周りからひそひそ話が聞こえる。
スオミダンジョン。
反乱軍の巣。
反抗期の巣窟。

「あれが『BY-KINGS』のGM後継者?」
「女じゃねぇか」
「しかもガキってな年だぜ」

声が聞こえる。
誰もバンビを認める人間などいない。
大海賊ピッツバーグ。
ジャッカル=ピッツバーグ。
デムピアスの血族と言われる海の長。

「バンビつったっけか」
「バンビーノねぇ」
「未熟者の名前だぜ?大丈夫なのか?」

未熟。
ただその感想しかないだろう。
帝国という屈強な力に逆らう。
その反乱軍の一角がこんな小娘では当然の感想だ。

「気にする事ないでヤンスよ」

足元。
バンダナを巻いたピンキオ。
ピンキッドがバンビに言う。
その言葉もバンビの前には虚しかった。

バンビは洞窟を歩き、
そして終点のプレハブのドアを開ける。

「あいあいおかえり〜・・・・っておい!?」

バンビが入ると、
バンビの顔を見るなりドジャーは驚きの表情を示した。

「バンビ!てめ自粛してろっつったろ!」

それでも顔を出したバンビに対し、
ドジャーは少し怒りを表していた。
それはそうだ。
内密にしているとはいえ、
ツヴァイに刃を付きたてたのだ。
まだ頭が冷えているとは思えない。

「まぁ来ちゃったのはしょうがないですよドジャーさん」
「時間の経過だけで落ち着くとは思わなかったから彼女もここに足を運んだんだろ」

アレックスとジャスティンが言う。
それもそうであり、
その通りだった。
居ても立ってもというのが率直な感想だ。
でも、
ツヴァイがこの場に居ないのを確認するとバンビ自身もホっとした。

「ウダウダしててもしょうがないから決めてもらいにきたのよ」

虚ろに、
バンビはそう言った。
この部屋にいる者。
ドジャー、アレックス。片腕を吊ったジャスティン。
そしてロイヤル三姉妹。
好都合といえば好都合。

「カッ、何をだ」

「ぼくの処分だよ」

一同は顔をしかめた。
だがそれを尻目に、
バンビは顔色を変えずに続ける。

「ぼくも考えたけどね。結果は変わらないみたい。
 ぼくは親父を殺したツヴァイが許せない。絶対に変わらない」

父の死。
それは年頃の娘には大きすぎる問題だったのかもしれない。
割り切れで割り切れる問題ではなかった。

「つまりツヴァイとぼくが一緒に居てはいけないってこと。
 ぼくはツヴァイに協力しないし・・・・・それはつまり海賊団もってことよ。
 それでその先はぼくにだってこれくらいは分かる。
 ならぼくらはココにはいられない。いちゃいけない。
 ツヴァイを殺そうとしてるのに居てもいいっていうなら嬉しいけどね」

それは堂々としていて、
未熟なバンビらしくない確固たる意見だった。
そして・・・
ツヴァイを殺すという心を表向きにしていた。

「カッ・・・・何をいっちょ前な事言ってるんだか」

ドジャーは呆れたように汚いソファーに寝転がった。
そしてダラダラと言う。

「んなアホな事言ってるヒマがあったらさっさと頭冷やしてこい」

「ぼくは一人前だ」

バンビは据わった目で言った。

「親父の代わりなんだ。一人前じゃなきゃならない。ガキ扱いしないでよ。
 そしてぼくにはね・・・・・・海賊王デムピアスの力が宿ってるんだよ」

バンビは、
ただ怪しく笑った。

「デムピアスの血が流れてるんだ。ぼくの中にはデムピアスが宿ってる。
 それは物凄い力よ。ガキ扱いされるいわれはないってもんね。
 ぼくはもう自分で決められる。それだけの力をもってるんだ」

バンビは小さく笑い、
そして右手を握る。

「この力があればやっていける。ツヴァイも倒せる・・・・」

バンビは自信に満ち溢れていた。
デムピアスの力。
考えるだけで強大な力。
それが自分の中に眠り、
自分にはその力がある。
その考えが・・・
バンビに確固たる自信をつけた。
だが、

「あっそ」

ドジャーはソファーに寝転んだまま、
バンビの顔さえ見ずに適当な返事をした。

「そりゃ凄いね。チビりそうだ。頭冷やしてこい」

ドジャーのその返事に、
バンビは表情を変えた。

「まだナメてんの・・・」

「あー、ナメてるね。お前はまだヒヨッコに変わりねぇんだよ。
 飴玉やるから帰って絵本読んで枕抱きしめて寝てろ」

「デムピアスの力を・・・分かってないようね。
 ぼくには力があるのよ。常人にはない血族としての力がね。
 7つの海を支配したデムピアスの血。ピッツバーグの血よ。
 ぼくはヒヨッコなんかじゃない。ただのバンビーナ(小娘)じゃない。
 人とは違う。特別な力・・・海賊王の力がぼくの中には眠ってるんだよ!」

その言葉に、
ドジャーはソファーから飛び起き、
顔を半分だけバンビに向けて睨んだ。

「ひとつ言っとくぞバンビーナ(海賊娘)。俺はなぁ、"そーいうの"大嫌いなんだ」

ドジャーがそう言い、
アレックスとジャスティンは黙ったまま眺めていた。
分からないでもないと言った顔で。
そしてドジャーは"そーいうの"の続きを話す。

「んっと?なんだっけか・・・・・・・血?デムピアスの血?力?
 お前ん中にデムピアスが眠ってる?んで目覚めたらすげぇ?
 そりゃすげぇな。カッ、ばっかじゃねぇの。やっぱ絵本読んで寝てろ」

「・・・・・なによ」

「血が通ってるから。親父がすげぇから。先祖がすげぇから。
 だから=お前もすげぇ。めっちゃ強い。それが解放したらマジ凄い。
 ・・・・・・・絵本か漫画の世界だな。クソ食らえの極地な考えだ」

ドジャーはだらりと、
力もいれずにたらんと指をバンビに向けて指した。
軽蔑のような目をしながら。

「カッ、そういう反則みたいな設定の血が混じってたりでよぉ。
 覚醒だっけか?そーいうもんだろ?でもそーゆーのはよぉ、
 クズ生まれクズ育ちな俺からしたら御伽話みてぇにクソ食らえなわけね。
 俺が言うのもナンだが、自分は何もしてねぇのに力もった気になって付け上がる。
 そういうおのぼりさん大っ嫌いなわけよ。大ね。大。大大大嫌いってな」

ドジャーの話は続く。

「努力して才能が開花したならそりゃカッコイイね。漫画にでも出りゃいい?そりゃ認めてやるよ。
 けど俺はそういう"何もしてねぇのに自動的に力を持つ"ってのが気に食わねぇわけだ。
 それお前が凄いのか?たまたま血筋が凄かっただけじゃねぇか。ただの量産型優良品だな」

「好き放題言ってくれるわね・・・・だけど結果的に力があればいいじゃないの!」

「ごもっともだ。俺だって楽して力手に入れば最高だ。でもダセェよな」
「同感だな」

ジャスティンが部屋の奥から話す。

「それってつまり"親がお金持ちだったから僕もお金持ち"みたいなもんだろ?
 そりゃ羨ましいけどそれで自信満々ってのは最高にダサいと俺も思うな」
「ですね」

アレックスはテーブルの上にあったお菓子をつまみながら言う。

「血を誇りにするのはいいと思いますが、それ任せにするのはまた違います。
 僕の父と母も優秀でしたし、その両方の血を受け継いでいるのは誇りです。
 でも今の僕があるのは僕の生き方や努力があったからです。
 それを"親が凄いからなぁ"でまとめられると泣きたいところですね」

言いたい放題の3人。
いや、
むしろ言い過ぎではないかという3人の言葉。
さすがに見かねて、
ルエンがアレックスに駆け寄って耳元で言う。
おそらく一番まともな返事が返ってきそうだからアレックスなのだろう。

「ちょっと言い過ぎなんじゃないの・・・・相手はまだ小娘よ」
「いいんですよルエンさん。
 ドジャーさんがそう言いたいみたいだから僕とジャスティンさんもノッたまでです」
「ノッたってあんな若い子を傷つけるみたいな・・・」
「言うなら"乳離れ"しろって事ですよ。忘れろって事じゃないですけどね」
「つまり自立して成長しろって?そういう風には聞こえなかったけど・・・・」
「バンビさんはつまり"自分には凄い力が隠されてるんだ"って調子にのってる状態なんですよ。
 それでまぁ・・・ドジャーさんは口下手って事ですかね・・・・」
「・・・・はあ?」
「結果上等な性格なのは知ってるでしょ?結果も出てないのにいい気になってるのがって事です。
 まぁ実際デムピアスの力があるならあるで頼りがいがあります。あるならね」
「ないの?」
「どうでしょう。だけど間違いなく"今はない"。ま、でも結局そんな事はどうでもいいんです」
「訳分からないわね・・・」
「口下手なんですよ。つまるところデムピアスの力はあってもなくてもいいから、
 バンビさん自身で"やれる事やればいいじゃないか"って言いたいわけです。
 デムピアスの力を出すにはどうしたらいいかを考えるでもよし。
 海賊団を動かすためにまず何か自分が動き出すでもよし。
 ただお前はデムピアスの血じゃなくてバンビ=ピッツバーグだろって事ですね」

「聞こえてるわよ」

バンビがムスりとした顔で言った。
ルエンは慌てたが、
アレックスはニコりと笑って返した。

「聞こえるようにいいましたから」

そんなアレックスの笑顔の返答に、
バンビは悔しそうに顔をそむけるだけだった。

「何よ・・・・・・・・・悔しいんでしょ。ぼくが特別だから。
 親父と同じ血。海賊王の血がぼくを強くしてくれるはずなんだ」

「私もパパのようになりたぁーぃ!・・・・カッ、そりゃ別にいい。悪かねぇ。
 だがジャッカルが・・・・血が凄いから自分も自動的に凄くなれると思ってんなよ」

「うるさいっ!」

バンビは血相を変える。
自分の力。
いや、デムピアスの力。
それを信じて出来た自信。
それをまるまる貶されていると感じたから。

「ぼくにはデムピアスの力があるんだ!海賊王の力だ!」

「それが目覚めたとして・・・・バンビさんに扱えるかは別です」

「くっ・・・・」

痛いところを突かれた。
そんな顔だった。
そしてその通りだった。
デムピアスが眠っているとして、
目覚めたとき・・・それは自分なのか?
デムピアスに乗っ取られるんじゃないのか?
むしろデムピアスの狙いはそこだとすると、
その可能性の方が高かった。
デムピアスに精神を乗っ取られる。
バンビではなくなる。
だからこそ、
皆が危惧しているのはそこだ。

「バンビちゃん。君は君のままでいいと思うよ」

「うるさいうるさいうるさい!」
「もういいでヤンスよ」

そこで言葉を挟んだのは・・・
バンビの足元。
ピンキオのピンキッドだった。

「バンビさん。いや、船長」
「なによピンキッドまで」
「船長は船長なんでヤンス。バンビさんが自分達の船長であって、
 デムピアスが船長なわけじゃないんでヤンス」
「あんたがデムピアスの血族だからって元気付けてくれたんじゃない!」
「意味をとり違えて、違う方向に行ってるみたいだから本当の事教えとくでヤンス」

小さなピンキッドは、
バンビを見上げて言う。

「船長の中にデムピアスなんていないでヤンスよ」
「・・・・・ぇ・・・」

バンビは絶句したが、
ピンキッドは話し続ける。

「一時期確かにデムピアスはピッツバーグ海賊団のモンスターの中に潜んでたでヤンス。
 けど、それもどこかに行ってしまった。理由は分からないでヤンスけどね」
「・・・・・」

バンビは歯を食いしばっていた。
どうしたらいいのか。
そして、
デムピアスの力だけを頼りにしていたのが、
今自分で実感した。
それが無いと突きつけられた瞬間に。

「・・・・・うるさい。うるさいわ!」

バンビは一度足をドタンと地面に打ちつけ、
子供のように怒る。

「もういいわ!なんでもいい!ぼくはココをやめる!
 どっちにしろツヴァイを許せないんだからね!」

「ちょ、ちょっと・・・」
「今《BY=KINGS》に辞められるとかなり大きな損傷に・・・」

ルエンやスシア達が戸惑っていたが、
バンビはプレハブのドアを思いっきり開けた。

「絶対見返してやるわ・・・・ふんっ!別にデムピアスの力なんてなくてもいいのよ!
 ぼくは親父の娘なんだ!ピッツバーグの娘として自分でなんでもやれるわっ!!」

そしてバンビはドアを勢いよく閉めて出て行った。
一同はやっとと言った感じのため息をついた。

「はぁ・・・」
「まぁツヴァイの問題は深刻だな・・・」
「忘れろっていうのもおかしいですしね」

「ちょっとあんた達!」
「止めなくていいの?!」

「あ?いーんだよ。最初からこーするのが狙いだったんだからよ」

「え?」

「《BY=KINGS(ピッツバーグ海賊団)》は僕達の一角を担う貴重な戦力です。
 ですけど今のバンビさんじゃそれを率いきれません。単純に力不足って奴ですね」
「だからどうにか成長してもらうしかないって事さ」
「カッ、だがそれも親父に頼りっぱの箱入り娘だからな。
 その親父がいねぇんだ。どうにか自分の力で成長してもらわなきゃならねぇ」
「バンビさんの成長はそのままモロにこちらの戦力に影響しちゃうんですよ」

「はぁ・・・」
「なるほどね・・・」

「ちょっと言いすぎちゃいましたけどね」
「でも期待してやってんだ。ムチくらいいれらぁ」

呆れたように、
疲れたように、
そしてガラでもねぇといった表情をするドジャーは、
そのまま目線をピンキッドに移した。

「悪ぃなペンギン。なんとかあいつを鍛えてやってくれ」

「任せるでヤンス。自分たちも同じ気持ちなんでヤンスから」

「ま、大丈夫だろ。なんせジャッカルの娘だからな」

さっきまでの話と真逆の理屈を言い、
ドジャーはニヤりと笑った。
血族がどうこうじゃなく、
血とはそういうものだ。
受け継ぐもの。
それは力なんかじゃない。

「じゃぁ、次はうちの船長にあんな事言うの許さないでヤンスからね。
 そんな事も言えないように立派に育てるつもりでヤンスけど」

「せいぜい期待してやらぁ」

ピンキッドは笑い、
そしてジャンプでドアノブに飛びついてドアを開け、
出て行った。

「さぁて・・・・」

ドジャーがドスンとソファーに重く座りかかる。

「参ったな・・・」
「参りましたね・・・」
「参ったな・・・」

「え・・・」
「何がよ」
「あんた達の理想どおりいったんじゃないの?」

「いやぁ・・・・」

ジャスティンが片腕を困ったように開く。

「まさかデムピアスが入ってないとはね・・・」
「メッチャ期待してたんだが・・・」
「楽に力入れば最高だったんですけどねぇ・・・・」

「「「・・・・・・・」」」

説教しといて、
自分達はそれかと三姉妹は呆れた。



















































「でぇりゃあああああああ!!!!」

叫び声。
その力強い叫び声はマリナのもので、
ギターを振り切っていた。
ギターはガラスを割り、
窓を砕いた。
ガラスの破片が光を帯びながらキラキラと舞う。

「おっけ!武器も戻ったし思い残す事はこれっぽっちもないわ!」
「さっさと出よう」
「OKだぜぇーぃ」

マリナ達は、
順番に窓枠を踏みしめて外に出て行く。
とりあえずこの城という囲いから出れたこと。
城の横。
西側に出れた事。
それは一つの安心感があった。

「あとは城前庭園を突っ切って出るだけね」
「出口は正面の外門だけだったか?」
「いや、中からなら階段で城壁に登って出ることもできるぜぇーぃ」
「あ、それ採用。庭園とか危ないしね。人目につくし大勢に襲われちゃう。
 で、城壁階段はどこが近いの?」
「まぁ城壁沿いを走ればいつか着くだろう」
「出来るなら表には出たくないねぇーぃ。バレバレだぜぇーぃ」
「うむ。城の裏を目指していこう」

城のまん前に出るなんてのは自殺行為だ。
馬鹿広い庭園。
見晴らしが良すぎる庭園。
そこからたった一つの正面外門を目指すのは危険このうえない。
よって真逆。
数ある城壁の階段の中でも、
マリナ達は城の裏や横。
庭園に出なくて済む階段を目指すことにした。

「でかい城壁だな」

イスカは走りながら横目に見える城壁を見て言う。
城壁に併走する形。
左手には城壁。
右手には城自体の壁が見える。

「改めてみると凄い城壁ね・・・・これは簡単に進入できるもんじゃないわ」
「進入を遮る物が拙者らの脱出を遮る物になるとはな。皮肉だな」
「だけど城壁の階段さえあれば楽々に出れるぜぇーぃ」

城壁の階段にたどり着くまで、
城壁沿いを走る3人。

「そういえばよく窓のある方向分かったわねイスカ。
 私じゃ城の中でさえ迷路みたいでどっちがどういう風なのかも分からなかったのに。
 方角なんてチンプンカンプンだったわ。」
「44部隊の部屋がこちらの窓際だったからな」
「でも道が分かったとしてもさぁー。
 44部隊の部屋まで行ってどこにいるかも分からない俺達をよく見つけられたねぇーぃ」
「・・・・・」

その返事にはイスカは黙った。
城内ではぐれたイスカ。
だが、
エースの部屋を見つけ、
武器をとって合流する。
その手際は疑問が出るほど早かったとも思える。

「言いにくいが・・・・44部隊に助けられた」
「?」
「44部隊に?」
「手引きしてくれたものがいたのだ。何を考えているのか分からぬがな」

裏切り?
それは分からないが、
44部隊が完全に帝国の意思で動いていないという事が分かる。
アレックスは44部隊が帝国の内側からダメージを与える鍵だという戦略を提案していた。
イスカ達はそれを知るよしもないが、
やはり鍵はあるということか。

「ちょ・・・」

マリナが走るのをやめる。
進行方向に現れたもの。
それを見て走るのをやめた。

「勘弁してよ・・・」
「通れる行き止まりって感じだねぇーぃ」
「チィ」

それは煙だった。
煙。
それが進行方向を遮っている。

「シュコー・・・コォー・・・・」

薄っすら見える影。
煙の中の人影。
それはガスマスクを付けた男。
スモーガス。

「あの44部隊の煙男か」

煙が立ち込める。
まるで巨大なドライアイスがそこにいるように。
屋外ということで、
城内の時ほど煙は密集していない。
だが、
それでも煙は大きな化け物のように噴出していた。

「コォー・・・シュコー・・・・帰れ」

スモーガスが言う。
帰れ。
いや、帰りたくて走っていたのだが、
この場合はこっちに来るなという意味だろう。

「どうする?駄目もとで突っ切る?」
「駄目もとってことはないぜぇーぃ!」

シャークがノリノリでサメ型のギターを振り上げる。

「俺のバードノイズと相性のいい相手だと思うぜぇーぃ?」

シャークのバードノイズ。
実質世界一だとマリナは言った。
彼のバードノイズは音の攻撃。
ここから演奏するだけでスモーガスは倒せる。

「コォー・・・・シュコー・・・・」

怪しく、
落ち着いた様子のスモーガスは不気味だった。

「いや・・・うまくいけばとは思っていたが、実はこの先は44部隊の部屋沿いなのだ。
 あの様子じゃ44部隊はまだ確実に拙者らを追っている。相手の巣穴を横切るようなものだ」
「・・・・・なるほどねぇーぃ」

44部隊の部屋は窓際。
イスカはそれを知っていて、
そしてこの先がそうなのだ。
外とはいえ、
44部隊の部屋を横切るというのは危険が伴う。

「しかもあの男を倒しても煙は少しの間残るしねぇーぃ」
「煙の中で死亡ってオチが見えるわね」
「逆に言えば、煙はその場に残るもの。行かなければ来る事はない」
「つまり」
「一目散に引き返すが吉ってことね」

言い終わるよりも先か後か、
マリナを先頭に、
3人は一斉に振り向いた。
そして来た道を一目散に戻りだす。
先ほどと逆側。
右手に城壁が見える。
その城壁に沿って走る。

「シュコー・・・・」

スモーガスの空気音だけが遠のいていく。
なんか少し寂しそうにも見えた。
だが無視。
無視に限る。

「やっぱ追ってこないぜぇーぃ!」
「でもどうするの?このままじゃ城の表側に出るわ。
 裏からコッソリ出るって作戦は駄目そうじゃない」
「やむを得ないだろう。城壁沿いならまだ見つかりにくいだろうし」

そうこう言っていると、
左側に城自体の壁が途切れた。
視界が広くなる。
城の庭園。
マリナも《ハンドレッズ》戦で一度来ているが、
やはり大きな庭園だ。
遥か向こうに内門も見える。
が、それには近づかず、
城壁に沿って走る。
庭園の端を走る。
右手には城壁。
左手には向こうまで見渡せないほどの広い庭園。

「・・・・・・・どうやら大々的に指名手配のようだな」

城壁沿いを走りながらイスカは言った。
庭園。
その戦場の跡の庭園。
迫っている。
横側から。
左手から。
大勢の・・・・・騎士。

「いたぞ!」
「脱走者だ!」
「生かして帰すな!」

城壁を併走するマリナ達に、
幾多の兵士達が走りこんできていた。

「あちゃー・・・・凄い数ね」
「100は超えているな」

イスカが鞘から刀を抜いた。
刀を広げ、
走りながら横目に迫る兵士達を見る。
城壁沿いを走りながらも、
左手の庭園から迫り来る騎士達。
横から迫り来る兵士達。

「マリナ殿。命の限りお守りする!」
「でぇーーりゃぁあああああ!!!!」

イスカが格好をつけたところで、
マリナの叫び声が聞こえた。
そして幾多の銃声。
鼓膜をやぶくかのような破裂音の連続。

「ぐあぁ!」
「ぎゃぁああ!」

マリナのMB16mmマシンガン。
ギターの先端から発射される幾多の弾丸は、
走りながら並列に流れていき、
迫り来る兵士たちの撃ち落としていた。

「強火でちゃっちゃ!カラッと料理ってねぇ!
 あんた達みたいな素材に味付けなんてしてあげないわ!
 食材は鮮度が命!さっさと料理されちゃいなさい!」

横にマシンガンを撃ち続けながら城壁沿いを走る料理人。
移動型機関銃シャル=マリナ。
敵を射的のように撃ち落として走る。

「さすがベイビーだねぇーい!」
「・・・・・・」

さすがだ。
イスカもそう思ったが、
自分がマリナを守っていい所を見せたかったため、
少し複雑な気分だった。

「せ、迫ってきても大丈夫だマリナ殿!マリナ殿は拙者がお守りするからな!」

と、
見栄を張ったのはいいところ・・・・

「でりゃりゃりゃりゃ!!!マリナさんを怒らせないことね!
 穴あきチーズになりたい奴だけきてみなさい!料理してあげるわ!!」

マリナの銃弾で迫る敵は倒れていく。
マリナ達が走る城壁沿いへと迫ってくるが、
ばたばたと撃たれていく。
そうそう近づいてこれるわけがない。
走りながらイスカが右手に用意した名刀セイキマツは、
使い道のないただの鉄の棒でしかなかった。

「やられてばっかでいられるか!」
「騎士隊!」
「騎士つっこめ!!」

だが相手は帝国。
そんな雑魚ばかりではなかった。

「うぉおおお!」
「りゃあああああ!!」

城壁に併走するマリナ達に突っ込んでくる者が数名。
大きな盾を前に出し、
突っ込んでくる騎士。
マリナのマジックボールの弾丸をことごとく防ぎ、
全力で駆けてくる。

「効くか馬鹿やろぉ!!」
「帝国をなめるな!!」

盾を突き出して突っ込んでくる騎士。
マリナの弾丸は無効。
来る。
突破してくる。
弾丸の中を駆けてくる。
盾を突き出してこっちに突っ込んでくる。

「拙者の出番!」

ピンチが嬉しいのか、
イスカは刀を一振りし、
逆に騎士達に走りこもうとするイスカ。

「ベイビー!サムライガール!耳を塞いでくれぇーぃ!」

だが、
後ろからシャークの声。

「走りながらのライブは初めてだぜぇーぃ!
 疾走のミュージックは光と風と共にライジングロケンロー!!」

そして鳴り響く爆音。
轟音。
歪むギター音。

「ぎゃあああ!!」
「ぐぁああ!」

騎士達は目や口から血を吹き出して倒れていった。
マリナ達に辿り着くことなく。
音という360度密度無しの全空間対応の攻撃。
盾など虚しく、
騎士達は倒れていった。

「ヒャッホーー!!YEAH!!失神するほどヘヴィなライブだったかぁーぃ!!?」

シャークは走りながらその勢いで前宙をした。
走りながら、
ギターを持ったままジャンプして一回転し、
着地と同時にギャィーンとギターを奏でて「YEAH!」

「ナイスよシャーク!」
「だろぉ?ベイベー!ハイでクールでヒートするリフだっただろーぅ!?」
「いけそうね!このまま城壁階段までダッシュよ!」
「そ、そうだな・・・」

イスカは走っているだけという自分の状況にしょんぼりした。
状況がいいのはいいが、
自分が役立たずなのが寂しすぎた。

「気分がいいから大奮発しちゃうわ!」

マリナは走りながら、
ギターを横に向ける。
そしてそのままエネルギーを・・・魔力を溜めだした。
ギターの先端に大きなマジックボールの塊が出来ていく。

「好きなものを後から食べろとは言わないわ!ご馳走してあげるからたらふく食べなさい!」

そして放たれる大きなマジックボール。
MB1600mmバズーカ。
走りながら横に放たれたそのマジックボールは、
斜めにカッ飛びながら、
敵の群れの中に着弾した。

「お腹は壊さないでね♪」

大きな爆発音と、
敵の悲鳴。
ゴミのように吹っ飛ぶ兵隊。
7・8人が一辺に吹っ飛んだ。

「くそぉ!」
「近づけねぇぞ!」
「いや!」
「近づかなくてもいい!」
「あれを見ろ!状況はこっちだ!」

訳の分からない事をいう騎士達。
兵士達。
城壁沿いを走るマリナ達には近づけない。
ならどう近づく。
マリナが前方を確認したが、
そちらに敵が回りこんでいる様子はないようだ。

「むっ」

イスカが気配を感じた。
どこに?
右側は城壁。
前方に敵は無し。
左側から迫り来る敵は近づいてこれない。
後ろ?
いや、追いついてこれないだろう。
なら・・・・・

「上だ!!!」
「へっ?」

マリナ達が見上げる。
不意だった。
想像しておくべきだった。
上。
さらに詳しく言うなら右上。
・・・・・城壁の上。

「ばーか!」
「帝国が城壁警備をかかさないと思ったか!」

城壁の上に並ぶ兵士。
魔術師。
まるでオブジェクトのように規律正しく城壁の上に並んでいた。

「上対下!」
「戦闘の基本だ!」
「やられちまいな!!」

城壁の上の魔術師たちが短い詠唱をしたと思うと・・・・

「マリナ殿!出来るだけ城壁側に!」

城壁の上から矢が降り注いできた。
ファイヤアロー。
アイスアロー。
ウインドアロー。
魔法の矢が城壁から雨のように降り注ぐ。

「くっ・・・・」

逆に城壁に近づけば城壁の上からは死角。
とはいえ、
大量の魔法の矢はマリナ達を襲う。

「させるかっ!」

イスカは走りながら一度跳躍したと思うと・・・・・
壁に着地。
いや、城壁を走る。

「拙者の剣に切れぬものなどない!せりゃせりゃせりゃ!!」

やっと出番かとテンションのあがるイスカは、
壁を走りながらマリナ達に降り注ぐ矢を斬り落としていった。
その間数秒で、
イスカが壁を走る勢いを無くして着地した時には全ての矢を斬り落としていた。

「・・・・・またつまらぬものを斬った」
「格好つけてないで走るのよイスカ!!」

イスカは着地と同時に地面で格好をつけていたが、
マリナとシャークはそれを置いていき走り去っていった。

「ま、まってくれマリナ殿!」

イスカも走り出す。

「第一射外れたぞ!」
「第二射急げ!」

城壁の上の魔術師たちがまた詠唱を始めようとする。
また一斉に撃ってくる気だ。

「させないぜぇーぃ!コンサートとライブは違うんだ!
 そんな高見席にいないで最前列でハッピーなロケンローを楽しもうぜぇーぃ!」

第二射が来る前に、
シャークのギターが鳴り響く。
音の海。
狙いを付けたりする必要はない。
聴こえればそこは全て射程。

「愛のシンドロームをお届けするぜぇーぃ!飛び込んできなベイベー!」

「があああ!」
「耳が!頭がいだいいぃいぃ!」

城壁の上の魔術師たちがもだえ苦しむ。
そして血を吐き出していった。
その場に倒れ、
者によっては城壁から落下していった。
まるでドミノ倒しの流れのよう。
シャークが演奏しながら走ると、
城壁の上の魔術師たちが綺麗に流れるように倒れていった。

「ヘイ!グッドなキッズ!ヘイ!ナイスなヘッズ!今のは新曲だぜぇーぃ!
 聴けたベイベーはラッキーボーイゼンガールだ!逝く前に聴けてハッピーだねぇーぃ!」
「ちょっとシャーク!」
「なんだぁーぃ?」
「バードノイズ使う時は言ってよね!」
「うむ・・・耳を押さえなければ拙者らも危ないのだから」
「そりゃ残念だねぇーぃ。全てのグッドフェローズに聴いてもらいたいんだけどねぇーぃ」

シャークは走りながら細長い両手を広げた。
聴いてもらいたいのはミュージシャンとして当然だろうけど、
死ぬほどハイでは迷惑だ。

「じゃぁ次の曲いくぜぇーぃ」

シャークはまたギターに指を添える。
マリナ達が気付き、横目で見る。
左手側。
庭園。
城壁の敵を相手にしている隙に、
騎士達がすぐ側まで迫りこんできていた。

「これ以上なめられてたまるか!」
「射程内だぜ!」
「もっかい監獄なんて選択肢は無しだ!」
「おっちんじまえ脱走者ども!」

「こんなにも俺のライブに駆けつけてくれたんだねぇーぃ!
 損はさせないぜヘッズ!後悔ないほどぶっ倒れるまで聴いていってくれぇーぃ!」

そして鳴り響くノイズ。
ミュージック。
バードノイズ。
ギターの歪む最高の音の海。
それが鳴り響く。
遠くても近くても関係ない。
聴こえれば射程内の無敵の技。

「ぐああああ!!」
「くそぉおお!!」

帝国にも意地があるのだろう。
騎士達は倒れていくが、
血を顔面から垂れ流しながら突っ込んでくる者もいる。
それらもそのまま力尽きるが、
彼らも戦闘のプロだ。
耳を塞ぎ突っ込んでくる者もいる。

「しょうがないわねぇ!」

マリナは衣服の一部を破き、
それを丸めて自分の耳に突っ込んだ。

「演奏と料理は酒場Queen Bの名物よ!聴覚視覚、味覚に嗅覚触覚!5感全て楽しんできなさい!」

放たれるマシンガン。
凝縮されたマジックボールの機関銃。
機関銃は騎士達を撃ち抜いていった。

耳を塞げばマシンガンに。
盾で防げばバードノイズに。
両手の行方が何処でも、
どちらにしろ兵士達は倒れていった。
最強のコンビで、
最強のコンボでもある。

「・・・・・・・することがない」

イスカが呟いた。
シャークがギターを。
マリナもギターを。
最強のギターコンボで敵が殲滅していく。
イスカの出番はカケラもなかった。

「!?」

いや、
イスカは気付いた。
走っている自分たちに・・・
そのまま走りこんでくる一つの影。
倒れていく騎士達の中、
一人だけ・・・
一人だけこちらに突っ込んでくる。
走りこんでくる。

「マリナ殿!44部隊だ!」

見覚えがある。
44部隊。
その一人。
音の海。
弾丸の海。
その中を走りこんでくる。

「ラ〜ララ♪ディモールトな音楽だねぇ♪グラッチェ!僕からマエストロにかって出たいよ!
 でも僕は荒々しロックよりもオペラのような美音が好きだな♪ハミングできるようなね♪♪」

それは詩人。
両手にサンバマラカスを持った吟遊詩人。
ミヤヴィ。
44部隊。
『戦場のモーツァルト』。
ミヤヴィ=ザ=クリムボン。
両手のマラカスを鮮やかにくるくると回し、
平気な顔で、
緩やかな笑顔でこちらに走りこんでくる。

「♪〜♪♪♪♪音は音でミキシングさ。センプレでこちらの音を中和するのさ♪」

音には音。
中和で調和。
音の波の中を音で防いで走りこんでくる。
そしてマリナの弾丸も鮮やかに裂け、
ゆるやかにマラカスで弾く。

「タンゴの中でダンスはいかがかな♪全てはリズム♪
 ハ長調の中に身を任せるのは心地いいよ♪アダージュに身を動かせる♪
 君達のコード(和音)の海の中、僕のハートはカンタービレのように♪」

「来るわあいつ!」
「止められない!」

最低限。
まるで弾丸の方向が分かるかのようにゆるやかに弾丸を避け、
弾くミヤヴィ。
音の波の中、柔風のように笑顔で走りこんでくる。

「ミ♪ソ♪ソシラ♪ララ♪ドレラ♪」

それは彼にしか分からない領域なのだろう。
まるで全てが音に見えているかのように。
弾丸さえも音符に見えているかのように。
リズムに合わせて流れてくる楽譜のように。
楽しんで軽やかに避けていた。

「くっ!拙者が迎え撃つしかないか。シャーク!バードノイズを切れ!」

シャークが演奏を止めると、
イスカが剣を構える。

「青空の下でデュエットか♪素敵だね侍さん♪青空の唄を歌おうか♪」

「そうだな。拙者は大空を知っている。・・・・こい演奏者!!」

「ソラ(空)♪の後にはシ(死)さ♪アニマートに行くよ♪」

ミヤヴィが突然、
片手のマラカスを・・・投げた。
投げつけてきた。
勢いよく飛んでくるマラカス。

「ふん。こんなもの・・・」
「駄目だサムライガール!避けろ!」
「む?」

斬り捨ててやろうと思ったが、
咄嗟のシャークの言葉にイスカはマラカスを避けた。

「なっ!?」

マラカスはそのまま背後の城壁にぶつかった。
マラカスがだ。
ただ・・・
マカラスがぶつかった城壁は・・・・・表面が砕け散った。
いや、砕け散ったというよりは割れたという表現が合ってる。
ただのマラカスがあたっただけなのに、
石造りの城壁の表面はガラスのように割れた。

「なんだ!?」
「音だぜぇーぃ。あのマラカス自体が奏でられながら飛んできた。
 音の波は振動だぜぇーぃ。逆に言えば衝撃波みたいなもんだねぇーぃ」

言うならば、
あのマラカスはバードノイズを奏でながら飛んできた。
音の振動を響かせながら。
故にぶつかると振動で砕ける。
音の攻撃でありながら・・・・・・直接攻撃。
そしてそれは・・・・防御力とかそういう話は関係ない。
音の振動。
そのまま内部から体は悲鳴をあげるだろう。

「喜び♪怒り♪哀しみ♪楽しさ♪音楽は感動させるために生まれたものだよ♪
 ♪〜♪♪♪♪さぁ!受け止めておくれ♪フォルテッシモを感じようよ!」

音の振動の攻撃。
言うならばガード不能だ。
耳を塞いでも、
何かで守っても無駄。

「音は体という楽譜を流れてくるってことだねぇーぃ。・・・・・・相手が悪いぜぇーぃ」
「最初から相手する気なんてないわ!」

だからといって逃げ切れるか?
走力は互角といったところ。
だが、
マリナがとった行動は・・・・

「こんなもの!」

投げつけられたマカラスを拾い。

「バァーイバァーーーイ!!ってねぇ!」

・・・・・・・投げた。
どっか適当な方向へ。
ぶん投げた。
おもくそに。
空でくるくると回り飛んでいくマラカス。
大遠投。
犬にとってこいとフリスビーを投げるように。
虚しくマラカスは宙を飛んでいった。

「酷いなぁ・・・・」

ミヤヴィは走るのをやめた。
片手に持つマカラスごと両手を広げて困った顔をする。

「音を生み出す楽器は、言うならば創造主・・・・神様なんだよ?
 無ければダ・カーポも付けられない。嗚呼・・・ドドド(怒怒怒)♪なリズムだよ」

ふぅとため息をつき、
ミヤヴィは振り向く。

「でも君達とはまた音楽を奏でたいね♪
 口が無くとも歌はある。耳がなくとも音はある。理屈がなくても音楽は作れる♪
 ソロでもデュエットでもオーケストラでもいい。和音を奏でよう!ヘ長調の上でね♪」

そしてミヤヴィは投げられたマラカスを拾いに行った。
マリナ達そっちのけで。
もう一個あるのだから攻撃してこればいいのに、
マラカスの方が大事なようだ。

「私も魔術師だけど音楽家のはしくれだからね。楽器の大事さは分かってるわ」

分かっているなら投げるなよといいたいが、
まぁだからこそミヤヴィがほっとかないと思ったのだろう。
結果オーライか。

「あら、向こうも投げてきたんだから投げ捨てたって文句はいえないわ」

イスカの表情を読み取ったようにマリナは言う。
まぁイスカにとったらマリナが無事ならそれでいい。
音楽どうこうなどという理屈はいらない。
というか理解できない。

「それより敵が迫ってるぜぇーぃ。そして・・・・・」

シャークが指を刺す。
細長い腕の先の細長い指先で。
それは進行方向。
壁沿いの先。
それは・・・壁。
つまるところ城壁の角。
そして、

「階段だわ!」

城壁の隅。
長方形に城を囲む城壁の四隅の一つ。
そこには階段があった。
Z字状に城壁に続く階段。

「あれに昇れば・・・」
「出れる!」

念願の階段。
城壁へと続く階段。
城壁の外は別世界。
つまり外へと繋がる道である。
マリナ達はすぐさま駆け寄る。
そして階段の入り口に・・・・

「げ・・・・」

階段を昇ろうとした。
その時、
階段の上に座り込んでいる者がいる事に気付いた。。
静かに、
そしてうつむきがてら座り込んでいる者。

「人が行く方向なんてすぐ分かる・・・・それを追いかけるのが私の趣味だから」

スミレコだ。
気配もないまま、
怪しく階段に座り込んでいた。
辿り着いた脱出口の上に。
その階段に・・・・。

「・・・・ふんっ。あんた達みたいなゴミ虫ほっとくと・・・アレックス部隊長を誘惑するかもしれない。
 害虫ってそういうものだし、知らず知らずにすぐに人に迷惑をかける。
 ほんとそういうクソ虫みたいな奴らって付き纏われる人の気持ち考えたことあるのかしら・・・」

そんな事を階段に座ったまま言うストーカー女。
スミレコ=コジョウイン。
表情も変えず、
虫虫と人の事を平気でけなす。

「害虫がつかないようにアレックス部隊長はどっかに監禁しとくべきよね。
 私が守ってあげなきゃ・・・・私がアレックス部隊長を一生面倒みてあげなきゃ・・・」

階段に座ったまま、
スミレコは階段に両手をペタリとついた。

「害虫は駆除しとかないと」

「やばい!!」
「前のスパイダーウェブよ!」

地下、
ギルドダンジョンでも悩まされた技。
広がる蜘蛛の巣スパイダーウェブ。

「走れ!」

選択肢は無かった。
階段に座り込んでいるスミレコ。
そこから広がる蜘蛛の巣。
階段を選べない。
逃げる。

「もぉおお!!目の前階段だったのに!」
「く・・・無念・・・」

走るマリナ達。

「逃がさないわメス豚!この泥棒猫!」

まるで昼ドラのような事をいうスミレコだが、
何も盗んではいない。
というかアレックスも彼女のものではない。

「・・・・っていうか?!こっちって外門の方じゃないの!?」
「・・・・・うむ」

また城壁沿いを走るマリナ達だが、
来た道とは違う。
正面の城壁。
つまるところ、
ここを走りきると外門に到着する。

「このまま外門に向かうしかないか・・・」
「辿り着ければ・・・・・・・・・・だけれどねぇーぃ!!」

背後を見ると・・・・
やはり蜘蛛の巣が追ってきていた。
スミレコは階段に座ったままのようで姿は見えないが、
階段を中心に蜘蛛の巣が追ってきている。
蜘蛛の巣は階段を乗り上げ、
地を、
地面を這って広がっていく。
地面が蜘蛛の巣の絨毯に包まれ、
城壁を這い、
地面も壁も蜘蛛の巣になっていく。

「追い詰めたぞ!!」
「スミレコ様のスパイダーウェブだ!」
「やっちまえ!」

「ちょっ!」

背後は蜘蛛の巣が迫る。
そして正面。
前。
半分壁に阻まれ、
見える90度の視界の先から騎士達が向かってきている。

「どきなさいよぉおおお!!!」

走りながらマリナが前に向けるギター。
マシンガン。
乱射だ。
目の前に向かってきている兵士達を撃ちぬく。

「どかないとフライパンで殴るわよ!!」

フライパンより怖いマシンガンを振り回し、
撃ち回し、
機関銃は鳴り響くのをやめない。

「こっちも!」

マリナは走りながら上半身だけ振り向き、
背後にギターという名のマシンガンを向ける。
そして撃つ。
だが、

「このっ!このっ!!このぉおお!!」

広がり、
地を這い、
追いかけてくる蜘蛛の巣には無意味だった。
虚しく弾丸が地面で跳ねるだけ。

「もぉお!!女なら女らしく出てきなさいよ!!」

マリナは階段の方にも撃ちまくるが、
階段は壁で遮られ、
座っているスミレコは見えなかった。
弾丸は当たらない。

「なら俺の出番だぜぇーぃ!」

シャークは走りながらギターを軽くギャンと鳴らし、
バードノイズの準備に入る。

「世界はライブハウス。音のビッグウェーブのグレートフルワールドさぁー!!」

そして鳴り響くバードノイズ。

「ヒャッホー!!」

シャークはノリノリでジャンプした。
両足を180度開き、
空中で鳴り響くギター音。
ノイズが、
振動が、
音楽が、
空間に響き渡る。
聞こえれば範囲。
聴こえれば射程。
そして、

「見て!!」

マリナは走りながら後ろを指差す。
背後。
追ってきていた蜘蛛の巣。
それはシュゥと消えていった。
恐らくスミレコにダメージがあったのだろう。
倒せたかまでは分からない。
いや、恐らく倒せてはいないが、
何かしらダメージがあった。
または耳を塞いだから両手を地面から離したのかもしれない。

「ミュージックのパワーはインフィニティなシンドロームだぜぇーぃ!!」

シャークは嬉しそうにギターをギャイーンとかき鳴らした。
スミレコのスパイダーウェブは振り切った。
あとは外門目指して走るだけ。

「どっきなさぁーーぃ!!」

マリナは目の前にマシンガンを撃ちまくる。
騎士達はばったばったと倒れていく。
走る機関銃。
リロードさえない超連射型機関銃。
止まらない銃声。
とめどない弾丸。

「てぃ!」

マリナは軽やかにジャンプした。
その大きな跳躍は、
そのまま城壁を蹴り、
さらに高く飛んだ。

「蜂のように舞い・・・・」

高い。
人間何人分という高さ。
遥か高さに舞うマリナ。
女神。
女王蜂『Queen B』。
空中で広がるブロンドの髪。
それはまるで蜂が広げる羽のようで美しかった。
そして、

「蜂のように・・・撃つ!!」

空中から連射されるマシンガン。
雨。
銃弾の雨。
乱射。
大乱射。
狙うとかそういうのはない。
マリナの性分。
"数撃ちゃ当たる"

「メインディッシュはお預けね!」

落ちながら、
ブロンドの髪を揺らしながら撃ちまくる女神。
天から落ちる女神。
風に空気で広がるブロンドの髪。
銃の反動で揺らめき、蜂の羽は羽ばたいた。

「何度も食らうか!防御法は分かってんだ!!」

一人だけ。
大型の盾を天にかざし、
マリナの銃弾を全て受けきった騎士がいた。

「やるじゃない」

「褒め言葉はいらねぇ!落ちてきた時があんたの最後だ!」

盾をかざしながら、
マリナの落下を待つ騎士。
生き残っただけはある。
それだけでも実力も分かる。
だが、
マリナには及ばなかった。

「・・・・・って・・・」

「邪魔するわ♪」

マリナは着地した。
トタンと小さな音を立てて。
・・・・・・・・・騎士の盾の上に。

「お・・・重・・・・」

「あら失礼ね。死にたいですって聞こえたわ」

何かをするヒマもなく、
盾の上でマリナはギターを逆に持ち、
振り上げた。

「ご来店ありがとうございましたー。またのお越しを♪」

そしてゴルフのように振り切られたギターは、
さながらハンマー。
そのまま騎士の頭に直撃し、
鈍く、重い音を奏でてフィニッシュだった。

「やっぱ私も捨てたもんじゃないわ♪」

マリナは片手でバサりと髪をなびかせた。

「マリナ殿っ!!!」
「へ?」

ポーズを決めているマリナに、
イスカが飛び込んだ。
飛びついた。

「キャッ!」

そして転がったと思うと・・・・

火柱があがった。
マリナがさっきまで立っていたところ。
そこから蒼白い火柱があがったのだ。

「な、何!?何なの?!」
「パージフレアだぜぇーぃ!!」

3人は同時に辺りを見回す。
だが辺りは転がったままの兵士ばかり。
マリナがまるまる片付けたからだ。
少し遠くにも敵がいるが、
それらに不審な様子はない。

「シャーク!足元だ!」

イスカが叫び、
シャークは咄嗟に足元を見ると、
そこには魔法陣。
パージフレアの魔法陣があった。

「おぁ!!」

シャークは咄嗟に避け跳ぶ。
そしてそれと同時に火柱があがった。
蒼白い炎が地面から吹き上がる。

「なんで!?どこから!?」
「44部隊だ!前みた44部隊の中にパージフレアで狙撃するものがいた!」

狙撃。
どこから?
城壁か?
いや、正面城壁は死角。
だがその確率が一番高いが、
マリナ達にそれを確認する術はなかった。

そして、
狙撃手。
44部隊『St.スナイパー』
ニッケルバッカー。
彼は・・・・城の上。
テラスにいた。
距離はどれくらいだろうか。
肉眼で確認できる距離ではなく、
マリナ達が彼の位置を知る事は不可能だった。

「どこにいるのか分からんが・・・・走れ!!」

今日はもうどれだけ走っただろう。
地下から合わせ、
走りどおしだ。
だが、
走るしかない。
正直もう横腹さえ痛い。
単純に疲れまくっている。
体が休息を求めている。
だが走る。
もう外はすぐなのだから。

「走れ!!」
「照準を合わさせちゃだめね!!」

マリナ達は走る。
マリナ達のすぐ横や、進行方向で火柱があがる。
その中を掻い潜るように走る。

「真っ直ぐ走っちゃだめだぜぇーぃ!!ジグザグに走るんだ!!」

とにかく的を絞らせない。
そうしないといけない。
そしてそうするしかない。
ニッケルバッカーの位置は分からない。
そして分かったとしても届かない場所にいるのだから。

「一方的にやられるだけってのが一番腹立つわ!」
「今は我慢だぜぇーぃベイビー!」
「くっ・・・剣がもっと長ければ・・・・・」
「そーいう問題じゃないでしょ・・・」

そう会話しながらも、
一瞬でも気を緩めるとパージフレアの餌食だった。
かなりの距離があることは分かる。
だが狙いは正確だった。
少し単調な動きをしただけで燃やされてしまうだろう。

「くそぉ・・・もし会ったらギターで悲鳴あげさせてやるんだから!」
「マリナ殿!あれ!!」

イスカが言う。
それは・・・・

「外門!!外門だわ!!」

城壁沿いに走り、
とうとう・・・
とうとう辿り着いた。
外門。
出口。
脱出口。
大きく、
城壁の高さまで広がる巨大な外門。

「やったわ!!やったのよ!!」

そしてその巨大な外門の前に3人は立つ。
やっと辿り着いた外門。
長き道のりの出口。
終点。
それは・・・・・・

「そんなっ!!!」

マリナは外門を叩く。
心のままに叩く。

「開いてよ!!ちょっと!!」

閉まっていた。
開く気配はない。
馬鹿でかいその外門は、マリナ達をあざ笑うかのように聳え立ったままだった。

「なんでよ!前来た時は壊れてたのに!」
「帝国が直したのだな・・・当然か・・・・だが中からなら開ける仕掛けがどこかにあるはずだ」
「そ、そうだわ!そうよね!」
「無駄だぜぇーぃ・・・」

シャークは両手を広げる。

「門は権限がないと操作できない仕組みになってるんだぜぇーぃ」
「そんな・・・・」

目の前の巨大門。
ルアス城外門。
それは・・・
大きすぎて・・・絶望を受け入れるには十分だった。

「くっ!!」

イスカがマリナとシャークを跳ね飛ばし、
自分を飛んで避ける。
パージフレア。
ニッケルバッカーの狙撃は止んだわけではない。

「まだ狙ってくるわ!」
「どうする!?別のルートを・・・」
「今からまた他の階段を探すのかぁーぃ!?」

話しながらも、
マリナは足元の魔法陣に気付いて飛び避ける。
休むヒマもない。
というか・・・・

「今の体力でこの狙撃を避け続ける自信がないわ・・・・」

境地。
行き止まり。
追い込まれたネズミ。
外門を背後に、
広すぎる庭園を見渡した。

「どうすれば・・・・」

イスカは顔を覆う。
なんでこうも自分は無力なのだ。
マリナを守りたい。
それだけだった。
だが・・・役に立てたのか?
そしてこの極地。
自分はマリナを守るために何が出来る。
かばって死ぬか?
それで終わってどうなる。
マリナが守られるわけではない。
無力・・・。
無力だ・・・・。
何もできな・・・・

「!?」
「な、何?!」

3人は驚いた。
突然の轟音。
爆音にも近い。
耳にも響く大きな音。

「ま、また!!」
「こっちからだ!」

大きな大きな音。
轟音。
広い音。
大きく、
空間自体が響くような音。

「・・・・・・これだねぇーぃ・・・・」
「これって・・・」
「外門が・・・・・・・揺れている・・・・」

また轟音。
カラカラと鉄が軋み、
外門が揺れる。
また轟音。
それと一緒に外門全体が悲鳴のように音を揺らす。
ズレきている。
歪んできている。
また轟音。
何度も何度も。
定期的に・・・・

「フッ・・・・そうか。助けられてばかりだな。拙者が守るべき者なのに」

イスカは理解したようで、
ふと笑みを浮かべた。

「な、何よ?!どういう事なのイスカ?!」
「・・・・・拙者はこんな大きなドアをノックする者は一人しか知らんさ」

そして・・・・
ここ一番の大きな轟音が鳴り響いたと思うと・・・・
外門が傾いた。
外門の片方がカラカラと音を立て、
そしてゆっくり・・・
その大きな体を傾けて倒れてくる。

「危ない!」

マリナ達は倒れてくる巨大な外門の片方を避けるために走った。
そして・・・・
大きな音を立てて外門は地に伏した。
何十メートルもあるだろう外門の片方は、
そのまま風と砂を巻き上げ、
大きな砂埃をあげた。

「よっしゃーー!!これで外門壊したの何枚目だっけーチェチェ?」

そして砂埃の先にいたのは・・・・
『ノック・ザ・ドアー』
外門壊しのスペシャリスト。
傭兵マーチェこと、
ユナイト=チェスターだった。

「あっれー?マリナとイスカジャン」

チェスターは驚いた表情を見せ、
頭をポリポリとかく。
頭の上で、ワイキベベのチェチェも頭をポリポリとかいた。

「なんでこんなとこにいるんだー?散歩?」
「散歩なわけないでしょ!」
「それにこっちが聞きたいところだ・・・・」
「そんなヒマはないぜぇーぃ!!走れ!!」

シャークの言葉にハッと気付き、
マリナとイスカは走る。

「え?え?何々?なんなんジャン?」
「いいから!!」

マリナは戸惑うチェスターの手を引っ張り、
外門の外。
壁の向こう側に隠れる。
火柱が上がる。
パージフレア。
だがそれはなんとか外れ、
城壁の裏側。
死角へと逃げ切った。

「・・・・ふぅ・・・どうやらここは狙撃できないようだな」
「はぁぁ・・・」
「もうだめかと思ったぜぇーぃ・・・・」

3人は同時に疲れがどっときたようで、
そのまま城壁の外側の壁に溶け込むようにずるりと座り込んだ。

「助かったのね・・・・」
「長かった・・・いつ死んでもおかしくなかった・・・・」

安堵の表情を見せる3人。
それにチェスターとチェチェは首をかしげた。

「・・・・・んー・・・よく分からないけどお疲れ!!!」

・・・・・。
まぁ実際お疲れだ。
返事を返す気力もなかった。

「ってあれ?なんでモンスターが一緒にいるんだーって思ったらさっ。
 あんたシャークじゃん!ルケシオンダンジョンに住んでたさっ!なぁそうだろっ!?」
「んー?」

シャークがゆっくりチェスターの方を見る。

「おぉ!マッスルファイターの弟子のベイベーか!成長してて分からなかったぜぇーぃ!」
「久しぶりジャン!」
「久しぶりだねぇーぃ。よくルケシオンダンジョンまでランニングに来てたもんなぁー。
 毎日ルアスとルケシオンをダッシュで往復する根性は恐れ入ってたぜぇーぃ」

チェスターとシャーク。
昔、彼らは何度も出会っていた。
チェスターは師ナタク=ロンの方針で毎日ルケシオンまで走っていた。
ゲートも使わず走って。
それでたまにルケシオンダンジョンのビーチに住むシャークとは出会っていた。
デムピアス案内人シャーク。
出会いの少ない彼にとってチェスター達は数少ない知り合いだった。

「見違えたぜぇーぃ?」
「だろぉー?やっぱスーパーヒーローっぽくなった?」
「YEAH!ヒーローボーイ!ジャスティスイリュージョンだぜぇーぃ!
 世界のラブ&ピースを守る立派なスーパーグレートヒーローに見えるぜぇーぃ!?」
「!?・・・やっぱ!?やっぱそうだよなっ!?」

チェスターは嬉しそうに腕を翳してポーズをとった。
頭の上でチェチェも同じポーズをとる。
シャークはこうみるとお建て上手な気がする。

「元気なもんね・・・」
「疲れているというのに・・・・お主を見てるとそれが馬鹿のように思えてくる・・・」
「それ褒め言葉?」
「「褒め言葉(よ)(だ)」」
「そっか!へへーん♪」

チェスターは嬉しそうに鼻をこする。
この猿頭は幸せなもんだ。
・・・・。
だがまぁ実際助けられた。
チェスターがこなかったらもう終わっていた。
本当に助かった。
実際ヒーローぶりの働きだ。

「そういえばヒーローボーイ。ロンは元気かぁーぃ?彼とはまた酒を飲みたいぜぇーぃ!」
「あ・・・・」

チェスターはそこで表情を変えた。
明らかに変わった。
そして拳を握りこんだ。

「・・・・・今日はそのために来たんジャン」
「・・・?」
「師匠の仇をとるために・・・」

どこでどう知ったのか。
だがチェスターはロンの死を知り、
そして・・・・・復讐にきたのだった。
思い出すとこみ上げる怒り。
悔しさ。
哀しみ。
握られた拳は緩められる事は無かった。

「馬鹿言わないでよチェスター!一人で出来るわけないでしょ?」
「とりあえず立て直そう。帰るぞ」
「やだ」

強情なチェスター。
そりゃもう一人で敵の本拠地を攻めようとここにきたのだ。
決心はあっただろう。
だがその考えのなさに、
マリナとイスカはため息をついた。

「とりあえず今回は無理矢理でも連れて帰るわ」

マリナの言葉に、
チェスターはムッとするだけだった。
子供だ。
だが、その決心は固いようだった。

「そんなに言わなくても分かってるよ。でもオイラは行く」

「・・・・・・?」

会話になってるようで、
突然の言葉だった。
分かってる?
何が?

「うるさい!!オイラは行く!オイラは死なない!」
「ちょ、ちょっとチェスター?」
「死なないって言ってるジャン!オイラはスーパーヒーローなんだ!」
「チェスターってば!」
「お主誰としゃべっている・・・」
「へ?」

チェスターは不思議そうな顔をした。
だが不思議なのはマリナ達の方だ。
チェスターはどう考えても独り言で、
だが誰かと会話していた。

「誰とって・・・声だよ」
「声?」
「誰の声だ・・・」
「えっと・・・・なんかさ。オイラの頭の中に流れてくるんだ」
「頭の中に?」

それはチェスターは幾度も聞いた声だった。
GUN’Sとの戦い・・・・・・・そのメッツとの戦いの時。
99番街で44部隊と戦った時。
そして日常。
その他何度も。
チェスターは何度も何度もその声をきいた。
頭の中に鳴り響く声。

「オイラにもよく分からないんだけどさっ」

チェスターがまた頭をポリポリとかいた。
頭の上でチェチェも同じ行動をする。

「フフ・・・・」

ふと笑い声。
だれかと思うと・・・・
それはシャークだった。

「ハハハ・・・まったく迷惑な奴だねぇーぃ・・・。
 やっぱ俺が狙われたり疑われる必要はなかったんじゃないかぁー」

シャークは呆れた表情で両手を広げた。

「・・・・・?」
「どうしたのシャーク?」
「いーや。ただどっかの皆の探し物が見つかったってだけだねぇーぃ」

シャークは呆れたように。
そして鋭い目線を向けた。
ふと笑う。
その目線の先。
チェスター。

・・・・・・・。

いや・・・

その頭の上の・・・・・・ワイキベベのチェチェ。



「そんなとこに居たかデムピアス」








昼の日差しは暖かく。
さっきまでの忙しさは嘘のようで、
鳥のさえずる声が聞こえる。
聞く余裕もできたひと時。
生暖かい風が吹く。

海の潮風がここまで届いてるような気さえした。

この様子じゃルケシオンも晴れだろう。









                 






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