「で、今ここ何階なんだろ」

チェスターは敵をぶん殴りながら考えた。

「んーと・・・メッツが連れてってくれた部屋は何階なんだろ」

まぁ何階であったところで関係ない。
だってこの城が何階まであるか知らないのだから。
もしたとえばここが5階だったとして、
チェスターはこの先何階登ればいいか分からない。
だが、何階建てで、
今何階であっても同じことなのだ。

「ま、とにかく登り続ければ最上階ジャン!!」

なんとも前向きだ。
それ以外の思考はない。
いらない。
持てない。

                           敵が少ないな

デムピアスが言った。

「つまんないよなー」

チェスターは返す。

                           いや
                           おかしくないか

                           明らかに上へは登ってきた
                           だが敵の質が上がることもなく
                           数も減っている

「だよなー」

明らかに減った敵の数。
RPGでもないが、
最上階に登るにつれ難関になっていくのは当然だろう。
しかし減る敵。
強くなることもない敵。

                           簡単に言えば
                           もう招かれてるとしか考えようがない
                           罠とは言いづらいが
                           招待されている
                           そんな感じだ

「苦労してこそヒーローの株があがるってもんなんだけどなー」

                           危険が少ない事はいいことだ

「安全な事しかしないヒーローなんていないぜっ!」

                           馬鹿な無謀か

「勇気だよ」

                           恥ずかしい奴だ


だが、
だからこそ、
この赤裸々な人間臭さ。
いや、臭き人間。
そこをデムピアスは気に入っていた。
だが失いたくもない。

                           矛盾を背負うか
                           お前の仲間も面白い事を言う


「オイラの仲間は皆面白いぜっ!」

                           だろうな

デムピアスの顔は見えない。
心も見えない。
ただ声だけが届く。
だが、
デムピアスがふと笑っただろう事を感じ取った。
魔物の王でも笑うのか。
・・・・・・・・
そんな疑問はチェスターには浮かばない。
おかしかったら誰でも笑うだろう。
そんな純な思考しかない。

「退屈だー」

走っているチェスター。
文句を垂れる。
邪魔されないことに文句がある。
どんな人間だ。

「ヒーローには障害が必要だ!」

という事らしい。
生涯障害人生。
障害無き人生などしょうがない。
しょうがない言葉だ。

                           匂いだチェスター

「ん?」

突然デムピアスが言う。

「おならの?」

ありがちな返事をするチェスター。
まさに屁でもない言葉だ。

                           いや
                           カスの匂い
                           つまらん人間の臭いがする

「敵?」

                           今までのとは少し違う
                           だがしょうもない魔物と同じ臭いだ

「ってことは倒すべき敵かな」

チェスターがニヤりと笑うと、
走る方向に何か。
何かが横切った。
何が横切ったのか。
分からないし、分かりもしない。
確認できなかった。

「なんだぁ?」

そう思っていると、
何かがやはり前にいる。
だが確認できない。
いや、
存在に気づくだけチェスターの勘はいい。

「何者だ!!」

とチェスターは格好をつけて言うが、
それはやられる悪者のセリフな気がする。

「っていうかどこジャン!!」

前。
いる。
いるはずなのにいない。
確かに前にいる。
気で分かる。
が、
あやふやだ。
・・・・・・・
と思っていると、

「なんや」

「!?」

背後から声が聞こえた。

「ドジャーはんやないんかい」

何かを突きつけられている。
背中、
いや、後頭部に。

「おっと動くなや」

「いつの間にっ!」

チェスターは振り返って退いた。
同時に銃声が一発。
それはどこかに飛んだ。

「おまっ!!動くな言うた瞬間に動くなや!!」

「お前誰ジャン!!」

「聞きや人の話を!!」

振り返った目線の先。
そこには白髪の男がいた。
体中が機械仕掛けになっている。
右腕はライフルに。
左手の甲にはダガーが。

「あれ、どこかで見たことあるジャン・・・・」

と首をかしげる。
まぁ一度会っている。
マリナの店Queen Bに攻められた時だ。

「エンツォ=バレットや」

「・・・・・・・覚えがない」

・・・・・・
ならもういいんじゃない。

                             なんだこいつは

「何が?」

                             人間なのか
                             機械だらけだが
                             いや
                             人の匂いはする
                             臭いがな
                             気に入らないクズな人間の臭いだ
                             これだから人間とは相容れない

「人間にもいい人はいっぱいいるんだぜ?」

「なんやあんさん。誰と話してんねや」

                             これが人間なのだろうな
                             お前とばかりいると
                             人間の本性を忘れそうになる

「オイラは人間の中でもヒーローでだからな!」

「おい、だから誰と・・・・」

「そしてオイラは人間を平和にするために!今立ち上がった!」

「無視か!」

「っと危な!」

銃弾が一発。
それを自慢の反射神経で避ける。

「グダグダしゃべりおって」

硝煙のあがるエンツォの右手のライフル。
というか右腕。

「まぁええわ。興味ないしな」

その右腕を下ろすエンツォ。

「脱出しよう思ってたら侵入者や言うし。ドジャーはんかと思っとったけどハズレみたいや」

白い髪を振り、
体の向きをチェスターから反らすエンツォ。

「わざわざ追いかけて登ってきたんに、見つけた思うたらハズレかいな。
 さっさとこんなきな臭いとこトンズラさせてもらうとすっか」

エンツォはそう言い、
振り向いて後ろを向いた。
血の通ってない白い髪。
そして「ほなさいなら」と言いながら手を振りながら歩いて行く。
ダガー付きの機械仕掛けの左手を振りながら。

「あぁせや」

ちょっと立ち止まるエンツォ。

「ついでやし殺しとくか」

少し振り向かれた左目。
機械仕掛けの左目をこちらに向けたと思うと・・・・
口元に笑みが残り・・・
消えた。

                           来るぞチェスター!

「分かってる!」

正確には消えたわけじゃなく、
高速で、
光速で飛び込んできた。
どこに。
インビジブルでもない不可視の世界。
人間でありながら人間工学の限界を超えた速さ。
刹那。
その一瞬だけでの判断。
チェスターは持ち前の反射神経で判断する。

「そこだっ!」

少し視界の破片に映った残像。
だが実像。
やや左。
ほんの些細な時間の破片の中、
チェスターは自分から見てやや左にエンツォの姿を一瞬捉える。
自動的に体が動く。
短い時間だが、
修行のたまもの。
体が勝手に動く。

「逆や」

だが、
エンツォの姿はその時すでに逆にあった。
やや左に攻撃意識が向いたチェスター。
攻撃体勢に入ったチェスター。
だがその逆。
エンツォは一瞬で右まで詰め寄り、

「もっぺん言っとく」

右腕のライフルを向けていた。

「ほなさいなら」

銃声が響くと同時。
いや、
同時では間に合わない。
一瞬早くチェスターは体を翻す。
やはり運動・反射神経に関しては突き出たものを持っている。

「くっ!!」

チェスターは体を翻しながら、
さらに
片足をライフルにぶつけた。
言うなら、
避けながらライフルを蹴飛ばした。
銃声と同じく、
エンツォの右腕のライフルは弾かれ、
弾はあらぬ方向に飛んでいく。

「ほぉ」

エンツォがニヤりと笑うと、
機械化している左目がカシャカシャ音を鳴らしていた。
機械の体だからだろう。
よく聞くと全身から軋み音をあげている。

「今度はこっちジャン!!」

チェスターが右腕を構え、
力をこめる。
力。
エネルギー。
気。
イミットゲイザーだ。

「オイラはこんなところで止まってられないんだ!!」

気はすぐに溜まる。
目標が目の前にあるなら、
迷いなんてない。

「ヒーローは止まっていられない!どんな障害でも!オイラを阻むならそれは打ち砕く!!」

「そうでっか」

「どっかぁああああああああああん!!!」

力の限り打ち出す右腕。
遠距離パンチ。
飛んでいくエネルギー。
気の塊。

「でもまぁ・・・・言うやんけ」

そしてそれは当然エンツォの方へ飛んでいき、
そして着弾した。
炸裂する。
気が飛び散り、
爆発したような衝撃。
いや、もう爆発したと言ってもいいだろう。
だが埃が晴れると、
その目線の先。
廊下の先。
そこではまた悠々とエンツォは背後を向けていた。

「あれ?当たってない?」

「当たるかボケィ。あんな遅い亀大砲」

背を向けて言いながらエンツォは手を振る。
そして去っていく。
また。
背後をまるまる見せた余裕な様子で去っていく。

「もうええわ。なんやメンドそうやしな。倒すんに手間かかるんならわざわざ殺らんわ。
 わいの目標はドジャーはんだけやからな。命拾うたなヒーローはん」

「待てよ!」

「待たへん待たへん。別にわいは敵やないからな。
 障害にならへんのやったらわいを狙う理由あるかいな?ヒーローはん」

「え?・・・んーっと・・・・あっ!!」

思いついたようにまた身構える。

「ドジャー狙うんなら仲間のピンチ!!それは黙ってられないジャン!!」

「なんでや?」

「ヒーローだから!!スーパーヒーローだから!!!」

「ハハッ、つまり自分の存在意義やな」

「難しい言葉使うなっ!」

「けど分かるで。わいもあんさんもおんなじや」

背を向けて歩いていくエンツォは、
どんどんと遠ざかっていく。
自慢の俊足も使わないが、
ただただ遠くへと遠のいていく。

「あんさんが自分の存在意義のために止まれないように、わいも止まれへんねや。
 そう・・・止まれへん。わいは止まれへんねや・・・。
 あいつらがわいに付いて来てくれたんもわいが一番速かったからや・・・
 わいはいつまでも先頭に・・・誰よりも速く・・・最速でないと・・・・・」

つぶやくような声が小さくなり、
そして声と共にエンツォの姿は消えていった。

「ふーん。似たような理由かぁ」

よく分からないが、
チェスターはなんとなく納得した。

                            奴は何かに飢えている
                            お前と同じだ
                            譲れない何かがあるのだろう
                            ふん
                            小汚いがな

「あれ?」

                            なんだ

「お前が通り過ぎた敵にいちいち反応するの珍しいジャン!」

                            ・・・・
                            確かにな
                            少し気になるところはある

「なんで?ウザいから?」

                            お前と同類だからだ
                            目指すものは逆で
                            性格も逆だがな
                            クズでしかない
                            お前のような真っ直ぐな善の人間もいれば
                            あいつのような真っ直ぐで腐った人間もいる
                            人間はくだらんな
                            同属なのに個性がある
                            くだらな過ぎて面白い

「かもなぁ。でも悪もはびこるけど!オイラみたいなヒーローもいる!」
                            
                            ふん
                            まぁ面白かった
                            俺が気に入るお前と同属なのに
                            逆に不快に感じる人間もいると

「よく分かんないけど!」

チェスターは右腕でガッツポーズをとる。
自信満々の笑みで。

「そんな理由は簡単ジャン!どんな理由があっても悪いことはしちゃいけないんだっ!
 悪は許さ〜〜〜ん!!正義の鉄槌はどんな悪にでも向けられるよ!
 例えば悪いことされたから悪いことしてもいいわけじゃないんだ!
 いいことされたらいいことしていいけどね!さっきメッツが言ってたことだけど!」

                            お前らしいな
                            だがお前が今やろうとしていること
                            師の復讐とやらはそれではないか?

「だーかーらー。復讐とはちょっと違うんだって!
 オイラは師匠を倒した凄い奴と戦いたいし!そいつが悪い奴ならやっつけなきゃいけない!
 だって師匠は悪いことしてないし!殺される理由なんてなかったんだもん!
 そんで倒してオイラの強さと師匠の強さを証明して!世界も平和にして!
 うわっ!凄いジャン!やっぱオイラ凄いジャン!凄いいいことばっかジャンこれ!」

超ポジティブで真っ直ぐで、
チェスターは自信満々のまま、
そして歩を進めた。
廊下を歩く。
その顔は自信に満ちていた。

「悪を倒すぞー!!」

迷いがないから。
それだけだ。
メッツに言われて吹っ切れた。
こうなるとチェスターはやはり無敵だ。
言ってもきかない悪いやつを、
言ってもきかない正義のヒーローが倒しにいく。
どうだろう。
だれが止められる。
止められるわけがない。

「進めぇー!オイラァー!正義の世界を作るためにっ!!」

走るヒーローは光に溢れ、
迷いがないから止まることもない。
正しいと信じ、
その先に行くことだけしか考えない。
だからこそ進み、
進むだけ。
そして止まらない。
ただ真っ直ぐに進み続ける。

ただヒーローにも、


「止まるッス。チェスター」

倒したくない敵もいる。

「ここまでッス」

少し広い部屋に出た。
なんとなくこの階の真ん中なのだろうと分かる。
大きなロビーのような部屋。
いや、部屋ではないが大きな広場。
豪華なシャンデリアがぶらさがり、
赤いじゅうたん。
その4方に道。
とにかくここは広い大きなロビー。

「これ以上先には行かせないッスよ」

とーんとーんと軽くジャンプし、
左・右と1・2パンチを見せる。
その両手にはディスグローブ。
44部隊。
ナックル=ボーイ。

「やっぱ会っちゃったか」

チェスターは走るのを緩め、
そして止まる。

「いるんだろうなぁとは思ってたけどさ」

チェスターの目線の先。
ナックル。
2度だけ出会った。
そのひと時。
GUN’Sと戦った。
44部隊だが、
共に戦った。
共同戦線。
そんな話じゃない。
短い間だったが・・・人生で一番気の合う人間。
それがナックル=ボーイだった。

「それはそうッス。自分は敵ッスから」

「オイラはボス倒せればいいんだけどな。だからナックルと戦えなくてもいいんだ」

「無理ッスね」

「戦いたくもないんジャン」

「無理ッスね」

ナックルはディスグローブをはめた両手で、
もう一度シャドーボクシングをする。

「自分はこっち側。それでチェスターはそっち側。それだけッス」

「友達ジャン?」

「友達ッスね。でも敵ッス」

「・・・・・・・どうしても戦わなきゃダメなんだな」

「そういう事ッス」

チェスターは一度肩を落とす。

「覚悟はしてたジャン・・・・」

そして両手をあげた。
両手をあげ、
それをぐるりと時計のように回す。
円を描く。
そして10時の方向で止める。

「オイラはヒーローだからっ!どうやっても通してもらわなきゃ駄目ジャン!!」

そして今度は4時の方向に両手をビシっと移動する。

「立ちふさがる者をどうしてもどいてもらうジャン!それが平和のためだからっ!」

「ハハッ・・・」

ナックルは少し笑い、間をおいたと思うと、
自分は両手を広げて片足を上げた。

「自分は男を目指すッス!師匠のように漢になるために!男の中の男を目指すッス!
 だから何も裏切れないし、一度決めたことは貫き通すッス!」

対極。
そこでチェスターとナックル。
ユナイト=チェスターとナックル=ボーイ。
向き合い、
お互いを見る。
そして、
叫ぶ。

「ヒーローは退かないっ!」

「男は曲げないっ!」

「ヒーローは止まらないっ!」

「男は貫き通すっ!」

「正義のためにっ!」

「誇りのためにっ!」

「進まなきゃいけないからっ!」

「決意しなきゃいけないからっ!」

「ヒーローとしてっ!」

「男としてっ!」

「スーパーヒーローだからっ!」

「男の中の男だからっ!」

「後にはっ!」

「退けないっ!」

「「勝負っ!!!」」

そのときには、
早くもお互いの決心は固まっていた。
お互いがお互いを、
友として・・
いや、
戦友(ライバル)として、
お互いの事を知りすぎているから。
感じ取れるから。
あいつは曲げない。
あいつは退かない。
お互いの信念の強さをお互いに分かっていて、
言ってもきかないって事を言わなくても分かる。

「どっかぁあああああん!!」

なんの迷いもなく、
チェスターは片手に気をため、
一気に撃ち放った。
イミットゲイザー。
それがナックルに吹っ飛んでいく。

「忘れたッスか!!?」

ナックルは両腕を構え、
そしてそのコンパクトな構えの中から右腕だけを突き出す。
真っ直ぐな右ストレート。
それは真っ直ぐな真っ直ぐな右ストレート。

「自分にイミゲは効かないッスよ!!!」

その右ストレートはイミットゲイザーにぶちかった。
パンチで打ち落とした。
炸裂もしない。
イミットゲイザーは弾けたように消え去った。

「あ・・・そうだったジャン・・・・」

ナックルはあぁ見えて聖職者。
ディスグローブに込められた力。
アンチカーズ。
少し特殊な力でもあるが、
簡単に言えばナックルの拳はどんな力も無効化する。
アンチカーズディフェンス。
アンチカーズプロテクション。
それらの力が合わさったようなもので、
詳しく言えば増強した力を無効化する。
それらを踏まえ、
もう一度簡単に言うと、
"ガチンコの力以外は無効"
そういう事だ。

「前にも言ったッスよね」

ナックルはコンパクトに構えながら、
とーんとーんとジャンプする。

「男はガチンコッス」

そしてまた1・2とパンチ。
シャドーパンチ。
コンパクトな構え。
その軽快なフットワーク。
そしてディスグローブを付けた両手のパンチ。
ナックルの戦い。
それはボクシングを基本としている。

「自分は自分を聖職者なんて思ってないッス」

軽快に小さくジャンプしつつ、
アゴの前に構えられた両手。

「ましてや修道士でもないッスね」

そしてまたシャドーボクシング。
目にも見えないような拳。
左が二度連続で放たれた後、
ナックルの右腕が真っ直ぐ突き出された。

「拳闘師(ボクサー)。男は拳で語るもんッスよ」

「おっけー」

チェスターも拳を握り、
コキコキと鳴らした後、
似たような構えをとって右腕を突き出す。

「じゃぁガチンコといくジャン」

広いロビーの対極で、
右腕を突き出すヒーローと男。
お互いさわやかに笑顔を送った後、

「レディィ!ファイッ!!」

「カーーン!!」

この広いロビーという名のリング。
その中お互いまっすぐ中央へ。
同時ぶぶつかるように走った。

「ナックルゥウウ!!!」

チェスターが叫びながら、
走りながら、
ナックルに向かって拳を突き出す。

「チョロいッスよ!!」

その拳をくぐる。
ボクシングの動き。
ナックルは走りながら近づき、
だが低くまとめられた上半身だけが動く。
上半身だけがレッキングでコンパクトに、
最小限に避け動作を行い、
そしてまたコンパクトで最小な動きの拳。
拳を突き出しているチェスターに向かって右腕は小さく振り切られる。

「うごっ!!」

顔はへしゃげるようにぶれる。
拳の突き刺さったチェスターの顔は、
そのまま横に跳ね飛んだ。

「まだまだぁっ!!」

顔面を殴られてあらぬ方向を向かされたチェスター。
だがナックルの攻撃は続く。
体勢を低く、
コンパクトにまとめ、
狙うは一点。
チェスターの腹。

「ボディボディボディボディ!!!」

連打連打連打連打。
チェスターの腹部に向かって、
執拗に殴りまくる。
コンパクトに。
10センチもない動きのパンチの連打。

「ぶっ・・・」

チェスターの口からツバが飛ぶ。
胃の中から胃液さえパンチで押し出されて飛ぶ。
だがナックルの猛攻は止まらない。

「ボォーーーディ!ボディボディボディボディボディ!!」

「こ・・・のぉ!!」

やられっぱなしでいられない。
体全体に響くような腹へのパンチの連打を受けながら、
チェスターは右腕を大きくふりかぶる。
そして放つ。

「そんなケンカパンチ当たらないッスよ!!」

攻撃の最中というのに、
超至近距離というのに、
ナックルは上半身を軽く横に流し、
チェスターのパンチを避ける。
そしてまた続く連打。

「ボディへのパンチは芯への深いダメージッス!即効性はないけど蓄積されるッス!!
 けどっ!自分は男として!ボディからでも男を貫くッスっ!!あぁぁああああ!!」

続く連打。
重く、
体に響く腹への連打。

「ボディボディボディボディボディ!!ボディーブロードランカァアアア!!!」

小刻みな超連打から、
最後に真っ直ぐ突き出される拳。
ボディーへのパンチとしては珍しい、
低姿勢からまっすぐ突き出される右ストレート。

「ごふっ・・・」

全体重の乗った右ストレートは、
チェスターの体をくの字に折り曲げて吹っ飛ばした。

「男のパンチ。効いたッスか?」

右腕を突き出したまま言うナックル。
その中、
吹っ飛んでいくチェスター。
くの字に体が折れ曲がったまま、
吹っ飛び、
そして地面に転がった。

「くっそ!!」

チェスターは仰向けに転がって天井を見上げて悔しんだ。
そして足に反動をつけてビョンと立ち上がった。

「やるジャンナック・・・・ゲホッ・・・」

立ち上がったのはいいが、
重点的に攻められたチェスターの体は、
予想以上にダメージを受けていて嗚咽を促しさえした。

「ほらほらどーしたッスかチェスター!」

ナックルは両手のグローブをガンガンとぶつけ、
その両手を広げてとーんとーんとジャンプした。

「これが自分の実力ッスよ。『壊し屋(ブレイカー)』ってあだ名。
 相手の能力をぶっ壊すからじゃないッス。体をぶっ壊すからッス。
 男の信念は!どんな壁でも打ち砕くッス!男の拳はそうでなきゃいけないんスよ!」

また構えるナックル。
アゴの前に両手を添える。
コンパクトなボクシングの構え。

「へへっ・・・」

チェスターは口を片手でぬぐい、
笑う。

「そうじゃなきゃ面白くないジャン・・・ライバルはそうでなくっちゃ。それに・・・」

チェスターは構える。

「ヒーローにとって、立ちふさがる壁は大きければ大きいほど燃えるんだぜっ!」

「チェスターにとって自分は壁ッスか。でも自分にとってチェスターも壁ッス」

「お互いぶち壊す壁って事ジャン」

「男の信念は砕けないッスよ」

「ヒーローは絶対に壁を越えるんジャン」

「じゃぁ来てみるッスね」

ナックルは笑いながら両手を広げた。
体を大の字に大きく広げる。

「自分(壁)はここッスよチェスター!!」

そして大の字に大きく体を開いたまま、
両手をダラりとおろす。
ノーガード。
ブランブランとぶらさがるナックルの両手。
大きく開いた体。
挑発しているようにしか見えない。

「余裕こいてんじゃないジャン!!」

チェスターが突っ込む。
また馬鹿正直に。
拳を振り上げながら突っ込む。

「男に余裕は必要ッス」

その拳。
振り切られるチェスターの拳。
それはやはり避けられる。
ナックルの両足はそのまま、
上半身だけを反らし、
チェスターの拳は空を切る。

「ボディボディ!!カウンタァアアアア!!!!」

その一瞬の隙。
それだけで3撃。
チェスターの腹に刹那的な1・2パンチ。
そしてトドメと言わんばかりの右フックがチェスターの頬を貫き、
チェスターはまた吹っ飛ばされる。

「ぐぅう・・・・」

吹っ飛ばされた先でチェスターは片手を地面につき、
飛び起きた。

「くっそ!」

「男に余裕は必要ッス。ギルバート先輩も言ってたッス。
 "完璧よりアンバランスがいい"って。それこそ強さになるってね」

「凄けりゃ凄い方がいージャン!」

「凄ければ凄いほど余裕(アンバランス)が作れるって言ってたッス」

「ほんとだっ!その先輩頭いージャン!」

「ロウマ隊長も含めて、うち(44部隊)の先輩は皆尊敬できるッスよ。師匠みたいにね。でも」

ナックルはまた構える。
アゴの前に構える両拳。
その隙間から見える鋭い目の閃光。

「自分も負けてないッス。男である事を極めれば・・・それは男の中の男。
 男の中の男ってのはつまり・・・・男の中で一番って事ッス」

「ふーん。分かりやすい!頭いいなナックルも!」

「簡単で単純こそ男ッス。男ってのはそれでいいッス」

「オイラもそういうのが好きジャン!でもオイラも言っとくジャン」

チェスターは軽く足にきているのを感じ取った。
いや、
感じ取っただけで頭にはいかず、
左足がふらついた状態で根性で馬鹿のように立って言う。

「ナックルが男の中の男になって男の一番になるなら。ヒーローを目指すオイラも同じジャン!
 オイラも男の中の男を目指してるんだ!だってな!オイラも一つ難しい事知ってるんだぜっ!」

「?」

「ヒーローってのは英雄(ヒーロー)って書くんだぜっ!優れし雄!オイラも最強の雄(オス)になる!」

「ハハっ!男(おとこ)と雄(おとこ)ッスか!」

「そゆこと!」

「ついでに師匠は漢(おとこ)ッスよ」

「だから男も漢もぜぇーーぶオイラが倒してオイラが英雄(ヒーロー)!
 つまり・・・・ナックルもナックルの師匠のギルヴァングも全部倒して・・・・なっ!」

男・・・・・。
雄。
漢。
すべての男。
その頂点。
それを目指す男が二人。
チェスターとナックル。
"一番強い男になる"
そんな夢。
馬鹿な夢。
だが誰もが一度は見る夢。
それをまだ持つ純心が二つ。
純粋で純真なる純心が二つ。
馬鹿な夢。
だれが笑うか。
こんな簡単な話はない。

生。
男として生まれ、
男として生をもらう。
そしてその物心がついたころから、
何一つ変わらない人間。
最初に思った夢。
そこから真っ直ぐ。
ただ真っ直ぐ。
本能のまま、
男であるまま、
それを求めて育ち、
一度も曲がらず、
一度も退かず、
ただ真っ直ぐ夢を追いかけてきた男が二人。

誰が笑う。
言うならば笑う奴が誰だ。
男であることの男であるが夢
男としての男ゆえんなる夢。
それを捨て逃げた人間が彼らを笑うのか?
敗北者が挑戦者を笑う。
雄から逃げた女々しき人。
それらが彼らを応援する資格はあれど笑う資格などない。

だが笑われど、
彼らには聞こえない。
ただ真っ直ぐ、
今も真っ直ぐ夢を追いかけているだけなのだから。
聞く耳持たぬ馬鹿。
男は馬鹿であれ。
だからこそ彼らは止まらない。
人の言葉で止まらない。
自分を馬鹿のように信じる、聞く耳持たぬ馬鹿なのだから。

「さて、オイラはオイラの持ち味を生かさなきゃなっ!」

そう言い、
チェスターは右腕に力を込める。
エネルギー。

「何言ってるッスか。イミゲは自分には効かないッスよ」

「分かってるけど頑張る!」

「根拠ない自信ッスか」

呆れると同時にナックルは笑う。

「チェスターらしいッスね」

「そう。オイラらしいのが一番!!!」

そう言いながら、
チェスターは右腕は振る。
振り払う。
エネルギーを帯びた右腕が振り払われると、
それはやはりイミットゲイザーの塊であり、
特殊なものだった。

「師匠直伝。イミットゲイザー九式。イミットゲイザー!ザクザクザックリソード!!」

右腕はからエネルギーの塊が伸びていた。
剣というには大雑把なエネルギーの塊。
だが確かに剣状に伸びていた。

「へぇ。そりゃイミゲで硬気功のようにして体を守れるなら、そのまま武器にも出来るッスね。
 剣になるほど気を練りこめるとは思わなかったッスけど・・・なるほど・・・師匠直伝。
 チェスターの師匠のナタク=ロンっていうのはかなりの気功術の使い手だったみたいッスね」

「オイラの師匠だかんなっ!」

「うん。そして自分の師匠も認めた人ッスからね」

チェスターの師匠。ナタク=ロン。
ナックルの師匠。ギルヴァング=ギャラクティカ。
その二人の戦い。
それはギルヴァングに軍配があがったが・・・
この二人の場合どうか。
それは二人がはっきりと口に出さずとも、
はっきりさせようと思っている事だ。
お互い自分の師匠を信じ、
それについていった自分も信じているからこそ、
それを証明する戦いでもある。

「行くジャン」

チェスターは一度ブィンとイミットゲイザーで出来た剣を振ると、
そのまま突っ込んだ。

「来い」

ナックルは落ち着いたまま、
やはりコンパクトに構える。
アゴの下に両拳を構えたまま、
下半身は軽くステップだけ踏み、
上半身は前かがみに揺さぶる。

「でぇりゃああああああ!!」

剣を大きく振りかぶりながら、
チェスターは突っ込む。

「剣が付いてたって同じッス!!それは剣でもイミゲッスよ!!」

突っ込みながら振り切られる右腕のイミットゲイザーの剣。
だがやはり同じで、
ナックルは上半身を斜めに反らし、
剣をかわしながら右こぶしを巻き込む。
右フック。
かわしながら右拳のディスグローブはイミットゲイザーの剣に叩き込まれる。

「とったぁあああ!!!」

小さな竜巻のように振り切られた右フック。
右スクリューブローは、
チェスターのイミゲ剣に直撃して振り切られる。
まるで煙でも消し飛ばすように、
衝撃さえなく剣はディスグローブによってかき消された。

「何度やっても同じッス!」

「なんちって!!そうくると思ったジャン!!!」

「!?」

飛び掛っているチェスター。
ニヤニヤ笑いながらチェスターの左腕。
そこにも・・・
イミットゲイザーの剣が形成されていた。

「二刀流ジャン!!!ずっばぁあああああああああん!!!!」

「くっ!!!」

不意を疲れたナックルの胸に、
大きく振り切られるチェスターの剣。
イミットゲイザーのソードが振り切られる。
それはナックルの胸を大きく切り裂き、
鮮血を飛ばした。

「チッ!!やるッスね!!!」

ナックルはそのままバックステップで距離をとる。
軽快に、
両手はボクシングの構えのまま、
両足でトンットンッと真後ろに跳ね下がる。
軽快なステップで下がると、
胸から散る血液が軽快さゆえに華麗に舞った。
後ろ向きに道を作る血液の華吹雪。
だがそれも。

「けど勝つのは自分ッス!!」

すぐ前向きに変わる。
瞬間的に軽快に下がったと思うと、
瞬間的に突発的な前ダッシュ。
その勢いに右拳。
右ストレート。
ディスグローブがまっすぐ突き出される。

「わっっと!!」

チェスターは咄嗟に左手のイミットゲイザーの剣を変形する。
左腕に滞在させる。
左腕にイミットゲイザーのグローブを形成する。
師匠直伝。
イミットゲイザー弐式。

「止めるっ!!」

そして右手と、イミゲ付きの左手でその右ストレートを止めた。
が、

「効かないって言ってるッス!」

アンチカーズ。
それは無効化される。
右ストレートの勢いと共に、
左手のイミットゲイザーは消し飛ぶ。
右ストレートを両手で止めた形ではあるが・・・

「ぐっ・・」

おされて飛ばされたのはチェスターだった。
それほど強力な右ストレート。
ただの右ストレート。

「これが男の拳ッス!男の拳の強さッス!!自分はナックル=ボーイ!!拳から生まれた男!
 拳闘なる男で拳に命をかけた男!男の中の男!自分の拳(ナックル)は男の拳(ナックル)!!」

吹っ飛んだチェスターは、
そのまま着地する。
吹っ飛んだだけでダメージはない。
いや・・・両手のひらはジンジンするが・・・
そのまま体にダメージになることはない。
そのまま軽く着地する。

「けど自分は男の中の男になる男ッス!!ボーイ(半人前)は卒業ッス!!
 自分の名は!自分の手で!自分の拳(ナックル)で打ち砕く!!!」

ナックルが間髪居れずに突っ込んでくる。
低姿勢。
頭を振りながら、
両手を顔の前に構えながら、
走ってくる。
両手はチェスター(相手)を狙い、
両足はチェスター(相手)を追う。
それがボクシング。

「男の拳は真っ直ぐにぃいいいいい!!!」

そして突き出される拳は言葉のとおり真っ直ぐ。
どストレート。

「オイラだって!!!」

見よう見まね。
ナックルのように上半身を反らすチェスター。
体が覚える。
そういう意味では天才。
脳の頭は最低。
体の頭は最高。
ナックルの拳を体を反らして避ける。

「とったぁああああ!!!マウントクリンチ!!!」

「!?」

だが、
あろうことかナックルはそのまま突っ込んでくる。
ダッシュの勢いのまま、
外した右ストーレートの勢いのまま、
体をチェスターにぶつける。
タックル。
押し倒す。

「拳の世界を教えてやるッス!!」

馬乗り状態にもっていくナックル。

「くそぉ!!」

チェスターにも分かるその状況。
つまりナックルの両手は最強にフリーで、
最強にチェスターを狙っている馬乗り状態。
避ける事もできず、
最強に最強の拳が発揮される状況。

「てぇりゃぁあああああああ!!!」

「ぐっ!!!」

咄嗟にチェスターは顔を覆う。
ついでに反射神経のようにイミットゲイザーで硬気功で覆って。
だが当然無駄。

「ワンツーワンツーワンツーワンツーワンツー!!!!」

ガードの上から打ち込まれる拳の連打。
いや、
ガードを何発も掻い潜って打ち込まれる。
ディスグローブをはめた重いパンチの連打。

「ワンツーワンツーワンツー椀痛!椀痛!椀痛!ワンツパンチャァァアア!!!」

馬乗りのまま叩き込まれる連打。

「ボディボディボディボディボディ!ボディドランカァァアアア!!!」

顔を覆っても、
そのまままた体を狙われる。
鉄球が何度も叩きつけられるように、
鉄球が降り注ぐように、
一撃一撃が重く、
チェスターの口は切れ、血がにじみ、
チェスターの腹部は青く、紫の痣だらけになっていく。

「ハァァアアアアトブレイカァアアアアア!!!」

そして大きく振り切られて叩きつけられる右拳。
これでもかというほど溜めて振り切られ、
真っ直ぐ突き出された拳はチェスターの胸。
心臓部に突き刺さり、
その衝撃は見て必然。
チェスターの背中。
地面がひび割れて凹むほどだった。

「が・・・あ・・・・」

チェスターは顔がだらんと地面に垂れ、
脳が裏返り、
眼球が裏返り、
死んだようになった。

「はぁ・・・はぁ・・・・どうしたッスかチェスター・・・これで終わりッスか・・・」

最強なる連打に、
撃ち、射ち、打ちまくったナックル自体も息切れしていた。
そしてチェスターに返事はなく、
チェスターは死んだように動かなかった。
馬乗り状態のナックルの胸からは、
さっき切り開かれた傷から血が流れ、
チェスターへと流れていた。

                            終わりかチェスター

チェスターは目を白色にしたまま倒れ、
そのままだった。
死骸同然だった。

                            お前は進まないのか
                            こんなところで止まるのか

チェスターの体がピクンと動いた。

                            お前は・・・

一瞬動いたチェスターの体。

                            ヒーローなんだろう

そして眼球がもう一度回転する。
目に力が戻る。
一瞬で信念に満ちた光が眼に戻る。

「ぁああああああああ!!!」

0秒で復活した。
よく分からないがそんな表現がよく似合う。
一瞬で全力に達したチェスターは、
馬乗りされた状態から一気に力を取り戻し、
両拳をナックルの胸にぶつけた。

「ぐっ・・・・」

「師匠直伝っ!!イミットゲイザー参式っ!!!!」

馬乗りされた状況のまま、
チェスターの両腕はナックルの胸に突きつけたまま。
そのまま・・・
両拳は光を放っていく。

「0距離イミゲダブルバズーカァアアア!!!どっかぁあああああああああああん!!!!」

まるで爆発。
チェスターの両拳は言葉のとおりバズーカ。
ナックルの胸部でイミットゲイザーは炸裂する。
爆発する。
0距離0射程。
そこで直にぶつかるイミットゲイザー。

「ぐああああああ!!!」

ぶっ飛んだ。
砲台から発射されたように、
ナックルは吹き飛ぶ。
一気にこの広いロビーの端まで吹っ飛び、
天井に近い壁にぶつかり、
一瞬めりこんで落ちた。

「ぐっ・・・・」

よろりと立ち上がるナックル。
人型のへこみが出来た壁からパラパラと落ちる破片。

「オイラは止まれないっ!!!!!」

チェスターは叫んだ。

「絶対に負けられない!!!ヒーローだからだ!!!!」

そして右拳を振り上げる。
気の込められた右拳を。

「師匠直伝っ!!!イミットゲイザー八式っ!!!
 イミットゲイザー魚雷!!どっかぁああああああああん!!!!」

拳は真っ直ぐ地面にぶち込む。
地面は跳ね上がり、
そしてその衝撃のまま、イミットゲイザーは進んだ。
地面を這う。
地面を進む魚雷のように地面を突き進むイミットゲイザー。
それは真っ直ぐナックルを襲う。

「自分だって負けられない!!」

ナックルも拳を振り上げる。

「男は自分の決めた道を進むものだからだ!!!」

そして地面に拳をぶち込む。
突き進んできたイミットゲイザー八式。
それを止める。
まるで杭を打ち込むように、
拳が地面に打ち込まれると無効化される。
イミットゲイザーが消し飛ぶ。

「ぁあああああああああ!!!!」

突っ込んできているチェスター。
大きくジャンプし、
ナックルの方へ突っ込む。

「来いチェスタァアアア!!!!」

ナックルは構えを取る。
両腕を顔の前に構え、
跳んでくるチェスターを迎え撃つ。

「師匠直伝っ!!!イミットゲイザー六式っ!!!」

空中で両手を合わせる。
いや、組む。
指と指を絡ませ、振り上げる。
両手が合わさる。
そこにはイミットゲイザー。
気が充満し、
エネルギーが固まる。

「真正面からのイミットゲイザーは無駄だって言ってるッスよチェスタァアアア!!!」

ナックルは上空のチェスターに向け、
拳を溜める。
真っ直ぐ。
真っ直ぐ右の拳を突き出すために溜める。
だが、

「イミットゲイザーエクスターミネーションッッ!!!どぎゃぁぁぁぁあああああああん!!!!」

振り下ろされた両腕は、
ナックルじゃなく、
ナックルの足元に落とされた。
ハンマーのように振り落とされた両腕は、
ナックルの足元で炸裂し、
文字通り大爆発を起こした。

「ぐあああぁ!!!」

イミットゲイザーでのエクスターミネーション。
地面で爆発したエネルギーは、
ナックルを吹き飛ばす。

「ぐっ!!」

そのまま、
上空50mから落下したかのように背後の壁に叩きつけられるナックル。
常人なら死亡。

「男は負けられないって言ってんスよぉおおお!!」

だが死ぬヒマもなく、
ナックルは壁から体を起こす。
そして視界の先では、
チェスターが両腕に・・・・いや、全身に力を入れていた。

「はぁぁぁあああああああああ!!!!」

地面が揺れるんじゃないかというほど両足に力を込め、
そして両腕が繋がっているんじゃないかというほど両腕にエネルギーが溜められていた。

「師匠直伝っ!!!イミットゲイザー伍式っ!!!
 イミットゲイザーバリバリ爆裂拳!!どどどどどどどどどどどっかぁああああああん!!」

「くっ!!!」

チェスターの両腕から放たれる数多のイミットゲイザー。
5・6・10・・・20・・・・
全力。
出来る限りの連打。
休む暇もなく両腕はマシンガンのように・・・
いや、最強連射式のバズーカのようにイミットゲイザー。
二つの拳では無効化できないほどの・・・・・

「無駄ッスよぉお!!でりゃでりゃでりゃでりゃでりゃでりゃでりゃぁあああ!!!」

ナックルも連打。
拳。
その両拳を突き出す。
突き出しまくる。
チェスターに負けないほど。
いや、互角。
飛んできたイミットゲイザーを全て打ち落とす。
拳で無効化、
消し飛ばす。

「どどどどどどどどどどかぁぁぁあああああん!!!」

「邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔ぁああああああああ!!!!」

連射されるイミットゲイザー。
削除されるイミットゲイザー。
お互いの連打。
連射。
マシンガン。
両腕の限界まで腕を振り、
そして一歩も退かない両者。

「どうしてもどかないんだなナックル!!!」

イミットゲイザー伍式がやみ、
チェスターが叫ぶ。

「男は絶対に譲らないって言ってるスよ!!!」

「ヒーローは止まれないんだよ!!!」

「男は曲がらないっ!!!」

「どいてくれよぉおおお!!!」

チェスターは右腕を突き出す。
いや、指先。
人差し指と中指を真っ直ぐ突き出す。
そして左手を添える。
右手の二本の指がまるで砲台のよう。
そしてその先に溜まる気。
一点に溜まる気力。
エネルギー。

「師匠直伝っ!!イミットゲイザー七式っ!!
 イミットレェエエザァアアアア!!!ずきゅううううあああああん!!!!」

発射台。
指先から凝縮され、放たれるイミットレーザー。
レーザー。
閃光。
光線。
ビーム。
それは真っ直ぐナックルへ。
一瞬のうちに命に届く。

「退かないっ!曲げないっ!!男道っ!!!」

それを潜るように。
低姿勢で地面を蹴り、
両手は顔の前。
拳は顔の前に装填。
フットワークでレーザーを掻い潜り、
脚力で一瞬で間合いを詰めるナックル。

「アッパァアアアアアアア!!!!」

そして低姿勢から斜め上に発射される拳の砲台。
ナックルの拳。
迷いもなく、
突き上げられる拳はチェスターに突き刺さり、
チェスターは上空に吹っ飛ばされる。
高く高く打ち上げられ、
天井にぶつかるチェスター。

「ぐっ・・・・オイラだって!!!」

だが落下せず、
そのまま砕けた天井を掴む。

「止まれないだよっ!!!!!師匠直伝っ!!イミットゲイザー四式!!!」

天井を掴んだまま、
チェスターは大きく両足を振る。
旋風脚。
ぐるりと大きく1回転された両足からは・・・・

「イミットゲイザーストライカァシュゥゥゥゥトォオオオオ!!!」

片足づつ、
イミットゲイザーが2発放たれた。

「同じだって言ってるッスよぉおおおおお!!!」

ナックルは突っ込む。
チェスターはそのまま落下。
そこへ向かって走る。
だがナックルに迫る二発のイミットゲイザー。

「邪魔っ!邪魔ぁああ!!!」

まるで蝿を払うよう。
ナックルが両手を二度振ると、
二発のイミットゲイザーは片方づつかき消された。
ナックルは落下するチェスターへと走る。
チェスターは着地。

「ぁあああああああ!!!」

ナックルが構えたまま突っ込む。

「でぇりゃぁああああ!!!」

それを反対に迎え撃つチェスター。
右足を思いっきり振る。
大振りだが魂の困った回し蹴り。

「前に出るのが男の闘い!拳闘の闘いなんだよチェスタァアアア!!!」

それを潜る。
低姿勢で回し蹴りをくぐり、
チェスターの懐に入ったナックルは・・・

「チェスター!!!」

両手でチェスターを顔を掴む。
そしてチェスターの顔を真っ直ぐ自分に向かせる。

「自分とチェスターは友達だ!けどお互い引けない!退けないッスよね!
 自分達にすれ違いはおきないっ!ならぶつかって突き進むしかないんスよぉおお!!」

チェスターに言い聞かせるようで、
自分に言い聞かせたナックルは、
そのまま両手をチェスターから放し、

「ボォーーディボディボディボディボディボディボディボディィイイ!!!!」

連打。
小回しでコンパクトで、
それでありながら鉄球のような腹部への連打。

「ボディボディボディボディボディボディボディボディィイイ!!!!」

「ぐぅうう!!!やられっぱなしじゃいられないんだよナックルゥウ!!!」

両手でナックルと掴もうとするチェスター。
また0距離でイミットゲイザーをぶつけようとする。
だがナックルはその両手をくぐる。
超低姿勢でのレッキング。
そのまま左に移動し、

「レフトォオオ!!!」

反動を利用した重い強打。
左フック。

「ライトォオオ!!!」

左フックで跳ね飛んだチェスターを、
拾い上げるかのように今度は右フック。

「トドメッスよ!!!」

自分のフックで左に跳ねとぶチェスターを、
グローブごと掴む。
頭を掴み、そこに立たせる。
サンドバッグを固定するようにチェスターの頭を掴んでそこに立たせる。
そしてナックルは軽く後ろに下がった。
チェスターは気を失ったようにヨロヨロと頭を揺らしていた。

「自分は男の道を!真っ直ぐ切り開くッス!!だからどいてくれチェスタァアアアアアア!!!!」

2歩ほどステップを踏み、
そして思いっきり。
力の限り。
完全なる技術もくそもないケンカパンチ。
真っ直ぐ。
振り落とされるようで真っ直ぐ。
ただ真っ直ぐ。
大振りで威力だけを求めた真っ直ぐな真っ直ぐなストレート。
それは真っ直ぐ。
真っ直ぐチェスターの顔面のど真ん中を打ち抜き、
大きく広がる音。
だが無音のような炸裂音が聞こえたと思うと、
チェスターはゴミクズのように真っ直ぐ。
ただ真っ直ぐ吹っ飛び、
壁にぶつかり突き抜けた。

「チェスター・・・・」

腕を振り切った状態のまま、
ナックルはつぶやいた。
壁は崩れ、
チェスターはその中まで吹き飛び、
壁はガラガラと崩れていた。

「譲れないものがあるッス。チェスターもそれは同じで・・・何度も言うけど自分も同じッス・・・
 だからやるしかなかったッス・・・・だから・・・・だからやりたくなくてもやらなきゃいけなかったッス・・・」

悲しむように言うナックル。
拳を下げる。
目線の先には崩れた壁。
チェスターをぶち込んだ崩れた壁。

「チェスター・・・あんたは今まで会った中で一番好きになれた友だった・・・だから・・・・」

ナックルは軽く俯きながらつぶやく。

「一緒に戦えたのは短い間だったけど・・・それだけで十分過ぎるほど自分達は友達だったッス・・・」

ナックルは軽く俯きながらつぶやく。

「失いたくなかった・・・だから・・・」

ナックルは軽く俯きながらつぶやく。

「闘いたくなかった・・・だから・・・・」

ナックルは軽く顔を上げながら・・・・

「だから・・・・」

叫んだ。

「だからもう立ってくんなよぉおおおおおお!!!!」

叫ぶ。
その先。
崩れた壁の中。
そこからヨロヨロと、
血を垂れ流しながら立ち上がってくるチェスター。

「へへっ・・・」

崩れた壁に手を置きながら笑うチェスター。

「ヒーローは負けられないジャンね・・・・」

一度体勢を崩す。
体をガクンと落とす。
だが立ち上がるチェスター。

「ヒーローは止まれないんだ・・・・だってオイラ・・・・」

体を立て直し、
笑うチェスター。

「ヒーローだから」

そして体中に力を込める。
全身。
全身全体に力を、
エネルギーを溜める。
気が充満する。
チェスターの体中を駆け巡る。
注ぎ込む
溜め込む。
全身が輝く。

「師匠直伝・・・・・イミットゲイザー零式・・・・・」

そして両手を合わせる。
重ねる。
突き出す。
気が駆け巡る。

「エネミィイイィィィイイイ!!レイッッッッゾンッッ!!!!!
 どっがあああああああああああああああああああああん!!!!!!!」

放たれたのは・・・莫大なエネルギー。
爆大な気力。
心の輝き。
信念の光。
正義の力。
それらの全ての塊。
エネミーレイゾン。
その大きく、強大なエネルギーの塊。

「チェスタァァアアアアアアア!!!!」

ナックルは・・・・真っ直ぐ。
ただ真っ直ぐ受け止めた。
両拳を突き出し、
その大きな気の塊を両手で受け止めた。

「自分だって・・・自分だって引けないんだよぉおおおおお!!!」

こらえた。
チェスターの全力を。
エネルギーの塊を。

「退かない!曲げない!男道・・・それだけが自分の・・・・ナックル=ボーイの力!!!
 だから・・・だから退かない!諦めない!!ただ・・・ただ前に!前に!ただ真っ直ぐぅううう!!!」

押す。
受け止めるなんて言葉は間違いだった。
押す。
エネミーレイゾンを、
ナックルは両手に、
自分の信じる拳に全力をかけ、
押す。
押し返そうと押す。
力が大きすぎてかき消せない。
関係ない。
押す。
理由は退けないから。
真っ直ぐ。
ただ真っ直ぐに。

「ぐ・・・・・」

地面にレールが出来る。
押せない。
押し切れない。
引きずられる。
押される。
だが踏ん張る。
諦めるなんて言葉は・・・・男には・・・・・

「くそぉおおおおおおおおおおおお!!!」

エネミーレイゾンのエネルギーの塊が・・・・ナックルを包んだ。
包み込んだ。
消し飛ぶほどに。
食われるように。

大きく爆発した。
チェスターの力の塊が。

「はぁ・・・・はぁ・・・はぁ・・・・」

チェスターの目線の先。
そこには大きく広がった壁。
先の通路。
その通路の入り口は、
エネミーレイゾンで大きく広がっていた。
円形に。
その跡。
その円形の大きな力の痕跡の真ん中。
そこに力なく伏せっているのは・・・
紛れもなくナックル。

「ナックル・・・・」

チェスターはフラフラと歩み寄る。
ゆっくりと・・・

「ナックル・・・・」

ゆっくりと・・・
そして言う。

「お前を諦め悪いジャン・・・・」

フラつきながら近づく先。
エネミーレイゾンの痕跡の真ん中。
そこでフラりと立ち上がるナックル。

「・・・・・・男は・・・諦めない・・・・」

視界が定まってない。
チェスターの方を向いてない。
首を起こす力もないのか、
頭が上を向いたままナックルは立ち上がった。

「・・・・男は・・・・譲らない・・・・」

だが、
ハッキリと心をチェスターに向けられていた。

「男は・・・・」

そして・・・・

「負けられないっ!!!」

顔がハッと持ち上がり、
その眼には力。

「男は負けられないんだチェスター!!」

「ヒーローだって負けられないっ!!!」

「男は!・・・ぐっ・・・・」

ナックルは体勢を崩す。

「もう無理だよナックル。もういいジャン。オイラの勝ちだ。
 オイラと違ってその体じゃこれ以上戦ったら死ぬ体だぞっ!」

「・・・・・だから?」

「これ以上は無意味だっ!!オイラは・・・・オイラに勝ちたいけど・・・ナックルを殺したくはないっ!!」

「言ってるッスよ」

もう一度体勢を立て直し、
ナックルは言う。

「男は・・・・退かない・・・・絶対に・・・ッス。一度決めた事は・・・貫くのが男だっ!!!」

「くっ・・・」

チェスターは一度俯く。
そして・・・・
顔をあげ、
歯を食いしばる。

「オイラは止まれないんだ・・・・・そこを・・・・そこをどけよナックル!!!!!」

チェスターは走った。
真っ直ぐ。
ただ真っ直ぐ。

「お前がどけよチェスタァアアアアア!!!」

ナックルは走った。
真っ直ぐ。
ただ真っ直ぐ。

「ナックルゥウウウ!!!」

「チェェェスタアアアアア!!!!」

チェスターは右腕を振りかぶった。
その腕にはイミットゲイザー。
気力が滞在。
注ぎ込まれる。
ナックルも右腕を振りかぶった。
ただ真っ直ぐ。
ただ真っ直ぐ突き出すために。

「でぇえええ」

「りゃああああああ!!!」

そして・・・・
ぶつかった。
右拳と右拳。
二人の拳。
その二つ。
ただ、
ただ真っ直ぐぶつかる。

「ぐっ!!」

「ぐぅうう!!!」

押し合う。
ただ真っ直ぐ。
真っ直ぐ押し合う。

「気が・・・消えないっ!!!」

アンチカーズ。
ナックルの拳の能力。
だが、
そのぶつかった拳からイミットゲイザーは消えない。
押し返してくる。

「だからなんだ!!自分は負けるわけにはいかない!!!」

「オイラだって同じだああああああ!!!」

拳と拳。
何かが弾ける。
だが押し合う。
それでも、
ただ力の限り。
心の限り。

「負けられない・・・」

「止まれないっ!!」

「男の中の男になるんだ・・・」

「ヒーローに・・・」

「掴み取るんだっ!」

「絶対になるんだっ!!!」

「負けられないんだよぉおおおおおお!!!」

そして・・・・・

「!!」

チェスターの拳から・・・・光が消えた。
エネルギーが。
気力が消え去った。

「自分の・・・勝ちだチェスタァアアアア!!!」

ナックルが叫んだのと同時、
パキパキと音が鳴る。
ゆっくり。
ゆっくり鳴り響き・・・・
そして・・・・・
ナックルのディスグローブが割れた。
砕け散った。
破片が舞う。
消え去ったイミゲの気の破片の中で、
粉々になったディスグローブの破片がキラキラと舞う。
拳。
チェスターの拳。
ナックルの拳。
ぶつかり、
だが・・・

勝ったのはチェスターだった。
ナックルの拳。
いや・・・
腕に・・・・・・ひびが入る。
血管が破裂する。
拳の先から、
伝うように鮮血が噴出す。
血が弾ける。
弾ける。
右腕から血がしぶく。

「チェスター・・・」

自慢の、
信じた腕が崩壊するように血が噴出す。

「お前と会えて良かった・・・・」

「・・・・ナックル」

「悔いは・・・ない・・・・」

鮮血にまみれ、
赤にまみれ、
血にまみれ、
男の拳は打ち砕かれ、
だが、
下ろすことなく、
倒れる事なく、

ナックルは拳を突き出したまま絶命した。

「ナックル・・・・」

男は、
退く事なく、
曲げる事なく、
死してなお、
貫き通したまま、
負けることさえなく。
真っ直ぐ。
ただ真っ直ぐ。
一度も決心を揺るがす事なく、
一時も信念を曲げる事なく、
ただ真っ直ぐ。
突き進んだまま死んだ。
信念を生かしたまま。

「・・・・・・ナックル・・・・」

ひと時・・・
チェスターは拳を合わせたままだった。
拳と拳。
それを、
ぶつけあったままだった。
離せなかった。
この拳を離すと、
ナックルとの闘いが終わってしまうようで・・・・

「ナックル・・・・」

だが、
力尽き、
泣き崩れた。
両膝をつき、
チェスターはその場に泣き崩れた。
友。
そう呼べる。
呼びたくて、
だが敵で、
でも気があって、
同じ事を考えていて、
お互いを認め合えて、
短い間で理解し合えて、
でも敵で、
失いたくないけど戦わなくちゃいけなくて、
戦って、
失って、
でもやっぱり友達で。
でもそれを自分のために打ち砕いたのは自分で、
相手もそうで、
それでも自分は間違ってない。
ただ真っ直ぐ進む。
後悔はない。
けど後ろを向きたくて、
でも止まれない。
ヒーローは・・・
前に進むものだから。


「ナックル様がやられたぞっ!!」
「侵入者にやられた!!」

顔をあげる。
進む先。
ナックルの体の先。
そこには大勢の兵士が詰め寄せていた。

「止めろ!!」
「44部隊まで突破された!!」
「俺達で止めるんだ!!」

チェスターは涙をぬぐった。
邪魔だから。
必要な涙だったけど、
ぬぐわなきゃいけない。
涙があっちゃ前が見えないから。
前が見えないから。
ヒーローは止まれない。
ヒーローは前に進まなきゃいけないから。

「どけよ・・・・」

チェスターはフラリと立ち上がる。
立ち上がるのもやっと。
だが立ち上がる。
立ち上がると同時に、
飛び掛ってきた兵士を殴り倒す。

「どけよ!!!!」

そして進む。
前へ。

「このぉ!!」
「虫の息のくせに!!!」

「どけよぉ!!ヒーローは進まなきゃいけないんだ!!」

フラフラと前に進む。
だが拳には力があり、
そのまま兵士をまた一人殴り倒し、
進む。

「ヒーローは止まれないんだ!!!」

進む。

「背負っていかなきゃいけないんだ!!!」

進む。
前に。
前に。
真っ直ぐ。
ただ真っ直ぐ。

「どけぇ!!どけよぉおおお!!」

倒す。
倒す。
進む。
進む。
どうやって倒しているのかも自分では分からない。
ただ、
ただ本能のままに、
体の動くままに進む。

「そこどけよぉおおおおお!!!!!!!!」

ヒーローは

止まらない。

                             そのまま・・・・
                             そのまま進んで・・・
                             真っ直ぐ止まらず・・・・
                             それが・・・・ヒーロー・・・・
                             男の世界を超えたんだから・・・・
                             それを超えて・・・・
                             チェスターのままで・・・・

チェスターは目の前の男を満身創痍で殴り倒しながら、
キョロキョロと虚ろな目で回りを見渡す。

「うっさいよデムピアス・・・・」

                             ん?
                             俺は何も言ってないぞ

「へ?」

疑問に思ったが、
それはすぐに分かった。
分かって、
それはすぐに力になった。
だから進む。
振り向かない。
進む。
目の前にあるもの、
立ちふさがるものを乗り越え、
ただ進む。

「分かってるジャン・・・ナックル・・・・進み続けるよ・・・オイラヒーローだからさ・・・・」

ヒーローはただ、
ただ真っ直ぐ進んだ。








                 






SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送