「ツリはいらねぇ・・・・・・・とっときなっ!!!」

エドガイが構えた剣。
アスタシャ。
トリガーのある特殊な剣。
その先から・・・

斬撃。
斬った動作など微塵もなかったが、
斬撃。
衝撃波。
刃状の衝撃が発射された。

「チッ・・・・」

ツヴァイは横に走り避ける。
衝撃波はそのまま背後の枯れ木にぶつかり、
木を二本斬り倒した。

「ハズったか。やっぱおたくやるねぇ・・・・」

エドガイは剣を回す。
剣についているトリガーに指をかけ、
剣は指を軸にぐるんぐるんと回った。

「やるだと?ふん、オレは実力以上の動きも以下の動きもしない」

「さいですかぁー♪ガッコの時から錆付いちゃいえねぇってことね!」

エドガイが剣を回すのをやめ、
片手で剣の回転を止める。
そして剣の先・・・・・・・照準を向ける。
走るツヴァイを追うように、
剣先という名の銃口を向ける。
そしてトリガーを引く。
引いていく。

「俺ちゃんの心が愛にズキューン♪ってかぁ!」

トリガーを引いた分だけ、
衝撃波は発射される。
斬撃という名の衝撃波。
それがツヴァイを追うにように外れていく。
ツヴァイは走った道の通り、
後ろの木々が切り刻まれていった。

「相変わらずデタラメな技だ」

「どっもー。俺ちゃんホメ言葉としてもらとくっぜぇー」

エドガイの剣から放たれる何発もの衝撃波が、
横に走るツヴァイを追いかけるように放たれて外れていく。

「なんだありゃ・・・」
「剣から・・・ビーム?」
「あのアスタシャ・・・特殊な剣かなにかか?」

「いーや」
「違うね」

アレックス達の背後の声。
振り向くと、
《ドライブスルーワーカーズ》の男達がヘラヘラと笑っていた。
その中でも、
たまたまアレックスに近かった、
右肩にバーコードを付けたしゃがんでいる男と、
額にバーコードを付けた男が話しかけてきた。

「あの剣はただの剣だ」

「ただの剣だぁ?」
「あれトリガーついてるじゃないですか」

「あんなもん飾りだ」
「ボスの気持ちの問題ってやつだな」

こうやって話してる間にも、
ツヴァイとエドガイの交戦は続く。
走るツヴァイ。
それを狙うエドガイ。
エドガイの剣が放つ衝撃波で倒れていく木々。

「あれはパワーセイバーだ」
「そんくらいのスキル聞いた事あんだろ?」

パワーセイバー。
戦士のスキルだ。
斬った衝撃波を放つ飛び道具。
戦士唯一の飛び道具と言ってもいい。
ジャスティンが特によく分かる。
GUN’Sにスミス=ウェッソンというパワーセイバー使いがいたのだから。

「パワーセイバーっつったってなぁ」
「あれどう考えたって斬ってないじゃないか」

「そこがボスのすげぇとこだ」
「ボスぁ"指先一つ分の動作"でパワーセイバーを放てるんだよ」
「あのトリガーを引く分だけの動きでな」

「はぁ?」
「言いたい事は分かりますけど・・・」
「カッ!だから斬ってねぇじゃねぇかどう見たってよぉ!斬撃がでるかってんだ!」

「いちいち頭堅いねぇおたくら・・・・実際出てんだからいいじゃねぇか・・・」
「ま、ボスのパワーセイバーはどっちかっつーとイミゲとかに近いっつえば納得すんだろ」

つまるところ、
剣圧や、
剣速、
剣により衝撃で放っているわけじゃないと。
パワーセイバーであってパワーセイバーでない。
もしかすると新しいタイプのスキルに近いかもしれない。
とにかく彼らの言うとおり、
衝撃波が出てるもんは出てるのだから考えてもしょうがない。

「オラオラァ!!いつまでも逃げ切れるかツヴァイ!!!」

「いらん心配だ。自分の心配でもしていろ」

斬撃を撃ち続けるエドガイ。
撃つたびに、
反動で垂れ流れた前髪が揺れる。

避け走るツヴァイは、
長い漆黒の髪が煌き揺れる。

「E-U!!」

ツヴァイが叫び、
同時に左手で輪を作って咥え、ピュィーっと口笛を鳴らした。
すると、
ツヴァイのエルモア。
ガルネリウス(E-U)が違う方向から走り込んでくる。

「やはり信用できるのはお前ぐらいのもんだな」

そう言い、
ツヴァイは斬撃の嵐の中、
走ってきたエルモアに飛び乗り、そのまま走る。

「チィ、乗りもんか。ずっけぇーなぁ」

エドガイは使っていなかった左手を、
剣に添える。
そして姿勢を低くし、
前髪の垂れていない方の片目、
左目で照準をつける。
確実に狙う構えをとった。

「ふん。下手な豆鉄砲を構えたか」

ツヴァイは、
今度を避け走るでなく、
エルモアに乗って真っ直ぐエドガイへ走りこんでいった。

「あぁよ!下手な豆鉄砲を構えた・・・・・ぜっ!!」

剣から放たれるパワーセイバー。

それは垂直の軌道をとり、
ツヴァイへ向かう。

「下手と言ったろう」

エルモアが首を下ろす、
そしてエルモアの上のツヴァイは・・・跳んだ。
エルモアから跳んだ。
パワーセイバーはエルモアの上を通過し、
パワーセイバーの上をツヴァイが通過する。

「カスが」

「チィッ!」

上から飛び掛ってくるツヴァイ。
槍を振り上げ、
斬り下ろすように振り落としてくる。
激しい金属音。
ツヴァイの槍と、
エドガイの剣が交差した。

「防御は下手な覚えがあったがな」

「そりゃお生憎様ぁ!」

「ふん・・・」

「ぐっ!!」

ツヴァイは振り下ろした槍を引き、
そのままエドガイの頭を踏んづける。
そして跳ぶ。
ツヴァイはそのまま走っていたエルモアに飛び乗った。

「てめっ!俺ちゃん毎日髪セットしてんだぞ」

「大事な命。時間はそんな事より有意義に使え」

走り去るエルモア。
ツヴァイ。
ツヴァイはエルモアの上に腰を低くして立っていた。

「いやいや有意義だぜ・・・・・」

エドガイがまたトリガーを軸に、
剣をぐるんぐるんと回す。
ツヴァイは旋回を終え、
またエドガイに向かっていた。
エルモアの上に腰を低くして立ったまま。
エドガイは回していた剣を止め、
片手で剣を走ってくるツヴァイに向ける。

「そりゃモテたいんでね!セットくらいするっての!」

引かれるトリガー。
放たれるパワーセイバー。
斬撃が3っつ。
ツヴァイに向かって飛んでいく。

「分からぬ心情だ」

ツヴァイはアメットの下、
唯一見える口元を歪ませ、
突然足下を蹴り上げた。
足下。
言うならばエルモアの背の上。
鞍(くら)が跳ね上がった。
いや・・・・鞍じゃない。
あれは・・・・・・・・・盾。

「鉄砲玉を避けるのには飽きた」

馬上で跳ね上がった鞍、もとい盾は、
ツヴァイの左手に収まり、
パワーセイバーを2発防いだ。
一発は外れて逸れていった。

「チィ・・・・俺ちゃんのセイバーは岩をも切り裂くだけどねぇ」

「それを超える盾というだけ」

気付くと、
ツヴァイはまたエルモアの背の上から跳んでいた。
エドガイに向かって跳ぶ。
片手には黒い長槍。
片手には盾。
空中で足を折りたたみ、
両手の武具を広げ跳ぶ漆黒の騎士。
アメットに隠れた目が睨む。

「あの世でせぃぜい風貌の自慢でもしていろエドガイ」

「そりゃ勘弁してくれ!」

また金属音。
ツヴァイの盾とエドガイの剣のぶつかる音。
交差。
いや、交差というには戦況は悪い。
ツヴァイはエドガイを空中から押し倒す形になった。
地に伏せるエドガイ。
その上にツヴァイ。

「そっちの興味もあったかツヴァイ・・・」

「たわ言を」

エドガイは必死にツヴァイを押し返そうと剣に力を込める。
だがツヴァイの盾はびくともしなかった。
そしてツヴァイはもう片方の手。
槍を持つ右腕を振りかぶった。

「オレの記憶から消えろ」

突き出される槍。
突き落とされる槍。
それはエドガイの顔面に向かって突き落とされた。

「あぶっ!!」

首をひねるエドガイ。
槍は地面に突き刺さった。
地面が小さく弾ける。

「へへ、俺ちゃんピンチってかぁ?!」

エドガイは空いている片手でツヴァイを突き放す。
突き押す。
押し倒されている形から、
片手で全力で突き放つ。

アレックス達は、
押し勝とうとしても全くできなかった。
逆に吹っ飛ばされるような形だったが、
エドガイはツヴァイを突き放した。

「軽くなったかい?ツヴァイ」

それどころか・・・
ツヴァイが浮いた。

「チッ・・・」

「浮かれてるねぇ・・・・ってかぁ?オヤジギャグだな」

エドガイは倒れている状況から、
そのまま上へ剣を向ける。
銃口を向ける。

「ラヴ・イズ・ズキューン♪ってなぁ!!!」

空中のツヴァイに放たれるパワーセイバー。

「くだらんっ!!」

空中でツヴァイは盾を振る。
盾でガードするのではなく、
もう盾で弾いた・・いや、盾でかき消したといった感じだった。

「いい気になるなよエドガイ!」

もう一度落下しながら槍を振るツヴァイ。
剣のように振り落とす。

「あぁーらよっと」

エドガイは倒れている体勢から足を回し、
飛び起きる。
避ける。

ツヴァイの槍はハンマーのように地面にぶち当たり、
固い地面が破片となって跳ね上がった。
地面を砕くツヴァイ。
跳ね上がる地面の破片。
まるで雨が逆に降りしきるように。

「お邪魔しますよっと」

破片。
跳ね上がる破片の中。
ツヴァイの背後にエドガイの姿。

「だぁらっ!!!」

背後から振られる剣。
アスタシャ。
だがツヴァイは、
背後も見ることなく左手の盾でそれを防いだ。

「オレからは・・・・・・なめるなよと言っておこう」

背後を見ないまま、
盾で背後の剣を防いだまま、
ツヴァイは言う。
跳ね上がった破片が一斉に落ちていく。
そしてパラパラと破片が全て地面に落ちた時・・・

「塵になれ」

剣を盾で防いだまま、
ツヴァイの槍が180度振られた。
背後へ。
エドガイへ。

「・・・・・ッ」

刹那の時間。
エドガイの剣はツヴァイの盾に。
だが、
ツヴァイの槍はエドガイを襲う。
防ぐものがない。

「俺ちゃんなめんなっ!!」

ガキンッと金属音。
エドガイは槍を防いだ。
唯一の武具、
剣は盾にぶつけたままだ。
だが、ツヴァイの槍を防いだ。

「面白いことをする」

「だんろぉ?へへっ・・・・」

ギリギリとツヴァイの槍を止めるのは・・・・・
腕。
腕輪。
ブレスレットだった。
ブレスレットが何個も腕に通してある。
それで止めた。

「昔からわけの分からんやつだった」

「オシャレは男の味方でねぇ」

ブレスレット・・・
というより腕輪は修道士の装備だ。
修道士がつけて初めて意味があるものだといわれている。
が、
付けるだけなら好きにしろといったところか。
エドガイはジャラジャラとブレスレットを左腕に付けている。
それを防具として使っている。

「イカすだろ?俺ちゃん」

長い右前髪を揺らし、
首を傾けて言う。
エドガイは言うところ・・・アクセサリーだらけだ。
ドジャー以上にだろう。
それも"左半身"ばかり。
まぶたのピアス。
耳にもビッシリ。
左腕。
左手の5本指。
鼻の左頭。
舌。
アクセサリーに埋め尽くされている。

そして一番特質なのが左耳。
指輪。
耳には指輪がぶら下がっている。
今ぶら下がっているのは・・・・エアーリング。
・・・・・ファイアリング、そしてフレイムリング。
左手の指にはさらに多くの指輪。
一つの指に一つなんて謙虚な付け方はしていない。

「・・・・・・・ふん」

エドガイの剣はツヴァイの盾に、
ツヴァイの槍はエドガイの左腕のリングに、
それぞれがギリギリと押し合う。

「どうするよおたく」

「何がだ」

「どっちかがこの硬直状態から引かねぇとな」

「たわ言を」

「そう、たわ事だねぇ。俺ちゃんらの実力だと・・・・ここで引いた方がやられるな。
 っていうかー?つーかー?俺ちゃんは飛び道具があるからおたくはそうもいかねぇってこった」

「たわ言だと言っている」

「強気だけは変わらず・・・・ねぇ。だがそれでも引くしかないだろ」

「オレは引かん・・・・・・還らん!」

ツヴァイが・・・・
槍を放した。
右手から槍を放した。

「!?」

「自分の慢心を憎め」

右手から槍を放し、
そのまま・・・・・右手で殴りぬく。
エドガイの左頬を殴りぬく。

「ぐっ!!」

エドガイの顔面が歪む。
ツヴァイの拳がそのまま突き抜けると、
エドガイの頭が跳ね上がり、体ごと吹っ飛んだ。
ツヴァイはそのまま右手に槍をキャッチする。

「型破りな男も、型破りな戦いはできんか?」

「こにゃろ!」

エドガイがすべるように着地する。
左頬を撫でる。

「顔は男の武器だぜ!使い物にならなくなったらどうすんだ!」

そう言い、
エドガイが右手の剣を突き出す。
トリガーにかけた指先。

「使い物にならない事をカスという」

ツヴァイが駆け走っていた。
漆黒の騎士がエドガイに、
剣という名の銃口に真っ直ぐ躊躇いもなく走りこむ。

「言うねぇおたく!」

パワーセイバー。
剣先から放たれる斬撃。
岩をも豆腐のように斬り落とす飛び道具。
3つの鋭き閃光。

「ふん。だがお前は言っても聞かん男だったな」

盾が飛ぶ剣撃を二発防ぎ、
槍が一つの剣撃をかき消した。

「なら斬られて知れ。斬られて死ね。斬られて散れ」

漆黒の兜が近づく。
そして漆黒の槍が振り切られる。
エドガイは少しだけ首を倒し、
槍はエドガイの顔の前スレスレを通過した。

「・・・・・・・ヒュー♪」

エドガイの右前髪が少し弾けた。

「ギリギリだ怖っぇ!ヘヘッ、俺ちゃん涙目♪」

そう言うエドガイはそのままの体勢から・・・・

「吹き飛べオラァァ!!!!」

右足をおもくそに突き出す。
ハンマーが突き出されるような直線的すぎる前蹴り。

「ぐっ・・・」

それはツヴァイの腹に直撃する。
そしてツヴァイが吹っ飛ばされる。
・・・・・初めてみる光景だ。

「へへっ、これが俺ちゃん流ウォーリアダブルアタック」

エドガイが剣をぐるんぐるんと回し、
垂直のところで止める。
剣先は吹っ飛ばされたツヴァイの方へ向く。

「ツリはいらねぇ、とっときな」

「!?」

エドガイの片腕。
剣先から放たれるパワーセイバー。
それもここ一番の強大なパワーセイバー。
1・2メートルにも及ぶ長い閃光。
それが吹っ飛ばされるツヴァイに放たれる。

「チィ・・・・」

吹っ飛ばされていては身動きもできない。
ツヴァイは空中で盾を突き出す。
吹っ飛ばされながら盾を前に出す。
だが、
そのパワーセイバーは盾よりも巨大だった。

「ぐっ!!」

中央部だけ、盾がその衝撃波を防ぐ。
が、
防ぎきれなかった両端部分が、
ツヴァイの左肩と右足をカッ斬った。

「・・・・クソ・・・・・カスめ」

ツヴァイが着地し、槍を払う。
一撃で左肩と右足に傷。

「はいはいカスです。俺ちゃん涙目ぇ〜〜。でもカスが愛を飛ばすぜ。飛んでけズキューンってな!」

連射。
エドガイが飛ばす剣撃という名の弾丸。
斬撃という名の閃光。
5発。
包囲網のように散り散りにまばらにツヴァイに放たれる。

「ふん」

ツヴァイは余裕の表情。
アメットで顔は見えないが口元と雰囲気だけでも分かる。
そして槍も盾も構えない。
5つの斬撃(パワーセイバー)が放たれているというのに。

・・・・・・・。
と・・・・・
消えた。
ツヴァイの姿がふと消えた。
5つのパワーセイバーは虚しく通り過ぎる。

「調子に乗るなカスめ」

声をした方を見ると、
ツヴァイがエルモアに乗っていた。
あの瞬間に、凄い勢いでエルモアが通過したのだ。
パワーセイバーがぶつかる前に、
高速でツヴァイを拾い上げた。
ツヴァイはエルモアの首根っこを掴むように乗っていた。
目で追えていたのは・・・・・エドガイだけだった。

「・・・・・・・調子は乗らなきゃ損だろ!」

エドガイが銃(剣)を構える。
ツヴァイが、エルモアが走る。

また繰り返しだった。
メチャクチャだった。
ツヴァイとエドガイの交戦が続く。
周りを巻き込んで・・・・。

ツヴァイが槍で突く。
エドガイが剣で撃つ。
ツヴァイが槍で斬る。
エドガイが剣で斬る。
ツヴァイが盾で防ぐ。
エドガイが輪で堪える。
ツヴァイが馬で翔ける。
エドガイが足で蹴り飛ばす。

地面がえぐれる。
枯れ木が吹き飛ぶ。
地面が砕ける。
岩が斬れ飛ぶ。
地面の破片が舞い、
枯れ木が泣くように倒れていく。

「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・・」

アレックス達はそれを呆然と見ていた。

「・・・・・・・・ついてけねー・・・・」

ドジャーがなんとなしに言ったが、
まぁその通りだった。
まず見てみろといいたいこの光景。

ただでも少ない闇の森の枯れ木達。
もう数十本と転がっている。
剣撃という流れ弾で地面でコマ切りで転がっている。
数十本の枯れ木の残骸が悲しくも見える。
この短時間で森林伐採という環境破壊をやってのけるエドガイ=カイ=ガンマレイ。

地面がもう元の形をしていない。
瓦礫の山と言ってもいいだろう。
もとからデコボコだった固い地面が、
なんと綺麗に瓦礫の山と化したことか。
その地面の破片の上を何事もなく平然とエルモアで走るツヴァイ=スペーディア=ハークス。

「エドガイさんってあんな強かったんですか・・・・」
「あぁ。話の内容からも分かると思うが、王国騎士団の黄金世代の奴らしい。
 アレックス君の両親のアクセルさんやエーレンさんと同じでね。・・・と」

ジャスティンは口を濁した。
知っていた知識をサラりと言ってしまったが、
アレックスの両親の話をするのはデリカシーがないと感じたのだ。
話では死んでいると聞く。

「あ、気を使ってくれなくて大丈夫です。《MD》も親無しが多いですからね」
「カッ、誰も気ぃ使ってねぇよ。この世の中だ。親がいねぇなんて珍しくもなんとも・・・・・」

と言いながらも、
ドジャーも口を濁した。
気付いて向こうを見た。
それは彼女がいるからだ。
バンビはまだ父の死体の前で泣いていた。

「チッ・・・・」

ドジャーが歩く。
バンビの方に。
エドガイの流れ弾がアレックス達の方にも飛んできて、
枯れ木を3本切り倒した。
そんな事も気にせず、
ドジャーはバンビに歩み寄る。

「おい、ガキ」

ドジャーの足の下でチャプチャプと音がする。
ジャッカルの血の音。
バンビは血の上で血にまみれ、
涙にまみれているだけだった。

「カッ、俺が呼んでるだろが。何メソメソしてやがるガキ」
「うるさいわね・・・・」

バンビは元の形の分からない死体の前で、
俯いているだけだった。
海賊の娘とはいえ、まだ10代なのだ。
しょうがないとはいえばしょうがない。
ドジャーは顔をしかめ、
そしてため息をついた。

「これだからガキはウゼェ・・・・」
「何よ・・・」
「あぁーあぁーそうだな。「あんたに私の気持ちの何が分かるの?」・・・ですよねー。
 そういう展開だな。うっぜ。吐き気がする。あーはいはい。分からねぇーなぁー」

バンビは顔を豹変させて振り返り、
そしてドジャーに両手で掴みかかる。
怒りのままに。

「・・・・・何・・・・よ・・・・・・・」

だが言葉にはならなかった。
ドジャーはさらに顔をしかめ、
バンビを突き放す。
と同時に逆に胸倉を片手で掴んで顔を近づける。
ピンキッドが慌ててピョコピョコと駆け寄った。

「ドジャーさん、そっとしとくでヤンス。バンビさんは親びんがたった一人の肉親だったんでヤンスから」
「化けもんはどいてろ」
「ば、化け・・・」

ピンキッドはムッとしたが、
何かしら考えがあるのだろうかとここは引いておくことにした。
というか怖いので逃げた。
ドジャーは続ける。

「悲しむねぇ。そりゃ大事だ。さっきあのエドガイっつー傭兵も言ってたな。否定しねぇ。
 なんせ死んだんだ。もう絶望のどん底に落ちるほどに悲しむのも死人のためだな。
 だがジャッカルはてめぇを泣かすためにだけ死んだのか?
 あいつの死はてめぇの涙しか生まなかったのか?そこだけ考えろ。うぜぇからよぉ」

ドジャーはバンビを突き放す。
そしてバンビは血溜まりの上に尻餅をついた。
まだ泣いていた。

「カッ、」

そしてドジャーはアレックス達のもとに戻る。
アレックスは笑って言う。

「馬鹿がつくくらい口下手ですねドジャーさん」
「いつからクサい説教なんて垂れれるようになったんだ?」
「うっせぇな!」
「言いたい事はつまり親の死を無駄にするなってことですよね」
「なんであんなに口下手なんだか・・・・」
「このっ・・・・てめぇら・・・・」

まぁアレックスはこれはこれでドジャーらしいと思った。
身近な死を無駄にするのが許せない。
悲しむのは大事だが、
それだけでいいのか、
死んでしまった者が無駄になって欲しくない。
ドジャーは、
それを自分自身に言い聞かせていたのかもしれない。

「へへっ、」
「言うねぇおたくら」
「そんな偉そうな事言っておいてあんたら自身は動かねぇんだな」

アレックス達の後ろで、
《ドライブスルーワーカーズ》の男達がニタニタと言った。

「なんだ文句あんのかテメェら」

「いっやぁー」
「別にぃー」
「でもおたくらの説教があまりにも泥臭くてな」
「笑っちまった」

「・・・・このっ」
「ドジャーさん」

挑発に受けて立とうとするドジャーを、
アレックスが止めた。

「すいませんね。僕達は臆病なもんで」
「いや、アレックス君。俺としては親友の考えを侮辱されてるのは我慢ならないよ」

ジャスティンが少し男達の方に詰め寄る。
だが、
《ドライブスルーワーカーズ》の男達はニタニタとしながら返す。

「別に侮辱はしてねぇよなー」
「俺らと考え方が違うってだけだ」
「俺らは命の大事さなんて尊重してねぇからな」
「仕事だから死ぬ」
「死ぬ必要があるから死ぬ」
「死んだ方がよさそうだから死ぬ」
「それが俺達傭兵だ」
「寿命で死ぬなんてことは100%ありえねぇ」
「どこかの戦場でいつか死ぬ」
「それが俺達だ」

「・・・・くだらねぇ生き物だな」
「俺達にはそんな生き方はできねぇよ」

「あーそうかい。そうだろうな」
「ま、おたくらの仲間のマーチェ・・・おっとチェスターだったか。
 奴とは古い付き合いだがかなりの死にたがりに見えたぜ」

ドジャーが片手で顔を覆う。

「あいつは猿だからな・・・」
「うちで喜んで戦場に行くのはチェスターくらいだしな」

「とにかく俺達にとっては死は当然だ」
「隣にいるやつが明日生きてるとは限らねぇ」
「だが俺達はそれが当然でそれにいちいち動じない」
「ボスの考えだと"俺達は死んで当然のクソ野郎"ってやつだ」
「そうだねー。あたし達は1グロッドの方が自分の命より大事なクソ野郎だからねー」
「死んで当然。だが死んだらついでに悲しんでやる」
「それが俺達傭兵だ」

「カッ、」

ドジャーは"いけ好かねぇ"とだけ思い、
戦場を見る。
と同時に。

「ぐあっ!!!」

エドガイが吹っ飛んできた。

「チクショ・・・・こりゃ手間だ・・・俺ちゃん涙目・・・・」

エドガイがアレックス達の前で立ち上がる。
気付かないうちに怪我が増えている。
全身に傷を負っている。
まぁツヴァイ相手にあれだけ長く戦ってこれだけの傷で済んでいるのが凄い。
致命傷となる傷は一つもない。
だがまぁ全身傷だらけだった。

「そんなものかエドガイ。人を舐めてかかれるのはその口だけか?」

ツヴァイがエルモアの上から言う。
ツヴァイの傷も少し増えていた。
だがエドガイの量と比べてさした傷ではない。

「さすがツヴァイってとこだな」
「さっきから戦闘は見てましたけど・・・このままじゃエドガイさんは負けますね」

「んだと?そんな事を言うのはこの口か可愛い子ちゃん」

「むぐ」

エドガイは左手でアレックスの両唇をつまむ。
アレックスは慌てて振り払った。

「何するんですか!」

「なんでしょね♪」

エドガイはもう一度アレックスの両唇をつまんだ。
そしてケタケタと笑った。
アレックスは少しムッとしながらもう一度振り払う。

「・・・・・・まぁとにかく僕の言う事はただの本音です。最初はむしろ互角以上と思っていましたけど・・・
 ツヴァイさんの戦闘センスの方が上ですね。戦いながら慣れてきてます。
 どんどん攻撃も当たらなくなってきてるでしょ?天才っていうやつでしょうね」

あの凶悪な能力のツヴァイ。
さらに戦闘をしながら戦闘に慣れていく。
生まれつきのセンス。
アレックスの言うとおり天才というものだろう。
アインハルトと同じ絶対的なる能力。
戦えば戦うほど勝つ可能性がなくなっていく。

「あーそー、あんたもそう思うか可愛い子ちゃん」

エドガイは慣れなれしくジャスティンの肩に手を回す。
そして肩に回した手でジャスティンの頬を触る。
ジャスティンは片手でそれを振り払って言った。

「アレックス君の言うとおりだな。俺も見た感じの感想は同じだ」

「あ、そうー?」

エドガイは片手でジャスティンのおでこをピンッとデコピンしてやった。

「だが俺ちゃんは勝っちゃうけどねぇ」

エドガイはヘラヘラ笑いながら剣のトリガーに指をかけ、
剣をぐるんぐるんと大きく回す。

「仕事だからな。金もらっちゃえばどんな事でもこなしちゃうよん」

たしかにエドガイに頼りがいはある。
口だけじゃない。
ハッキリ言ってアレックスがこれまで会ってきた人間の中でもトップクラスの力だ。
少なくともエドガイに勝てる人間をすぐ言えと言われれば、
ロウマなどあの辺りしか思いつかない。
だが、
それでもあの漆黒の・・・・絶対的騎士には勝てる気がしなかった。

「しゃぁーねぇーな」
「俺らもいくぜボス」

突然後ろから声。
《ドライブスルーワーカーズ》の男達。

「あん?てめぇらじゃ無理だから下がっとけっつったろ」

「ボスじゃぁ無理そうじゃん」
「困るんだよねーボス。仕事なんだから失敗されるとよぉ」
「ってか株が落ちるのよね。この会社の頭が無残に負けましたー・・・じゃね」

「うっせぇーなー、お前らなんて死ぬぞー。黙って下がってろ」

「いいから命令しろよボス」
「戦場で死ぬのが仕事なんだよ」
「傭兵は殺したり殺されたりが仕事だろ」
「殺人・強姦・掃除洗濯。なんでも金次第。・・・・・・死ぬのもな」

「・・・・・・ケッ」

エドガイが剣をぐるんぐるんと回したまま、
少し考えていた。
剣をまわす風圧で右前髪が揺れる。

「分かった。命令だ。いっちょ死んでみっかお前ら」

「そうこなきゃなぁ!」
「このバーコードが体についた日から俺たちゃ価値なし人間よ」
「あたしらは金で動く命になったのよ」
「おっけぇ!しゃぁーこい!」
「俺だ!俺がいくぜボス!」

傭兵の男達が盛んに騒ぐ。
俺を出せ。
俺に戦わせろと。
あのツヴァイと戦うのにだ。
死ぬ可能性があまりにも高いのにだ。

「あいあい、全員ではいかねぇぞ。言われたやつだけついてこい」

エドガイは傭兵達の方を見ないで言っていく。

「ノヴァ=エラ」
「サー!イエス!サー!」
「サン=セバスチャン」
「サー!イエス!サー!」
「ソル=ワーク」
「サー!イエス!サー!」
「ボトム=チャイルド」
「サー!イエス!サー!」
「ルナ=シーダーク」
「サー!イエス!サー!」

「以上5名!墓場について来い!他は待機!」

「「「サー!イエス!サー!」」」

エドガイの後ろに5人の傭兵がついた。
武器もまばら。
職業もまばら。
性別もまばらだった。
共通しているのは体のどこかに"D・T・W"と書かれたバーコードが刻印されていることだけ。
まぁそれぞれを覚えるほどのものでもないだろう。
というか覚えきれない。

「数が増えても同じだエドガイ。墓を増やすだけだ」

「俺達に何言っても同じだツヴァイ。喉痛めるだけだぜぇん?」

《ドライブスルーワーカーズ》の1人+5人。
エドガイが先頭で、
相変わらず剣を大きく回していた。
そしてふと止める。

「行くぞ野郎共!」
「「「サー!イエス!サー!」」」

6人の傭兵が一気に飛び掛る。
各々の武器を持ち、
まとまっているような、
まったく個別の思考で動いているような。
6人の死にたがりが突っ込んだ。

「・・・・・ふん」

ツヴァイがエルモアの手綱をひく。
エルモアは首をもちあげ、
走り出す。
逃げるでなく、
6人を相手にするのも不利になったと思っていないのか、
傭兵達の方へ突っ込む。

「カス共が」

いや、
走っていく方向。
それはエドガイだ。
他の5人など眼中にないといった表情。
それが漆黒のアメットの下に映る。

「なめんなっ!」
「よっ!!」

そんなツヴァイの両側。
エルモアの上のツヴァイに飛び掛る二人の傭兵。
斧を持った傭兵と、
剣を持った傭兵。
同時に飛び掛る。

「カスは黙れ」

ツヴァイは大きく回すように槍を切り払った。
ただ大きく、
ただ一度の一閃。

「くっ!」
「ちっ!」

それで二人の傭兵はあえなく切り落とされた。
無残としかいえない結果。
だが、
それさえアレックスには信じられなかった。
あの二人の傭兵・・・・。
双方とも咄嗟にツヴァイの攻撃をガードしている。
見切っている。

「余所見してんなよツヴァイ!!!俺ちゃんがズッキュンしちゃうよん!」

ツヴァイに向かって放たれる衝撃波。
エドガイのパワーセイバー。
ツヴァイは慣れたように盾でそれを防ぐ。
だが、
ツヴァイの防ぐその動作。
左腕。
その手首に・・・・・・ムチが絡まった。

「余所見ってのはこっちの事もだぜ」

ムチを放った傭兵の男が言った。
ツヴァイの腕にムチを絡みつかせた。
ツヴァイの左腕の動きを止めた。

「くっ!」

「ザコと思って無視してんなよ!」
「よくやったわ!こっからは任せなさい!」

女の傭兵がスタッフを振り、
呪文を唱え始める。
魔法の詠唱。

「小賢しいカス共がっ!!」

「うぉっ!」

ムチをツヴァイに絡ませた傭兵が、
突然引っ張られる。
エルモアの動きとツヴァイの腕の力が相乗し、
まるでゴムで引っ張られるようだった。
ムチを絡ませた傭兵は逆に飛ばされ、

「ぐぁっ!」
「きゃっ!」

魔法を唱えていた女の傭兵にぶつかった。
ぶつけられた。

「余所見2だ!以下省略っ!」

「!?」

いつの間にか飛び掛っていた違う傭兵の男。
その男はエルモアで走行中のツヴァイの背後をとった。
ツヴァイの背後をとったのだ。
空中から飛び掛り・・・・・
そして力強いパンチ・・・・・拳をアメットにぶつけた。
ツヴァイの頭は少し跳ね跳んだ程度でダメージにはなっていないようだったが、
・・・・・ツヴァイに攻撃を当てた。

「・・・・・・カスが!!!」

「がっ!!」

ツヴァイは盾でその傭兵の男を叩きつける。
パンチを当てた傭兵の男はエルモア上から地面におもくそ叩きつけられた。
地面にバウンドして転がった。

「でもやっぱ俺ちゃんがメインだぜっ!!」

右前髪の垂れたアクセサリーだらけの男。
エドガイ=カイ=ガインマレイ。
真正面からツヴァイに飛び掛り、
剣を真っ直ぐ縦に振り切っていた。

「調子にのるなっ!お前の攻撃など飽いたわ!」

金属音。
ツヴァイの槍が横に振りきられる。
交差するヒマなどなく、
槍を振り切った反動でそのままエドガイは吹っ飛ばされた。

「へへっ、やっぱおたくやるねぇ・・・・。だがオツリだ!!」

だが吹っ飛ばされながらエドガイは空中で3度トリガーを引く。
放たれる3つの衝撃波。
だがそれはエルモアの走行でそのまま外れた。
相変わらず速い。
そしてツヴァイを乗せたエルモアは、
大きく迂回しながらこちらに戻ってくる。

「チッ・・・・ノヴァ=エラ!動きを封じろっ!蜘蛛だ!」

「アホか馬鹿ボス!出来るわけねぇだろあんな速い馬にっ!」

「やれ!」

「・・・・・・・サー・・・・イエス!サー!!」

盗賊の傭兵は集中して右腕を構える。
スパイダーウェブを狙う。
それとは別に、
斧を持った傭兵が体全体を回しながら、
おもくそに斧を振付けた。

「オーゥラァ!!!!」

まるできこりが木を切るような動き。
重量と体重の乗った斧が、
岩石を破壊する勢いでツヴァイ・・・・いや、エルモアに向かって振付けられる。

「そんなものでやられるかカスが!!」

ツヴァイは馬上から、
思いっきり槍を斜め下に突き下ろす。
どんな突きを放てばあんな事が出来るのか、
振付けられる斧を止めた。
突きで斧の振りぬきを止めたのだ。
それどころか・・・・・・・・

「わりぃ!死んだ!!」

槍はそのまま止まるなく突き出され、
斧の傭兵の頭を貫いた。
風船が割れたように血と何かが破裂する。

「やられたぞっ!」
「クソッ!!!」

「ふん。カスめ」

だがその瞬間、
ツヴァイの体が反転した。
体勢が崩れて宙を舞った。

「なっ!」

「ほれ、忠告通りやったぜボス」

エルモアの足が止まったのだ。
スパイダーウェブ。
エルモアの足に蜘蛛の糸が絡まっている。
ツヴァイは空中に放り出された。

「おいおいボス。俺にお礼は?」
「ばーっか。命令はこなして当然。仕事はこなしてなんぼ。理解した?」
「ケッ、ひでぇボスだ」
「りーかーいーしーたー?」
「・・・・・はいはい!サー!イエス!サー!」

「・・・・・・ちぃ!!カスのくせにっ!!」

ツヴァイは地面に落下する。
衝突するというよりも、
地面に綺麗に転がった。
同時にエルモアを卵に戻す。

そんなツヴァイに向かい、
女の傭兵と、
男の傭兵が両サイドから突っ込んだ。

「ちょっくら死んでくるわボス!」
「じゃぁな!殉職ボーナスくれよ!」

武器を振りかぶっていない。
それどころか片方は魔術師だ。
自殺行為。
それ以外の何者でもない。

「・・・・・・こっの馬鹿部下共!!あぁ!死にてぇなら勝手にしな!」

「サー!イエス!サー!」
「あの世で奢ってよね!」

そして二人の傭兵はツヴァイの両腕に飛びついた。
かぶりつくように、
それしか考えてない動き。
落馬したツヴァイの一瞬の隙を突いた動きだった。

「くっ・・・カスのあがきがっ!」

ツヴァイ自体の動きを止めきる事はできない。
だが、抑制することはできる。
二人の傭兵は全力で腕を掴んで放さなかった。

「重っ・・・このじゃじゃ馬め・・・」
「でもなめないでよね!そう簡単には・・・」

「カスが!散れっ!!」

「「!?」」

二人の傭兵の体が一瞬浮く。
そう思うと血しぶきがあがった。
二人の傭兵の頭がぶつかり、カチ割られた。
両腕に捕まっていた二人をぶつけられたのだ。
額から血しぶきがあがっている。
恐らく・・・一撃。

「無駄にゃぁしねぇ!無駄にゃぁしねぇよ!!!」

ツヴァイの背後。
真後ろ。
エドガイが飛び掛っていた。
剣を大きく・・・・・これでもかというほど大きく振りかぶっている。

「くっ・・・・」

ツヴァイは振り向き、斬り落とそうと考えた。
だが、その動きは鈍かった。
両腕に張り付いた二つの死骸。
それは死してなおツヴァイの腕を掴んで放さなかった。
一瞬の隙。
それだけで十分だった。

「ツリはいらねぇ!!」

まっすぐ縦に振り切られるエドガイの剣。

「とっときなぁ!!!!!」

大きく血しぶきがあがった。
ここ一番のダメージだろう。
いや、致命傷になってもいいほどのダメージ。
ツヴァイの背中に大きな切り傷。
特大の切り傷。
どれだけ力んでいたのか、
エドガイの剣は地面にぶち当たるまで振り切られた。

「こ・・・・のぉ!!!」

それさえも効いていないように、
ツヴァイの片腕は後ろに振り切られた。
盾を持った左腕が後ろに振り切られ、
エドガイを吹っ飛ばす。
女の傭兵の死骸もその反動で吹っ飛んだ。

「ぐっ・・・・・」

吹っ飛ばされるエドガイ。
吹っ飛ばされながらも、
一発だけパワーセイバーを放つ。
ツヴァイは、
槍を持つ右腕で防ぐ。
槍で防ぐでなく、
槍に張り付いた男傭兵の死骸で防ぎ、
傭兵の死体は切れて吹っ飛んだ。

「死は丁重に扱え!ツヴァイ!」

「死を大切にしない者達に言われたくないな」

エドガイにそう言いながら、
ツヴァイは横に少しだけ振り向き、
なんとも言えぬ鋭い睨みを放った。
小さな動きだったが、
吸い込まれるほど恐怖をかきたてられる睨み。
それだけで飛び掛ろうとしていた残り二人の傭兵はひるんだ。

「くそっ・・・・たまんねぇな・・・・」

エドガイは振り向く
そしてアレックス達の方を見る。
いや、そのさらに後ろを。

「次っ!・・・・・・・アーク=ソナティカ!!ヒブリア!!ロイ=ハンター!!来い!」
「「「サー!イエス!サー!!」」」

死んだ3人の補充と言わんばかりに、
エドガイは3名の名を呼んだ。
同時にアレックス達の後ろから3名の傭兵が戦線に走りこんだ。
また職業はバラバラ。
武器もまばら。
バーコードだけが共通点。

「チッ・・・・」

ドジャーが舌打ちをして、
ダガーを握り締める。

「俺らも行くぞ!」
「駄目です」
「あぁん!?」
「アレックス君の言うとおりだ。俺らは行かない方がいい」
「何言ってんだ!まさか俺らは足手まといになるとか言うんじゃねぇだろうな」
「違います。彼らは一斉に行かず、1人と5人でいくのには訳があるからです」
「一斉にかからないのは、多すぎても乱れるからだ。あれでも奴らは傭兵。
 戦闘のプロだ。俺らが行くと足手まといとかじゃなく、邪魔なんだよ」
「彼らは彼らの陣形で戦ってるんです。彼ら自身が増員しない時点で僕らは邪魔なんです」
「カッ!いけ好かねぇ」

そう言ってる間に、
また傭兵が一人無残に散った。
胸に特大の槍に切り傷。

「ちっ!死んだ!お前ら残業頑張れよ!」

散った男はそう叫びながら血を噴いてそのまま倒れ、
起き上がる事はなかった。

「先逝ってんじゃねぇよ!」
「早退分あの世で奢れよ!」

だが彼らはそれを動揺することもなく、
ただ当たり前のように戦闘を続ける。
仲間が死ぬのも過程。
当然。
それが彼らなのかもしれない。
狂っているとも思えた。

「動きが落ちてるぜ!ツヴァイ!」

「・・・・・カスが」

エドガイの言うとおり、
ツヴァイの動きは落ちていた。
特に先ほどの背中への一撃が効いている。
あれは常人なら死に到達するほどの怪我にもなりえる。
あれで動いているツヴァイも化け物だが、
ここは彼ら傭兵を褒めたい。

「引くな!引くなら死んどけ!」
「そんなカッコ悪いマネすっかよ!」
「先逝った奴にあの世で馬鹿にされらぁ!」
「地獄でハブられたくなきゃ突っ込め!」

一人一人が実力者であることが見て取れる。
アレックス達が与えられなかったツヴァイへの一撃を、
わずかながら彼ら傭兵自身も与えているのだから。
一人一人が戦力。
そして・・・・
覚悟が違う。
アレックス達にはもてない。
いや・・・もちたくない死の覚悟。
そんなものはカッコイイものではない。
だが・・・・
彼らを立派な戦士だと思えた。

「どけぇ!カス共!!!」

また一人の傭兵が死に至った。
体に穴が空き、
そのまま吹っ飛んだ。
穴あきの傭兵が瓦礫に転がる。
だがその瞬間に他の傭兵の攻撃がツヴァイを襲う。

「よっしゃぁっ!」

ツヴァイの右肩に斬り傷。
浅いが確実なるダメージ。
その後吹っ飛ばされたが、
吹っ飛ばされた後、
自慢げに傭兵は親指を立てた。

「よくやった!」
「お仕事だからなっ!」
「へへ、労働は尊いねぇ」
「万能と戦闘のプロ。どっちが上だろうなツヴァイ!!」

「黙れ!」

追い詰めてきている。
あのツヴァイを。
だが・・・・。
アレックスの頭の中でもそれは間に合わなかった。
間に合わない。
それは言うならば・・・
ツヴァイを倒すよりも先に、
傭兵が尽きる。
そんなペースだからだ。

「ボス。お元気で」

その言葉と共にまた一人傭兵が吹き飛んだ。

「次っ!!マグナ=オペラ!ドリム=シーター!ガディ=ブライド!」

また減った分の傭兵が補充される。
まるで無機質に材料を補充するように。
そしてアレックス達の背後に待機している傭兵の数。
それも残りわずかだった。
ツヴァイを・・・倒しきれるかどうか。

「どうにか隙を作るぞ!」
「身を削れ!最悪ボスがどうにかする!」
「ばっかやろ!俺ちゃんばっかに頼るな!」
「やんねぇとあんたが特攻しちまうだろ!」
「いいだろそんなん!」

まるでゲームをしているような会話。
だが、
彼らの目は本気でしかなかった。

「とにかくこっからは無闇に突っ込むな!俺ちゃんの命令だ!
 死体を増やしてぇわけじゃぁないんだからな!仕事は今日だけじゃねぇ!」
「「「「サー!イエス!サー!」」」」

一度硬直状態になる。
エドガイを含めた6人の傭兵が綺麗にツヴァイを取り囲む。
だがその中心で堂々しているツヴァイ。
確実に消耗している。
だが、
今見ると一段と大きく見える。
さらに慣れてきて戦闘に冴えてきている。
傭兵達のカミカゼ特攻にさえ慣れてきている。
散る命に慣れてきている。
かなりの深手を与えているのに・・・・
さらに状況は厳しくなっているように思えた。

「どうした。肝でも冷えたか?来いカスども」

ツヴァイは余裕で言う。
だがうかつに飛び込めない。
一度硬直状態にしたのがまずかったか、
いけばやられる。
そんな状態になっている気がする。

「来ないなら来ないでいいがな」

ツヴァイの体が薄っすらと輝く。
ナイトヒール。
手を当てずとも全身を薄っすらと輝かす。
回復をはかっている。

「ボス!」
「うるせぇ!待機ったら待機だ!」
「・・・・・・サー!イエス!サー!」

もちろんあの傷で全快などしないはずだ。
だが、今よりも回復することは確実。
だが飛び込めない。
ツヴァイの雰囲気。
あの一つの体で全方向に殺意を向けている。
これまで一番の殺意だ。
好き一つないどころか攻撃的殺意。
いくだけで・・・・殺される。
ツヴァイの威圧感はそんなところまできている。

「クソ・・・・俺ちゃんらピーンチ・・・・・マジ涙目・・・・」

エドガイは軽く言いながら、
口を歪め、
剣のトリガーに指をかけて回した。
剣はトリガーを軸にぐるんぐるんとまわる。

「何か・・・・一瞬だけでも隙を作ればなぁ〜・・・とか考えちゃう俺ちゃん」

状況は状況。
あと一押しには違いないのだ。
だがもうカミカゼ特攻でもその隙を作れる気配ではない。
どん詰まり。

だが突然エドガイは笑った。
何かに気付いて笑った。
それはエドガイだけが気付いた。

「へへ・・・・やっぱ俺ちゃんらの勝ちだ」

ツヴァイはエドガイの言葉に、
アメットの下に見える口元を笑みで歪ませた。

「戯言を。今更そんな手に乗るか」

「やるのは俺ちゃんだが俺ちゃんじゃねぇ。オーウーケー?」

エドガイがニヤりと笑う。
それがツヴァイには腹が立ったのだろうか。
だがあのツヴァイを動揺させるほどの揺さぶりではなく、
そしてやはりツヴァイの殺気はやまない。
隙は生まれない。
どうしようもなく、
なにもしようがなく、
手のうちようがなく、
それを絶望と言う。

何一つの隙がなく、
万能なる絶対的才能。
そんな彼。
漆黒に埋もれる騎士。
ツヴァイ=スペーディア=ハークス。

だが、
絶望の中の希望。
それは待つでなく・・・・
作り出すものだ。
それは誰もの後ろ側から聞こえたように感じた。

「馬鹿めっ!!!!!!こっちだクソ野郎!!!!!!!」

「!?」
「へっ!?」
「!?」
「!!」
「なっ?!」

完全なる死角からの声。
誰もが振り向いた。
戦闘中の傭兵も、
待機中の傭兵も、
アレックスもドジャーもジャスティンも。
そしてツヴァイも。
一斉に不意をつかれて振り向いた。

全員の視線の先・・・・そこにはバンビがいた。

「・・・・・・このっ・・・・馬鹿野郎・・・・・」

バンビは、
ただ叫んだだけだった。
血で衣服を汚し、
涙と悲しみで顔を汚し、
だが、
何よりも心に突き刺さるような、
何よりも存在感のあるような。
何よりもひきつける魂の叫び。
そんな大声を一言だけ叫んだ。

「・・・・・・・・ただの・・・アピールだと・・・・・・」

「残念無念だツヴァイ!!!!」

「!?」

ツヴァイの両腕から、
槍と盾が弾け跳ぶ。
2発のパワーセイバーで吹っ飛ぶ。
唯一アピールに気付いていた男。
エドガイ=カイ=ガンマレイが、眼前まで飛び込んできていた。

「オォーラァ!!終了!!!!!」

エドガイとツヴァイがぶつかった。
砂埃が舞った。
そう思うと、
砂埃の中、
そこにあった光景は、
瓦礫に仰向けに伏せったツヴァイと、
それを片足で踏みつけているエドガイだった。

「このっ!!カスがっ!!!」

体を踏みつけられているツヴァイ。
両腕でエドガイの足を掴もうとする。
だが、

「!?」

ツヴァイの腕は動かなかった。

「ナイスだ」
「サ、サー!イエス!サー!」

傭兵の一人が蜘蛛で貼り付けた。
ツヴァイを地面に。
そしてその腹部をエドガイが踏みつけている。
勝者の図。
そしてエドガイは少し振り向き、
親指を立てた。
振り向いた先で、
バンビがオロオロとしながら、
だが自信をもって涙目のまま親指を立て返した。

「さぁて」

エドガイは剣をゆっくりと動かす。
トリガーに指をかけたまま、
剣先をツヴァイの頭部に向けた。

「このままズキューン♪それでいいか?雇い主さんよぉ」

雇い主さん。
そう呼ばれたが、
ジャスティンは数秒ボォーっとしていた。
今ある光景がまだ信じられないといった様子だった。
そしてハッと気付いて慌てて返事をした。

「あ、あっ!いや待ってくれ!一応俺達の目的はそいつを仲間に引き込むことなんだ!」

「仲間ぁ・・・・ねぇ・・・・・・・」

エドガイは肩を上げ、首を傾けた。
まぁ言ってみれば・・・難しそうだった。
それは誰もが思っているだろう。

「まぁ聞くのはただです。ツヴァイさんが嘘を使ってでも悪あがきをする人には見えませんしね」

「ふん。お前はエーレンにそっくりだ。人を平気で弄ぶ事を言う」

「あ?何?この可愛い子ちゃんアクセルとエーレンのガキなのか?へー・・・あ、そぉ〜・・・」

エドガイは珍しいものを見るようにアレックスを覗き込んだ。
ジロジロと見てくる。
そしてもう一回「へー」と言い、
ニタニタと笑った。
気持ち悪い。

そしてアレックスは自分の横を見た。
ジャスティンとドジャー。
アレックスの視線に気付くと、
ジャスティンは笑顔で返し、
ドジャーはアゴで示した。
「お前が説得しろ」
二人はそう言っている様だ。

「なんで僕ばっかりこういう役・・・」
「適任だからだ」
「好きそうじゃないか」
「そうですか・・・・ちょっと怖いですけどね」

アレックスはため息を付きながら、
ツヴァイの方へ歩み寄る。

「あのですねツヴァイさん。是非とも僕達の仲間になってやってくれないませんかね」

「ふん。何故オレを引き入れたい」

「僕達にはリーダーが必要なんです。マイソシアをひっくり返すためのね。
 貴方はそれにこれ以上なく適任です。実力。カリスマ性。そして・・・経歴。
 あの騎士団長の双子の弟となれば・・・それだけで物凄い士気になります」

反乱軍のまとまりはかなり絞まるだろう。
もしかしたらいけるかも。
そんな希望が見えてくる。
錯覚でも感じる事ができる。
それほどのカリスマ性と実力がこの人間にはある。
何せあのアインハルトの分身なのだから。

「カスが。子供でも分かるだろう。兄上に勝つことなど不可能という事がな。
 兄上の存在は絶対だ。力とかではなく、存在自体が絶対なのだ」

分かっている。
だが、
それでもやる。

「貴方がいれば可能性はわずかでも・・・・」

「わずかもない。兄上に勝とうなどという考えがすでに世界の理(ことわり)から反している。
 宇宙空間で生きたいと願うようなもの。食せずに生きたいと願うようなもの。
 坂を転がって登りたいと考えるようなもの。水が上へ登りたいと願うようなもの。
 世界の基本的な・・・・昔からある潜在的なルールを逆行するようなものだ。
 兄上に反するという考え自体が愚かで、陳腐で、不可能という事がなぜ分からない。
 兄上は世界の一つのルールなのだ。重力や食物連鎖のようなものと同じ、理なのだ!不可能なんだよ!」

「・・・・・・・双子の兄ですよ?貴方は違うんですか?そんな遠いものなんですか?」

「ふん。オレは子供の頃に気付いたさ。この存在は自分とは違うとね。
 この存在は逆らえぬ存在。そしてこの男が言ったなら、それはそうなのだ。
 兄上の言った事は全てだ。無理矢理でも強制的でもそれは叶う。
 傲慢などではなく、兄上にはそれを実際に実行する力を持っているのだから・・・」

「・・・・・・・・」

「オレは悟ったさ。オレは兄上の道具だ。いや、全ての存在がだな。
 全てのものは兄上に使われる玩具。それは間違いではない。
 間違いなくそれが正しい。そうあるべきで、実際にそうでしかないんだ」

「じゃぁなんで貴方は道具にも玩具にもならずこんなところにいるんですか?」

「オレは死んだんだっ!!!」

ツヴァイは叫んだ。
アメット越しにもその表情が分かる。
心の奥からの叫び。
強張った表情から発せられた叫び。

「オレは兄上に捨てられた!兄上に必要ないと判断されたんだ!」

「でもあなたは生きてる」

「だからなんだ!兄上に処分されたのだ!つまりオレはこの世から排除されたんだよ!
 兄上が全てのこの世の決定権だ!兄上に殺された時点でオレは居ない存在なんだ!」

ある種の信仰心。
兄の絶対なる力。
それに捨てられた。
ならばそれに従う。
自分は・・・無とされたと。

「分かるか・・・?オレは居ない存在なんだ。居ても居ない存在なんだ。
 ツヴァイなどという存在はこの世にいない。いるのはただの亡霊だ」

「じゃぁ亡霊でもいいです。騎士団長を倒すために貴方の力が必要なんです」

「その考え自体が愚かだと言ってるんだ!兄上に敵うわけがないだろう!!」

ツヴァイの表情は強張ったまま、
アメットの下で、歯がギリギリと音を立てる。
怒り、
叫び。
いや・・・何か・・・悲しみに近い表情も見れる。

「・・・・お前らに分かるか?同じ時・・・同じに生まれ・・・同じ環境で育つ・・・・
 だが勝てない・・・・絶対に敵わない存在が横にいるのだ・・・・
 オレは兄上を誰よりも知っている・・・そしてオレはオレを誰よりも知っている・・・
 だから分かる。誰がどうやったって勝てない。そしてオレも・・・・・」

「何故ですか?貴方達は双子です。同じ・・・・」

「同じじゃぁないんだよ!」

あまりの叫び声に、
アレックスは怯んだ。
身動きもできない相手に、
噛み殺されそうにも思えた。

「オレと兄上は違う・・・・持って生まれたものが違うんだ・・・"それ"は才能とかより先の話だ・・・・
 人によっては些細なものだと思うだろうが・・・"それ"はオレにとっては決定的な違いだ!
 "同じに生まれたからこそ"!この差を身に染みて感じるんだ!
 逆に兄上になくてオレにあるものもあるが・・・この違いは・・・オレにとっては・・・・」

何の話か分からない。
言いたい事は分かるが、
全く同じ人間。
双子としての差?
もちろんアインハルトの方が優れているのは分かる。

「あーあーあーあー。そっか。いやぁそうね」

エドガイが突然割り込んだ。
まぁツヴァイの腹部に足を乗っけて剣を突きつけているのは彼だ。
割り込むといった言い方はあれだが・・・・

「お前ら知らないのか"ソレ"」

「は?」
「・・・・・・何がですか」

「いや、まぁ知らんわな。この中じゃぁ俺ちゃんぐらいだろ。知ってるの。
 あーいやもうどっちかっつーと世界でも知ってるの数人だわな」

「何がだよ」
「黄金世代だからか?その仲間内だけで知っている何かがあんのか?」

「いやまぁそうね。ガッコの同級生でも知ってるの数人だかんねぇ。
 っていうかガキの頃じゃぁまだまだ見分けもつかんかったしなー」

「くっ・・・エドガイ・・・お前知っていたのか・・・」

「俺ちゃんナメんなよ♪」

「・・・・・なんなんだよ」
「何がなんですか・・・」

「いや、俺ちゃんとしてもそんな対した問題じゃぁねぇと思うんだが・・・
 まぁ人によっちゃぁ"それ"に劣等感をもつ人間もいるってこったなぁ・・・
 俺ちゃん的には勝ってる部分のが多いとも思うんだけどねぇ」

エドガイはそう言い、
トリガーにかけた指に少し力を入れた。
剣先はツヴァイの頭部を狙っている。
そのまま撃ったら・・・・

「やめろ!」
「殺すなっ!!」

「殺さねぇってーの」

そういい、
エドガイは言いながらトリガーを引いた。
そして発せられる衝撃波。
それは・・・・ツヴァイのアメットをかち割った。
ツヴァイのアメットだけをと言う方が正しいか。
漆黒の仮面。
それが割れる。
二つに分かれ・・・・
素顔が解き放たれた。

「くっ・・・・」

初めて見るツヴァイの顔。
それはあまりにもアインハルトを思わせる顔だった。
漆黒の瞳。
整った顔立ちの中に魅せる魅力。
他にはない、なんともいえぬ存在感。
鋭い、美貌とも言える中に見えるトゲのような・・・・
殺意にも似た美しい造形。
だが・・・・・

「・・・・ちょっ・・・」
「マジかよ・・・・」

アインハルトと同じ顔。
いや、"似た顔"というのが正しい。
"同じ"と"似る"の決定的な違い。
それは一目で分かった。
顔を隠していた理由も分かる。
頷けた。

アインハルトの双子の弟。
そんなものは居なかったのだ。
この世のどこにも。
ここにも。
ここに居るのは違う存在。
確かに絶対的存在の弟。
それは存在してはいなかったのだ。

ツヴァイ、
ツヴァイ=スペーディア=ハークス。
名前からでも気付くべきだった。

「見るなっ!!」

ツヴァイは悔しそうに顔をそむけた。
見るな?
だがそんな事は無理に決まっていた。
目の前に突き出された答え。
ツヴァイの正体。

「お、女かよ・・・・・」






                 






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