同じ能力、
同じ時に生まれ、
同じ環境で育つ。

だが差は開いた。

兄には勝てない。
それはアインハルトの方が最終的には勝っていたという事もあるが、
それだけではなく、
悲しくも・・・・
自分と兄が違う性別である事に気付いた頃に・・・・それにも気付いた。

「アインハルト、ツヴァイ。今日はお前らの誕生日だ。何か欲しいものがあるか?」

同じ条件下であれば、
男の方が戦闘力が上である事は肉体的にしょうがなく、
同じ条件下であっても、
性格が同じになる事はない。

「・・・・・なぁ・・・・たまには心を開いて欲しい。何でも言ってくれ」

一番の痛手は才能ではない。
"固執"
それだと思った。

「あ、あの・・・オレは・・・・ぬいぐ・・・」
「俺はない」
「・・・・オレもない」

母性本能。
そう呼ばれるものもそれの一種だろう。
愛着。
結果がそう呼ばれるものだろう。

ぬいぐるみなんて女らしいものを欲しくなったのは、
あの日だけだった。
本当にその日だけだった。
ふとその日、
道端でぬいぐるみを抱えてる子を見て「いいなぁ」と思った。

「与えられるなんて事はまっぴらだ」

兄はそう言った。
自分もそうならなくてはと思った。
人生でたった一度。
女らしい感情もったあの時。
それはいらないものだと気付いた。

「邪魔だ」

兄はなんでも捨てる。
何かに固執することはない。
邪魔なら否応無しに消す。
真なる残酷で、
真なる最強だと思った。

「世の中、皆カスばかりだ」

兄は世界を手に入れる。
手に入れようと思ったから手に入れたのだ。
与えられるでなく、
手に入れた。
兄にはそれだけの能力があった。
だが、
その世界さえもどうでもいいのだ。
ふといらなくなる。
ならば捨てる。
固執はない。
その残酷さ。

何にも興味がない。
あってもそれは薄っぺらな興味。

極限に言えば・・・・・"迷い"がない。
それは皮肉にも彼の最強なる才能なのかもしれない。

「あいつは目障りだ。殺せ。ツヴァイ」

そしてその固執感のなさ。
話は戻るが、
それが自分と兄との違い。

「分かりました兄上」

自分にとって兄は大事だった。
愛着と呼ばれる部分も少しあったかもしれない。
兄は最悪で、
兄は最強で、
兄は最凶で、
兄は最恐だ。
その兄に従うのは当然で、
誰もが、
そして自分もが、
兄に従うのは当たり前の事だった。

「やりました兄上」
「・・・・ふん」

礼もなく、
ただそれが当然のような兄。
だが、
オレは兄上の力になるよう努める。
それだけ。

だが、
何度も言うように、
兄には"それ"がない。
血にまみれ、
兄のために尽くしたオレだったが、
それは一瞬で捨てられた。

「血で汚れた。それくらいにしか感じぬな」

自分を貫いた兄が、
投げかけた言葉だそうだ。






「!?」

ツヴァイは起き上がった。
勢いよく起き上がった。
全身汗だらけだった。
両手を見る。
やはり汗だらけだった。

「・・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・」

周りを見渡す。
白と灰色の部屋。
窓の外には曇り空。
薬品臭さが鼻にしみる。

「・・・病院?そうか・・・・オレは兄上に・・・・・」

自分の腹をさする。
穴。
包帯が巻かれている。
血が浸み込んでいる。
だがある。
兄に貫かれた穴はない。
その怪我ではない。
じゃぁなんの傷だ。

「いや・・・・それは昔の話か・・・・・」

バンビに刺された事を思い出した。

「・・・・フッ・・・・・」

白く安いベッドの上で笑みがこぼれる。

「あんな簡単に死にかけるとは・・・・・・」

本当におかしくて出た笑みだった。
兄以外にはやられまいと思っていた。
ロウマにだって、倒せなくともやられまいと思っていた。
だが、
あんな小娘に命を貫かれた。

「これが・・・・・差だな。兄上と・・・・・オレの・・・・・」

悔しさではなく、
笑みがこぼれる。
目を瞑る。

「・・・・兄ならあんな油断はない・・・・・・・・この結果の原因は・・・・・・"情"・・・・か・・・・。
 間違いなくオレはそれを受け入れた事で弱くなったという事だな」

情。
実際それを溢さなければ、
バンビなんかに殺される事はなかった。
つまりそれはアインハルトには100%無い過失。
自分と兄の、
究極に違う部分になった。

「・・・・・・・・」

ふと横を見ると、
病室の傍ら。
というよりベッドの傍ら。
そこに花があった。
花瓶にさしてある花。

「ふん。縁起でもないものを」

その花を一本とる。
・・・・・。
ありふれた表情をした花で、
こんな所にあるのは違和感のある花で、
それでいて綺麗だなぁと思った。
そんな事を思ったのは初めてだった。

「花に感情を動かすか・・・弱くなったものだ」

いや、
それは自分が感情を開いたことで、
少し女らしくなったという事だが、
さすがにその変化には鈍感だった。
それよりも、
花の名前を知らない事に気付いた。

「花も命か。弱ければ弱いほどくだらん命だと思っていた。
 花に命など考えたこともなかった。ただのカスだとな」

この感情の違いは、
不思議で、
感じた事のないもので、
そして暖かく気分のいいものだった。

「この花には感情はあるのかな。ないのかもしれん。あるのかもしれん。
 どちらにしろ小さなものだ。・・・・・・だが・・・カスとは違うな。
 綺麗に咲いている。こんな小さな命でも立派に生き誇ったのだな」

それに比べて自分はどうだ。
この花はこのまま花瓶で枯れる運命だが、
自分は咲いてさえいない。
兄という花を飾り立てることばかり考え、
自分は養分として生きただけ。
雑草にも劣る生き方だと思った。

「オレもお前のように生きたいよ」

そう言い、
ツヴァイはその名も知らぬ花に口づけをした。


「あっれーーー!?起きてるジャン!」

「!?」

ドアが勢いよく開いて、
病室に一人の男が入ってきた。
金髪の短髪の童顔な少年だ。

「・・・・・・・」

ツヴァイは顔の前に花を持ったまま、
顔を真っ赤にして硬直した。

「・・・・・」

そして、

「かか勝手に入ってくるなカスが!!!!!」

全身全霊。
心の叫びを曝け出し怒鳴った。

「うっうわ・・・なんだよ・・・」
「ウキィ・・・」

猿を頭に乗せた少年は驚き、
頭の上の猿もビックリして小さく跳んだ。

「・・・・・なんのようだ」

ツヴァイは落ち着いたようで、
花を花瓶に戻しながら言う。
まぁ顔はまだ少し赤い。

「あぁー・・・えっと・・・オイラはチェスターで・・・オイラは・・・・」

「そっちの名は?」

「へ?」

「そっちの猿の名だ」

「ウキ?」
「あ?・・・・あぁ!!ハハッ、えっとな!こいつはチェチェ!」
「ウキキ!」

チェチェはチェスターの頭の上で嬉しそうに飛び跳ねた。
チェスターも嬉しそうだ。
猿の方の名だとあまり聞かれた事がなかったのだろう。

「ふん。・・・で、」

「あぁーー・・・んーーっとなぁ」

チェスターは首を傾けて考える。
まぁ言伝とかそういうものは苦手の範囲だ。

「んとー・・・あ、オイラは《MD》の一人でな!」

「《MD》?」

「え?・・・えぇーっと・・・ドジャーの仲間ってことでぇー・・・」

「ドジャー?」

「ありゃ?」

「・・・・・・・あぁ。アレックスの仲間のあいつか」

「あーそれそれ!!多分それジャン!」

戦っている時は、
正直あまり興味のない人物だった。
それを悪いと思う可愛げまでは持ち合わせていないが・・・・

「んとな、意識戻ったらこれ渡してくれって」

チェスターはそう言い、
一冊の本をツヴァイのベッドの上に置いた。

「記憶の書・・・か」

「うん。あんな、その本の最後のページの座標。そこに飛んでくれってさ。
 そこがオイラ達の本拠地なんだ。あ、体を休ませてからでいいと思うけどさっ!」

「分かった」

「あ、ゴメン。石忘れてた。それは自分で買ってくれ!」

「分かった」

「あとぉ・・・・」

「まだ何かあるのか?」

まるで子供のお使いだ。
ゴボウください。あとぉ・・・あ、ダイコンも!
まぁチェスターはお使いなどできないかもしれない。
そんなチェスターが明るい笑顔で言う。

「一つ伝えて欲しいんだ!」

「?・・・・自分で言えばいいだろ?」

「いやぁー、オイラもさっき退院したからさすぐにでも行きたいんジャン。
 行かなきゃいけない所があるんだ。それを伝えて欲しいんだ!」

「・・・・・・ふむ」

「"行ってくる"ってだけ伝えといてー!」

そう言ってチェスターは慌しく病室を出て行った。







































「汚い場所だ」

転送が終わり、
辿り着いたところ。
"反抗期の巣"
通称コロニー。
スオミダンジョンの一層。

「・・・・・おっと」

踏み出そうと思ったが、
一度踏みとどまった。

このコロニーは、
この入り口だけが天井が空洞で、
日の光が差し込んでくる。
故に入り口は田畑で埋め尽くされているのだ。
それを踏まないように気をつけた。

いつもならこんなもの気にせず踏みつけ歩いているところだが。

「おい・・・」
「なんだあれ・・・」

ツヴァイの姿を見て回りがざわめく。
それはそうだ。
突然入ってきた一人の人間。
見たことのない人間が入ってくるだけでも警戒するだろうに、
それが黒い鎧を着た異様な雰囲気の人間なのだからだ。
鎧は王国騎士団のものと誰もが見て取れる。

「・・・・・ふん」

ツヴァイは周りの反応を無視し、
歩く。
ジロジロ見られる。
ボソボソとしゃべりあっている。
それを無視し、
漆黒の長い髪を揺らして歩いていった。

「・・・・・こんな所で生きているのか」

洞窟の中。
テント。
小さな建造物。
子供の工作のような家。
地べたに人が座り、
家でないところで人が寝ている。
はっきり言って人間の住む所ではない。

「オレの死人としての生活と似たようなものじゃないか」

だが、
彼らは生きている。
生きようとしているからここに居る。
明らかに違うその部分を理解した。

「よっ!人気ものだねぇー!」

ふと横から聞き覚えのある声。

「・・・・・・」

立ち止まって横を見ると、
洞窟の壁。
小さな出っ張りの上に安いシートを引き、
そこの上に寝転がってパンをかじっている男。
エドガイ=カイ=ガンマレイだ。

「おたくすぐ分かったぜぇー。目立つねぇ。よっ!色女」

親父みたいなことを言いながらニヤニヤするエドガイ。
寝転がったままパンを口に投げ込み。
駄々草にかみ締めて飲み込んだと思うと、
また次のパンを取り出した。

「なんでこんなところにいるエドガイ」

「んー?まぁとりあえず休憩?大金入ったから仕事はお預けってな。
 俺達の命は金(グロッド)だ。金がありゃ死にもしねぇーってなぁ」

「ここに居る理由を聞いているんだ」

「ま、部下は皆今羽伸ばしてるよ。俺ちゃんはだからここで休憩。
 安全だしのんびりできるしな。結構居心地いいぜ?」

パンを頬張るエドガイ。
寝転がったまま堂々としたものだ。

「でもお仕事いつ始めるか分からんしねぇ。
 次の仕事もここの可愛い子ちゃんに貰おうと思っててな。
 忙しそうだし仕事にゃ困らんし、金もいいからな
 ヘヘッ、だからここで当分のんびりは一石二鳥ってこったぁ」

なるほどな。
と、返事の代わりにツヴァイはそっぽを向き、
さらに奥へと進んでいく。

「あーーっら行っちゃうのー?俺ちゃん涙目〜。
 ヒマんなったら俺んとこ来いやぁー。可愛がってあげちゃうよん♪」

そんなエドガイの言葉を完全に無視し、
ツヴァイはさらに奥へ奥へ進んでいく。
薄暗い洞窟の中。
人工的な灯りだけを頼りに、
奥へ奥へ進んでいくと、
安っぽい小さなプレハブがあった。

「お?」

そのドアを開けると、
ドジャーが安っぽいソファから飛び起きた。
中に居たのは6人。
事務のような仕事をしている女が3人と、
ドジャー、アレックス、ジャスティン。

「もう動いていいのか?」

ジャスティンが言うと同時に、
ツヴァイはドアを閉める。

「じっとしているのは性に合わんからな」

「そうか」

「オレにはあんたの方が重症に見えるけどな」

そう言われジャスティンは苦笑いをした。
ジャスティンは左腕を吊っていた。
首から白い包帯をぶらさげ、
コンクリート詰めにされた左腕がぶらさがる。

「レディーに心配されるほど落ちぶれちゃいないさ。ツバつけときゃ治る」

ジャスティンはそう強がりを返した。
そのジャスティンの前にアレックスが割り込む。

「ツバつけとけば治るジャスティンさんはおいといて」
「おい」
「戦闘でもしない限り大丈夫だと思いますが、ツヴァイさんも一応重症なんですからね?
 内臓が無事だっただけで外傷以外は魔法じゃ治せないんですから」

「分かっている」

ツヴァイは無愛想にそう言ったが、
不思議な気持ちを感じた。

あぁそうか。
人にこんな心配されるのは初めてのことだ。

ツヴァイは部屋の奥へ行く。
適当に槍を立て掛け、
向かうのは一つ、他よりちょっとだけいい椅子。
当たり前のようにその椅子に腰掛けた。
堂々としたものだ。

「資料よ」
「適当に目を通しておいて」

スシアとルエンがツヴァイの目の前の机に紙切れを置く。
まぁまぁ十数枚の紙切れ。
綺麗にまとめてあるが、
状況を理解するのはそれくらい読まなければというところか。

「ふん」

ツヴァイは紙切れを手に取り、
一枚づつ眺めていく。

「戦力で言うと約5000・・・か」

「物足りないですか?」
「贅沢言うもんじゃないぜ?」

「いや、あの兄上に逆らおうと思っている人間がこんなにも存在している事に驚いた」

率直な感想だ。
自分の見ていた世界がどれだけ狭かったか分かる。
人の意思も凄いものだ。
馬鹿にできたものではない。
それに比べて自分は・・・

「うわぁー本当に女なのね」

マリがジロジロとツヴァイを眺める。

「こらマリ」
「えー、だってビックリじゃない」
「でも本当に綺麗ねー」

ペチャクチャとしゃべるロイヤル3姉妹。
うるさい。
だがそのうるさい女の会話は続く。
ツヴァイを巻き込みながら。

「ねぇねぇ料理できるの?」
「馬っ鹿ねー、騎士様なのよ?」
「あ、私この間買った服が大きすぎたのよ!あなたにピッタリかも!」

「・・・・・・」

まるで転校生が来たかのような会話。

「おいおい」
「OL雑談やめろっての」

「なによー」
「OLが雑談して何が悪いのよ」

OLはOLでいいのか。
まぁ事務仕事をしているわけだし、
立派なオフィスレディーには違いないが。

「カッ、こういう女だきゃぁ迎えたくねぇもんだな」

ドジャーはイヤな顔をして言う。

「あらこっちも願い下げねー」
「たまに仕事場にいる男といったらあんたみたいなロクでもない男」
「それに食い意地張ったお子ちゃま」

「あれ?僕も評価低いんですか?僕はカッコ可愛くていいと思いますよ?」

アレックスは優しく微笑んだ。

「・・・・・・・その腹黒さがどうなのよって感じ」
「この中じゃジャスティンが一番マシねー」

「俺はハニーを最後の彼女にしたからね。ハハッ、嬉しいけど・・・」

ジャスティンは自慢げに語るが、

「でも女ったらしは勘弁よねー」
「そうそう悪い噂多いしねー」

「あれ・・・・」

「知ってる?あたいルアスに居たから一回だけ聞いた事あんのよ」
「何々?」
「『ハローグッバイ』は付き合ってはすぐ捨てるってねー」

「お、おいおい・・・」

「あー聞いた事あるー」
「あれでしょ?『ハローグッバイ』がいる限り産婦人科は潰れないって話ー」
「それそれー・・・」

「・・・・・・・・・」

もうOLというよりはオバちゃんの井戸端会議だ。
まぁ話している本人達は楽しそうなものだから、
女の話というのは止まりどころはない。

「ねぇねぇ、あんたは誰が一番マシ?」

「・・・・・・・は?・・・・・オレ?」

ツヴァイは人事(ひとごと)のように書類に目を通していたが、
不意に話をふられて驚いた。

「オレは別にそういうのは・・・」

「なによー!」
「男を見る目は大事よ!」

真剣な目でツヴァイを見るロイヤル3姉妹。
ある意味怖い者知らずだ。
こういうどうでもいい事に全力なのがこういう者達だ。
ある意味OLの本職。

「・・・・・あ・・・あぁ・・・えぇと・・・」

あのツヴァイが押されるように周りを見渡す。
流されて見渡す。

「・・・・・・・」

なんかアレックスとドジャーとジャスティンも真剣な目だった。
平和なものだ。
こんなわけの分からん事を考えるのも初めての事だ。
たった一つの事しか考えずに生きてきた。
だからこそ不思議な気がした。

「・・・フッ」

ふと笑みがこぼれた。
なんでだろうか。
なんとなく楽しく思ったのか。
なんともない日常のようなものを・・・・。
それともこんな自分をおかしく思ったのだろうか。
ただ、
こんなのも悪くない。
そう思った。

「全部カスだな」

そう言うと、
ロイヤル3姉妹は爆笑し、
ドジャーとアレックスとジャスティンは、
文句と怒りを露にし、
ブレハブの中はやかましくなった。
居心地。
それを感じたのも初めてだった。

「あ、」

ツヴァイはふと、
自分が少しだけ、
ほんの少しだけ幸せに近いようなものを感じてしまったことで、
思い出した。

「こんな時に聞くのもなんなんだが」

「ん?」

「あの小娘は・・・・どうした」

小娘。
バンビのことだろう。
ドジャーは苦笑いをしながら頭をポリポリとかき、
アレックスは首を振った。
ジャスティンがため息のあとに話した。

「当分自粛してもらってるよ。あんたを刺したことはここの俺らしか知らないが、
 反乱軍全体のモチベーションに関わるからな。バラしたって誰も得しやしねぇ」

「そうか」

当然といえば当然。
そして思う。
彼女はまだ自分の事を恨んでいるだろう。
世界どうこうよりも、
自分の親を殺された哀しみの方が勝る気持ちも・・・今は分かる。
バンビのツヴァイに対する思いは、
ツヴァイがアインハルトに対する思いに少しだけ似ている。
似ているようで間逆でもあるが・・・。

「よし・・・・」

ツヴァイは書類を机の上でトントンと揃えながら立ち上がった。

「どこかに人を集めろ」

「人?」
「っていうとここの?」

「そうだ」

「あら?書類もういいの?」

「大体理解した」

「あらら・・・・もう用済みみたいね」
「結構頑張ってまとめたんだけどなぁ・・・」

ツヴァイは、槍を手に取り、
そのまま出口へと歩く。

「だからこそすぐ理解できた」

そう言ってツヴァイはプレハブから出ていった。

「はぁ・・・」
「素直な礼くらい言えるようにならんかねぇ・・・」











また洞窟を歩くツヴァイ。
といってもプレハブのすぐ側をだ。
暗く湿った洞窟。
灯り。
ぼんやり見える人々。
乞食に劣らず負けず勝てずに貧相にも見える。
だが、
弱音の中に意志も見える。

「やはり目立つか」

その人々は、
やはりツヴァイが外に出るだけで注目した。
黒い鎧。
漆黒の長い髪。
ツヴァイほど背の高い女性などそうそういないし、
それ以上に威圧感が凄いからだろう。

「・・・・・ふぅ」

固い洞窟の壁。
適当にもたれ掛った。
なんとなくプレハブでじっとしているのも躊躇われた。
まだまだ人に溶け込むには素直じゃない。
一人の方が楽だ。
だが、
その中でもここの雰囲気が嫌いではなかった。

「頂点の横でしか生きたことはなかったが・・・」

アインハルトという世界の頂点の横。
そこにずっといた。
いるのが当たり前というわけでもなかった。
いつの間にかすがりついていたのだろう。
その逆の場所。
その景色。

「死んでから生きたあの闇の森に似ている」

全てを捨て、
失い、
それで生きた死んだような生活。
だがここには光があるような気がした。
今なら分かる。
繋がり。
そして希望。
わずかだが、
それにすがるだけで人の暮らしはこれだけ違うんだと分かった。

ツヴァイは洞窟の壁にもたれ掛り、
なんとなく力が抜けて座り込んだ。
闇の中で座り込む彼女は、少し小さくも見えた。

「ねぇねぇ」

ふと、
横から声。
小さな少女だった。
見たこともない、
みすぼらしい格好をしていた。

「・・・・・・なんだカス」

なんとなく咄嗟に出た言葉だった。
こういう素直じゃない自分も直したいとも思う。

「おねえちゃん新人さん?」

そんなツヴァイにも、
その少女は無邪気に話しかけてくる。
笑いかけてくる。

「・・・・・・・そんなとこだ」

「ふーん」

少女はツヴァイをジロジロと見た。
なんだか照れくさかった。

「お姉ちゃん綺麗だね」

「・・・・・・」

なんとなくどころじゃなく、
照れくさくて顔をそむけた。
だが少女は回りこんで覗き込んでくる。
無邪気に笑いかけてくる。

「・・・・・・これでもお姉ちゃんと呼ばれる年ではないんだがな」

「じゃぁおばさん?」

「・・・・・・それはもっとイヤだ」

自分にも、
こういうわけの分からないプライドはあったのだなぁと思う。
生まれてからどれだけ自分を見てなかったか分かる。

「お姉ちゃんこれあげる!」

「・・・・?」

ツヴァイの表情を無視し、
少女はツヴァイの頭に何かを乗せて・・・
いや、くくりつけた。

「・・・・・これは?」

「わぁ!似合うね!」

ツヴァイの頭には、
一つの花が添えられた。
黒に埋め尽くされたツヴァイ。
その漆黒の繊細な髪に、
白々とした色を主張した花。
ツヴァイの漆黒の髪の中を謙虚かつ引き立ち、
黒の中で白が美しく輝いていた。

「・・・・・・」

花。
病室で見た花と同じものだ。

「・・・・これはなんという名の花だ?」

「わかんない!」

少女は手を後ろで組んで笑顔で言った。

「入り口に作物作り畑あるでしょ?あそこに混じって咲いてたんだ!」

生きるための場所ではなく、
だがその中でも生きたいと思う気持ちが集う場所。
逆境の地下の暗闇。
その中でも孤高と咲いた花・・・。

「それあげる!」

少女は嬉しそうにそう言い、
走り去っていった。
元気で無邪気で、
花のような少女だった。
こんなような場所でも、
あんな風に輝いて生きていけるのか。
正直・・・・うらやましいと思った。

「・・・・・・」

頭の上の花。
正直邪魔だったが、外そうとは思わなかった。
今思えば・・・
他人にこういう形で何かを与えられたのは初めてかもしれない。
たった一輪の花だが、
なにか特別というものを感じた。
初めてな感情が多すぎる。
イヤなものではないから困る。

「・・・フッ・・このオレに綺麗・・・か・・・」

小さく笑った。
なんとなく嬉しかったという感情は、
正直間違いなくあった。


「似合ってるぜ」

声がしたと思い、
ふと見ると、
プレハブの上で、
エドガイが寝転がったままニヤニヤと笑っていた。

「ズキュン♪」

そしてエドガイはチャカすように、
右手を銃に見立てた。

「・・・・・・チッ・・・悪趣味な奴だ」

「ありゃりゃ〜?そんな事言われると俺ちゃん涙目〜。偶然偶然。不可抗力だねぇ♪」

まぁずっと見ていたのだろう。
舌打ちが勝手に出る。
そして思う。
人の目が気になるのも今までなかったことかもしれない。

「悪くないじゃなぁ〜いのぉ?」

「・・・・?」

エドガイはプレハブの上で寝転んだまま言った。

「あ〜・・いや、なんだろな。お前らしくないところがよぉ」

「オレらしくないのがいい?それは戯言だな」

「そうかもねぇ。ただ今のおたくにゃぁ感情があるように見えるな♪」

「ふん。そうやってオレの反応をみて楽しいか?」

「楽しいねぇ♪金にゃぁならんけどな」

寝転んだままニタニタ笑うエドガイ。
とぼけた顔でピアス付きの舌を出してみせる。
・・・・・。
だがその通りだ。
自分らしくない。
それが自分らしさなのかもしれない。
人として生きてなかったのだから。
いや、
生きてさえいなかったのかもしれない。
今までの自分は死んでいた。


「楽しそうだな」

プレハブからジャスティンが出てきた。
片手でドアを開け閉めするのは小さな面倒さがありそうだと思った。

「ツヴァイ。いや、リーダー・・・つった方がいいか?」

「ツヴァイでいい」

「了解だリーダー」

ジャスティンのその返答に、
ツヴァイは悔しそうに笑った。

「ま、要件はうちのOL?共のテキパキお仕事のお陰でもうすぐ集まるよ。
 15分後にはここの奴ら全員そこら辺の一番広い場所に集合だ」

「そうか」

「おいーっす可愛い子ちゃん♪」

と言いながら、
エドガイはプレハブの上から落下してジャスティンに飛びついた。
フライング抱きつき。
プロレス技に近いようでもっと危なっかしい。

「わっ・・とと・・・」

片腕を吊っているジャスティンは軽くバランスを崩したが、
エドガイはニタニタ笑いながらそのままジャスティンに肩を組む。
ある意味ギブスより重たい存在だ。

「・・・・ったく気持ち悪ぃ野郎だな」

「あらら俺ちゃん涙目♪」

そう言ってエドガイはジャスティンの耳でもあま噛みしようとするが、
もう慣れたようにジャスティンはそれを察知し、
引き離す。

「あらら、そんな反応してると俺ちゃん他の子のとこ行っちゃうよぉん?」

「好きにしてくれ・・・というかその方がありがたい。
 アレックスなんて昨日の晩の事が軽いトラウマになってるぞ」

昨日の晩に何があったかまでは知らない。

「俺とアレックスにそんな気はないからどっか他行ってくれ」

「ありゃ?おたくもしかして俺ちゃんの事変態かなんかだと思ってんじゃない?」

「そうだろ」

「違うね♪俺ちゃんは可愛い子ちゃんが好きなだけ♪至極普通だろ?」

そう言ってエドガイはまた手を銃に見立て、
ズキュン♪と言いながらジャスティンに撃つ真似をした。
これが変態じゃなければ、
法律から変態に関する文章を全部消しても大丈夫そうだ。

「それに俺ちゃんこれでもモテんだぜぇ♪」

「ウソつけ。これでも色男で通ってたんでね。
 最近お前の周りに色沙汰事がない事くらいその爪を見れば分かる」

「あ?」

エドガイは銃に見立てて突き出した自分の人差し指を見る。
そしてそれを見て苦笑いをした。

「そゆことね。おたく鋭いね」

「・・・・・・・・?どういうことだ」

ツヴァイは不思議そうに質問した。
ジャスティンとエドガイは一度顔を見合わせ、
クスりと笑った。

「分からないなら分からないでいいさ」

「切る理由があれば切ってるって事だねぇ♪」

「・・・・・・・?」

ツヴァイは相変わらず「?」を頭に浮かべた。
自分には常識がないものなのかとも思った。

「それより可愛い子ちゃん♪そんな片腕じゃ一人で大変じゃないか♪
 今晩にでも俺ちゃんが手伝ってあげてもいいぜ。もちろん無料♪」

「いらねぇよ気色悪ぃ」

ジャスティンはそう言ってプレハブの中に入っていった。
エドガイはチャラケた態度でニタニタ笑っていた。
本当にどこまで本気か分からない男だ。

「で、なんで爪を切るんだ?」

ツヴァイはもう一回つっこむ。
何故か気になったらしい。
エドガイは舌を出し、舌についたピアスを見せながら答えた。

「今晩布団ん中でじっくり考えてみな♪」

そして後を追うようにエドガイもプレハブの中に入っていった。

「・・・・・・?」

ツヴァイは相変わらず首を傾げていた。

「なんで布団の中なんだ?・・・・・・・布団は寝るものだろう」



























人が集まっていた。
数はどれくらいだろう。
戦力は5000と言ったが、
それが全てこのコロニーで住んでいるわけではなく、
それでいて、
戦力にならない人間も住んでいるのだ。
まぁ、
数えるなら4ケタになることだけは間違いなかった。

スオミダンジョンの一部。
だがまぁ洞窟だ。
まるで岩が封鎖するかのように、
人が集まり、ごった返していた。

「アリの巣から湧き出したって感じですね」
「いい表現だ」

自分達もその一匹と分かっていてそう言う。
アレックスとジャスティンは自然にしていたが、
ドジャーはあまり人が多いのが好きではないようだった。

「カッ・・・暑ぃよ汗臭ぇよ・・・・人なんて集まるもんじゃねぇぜ。
 人が集まるって事自体がロクな事おきねぇんだよ」
「それもいい表現だ」

人だかりを見守ると、
だが力強くも感じた。
世界に反抗する人間がこんなにもいる。
たしかにロクな事をではない。

コツコツと音がした。
人だかりと逆。
アレックス達の背後から。
それはツヴァイの足音で、
アレックスとジャスティンをどかして場を覗いた。

「カスが沸いてるな」

「「・・・・・・」」
「・・・・・・・それは表現がよくない」
「カカっ、俺はそれが一番いい表現だと思うけどな」

後ろでドジャーが言った。

「俺たちゃカスにゃぁ違いねぇ。問題は"だからなんなんだ?"ってことだろ」

「その通りだな」

ツヴァイはふと笑う。

「一応壇を作っておいた」
「あれです。なかなか豪勢なもんでしょ?」

まぁそれは・・・・
壇というよりはハリボテに近い。
木を適当に組んだだけの台だった。

「いい趣味だ」

そう言ってツヴァイはそのまま壇上へと歩んでいった。
数段の今にも壊れそうな階段を昇り、
穴倉の頂点へと歩み登る。
壇の上に乗ってみればまぁなかなか頑丈にできていた。

「フッ・・・・」

なんとなく笑みがこぼれた。
その眺め。
4ケタのカス。
世界に反している馬鹿がこんなにも。
こんなにおかしな話はない。

「類は友を呼ぶ・・・・か」

壇の上にツヴァイが登ると、
全体がざわめき始めた。
それはそうだ。
突如現れた黒い鎧の騎士。
それでいて女。
壇の床にまでのび落ちそうな漆黒の髪。

顔。
知っている者は知っているだろう。
知らない者も驚くだろう。
アインハルトに似たその姿。
何も気付かなくとも伝わる威圧感。
空気。
雰囲気。

そのざわめきをかき消すようにツヴァイが一言。

「はじめましてゴキブリ共」

一同は一瞬で静まった。
ジャスティンだけがあたふたとしていて、
ドジャーとアレックスは笑いをこらえていた。

「おたくが一番ゴキブリみてぇなカッコだぜぇ〜〜」

どこから聞こえるかと思えば、
洞窟の壁のでっぱり。
相変わらずそこに寝転がっているエドガイ。
無関係者として、
野次でチャカしていた。

ツヴァイは少し笑った。
こういうのをただ怒りだけで返さない自分も変わったと思った。
こういう雰囲気を受け入れている自分も好きだった。

「さて諸君」

偉そうにあらため、
ツヴァイが人々に話し始める。

「今日からオレがお前らゴキブリの頂点。まぁ女王アリみたいなものだな。
 その女王ゴキブリとなる者。ツヴァイ=スペーディア=ハークスだ」

また全体がざわめき始めた。
ツヴァイ=スペーディア=ハークス。
その名を知らなくとも、
ハークスという姓だけで全て理解できる。
死んだはずと知っているものは驚き、
存在さえ知らなかった者も驚く。
そして信じられなければざわつきもする。

「いちいちオレが本物かとかまで証明していてはキリがないから省くが、
 逆にオレはお前らを知っている。・・・・・・お前らは相当の愚か者のようだな」

間髪いれずにツヴァイが言う。

「オレの兄上はこの世の何よりも上に位置している。
 それに逆らう事自体が死に等しく、愚か以外に言いようがない」

ざわめきはとまらない。
だが、
その上、
ツヴァイの話を聞いていない者もいない。
あの存在感はやはり受け持った才能と言うしかない。

「一つ聞く。お前らはこの愚かな行為に意味があると思うか?」

一度静まったあと、
一人の罵声を火蓋に、
全体からいろいろな意見が飛び交う。
罵声罵声罵声。
「そんなことあたりまえだ」
そういわんばかりの言葉たち。

「聞くだけ無駄だったな。じゃぁそれが叶わないとしても意義があるか?」

そこでまた静まった。
それは誰もが胸に秘めたる思い。
どんなちっぽけな存在でさえ、
アインハルトの権力が、
そして力が圧倒的過ぎることは知っている。
誰もが胸の奥で恐れている事でもある。

「残念ながらこの世は兄上を中心に動いている。兄上が全てで、兄上がやる事思う事を中心に進む。
 アインハルト=ディアモンド=ハークスが全ての基準。基準という名の"1"であり、それが絶対だ」

観衆は黙ったままだった。

「オレは生まれながらにしてその1を目の前に生きてきて、ずっと2だった。
 名前がツヴァイ(2)だからなど小さな問題だ。その位置に立たされていた。
 2番手として生きてきた。そして・・・・・今その位置がマイソシア全体に移された。
 兄上が作り出した1という絶対の世界。そしてそこからはずれた2の世界」

少し間を置き、
一つの罵声で騒ぎ出した。
それは・・・
言うならばその言葉の中の意味。
アインハルト側ではない自分達は、
いきなりあらわれたツヴァイという一人の女に当てられたからだ。
「まだ俺達は認めてない」
「いきなりデカいツラして俺達を重ねるんじゃない」
その罵声。
だが、

「イヤでも共に戦ってもらうさ」

壇上でツヴァイはふと笑った。

「何故なら簡単だ。お前らだけじゃ勝てないからだ。そして・・・・・オレだけでも勝てない」

勝つ。
その言葉一つで誰もの注目は変わる。
簡単で、
それでいて聞きたい言葉でもあった。
恵みの言葉。

「いいか。オレ達は世界の2番手だ。主軸から除外された外野だ。
 オレ達は《TWISTER》だ。2という言葉の中に捨ていれられた人間」

ツヴァイはゆっくり右手をもちあげ、
目の前で開いた。
そして何かしらを思ったあと握り締め、
話を続ける。

「だからなんだ!"TWI(2)"!十分じゃないか!オレ達は二番手だ!
 "対"という意味もある・・・その通りじゃないか!オレ達は立ち向かうのだから!」

握り締めた右手を横に勢いよく払う。

「兄上が決めた世界に強引に混ざりこんでやる!捻(ねじ)りこんでやる!
 だから《TWISTER》だ!2を意味しながら捻れた男達だ!そうだろ!」

歓声が上がる。
そして続けるツヴァイ。

「お前らに聞く!オレ達は兄上に勝っているか!?」

だが、
そこで黙った。
答えられない答えだ。

「オレ達が兄上に勝っているか?・・・・・否だ。劣っている。
 オレ達が帝国より多いか?・・・・・・・・・否だ。少ない。
 なら奴らより質で勝っているか?・・・・否だ。劣っている。
 なら強い意志だけで勝てるか?・・・・・否だ。夢物語だ」

一度ノったと思った観衆は、
またざわめき始める。

「なら・・・オレ達は正義か?正義ではない。兄上がこの世を支配し、
 兄上が決めた世界でほとんどの人間が生きている。
 オレ達はそれから除外された二番手。歪んだ人間だ。
 なら兄上達は正義か?それも違う。そう思っているからお前らはここにいる。
 なら悪とは?・・・・・それは今の言葉を全て裏返すだけで同じ事だ」

ツヴァイは静かに腕を下ろす。

「だがそんな事が関係あるか?正義とか悪とか。善とか悪とか。
 関係ない。関係ないだろう?少なくともオレ達の理由はそんなじゃない」

ツヴァイはまたふと笑った。

「つまるところわがままなだけだ。オレ達はオレ達でわがままなだけ。
 オレ達のわがままを通すためだけにここに集まっている。
 理由なんてそれだけで十分で、それだけで十分すぎて、それだけで十分だ」

そしてツヴァイは軽く言う。

「正直なことをいう。だがやはりオレ達が勝てる可能性は限りなく0だ。だが・・・・・・・」

そして簡単に続ける。
笑みをまじえた・・・
それでいて・・・
強く、
ハッキリとした・・・
強い意志の一言。

「勝つのはオレ達だ」

あがる歓声。
根拠もなく、
理屈もない。
だが、
それだけ。
それだけで十分だった。

「いいか!勝ちたい奴はオレに付いて来い!
 それ以外のカスは泣き寝入りでもして死んでしまえ!」

酷い暴言だが、
それにさえ、
観衆は熱く歓声をあげた。

「善も悪も背負いながら、それに関係なく進むわがまま者達よ!
 勝てるわけがないのにそれでも勝利を信じる愚か者達よ!
 生きるために命を放り出した馬鹿なカス達よ!
 外野に放り出されたのにも関わらず黙っていられない2番手達よ!
 基準を無視して捻れた《TWISTER》達よ!」

漆黒の長い髪を揺らし、
ツヴァイは大きな声で、
強い意志で言う。

「その手で捻じ切ってやれ!この手で捻じ切ってやるぞ!
 オレ達は歪んだ《TWISTER》だ!
 だが、歪んでいるからこそ、捻れているからこそ!
 オレ達には明と暗がある!陰と陽がある!善と悪がある!
 それらを打ち消すように、そして同時に混じりこんでいる!
 オレ達は《TWISTER》で《TWILIGHT》だ!
 明と暗の間の者達だ!《黄昏(たそがれ)》に生きる者達だ!」

漆黒の黒い、
長い髪がなびいた。

「オレ達は今暗き所にいるが!光はさしている!
 光が見たいなら付いて来い!武器を持ち!意志を掲げろ!
 太陽と月をぶつけ、最後に残っているのはオレ達だ!!!」

そしてツヴァイは振り向いて壇を下りていった。
歓声は鳴り止まず、
胸の高鳴りは収まらず、
士気はあがるだけあがって落ちてこない。
まるでわがままな太陽が昇ったように。
昼にさえ昇る月のように。

「《トワイライト》ねぇ」

歓声の中、
ツヴァイが壇からおりきると、
ドジャーがニヤニヤしながら立っていた。

「女々しい名前だな」

「ふん。オレ達にはこんな女々しい名前がピッタリだろ」

「カッ、その通りだ」

そう言ってツヴァイはドジャーとすれ違った。

「ロマンチックな名前つけるもんですね」

アレックスも言う。

「そこのドジャーとやらと言いたいことは同じみたいだな」

「いえ、響きは似合わないけどロマンチックすぎる事を僕達はしてますからね
 夢やロマンより愚かで壁が分厚い事を除いたら・・・・・・・ですけどね」

「愚かなロマンチスト達にはお似合いの名前だ」

「そういえば花はどうしたんだ?」

ジャスティンが横からそう言った。
思い出したように急に言った。

「あ、いや、さっき表で頭に花をのっけてた覚えがあってな」
「え!?マジか?!」
「あらら・・・ツヴァイさん。ロマンチックどころか乙女チックですね」
「カッ、見てみたかったな」
「女に目覚めたかと思ったんだけどな」

ふと微笑で流し、
ツヴァイはそっぽをむいた。

「花はすぐに・・・・簡単に枯れてしまった」

どこを見るともなく、
ツヴァイはそう言った。

「あの後調べたよ。あの花はなんだったのか・・・たいした花ではなかった」

そしてツヴァイはもう一度アレックス達の方を見た。

「夕顔。・・・・・黄昏草と呼ばれる花だった。オレに似合うわけだ」























S・O・A・D 〜System Of A Down〜


《 繋がれてはいられない」(Prison break) 》
















-ルアス城 地下 牢獄-


「マリナ殿。今日出よう」

イスカはそう言った。
向かいの牢屋。
その中で呆れてマリナはため息をついた。

「聞き飽きたわその言葉」

マリナは見るからにやつれていた。
それもそうだ。
気丈で強い女性だが、
いきなりこんな環境にぶちこまれてはやつれもする。

「とりあえず案を出してよ。私も必死で考えてるんだから」

マリナがそう言うと、
イスカは黙った。
まぁそんな簡単に案など出てこない。
出てくるようならとっくにこんなところ出ている。
そしてそんな簡単に出られないから牢獄なのだ。

「クソッ!!!」

イスカは鉄格子に腕を叩きつける。
そしてそのまま両手で握りうつむく。

「マリナ殿が弱っていくのをこのまま指をくわえてみてはいられん・・・・
 すぐ目の前にいるのに何も出来ない・・・・こんな悔しい事はない・・・・・」

感情も全て入っている言葉だった。
イスカの思いは全てその言葉に入っていた。
だがどうすることもできないのか。


「苦渋の顔もまたよろしゅうございます」

嬉しそうな声と共に、
牢獄の廊下を歩いてくる一人の男。
ピルゲン。
両側が牢屋になっている道を歩いてき、
他の囚人達から罵声を浴びながら歩いてくる。
笑顔のまま。
ふととくにうるさかった囚人の頭上に黒い剣が現れ、
そして突き刺さった。
ピルゲンは何事も無かったかのように歩いてくる。

「ごきげんはいかがでございましょう」

牢屋の一番奥。
つまりイスカとマリナの牢屋。
そこにピルゲンは来て、
ヒゲを整えながら言う。

「見れば分かるでしょ」

「そうでございますな。いや、それでいいのです」

ピルゲンは笑う。
それが気に食わなかった。
今すぐにでも殺してやりたかった。
だがそれさえできない。
無力で無力で無力で、
イスカは自分へと怒りの矛先を変えるしかできなかった。

「まぁ今日はあなた方に用があってきたわけではございません。
 いや・・・あなた方が捕らわれている理由とはとても関係がありますがね」

「え・・・」
「なんだとっ!」

マリナとイスカの反応。
それをピルゲンは嬉しそうに返すだけだった。

「デムピアスだと目星をつけていたものが消えたのでございます。
 もう一人目星をつけている者もいるのでございますが・・・・
 いやはや、少々幼すぎるのが私には気がかりでしてね」

そしてピルゲンは手を触れた。
ドアに。
なんのドアに?
マリナの牢屋ではない。
イスカの牢屋でもない。
それは牢獄の端。
マリナとイスカの牢屋が牢獄の端だが、
牢屋の突き当たり。
二人の牢屋の目の前。
前から気になっていた、
重く、
固く、
分厚そうな突き当りの牢屋。

「そろそろしゃべってもらいたいと思いましてね。
 こちらの方の衰弱具合もそろそろいい頃合でございますし。・・・おっと」

ピルゲンは思い出したように懐からカギを取り出し、
突き当たりの牢屋の鍵穴に鍵を入れた。

「この中に入っている者は・・・・・ただ一人。
 ただ一人・・・デムピアスの行方を知っていると思われる者」

そしてピルゲンをドアノブをひく。
重苦しい音が鳴り響く。

「さぁ話してもらいますよ」

開かれていく最奥の牢獄。
締め切られた空気が解き放たれ、
それは異臭にも近かった。
そのためマリナは一度顔をそむけたが、
中に入っている人物を見て目を丸くした。

「フフッ・・・何度も逃げ出すものですから手間を取らされましたよ」

ピルゲンが笑う。
マリナは・・・固まっていた。
中に入っていた者が信じられないといった表情で。
中にいた者。
やせ細り?
いや、やせ細っているのでなく、
細長い胴体と手足。
赤黒い長い髪。
ペイントしたような白い顔。
人の姿ではない。
いや、人ではない。
魔物?
魔物。
それが椅子に座ってうつむいていた。

「お久しぶりですね・・・・・・・デムピアス案内人」

マリナは飛ぶように牢屋の一番端。
その牢獄に一番近いとこに駆け寄り、
鉄格子に捕まる。
目の前の人物。
それが夢幻のようにも見える。
なんで。
なんでここに。
なんでいるのか。
分からない。
生きていた。
嬉しさと疑問をまじえ、
だがそれは感情という名の感情だけになり、
名を呼ぶ叫びとなった。



「シャーク!!!」









                 






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