「家畜に神などいなかったという事」

ジャンヌダルキエルの体がフワリと浮く。
白い翼が広がり、
両手両足。
翼を省いく・・・人と同じ五肢が、"十字架"を象るように浮き上がる。

「反省点であり回帰点だ。やはり神しか必要なし。いや、神以外に必要なものなどないのだ。
 何の必要さえもない。ただ、ただわらわがいれば絶望など与えられる」

自信。
確信的な自信。
神という、
神の頂点という絶対的に存在する差。
力の差から確実に存在している力の差。
そこから湧き出る自信。

「終わりにしようか人間共。終わらせてくれる。何もかも終わらせてやる。
 神にはその権利がある。神にはその力がある。・・・・・絶望を与えてやる!!!」

十字架を象る形で浮き、
そのまま浮き続ける。
浮上していくジャンヌダルキエル。
両手には・・・・眩い光。

「上空へ行く気です!」
「逃げられるわ!」

上空。
神の領域。
そこへと昇る気だ。
今にも急上昇しようと・・・・・
上空へ逃げられたら終わり。

「逃がすかよぉ!」

誰よりも早く駆け出したのはドジャー。
そして一番速いのもドジャーだった。

「地に落ちてろぉお!!!」

ドジャーは真っ直ぐ突っ込みながらも、
両手のダガー。
1・2。
1本づつ投げつけた。

「微弱よな。人間」

ジャンヌダルキエルはその両方を、
軽く手首だけで弾いた。
紙でも飛んできたかのように。

「絶望は無力にする・・・・が、希望など力にならぬという事。その証明か?お前は」

ジャンヌダルキエルが指を指す。
指。
その綺麗な人差し指。
それがドジャーの方へ向く。

「身分をわきまえろ。人間如きが」

「!?」

指先。
ジャンヌダルキエルが突き出した指先。
その指先。
光。
光が放たれた。
それは細いレーザーのように。

「ぐっ!?」

真っ直ぐ突っ込んでいたドジャーの肩部を突きぬけ、
光のレーザーは肩に小さな穴を作り、
ドジャーのそのまま大きく転倒した。

「ドジャーさん!?」

転倒し、
肩から火傷のような穴から流血するドジャー。
それを追い越す、
飛び越すように3つ。

「何あれ!?」
「小型のホーリーフォースビームってとこでしょうか・・・」
「美しい攻撃だ。けど、存在自体が美しくない」

アレックス。
マリナ。
エクスポ。
3人がドジャーに続くように、
ドジャーに代わる様に飛び込む。

「家畜が群れるな」

ジャンヌダルキエルがまた指先を向ける。
小型のホーリーフォースビーム。
また来る。

「死ね」

「避けて!」
「くっ!」

アレックスを貫かんと放たれた小型のホーリーフォースビーム。
アレックスはすんでで身をかわす。
身をひねる。

「危ない・・・・・あんなのでも胸か頭に当たったらアウトですね」
「スリルも芸術さ」
「アレックス君!あんたはドジャーの治療に行って!」
「・・・・・・・分かりました」

アレックスは身を翻し、
肩を貫かれたドジャーへと向かう。
代わりにジャンヌダルキエルへ突っ込むのはマリナとエクスポ。

「上空へ逃げられるわけにはいかないわよエクスポ!」
「・・・って言ってもすでにちょっと届くか微妙な位置だけどね」

ジャンヌダルキエル。
余裕をかましているようにゆっくりと上空へと浮いていくが、
すでに並のジャンプ力では届かないほどの位置。
そんな位置まで飛び上がっていた。

「なめんじゃないわ!ジャンプ力だけはチェスターにも譲らなかったんだからっ!」

マリナが跳び上がる。
軽やかに地面。
雲の地面を蹴ると、
マリナは軽々しく飛び上がった。

「蜂のように舞い・・・・」

振り上げるギター。

「蜂のように刺す!!!」

浮かぶジャンヌダルキエルに振り落とすギター。
鈍器、
まるでハンマー。

「・・・・全ては神の僕にすぎん!」

ジャンヌダルキエルの光り輝くその手。
片手。
それだけで防ぐ。
人の頭も吹っ飛ばすマリナのギターは、
片手で止められる。

「・・・くっ!人の料理はちゃんと味わいなさいよ!」

攻撃は通用せず、
そのまま落下するマリナ。

「でもマリナさんは諦めが悪いのよ!」

だが落下しながらも、
マリナはギターを構える。
ジャンヌダルキエルへ向かって。

「・・・・チッ・・・人間の女如きが!」

ジャンヌダルキエルは急に浮遊スピードをあげる。
乱射されるマシンガンは、
両手だけじゃ止めきれないとふんだのだろう。
斜め上。
斜め上に向かい、翼を広げ飛びあがる。

「あたんなさいよぉおお!!!」

構わず乱射するマリナ。
まるで飛ぶ鳥を追うように落下しながらマシンガンを乱射したが、
だがやはり速い。
飛行するジャンヌダルキエルを撃ち落す事はできなかった。

「その位置いいね。計算通り」

「!?」

ジャンヌダルキエルが気付く。
飛行する自分。
その周り。
・・・聞こえる。
・・・・チクタクチクタク・・・
針の音。

「爆弾か!」

ジャンウダルキエルの周りに浮かぶ、
いや、
落下している爆弾が5個。
いつの間に投げられた。
そんな事を考える暇もなく、
まさに時間通り、
計算どおり。
スケージュール通りといわんばかりに・・・
爆弾の針は0を向かえる。

「チィ!!」

ジャンヌダルキエルの周り。
空中で爆発する爆弾。
5つの爆煙。

「こしゃくなマネを・・・」

煙の中から姿を現すジャンヌダルキエル。
やはり致命傷にはならなかったようだ。

「あらら。ボクの芸術が評価されないってことは凄く残念だよ」

エクスポの声。
地上?
いや、
空中。
跳んできた?
いや、
一番ジャンプ力のあるマリナよりも上。

「やっぱボクはフウ=ジェルンとしてもいけたんじゃないかな?
 そこんとこどう思う?ジャンヌダルキエル・・・様♪」

空中のエクスポ。
どうやって空中まで上ってきたか。
それは彼が今やっている。

「よっ・・・」

空中でポロリとこぼす爆弾。
それはエクスポの足元より下に落下し、
ものの1秒半。
1秒半キッカリ。
コンマの違いもなく、
1秒半キッカリで爆発し、
・・・・その爆風はエクスポを上へと飛ばした。

「人も飛べるんだよ?知ってたかい?」

爆風。
爆風。
爆風をジェットにし、
それで上へ上へと昇ったという事か。
なんとも荒っぽい。
それでいて人間技でもなく、
完璧な計算。
爆力。
爆発時間。
全てが完璧な状態でやっと完成するか否か。
そんな荒業。
・・・・もとい芸術・・・美技。

「逃がすわけにはいかないんだよ」

空中で、
エクスポは両手に爆弾を取り出す。
時計の針がチクタクと音を奏でる。
相手を吹き飛ばすための爆弾。

「ジャンヌダルキエル。君はボクが積み重ねたものをひと時壊した。
 ボクの人生という芸術をひと時壊した。ボクはそれを許すわけにはいかない」

「神が人をどうしようと、権利として立場として、力として・・・当然自由だと言っておこう。
 人など家畜。それ以上でもそれ以下でもない。支配者に使われて汚らわしく鳴き喜べばいい!」

「・・・・・・芸術家はそーやって人を勝手に批評する評論家が大嫌いなんだよ!」

空中。
天使であった時のように、
そしてエクスポであるまま、
空中に浮かぶ芸術家は目の前の神に石(爆弾)を投げた。
ジャンヌダルキエルに向かって投げられる、
二つの爆弾。

「当たるか!!」

ジャンヌダルキエルはその軌道を当然の如く読みきる。
爆弾の単純な軌道。
投げる。
それだけの軌道。
そんなもの神にとっては避けるのは動作も無い。
翼を傾け、
鳥の如く、
急発進して飛び立ち避ける。
が、

「芸術からは誰も目を離せないのさ♪」

「ぐっ!?」

避ける?
避けない?
関係ない。
時計仕掛けの林檎(爆弾)は、
針を刻み、
時を刻み、
一秒の1/100までズレもなく、
空中で炸裂する。

「こしゃく・・・・」

爆発に巻き込まれ、
そのダメージを受け、
わずかに下に墜落するジャンヌダルキエル。
だがすぐさま空中で静止する。

「人間如きが味なまねをぉおおお!!」

「フフッ・・・」

エクスポは真ッ逆さまに墜落しながら、
指をピンッと伸ばし、
ウインクする。

「芸術を作れるのは人と自然。それだけなのさ」

そしてエクスポはそのまま落下していった。
逆にジャンヌダルキエルは、
ダメージを受けつつも上空へと遡る。
余裕をかますことなく、
今度は本気で、
神の領域。
神の空域。
そこへ飛び立つように。

「・・・・でも逃げられちゃうな・・・」

エクスポは残念そうに、
真ッ逆さま。
ドンドンと地面。
雲の地へと落ちていく。

「・・・・おっ?」

落下するエクスポは、
空中。
宙で、
ドサりと背中から何かに乗っかった。

「ハハッ、美しい。ペガサスは実在してたんだね」

それはエルモアで、
エクスポがエルモアに拾われると同時、
エルモアの背から何かが飛び立った。
跳びたった。

「・・・・戦乙女(ヴァルキリー)も・・・か」

エクスポの笑顔。
エルモアと共に落ちていく自分と逆に、
空へと駆け上る戦乙女。
漆黒の。
黒い騎士。

「逃がすか!貴様は逃げ惑う時点で神とも呼べない!」

ツヴァイは勢いよく宙へと飛び上がり、
大砲のように飛び上がり、
ジャンヌダルキエルへと追いつく。
と、
同時に槍は振り切られていた。

「クソッ!我が主アインハルト様の偽物のくせに!」

「好きに言え。それが強さや勝ち負けに影響などしない」

空中で振り切られたツヴァイの槍は、
ジャンヌダルキエルへとぶつかる。
槍を両手で食い止めるジャンヌダルキエル。
両手を使うしかなかった。
神とて、
低凡な人間の攻撃とて、
ツヴァイの攻撃。
両手で止めなければやられる一撃だった。

「それでもわらわに届かぬ一撃!それが我が主との差!贋作の限界だ!」

「オレは兄上のコピーではないっ!ツヴァイ=スペーディア=ハークスだ!!」

失速し、
体勢も悪い、
いや、
体勢もクソもない空中。
なのにも関わらず、
ツヴァイは空中で体を整え、
真っ直ぐ。
その黒槍。
その長槍。
自らの武器を突き出した。

「人間如きがあああ!!!」

ツヴァイの突き。
それはジャンヌダルキエルの脇腹をえぐった。
透明な美しい、
綺麗な赤色をした神の血が空中で舞った。

「覚えておけ」

ジャンヌダルキエルに傷を負わせ、
そしてそのまま、
人として、
重力に抗う術もなく、
ただ人として落下していくツヴァイは、
ジャンヌダルキエルに吐き捨てた。

「2はいつも1の後ろだが、必ずそれ以外の上にいるんだ」

自分の方が強い。
そう、
兄には敵わないとも言いながらも、
それ以外には負けるわけにはいかない。
神にも。
そう吐き捨てる人間如き。
落下する人間如きを空で見送り、
だが、
傷つけられたこの神聖な体。

「人は人・・・我が主と神・・・それ以外には何もない!」

屈辱。
それに顔をゆがめ、
それでも空にいる。
人より上に。
もう何者もたどり着けない空域に。
神の領域に。
それに、
そこにすがるように、
顔を歪めながらジャンヌダルキエルは必死に笑みを作った。

「わすれないでよね」

「!?」

「二度かかるやつは神だろうと馬鹿よ」

背後。
届くはずのない空中。
そこにはツバメがいた。
無念。
油断。
そうだった。
ツバメのラウンドバック。
この射程は考慮しておかなければならなかった。

「でぇりゃあああああ!!!」

ツバメは振りかぶる。
空中だろうと、
ジャンヌダルキエルにしがみつこうとさえ思わない。
ただ一撃。
殺すための一撃。
それ。
それをジャンヌダルキエルの首。
神の後ろ首に突きつけた。

「調子に乗るなと何度も言っただろううがあああああ!!!」

咄嗟に避ける。
避ける。
空中で避ける行動に出る。
だが、
ツバメの攻撃。
二の手など考えない"それ"だけの攻撃は、
迷いもなく、
浅くもなく、
ジャンヌダルキエルの首から背中にかけて切り裂いた。

「首を飛ばすか羽を千切ってやりたかったけどね」

ツバメに嬉しそうに、
中指を立てながらそのまま落下した。
自分が神につけた傷。
飛び散る鮮血と共に、
同じ速度で落下していった。

「クソっ・・・クソッ・・・・人間如き・・・人間如きが・・・」

鳴き声のように、
泣き声のように。
空中でジャンヌダルキエルはつぶやきながら、
だが、
それでもこれが限界。
彼らの限界。
人の神の差。
それでも、
自分には、
神には、

「このジャンヌダルキエルを殺しきることなどできない!!!」

それと共に耳を切り裂く音。
不協和音。
ノイズ。
それがジャンヌダルキエルの耳を侵す。

「ヘェーィ!!天国のライブホールでロックを刻むぜぇーぃ!
 OH,マイゴッドなんて言ってやらねぇよファッキンゴッド!
 世界は空から見るよりでかいって事をビートに乗せて教えてやるぜぇーぃ!!」

バードノイズ。
耳を切り裂く音。
不快。
不快不快不快不快。
人間如きが、
魔物如きが、
神を舐めている。
神に侮辱を、
神に屈辱を、
希望なんていう戯言に惑わされて、
希望なんていう酔狂に酔わされて、
希望なんていう宗教を信じ狂って・・・・

「神を・・・神をなめるなよぉおおおおおお!!!!」

ジャンヌダルキエルは、
音を振り落とすように、
何もかも、
自分以外の、
神以外の、
そんなチンケなものを全て振り切るように。
風を切り裂くように、
空気を切り裂くように、
地を汚らわしいと軽蔑するように、
空へと急速に飛び上がった。

「わらわは神だ・・・神なのだ・・・貴様らには届かぬ存在であるべきなのだ!!」

地面。
雲の地面。
ジャンヌダルキエルから遠く遠く下。

「ちっ!」

ツヴァイが着地。
かなり上空から落下したのにも関わらず、
何も問題なく着地し、

「あぃたっ!」

ツバメがアレックスの守護獣。
Gキキの背中の上にボヨンと落下した時、
皆は上空を見上げていた。
アレックスも、
ドジャーも、
マリナも、
エクスポも、
そして、
シャークも、
ツヴァイも、
ツバメも、
上を見上げた。

遥か遠い。
遠い、
空の上。
遠い、
遠い上空。
ジャンヌダルキエルの居場所。

「クソッ!結局あんな高さまで逃げられたか!」
「仕留め切れませんでしたね・・・」
「あれじゃぁうちの殺化ラウンドバックも届かないね」
「それも計算しての高度なんだろうね」
「何も届かない高さ・・・か・・・」
「神の領域ねぇーぃ」
「愚かだが・・・・」

愚か。
愚かだが・・・
だがやはり、
仕留め切れなかった。
届かない。
届かない高さ。
今までより遥か高い、
そんな高さ。
跳んでも届かない。
ツバメの射程外。
さらにシャークの射程外。
地上。
地を這う生き物には届かない領域。
神の領域。
雲の上の世界にて、
雲の上の存在の領域。

「フフッ・・・・ハハハハハハハ!!!!」

そんな高さで。
人には届きえぬ高さで。
ジャンヌダルキエルは止まり、
高らかに笑う。
ツバメにつけられた二つの背中傷。
ツヴァイにえぐられた脇腹。
エクスポが与えた全身の傷。
神。
その体からだらしなく血を地へ落としながらも、
それでも死なない。
致命的ではない。
殺しきれない。
そんな傷をもち、
ジャンヌダルキエルは勝利に笑う。

「届かない!それがこれだ!お前らには出来ぬ事!お前らには届かぬ事!
 差!差だ!天と地の差とはよくいったもの!その言葉通り!
 まるまるその言葉通りのこの状況が貴様らと神の差だ!」

ジャンヌダルキエルの言葉。
ジャンヌダルキエルの笑い声。
ここまで届くそれら。
それらに対し、
返す事もできない怒り。

「・・・・・」

正真正銘策はない。
届かない。
殺してやりたい。
だができない。
届かない。
手の届かない・・・・存在。

「ハハハッ!そのまま地で嘆くがいい!絶望に嘆くがいい!
 おのれの無力さを!ただ死ぬのを待つしかできない力の差を!
 圧倒的な種族の差を!埋めることのできない存在の差を!噛み締めろ!」

ジャンヌダルキエルの両手。
輝いていく。
光に満ちていく。
ホーリーフォースビーム。
その力が溜まっていく。
輝き、
眩く、
光り輝く。

「恐らく・・・全力できます」
「50本か・・・」
「ここら一面終わりね・・・・」

ジャンヌダルキエルの全力。
ホーリーフォースビームx50。
光の槍。
光の矢。
光の円柱。
人を丸々飲み込み、
塵も残さない。
死体も残さない。
それほどの流星。
閃光。
光。
絶望の光。

「終わり!終わりだ!根本から絶望的に!なす術もなく絶望的に!
 望みがないから、望みが絶たれているからこその絶望!それがこれだ!」

ジャンヌダルキエルの両手に光が溜まっていく。
太陽のように。
輝き、
全てを焦がすように。

「貴様らに残されている道はない!全ては絶たれたのだ!
 ご都合主義の小さな望みさえ、願う希望さえ完全に絶たれた!
 悪あがきさえも何も届かない!何も出来ない!何もすることができない!」

命を燃やす、
人を燃やす、
低能なる家畜をいとも簡単に消す。
その光り輝く絶望の光。
それが満ち溢れていく。

「神頼みさえできない!両手を合わせてすがる奇跡すら見つからない!
 貴様らにできる行動はなく!貴様らの思考は闇に沈む以外にない!
 絶望!これが絶望だ!絶望!絶望絶望絶望絶望!これが絶望だ!
 わらわが真に望み続け、望み尽くした希望!それが絶望だ!」

溜まっていく。
どうすることもできない。
見届けるしかできない。
願う事すらできない。
受け入れる事すらできない。
死の。
絶望の。
光。

「どうすることもできねぇってのかよ!」
「不愉快だ。美しくない」
「だからって諦めきれないよ!」
「死を受け入れるしかないってかぁーぃ?」
「・・・・避けるしかありません」

アレックスが言う。

「はぁ!?」
「あのフォーリーフォースビームを!?」
「3本とか5本でさえ避けるので精一杯だったんだぞ!」
「出来るわけないわ!50本よ!?避ける場所さえないかもしれないのよ!?」
「・・・あります」

アレックスは言う。
ただ、
頼りになるほどハッキリとは言わない。

「小さな希望ですけどね。縋るしかありません」
「・・・・とりあえず話せ」

ツヴァイが手短に言うと、
アレックスはコクンと頷く。

「ホーリーフォースビーム。恐るべき範囲攻撃ですが・・・ただそれだけ。・・・だと信じます。
 言うならば狙って落とせるわけじゃないと。ある程度の範囲にランダムに落とすだけ。
 50本の光の柱でここら一体を消し炭にする程度しかできないはずです」
「・・・・なに?」
「分かんねぇよ!」
「何が違うんだ!」
「規模は変わらないはずです。今までと同じ大きさの柱が50本降ってくるだけ。
 規模をあげられるならば、そして落下点を詳細に選べるなら50本に分ける理由はありません。
 超特大の一本を落とせば逃げる術さえなく僕らを消し飛ばせるんですから
 50本を一箇所にまとめて落とすだけで逃げる隙間さえなく僕らはただ死ぬんですから」
「・・・・・」
「今までのが増えただけなら避ける余地はある・・・ってことかい?」
「弱いな」
「根拠が弱い」
「根拠は・・・それができるならしているはずだからです。
 単純にその方が僕らに絶望を与えられるはずだから。それだけです」

ホーリーフォースビーム。
x50。
アレックスの考えだと、
避ける余地はある。

一本一本の規模は変わらない。
さらに規模を増大できるならば、
一箇所に特大の一本を落とせばいいだけだから。

そして落とす位置も細かくは決められない。
決められるならば一箇所に50本集めればいい。
それで避ける余地はない。

だが、
根拠はない。
ただ今までやってこなかっただけかもしれない。

「わずかかもしれないが・・・避ける隙間は必ずあると。そういう事だな」
「はい」
「根拠はないってか?」
「はい」
「隙間があったって避け切れないかもしれない」
「はい」
「ここら一体が光の柱だらけになって逃げ場がないことは同じ」
「はい」
「避けたとしても状況は変わらないかもしれないねぇーぃ」
「次のホーリーフォースビームをただ待つだけ」
「はい」
「だが・・・」

ドジャーがアレックスの前に立ち、
真っ直ぐ見据える。

「わすかでも望みは絶しちゃいねぇって事だな?そうだろ?」
「はい」

アレックスも真っ直ぐドジャーを見据えた。
ドジャーはフッと笑う。

「それしかねぇならしゃぁーねぇーわな。
 何も前進できねぇ策だし、ハッキリ言って苦肉以下の策だ。
 成功したってそれだけ。次の死を待つだけ。向こうはノーリスク。
 そしてこちらはノーリターン。死刑囚が泣き言叫ぶのとなんの変わりもねぇ。
 けどあがくしかねぇわな。一分一秒でも長生きしてみるしかねぇわな」
「時は刻むよ。刻々と。それだけで何かを積み重ねている。
 何かを変えている。一秒でも生き延びる。それだけで状況は何か変わるかもしれない」
「わずかですが」
「変わらないかもしれないけど」
「ちっちぇぇ希望であがけるだけあがいてみるか」

見上げる。
天空。
神の領域。
ジャンヌダルキエル。
その両手。
それはもう、
神々しいほど、
禍々しいほど、
眩しくて苦笑しかできないほど、
ホーリーフォースビームのために光が溜まっていた。

「ハハハハッ!慰めあいは終わったか!?傷の舐めあいは終わったか!?
 さぁ!さぁさぁさぁ!人間らしく!低能種族らしく!家畜らしく!
 醜く!汚らわしく!汚らしく!身悶えろ!心を捩れ!顔を歪めろ!」

天空の彼方。
広がる大宇宙。
そこに、
星。
星が輝く。
絶望の星。
聖なる。
死を司る・・・・・

幾多のホーリーフォースビーム。

「さぁ!!絶望よ降り注げ!!!!」

星は光になった。
点は線になった。
輝きは閃光になった。
それは50。
50ものホーリーフォースビーム。

降り注ぐ。
一瞬。
雨の如く、
見えたときには降り注いでいた。
柱。
地など無き物にしようとするが如く。
光の柱。
視界をそれだけで埋め尽くすが如く。
空気のほとんどを焼き尽くし、
空間のほとんどを埋め尽くし、
光。
光光光。
それだけ。

ただ降り注いだ。

「きゃぁ!!」
「ベイビー!」

シャークがマリナを抱えて跳ぶ。
マリナの長いブロンドの髪の先端が、
光に巻き込まれて消え去った。

「ざけんな!!」

光光光。
逃げ場など本当にあるのか?

「これは・・・・」

見渡す限りのホーリーフォースビーム。
どちらに逃げたらいい?
視界の全てに降り注いでいる。

「もうだめかも・・・・」

50?
100超えてるんじゃないか?
見えないぞ?
逃げ場はどこだ?
どこに逃げればいい?
あっちの死の光へ?
こっちの死の光へ?
どこもかしこも閃光だ。
逃げた先にも降り注ぐ。
雨を避けることなどできるのか?
雪を避けることなどできるのか?
天災から逃れるごとなどできるのか?
神。
神が使わす天災。
死の魔術。
それからは・・・
人など逃れることができるのか?

「弱音で体は動きませんよ!!」

それでも、
それでもあらがうしかない。
人として産まれたから。
地に産まれたから。
あらがうしかない。
あがくしかない。
それが、
人なのだから。

「あっ・・・」

ツバメが避けた時、
サングラスが宙を舞った。
トラジのサングラスだ。
サングラスはスローモーションのように舞い、
そして、
それを一瞬で押しつぶすよう、
ホーリーフォースビームが降り注ぐ。
サングラスは光の彼方へ消え去った。

「・・・・・」

目の前、
偶然あったシシオの足首。
ただのゴミのように地に転がっていて、
それもまた消え去った。

「・・・・トラジ、シシオ。うちは生きるよ」

それでも、
刹那の思考時間を過ぎ、
逃げる。
生き延びるために。
神の罰から。
死の光から。
あらがう。
天の与える絶望から・・・
遡るよう、
地の下から、
空を見上げるように、
あらがった。


「・・・・・・・・・」

ホーリーフォースビームがやんだ。
降り止んだ。
天空。
神の領域。
そこから、
ジャンヌダルキエルは見下ろしていた。

「・・・・・何故」

晴れる視界。
光は晴れ、
何事もなかった朝のように、
眼下は広がる。

「何故だ!!!」

そこには・・・
地を生きる、
ただのゴミクズ。
家畜。
くだらない、
汚らわしい下等種族。
人間達。

7人は生き延びていた。

「何故希望を捨てない!?避けて何になる!どちらにしろお前らに抗う術などないのだぞ!?
 ならば!ならば!どうせ最終的には死ぬのなら!なぜ絶望の最中に生きる事をやめない!?
 与えてやったのに!くれてやったのに!死を!絶望を!絶望を与えてやったのに!」

「悪ぃな・・・」

ドジャーは片膝をついた状態で、
天を見上げて笑ってやった。

「俺ぁ与えられるのは好かねぇんだ。欲しいもんは自分で奪って手に入れる」
「いらないんだよね」
「神のほどこしなんて」
「うちらはうちらだけで生きていける」
「今更人一人殺せない神様なんていらないんだぜぇーぃ」
「どうした優等物?劣化生物も殺せない無力な頂点よ」
「あなたの思惑なんて1から0まで叶ってませんよ」

アレックスは笑う。

「神様だって望んでも何も叶わない。ほんと世知辛い世の中ですよ」

「クソッ・・・くそぉクソォクソォ!!人間如き・・・人間如きが!!
 汚らわしい・・・・汚らわしい汚らわしい汚らわしい汚らわしい汚らわしい!!!!」

身悶える。
顔を歪ませる。
自分が与えてやったのに、
自分が絶望をくれてやったのに、
なのに、
なんだ?
なんだこいつらは。
与えられているというのか?
何故自分が身悶えている。
顔を歪ませている。
神は・・・・
与える側だ。
与えてやる側だ。
あの家畜共に。
なのに・・・
なのに・・・・。

「貴様らぁああああああ!!!!!」

絶望を、
絶望を、
もっと、
もっと・・・・

「足りないならどれだけでも与えてやる!完膚なきまで与えてやる!
 0になるまで!希と望が0になるまで!完全に絶するまで与えてやる!!
 状況は何も変わらない!立場は何も変わっていない!
 わらわが上!貴様らが下だ!!下克上などこの世に存在さえもしない!!!!」

また輝く。
ジャンヌダルキエルの両手。
光。
ホーリーフォースビームの光。

変わらない。
一度避けきったところで、
次のホーリーフォースビームがくるだけ。
50の星。
50の光。
絶対的な破壊力。
絶対的な絶望力。

反撃の術はない。
アレックスにも、
ドジャーにもマリナにもエクスポにも、
ツヴァイにもシャークにもツバメにも、
何も出来ない。
何かさえも出来ない。
何一つ出来ない。
ただ、
待つだけ。
死を、
死を・・・・。

「・・・・・」
「はぁ・・・・」
「やんなっちゃうわ・・・」
「どうしようもないってのは本当にどうしようもないよね」

お手上げ。
死を待つ。
これだけ絶望的だと落ち着きもする。

「無駄なことをするのは性に合わん。が、受け入れるのはさらに性に合わん」
「っつってもなぁ」
「とりあえず避け続けるしかありませんね」
「さっき避け切れたのも偶然だよ?次は誰か死んでるね」
「でもねぇ・・・・」

「ハハッ!!そうだ!待て!考えるだけ考えろ!
 考えても考えても!やれることをどれだけやり尽くしても!
 それでも届かない!何も出来ない成せない届かない!
 それが絶望!絶望なのだ!受け入れろ!神の施しをただ受け入れろ!!!」

溜まっていく。
刻一刻、
また死の時間。
何も出来ない。
それだけ。
無。
0。
それだけ。
絶している。
自分では何も出来ない。
何も・・・
何も・・・・

「・・・・あ・・・・」

アレックスは何かに気付く。
気付いた。
ソレに気付くと・・・

「ハハッ・・・・」

笑った。
おかしくて笑った。

「そうですね・・・ほんと情けないです・・・僕なんかじゃ何も出来ない・・・・」

アレックスは皆を見る。

「ツヴァイさんが居なければエン=ジェルンさんとスイ=ジェルンさんさえ倒せたか・・・。
 ツバメさんが居なければエクスポさんを奪還できなかった・・・
 シャークさんが居なければエクスポさんを元に戻す事ができなかった・・・・
 僕は無力すぎて、人に助けをもらってなお、僕は何もできない・・・」

そんな悲観的な言葉、
だが、
アレックスは笑った。

「でもやっぱりそれが僕でした。ぐーたらたらたら。
 やれない事は人に任せる。やりたくない事は人に任せる。
 最悪だけど、それが僕で、僕はそんな僕を気に入っています」

アレックスは見上げる。
ジャンヌダルキエルを、
自分じゃ何も出来ない神の領域を。

「結局は人任せなんですよね。そう、そうなんです。
 だから助けてもらえたらラッキー。ただいつも待ってる。
 奇跡を、希望を、絵本を読む子供のように、助けを待ってるんです」

待つ。
自分じゃなにも出来ない。
人任せ。
だけど、
希望を待つ、
奇跡を祈る。
起こってみればいつもそんな大層なものじゃないけど、
自分はそーやって救われてきた。
そんなちっぽけで、
ちっぽけなちっぽけ過ぎる存在。
それは分かっていた。
だから、
こーいう時は胸躍る。

「頭でも狂ったか?人間」

ジャンヌダルキエルは笑う。
笑える。
人間。
馬鹿だ。
これが絶望だ。
人を逃避に追い込む。
それが絶望。
逃げ場などないのに、
小さな逃避に逃げ惑う。

「フハハハ!!!笑える!汚らわしいな!汚らしい!!
 そしてこれが人間だな!そしてこれが家畜、そしてこれが絶望だ!!!」

神。
大きな翼。
人の届きえぬ上空で、
人には成す術もなく、
自由に、
与えられた権利で笑い飛ばし、
その両手には絶望の光。

「終わらしてやる!終わるまで何度でも終わらしてやる!
 お前らの小さな希望が完膚無きまで消え去るまで!絶するまで!
 絶望を!何度でも何度でも与えてやる!絶望を!絶望を!絶望を!!!!」

輝く光。
アレックス達を、
いつか、
いつか必ず滅する光。

「お前らはどうやったってわらわには届かなかった!
 それだけだ!人には人の限界がある!それがわらはには!神には届かなかった!
 お前らは神には届かなかった!どこまでも!いつもまでも!そして・・・・」


「神ならどうだ」

「ッ!?」

突然、
ジャンヌダルキエルの体が逆にへし曲がった。
背中。
背中から、
何かが衝突した。

「ぐぁ!!!」

ジャンヌダルキエルが・・・
落ちている。
墜落している。
流星の如く。
背中に衝突した何か・・・・
いや・・・

突き抜けている。

ジャンヌダルキエルの背中から腹を超え、
何かが突き抜けている。
突きぬいている。
貫いている。
貫き、
急降下させている。

「・・・き・・・きさま・・・・」

ジャンヌダルキエルが口から血を垂らしながら睨む。
顔を見なくても分かる。
"出来るのは一人"
そして、
自分の腹から突き出ているもの・・・
槍。
白い稲妻を帯びた・・・・槍。

「どういうつもりだ!!ライ=ジェルン!?」

「ん〜?」

ネオ=ガブリエルは、
ジャンヌダルキエルにサンダーランスを突き刺し、
そのままもろとも急降下しながら、
それでもダルそうな表情で返す。

「いいってジャンヌダルキエル様。俺の事はガブちゃんでいいって〜」

「ふざけるな!貴様!自分をなんだと思っている!?」

「俺?俺、天使。そ、エンジェル」

ネオ=ガブリエルは、
ジャンヌダルキエルに槍を突き刺したまま、
地上へ向けて急降下したまま、
ジャンヌダルキエルの背後で、
ダルそうに、
いや、
おもむろに真剣に語る。

「神様。あぁ〜・・・そうだよな。俺ってそうなわけだ。
 けどな。俺ぁ人間ちゃんなわけだよな。もともと人間なんだ。
 あんたに神様に転生してもらうまでは〜バッリバリの人間なんだよね」

「貴様・・・・」

「感謝はしてるんだぜ?・・・俺から望んでなった事だしな〜〜・・・・
 けどよ・・・・なって分かるもんだ。神様なんていらねぇんだよ」

地上は近づく。
どんどんと、
落下していく。
神が落ちていく。

「俺らが他の低級種族を存外に扱うようにさぁ、奴らも俺らを欲しちゃいねぇんだよ。
 食わねぇし食われねぇ、そんな連鎖から外れた存在・・・いらねぇんだ」

「神だぞ!?我らは神だ!!人は我らを・・・わらわを崇拝する!」

「それに関してもなぁ・・・実体なんて必要なんてねぇんだよ。
 人は心のよりどころにするもんがあればいい・・・虚像でいんだよ。
 奴らが崇拝してるのは俺らじゃねぇ、神って虚像。他のもんなんだよ」

近づく、
近づく、
見る見る、
地が、
地が、
地が。

「ぐっ!?」

そして・・・
突き刺さった。
雲の地面。
地。
下。
最下。
神が一番憎むべき、
神が一番嫌うべき、
神が一番汚らわしいと思うべき、
地。

「着いたぜご主人様」

地に突き刺さるサンダーランス。
そこに腹から串刺しにされ、
張り付けにされる神。
ジャンヌダルキエル。
その槍の先。
その柄に、
ネオ=ガブリエルは立つ。

「ってかもう・・・マジだりぃよ・・・なんで槍ぶっさしてるのにピンピンしてんだよ・・・
 そこは死んどけよダリィ・・・・終わっとけって。オススメするからよぉ」

槍の先に立ちながら、
ネオ=ガブリエルはため息をついた。
だが、
神の頂点を串刺しにした、
地面から突き出た槍の上。
その小さな先端に立つその姿。

「ガブリエル!」
「ガブちゃんさん!」

「あ〜・・・いいから、ダルいから」

ネオ=ガブリエルは、
駆け寄るアレックス達を適当に手で制止し、
槍の上に立ったまま、
ジャンヌダルキエルに話す。

「まぁいいから終わろうぜジャンヌダルキエル。あんたは死んどくべきなんだって」

「ライ=ジェルン・・・・・貴様・・・貴様如きに・・・・」

「あ〜、そうだ。俺ってライ=ジェルンなわけよ。うん、メンドい事にな。
 四x四神(フォース)の一人、雷を操る天使。そ、ライ=ジェルン。
 でも俺の能力がサンダーランスなんて武器だけじゃないの分かってるよな」

ネオ=ガブリエル、
もとい、
ライ=ジェルンが槍の上で、
翼と両手を広げる。

「説明とかマジめんでぇし・・・・」

そして・・・・

「ライトニングスピア」

落ちる。
天空から、
白い、
真っ白な雷撃。
雷。
まるでサンダーランスが、
ネオ=ガブリエルが避雷針になっているかのように、
雷が落下してきた。

「ぐああっ!!!」

雷が、
落雷が、
ネオ=ガブリエルとサンダーランス、
そしてジャンヌダルキエルを貫く。
本人のネオ=ガブリエルに苦痛の様子はない。
だが、
ジャンヌダルキエルはもろに雷を浴び、
体を焦がした。

「・・・・マジだりぃな・・・・」

雷、
ライニトニングスピアが降り止む、
が、
それでもジャンヌダルキエルは生きていた。

「・・・・・貴様・・・」

地に張り付けにされた神。
槍で地に串刺しにされた神は、
ギロリとネオ=ガブリエルを睨むと、

「神に向かって何をしている!!!!」

槍ごと体を起こし、
ネオ=ガブリエルを吹き飛ばした。

「ぐっ・・・・」

ネオ=ガブリエルが吹き飛び、
だが空中でブレーキをかける。
同時に、
ジャンヌダルキエルに突き刺さっていた槍。
サンダーランスは、
バリバリと電撃の音を打ち鳴らしながら・・・消えた。

「貴様ら・・・貴様ら貴様ら貴様らぁああああああ!!!!!」

神。
死なない。
上に生きる神。
何もかもの上の存在。
それは叫んだ。

「わらわにあらがうな!貴様らのような微小で弱小で極小なる存在が・・・
 汚らわしい存在がわらわに逆らっていいと思っているのか!?
 わらわに傷をつけていいと思っているのか!?わらわを・・・・汚していいと思っているのか!?」

「黙れ神如きが」

瞬時に飛び出したのは、
誰よりも早く飛び出したのは・・・
ツヴァイだった。

「がっ・・・」

その瞬間には・・・
ツヴァイの槍はジャンヌダルキエルの胸の中心に突き刺さっていた。

「こ・・・の・・・・」

「黙れ」

すぐさま引き抜く。
ツヴァイがジャンヌダルキエルの胸から槍を引き抜くと、
美麗な血が、
ツヴァイの黒いアメットにかかった。
その瞬間には・・・・
槍は振り切られていて・・・・

ジャンヌダルキエルの左腕は吹っ飛んでいた。

「き・・きさ!」

「黙れと言っているだろう、神クズが」

ジャンヌダルキエル。
神の頂点。
それさえも・・・
なす術も無く、
話す刹那も与えられず、
右足を吹っ飛ばされ、
次の瞬間には盾で頭を打たれ、
地へと打ち付けられた。

「・・・・ぐ・・・・」

地に打ち付けられたジャンヌダルキエル。
その頭をツヴァイは踏みつける。
神を、
まるでゴミのように、
カスのように。

「傑作だな。神がこうも扱いやすいものだと。
 これほど無力なものだとはな。赤子と変わらん。
 そんな低落で神などと冠するのはいささか腹立たしい」

ツヴァイはジャンヌダルキエルの頭を踏みつけたまま、
左腕と右足を失ったジャンヌダルキエルの頭を踏みつけたまま、
そっと、
その背中に手を伸ばした。

「もうこんなもの必要ないだろう」

「ぎゃああああ!!!」

まるで情け無い人間の女子のように叫ぶジャンヌダルキエル。
ツヴァイ、
彼女がとった行動は・・・
彼女の手の中にある。
ぼたぼたと・・・雫が落ちる。
赤い雫が・・・
ツヴァイの手にある白い翼から。

「ふん・・・・」

それでも気が治まらないようで、
もう片翼。
ジャンヌダルキエルの背中に残るもう片翼にもツヴァイは手を伸ばす。

「もういいですよツヴァイさん」

だがそれはアレックスを止めた。

「・・・・」
「あとは僕がやります」
「ふん」

ツヴァイは止められてなお、
最後に残る右手。
その指を踏み潰してからアレックスに譲った。

「事後処理が好きなようだな。アクセルとエーレンにそっくりだ」
「おいしいとこどりと言ってください」
「悪趣味なところもそっくりだ」
「デザートの注文は皆違うはずです」

ツヴァイがどいたあと、
アレックスはジャンヌダルキエルの前に立った。
神。
左手は吹き飛び、
右手は潰され、
右足も吹き飛び、
天を舞うべき片翼ははぎとられた・・・・
そんな地に落ちた神の前に。

「ジャンヌダルキエルさん。まぁなんというか・・・終わりです」

ジャンヌダルキエルは、
キッとアレックスを睨む。
血だらけの、
そのゴミクズのような状態で。

「貴様・・・我が主アインハルト様のお気に入りらしいな。
 だがひと時わらわを苦痛から開放して・・・何がしたい」

「くやしいでしょう?」

「何?」

「僕らなんていう低能な人間にいいようにされて」

アレックスは笑った。

「神なのに言いたいこと言われて、神なのに慈悲なんか与えられて、
 人間なんかに見下ろされて・・・そして・・・人間なんかに命握られて・・・」

「この・・・・」

「イライラは収まってないんですよ。僕らのね」

アレックスは手を広げる。
それはアレックスの背後。
他の皆をさす行動だった。

「やりたいようにやられて、それでやっと決着なんです。
 でもそれじゃぁ気が治まらないんですよね。
 だから僕の出番です。逆にあなたに完膚なきまで絶望を与えます。
 言葉。それだけで。それが役立たずな僕がここいる理由です。
 ・・・・アハ。悪趣味ですか?いいですね。ホメ言葉です」

そしてアレックスは一度視線を変えた。
それは・・・
ネオ=ガブリエルの方だった。

「ガブちゃんさんが言ってましたけど、それをそのままあなたに、
 いえ、それを付け加えて改正してあなたに言いたいわけです」

またジャンヌダルキエルの方を見下ろす。
そして、
冷たく、
言い叩く。

「あなたは無力です」

「・・・なんだと」

「そして役立たずです」

ジャンヌダルキエルの表情が歪む。
そして睨む。
だがアレックスは表情も変えず続ける。

「あなたは凄い。あなたは偉い。あなたは神だ。何かを与える事ができる。
 人に、動物に、虫に、全ての命に。だけど・・・・あなたは何かしてきましたか?
 神に祈る人に、助けてと縋る人間に。耳を傾けて行動しましたか?」

「・・・ハハハ!何を言い出すと思えば・・・笑い話だ。いい。答えてやろう。
 もちろんNOだ。そんな事する必要さえない。してやれるがしてやらない。
 自由に慈悲を与える権利があるのが神だ!全ては手の上!
 下級なるものを見下し!自由に扱う。何かをくれてやる必要などない!
 わらわは支配者。貴様らは家畜。ただのオモチャで所有物にすぎんのだからな!」

「だからあなたは役立たずだ」

アレックスは言う。

「何の役にも立たない。食べられる動物より、その食物連鎖の中で生きる虫ケラより。
 大気を変える植物より、小さく他の命を形成する微生物なんかより。
 あなたは役に立たない。世界にほんの少しの影響さえも与えない最大級の役立たずだ」

「・・・・言いたい事を言いおって・・・・」

「居なくてもいんですよ。あなたなんて」

言い放つ。

「いてもいなくてもどっちでもいい。世界で一番必要ない生物。
 神?世界の頂点?最大の種族?最高の権威?・・・・馬鹿馬鹿しい。
 世界の表の中、ピラミッドの一番下のその欄外に表記されるべきいらない役立たず。
 それが神です。あなたの存在価値など無に等しい」

アレックスはそこでもう一度ネオ=ガブリエルに視線を移した。

「ガブちゃんさんはそれを分かった。あなたと違って"馬鹿"じゃないから。
 自分の立場も知らず、偉そうにしている最高級の愚か者ではないから」

「あー・・そゆことだな・・・」

ネオ=ガブリエルは耳をほじりながら、
ダルそうに言う。

「人間やって神様やればすぐ分かる。・・・俺、いらなくね?ってな。
 そう思うとなんもかんもダルくなんだよねー。全ての行動が無意味ってわかるとねー」

アレックスはフフッ・・と笑うと、
ジャンヌダルキエルに目線を戻した。

「そゆことです。あなたは世界一の役立たずです」

「くっ・・・・」

ジャンヌダルキエル。
屈辱。
人間。
人間如きに吐かれる汚らわしい侮辱の言葉。

「カスが」

ツヴァイがジャンヌダルキエルの方も見ずに、
腕を組んだまま吐き捨てた。
ドジャーがそれを見て、
ニヤー・・・と笑い、

「へへっ。このカス」

ジャンヌダルキエルに言ってやった。
皆も続く。

「ゴミクズ」
「付ける値段もない粗悪品」
「役立たず」
「生きる無意味」
「息してる意味あるのかい?非美生物」

「き・・・貴様ら・・・・」

子供のように、
品の無い、
低級なる侮辱、
悪言。
それを・・・
それさえもただなす術もなく聞くしかない・・・
そんな・・・
そんな屈辱。

「貴様ら・・・貴様ら貴様ら貴様ら!!人間のくせに!人間のくせに!
 人間如き・・・人間如き・・・・人間如きがあああああああ!!!」

「うっせ。ピーピー鳴くな」

ドジャーがクルクルと手元でダガーを回す。

「もういいんだよ。てめぇとかマジもうどうでもいい。
 なんか聞き出そうっつってもそのタカビーなプライドで言わねぇだろうし、
 だからって人質の価値なんてもうとうないだろうしよぉ。
 ブタの餌にもならなきゃ、ゴミに出すにも分別不能。
 ・・・・マジいらねぇ。何も価値なんかねぇんだよてめぇに・・・・」

ドジャーは手元のダガーを止める。
そして・・・・


「逝っちまいな。神クズ野郎」

ダガーは飛び、
ジャンヌダルキエルの脳天に突き刺さった。








































「そろそろ死んだころか?」

ルアス城。
王座。
そこに足を組み、
アインハルトは言った。

「そろそろ・・・と言いますと?」

「あの役立たず。ジャンヌダルキエルだ」

「ほぉ」

ピルゲンは王座の前。
ヒゲを整えながら頷いた。

「ジャンヌダルキエルが引き連れる天使の部隊。その勢力と《聖ヨハネ協会》。
 それらを踏まえても戦力的に打破されるわけはないと思いますが・・・」
「アイン。もともと殺すつもりで命令したのか」

王座の前。
ロウマは腕を組んだまま、
淡白にアインハルトに言った。

「状況がどうなっているかは知る術はないが、
 天使試験をあのままヨハネに行い、一斉にぶつける戦略にすれば崩れる事もない」
「そうでございますね」

ピルゲンはヒゲを整えるのをやめず、
言葉を交代するように話す。

「もともとの作戦。それはあの3神官の"蘇生転送"。
 あの奇異な能力を使い、不死身の神族部隊と作る計画だったはず」

3神官。
ヨハネの下につく女神官達。
たしかに、
彼女らの力をもっと有意義に使えば・・・それは無敵。
不死身。
死ぬことのない最強の部隊ができていただろう。
恐るべき、
死を悲しむことさえない凶悪な・・・・

「いらん」

アインハルトは全てを切り捨てた。

「もともとこれ以上戦力などいらなかった。我が作ったこれだけで十分。
 いや、言ってしまえば我一人さえいればそれだけであとは余分。
 アルガルド騎士団も、そしてお前らも。ただの我の遊びの駒に過ぎん」

アインハルトは王座で足を組みながら、
ただ言う。

「全ての命はただ我のひと時余興に転じ、ゴミのように消え去ればいい」

傲慢な言葉。
目の前の者達。
絶騎将軍(ジャガーノート)
彼ら達の前でさえ、
なんの躊躇もなくそう言い、
そして誰も表情を変えずそれを受け入れた。

「それでもジャンヌダルキエルは負けねぇと思うがよぉ」

ギルヴァングが、
王座の間の地面で寝転がりながら言う。

「普通に負けねぇだろ?戦力が違うって」

「砕けるさ」

アインハルトは笑う。

「この世の全ては我を楽しませるためだけに存在している。
 死んでもらっては困るんだよ。それでは我を楽しませる事はできない」

「おいおいアイン」

カラカラと音が鳴る。
それは車椅子の音。
燻(XO)が車椅子を回し、
乱れる紫の長髪の中、
その妖美な紫の唇が言う。

「んじゃぁ何か?俺らがやってんの全部死に駒かよ。
 全部あのアクセルのガキにぶつけて死ぬように設定してんのかよ。
 別にそれはそれで面白ぇけどよ。そこんとこハッキリしろよ。
 ハッキリしねぇのは嫌いなんだ。イッライラする」

「ふん。そうではないさ」

アインハルトは右手を軽く持ち上げ、
燻(XO)に話す。

「アレックスが死んだら次の遊びを考えればいい。
 我が参加しないから。勝敗が分からないからこそ観戦者は余興を楽しめる」

「神と遊ぶのはもう終わっていた。アスガルド進攻で十二分に・・・」

ピルゲンはニヤりと笑う。
アインハルトは鼻で笑い、
立ち上がった。

「まぁいい。ピルゲン。女を抱きたくなった。用意しろ」

それを聞くと、
アインハルトの横。
そこに寄り添っていたロゼは、悲しみの表情を見せた。
だが、
それを完全に無視し、
見さえもしない。

「ウヒヒ・・・ハハハハハハハハ!うらやましいねぇアイン!ウフフ・・・ほんといい身分だ。
 俺も思う存分抱きてぇもんだ。だけどそれよりハッキリしてもらいてぇことがある」
「あぁそうだった」

燻(XO)の話で、
ギルヴァングも飛び起きた。

「俺様達の部隊。53部隊(ジョーカーズ)だ」
「そろそろ使わせてくれるってぇ話だったろ?」

「あぁ、その話か」

アインハルトは歩み、
皆を見もせず、
赤い絨毯を歩き、
マントを舞わせ、
王座の扉へと歩いた。

「好きにしろ」

アインハルトはそのまま王座から出て行った。

「おっしゃあああああ!きたオラアアアアア!!」
「ウフフ・・・これで好き放題だな」

ギルヴァングが豪快に叫び、
燻(XO)は怪しく笑った。
ギルヴァング=ギャラクティカ。
燻(XO)
二人の絶騎将軍(ジャガーノート)が、
二人のジョーカーが指揮する部隊。
53部隊。
存在しない部隊。
世界の裏に存在する部隊。
53枚目のカード。
第53番・暗躍部隊(ジョーカーズ)。

「おいギルヴァング」
「あん?」
「とりあえずあいつら集めとけ。さっそくゲームしようぜ」
「あぁー?ざけんなよ。メチャめんどくせぇ。
 てめぇがやれよ燻(XO)。おめぇ部隊長だろーが」
「おめぇもだろド畜生が!」
「だからおめぇもだろ」
「・・・ったく。俺はせこせこ裏でちゃんと仕事してんだ。
 てめぇはノンビリ自由に遊ばせてやってんだからたまには仕事しろよ」
「あぁ、まぁその方が漢らしいわな」
「そりゃ知らねぇよ。適当に使うなその言葉をよぉ!
 俺はそーゆー曖昧でハッキリしねぇ言葉が大っ嫌いなんだ!
 そーゆー事言うやつマジで死ねって思うよ。死んでしまえ!ってな。
 そーゆー奴はマジ、世界の端から五十音順に死ねって感じだ!」
「あーあーあー。訳分からんけど分かった分かった。うっせぇな。
 集めときゃいいんだろ?まぁてめぇのやりたいことは大体分かるし」

ギルヴァングはそう言い、
少し歩む。
王座の出口へだが、
その前にロウマの近くへ歩み寄った。

「おうおうロウマ!!」

そして体を近づける。
顔を近づけ、
威嚇する。

「てめぇとはいつかメチャ決着つけっからなぁ!
 俺様的にも部隊的にも全部俺様のが上ってのぉ見せつけてやらぁ!」
「・・・・・」

ロウマは返事もしなかった。
ただ無言で流した。

「ケッ」

ギルヴァングはそのまま王座から出て行った。
出て行く前にロウマに向かってなんか叫んでいたが、
まぁ、
あまり内容のないケンカ言葉だった。


「燻(XO)」
「あぁーん?」

ギルヴァングのいなくなった部屋で、
ロウマは姿勢も変えず燻(XO)に話しかけた。

「53部隊を使って何を企んでいるかは知らんが・・・・・
 うちの部隊を巻き込むつもりなら容赦はしない」
「・・・・ヒヒ・・・・お見通しですねぇーん♪」
「・・・気色の悪い奴だ」

ロウマは言い残し、
そのまま堂々と王座から出て行った。


「相変わらず皆さん仲がよろしいようで」

ピルゲンが笑い、
そのまま王座から消えようとしたが、

「おいピルゲン」

それを燻(XO)が止めた。
カラカラと車椅子が動き、
頭の上で傾いているネクロケスタの骸骨が揺れる。

「なんでございますか?」
「アインに抱かせる用の女連れてくんだろ?
 ヒヒ・・・なら俺にもくれよ。な?なぁ?いいだろド畜生が」
「・・・・貴方様は本当に下品でございますね」
「おいおい、俺ぁアインに謙譲する女をつまみ食いさせろって言ってんじゃないぜ?」
「・・・と言いますと?」
「アインなら抱いたあとどーせ殺すんだろ?用済みってよぉ。
 それを2・3人俺に回してくれって言ってんだ」
「・・・・女性の死体なんてどうするのですか」
「決まってんだろ」

燻(XO)の顔が歪む。
その妖美とも言っていい顔立ちを歪め、
ペロリと長い舌が紫の唇を嘗め回し、
逆さまになった愉悦の目で笑いをこらえきれず、
言う。

「抱くんだよ。ウフフ・・・・ウヒャハハハハハハハハハ!!!」

燻(XO)は車椅子の上で、
天井を見上げるように体を反らし、
ネクロケスタの骸骨をカタカタと揺らしながら笑う。
笑いつくす。
笑いつくしたあと、話を続ける。

「あったかいうちに頼むぜぇ♪これが結構いけんだよ・・・ヒヒ・・・。
 殺しながらヤんのもいいけど、動かない玩具ってのもまた・・・なぁ?」
「・・・・・悪趣味の極みでございますな」
「イイって!言ってくれよ!そーだよ!俺だもんよ!
 俺ってなんでもイケちゃうのよ!ノーマルよりアブノーマル!そっちがXでそれが○だ!
 俺の性癖いろいろ教えてやろうかぁぁ?ピルゲンちゃんよぉ♪」
「・・・いささか理解に苦しみますな。遠慮しておきましょう。
 でもその件については考慮しておきましょう。一応将軍の要望でございますしね」
「頼むぜぇド畜生が!ヒャヒャハハハハハ!!!!!」

笑い続ける燻(XO)を尻目に、
ピルゲンは闇に包まれ、
そのまま王座から姿を消した。

「ウフフ・・・ウヒヒ・・・・・さぁて・・・・」

燻(XO)は、
嬉しそうに、
楽しそうに、
その妖美な顔を歪めながら笑う。
そして・・・

「二人きりになっちゃったねぇーん♪」

王座。
皆が出て行き、
残る者。

燻(XO)は車椅子をカラカラと回し、
王座。
その台座へと近づいた。
そこには・・・
ロゼがいた。

「・・・・近づかないで・・・・」

「そう嫌うなよ♪」

嬉しそうに、
楽しそうに、
燻(XO)はロゼに近づいた。

「俺もねぇ、部隊動かせるってんで気分ノってんだよね♪。
 ハッキリメッキリ完璧に間違いなくなぁ♪」

「・・・・・何を・・・企んでるの・・・・」

「おう?おうおうおう!ハハッ!このド畜生淫乱女め!
 えらい口叩くねぇ?怖いねぇ!やっぱアインの女って自覚があんだな。
 怖い怖い。世界最強の玉の輿だもんねぇ♪たまんねぇーよなぁ」

その妖美な顔。
男性としては美しい、
だが表情と心は歪み続ける男。
その顔はユラユラと揺れ、
ロゼを見る。

「何を企んでるってぇ?べぇーつにぃー?でもハッキリしないのはポリシーじゃないな。
 ま、アインが楽しんでるみたいに俺も楽しみたいってだけだよーん♪」

そして突然、
燻(XO)の表情が冷たく落ち着いた表情に変わる。

「いや、ギルヴァングと同じでな。ハッキリさせてぇんだよな。
 必要なのは俺達だって事をな。・・・・くっ・・・イライラするぜド畜生!
 俺ぁもう暗躍とか暗闇でコソコソやってんのはマッピラ御免なんだ!
 だから今回はその花火だ。俺達をハッキリさせるためのなぁ!」

いらつきを表情に表しつつも、
また突然。
豹変したように、
それでいてゆっくりと、
燻(XO)の顔は愉悦に戻る。

「それはそうと、俺と遊ぼうぜぇ?俺、ロリィのもいけんだよ。
 アインだけにゃもったいねぇって♪俺もなかなか・・・・」

「近寄らないでって言ってるでしょう!」

「おー・・・怖・・・・」

ロゼがその小さな体でめいいっぱい叫ぶと、
逆に燻(XO)はニヤニヤと笑った。

「それを陵辱して屈辱して調教すんのって楽しそうだなぁ♪
 そのお人形さんみたいなお前の可愛らしい拒絶がソソるってもんでねぇ♪」

「・・・・あなたは下品です。私はあなたのような人を軽蔑します」

「・・・・ヒヒ♪」

燻(XO)は嬉しそうに鼻を鳴らした。

「いいねぇぇええ!いいねぇド畜生!嫌われちゃったよ!
 いたいけな美しい可愛い宝石みたいな女の子に下品ですねって!
 アヒャ♪ウフフ・・・ヒャハハハッハア!!!グっとくるぜぇええ!!」

その燻(XO)の反応に、
ロゼはスッと身を引いた。
小さなその体を、
小さな恐怖で震わせながら。

「いいぜいいぜド畜生!もっと軽蔑しちゃってよぉ♪
 俺ぁ女にそうやって軽蔑されながらヤんのが最高にイイんだよ!
 ウヒャハ!おっ立つよオイ!ド畜生!」

舌を這いまわし、
燻(XO)は愉悦の中、笑う。

「ただヤんのってつまんねぇよな!そーいうのが一番イイんだ♪
 女を縛ってよぉ、そんで一枚一枚爪這いで激痛によがる姿もたまんねぇし!
 便所に女の顔おしこんで、それでも「嬉しいです」って言わせるのも最高だし!
 歯ぁ全部抜いて突っ込んでやるのもオッ立つってもんでよぉ!」

そして燻(XO)は手を伸ばす。

「な、俺とヤろうぜ♪」

「ち・・・近寄らないでって何度言ったら!」

燻(XO)が伸ばしたその手。
それ。
それを咄嗟にロゼは払いのけた。
ベチンと力の限り、
恐怖で、
恐怖のあまり・・・・

「・・・・あ・・・いたぁ〜・・・・ヒヒ♪」

「わ・・・私はあなたを軽蔑すると言っているでしょう!
 近寄らないで!私はイヤなの!ここから出て行って!」

「あらー?あんたが出てけばいいじゃん?
 でも・・・ウフフ・・・愛しのアイン様の椅子に居たいってぇ?」

「・・・・」

ロゼは恐怖で、
言葉の屈辱で、
その弱弱しい体、
弱弱しい心。
そのせいで、
涙がうっすらと零れてきた。

「あははは!!泣いちゃったぁ!俺やべぇ?アインに殺されるかなド畜生♪」

「出て行って!・・・・じゃないと・・・アイン様が・・・・」

「アイン様が?アイン様がなぁーに?ウフフ・・・ヒャハハハハハハ!
 アイン様アイン様アイン様!アイン様だぁーーい好き♪
 健気だねぇ。愛する愛する純情で可憐で美しいお人形さんのような女の子」

燻(XO)はニタニタ笑いながら言う。

「・・・あなたなんて・・・アイン様に・・・・・」

「おい」

燻(XO)の表情。
それがまた、
冷たく豹変した。

「俺は正直こえぇーよ。"怖ぇから今ひっかけてる"」

「・・・・・な、何が・・・・」

震える声でロゼが言うと、
燻(XO)は冷たい目のまま、
冷たい表情のまま、
ロゼに言う。

「怖い。ほんとマジ怖ぇよおい。あん?何が?アイン?
 ちげぇーよ。そりゃそれはそうだが、それ以上だ。
 そんなもんより何倍も怖ぇ。ほんっと悪寒がする」

「・・・・」

何を言っているか分からない。
ロゼにしては、
目の前のこのこの男が怖い。
怖くて怖くて泣くほど震える。
けど・・・
だが、
燻(XO)は言う。

「俺が何より怖ぇのは・・・・てめぇだロゼ。俺はてめぇが何よりも怖ぇ」

「・・・え・・・」

「・・・・・ふん」

燻(XO)は車椅子を回し、
少し回り込むように動いた後、
また話す。

「世界最強。世界最大。世界の頂点。世界の絶対。
 何よりも、神よりも、何もかもを屈させる力を持ち、
 どんなわがままでも通し、全てをカスとしかとらえねぇ。
 そんなもう完璧なる絶対・・・"1"。アインハルト=ディアモンド=ハークス。
 唯一無比の、無敵の、最強の、そんな絶対的存在」

燻(XO)はロゼを見、
口元を歪めながら・・・
言う。

「そんなアインを・・・・"軽々しく盾に使うてめぇが怖ぇ"。
 世界の頂点を、何者も逆らえない絶対を。
 まるで安く買ったボディガードのように、店で買った護身物のように。
 絶対的存在アインハルトを道具のように口にするテメェは恐怖でしかねぇ」

燻(XO)の顔。
表情も変わらず、
ロゼをただ見る。

「ピルゲンもギルヴァングもロウマも気付いちゃいねぇ。
 だが俺ぁ分かる。てめぇは恐怖だ。おめぇは世界最恐だ。
 ・・・・一体てめぇはなんなんだ。アインは何故てめぇを横に置く。
 分からねぇ・・・まったく分からねぇ・・・恐怖でしかねぇ・・・
 こんなハッキリしねぇボヤけたもの・・・・恐怖でしかねぇよ」

世界を扱う者。
それを・・・
裏で扱っているかのような恐怖。
だが、
だがロゼ自身。
燻(XO)のいう事が全く分からず、
ただ恐怖に震えていた。

「・・・・チッ・・・ド畜生が・・・・・」

燻(XO)は車椅子を回し、
カラカラと、
ゆっくりと、
頭の上のネクロケスタの骸骨を揺らし、
紫の長い、乱れた髪を揺らし、
王座の扉の方へ進んでいった。

「ロゼ。世界の絶対の横。頂点の一番近いところで・・・俺まで巻き込むなよ」

言い残し、
燻(XO)は王座から出て行った。


































「ガブちゃんさんはどうします?」

「あー?」

ネオ=ガブリエルは寝転がりながらタバコを吸い、
雲の上の地でダルそうに返事をした。

「なにがよー・・・だっりぃなおい・・・・」

「いや・・これからです。ジャンヌダルキエルさんは死んで、
 神族部隊・・・天使の行き場はなくなったでしょう?
 アスガルドに残って生活するんですか?」

「あー・・・あーあー・・・いーんだよ。もーどーだってよぉー、面倒くせぇ。
 俺も神だ。ジャンヌダルキエルと同じで"役立たず"なんだよ。
 だぁらーっとだらだらだらだらぐだぐだぐだぐだ・・・過ごすさぁー」

そう言ってふぅー・・と煙を吐いた。

「なんなら俺がレクイエムで変身解除するぜぇーぃ?」

シャークがギターをかきならし、
最後にポーズを決めて言った。

「いやぁー、いいやー・・・。神様って楽だもんよぉー、
 衣食住いらねぇーんだぜー?ただダラダラ食わず寝ず、生きてけるなんて最高じゃーん」

なんという低落だ。
これが神の姿だろうか。
そんな理由で神なのか。
・・・。
それでもアレックスは羨ましかった。

「でもなぁー・・・ここに居ても他の神族にゃぁーなんか言われるだろうなぁー・・・
 ジャンヌダルキエルもアスガルドじゃぁよぉー、
 神を滅ぼした人間。アインハルトに付いた逆賊だからなぁー。
 めぇーんどくせぇー・・・だっりー・・・・あ、いいや。いーこと思いついたわぁー・・・」

ネオ=ガブリエルは、
ゴロンと頭だけ転がし、
寝転んだまま見上げるようにアレックス達を見た。

「んじゃあんた達んとこ置いてくれよ」

「はぁ!?」
「こっちに付くんですか?」

「いーじゃーん・・・・ほれ、俺神族よー、強いよー、
 それにもともと人間だし、下界のが好きなのよー。
 いいよー、俺頑張るよー、人のために戦うよー・・・・建前だけなー」

「建前かよ・・・」

「おー・・メンドくせぇーじゃーん。・・・実際俺、めっちゃ動かないけどなー」

正直すぎる。
ある意味嘘偽り無いその言葉は、
聖なる神の言葉なのかもしれない。

「養ってくれー・・ってか?」
「調子いい天使もいたものね・・・」
「まぁ、使えそうだしいんじゃないですか?ね、ツヴァイさん」
「ふん。面倒はお前らが見ろよ」

「・・・あーはー・・・俺はペットかってのー?・・・しーーーんがーーーい・・・・」

本気でそう思ってるのかどうか分からない。
よく分からんが、
どうやらこちらに付く事に決まりそうだった。
でもなんだろうか。
アレックスにしてはそれが自然に思えた。
ネオ=ガブリエルの行動。
その目的もないような行動。
それ。

だがそれに助けられた。
彼がいなければジャンヌダルキエルを倒せなかった。
そして、
彼は・・・・
一度たりともアレックス達を阻まなかった。
最初から、
もとから、
ネオ=ガブリエルはこちら側の人間だったんじゃないだろうか。

何も考えていないように思えて、
彼が思う信念がなければ、
こちらに手を貸しもしなかっただろう。
だが、
彼は反逆した。
ジャンヌダルキエルを殺しにかかった。

何も考えていないようで、
確かに彼の心の中には何かがある。
それが、
こちら側の考えと歩を揃えるものには違いなかった。

「ま、帰るか」
「なかなか疲れたね。だがそれを経ての達成。それも美しさの一つだけどね」
「エクスポ・・・あんたが疲れの原因のひとつなんだからね・・・・」
「そうですよ。ほんと面倒くさい人なんですから」
「・・・・・それより祝福してくれるべき時じゃないのかい?」
「しねぇーよ」
「もともとあんたの責任で自業自得じゃない」
「巻き込まれたこっちの身にもなってくださいと」
「・・・・・・・・・」

エクスポはうなだれた。
なんか、
イジられキャラが定着していないか?

「あんさ」

おもむろに、
ツバメが声をかけた。

「ん?」
「帰ったらだけどさ。呼んで欲しい人間がいるんだよ」
「へ?」
「ギルド連合でですか?」
「いや、《MD》でだね」
「・・・・?」

《MD》
その中で呼んで欲しい人間?
ここに居ない者だと、
もうジャスティンとイスカしかいないが・・・

「あぁ、いや・・・先に話をしておくべきだね」
「技の話ですね」

アレックスが言うと、
ツバメが頷いた。

「そう、うちの技。うちの暗殺術。それについてだよ」
「あんたの過去とかに興味ないわよ」
「んなもん戻ってからでいいだろ」
「そうだね。けど・・・それは53部隊の関係してるんでね」

その言葉で、
皆は真にツバメに注目した。
むしろ固まった。

「53部隊?」
「おめぇの技が53部隊に関係あるってのか?」
「っていうか53部隊は暗躍・・・言うならば暗殺部隊・・・」
「そう、そゆことだね」
「あんた53部隊だったの!?」
「いやいや・・・・」

ツバメは両手を振る。

「そうじゃぁないんだよ・・・いや・・・それに近いかな・・・うん・・・」
「なんだよ・・・」
「まぁこれから話してくれるって事でしょう」
「うん。いやつまりだね。うち、ツバメ=アカカブト。
 でもアカカブトってのは擬姓だってのはまぁ・・・トラジやシシオなら知ってたんだけど・・・」

ツバメは話し辛そうだったが、
それでも、
やはり話を止める事はなかった。

「つまり、うちの家系はそーいう家系・・・そんで・・・・"53部隊もそーいう家系"ってこと」
「そーいう家系?」
「つまり、53部隊はそういう暗殺一家の出が多い。そういう事だね」
「まぁ不思議な話でもなく・・・当たり前な気もしますが・・・」
「いや、それもそうなんだけどそうじゃないんだよ」
「・・・・?」
「見えてこねぇな」

ツバメは一度間をおき、
また話す。

「つまり、53部隊。部隊長のギルヴァングと燻(XO)を除き、
 全員は一つの暗殺一家。一つの血筋。そーいう家系の出身者なわけ。
 暗殺するために生まれ、暗殺するために育つ。そういう家系」
「全員家族ってこと?」
「いや、親戚って言ったほうがいいかな。家族なんていない。
 親もいない。兄弟もいない。その家系の全ての血にはね」
「ほぉ」
「・・・ちょ・・・それって・・・・」

マリナは気付いた。
いや、
マリナだけは思っていた。
似ている。
似ていると。
ツバメの技。
ラウンドバック。
あの技は・・・

「そこでうちの名前だ・・・うちの本名は・・・・」

そしてゆっくり、
ツバメは口を開いた。

「"ツバメ=シシドウ"」

「なっ?!」
「シシドウって・・・イスカさんと同じ・・・」

ツバメは頷く。

「そう、"死始動"・・・死から始まる一子相伝の暗殺一族。53部隊は全てそれだよ。
 親っさんから話は聞いてる。正直家を出たものとしては無関係でいたかったけど・・・
 そうも言ってられない。呼んできて欲しいのはあんたらの仲間。イスカ嬢だ」





53部隊。
シシドウ。

天の上で一つの話が終わると、

地。

そこでまた一つ話が始まった。








ギルド連合。


ジャスティンの元に、
2枚のカードが届いた。



その2枚のカード。


その表にはただ、

ただ2ケタの数字が表記されていた。










一枚には"53"

もう一枚には"44"

・・・・と













                 






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