「あんなー、あんなー。カモノハシっているだろー?そーそー、カシワモチの親戚のー。
 あいつカラオケ行くといっつもサビで混じってくるんだー。いいところなのにサビ泥棒め」

「・・・・・・・」

「ネコっているだろー?そーそー、招き猫のパクりの動物だー。
 あいつ強いよなー。目からビームでケツからマシンガンで死角無しだよなー」

「・・・・・・・・・」

「あんなーあんなー。ゴキブリってなー頭潰れても死なないだー。
 一週間以上生きるんだー。でもなー、結局餓死で死んじゃうんだー」

シャークの腕の中でパムパムが言う。
好き放題言う。
魔物の腕の中でパンダが淡々と言う。

「ヘイ、パンダベイビー・・・適当な事の中に本当の事を混ぜないでくれぇーぃ・・・」
「そうなってくるとあんたの言葉最高に混乱してくるのよ・・・」

シャークはパムパムを抱えて走り、
マリナはそれに併走するように走っていた。
そこは・・・・
ルアス城。
一階。
その高級感溢れる廊下。
ただの廊下にも小さめのシャンデリアが並び、
石作りの壁も地下と違い見栄えがいい。

「・・・・・?」

すれ違った騎士が走り去るシャークとマリナを見て疑問視していた。
だがそれだけだ。
走るシャークとマリナを見るが、
そのまま通り過ぎる。
何も不審に思っていない。

「どうやら別に脱獄はバレてないみたいだねぇーぃ」
「ピルゲンと44部隊にだけ知らされてるって事ね」

敵の本拠地ルアス城。
この中を走っていても、
襲われたりなどという事は無かった。
何人も、
何人も騎士とすれ違ったが、
攻撃してこない。
少し変な奴らだと思われるくらいだった。
それどころか、

「あ、パムパム様。今日も元気そうで!」

「おー!くるしゅうないー!表をあげて土下座しろー!」

シャークが抱えるパムパムに帝国の騎士達が挨拶してくる。
"パムパム様"なんて呼ばれてるのが物凄く違和感あったが、
44部隊であるなら彼らの目上だ。
当然だろう。
・・・・当然?
・・・・目上?
目上って言葉がこれほど似合わない存在もないが・・・

「っていうか本当にパムパムって名前なのね・・・適当に付けたのに・・・」
「44部隊もそう呼んでたしねぇーぃ」
「まぁこの子パムパム以外呼びようがないしね・・・・」
「自分で名前も言わないし、彼らも似たような名前の付け方したんだろぅねぇーぃ」

「あんなー、茶柱ってあるだろー?あれが立つとどこかの家が爆発するんだー」

それは大変だ。

「・・・・・・・で、シャーク。とりあえずどこ向かってる?」
「適当だねぇーぃ」
「・・・・・でしょうね」

とにかく走る。
敵の本拠地の中を走る。
まぁ安全な所に向かって。
イスカとはぐれた。
合流もせずに先に逃げるか?
いや・・・・
それは白状というものだろう。
連絡手段はないが、
唯一待ち合わせ場所があるとするならば・・・

「44部隊の部屋・・・」
「エースの部屋だねぇーぃ」 

イスカもそこを目指しているに違いない。
じゃぁまずそこを目指すしかない。

「あんなー、後頭部のちょっと右とちょっと左をなー、中指でグリグリするんだー
 するとなー、足の薬指がムズムズっってするんだぞー。凄いぞー。やってみろー」

パムパムが言う。
適当だ。
適当な事を言ってるに違いない。
だが・・・
ちょっと試したくなった。

「ってかこの子連れてくの?」
「連れてくさぁー」
「なんで?敵よ?」
「攻撃してこないのにかぁーぃ?」
「44部隊なのよ?それにさっき襲ってきたじゃない」
「でも今は攻撃してこないぜぇーぃ」
「まぁね・・・」
「つまり放したらまた攻撃してくるかもだぜぇーぃ」

そういうことか。
でもまぁ、
すれ違う騎士という騎士も、
パムパムがいると少し警戒も薄れているようだ。
お守りか何かだと思われている気がする。

「以前敵は44部隊ね・・・・」
「だねぇーぃ」
「1階まで・・・・追いかけてきてるわよね?」
「ベイビーはどう思うんだぁーぃ?」
「・・・・・」
「だよねぇーぃ・・・・」

44部隊。
今のところ・・・
丸腰で勝てる相手ではない。
次こそ・・・
やばい。
そして1階にきて安心していたが、
実際ここで襲われる事はもっとやばいかもしれない。
のんびり城の中を徘徊している騎士も、
マリナ達を敵とみなして攻撃してくる。
一城VSゴミ3人。
もとからテンパイされてる。

「とりあえず走る」
「目的地の場所も分からないまま・・・か」

マリナはため息をつく。
状況は何も良くなっていない。
そして今走っているのにも意味があるかないかも分からない。
もしかしたら真逆に走ってるかもしれないのだ。

「コーラはなんで黒いか知ってるかー?知ってるかー?あれはなー、日焼けしたんだー」

何一つ変わらない生物もいるが・・・。

「あーもー!まどろっこしい!」

マリナはそういうと、

「ねぇねぇ」

「はい?」

突然その辺の騎士を捕まえて話しかけた。

「44部隊・・・ァー・・・44部隊様の部屋ってどっちだっけ?
 城広くて迷子になっちゃったのよー。ついでに出口の方向もー」

「あぁ、それはここをこういってこういってこう・・・」

「うんうん」

「んでそっから外側の廊下沿いにいけば出口はつくだろ」

「あーそっかそっか!思い出したわ!ありがと!あなた出世するわよ!」

「・・・・?」

そうしてマリナはまた走り出した。

「勇気あるねぇーぃ・・・」
「勇気?なくたってあれぐらいできるわよ。勇気ないと道も尋ねれないんじゃ迷子だらけだわ」
「そうかもねぇーぃ。実際そうさぁー」
「?」
「自分の行く末さえ迷う名もなき迷い子はこの世の中にデンジャラスプラスワールドなんだぜぇーぃ?」
「よく分からないわ・・・」

「勇気はなー、鈍器の親戚でなー。勇気が100倍になると鈍器は500本になるんだ。
 でも騙されちゃいけないんだ。その中に本当のタカコは一人しかいないんだー」

そっちはそっちでよく分からない。

「タカコはモップで畑を耕すのが好きでなー、アーモンドを植えてるんだー。
 先の無いシャベルで穴を掘ってなー、口癖は「掘れん。掘れん」なんだー」

よく分からんが、
その光景はよく分かる。

「それでなー、・・・・おっ?」

走るシャークの腕の中で、
何かを感じた子シマウマのようにピタリと止まった。
なんだ?
・・・・と思わずとも、
シャークとマリナにもそれは聞こえた。
聞こえたソレ。

「・・・・・口笛?」
「まさか・・・・」

「火事だぁーーー!頭が火事だぁーー!!アフロ発生!理科室からアフロ発生!」

パムパムは突然凄い力でシャークの腕から飛び出した。
本当に凄い力だった。
シャークは捕まえようのない力。

「生徒の皆さんは支給油揚げをかぶって逃げてください!ブーーン!ブーーーン!!」

そしてパムパムは口笛のした方へ走っていった。
まるでネコが一瞬で逃げるかのような動きだった。
その力だけはネコのそれではなかったが。

「やばいんじゃないの・・・」
「だねぇーぃ」

マリナとシャークは一端走るのをやめる。
パムパムが走っていった先。
つまりそこには・・・・

「おぉ、こんなとこにいたかパムパム!」

想像以上に、
その声は近場で響いた。

「あんなー!あんなー!落ち着いて焦らず避難しないといけないんだ!」
「そうだ!分かってるじゃないかパムパム!」
「保険証とハンカチも確認してなー。戸締りを忘れちゃだめなんだー」
「そうだな!」

パムパムの頭の上にぽんっと置かれる手。
それは狼服の手で、
デミの上に跨った狼女の手だった。
そして彼女の顔は、
パムパムからこちらに向く。
ニヤりと笑う顔には八重歯が覗く。

「こんにチワワ。またまた会ったなヒポポタマス共」

それはキリンジだった。
やはり追ってきていた。
44部隊。
地下からこの1階まで追ってきていた。

「言っただろぉ?このチンパン共が。・・・・・・・シマウマはハイエナから逃げられないってな」

印象的な八重歯を見せながら、
狼服の女。
キリンジ=ノ=ヤジューは笑い続ける。
寄り添うパムパムの頭を撫でながら。

「くっ・・・」

シャークとマリナは振り向く。
進行方向に敵。
戦うなんて選択肢はない。
逃げる。
だが、

「おっとぉ。逃がすか名無しども」

背後。
後ろは後ろで声。
それはジャラジャラと武器の音を奏でながら歩いてくる戦士。
エース。

「げ・・・囲まれちゃってるじゃない・・・」
「マジ万事休すだねぇーぃ」

前。
前にはキリンジ(+パムパム)
後。
後にはエース。

「前も後ろも逃げ場なし・・・か・・・・」

「上もな」

「!?」

言われて天井を見上げる。
そこには忍。
忍者。
カゲロウマルが天井に逆さまにぶら下がっていた。

「逃げ場無し。天誅が下ったと思うのがいいでござる」

天井にぶら下がり、
腕を組んでいるカゲロウマル。
前。
後。
上。
この通路の3方が敵。
もちろん残り3方は地面と壁だ。
全方向塞がっている。

「檻に捕まったアニマルがっ!」
「観念するでござる・・・・という台詞は少し面白みがないでござるかな」
「いーや。その通りだ。こんな状況俺だって泣きてぇな。命なんて諦めちまえよ」

デミに乗ってゆっくり迫りくるキリンジ。
ジャラジャラと金属音を奏でながらニタニタと笑うエース。
何をするでもなく、
天井で不気味にぶら下がったままのカゲロウマル。

「どう・・・する?」
「やけくそって手もあるぜぇーぃ」

「そりゃぁいいな」

エースは上着を両手で広げ、
上着の内側に無数に飾られる武器の2つ。
ダガーとハンマーを手に取った。

「やけくそ。そりゃぁとっても死に様が想像しやすくていい」

「・・・・こっちが不利だからっていい気になっちゃって・・・」

「あぁ!?なんつったぁこのメスモンキー!調子こいてんじゃねぇぞウマシカ野郎!」
「そうだ。もしこの状況がタイマンで武器ありでも結果は変わらない」
「それが某ら44部隊の実力でござる」

背中を合わせるシャークとマリナ。

「シャーク」
「なんだいベイビー」
「いい案があるわ」
「おっとぉ・・・・そりゃぁ聞いてみたいねぇーぃ。
 とってもグレートイリュージョンなタクティクスをよろしくだぜぇーぃ」
「イスカが助けにくるってのはどう?」
「・・・・・・グレート」

二人は苦笑いをした。
そんなおいしい話はない。
そしてもし来たとて・・・・・・・・どうにもならない。

「何か隙さえあれば・・・・」

シャークはエースの方を見る。
背中合わせのマリナは、
キリンジの方を見る。
どれほど大きな隙ならばこれを打開できるのか。
だが相手は44部隊。
素人でさえ出さないような隙を出すわけがない。
・・・・・。
だが、

「・・・・・・・?」

マリナは何かに気付いた。
ソレは、
確実に様子がおかしかった。

「ちょっと・・・その子大丈夫なの?」

「ぁあ!?」

キリンジが八重歯を見せて「なんだよチンパンが」といった表情を見せた。
が、
キリンジもそれに気付いて表情を変える。

「お、おぃ!!」

キリンジはすぐさま肩を揺らした。
パムパムのだ。
パムパムは弱ったように地面に座り込んでいた。
よく分からない元気だけは確かだったパンダ娘。
異様な存在だったが、
それが通常よりおかしくなっているのは分かった。
震えている。
弱っている。

「おい!パムパム!この白黒アニマル!!おい!!」

キリンジが揺らす。
だがパムパムの顔は青白く、
そこには弱ったパンダ娘がいるだけだった。
それどころか・・・・

「・・・・・・うぅ・・・・・・・」

顔をあげ、
そして口を大きく開けて。

「あーーーー!!!あー!!あーーー!!!!ああああぁぁーーーー!!!」

パムパムは鳴き声をあげた。
泣き声をあげた。
うるさく、駄作さで、本気の泣き声。
全力で、心の底からで、腹の底からの泣き声。
城中に響き渡るような泣き声が突然響きだす。

「な、なんだこれ・・・バードノイズかぁーぃ!?」
「いや・・・わかんないけど・・・ただの泣き声よ・・」
「一体何が・・・・」

「あーーー!!うあーーー!!あーーーーーー!!!あぁぁあああああーー!!!」

赤ん坊が泣き叫ぶように、
座り込んだまま口を全開まで開いて泣き叫ぶパムパム
状況が分からない。
何が・・・・

「クソッ!!切れたか!」
「よりによってこんな時にっ・・・・」

44部隊の者達も動揺している。
切れた?
切れたというとブチ切れたとかそういう意味の切れた・・・か?

「おいチンパンエース!何してやがるっ!さっさとアレとってこい!!」
「どこにあんだよっ!」
「パムパムの部屋だ!あちきの部屋にもあるっ!少し考えろウスノロカバ野郎っ!」
「クッ!・・・だがやっと追い詰めたんだぞ!」
「早くしろ!アニマル差別かっ!?今の状況より大事なもんがあるだろ!
 アニマルの命より大事なもんはねぇんだよこのヒポポタマスがっ!!」
「チッ・・・」
「舌打ちしてる間に薬とってこいウマシカ野郎!アニマルの命かかってんだハゲタカっ!」

エースはすぐさま振り向いて走り出す。
何がどうなってるのか・・・・
薬?
病気か何かなのか?

「カゲロウマル!あちきはパムパムを医務室に連れてく!
 あそこにゃ錠剤タイプのはあったよなっ!おい早く返事しろブタ忍者!」
「・・・・・確かあったはずでござる」
「クソッ!しっかりしろパムパムっ!」

キリンジは卵からエルモアを出現させる。
パムパムをエルモアの後ろに乗っけて自分の飛び乗った。
エルモアの後ろでパムパムは絶叫しているだけ。
泣き叫んだままだった。

「安心しろパムパム!絶対あちきが助けてやるからなっ!」

そしてキリンジはすぐさまエルモアで走り去っていった。

「ちょっと・・・どうなってるのよ・・・」
「ベイビーっ!エースが部屋に向かったぜぇーぃ!追いかければ・・・・」
「あっ!!44部隊の部屋にっ!!」

マリナとシャークがすぐさまエースを追いかけようとする。
だが、

「天誅っ!」

カゲロウマルが天井から墜落するように落ちてきた。
マリナとシャークは咄嗟に避けるが、
カゲロウマルのその攻撃は行く手を遮るのが目的だったらしい。

「させん」

カゲロウマルは忍者らしいバク転で後ろに下がり、
壁を二回蹴ってまた天井にぶら下がった。

「くっ・・・」

そうしてる間にエースは見えなくなった。

「なんだなんだ!」
「凄い声がしたぞ!」
「こっちだっ!!」

そしてすれ違うように騎士が数名なだれ込んできた。
パムパムの声がやはり聞こえたのだろう。
最悪だ。
最悪の状況。
打開されたかと思ったが、
逆に最悪へと導かれた。

「なんでもない」

「あっ!カゲロウマル様!」

「パムパムがいつもの発作を起こしただけでござる。それだけでござる。下がれ」

「はっ!」
「はいっ!」

44部隊の命令。
それですぐさま騎士達は戻っていった。
一安心と言ったところか。

「ふぅ・・・・」

「ため息などよくもつけるものでござるな」

天井からカゲロウマルが言う。
相変わらず天井で腕を組み、
ぶら下がっているだけだ。

「先ほどは某(それがし)一人相手に逃げまわっていたではないか」

「うっさいわねっ!敵が1人か4人かじゃ意味が全然違うのよ」
「敵が0人ならなおいいけどねぇーぃ」
「そうね。あんたはあのオオカミ女や武器オタクみたいにパムパムの世話はいいの?」

「愚問だな。お主らを捨て置けないから某が残されたのでござる」

まぁそうだろう。
簡単に戦闘回避とはいかないようだ。
だが、
他の騎士を追い払った所を見ると、
一応ピルゲンの私情な陰謀であるためか無闇に表沙汰にしたくもないようだ。
ということは敵は44部隊のみ。
不幸中の幸いか。

「で、あのパムパムはどうなったのよ」

とりあえず会話で時間を稼ぐ事にした。
稼いだところでいい方向に転ぶとも思えないが、
このままで勝てないのも確実だからだ。

「某ら44部隊は自分の信じた道を逝く者。
 奴はその中でもいつも全力で生きている者。それだけだ」

だが簡潔に、
よく分からない答えだけが返ってきた。

「時間を稼ごうとしても無駄でござるよ」

カゲロウマルが天井から睨んでくる。

「こうなると某の責任は重大でござる。
 某は44部隊として生きているからには44部隊の仕事を全うする。
 ロウマ隊長の44部隊に傷を付けるわけにはいかないのでな」

「奇遇だな」

と後ろから声がした。
新手。
いや、

「拙者も同じでな。マリナ殿に傷をつけさせるわけにはいかんのだ」

イスカだった。
そこにはイスカが立っていた。

「あら、遅い合流だったわねイスカ」
「うむ。無念であった。しかしマリナ殿から離れたミス。
 ただで帳消しにしようとも拙者は思ってはおらんよ」

そう言うイスカの手には・・・・
ギター。
ギターが2本あった。

「あっ!」

マリナは両手を合わせ、
そして嬉しそうにイスカの方へ駆け寄る。

「私のギターじゃないの!」

イスカに手渡されるギター。
サンチョギター。
それは正真正銘マリナのギターだった。

「エースの部屋にいったのでござるか」

天井からカゲロウマルが言う。

「エースとは途中でもすれ違ったな。それどころではないといった表情だったが、
 とりあえず部屋は道を尋ねればすぐだった。そこらの騎士に聞いたよ」
「あら、そんな簡単に教えてもらえたの?」
「うむ。そこらの騎士を捕まえて道を尋ねたが、最初は不審がって口を開かなかった。
 が、首を絞めながら丁寧に聞いたらちゃんと教えてくれた。いい騎士もいたものだ」

それは脅迫・拷問という。

「まぁそいつは眠いのが泡を吹いて倒れたから放っておいて部屋に行き、そして今ここにいる」

なんとも手際のいいことで。
しかしまぁ、
逆にマリナ達とイスカが別行動になったのがよかったのか。
結果として今武器は手元に戻ってきた。

「ついでに少しだけ何かしらのアイテムも漁ってはみたが、
 さすがにゲートなどという脱出に使えるものは見つからなかった」

ゲート。
イスカはイスカで頭が回るようだ。
もう1階なのだ。
どうにかゲートを見つければ窓際からそのまま脱出も出来ない事ではない。
見つからなかったのでどうしようもないが・・・・

「それはそうと・・・・これはお主のだろう」

ガランガランと不細工な音を立て、
イスカは地面にギターを投げ捨てた。
粗末に投げ捨てられたそれは、
サメの形をしたギター。

「・・・・・俺のだねぇーぃ」
「ふん。放っておいてもよかったが、目に付いたのでな」
「なんで俺のギターって分かったんだぁーぃ?」
「馬鹿言え。そんな悪趣味なギターが似合うのはお主ぐらいだろう」

と言われてシャークは苦笑いしたが、
実際このサメ型のギターは、
シャークと同じ種族のモンスターが皆持っているものだ。
だから分かったのだろう。

「センキューだぜぇーぃサムライガール!」
「チッ、捨て置けばよかったか。拙者はやはり貴様が気に入らん。
 が、マリナ殿の命を助けるため足手まといになってもらっても困るのでな」

そしてイスカはイスカで・・・・

「やはりこれがあると落ち着く」

手に持つ物。
布に包まれた物。
それをひっぺがすと、
中から美しい長剣。
名刀セイキマツが出てきた。

「カージナル殿。ひと時の無礼を謝罪する。剣を扱う者の恥であった」

イスカは鞘を腰にくくりつける。

「さぁ。死にたいならかかって来い忍」

カゲロウマルは天井で腕を組んだまま、
小さく笑った。

「武器を持っただけで上から目線の言葉でござるか」

「天井に張り付くコウモリ男に言われたくないな」

「フッ・・・・・・」

天井で怪しく笑うカゲロウマル。
腕を組んだまま微動だにしない。
・・・・・。
と思うと。

「天誅!」

消えた。
消えたと同時。
鳴り響く金属音。
一瞬で天井から地面に飛びつき、
逆手に持った小さなダガーがイスカを襲っていた。

「剣があればどうとでもなるんだよ」

イスカは防いでいる。
刹那の攻撃だったが、
イスカは鞘でダガーを防いでいた。

「・・・・・・なるほどな」

カゲロウマルはダガーをひくと同時にまた跳び、
壁を二度蹴って天井に登っていった。

「一筋縄ではいかんか。しかしそれも同じ事でござる」

また天井でカゲロウマルは言う。

「剣は剣。剣でしかない。一切ここには届かぬ。
 地理の差だ。"全てが地面である某"と、地に這い蹲る剣士。
 戦闘の結果は目に見えているのでござるよ」

「ふん・・・・」

天井に居る忍。
地は這う剣士。
その距離。
近くも遠い。
だがイスカは右手を左腰の鞘に添え・・・・

「ちょっとどいたどいた!」
「のぁっ!」

マリナがイスカをどかした。
突き飛ばした。

「なぁーにマリナさんをほっといて戦闘始めてんのよ!」

マリナはギターの先を右手で握り、
トントンとギターで自分の肩を叩いている。

「あったまきちゃうわ。あぁーったまきちゃうわね。
 もうなんていうのかしら。置いてけぼり?そういうの嫌なわけよねー。
 こちとらむかついてんのよ。マリナさんプッチンってやつ?」

相変わらずギターで自分の肩を叩きながら言い続ける。

「こう、何?1年もこんなところで生活して?そんで逃げて逃げて?
 体なまってるしなまってるしなまってんのよ!・・・・・・って事で」

ギターをぐるんと回し、
そしてギターがマリナの脇下に納まった。
両手で添える。

「あんた八つ当たりの相手として料理させちゃいなさい」

そしてギターの先端。
それが輝く。
光る。
と思うと。

「!?」

無数の破裂音。
放たれる弾丸。
ギターという名のマシンガン。
連射。
乱射。
ギターの先端から撃ち放たれるマシンガン。

「くっ!!」

天井に居ようが関係ない。
無情の弾丸は放たれ、
乱射される。

「奇怪な技でござる」

カゲロウマルは天井を走る。
いや、
天井。
壁。
瞬足で壁や天井を駆け回り、
マシンガンの弾を避ける。

「でりゃでりゃでりゃ!!!」

「当たらぬ」

マリナがカゲロウマルを狙ってマシンガンを放ちまくる。
が、
カゲロウマルは壁という壁を走り回り、
照準を絞らせない。
四方八方に打ち込まれる弾丸。
それを掻い潜る忍者。

「ちょこまかしてんじゃないわよ!!!」

マリナがマシンガンを止めることなく撃ち放つ。
反動でブロンドの髪がなびき、
羽のように広がる。
秒間何発も放たれるマシンガンの弾が、
ギターの先端から飛び交い、
その中で踊るように忍者カゲロウマルは壁と天井を走り回って避ける。

「いつまでも避けれるものでもないか」

カゲロウマルは裂け回っていたが、
体を翻し、
壁や天井を飛び移りながら向こうへと走って言った。

「逃げる気?!まだ料理は終わってないわよ!」

だが、
あっという間にカゲロウマルは廊下を曲がっていった。
マリナは切れたように追いかける。

「忍々野郎待ちなさい!」
「マリナ殿っ!逃げる相手を追いかける必要は・・・・」
「やだっ!腹の虫が収まってないのっ!グッチャグチャのメンチカツにしてやるっ!」

イスカの静止に見向きもせず、
マリナは追いかける。
そして曲がり角を曲がるが・・・・

「逃げ足の速いハエだこと・・・」

天井も壁もチェックするが、
もうそこにはカゲロウマルはいなかった。
あの素早さだ。
もうどこかへ行ってしまったのだろう。

「ふぅ・・・まったく」

マリナはギターを右脇に挟み、
左手を腰に当てて息をついた。

「ま。こっちが逃げてばっかだから少しせいせいしたわね」

「天誅!」

「きゃっ!」

マリナが突然吹っ飛ぶ。

「マリナ殿!」

曲がり角の向こうから吹っ飛ぶマリナが見え、
イスカは慌てて駆け寄る。
シャークも驚いた表情をしていたが、
駆け寄るよりも自分のギターを何かしらいじっていた。

「大丈夫かマリナ殿!」
「たたっ・・・」

すっ飛んだマリナは立ち上がる。
肩に切り傷。
ダガーで切りつけられ、蹴り飛ばされたようだ。

「倒し損ねたが・・・・・・一対一殺。忍の基本でござるよ」

イスカとマリナの視線の先には、
居なかったはずのカゲロウマルが立っていた。

「忍法隠れ身の術でござる」

言うなり、
カゲロウマルの姿はフッ・・・と消えた。

「インビジかっ!」

イスカは周りの気配を敏感に感じ取り、
そして鞘に手を添えた。
両目だけ動かす。

「・・・・・・来るなら来い」

「一対一殺」

どこからか声。
天井?
いや、
走り回っている。
壁や天井を。

「・・・・・確実に一人づつ仕留めようとしてるみたいね」

マリナももう一度ギターを構える。
だが、
確かにある気配の中で、
カゲロウマルの居場所は分からない。
走り回り、
消えている。
上、下、左右。
まるでどこにでもいるようでどこにもいない。

「某は影。影に生きる者」

忍。
影。
その通りだった。
壁や天井。
地面。
その至る所に張り付く存在。
まさに影だった。

「天誅!!」

声と同時に金属音。
イスカはなんとかその攻撃を鞘で防いだ。

「やはりお主の方に攻撃は当てづらいようだな」

攻撃をすることでインビジは消えていたが、
カゲロウマルは逆手に持ったダガーをひくと同時に、
少しの間もなくまた壁を蹴り、
天井に逃げる。
ヒット&アウェイが徹底している。
攻撃し、
外れたら瞬時に引く。
天井に逃げるカゲロウマル。

「ちょっこまかぁ!!」

マリナはマシンガンを、
ギターという銃火器を天井に向けて構える。

「さっさと穴あきチーズになりなさい!」

天井のカゲロウマルにマシンガンを放とうとする。
が、
カゲロウマルは両手の人差し指を立てて掴むポーズをとると、
天井でまた姿が消える。
天井に残ったのは外れたマシンガンの跡だけだった。

「影を捉える事などできん」

そう。
さながら影。
実態があるようで・・・ない。
確かにそこにあるのだが、掴むこともできない。
それが影。
そして執拗に攻撃してくるでなく、
干渉してくるでなく、
それでも影のようにそこで見ている。
逆に言えば・・・・
引き離せない存在。

「できるできないはやらなきゃ分からないでしょ!?」

マリナはギターを構える。

「どこを狙う気だマリナ殿!?」
「どこ?どこなんてどこでもないわよ!適当よ適当!」

そしてマリナはギターを撃ち放つ。
連射。
発射。

「数撃ちゃ当たるってのが私流調理法なのよ!!!」

適当に撃ち放つマシンガン。
乱射。
乱射事件だ。
はたから見たら狂ったように周りを撃ちまくってるイカれ女にしか見えないだろう。

「うりゃうりゃうりゃうりゃ!!穴あきチーズになっちゃいなさい!!」

・・・・・・・。
間違ってはいないが。

「どこよ!!マリナさんから逃げられると思ってるの?!」

撃ちまくるマリナ。
凝縮されたマジックボールの弾丸が、
当たりかまわず撃たれる。
もう壁の模様のようになってる。
そこら中穴だらけだ。
なんでもかんでも穴だらけにしてしまう。
蜂の巣にしてしまう。
女王蜂。
『Queen B(クイーンビー)』

「マリナ殿!」

イスカがそれを無理矢理止める。
背負い締めにする形で。

「何よ!気持ちいいところなのにっ!」

いや、
ストレス解消で銃を乱射して欲しくない。

「カゲロウマルの気配が消えた。さすがにこの乱射だ。
 ここにいたら危ないと思ったのであろう」
「えーー?!またぁ?!」
「追うか?」
「愚問よ!」

ベコンっとイスカの頭を叩く。

「どーせまたこそこそ攻撃してくるのよっ!倒さなきゃ逃げられないわ!」

それはそうだ。
相手は影。
カゲロウマル。
今姿は消しているが、
すぐ側にいるのは間違いない。
一対一殺。
隙あらば攻撃してくる。

「でりゃーーー!!」
「ちょ、マリナ殿!」

勢いよく走っていくマリナ。
まずそっちに走って意味があるのか?
カゲロウマルがどこにいるのかも分からないのに。
そしてマリナが適当に廊下を曲がると、

「きゃっ!!」

また切り傷と共に吹っ飛んだ。
学習能力のない女王様だ。

「マリナ殿!」

イスカがマリナに駆け寄り、
そして周りを睨みつける。
インビジの切れたカゲロウマルの姿を確認したが、
壁を蹴り、
天井に逃げると同時にまた姿が消えた。

「今更だが・・・やっかいなのはやはり壁走りだな」
「てて・・・本当に今更ね・・・」
「うむ。そして今更だが・・・・・・奴はどうやって壁を走っているのだ?」
「へ?」

確かに・・・・
それは今更すぎて今更過ぎた。
あれは壁を走る敵。
それだけ思っていたが、
確かにそんな認識は甘い。
数秒ならともかく、
壁を走り続けれる人間などいない。
それも天井や壁を走り回っているのだから。

「どうやって走ってるかよりどうやって倒すかじゃないの?」

マリナらしい前向きな考えだ。
原理の解明。
そんなものは別にどうでもいい。
倒せればいいのだから。

「だがそれを見つける事が奴を倒す手立てとなるかもしれん」

「影は滅したりしない。諦めるでござる」

どこからか聞こえるカゲロウマルの声が、
あざ笑うかのようにも聞こえた。

「それよりもお主。まだ剣を一度も抜いていないな。
 それで某を倒せると思っているのでござるか?」

イスカの剣。
確かにそれはまだ鞘から出されてはいない。

「お主を倒すのは抜いたそのひと時で十分だからな」

「つまりまだ攻撃する好機さえないという事でござろう」

そういうことだ。
イスカの基本。
それは"見切り"と"居合い切り"。
当たると思えば放つ剣。
だが、
まだ剣を抜くヒマさえない。

「逃げずに拙者にかかってこい」

「挑発にはのらんでござる。一対一殺。確実に殺す。
 まずは攻撃の当たりやすいそちらのギター女からだ」

イスカは顔をしかめる。
どこからくるか分からない攻撃。
自分でも鞘で防ぐのがやっとなのに、
マリナまで守りぬけれない。
いや、
守りぬかなくてはならない。
マリナは二度攻撃を受けている。
両方とも深い傷ではないが、
一度目より二度目の傷の方が深い。
恐らく・・・・
次の攻撃は確実に急所をとらえてくる。

「・・・・・・・ならこれでどうだ」

そう言い、
イスカは・・・・・剣を捨てた。

「!?・・・何やってるのイスカ?!」
「これなら拙者も防ぐ術はない。拙者を狙ってこい」
「馬鹿なことやってないで剣を拾ってよ!」
「これ以上マリナ殿を怪我させるわけにはいかんのでな」

そう言い、イスカはマリナに強気の笑顔を見せた。

「少し下がっていてくれマリナ殿」
「あら、私がそんな事きくと思ってるの?」
「下がっててくれマリナ殿」

真剣なイスカの目。

「・・・・・・・はぁ。しょうがないわね」

マリナはため息をついて下がった。
いや、
もう露骨に離れた。

「夕飯の時間までに倒さないとご飯抜きだからね」
「それは困る」

イスカはふと笑う。
と同時に。

「天誅!!」

「ぐっ!」

イスカの肩口に切れ目。
咄嗟に避けたが、
避け切れなかった。
どこからくるか分からない攻撃。
いつくるかも分からない攻撃。
それを突然に受ける。

「浅いか」

カゲロウマルは逆手にダガーを構えたまま、
イスカを通り過ぎながら切った。
そしてまた壁を蹴って天井に逃げ、
インビジブルで姿を消す。

「策があっての行動ではないようだな」

どこからか聞こえるカゲロウマルの声はそう言った。
そう。
策などない。
不利な状況に陥っただけ。

「策がないわけがないだろう。こちらは1年ぶりのマリナ殿の手料理がかかってるんだからな」

ただの言葉。
イスカは必死に考えていた。
この状況を打開する策を。

カゲロウマルの攻撃に合わせて剣を拾い、
瞬時に斬るか?
いや、
できない。
避けるので精一杯なのにそんなヒマはない。
仮にそうしたところで、
致命傷を負わせられなかったら今度はマリナに攻撃がいく。

「どうしたものか・・・・」

天井。
壁。
そこら中を走る音が聞こえる。
どうやって走っている。
やはりそこだ。
それを見極めないと・・・・・

「天誅!」

「くっ!!」

背中に切り傷。
背後。
斜め上から流れ星のように攻撃してくるカゲロウマル。
逆手に握ったダガーで、
カミソリのような落ち葉が飛んでくるが如く。
さっと通り過ぎに切り、
過ぎ去ってはまた消える。

「どうする浪人。侍。影の中からの攻撃を。なす術もなく死ぬでござるか?
 それならそれでいい。どうすることもできない身近な存在。それが影」

影。
どうする。
天井壁地面を縦横無尽に走り回る影を。

「どうやって・・・どうやってへばりついて・・・・・っ?!」

そこでイスカの頭にある推測が浮かんだ。
へばりつく。
そうか。

「天誅!!」

カゲロウマルの攻撃。
それは斜め上。
真横の斜め上からで、
今度の攻撃はイスカの横腹をかき切った。
何かが割れる音と共に。

「ぐっ・・・・」

今までの攻撃とは違い、
イスカの横腹から派手に血が飛び散る。

「そろそろ御役御免でござるな」

カゲロウマルは通り過ぎに切り捨て、
そしてまた壁を・・・・

「!?」

壁を蹴ったまではよかったが。
が、
そのまま走る事はしなかった。
走ることをしない?
いや、
走れなかった。
壁を。
天井を。

「やはりか」

イスカはニヤりと笑い、
剣を拾う。
横腹から血が静かに流れ落ちる。

「・・・・・・何をした」

カゲロウマルは地面に着地し、
ダガーを逆手に構えたままイスカを睨んだ。

「ここで割れているものが何か分かるか?」

イスカはソレを踏む。
イスカの足元で割れているもの。
それを踏みつける。
それは瓶。
瓶の破片だった。
そして・・・液体が零れている。

「停止解除ポーション。エースの部屋で偶然見つけてな。
 あのスミレコとかいうストーカー女用に持ってきていたのだが・・・正解だった」

イスカは鞘をもた腰にくくりつける。

「お主の壁走りの正体は"スパイダーウェブ"だろう。
 自分に蜘蛛をかけ、足の裏を壁や天井に張り付ける」

スパイダーウェブ。
カゲロウマルの壁走りの正体。
自分に蜘蛛をかけるなど聞いた事もないが、
カゲロウマルは逆にそれを利用していた。
足の裏に蜘蛛をはり、
その固定能力で天井や壁を走る。
ウェブとカットをうまく使えてこそできる芸当。

「蜘蛛の能力を逆手にとったか。なかなか面白い芸当だった。
 参考にしようと思ってできる技ではないだろうな」

「・・・・・・見切った奴は初めてでござるよ」

「それは光栄だ。ついでに言っておくと、
 さっきお主の攻撃の時に足にポーションをぶっかけてやった。
 その停止解除ポーションまみれの足では当分壁走りはできんだろう」

「ふん・・・・」

カゲロウマルは小さく笑う。

「見切って封じる手を打ったところまでは褒める。
 が、影は捕らえられないだけでなく・・・・不滅なのでござるよ」

そう言うと、
カゲロウマルはまた壁を蹴った。
そして天井に・・・・・張り付く。
足は停止解除ポーションで濡れているのに?
いや、
足ではなく・・・・手で天井にぶら下がった。

「種が分かれば不思議なものでもない。
 蜘蛛をかけるのが某の技。それは手でも同じ事はできるということだ」

「ふん。だが足とは違い動き回れはしないだろう。ウンテイの達人というなら別だがな」

「関係ない。お主には天は届かない。それだけで十分だ」

「どうかな」

イスカは振り向く。
そしてマリナを見て手招きした。

「え?何?やっぱ私必要なの?」
「もうマリナ殿を狙われる事がなくなったからな。それより頼みたい事があるのだ」
「はいはい。酒場Queen Bは割引以外ならサービス承るわよ」

マリナがイスカに近づくと、
イスカは小声でマリナに言う。

「え?大丈夫なのそれ」
「頼むからには大丈夫だ」
「それもそうね。っていうか面白そうだから大丈夫じゃなくてもやるけどね」
「・・・・・心配はしてもらいたい」
「やーねー。男なら当たって砕けろよ」
「拙者は男ではない。男などとうに捨てた」
「女でしょ・・・・」

「何を話している」

天井から言うカゲロウマル。

「あらやーねー。女のひそひそ話が気になるの?
 さすが忍者ね。立ち聞き大好きってー?壁に耳ありってやつかしら」

「ふざけているなよ」

「さすがに相手の行動も気になってくるか」
「少しは追い込まれてるって感じね」

「戯言でござるな」

「だがお主はもう死ぬ」

イスカが前に出る。
その後ろにマリナ。

「・・・何をする気だ」

「天に届かないと言ったな」

イスカがふと笑い、
そして小さく跳んだ。
足を折りたたみ、
その場で。
何を・・・と思うと・・・・・・・

「おっりゃぁあああ!!マリナさんホーームラン!!!」

背後のマリナが思いっきりギターを振りかぶり、
振り切った。
おもくそに。
イスカに向かって。
ギターが重々しく振り切られると、
それはイスカの折りたたまれた足の裏にぶつかり、
イスカはその勢いで・・・・・・飛んだ。

「なっ!?」

天井のカゲロウマル。
そこに吹っ飛ぶイスカ。

「それは間違いだ」

空中を、
空を切るように飛ぶイスカ。
空中で鞘に手を添える。
そして・・・・
剣を抜く。

「拙者はイスカ。空翔る渡り鳥だ」

そして・・・・
剣を抜かれたのと同時だった。
瞬速の剣は振り切られ、
見事に、
華麗に、
そして一瞬に。
名刀セイキマツはカゲロウマルの胸を大きく切り裂いた。
血しぶきが舞う。

「拙者は大空を知っている」

そしてイスカが着地する。
血しぶきが舞う。
天井で切られたカゲロウマルの血しぶき。
それは天から降りしきる、
赤い花吹雪のように華麗に飛び散った。

「く・・・そ・・・・・・・」

カゲロウマルは落下し、
確実なる致命傷となる胸の傷。
地面で片膝をつき、
流血をやめることはなかった。

「勝負ありだ忍の者」

イスカがカゲロウマルに剣を突きつける。

「・・・・・勝負あり?・・・愚問でござるな」

大量の流血。
致死量。
だが、
カゲロウマルの目に諦めの文字はなかった。

「影として生きたこの命・・・・ここで果てるわけにはいかない・・・・・」

ふと笑うと、
カゲロウマルの姿が消えた。

「くっ!往生際の悪い奴め!」

だがカゲロウマルの姿は確認できない。
移動したか。
分からない。
気配はある。
だが奴の能力。
あんな状態でもやろうと思えばどこへでもいける。

「ちぃ・・・」

見つける事より先。
イスカはマリナに駆け寄った。
そして剣を構える。
マリナを守ることが先。
どこから攻撃してくるか分からない敵。

「大丈夫よイスカ。さすがに私にも分かるわ。
 見えないけど血の音が聞こえる。離れていってるわ」
「逃がすわけにはっ!!」

だが、
離れるわけにもいかない。
そしてどこへ向かっているかも分からない。
追いかけようもない・・・・。

「くそぉ!マリナさんなめるんじゃないわよ!!!」

マリナがマシンガンを乱射する。
所かまわず。
そこら中を穴だらけにするのが目的のように、
アリの子一匹逃がさない勢いで撃った。

「・・・・・・はぁ・・・はぁ・・・・・当たるか・・・・・影は潰えない・・・・」

まだ声の聞こえる範囲にいる。
逃げるつもりはないのか?
まだ襲ってくるのか?
なんという執念だろうか。
いや、
だがやはり状況を考えると一端逃げられる。
安全な場所までいって仲間を呼ばれる。
それが一番可能性が高い。

「あーもー!どうするの!!」
「・・・・・・」

打つ手・・・無しなのか。
ここまで追い込めたのに・・・
やはり追い込まれているのは・・・・

「ここは逃げよう」
「へ!?」
「あれならすぐには追ってこれない。逆にいえば逃げるチャンスだ」
「・・・・・・・腑に落ちないけど・・・」

腑に落ちないけどしょうがない。
マリナの表情もそう言っていた。
脱出。
それが最優先事項なのだ。
はがゆい。
だが・・・
どうしようもない。
逃げる。
逃げるのが目的なのだから・・・・。

「その必要はないさぁー」

すると、
突然後ろから声がした。

「シャーク!!」
「・・・・・お主今まで何をしていた」

今更後ろから現れたシャーク。
そう聞かれると、
シャークは細長い両手を広げた。

「チューニングだぜぇーぃ」
「チューニング?」
「チューニングってなんだ。接吻していますという意味か?」
「・・・・」
「馬鹿ねあんた・・・」

イスカは頭に「?」を浮かべていたが、
シャークは話を続ける。

「グッチャグチャにされてて好きに音が出せる状況じゃなかったからねぇーぃ。
 ずっとギターをいじってたんだぜぇーぃ。久しぶりに再会したLOVEギターだからねぇーぃ」

そしてシャークは自分のギターを見る。
サメ型のギター。

「でももう音は最高。最強のグルーヴィングが灼熱ホットなミュージックマシーン!」

そしてシャークはギターを構えた。

「耳を閉じてなベイビー&サムライレディー。・・・・ァーンド、レディサジェノメン♪」
「・・・・・なるほどね」
「バードノイズか」

シャークは「YEAH!」と言って細長い人差し指を立てた。

「音は!バイブは!ミュージックは!壁もなく!国境もなく!人種もなく!
 必要なのは耳と熱いハートだけさぁー!それはどこまでも聞こえるシンフォニー!」
「確かにバードノイズなら相手がどこにいようとも関係ないな」
「それだけじゃないのよイスカ」

そう言い、
マリナは嬉しそうにシャークを見る。

「シャークはマイソシア一のバードノイズ使い。・・・うーうん。世界一のミュージシャンなんだから!」

シャークは嬉しそうに笑顔で応え、
そしてサメ型のギターに指を這わせた。

「じゃぁエレンクトリック&ダンサブルな稲妻ローリングなミュージックアワーの始まりだぜぇーぃ!
 空気を超えて貴方の鼓動にBINBINすっとばしていくぜぇーぃ!
 火傷すんなレディサジェノメン!燃えつき尽きちまいなレディサジェノメン!
 ハートのロック(鍵)を開けるからロックンロールなんだぜぇーーぃ!
 さぁ!YEAH!痺れて悶えて熱くなって悶絶してイカれちまいなぁーー!!」

そして即興のライブハウスのように、
周りに電撃のような音が響き渡った。












------------------------------













よくやった。
それだけだった。
自分に返ってくる言葉はそれだけだった。

「次の任務だカゲロウマル」

それだけ。
それの繰り返し。
暗殺。
暗殺。
影の任務。
それだけを繰り返してきた。

それは当然で、
それが自分の仕事だった。
それが自分の適任で、
自分にはその素質があり、
人よりそれに優れていた。

「影・・・か」

そうだった。
影。
忍。
人知れぬところで動く者。
逆に言えば・・・・・・

自分は居ない存在なのだ。

「誰にも知られず生き、朽ちる・・・か」

影。
日の当たらない所での人殺し。
それを続ける。
自分にしか出来ない事でもあり、
そして、
それをすることでの影響は大きい。
自分の影としての働きは雇い主に大きな財産を与えた。

やっているのは殺しだが、
クズを殺し、結果的に世間的によい結果になったこともある。
その逆もある。
ともかく、
自分の出来ることをし、
自分しか出来ない事をし、
そして社会に組み込まれていた。

だが、
それが、
自分が、
世間に知られる事は一生無い。



「・・・・・・くっ・・・・」

その日も任務で、
その日が最後の任務だった。
標的。
暗殺の標的。
そこまでいったがいいが・・・
それは強大なものだった。

「どうした。かかってこないのか?」

目の前の存在は言った。
2mを超える巨体。
いや、
関係ない。
このロウマ=ハートという男。
そもそも次元が違う。
強い。
強すぎる。
暗殺とかそういうレベルではなく、
・・・・殺せない。

「・・・・いや、いい」

カゲロウマルはダガーを捨てた。

「調度いい機会だ。某はここで消える」

「死ぬという事か。つまらん考えだ」

嫌気が差していた。
この人生に。
自分はこれほどの実力を持っているのに、
何一つ評価されることはない。
いや、
評価されてはいけない才能なのだ
ずっと裏で生きていく。
それはもう・・・・嫌だ。

「某は影だ。影の中でしか生きれない。
 なのに影が嫌になった。暗さを嫌う影は必要ない」

「そうか」

目の前の存在。
最強。
これに倒されるなら、
まだいい人生だったかもしれない。

「惜しいな」

「・・・・・・?」

「その考え。喰うには至らない弱さだ。だがお前には力がある」

弱いといわれているのか?
いや、
そんな事はどうでもいい。

「影の者よ。お前は日を知らないだけだ」

「某は影に生きているからな。闇に生きるだけ。
 それしかできない影だからだ。暗闇でしか生きられない」

「日があるから影ができる」

そして目の前の存在は右手を前に出し、広げた。

「このロウマが使ってやる。影が輝ける場所もあるはずだ」

・・・・・・なんて言った?

「お前は日の光を知らなかっただけだ。だが自分を知っている。
 自分を受け入れている。ただ場所がなかっただけだ。それで朽ちるには惜しい。
 ・・・・・・強くなる意思はあるか?それでも影である自分を信じる心はあるか?」

この自分を・・・
誘ってくれているのか?
ただの影。
いや、
認めてくれているのか?
影としていき、
認められる事なき人生。
認められてはいけない才能。
なのに・・・
俺は認められてもいいのか?
否。
そんな事も関係なく、
この人は認めてくれている。

「・・・・・・・あんたは太陽だ」

「・・・・ん?」

「日の光が強ければ強いほど・・・影は強く、鮮やかに大きくなれる」

そしてカゲロウマルはロウマの手に、
握り拳を置いた。

「あんたという大きな太陽の下で、某は最強の影になる」

逸れた存在。
そんな事を疎外せず、
自分を信じ、個々を認めてくれる場所。
やっと光を得た。
影が光を求めるのがおかしいか?
馬鹿な。
やっと気付いた。
分かっていたことだが気付いた。
光があるから影があるんだ。
影が光を求めるのは当然だった。

そして・・・
ここがその光だ。

ロウマ=ハート。
44部隊。
自分は一生・・・生涯をここで費やす。
このロウマ=ハートという男の影としていきる。
この大きな存在の影として・・・・

「後悔するなよ"ロウマ隊長"。影は一生引き剥がせないないんだからな」

引き剥がせない?
引き剥がされてたまるか。
絶対に・・・
この男の影として・・・
絶対に・・・・・・








------------------------















「・・・・・・・・・」

目の前にはカゲロウマルの死骸があった。
死に直面し、
インビジが切れると共に、
大量の血液がそこに溢れていた。

「開けてビックリってやつね・・・」
「敵ながら天晴な奴だ・・・」

目の前にはカゲロウマルの死骸があった。
そう。
目の前にあったのだ。
逃げるでなく、
インビジで姿を消しても逃げるでなく。
大量の血痕は・・・・

自分達の方に続いていた。

逃げたのかと思っていたが、
あんな状態になってまで攻撃しにきていたのだ。

逃げる事ができたのに・・・
向かってきたらどちらにしろ致命傷で死ぬ事になるのに・・・・
この男は向かってきた。

そして目の前で死んだ。

「あー・・・・」

マリナは頭をポリポリとかく。

「に、逃げなきゃね」

かける言葉はなかった。
倒そうと思っていた相手が死んだ。
そして自分達は逃げる。
それだけだからだ。

3人は振り向き、
脱出を続ける。
だが、
振り返ってみると、
カゲロウマルの死体。

それは影であるのに、
強い意志で輝いているようにも見えた。















                 






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