チェスターの頭は吹き飛んだ。



人の頭はボーリング球。
それがクラッカーのように弾け、

赤く。
紅く。
朱く。

血に染まった。
それは赤い絨毯。

正義は必ず勝つ。
英雄は必ず生き残る。

欠けた一肢は、
ヒーローの終わりを告げた。


そう、
もう一度、
結果だけを提示すると・・・・・



チェスターの頭は吹き飛んだ。






















S・O・A・D 〜System Of A Down〜

第4話
<<ただ英雄に憧れて・・・(However.....I wish to become a SUPER HERO)>>



















「だぁ!うっさいうっさい!オイラの頭の中でしゃべんないでよっ!!」

病院。
ミルレス白十字病院。
その一室。
チェスターはそのベッドの上にいた。
99番街でのギルヴァングとの戦い。
それで消耗したチェスターは、
その回復のためここにいた。

「どうしましたチェスターさん?」

騒がしさにナースがチェスターの病室の扉を開けた。

「あ、いや・・・なんでもないジャン」

「そうですか。あ、これはお昼の分のお薬です。昼食の後に服用してください」

「オイラお腹減ってきたしオヤツ代わりにそれ食べていい?」

「・・・・・・・食後に服用してください」

「ちぇっ」

チェスターの舌打ちに、
呆れながらもナースは笑い。
ベッドの横に薬を置いた。

「ねぇねぇ看護婦さん!オイラの活躍聞きたくない?
 オイラのスーパーヒーローとしてのカックイー活躍!!」

「またですか?」

「だって退屈なんだぜぇー?体鈍ってくばっかだしさー」

「回復のためには少し鈍ってもらわないと困るんですよ」

そしてナースは何かを見切ったような目つきになり、
チェスターのベッドの下に手を伸ばした。
そして出てきたのはダンベルだった。

「あぁ!?それは・・・」

「没収です」

「えぇ!?ヒーローの成長グッズだよっ!?」

「没収です」

「・・・・・悪魔!!」

「いいえ。白衣の天使です」

小悪魔のような笑顔をしてダンベルを持っていてしまうナース。
「お大事に」という言葉を残し、
ナースは笑顔で病室から出て行ってしまった。
チェスターは名残惜しそうに手を伸ばしそれを見送った。

「あぁ・・・・・」

そんなチェスターを、
頭の上のチェチェが慰めるようにチェスターの頭をこする。

「ウキキ」
「分かってるよチェチェ・・・ヒーローはこんな事で挫けないさっ!」
「ウキ!キキ!」
「そうジャン!皆ヒーローをなんだと思ってるって感じだよなっ!」

そしてチェスターはベッドのドゴンと寝転がる。
どっか行きたいのは山々だが、
実は足がベッドにくくりつけてある。
金具で。
白衣の天使という悪魔がやったのだ。
少し自由にさせると、
チェスターは3回の窓で懸垂を始めたり、
困ってる人だらけである病院の中で困ってる人を探し出すからだ。

「退屈って退屈だよなぁ・・・」
「キ・・・」
「平和守りたいんだけどなぁ・・・」
「ウキ・・・・」
「どっか乱れてないかなぁ・・・平和・・・・」

何を言い出すんだこのヒーローは。

「あーあ、スーパーヒーローたる者、のんびりもしてられないジャン。
 こうしてる間にもマイソシア中でオイラの助けを待ってる人がいるのになぁ」

限りなく0だ。

「少なくとも・・・・」

チェスターはベッドに寝転んだまま手を上に伸ばした。
天井を掴もうとするように。

「今でも世界中に困ってる人はいるわけジャンねぇ・・・」

それはいる。
限りなく。
数え切れないほどの人間が。
真の平和。
そんなものは100億光年立ってもこないだろう。
誰一人不幸じゃない世界など100%こない。
いや、
全生物が死滅した時くらいのものだ。
そのためなら100億光年後の平和を願ってみてもいい。

「オイラが助けてあげなきゃ」

チェスター天井に向けて伸ばした手を握った。
真の平和。
それは全生物が死滅した時。
そんなのは戯言だった。
そうしたらヒーローなど必要ないのだから。
チェスターはヒーローになりたいのだ。
誰かを助けたい。
誰かがいて、
自分がそれを助けたい。
真の平和など起こり得ない世界だからこそ、
最悪な世界でしかないからこそ、
ヒーローという言葉があり、
そしてヒーローという者を求める者がいて、

そして・・・・
ここにヒーローになりたいと思う一人の人間がいる。

                          だからと言ってお前が犠牲になる必要はない


チェスターは身を起こす。
飛び起きる。

「うるさいジャン!!!黙れよ!!!」
「ウキキ!?!?」

チェチェが驚いてベッドから転げ落ちた。

「あ、大丈夫かチェチェ!?お前に言ったんじゃないからなっ!」
「ウキ!ウキキ♪」

チェチェは「分かってる」と言いたげだった。
その裏側にいる存在など、
チェスターは知るよしもない。
そして・・・・・・・チェチェも知らない。
ただ"その者"がチェチェの裏側に隠れ住んでるというだけで。

「あーあ・・・・」

チェスターはため息をついてまた寝転がる。

「チェチェ・・・オイラはスーパーヒーローかなぁ」
「キ?・・・ウキキ!」
「うん。だよな。そうジャン。だけどさ」

チェスターは天井を見上げる。
ボォーっと見上げる。

「ヒーローってのは自分がなったとかそーいうのじゃないんだよね」

馬鹿なりに、
猿頭なりに、
チェスターは本気で考えていた。
何かになりたい。
その中でもヒーロー。
それは個人で完結する事情でなく、
それは他人の評価も含めた呼称。

ガラにもなく難しい事を考えていた。
だがすぐやめた。
ガラじゃないからだ。

「ま、オイラはスーパーヒーローだけどね」

ただ純粋で、
ただ幼くて、
ただ真っ直ぐで、
そんな向こう見ずな馬鹿な考え。
それがチェスターで、
それがチェスターらしかった。

そんな事を考えていると、
ふと眠くなった。
まだ昼にもなっていないのに、
とろりとまぶたが閉じた。

そしてチェスターは眠った。


今日も夢の中で見るのは自分の活躍。
ただ純粋で、
ただ幼い、
ただただ夢見がちな夢。

ヒーローとしても自分の偶像を浮かべる。
そしてそれが隅でないと信じ続ける。
だからそれが事実で、
つまり、


ヒーローは眠った。




















                     それでも行く。
                     それがお前だ。
                     それはお前らしい。
                     だから行け。

                     ・・・・・・・・

                     だが今一度考えろ。


                     お前が行く必要はあるのか?


「うっさいなっ!!!」

チェスターは飛び起きた。
ベッドの布団を跳ね飛ばす。

「・・・・・・あれ?」

朝だった。
数分しか寝てないのか?と思ったが、
どうやら一日立っているらしい。
病室のカレンダーがやぶれ、
次の日を指していた。
20時間ほど寝ただろうか。

「起きたようですね」

ナースが入ってきた。
そしていつものようにいろいろな質問と、
体温を含め、いろいろな訳の分からない検診をして言った。

「今日までの睡眠が効いたみたいですね。今日はもう退院できますよ」

「マジで!?」

チェスターは嬉しそうに疑問を投げかけた。
するとナースは笑顔で返してくれた。

「マジで」

笑顔のナースの返事をもらうと、
チェスターはわなわなと体が震えた。

「やったジャン!!!」

チェスターはガッツポーズをとり、
チェチェは頭の上で飛び跳ねた。
ナースもチェスターにガッツポーズを見せてやり、
「やったジャン」と笑顔で言って、
数個の注意をチェスターに言い、
「お大事に」と病室から出て行った。
そんな事も上の空で、
チェスターはニヤニヤと嬉しそうで、
いてもたってもいられないといった様子だった。

「ヒーロー復活!」
「ウッキッキ!」
「ヒーロー復活っ!!」
「ウッキッキ!!」
「スーパーヒーロー大復活っ!!!」
「ウキウキウッキー!!」

全快まで元気が出たチェスターは、
ハイテンションの最高潮だった。
そして遅れながら、
「ありがとーーー!!」
と廊下に向かって叫んだ。
ナースに届いたか知らないが、
そこら中の迷惑になった事は間違いないだろう。

「あ!足の止め具も外してくれてる!」

自由を確認すると、
チェスターはベッドからそのまま空中を大回転して飛び起き、
ベッドの前にスタっと両手を広げて着地した。

「よっしゃーーー!今日からまた一日百善!!!」

無理な目標を立て、
満足したところで、
チェスターはベッドにどっすんと座り込んだ。

「でもどうせ今日退院させてくれるんだからちゃんと良い子にしててやるジャン!」

これもナースの策略。
もちろん退院は本当だが、
押さえつけるよりも、
自由にさせてやる方がチェスターを残り時間安静にさせるいい作戦だった。

「まっだかなー♪退院まっだかなー♪」

チェスターはベッドの上で体を揺らしながら、
ノリノリと待っていた。

「もうそろそろかな!」

まだ3分も立っていない。
短気で、
誰よりもじっとしていられない性格だ。

「ウキキ」
「えー、まだなの?早くしないと明日になっちゃうジャン!」

そして馬鹿だ。
我を忘れるほどハイテンションだからじゃなく、
ただの猿頭だ。

「あ!早めにお昼ご飯食べると早くお昼になるジャン!オイラあったまいーねー!」

ねー。
あったまいーねー。
馬鹿の意見は果てしない。
少なくとも彼の頭は世界で一番平和だろう。


「誰の頭がいいって?」

ガチャリとドアが開く。
退院か!?とチェスターは喜んだが、
入ってきたのはルエンだった。

「少なくとも頭が良さげな人は見当たらないねぇ」

呆れたようにルエンはいい、
病室のドアを閉めて入ってきた。

「なーんだよー。ルエンジャン。ナースさんかと思ったジャン」
「あら何?ナースにでも恋したの?」
「いやー、お別れの挨拶かなー」
「えっ・・・」

ルエンは、
「見かけによらず手が早いわねぇ」と言いたげな
勘違いな表情をしていたが、
まぁこの際それはどうでもいい。

「あぁ!!!それ!!」
「え?あぁ・・・お見舞いのバナナよ。ドジャー達からね」
「ワイキバナナ!!」

チェスターは嬉しそうにルエンの手からかっぱらう。
もう元気なのでお見舞いもクソもないのだが、

「あれ?4フサくらい無くなってるんだけど・・・・」
「あぁ、アレックス君が食べてたねぇ」
「むぅ・・・」

大抵の事は能天気に許してしまうが、
バナナの事になると少々不機嫌になるようだった。
いや、
まぁお見舞いのバナナを食ってから渡すアレックスもアレックスだが。

「んで今日はお見舞いっていうかお仕事よ」
「んえ?おひごと?」

ムシャムシャとワイキバナナを食べながらチェスターは返事する。
ベッドの横の棚の上では、
チェチェが自分の体ほどのワイキバナナの皮を一生懸命むいていた。

「あんたが調度入院してるからってね」
「今日退院するけどなっ!」
「あらそうなの?」
「おうっ!ヒーロー復活!」
「ウッキッキ!」
「ヒーロー復活!」
「ウッキッキ!」
「まぁどっちにしてもいいわ。んと、部屋番号ここに書いとくからここに言って頂戴」
「んあー?病院の部屋番号か?」
「そう。ここにツヴァイ=スペーディア=ハークスって人が入院してるわ。
 もちろん偽名で登録してあるから部屋番号で確かめんだよ」
「ふーん」
「驚かないねぇあんた・・・」
「なんで?」
「名前でわかんないのかい・・・アインハルトの双子の妹だよ・・・」
「あ、そうなの?・・・・・えっ!!」

チェスターはバナナを持ったまま飛び起きる。
忙しい奴だ。

「じゃぁ悪者ってことジャン!!」
「仲間になったから連絡頼もうとしてるんだよ」
「あーー・・・」

チェスターなりに納得したのだろう。
バナナを振り上げたまま少し考え、
そしておとなしくベッドに座り、
またバナナを食べ始める。

「とりあえずまだ面会謝絶みたいだからあんたが言伝頼まれてね」
「もぐ・・・なんていへばいいんだ?」
「どーせあんた記憶の書とか使わないだろぉ?
 それ渡しといてくれ。本拠地への転送ルート教えてくれるだけでいいんだよ」
「簡単だなー」

難しい方が良かったのだろうか。
とりあえずヒーロー復活という事でテンションが上がってるのだろう。
やりたい事だらけで大変だな少年。

「ま、そんなとこだ」
「あれ?もう帰っちゃうのかっ?」
「あたいにも仕事あるんでねぇ。しかも山積み。
 どうやっても計算が合わないのよー、傭兵とか雇っちゃったみたいで本当・・・
 収入源はたいしてないのに出費だけがかさんで事務としてはもう・・・・」
「大変だなー」
「いや、その金はあんたの貯金から出てんだよ・・・・」
「そだっけ?」

反乱軍の軍資金はチェスターの貯金から出ている。
傭兵業で溜めた途方もないグロッドだが、
まぁそれでも足りてない。
チェスターの貯金はここ1年で尽きる直前だ。

「ま、オイラ使い道ないし!必要なんジャン?なら使ってくれよっ!」
「やだって言っても使うけどね」
「そうなのか」
「そうよ。・・・・・でもあんたの金が無かったら反乱さえ出来てないのよ。
 そういった意味で皆感謝してるわ。あんた風に言うと悪に立ち向かう金なんだからね」
「そっかっ!オイラのお金はヒーロー的に活用されてんだなっ!
 やっぱオイラって根っからのヒーローだなっ!スーパーヒーロー!」

チェスターが歯を見せて拳を握る。
チェチェはバナナを口に膨れ上がるほど詰めて飛び跳ねた。

「でもやっぱヒーローなら戦って平和を掴み取るんジャン!!」
「それには現実ではお金が必要なんだよ」
「へぇー、世知辛いなぁ」
「あんたにしちゃぁ難しい言葉覚えたねぇ・・・」

そしてルエンは大きく伸びをした。

「ま、そんだけ元気そうなら何よりだね。あたいはもう行くよ」
「お疲れ!」
「ハハッ、あんたも天国の師匠に恩返ししてやんな」

そしてルエンは病室のドアノブを握る。
そこでハッと気付いて慌てた。

「あ、いや・・・ハハッ!それじゃぁね!」

慌てたままルエンは病室から出て行った。

「・・・・・・・・・」

チェスターはボォーっとしていた。
そこでふと突き出された言葉は、
チェスターの足りない脳みそをフル回転させ、
そして頭いっぱいを真っ白にさせるには十分だった。

「師匠が・・・・?」

ボォーっとルエンが出て行った病室のドアを見つめたままだった。
チェチェがチェスターにすがりつく。
が、
それを余所にチェスターはボォーっとしていた。

「師匠が・・・死んだ?」

未だ理解が出来ない。
チェスターにとってのナタク=ロン。
それは育ての親であり、
師匠であり、
無敵の師であり、
たとえ寿命でも死ぬわけないと思っていた。

「ハハッ・・・師匠が死ぬわけないジャン・・・なっチェチェ!」
「ウキー・・・」

チェチェは困ったような表情をしていた。

「・・・・・・師匠・・・・・」

分かっていた。
想像できなかったわけではない。
もしかしたら・・・。
だが、師匠が負けるわけがない。
その理屈なき一点で自分は考えなかった。

                           受け入れろ
                           受け入れなければ進めない

「・・・・・・・・」

                           何をグズグズしている
                           お前はなんだ?
                           お前の取り柄はなんだ?
                           前に進むことだけだろう

「・・・・・・・・・・・」

                           次に進む道を考える賢さなど必要か?
                           曲がり道で立ち止まる必要があるか?
                           お前はただ真っ直ぐ進めばいい
                           









































「で、《TWILIHT》なんて名前こっ恥ずかしくて嫌なんだけどよぉ」

ドジャーがソファーに寝転んだまま言う。

「ただ当てはめただけだ。名前などどうでもいいだろう」

ツヴァイが椅子に座ったまま、
堂々と足を組んで言う。

「まとまった。それが重要な事だ。些細でカスなアリさえも群れを成すから怖いのだ」

自分たちはアリ。
カス。
ツヴァイはそう言い、
その通りだった。
アリが地下で世界を潰そうと考えている。
これほど妥当な表現はないだろう。

「兵隊蟻とはよく言ったものだわ・・・」
「ほんとね・・・」

ルエン、マリ、スシアの三人が、
鉛筆と算盤を忙しそうに動かしながら愚痴を零した。
紙きれと睨めっこが仕事。
数字を合わせるためだけに腰を消費する。
事務も大変なものだ。

「カッ、給料出てんだから働けよ。金出るだけココの奴らの中ではマシなんだぜ?」
「ドジャー、その言葉は悪い意味でとても社会的だな」
「だってよぉー」

ドジャーはソファーの上でだらんと横向きに転がる。

「その仕事俺やりたくねぇもん」
「・・・・・・・カスだな」
「そりゃありがとう。俺頑張るわ」

ドジャーはソファーの上で適当に手を振り、
だらけながらそう言った。

「感謝は惜しみなくしてるぜぇ〜〜・・・」

ドジャーは本気じゃないような口調で言ったが、
まぁそれは本当の事だった。
自分には出来ない仕事であり、
それが出来る仲間がいる。
ただ口下手で悪者ぶる素直じゃない誰かさんはこういう対応しかできない。

「ほいほい出来たわよ我らがリーダー」
「ん」

ツヴァイに書類を持っていくマリ。
ツヴァイはその書類をチラりと目を通した。
一瞬で全て理解できるあたりが人間性能の違いなのだろう。

「居住系は質より数を重視して計算しろ。どうせ長く使うものではない。
 それと食料枠の計算を適当にしたな?その端数でさえ武器は買える。
 まだ余ってる段階とはいえ金はあればあるほどいい」
「・・・・・鋭過ぎるのよ」

そしてマリが計算誤魔化しをツヴァイに指摘された瞬間、
ルエンとスシアの書類が巻き戻った。
二人とも面倒な所は誤魔化して進めていたのだろう。

「はぁ〜・・・もういっそあんたが全部仕事すればいいんじゃないのぉ・・・?」

マリがしぶしぶ書類を持って自分の席に戻る。
そんなマリにツヴァイが言う。

「俺はここの一員になって学んだ言葉がある」

ツヴァイは小さな笑みを零しながら言った。

「頑張れ」
「「「・・・・・・・は〜い・・・」」」

ロイヤル三姉妹はそのまま項垂れるように算盤弾きを再開した。
いい先生といった感じだ。
本人に言うと老けた表現で殺されそうだが・・・・


「ただいま〜〜」

プレハブのドアを開けて入ってきたのはアレックス。
その声を聞いてやっとここにアレックスが居なかった事に気付いた。
ツヴァイ、ドジャー、ジャスティン。そして三姉妹。
6人がいる小屋にアレックスが入ってきた。

「どこに行ってたんだい?アレックス君」
「散歩です。あ、無意味で目的もない散歩だとか勘違いしないでくださいね?
 実際そうだけど、僕がそんな怠け者みたいに思われるのは嫌なので」
「意味分からん・・・」
「なんつーわがままだ・・・」

怠けてました。
けど怠けてたと思わないでください。
確かにムチャクチャだ。

「人が仕事してたのに散歩ぉ〜?」
「アレックス君もそれ酷くない?」
「ヒマならちょっと手伝って欲しいです」
「あ、すいません。面倒臭いんで。僕限りなく仕事とかしたくない人なので」

なんという理不尽なわがまま魔人だろうか。
正直すぎてビックリだ。

「でもさすが僕って感じです。子供に好かれる心優しき聖人ですね」

そしてアレックスがテーブルの上に置いたのは・・・

「お?」
「何これ?」
「散歩してる時にそこのでっぱりの所に住んでるおばさんから貰いました。
 柏餅みたいなもんです。セイジリーフで包んであって、結構レア物だそうです」
「セイジ巻き!?」
「生えたまま直ぐのセイジリーフでしか作れないらしいから結構希少なものじゃないの!」
「"幹部の方々頑張ってください"との事でした」
「いーもん貰ってくるじゃねぇか!」
「でしょ?息抜きに食べてください」
「気が利くじゃない!」
「ちょっとオヤツにしましょ!」
「フフ・・・そうです。僕は気が利くんです。ただの食いしん坊じゃないんです。
 他の人より気が利く怠け者なんですよ。そこで寝てるだけの役立たずさんとか、
 自分はまだマシとか思いながら突っ立てるだけの怪我人さんとは違うんです」

ドジャーとジャスティンは顔をしかめた。
だがこの時点で負けは確定したので反論は出来なかった。

「ちょっと!」

箱を開けたルエンが叫ぶ。

「半分無くなってるんだけど・・・・」
「あ、おいしかったです」
「おいしかったですじゃないわよ!」
「なんでそんなにあんたが食べてんのよ!」
「え・・・だって10個あったんですよ?結局誰かが多目に食べるんですし」
「何故お前が余分に食う・・・」
「何故お前が5個食う・・・・」
「ってかここにアレックス君除いても6人いるのよ!?」
「残り5個ってどうすればいいのよ!」
「取り合えばいい。醜く」
「鬼かお前は・・・・」

とりあえず問題はセイジ巻きが5個という事で、
ここに6人いるということだ。
誰か一人食べれない。
このレアな食べ物を。
そして一同の目線は黒い騎士に注がれる。

「・・・・・・いや、オレは食べるぞ」
「なんでだよ!」
「あんたシリアス系なんだから遠慮するとこなんじゃないの!?」
「ふん。カスが。他者が得られる物をオレが得られないなんて事があってたまるか」

カッコいいやらダサいやら。
餅のために最強の2番手はそんな事を言う。
変わったなぁ・・・
ただそう思った。

「出来るなら力ずくで奪ってみろ。このオレからな」

餅をな。
世界を崩そうとしている世界最強2番手が、
こんな事を言うようになるとは思わなかった。

「クッ・・・ツヴァイ相手でも取りえる決め方・・・・」
「・・・・・やっぱジャンケンじゃないか?」
「ジャンケンならオレに勝てると思ったか?カスが」

なんだその自信は。

「まぁやった事はないが」
「ねぇのかよ!」
「人生を生きてきてジャンケンをやった事ない人間がいるとは・・・」
「ふん。ルールは知っている。十分だ」

ツヴァイは笑みを漏らす。

「運なら勝てるとでも思ったのだろうカス共め。だが6人いれば最初は必ず引き分けになる」
「あいこな」
「あいこになる。ならばそこからは心理戦だ。相手の心理を突けるものが勝利する。
 どんなものでも戦いとは実力が関与してくる部分はある。つまるところ・・・」
「いいからやるぞ」













「うまい」

ジャスティンはセイジ巻きを口に含みながら言った。

「いや、マジでうまいな・・・」
「包んだだけで味は普通なもんだと思っていたが・・・」
「希少種と呼ばれるだけはあるねぇ・・・」
「これに合わせるには一級品の素材を揃えなきゃいけないって聞いた事あるわ」
「でも・・・本当においしいわねこれ・・・・」

皆が感動しながら口にセイジ巻きを含み、
そして一人口を動かしていない者。
ツヴァイは表情を曇らせたまま目をそらした。

「・・・・悔しくなど・・・・・ない」

どう見ても悔しさが溢れ出ていた。
誰もが恐れる漆黒の戦乙女は、
餅が食えずに涙を呑んでいた。

「納得がいかん!」

ツヴァイはテーブルをゴンッと打ち付けた。

「おかしい!オレが知っているルールでは"最初はグー"で始まるはずだ!!」
「さぁー?」
「都会ではそうなのかもな。俺達ルアスの田舎育ちだしな」
「アベルも違った気がするわー」
「謀ったな!!」

だがドジャーは口に餡をつけながらツヴァイにビシッと指をさす。

「勝負に汚いもインチキもねぇ。やられた奴が悪ぃんだよ。結果が全てだ。
 情報戦も重要だ。お前には知識がなかった。全ては負けって結果が物語っている」

ドジャーはシリアスな表情のまま、
ツヴァイに指をさしたままそう言い、
片手は餅を口に運んだ。

「くっ・・・・」

ツヴァイはいかにも敗者ですといった表情でうなだれた。

「兄上以外に何かで負けるはずがないと思っていたが・・・所詮オレはこんなものなのか・・・・」

思いつめすぎだ。
餅一個のために。

「ツヴァイさん。元気出してください」

アレックスがそう言う。
いや、
もともとお前が5個も食うからだろ。

「まぁ落ち込むなツヴァイ。半分やるから」

ドジャーがセイジ巻きを差し出す。
ドジャーの手の上に乗った餅。
ツヴァイは恐る恐るその餅を見た。

「・・・・・ふん。別にそうまで欲しくはなかったのだがな」

強がりを言いながら手を伸ばすツヴァイ。
だが、
餅はツヴァイの手が達する前にドジャーの口の中放り込まれた。

「ウソだけどな」

その瞬間、
ツヴァイの顔色が沸点へ到達する。
顔を真っ赤にして形相が変わり、
そして立て掛けてあった槍を掴んだ。

「殺す!!!!」
「うわっ!」
「ちょ!!」
「落ち着いて!!」
「いーや殺す!!カスめ!!腹から餅が食えるようにしてやる!!」
「止めろ!!」
「ツヴァイを止めろ!!」













10分後、
ボコボコになったドジャーが出来上がったぐらいで、
やっとツヴァイは収まった。

「・・・・・・」

ドジャーは腫れ上がった顔のまま硬直し、
調子にノりすぎた事を酷く後悔した。

「ふん。どうした。餅を食って顔が太ったようだな」
「・・・・・・・」

腫れ上がった顔でしゃべるのもままならない。
後悔先に立たずとはよく言ったものだ。
ドジャーは不細工な人形のように行儀よくソファーに座っているしかなかった。

「・・・・・あぁ〜・・・僕はチェスターさんのお見舞いでも行って来ようかな・・・」

アレックスはこの場から逃げたいようにそう言った。

「あ、チェスター君なら今日退院だって言ってたわよ?」
「え?本当ですか?」
「うん。あたいがお見舞いと行ってきたんだよ。言伝ついでにね。
 だから我らがツヴァイ=スペーディア=ハークスが今日ここにいるわけよ」
「そしてだから馬鹿が一人ボコボコにされてる」
「・・・・・・かおあらってくるりゅ」

ドジャーはそう言ってプレハブを出て行った。
ここにも水道はあるが、
まぁプライドが許さなかったというか・・・
みじめだったのだろう。

「そういえばそのチェスターという者から伝えといてくれと言われたな」
「え?何を?」
「確か・・・"行ってくる"とかどうとか」
「行ってくる?」
「どこに・・・・」
「あんさぁ・・・・」

ルエンが恐る恐る苦笑いしながら言葉を挟む。

「あたい・・・言っちゃったのよね・・・ナタク=ロンの死亡の事・・・」
「!?」
「本当ですか!?」
「じゃぁまさか・・・・仇討ちに・・・」
「でもチェスター君が一人で攻め込むなんていつものことじゃない?」
「何度も一人で行こうとして困らされたし」
「今度は・・・・・覚悟が違うでしょうね」

ツヴァイにもそれは分かる。
あのバンビを見ているから。
仇。
その決意の重さ。

「ふざけんなよあの馬鹿猿・・・・」

プレハブ小屋が開く。
ドジャーだ。
顔を洗っただけで結構腫れはひいていた。

「でもまだブサイクですよ」
「う、うっせぇよ!」

ドジャーはそのままソファーにドスンと座る。

「・・・・・・ったく。なんでどいつもこいつも一人でどうこうしようとしやがる・・・・。
 なんのためにギルドってもんがあると思ってんだ。馬鹿野郎・・・・」




























「デムピアス!!??」
「これがか・・・・」

マリナとイスカは、
不思議そうに小さな小猿を見た。
チェチェは「?」と小さな首をかしげるだけだった。

「その子がデムピアスってわけじゃないんだぜぇーぃ。
 その子の裏側にデムピアスが隠れ潜んでるってだけだねぇーぃ・・・・・な、デムピアス」

シャークが言うが、
デムピアスから応答はなかった。

「誠なのか?」
「ちょっと信じられないわねぇ・・・・」
「これでもデムピアス案内人だからねぇーぃ。・・・・・嘘じゃぁねぇぜぇーぃ」

デムピアス案内人シャーク。
確かに彼が言うなら本当なのだろう。
間違いないのだろう。
このワイキベベの中にデムピアスがいる。

「ルケシオンのモンスターだからねぇーぃ。でも入る事は出来たとしても、
 ルケシオンの潮風で生きたモンスターじゃないから居心地がいいはずはないんだけどねぇーぃ。
 おいデムピアス?なんでそんなところを選んだんだぁーぃ?」

相変わらず返事はなかった。
なんとも確信がもてない。
だがそれはチェスターも同じだった。

「なんかよく分からないジャン」

根本からよく分かってなかった。

「チェチェがデムピアスなのか?」

「いや・・・だから・・・」
「チェチェはチェチェだが、その裏にデムピアスの精神があるということだ」
「デムピアスは死んだが、蘇生でなんとか魂だけ残れたわけだぜぇーぃ」

「チェチェはチェチェ?そりゃそージャン。デムピアスは別人だろ?」

「・・・・・・」
「だからデムピアスは今チェチェの中に入ってるわけだ」

「じゃぁチェチェがデムピアスなのか?」

「「「・・・・・・・」」」

ここまで馬鹿とは思ってなかった。
理解力に乏しすぎる。
チェスターは頭をひねるだけだ。
チェチェも頭の上で頭をこすっている。

                           そういうことだ

「うわっ!ビックリした!」

また頭の中で声がする。

                           俺がデムピアスだ

「あぁ、お前がか」

直面すれば理解できるらしい。
まだいまいちだが、
とりあえずだ。

「え?んじゃお前悪者か!!」

                           悪
                           ふん・・・・・そうだな
                           お前ら人間が我らを魔物と呼ぶなら
                           つまり悪という事かもしれんな

「ん〜・・・・」

チェスターは一瞬無意味に身構えたが、
すぐやめた。

「なんか違うジャン・・・・とりあえず今悪い事しようとしてるのか?」

                           できん
                           俺は無力だ
                           ただそれだけだ

「ならとりあえずいっか!!」

お気楽なものだ。
事の重大さとか、
そういうものを理解する事はないのだろうか。
・・・・・いや、
チェスターにとって重大ではないのかもしれない。

「いっかってお主・・・・今お主はデムピアスと共にいるのだぞ?」
「しかも横から色々言ってくるんでしょ?」

「別に邪魔なぐらいだかんねー」

邪魔というのはそれなりに重要な一つだと思う。
だが、
チェスターにとっては関係ないのかもしれない。
それは、

「結局何言われたって決めて進むのはオイラだかんねっ!」

そう言う笑顔で無邪気なチェスターは、
正義のヒーローかどうかは別とし、
間違いなく悪が篭っていなかった。

「って事でオイラ行ってくる!」

「帰るぞ」

イスカが短く言った。
チェスターはズルりと転んだ。

「えー、やだって言ってるジャン」

「こっちも無理矢理でも連れて帰るって言ったでしょ?」
「デムピアスが居るなどと分かれば尚更だ」

「やっだねー!オイラ行くもんね!」

するとイスカは剣を、
マリナはギターを向けてきた。

「・・・・・分かったよ」

観念したようにチェスターは言う。
そして懐から何かを取り出した。

「さっきそこで騎士団の奴やっつけて貰ったんだ」

それはゲートだった。
ゲートが4つ。

「スオミのゲートみたいだけどこれでいい?」

「むっ」
「スオミなんて行ってどうするのよ」

「これしかないんジャン。オイラ記憶の書をツヴァイって奴に渡しちゃったし」

「ツヴァイ?」
「聞いた事もないわね」
「いや、俺は知ってるぜぇーぃ。確か・・・・」

「ま、それらはドジャーとかジャスティンに聞けばいいジャン?
 スオミ行ってWISオーブでも買って連絡してさっ!!」

「確かに私たちはWISオーブないけど」
「WISオーブならお主のを使えばいいではないか」

「あっ・・・えぇーっと・・・・」

チェスターはトンッとグーとグーで手を叩く。

「忘れちゃったわけジャン!!!オイラ馬鹿だから!」

「わざわざスオミで買わなくてよくない?」

「いや、本拠地がスオミダンジョンだから近いんだって!」

3人の目はチェスターを怪しむ目で見ていた。
明らかに疑っている。
なんとも人を騙すのが苦手な男だ。
マリナはため息をつきながら言う。

「しょうがないわね・・・念のためあんたから飛びなさい・・・」
「自分だけ飛ばないとか考えていそうだからな」

「分かったよ・・・・チェチェちゃんと捕まっててな」
「ウキ!」

そしてチェスターはゲートを開く。
チェスターの体が転送の光で包まれていくのを確認し、
マリナ達もゲートを開いた。
そしてチェスターが最初に転送された。

























「よっしゃーーーー!!!」

チェスターは両手をあげ、
叫んだ。
それは町の中にこだました。

「作戦成功!!」
「ウキ!!」

チェスターはチェチェと一緒に喜ぶ。
そう、
チェスターが飛んだのはルアスだった。
3人にはスオミのゲートを渡し、
自分だけルアスに飛んだ。

まぁなんとも純粋で馬鹿なチェスターにしては悪知恵がうまくいったものである。
というか猿頭的にはよく思いついたものである。

「さっそく行くジャン!!」
「ウキキ!!」

チェスターは「オォー!」と腕を振り上げ、
そして走り出した。
もう一度ルアス城に向かって。

                                 行くな
                                 行くなチェスター

頭の中に声が響いた。

「うっさいなぁ」

チェスターは知らんぷりして走る。
まっすぐ、
ルアス城へと続くルアスの道を。

                                行くんじゃないチェスター

「なんだよっ!進めって言ったのはお前ジャン!
 なのにルアス城に着いてから逆の事言い出しやがってさっ!」

そう。
イスカ達と合流した時。
その時も頭の中でデムピアスは同じ事を言った。
チェスターを止めた。

                               あそこに着いて悪寒を感じた
                               あそこはヤバい
                               "奴"がいる場所なのだろう
                               あのアインハルトが

「だから?だからなんなんジャン!だから行くんジャン!!」

チェスターは足を止めない。
走る。
城に向かって。

                               奴はヤバい
                               相しては駄目だ

「いーの!オイラは行くんだ!」

                               何故だ
                               お前の志は分かっている
                               酷く理解している
                               だが
                               今行く必要もない
                               お前だけがやる必要もない

「馬鹿だなー」

チェスターは走りながら、
独り言を言う。

「スーパーヒーローだからに決まってるジャン!!!」

チェスターは走りながら拳を振り上げた。
高く、
高く天に。

                               その志は理解している
                               が、
                               今一度辛抱しろ

「やだねっ!!」

                               何故だ
                               あの老人か?
                               あの老人の仇が討ちたい
                               それだけなのか?

「うーん」

走りながらチェスターは首を傾けた。

「それは確かにあって、オイラの中で確かに燃え滾ってるねっ!」

                               なら止めろ
                               今すぐすべき事じゃない

「だけどそれはそれで、これはこれジャン!」

チェスターは横に口を広げてニィと笑った。

「師匠の仇討ち。うん。だけどそれは敵討ちだけど仇討ちじゃないんだ。
 ヒーローはそんな・・・えぇーっと・・・・憎しみ?そんなのでは動かないんだ!
 オイラが証明するのは師匠の強さ!きっと師匠を倒した奴はあのギルヴァングって奴だ。
 だからオイラがギルヴァングを倒して師匠の強さを証明する!
 んでもって師匠を安心させてやるんだ!ヘヘッ!オイラはこんなに強くなったって!」

まぁ分かるようで分からない。
つまるとこ仇討ちだ。
だがチェスターの中では、
人が考える仇討ちとは違う情熱があるのだろう。
それは分かる。

「つまりさっ!!オイラの正義のヒーローとしての力を証明しに行くってこと!」

                               ・・・・・・・・・・
                               分からない
                               お前の考えが

「だーかーらー!仇討ちは仇討ち!結局オイラはさ・・・・」

拳を握る。
何度も。
何度も。

「世界を平和にしに行くって事っ!!」

                               待て
                               それはつまり・・・
                               ギルヴァングだけじゃないのか?
                               全てを倒しに行くのか?
                               あの"全て"を
                               アインハルトという者を

「あったり前ジャン!」

                               やめろ

「やだね。オイラはね。ヒーローなんだ。んであいつは悪者!
 分かりやすいジャン?オイラは悪者をやっつけに行くわけジャン!」

                               もう一度言うぞ
                               城門の前でも言った事だ

                               行けばお前は死ぬ


「・・・・・・・・・」

チェスターは走った。
速度をまったく遅める事もなく。
ただ走った。

                               チェスター
                               あそこに踏み入ればお前は死ぬ
                               死ぬんだ
                               俺には見えた
                               予言などという能力はないが
                               そのビジョンが見えた
                               想像させられたというべきか

「あっそ」

                               結果が決まっている
                               あそこに奴がいて
                               そこにお前が踏み込む
                               死ぬ
                               それしか道がない
                               だからやめろ

「あんさー」

チェスターは独り言を言う。
自分の頭に呼びかける。

「なんでヒーローが死を恐れなきゃいけないんだよ」

                               死を恐れ
                               それを知らぬほど愚かだったのか?
                               やめろ
                               俺には言うことしかできない
                               だがやめろ
                               行くな

「うっさいな!!!行くったら行くんジャン!!!!」

チェスターは怒鳴り込んだ。
叫んだ。
心から。
決意。
決意。
確固たる決意。
止められない決意。
それがチェスターの中にある。
そんな叫び。

                               チェスター
                               無謀と勇気は違う

「じゃぁ、」

チェスターはまた、
また、
もう一度、
拳を握りこんだ。

「これは勇気ジャン」

ヒーローは小さく笑った。

「オイラにあるのは正義と勇気。分かりやすいジャン。
 悪い奴がいる。それが許せない。立ち向かう。
 うん!!やっぱヒーローって分かりやすいなっ!!」

                               お前は負ける
                               死ぬんだ

「死ぬわけないジャン。ヒーローってのは死なないんだよっ!」

                               正義が勝つなど誰が決めた
                               その前に
                               誰がお前を正義と決める

「決まってるジャン」

                               お前か?
                               自分で決めた正義など自己満足だ

「馬鹿だなー。皆に決まってるジャン!」

決まっている。
決まっている。

「ヒーローってのは皆が望む事をやるんジャン!
 それであっちは悪者!!でも立ち向かえない人もいる!
 だからオイラがやる!オイラはヒーローだから!スーパーヒーローだからっ!」

チェスターは走った。
とにかく走った。
・・・・。
広い芝生に出た。
小さな城門を越えると、
そこは広い芝生。
そして向こうに聳え立つのは、
片方だけ崩れた外門。

「いいかデムピアスっ!さっきの訂正する!」

それでもチェスターは止まらず走る。

「ヒーローは絶対!!絶対に負けない!!ヒーローは絶対!!絶対に死なない!!」

                               命ある者は死ぬ

「でもヒーローは死なない!悪があって、それを倒すのがヒーローだからだ!
 最終回まで絶対死なない!絶対ハッピーエンドなんだ!
 だってそれは皆が願ってるから!皆がヒーローに望んでるからジャン!」

外門が迫る。
だが止まらない。
走る。

                               とまれ
                               まだ間に合うチェスター

「ヒーローは止まらない!!!」

むしろさらにスピードをあげる。
全力で走る。

「ヒーローを阻めるものなんてないっ!スーパーヒーローは止められない!
 ヒーローは全部それを打ち砕くから!ヒーローは絶対に負けないからだっ!!」

そして飛び込んだ。
中庭。
外門をくぐると、
そこは城の前の庭園。
芝生と通路、
噴水が真ん中にそびえ、
そして目の先に高くそびえるルアス城。
チェスターは一度止まる。
ルアス城を大きく見上げ、
拳を握る。
そして掲げる。

「いろいろ言ってきたけど!結局理由なんて一つジャン!"悪がそこにあるからっ!"
 だから理由はそれで十分!理屈はいらない!"勇気とそれがあればいい!"
 皆がそれを望むならっ!オイラは行く!だってスーパーヒーローだからっ!!」

                               フッ・・・・

頭の中で、
デムピアスは小さく笑った。

                               皆が・・・か・・・
                               "多数決"で善悪が決まるのか
                               人間は実にくだらん
                               実に
                               実にくだらん生物だ

                               ・・・・・・

                               だが
                               チェスター
                               お前は死ぬべきじゃない

                               死ぬべきじゃないんだ

「死なない!スーパーヒーローは最終回まで絶対に死なないんだ!!」

そして、
そしてチェスターはまた走り出した。
城に向かって。
悪に向かって。
ただ、
正義を振りかざし、
拳を振りかざし、
勇気を振りかざし、
ただ、
ただ真っ直ぐ。
ただただ真っ直ぐ。

純粋すぎて、
真っ直ぐすぎて、
ただ・・・・

信念のまま、
志のまま、


・・・・・・


最終回に向かって













                 






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