「もぉおおお!!」
「走れ!走れ!!!」

マリナとイスカとシャーク。
全力。
本気で走る。
一生でここまで全力で走った事があっただろうかと思えるほど。
それもそのはず。
後ろを振り向くと、

「オーブントースターの波に乗ってぇ!線路は続くよあそこまで!」

どこだよ。

「さらにはあそこまで!」

だからどこだよ。
超絶ダッシュで、
訳の分からないことを言いながらノカンクラブを持ったパンダ娘が追いかけてくる。
暴走パンダの速さ。
人間の限界のような勢い。

「追い・・・追いつかれるわっ!!」
「どうするベイビー!!」
「逃げるしかなかろぅ!!」

「オラは行くぅうう!諦めないっ!地平線の彼方に脱衣所がある限りぃ!
 行けぇ!男達よぉ!ハーレムの夢は幻想の彼方!夢ばっかり見てるんじゃないっ!」

だが迫りくる恐怖。
パンダという猛獣に追いかけられる。
追いつかれる。
距離が迫る。
捕まる。
殺される!

「!?」
「またT字路よ!」
「どっちだ!」
「右だっ!」

3人は一斉に曲がる。
転びそうになりながら曲がり、
逃げ続ける。

「危なぁぁぁああああい!!そこはペンキ塗りたてだぁああああ〜!!」

と同時。
曲がり角で轟音。
豪快な音。
「パピヨン!」という叫び声と同時に、
またパムパムが壁に激突した。

「あ・・・」
「ありゃ・・・」

3人は止まって振り向く。

「またぶつかったわよ・・・」
「パンダは急には止まれないってねぇーぃ・・・」

砂煙と砂埃。
壁には穴が空き、
一時の静寂を包む。
マリナ達はドキドキしながらそれを見守っていたが・・・・

「ベリーナイスッ!!」

と叫びながら壁からパンダが飛び出した。

「うわっ!」
「だめだ!」
「逃走再開か・・・・」

3人は一斉にまた地下通路を走り出す。
あのパンダ娘は、
このギルドダンジョンのどのトラップよりも危険だ。
追いつかれては命もない。

「カズキの散乱シーンは部屋を明るくして離れて見てね!」

壁から飛び出したパムパムは、
キョロキョロと周りを見渡す。
そして一目散に逃げるマリナ達を見つけた。

「だめだなー。幽体離脱はあくまで仕事だって言っただろー。でもこっちもプロだからなー」

また走り出した。
加速。
暴走パンダ加速。
両手を羽のように広げ、
足を高速で動かして追いかけてくる。

「きたっ!またきたわっ!」
「間違いなく拙者らを狙っているな・・・」

分かっていたが、
逃げるしかない事を再認識した。
地下通路。
暗い道を必死に必死に全力で逃げる。
背後にはもちろん。

「またチャンコ鍋を風呂代わりに使ったなぁぁ!このバチ当たりがああああ!!
 糸こんにゃくに断ってから100まで数えてシナチクを裏返せって言っただろぉお!」

パンダがノカンクラブを持って追いかけてくる。
当然衰えはなく、
超絶ダッシュで追いかけてくる。

「そんなだからリンスとトリートメントの違いが曖昧なんだぞぉ!!
 ボディーソープをソロバンにかけて使うのは邪道なんだぁぁあ!!」

ノカンクラブを持ち、
両手を広げて追いかけてくるパンダ。
明らかに効率のいい走り方ではなかったが、
それ云々は無視して恐るべき脚力だ。

「だからオラは新しく逆立ち半身浴ってのを考えたんだぁ!」

それは新しいですね。
溺死者満載でもうのぼせる心配もありません。

「でなーー、シャワーの穴を一個にし・・・お?」

突如、
超絶ダッシュするパムパムの体が浮いた。
つまづいたのだ。
超絶なる勢いからミサイルのように吹っ飛び、

「おっ・・・・?おっ?おっ?おっ?おっ?おっ?」

なんだろう。
あの凄い進化は。
曲芸とかの域を超越している。
超絶ダッシュから転び、
そのまま地面を転がり始めた。

「おっ?おっ?おっ?おっ?おっ?」

鉄球が転がるようにパンダが転がる。
ローリングパンダ。

「ちょ、転んだわよ!」
「どうなってるんだあれは・・・・」
「は、速いぜぇーぃ・・・・」

そう、
速いのだ。
パムパムはゴロゴロと転がりながらも、
勢いは超速のままだった。
まるで何かの兵器のように地下通路をゴロゴロと回転して追いかけてくる。

「に、逃げっ!」
「ベイビー!俺達はボーリングのピンじゃないんだぜぇーぃ!」

いい表現だ。
追いつかれたらストライクは間違いない。

「T字路まで走るんだ」

イスカは言った。

「なるほどねぇーぃ」
「名案ね」

先ほどから、
パムパムはT字路を曲がれていない。
その勢いから曲がりきれずに壁に衝突しているのだ。
いや、
ただ曲がるという意志がないだけかもしれないが。

「で、その名案なんだけど」
「うむ・・・」

それは名案もクソも、
次のT字路まで走るしかないのだ。
何も変わらない。
暴走パンダにひかれたくなければ、
頑張って走りましょう。

「おっ?おっ?おっ?おっ?おっ?おっ?」

どんどん追いついてくるパンダ。
どこにそんな脚力があるのだろうか。
いや、脚力もクソも転がっているのだが、
明らかに人間の能力を超えている気がする。

「あっ!見て!」

マリナが走りながら指をさす。
そこは曲がれる道。
T字路ではないが、
曲がり角。
直線の途中に横に曲がれる箇所がある。

「逃げ込め!」
「くっ!」

3人は一斉に飛び込むように曲がる。
トの字型のその曲がり角に飛び込む。
そして、

「おっ?おっ?おっ?おっ?おっ?おっ?」

パムパムはそのまま転がっていった。
曲がれるはずもなく、
曲がる意志さえなく。
マリナ達が曲がった曲がり道を無視して通りすぎていった。
「おっ?」という声がどんどん小さくなっていく。
凄い勢いで遠ざかっていく。
そして数秒後に、
「パプリカ!」
という声が遠くで聞こえたと思うと、
破壊音が聞こえた。
どこかの壁にぶつかったのだろう。

「・・・・・・・」
「ともかく振り切ったな」
「正直死ぬかと思ったぜぇーぃ」

息切れしている3人。
息切れと共にため息もついた。
ともかくパムパムがあの調子ならば当分やり過ごせるだろう。

「かなり戻っちゃったわね・・・」
「無闇に逃げたからな。出口への道を探しなおさなければ・・・」
「先を急ごうぜぇーぃ」

また地下の道を歩く事になった。
また。
まただ。
もうすぐ出れるかと思える場所まで来たのに嫌になる。
石とコンクリートの道。
小さな灯りだけが頼りの暗い道。
いやになるほど見た風景。
それもこれもあのパンダ娘のせいである。

「って・・・」

歩きながらマリナはふと思った。

「なんであの子はいきなり襲ってきたの?」

・・・と、
当然のような質問を今更する。

「それは・・・・どうなのであろうな」
「やっぱり敵だったって事?エンツォの言っていたとおり44部隊・・・」
「うむぅ・・・それなら最初から襲ってくるとは思うが・・・」
「単純にあのパンダガールだからじゃないかぁーぃ?
 訳の分からない異次元の彼方のパラダイスワールドみたいなレディーだったからねぇーぃ」
「それを逆に言うなら・・・」
「あれ自体襲ってきたわけでもなかったかもね」
「死ぬかと思ったが、殺そうと思ってきたわけじゃないのかもしれんな」
「人懐っこい虎が怪力でじゃれてきたみたいな?」
「どっちにしろお断りだぜぇーぃ」

とりあえず自分達の命を脅かす存在であることは間違いない。
故意かもしれないし、
ありのまま自然にだったかもしれないが・・・

「で、道はあってるの?」
「分からぬ。けど方向だけは確かだ」

分かれ道。
分かれ道。
それを何度も越え、
とりあえず出口の方向にだけ進む。
ギルドダンジョンから脱出するべく。

「・・・・・・・・・」

歩きながら、
イスカがふと様子がおかしくなった。

「・・・なによイスカ」
「サムライレディー・・・まさかまた気配がどうこうっていうのかぁーぃ?」
「そのまさかだ」

イスカは歩きながら言う。
気配。
イスカの冴え渡る5感がそれをとらえる。

「次はどんな気配なんだぁーぃ・・・」
「最初の見えない気配?それとも次の走り去る気配?」
「どちらでもないな」

つまり、
次の追跡者はまた違う者。

「今度は方向や居場所はなんとなく分かる。
 付かず離れず。最適な距離を背後から追跡してきている」
「追跡のプロってことね」

イスカは頷いた。
気配。
それは背後。
確認出来るか出来ないか。
そんな距離を一定に保ち、
イスカ達の後ろをついてきている。

「でも今までの気配の事も考えると・・・また付いてきてるだけ?」
「・・・・・今のところそうだが・・・・今度は明らかに殺気を感じる」

つまり襲ってくる気があるようだ。
だが襲ってくる云々よりも、
イスカにとってはその追跡術に尊敬の念さえ覚えた。
特に何か特殊な事をしているわけではない。
ただただ付いてきている。
悟られる悟られないのギリギリ。
言うならば分かっていてもどうしようもない追跡術。

「44部隊・・・か」

恐らく。
いや、流れ的にはもうそうであろうと考える。
確信した。
今付いてきている者だけでなく、
その前に感じた見えない気配と確認できない気配。
そしてパムパム。
もしかしたら途中であったあのキリンジという者もだ。

「生かさず殺さずだねぇーぃ。ずっと監視されてたわけだ」
「パムパムも含めてずっと相手の手の内で走ってたわけね」
「ただ攻撃されてこなかった。それだけ」

だが、
パムパムの事もあり、
そして今の追跡者の殺気もあり、
ここからは・・・・

「やるならやるぞ。出て来い」

いちいち逃げてもいられないかもしれない。

「・・・・・・」

イスカが立ち止まり、
マリナとシャークも立ち止まる。
振り向く。
相変わらずどこにいるかは確認できない。
が、
そう思うと、
追跡者は十字路の角から体を半分だけ出してきた。

「・・・・・・・・」

女性だ。
恥ずかしがるように、
いや、まだ監視しているように。
十字路に隠れるように、
ただただこちらを見るように、
その女性は体半分だけ除かせた。

「お主。44部隊か?・・・名は」

イスカが聞くと、
その女性は体を半分十字路に隠したまま、
十字路の角に手を添えながら動揺のカケラもなかった。

「・・・・・・」

答えない。
追跡している時のように、
相手に近づかず離れずな距離感を感じる。
マリナにとってはそれが異様にじれったかったようだ。

「何よぉー。それくらい言ってくれたっていいじゃない」

「うるさいしゃべる害虫が。黙れ」

一瞬何の声かと思った。
空耳かと思った。
というか空耳であってほしい言葉だった。

「え・・・」

マリナはキョドりながら「私?」と自分を指差した。
いきなり害虫とか言われるとは思わなかった。
女性は曲がり角に半分隠れたまま、
ボソボソとした口調で続ける。

「お前以外に誰がいるんだよ芋虫♀野郎」

「い・・・・いも・・・」

「穴倉が似合ってるからそのまま死ね」

淡々と飛んでくる冷たい罵声。
人を侮辱する事をなんとも思っていない声。
それが機械のように曲がり角からとんでくる。

「えっと・・・」

マリナは額に手を当てながら考える。

「マリナさんこんなに侮辱されたのは初めてだわ・・・」

ともかく、
あまりにキレのいい意表的な罵声の弾丸だったため、
怒りもドガンと吹き出たりもしなかった。
だがイスカはそうでもなかったようだ。

「お主。無意味にマリナ殿を侮辱した罪は重いぞ」

「スミレコだ」

曲がり角の女性は短くそう言った。

「44部隊所属のスミレコ=コジョウイン」

やはりその言葉を直に聞くと身も引き締まる。
44部隊。
つまるところ、
44部隊の者たちに狙われている確証である。

「ふん。44部隊の追跡専門家か」

「違うわ」

曲がり角に隠れながら、
スミレコはボソりと言う。

「何も分かってないくせに偉そうな口叩くなゾウリムシが」

ついでに辛辣な言葉を付け加える。
血管を切れさすでもなく、
ただ風のように流れる暴言。

「ゾ、ゾウリ・・・」
「あら、偉そうな口叩くなっていうけどね。
 相手にバレる追跡術使ってるあなたにもその言葉そっくりそのまま返すわ」

「黙れミジンコ星人。星に帰って塵になれ」

スミレコの暴言は、
相手をいたわる気持ちがさらさらない。

「私の追跡術は相手に知ってもらってなんぼなのよ。
 あなた達がよく知ってるアレックス部隊長にね」

「・・・?」
「アレックス君に?」

「ヒマがあればアレックス部隊長の横(背後50m)を歩くのが趣味だからね」

「それってストーカー・・・」

アレックスのストーカー。
まぁマリナとイスカにしてみれば、
「・・・・?」
といった感じだった。
外見自体は悪くないと思うが、
人は外見ではないという人間の手本がアレックスだ。
まぁ趣味は人それぞれってことで。

「ま、まぁそれなら調度いいわ。それってアレックス君が好きなんでしょ?」

「っていうか恋人(一方的な)」

「じゃぁ見逃してくれたらアレックス君に合わせてあげるけど」

「愛は自分で掴む」

まぁ無理な交渉とは分かっていた。
分かった事といえば、
世界がどうこうでなくとも、
このスミレコがいる限りアレックスは平和じゃないという事くらいか。

「でもアレックス君は今騎士団にいないらしいから寂しいんじゃない?
 こぅ・・・私達にかまってる場合じゃないというか・・・追跡するならそっちの方が・・・・」

マリナは下手な交渉をする。
出来るだけ危険は回避したい。
たとえアレックスがどうなろうとも。

「・・・・アレックス部隊長に会えなくとも彼の事は分かる。
 今この時間はお腹が8分目まで埋っているのにお腹がすいたと言い出す時間だわ。
 とりあえず食べ物を探して匂いのある方に行く。徒歩速度は平均で毎時6km。
 保管庫などに到達した時点で何か食べ物があれば有無をいわずに食事。
 その時一番多い独り言は「夕飯はなんだろう」。私の記録だけで計67回発言。
 アレックス部隊長は精密な腹時計による1日3回の食事の他に間食が平均2回。
 多いと4回で最高で11回。一般成人男性の一日の摂取カロリーの3.5倍を毎日摂取。
 だけど太る気配は微塵もなく、私が毎日調べた結果排便物にも異常は・・・・」

「あーあーあーあー!」
「分かった!分かったわ!!」

ストーカーの言葉は止まらない。
マシンガントーク。
アレックス自身よりアレックスの事を知っている彼女は、
アレックス辞典とでも言うべきか。

「だがな・・・ストーカー行為というのはあまり褒められたものでは・・・」

「黙れミノ虫。糸が切れて落下して弾けて死ね」

「・・・・・・・・」

正しい事を言ったはずだ・・・。
言ったはずだが・・・
言っても意味がないとはこのことだ。
さらに鏡から10倍酷いセリフになって返ってくる。

「でもそんな事するよりも正直に気持ちを・・・・」

なんだか話がおかしな方向にいっている。

「・・・・・伝えたわ」

「えぇ!?」
「誠か!?」

イスカとマリナは予想外に食いついた。
シャークは後ろで脱出はどうするんだろうという顔で見ているが、
まぁ彼女らも女と言う事で、
これらの話には少々興味があるのだろう。
さらにアレックス関連となると気になるのは確かだ。

「で?で?何て言ったの!?」

「ま、まぁ・・・私はあなたが好きです的な事を・・・・」

「キャーッ!」

マリナは大喜びで両手を合わせ、
目を輝かせる。
イスカもそこまでのテンションはなくとも、
耳を傾けるのをやめない。

「それでそれで?!」
「返事は・・・・」

スミレコはさらに曲がり角に深く隠れ、

「「僕もですよ」って・・・」

「え!?え!?マジで!?」
「あのアレックスが・・・・」

予想外の答えだった。
ただ、
スミレコは少々落ち込んでいる表情だった。

「ただ・・・・」

そしてボソボソと、
拳を握りこんで言う。

「ただ・・・「奇遇ですね。僕も僕が大好きなんです」って・・・」

「「「・・・・・・・・・・」」」

マリナとイスカとシャークは固まった後、
それぞれが別の方向に目を背け、
同情した。
同情の中で同情した。
それは・・・
それはあんまりな返事だ。

「ベイビー・・・そのアレックスってボーイは鈍感なのかぁーぃ・・・・?」
「いや・・・」
「アレックス君の場合分かってて言ってそうだからたちが悪いのよ・・・・」

告白の返事としては、
たちの悪いランキング上位に食い込むだろう。
腹が黒いとかじゃない。
心が腐っている。
間違っても何かの物語の主人公とかになってはいけない人間だ。

「スミレコちゃん・・・ガッツよ・・・・」

マリナはスミレコを応援した。
哀れアレックス。
好かれない正義の味方よ。

「まぁストーカーレディー・・・俺達はここらでおいとまするぜぇーぃ・・・」

シャークはそう言い、
細長い手でマリナとイスカの背を押す。
うまい。
自然にこの場をやり過ごせる。
マリナとイスカもそれを咄嗟に察する。

「がんばってねスミレコちゃん」
「うむ。諦めないことが大事だぞ」

と言い、
振り向いてその場を離れようとする。

「諦めないわ・・・・」

背後で声。
ボソりとした声。
だが気にしないようにそぉーっと歩くマリナ達。

「振り向いてくれないなら振り向けないようにすればいい・・・
 監禁して縛りつけて私しか見れないようにすればいい・・・・」

何か怖い発言が背後から聞こえたが、
気にしない気にしない。
聞こえない聞こえない。

「私だけを見れる世界に閉じ込めてあげればいい・・・・・
 そうすればアレックス部隊長も幸せ。私も幸せ」

邪悪すぎる提案が聞こえたが、
気にしない気にしない。
聞こえない聞こえない。

「でも恋路の邪魔は邪魔なだけ。そんな芋虫は排除するべきだと思うわ」

恋路?
邪魔?

「恋路の横に目障りな石ころは全く必要ない。
 なんかアレックス部隊長を誑(たぶら)かしたギルドに小石が2つ落ちてるとか・・・」

ギルドに小石が二つ。
《MD》に小石が二つ。
女の数。
それは自分たちの事だろうか。
いや、気にしない気にしな・・・・・

「・・・・・・・・」

マリナ達は忍び足で歩きながら、
そぉーっと後ろを見た。
背後には、
いつの間にか通路の真ん中に立っているスミレコ。

「私とアレックス部隊長の恋路の生涯は消えろ!!」

「やばっ!」
「走れっ!」

と思いつつも、
スミレコは追いかけてこなかった。
何故?
背後を確認しながらマリナ達は走る。

「私から逃げられると思うなっ!」

スミレコは動かない。
走らない。
だが、
両手を不意に地面に突き出した。
両手の平を地面に押し付ける。
と同時に、

「な!」
「何あれ!?」

糸?
巣?
蜘蛛の糸。
スミレコの両手を発進地に、
地面から蜘蛛の巣が張り巡らされ始めた。
スパイダーウェブ。
スパイダーウェブの蜘蛛の巣が、
地面を広がっていく。
地面全てをスパイダーウェブが包み込み、
広がっていく。
蜘蛛の巣が地面を這い、
広がり、
壁を巻き込み、
天井を巻き込み、
蜘蛛の巣が広がり・・・・・追いかけてくる。

「ちょ、ちょっと!蜘蛛の巣が追いかけてくるわ!」
「とにかく捕まったらアウトだぜぇーぃ!!!」

スパイダーウェブの使い手。
スミレコ=コジョウイン。
姉のサクラコ=コジョウインは、
スパイダーウェブで捕らえ、ムチで甚振るサド女。
蝶を捕らえる蜘蛛のような『ピンカートン(お蝶婦人)』
一方スミレコは、
ムチよりもスパイダーウェブに特化している。
いたぶることよりも捕らえる事を得意とする『ピンクスパイダー』

「やばいやばいやばいやばいわ!」
「まさか蜘蛛の巣に追いかけられるとは!」

広がっていく蜘蛛の巣。
追いかけてくる蜘蛛の巣。
地面を伝い、
地面・壁・天井を巻き込み蜘蛛の巣が伸びていく。
伸びてくる。
追いかけてくる。

「走れ!とにかく走るしかないぜぇーぃ!!」

そりゃそうだ。
そりゃそうなのだ。
もう走るしかない。
マリナ達の背後を追走する蜘蛛の巣。
広がっていく蜘蛛の巣フィールド。
地面を。
壁を。
天井を。
まるでマリナ達の走った後ろの風景が全部蜘蛛の巣に変わっていくようだった。

「こうなったら盗賊!スパイダーカット!」
「無意味だ!いたとしてもカットしようがない!」

ピンポイントとは違い、
カットしたところで蜘蛛の巣は広がっていっているのだ。
第一盗賊がいない。

「結果が出たねぇーぃ・・・・」

シャークは細長い両手足を必死に振りながら走り、
言う。

「やっぱり頑張って走るしかないねぇーぃ!!」
「そんな事!」
「もうやってるわ!」

全力で走る。
後ろで追いかけてくる蜘蛛の巣エリア。

「あれだっ!!」

イスカが指差す。
それは部屋だった。
思い出した。
いつの間にか実験房の所を走っていたらしい。
そこはエンツォが捕らわれていた部屋。
部屋自体が開いていた。

「逃げ込め!!」

3人は一斉に部屋の中に飛び込む。
飛び込んですぐにドアを閉める。
閉めると同時にドアにも張り巡らされていく蜘蛛の巣。

「小窓も塞げ!」
「蜘蛛の巣を入れちゃダメだわ!!」

シャークが咄嗟に瓦礫を拾い、
そして実験室独房の小窓も塞いだ。
少し蜘蛛の巣が入ってきていたが、
瓦礫で塞ぐと止まり、
完全な密室になったその独房は光もなく真っ暗になった。

「・・・・・・・・」

シャークが瓦礫で小窓を塞いだまま、
小さな独房は、
暗闇と静寂に包まれた。

「ど・・・・ぉ?」
「外は静かになったようだけどねぇーぃ・・・・」

だが、
小窓の瓦礫をどかす気になれない。
開けたら蜘蛛の巣が入ってくるかもしれない。

「だがよく考えたら袋小路の極地だぞ・・・」
「開けて・・・・みるぜぇーぃ・・・」

シャークが恐る恐る瓦礫をどかす。

「・・・・・・・・・」
「ふぅ・・・・」

外は元通りになっていた。
蜘蛛の巣が消えている。
恐らくあまり長く続くものでもないのだろう。
あれだけ広範囲・・・
いや、超範囲・・・
いや、蝶範囲のスパイダーウェブだ。
魔力の消費量もハンパではないのだろう。

「やれやれだぜぇーぃ・・・・」

シャークは細長い体を猫背にしてうな垂れながら、
独房の扉を開けた。

「でも不幸中の幸いっていうか・・・雨降って地固まるっていうか・・・」
「これで道は確認できたな・・・」

ギルドダンジョン。
その実験室廊下。
先ほどきた場所だ。
また迷ってしまったかと思ったが、
これで道が分かる。

「なんだかんだでここを通った意味があったねぇーぃ・・・」

実験体の呻き声のせいで騒がしいこの通路。
気持ち悪い通路だが、
目印という意味では助かった。

「だが、だからこそこの先の道に44部隊が張っている可能性も高いな」
「気をつけないとね・・・・」

囚人と言ってもいい実験体達。
呻き声。
呻き声。
悲しき呻き声がこだまする。
いや、
いやまて・・・・

「何か声がしないかぁーぃ・・・」
「声?」
「ここの者たちの声であろう」
「いやぁー・・・もっと違う声なんだけど・・・」

耳を澄ましてみると、
囚人たちの悲しき声に混じり、
もっと人間離れした声。
いや、
人間の声ではない。
これは・・・・・・・

「あーいあい。こんにチワワ。また会ったな」

前の暗闇から声。
何かと思うと、
狼服と狼帽子をかぶった女性。
キリンジ=ノ=ヤジューだ。
守護動物を5・6匹従えながら、
自分はデミの上にまたがっている。
声は守護動物の鳴き声。

「道に迷ったかチンパンジー!そりゃぁエテモンキー並の知能だな!」

「やっぱりあんたも44部隊か・・・」

デミにまたがり、
こちらに近づいてくるキリンジ。
ニヤりと笑うその口は、
尖った八重歯が顔を見せる。

「今頃気付いたかこのヒポポタマスが!とんろいカバ脳だな!
 まぁあちきのタヌキ並の名演技にゃ騙されてもしょうがないと思うけどな!」

マリナ達は後ろを確認する。
きた道。
そちらに逃げるしかない。
戻る事になるし、
スミレコにまた遭遇する可能性も無いわけではないが、
前には進めない。
デミに乗ったキリンジ。
そして5匹ほどの守護動物。
どう見ても先に進めるスペースは存在していない。

「逃げ切れると思うなよぉん?あんたらは今ライオンに襲われたシマウマだ」

八重歯を見せながらキリンジは笑う。
狼女は笑う。

「こういう時、アニマル界ではどうすると思う?腹を見せて懇願するんだよ。
 じゃぁこの場合その行為は何か。あちきの言う事でもきいてもらおうかなぁ♪」

ニタニタ狼が笑う。
八重歯は牙のようにさえ見える。
従えというのか。
追い詰められたからこそ、
自分に従え。
言う事を聞け。
キリンジはそう言っている。

「何を言って・・・」

「お手!!!」

デミに乗ったまま、
キリンジは叫んで左手を差し出す。

「・・・・・」
「・・・・・・は?」

「やれっつってんだろ!ほれ!!おかわり!!」

キリンジはさらに右手も差し出す。
お手。
おかわり。
・・・・・。
やれというのか。
やらなきゃ助けてやらないとでもいうのか。
お手を?
おかわりを?
なめているのか。

「そんな・・・俺達は犬じゃないんだぜぇーぃ・・・・・」

「犬じゃない?なんだそりゃ!!アニマル差別かっ!?あぁーん?!」

相変わらず訳の分からないとこでキれる女だ。
いや、メスか。
恥じらいもクソもない。

「ほれやれ!やれ!ほれ!おまわり!」

「だれが・・・・」

「じゃぁチンチンだ!チンチン!!ほれ!!チンチンやれチンチン!!」

何チンチンチンチン叫んでるんだこのアマは。
イカれてるのか?
聞いてるこっちが恥ずかしくなる。
馬鹿なのか?
恥らってくれ。

「やれっっつってんだろこのヒポポタマスが!!ほれ!チンチンだチンチン!!」

なんでチンチンのリクエストが執拗に多いんだよ。

「悪いけど・・・そんなことするなら死ぬ方がマシだわ・・・」
「まだ後ろには逃げれるしな」

「逃げれる?逃げれるわけねぇだろこのマンドリルが!」

「いやぁー、可能性はあるぜぇーぃ。戻る事にはなるけど俺達の背後はガラ空きだからねぇーぃ」

「・・・・ハッ!まだ状況が分かってないようだな!お前らはもう囲まれてんだよこのチンパンが!」

囲まれてる?
確かに前方はもう無理だ。
デミに乗ったチンチン女・・・・じゃなくてオオカミ女がいて、
守護動物が狭い路地を埋め尽くしている。
だが後ろに敵の気配はない。

「いや、いつでも囲めるとでも言うべきか」

気付くと、
デミの上で、
キリンジは両手に何かを持っていた。
武器?
違う。
防具?
違う。
アイテム?
・・・・いやその類だが・・・・

「・・・・・・卵?」

「正解!ご褒美だこのヒポポタマスが!!!」

狼女キリンジが両手を振り上げたと思うと、
右、左と腕を振り下ろした。
いや、
投げつけた。
二つの卵。
投げられた二つの卵はマリナ達に・・・・
いや、マリナ達の横を高速で通り過ぎ、
マリナ達の背後で煙を上げて破裂した。

「なっ・・・・」

そして出てきたのは守護動物だった。
バギが2体。
それがマリナ達の背後に現れる。

「あちきのあだ名は『ZOO』!!動物園ってなぁ!あちきは守護動物使い。
 あちきが闘わなくとも、あちきにはいつもいつでも本気で生きてるこいつ達がいる!」

守護動物使い。
自分ではなく、
守護動物を使って戦う。

「珍しいわね・・・・」
「搭乗や補助に使う者は多くいるが、それを主軸にするとはな」
「あの卵から自由にモンスターを出し入れできるわけだねぇーぃ・・・」

「めざせアニマルマスター!!」

「「「黙れ」」」

とりあえず、
やはり囲まれたわけだ。
この狭い路地。
ここでモンスターに囲まれた。
こちらは丸腰。
もちろんあのモンスター達も、
守護動物使いの守護動物なのだ。
そこらの守護動物より格上なのは間違いないだろう。

「さぁてどうする?このチンパン共!選択は2つだ!
 ネズ公のように逃げおおせられるとは思ってないよなこの袋のマウス共がっ!
 この場で死ぬか!チンチンか!どちらか選べヒポポタマス共が!」

なんという2択。
死を選ぶ人続出。

「どうする・・・」
「どうするって死ぬわけにはいかんだろう。ならそのチ・・・チ・・・・」
「いや、そうじゃなくてどうやって逃げるかって事だけど・・・」
「・・・・・うむ。だろうな・・・」
「まだ隙の多い背後の突破を試みるのが上策だと思うぜぇーぃ」

上策。
・・・・そう呼べるものが今まであったか。
結局出来る事をやるだけ。
ただ逃げる。
逃げれるだけ逃げる。
ふざけた44部隊が多いが、
どれも逃げるしか"選択肢"が与えられていない。
やはり相手は44部隊なのだ。
逃げる以外できる事がない。

「じゃぁ逃げ・・・」

「そういえば、あちきの最強のモンスターってなんだと思うよ?」

デミの上で、
キリンジが八重歯を見せながら笑って言う。

「そんな事知ってるわけないでしょ」

「知ってるさ!アホか!このウマシカ野郎が!少し頭を使えウマシカ中のウマシカが!」

ニタニタ八重歯を見せて笑うキリンジ。

「あちきはねぇ・・・44部隊で唯一。いや、世界で唯一・・・・・・・・・・パムパムを動かせるんだよ」

「・・・・・・」
「・・・・・・・」

・・・・・・なるほど。
それは最強だ。
いや、それは聞き捨てならない特技だ。
どんなスキルをも超越した神技と言ってもいいかもしれない。

「追い討ちだ。シマウマはハイエナからは逃げられない」

キリンジは右手の人差し指と親指で輪を作り、
口にくわえる。
そして・・・・・
甲高い口笛が鳴り響いた。
暗く狭い地下のギルドダンジョンに響き渡る口笛。
それは反射に反射を繰り返し鳴りわたる。

「・・・・・・今のだけで・・・」
「くるのか?」

口笛。
それだけ。
あのキテレツなパンダ娘が、
思考回路のネジが3個しかないのに3個とも外れてるようなあの娘が、
これだけで来るのか?
という疑問と共に・・・・

「ちょ・・・・」

遠くから声。
声が近づいてくる。

「・・・・・・・ぼぉおお・・・・・・・」

近づいてくる。
声が・・・
もの凄い勢いで・・・
もの凄い勢いで。

「あそぼぉおおおおおおおおお!!!!」

パムパムだ。
パムパムが走ってきた。
超絶ダッシュで。
どこから?
知るか。
彼女の前で"理解"など悲しい言葉だと分かっている。
きた。
走ってきた。

「めんそーれ!!めんそーーれ!!奥さんめんそーれ!!!」

間違いなくパムパムだ。
パムパムが両手を広げ、
片手にノカンクラブを握り締めて超絶ダッシュして迫ってくる。

「やばい!やばいわ!」
「どうする?!」

迫ってくるパムパム。
だが、
前方にはキリンジと守護動物の壁。
だが背後からは突っ込んでくる暴走パンダ。

「新しいツッコミを考えたんだ!!聞いてくれ!・・・・そんなバナナか!そんなバナナか!」

ポピュラーなようで使いどころがほとんどない事を言いながら、
違う意味で突っ込んでくる。
突進してくる。
考えているヒマもない。
もう、
すぐそこまで・・・・・

「アハハハハ!!あちきはアニマルマスターだ!覚えて逝けヒポポタマスが!
 このアニマルマスターキリンジ様の前でチンチンしなかったのを後悔しな!」

パムパムの突進。
暴走機関車白黒少女。
ダメだ・・・
もうそこまで・・・
南無・・・・
死因。
パンダにひかれて死亡。

「ベイビー!サムライガール!避けろ!!」

シャークが叫んだ。
咄嗟。
咄嗟に壁に張り付くように避ける。

「ベリーデリシャス!ベリーデリシャス!バナナは皮まで食べられます!!!」

2つ・・・
悲鳴が聞こえた。
守護動物の悲鳴。
バギが2体吹っ飛んだ。
パンダに轢かれて。
そしてパムパムはその勢いのまま、
避けたマリナ達を通り過ぎる。

「・・・・あれ?」

デミに乗ったキリンジはそこで首を傾ける。
なんで?
そこまで考えていなかった。
パムパムはそのままキリンジ達に・・・・・

「そんなバナナ・・・・」

ストライク。
キリンジの情けないセリフと共に、
キリンジと守護動物一同はボーリングのピンのように吹っ飛んだ。

「バナナ!バナナ!勇者はバナナを装備した!天空のバナナは海をも切り裂く!!」

パムパムは、
キリンジと守護動物を吹っ飛ばしてそのまま走り去っていった。
暴走したまま遠くまで走り去っていった。
嵐のようだった。
そして遠くで「ピクルス!」という声と共に轟音。
何かがぶっ壊れる衝突音が聞こえた。

「「「・・・・・・・・」」」

3人は呆然としていた。
なんだったのか。
今何が起こったのだろうか。
訳が分からない。
訳が分からないが・・・・
あえて何か言うとすると・・・・

「そんなバナナか・・・」

と口にするしかなかった。

「よく分からないけど打開したみたいね・・・」
「44部隊にも馬鹿はいるのだな・・・」
「パンダレディーの取り扱いは永遠のテーマだねぇーぃ・・・・」

パムパム取り扱い説明書。
それはたった一文で済むだろう。
"できれば取り扱わないこと"

「とにかく今がチャンスよ!」

ノびているアニマル一同。
もちろんオオカミ♀もだ。
哀れ。

「先を急ごう」

歩いてるヒマはない。
ここはすぐさま走り出す。
もうのんびり脱出などというヒマはないのだ。
バレている。
完全に。
だから一刻も早い脱出。
そうしなければならない。

「ここは左だったわよね」

一度通った道。
そこを乗り越えていく。
ハッキリいって疲れた。
牢獄生活で労費した体力。
そのままここまでの脱出で歩いた時間。
体力は極限へと向かっている。
だがだからと言って休むわけにはいかない。
とにかく・・
とにかく走るしかないのだ。
逃げる。
脱出。
脱獄。
それを目指して3人はとにかく・・・・


「ご苦労なことでござる」

「うるさいわね・・・」
「ちょっと黙って走れないのか」
「もう息があがって会話も疲れてきたぜぇーぃ・・・・」

と3人がしゃべったところで。

「え・・・」

と立ち止まる。

「今誰が言ったの?」

声。
自分たち以外の声。

「ベイビーじゃないのかぁーぃ?」
「男の声だったじゃないの」
「じゃぁシャークか」
「ノンノン。俺じゃぁないぜぇーぃ」
「・・・・・・・」

そして同時に3人は咄嗟に背中を合わせた。
自分たち以外の声。
ならばそれはその他の声。
他の誰かの声。

「敵か・・・・」
「どこよっ!」

地下通路の一辺で背中を合わせる3人。
だが、
敵の位置が分からない。

「くっ・・・」
「インビジか!」

「発想は悪くないでござるよ」

「!?」

3人は背中を合わせたまま、
同時に真上を見上げる。

「しかし、自分の理解の範囲内だけの発想は奇をつかれた時に命とりでござるよ」

見上げた天井。
そこに・・・・人。
天井に人。
天井からコウモリのようにぶら下がる人間が一人。
腕を組んだ人間が一人。

「なっ!?」
「どうやって天井に!?」

「人は道を歩く。その発想の裏を、影を進むのが某(それがし)忍という者」

忍?
忍者?
そんな島国の御伽(おとぎ)話の産物が実際にいるっていうのか?
いや、
実際に天井にぶら下がっている者がここに。

「某(それがし)はカゲロウマル。カゲロウマル=サルトビ」

天井で腕を組んでぶら下がったまま、
カゲロウマルという忍者は言った。

「これは忠告でござる。本来忍は自己紹介などしない。
 しかし44部隊であるがため、44部隊である主張だけはしておく」

そう。
本来自己紹介どころか、
いちいち声をかける必要も無かった。
言うならば・・・
黙って攻撃されていたのだ。
やられていた。

「これは某が尊敬の念を持つ我が殿のため、我が殿ロウマ=ハート部隊長のため。
 殿の名誉をあげるため、殿の手足とし、忍は影とし生きるでござる」

そして天井のカゲロウマルは、
片手にダガーを取った。
逆手に構える。

「話はこれだけでござる。後は音も無く死ね・・・・・・天誅!」

その瞬間。
カゲロウマルは飛び込んできた。
天井から、真下に飛び込んできた。

「キャッ!」
「くっ!!」

3人は一斉にバラバラに跳ね飛ぶ。
背中を合わせていた3人の中心にカゲロウマルが着地する。
着地の音もなく、
逆手に構えたダガーだけを振り切っていた。
サイレントアクション。

「チィ・・・」

イスカの腕に軽い切り傷。

「速いな・・・」

「某はお主を狙ったのだが。よく避けたでござる」

カゲロウマルの片目だけがイスカを睨む。
そして何の予備動作もなく、
刹那の動き。
ヒュンッヒュンッと風を切る音。
カゲロウマルは左と右の壁を軽快に飛び移る。
早い。
影が動いているような動き。
そして突然イスカに飛び掛った。

「くっ!」

見切り。
イスカの得意とするところ。
残像しか残らないような忍、カゲロウマルの動き。
それをなんとか目でとらえ、
体を半歩そらして避ける。

「・・・・・ほぉ」

攻撃を避けられたカゲロウマルは、
地面を滑りながら関心する。

「某の動きを二度も見切るとは」

またヒュンッという風きり音。
左の壁、右の壁と飛び移り。
カゲロウマルは壁に着地した。
いや、着地しただけでなく、
・・・・・停止している。
壁にくっついている。

「その動き。無駄がないでござるな。お主サムライか」

壁に張り付きながら、
カゲロウマルはイスカに言った。

「まぁそうだな」

イスカは返事をしながら後ろを気にする。
シャークはどうでもいい。
マリナ。
あちらを狙われたら、
マリナに避けきれる攻撃とは思えない。

「面白い。和の心ここに在りでござるな」

そう言ってカゲロウマルは立ち上がった。
立ち上がった?
その言葉は何か違和感がある。
壁に足をつけて立ち上がったのだから。
イスカ達の視界とは、90度角度が違う。
まるで重力が傾いたかのよう。
カゲロウマルは壁から真横に立っているのだから。

「一つ忠告しておいてやろう」

カゲロウマルは、
壁から真横に立った状態で言う。

「実はこの体勢結構疲れる」

「「「・・・・・・・・」」」

知るか。

「固定されているのは某の足の裏だけでござるからな。
 こうやって真横に真っ直ぐ立つのは重力の問題で・・・・」

どうでもいい。
つまりカッコつけるために頑張って壁に立っているのか。
まぁ足の裏しか固定されていないのなら、
実際結構あの体勢は疲れるだろう。
普通ならゾウの鼻のように下に向かってプラァーンと垂れてしまうだろうから。

「故に」

カゲロウマルはまた壁を二度蹴り、
残像の残る動きをする。

「ここが落ち着く」

そして天井にまた張り付いてぶら下がった。
いや、
地面に立て地面に。

「ペラペラしゃべる忍者ね・・・」

「隠密でござるから」

意味がわからん。
なんて自己主張心の高い忍者だ。
日陰に生きようって意志はないのか?
目立ちたがりの忍者。
それはもう職案で相談してきたほうがいい。

「ではまぁ・・・殺すか」

カゲロウマルは天井でギロリとイスカを睨むと、

「天誅!」

また真っ逆さまに飛び込んできた。
天井から真っ直ぐ落下。
天井を蹴って重力のままに。

「そう何度もやられるかっ!!」

イスカの見切り。
それを半歩で避け、
そして・・・

「ぬっ!?」

捕らえた。
両腕を掴む。
捕らわれた忍者。

「今だっ!逃げろマリナ殿!!」
「え・・・イスカは?!」
「すぐ追いかける!」

マリナは戸惑っていたが、
シャークが無理矢理マリナを引っ張った。
マリナとシャークが逃げていく姿が見える。
シャークに任せるのは心残りだが、
ひとまず安心だ。

「武器を持ってないと油断したでござる」

「油断がある時点で忍としてどうなんだろうな」

「全くでござる」

と思うと。

「なんだっ!?」

カゲロウマルの体から何かが吹き上がる。
煙?
煙だ。
煙が噴出す。

「忍法雲隠れの術」

「くっ!」

驚いて手を離してしまった。
吹き上がる煙。
忍法雲隠れの術。
まぁ・・・スモークボムだが。

「チィ!」

視界が煙に覆われる。
咄嗟にイスカは飛び出した。
走って飛び出した。
そしてそのまま走る。

「クソッ・・・地味に多彩な輩だ・・・」

イスカは煙から飛び出し、
走る。
っていうか追いかける。
マリナ達を。
そして追いつく。

「逃げろ!って言葉の意味短かったわね」
「・・・・・無念」

マリナとシャークに追いつき、
イスカもそのまま逃げる。
結局これだ。
逃げるしかない。
まぁ丸腰なのだ。
できる事は・・・
全力ダッシュのみ。

「でも道は合ってるわよね!」
「とにかく走るんだぜぇーぃ!!」
「何度聞いたかその言葉・・・」

走る3人。
ハッキリ言ってマジ疲れた。
息切れが酷い。

「お腹の横が痛いわ・・・・」

それでも走る。
後ろを振り向くと。

「臨兵闘者皆・・・・・・・」

やはり追いかけてきていた。
忍。
カゲロウマル=サルトビ。
しかも・・・

「か・・・」
「壁を走ってるぜぇーぃ!!!」

壁を走ってる。
壁を飛び移るでもなく、
壁を地面のようにして走っている。
重力なんてないように。
そう思うと飛び移り、
天井を走ったり、
シュンッシュンッと壁と壁を行き来したり。
ともかく・・・
壁を走っている。
天井を。
地面ではないところを走っている。

「どうなってるのよアレ!!」

素早く壁を走りこんでくるカゲロウマル。

「・・・・者皆陣裂在前・・・」

早い。
速い。
壁を走りこんでくる。

「くっ・・・」
「曲がれ!」

道を曲がる。
3人は曲がる。
だが、
もちろん撒けるわけがない。
壁を飛び移りながらカゲロウマルもついてくる。
もう一度道を曲がった。
だが、
今回はカゲロウマルは曲がる必要さえなかった。
壁を走っているのだ。
壁は地面。
カゲロウマルにとって壁がサーキットなのだ。
"曲がる"なんて動作はいらない。
壁は繋がっているのだ。
そのまま視界が90度変わるだけで、
そのまま壁という地面を踏みしめて曲がってくる。

「臨兵闘者皆陣裂在前」

「これは・・・・」
「本当にやばい!」

何がヤバイって・・・
さっきまでの者たちと違う。
完全に追いかけてくるのだ。
走っても走っても。
振り切れる気配がない。
追いついてくる。

「二度目の追跡者はこいつだったか・・・」

二度目の追跡者。
まるで地面を歩いていないような感覚。
それはそう。
見つけられるはずもなく、
足音に違和感を感じるのも当たり前。
壁や天井を走っていたのだから。

「っていうか道あってるの!」
「分からぬ・・・・」

適当に曲がっている。
っていうか道なんて選んでいる場合じゃない。
ただ走る。
全力で・・・

「つか・・・疲れ・・・・」
「っていうかここさっきも通ったぜぇーぃ!!」

ぐるぐる回っているのか?
だが、
ここらはもう出口の近くなのは間違いない。
どうにかそこまで・・・
いや、そこまで行ったところでどうにかなるものなのか。

「逃げても無駄でござる。忍は任務を遂行する」

息切れする様子もなく、
カゲロウマルは壁を走ってついてくる。
もう追いつかれる。
時間の問題。
わずかな時間の問題。

「!?」

シャークは前方に見えるものを見る。
何かを思いついた。
それ。
ただ先ほどからたびたび見るそれ。
だが、
これは逆に使えるかもしれない。

「ダメ追いつかれる!!」

マリナが叫ぶ。
背後。
忍の走行。
忍法壁走り。
もう真後ろまで・・・・

「天誅!!」

逆手にもったダガーを走りながら構える。
追いつかれた。
ダメ・・・・・

「プレゼントだぜぇーぃ!!!!」

シャークはおもむろに、
突然右手を振った。
攻撃?
いや、
攻撃ともいえないが、
攻撃になった。
それは・・・
走りながら通路のドアを思いっきり開けたのだ。

「!?」

ドアは勢いよく開け放たれる。
ドア。
つまり壁。
壁を走るカゲロウマルにとってそれは・・・・

「ごっ・・・・」

突然の障害物でしかない。
カゲロウマルは開けられたドアにベコンとぶつかり、
ドアにベタンと張り付いたと思うと、
ハエタタキにあったハエのようにひらひらと地面に落下した。

「よし!」
「ナイスシャーク!!」

出口が近いからこそ、
偶然にあった部屋。
そのただのドアだが、
壁を走る者にとっては、
地面から障害物が出てくるようなものだ。

「追ってこない・・・」
「振り切ったわね!」

そう、
振り切った。
また、
なんとかだが・・・・
振り切った。
44部隊の追走を。

「でもさすがにこれ以上なんとかなるとは思わないぜぇーぃ・・・・・・」

正直な話。
いつ死んでもおかしくない。
通常時でも勝てるか分からない44部隊。
それに丸腰で相手しているのだから。
逃げているので相手をしているという表現はおかしいが、
運。
運が重なっただけで、
いつやられていてもおかしくなかった。

「ねぇ!!あれ!!」

マリナが嬉しそうに指をさす。
その先。
走るその先。
光。
光とその先・・・・

「階段!?」
「出口だ!」

出口。
この真っ暗な地下からの出口。
やっとそこにたどり着いた。

「間違いない。来た時に通った階段だ」

100%出口。
念願の・・・
念願のだ。

「あとは・・・」

3人は走りながら前方を見つめる。
出口へ走る。
その先。
ギルドダンジョンの出口の階段の前。

「あいつを突破か」

階段の前。
そこには一人の男がいた。

「ようこそ。地下の出口。シャバへの入り口へ」

階段の前に立っていた男。
棺桶を背負った戦士。
右手に斧。
左手にスタッフという特殊な装備。
エースだ。

「難関ね」

マリナと同時に、
3人は一斉にブレーキをかける。
出口の前に立ち塞がるエース。

「突破してくるとは思わなかったなぁ。ったく。うちの奴らは一体全体何してんのか」

エースはスタッフをもった左手で頭をポリポリかいた。
階段から降り注ぐ逆光。
その中に浮かぶエース。
そして・・・
死体。
幾多の死体。

「ん?あぁこいつら?」

エースの足元に転がる数体の死体。
出口から降り注ぐ光をあびた、
死体。
5人ほど死んでいる。
全部に武器が刺さっている。
剣。
斧。
スタッフ。
それぞれ違うが、
一本づつ墓のように刺さり、
地面に転がっている。

「お前らの同士だよ。逃げれると思ったのかねぇ」

エースはあきれたように言う。
つまるところ、
誰一人として脱出していないという事か。
ここまでこれだ凄腕の囚人も、
出口目の前にしてエースに殺された。

「あんたらにも言ってんだぜ?」

エースはスタッフとぽぉーんぽぉーんと投げ、
余裕の表情で言う。

「逆に言うわよ。3人相手にあんたは私たちに勝てるの?」

「勝てるさ。名無しは総じて弱い」

ニヤりと笑うエース。
名無し。
彼が言う所の名無しというのは、
つまり武器なしという事。
そう、
マリナ達は丸腰。

「思い出したわ!あんた私達の武器を返しなさい!!」

「やなこった。俺の大事なコレクションなんでね。・・・・・っつっても無理だ。
 あんたらの名前は俺の部屋に置きっぱで今はたまたま持ってない。
 そしてつまりそれはここを突破しなきゃ意味がねぇ」

エースが一歩前に出る。
ジャラジャラと音がする。
服の内側に無数に備えられている武器が音を鳴らす。

「ふん・・・・」

イスカは一度目を瞑り・・・・
そして目を見開いた。

「走れ!!」
「え?」

イスカは叫んだ。
マリナとシャークは一瞬戸惑ったが、
走り出す。
一緒にイスカも走る。
出口へ。
光へ。
エースに向かって。

「こいよ名無し共」

エースが両手を広げる。
斧とスタッフ。

「お前らからはもう名前もらってんだぜ?抜け殻に力はねぇ」

「残念ながら拙者らは生まれながらのカスでな!」

イスカは走りながら、
何かを手に取る。
それは死体に刺さっていた武器。
槍だった。
それを手に取ると、
走りながらエースに向かって投げる。

「なっ!」

エースに向かって空を切る槍。
真っ直ぐ。
勢いよく飛ぶ槍。

「名無しのくせにっ!」

エースは斧で槍を弾く。
と思うと、
エースの目の前にイスカが迫っていた。
手には・・・・剣。
剣を持っている。
死体にブッ刺さっていた剣。

「人の名前勝手に使いやがって!」

「安い刀だ」

エースとイスカの武器が交差する。
交差した斧とスタッフに、イスカの剣がぶつかる。

「イスカッ!」
「サムライガール!」
「心配無用」

ぶつかるイスカとエースの横を、
マリナとシャークが通り抜ける。

「仲間のために残るか。名無しのくせに根性あるな」

「名無しではない」

イスカは剣を押す。
ぎりぎりと。

「拙者はイスカだ!マリナ殿がくれた名だっ!
 大空をくれたマリナ殿に・・・今一度大空を見せるためならっ!」

弾く。
武器2本に押し勝つ。
エースが後ろによろめいた。

「この命。とうに投げ出す覚悟」

「へっ」

エースは軽く笑ったあと、
武器を投げ捨て、
服の内側からまた武器を取り出した。
剣とハンマー。

「それはこちらも同じでね」

エースは両手の武器を構える。
出口の前に立ち塞がるエース。

「もうひとつ」

イスカは両手で1本の剣を持ち、
構えながら言う。

「拙者は残るつもりなどない。マリナ殿と空を見る」

「やってみろよ」

「言われなくてもやる」

「やれないさ」

「そう言われてもやる」

一瞬時が凍ったが、
イスカが飛び出す。
上段。
剣を振りかぶる。
あまりに露骨な動き。

「牢獄生活で鈍ったかぁ!?」

エースは横に避けつつ、
右手の剣でそれを止める。

「!?」

剣が割れた。
ナマクラ。
だからこそ死体に刺してあったのか。
剣は刀身の半分から先が吹っ飛んだ。
そして・・・・

「こんなもんか名無し!」

エースのもう一方の腕。
ハンマーを持った左手。
それが振り切られる。
それは上段で露骨に飛び掛ったイスカの、
後ろから迫る形になる。

「うがっ!!」

メキメキと、
背中に鈍い音。
ハンマーがイスカの背中にぶつかり、
鈍い音を鳴らす。
イスカの背中に思いっきり叩きつけられたハンマー。

「しまっ!!」

だが、
悔やんだのはエースだった。
その気持ちを余所に振り切ってしまうハンマー。
イスカの背中にぶつけきるハンマー。

「言ったはずだ。命を投げ出す覚悟はあると」

イスカは背中から吹っ飛ばされ、
それはつまり、
出口の方へ吹っ飛ばされる。

「ちぃ!」

転がるイスカ。
だが立ち上がる。
背中のダメージ。
それは強大だ。
背中の骨が少々イッてしまったようだ。
だが走る。
出口へ。
階段へ。
光。

「うっ・・・」

まぶしさに一度顔を覆ったが、
そこは・・・・
1階。
出た。
ルアス城の1階。
ギルドダンジョンの外に。
だが後ろからエースが追いかけてくる。
ここで終わりじゃない。
早く先に・・・

だが、
目の前にはマリナとシャーク。
逃げずにそこに突っ立っていた。

「な、何をして・・・」

マリナは顔をしかめ、
シャークを両手を広げた。

「外にも敵ってね・・・・」

階段を上がると、
そこには一人の敵がいた。

「シュコー・・・シュコー・・・・」

見たことがない。
顔にガスマスクをつけた敵。
おそらく44部隊。

「シュコー・・・コォー・・・・・」

ガスマスクの口から空気の音が聞こえる。
その男が立ち塞がる。
背後からは階段を昇る音。
エースが向かってきている。

「・・・・コォー・・・・俺はスモーガス」

ガスマスクの男はそう言うが、
ボォーっと突っ立っていた。
攻撃してくる気配がない。
だが、
無闇に突破も・・・・

「後ろからエースが来る!早く!」
「くっ・・・いちかばちか突破するしかないねぇーぃ・・・」

「シュコー・・・・シュコォー・・・・・」

ガスマスクから音。
怪しいその男。
スモーガスという男は、
その場で立っているだけ。
いや・・・・
ボトボトボト・・・・
と、
何かが落ちる音。
何かの落ちる音。
スモーガスの足元に、
おもむろに転がる幾多のもの。

「・・・・・・・?」
「!?・・・・爆弾!?」

と思うと、
爆弾から煙が噴出した。
爆発すると思ったが違う。
煙。
全ての爆弾から煙が吹き上がった。
物凄い量だ。
普通のスモークボムの数倍の煙。

「シュコー・・・・シュコー・・・・」

煙。
煙。
煙が立ち込める。
煙が包む。
全体を。
この空間自体を。
視界がない。
何一つ。
10cm先が見えない。
真横にいるはずの人間も見えない。
マリナから見ても、
シャークもイスカも見えない。

「ゴホッ・・・ゲホッ・・・」
「苦・・・・・し・・・」

ただのスモークボムじゃない。
視界が無くなるだけじゃない。
苦しい。
あまりの煙の量で息が・・・。
目に染みる・・・。
涙が出る・・・。
ペパーボムが混じっているのか・・・・
そして・・・
喉が痛い。
焼け付くように・・・・
血が吐き出そうな痛み・・・
これは・・・・

「ど・・・く・・・・」
「トクシン・・・か・・・・」

「・・・・・・コー・・・コォー・・・・シュコー・・・・」

スモーガスの空気音が聞こえる。
近づいてきている。
そのためのガスマスクか。
煙。
煙使い。
意識が朦朧としてきた。
やばい。
マリナは目の前が真っ暗になっていく。
滲んでいく。
逃げる・・・
どこに・・・・。
10cm先も見えない。

「・・・・シュコー・・・・・」

ジョカポも混じっていたのか。
視界はもうほとんど見えない。
何も見えない煙の中、
どうする事もできない。
どうすれば・・・・

「きゃっ!!」

突如マリナの体が持ち上がった。
抱えられている。
分かる。
この細長い手。
シャーク。
シャークがマリナを片手で抱きかかえた。

「シャーク!」
「突っ切るぜベイビー!サムライガール!」

右手にはマリナ。
様子からすると、
煙で見えないが左手にはイスカを抱えているようだった。
凄く煙だ。
抱えられているシャークさえ見えない。
目もやばい。
毒もやばい。
鼻から少し血が出てるようだ。

「大丈夫!?シャーク!!」
「ベイビー。そんな質問は無意味なゼロの世界のシンファニーだぜぇーぃ」

冷たさを感じる。
シャークの体温が落ちている。
シャークも大丈夫と言える状況じゃないのだろう。
だが、
それでもシャークは二人を抱きかかえ、
見えない視界の先へと走る。
それしかないから。

「!?・・・シャイニングだぜーぃベイビー!!」

抜けた。
煙を抜けた。
今思えば物凄く広範囲のスモークだった。
それをやけくそに、
なんとか抜けた。

「はぁ・・・はぁ・・・」

疲れは絶頂だった。
ここまでの逃走劇で体力のほとんどが・・・

「でもまだ安心じゃないぜぇーぃ・・・・」
「分かってるわ。ルアス城・・・・けどもう少しよ」
「とうもろこしはそれでも仲間はずれが嫌いなんだ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

その時気付いた。
大変な事に。
抱きかかえたシャーク。
右腕にはマリナ。
左腕にはイスカ・・・・・・だったはずだが・・・・

「ムッ!まだそのカルビは焼けてないと言うとろうがぁ!!」

シャークの左腕の中で、
パンダ娘がジタバタと両腕をあげた。

「なんで・・・・」
「いつの間に・・・」

「コブクロってどこだー!コブクロってどこだー!お客様サービスセンターに電話してみよう!」










                 






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