「何言い出してんだトラジ!」
「おかしくなったのかい!?」

「いいや。通常でさぁ」

トラジは、
とても通常ではない目の色で言った。
本気の目。
心の底から考えつくして、結果一つしか答えが出なかったような。
間違いが存在していないような。
心から酔いきっているような。
心からソノ考えを信じきっているような。
盲目な信者の目。

「この世は間違ってまさぁ」

トラジが一歩前に出る。
ヨハネに向かって。

「親っさんの考えは間違ってねぇのに、その道の中で間違えに出くわす。
 筋通して生きてんのに、筋違いと遭遇する。こりゃぁなんの理不尽ですかい?
 つまるところこの世は間違ってる。間違ってるんでさぁ」

「それでなんで神になるなんて結論に至ったんですか?」
「そうよ!言ってる意味が分からないわ!」

「この世をソノ色に変える」

トラジは淡と言った。
淡々と、
淡白に。

「親っさんの考えがルールになる世界にする。それには力が必要でさぁ。
 俺が神になりゃぁ親っさんは神を超える。俺はそうさせるだけの力が欲しい。
 仁義の力を示す力。圧力。権力。信仰力。そして何より・・・・・・・説得力」

「カッ、馬鹿な事ずらずら言い出しやがって」
「お呼びで無いよトラジ!あんたそんなん親っさんが望んでるとでも!?」

「俺ぁ間違っちゃいねぇ!」

叫んだ。
信じきるように。
振り切るように。
ただ、
トラジは信仰しきっていた。
リュウの考えは絶対なんだ。
そしてリュウの考えは自分の考え。
間違ってるはずがない。
冥土人の地上代行人。

「ヨハネさんと同じ事言ってますね」

アレックスが言った。
ヨハネと同じ。
まさにその通り。
宗教の類と何の変わりもない。
信仰仕切った信頼。
それは神行となんら変わりはない。
それほどまでに盲目になり、泥酔したジャンキー。
トラジはそうなっているのだ。
イカれている。
狂っている。
落ちぶれてはいないが、堕ちている。
脳内、麻薬に浸ったジャンキー。
ジャンキー。
ジャンキー。
ジャンキー。

ただ、
アレックスは言った。

「ま、いんじゃないですか?」

普通に。

「お、おい何言い出してんだよアレックス」
「そうよ!トラジ間違いなくおかしくなってるじゃないの!?」
「そこは問題ですけど問題じゃないです」
「は?」

アレックスは皆を見ずに言った。

「トラジさんがヨハネさんの代わりに神になる。それに関しては願ったりじゃないですか?
 ヨハネさんが神にならず、トラジさんが天使試験で神になる。
 《聖ヨハネ協会》と《帝国アルガルド騎士団》の繋がりを消せる」

つまり、

「行動することは何も変わっていません。あの人を倒す。それだけでしょ?」

アレックスは指をさす。
その先には悠々とした顔をしたヨハネ。
ヨハネ=シャーロット。

「カッ、確かにな」

ドジャーはポリポリと頭をかきがてら納得した。

「つまりトラジがどうこうは後回しにしとこうぜってことだな」
「トラジは頭おかしくなったかもしれないけどやる事変わってないわけだしね」
「頭ぁおかしいたぁなんですか。そりゃぁ俺の親っさんへの気持ちがおかしいってことですかい?
 そりゃぁ聞き捨てなりやせんな。間違いの筋違いでさぁ。この考えに・・・」
「シシオ」
「・・・・・・・」
「おっとっと・・・」

シシオがトラジの襟をひっぱって止める。
人の抑止に使いやすい人だ。
そんなシシオをトラジが睨む。
いや、
逆に胸倉を掴んですごむ。

「シシオ。お前とて親っさんに逆らうなら・・・・。
 エンコじゃすまねぇのはミソの裏っかわで理解できるだろ」
「・・・・・・・」
「おちっ・・・・ついてくださいっ!」

アレックスがトラジとシシオを無理矢理引き剥がす。
両手で。

「もう。僕は面倒な事が大ッッ嫌いなんです。本当の本当に。
 バグるのもクサるのも僕の見てないところで好きなだけしてください」

聖職者の言葉としてはあまりに酷い言葉だが、
これがアレックスで、
彼がアレックスだ。

「そそ。俺もアレックスに賛成だ」

ドジャーの手元でダガーがペン回しのようにクルクルと回る。
それが生き物のように右手を一回転したと思うと、
ドジャーの手に収まった。

「奴を殺してから決めるぞ」

そしてドジャーが睨んだ先。
ヨハネは軽く、
そして聖人のような顔して笑った。
聖人のような。
あたかも聖職者のような。
神に遣わされた者のような。

「私の記念すべき"誕生日(ハッピバースデー)"だというのに、
 神を愚弄する者、神を軽視する者。異端者だらけで困ります」

赤ん坊のイタズラを笑うように、
小さなため息をつくヨハネ。

「これは神の地上代行者として、神罰の判断をせなばなりません」

ヨハネは右手のメイスを地面にゴトンとぶつけた。

「多数決を行う!!この異端者が無罪だと思う者!!・・・・無し!
 この異端者が有罪だと思う者!・・・私!いち!よって裁判終了!判決決定!有罪!死刑!!!」

最強に分かりやすい裁判。

「カッ!!イカれた遊びはあの世でやってな!」
「5秒で蜂の巣にしてあげるわ!」

ドジャーがダガーを、
マリナがギターを構えた。

「さっさと!」
「死んでなさいっ!!」

そして・・・・
ダガー。
マシンガン。
飛ぶ獲物。
飛ぶ弾丸。
無数+無数。
ドジャーとマリナが放つ飛び道具。
刃と弾。
一見。
一見すればそれはもう弾幕と言っていい。
雨?
この弾幕にくらべれば台風の雨さえ小雨だ。
どしゃぶりのダガーと弾丸が・・・・・・・・ヨハネを包み込んだ。

「おりゃおりゃおりゃっ!!ご馳走だ!」
「おなかいっぱいにしてあげるわ!」

投げ続けるドジャー。
撃ち続けるマリナ。
全てはヨハネに。
嵐はヨハネに。
埃と煙が立ち上がり、
それは壮絶な威力を物語っていた。

「ラストォ!」
「店じまいよ!」

最後にドジャーとマリナが双方一発ずつ放つ。

「いっちょ」
「あがり♪」

ただ煙が立ち上がっていた。
埃が舞い上がっていた。
ダガー、
マシンガン。
二つの兵器の嵐のあと、
煙が晴れると・・・・


「おぉ・・・・神よ」

ヨハネは無傷でそこに立っていた。

「私に慈悲を・・・・感謝します」

涼しい顔をして笑い、立っているヨハネ。

「んだとっ!?」
「なんで!?」

ダガーとマシンガンの嵐の中、
無傷で立っていたヨハネ。
ヨハネ=シャーロット。
彼は左手を突き出していた。
左手。
突き出した左手の前には・・・・・

盾が浮かんでいた。

「何あれ!?」
「・・・・・クレリックシールド・・・・ですね」

アレックスが言う。

「クレリックシールド?」
「それって聖職者の基本スペルの?」
「・・・・・・いえ、マリナさんの弾丸も防いでいたのでマジックシェルかも・・・」

「両方ですよ」

ヨハネは笑顔で言った。
目の前に突き出して左手。
その前に浮かぶ盾。
魔法の盾。

「クレリックシールド。マジックシェル。確かにそれは大層なスペルではありません。
 しかし、私ほど神に愛される存在であれば効果は絶大。神が如く」

クレリックシールド。
マジックシェル。
それらはそれぞれ、聖職者の低級スペルだ。
かといって軽視できるスペルでもないのだが、
それでもスペルの効果はこれほどではないはず。
物理攻撃。
魔法攻撃。
それぞれを"軽減する"程度の効果しかないはず。
だが、

「完全に防いでいるところを見ると・・・・」
「一筋縄ではいかないようだな」

「読み違えるな異端者ども異端者!異端者ども!!!」

ヨハネの笑顔がひきつっていく。

「刑罰を与えているのは私だ!私であり私以外にいない!
 私が神の代行者なのだから私にしか刑罰を与える資格は与えられていない!
 分かるか!?刑を与えるのは私でお前らは刑を受ける者なのだ!
 苦しむ受刑者は居ても・・・・・・・・・あらがえる受刑者などいない!!!」

髪が・・・
髪がまた白くなっていく。

「神の愛を!神罰を受け入れるがいい!!」

白。
髪が、
髪が白くなった。
真っ白の。
純白と言っていいほどの清らかな白。

「また白くなったぞ!?」
「どうなってんだあいつ!?」
「知りません・・・だけどあれこそヨハネ=シャーロット・・・・」

「エクレアだ」

白髪のヨハネはつぶやいた。

「私はエクレア。ヨハネ=エクレアだ」

白髪のヨハネはそうつぶやいた。

「エク・・・レア?」
「・・・・・・・・ってヨハネの双子の?」
「あれは死んだんじゃ・・・・」

ヨハネ=エクレア。
ヨハネ=シャーロットの双子の妹で、
そして・・・この世に生まれる事なく死産という形で息絶えた者。
産まれてもいないのに死。
生きてもいないのに死。
生命が輝く前に沈んだ儚き生命。

「死んでなどいない。私の中で私は生きている」

ヨハネは笑った。
つまるところ、

「二重人格?」
「いえ、魂が二つあると考えるのが一番でしょうか・・・・」

一つの体に二つの魂。
よく聞く話だが、
実際に目をすると疑問も映る。

「全く・・・私(シャーロット)はいつも私(エクレア)に死刑執行を任せるのだから。
 私ばかりが忙しくて困ってしまう。血は好きなのだけどね」


裁判官。
黒髪。
ヨハネ=シャーロット。
死刑執行人。
白髪。
ヨハネ=エクレア。
黒。
白。
判断者と、実行者。
決断者と、決行者。
シャーロットが決めて、エクレアが行う。
黒と白。
オセロのように裏返し。
いつだって黒の裏には白があり、
その逆もしかり。
オセロのような裏返し。
黒が先という意味でも同じ。
『ゼブラヘッド』ヨハネ=シャーロット。

「私は神の地上代行人。神罰をこの手で下せるのは誇りなのです!!
 神のご加護があらんことを!願い!私(エクレア)が罰っしましょう!!」

「来るぞ!」

「神罰をくらいなさい!!!」

凄い形相で・・・・
我を忘れたような形相でヨハネが突っ込んできた。
美しい顔が台無しだ。
男のような女のような美しい顔が台無しだ。
だが、
それは喜びに満ちている。
神に代わって神罰を、死刑を行える喜びに。

「ジャァーーージメンッ!!!!」

「うわっ!」
「きゃっ!?」

ドジャーとマリナが居た位置に叩きつけられるメイス。
ヨハネのメイス。
それがおもくそに地面に突き刺さると、
地面が砕けて跳ね上がった。
そして・・・
十字架のような残像が残った。

「なんだこいつのこの攻撃力!?」
「あんなキャシャな体になんでこんな力が!?」
「ホンアモリです!!」

「ジャァーーージメンッ!!!」

「わっ!?」

アレックスの位置に叩きつけられるメイス。
斧より、
ハンマーより、
どんな武器よりも強力に叩きつけられるメイス。
ただのメイス。

「危ないですね・・・・」
「おいアレックス!あれがホンアモリってどーゆーこった!?」
「さっきのクレリックシールドのように、強力なホンアモリと思うしかありません!」
「カッ・・・分かりやすい説明ご苦労さん」

「ジャーーージメンッ!!」

また地面が砕ける。
ここの誰よりも強力な一撃。
ホンアモリ。
物理攻撃力を増強するスペルなのだが・・・
どう考えても非力に見えるヨハネにホンアモリが付加されたところで、
これほどまでの威力になるとは考えづらい。
だが、
実際にそれほどまでに攻撃力が激増している。

「実体化に近いほどのクレリックシールドが出せるんです。
 攻撃後に十字架の残像が見えるのはそれほど高威力なホンアモリということだと・・・・」

攻撃の際にホンアモリの効果が目視できる威力。
そんな威力のホンアモリは初めてだった。

「神は私(私)に力を与えてくださったのだ!私(私)は神に選ばれし者!!
 神罰を受けろ!死刑!!死刑!!死刑死刑死刑!!!!ジャッジメント!!」

ヨハネが振り下ろしたメイス。
それはトラジに向かった。

「神がなんぼのもんでさぁあ!!!」

その高威力かつ、ただの殴り攻撃。
ヨハネのメイスを避けようともせず、
トラジは木刀で防いだ。

「ぐっ・・・・」

「おっと。神罰が届かないなんてことは初めてですよ」

「うっせぇぇええ!てめぇがどんだけ神を崇拝してようが間違ってんだよ!
 間違ったもんが人の上に立とうなんておこがましいってぇもんで!だから・・・・」

トラジがヨハネのメイスを弾き、
木刀をふりかぶる。

「俺が神になってやるっ!!そこをどけぇええええ!」

そしておもくそに振り下ろした木刀。

「だが神は私を愛します」

さっと突き出す左手。
ヨハネが左手を突き出すと、
その空中に構成される盾。
クレリックシールド。

「くそっ!!」

おもくそに振り落とした木刀は、
ヨハネのクレリックシールドに阻まれる。
ビクともしないほどに、完全に止められた。

「くそっ!くそくそくそくそ!!!!」

効かない。
だが、
そんなことも理解できないようにトラジは木刀を振り続ける。
クレリックシールドに向け、
何度も何度も木刀をぶつける。
壊れたおもちゃのように。

「くそくそくそくそ!!俺は間違っちゃいねぇ!間違っちゃいねぇはずだ!
 そうだろ!!そうだろ親っさん!なぁ!なああああああああああああ!!!」

馬鹿のように。
阿呆のように。
木刀をヨハネにぶつける。
それは全てクレリックシールドに阻まれる。
それでも壊れたように。
いや、壊れた頭で殴りつけ続ける。

「愚かな異端者ですね」

「あんたもだよっ!」

「!?」

気づいたときには遅かった。

「こっちは6人いるからねぇ」

ヨハネの背後にはツバメがいた。
小さくほくそ笑むツバメ。
その手には一本のダガー。
それはヨハネの背中に突き刺さっていた。

「ぬ・・・ぐ・・・・」

ヨハネの背中から止めどなく流れる血液。
即死。
通常なら即死の傷だ。
ただの背中への一撃ではなく、
ツバメの、
"殺すためだけ"の一撃。
暗殺のためだけの。
一殺するためだけの一撃なのだから。
ツバメがダガーを抜き取り、
勝利の笑みがこぼれる。
だが、

「異端者だが!!」

「なっ!?」

ヨハネは左手ではらいのけ、
ツバメは吹き飛ばされる。

「チッ!なんでだい!確実に仕留めた手ごたえだったのに!」

ツバメは吹っ飛ばされた先に体勢を整える。
だが、
確かな手ごたえを感じたのに関わらずヨハネは生きていた。

「お前もだ!」

「くっ!」

ヨハネが力任せにメイスを振り切ると、
木刀の上からトラジも吹っ飛ばされる。
そしてヨハネの方はというと、
自身の体が軽く輝いていた。
光に包まれていた。

「どうなってんだ・・・俺から見ても今のは決まったように見えたぜ」
「あの光・・・」

アレックスが見る。
ヨハネを包む光。

「リバイブ?」
「あん?」
「蘇生ってこと?」

「私は二人。私と私で私なのだ」

ヨハネはその整った顔つきで、
無表情に言った。

「私はヨハネ。エクレアでシャーロット。二人で私。
 一方の魂が吹き飛ぼうが、もう一方の魂が残る。ならば蘇生すればいい」

ヨハネは両手

「私(エクレア)が死んだら私(シャーロット)が蘇生する!
 私(シャーロット)が死んだら私(エクレア)が蘇生する!
 故に!神に愛されし私(私)は死なない!死などない!!」

魂の共有。
それは・・・言い方を変えれば予備があるということ。
通常死んでしまう場合でも、
もう片方の魂が蘇生する。
回復する。
魂のバックアップ。

「カッ、ただの1人2役じゃないってことか」
「まさに一筋縄じゃいかないってことね」
「・・・・・」
「ん?どうしたのアレックス君?」
「あ、いや・・・なんかひっかかるなぁって・・・」

だが考えても出てこない。
なんというか、
ただの疑問。
たいしたことでもないような、
漠然とした・・・というか"性格上"疑いたい何か。

「いやまぁ・・・・ヨハネさんって凄いですね」
「いきなり敵褒めてんじゃねぇよ」

怒られた。
が、
そこだ。
そこな気がする。
でも気づいたところで何も変わらないような何か・・・。

「執行人はただ執行する。それは使命なのです。私が死刑を行い、あなた方は死ぬ。
 それだけ。結果は決まっているのです。決定事項。神によって決定されているのです。
 神のみぞ知る(God Knows)。それは神に運命の決定権があるからこその言葉」

そしてヨハネの目がギロリと睨む。

「・・・あれ?」

その目。
その指す方。
アレックスはキョロキョロと見回す。

「ぼ、僕ですか?」

何故かヨハネの目はアレックスの方を見ていた。

「貴方。聖職者のようですが神への信仰心が見られません。
 なのに聖を職にするなど笑止。いや、笑って終われることではありません。
 故に・・・・・・ジャッジメン!判決!即決!即行!死刑!」

「うわ・・・」

アレックスは後ろに下がろうとする。
だがそれよりも早くヨハネが飛び出した。

「死刑!!死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑!!死刑!!!!!!」

凄い形相で走りこんでくる。
メイスを持った、
美しい顔の男が凄い形相で走りこんでくる。

「わわっ!まったまったまった!」

何も作戦考えてない。
なのに相手は自分めがけて突っ込んでくる。
うーん。
結論。
即決。
即行。

「退避!」

主人公とは思えないほど完全に、
完璧に自分だけ背中を見せて逃げ出した。

「おまっ!逃げてんじゃねぇよアレックス!」
「あー・・・えーっと・・・オトリです!この隙にやってください!」
「今考えただろ!」
「大事なのは結果でしょう!」
「うるせぇよ!」

ヨハネはアレックスを追いかける。
アレックスは一目散に広い部屋を逃げ回る。

「死刑!!死ね!死ね死ね!!逃げなくてもよいのです!死は怖くないですよ!」

「怖いですよ!」

血まみれのメイスを持って死ね死ね死刑死刑言って追いかけてくる者がいるのだ。
怖くないはずがない。

「異端者とて!みんなで死ねば怖くないですよ!」

「その考えが怖いですよ!」

「むしろ死ではないのです!救われるために命を・・・・むっ」

ヨハネが左手に盾を形成する。
クレリックシールド。
物質化していると言っていいほどの強力な魔法盾。
そしてダガーが弾き落とされた。

「チッ!案外視野でけぇな」

ドジャーは舌打ちをした。
横から投げたダガーはヨハネに簡単にガードされた。

「私は神に守られているのですから」

「そうかい。ならあの世で神様によろしくな」

ドジャーが中指を立ててニヤりと笑った。
そしてヨハネ。
ヨハネの逆方向。
ドジャーに注意がいった逆側。

「むっ!?」

「・・・・・・・・・ルナス・・・」

ルナスラッシュ。
シシオだ。
シシオが切り込んでいる。

「神になるべきこの私をなめるなああああ!!」

反射神経もなかなかのものだった。
逆側から不意打ちで斬りこんできたシシオ。
その攻撃。
それにも瞬時に反応し、
右手のメイスをぶつける。

「・・・!?・・・」

ガキンッと音が鳴り響いたとき、
シシオは腕を振り切っていた。
振り切る。
つまりそれはヨハネの体を切り落としている。
そういうこと。
そういうことだったはずだが、

宙を舞っていたのはシシオの刀の方だった。

「・・・・・・・折れ・・・・」

シシオの刀は根元から折れていた。
メイスとぶつけたのだ。
細身のシシオの刀など簡単に吹き飛んだ。

「・・・・・くっ・・・・」

シシオはすぐさま下がる。
武器を折られたのだ。
下がるしかない。

「逃がしませんよ!神に代わりあなたを罰っします!!」

だが逃がしてくれるわけもなく、
シシオを追いかけるヨハネ。
丸腰のシシオ。
だが、
そのヨハネの足元で銃声。
マシンガンが行く手を阻む。

「させるもんですか!」

マリナのマシンガンが、
ヨハネの行方をさえぎる形になった。

「シシオ!あんた武器それ一本でしょ!?」

シシオの腰には鞘が一つ。
それが壊れた今・・・・

「・・・・・・あるよ・・・・・・・・」

そう言い、
シシオは背中に手を入れる。
そして背中からスルスルと出てきたのは、
予備らしき刀だった。

「・・・・・・・・ほんっとになんでも持ってるわね・・・」
「あいつの懐は異次元かなんかか・・・・」
「ドジャーさん!マリナさん!」

ドジャーやシシオのお陰で追われる身から開放されたアレックスは、
叫んだ。

「両サイドに散ってください!」
「あん?」
「どゆこと?」
「左右からダガー投げとマシンガンで攻撃するんです!
 見たところ左手でしかシールドの形成はできないようですから・・・」
「カッ、なるほどな」
「了解!」

挟み撃ち。
それならばガードできない。
ドジャーは両手にダガーを構え、
マリナはギターを抱えるように走り出す。

「おぉ・・・神のお導きですね。作戦などというものを私に伝えてくれるとは。
 分かっている事など実行されはしません。神は私に救いをもたらしてくれています」

ヨハネも走り出す、
ドジャーとマリナに挟まれないよう、
位置関係を計算しながら走り出す。

「うげっ・・・」
「きしょ・・・」

何が気色悪いかというと、
ヨハネ。
ヨハネの目は走りながらも両の目は別々の方を見ていた。
片目はドジャー、
片目はマリナ。
両サイドから挟もうとしている二人を同時に見ていた。

「私と私。私は二人で私は一人。シャーロットでヨハネ。エクレアでヨハネ。
 私(私)は神が授かった奇跡。意志は二つであり一つ。こんなことだってできるのです」

同時に二方向の確認。
魂が二つあるからこそ出来る・・・と本人は言っている。
神の奇跡とも言っている。
だがまぁ・・・
もう違う意味で人外レベルだとも思う。

「神の恩恵を受けている私。立ち止まるのは私ではなくあなた方だ。
 私は負けない。神のご加護の中、それは無敵と言ってもいいほど完全。
 神が全てを司っておられるのであれば・・・私は神に愛された最高なのですから!」

挟めない。
神どうこうは別とし、
ドジャーとマリナがヨハネを挟もうと思っても挟めない。
ドジャーほどの素早さを持ってしても、
それは容易ではなく、
出来なかった。

「じゃあうちらで時間稼ぎだねぇ!」
「・・・・・・・・」

ツバメ、
シシオ、
そして・・・・・・・トラジ。
3人のヤクザ。
彼らは一斉にヨハネへ飛び込んだ。

「死んじまえ!!!」
「・・・・・・・殺・・・」
「ヤクザなめんじゃないよ!」

ツバメのダガー。
シシオの刀。
トラジの木刀。
それらが飛び掛る。

「2対3ですか」

ヨハネは言った。
1対3だと思うが、
ヨハネは自分を二人だと言う。
シャーロットとエクレア。
二重人格。
二人で一人。
一人だから二人。

「神の前。神の下。ならばどんな事も奇跡と等価値にこなせます」

所詮一人。
魂が二つあろうが、
シャーロットだろうがエクレアだろうが、
体は一つだ。
だが、
ヨハネは一人で戦えた。

「くそっ!あたんないよ!」
「こざかしでさぁ!!」

3人で攻撃している。
だがヨハネに攻撃が当たらない。
シールド。
メイス。
それで3人の攻撃全てを受けている。

「・・・・理論的には3人同時に攻撃すれば当たるはずなんですが・・・・」

だが、
ツバメ、シシオ、トラジの攻撃は当たらなかった。
なんで?
それは遠目で見ているアレックスには分かった。
それはヨハネが凄いから。
・・・・・・というのもあるが、
それ以上に・・・・・・。

「足引っ張りすぎですね・・・・」

完全に殺すためだけの一点に集中する、
ツバメ。
共同戦線ではリーチが逆にアダになる攻撃範囲が広すぎる、
シシオ。
周りも見えず、その破壊的な一撃を叩き込む事しか考えていない、
トラジ。
お互いがお互い戦いににくそうだった。

「おいおい・・・同じギルドだろが・・・」
「何やってんのあんたら・・・」

というのも、
《昇竜会》自体、真っ直ぐな戦い方をする奴らだ。
あまり普段から多対一などしないのだろう。

「ってか俺ら挟めたんだけど・・・」
「邪魔で撃てないわ・・・」

ドジャーとマリナは、
トラジ達が相手をしてくれたお陰で挟み撃ちの出来る位置につけた。
だが、
3人が接近戦をしているせいで攻撃できなかった。
邪魔だ。
当たってしまう。

「トラジさん!ツバメさん!シシオさん!ありがとうございます!下がってください!」
「チッ、悔しいけど分かったよ!」
「・・・・・・・・」

ツバメとシシオが下がる。
特にツバメは一撃にかける戦い方なせいで歯がゆそうだったが、
しょうがないく二人は下がった。
だが、

「うるせぇうるせぇうるせぇ!!!」

トラジは下がらず、
ヨハネを攻撃し続けていた。

「おいトラジ!下がれって!」
「邪魔だよトラジ!」
「撃てないのよ!」
「所詮相手は一人!もう十分勝てるんです!」
「うっせぇって言ってんだろが!!!」

トラジは木刀を振り回していた。
やけくそにも見える。
とにかく殺意のみでヨハネに攻撃していた。
ヨハネにとってそんなものは楽この上なかった。

「愚かですね。神を信じていない者は皆このように愚かなのですね」

「うっせぇ!てめぇを殺す!殺してやる!俺の筋の邪魔なんだよぉ!
 てめぇは間違ってんだ!俺は間違ってねぇ!間違ってなんかいねぇんだよ!」

「その考えは危険ですね。神の道と違う道を歩んでおいて自分を肯定する。
 とても愚かです。神こそ全てであることを理解しなさい異端者」

はたから聞くと・・・
まるで子供のケンカの延長線上のようにも聞こえる。
お互い、
自分の考えを第一とし、
人の考えを無視する。
無視するというか聞く耳をもたない。
頑固の極地。

「うっせぇんだよ!!」

トラジが振り切る木刀。
それは空中に形成されたクレリックシールドにガードされる。
だが、
まるで自分の頑固な意志。
ただ前だけを見すぎている意志のように、
木刀で押し切ろうとする。

「俺はこの道を行く・・・・それ以外は全て邪魔なんだ!
 俺を阻むものは全てどかす!邪魔だからな!
 そして神になるためにてめぇを殺す!邪魔だからだ!」
「おい!邪魔なのはてめぇだトラジ!」
「もうあんたごと撃っちゃうわよ!」
「うっせぇ!黙ってろあんたらぁ!あんたらも俺の道を邪魔すんのか!?
 俺の道は親っさんの道!間違いも疑いようもねぇ最強の道なんだ!
 それを信じて動いてる俺に・・・間違いなんかねぇ!間違いなんかねぇんでさぁよ!!!」

言い聞かせている。
自分に言い聞かせているようにしか聞こえない。
だが、
言い聞かせながらも決心している。
それが何よりも不安定でたまらなかった。

「クソッ!しゃーねぇ!」

ドジャーは・・・投げた。
ダガーを。
一本だけ。
もちろんトラジに当たらないように。
だが、
そんな慎重な一本程度はヨハネに筒抜けで、
ヨハネは軽くメイスを掲げる程度でダガーを防いだ。
ドジャーの方に興味も言っていないように。
いや、
むしろヨハネは笑顔でトラジを見ていた。

「あなたは心に信じる人がいるのですね」

「あん!?なに言ってるんでさぁ!?」

トラジの木刀を左手で形成した盾で防ぎながら、
ヨハネは涼しい顔で言った。

「それはよい事です。それが神ならなお善くて、神でなければ悲しい事ですがね。
 あなたの信じる者。私の信じる者。すなわち神。どちらが優れているか分かるでしょう?」

「へん!親っさんのが何倍もいいぜ!」

「神より優れた者などいないのです。神を信じなさい」

「それを証明さすために・・・俺はてめぇを殺して俺が神になる!」

「あなたがその者を一人で信じていようが・・・所詮一人でその程度の者。
 私(私)は二人で神を信じている。双方的に優れています。
 まず神を信じましょう。次に神を崇めましょう。話はそこからです」

「俺は間違っちゃいねぇえ!間違っちゃいねぇんだ!」

「やはり異端者に救いはないですね」

ヨハネは盾でトラジを防ぎながら、
もう片方の手を振りかざした。
メイスを。

「ぬ?」

だが、
瞬間。
ヨハネは身を引いた。
咄嗟に体を退いた。

「・・・・やっぱ駄目ですね」

ヨハネが居たところ。
そこ。
その足元には魔方陣が形成されていた。
アレックスのパージフレアの魔方陣だ。

「全部コレのための布石だったんですが・・・・。
 トラジさん巻き込む可能性がありますし、作戦失敗です」

パージで一撃。
ドジャーとマリナに興味を与えておいて、
特大のパージで不意撃ち。
一撃で倒しきるために集中していたが、
それも無駄。

「二魂の視野。馬鹿にしないでいただきたい。二魂だからこそ、
 私(私)は二人がかりだからこそ、全ては二倍。全ては二通り行えるのです。
 シャーロットは考え、エクレアも考える。不意打ちが何度も通用するとでも?」

「不意打ちは失敗ですけど、作戦はなお順調ですよ」

「なんだと?」

「だってあなたはトラジさんから離れた。それだけでいいじゃないですか」
「そゆこった」
「終わりね」

両サイドにはドジャーとマリナ。
つまり、
挟み撃ちは順調に、
そのままに。

「チェックメイトだ」
「残念しょー♪」

ドジャーの両手には4本づつのダガー。
マリナの手の中にはギターという名のマシンガン。
このまま両サイドの攻撃。
それで。
それだけで完成。
守りきれない。
チェックメイト。

「フフッ・・・・」

だがヨハネは笑った。

「神とはいつも冷静で、一回り上をいっているからこそ神の力なのですよ」

冷静に、
追い詰められた様子もなく、
ヨハネは笑い・・・・

「盾を一つしか形成できないなんてものはあなた達が勝手に思った事」

そして、
言葉どおり。
その言葉の通り。
ヨハネの両サイドに盾が現れた。
ヨハネの両肩前。
空中に二つの盾が浮遊する。

「私は二つの魂を所有している。エクレアでシャーロット。
 スペルも二つ同時に発動できるのですよ」

「チッ・・・クソ・・・」
「まだ詰めないっていうの?」
「1対6なんだよ・・・・」

浮遊する2対の盾。
あれならドジャーとマリナの攻撃を同時に防ぐ事ができる。

「魂が二つあるっていうのはいいですね。なぁ私(エクレア)。
 私(シャーロット)は凄く嬉しいよ。これこそ神のご加護なんだろうね。
 私は神に愛されているし、私(君)も神に愛されているんだね」

ヨハネの体が輝いた。
白い髪。
逆立つように。

「君にばかり処刑をさせてごめんよ私(エクレア)。でも悪い事じゃない。
 彼らは救いを求めているんだ。死という救いをね。
 それを君(エクレア)が私(シャーロット)の代わりに下しているだけなんだ。
 だって・・・私(私)は・・・・・」

そして、

「神に愛されているのだから・・・」

光の・・・
輝く天使の翼が噴出した。
背中から。
ヨハネの背中から光の翼が生え上がった。

「なっ!?」
「羽!?」
「転生したのか!?」

光輝く天使の羽。
両肩に浮遊する盾。
美しい素顔。
純白の白い髪。
神。
神に見えないといえば嘘になる。

「いえ・・・」

アレックスは否定する。

「天使の翼・・・・聖職者のスペルです・・・・」
「ビ、ビビった・・・間に合わなかったかと・・・・」
「どんなスキルなの?」
「死亡時に武器を紛失しなくなるスキルです」
「え・・・・・あんま今の状況じゃぁ意味ないんじゃないかい?」

光の羽を生やしたヨハネは、
見下すように、
余裕の極地のような顔をして言った。

「特に意味はない」

「ないのかよ・・・・」

「だがこの神々しさが分からないのですか?これぞ神になるべき者の姿。
 この光の翼。美しい。私と私は神になる。神になるのです。
 あぁ私(エクレア)。君ばかりが処罰をする日はもう終わるんだ。
 私は私。私で私。私が私で私の私。私達は私なのだから」

二人で一人。
ヨハネ。
ヨハネ=シャーロットでヨハネ=エクレア。
シャーロットは裁く。
エクレアは刑する。
黒は決める。
白は行う。
黒。
白。
黒と白。

「でもですね・・・・」

アレックスは笑う。

「やっぱり僕達の勝ちなんですよ」

「なんだと・・・・?・・・ぬっ?!」

ヨハネが気づく。
足元。
自分の両足。
蜘蛛の巣。
がんじがらめにされている。
スパイダーウェブ。
二つのスパイダーウェブがヨハネの足を絡みとっている。

「カッ!盾もクソも関係あっかよ」
「蜘蛛は効くんだろ?」

ドジャーとツバメのスパイダーウェブ。
二つの蜘蛛の糸がヨハネの足を絡みつける。

「こしゃくなっ!神になる私の足を地に縛り付けるなどと!」

「結局のところ6対1って事なんですよね。どうとでもなるんです。
 貴方が神になるような人だろうが関係ないです」
「カッ、"袋叩きには敵わない"ってなぁ。世の中悲しいよなぁ」

「ふん。異端者どもがいい気になりおって。だからどうだというのだ?
 私の動きを封じたところで同じだ。私には二つの盾がある。
 私(シャーロット)の盾と私(エクレア)の盾だ。飛び道具は効かん」

「接近戦なら負ける気はしないって?」
「いい気になってくれんじゃないかい」
「でも無理でしょ?実際」

「戯言を」

「今度は確定です。貴方は盾は2つまでしか出せない。
 それもクレリックシールドとマジックシェル。1つずつだけです」

「・・・・・・・」

「ドジャーさんの攻撃は物理。だからクレリックシールド。
 マリナさんの攻撃は魔法。なのでマジックシェル。
 つまり物理攻撃は防げるのはクレリックシールドだけって事です」

「だからどうしたというのだ!」

光の羽生えし二重人格は、
イラついた表情を見せた。

「接近戦は同じ事だ!同時に戦える人間の数など限られている!
 それだけならシールドとメイスで私は戦える!私(私)は戦えるのだ!」

「じゃぁお話をリセットします」

「・・・・?」

「いやー、せっかく見破ったんでその辺言ってやりたかっただけなんですよね。
 つまりこーすれば簡単にあなたを倒せるわけですよ」

そう言い、
アレックスは槍を地面に突き刺した。
そして、
両手で十字を書く。
十字を描き、
両手の指先をヨハネに向ける。

「!?」

ヨハネの足元に、
二つの魔方陣が現れた。

「盾があろうがなかろうが、地面からの攻撃は防げないでしょう?
 それも2本ならなお確実ですよね?マジックシェルは1つですし」

パージフレアの魔方陣が二つ。
ヨハネの足元に現れる。

「クソッ!」

逃れようとするが、
スパイダーウェブがヨハネの足に絡み付いて動けない。

「今度こそチェックメイトだな」
「終わりよ」
「1人相手にいちいち疲れたねぇ・・・・」

「1人ではない!私は私だ!私(私)なのだ!
 シャーロットでエクレア!それが私なのだ!
 私(私)は神に魅入られた者!神の加護を受けし男(女)!
 こんなところで!こんなところで滅するわけがないのだ!」

「あんまり関係ないけど、終わる前に・・・そこだけはっきりさせておきましょうか」

アレックスは、
両手の指を向けたまま話す。
話し始める。

「あなた。二重人格じゃないでしょ」

「!?」

ヨハネは表情を変えた。
明らかに。

「どゆことアレックス君?」
「こいつにはエクレアの魂が入ってんじゃねぇのか?」
「いやー、僕あんまりそーいうの信じたくないんですよね。
 デムピアスさんの魂の件もありますから理論的にありえるんですけど、
 それでもやっぱ人間ですしね。そんなメルヘンな話、まず疑っちゃいます」

「何がメルヘンだ!私には神がついている!神はどんな奇跡でも起こす!」

「おかしいな?と思ったのはやっぱ二重人格っぽくないからです」

「二重人格っぽくないって・・・」
「髪とか変わってたぜ?」
「その辺はよく分からないですけど、
 だって髪変わろうが性格変わろうがあんまり関係なかったですもん」
「変わってなかったって?」
「白髪のエクレアさんの時に人を罰するって言ってましたけど、
 黒髪の時でもバリバリ人殺してましたし、二役で戦ってた感じもしませんでした」
「あー」
「まぁそうだねぇ」
「戦闘中いちいち髪の色変わったりもしなかったもんね」

「ふん!戯言だ!だが私の能力についてはどう説明する!?」

「それはただ凄いなぁーって感じです」

なんか気のぬけた説得力のない口調でアレックスは言った。

「凄いって・・・」
「おま・・・便利な言葉だなオイ・・・」
「だって《聖ヨハネ協会》は15ギルドの一つでヨハネさんはそのギルマスですよ?
 《GUN's Revolver》のマスターのミダンダスさんは、
 高等スペルを3つほど同時に発動してましたし、
 《メイジプール》のマスターのフレアさんはメテオを重ねて一斉発動なんてことしてました。
 ヨハネさんはもう普通に究極の補助スペシャリストってくらいなもんでしょ」
「ツバメの攻撃で死ななかったのは?」
「殺しきれなかっただけです。もともと能力あげてたんでしょう」
「なんかあれだな・・・」

ドジャーはポリポリと自分の頭をかいた。

「そー言われると普通だな・・・
 クレリックシールドとマジックシェルもさっき言ったみてぇに同時に発動してただけだし、
 そんなんそこらの聖職者でもできるもんな。効果が凄いってだけでよ」
「やっぱ凄いで片付くでしょ?」
「なんかムカつくな・・・・」
「でもなんでわざわざ二重人格のふりなんかするんだい?」
「それは・・・・」

アレックスはヨハネを見る。
睨むでもなく、
哀れみに似た目で。

「罪悪感を消したかったんでしょう?」

「何を・・・・」

「あなたは殺しすぎた。殺して殺して、自分の判断を神のせいにして殺しに殺した。
 信じきったイカれ人間なんかじゃない。ジャンキーに違いありませんが・・・・
 あなたは人を殺す事に少なからずの抵抗があった。そうでしょう?」

「ふざけるな!神の行いは天罰!何一つ不自由などない!
 天罰の決行は私(エクレア)の仕事!それは救いを与えてやる事だ!」

「殺しの理由を・・・罪悪感を・・・居もしないエクレアさんに押し付けた。そうじゃないんですか?」

「!?」

ヨハネは歯を食いしばった。
眉は・・歪んだ。

「判断は下す。正しい事をしている。でも・・・・殺すのはエクレアだ。自分じゃない」

「ち、違う!」

「殺すのはエクレアだ」

「違う!!」

「殺すことに罪悪感などなかったと?」

「そうだ!死は救いだ!死は神の恵みなのだから!」

「じゃぁなんで死んだエクレアさんが貴方の中にいるなんて言うんですか」

「・・・・・・・・・・」

「死は救いなんでしょう?彼女は救われもせず、あなたの裏側に魂が残ったっていうんですか?」

「違う!エクレアは神に選ばれたのだ!だからこそ・・・・」

「さっきからエクレアさんの意見が聞こえませんけど」

「ぐっ・・・」

「早く代わったらどうですか?エクレアさんのフリをする変態さん」

「うるさい!!うるさいうるさいうるさいうるさい!・・・・・死刑だ!
 死刑死刑死刑死刑死刑!!神を信じぬ異端者がくだらぬ事を!
 死刑だ!死刑!世迷いごとばかりぬかしやがって!この異端者!
 死ね!死んでしまえ!消えろ!天罰だ!奇跡も信じないくだらない・・・・」

アレックスの表情が変わる。

「罪悪感を丸投げするクセに・・・・罪悪感を背負う勇気もないのに人を殺すな!!!」

そしてアレックスは・・・
両手をクロスさせるように、
X字を描くようにあげた。

「ぐあああああああああああああ!!!」

二つの魔方陣から、
パージフレアがX字を描くように吹き上がった。
蒼白い。
聖なる炎。
それが・・・・
ヨハネを包んだ。



























-------------------------------------------

























「だからヘンゼルとグレーテルはお菓子の家で・・・・あらもうこんな時間」

母は時計を見ると、本を閉じた。

「えー、母上。もっと本読んでよー」
「もう遅いから寝なさいシャーロット」
「続きはー?ヘンゼルとグレーテルはどーなったのー?」
「続きは明日ね明日」

母はシャーロットの頭を軽くなで、
ベッドの上のシャーロットに布団をかけなおしてあげた。

「ちぇー」

シャーロットはムスっとしながら、布団の中で口を尖らせた。

「僕も妹が欲しかったなー」

シャーロットがそう言って布団の中でつぶやくと、
母の動きが止まる。
もう電気を消して部屋から出ようと思っていた母。
だがその体は止まった。

「・・・・・・・・」
「どうしたの母上?」
「・・・・・・・」

母は少し震えている様子だった。

「・・・・・・・シャーロット」
「うんー?」
「あなたにも妹がいたのよ」
「え?!」

シャーロットは布団から飛び出した。

「どこ!?どこどこ!?」
「お空の上よ」

母はシャーロットの頭を撫でながら言った。

「お空?」
「そう。天国(アスガルド)。本当は貴方と一緒に産まれてくるはずだったんだけどね・・・・」
「死んじゃったの?」
「・・・・・」

子供のシャーロットにも、
それは理解できた。

「ねぇ、母上」
「うん?」
「僕の妹はなんて名前だったの?」
「名前か・・・・私はお墓にエクレアって刻んだわ」
「エクレア?」
「そう。あなたはシャーロットで妹はエクレア。
 両方ともお菓子の名前よ?私も子供の頃ヘンゼルとグレーテルが好きでね」
「お菓子の家!」
「そう、兄弟でお菓子の家に行くのが夢だったのよ」
「へー」
「エクレアは死んじゃったけど・・・」

母は優しく微笑んだ。

「今はあなたが一番大事よシャーロット」

その優しい笑顔。
天使のような、
そんな笑顔。
素晴らしい、
母親の鏡のような微笑。
そんな笑顔。
その笑顔を見るとシャーロットは・・・・・



死ぬほど憎らしかった。















妹が居た。
僕の妹。
一緒の妹。
エクレア。

なのに、
なのに僕だけ生きて、
なんで妹は死んだんだろう。

僕は幸せだ。
なのに、
なんで妹は幸せじゃないんだろう。

母上は、
同じ子供なのに、
なんで僕が一番なんて言うんだろう。

不平等だ。
神様は凄く不平等だ。
不平等じゃないというのなら、
どこが平等なんだろう。

そうか。

僕は生きて幸せだけど、
妹は死んで幸せだったんだ。

死は幸せだったんだ。







「母上。父上。幸せですか?」

シャーロットは、
血まみれのメイスも持って言った。
12歳の時だった。
肉塊になった母と父は、
シャーロットの手によって"幸せになった"

「ずるいなぁ、母上と父上だけ幸せになって」

そう言うシャーロットの手は震えていて、
顔はひきつっていた。
無理矢理表情を笑顔にしていた。

「お、おかしいなぁ・・・この間呼んだ聖書(バイブル)にも死は救いだって・・・」

血まみれのメイスはボトりと落ちた。

「いや・・・いや・・・私は正しい事をしたんだよな・・・そうだそうだ・・・。
 死は救いで死は幸せなんだ・・・・私は・・・・親孝行をしたんだな・・・。
 ハハッ・・・・父上母上・・・私を生んでくれてありがとう。だから私はあなた達を殺しました」

ひきつった血まみれの顔で、
シャーロットは洗面所へかけこんだ。
血が何か気味悪かったからだ。
流したかった。
流し落としたかった。

「ハァ・・・ハァハァ・・・・へへっ・・・いいことした・・・いいことしたなぁ・・・・」

言い聞かせるように、
シャーロットは自分に問いかけた。

「アスガルドでみんな親子水入らずなんて・・・ずるいなぁ・・・ハハッ・・・
 私も・・・私もすぐ行くからね・・・・死は救いなんだから・・・怖くなんか・・・・」

だが・・・
手は震えた。
自分が、
自分が殺した。
自分が、
殺した。
殺した殺した殺した殺した。
母を。
父を。
血まみれの。
肉塊の。
あれが幸せの形なのか?
殺し・・・
殺し・・・・
いや、
殺してなんかいない!
死刑は殺しじゃない!
救いを与えたんだ!
僕は、
私は、
私は、
殺してなんか・・・・

「・・・・!?」

極度のストレス。
死を与え、
死を失い、
死をもらい、
死を極限まで実感したシャーロットは、
ストレスで頭がいかれそうになった。
そして、
鏡を見た。

「白い・・・・」

髪の色はストレスで抜け落ちていた。
真っ白に。
純白に。
美しいほどに。

「・・・・誰?」

シャーロットの思考回路は、
すでに普通の判断ができなかった。
鏡に映っているもの。
それが自分だと判断できなかった。

「・・・あぁ・・・」

窮屈に笑う鏡の中の人間。
白い、
白い髪をした"自分にソックリ"な人間。

「君がエクレアか」

シャーロットは鏡に両手をついた。

「そうか・・・ずっと居てくれたんだね・・・・母上と父上を殺したのは君か!
 エクレア!そうだよね!幸せの国に私達を導きたかったんだよね!」

シャーロットがうんうんと頷くと、
目の前のエクレアも頷いた。

「分かったよエクレア!私も死んで幸せの国アスガルドに・・・・」

だが、
シャーロットは止まる。

「死・・・」

死ぬ?
死ぬ?
なんだ。
なんだこの感じは。
死ぬ?
分からない。
怖いとかじゃない。断じて無い。
死は救いなんだから・・・死は・・・死は・・・死ははははは・・・・・

「エクレア!」

シャーロットは鏡に向かって言う。

「私は神になるよ!そうすればアスガルドに皆に会える!
 天使試験っていうのがあるんだ!本で読んだ!
 私が裁くよ!君が執行してくれ!二人で天使になろう!」

その瞬間、
そう思い込んだ瞬間、
シャーロットの髪は黒く戻った。
安心感。
罪悪感を全てエクレアに押し付け、
安心感を得たシャーロットは、
ストレスを超え、もとの黒髪に戻った。

「君と私とで神になろう・・・・人を幸せにして回って・・・」




殺した。
殺して殺して殺して。
殺しまわった。

幸せに。
幸せに。
幸せに。
みんな幸せになれ。
そうすれば自分も幸せになれる。
天使になれる。


「死?・・・・怖いわけないじゃないか・・・」

怖いわけじゃないさ。
怖いわけじゃない。
死は救いなんだから。
救い。
救いなんだ。
けど自分はしない。
別に、
別に理由なんてないさ。
ない。
ないよ。
神になればいんだから。
死ぬ必要なんてないんだ。
それだけそれだけそれだけそれだけそれだけ。

死なんて・・・
死なんて・・・・・













-------------------------------















「死!死死死死死!!!死ぬううううううううう!!!!」

炎の中で、
ヨハネは叫んだ。

「死ぬ!死んでしまう!死!死!死!熱い!!熱い!!!!
 痛い痛い痛い痛い!!死!!死ぬ!死んじゃう!!!!!!」

踊り狂うように、
炎の中で・・・
あがくように、
あがきつくすように。
死を抵抗するように、
ヨハネは叫んだ。

「いやだ!死にたくない!死に!死にたく!死にたい!死にたいくない!
 死にたいくなくいくいなく!死なぬにないく!死!死!死ああああああああ!!!!」

叫び声と、
今更なあがき声と、
それは断末魔で、
潔さのカケラもなく、
そして・・・・
炎が止むのと同時に、
ヨハネの叫び声は聞こえなくなった。

「・・・・・・・・・」

アレックスは両手を下ろす。

「・・・・・あんな死に方されると目覚めが悪くなりますね・・・・」
「今更だろ?」
「そうですけどね」

ドジャーがアレックスに近づいてきて、
そしてポンっと背中を叩いた。
それだけだった。
言い訳とかはない。
殺した。
それはそれだ。
そうなんだ。
殺しに理由はあっても、
殺しに言い訳なんてあってはいけない。

「うーん。後味悪いわねぇー」
「そうか?」
「そりゃぁヨハネを倒したんだから目的は達成されたわけなんだけどね。
 死んで当然のやつだったけど。やったー!死んだー!って気分じゃないわね」
「カッ、そんな感情あったら殺人鬼だ」
「つまり殺人鬼しか勇者になれないんでしょうね」
「そうだな。俺らは勇者様(殺人鬼)御一行にはなれねぇってこった」

終わった。
倒した。
《聖ヨハネ協会》はこれで終わりだろう。
味方につけようという考えもあったが、
それもどうだか。
だが、
少なくとも帝国側につくよりは数段マシだ。

「疲れたわ」
「ですね」
「帰っか」

何か虚しさが残る。
けども、
だからこそ、
もう早く帰りたい気持ちだった。

「何言ってるんですかい?」

だが、
トラジだけは違った。

「あん?」
「まだ終わっちゃいねぇでしょうや」

木刀を肩にかけ、
トラジは黒こげのヨハネの傍に近寄った。
そして座る。
地面に座り込んだ。

「俺ぁ残りやすぜ。残ってりゃ神族がくるんでしょうや。
 そんで天使試験を受けるヨハネはこれだ。つまり代わりに俺が受ける」
「まーだ言ってやがったのか・・・」
「頭冷やしなトラジ」
「わざわざ敵を神族にするわけがないじゃないですか・・・」
「じゃぁこーいうのは?」

トラジは指をさす。
死体。
それはアシュラゴゼンの死体だった。
放置されたままの、
神の死体。

「あれ食ったら俺神族になれやすかねぇ?」
「はぁ!?」
「おま、馬鹿じゃねぇのか!?」
「本当に落ち着いてくださいトラジさん!」
「俺ぁ落ち着いてやすぜ」

落ち着いている?
落ち着いているなら、
さらに問題だ。

「おいトラジ。てめぇはフライドチキン食ったら背中に羽が生えるか?
 てめぇはサンマの塩焼き食ったらエラでも生えんのか?
 分かったか?神様なんざなれねぇんだよ。とっとと頭冷やせ」
「俺が決めた道でさぁ」

トラジは座ったまま、
冷静に言った。

「俺が決めた道ってのは親っさんの道。つまり間違ってるわけねぇんでさぁ。
 俺が一度神になるって思ったんなら、それは正しい道ってことで・・・・」
「トラジあんた・・・」

ツバメがトラジに駆け寄り、
そしてトラジの胸倉を掴んで無理矢理立たせる。

「さっきから言ってる事メチャクチャなんだよ!筋の一辺も通ってなくてわけわかんないよ!
 うちにはむしろ親っさんを馬鹿にしてるようにしか聞こえないね!
 んーにゃ!むしろあのヨハネと同じで親っさんを言い訳にしてるようにしか見えないね!」
「んだと!」
「きゃっ!」

トラジはおもくそツバメを殴った。
ツバメの顔を思いっきり殴りぬいた。

「あ・・・・」

自分のやったことに気づき、
トラジは拳が震えた。

「おいトラジ!やりすぎだ!」
「あんた何したか分かってんの!?」
「《昇竜会》は無闇に女性を殴ったりしないんでしょ!?」
「う、うるせぇ!!」

トラジは地面を見たまま叫ぶ。

「俺のやることにケチつけっからだ!ふざけんな!これは俺ん道なんでさぁ!
 ケチつけんならみんなぶっ殺してやる!俺の道こそ正解なんだ!
 俺ぁ神になって全ての道理を蹴飛ばしてやんだよ!!!」

重症だ。
もう何を言っているのか自分でも分かっていないだろう。
理論的におかしく、
筋の一つも見出せない。
ただ闇雲になってるだけにしか見えないし、
後に引けないだけにも見える。

「・・・・・・・どうします?」
「プレイドーンでもかけてみたら?」
「そーいう問題じゃねぇだろ・・・・もう置いてったらどうだ。
 こんなん連れて帰っても問題起こるだけだろ」



「帰る?それはとてもとても懸命だと言えよう」

突然上空から声が聞こえた。

「それならばこの城を壊すだけで貴様らを処分できるからな」

「なっ!?」
「誰だ!?」

見上げた。
広い部屋。
広い広い部屋。
その天井付近。
・・・・・・・・
誰も居ない。

「まぁ処分ご苦労とだけ言っておこうか汚らわしい下等生物」

「!?」

いつの間にか、
部屋の奥のテーブルに腰掛けている者。
女。
大きな白い翼を広げた・・・・・・・女神。

「生き残りか!?」
「いえ・・・・」

アレックスは歯を食いしばる。

「ジャンヌダルキエルです・・・・」
「な!?」
「こいつが!?」

「わらわの名を軽々しく呼ぶな下賤な人間め。汚らわしい・・・・嗚呼!至極汚らわしい!!!」

ジャンヌダルキエルは、
顔をしかめて言い放った。
そして、
いつの間にあったのだろう。
テーブルに腰掛けるジャンヌダルキエルの背後。
そこに・・・
何か渦巻くもの・・・
もの?
何か・・・・

「なんだありゃ・・・・」
「ゲート?」
「いや、ポータルに近いと・・・・」

「いちいち語らねば理解もできない下賤な種族め」

ジャンヌダルキエルは、
その美しい顔にゆがめる。
人間と会話をするのも腹立たしいようにも見える。

「まぁいい。先に説明しておいてやろう。お前らに退却などという選択肢はない」

そして、
ジャンヌダルキエルは軽く手をかざした。
かざすと、
突然大きな破壊音が聞こえた。
振り向いた。
背後だ。
背後から何かが崩れる音。
・・・・・。

「入り口が・・・・」

入り口の壁が砕けていた。
全て。
壁ごと。
この広い部屋の壁の一辺。
それがまるまる一瞬で砕けた。

「地上ではアイスブレイカーとでも言うのだったか?
 氷結を解除するスペルだ。わらわほどになれば数分でこの城は藻屑と消える」

氷の城。
アドリブン。
全て氷で出来ているからこそ、
アイスブレイカー。
そんなスペルが通用する。
そして・・・・
ジャンヌダルキエル。
彼女は数分でこの城の破壊も可能・・・だと言う。

「逃がさないって事ですか?」
「戦えって事か・・・・」

「戦う?まぁ遊戯と表現する方が正しいか。この場でお前ら6匹。
 瞬時に殺してやる事も出来るが・・・・我が主アインハルト様はそれではつまらないらしい」

アインハルト。
その言葉だけでも身構えてしまう。

「わらわの背後のポータル。これはどこに繋がっていると思う?」

どこに?
どこに・・・

「まさか・・・」

「そう、アスガルドだ」

ジャンヌダルキは妖美に笑った。
アスガルド。
天界。
世界の・・・上。

「マジかよ・・・」
「でもどういう・・・」

「遊戯と言ったであろう?言うならば次のステージに来い・・・というところか」

「・・・・・・・・カッ・・・アスガルドにご招待・・・か。そりゃぁビッグな旅行だ。
 99番街の福引にもそんな景品はなかったぜ」
「何を企んでいるんですか?」

「遊戯でしかない。企む必要さえないのだ。お前ら如きな」

本心で言っている。
何一つ、
こちらが6人だからといって何一つ臆さない。
否、
臆す必要がない。

「まぁチャンスをやろうというのだ。この場で殺すでなく、チャンスをな。
 感謝を示しているのだ。邪魔なものの破壊を代わりにやってくれたのでな」

「邪魔なもの?」

「わらわが・・・いや、我が主アインハルト様がこんなギルド必要かと思ったか?
 こんなギルドの行方など議題にもあがったことない。目障りの消去ご苦労だった」

「んだと・・・」
「《聖ヨハネ協会》は眼中にもなかったっていうの?」
「ヨハネさんを転生させて仲間に引き込むって話じゃ・・・」

「ヨハネ?嗚呼・・・ヨハネな。ふむ。懐かしい名前だ。懐かしい。
 一年前までの話を懐かしいと感じるように感じるのは下界の時間に慣れすぎたかな」

「一年・・・前?」

「確かに。確かにだな。次の天使試験の受験者はヨハネ=シャーロット。
 そいつにしようと決まってはいた。能力、想像力、信仰力。全て問題ない。
 ヨハネこそ打ってつけだと一度は転生者に決定していた。だが・・・」

妖美、
神らしき人にない透明感のある素顔で、
ジャンウダルキエルは笑った。

「我が主アインハルト様は命を下してくださった。
 適正などで選ばずとも、我を楽しませるためだけに使え・・・・とな」

「ってことは・・・」
「ヨハネさんはとっくに落第者って事ですか・・・」
「じゃあ天使試験は誰が!?」

「そういえばミダンダスという男をお前らは知っているな」

・・・・。
突如、
出てくるとは思わなかった名前。

「経緯は聞いた。奴は神学のエキスパートだったらしいな。
 だが王国騎士団を離れた故、その研究は適正ではないドラグノフという者が後任された」

「話が見えてこねぇな」

「つまり、ドラグノフは"そーいう"研究も任されていたという事を言いたい。
 ・・・・くっ。これだから理解力のない人間は・・・汚らわしい・・・イライラする・・・・」

ジャンヌダルキエルは指をわなわなと動かした。
相当なストレスなのだろうか。
汚らわしい。
ただそういう目を向けてくる。

「ふん・・・・・言うならば神族に転生させるための実験だ。素体作りとでも言うか」

「なるほど・・・神族を量産しようとしてたんですか」

神族。
量産。
天使試験などで1人作成するよりも、
量産できないかという実験。
そのための素体。
それを作っていたという事。

「わらわもなかなかそれには興味があったのだがな。人間を神にするにはという点で。
 そういえばこの間、その一人が抜け出したと聞いたな。確かエンツォとかいう・・・・」

「エンツォ!?」
「あいつも転生させるための実験体だったってのか!?」

「わらわが見てきた中では面白い素体だった。身体能力は問題ない。
 だがドラグノフの趣味の方へ改造は進んでしまった。
 機械化したことで人間から離れ、転生もしやすいかと睨んでもいたが・・・まぁいい」

ジャンウダルキエルの妖美が笑み。
それはゾッとするものがあった。

「つまるところ、その実験体の中から一人選ばれた」

「実験体・・・」
「私は見てきたわ。エンツォも。ルアス城の地下にたくさんの隔離房があったの。
 もう人間が崩れたようなのがいっぱいだったわ・・・まさか神族候補と思わなかったけど・・・」
「いや、問題はそこじゃないでしょう」
「へ?」
「選ばれた・・・もう天使試験は行われたって事です」
「あ・・・」

つまり、
ヨハネ達と必死に戦っている間、
すでに天使試験は行われていた。
ヨハネ、
お呼びそれらの神族は、
時間稼ぎ以外の何物でもなかった。
まったく無関係な場所での・・・・。

「話が長くなったな。紹介してやろう。フウ=ジェルンだ」

ジャンヌダルキエルが小さく笑う。
笑った。
笑った。
それが合図で、

背後。
そのアスガルドへのポータルから・・・・
一人の男が現れた。

「あ・・・・」

長い髪は後ろで束ねられていた。
羽。
翼。
もう見飽きてきたほどのその美しい白い翼。
人間だったであろうその者の背中には、
似つかわしくない。
いや、すでに自分の物となった白く大きな神の証明。

神族。
人間だったのだろう。
転生。
神になったのだ。

いや、
それをどう判断する?
もともと神だったんじゃないのか?

いや、
いやいやいやいや。

なるほど。

余興。
遊戯。
楽しみね。

もってこいだ。

一目で分かる。
一目で分かるさ。

その者はもともと人間だった。
人間だったんだ。

分かるさ。
分かる・・・・に決まっている。


「やぁ・・・・皆」

彼は笑った。

「ど・・・・」

ドジャーの顔が豹変する。

「どういう事だエクスポォオオオオオ!!!!」

怒り。
怒りでしかなかった。
再会の感情は、
目の前に突き出された結果。
それ。
そこからは、
怒りしか産まれなかった。


「エクスポじゃないさ。フウ=ジェルンって言うらしい」

エクスポは、
ただ笑顔で、
何一つ動揺のない笑顔で答えた。

「久しぶりだなぁ皆。うん。久しぶりだよ。再会。再会。
 再会ってのは本当に美しいね。美しくて美しくて涙が出てくるよ」

「ふざけるな!」
「どういう事ですかエクスポさん・・・」
「あんた・・それ・・・・」

「フフッ・・・美しいかい?美しいだろ?美しいさ!ボクは神になったんだよ!」

絶句した。
何一つ・・・後ろめたさがない。
むしろ迎えている。
受け入れている。
神に、
神族になったことを・・・・

「ハハッ!綺麗だろ?美しくないかい?ボク神様になっちゃったよ!
 見てくれよこの羽。この翼!綺麗だろ?美しくてやんなっちゃうよね!
 それに力が沸いてくるんだ。こう・・・体の奥からさ・・・・」

「おい!おいエクスポ」

「無駄だ人間共」

ジャンヌダルキエルは笑った。

「一年間じっくりとかけた洗脳。そして神族になることで全てフッきれたということだ。
 記憶は失っていない。いないのにこの者は・・・・・もう貴様らの敵だ」

「敵・・・だと・・・」

記憶は失っていない。
確かに・・・そんな様子だ。
だけど、
だけどなのにそれなのにエクスポはあぁなっている。
それは、
もうエクスポ自身が受け入れている。
そういう事。

「そうなんですか・・・・?」
「どうなのよエクスポ!!」

「敵だよ」

キッパリとエクスポは答えた。

「んー。敵。敵かー。それもまた美しいよね!ボクは思うんだ。
 お互い死ぬ思いで共に戦ってきた仲間。それが敵になる。凄く美しいと思わないかい?
 そして過去の仲間同士戦い、そして・・・・・・・・・・死んでしまう。嗚呼・・・涙・・・涙だね・・・。
 感動のメロドラマだ!美しすぎて悶え死んでしまいそうさ!」

「お前・・・・」

「ドジャー。何が美しいか知ってるかい?」

「・・・・・・・・・・」

「それは積み重ねて・・・積み重ねて積み重ねて最後に華々しく散る事なんだよ!」

エクスポは嬉しそうに、
心の底から嬉しそうに言う。
天使の羽を携えて。

「ボクと君達とで積み重ねてきた友情!友情!これだけでも美しいのに・・・・
 こんな形で華々しく散っていく!これはもの凄く美しいと思わないかい!?」

エクスポは自分の体を自分の両手で抱きかかえた。

「嗚呼・・・そしてボクの今の夢は・・・・君達の死なんだよ・・・」

悶えるように、
感動を得るように。
彼は、
エクスポはそう言った。

「君達はとても・・・とてもとーっても大切な仲間なのさ!
 それが・・・それが儚くも散ってしまう・・・嗚呼!考えただけでもゾクゾクする!
 絶頂を感じてしまいそうだ!さも!さも美しいんだろうね!」

エクスポは嬉しそうに、
心の底から嬉しそうに、
純粋で、
無垢な目でドジャー達を見た。

「君達はボクの芸術品なんだ!君達ほど美しい芸術品はもう造れないだろう・・・・。
 それが・・・儚く・・・華々しく・・・散る・・・散ってしまう・・嗚呼!嗚呼!素晴らしい!
 感動だ!想像しただけでも絶頂を感じそうなのに実際そうなったら!
 ・・・・・悲しくて・・・哀しくて・・・悲しくて哀しくて凄く美しいに違いないね!!!」

「エクスポ・・・・」

「嗚呼マリナ!そんな悲しい顔をしないでくれ!
 君の美しい顔が崩れる様はあまりに美しすぎる!素晴らしい!
 嗚呼もう我慢できないよ!ジャンヌダルキエル様!早く!早く!
 早く速く早く速く!・・・・・ボクに彼らを殺させてくれ!!!」

ハッキリ、
確実に、
そう、
断言したその言葉は・・・
虚しさと悲しさと・・・
まるで遠い物語でも見ているように・・・
そんな悲しさをドジャー達に与えた。

「まぁそう急かすな。そのためにステージを用意したのだ。
 この結果は万全なるものにして我が主アインハルト様に伝えたい。
 さもこの余興の結果を楽しんでくださるに違いないのだから」

翼が羽ばたき、
ジャンヌダルキエルの体がフワリと浮くと、
ジャンウダルキエルはアスガルドへのポータルの前に移動した。

「さぁ、来るがいい。先に行って待っている」

「待て!!」

放心状態のようなドジャー達。
ドジャー達の中、
一人叫ぶ者。

「俺も・・・連れて行け」

トラジだった。

「ん?なんだお前は」

「俺も・・・神にしろ」
「おいトラジ!」
「あんたまだ・・・・」

「フフッ・・・・・ハーーーハッハハハ!!」

ジャンヌダルキエルは笑った。
おかしく、
笑い飛ばした。

「なるほど。なるほどなるほどなるほど!・・・・・・・汚らわしい!
 だが面白い!それは我が主アインハルト様の余興の一片にもなるか。
 いいだろう。成功するかは分からぬが貴様もこの遊戯の装飾品にしてやろう」

「いけすかねぇが・・・・」

トラジは拳を握る。

「俺は間違っちゃいねぇ」

そしてトラジはジャンヌダルキエルに近づいた。
いや、
ポータル。
アスガルドへのゲートへ真っ直ぐ歩んでいった。

「トラジ!」
「・・・・トラジ!!」

ツバメが叫んだ。
シシオも叫んでいた。
だが、
何も聞こえていないように・・・・

トラジはゲートの中へ消えていった。


「さぁ、死の一番近い場所。天国への扉だ。
 下賤で低能なる下級種族を招くのは汚らわしいのだが・・・・」

ジャンヌダルキエルは振り向く。

「貴様らに絶望を与えてやる」

そして、
ジャンヌダルキエルもゲートの中へ、
天国へと進んでいった。

「フフッ・・・・」

一人残ったエクスポは、
やさしく、
美しく、
人らしくなく、
ただ、
笑いかけてきた。

「来るよね。ドジャー、マリナ、アレックス君」

楽しみで、
楽しみで楽しみで楽しみでしょうがない。
そんな顔。
他の者が居なくなっても、
そんな顔をするエクスポ。
完全に、
完全に精神は変わり果てている。

「エクスポ・・・・おめぇ本当に変わっちまったのか?」

「変わる?変わってないさ」

エクスポは両手を広げる。
羽と共に。

「美の追求。それがさらに進んだだけ。進んだだけなんだ!
 ボクは美の最高を目前にしているのかもしれない!素晴らしいね!
 積み重ねたものが砕け散る様!これ以上の美しさはないよ!」

もう、
間違いなく、
エクスポは変わってしまった。

「それと言ってるだろ?ボクの名はフウ=ジェルンになったんだ。
 四x四神(フォース)の一角フウ=ジェルン。モントール=エクスポは散ったんだよ」

エクスポ。
エクスポじゃない。
もう。
姿も、
心も。

「嗚呼楽しみだ!楽しみで楽しみでしょうがない!
 君達が美しくなるのが楽しみでしょうがない!あっそうだ!」

エクスポは無邪気に、
何かを思いついた笑顔で見た。

「ここで一つ君の顔が美しく砕けるのが見たいんだ!」

楽しそうに、
本当に楽しそうにエクスポは言った。

「ドジャー」

輝く目。
楽しそうな目。
嬉しそうな目。
その、
神の口は伝えた。

「チェスターが死んだよ」



・・・・。
何も。
何も反応しなかった。
ただ、
誰よりも、
アレックスよりも、
マリナよりも、
ドジャーの頭の中が真っ白になっていった。

「美しい!ハハッ!!凄い!!凄く!グッとくるほど美しいね!!
 ハハッ!アハハハハハハ!!いい顔だよドジャー!ハハハッ!
 ボクも聞いた時涙が止まらなかったんだ!涙で溢れてさぁ!
 悲しくて哀しくて!美しくて!もう本当に素晴らしかったんだ!」

嬉しそうに、
楽しそうに、
そう言うエクスポは・・・
いや、
もう関係なかった。
ドジャーはもう、
何も考えたくなかった。

エクスポは変わり果て、
チェスターは死に、
失って失って失って。

世界の誰がどうなったっていい。
世界の裏側で誰かが死のうが知ったこっちゃねぇ。
俺の飯代のために死ねよ。
知ったこっちゃねぇよ。
だが、
だけど・・・・

だけど・・・・・

「・・・・・・・・」

ドジャーはガクンと崩れ落ちた。
一斉になにかが襲い掛かったように、
ぼんやりと斜め上を見上げて・・・
崩れた。

「アハハハハ!!楽しみだ!これ以上の美しさをボクは見れるんだね!
 楽しみだ!美しいものはダイスキだ!美しいものが楽しみだ!!!」

嬉しそうに、
楽しそうに、
エクスポは羽を広げ、
軽く弧を描いてポータルの中へ入っていった。



ただ、

ただ残された。





進むべき道だけが。





進みたくない道だけが。



















                 






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