「・・・・・・・女だぁ?」
「信じられないな・・・・」

周りの人間。
言うならば、
エドガイ以外の全ての人間が戸惑いを含めた驚きを表していた。

「・・・・・知ってたか?アレックス」
「いえ・・・・全然・・・・スペーディアって名前は確かに女性らしいと思いますけど・・・・・」

「女だからなんだというのだ」

地面に貼り付けにされたまま、
ツヴァイはそう言った。
捕らわれている状況でもあるのに、
堂々としているものだ。

「いやいや、おたくが一番気にしてたんじゃねぇか。顔ごと隠したりしてよぉ。
 ってかガッコの時から見てねぇけど結構可愛い子ちゃんになってんじゃん?」

エドガイはそう言ったが、
その可愛い子ちゃんという発想はどうかと思った。
たしかにアインハルトと同じで綺麗は顔立ちはしているが・・・・
いや、単純な一言で言えばたしかに美しい。
整いすぎている顔だ。
アインハルトに似ているといっても見るからに女性で、
顔を隠す理由も分かる。
だが、
でもやはり・・・・
それはアインハルトに似ているという事で、
第一印象はイメージとして力強さや恐怖に近いものが先行した。
絶対なる至高の分身。
それを踏まえるとそんな発想ができるのはエドガイくらいだろう。

「まぁ戦乙女ってやつだな」
「性別的なものは基本的にどっちでも大差ないんですけどね」
「カッ、どうだかな」
「俺はどんなものでも基本、男であるよりは女だった方がいいけどな」
「黙れジャスティン」
「うっせぇなドジャー。俺は男代表として意見しただけだ」
「ラスティルさんの墓の前で同じ事言えますか」
「・・・・・・ん・・・・」

ジャスティンは顔をしかめた。
アレックスの言葉は痛い所ばかりをつく。

「まぁでも気ぃ付かなかったな」

ドジャーがそう言い、
ツヴァイに近寄る。
ツヴァイは相変わらず蜘蛛で地面に貼り付けにされていて、
エドガイが腹を足で押さえつけ、
剣先という名の銃口を突きつけている。

「外見じゃやっぱ分からねぇーよこりゃぁ」

ドジャーがしゃがみこみ、
ツヴァイを覗き込む。

「じろじろ見るなカスが」

「・・・・・可愛げってもんはねぇのかこいつには・・・・」

「それは必要なものだとは思わんな」

「・・・・カッ・・・そっすか・・・」

ドジャーは呆れた。
まぁ女として生きてはいない人間。
イスカと同じと考えれば分からないでもない。
いや・・・・あれはまた少し違うか・・・。

「ま、でもあれだな。顔が隠れてたのもあるが、初見で全く気付かなかった理由はよぉ、
 あれだ。堅ぇ鎧の下とはいえ体格的なもんがお粗末様ってか?」

「貴様っ!」

ツヴァイの表情が変わった。

「カスがっ!オレを愚弄するかっ!!」

「わっ!!ちょっ!!」

ツヴァイが・・・無理矢理跳ね起きた。
蜘蛛で貼り付けにされているのに?
スパイダーウェブとかスパイダーカットとか、
そういう次元は関係なかった。
ツヴァイは無理矢理起き上がった。
蜘蛛を引きちぎった。
地面ごと剥がし蜘蛛を引っ張りあげる。
地面ごと引きちぎって起き上がり、
エドガイをも払いのけた。

「殺すっ!」

「ちょぁっ!!待て待てまてっ!!!」

この存在を繋ぎとめる術はないのか。
豪快に自由になった漆黒の戦乙女。

「やべっ!!」
「おまっ!また戦闘!?」

「あらあら・・・元気だねぇおたく・・・おめぇら!捕まえろ!」
「サ・・・」
「「「サー!イエス!サー!!」」」

8人ほどの傭兵が一斉に掴みかかる。
《ドライブスルーワーカーズ》の男女達が飛び掛り、
ツヴァイを背負い締めにする。
もうむしろ団子状態。

「どけっ!カスども!」

「わっ・・・」
「こんだけで抑えてんだぞ!!」
「ありえないわ!」
「盗賊は蜘蛛かけろ蜘蛛!」

・・・・・・。
やっと止まった。
蜘蛛でガチガチに固め、
数人で背負い締めにしてやっと止まる。
もう腕力とかそういう問題ではないのかもしれない。
ともかくツヴァイの動きは今一度止まる。
が、
目は真っ直ぐドジャーを睨んでいた。

「お、おっかねぇ・・・・」
「今のはドジャーが悪い」
「ですね」
「なんでだよっ!」
「デリカシーってもんがねぇんだよお前は。着やせって言葉を知らねぇのか?」
「いや・・・・そういう問題でもないです・・・・」
「ん?」

まぁともかく、
それらの事はいい。
ただ問題。
一番の問題。

このツヴァイという存在が・・・・
こちら側についてくれるかどうか。

「あの・・・もう一度聞きますツヴァイさん」

「断る」

「・・・・・・・・・・」

無理そうだ。

















「イヒ♪」
























-ルアス城 王座-






「静かな日だな」

アインハルトは王座で足を組み、
そう言った。

「そうですねアイン様・・・・」

広い王座。
赤い絨毯とシャンデリア。
数本の柱が支える大きな部屋。
背後に大きな縦長の窓。
王座にはシンボルオブジェクトが刺さり、
王座の後ろには1体のガイコツ。
1番隊隊長・ディエゴ=パドレスの骸骨が鎧を着たまま、
槍を掲げて立っているだけ。
生きた人間はアインハルトとロゼ。
絶対的存在と、
ただのキャシャな女性。
ロゼという女性は相変わらず王座に座るアインハルトの横で、
寄り添うようにしている。

「アイン様の弟君はどうなったのでしょうね・・・・」

ロゼはそう言いながらおもむろにアインハルトに手を伸ばす。
いやになつく猫のように。

「弟?無知なカスが」

だがアインハルトはそのロゼの手を拒むように止める。
手首を握る。
強く、握りつぶすように。

「・・・・・ッ・・・・・」

「我の横に居られるからと言ってあまり調子に乗るなよ雌豚が」

ロゼの腕を潰すような勢いで握り締める。
ロゼはあまりの傷みに顔を歪めた。
が、
泣き言一つ言わなかった。
まるで主人に忠実かつ愛す犬のように。
あまりにも健気だった。

「ふん。そう言うところは気に入っているがな」


「失礼」

王座の大きな唯一のドアが開かれる。
そこにはヒゲを蓄えたハットをかぶった男。
ピルゲンが腕を前で折りたたみ、
頭を下げて立っていた。

「ディアモンド様。その弟・・・・いえ、妹君の件でご報告がございます」

「盗み聞きか。えらくなったものだなピルゲン」

「お許しを」

ピルゲンは頭を下げたまま、
小さく笑った。
そして黒い闇に覆われたと思うと、
アインハルトの目の前に瞬間的に移動した。
すでに片膝をついた状態でピルゲンは話す。

「ツヴァイ殿に関しては興味の対象外と存じてはおりますが、一応ご報告をさせていただきたい」

「死人の話か。フッ、退屈しのぎにはなるか。言え」

「ハッ、」

アインハルトとピルゲンの会話。
すでに自分が蚊帳の外にいるような気持ちになり、
ロゼはアインハルトの横で悲しい目を浮かべた。
自分の肩を抱いてくれるアインハルトの右腕だけにすがった。

「ドラグノフからの報告です。ツヴァイを確認したそうです」

「ほぉ」

殺したはずの人間。
それが生きていた。
それも自分のたった一人の血縁。
双子の兄妹。
だが、
アインハルトは何一つ動じる気配もない。
感情が動かない。
さもない噂話を聞く程度にしか反応しなかった。

「アメットで顔は隠れていたようでございますが、
 気配と雰囲気。そして強さ。さらに騎士団で特別な調教を積んだエルモア。
 Eシリーズ2号の『E-U』を所有、及び使いこなしている事から間違いないと思われます」

「ふん。それでどうした」

「ハッ、亡霊を名乗っています。様子からするに死人として生涯を終える決意があるようです。
 ディアモンド様の削除を受け入れている模様。反抗の意思もなく、服従の意思もなく」

「報告しなくとも分かっている。あいつは我に楯突く事の愚かさをよく分かっている。
 我が一度捨てたものをもう一度使うつもりもない事もな」

「どうしますか?再始末をするのがよろしいかと思いますが」

「くだらん。視界の外の存在などどうでもいい」

「了解しました」

予想以上にアインハルトはツヴァイに興味がないようだ。
双子への愛着とかそういう人間らしい感情は持ち合わせていないのか。
憎しむとか、悲しむとか、少なくとも何か感じるはずだ。
だが、
双子の兄妹にさえまるで小石への感情と変わらない。
自分とは無関係。
興味を多少の向けることさえない。

「続いての報告です。ドラグノフの途中報告の最後に面白い話がありました」

「つまらぬものだったら消すぞ」

「覚悟の上です」

「言え」

「ジャッカル=ピッツバーグという人間がアレックス殿達に同行していたそうです」

「ほぉ。なるほどな。・・・それで」

「死亡したようです」

アインハルトはフと笑った。
あざけ笑うようなそんな小さな笑み。

「そうか。ハズレか」

「そのようで」

横でロゼが不思議そうな顔をして聞いた。

「あの・・・アイン様・・・その者はどのような・・・」

「何故いちいちお前のために我が口にしなければならんのだ」

「すいません・・・・」

アインハルトの強い口調に、
ロゼは俯いた。
自分が悪いことを言ったのだと、自分だけを責める健気な女性。
そんなロゼを尻目に、
ピルゲンが続ける。

「目ぼしき者が消えました。まことに残念でございます。またデムピアス捜索は一からになりますね」

デムピアス。
アインハルトが探しているという存在。

「私としましてはツヴァイ殿よりもデムピアスが生きている事の方が半疑でございますが・・・・
 いえ、ディアモンド様がそう言うならば間違いないのでごいざましょう。
 魂となったデムピアスが魂のまま、擬似蘇生として何者かにのり移った・・・」

「何か不満か」

「いえ」

「対峙した我が一番よく分かる。デムピアスはあれで朽ちる存在ではない。
 何者かの中で確実に復活のときを待ち望んでいるのだろう」

「のり移った対象・・・・。それが死んではもともこもございません。
 適合した対象。モンスターであるならばルケシオンの魔物。
 ですがあの日はほとんどの魔物が討伐によって殲滅しています。ならば人間。
 人間であるならば海賊王の血を継ぐといわれるピッツバーグ一族に絞れたかと思われましたが」

「死ぬようでは違う」

「・・・・・・でございますね」

「だが・・・・ハズレというわけではないかもしれんな」

「と・・・言いますと?」

「弱ったデムピアスの魂は弱った適合者にしか潜り込めなかったと考えるのが筋。
 ジャッカルが死んだとて・・・そこにもう一人、いや最後の一人・・・血縁がいるだろう」






































「バンビさん・・・」

ピンキッドはバンビを見上げる。
バンビは一人、
アレックス達の会話の外からツヴァイを睨んでいた。

「バンビさん・・・落ち着くでヤンス・・・」
「うるさい・・・」

腕を震わせ、
わなわなと怒りに身を焦がす。

「女だから何・・・親父を殺したことに変わりはない・・・」
「れ、冷静に・・・」
「これが冷静でいられるのっ!?」

バンビはバンダナを巻いたその頭を振り向かせ、
ピンキッドを睨んだ。

「ぼくは絶対に許さない・・・・親父を殺したあの女を・・・・」
「バンビさん。貴方は親びんの代わりにピッツバーグ海賊団を継がなきゃいけないでヤンス。
 今戦ってもやられるだけ。まず今は復讐心は抑えておいて欲しいでヤンス・・・」
「嫌だっ!」
「バンビさんっ!」

小さな小さな体のピンキオ。
ピンキッドはバンビの足元で叫ぶ。

「さっき説教されてばっかでヤンスよ。親びんの死を無駄にしちゃ駄目でヤンス。
 悲劇を悲劇で繋げちゃ駄目でヤンス。親びんの事を思うなら海賊団を・・・・」
「うぅ・・・・」

バンビは悔しくて、
怒りが悔しさを上回り、
まだ大人というには若すぎる目に涙を浮かべた。

「ぼくにもっと力があれば・・・何か・・・"何か"・・・なんでもいいから・・・・」
「だ、大丈夫でヤンスよ!」

ピンキッドがぴょんぴょんと飛び跳ねながら元気付ける。

「ピッツバーグ一族は昔から特別な一族でヤンス!
 人だけでなく、魔物も従え魅了する海賊の血でヤンス!
 魔物さえついていくカリスマ性を持つのは特別な力でヤンスよ!
 なんてったってあの海賊王デムピアスの血が流れてるんでヤンスから!」
「デムピアスの・・・血・・・・。本当にぼくなんかに・・・・」






「なんかあっちが騒がしいな」

ドジャーがポリポリと頭をかきながら、
バンビとピンキッドの方を見た。
話はよく聞こえないが、
まぁ分からないでもない。
親を殺された人間として何かしら思うところはあるのだろう。

「で、もっかい聞くけどよぉ」

「断る」

ツヴァイは今日何度めかの拒絶を口にした。
断固した言葉だった。

「了承は不可能だ。オレは仲間にはならない。なれない。ありえない」

ツヴァイは切り株の上に座ったまま、そう言った。
切り株の上に漆黒の黒い髪がかかる。
すでに拘束からは解放されていた。
もう戦う意味もないからだ。
正体も明かされ、
お互い殺しあう理由もない。

「言っただろう。オレは死人だ。亡霊だ。もう現世に関与はしない。
 兄上にそう下されたのだ。それに従い、生きた心地もなくここで死ぬ」

「・・・・・・・」
「・・・・・はぁ・・・」

揺るがない心。
覆せる自信は無かった。
その理由は簡単。
断固した心があるからではなく・・・・

「ツヴァイさん。じゃぁ騎士団長の方から誘いがあった場合は?」

「それは従う」

「お兄さんが好きなんですね・・・」

「何度言ったら分かる。そういう問題ではない。兄上には従わなければならんのだ。
 全ての存在への掟だ。兄上がやれといった事にはやる。それだけだ」

これが理由だ。
否応ないほどのアインハルトへの忠義心。
これは覆せない。
今は外野にいるだけで、
戦いの中心に入るとしたらツヴァイはこちら側ではないのだ。

「あーーもー無理なんじゃねぇ?」

エドガイがしらーと言った。
腰にぶら下げたアスタシャが地面についたまま、
頭の後ろに両腕を組んで言う。

「俺ちゃんには分かるっての。こいつぁガッコの頃からこうなんだねぇ。
 機械みたいな心をしてやがんの。メイレイ・ニハ・シタガイマスってなぁ」

エドガイはそのまま、
腰のアスタシャを地面にひきずり、
ジャスティンの方へ歩く。

「おたくもそろそろ限界っしょ?」

「何がだ?」

「左腕の変色やっべぇよん?我慢は男の武器ってかぁ?」

言われて思い出した。
ジャスティンは左腕を骨折しているのだった。
いや、骨折なんて生易しいものではなく、
粉砕されていると言ってもいい。
顔色一つ変えなかったので気付かなかった。
いや、

「顔色悪くなってるねぇ。顔こそ男の武器なんだから大事にしろよ?
 俺ちゃんみたいにな。せっかくおたく可愛い子ちゃんなんだから」

そう。
徐々に過ぎて分からなかったが、
ジャスティンは顔色も悪くなってきている。
すぐに治療しないと・・・。
だがジャスティンは、

「俺なんかより大事なことがある」

「お?おーーーー?」

エドガイが表情を変える。
嬉しそうに表情を変える。
そしてジャスティンの肩に馴れ馴れしく腕を回す。

「いいねいいね可愛い子ちゃん♪俺ちゃんそういう男大好きだぜぇ」

そして舌をジャスティンの耳の中に・・・

「やめろっての気色わりぃ!」

ジャスティンは右手でエドガイを突き放し、
エドガイは地面に尻餅をついた。
エドガイはそのまま嬉しそうに両手を広げた。

「ま、いいならいいけどよ。それと・・・・ツヴァイの件がどうなろうと金は払ってくれよ金」

「チッ・・・」

「世の中グロッドよグロォーッド♪」

エドガイは親指と人差し指で円を作る。
グロッド硬貨を表しているのだろう。

「金の亡者め」

「へへっ、伊達に『ペニーワイズ(小銭稼ぎ)』のエドガイたぁ呼ばれてねぇよ。
 それに俺ちゃんらは金のためだけに生きて、金のために死んでんだからな」

エドガイは砂を払いながら立ち上がる。
そして・・・・

「野郎共!今回の報酬は1億と100万グロッドだ!」
「「「サーー!イエス!サーー!!」」」

「ちょ、待て!その100万はどっから出たっ!」

ジャスティンが慌てる。

「なぁんだよ。そんなもん消費税ってなもんじゃねぇか?気にすんなよ可愛い子ちゃん」

「無駄な金を払う義理はねぇ」

「無駄じゃねぇよ。ちゃんと別料金っつったぜ?
 あそこの可愛い子ちゃんにあげたバラ水晶の代金だ」

エドガイは親指でバンビを指差す。
バラ水晶。
すぐには思い出せなかったが、
ジャッカルの死体に供えた花の事だと思い出した。

「金の亡者め・・・・」

「聞き飽きたぜ可愛い子ちゃん♪」

そしてエドガイは振り向く。

「お前ら!今日の分の分配だ!」
「「「「サーー!イエス!サー!!」」」
「今日は誰が死んだ!?」
「サー!ボトム=チャイルド!」
「サー!ルナ=シーダーク!」
「サー!ソル=ワーク!」
「サー!ヒブリア!」
「サー!アーク=ソナティカ!」
「以上5人が死亡です!」
「5人か?」
「サー!イエス!サー!」
「そうか・・・・。お勤めご苦労さん」

エドガイは軽く言った。
まるで死んだ事が当然のように。
そんな冷たい反応だった。

「腐った連中だ・・・・」

ドジャーの言葉を無視し、
エドガイは続ける。

「今日死んだ5名に一人1500万づつだ。キッチリわけろよ」
「「「サー!イエス!サー!」」」

「は?」

何を言っているのだろうかこの傭兵達は。
いきなり・・・死人に金を分配しはじめた。

「サー!ボス!」
「なんだ?」
「死んだソル=ワークには血縁がいません!」
「じゃぁ親戚だ。いとこにでも送ってやれ!いなきゃぁはとこでもいい!」
「まるまる血縁が不明です!」
「じゃぁなんでもいい!子供の頃に近所に住んでた奴でも、初恋の相手でもなんでもいい!
 こじつけでいいからソルの関係者に送れ!これだけは絶対だ!分かったか!?」
「サー!イエス!サー!」

「おいおいおいおい!無駄に使ってんじゃねぇよ!」
「いやまぁ・・・あげたお金ですからどう使ってもいいんですけど・・・・」

「分かってないねぇ・・・可愛い子ちゃん」

そう言い、
エドガイはドジャーを無視・・・というか突き飛ばし、
瞬間的にアレックスの真横に言って肩に手を回す。

「これが俺ちゃんらの流儀だ。死ぬのは当然。死んでどうした?死んじまえ。
 だ〜が〜ねぇ〜〜。それでも悲しんでやらなきゃなんねぇ。それでも死は悲しいもんだ。
 俺ちゃんらは命を粗末にする・・・まぁ割とクズな奴らに違ぇねぇ。違ぇねぇさ。
 死は止めねぇ。死にたきゃ死ぬ。死んじまえ。だがそれを無視するのは話は別だ」

「そうですか・・・」

抱きついてくるエドガイを無理矢理引き剥がそうとするアレックス。
だが今度はなかなかしぶとい。
それでもなんとか引き離した。
ヘラヘラと笑うエドガイ。
どこまで本気か分からない。

「いいじゃねぇーかー可愛い子ちゃん〜〜♪」

「どこの親父ですか・・・・僕はそういう趣味はないのであっち行ってください!
 ほら、あそこにもう一人可愛い子ちゃんいますよ!」

アレックスはドジャーの方に顔を向ける。

「あ!?俺を生け贄にすんなアホ!」

「あ〜。だめ。俺ちゃんアレ好みじゃねぇ。可愛いくねぇ」

「あぁ!?」

それはそれでショックな発言だったようだ。
ドジャーとしては複雑な心境だっただろう。
まぁエドガイの方もどこまでが本気かは分からないが・・・・。

「そろそろいいか?」

横槍を入れるようにツヴァイが言った。

「いいか・・・って言うと・・・・?」

「もう用は済んだだろ。オレは何にも組するつもりはない。
 無駄と悟っただろ?いや、悟ってなくとも無駄なんだ。だから帰れ」

ドジャーが顔をしかめる。

「いやいやいや用は済んでねぇよ。こちとら死闘繰り広げて死人まで出てんだよ。
 死ぬか生きるかまでして1億払ってその代償が何も無しでぷらぷら帰れるわけが・・・」

「帰れ」

ツヴァイは強く。
ただそう言った。

「普通なら殺しているところを生かして帰そうと言っているのだ。それだけで十分だろう」

「んだと!?」
「負けた人のセリフじゃないですね」

「負けた?そうだな。オレは負けた。だがもう一度とやるというなら引き受けよう。
 その時はここに石のない墓が並ぶことになる。オレを除いた人数分な」

「くっ・・・」

「交渉は諦めろ。お前らの前の亡霊にお前らの望む希望はない。
 選択は二つ。帰るか散るか。生きるか死ぬか。その二つだ」

ツヴァイは漆黒の眼を向ける。
誰ともなく・・・全員に。
飲み込むような視線。

「戦うなら剣を抜け、帰るなら背を向けろ」




「イヒ♪・・・・・・・お前は死ぬって選択はどこいった〜?・・・・なんちって♪」

背後から声。
振り向くと、
そこにはフライアフロックに羽を生やした男。
ドラグノフ=カラシニコフが立っていた。

「・・・・・・・」
「今更ウゼぇのが出てきたぞ・・・・」
「今更だな」

「イヒ♪ひっどいねぇー!僕に惨敗したクセに♪」

ニヤニヤ笑うドラグノフ。
相変わらず余裕の表情が見て取れる。

「君達逃げたよね?ねー?イヒ♪まぁ返事はしたくないよね?そりゃ♪」

ドラグノフはニタニタニヤニヤといやらしい笑みを浮かべ、
こちらの様子を見据える。

「ん〜〜〜♪僕が報告してる間に様子が変わったみたいだね?
 戦闘終わっちゃった?あらら?ジャッカル以外に増えた死体は・・・・あ、どうでもいい奴か!
 なーんちって♪まぁ仲良しになったみたいだね!そりゃいいね!アハ、アハハハハハハハハ!!!」

わけの分からないところで大笑いを始めるドラグノフ。
体を反って天に向かって笑い声がこだまする。

「で・・・・・・・」

ピタリと止まるドラグノフの笑い声。

「どーでもいいから死んでよツヴァイ♪」

顔は笑っていた。
だが、
ドラグノフのその表情は少し違った。
奥に本当の殺意が秘められているような薄気味悪い笑顔だった。

「呼び捨てられるとは驚きだな。誰だお前」

「ん・・・・」

ツヴァイが言い放った言葉。
ドラグノフは、ツヴァイが自分の事を知らなかった事に驚いたのか、
口をつぐんだ。
アレックス達はクスりと笑った。

「ふざけんなっ!!!!」

ドラグノフのいきなり叫び声。
おちょくった口調ばかりのドラグノフにしては珍しい叫びだった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・イヒ♪・・・なーーんちって♪でも心外だなぁー。
 僕は君を知ってるのに君は僕を知らない。兄妹揃って失礼な奴だ」

「兄上の事を言っているのか?フッ、下僕なのだろう?口のきき方に気をつけろ」

「・・・・・・うるさいねぇ。それが気に食わないんだよ♪そして・・・・」

ドラグノフは本を取り出す。
記憶の書。

「僕は君が邪魔なんだ♪」

と同時に落ちてくる閃光。
転送の光。
闇の森の暗闇をかき消し、
一直線に落下してくる光。
その中から現れたのは・・・・・

「テュニB-128式!ふったたびー♪」

アレックス達を襲ったテュニだった。
馬鹿デカい、凶悪なるテュニ。
機械のきしむ音と共に現れた。

「げ・・・・」
「またこいつ・・・・・」

アレックス達の目の色が変わる。
正直・・・・
もう一度やりたくはない。
はっきり言ってスケールが違いすぎて倒せる気がしない。
ツヴァイの時とは違い、
どうにか攻撃を当てれば勝てるかも?といった話ではないからだ。
そう考えるとツヴァイよりもやっかい。

「そーれやっつけろー♪ぶったおせー♪」

ドラグノフは嬉しそうにその場で回転した。
元気なオッサンだ。

「お、おい!ツヴァイ!やってくれ!」

咄嗟に閃いたドジャー。
だが、

「断る」

当たり前のような返事が返ってきた。

「おま!お前がやらねぇと全員死ぬんだぞ!」

「死ねばいい。オレとて必要な命ではない」

「くっ!んじゃエドガイ!金払ってんだからお前ら傭兵でやれよ!」

「無理だねぇ。その分の金は貰ってねぇもん」

「お前は死にたくねぇだろ!」

「俺ちゃんらは死んでも料金外の事はしねぇ」

「だー!分かった払う!払う!ジャスティンいいだろ!?」
「・・・・・しょうがないな」
「って・・・出てくのはチェスターさんの貯金からですけどね・・・・」
「あいつの貯金は俺らの貯金だ!」
「あいつが金もってても猿に小判って奴だからな」

なんともわがままな人達だ。

「いいねー♪話の分かるの好きだぜ俺ちゃん!で、いくらだ?見た感じ値が張るぜありゃぁ」

「い、1000万!」

「2000」

「・・・・1500!」

「2000。俺ちゃんがこう言ったら2000だ。それ以下はねぇよ」

「チッ、分かった分かった!」

「OK♪おい誰か請求書作って渡せ!」
「サー!イエス!サー!」

傭兵の一人が紙切れを持ってジャスティンの方へ行った。
そしてエドガイが一人前に出る。

「てめぇ一人でやんのか?」

「安心しろ。俺ちゃんは料金以下の仕事はしねぇ。引き受けたら100%やんぜ〜。それに・・・」

ニヤりと笑い、
エドガイは歩む。

「一人じゃねぇしな」

そう言いつつ、
エドガイはある場所で止まる。
そして腕を掴んで引っ張り立たせた。
ツヴァイの腕をだ。

「なんだ?」

「おたくもやんだよ」

「オレはやらん」

「やりたくなるさ。やらなきゃスピーチ大会が始まるからな」

「・・・・・・・?」

「おたくたぁガッコの小学部から一緒なんだよねぇ。いろいろつもる思い出話もあるわな〜?」

「なっ!?」

「そうだなぁ・・・・あれだあれだ。レビアへの修学旅行にアインハルトが行かねぇっつーからお前は・・・・」

「だ、黙れ!やればいいのだろう!!」

ツヴァイは槍と盾を拾ってあっさり承諾した。
あのツヴァイを手玉にとっている。
恐ろしい男だ。
そしてその思い出話は少し聞いてもみたかった。

「さぁて・・・・お仕事ですねぇ」

そうしてテュニの前に二人は並んだ。
漆黒の騎士ツヴァイ=スペーディア=ハークスと、
最強の傭兵エドガイ=カイ=ガンマレイ。

「こりゃぁ・・・」
「いけそうだな・・・」

随分と頼りがいのあるものだ。

「無理むーーり♪僕のテュニには勝てないよー!僕の最高傑作だからね!」

テュニの目が光る。

「ウっヒャー!でっけぇー!これ勝てんのかねぇ?俺ちゃん涙目♪」
「グダグダ言うな。さっさと消すぞカスが」
「あらら・・・お隣さんのが怖いねぇ。俺ちゃん涙目〜〜」

そう言い、
エドガイは腰から剣を抜く。
トリガーのついた剣をぐるんぐるんと回し、
そしてテュニに向ける。

「その剣面白いよねー♪覗き見させてもらってたけどなかなかだよ!
 けど無理だね♪イヒ♪ばいばい傭兵さんとツヴァイ!アハハハハハハハハ!!!」

ドラグノフの笑いと共に、
テュニの腹部が縦に開く。
前にもみた大筒。
いや・・・前よりもデカい?

「一発で終わらしちゃうよ!!テュニショットverチェスター!特大エネミーレイゾン砲!!!」

テュニの腹部の大筒が輝き始める。
エネルギーが集結していくように。

「エネミーだと!」
「俺らん時のはまだ全開じゃなかったのかっ!」
「ツヴァイさんっ!エドガイさんっ!よけて!」

「あん?」

何が?見たいな顔をするエドガイ。
ツヴァイもエドガイも棒立ち。
それを尻目にテュニの腹部ではエネルギーが見る見る溜まっていく。

「だぁっ!その筒からエネミーが出るんだよっ!」
「さっさと避けろ!」

「何が出るって?」

「エネミーですよっ!」
「ビーム!ビィーム!!」

「もう遅いよぉーーーん♪」

ドラグノフの嬉しそうな言葉と共に、
テュニの腹部が静かになる。
エネルギーが溜まりきったのか。

「ばいばーい♪」

「なぁーにがビームだ。俺ちゃんの隣の可愛い子ちゃんより怖ぇもんはねぇよ」

エドガイは偉そうな事を言いながら下がる。
ツヴァイの後ろに。

「人任せな奴だ」
「ただ働きごーめーんーねー♪でも俺ちゃんも頑張っちゃうからねぇ」

「死ねぇ!!!」

放たれるエネルギー。
エネミーレイゾン砲。
アレックス達が見たものとは比べものにはならなかった。
本当のエネミーレイゾンと同等・・・
いや、それ以上の気の塊が放出される。
真っ直ぐ撃ち放たれる。
それがツヴァイとエドガイに・・・・

「くだらん」

一瞬ツヴァイが左手を翳した所までは見えた。
その後は分からなかった。

「・・・・・」
「なんじゃそりゃ・・・・」

エネルギーが拡散していた。
放出され続けるエネミーレイゾン。
それはツヴァイ達のところで・・・4方に散っていた。
ツヴァイが盾でこらえている。
盾だけであの巨大な機械から放たれる気の塊を止めている。
弾いている。

「・・・・・・・うっそぉーん・・・・」

ドラグノフの言葉と共に、
エネミーレイゾン砲が止む。
エネミーレイゾンの直撃点。
周りの地面はそこを軸に吹き飛んでいるが、
そこにはエドガイと盾を翳したツヴァイが健全なまま立っていた。

「・・・・・いや、有り得ない!僕の設計的にそれはありえない!
 なんだその盾!いや!盾の強度はともかく・・・・あの衝撃を人間の力で堪えきれるわけが・・・・」

珍しく取り乱すドラグノフ。
だがさらに取り乱す。
ツヴァイがいつの間にやら走りこんでいる。

「潜り込むぞE-U!」

いつの間にかエルモアに乗って駆けている。
テュニに向かって・・・・・

「エドガイ!分かってるなっ!」
「OK可愛い子ちゃん♪」

エドガイはもとの位置のまま剣先を構え、
腰を深く落とし、
テュニを狙う。

「・・・・・・イヒ♪無駄だよぉーん!股下が弱点だと思ってるんだよね?
 それはさっきもやられてばっかなんだよねー♪そして無駄なんだよ!」

そう。
アレックス達も・・・というよりドジャーも同じ事をした。
そしてたしかに無駄だった。

「戯言を聞くほどヒマではない」

だがツヴァイは槍を掲げ、
エルモアで真っ直ぐテュニの下に向かって走り込む。

「可愛い子ちゃんの考えが分かる俺ちゃんって偉いねぇ♪」

エドガイの剣先から二発の弾丸。
斬撃という名の衝撃波。
パワーセイバー。
水平に飛ぶ二発の衝撃波は・・・

「ズッキュン♪」

巨大なテュニには不釣合いな、細長い二本の足に直撃した。
というよりカッ斬った。
鉄の両軸をぶった切った。
たった二つの細い大黒柱が解き放たれ、
テュニは地面を失う。

「上出来だ」

胴体ごと落下するテュニB−182式。
大きな卵のようなボディが、
重量のままに落ちる。
そしてその下に潜り込むツヴァイとエルモア。
・・・・・・。
落下してくるボディの下で止まる。

「イヒ♪・・・・アハハハハハハハ!!!そのまま潰れろっ!!!」

大きな・・・・
闇の森の中全体が揺れるような地響き。
強大で巨大。
その鉄の塊が・・・・
ツヴァイの真上に落下した。

「・・・・・・・・・イヒ♪・・・・・」

テュニが落下し、
ただ砂煙が舞うだけだった。

「アハハハハハハハハハ!!!潰れた!ペシャンコ!!!アハハハハハ!!」

「ちょ・・・・」
「死んだぞ・・・・」
「死んでもいいって言ってましたけど・・・・」

「へへっ、いやいや死ぬわけねぇだろ。ツヴァイはもう死んでんだぜ?」

「そうだ。亡霊は死なない」

ツヴァイの声が聞こえた。
と思うと・・・・
大きな大きなテュニの胴体。
それがグラりと揺れる。
傾く。
そしてそれが砂煙をあげながら横に倒れた。

「カスが」

下には槍を突き上げたツヴァイが立っていた。
エルモアはいない。
卵に戻したようだ。
ただ・・・
漆黒の戦乙女が槍を天に掲げて立っていた。
テュニ。
その胴体下には大きなくぼみができていた。
隕石でもぶつかったようなおおきなくぼみが・・・・

「・・・・・・・・」
「鉄鉱石かなんかで出来てんのかあの女は・・・・」

テュニのダメージ部で電気が弾けていた。
胴体下におおきなダメージを受け、
何やら理解不能な部品や破片が見えている。
人間で言うところの致命的大怪我とでもいうべきか。

「あとはお前がやれ。エドガイ」

ツヴァイはそう言い、
こちらに戻ってくる。
堂々と、
倒れ去ったテュニに背を向け、
ゆっくりとこちらに戻ってくる。

「あいよー可愛い子ちゃん♪」

エドガイが剣先を構える。
ツヴァイに向けて。
いや、その背後のテュニに向けて。

「ツリはいらねぇ。とっときな」

そして放たれる衝撃波。
衝撃波の弾幕。
連射。
何発撃っているのか。
5・・・9・・・・15・・・・20・・・・・
止めず、
止まず、
撃ち続けられるパワーセイバー。
斬撃状の弾丸が乱発される。

堂々と戻ってくるツヴァイ。
パワーセイバーの弾幕とすれ違うように。
いや、
むしろパワーセイバーがツヴァイを避けているように。
ともかく歩いてくるツヴァイと逆方向にセイバーは飛んでいく。

「終わりは儚きかな♪」

エドガイが剣先に息を吹きかけ、
トリガーを軸に剣をぐるんぐるんと回す。
そして腰に収めたのと同時に・・・・。

「おわっ!!」
「うわっ!!」

大爆発が起きた。
テュニが爆発したのだ。
離れた場所にいても爆風で手を覆わなければならない規模の大爆発。
闇の森が、
オレンジ色の光に包まれる。
その終わりを告げる炎の中、
戻ってくるツヴァイの姿。
爆発をバックに堂々と帰ってくるツヴァイの姿。
漆黒の髪が爆風で広がる。
戦乙女。
鬼神のようにさえ見えた。

「こんなものでいいだろう」

ツヴァイは簡単にそう言い、
戻ってくるなり切り株に座りこんだ。

「こんなんもんでっていうか・・・・」

何に文句を言えばいいというのだ。
自分達が苦労した末、倒せもしなかったものが、
こんな簡単に、
ゴミ処理のように倒してしまわれては・・・
文句のつけようがない。
まぁ言うならば、
「僕達の立場はどうなるんだ」ってことくらいである。

「驚いたような・・・」
「これが当然っていうか・・・・」
「手合わせした身からすると複雑ですね」
「あぁ、だがこれは大きな成果だ」
「はい。何せあのテュニがドラグノフさんの最高傑作だそうでしたから」

「で?可愛い子ちゃん。さらに加金すっか?」

「は?」

「あれだよあれ」

エドガイが微笑みながら指を指す。

「・・・・・・・イヒ♪・・・・・・アハハハハハハハハ!!!!」

大きな気色悪い笑い声をあげるドラグノフ。
だが、
ドラグノフの姿は見えない。
何せ・・・・・・

「・・・・・・・」
「そりゃ反則だろ・・・・」

ドラグノフとアレックス達の間には・・・・
100・・・・いや200を超えるようなモンスター達が集結していた。

「戦えなくても!僕の力は強大だ!君達に僕は倒せないよ!!!」

記憶の書で召喚したのだろう。
あれだけの数のモンスターを・・・・。

モンスターの群れ。
確かにさほど強い者を集めたわけではないだろう。
だが、
200。
勝てるとは思えない。
アレックス達の手に負えるとは思えない。

「さぁどうする可愛い子ちゃん♪」

「くっ・・・・」

「また1000で手を打つよん」

「・・・・・・・・」

ジャスティンは少し考えた。

「・・・・・・2000だ」

「ん?」

「2000万グロッド払う」

「ありゃ?俺ちゃんは1000万分の働きでOKだぜ?
 今回は仲間も使うからそれを踏まえても1000万って計算だったんだけどねぇ。
 増やしても損するだけだぜ?料金以下の働きはしねぇけどそれ以上の働きもしねぇ」

「いや、キリがない。ドラグノフを叩くまでで2000だ」

「・・・・・・商売上手いね可愛い子ちゃん♪だがそれなら2500だ。
 これでも俺ちゃん涙目価格だぜぇ。計1億半いってるけどオラーイ?」

「・・・・・無理は今更だ」

「だよね♪よく人が破産するパターンだから注意しておいただけさ。
 何せ可愛い子ちゃんはお得意さまになってくれそうだから大事にしたくてねぇ」

《ドライブスルーワーカーズ》の傭兵がまた請求書を持ってくる。
これにサインするのは何度目か。
ジャスティンは右手だけで半ばやけくそ気味にサインする。

「OK。野郎共やんぞ!」
「「「「サーー!!!イエス!!サー!!」」」」
「死んでもいいけどこんなくだらねぇ相手に死ぬなよ!」
「「「「サーー!!!イエス!!サー!!」」」」

訳の分からない事を言うエドガイ。
エドガイはさらにまた、
ツヴァイの腕を持ち上げ、
無理矢理立たせる。

「仕事だ可愛い子ちゃん」

「手助けはあれで最後だ」

「あ〜〜・・・・・・。そういやあれだったな。普段使わないくせにおたくいきなり更衣室使ってよぉ、
 そんなもんだからアインハルトと間違えられてお前・・・・」

「分かった!!やればいいのだろう!!!」

ニタニタ笑うエドガイ。
苦笑するツヴァイ。
先ほどまで手に負えなかった存在とは思えない。
無敵にも思えた戦乙女とは思えない。
女という現実もあって可愛げが見えてきた気がした。

「あーらよっ」

アレックスの隣から声がして、
ヒュンヒュンと金物がまわる音がした。
それはダガーで、
空中を回り一舞いしたあと、
ドジャーの手に収まった。

「なんかさっきからいいとこばっかとられてんじゃね?」
「へ?」
「同感だ」

ジャスティンが鎌を右手だけで起用に回す。

「他人使って見てるだけじゃ俺らもドラグノフと同じだ」
「なるほど」

アレックスはクスりと笑い、
槍を背中から抜く。

「ま、僕は楽できればそれに越したことはないんですけどね」
「だがかっこ悪いまんまじゃしまんねぇだろ」
「そういう事だ」

目の前には200のモンスター。
そしてこちらは・・・・
アレックスとドジャー、ジャスティン。
ツヴァイとエドガイ。
そして十を少し超えた程度の傭兵。
バンビとピンキッドを除くと20にも満たない。
10倍の戦力差。

「金勘定は1=1じゃねぇよ・・・・・いくぞ野郎共!」
「「「「サー!イエス!サー!!!」」」」

エドガイを先頭に、
《ドライブスルーワーカーズ》の傭兵達が突っ込む。

「パーティに遅れちまうな」

ドジャーがそう言い、
アレックス達も突っ込む。

「何が楽しいのか・・・・」

ツヴァイは呆れながらそう言い、
エルモアの卵を落とす。
そして現れたエルモア。
ガルネリウス(E-U)。
それに跨る。

「・・・・・・・・イヒ♪・・・・・死にたきゃ死ね!・・・・・なぁーんちって♪」

200のモンスターも一斉に向かってくる。
それはもう地響きだった。

「カッ!!一番ノリいってくらぁ!」

ドジャーが一人突っ走る。
アレックスとジャスティンから抜け出て、
前にいる傭兵達を追い抜く。
自慢の足でスピードをあげ、
両手にダガーを抜き、
単体で突っ込む。

「いってきまぁーっす・・・・っとぉ!」

モンスターの群れに突っ込む前、
突然一人突撃するドジャーの姿が消える。
インビジだ。
インビジブルをかけてモンスターの群れに突っ込んだ。
・・・・・・・
と思うと、
モンスターの群れの中で2つ血しぶきがあがる。
二匹のモンスターが切られた。
同時のドジャーの姿もあらわになった。
モンスターの群れの上。
空中を舞っていた。

「一人10体がノルマって考えると・・・カッ、楽勝だな」

そしてまたドジャーの姿はモンスターの群れの中に消えた。

「あらら、頑張るねぇ・・・・でも俺ちゃんらの分なくなっちまうんじゃねぇか?
 ・・・そりゃぁよくねぇ。よかねぇよ。傭兵として料金以下の仕事するわけにゃぁいかねぇ。
 野郎共!俺ちゃんらも踏ん張るぜぇ?労働は尊いよなぁ〜?な?だ〜よ〜なぁ〜〜?」
「「「「サー!イエス!サー!!」」」」

傭兵達も突っ込んでいった。
それに続くようにアレックスとジャスティンも突撃する。

「やっぱ見てればよかったかな・・・」

アレックスは群れに突っ込んだ後に思う。
目の前のモンスターに槍を突き刺し、
休む暇なく横から襲ってくるモンスターにプレイアを放って吹き飛ばした。
槍を抜き、切り払う。
対多戦も慣れてきたものだ。

「アーメン」

アレックスの槍が蒼白い炎に包まれた。
イソニアメモリー・オーラランス。
そしてそれをモンスターに突き刺すと、
突き刺された所を発火点にモンスターは聖なる炎に身を焦がした。
串焼きの完成だ。

「なるほど。本当はそれ、そうやって使うわけな」

ダガーを二本モンスターの額に投げさしながら、
ドジャーは飛んできてアレックスの背後に背を合わせる。
そして背中越しに話しかける。

「炎がついただけのオモチャだと思ってたぜ」
「オモチャでしたよ。最近やっとモノにできてきたって感じでしてね」
「そりゃ成長おめでとう」

ドジャーはアレックスの背から背を放し、
モンスターを一匹ダガーで切りながらジャスティンの方へ跳んだ。
ジャスティンは片手で鎌を振り回していた。

「片手なんだから無理すんなよ男前」
「心配されるほどじゃないさ」

ジャスティンは鎌ごと十字を切ると、
鎌が光り輝く。
そして鎌を振った分だけ、
離れた敵が切り刻まれた。
ホーリーストライク。

「これぐらいなら片手で十分さ」

ジャスティンは鎌を突き出す。
・・・と思うと、
一体のモンスターに鎌をひっかけた。

「ハロー・・・そしてグッバイだ」

ひっかけた鎌を引き戻すと同時に、
ジャスティンは足を蹴りだす。
モンスターは鎌とジャスティンの足に挟まれる形になり、
真っ二つに分断された。

「カッ、おめぇがやられる心配はしてねぇよ。ようは左手オシャカにしちまうなよってこった
 顔色も悪ぃんだから自重しろっての。医者代もタダじゃねぇんだぜ?」

ドジャーはそう言うが、
まぁ口の悪い心配ってところだ。

「ドジャー。俺より自分の心配でもしてろよ」
「カッ、」

ドジャーは咄嗟に両手をピッと広げた。
真横に広げる両手。
左右にダガーが投げられたのだ。
ドジャーの真横で、
二匹のモンスターの額にダガーが突き刺さった。

「それはご馳走だ。くれてやる」

血しぶきをあげて倒れる二体のモンスター。
そしてドジャーは腰からまたダガーを取り出す。
再装填。
両手にダガー。
4本づつ。

「おかわりは沢山あるぜ。たらふく食いな」

モンスターを切りまくるアレックス、ドジャー、ジャスティン。
自分の力を再確認するように。
身近に強力な人間が多すぎた。
だが、自分達とて無力ではない。
出来る事は出来る。
その溜めた思いを晴らすかのようだった。

「働いて金稼ぐぞっとぉ!!」
「俺らも頑張るよね」
「そりゃ手に職が一番よ」
「俺らができる仕事はこんなもんしかねぇけどな!」

傭兵の男女。
《ドライブスルーワーカーズ》の者達。
職も性別も戦い方もまばらな傭兵。

「ハイホー!ハイホー!仕事好きってかぁ?」
「命張れば金になるんだから世話ねぇわな!」
「価値のない命だしね」
「おうよ。俺達はバーコード付き、値札付きの100均野郎だからな」
「命は100均。仕事はファッキン・・・か。くだらねぇな」

体にバーコードを刻印した男達。
死にたがり。
命を大切にしない者達。
だが、
だからこそ彼らは自由で、
だからこそ彼らは強い。
皮肉でもある。
だが一人一人がアレックス達と対等かそれ以上の実力を備えている。
モンスター駆除などいつもの事と言わんばかりに、
仕事を着実にこなす戦争のプロ達。
そしてそのボスは・・・・・

「ズッキューーーン♪」

アクセサリーだらけの半身と、
長い右前髪を揺らし、
剣から斬撃と飛ばす。

「おたくらは小銭なんだよ!」

横にいるモンスターを剣で斬り飛ばし、
間髪居れず、
脇の下から剣を背後に向ける。
そして引き金を引くとパワーセイバー。
エドガイの背後のモンスターがぶった切られる。

「俺ちゃん的には金稼ぎのボーナスゲームでしかないんだよねぇ」

射的のように剣を振り回し、
チャンバラのように銃を撃つ。
起きて破りな戦い。
ただ分かるのは、
エドガイの周り8方のモンスターが、
強さ、大きさ、そして距離に関係なく、
まったく一匹の例外もなく切り刻まれていく事だけ。
近かろうが遠かろうがだ。
他の者達よりずば抜けた駆除数。

「おーーーらよっ!!」

エドガイが剣を突き出し、
モンスターに突き刺す。

「串刺しかんりょーー」

エドガイは剣を突き刺したまま、モンスターを上へ持ち上げる。
串刺しのまま掲げられるモンスター。

「逃げ場はねぇよ。踊りなズキューン♪」

掲げられた剣先。
その先に刺さっているモンスター。
エドガイがトリガーを引くと、
剣先に刺さっていったモンスターが真っ二つになって飛び散った。
頭上で飛び散るモンスターの臓物の雨の中、
エドガイはモンスターに向かって笑みを送る。

「さぁさぁ逃げろよ賞金首共。俺ちゃんからじゃねぇ。俺ちゃんの剣先からだ。
 銃口向けられた順に死んでッちゃうぜ?あの世への片道切符。代金は先払い!命は後払いだ!」

4方8方へ向けられる剣先。
銃口。
そして言葉通り、
向けられたモンスターは真っ二つになって吹っ飛んでいった。
距離に関係なく、
あの剣先からは逃げられない。

「よっと」

エドガイが横に居た一匹のモンスターを蹴り上げる。
宙に吹っ飛ぶモンスター。
蹴り上げられるモンスター。
エドガイオリジナルのウォーリアーダブルアタックの動作。

「ツリはいらねぇ」

エドガイはトリガーを軸に剣をぐるんぐるんと回す。
そして剣を止め、
宙に向ける。

「とっときな」

そしてトリガーを引く動作と共に、
空中でモンスターが真っ二つになった。
あの銃口からは逃れられない。
そしてエドガイの笑みからも・・・。

「相変わらず遊戯のように派手な戦い方だな」

真っ二つになったモンスターが散らばる空中。
そこに天馬。
いや、エルモアが翔けた。

「楽しむのも良いが、お前にとっては仕事なのだろう?遊ぶな」

そう言うのは空翔る天馬の上。
漆黒の鎧を着た戦乙女。
ツヴァイは着地と同時に槍を振り払い、
3匹のモンスターを切り払った。
切り払ったというのは優しい表現かもしれない。
3匹のモンスターが吹き飛んだ。

「おたくに言われちゃぁなんも返せねぇや。けど俺ちゃん的にはスマートと思ってるぜぇん」

「ふん」

エドガイの横でツヴァイは手綱を引く。
と同時エルモアが勢いよく走りだす。
モンスターの密集地帯であるのに全力で駆ける。

「のけ!のけカスども!」

槍を振り回し、
エルモアが全速力で突っ走る。
跳ね上がるモンスター。
吹き飛ぶモンスター。
密集地帯であるのにエルモアの速度は落ちない。
ツヴァイを止める術などないからだ。

「カスが・・・・消し屑になれ!」

チャージラッシュ。
いや、そんな生易しいものでもない。
エルモアに乗った戦乙女は、
戦場でわがままの限りを通した。
あまりにわがまま。
あまりに傲慢。
だれも逆らえず、散っていった。

「貴様らに選択肢は与えん」

一払いで数匹。
一突きで数匹。
槍に命を奪われ、
エルモアの突進で跳ね飛んでいく。

「ただ散れ」

見る見る減っていくモンスター。
200という数がちっぽけにも思える。
恐らく・・・・
ツヴァイ一人を相手にしても200という数は足りなかった。

「自分の頑張りが虚しくなってきますね・・・」

アレックスはツヴァイの戦いを見ながらのんびり言った。
そのアレックスの横にドジャーが来る。

「そう言ってるヒマもねぇぞ」
「へ?もうすぐ終わりそうじゃないですか」

もう数匹ほどしかモンスターがいない。
もうすぐ倒しきる。
早いものだ。

「あぁ・・・・・・・なるほど」

アレックスは終わりそうだからとのんびりしていたが、
というかツヴァイの戦いに見入っていたが、
槍を構えなおす。

「ドラグノフを叩かないと・・・ですね」
「カッ、そういうこった」

ドラグノフを倒さない限りモンスターは無限増に近い。
ドラグノフを叩かなければこの戦いは終わらない。

「行くぞ!」

ドジャーが勢いよく飛び出すが、

「どこへ?」

アレックスの言葉にドジャーがブレーキをかける。
そしてキョロキョロと周りを見渡した。

「・・・・・あら?」

いない。
いないのだ。
調度今、
ツヴァイの手によって最後のモンスターが駆除された。
並ぶモンスターの死骸。
総勢200。
だがドラグノフの姿が見えない。

「どこ行きやがった・・・・」

逃げられた?
いや、そんなはずがない。
この戦いはあっちがふっかけてきたものだ。
こちらが逃げるなら意味が分かるが、
ドラグノフが逃げるとは思えない。

「おいおい、標的どこ行ったん?」

エドガイが詰め寄ってくる。
傭兵の男達も一緒にだ。

「分からないな・・・・何せモンスターだけで視界はいっぱいだった」

ジャスティンもそう言う。
ここにいる誰もがドラグノフの行方が分からない。
そりゃぁ優勢とはいえ200の相手と戦っていたのだから。

「おーい。おめぇらは?」

ドジャーが振り返って遠くを見る。
バンビとピンキッドが木の陰で首を振った。

「やられたな」
「何を企んでるんでしょうか・・・・・」

なんとも味気ないものだ。
分からない。
ドラグノフの行方。

「何をしている」

そう言いながら、
アレックスの後ろからツヴァイが歩み寄ってきた。
エルモアはしまったようだ。

「いえ、ドラグノフさんが見当たらなくて・・・」
「カッ、一端身を潜めたか」
「インビジの線は?」
「特化型ブレシングヘルスを使っていましたし盗賊ではないでしょう」

「お手上げみたいだな」

そう言いながら、
エドガイの背後からツヴァイが歩み寄ってきた。
エルモアはしまったようだ。

「みたいですね・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・」

一同が一瞬沈黙する。

「はぁ!?」
「なっ!!!」

そして全員が一斉に後ろに跳んで下がった。
アレックスもドジャーもジャスティンも、
エドガイも傭兵達も全員だ。

「お、おま!」
「ツヴァイさん・・・・」

そして唯一。
いや、唯一と言うのはおかしい。
とにかく中心に残ったツヴァイは・・・

「ツヴァイが!」
「二人いる!!!?」

ツヴァイが二人いた。
アレックス達の中心に立つ二人の戦乙女。
漆黒の鎧に身を包んだ騎士。
・・・・x2。

「ふ、双子!?」
「混乱しすぎですドジャーさん・・・・」

ただ、
ツヴァイが二人存在しているのは確かだった。

「くっ・・・どちらかがドラグノフか」
「ですね・・・・・僕達が最初に出会ったとき、ツヴァイさんの変スクを使ってましたから」

ツヴァイが二人。
どちらかがツヴァイで、
どちらかがドラグノフ。
見分けは・・・・つかない。
いや、
一つ違う点があるならば、
片方のツヴァイはアメットを・・・

「くだらん」

「うごぁっ!!」

片方のツヴァイがもう一人のツヴァイに槍を突き刺した。
腹のど真ん中に突き刺した。

「・・・・・あ・・・痛い♪・・・・・」

アメットを被っていた方のツヴァイが煙に撒かれ、
姿がドラグノフに戻った。

「酷いな・・・・人を傷つけるなんて・・・・・・・・なんちって・・・・・・」

血反吐を吐きながらも、
ドラグノフの腹が回復していった。
穴が空いたのに急速に復元している。
特化型ブレシングヘルス。

「馬鹿か。他の者に分からなくてもオレには分かるに決まってるだろ」

・・・・・。
それはそうだった。
ツヴァイからしたらもう一人のツヴァイが偽物のツヴァイに違いなかった。
というかドラグノフの方のツヴァイは、
アメットで顔を隠していた。
ツヴァイの正体など知らなかったのだろう。
素顔の変スクなど用意してなかった。

「あーあ・・・僕的なエッリートな作戦は失敗かなぁ?」

ドラグノフは言う。

「カッ、何がエリートだ。バレバレだったじゃねぇか」

ドジャーはそう言うが、
一番動揺していたのがドジャーだった。
後から言うのは時に楽なものである。

「いやー♪僕のエリートな作戦はそうであってそうじゃないんだよね!」

ドラグノフはくるりと回転しながら言う。
アレックス達に囲まれ、
ツヴァイと対峙しているのにこの余裕。
どこから出てくるのだろうか、
そして作戦?

「僕の作戦はね。この変スクでツヴァイにとって変わろうと思ってたのさ!
 だからあんたが邪魔なんだよね♪だから殺そうと思った♪・・・・イヒ♪」

ドラグノフは両手を広げる。

「は?」
「なんだって?」
「ツヴァイに・・・」
「成り代わる?」

「そうさ!ツヴァイが生きてるかもって聞いた時は胸躍ったよ!これはチャンスだ!・・・とね。
 誰よりも早くツヴァイを殺してツヴァイに成り代わればエリート間違いなし!
 ドラグノフはここで死んだことにしとく!今日から僕がツヴァイだね!・・・なんちって♪」

ツヴァイに成り代わる・・・・。
変スクでツヴァイの姿になってツヴァイとして生きるという事か。
ツヴァイは殺し、
自分自身がツヴァイとして・・・・・。
なんて無茶苦茶で、
なんと横暴な作戦だろうか。

「分からんな」

ツヴァイが言い捨てる。

「何故オレに変わる必要がある」

「・・・・・・・・は?」

ドラグノフはツヴァイのその質問に対し、
顔をしかめる。
何か確実に気に触ったような表情。
そして・・・・

「・・・・・・・・説明しただろ!!!」

突然ドラグノフは叫ぶ。
余裕ばかりのドラグノフに似合わない叫び。
ツヴァイに対すると発する怒り。
そして指を震わせながらツヴァイに突きつけ、
怒りを交えながら話す。

「お前はなぁ!産まれたその瞬間から他人より特別で得してんだよっ!
 アインハルト様の片割れとして産まれたってだけでな!・・・・・・・・・・くっ・・・。
 なんだ・・・なんだこの不平等は・・・・人間が平等?それが嘘っぱちなのはお前が一番分かってるだろ!
 お前は産まれた瞬間から肉体的な才能と能力的な才能を全てを持っている!そして地位さえも!」

「だからなんだカス」

「・・・・・くっ」

全く動じないツヴァイ。
ドラグノフとて押されている。
アインハルトと同じ、
包み込むような威圧感。
それをドラグノフは感じているのだろう。

「お前がオレと成り代わった所でオレになれない。中身はお前だ」

「地位を得られるんだよ!居場所だ!」

叫ぶ。
あまりに突発的なドラグノフの態度。

「騎士団での僕の場所を得られる!いや、絶騎将軍(ジャガーノート)にだってお前の姿があるだけで・・・あっ」

さらりと出た言葉。
ドラグノフは咄嗟に口を噤んだが、
アレックス達は聞き逃さなかった。

「絶騎将軍(ジャガーノート)にだって?」
「どういうこったそれ」
「お前は絶騎将軍(ジャガーノート)じゃないのか?」

「あ・・・いや・・・なんちって♪・・・うっそぉーん♪僕は絶騎将軍(ジャガーノート)に決まってるじゃないか!」

「ふん。戯言を」

ツヴァイが直球に言い放つ。

「それは兄上の右腕たる者達の事なのだろう?見たところお前ごときがなれるとは思えないが」

「うるさいっ!!お前に何が分かる!」

「分からんな。オレはお前が誰なのか知らん。ただカスだとは分かる」

「・・・・うっ・・・・・くっ・・・・・・・・・」

ドラグノフは歯を食いしばる。
目の前の存在が、
憎くて憎くてしょうがない。
アインハルトの面影さえ映る。

「僕は"お前ら"のそういうところが嫌いなんだっ!!!
 努力も苦悩も知らずに人を見下しやがってっ!僕は・・・僕は・・・・努力もしたっ!
 多くのものを犠牲にしてきた!そして天才になった!努力して手に入れた才能だ!
 なのに何故認めない!何故僕を絶騎将軍(ジャガーノート)にしないっ!
 功績も十分のはずだ!GUN'S作戦も成功し!数少ない騎士団の生き残りだ!」

絶騎将軍(ジャガーノート)ではなかった。
まぁ確かに・・・・
フロイアフロックについた羽。
あまりにもおかしな格好。
あれは自作なのだろう。
天上服さえ支給されない身分ということ。
ただの意地。
そしてドラグノフはやり場のない感情をどこに持っていけばいいのか分からないようだ。
腕をふらつかせながら、
その場をうろうろしながら、
そしてまた話しを続ける。

「くそっ!他の騎士団の生き残りは全て絶騎将軍(ジャガーノート)だ!
 終焉戦争を生き残ったピルゲンも!ロウマも!!
 53部隊(ジョーカーズ)のギルヴァングも!燻(Xo)も!!
 44部隊を除いて全て絶騎将軍(ジャガーノート)になってる!
 なのに何故僕だけっ!なのに僕だけ認めてもらえないっ!」

ドラグノフは本当に気持ちが滾っているようで、
だが、
ぶつけ先の分からない怒りをどうしようもなく、
地団駄を踏んだ。

「ジャンヌダルキエルとかいう後からきたメス神なんかも絶騎将軍(ジャガーノート)にして!
 何のとりえもないロゼとかいう女をいつも隣に置いて!
 その上デムピアスを探して絶騎将軍(ジャガーノート)にする!?
 僕は!?僕はどこ行った!?何故僕が候補にあがらないっ!!!
 あんなに勉強して!あんなに努力して!あんなに研究して!
 そしていまの才能がある!僕の才能は十分なはずだ!天才なんだ!なのに何故!なんで!?」

彼は彼なりにジレンマや苦悩があったという事だ。
しかし確かに戦うと実力はある。
本人の力じゃないにしろ、
アレックス達だけじゃ勝てないほどの相手だった。

「・・・・・・・・イヒ♪・・・」

落ち着いたようにドラグノフは笑った。

「だから僕はツヴァイとして騎士団で絶騎将軍(ジャガーノート)になる。
 才能も実力もある。ただ必要なのは地位だけなんだよ。ツヴァイになって手に入れるんだ。
 ・・・・いや、それももう無理かな。それは僕にも分かる。じゃぁもう一つの作戦でいくよ」

ドラグノフは懐から何かを取り出した。
まだ諦めてはいないのか。
取り出したものは・・・・何かのスクロール。

「ツヴァイより楽に、そして確実に成り上がれる方法がある。これをなんだと思う?」

ドラグノフはスクロールを突き出す。
だが、
誰も何も答えなかった。

「・・・・・・デムピアスのスクロールさ」

「なんだと?」
「デムピアスの変スク?」

「そう!僕の最高傑作だ!僕は今この時から・・・・・海賊王デムピアスになる!」

ドラグノフはスクロールを広げる。

「アインハルト様が確実に求める人材!求める存在になれば求めてもらえるんだ!
 そうだ!これで僕はやっと認められる!技術者は不毛だ!だから僕は僕を捨てる!」

ドラグノフの体が煙に撒かれる。
光に撒かれる。

「これでやっと認められる!努力してよかった!勉強してよかった!
 僕だからこそ作れた!そして僕は認められる!僕は絶騎将軍(ジャガーノート)になれる!」

光が大きくなる。
いや、
違う。
ドラグノフ。
彼自身が大きくなっていっているのだ。

「マジ・・・かよ・・・・」

見上げる。
見上げなければ見れない。
デカい。
大きい。
強大。

「・・・・・・イヒ・・・・・・・」

赤と青の妖々な面。
禍々しい風貌。
片腕にカギヅメ。
その大きな威圧感。

「・・・・・イヒヒ・・・・・アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!」

闇の森にこだまするドラグノフの笑い声。
いや、デムピアスの笑い声。
それは響き、
勝者の笑い声として轟いた。

「・・・・・愚か者め」

ツヴァイが槍を握りしめる。













                 






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