「神か・・・・」

ドジャーは氷漬けの廊下を走りながら呟いた。

「なんですか?ドジャーさん」
「いやよ・・・・ネオガブリエルにあの愛中毒の天使達。3匹の神族見たわけだけどよぉ。
 正直見てもピンとこなかったな。羽根生えてる以外別段なんつーか・・・」
「ま、そうね」

マリナも返事をする。

「結局羽が生えてる+優秀な種族ってだけよね」
「いわゆるアレでさぁ」
「?」
「猿から見た俺達(人間)ってな感じでしょうや」
「いい例えですね」
「格上の種族ってだけ。カッ、それだけってこった。
 だからやっぱ俺ぁあんな奴らが神だってのは信じねぇぜ。
 神族って名前の輩。それだけ。それだけだ。唯一胸糞悪いって意味だけは同等だがな」

とにかく信じない。
種族という意味でなら存在する。
言うならば・・・
今だこの世には神も仏もいねぇって考え。
見たことねぇもん。居ねぇもん。

それは・・・
ルアス99番街というスラム街で生涯を送ってきたドジャーだから分かる。
いや、
そんなドジャーだからこその考え。

「ま、この場合神様の定義なんてどうでもいいのよ」
「そうです。大事なのはヨハネさんが神族に転生する。そこです」
「おめでとう!ヨハネは神族に進化(バージョンアップ)した!チャララララララーン♪
 ・・・・カッ。人間一人が成長しようがどうでもいいわな。
 つまるところ《聖ヨハネ協会》は邪魔でしょうがねぇ」
「今のところ、どう考えても俺らの敵になりやすからね」
「信者の数も実際見てみるとかなりですしね」
「つーかやっぱ原点に戻る」

ドジャーは走りながら言った。

「イラつくんだよ。俺の敵はそれだけだ」

帝国も。
今までの敵も。
全てそうだ。
それでいい。
それだけでいい。
正しい価値観も、
正当な動機もいらない。
ぶん殴りてぇ。
それでいい。
ややこしいのは嫌いだ。

「帝国やらがいると安心して"平和に悪行"もできえねぇしな」
「それでもうちょっと強ければサマになるんだけどね」
「うっせぇ!」
「こんなとこでヤゴロ売ってるヒマねぇですぜ。ほら、次の部屋でさぁ」

次の部屋。
たどり着いた。
アレックス。
ドジャー。
マリナ。
トラジ。
4人は部屋の前に止まる。

「カギカギ・・・っと・・・カッ、パクったの俺だけどよ。俺がカギ当番する必要なくね?
 なんか部屋くるたび俺が用意してるのが面倒でイラつくんだけどよぉ」
「ゴチャゴチャ言わずにほら、カギ用意しなさい」
「カギっ子ドジャーさん早く」
「・・・このっ・・・」

はがゆい気持ちながら、
ドジャーはヨハネからスッたカギの束から、
部屋に合うカギを探し、
カギ穴に突っ込んだ。
入れて回してガシャリ。
こーいうのは手際が大事だと、空き巣経験豊富なドジャーは教えてあげます。

「次は俺でさぁな」

ドジャーが扉を開いてる中。
トラジはボソりとそう言った。







「カッ、どこも同じ部屋だな」
「もう目が青に慣れてきましたよ」

廊下も同じ。
部屋も同じ。
一度氷の城(アドリブン)の扉を開けたときから同じ、青い青い氷の8方面。
ここも同じだ。
そして、
やはり部屋の中心には一人。



「ようこそ。デオスの部屋へ」

そこに居た者。
それが、
人ではない事は一目して分かった。
人間じゃない。
なんで見て分かる?
羽があるから?
いや、
もっと一目して分かった。

「なんだこいつ・・・」
「腕が・・・・」

8本あった。


「わらわの腕が多いのがそんなに珍しいのか?」

腕に気がいっていたが、
女神のようだ。
腕が8本ある女神。
腰には・・・
8つの鞘。

「そりゃ珍しいですよ・・・・僕、腕2本しかないですし・・・」
「俺も2本だな。昆虫でもなけりゃ蜘蛛じゃあるめぇし」
「私もね」
「俺もでさぁ。シシオは1本だけどな。2本が通常ってもんで。
 いや・・・まぁ男はある意味3本とも言える・・・・・・・・・・ってぇ話はいらねぇですかい?」

いらない。
シモネタはいい。

「恐ろしい・・・恐ろしい・・・・恐ろしいほどに下品な人間だ。いや、人間という生物が下品であるのかしら」

その女神は8本の腕で身震いをしていた。
誤解だ。
違う。
下品は生物の本能だが、
面白くもないシモネタなど人間の中でも低級な者が言うことなんです。

「まぁいい。わらわはこの部屋の番人。アシュラゴゼンだ」

アシュラゴゼンと名乗った8腕の神族は、
妖美なる笑みを浮かべた。

「阿修羅ご膳?おいしそうですね」

「阿修羅御前だ。人は食欲にしか脳がないのか?」

いや、違う。
違う違う。
人間の標本としてアレックスを基準に見ないでください。

「まぁよい。このアシュラゴゼンが相手をしてやろう人間。
 光栄に思え。天界の誇り高き戦士であるわらわが相手してやろうというのだ。
 好きにくるがいい。一人づつでも、一斉にでも構わぬ」

アシュラゴゼンの8本の腕が交差した。
腰の8本の鞘。
それが一斉に抜かれたのだ。

「八又なる剣技魅せてあげる」

まるで花咲くように、
8本の腕で8本の刃は咲き誇り、
背中の羽も大きく広がったところで、
神族特有の容姿も重なり美しさまでを表現していた。

「こんな異種的な相手が出てくると思いませんでした・・・・」
「さっきまでの話だと人間の上位種くらいに思ってたものね」

「くだらぬ話をしているな。"没個性2なる人間らしい話。
 わらわ達神族を異種的などと表現するのが嘆かわしい。
 むしろ"異型なのはお前達人間"の方なのだ。あまりに没個性」

アシュラゴゼンは右腕。
4本の右腕と共に、4本の剣をこちらに突きつけて話す。

「この世の生物。虫でもいい。動物でもいい。魔族でもいい。神族でもいい。
 それらは全てその中で様々な種類。外形仕組異種様々だ。
 特殊なのはお前ら人間だという事を知れ、客観的に見れぬ下級種族め」

アシュラゴゼンはそう言いながら少し笑った。

「恐ろしいな。恐ろしい。恐ろしいほど愚かで無知で低スペックな知能思考だ。
 フッ・・・いや、それもしょうがない事かも分からぬな。低脳よりも愚かな思考を持つ人間は。
 自分らを"ヒト"として特殊で確固たる存在だと主観的に決め付けている。だからこその考え・・・・・」

アシュラゴゼンは突きつけた4本の腕を横に振って叫んだ。

「お前らはただの哺乳類が一種族だと理解しろ!」

神だからこその説教。
上から、
雲の上から見たものの言葉。

人間は・・・・人間だから人間として自分達は人間なんだと考えている。
それは・・・
人間は地上界の頂点に君臨し、多種族より大いに優れているからだ。
ただの、
動物の一種族にすぎないのに。

「どーでもいーな」
「どーでもいいですね」
「どーでもいいでさぁな」
「だって私達は人間だもん。それでいーじゃない」

だが、
4人は説教に聞く耳もたぬといった様子。
馬の耳に念仏。
うん。
いいことわざを作る人もいたものだ。
馬じゃないと思ってる者が作ったに違いない。
つまり、
アレックス達は馬のように可愛げのない。

「カカッ、アシュラゴゼンっつったな。いいか、よく聞け神様よぉ」

ドジャーはニヤニヤと笑い、
指をさしながら言う。

「そう。俺たちゃ人間様だからよぉ、初めて見る多種族見てホホォーって感動してんだよ。
 感動。分かる?例えると・・・動物園で初めてカバ見たような状況だ。そんだけ。OK?」

「カ・・・・」

カバ。
神に対して、
世界・・・この世の最高種族に対して、
あんまりな口の利き方。
彼女自身そんな事を言われたのは初めてなのだろう。
もし彼女じゃなくとも、
神族全員が、
いや、人間だって、
いや、オケラだってアメンボだって、
皆「カバじゃねーよ」と言ってやりたいところだ。
いや、
そんな事言うやつ自体おかしいのだが。
つまり、

「人間にはこんな図々しい奴がいるのか・・・・」

そーいう事だ。
いや、
彼らを見て人間の基準を作って欲しくはないのだが。

「あ、そういえば魔族を除いた動物界では最強なのがカバだって聞いた事ありますよ」
「あぁん?デマだろそりゃ」
「ないない」
「ノロマに最強はいねぇってもんでさぁ」
「いえいえ、地上の最強はゾウってくらいはよく聞くでしょ?水中ではカバだそうで」
「それ動物最強じゃないじゃない」

「おい・・・・」

「カバはライオンの餌ってジャリの頃聞いた事ありまさぁ」
「ライオンもカバに負けるんですよ。何故ならデブだからです。
 防御力が高いんですよ。爪や牙くらいじゃそうそう急所に達しないとか」
「出た。デブ最強論」
「攻撃力も凄いんですよ。ワニの鱗もひと噛みでグシャリです。
 ノロマってのは誤解です。カバは陸上で時速60キロで走行します」
「でも水場から離れられないでしょ?」

「おい・・・・お前ら・・・・」

「OKOK。つまりカバは水戦では最強としよう。だけどそりゃ動物最強じゃねぇ。
 それに攻撃力と防御力のスペックが高かろうが、結局のところ闘争心ってのは大事だろ。
 そういった意味で俺はカバなんて草食より、トラやライオンなんかの猫科最強論を説かせてもらうぜ」
「ゴリラでさぁ。奴ぁ握力1tあるし脳みそありますからねぇ」
「ヒグマじゃない?攻撃力は1t以上あるし、爪もあるし、牙もあるし、
 闘争心もトラやライオンより高いじゃないの。クマ最強よ」

「お前ら・・・おい・・・人間ども・・・・」

「カバですって!例えばゾウは攻撃力も防御力も最強だと思いますけど、
 あんな使いづらい牙を除いたら攻撃方法が突進とかしかないですから!
 つまり最強なる噛み付き攻撃のあるカバが最強だと思います!」

「黙れ人間!!!」

アシュラゴゼンが声を張り上げた。
なんだ?
仲間に入れて欲しかったのだろうか。

「あ、ならアシュラ御飯さんは何が最強だと思います?」

「アシュラ"御前"だ!貴様ら低脳な話し合いを低能にこの場でするとは、
 あまりにも低スペックな脳細胞の思考回路。そしてくだらぬ愚かな演算能力。
 場をわきまえるとか、状況の判断能力というものが大きく欠如している事この上ない!」

なるほど。
言われてみればその通りかもしれない。
敵を前にしていること。
・・・・・・・・・は置いといて、
一刻も早く天使試験を食い止めなければならないのに、
ランチタイムの戯言発表会などしている場合じゃなかった。
まず討論しなくとも、
カバが最強に決まってるのだから。

「ゴリラでさぁ」

あんたも食い下がらないね。

「愚かな思考だわ・・・愚かなり・・・愚かなり人間!!自ら自種の低能さを披露するとは。
 低能なるまま思考を振りかざすな!いい加減にしろ下等種族が!
 低能なだけでなく、わらわに不快感を与える種族である事に疑いの余地もない!
 下等でありながら知能だけ発達するからこういう愚かな結果存在が産まれつくのだ!
 ・・・・・・排除すべきだ!人間は下界の癌(ガン)でしかない!汚染は欠如させなければ!」

酷い言われようだ。

「凄い事言われてるわね」
「だな」
「もしかして僕らのせいで人間ピンチなんじゃないですか?」
「でさぁね。ですがぁ、癌ってのは結構言い得て絶妙ってもんでさぁね。
 人間のせいで世界は廃れていくばかりってもんで。ま、だからって・・・・」
「どうしたって感じだな」

人間が有害なのは真実だろうが、
だから世界のために皆で自殺しよう!・・・なんて結果考えるまでもなく却下。
そりゃそうだ。
うん。
人間って確かに愚かだね。
それだからこそ言わせてもらおう。

だからどーした。

「・・・・・粗末だわ。自己で理解できるまでの脳を持っていながら、反省を知らない。
 恐ろしい・・・・恐ろしい・・・・人間は恐ろしいほどに愚か過ぎる!!
 来い人間!まとめて削除してくれる!神として天罰を与えてあげるわ!」

「天罰?」
「カッ、偉そうに。自分らはそんな権限でも持ってるってか?
 そういう考えが気に入らねぇ。マジ反吐が出る。吐いていいか?便所どこだ?」
「そしてあいにくだが・・・・・・」

トラジが一歩前に出て、
そして、
腰、
スーツのベルトに通してあった木刀を抜いた。
突きつける。
目の前の神に向かって。

「ここは俺一人で相手させてもらいまさぁ」

「フッ・・・・ハハハハハハ!!!!」

アシュラゴゼンは8本の腕を広げて大きく笑った。

「一人で?一人でと言ったか?人間は予想能力もないのか?
 一人でわらわに勝てると?それとも人間には自己犠牲本能でもあったか?」

「好きに来いと言われたんでそうさせてもらったまででさぁ」
「おいおい。いーのか?トラジ」
「カッコ付けだけでやれるのかしら?」
「ツバメとシシオ。子ぉ二人が体張ったんでさぁ。
 俺も《昇竜会》が若頭としちゃぁここで出るが筋ってもんでしょうや」

理由とか、
理屈とか、
有利不利、
勝機に至るまで、トラジには関係ない。
筋。
それだけ。
それだけが極道としての行動概念。

「でもそーんな事考える事ないわよトラジ」

マリナが言う。
ギターを構えていた。

「銃は剣より強しってね!人間でも神族でも武器に違いはないわ!
 マリナさんの料理は強火でチャッチャが基本なのよ。
 新料理、"神様のメンチカツ"ってのを見せてあげるわ!!」

青い部屋の中、白発光。
ギターの先で輝く閃光。
空気が破裂するような音が連続で響き、
氷で出来た部屋に甲高く響いた。

放たれたのは無数の弾丸。
MB16mmマシンガン。
凝縮された弾丸がマリナのギターから放たれる。

「穴空きチーズになっちゃいなさい!!」

「これだから人間は欠如となるべき愚かな存在なのだ」

見えなかった。
見えないほど・・・速い剣撃。
8本の腕。
8本の剣。
それが入り乱れ、
水流のように混ざり、
空気を切り刻むように何度も振り切られたと思うと・・・・・

「天界の誇り高き戦士をなめないでほしいわ」

当たるはずのマシンガンの弾は、
一発もアシュラゴゼンに着弾することはなかった。

「うぇ・・・」
「全部切り落としたってことですか・・・」

マシンガン・・・だ。
巨大な盾でもない限り、小さく無数に連射された弾丸群を防ぐなんて事が出来るのか?
いや、
まるでミキサーのように入り乱れる8本の腕。
8本の刃。
その様はさながら全てをカバーする盾にもなりえる。
高速で切り払われる、x8の剣撃。
人間にはなく、
人間には出来ない、
人間には不可能なる能力。

「あいつ・・・・伊達じゃないわ・・・」
「これはやっかいですね・・・」

「おっと、だから愚かだと言ったのだ人間」

アシュラゴゼンは笑い、言う。

「そこの人間。そこの鈍愚で凡愚な顔をした人間の事だ」

アレックスは思った。
僕じゃないはずだ。
僕じゃないに決まってる。

「お前だろアレックス」
「あんたでしょ?」
「あんたでさぁ」
「・・・・・・・・」

心外だ。
どこにも僕らしい特徴なんてなかったのに。
そう思いながら、
アレックスの指は・・・・

「だから言っておるだろう。やめておけ。さっきからスキルを発動しようとしてるのはバレバレだ。
 愚かだと言っているだろう。無駄だ。低能にも分かるようにもう一度言おう。・・・・やめておけ」

「あれ・・・バレてました?」

「そういう・・・とぼけた顔で誤魔化そうとしていたのだろう。それが愚かなのだ。
 そちらの小娘の攻撃の最中に、お前がこっそり十字を切っていたのが見えた」

マリナのマシンガンの最中?
つまり・・・・
あれだけの弾丸の雨嵐を全て切り落としながら、
こちらを気にする余裕さえあったというのか?

「おっと。わらわにそんな不思議そうな視線を送るな。まぁ、優秀なる神族に対して、
 下等種族はそういう目で見るのが必然か。だが人間と同じ物差しで計るな。出来が違うんだよ」

アシュラゴゼンは、
剣を持った1本の手の指で自分の頭をトントンと叩いた。

「わらわ8本腕があるわけだが・・・・それはつまりお前ら人間の4倍の動きを行わなくてはいけないという事。
 8本の腕、貴様らより4倍多い数の腕を同時かつ別途に機動させる。
 それは脳内での処理命令も4倍以上であること。だが神族の脳はそれを可能にする。
 言うならばオツム(CPU)が違うんだよお前ら人間とはな」

アシュラゴゼンは妖美な笑みを浮かべて言う。
神の、
上から見た目線の笑み。
お前らとは違うのだという笑み。

「フフッ・・・お前ら人間は2つの行動さえ同時に行うのは難しいらしいな。
 例えば左手に本を持ち、それを左目で読む。
 そして右手に本を持ち、それを右目で読む。それさえも出来ないのだろう?
 2つの腕でお手玉をするのさえ困難だと聞く。出来るだけで拍手らしいな。
 なんという低い処理能力か。演算能力が低レベル過ぎる。神族は出来が違うのだよ」

そんなことしたくないし、
出来なくてもいいが、
それはつまり神の能力はそれさえも可能にしているということ。
もし、
例え人間が8本の腕を手に入れても自在に動かす事は不可能かもしれない。
えっと・・・どれがどの腕だったか・・・となる。
人間、
手の指10本でさえ、ひねって逆手に組むと信号があやふやになるのだから。

「なんかよーわからんが」
「優秀なことは確かだそうですね」
「褒めてやりゃぁいいんでしょうかねぇ?」
「でも便利そうね!じゃぁ私も神様になろーっと♪
 それで腕を8本生やしちゃえば、料理をいっぺんに4〜5品作れそうね♪」
「いやいや、片手の指を10本にするってなぁどうでさぁ?
 誰でもバスケットボールを片手で持てそうじゃありやせんか」
「僕は口をもう一つ欲しいです」
「あーそうしろそうしろ。カッ、胃袋増えるよりゃマシだ」
「あっ、ドジャーさんそれいいですね。採用」
「やめてくれ・・・冷蔵庫を倍にしなきゃなんねぇ・・・・」

気楽なものだ。
気楽で気楽で、
呆れたものだ。
こんな奴らを見られたら、
確かに人間の脳みそはどうなってるんだ馬鹿野郎なんて思われてもしょうがない。

「本当に学習能力も理解能力さえも皆無が如く低スペックなようだな人間達。
 わらわが話しているのはつまり・・・・4人同時だろうが何一つ支障がないという事だ。
 8本の腕で4人別々に戦う事に何一つ不自由はないのだよ」

「ま、ってことで」
「トラジさん頼みます」

アレックスとドジャーがサラリと言った。
アシュラゴゼンの言葉など聞こえてもいないように。
というか聞く耳持たぬと言った様子。

「戦力の計算能力さえも粗末なようだな・・・」

それも無視。

「そうそうそうしましょ♪トラジ頑張ってねー♪」
「結構あの人強いみたいですから、お言葉に甘えて任せます」
「了解でさぁ。訂正、二言。そんなもなぁケチがつくってもんで」

「黙って通すと思うのか人間!」

「あー、んじゃプレゼント」

そうしてドジャーが何かを投げた。
黒くて、
丸くて、

「おいしいご馳走だ♪」

それは、
アシュラゴゼンの目の前で破裂した。
スモークボム。
煙が噴出し、
アシュラゴゼンを包み込む。

「こしゃくな!人間の下等な小細工め!」

「カカカッ!!結構結構褒め言葉!」

ドジャー達は走る。
走り、
一気に次の扉まで走りこんだ。

「んじゃ、死ぬなよトラジー」
「危なかったら教えてねー」
「教えてもらっても応援には来ませんけどね」
「ハハッ!白状なもんでさぁな!ま。任せておくんなせぇ!」

そしてアレックス達3人は部屋を突破していった。














「ってぇ事で二人きりでさぁな」

青い青い部屋。
氷の氷の部屋。
サングラス越しには氷の光の乱反射が目に飛び込んでこなくていい。
やっぱり付けてて良かったサングラス。
一家に一つと言わず、
一人一つ着用を義務付けるべきだ。
ほら、
あなたも私もお父さんも、
皆付けようサングラス。

あぁそういえば、
この城は灯りもないのにどうして暗くないんだ?
とか、
まぁ適当な事を考えつつも、

「こんな個室で女性と二人たぁなかなかいい按配でさぁな。
 腕8本ある神様でもなかったら、口説かなきゃ男が廃るとこってもんで」

トラジは一度木刀を脇に挟み、
両手でオールバックを後ろに流した。

「ま、好みじゃぁありやせんがな」

ニヤりと笑い、木刀を握りなおし、
軽く肩に乗っける気楽な構えをとった。

「やはり人間だ。危機感の管理能力さえも欠如しているようだ。
 わらわのような神と絶望的な状況で相対している事に関して危機感を持て黒眼鏡」

「眼鏡じゃねぇ。グラサンでさぁ。雲の上にゃぁ売ってないんで?」

「人間の下等な発明に興味はない」

「あぁそうかそうか。"サングラス"ってぇ事ですもんねぇ。
 太陽(サン)が無けりゃあるわけもねぇ。・・・・あれ?アスガルドにゃ太陽ないんで?
 いけねぇや。考えた事もなかった。雲と太陽ってぇどちらが上にあるんだったか」

たわけた事を言うトラジ。
普通に少し考えれば太陽だろ。
たとえ雲の上を見たことがなくとも、
太陽を雲が隠すのだから。

「恐ろしい・・・・・」

アシュラゴゼンは首を振って言った。

「恐ろしい・・・恐ろしい・・・恐ろしいほどの低スペックな知能だ人間。
 状況把握能力に乏しい。それは恐ろしいことだぞ人間。
 草食動物でさえそれは長けているというのに、人間は知能が優れているだけで劣っている」

「いい事教えてあげまさぁ。人間にゃぁね、「どーにかなるんじゃね?」って気楽さがあるんでさぁ」

「それが情報把握能力に乏しいと言っている」

「じゃぁ言い方を変えてあげやしょう」

トラジはおもむろに、
まるで考え事でもしているように、
肩を木刀でぽんぽんと叩きながら横に歩いた。
無防備に。

「"どうにかしてやらぁ"。そういう気持ちを人間は持てるんでさぁ。
 こりゃぁどんな種族にもねぇ素晴らしい感動能力だと思いますけどどうでしょうかねぇ」

「おこがましいにも程がある」

「こりゃ失礼」

自分の型を木刀でリズムよく叩きながら、
横向いてたるく歩きながら、
トラジは横目をアシュラゴゼンに向けた。
黒塗りのサングラスに隠れつつも、
その目は彼女からも見て取れた。

「ま、それでも残念ながら俺ぁ馬鹿なようでその気持ちは変わらない事うけあいでねぇ。
 つまるところ、"筋"通った道に"芯"さえあればそれは"仁義"で進む道。
 その道が通行止めだろうがなんだろうが道理を蹴飛ばし花が咲く。
 "天井あっても木は伸びる"。己が道を進む事だけ天晴れで、つまり極道ここに在り」

ぶんと木刀を振り、
トラジは相手の方を向いた。

「間違っちゃぁいねぇ。間違っちゃぁいねぇさ。他の誰がなんと言おうが、悔やまねぇ。
 後悔しねぇし曲げねぇし、揺るがねぇし折れたりしねぇ。そして信じた道に間違いねぇ。
 そんな極めし道が極の道。行動理論は凛と輝く一つの芯・・・・」

木刀を、
受け継ぎし"大木殺"を突きつける。

「そこにゃぁ仁義があるのかい」

笑み。
心のからの。
間違いだと微塵も思わず、
自分が確固として持ってる信念。
受け継ぎし極道の信念。
それしかないから迷わない。
筋の入った一本の大木。
芯の入った一本の大木。
それが《昇竜会》の信念で概念。

仁義。
背負いきるには大き過ぎて、重すぎる。
だが、
一人の馬鹿野郎を強くするには十分過ぎた。

「粗末で愚かで愚鈍なる下級種族の、低能で無価値で勘違い甚だしい思想理論などどうでもいい。
 恐ろしい。恐ろしいほどに恐ろしいほど、一種の邪悪なる考え」

アシュラゴゼンが8本の剣を全てこちらにむけ、
花咲くではなく、
まるで人食い植物の口のように剣を構えた。

「世界の事を考えればやはり貴様らは粗末に進化し過ぎた世界の癌でしかないな。
 欠如させておくべきだ。神族の高等で、正論なる判断のもと、裁かせてもらう」

「天罰ってやつですかい」

「天罰で神罰。神と世界の道しるべの中、人間は異端過ぎる。異端者め。
 木刀一本で何が出来る。知能、腕力、腕の数。全ての能力で劣っている上に木屑如き。
 天界の誇り高き戦士を馬鹿にしてるとしか思えない。
 わらわの剣はクシュロンソード。下界などにはない高密度な物質で・・・・」

「御託はいらねぇ!!!」

駆けた。
スーツ姿の、
黒尽くめの一人のヤクザが、
木の武器一つ持って。

「真っ向から来る気か。自殺願望。人間にしかない愚かな考えだわ。
 低能低スペックなる身体と勘違いと木片一つで何を出来る気になっている人間!!!」

「あんたぁ倒せらぁ!!!」

馬鹿のように、
筋違いなほど筋道どおり真っ直ぐ。
トラジは駆ける。

「一発で決めてやらぁ!!!」

「1つの武器で、8つの武器をどう相手にする!」

「腕が多けりゃ偉ぇのかっ!!!!?」




まるで、
骨の砕け散るような音が氷の間に響いた。

ぶつかった。
8本の剣と、
1本の木刀が。
その音は砕け散るように響いた。

否、
言い直そう。
全て言い直そう。

「ほれ見ろ」

たった一本の木刀。
木片如きで、
8本の剣は粉々の"粉砕"と呼ぶにふさわしいほどに砕け散り、
木刀はアシュラゴゼンにめり込んだ。

「・・・・あ・・・が・・・・」

めり込んだ。
めり込んだと呼ぶにふさわしい。
だから骨の砕け散るような音という表現を訂正しよう。
骨が砕け散った。
そう。
それだけは感触で確実なるまでに実感でき、
体の半分以上、
くの字に折れ曲がる事さえなく、
木刀は神が体にめり込んだ。

「神様にも骨ってぇもんがあんだねぇ。そらそうか。種族でしかねぇもんなぁ。
 犬にもありゃ人間もある。胃袋も脳みそも心臓も骨もなぁ。
 いやいや・・・馬鹿でも分かりまさぁ。・・・・・・・・・・・・死んだねぇあんた」

ガタリと、
アシュラゴゼンの体は地に倒れた。
口からだけ、
大量の透明感のある美しい血液をぶちまけ、
外目でも分かるほど、
木刀のめり込んだ部分が粉砕されていた。

「数じゃねぇ。ましてや質でもねぇ。必要なのは・・・・」

トラジは一度その木刀をぶんと振り、
腰のベルトに通して収めた。

「"芯"でさぁ」

アシュラゴゼンの体が、
光り輝き、
そしてまるで光の破片のように散らばって消えた。

「神様ってぇのは綺麗に死ぬもんでさぁな」

トラジはオールバックの髪を両手で後ろに流し、
サングラスを調えた。

「あんたが負けた理由は実にシンプルだ。仁義がこちらにあった。それだけでさぁ」


「トラジ!」

振り向くと、
背後の扉からツバメとシシオが入ってきた。
無事だったのだと分かる。
二人とも、
自分の部下である二人とも、
無事に突破してきた。
それだけだ。
なぁに、当然であること。
奴らもソレがあるんだから負けるはずないってのが道理。

「親っさん。やっぱあんたの示した道は正しいかったぜ」

トラジは懐からタバコの箱を取り出し、
1振りして1本取り出す。
箱をしまうと同時に取り出すライター。
手になじみすぎたそのライター。
タバコを咥えると、

「トラ坊、火ぃ。へい・・・・ってなもんで。夢幻なる戯言でさぁな」

自分で火を付ける。
タバコはうめぇ。
あの世にもタバコはあるんかな。

無けりゃぁ届けます。
呼ばれりゃいつでも火ぃ運びます。

《昇竜会》はいつまでもあんたが芯で、
俺ぁいつまでもあんたに付いて行くんだから。

































「次の部屋です!」

走ったもんだ。
青い部屋。
青い廊下。
青い部屋。
青い廊下。
その連続(コンボ)を続けて続けて走り回り、
神族4人と、
《聖ヨハネ協会》の男1人と遭遇した。
んでもまた、

「次もなんかいるんだろな」

呆れてくる。
呆れてアクビが出てからガックリくる。
そんな扉なんだろ。

「まぁ仏の顔も3度までって言いますし、次は《聖ヨハネ協会》の人とかじゃないですか?」
「ことわざの使い方が微妙に違ぇよ・・・」
「まぁでも人間のが楽そうね」
「カッ!ともかく敵なんだろ敵!ムカツクなぁクソっ!・・・・で、次は誰が残るよ?」

ドジャーがカギの束を漁りながら、
扉に合うカギを探す。

「なんですかそれ?誰かが残るのがもうパターンなんですか?」
「そんな感じじゃね?戦うのダリィし、時間もねぇし。おっ、このカギだ」

ドジャーはカギを見つけ、
カギ穴に突っ込む。
そしてガシャリと音が鳴った。

「次は私がやるわ」

マリナがそう言った。
頷きもせず、
アレックスとドジャーは了承した。
誰かが残り、
次に進まなくては、
そうしなければ・・・・間に合わない。

扉が。
新たなる氷の間の扉が開け放たれた。



「よく来た」

広く見飽きた青部屋の中心には、
一人の騎士が立っていた。
堂々と構え、
十字型にくりぬかれた兜(アメット)が印象的な槍騎士だった。

その自信あふれる立たずまいから、
ただ者ではないと分かった。

「私は『十字騎士』。《聖ヨハネ協会》が『十字騎士』ランスロット。この部屋にてお前らを・・・・」

「マリナさんの"3秒クッッキング"!!!どりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃああああああ!!!!」

ああ無情・・・
そんな表現が虚しく響いた。
ドアが開け放たれたのと同時、
マリナは否応も無く、
話を聞き終える事もなく、
マシンガンを乱射した。

青い部屋に銃声がこだました。
乾いた銃声。
乱射音。
無数の弾丸。
雨あられ。
幾多の弾丸。
雨嵐。

きっかり3秒、
途切れる事なく予言が如く。

音が鳴り止み静かになると、
ギターの先の硝煙だけが悲しく立ち昇り・・・・・

「えっと・・・ランスロットさんでしたっけ・・・」
「あー・・・・アーメンって奴だな・・・・」

その騎士は穴だらけになって横たわっていた。

「えっへん!調理完了!」

マリナは自慢げにギターをコンッと地面に立て、
ブロンドの髪を一度たくし上げた。

「いや・・・おめぇ・・・」
「ん?何よ?」
「会うなりいきなり乱射ってよぉ・・・・」
「こう・・・ルールってもんがあるじゃないですか・・・・」
「何それ?食えるの?」

マリナは首をかしげた。
ダメだ。
この人にそんな常識通用しない。
誰かがマリナを"《MD》で1番の怖いもの知らず"と称していたけど、
その通りだ。
この人に何かを強要するのは無理。
むしろ強要っていうか教養って何?って感じだ。
己がルール。
このマリナさんに意見する気?って感じで全てオールオッケー。
アインハルトもツヴァイも真っ青な、
荒ぶる女神がここにいる。

「いいじゃないの。最適にテキパキ、料理は強火でチャッチャでデリシャス。
 "早い・上手い・ヤバい"が酒場Queen Bのポリシーよ」

そりゃヤバい。

「まぁ結果だけ見れば良かったですよ。一瞬で片が付いたわけですし」
「外道だけどな」
「外道ですけどね」
「何よ!このマリナさんに文句あるの!?」
「「・・・・・・ありません」」

いや、
まぁドジャーの理論から言えば結果主義。
結果だけ見れば最速で最高に素晴らしい結果だ。
一瞬で敵を倒した。
これ以上の事はない。

「この私の腕前が証明されたって感じね!って事でさっさと次行きましょ!
 出来れば早く済ませて帰りたいのよ私は!お店が心配で心配で・・・」

お店が全ての優先順位の先か。
素晴らしい考えだ。
宗教などには絶対関わる事ないだろう。

「って・・・あれ?」

アレックスは一つ異変に気づいた。

「ん?どうしたのアレックス君」
「カカッ!とぼけた顔しやがって!」
「いや・・・だって・・・・」

アレックスがぽかんとしているのを見て、
ドジャーとマリナも前方を確認した。
ん?
いや、
何の変哲もない。
何の変哲もない見飽きた青い部屋だ。
ただの青い部屋。
氷の部屋。
それ以外には何もない。
何も・・・

何も・・・・

「死体・・・どこ行った・・・・」
「・・・・・・・・」

3人は咄嗟に身構える。
アレックスは槍を、
ドジャーは両手にダガーを、
マリナはギターを。

「何かの能力か!?」

3人は見渡す。
だが・・・
特に襲ってくる様子はない。

「分かりません・・・・おかしいのは確かですけど・・・」
「面倒な敵だな・・・・」

だが考えてもしょうがない。

「パスね」

マリナが言った。

「なんかの能力で罠かなんかでも、とりあえず時間ないから進んじゃいましょ」
「おいおい・・・・」
「・・・・まぁ賛成です。困るのは後から来るトラジさん達でしょう」

鬼かこいつらは。
他人任せも甚だしい。
自分がよければそれでいいのか。

とまぁでも、
なんだかんだで3人共部屋の奥の扉を開けているのだから仲のいい事だ。
間違っても正義のヒーローとかにはなれないだろう。

「はぁ・・・また廊下ね・・・・」

扉を開けると、
そこはまた見慣れた廊下。
青。
氷。
天井も壁も地面も、
透き通らない青色の氷に覆われている。

「それでまた部屋ってね・・・・やんなっちゃうわ・・・なんかのフルコース?これ」
「その比喩からだと、メインディッシュとかありそうでやなんですけど・・・」

文句を垂れながら、
アレックス達はまた走った。
コツコツと響く足音。
聞き飽きた。
この城。
氷の城、アドリブン。
どこをどう走っても全て同じなのだから。

「前菜そろそろ終わりにしてくんねぇかな・・・・」
「どうですかね・・・」
「怠惰天使、罠好き老人、愛馬鹿天使、蜘蛛腕女と来て十字騎士のソテー。
 次は何が来るのかしらね。胸がウキウキしてやんなっちゃうわ。勘弁してよもう・・・」
「ってあれ?」

驚く事に、
慣れすぎたからこそ驚く事に、

次のドアはすぐに現れた。

「なんか大きいですねこの扉」
「っつーかカギ穴ねぇぞこの部屋」
「今までと違うわね」

見てすぐに分かるほどに違う扉。
大きく、
飾りつけも丁寧で堂々とした扉。
今までとは違う。
雰囲気が違う。

「カッ」

ドジャーは笑った。

「こりゃぁ本当にメインディッシュって奴じゃねぇか?」
「っぽいですね」
「ラスボス部屋っぽいわ」
「恐らくで間違いなく・・・ヨハネの居る部屋って事じゃねぇか?」
「氷の城の事を考えると女王の間ですね」
「女王?このマリナさんを差し置いて偉そうな部屋だわ」
「カカッ!何はともあれメインディッシュだろう事は疑いようがねぇ」

ドジャーは両手でその扉を大きく、
重く大きく開いていった。

「ご馳走(メインディッシュ)を食らってやるよ」







他の部屋より一際まぶしく、
光に包まれた。

「大層なもんだぜ」
「ディナー会場ですね」

眩しさに目が慣れると、
まず部屋の広さに驚く。
大きく、
他の部屋も十二分に大きかったが、
それを何個も継ぎ合わせていったかのようなほどに広く大きかった。

まず天井が高い。
見上げると、なるほど。
大層なシャンデリアが吊るされている。
氷なのか、
ガラスなのか。
ステンドグラスのように7色に輝く悪趣味かつ鮮やかなシャンデリア。

そして、
予想ほどに人間の数はいなかった。

「あいつらなんだ?」
「見たことありますけど・・・」
「っていうかこの城に来た時に居た女神官じゃないの?」

まず目に付いたのは・・・・

女神官。

3人。
3人の女神官。

「ちょ、そういえばアレ!ルアスのライナ神官じゃないの!?」
「は?見分けつかねーよ」
「いや、ていいますか・・・」

っていいますか、
といいますか。

「これ、各都市の神官さん達です・・・」

各都市。
つまり、
ルアス、
ミルレス、
スオミ。

善都市で高名なる3人の女神官。
ルアスの神官"ライナ"。
ミルレスの神官"ルナ"。
スオミの神官"アリス"。

その顔の広さ。
言うならば、
戦闘に関する職業に就いた場合、
彼女達の世話になっている者も多いだろう。


「「「よくいらっしゃいました異教徒様」」」

「うぉっ!?」
「ビックリした・・・・」

3人の女神官は同時にしゃべった。
凄い息の揃い方だった。
どこかでウエイトレスでもしてるかの如く、
声が揃っていた。

「なんだぁこいつら・・・」
「善都市の女神官さんがなんでこんなところに・・・・」
「そりゃぁ・・・」

考えるまでもない。
考える上で結果は一つだろう。
他にいろいろ屁理屈はあげれるが、
あえてあげるなら結果は一つ。

「各都市の神官が《聖ヨハネ協会》のメンバーだったってことね・・・・」

ライナ。
ルナ。
アリス。
3人の女神官。
それは、《聖ヨハネ協会》のメンバー。
神を信じる信者。
当然か。
神官なのだから。

「で?」

ドジャーは首をかしげた。

「だからなんだ?」

とまぁ・・・
それもそうだ。
有名な僧侶さんが敵のとこにいたからなんだってとこだ。
どう見たって戦闘力はなさそうだ。
ないだろう。
皆無だ。
そう見える。
いろんな者と、
見て、聞いて、触って、戦って、殺して、負かされてきた。
この3人の女神官に戦闘能力がない事は、なんとなく感覚で分かった。

「そう」「私どもに」「戦う能力はない」

3人の女神官は、
まるでリレーをするかのように話し始めた。

「戦いは」「なくなる」「べきです」
「神は」「争いを」「好まない」
「争いが」「起こる」「くらいなら」
「争いの」「元を」「・・・・・・・消してしまえ」

耳が痛くなる会話だ。
会話と言っても3人の女神官がしゃべっているだけなのだが、
壊れた通信を聞いているように頭が痛くなる。
居たく不明瞭だ。
一人づつしゃべりなさいと親にならわなかったのだろうか?
いや、
一人づつしゃべっているか。
いい親じゃないか。

「「「異端者よ」」」

ハーモニーが如く、
重なる3神官の声。

「お前らは」「勝ては」「しない」
「勝つ」「事は」「できない」
「勝つ」「事は」「望まれない」
「何故なら」「神の意思に」「背いているから」
「神の意志と」「逆側に」「いるから」
「散りゆく」「運命」「なのです」

聞き取りにくいが、
確実に分かりやすい事を言っている。
つまり、
「あんたら神に逆らう人間だから死んじゃうよ」
ってことだ。

「カッ、そんな聞き飽きた言葉うだうだ聞いてられねぇんだよ。いいか?いいかおい」

ドジャーがグチャグチャと女神官に文句を垂れ流し始めた。
なんかよくわからない文句のぶつけ合いになっている。
聞くも涙。
話すも涙。
アクビが出るって意味でね。

そんな中、
アレックスは辺りを見回していた。

「・・・・・・・・」

この女王の間。

こんな女神官3人に会いに来たのではない。
目的は・・・天使試験。
ヨハネ。
ヨハネ=シャーロットだ。
いないのか?
どこに居る。
ここから他へ繋がってる様子はない。
いろいろな装飾品が飾ってあるが、
どこかに隠れているのか?
・・・・・・・それは考えにくい。

「あれ?」

いや、
ふと・・・
ふと気づいた。
なんだあれは。

"なんだあれは"。

そんなはずはないだろう。
ないさ。

「え・・・あれ?・・・・」

ないない。
そんなことはない。
いやでも・・・・

「どうしたのアレックス君?幽霊みたような顔して」
「カカカッ!ほんとだアホ面してやがる!どった?うまそうなプリンでもあったか?」
「いや・・・あれ・・・・」

アレックスが指をさす。
その先。
あったのはもちろんプリンなんかではない。
プリンならどれだけいいか。
というかプリンなら目を輝かせている。
だが、
今は・・・
目を疑っている。

「客人のそーいう顔を見るのは何度目か」

ソレは、
カシャンカシャンと音を立て、
こちらに歩み寄ってきた。
槍を持っている。
鎧を着ている。
そして、
自慢の兜(アメット)は十字穴。

「おま・・・」
「あんたさっき私が撃ち殺した・・・・」

「二度目の自己紹介をしようか異端者。私は『十字騎士』ランスロット。
 神の使命にのみ跪く、誇り高き聖なる勇者。ランスロットだ」

殺したはずのランスロットは、
そこに堂々と立っていた。
別人?
いや、
鎧が穴だらけになっている。
間違いなく先ほどマリナが撃ち殺した男だ。

「驚くのも無理ないねアダムロミオ!」
「ははっ、そうだねイブジュリエット!」

声に反応し、
見上げた。
この広い女王の間。
その左奥と右奥の天井。
そこから二人の天使が降りてきた。

「あんた達は途中の部屋にいた・・・」
「バカップル天使・・・」
「シシオさんが相手してるはずじゃぁ・・・」

「愛は不滅だよねイブジュリエット」
「恋は不死身だよねアダムロミオ」

二人の天使は降り立つとともに、
相互に近寄り、
手を繋いだ。

「こっちの手ならまだ手を繋げるね」
「愛は赤い糸の恋する二つの手で紡ぐものだからね」

片手の指が無くなっている。
どういう事なのだろうか。
戦闘は・・・したという事だろう。
なら・・・・
シシオは負けたのか?

「あなたは」「神を」「信じますか?」

3人の神官が言った。
突然に何を言ってるのか。

「命の」「不滅を」「信じますか?」

何を言ってるんだこいつらは。
頭がおかしいのか?
なんだ。
こっちの頭がゴチャゴチャしてくる。

「信じる」「者は」「救われる」

何を・・・

「「「信じる者は救われる」」」

何を言っているんだ。

混乱する。
混乱していると、
突如3神官の体が光り始めた。
輝き始めた。
何かを詠唱している?
なんだ。
なんなんだ。
不思議に、
ただ見届けるしか行動手段が思いつかなかった。
すると・・・・

「・・・・痛ぇ・・・・痛え!わらわがあんな下級種族に!!」

突如部屋の中心に、
光と共に一つの存在が現れた。
8本腕。
8本腕の羽根の生えた神族が、蹲るようにして現れた。

「「「今のは危なかったですよ」」」

3人の神官は同時にそう言った。
きいたことある。
きいたことあるセリフだった。

「クソッ・・・またか・・・」
「あれは確かトラジさんと戦ってるはずの人ですよね」
「確かアシュラゴゼンとかいう・・・・」

通り過ぎたはずの部屋。
部屋。
今までの部屋に居た敵たち。
アダムロミオ。
イブジュリエット。
アシュラゴゼン。
ランスロット。
神族3人、人間1人。
その4名。
それが・・・・ここに居る。

「どうなってんだ・・・・」

「おい人間!人間女!早く治療しろ!く・・・わらわにこれほどのダメージを・・・・」

蹲るアシュラゴゼン。
口から吐血している。

「焦らずに」「静粛に」「すぐ治します」

3人の神官が、
アシュラゴゼンを取り巻き、
光り輝く何かをアシュラゴゼンに包み込んだ。
回復魔法。
治療スペル。
ヒールか何か。
それら回復スペルの何か。
それを3人同時で施してる。

「転送・・・してきたって事ですか」

アレックスは頭を整頓し、
その様子を結果として想像として可能性として述べた。

「五月蝿いぞ人間!愚かで愚鈍で低スペックな知能しか持ち合わせていないクセに口を出すな!」
「合ってるけどね。イブジュリエット」
「正解だけどね。アダムロミオ」
「つまりそういう事だ」

アシュラゴゼンの治療の中、
ランスロットが先頭に話し始めた。

「彼女ら神官達は、"蘇生転送能力"を持っている」

蘇生転送能力(リバイバルゲート)?
聞いたこともないスペルだ。

「聞いた事はなくとも知っているだろう」

十字騎士ランスロットは言う。
知っている?
・・・・。
あぁ知っている。
確かに。
聞いたことはないが知っている。
彼女達の能力。

蘇生転送。

冒険なる初心者なら世話になった事のある者もいるはずだ。
いるはずなのだ。
なったことなくとも知っているはずだ。

戦闘で倒れた冒険者を転送して呼び戻す。
彼女達の仕事内容とでも言えるもの。

「彼女達は、死者・・・または死亡直前の者を自分達の元へ転送できる」

そして言われる。
"今のは危なかったですよ"

「なんじゃそりゃ・・・」
「死人転送術って事ね・・・・」

つまり、
ここにいる者たち。
アダムロミオ。
イブジュリエット。
アシュラゴゼン。
ランスロット。
この4名。
全て・・・戦いに敗れ、転送されたという事。

「そういえば神官殿。ネオガブリエルとイエス老はどうなさった?」

「ネオガブリエルは」「死んでません」「戦ってません」
「イエスさんは」「死にました」「間に合いませんでした」
「首を切られました」「蘇生も無理でした」「回復もできませんでした」

「そうか。イエス老は《聖ヨハネ協会》で唯一私と並べる者だと思っていたのだが・・・」
「というか十字人間。わらわより先に戻ってるとはどういう事か?
 わらわの後の部屋の守護をしていたというのに・・・どれだけ早く瞬殺されてたのだ」
「・・・・・・・・」
「どれだけ人間は低能なのだ。これだから低スペックなる人間という下級種族は・・・・」

「なんじゃこりゃ!?」

突然背後から声が響いた。
振り向くと、
スーツが3つ。
トラジ、ツバメ、シシオ。
3人が到着していた。

「おま、俺が倒した奴じゃねぇですかい!」
「俺も・・・」

当然の反応だ。
当然に決まってる。
今だ自分達も驚いているのだから。

「なんだい。あんたら殺し損ねたのかい?」

ツバメがため息をついた。
自分が戦ったイエスがいないのを見て、
唯一敵を仕留めつくしたツバメは呆れた。

「いやいや!俺ぁキッカリ殺しやしたぜ!」
「・・・俺も・・・・」

自分達も今状況を知ったばかりだが、
そこから説明するのはなんかダルいなぁ。

「アシュラゴゼン様」「治療が」「完了しました」
「砕けた骨や」「内臓の損傷の」「完治は無理ですが」
「戦えるレベルまでは」「十分に」「修復しました」
「ありがたいことだわ。神であるわらわに損傷など・・・・恐ろしい・・・恐ろしいほどに愚ろか。
 だが人間の中にも面白い能力を持つ者もいるものだな。神の僕だからこそだろう。
 人間はそうしなければ認めるに値する者になれないという事か」

向こう側に、
アダムロミオ。
イブジュリエット。
ランスロット。
アシュラゴゼンが並ぶ。

「さぁて、もう一戦だな。先ほどは一戦さえも及ばなかったが」

ランスロットは槍を構えた。

「恋は不滅」
「愛は不死身」
「所詮私達の仲を切る事なんて不可能なのよね」
「所詮赤い糸を切れるものなんて存在しないわけだよね」
「愛ってすごいね」
「恋って無敵ね」
「私達って幸せだねアダムロミオ!」
「ああ!だってこんなに愛し合ってるんだからイブジュリエット!」
「ラブ・アンド・ピース」
「ラブ・イズ・ピース」

二人の天使が、
手を取り合って踊るようにする。

「という事だ」

アシュラゴゼンが壁にかけてあった剣を手に取った。
先ほど、トラジとの戦闘で砕けたからだ。
壁に装飾品として飾ってあった剣を取って周り、
8本集まったところでまた部屋の中心に戻ってきた。

「再戦と行こうか愚かで下等で低スペックで・・・・恐ろしいほど・・・・恐ろしいほど無力な人間よ」

アシュラゴゼンの8本の剣がこちらに向く。

「クソッ・・・マジかよ・・・」
「だからわざわざ部屋ごとに守護者なんて回りくどい真似してたってことかい」
「ただの時間稼ぎってぇもんでさぁな・・・今までの戦いなんて・・・」

よくよく考えれば、
部屋に1人。
または2人なんて待ち構え方はおかしかったのだ。
そして、
例えばツバメが戦ったイエス。
あの老人は取引と言って1対1を希望し、残りは通すなんて事を言い出した。
本来ならあり得ない。
起こりえないのだ。

「ちょっと!倒せない相手とまた戦えっていうの!?」
「いや、ツバメさんは倒しています・・・蘇生不可能なほどにやれば・・・」
「少しでも甘けれりゃぁ・・・一瞬で蘇生&回復ってもんでしょうけどねぇ」
「ゾンビ・・・・」

蘇生不可能なほど、瞬殺。
それ以外は・・・
無効。

「悪いな。異端者共。こちらだけ"無敵モード"で悪いとは思う」
「だがな人間。下等なる人間・・・・・仏の顔も・・・・」

アシュラゴゼンが8本の剣を振る。

「二度までだ!!!!!」


不死身の・・・死なぬ存在。

それでも刃は向けなくてはいけない。




アレックス、ドジャー、マリナ、トラジ、ツバメ、シシオ

VS

馬鹿愛天使アダムロミオ、イブジュリエット
8腕神族アシュラゴゼン
十字騎士ランスロット
・・・・・・・&
都市神官ライナ、ルナ、アリス。












                 






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