「あんなー、酢豚はなー、酒を飲むと顔を真っ赤にして泣き出すんだー。
 不憫だよなー。ビーフストロガノフの給料がもうちょっと高ければなー」

「そうね」
「そうだな」

マリナ達は相変わらず地下のギルドダンジョンを歩いていた。

「この曲がり角は右だったと思う」
「結構覚えてるものね」
「当然。マリナ殿を逃がすためだ」

「しゃもじを掲げるとなー、カモノハシの妖精さんが出てくるんだー。
 窓から後頭部だけ出してなー、ギョウザをすすめてくるんだー」

「ねぇー、まだ出口つかないの?」
「まだしばしかかると思う」

「んでなー、ゴリラと店長さんがどっちの抜け毛が長いかでケンカを始めたんだー、
 結局ゴリラがマウントポジションをとって円周率を数え始めたのが決め手だったなー」

「・・・・・・・とりあえずこの道もトラップの心配はなさそうね。モンスターは?」
「今のところ気配はないな」
「順調はいいことね」

うんうんと関心しながら進む。

「ベイビー・・・・ヘイ・・・ベイビー・・・・・・」

マリナとイスカの背後でシャークが声をかける。

「・・・・・ん?なんだ」
「なぁにー?シャーク」
「いや・・・・・・そろそろ交代しないかなぁー・・・とか思ったんだけどねぇーぃ・・・」

二人の背後を歩くシャーク。
疲れたように細長い体がくたんと前かがみになっている。
そしてそのお腹。
シャークの肩からお腹にかけてパンダがぶら下がっていた。

「でなー、その時分かったんだー。やっぱり6連装式扇風機には勝てないよ!ってー」

「パンダガール・・・俺はベイビーに勝てそうにないぜぇーぃ・・・・」

シャークはパムパムをぶら下げたまま、
疲れでドッと沈んだ。
マリナとイスカはもう別の方向を見ている。
彼女たちはもう考えるのをやめた。
理解するのをやめた。
パムパムを別世界のものと考え、
言葉・・・
いや、存在に理解を求めてはいけないと目を背けることにした。
そして・・・
犠牲者はシャークだった。

「ベイビー・・・駄目だ・・耐えられそうにない・・・代わってくれないかぁーぃ・・・」
「なぁーに言ってんのシャーク。女の子に荷物運ばせる気?」
「に・・・荷物って・・・」
「随分気に入られているようだし良いではないか」
「・・・・・・・・・俺の頭はパニックダンシングでショートスパーキングしそうだぜぇーぃ・・・」

ため息をつくシャークだったが、
疲れの種であるパムパム本人はというと、

「よいではないかーよいではないかー」

無邪気にシャークのお腹に張り付いていた。
突如遭遇した生物。
パムパム。
正直マリナ達はこのパンダ娘を置いていくか迷った。
まぁ足手まといになる事は間違いないし、
メリットはどこをどう考えても見つからない。
だが、
選択肢はなかった。
突然シャークに張り付いて引き剥がせなくなったのだ。

「だからなー、オラは発泡酒で十分だと思うんだー」

「お?パンダベイビー。それは俺にも理解できるぜぇーぃ」

「だってなー、話してみると意外と気さくでいい奴だったんだー」

「・・・ん・・・・うん・・・・そうだな・・・・その安っぽいところがいいところだよねぇーぃ・・・・・・・」

微妙に会話が成り立っている。
ある種凄い。
これは歴史の残る偉業ではないかとさえ思った。

「ん・・・あれ?」

マリナが急に立ち止まる。

「うわっ!ねぇ!なんかちょっと変な匂いしない!?」
「そう言われてみると・・・・」

歩いていると、
突然少々香ってきた異臭。
なんの匂いか分からなかったが、
とりあえずマリナとイスカは振り返る。
そしてシャークにぶら下がっているパムパムを見た。
変な事があればとりあえず彼女のせいだと疑う。
決して差別ではない。
通常なる疑いの思考。

「だから当店ではパンチパーマしか取り扱ってないって言ってるじゃないかー!」

だがパムパムにおかしな所は見当たらなかった。

「床屋が入場料とって何が悪いんだー!嫌ならチャーハン食べればいいだろー!」

うむ。
何も違和感はない。
全くをもっておかしな所は一つもない。
平常だ。

「じゃぁなんなのこの匂い・・・」
「この地下の死骸やモンスターの放つ匂いとも違うと思うが・・・」
「薬だねぇーぃ」

シャークは確信を持って言った。
だが
真面目な顔で言っているが、
お腹にはパンダがぶら下がっている。

「薬?」
「そうさー。恐らく研究者の実験室の近くなんだろうねぇー」

そういえばモンスターやトラップの数が減ってきた。
というより無くなってきている。
つまるところ出口が近い。
そして通常的に人が使用する範囲まで来たという事。

「ふむ。確かに思い返してみれば行きにも嗅いだ気はするな」
「ここまで来れば俺でも道は分かってきたぜぇーぃ。
 確かそこを曲がれば実験室のある通路だったはずだねぇーぃ
 そっちから進んでも遠回りはならないはずだから通ってみるかぁーぃ?」
「興味はないけど・・・・」
「いや、灰色の壁に囲まれているよりは道が分かりやすいかもしれん」

確かにそうだった。
暗く、
ロウソクだけで、
石とコンクリート造りの通路はほとんど見分けの付かない。
遠回りにならないというのなら、
より目印のある道を通った方がいい。
それに研究や実験の部屋がある道ならば、
トラップがある可能性も限りなく少ない。

「だけどそれは逆に人に見つかるかもしれないんじゃない?」
「大丈夫さぁー。研究者っていうのはほとんど派遣員だから襲ってくる事はないぜぇーぃ」

ミダンダスなどもその一人だった。

「研究で部屋の中で没頭してるだけだしねぇーぃ。
 それに俺達を敵か帝国員かって見分けつくとは思えないぜぇーぃ」
「なるほどね。もし研究員と出会っちゃっても、堂々と軽く挨拶でもしとけばいいのね」
「戦闘力もないだろうから人質にはもってこいかもしれんしな」
「彼らにはそんな価値さえもないだろうけどねぇーぃ」

「あんなー、あんなー、思いついたんだー」

パムパムが、
シャークのお腹にくっついたまま言う。

「アメ玉って舐めなかったら一生食べられるんじゃないかなー」

「・・・・・・」
「天才だな・・・・」

その発想はなかった。
いろいろ間違っているが・・・・

「あんなー、聞いてくれー」

通路や研究室やらどうこうより、
一番の問題はシャークの腹にこびり付いているのだと再認識した。

「オラなー、世界一偉くなってなー、この世からトイレットペーパーを無くそうと思うんだー」

そうなったら世界は終わりだと思う。
世界の破滅だ。
ケツを拭くために全世界が立ち上がるだろう。
時に恐ろしい事を言うものだ。

「いいわ・・・とにかく先に進みましょ・・・」
「頭が痛くなってくるのだが・・・」

そう思いながら、
マリナ達は曲がり角を曲がった。
研究室などがあるという道の方だ。
イスカはため息をつきながら頭を抱えた。

「カッ、カッ、カカオのパン祭り〜♪」

背後からは軽快なBGMが流れてくる。
イスカの頭痛の種がスピーカーだ。

「アンパン♪食パン♪メロンパァーン♪ジャムパン♪アンパン♪フライパァーン♪
 チョコパン♪銀杏♪カレーパァーン♪アンパン♪ヌメパン♪シナモンパァーン♪」

「ぐっ・・・何故アンパンばかり・・・」
「つっこんじゃだめイスカ・・・」
「・・・・う、うむ」

つっこみもままならない。
考えちゃダメだ。
平静を装わなければ。
だがマリナも苦しかった。
ヌメパンって何なのかが地味に気になった。

「パンツ〜〜〜〜〜〜!!!」

「それはパンではないっ!」
「イスカッ!」
「ぐっ・・・・」

イスカはこらえた。
マリナはイスカがおかしくならないように宥める。
イスカは落ち着こうとする。
深呼吸をする。
ふぅ・・・と胸に手を当て冷静になる。

「そうだな・・・パンツも食べ物だな・・・」
「いや・・・まだ落ち着いてないわイスカ・・・」

蓄積されたカオスはイスカをおかしくしつつあった。

だが・・・

「何・・・これ・・・・」

実験室がある通りに差し掛かると、
現実に引き戻された。

「最悪・・・だな」

いや・・・
どちらかというとさらに現実から遠のく印象があった。

「あっ・・・あぁ・・・」
「助けて・・・・」

そこは実験体を補完する部屋なのか。
通路の両側に無数の部屋。
牢獄のような部屋で、
小さな小窓がついている鉄の部屋。
ナンバープレートで部屋わけされている。

「死に・・・・たくない」
「出して・・・・出して・・・・」

絶句した。
それは囚人達よりも酷い光景だった。
その通路を歩き、
横目に見える鉄の部屋。
その小窓から顔を覗かせる実験体達。

「あぐ・・・あ・・・」

今右の部屋にいる実験体は、
顔が肌色という色から間逆に遠のき、
両目が全く違う方を見ている。
口から垂れる唾液は緑色だった。

「綺麗?・・・ねぇ・・あたし綺麗?」

今左に見える部屋からは、
女性と思われる実験体が小窓から顔を覗かせていた。
顔。
顔だろう。
世界一整った顔だ。
世界一スッキリした、
世界一綺麗な顔だ。
口しか残っていないのだから。

「死・・・しししししに・・・・」

今右の実験室から顔を覗かせる男。
口をガタガタと揺らし、
死に掛けの犬のような目でこちらを見ている。
と思うと、
いきなり白目になって後ろにバタンと倒れた。

「たすっ!助けてくれ!俺はっ!俺はノカンになんてなりたくない!どうせ失敗するのにっ!」

今左の実験室にいる男は健全なようだった。
実験前なのか。
だが、
見る見る顔色がピンク色になり、
骨格が変貌していったと思うと、
顔が爆発したように出血して死んだ。

「悪趣味な・・・」
「なんなのよここは・・・・」

顔をしかめるマリナとイスカ。
気分が悪くなる。
当然だ。
これで気分が良くなるやつがいたら変態だ。

「予想以上だねぇーぃ・・・こんなとこにベイビーを案内するんじゃなかったぜぇーぃ」
「予想以下って表現の方が合いそうな気がするな」
「どっちにしろ見てて気分のいいもんじゃないわ・・・・」

歩いても歩いても見えてくる、
研究者という名の遊び人のオモチャ。
玩具。
生き物として取り扱われなかった者達の末路。
またはその途中。
いや、命は命。
そうは思われながらも、
研究者達にその命を"消耗品"として使われたもの達。

「ねぇ、これ見て」

歩きながら、
マリナはこの悪夢のような通路の壁を指差した。
コンクリートの壁に、
駄々草に書かれた文字。
"ミュージアム"

「博物館・・・か」
「悪趣味この上ないねぇーぃ・・・・鳥肌という名のコールドブレスが俺の心を突き抜けたぜぇーぃ・・・」

とにかく歩く。
早足で。
助ける?
無理だ。
してどうなる。
して何をしてやれる。
そしてそんなヒマはない。
目を背けて歩く。
地下という神の居所から離れた場所で行われた・・・
人間という悪魔の所業。
目を背ける事しかできなかった。

「あんなー、あんなー」

そんな事を関係なしに訳の分からない事ばかり言っているパムパム。
その声。
それが今だけは癒しをくれている気がした。

「!?」

イスカが振り向く。

「?・・・どうしたんだぁーぃ?サムライガール」
「何?また何か気配?」

イスカはまた周りを警戒しながら言った。

「今度は逆に気配を感じにくかった・・・・だが、わずかな足音が聞こえた」
「足音?」
「ここに来る途中でも感じたあの見えない気配かぁーぃ?」
「否・・・それとは別・・・・」

来る途中。
スウィートボックスと分かれた後、
長い通路で気配を感じた。
すぐ側にいるはずなのに確認できない気配。
だが、
今回はそれに似ているようでまた別・・・。

イスカは当たりを一通り見渡した後、
気配が無くなった事を確認し、
マリナとシャークに話す。

「恐らくまた別の人間・・・・だが、さっきの者とは違う奇妙さがあった」
「さっきの長い通路で感じた追跡者も十分奇妙だったわよ?」
「いるのに見つからない。まさにゴーストサスペンスのロードショーだねぇーぃ」
「いや、今回はインビジの可能性もあるが・・・・
 奇妙なのは今感じた気配の足音は、足音なのに足音じゃないというか・・・・」
「・・・・うん?」
「よく分からないぜぇーぃ・・・」
「地を進んでいない感じというか・・・・人の足音としては違和感があった」
「魔物かもしれないねぇーぃ」

シャークも魔物だ。
魔物が言うと説得力が少しある。

「まぁさっきと一緒でまた居なくなったんでしょ?とりあえずはまた保留ね」
「・・・・・うむ」
「どっちにしろどうする事もできないしねぇーぃ」
「だが・・・・2度こんな事が起こると・・・・」
「まぁ・・・何かしら私たちが狙いってのは間違い無さそうよね」

マリナは「やだやだめんどくさい」と言いながら首を振った。


「おい」

突然声が聞こえた。
どこから?
いや、
一つの実験室の中からだった。
実験室という監獄。
そこからこちらに呼びかけてくる声。

「・・・・・・?」

その時のマリナはあまりに不用意だった。
不用意にその声のした実験室へ近づいた。

「マリナ殿っ!うかつにはっ!」

イスカの呼びとめは一瞬遅く、
マリナがその実験室の小窓を覗き込もうとすると・・・

「動くなや」

「!?」

実験室の小窓から筒。
いや、
銃口。
照準がマリナの額をとらえたまま、
実験室の小窓から銃口が飛び出した。

「ベイビー!」
「マリナ殿!」

「騒ぐな!このアマの額にデカい穴を作りたなかったらな」

「くっ・・・・」

銃口で額を狙われたまま、
マリナは顔をしかめた。

「あんた覚えてるわ・・・・六銃士のエンツォ=バレットね・・・・」

「ほぉ?」

小窓の中、
実験室という名の独房の中で、
エンツォは顔をゆがめて笑った。

「お知り合いでっか?わいはよぉ覚えとらんけどなぁ」

「マリナさんは店を荒らしてくれた奴を忘れたりしないのよ」

「あぁ、《MD》の奴でっか。思い出した思い出した。
 ドジャーはんにはもう挨拶させてもろたわ。以後よろしゅう」

監獄の中、
エンツォはケタケタと笑い、
だが銃口は的確にマリナを捉えたままだった。

「で、本題や。わいをここから出しぃや。外からだと簡単なもんやろ。
 楽な取引や思いまっせぇ?わいはいい子さんには何もせぇへんから言う事聞いとき」

「あら?デカい口きいてる割には困ってるのね。これじゃぁどっちが追い込ま・・・・」

乾いた音が鳴り響いた。
耳を貫く破裂音。
撃たれた。
・・・。
弾はマリナの髪をえぐり、
向かいの壁で弾けた。

「えぇからグダグダ言わんと出しぃや。次は当てるでぇ」

うかつに近寄れないイスカとシャーク。
だが状況は見える。
エンツォの実際の殺意も感じられる。

「まぁ実際わいも困ってねや。ここも転送用の穴はあんねんけどな、出れりゃ困ってへんわ。
 囚人っぽいのが何人もここを通ってったけど、やっとアホを一人捕まえたってこっちゃ」

囚人?
ここまで脱出してきている者もそれなりに居たという事か。
だがまぁ、
こんな小窓しかない部屋からじゃぁその者たちを呼び止めるのは難しかったのだろう。
まぁ言われてみればいいカモで、
不用意すぎた。

「おいそっちのデクの棒」

エンツォが言う。
デクの棒。
まぁそんなの一人しか居ない。
マリナは振り向き、
イスカも振り向き、
シャークはキョロキョロとしていた。
イスカが「お前だろ」とヒジでシャークを押すと、
シャークは「あ、俺かい」と細長い両手を広げた。

「何だぁーぃ?」

「お前が開けぇ」

シャークは細長い右手で頭をポリポリとかくと、
その実験独房の前に行ってしゃがみこみ、
鍵を外し始めた。
まぁ鍵と言っても、
止め具が複雑に付いてるだけで、
外からなら簡単に開く仕組みになっていた。

「さっさとしぃや。それさえ終われば後は好きにしてえぇからな」

つまるところ、
エンツォもここから脱出したい人間なのだ。
帝国側から見れば、
脱走者は分散していた方がやっかい。
そういう意味でエンツォはマリナ達をオトリに得意の足で逃げる気なんだろう。

「・・・」

「そう怖い顔すんなやお嬢ちゃん。もうちょっとだけ銃口とにらめっこしててや」

「ちくわだーーー!!」

「うぉっ!!」

突然、
マリナとエンツォの間。
銃口の前にパンダが割り込んできた。

「な、なんやこいつ・・・・」

「あんなー!ちくわはな!穴の部分が一番おいしいんだ!」

銃口の前にいきなり飛び出してきたパンダ。
恐れはないのか。
いや、愚問だった。
あるはずないだろう。

「おいお主!マリナ殿が人質になっておるのに!」

とイスカは言ったが、
今銃口を突きつけられているのは割り込んだパムパムだ。
・・・という事で、
言っておきながら何を怒ればいいのか分からなくなった。

「ここはなんだー?なんなんだー?洗濯機かー?ちくわ乾燥機かー?」

パムパムは小窓から中の様子を見回す。
ドアに張り付きながら、
キョロキョロと。
そこから飛び出しているライフルは見えないのだろうか。

「なぁー、ぐるぐる回るのかー?いつ回るんだー?食後かー?」

「死にたいんかあんさん!何なんや!・・・・・ん・・・・・・いや・・どっかで・・・・」

「漂白剤は一日3回寝る前に飲むんだー」

「ぁあーん?だから何言っとんねや!」

「絶対よく振ってから栓を開けなきゃダメなんだー。じゃないとお通じが悪くなるんだー」

「ちょっと黙れや!」

「お前便座が好きそうだなー」

「何でやねん!」

マリナ達はそれを見て、
ツッコミとはあそこまで露骨に使うとこんなにも安っぽく聞こえるんだなと、酷く納得した。
何でやねん。
それは死語なんだな・・・・・と確認し、
心のメモ帳に刻み込んだ。

「おい」

小声で、イスカはそうマリナとシャークに呼びかけた。
そして手招きする。
なるほどと納得した。
とりあえずあっけに取られていたが、
今がチャンスだ。
パムパムには悪いが、
彼女はまったく関係ない。
このままエンツォの相手でもしてもらって、
自分たちはとっとと行ってしまうべきだった。

シャークがいじっていた独房の止め具は、
あと一つ外すだけで開く状態だったが、
シャークをそれを外すのをやめてソッと立ち上がろうとした。

「便座はなー、いい旦那さんになると思うんだー」

「ほぉ、そりゃ尻に敷かれるって意・・・やかましいわ!」

エンツォとパムパムが漫才をしている間にマリナ達は、
足音をたてないように・・・・
ソッと忍び足で・・・・

「でもなーでもなー、ワイフのためなら仕事・・おっ?」

突然パムパムがバランスを崩した。
そしてパムパムのヒジが最後の止め具をぶっ壊した。
マリナ達は3人同時に顔を覆って「あちゃぁ・・・」とため息を吐いた。

そしてドアが思いっきり蹴り開かれた。

「おっ?おっ?おっ?おっ?」

パムパムは開いたドアにぶつかり、
地面をゴロゴロと玉のように転がった。

「あぁー疲れたわぁー。久しぶりの自由やなぁ」

エンツォはゆっくりと独房から出てきて、
機械仕掛けの両腕を上に伸ばして大きく伸びをした。
暗くて見難かったが、
マリナ達は機械仕掛けのエンツォの体を初めて見た。

「あぁ、あんさんらご苦労さん」

血の通っていないような白髪を揺らし、
エンツォはマリナ達に言い放った。

「感謝やなぁ。あんさんらは災難やったろうけどな。
 あとは自由にしぃや。勝手にのたれ死ぬのも自由や」

そしてエンツォは、
マリナ達の間を堂々と歩き、
立ち去っていく。
立ち去っていきながら言い残す。

「ついでに言っとくわ。そのパンダ。44部隊やで」

「!?」
「・・・・何だって?」

マリナ達は、
転がった末、テディベアのように座っているパンダ娘を見た。

「だから本当にあいつの家の布団が吹っ飛んだんだってぇー。本当だってぇー。
 3丁目の主婦の間ではもっぱら噂なんだよー。え?マクラは飛ばないだろー」

これが44部隊?
本当なのだろうか。
分からない・・・。
そうは見えないが・・・・

「あんさんらも大変やなぁ。っていうより大変なのはやっぱ"そこ"やなぁ。
 このパンダ娘がどうこうより、なんで44部隊がこんな地下にってこっちゃなー」

歩き去りながら言い残すエンツォ。

「ほなさいなら。まぁ元気でやってや。ドジャーはんによろしくな」

そしてエンツォはその先の角で曲がっていった。
行ってしまった。
そして、
数秒後。
曲がり角の先で何発も銃声が鳴り響いた。
何があったかと気になったが、
まぁそれはそっちに行けばすぐ分かるだろう。

「無駄な時間をくったな・・・」

取り残されたような形。
そこでイスカはそう言った。

「結局寄り道になったのは確かだねぇーぃ」
「けど無駄だったかどうかは・・・・」

マリナは途中まで言い、
目線を変えた。
それはパムパムへだった。

「・・・・・・・・・本当にこの子が44部隊なの?」
「わからぬ・・・」
「だけど普通に考えると怪しいものは怪しいぜぇーぃ。
 このギルドダンジョンに居るって事は囚人か敵かどっちかだぜぇーぃ?」

その通りだ。
ここは・・・敵の本拠地の中なのだから。

「目安箱が有料化したのかー。町長さんもビックリだなー」

・・・。
とりあえず危害はなさそうだが・・・・。

「行こう」

イスカが言うと、
マリナ達はパムパムの横を素通りして歩いた。
つまり・・・
置いていこうという事だった。
ただでもメリットはなかったが、
44部隊かもしれないとまでなると・・・
連れて行くのは危険すぎた。
だから・・・
黙っておいていった。

「おっ?おっ?」

パムパムは地面に座り込んだままキョロキョロと首を振った。
マリナ達がそっと行ってしまった事に気付かなかったようだ。

「あれ?あれ?眼鏡はどこだ?」

わけの分からない言葉と裏腹に、
パムパムは明らかにマリナ達の姿を探していた。

「あれー?あんなー、あんなー、オラ思いついたんだー。
 いっそピクルスでなーハンバーグを挟めばいいと思うんだー」

パムパムはマリナ達を探し、
周りを見渡す。

「・・・・・・遊ぼー、なぁー、ジャングルジムがなぁー」

少し寂しそうだった。



















「ねぇ、やっぱ危ない子ではなかったんじゃない?」

マリナは歩きながら言った。

「敵意はなかったしさぁ、やっぱあんなところに置いてきたと思うと今更だけど・・・」
「考えたってしょうがないさマリナ殿。結果は得られん。最善だったとは思う」
「サムライレディーの言うとおりかもねぇーぃ。
 とりあえず脱出することだけを考えるなら最善だったと思うぜぇーぃ」

まぁマリナもそう思ったからこそ、
こうして歩いているのだ。
敵かもしれない。
44部隊かもしれない。
そして連れて行くだけでも危険度はあがる。
だがやはり気にはなった。
あの実験室の通りを通ったことも関係している。
自分たちのために他を見捨てる。
生きるために当たり前のようにしてきたことだが、
やはりそれはいい思いでやってきたわけではない。

マリナが思いつめるように歩いていると、
イスカが突然足を止めた。

「・・・・・・・・・むごいな」

イスカは足を止めて、
横、
少し大きな扉の部屋の中を見ていた。
開け放たれたその部屋。

「さっきの銃声はこれだったみたいだねぇーぃ」

その大きめの部屋。
その中では、
血が散乱していた。
白衣のような研究服を着ている研究者たちが、
その部屋の中で横たわっていた。
おそらく・・・・研究者たちが普段研究をしに集まる部屋。

「まぁ実験房の中に居たわけだからな。あの体はここで手に入れたのだろう」
「・・・・・それでもう出て行くから用済みってことね」

エンツォはここを通るついでに、
研究者達を皆殺しにしていったようだ。
複雑な気持ちだ。
この人々は、
あの地獄のような実験体達を作り上げてきた、
人の命を弄ぶ罪人だ。
だが、
こうして死んでいると、
不思議と彼らを同情する感情まで出てくる。
人間なら当然だった。
だが、
やはり自業自得だろう。

「死体見学はこれ以上は御免だな」

イスカはそう言って歩き始めた。
長居して感傷に浸る必要はない。
マリナとシャークも歩き出す。
逃げる。
それが最優先だからだ。

「さっさと脱出しよう。ここがどんな所であれ、今居る場所ではない」
「そうだねぇーぃ。早くベイビーに外の光をプレゼントしたいぜぇーぃ」
「ねぇ、その事だけど」

マリナが歩きながら言う。

「逃げる前に寄り道したいんだけど・・・・」

その言葉に、
さすがにシャークとイスカは眉をゆがめる。

「どうしたんだいベイビー?」
「マリナ殿の意見とはいえ賛同しかねるな。今は急いで出たほうがいい。
 エンツォの話だと、他の囚人もなにげに突破してきているようだ。
 考え無しだったが、先に行った囚人たちとエンツォのせいで脱獄がバレる」
「それもそうなんだけど・・・」
「とりあえずどうしたいかだけ言ってくれないかいベイビー。
 ベイビーの考えを知らないと、賛成も反対も宇宙の彼方へとトラベリングさぁー」

マリナは頷きながら、
話す。

「武器を取り返したいの」
「・・・・・・」
「・・・なるほどねぇーぃ」

武器。
つまるところ、
マリナのギターと、
イスカの剣。

「・・・拙者にとってもセイキマツはカージナル殿に託された大事な剣。
 いつかは取り返さなければとは思っていたが・・・・」
「私にとってもそれは同じ。あのギターはシャークに貰った大事なギターだし・・・」

その言葉に、
イスカはシャークを睨む。
僻み。
マリナがあのギターを大事にしている事から、
あのギターへの愛情を分かっているから、
それをプレゼントしたのがシャークと分かると悔しかったのだ。
シャークはイスカの目線に「?」を返すだけだったが、
イスカはここを出たらマリナに何かプレゼントしようと必死に考え出した。

「こんなところ、またこれるとは限らないし・・・」

マリナがそう言う。
それはそうだ。
帝国アルガルド騎士団。
こんなところには普段入ってこれないだろう。

「逆に取り返すチャンスは今しかないって事だねぇーぃ」
「・・・・ふむ」

歩きながら、
シャークとイスカは少し考えた。
だが結果は出ていた。

「しょうがあるまいな・・・」
「ほんとっ!?」

嬉しそうな笑顔が逆にイスカの心を複雑にした。

「でもとりあえずどこにあるのか分からないと意味ないぜぇーぃ」
「エースよ。44部隊のエースって奴。あいつに取られたわ」
「拙者もだ。だが44部隊と接触か・・・危険だな・・・」
「いや、まずはその男の部屋にでも忍びこんでみようぜぇーぃ。
 彼らだって別に仕事じゃないのに普段から武器持ち歩いてないと思うぜぇーぃ」

まぁ、
その場所が分からない限り、
やはり探すことになる。
敵の本拠地の中を・・・・。

「とりあえずギルドダンジョン自体はあと数分も歩けば出れると思うぜぇーぃ」
「だな」
「場合によってはまた判断するべきだ。あまりにも無理だったら脱出を優先すべきかもしれない」
「それは分かってるわ・・・・」
「・・・・・おい・・・・ベイビーとサムライガール・・・」

前方を見ていたシャークが言う。
何かに気付いたか。
マリナとイスカも見る。

「・・・・!?」
「モンスター!?」

身構える。
モンスターだ。
4・5匹といったところ。
もう出口も近く、
出てこないと思ったが、
何故こんなところに・・・

「素手であれだけ倒せるかしら・・・・」
「別の道に行くって手もあるぜぇーぃ?」

素手というのはかなりネックだった。
普段ならどうってことないだろうが、
正直やばいかもしれない。


「通りたきゃ通りな」

だが、
モンスター達の方からそう言葉が返ってきた。
人語を話すタイプのモンスターか?
・・・・・・・
いや・・・・

「通っていいっつってんだろこのトロブタ共がっ!!」

モンスター達の中、
壁にもたれ掛ってあぐらをかいて座っている人間が一人。

「お前らは人語が理解できねぇヒポポタマスか!?あん?!
 あちきはアニマルとコミュニケーションはとるがアホとはとりたくねぇな!」

「なんだあの格好・・・」
「・・・・・オオカミ?」

オオカミ。
つまるところ、
その者はオオカミ服を着て、
オオカミ帽子をかぶっていた。
だが、
様子からするに女性のようだ。
しゃべる時に見える八重歯が特徴的だった。

「パンダの次はオオカミか・・・・」

「あぁん!?なんだその言い方わ!ふざけてんのかこのメスモンキーが!
 オオカミだとなんかあんのか!それはアニマル差別かこのチンパンがっ!」

アニマル差別とかどうとか言いながら、
チンパンとかを悪口に使っているのはどうなんだろうか。
とりあえず警戒しつつも、
彼女に近づいた。
オオカミ服を着た彼女は、
壁にもたれて座ったまま、
自分の横のモンスターを撫でる。
いや、
モンスターではなく守護動物か。
こんなにも同時に飼っている者は初めて見る。

「ねぇ、通っていいってどういう事?あなた帝国に人間じゃないの?」

と、言いながら、
慌ててマリナは口を両手で塞いだ。
それはわざわざ私たちは脱獄者ですと言ってるようなものだ。

「いいんだよ!何度も言わすなこのタコ!あちきはオウムかなにかか!?
 いいからあんたらチンパンは負けドッグのようにとっとと逃げてろっての!」

よく分からない・・・
罠?
いや、
敵意があるなら襲ってくるだろう。
だがだからこそ罠?

「あぁー!うざってぇなぁ!!ウマシカ野郎の相手はこれだから疲れる!
 通れっつったら通れよ!ドッグやキャットだってそれくらいできらぁ!」

八重歯が見える。
それくらい大きな口をあけながらキレている。

「あの・・・・」
「とりあえずベイビーはなんなんだぁーぃ?」

「あぁー?」

女狼は、
八重歯を見せながら顔を歪めたが、

「あぁ・・・まぁそうだな。アニマルの世界にだって挨拶はあるからな。
 バードだって挨拶でクチバシをつっつき合うしな。あちきがしないのはアニマル差別だな」

そう言って、
狼女は片手をあげて言った。

「こんにチワワ!あちきはキリンジ=ノ=ヤジュー!メスだっ!」

なんか寒い挨拶と共にそう言うと、
キリンジと名乗った狼女は座ったまま、
口を突き出して手招きした。

「な・・・何?」
「なんだ・・・」

「あぁ!?何ってアホか!どんだけお前らヒポポタマスなんだよっ!
 さっき説明しただろ!バードの挨拶はこうやんだよっこの鳥頭がっ!!
 ほらこっち来いっつってんだろカバ野郎!クチバシで突っつき合うくんだよっ!」

分からない。
これはこれでイカれてる気がした。

「え、遠慮しとくわ・・・・」
「拙者らは人間の挨拶でいい・・・」
「俺は人間じゃないけど普通の挨拶でいいぜぇーぃ・・・」

「なんだこらっ!!それは差別か!?アニマル差別か!?」

「い、いやいやいや・・・人間だから人間というアニマルとして生きようと思って・・・」

「・・・・・ふぅーん」

キリンジは少し考えた。
そして頷く。
頷くとオオカミ帽子のせいで、
頭の上のオオカミが頷いているようにも見えた。

「分かった。まぁいいっ!とりあえずまぁよしとしよう・・・・・・・・っん!?
 そうだっ!お前らさっさと行けよこのヒポポタマス共っ!
 何回言わせりゃ済むんだこのハゲタカ頭どもがっ!」

「「「・・・・・・・」」」

何で怒られているのかも分からないので、
もう黙っていう事を聞く事にした。
キリンジと、
5匹ほどの守護動物の横を通り抜け、
マリナ達は先に進んだ。







「・・・・・・・ったく」

キリンジはマリナ達が通り過ぎたのを確認し、
WISオーブを出した。

「キャットのように言う事きかねぇウマシカ野郎共だったぜ」

そしてTRRRRという通信音の後、
ガチャっと通話状態になる音がした。

「あぁー?エースか?エースだよなぁ。・・・・あ?分かってんだよこのチンパンジーがっ!
 ・・・・・・・・あぁ。今あちきの前を通ってったよ。あ?他の44部隊?
 知るか!知るかってんだ!あちきは物知り九官鳥じゃねぇんだよ!・・・・っと。
 そういえばパンダがどうこう言ってたからパムパムとはち合わせてるなありゃ。
 ・・・・ん?カゲロウマルと・・・・・あぁ!?何だって?聞こえねえよ!デカい声だせモンキーが!
 聞こえるように言え!セミが鳴くみてぇによぉ!そんなんでアニマルコミュニケーションできるか!?
 ・・・・・・・あ?・・・あーあーなるほどな。あいつらもあのヒポポタマス共をストーキングしたわけなー。
 あちき?あちきはうまくやったさ。・・・・・・・・・・・・・やったっつってんだよっ!!
 なんも怪しまれてねぇよ!ケンカ売ってんのかカモシカ青二才がっ!!
 ・・・・・何ぃ?何って?あ?パムパム?・・・分かってるっつんだろこのヒポポタマスがっ!!」

一方的にキレ、
一方的に通信を切るキリンジ。

「ったく・・・どいつもこいつもウマシカばっかだな。まともなアニマルはいねぇのか。
 なぁ?お前らみてぇに話の分かるアニマルだといいんだけどよぉ」

独り言ではない。
守護動物達に話しかけている。
そして動物の言葉の分かるとも自称している。

「まぁこれで44部隊で挟み撃ちする形になるわけだ」

キリンジは八重歯を出してニヤりと笑う。

「そろそろあちきもあのヒポポタマス共を追いかけるか」

そう言ってキリンジは立ち上がった。

「あんなー」

だが背後から声がした。
そこにはパンダ服を着た女が立っていた。
パムパムだ。
とぼとぼと歩いてきて、キリンジに話かけてきた。

「あぁ忘れてた。お前の世話もあちきの仕事だったな」

キリンジはポンっと両手を合わせる。
パムパムは元気がなさそうだったが、
マイペースに話す。

「あんなーあんなー・・・カブトムシだって家ぐらい建てれると思うんだー。
 あいつらのガッツは年末の横綱より凄いと思うんだー」

「フフッ、そうだな」

キリンジは八重歯付きの笑顔を振りまき、
手をパムパムの頭に乗せた。

「カブトムシはすげぇもんな!」

キリンジは八重歯を見せてニカっと笑う。
パムパムはその反応が嬉しそうだった。

「でなー!チョコレートの王様はいつも裸で町を歩いててなー!
 それは馬鹿にしか見えないんだー。普通は帽子をかぶって見えるんだー」

「なるほどウマシカだけか。ウマシカも馬鹿にしたもんじゃねぇわなー」

よく分からん会話だが、
ある意味凄くスムーズに会話している。

「あんなー・・・・オラ遊ぶのがなー・・・・・・」

「大丈夫だっ!」

キリンジはパムパムの言葉を静止するように、
パムパムを抱きしめた。

「あちきは分かってやんぜこのキテレツパンダ野郎めっ!あちきはアニマル差別はしねぇからなっ!」

基本的に、
44部隊はパムパムの扱いをキリンジに一任していた。
何の因果か知らないが、
キリンジだとパムパムを操れる。
操れるというと響きが悪いが、
つまるところ、
パムパムの歯止めがきくのはキリンジだけで、
(本人曰く)パムパムを理解出来るのはキリンジだけらしい。
実際わけの分からん会話は成立している。
言葉の通じない動物と会話するようなもので、
言葉は関係ないのかもしれない。
彼女の言うアニマルコミュニケーションというやつなのだろうか。

「ほれ、メスパンダ!」

キリンジはパムパムを離し、
横に立て掛けてあったものを手に取る。
それは・・・ノカンクラブだった。

「おぉー!なんだー!今日も天気予報は元気だなー!おとがめなしかー!?」

「そうだっ!モンキーみたいに元気だっ!ゴリラもウホウホだなっ!」

そう言いながら、
パムパムの手にノカンクラブを握らせる。
両手でパムパムの手に握らせた。

「パムパムッ!アニマルの力見せてやんぞ!」

「あんなー、アナウンサーの足の裏からはなー、マイナスイオンが出てるんだー」

「そうだなっ!!その意気だっ!!」

キリンジはパムパムの肩に両手を置き、
パムパムの向きをグィっと90度回転させた。

「あっちに行ったヒポポタマス共が遊んでくれるってよっ!」

「あんなー、毎月9の付く日は洗面所の裏で焼きソバを売ってるんだー」

「おうっ!」

そしてパムパムの背中をポンッと押した。

「遊んできてやれっ!」

パムパムはわけも分からないように笑った。

「遊ぶっ!」























「この辺りの通路はもうかなり綺麗になってきたわね」

歩くマリナ達。
周りの景色。
かなり整備されている。
少しゴミなどが落ちているが、
それは人がこの辺りを使っている証拠。
この地下。
ギルドダンジョンの出口は近い。

「出来れば武器を取り戻すための情報を収集してから地下を出たかったねぇーぃ。
 いきなりルアス城内に出て無闇に目的地を探すのはデンジャラスさぁー」
「だがしょうがないだろう」
「フフッ、当たって砕けろっていうのは私得意なのよ?」

気のせいか元気が出てきた。
とりあえず少なくともこの地下からはもうすぐ出れる。
実際牢獄生活で体に疲れは溜まっていたが、
それが吹き飛ぶような気分だった。

「出たらまずどうしようかしら。お店の掃除からかな♪」
「おぉー、ベイビーの店は俺も見てみたいぜぇーぃ!」
「いいわよ!特上の料理をご馳走してあげるんだから!私の成長見せてあげるわ!」

マリナがシャークを相手すると、
イスカは途端に不機嫌になる。

「もちろんイスカにもねっ!」
「!?誠かっ!?」

そしてマリナにそんな事を言われると、
途端に機嫌が良くなる。
分かりやすいものだ。

「それよりさっきはペースに飲まれててだけど、あのオオカミガールはなんだったんだろうねぇーぃ」
「ふむ。思い返すと怪しい事この上ないが・・・・」
「過ぎた事はいいじゃない!前に進まないと出れないわっ!」

前向き加減。
マリナらしい部分だ。

「とりあえずこの地下はともかく、地上に出たら素早く行動しよう」
「そうね。普通に帝国の奴らがいるわけだもんね」
「一応何かあった時はどうするか決めておくべきじゃないかぁーぃ?」
「はぐれた時とかか?」
「まぁはぐれないようにする方が大事だけどね」
「だが万一の時は個人でも脱出をはかる事にしよう」

と言いながらも、
イスカはもしそうなった時マリナを探すだろう。

「WISオーブがないのがやっかいよねー・・・」
「どこかでゲートも調達したいねぇーぃ。あのワンダフルなアイテムがあれば、
 もしもの時も外さえ見えればなんとか脱出できそうだからねぇーぃ」
「ふむ。足で出るより楽そうだな」

そしてまたT字路に直面した。
最初から数えると20個目を軽く超えたT字路。
十字路やY字路などを合わせると、
何度選択肢があったか。
だがもうすぐ出れる。

「たしかここは左だったはずだ・・・・・・・・ん?」
「・・・?どうしたのイスカ」
「また気配かぁーぃ?」
「気配というか・・・・」

イスカはその先を言わなかったが、
マリナとシャークにもすぐ分かった。

「・・・・・・・ぽ・・・しゅ・・・・・しゅ・・・しゅぽ・・・・・・・・・・」

遠くから声が近づいてくる。
ちょっとづつちょっとづつ声が近づいてくる。
何の声?
いや、
もうなんとなく分かる。

「・・・・・ぽしゅしゅ・・・しゅしゅぽぽオイモさんしゅしゅぽぽ・・・・・」

「ついてきたか・・・・」
「どうする?」
「どうするったって・・・・」

「しゅしゅ!ぽぽ!しゅしゅ!ぽぽ!しゅしゅ!!ぽぽ!!助けてポッパァーーーイ!!!」

パンダが全力ダッシュで走ってくる。
パンダ娘が走ってくる。
走りこんでくる。
両手を飛行機のように広げ、
全力ダッシュで走ってくる。

「ちょ・・・」
「なんか・・・・」

走ってくる。
パンダが走ってくる。
走ってくるに違いないんだが・・・・・

「メ・・・メチャクチャ速くない!?」

速い。
速すぎる。
なんだ・・・
人間の脚力なのか?
それともパンダの脚力なのか?
分からない・・・
分からないがまるで暴走機関車のように突っ込んでくる。
何一つ迷いなく、
暴走パンダがもの凄い勢いで走ってくる。

「あぁああああそぼぉおおおおおおおおお!!!!」

「おわっ!!」
「避けろ!!」

パムパムは超ダッシュから飛び込んできた。
満面の笑顔で。
私を抱きしめてを言わんばかりに。
超暴走ダッシュから、
ジャンプして飛び込んでくる。
その勢いはもうミサイルを凌駕している。

「きゃっ!」

なんとか・・・・・
なんとかマリナ達は咄嗟に避けた。
鉄球がぶっ飛んでくるような勢いだった。
超ダッシュから飛び込んできたパンダミサイルは、
マリナ達が避けても
当然勢いはそのまま。
T字路の壁に「マンモス!」と叫びながら突っ込んだ。

「ちょ・・・」

轟音と共に、
パムパムがT字路の壁を突き抜けた。
コンクリートの壁がぶっ壊れた。
パンダミサイル被弾。
その威力・・・
いや・・・恐怖すべきは威力ではなかった。
パムパムが突っ込んで壊れた壁。
その壁・・・
その壁は・・・・

パムパムの形に穴が空いた。
あんなの漫画以外で見たことがない。

「レントゲン妖怪電動アンモニウムめっ!!」

そう叫びながら、
パンダ型の壁は崩れ、
壁の中からノカンクラブを持ったパンダ娘が出てきた。

「陵辱されたパイナップルの恨み!彼らはただイチゴのツブツブが好きなだけだったのに!
 これ以上マンゴーの侵攻は神が許しても!オラが許す!のかなぁ!どうなのかなぁ!」

パムパムはノカンクラブを掲げた。

「あんなー、消しゴムの角あるだろー?あいつ結構恥ずかしがり屋なんだー
 でもなー、それが結構ツンデレでなー。クラスでは人気あったりするんだー」

パムパムはノカンクラブを下ろすと、
ノカンクラブを引きずりながら、
こちらに歩いてきた。

「でも万年筆が年金を払わないからさすがに怒ってなー、
 なんなら米を食えばいい!って叫びながら油性ペンを滅ぼしたんだ」

ノカンクラブを引きずりながら近づいてくるパムパム。
それに合わせて、
ちょっとづつ後ろに後退するマリナ達。

「・・・ど、どうする?」
「ベイビー・・・どうするったって・・・」

「遊ぼー。オラ凄く種がいっぱいあるスイカを知ってるんだー。
 赤いところがなくてなー、おばあちゃんが泣きながら食べてたんだー」

やばい感じがする。
よく分からないが・・・
凄くやばい感じが・・・・

「し、進行方向はあっちなんだけど・・・」
「だが・・・・」

目の前。
立ち塞がるといってもいい。
パムパム。
よく分からないが・・・。
危険だ。
それだけは分かる。

「パムパムちゃん・・・ちょっと落ち着いて・・・・」

「おー?」

パムパムは首をかしげ、
考える。
だが、
ノカンクラブを振り上げ、

「お前も浪人生にしてやろうかぁーっ!!」

こちらに向かってきた。
その瞬間、
何も言葉を交わさなくても3人の意見はまとまった。

「一端!」
「逃げよう!」

同時に振り向き、
全力で来た道を走る。

「もー。だめだなぁー。洋式トイレは4人使いなさいって言ったのになー」
























「あいょー。こちらエース。んー。OKー。りょうかーい」

エースは一端WIS通信を切り、
そしてグループ通信に切り替えた。

「あー、こちらエースー。名無しのエース君から皆に報告ー。・・・・・パムパムが標的と接触した」

エースはWISオーブごしにニヤりと笑う。

「ピルゲンの指示ってのが気に食わねぇ奴もいると思うぜ?俺もだかんな。
 だが俺たちゃ44部隊だ。こーいうので格好悪い真似はできねぇよなぁ・・・・。
 ぁー、何人参加だったっけか。まぁとにかく今回の参加メンバー全員で一気に潰すぞ。
 いいな?・・・・・・・行くぜ死並び部隊。王国騎士団に栄光あれ!・・・・・・ってな♪」











                 






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