「あーあ。とりあえずこっちの書類はこれで全部ね」

ルエンが肩を動かしながら一息つく。
ジャスティンがその書類に手を伸ばし、
軽く目で確認すると。

「おうご苦労だったな」

トントンとその書類を調える。

「「おうご苦労だったな」・・・だってー。偉くなったもんねージャスティン社長?」

「なんだよ・・・・つっかかるな・・・」

「別にー。冗談よ」
「こっちも終わったよー」
「私も」

マリとスシアが同時に書類から手を離し、
両手を大きくあげて伸びをした。

「ご苦労さまだ」

ジャスティンは二人の書類にも手を伸ばし、
片方ずつチェックを始めた。
目で簡単に書類の確認をしながら、
ジャスティンは言う。

「お前らもよくやってくれてるよ」

ルエンにも、マリにもスシアにも、
普段からここで事務的な仕事をしてくれているロイヤル三姉妹。
その誰にも目線を合わせないまま、
書類に目を通しながらジャスティンはふと言った。
ふと言っただけだが、
それに彼女達は反応した。

「それよねー」

マリが机にヒジをつき、
頬に手を当てたまま言う。

「ん?」

「つまりソレってことよ。私達がやれるのはこんな事くらい」
「そう。面倒な仕事だけどね」
「だからって戦えないし、正直戦うのも怖いんです。
 もし戦闘能力があったとして帝国の猛者達相手に立ち向かえるかって言われると・・・」

三姉妹は同時に手の広げて首をかしげ、
苦笑いした。

「気にするな。人には人の仕事がある。
 あいつらにはこんな仕事できないし、お前らにしか頼めない仕事だ。
 居なくて困るのはお前らも同じだ。地味だからって気にするな」

「そうよーあたいらは重要よー」

「ふっ、自信もってりゃ言うことねぇよOLさんがた」

「でもその仕事にも差があるわ」

ぐっと机に乗り出し、
ルエンは指をジャスティンに突き出した。

「あたいらの代わりはいないとしてもね、あたいらは死なない。
 死なない仕事だからね。けど彼らは違う。そうでしょ?」

彼ら。
アレックス、ドジャー、
ツヴァイに《昇竜会》の者達、
他ギルド員。
そう、
戦力とも呼べる彼ら。
彼らは・・・・
戦えば死ぬかもしれないのだ。

「考えるだけ無駄さ」

ジャスティンは手元の種類を二束同時に整え、
動きを止めて言う。

「さっきも言ったがやれる仕事とやれない仕事がある。自分にやれる事やるしかないだろ?」

その通りだ。
学級会でも委員長が手を上げていうべきセリフ。
そして正論で、
偽善言葉でさえない。
素晴らしい完璧な言葉だ。

「でも、はがゆいでしょ?」

ジャスティンは書類をしまおうと思っていたが、
少し手を止めた。

「・・・・・・・・・」

だが、
すぐに何事もなかったかのように書類を棚にしまう。

「それはお前らが自分自身で思ってる事か?」

「あんたに言ってるのよ」

「俺?俺はこんな腕だぜ?」

ジャスティンは左腕を見せる。
ギプス。
まだ釣り下がったままの左腕。
ツヴァイに砕かれ、
複雑に骨折した左腕。

「こんな腕で参戦したところで足手まといになるのは必死ってことだな。
 それに頭の悪いあいつらと違って俺にはここでの仕事もある」

「・・・ってのが建前」
「言い訳」
「本心の裏ですね」

ロイヤル三姉妹は、
そう言いニヤニヤ笑った。
ジャスティンはため息をつく。

「・・・・やれやれ。女のこーいうところが嫌いだ」

「あらそう?」

「女自体は大好きだけどな」

「あっそ」

ジャスティンは軽く笑い、
そして何も無いところに目線を外す。

「そりゃぁな。俺だって力になりてぇさ。あいつらは戦って死ぬかもしれない。
 そんな中、俺は死と関係ないところでただ願うだけ。
 ただグッバイ(別れ)から、無事にハロー(帰って)くるのを待つだけ。
 帰りを願うだけ。女みたいなもんだ。・・・・ふっ・・・ロマンチックすぎるんだよ。
 無力で素敵すぎる。だから女は好きで、女にはなりたくいと思うよ」

ただ、
腕の骨折を言い訳に、
いろいろな建前を言い訳に、
自分はここに居る。
死と関係ないところで、
手助けもしてやれない。
それが女々しくて、
もどかしくて、
それが・・・はがゆい。

「だから逆に」

ジャスティンは視線を戻し、
ロイヤル三姉妹を見て笑う。

「俺は俺の出来る事やっておいて、逆に帰ってきたあいつらに文句の一発でも言えるようにしとく」

「あら素敵ね」

「惚れたか?」

「残念」
「顔と言う事だけは一人前って男はザラと居るわ」
「ハズレも多いしね」

「手厳しいね」

ジャスティンは苦笑いをする。

「ま、逆にとらえるさ。肉塊の中じゃなく、女比率の高い職場で仕事できてることをね」

「またナンパぁ?」
「死んだ彼女に言いつけるわよ」

「それはそれ。これはこれ。愛と恋は違うよ。人を好きになる事と女を好きになる事も。
 出会いだって偶然と運命も違うし、心の反応と下の反応も別物ってね」

「あらキモい」
「さいてー」
「親父化が進んでますね」

「・・・・・・・・」

「あれ?そういえばあいつどこいったの?」
「そーいえば居ないわね」

「ん?」

三姉妹とジャスティンは周りを見渡す。
だが、
この狭いプレハブ小屋にそれ以外の影はない。

「どこいった?」
「ま、別にいっか」


































「ネオ=ガブリエルよ。わらわの僕(しもべ)であるという自覚がないのか?
 貴様を神族にしてやったのはわらわだ。手足として働け」

「あー・・・」

ネオ=ガブリエルは、
ダルそうに寝転がったまま、
ハッキリとした返事の前にタバコを吐く。
まずは一息だ。

「あー・・・・」

そして、
返事をしようとはしたのか、
だが返事をするのさえ面倒になったのか、
ゴロンと横に寝返りを打っただけだった。

「おい貴様。ライ=ジェルン。どうなのだ」

「ライ=ジェルンなんて大層な呼び名いいってー。
 俺、ガブちゃんのままでジュー・・・ブンでございますー」

適当かつダルそうに答える。
駄目人間の典型のような返事。

「駄目天使。このわらわに対し、感謝や奉仕意欲というものを得られないのか?」

「ん〜・・・」

ネオ=ガブリエルは、
少し考え、
だがどーせ返事しないと終わらない会話。
ならしゃーねぇめんでぇ、
答えるしかないかといった様子で返事をする。

「感謝してますよー。ますますー。尊敬もー、あといろいろとー。
 けどー、あ〜・・・なんだ・・・・。動きたくない?それが最重要?
 つーかテコでも動きたくないっていうの気持ちが何もかもを消し去る?
 しょーがないんだよねーこれー。もーどーーーしょーーーもないッスわー」

どーしょーもない。
本当にそうだ。

「俺ー、このガブちゃんさんはですねー。とにかく面倒くさがりなんスわー」

「見れば分かる」

「食欲よりも性欲よりも怠慢心が上回ってるわけでねー。
 唯一受け入れるのは睡眠欲くらいってもんでねー。寝るの気持ちいいよなー」

本当にどーしようもない。

「まぁ、働かざるもの食うべからずってねー。世の中の理だねー。でもなら俺食わねー。
 働くくらいなら食わないっスわー。それで死ぬならしゃーないわなー。
 本望ッスわー。ま、食わんでも死なないから神様ってサーーイコォーーー」

駄目だ。
根っからの駄目人間。
いや、
駄目神族だ。

「なら」

ジャンヌダルキエルが歩を進める。
ネオ=ガブリエルに向かって。

「動かなければ殺す。命令でなく脅迫だ」

プレッシャー。
ジャンヌダルキエルから発せられる重圧。
仮にも地上に降りてきた神族をまとめている神が長。

「フフッ・・・」

黙って見ていたエクスポはたまらず笑みを零した。

「面白い事になってきたね!」

エクスポは翼を羽ばたかせ、
くるくると宙を飛び回る。

「そうだよ。努力しないものは死んでも美しくない。
 何故なら積み重ねていないから!なら何が面白いんだろう?
 それはね、何かが美しくなるかもしれない過程を見れるからさ」

「そんな事はどうでもいい。ただわらわの手足となり戦え」

「はぁ・・・・」

ネオ=ガブリエルはダラりと体を起こし、
ポリポリと頭をかいた。
口にタバコを咥えたまま、
まるで寝起きのような面構えだ。

「やーだねぇ・・・うるさい女社長と新入社員だ」

「そんな事はいい。無礼にも目を瞑ってやる。どうする」

「おっ、寛大な心。もうちょっと優しく言えれば可愛い女天使なんだけどねぇ」

ネオ=ガブリエルは、
タバコをプッと噴出し、
指を軽く振ってジャンヌダルキエルに軽々しく言う。
ジャンヌダルキエルは、
怒りか照れか少し顔を赤く染める。

「うるさい!とにかく死ぬか手足となるかだ!」

「おー・・・ヒステリック女社長♪」

「どうなのだ!逆らう気でもあるのか!?」

「やーめてくださいよー。ないない。なーいですよー。
 あんたに敵う訳ないじゃないですか。ダッルィもんですわー。
 ダルいから死んでもいいッスけど、死んだらノンビリもできないしなー」

そしてネオ=ガブリエルは、
「よっ」と言いながら立ち上がる。

「んじゃちょっとガブちゃん・・・・もといライ=ジェルン。頑張っちゃいますかー」

そして左の手で右の手をひっぱり、
今度は逆。
ストレッチを軽くしたあと。

「あー・・・・」

首をコキコキと鳴らし、
天を見上げる。

「やっぱダリィ・・・・」





































「さてと・・・・・・・・」

ツヴァイがそう言葉を切り出す。
「さてと」
その言葉。
その続きは聞かなくとも分かる。
"どうするか"・・・だ。

「右も左も分からない空の上」
「宇宙と雲しか見えないもんねー」

四方八方同じ景色。
見知らぬ、
知るわけの無い空の上。
アスガルド。
どうしましょう・・・って感じだ。

「とりあえず歩きます?」
「どっちにだ・・・」

報告感覚も分からない。
むしろ北や南なんていう概念があるかも分からない場所だ。

「とりあえずこっちに」

アレックスは指をさす。

「理由は?」
「多分向こうから来たので逆方向に」
「十分だ。採用」

そして一同は歩き出した。
感触にも慣れてきた雲の上を。
・・・。
一同。
アレックス、ドジャー、マリナ。
ツバメ、シシオ・・・そしてツヴァイ。
6人。
減らずして増えてない。
それがあまりに哀しい数字。
トラジ。
それを失った。
だが、
今更その話をわざわざ持ち上げなかった。
悲しみや悔しさ、
怒り。
そんなものがこみ上げるしかないからだ。
いや、
それ自体は悪い事ではない。
「今はそれどころじゃない」と・・・後回しに"すべきでもない"のかもしれない。
だが、
だけど、
それでも、
彼らは進まなければいけない。

いや、
ただ悲しみを後回しにしたいからじゃない。
それどころじゃないからじゃない。
ただ、
ただ、
悲しみがこみ上げる事がいやだったからだ。

「絶対殺してやるよ」

ツバメが言い放つ言葉。
もちろん・・・ジャンヌダルキエルに対しての言葉だ。
トラジのサングラスをかけた、
スーツ姿の彼女。
根深い傷が付いたのは恐らくツバメが一番だろう。

「でも果てしないわねー・・・」

マリナが手を額に添え、
前方を眺める。
果てしない景色。

「これなんて言うのかしら。地平線?水平線?」
「なんでもいいっての」
「一生歩くかもしれないって考えると果てしなく心配ですけどね」
「言うなよ・・・・」

ため息も出そうになる。

「でもこのどこかに居るなら絶対うちが捕まえてやるよ」

「そうカリカリするなって」・・・・
とも言えない。
ツバメの気持ちを考えると、
そんな安直に出せる言葉でもない。

「そうカリカリしないでください」

それでも言うからアレックスは凄い。

「おいおいアレックス」
「だってこんな殺気立ってたら突っ走って自滅しちゃいますよ?落ち着いてください」

アレックスはツバメの肩に手を添える。

「これ以上誰も死なないのが一番です」

きわどい言葉だったが、
ツバメは歯を食いしばり、
軽く舌打ちして落ち着いた。
その通りだからだ。

「うちがそう簡単に死ぬわけないだろ」
「どーでもいいけど似合ってないわよサングラス」
「うっさいねこのアマ!!」

アレックスとドジャーのため息と同時に、
またツバメとマリナのケンカが始まる。
シシオが間に入って止めに入る。
ツヴァイは冷静に見守る。
というか無視する。
・・・・。
まぁだが、
通常通りの雰囲気に戻ってよかったとも思う。

「いい傾向だ」

歩きながら、
ツヴァイはふと漏らした。
アレックスとドジャーは耳を傾ける。
ツヴァイは歩いたまま、顔も向けずに続ける。

「話を聞いたところ、相手の狙いの一つにこちらに"絶望を与える事"があるようだ。
 絶望。それに何一つプラス要素などない。哀しく暗い、死のようなものだ」
「望みが絶するって意味ですもんね」
「カッ、そんな簡単に思い通りになってたまるかってんだ」
「そうだ」

ツヴァイはふと笑った。

「あいつらの思惑通りになどなってたまるか。ヘドが出る」

絶望など感じてたまるか。
思惑通りに絶望する?
そんな可愛い人間じゃない。
クソッタレだ。

「お前もいい事言うようになったじゃねぇーかツヴァイ」
「可愛くもないぶっちょうズラより断然いいですよ」
「ん?オレは可愛くないか?」
「は?」
「へ?」

からかったつもりだったが、ツヴァイにそんな風に返されるとは。
ツヴァイは小さく笑っていた。

「・・・・カッ、冗談で返せるようになったか。人間らしくなったぜ」
「人間らしくなった・・・か。それもいい。いや・・・それがいいな」

ツヴァイは小さく笑ったままだった。
心地よい、
そんな笑顔だった。

「「で!?」」

マリナとツバメの顔が同時に飛び出す。

「いつこの状況から出れるわけ!?」
「ゴールはどこだい!?」

そんなの分かるわけがない。

「状況見ろよ・・・」
「どーしようもないですよ・・・」
「あっちの男を見習って黙って歩け」

ツヴァイは示しもしなかったが、
その男が誰かはすぐ分かる。
シシオだ。
まるで兵隊のようにただ歩いている。

「・・・・・・・・」

シシオが気付いたかのようにこちらを向いた。

「・・・・・・・・・324」
「は?」
「何が・・・」
「・・・・・・・今328歩目」
「「・・・・・・・・」」

よく分からん。
ある種最強にマイペースだ。
気遣いのできるB型といった性格か。
それこそ意味が分からん。

「でぇ!?」
「どうするのナビゲーター!?」
「僕ですか!?」

マリナとツバメの矛先がアレックスに飛ぶ。
ナビゲーター。
いやな言葉だ。
困ったらアレックス。
何かあったら自分。
頼られているのか押し付けられているのか、
嫌な立場だ。

「えぇーっとですね・・・」

考えたって一緒だ。
目印も方角さえも分からない。
解決策などとりあえず歩いてみるしかない。
それをどうしろったって・・・
それを打破しろったって・・・

ぐぅ・・・・

腹が鳴った。

「・・・・・・・・・・」
「いい返事だね・・・」
「カカッ!アレックスナビゲーターがなんか感知したか?」
「はい。午後3時です」
「3時に腹鳴らすな!」

何を言ってるんだ。
オヤツの時間じゃないか。
1日最低5食は基本だ。

「おいシシオ」
「・・・・・・・?」
「アレックス持ち上げろ」
「ちょちょ!何するんですか!?」
「方角調べるんだよ。時計の針を太陽に合わせると方角が分かるんだよ」
「腹時計で分かるわけないじゃないですか!?」

それどころか太陽はどこだ。
方角が分かってどうなる。

「はぁ・・・・情け無い騎士さんだねぇ・・・シシオ」
「・・・・・・・・あぁ」

ツバメの言葉と共に、
シシオが懐に手を入れる。
アレックスはピクりと動いた。

「・・・・・・・ほれ」
「ありがとうございます!!!」

それが何か確認もせず、
アレックスは飛びついた。

「・・・・・・・」
「こいつは食べ物でカルタ取りやったら最強だろうな・・・」
「わぁ!リンゴじゃないですか!よく熟れてます!!」

シシオから取り上げるように受け取ったリンゴ。
それを見ながらアレックスは目を輝かせる。

「リンゴなんてどうやって懐に入れてたんだよ・・・」
「見たところ損傷さえないんだけど・・・」
「それはシシオだからね」
「・・・・・・・」

シシオは無表情のまま、
親指をグッと立てた。
ある意味可愛い。

「いっただっきます!」
「こんな状況でよく食べるわね・・・」
「もぐ・・・食わざるもの戦うべからずです」
「・・・・ちょっと違う」
「意味が90度ほどズレるわ・・・」

どーでもいいじゃないか。
食っておけば。

「で、解決してないわよ」
「どうするんだい」
「うーん・・・」

アレックスは最速でリンゴの周辺をトウモロコシのようにかぶりつき、
最後にチュー・・・とリンゴの芯から汁を吸い取って投げ捨てた。

「正直向こうのペースってとこですね」
「んなもん分かってるっての」
「いえいえ、言ってみれば向こうから出てくるしかどーしようもない状況です」
「まぁそうだな」

ツヴァイは歩くのをやめ、
腕を組んで止まった。

「正直歩く事に意味があると思えん。気晴らし程度の問題だ。
 ふん、完全に受身にされているという事。
 こちらからの攻撃権はない。向こうの好きなときに好きなように攻撃してくる。
 くだらん。カスめが。神という優越感にでも浸っているつもりか」

果てしなく続く雲の道。
四方八方景色が変わらない。
歩いてどこかにつくとも限らない。
つまり、
向こうから接触をはかってこない限り何も進まない。
動いていようが、
止まっていようが、
それは同じなのだ。
それでもアレックスが歩くと判断したのは、
それでも止まっているよりは何かしらの可能性があるからだ。

「結局無駄足運んだだけでしたけどね」
「カッ、何かしら面白いアトラクションでも見つかればいいなぁってか?」
「まぁそういう事です」
「じっとしてるのも性に合わないしそれはいいけどね」
「でも相手にペース握られているのは確かに我慢ならないよ」
「せめて位置関係だけ分かればいいんだですけど」
「位置関係?」
「はい。そりゃぁスタート地点は確実に存在してるわけですから、
 あのゲートっていうかポータルっていうか、地上に繋がってる道は存在してるはずです」
「まぁそりゃそうだな」

だが、
だからといって分からない。
逃げ回ったり、
戦ったり、
もう方角も分からないのだ。
どちらから来たかも分からない。

「・・・・・・・・最初から・・・」

・・・・・・最初からそう言えばいいのに。
と、
消え入りそうな声で言ったのは・・・・・・・
シシオだった。

「ん?」
「なんか言った?シシオ」
「・・・・・・・・ん・・・」

シシオはゆっくり指をさした。
一方に向かって。

「・・・・・・・・・こっちに・・・」

・・・・・・・こっちに1040歩分。
そう言い、
90度指の方向を変える。

「・・・・・・・・・・こっちに・・・・」

・・・・・・・・・こっちに768歩分。
そう、
シシオは言った。

「・・・・・・・・・は?」
「何が?」
「まさか・・・・」
「・・・・・・・・・・スタート地点」

シシオはボソりと言った。

「・・・・・・・・」
「・・・・・・ぁああああん!!?」
「どゆことよ!?」
「あんた位置分かってんのかい!」

シシオはコクりと頷いた。

「なぁ・・・〜〜んで言わねぇんだっ!!!」
「・・・・・・・聞かれ・・・」

聞かれなかったから・・・・
と、
申し訳なさそうに、
語尾の消えていく小声でシシオは答えた。

「ってかいろいろゴチャゴチャしたのによく分かったね・・・」
「戦闘しながらも位置は理解してたって事ですか・・・」
「こっちが歩くナビゲーターだな」
「っていうか超万能ね・・・」

超万能。
超なんでも屋さんだ。
なんでも持ってるし、
なんでも分かるし、
案外なんでもできるし・・・・

「ついでに・・・・」

シシオは懐から小さな棒にような物を取り出す。
何かメーターのようなものがついている。

「温度は25.6度・・・・いたって快適で、無風。風速0m。
 高度はもちろん分からないけど・・・・スタート地点からの高度差は無し・・・
 こちらに来て経過した時間は1時間と32分で・・・・」
「あ〜分かった分かった分かった・・・」
「本当に万能ですね・・・」
「シシオが居れば家の家具全部いらなそうね」
「アハハッ、でも灯りにはならんでしょ」

パチッという音がすると共に、
シシオは手からロウソクぶらさげた。

「・・・・・・・・」
「分かった・・俺はお前を見くびっていた・・・だからそのロウソクは消せ」

シシオは素直にロウソクを消した。

「で、どうする」

ツヴァイが言葉を挟んだ。

「戻る道は分かったわけだ。ならば戻るのか?」
「そうねぇ・・・」
「無意味に奥に進んだところで意味ないんじゃないですか?
 向こうも逃がしたくはないはずですし、逆に戻ってみるのも手かと」
「ってか向かえる方向がそっちしかないしね」
「だがそりゃいいぜ。向こうから来るの待ってるなんて性に合わねぇ。
 けどよ、それなら"逃がしたくなけりゃぁ鬼さんこちら"ってこったろ?
 釣ってやりゃぁいい。向こうから出向いてくるようにな」


「会いたいならそういえばいいのに♪」

突如聞こえた声。
それは一声で誰かと分かる。

「アハハ♪」

ぐるりと宙を一回転し、
白い翼を広げて楽しそうに舞う天使。
エクスポ。
いや、
フウ=ジェルンか。

「エクスポ・・・」

「そう、エクスポだよ!」

エクスポは指を立て、
本当に楽しそうに笑う。

「会いたいならそう言ってよー。出会い、再会。それは凄く美しいんだからさ!
 それこそ望まれた再会ほど美しいものはないよ!一期一会とも言うけどね!」

嬉しそうにエクスポは宙を舞い、
クルクルと何回転か飛び回った後、
ドジャーに近づく。
そして、

「ドジャー。絶望にはまだ達してないようだね」

ドジャーは顔をしかめる。
本当に、
本当に嬉しそうに楽しそうに望むように、
エクスポは純粋にそんな事を言うから・・・・

「マリナ、アレックス君。君達もだよ。ボクは心の底から願っているんだ!
 積み重ねた思い出、記憶、通った心・・・その全てが・・・・"絶する"。
 積み重ねて積み重ねて積み重ねてきた美しいモノ達が・・・・無に帰す。
 カラッポ。本当に0になる。そんな時は・・・・・・・・・きっと美しいんだろうね」

エクスポは愉悦の笑顔。
震えるような、
想像だけで快感の絶頂に達するような。
そんな・・・
本当に嬉しそうな顔をする。

「チックタックチックタック♪時計の針が進むたび、時間を一秒刻むたび、
 何もかもが積み重なる。愛も友情も思い出も、何もかもが積み重なる!」

エクスポは両手を広げた。

「命は金より重い!タイム・イズ・マネー!この方程式を当てはめると命>(金=時間)。
 ハハッ!馬鹿馬鹿しいよね!本当に馬鹿馬鹿しい!逆!真逆だよ!!
 命は一つ!増えたりもしないし減ったりもしない、たった一つの大切なもの!
 けど、お金と時間は刻一刻と増えていくんだ!それこそ際限なく!それこそ無限に!
 それを方程式で当てはめようって考えが美しくないよね!美しくないよ!」

エクスポはニコりと笑う。

「時は無限だよ。誰かの命が止まっても時計の針は進み続ける。無限に進み続ける。
 そう・・・・・何一つ、一時間、一分、一秒・・・・ずっと・・・"100%後戻りなんてしない"
 だから・・・・・・・だから・・・・・・・・0へと向かおうよ♪積み重ねたモノが絶する道へ!
 時計の針が必ず12(限界)を目指すように!時計の針が必ず0(無)へと戻るように!
 その時は凄く美しい!全て真っ白のオール・オブ・ビューティフル!!!」

「エクスポ・・・」
「エクスポさん・・・・」

ドジャーが拳を握りしめる。

「エクスポ・・・てめぇの時間は絶対に戻らねぇのか・・・・」

「無理だね。だからボクは時計を0へと"進める"」

「俺たちゃテメェの目覚まし時計にゃなれねぇのか?」

「目覚まし時計もまた時計。"進んだ針は戻らない"
 そして・・・・・・時間の終点はいつも0時なんだよドジャー」

笑顔で言うエクスポ。
もう・・・
もう駄目なのかもしれない。
戻る意志がない。
本人に。
戻ってこない。
本心に。

なら・・・
ならば・・・・
"やらなきゃいけない"
そう、
そう決心させるには十分で、
それでも体が動くには不十分だった。


「言葉だけで人を虐げる。ククッ・・・・。足手まといにしかならんと思っていたが・・・・
 フウ=ジェルン。貴様はなかなか絶望を知っているようだな」

大きく、
誰よりも大きく美しい翼を広げ、
その姿だけ見ると、
まず目を奪われる。
美しくて、
人型でありながら人間ではないという事を一目で理解させる、
神々しい、
美しい・・・・女神。

「ジャンヌダルキエル・・・・」

唇を噛み締める。
こいつが、
こいつが・・・・

「ほぉ、こいつがジャンヌという者か」

ツヴァイが視線だけを上げ、
冷静に見る。

「こいつがロウマと同じ"絶騎将軍(ジャガーノート)"。
 つまり・・・・兄上がオレと同じ"位"だと評価した者なんだな」

ツヴァイは怪しく少し笑った。

「面白い。兄上の思想をオレの手で一つ壊せる日が来るなんてな」

「汚らわしい!!!」

ジャンヌダルキエルは、
宙に浮いたまま、
言葉を吐き捨てた。

「嗚呼・・・なんて汚らわしい!汚らわしい汚らわしい汚らわしい!!!
 こんな汚らわしい野蛮な者が我が主アインハルト様の実妹!?
 こんな汚らわしい野蛮な者が我が主アインハルト様の双子!?
 こんな汚らわしい野蛮な者が我が主アインハルト様の分身!?
 汚らわしい!!汚らわしくて汚らわしくて吐き気がする!」

ジャンヌダルキエルは、
その美しい顔を醜く歪める。

「その上、下等種族の分際でこのわらわを倒すと?なんと下品な発言だろうか。
 ・・・・・・・・・・口を慎めドブネズミが!!薄汚れた汚らしい言葉をわらわに吐くな!!」

あまりに見下した、
あまりに自分を高等化した、
神の意見。
人間など・・・・
薄汚れた汚い生物でしかないという・・・・

「ふん。わらわを倒すというのか低能なる猿め。希望がまだ残っているのが汚らわしい」

空中で、
ジャンヌダルキエルはその大きな翼を広げた。
白く輝く羽根が美しく舞い散る。

「貴様らには絶望を与えてやらねばならん!絶望!絶望だ!!!
 喜べ!喜べ愚民共め!この神であるわらわが直々に与えてやると言っているのだ!
 絶望を与えてやると言っている!嬉しいか!?喜ばしいか!?
 絶望!絶望だ!我が主アインハルト様はそれを望んでいる!それを与えてやる!
 絶望!・・・それは希望だ!絶望も一つの"望み"に過ぎん!
 望みが絶する!何も無い0!"絶"!"望"!絶える望みを与えてやる!!!!」

傲慢なその態度。
だが、
何一つ偽り無く、
与えてやる。
与えてやると・・・・神は、
ただ神は言う。

「だが、まずはスパイスを与えてやらねばな」

ジャンヌダルキエルの美しい唇は、
小さく歪んだ。

「フウ=ジェルン。ライ=ジェルン。絶望を与えてやれ」

「ハハッ!!!」

エクスポが嬉しそうに宙を舞う。
天使の羽根をばらまき、
フウ=ジェルンとして、
嬉しそうに・・・・

「ライ=ジェルン?」
「ライ=ジェルンは空席のはず・・・・・・・」

「あぁ〜・・・・・・・」

あらぬ方向から声がしたと思った。
目線をズラすと、
雲の上、
翼を一片たりとも動かさず、
地べたとも呼べる雲の上でダルそうに寝転がり、
タバコをふかしている天使。

「なんだお前」

まだ見たこともなかったツヴァイが吐き捨てると、

「あ〜?俺?俺天使。そ、エンジェル」

ふぃー・・・と、
ダルそうにタバコの煙を吐き出す天使。

「ライ=ジェルンこと、ネオ=ガブリエル・・・・・・こと、ガブちゃんだよぉ〜ん」

力の入ってない表情で、
力の入ってない声で言う。

「ガブちゃんさん・・・」
「てめぇがライ=ジェルンだったのか」

「そ〜ね〜・・・・けど、ま、今さっきだけどねー。5秒くらい前〜」

5秒ってことはないだろ。

「あ、よく考えると俺、後輩じゃ〜ん。よぉーっス先輩」

ネオ=ガブリエルはダラりとエクスポに向かって手を上げる。
エクスポは楽しそうに手を振り返した。

「ってぇ事で〜・・・あらためて〜・・・・」

と言いながら、
ネオ=ガブリエルは口にタバコを含んだ。
そして吐き出す煙。
「うめぇ〜」という言葉と共に、
煙を吐き出すと、
そのまま黙ってボォーっとしていた。

「あらためて・・・なんだよ」

「あ〜?あぁそっか・・・よろしくぅ〜・・・ね♪」

ネオ=ガブリエルは寝転んだまま片手をヒョイとあげる。
なんとも掴み辛い男だ。

「よく分からん態度の男だが・・・」

ツヴァイが槍を構え、
漆黒のアメットを被り直す。

「やると言うならやる。つまり・・・・殺すぞ」

殺気。
味方でも少し下がってしまいそうになる圧力。
それがツヴァイから発せられる。
そしてその矛先、
殺気を向けられたネオ=ガブリエルは・・・・

「あ〜・・・やめてよお姉ちゃんさん。俺死にたくねぇよぉ〜。
 っていうか出来れば戦いたくない?っていうか出来れば動きたくない?」

「・・・・・・・・・ならば何故ここに居る」

「あ〜・・・・・・なんだ・・・それには理由があってだな・・・・」

ネオ=ガブリエルはタバコを吸いながら、
理由を整頓する。
まぁそんな複雑な理由でもないのだが、
頭の中でそれをいろいろと考えていると・・・・

「・・・・・つまり人生辛い事がいっぱいだ」

説明が面倒になったらしい。
まぁ、
それはあまり重要でもない。
敵なら・・・
潰すまで。

「よぉ〜っと・・・・」

ふと、
ふとネオ=ガブリエルがゴロンと寝返りを打った。
軽く、
違和感もなく、
不自然もなく、
ただ自然に、
ゴロンと寝返りを打った。
それだけ。
それだけで・・・・

「アーメン!!!」

アレックスのパージフレアを避けた。
不意打ち。
寝転んでダルそうにしているネオ=ガブリエル。
会話中だろうがなんだろうが、
アレックスは不意打ちでネオ=ガブリエルにパージフレアを放った。
蒼白い炎が吹き上がる。
だが、
軽い寝返り。
それだけで、
ネオ=ガブリエルはそれを避けた。

「避けた!?」
「完全に不意打ちだったろ!?」
「た、たまたま寝転んだだけじゃ・・・・」

「危ないなぁ〜っと・・・・・」

ネオ=ガブリエルはホイッと、
タバコの吸殻を投げ捨てる。
そして、
軽く飛んだ。
白い翼をバサバサと羽ばたかせ、
宙に飛ぶ。
こう見ると、
彼が地面から離れたのは初めて見る。

「やれやれ・・・・おちおちノンビリもできねぇか・・・儚きかな・・・人生」

ポリポリと頭をかくネオ=ガブリエル。
美しいほど、
透き通るほど綺麗な金髪が後ろに流れ、
高い鼻と、整った顔つき。
大きく開けるののも面倒なのか、垂れ下がったマブタ。
左耳にはシンプルなピアス。

そしてやはり裸の上半身。
大きく目を引く胸の刺青。
"R・I・P"の文字。
墓に刻むべき言葉を胸に刻む、
ただ、
"R・I・P(やすらかに眠れ)"
を教訓にするように。

「ん〜・・・こうしようか・・・・」

ネオ=ガブリエル。
もといライ=ジェルンは、
ダルそうに大きくバッサバッサと翼を羽ばたかせ、
重そうなマブタを・・・・アレックスに向ける。

「あんた。俺とやろうか・・・」

「・・・・・・・僕ですか」

「同じ臭いするんだよね・・・ダル〜・・・く・・・戦えそうじゃん?」

ニコりと微笑むガブリエル。
同じ臭いがするんだよね。
その言葉。
以前会った時、
同じ事をアレックスは言ったが・・・もーそんな記憶ねーよと言わんばかりだった。

「ご指名というならしょうがないですね」

と言いつつ、
アレックスは他にも目をやる。
ジャンヌダルキエル。
エクスポ。
だが、
彼女らに戦闘の意志は今のところないようだ。
ジャンヌダルキエルに指名されたエクスポも、
楽しそうに伺っている。
観察。
確かに彼は見るのが好きだった。
美しき天使の戦いが見たいのかもしれない。
そして・・・・
アレックス自身が滅ぶかもしれないところを・・・・・

「・・・はぁ・・・気疲れしますね・・・面倒臭いってのは同感です」

アレックスはやれやれと思いながら、
胸の前で十字を切る。
描いた左指。
すると地面に魔方陣が現れ、
槍を突き指す。

「イソニアメモリー・・・オーラランス」

オーラランス。
パージフレアの炎に巻かれた槍は、
蒼白い炎に包まれたオーラランスへと変わる。

「お〜・・・・カァ〜チョイィ〜♪」

ネオ=ガブリエルは、
本当にそう思ってるのか思ってないのか、
棒読みのような言葉で気楽に言った。

「それカックイイじゃ〜ん・・・でも僕も同じような武器なんだよね〜・・・
 ・・・・あれ?俺一人称僕だっけ?なんだっけ?俺自分の事なんて呼んでたっけ?」

なんだこいつ。
痴呆症か?
馬鹿か?

「ま、いっかメンドくせぇ」

・・・と、
すると、
突然ネオ=ガブリエルの手に何かが渦巻く。
渦巻く。
エネルギー?
いや、
雷。
雷だ。
パージフレアのような、
蒼白い、
いや、
真っ白な電撃がネオガブリエルの右手に集まる。

「ひゅ〜♪・・・・俺もカッチョィ〜♪」

バチバチとネオ=ガブリエルの右手で弾ける雷、
そしてソレ。
ソレは形となっていった。
・・・。
槍。
槍だ。

「サンダーランスのお出ましぃ〜」

ネオ=ガブリエルの右手に現れた武器。
槍。
白い、
白い雷を纏った槍。
サンダーランス。

「何も無いところから武器が・・・・」
「神様って便利そうですね・・・」

「いいっしょ♪」

そう言い、
ネオ=ガブリエルはサンダーランスを自分の肩にかける。
バチバチと弾ける電撃。
肩に何も感じないのだろうか?
・・・。
愚問だ。
彼はライ=ジェルンだ。
"四x四神(フォース)"の一人、ライ=ジェルン。
神でありながら、
属性を手に入れた神。
人間から転生した属性を得た神。
雷使い。
そういう事だろう。

「じゃぁ・・・」

やろうか。
そんな言葉さえ無しに、
そのまま、
突然的に、
ネオ=ガブリエルは空中から滑降してきた。

「くっ!」
「だめっ!」

狙っていた。
ネオ=ガブリエルはアレックスを指定してきたが、
正直そんなタイマン、
1対1。
そんなものを受ける気はもうとうなく、
ドジャーとマリナは狙っていた。
戦いが始まって油断した隙。
アレックスを狙う隙。
そこにダガーとマシンガン。
それをぶちこんでやろうと。
だが、
早い、
速い、
そして突然すぎて狙いは外れた。
放てない。

「まったり、ガックリ、ダラァリ・・・そしてサックリ終わらせようぜ」

空中から急滑降してくるネオ=ガブリエル。
アレックスに向かい、
電撃に塗れたサンダーランスを持って飛んでくる。

「駄目だ!」
「狙えないわ!」

なんとかドジャーとマリナがガブリエルを打ち落とそうとしたが、
照準が合う前に、
ガブリエルはアレックスへと到達した。

「ぐっ!?」

槍と槍、
オーラランスとサンダーランス。
それがぶつかる。
ネオ=ガブリエルの攻撃。
それはまるで鷹が滑降して水中の魚を獲る様。
アレックスに一撃ぶつけてまた空へと飛び上がった。

「くそっ・・・・」

アレックスは吹っ飛ぶ、
周りに皆が居たところから突き飛ばされるよう、
いや、
突き飛ばすのが目的だった。

「やぁーだよー。やだやだ。俺ぁ面倒くさがりだからさー。
 いっぺんに相手したくないんだよねー。人生楽ちん、苦は嫌いってねぇ〜」

アレックスは突き飛ばされ、
皆が集まっていた場所から外される。
タイマンに持ち込む気だ。

「させるかよ!」
「落ちなさい!!!」

ドジャーがダガーを、
マリナがマシンガンを放つ。
だが、
そこにはもうネオ=ガブリエルはいない。
すでに急滑降してアレックスに向かっている。
他は無視。
ガン無視。

「怠け者は怠けながら頑張るよぉ〜♪」

そしてまた槍と槍、
サンダーランスとオーラランスがぶつかる。
今度は止まった。
ガブリエルはアレックスの正面で止まる。
槍と槍。
サンダーランスとオーラランスをぶつけたまま、
ギリギリと押し合う。
オーラとサンダー。
蒼白い炎と白い雷がぶつかる。

「・・・・やりますね・・・」

「ん〜?俺、別に褒めて伸びるタイプじゃないぜ?」

「敵を伸ばすつもりはありません」

「にひ♪ただ伸び伸びと暮らしたいけどな」

「・・・・・・・同感です!」

アレックスが槍を弾く、
そして横に一閃。
大きく振り切る。

「おぉっとぉ〜」

ガブリエルは翼を一羽ばたきさせ、
後ろへと飛ぶ。

「危ない危ない」

言いながら、
ガブリエルも槍を突き出す。
白い電撃の槍。
それをオーラランスで弾き、
さらに突き出すが、
逆に弾かれる。
槍と槍。
サンダーランスとオーラランス。
それがぶつかり合い、
弾き合う。

「この槍痛そうだなぁ〜。当たると傷口からゴォオオ!って燃えちゃうのか?」

「そゆことです」

「そぉ〜りゃダリィ・・・ダリィよ・・・面倒クセェ・・・・
 死ぬならザクっと死にてぇよ・・・痛いのはマジ面倒くせぇ・・・・」

「まぁ、聖なる炎が神族に効くか分かりませんけどね」

「効くぜ〜?効く効く。俺ぁ元人間だからなぁ〜。
 人間の属性もってる分、神族の属性は普通に食らっちゃうんだよなぁダリィ〜」

「へぇ・・・」

アレックスはニヤりと笑い、
槍を突き帰す。
それもガブリエルは最小限の動きで避けた。
面倒臭がりの体質。
それは予想以上にやっかいだった。
最小限。
印象と違い、
最小限の動きだけで攻撃を避けてくる。
さらに、
最小限の動きだけで攻撃を仕掛けてくる。

「つまりそれって」

「ん?」

「逆算するとジャンヌダルキエルさんにはパージは効かないってことですね」

「あんら〜?口滑っちゃったぁ〜?」

ネオ=ガブリエルはニタニタと笑う。
というか面白がっている。
どうでもいいといった感じ。
最初から隠す気もなく、
ただ受け入れる。
最上の面倒くさがりは、ただその場だけを生きる。

「くっ・・くそ・・・・」
「駄目ね・・・」
「あやつの動き。見た目以上だ」

ツヴァイが言う。
そしてドジャーとマリナが戸惑う。
ダガーとマシンガンを構えたまま、
はがゆい思い。

「あぁ・・・」
「アレックス君と戦いながらこちらに攻撃させてくんないわ・・・」
「絶妙に位置取りをしながら戦っているな。戦いながらもその暇があるということか」
「こっちも相手するのが面倒って事だね」

そんな簡単な言葉で表せるか。
ネオ=ガブリエル。
完全なるタイマン。
他の者達に攻撃させる隙を与えない。
もしもドジャーやマリナが遠距離攻撃をしかけたとしても、
適度にアレックスに当たるかもしれない位置取りへ、
自分は当たらない位置取りへ、

「アレックスと互角に戦っているようで、こっちにも気を配るヒマがあるってことか」

本気で戦っていない。
直訳するとそういう事かもしれない。

「あ〜・・・腕が疲れてきた〜・・・」

アレックスと槍をぶつけ合いながら、
ネオ=ガブリエルはダルそうに言う。
どこまでが本気なのか、
どこまでも本気なのか、
何もかもが適当なのか、
全てにおいて適当でしかないのか。

「・・・・・・・・あなたの100%が見えません」

「そりゃそうだー。俺、出来れば人生5%くらいの力でダラダラ生きたいし〜?」

「・・・・どこまでが本気なんですか。なんなんですか貴方は・・・」

「俺?俺、天使」

「・・・・・・人間から転生した・・・神族」

「そ、エンジェル」

「いろんな意味で底が見えないです・・・ね!」

強く突き入れる。
アレックスのオーラランス。
だがそれも空ぶる。
何度もこんな場面があった。
最小限の動き。
逆に言えば、まるで隙だらけにも見える。

「当たると思っても・・・当たらない」

まるで・・・
まるで感触のないものと戦っているようだ。
5%でダラダラ生きたい。
彼は冗談のように言ったが、
まるで5%の存在しかないような、
"のれんを押すような"

「いい事教えてやんよ〜」

「・・・?」

「ダイアモンドの針を投げても、ガムの一塊さえ貫けない」

・・・・・。
柔らかい。
柔軟すぎる動き。
それは、
どんな剛をも無効化する。
"柔らかいということはどんなものより壊れない"

「・・・・・・・」

かと言って、
その偽りの隙を突こうとアレックスも大振りする。
だが、
その隙を、
その隙を突いてこない。
こちらの隙を狙ってこない。
分からない。

「答えは簡単〜」

心を読んだかのように、
ネオ=ガブリエルは言った。

「あんたを倒しても、次また戦わなきゃいけないのダリィんだよね」

「!?」

生かされている。
殺されている。
いつでも殺せる。
なのに、
生かされている。
彼の、
彼の個人的すぎる私情だけで、

「くっ・・・」

だが、
だがガブリエルの力がどんだけ上回っていようと、
こちらを殺す気がなかろうと、
アレックスはガブリエルを殺す。
それしか・・・・

「!?」

見えた。
たった・・・
たった一つの大きな隙。
ダラダラと戦うからだ。
この隙。
この隙だけは逃すわけには・・・・

「だぁあああああああ!!!!」

「うぉ?」

アレックスが全力を込めて突いた。
オーラランスを、
その、
ネオ=ガブリエルのサンダーランスに向かって。

「・・・・ありゃ・・・」

サンダーランスはネオ=ガブリエルの手の離れ、
吹き飛んだ。
吹き飛び、
電撃を渦巻きながら消えた。

「ありゃ?俺、やっちゃった?」

「やりました・・・・よ!!!」

これを逃すわけにはいかない。
アレックスは思いっきり槍を振り切る。
横に一閃。
横に大きく槍を振り切る。

「いだぁあ!!」

それは、
ネオ=ガブリエルの腹を割いた。
横に、
真横に、
ネオ=ガブリエルの腹部から線状に鮮血が噴出した。

「いっでぇえええ!!くそぉ!ダリィ!!これだからダリィ!!
 イテェのメンドくせぇええ!殺すなら楽に殺してくれよ!!!」

ネオ=ガブリエルは急速に宙に飛び上がり、
そして腹を押さえながらジタバタと足を振る。

「あーだめ!俺もう無理!無理だわ!わりぃジャンヌダルキエル!
 俺パス!パスな!退場!タンカタンカ!ぴーぽーぴーぽー!」

わけの分からない事を叫ぶネオ=ガブリエル。

「病院いかなきゃ!ダリィ!神様って保険降りるんかなクソ!
 あ〜メンドくせ・・・まぁいっかツバつけときゃ治るか!ってことで!」

ネオ=ガブリエルは急に右手を立てる。

「アデュー♪」

そのまま、
ネオ=ガブリエルは光に包まれ・・・・消えていった。

「・・・・・・」

アレックスは呆然とした。

「な・・なんなんですか・・・」
「やられたな」
「うわ!?」

突然自分の真横から声がした。
ツヴァイだった。
近すぎてビックリした。

「ビックリさせないでくださいよ!いつの間にこんなところに」
「気付いてないのはお前だけだった」
「へ?」
「あの天使は気付いてた」
「え・・・・」

ツヴァイ。
その接近に気付いていた。
アレックスは戦闘に必死だったが、
ネオ=ガブリエルは気付いた。
ツヴァイの接近。
それは・・・
さすがに死をあらわすだろう。
いや、
ネオ=ガブリエルの言葉で表せば「メンドくさい」
そんなところだろう。

「わざと・・・勝たされたっていうんですか」
「そういう事だ」

わざと・・・
大きめの、
大きすぎず、
それでいて致命的な隙を作り、
わざと・・・
アレックスにそこを突かせた。

「致命傷にならないぐらいの傷。あの傷さえ調整されてたぞ」
「・・・・・・・・・」

ネオ=ガブリエル。
ただ、
ただ戦闘から脱却したかっただけ。
勝ち負けになんの興味もない。
一番、
一番"面倒臭くない方法"
それを選んだだけだった。

「クソ・・・何が同じ臭いがする・・・ですか・・・」

アレックスの槍から蒼白いオーラが消える。
と共に、
アレックスは拳を握り締めた。

「僕だって屈辱くらいは感じるんです・・・・」

ツヴァイはそんなアレックスを横目で見ながら、
小さく、
鼻で漏らす程度の微笑を零した。


「汚らわしい!!!!!!」

叫び声。
天から落ちてくる叫び声。
それは、
ジャンヌダルキエルのものだった。

「ふざけるな!ライ=ジェルンめ!なんだあの低落は!
 なめおって・・・・わらわを舐めているのかあの怠慢天使は!」

わなわなと震える。
ジャンヌダルキエルの体。

「人間のくせに!人間如きが!元人間のくせに!
 いらん私情など戦闘に組み込みおって・・・汚らわしい!嗚呼汚らわしい!!!!」

怒り。
怒り。
怒りで震えている。
天使。
神。
神族。
女神。
その長たるジャンヌダルキエル。
その超たるジャンヌダルキエル。
彼女は、
その美しい姿を怒りで震わしていた。

「絶望だ!!!」

大きく翼を広げ、
両手足も空中で広げ、
彼女は叫んだ。

「このわらわ直々に絶望をくれてやる!!!」

その言葉は、
アスガルド中に響くかのように、
ただ震えた。

「あれ?ジャンヌダルキエル様。ボクの出番はどうなったんだい?」

エクスポが首を傾けながら、
ジャンヌダルキエルの周りをクルクルと飛び回った。

「ふん。貴様らなどどうせ前座でしかない。お前一人であやつらを倒せるのか?」

「んー?」

エクスポは空中で自分のアゴに手を当て考える。

「無理だね!ハハッ!」

笑顔でそう言う。

「だけどさ、絶望は与えられるよ!たとえば・・・・・」

エクスポの顔が笑顔に変わる。
嬉しそうに、
楽しそうに、
愉悦の極みのように歪め、
そして言う。

「ボクが死ぬとかね」

軽々しく言うその言葉。
エクスポが死ぬ。
代わりに、
逆に、
それだけで、
それだけで確かに絶望は与えられる。
ドジャーに、
マリナに、
アレックスに、
皆に。

「ボクのレパートリー的には、ボク自身が誰か殺して、
 その悲しみを悲しみを哀しみを哀しみを・・肌で・・・心で快感として感動して!
 それから・・・ボク自身が死んだ時の皆の哀しみを想像するっていうのが一番なんだけどね」

仲間が死ぬ。
仲間だった者が死ぬ。
その・・・快感。
それがドジャー達でも、
それが自分でも、
結局は同じ事で、
哀しい事で、
・・・・・・・・ただ最高。

「嗚呼!考えると心が震えるよ!ドジャーが死ぬ!マリナが死ぬ!アレックス君が死ぬ!
 その時のボクの哀しみ!悲しみ!それは真っ白で純白で!とても心地良いんだろうね!
 とてもとても綺麗なんだろうね!美しいんだろうね!だって死は美しいんだから!!!」

「ふん。まぁ見ていろフウ=ジェルン」

「はいはい♪」

「貴様の戯言は一つ評価している。言葉だけで、言葉の装飾だけで人を傷つける。
 人を絶望に堕としいれる。貴様はわらわの横で奴らに絶望を与えてやれ。
 お前は心に。そしてわらわは・・・・・・・身をもって教えてやる」

広げたジャンヌダルキエルの両手。
輝く。
光に、
光に輝く。
眩しいほどに、
太陽のように、
白く、
白く輝く。
色さえないように輝く。

「絶望が欲しいか?」

眩しい。
光。
聖。
神聖。
善なる、
悪なる、
輝かしい光。

「ならばくれてやる!!!」

一度、
ジャンヌダルキエルの両手が眩く、
一段と輝いたと思うと・・・・

「くるぞ!」
「気をつけて!」


時が止まったように、

真っ白に、
だだ、
光、
天、
宙、
ただ最上。

浮かぶジャンヌダルキエル。
そのさらなる上。
瞬(まばた)きもできぬ一瞬の瞬(またた)き。

光。
光の槍。
光の柱。
それが、
ただ真っ直ぐ、
ただ直線に、
ただ・・・天から・・・

「ホーリーフォースビーム」


落下した。


「!?」
「うぉ!?」
「くっ!」

皆が一斉に避ける。
わけも分からず飛ぶ。

「くっ・・・なんだ!?」
「光の柱?」

光の柱。
そう表現するのが的確か、
まるで雲から漏れた漏れ日のように、
まっすぐ、
光が、
一本の光が、
閃光が、
太いレーザーのように、
巨大なビームのように、

壮大な光が落ちてきた。

「い、一瞬で分かりませんでした・・・・」
「魔法か」
「ホーリフォースビーム・・・」
「そのまんま光のビームってところかしら」

「その認識でいいだろう!ハハハッ!下等なる人間にはそう認識してもらって構わない!
 だが!このホーリーフォースビームの威力を舐めるなよ低級種族め!
 ダメージ?そんな次元で計るな!食らえば・・・・・・・・・・・・・・ただの塵だ」

食らえば塵。
一撃。
致命傷などない。
ただ、
無くなる。

「さぁて・・・次は当ててみるか?どうしようか」

ジャンヌダルキエルの両手がまた輝く。

「また来るぞ!」
「気をつけて!」
「散るべきだよ!散れ!散るんだよ!」

あの一本の巨大な光の柱。
ホーリーフォースビーム。
食らうわけには、
ただ食らうわけにはいかない・・・・・。


「次は3本だ」


ジャンヌダルキエルの言葉。
それと共に、
ジャンヌダルキエルの両手が光で輝き、
炸裂するように輝く。

・・・同時、
瞬時、
刹那。
見えると同時に落下してくる・・・
光の柱。
光の槍。
光。
閃光。
3本。

「くそぉお!!!」

避けるしかなかった。
落ちて来るホーリーフォースビーム。
堕ちて来るホーリーフォースビーム。
図太いレーザー。
巨大なビーム。
光が雷のように、
ただ真っ直ぐ・・・・

「当たった奴はいねぇか!?」
「大丈夫です!」
「こっちも!」

とりあえず皆避けたようだった。
当たるか死ぬか。
天国か地獄か。
ヘブン・オア・ヘル。
一方的な攻撃。
殺戮。
命が握られているように、
遊ばれているように、
ただ、
神のオモチャのように・・・・

「5本だ」

ジャンヌダルキエルが顔が笑みで歪むと同時に、
またいっそうジャンヌダルキエルの両手が輝く。
眩く。
光の極限のように。

「絶望をくれてやる!!!!」

絶望。
落ちて来る。
光。
希望の光?
馬鹿馬鹿しい。
全てを消し去る光。
命を一瞬で昇化する光。
命を一瞬で消化する光。
希望の光なんかじゃない。
絶。
全ての望みが絶たれる絶望。

「はぁ・・・はぁ・・・・」

5本のホーリーフォースビームが落下した。
その跡。
息途切れのドジャー。
周りを確認する。
皆・・・無事だ。
なんとか・・・
なんとか・・・
だが、
いつまでも避け切れるものでもなく、
いつまでも逃げ切れるものでもなく、

ジャンヌダルキエルより遥か上から降り注ぐ光。
逃げ場もなく。
希望もなく。
ただ、
絶望。

「逃げてるだけじゃ駄目だ」

ツヴァイが言う。
漆黒のアメットの下から、
強く口調が飛び出す。

「遊ばれていい気にさせるな!」
「つっても・・・」
「逃げるので精一杯だよ・・・」

だが、
その通りで、
当たり前で、
難関だった。

「あんなとこに浮いてるやつに当たるかよ・・・」

遠距離攻撃。
ドジャーのダガー。
マリナのマシンガン。
その二つ。
遥か遠く、
遥か高く、
宙に浮くジャンヌダルキエルに命中させるにはどちらもあまりに頼りなく、
それでもやらなくてはいけないのか。

「オレが行くしかないか・・・」

ツヴァイなら・・・届くか?
いや、
際どい。
ツヴァイとてあの高さは届かないだろう。

「やるしかねぇぜマリナ・・・」
「届くには届くだろうけど・・・当たるかしら・・・」
「カッ、てめぇのポリシーは?」
「・・・・・・フフッ・・数撃ちゃ当たる・・・ね」
「悪あがきにゃ十分だろ?」
「まぁね♪」

ドジャーが両手にダガーを構える。
マリナがギターの銃口を向ける。

「無駄だよ無駄だよ!無駄だって!ドジャー!マリナ!!」

ジャンヌダルキエルの周りを陽気に飛び回るエクスポ。

「でも無駄なことなんてないよ!諦めないでねボクの美しい仲間!
 最後まで!最後の最後まで!力の一滴まで振り絞るんだ!
 それでも!それでも届かない!叶えられない!敵わない!!
 その時の君達の死に様は!積み重ねた頂点での華々しさは!」

「うるせぇぞエクスポ!!」
「あんたにも当てるわよ!!」

「当てればいいよ♪」

エクスポは軽々しく笑う。
嬉しそうに、
楽しそうに・・・
楽しみなように・・・・。

「その前に死ね」

ジャンヌダルキエルの言葉。
ジャンヌダルキエルの両手で輝く光。

「害虫め。怪我らしい生態よ。塵も残さず絶してくれる!!」

来る。
ホーリーフォースビーム。
間に合うか?
間に合わせなければいけない。
当たるか?
狙えるか?
命中するか?
・・・・自信はないが・・・・
やらなきゃならない。

「だめっ!」

マリナが叫ぶ。
間に合わない。
来る。
ホーリーフォースビームが・・・・


「なっ・・・・ぐぅっ!!!!」

その時だった。
突然、
ジャンヌダルキエルが悶え苦しんだ。
苦しんでいる。

「なんだこれは!ぐっ・・・汚らわしい!汚らわしい!!」

ジャンヌダルキエルだけじゃない。
エクスポも・・・
いや、
それどころじゃなく、
アレックスも、
ドジャーもマリナもツヴァイもツバメもシシオも。

皆、耳を押さえていた。

音。
音だ。
耳を切り裂くようなノイズ。
ここら全体に響き、
轟く・・・バードノイズ。

「センキュー!♪」

音が鳴り止むと同時に、
叫ぶ男が一人。
人でもなく、
神族でもなく、
・・・・魔物。

「ヘーイ!ロックスターのお出ましだぜぇーーぃ!」

サメ型のギターをギュイーンと弾き、
細長い右手を大きく広げた。

「探したんぜぇーぃ?このパラレルなギャラクシーの海を渡ってねぇーぃ!」

シャークは、
スーパースターの登場のように威勢よく、
ギターをかき鳴らしながら自己主張した。

「あー・・・」
「・・・・・」

だが、
シャークのテンションとは逆に、
皆のテンションは上がらなかった。

「・・・・・・?・・・・どうしたヘェーッズ?ロックスターが来たってのに盛り上がらないじゃないか。
 感性と感動のビッグウェーブに、拍手の虹が奏でられる場面じゃないかぁ〜」

アレックスとドジャーが顔を見合わせ、
首をかしげて両手を広げた。

「だって・・・・ねぇ」
「なぁ・・・」
「ツヴァイさんの救援の後ですしね・・・・」
「今更シャークが来たってなぁ・・・」

「!?俺の登場に驚愕のグレートサンダーが降り注がなかったってのかぁーい!?」

「ツヴァイの後だしなぁ」
「ギリギリ合格ラインでもエドガイさんですよね」
「それがなぁ」
「シャークさんじゃ・・・」

シャークはとまどう。
首ごと顔をキョロキョロと動かし、
皆の反応を見る。
だが、
皆無反応に近かった。

・・・
一人を除いて。

「シャーーク!」

「お?」

マリナが駆け寄り、
シャークに飛びつく。
抱きつく。

「OH!ベイビー!元気にしてたかぁーぃ?」
「もっちろん♪」

マリナはシャークに飛びついたまま嬉しそうに言う。
イスカは来てないようで良かったと思う。


「なんだ。下級種族が増えた。フウ=ジェルン。貴様の元同胞か?」
「いや、見たことないね」
「ふん。まぁいい。汚らわしい下等生物が一匹増えただけか」


「で、なんで来たのシャーク♪」
「んー?」

抱きついたまま、
ブリッコしたまま、
マリナはシャークに黄色い声で聞く。

「オゥイェー、ヴァルキリーレディーが向かうっていうからねぇーぃ。
 俺もベイビーの手助けが出来ればと思って追いかけたんだぜぇーぃ」
「知らんぞ」

ツヴァイが率直に言う。

「追いつけなかったからねぇーぃ」

マリナに抱きつかれたまま、
シャーク両手を広げて首を傾けた。
まぁ、
ツヴァイに追いつこうというのが無理な話だ。

「結構氷の城は廃墟みたいになってたから楽だったんだけどねぇーぃ。
 この世界についたら壁のないワンダフルラビリンスワールド!
 光の柱が見えたと思ってやっとここにたどり着いたってわけさぁー。
 ・・・・・・で、状況は今どんなワールドになってるんだぁーぃ?」

後から来たくせにまるで空気を読まないように聞くシャーク。
それが可愛げでもあるが、
今更・・・
今更というのが皆の率直な感想だった。
今更お前が来ても・・・。

「あぁ!めんどいねぇ!!!」

ツバメが近づき、
指をシャークに指しながら叫ぶ。

「ここはアスガルドで敵と戦ってて何匹か倒して、今も戦ってるんだよ!」
「・・・・・・・・?」
「とにかく戦ってんだよ!今戦ってるのがボスのジャンヌダルキエルで!
 その横で飛んでるのがこいつらの元仲間のエクスポってやつだ!
 神に転生させられてそれをどうにか元に戻せないかってなってんだ!」

説明ご苦労様。
そして、
そう叫びながら、
ツバメは少し下を向いた。

「そんで・・・」

力無く言う。

「トラジは死んだ・・・・」

それを聞くと、
その言葉を聞くと、
ツバメはやはり女性だと気付く、
力なく、
弱弱しい・・・
そんな・・・・

「センキュー、ゴクドーレディー。そしてごめんよゴクドーレディー。
 君の深い海の中の赤い傷を考えてやれずに歌詞を唱えてしまったぜぇーぃ」

細長いシャークの腕は、
ツバメの頭を撫でた。

「傷を忘れろなんて言わないよレディー。乗り越えろとも言わないさベイビー。
 ただ、かましてやりたいビートがあるなら俺は喜んで手を貸すぜぇーぃ」

魔物であるシャークの禍々しい顔は、
優しさの表情を見せた。

「それでだレディサジェノメン」

シャークは皆の方に話を振る。
首にはまだマリナが抱きついたままだ。

「あのエンジェルボーイを元に戻したいんだろぉーぃ?」

顔の向きも変えず、
シャークは天を指差した。
天。
そこにいる・・・
エクスポ。

「そうよシャーク」
「OK。世の中に壁はつきものだ。それをぶっ壊すのがロックってやつなんだ」

シャークはギターを構える。

「俺が元に戻してやるぜぃ」

シャークは軽く笑った。

「!?」
「なんだと!?」
「出来るのシャーク!?」
「出来る・・・とは言えないけどね。"やってやる"とは言ってやるぜベイベー」

シャークはギターを軽くかき鳴らす。
そしてその不協和音の中、
言う。

「未完成だけどね。新曲、タイトル:"レクイエム"」

大きく一度ギターを鳴らす。
レクイエム。
スキル名か。

「変身解除の効果があるんだぜぇーぃ?・・・まぁ通用するかは分からない。
 駄目かもしれないし無意味かもしれない。未完成だから出来るかも分からない」
「けど・・・」
「やってやる・・・つったよな?」
「OKコソドロボーイ。リクエストには応えるのがロックスターだからな」

シャークの微笑み。
やれる。
やれるかもしれない。
エクスポを助けられるかもしれない。
それに・・・
シャークの攻撃なら浮かぶジャンヌダルキエルにも通用する。
狙いをつける必要もなく、
ただ、通用する。
いける。
いけるかもしれない。
希望。
希望。
光。
ただ、
ただ心に光が・・・・・


「希望など・・・絶望に沈め!!!」


ジャンヌダルキエルの言葉。
希望。
緩み。
馬鹿だった。
あまりにウカツだった。
天を仰いだ時には遅かった。

目まぐるしい光。
ホーリーフォースビーム。
1・・
2・・・
3・4・5・6・・・・
幾数もの光の柱が降り注いだ。

巨大で、
強力で、
無に帰す光の柱。
希望を絶する光の柱。

皆瞬時に避けた。
飛んだ。
飛び込んだ。
体全体で避けた。

そこら中に落ちるホーリーフォースビーム。
間一髪。
ただ皆はそう避けるよう飛んだ。

一人を除いて・・・・

「あ・・・・」

ツバメは上空を見た。

目の前に広がる光。
眩しい。
光しか見えない。

ツバメの頭の中、
シャークの言葉。
変身解除。
戻るかもしれない。
それを聞いて、
頭の中を駆け巡った思い。

トラジ・・・

もしかしたらトラジを治せたかもしれない。
トラジは死ななくてよかったかもしれない。
トラジは間に合ったかもしれない。
もしかしたら・・・トラジは生きれたかもしれない。

そんな、
手遅れな思いが駆け巡り、
ツバメの頭を一時停止させた。

そして、

ツバメの頭上に絶望の光の柱は降り注いだ。

「馬鹿野郎ぉおおおお!!!!!」

誰かの叫び声。
ハッキリと、
威勢のいい声。
トラジ?
分からない。
そんな声が耳を突き抜けた。

と同時に、
ツバメの体は突き飛ばされた。

「ぐっ・・・・」

光は降り注いだ。
降り終わった。
重力が突き抜けるように、
ホーリーフォースビームは一瞬で地へと落ちた。
目の前には何も残ってない。
何も。

ただ、
その場所。
そこに、
一つだけ落ちていた。

「あ・・・あ・・・・・」

一目で分かる。
黒い。
黒い革靴。
白い靴下。
長い足首。

「・・・・ち・・違うだろ・・・・」

自分以外に、
こんな物を履いている人間は一人しかいない。
だが、
だが・・・
違うはずだ。
自分の足はある・・・
じゃぁ・・・・

「あんたなわけないだろ・・・・・」

足首を拾い上げる。
たった一つの足首。
他には何も無い。
それを
ただ拾い上げる。

「あんたがあんな大声あげれるわけじゃないの・・・・」

足首を拾い上げ、
胸に・・・抱きしめる。

「・・・・・なんであんたは・・・・人のためばっかり動くんだい・・・・・」

馬鹿野郎?
馬鹿はあんただ・・・。
組は家族だ・・・。
目の前で死ぬんじゃない・・・。

「・・・・シシオ・・・・・・・・・」

足首を抱きしめたまま、
ツバメは天を見上げ、
ただ、
言葉も・・・
心も・・・
ただ・・・・・


「あ゙あああああああああああああああ!!!!!!!」


涙はサングラスで隠しきれないほど・・・・・・・天を仰いで降り注いだ。








                 






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