「E-U」

漆黒の騎士がそう呼ぶと、
横に居た美しいエルモアが頭(こうべ)を下げて寄り添ってくる。
漆黒の騎士は、背の高いそのエルモアに飛び乗った。
長い長い漆黒の髪が、
マントのようになびいた。

「・・・・・・・エルモアに乗って戦うんですか」

「ただのエルモアと思うな。騎士団で教育され、その中でも選ばれた最高種のエルモアだ。
 名はガルネリウス。"E-U"と呼ばないと返事はしないように教育されているがな」

漆黒の騎士が手網(たづな)を引くと、
エルモアは首と前足をあげて仰け反った。
エルモア特有の渦を巻いた両角(つの)が美しい。

「今、さらりと"騎士団"と言いましたね」

「・・・・・ふん」

漆黒の騎士がもう一度手網(たづな)を引くと、
エルモアは勢いよく走り出した。
固い地面を蹄(ひづめ)が蹴り上げ、
大きく迂回して走る。
なびく長い黒髪。
それは・・・・・とても美しい光景に見えた。
闇を走る・・・
完成されたエルモアと・・・・漆黒の騎士。

「カッ・・・エクスポならどう思ったかな・・・」
「見とれてる場合じゃねぇ!」
「来るぞ!」

漆黒の騎士は、大きく迂回して距離を十分にとった後・・・・
緩やかにターンしてこちらを見据えた。

「死ねカス共・・・・」

左手に手綱(たづな)、
右手に大きく長槍を構え、
まっすぐ・・・・漆黒の騎士が突っ込んできた。

「速いっ!!」
「エルモアのスピードじゃねぇ!」

エルモアに乗って突っ込んでくるそのスピード。
エルモアにはありえない速度。
風を裂き、
闇を裂き、
アメットをかぶった漆黒の騎士は走りこんでくる。
いや、もう目の前まで・・・・

「塵になれ」

アレックス達の前に最高速で走りこんできたエルモアと漆黒の騎士。
長槍を大きく振りかぶり・・・・

「にげっ・・・」
「避けろ!!!」

すれ違い様に、
通り過ぎ様に、
槍を思いっきり地面に突き刺した。

「ぐぁっ!!」
「きゃぁっ!!!」

まるで爆発だった。
エルモアの速度に乗って突き刺されたその槍は、
固い地面に突き刺さり、
弾けた。
砕け、爆発したかのように炸裂した。
運動能力の低いバンビとピンキッドは、
避けきれず、
衝撃だけで吹っ飛んだ。

「クソッ!!」
「チャージラッシュですっ!騎士の搭乗用スキルです!」
「それも一級品のってかぁ!?」

地面にクレーターができている。
ちょっとやそっとじゃビクともしない闇の森の固い地面。
それが砕け、
直径3mほどのクレーターになっている。
そして・・・・
漆黒の騎士はすでにそのままのスピードで通り過ぎ去っていた。
もう手の届かないところまで。

「ほぉ、避けきったか」

エルモアがまたターンする。

「何度も避けれると思うなよ」

そしてまたエルモアに乗って突っ込んできた。
また風を切り、
闇を切り、
黒き世界を黒き騎士が突き進んでくる。

「ヤベぇっ!!」
「直撃したら終わりだ・・・・」
「散れっ!散れっ!!!」

アレックス、ドジャー、ジャスティン、ジャッカルの4人は、
それぞれ別方向に逃げる。
目標を分断させなくてはいけない・・・・・。

「同じだっ!まとめて死ぬか個別に死ぬかの差でしかないっ!!」

漆黒の騎士はそう言い、

「クソッ・・・俺かっ!!」

ジャスティンを追った。
逃げるジャスティン。
だが、エルモアのスピードには敵わない。
エルモアは見る見る・・・
いや、あっという間にジャスティンの側まで走りこみ、
ジャスティンの背中をとらえる。

「消えろカスが」

漆黒の騎士が槍を構える。

「ただでやられるかっ!!」

ジャスティンは振り向き、
鎌を・・・・・

「ごっ・・・・・」

振るどころか・・・
構えるヒマさえなかった。
気付くと脇腹をえぐられ、
ジャスティンは血しぶきを舞い上げた。
回転しながら吹っ飛ばされ、
血を撒き散らしながら十数メートル先に落下した。
着地もしなかった。
ただジャスティンはゴミのように地面に落ちた。

「ジャスティンっ!」
「ジャスティンさんっ!」

アレックスとドジャーが叫ぶが、
それだけで終わらなかった。
エルモアが速度を維持したまま向きを変え、
ジャスティンの方に・・・・・

「ぐあっぁあああ!!!」

エルモアの蹄(ひづめ)が・・・・・ジャスティンの左腕を踏み潰した。
砕け散る鈍い音。
ジャスティンの左腕がメキメキと終わりを告げる音を鳴らし、
そしてエルモアはそのまま通り過ぎていった。

「頭を踏み損ねたか。オレも腕が落ちたものだ」

漆黒の騎士はエルモアの速度を落とさず、
また緩やかにターンする。

「チィ!」

ドジャーはジャスティンを気にしたかったが、
そんなヒマはなかった。
次はドジャーを狙っている。

「アーメンッ!!!」

どこからかアレックスの声がした。
そして同時に蒼白いパージフレアの炎が二本噴出した。
が、
それも虚しく終わった。
美しく走る姿を装飾しただけで、
パージフレアは無残に外れた。

「速すぎて狙いが・・・・・」

そして何事もなかったかのように漆黒の騎士はドジャーに向かう。

「悪ぃが・・・真正面から相手はしてやれねぇ!」

ドジャーは走る。
真横に。
漆黒の騎士から逃げようと全力で走る。
盗賊の足。
さすがにこれにはついてこれまいと、
少し振り向くと・・・・

「マジかよ・・・・」

振り向いた先。
目の前。
迫っていた。
そこには漆黒の騎士は槍を大きく振りかぶっていた。
もう目の前だった。
振り向いた目の前にいた。

「死ねカス」

「ぐっ・・・」

漆黒の騎士のチャージラッシュがドジャーを襲う。
肩がえぐれた。
左肩から水を掬い飛ばしたように、
血が吹き飛ぶ。
体も吹っ飛ばされる。

「クッソ・・・・」

ドジャーが着地する。
運動神経の差もあり、
今回は致命傷を受けずにすんだ。
だが左肩からは血がドバドバと流れ落ちる。

「俺の足についてこれるのかよっ!!」

走り出しだったとはいえ、
ドジャーのスピードについてこれる速度。
いや・・・・一瞬で追いついてくる速度。

「腹ぁくくるしかねぇなっ!!!」

ドジャーは両手にダガーを構える。
4本づつ。
計8本。
一方漆黒の騎士。
すでにターンを終え、
またドジャーの方へ走りこんできている。
ものの2・3秒でこちらにまた・・・・

「だがテメェに飛び道具はねぇだろっ!!!ご馳走をくれてやらぁ!!」

投げつけるダガー。
ドジャーがこちらに向かってくる漆黒の騎士に8本の弾丸。
ダガーのショットガン。
長槍だろうが、
槍一本でカバーはできないとふんだ。
アレックスのようにブラストアッシュで突き落とそうとしたところで、
少なくとも、エルモアまでカバーできない。

「落馬しやがれっ!」

「ふん、くだらん」

漆黒の騎士が手綱(たづな)を引いた。
と同時・・・・

「ウソだろ・・・・」

跳んだ。
いや・・・飛んだ。
まるで空翔る天馬のように、
エルモアは後に両足を広げ、
ダガーを飛び越した。
闇の中、
見とれるほど美しいとさえ思った。

「クソッ!でも弱点はあるはずだ」

闇の空から飛び掛ってくる漆黒の騎士。
ドジャーはダガーを一本取り出し、
迎え撃とうとする。

「愚か。浅はかな希望しかもてぬカスめ」

漆黒の騎士は槍を振りかぶり、
ドジャーに突き出した。
機械より精密に、
そして完璧な非の打ち所のないその槍突。

「くっ・・・やられるか!!!」

紙一重。
ドジャーの頬を槍が風圧だけで切り裂いたが、
ドジャーは槍の突きの中に潜り込む。
そして、

「後ろがガラ空きなんだよっ!!」

ラウンドバック。
回り込んだ。
助走を活かして攻撃し、そして過ぎ去っていく漆黒の騎士。
だが逆に言えば、そこがチャンス。
攻撃後、背後はガラ空き。
背中を見せて過ぎ去っていくわけなのだから。
急には止まれない。
急には曲がれない。
だからこそ背後。

「死ねっ!!!」

速度を活かして逃げられる前にダガーを・・・・
投げようとしたドジャーの目に映ったのは。

「なんだそりゃ・・・・」

訳のわからない光景だった。
漆黒の騎士は・・・・槍を地面に突き刺していた。
固い地面に突き刺し、
そして体ごと・・・・重いエルモアの体ごと・・・
無理矢理体を回転し、こちらにターンした。
片腕一本でエルモアと自分を持ち上げた。
槍一本でどうこうできる力じゃない。
できるわけがない・・・・・・・・はずだ。
だが・・・
漆黒の騎士は槍一本。
・・・・片腕一本でエルモアごと、槍を軸にその場で回転(ターン)した。

「貴様の小さなものさしでオレを計るな」

そして勢いよく引き抜かれた槍は、
大きく横に振りきられた。

「ごはっ・・・」

槍の腹・・・・
横に振り切られた槍の側面部がドジャーの腹部に直撃し、
メシメシと鈍い音が奏でられる。
肉を越え、
内臓を越え、
骨のきしむ音。
そしてドジャーが吹き飛ばされ、
十数メートル先の枯れ木に叩きつけられた。

「が・・・・ごは・・・・あ・・・」

ドジャーは枯れ木の前にズルりと落ち、
洗面器一杯分の大量の血液を吐き出した。
吐血で地面に血の水溜りができる。


「G-U(ジッツー)!!!!」

アレックスの叫び声と共に、
地面に守護卵が叩き付けられる。
そしてジャイアントキキが姿を現した。

「走れG-U!!」
「キ!!」

世界最速生物がアレックスを乗せて走り出した。

「ほぉ・・・・」

漆黒の騎士が手綱を引き、
それと同時にGキキに向かって走り出す。

「Gシリーズ・・・・お前王国騎士団の生き残りか」

「あなたもね」

「ふん」

とにかくアレックスは走った。
全速力で、
Gキキに振り落とされそうな速さで駆け抜ける。
逃げると言ってもいい。
とにかく・・・・まず場所を離したかった。
ドジャーとジャスティン。
彼らにトドメを刺されてはいけない。
それをだけ考えた。

「ガルネリウスを本気で使える相手がいるとはな」

「!?」

引き離せていない。
むしろどんどん距離を詰められている。
確実にこちらの守護動物のスピードの方が速いはずなのに。

「ハサミは使いようと言うが・・・・ふん、カスめ。やはり最後は使う者の能力の差か」

理解できた。
漆黒の騎士の走法には・・・一切無駄がないのだ。
でこぼこで、アップダウンも激しいこの地面。
枯れ木や突起物など、中途半端な障害物も多い。
だが、
あのエルモアと騎士は、
最善で最速。
まるで障害物の方が避けているようにほぼ真っ直ぐ走り、
馬上での揺れは全くなかった。

「お前の顔・・・・何か見覚えがあるな」

気付くと、
もう真後ろだった。
追いつかれた。
背後をとられた。

「・・・・・誰だったか・・・アクセル?・・・いや、エーレンか」

父と母の名。

「くっ!」

追いつかれる。
このままでは追いつかれて殺される。
そう思い、
アレックスはGキキに出来る限りの急ターンをさせた。
逆に進めばまた距離をわずかだが離せる。

「ふんばれG-U(ジッツー)!!」
「キッ!」

ブレーキをかけるように滑る。
そして逆走。
エルモアとGキキの違い。
それは走法。
Gキキの方が小回りが利く。
エルモアは2本足で駆けるからだ。
歩幅というモノがあり、
バランスというモノがある。
すぐにターン出来るものではないはずだと考えた。
焦りすぎて、
先ほどドジャー相手にやってのけたターンなど頭から離れていた。

「お前、オーランドの家系か」

だが、
漆黒の騎士は・・・いとも容易く、
あまりにも自然に・・・
あまりにも簡単にターンした。
目の前の枯れ木。
それを踏み台にエルモアごとターンしたのだ。
三角跳びの要領。
だが、エルモアを使ってそんな事ができるのか?
だができているのだ。
人間技じゃない。

「父さんと母さんを知ってるって事はやっぱり・・・」

「黙れカス」

背後から殺気が感じられる。
死が迫り来る。
追いつかれたら死ぬという事だけが分かる。

「あの愚かな家系か。オーランドの安い思想はいつも兄上に反するな」

兄上という響き。
もう・・・ツヴァイである事は間違いないだろう。
正真正銘ツヴァイ=スペーディア=ハークス。
顔も確認できないし、
腑に落ちない点は多いが、
彼はツヴァイなのだろうと決め付けた。

「思い出した。たしかアレックスとかいうオーランドのガキか。
 ふん、二代揃って兄上に反するか。それが格好の良いものだとでも思ってるのか?
 夢や思想は頭の中でだけで膨らませておけばいいものを・・・・・・カスめ。
 兄上に反する行動など、この世で一番叶わぬ事のだと知れ」

必死に走りこむアレックス。
Gキキの背中を痛いくらいに握り締めて。
歯を食いしばって・・・・。
だがツヴァイの言葉が頭に突き刺さる。
聞き流せない。
頭の中が熱くなる。
煮えたぎりそうになる。
だが、拒否するしかなかった。

「僕の事なんてどうでもいいんですっ!!」

アレックスはGキキの上から槍を構える。
そして背後。
真後ろを向き、
ツヴァイに槍を突き出す。

「そうだな」

あまりに簡単に槍を弾かれる。
まるで飛んできた落ち葉を弾くほどに簡単に、
ツヴァイの槍はアレックスの槍を弾いた。

「消えろ」

そして背後からツヴァイの槍が襲う。
その槍は確実に、
そして正確にアレックスを・・・・
いや違う。
狙いは・・・・G-U?

「戻れG-U(ジッツー)!!!」

ツヴァイの槍がG-Uに突き刺さる直前に、
アレックスはG-Uを卵に戻す。

「うぐっ!」

そして走行中にG-Uを戻したアレックスは、
固い地面に勢いよく落ちてぶつかった。
全身に響くような痛み。
落馬というものの痛み。
打ち所が悪ければ死んでいた。

「大丈夫っ!?」
「しっかりするでヤンス!」

バンビとピンキッドが駆け寄ってきた。
もうそんな所まで戻ってきていたことを知る。

「二人とも離れてくださいっ!死にますよ!」

通り過ぎたツヴァイが、
エルモアの手綱を引きながら大きく旋回してくる。
こちらに・・・
アレックスを殺しに戻ってくる。
エルモアに・・・
馬に乗った魔王のように見えた。

「や・・・」
「ヤバいでヤンス・・・・」

ほとんど戦闘能力を持たない二人。
やられる。
逃げるか?
守るか?
迎え撃つか?
どれにしても・・・やばい

「でぇりゃあぁああああ!!!」

突っ込んでくるツヴァイ。
その横から、
ジャッカルが飛びかかった。

「海賊か」

不意打ちに対し、
何一つ動揺の色を見せず、
ツヴァイは槍をなぎ払う。

「チッ!」

ジャッカルのカギヅメと、
ツヴァイの槍が交差する。
もちろん吹き飛んだのはジャッカルだけだ。

「こりゃぁ・・・・一触即死ってぇもんでぃ」

アレックスの目の前に、
ジャッカルは海賊帽を抑えながら滑るように着地した。

「バンビ、ピンキッド。邪魔だから離れてろ」
「親びん・・・」
「でも親父・・・・」
「べらんめぇ!!!足手まといだからどいてろってんだ!」

「危ないっ!!」

ジャッカルが身構える。
ツヴァイが即行で迫ってきていた。
だが目の前に火柱が立つ。
アレックスのパージフレア。
それをツヴァイの進行方向で発動し、
壁を作った。
これでツヴァイは進行方向を逸らすしかない。

「くだらん」

・・・・・逸らすしかないはずだったのだが、
ツヴァイはパージフレアの青い炎を突きぬけてきた。
炎を突き抜ける漆黒の騎士。

「なんでもありだな・・・」
「です・・・・・ねっ!!」

ガキンッと金属音。
アレックスは槍の端と端を掴み、
振り落とされたツヴァイの槍を両手で止める。
重い。
体が押しつぶされそうだ。

「・・・・・・ふん」

ツヴァイはまた通り過ぎていく。

「うぐっ・・・・」

アレックスは苦しみしゃがみこんだ。
胸の横当たりを押さえている。

「どうしたんでぃ!」
「いぇ・・・」

アレックスは押さえた手を見た。
それは真っ赤に血で濡れていた。

「エンツォさんに撃たれた傷が今ので開いちゃったみたいで・・・」
「今更かよ・・・・」

まぁ撃たれた箇所が箇所だった。
ヒールで治療を続けていたとはいえ、
そう簡単に治る傷でもない。
貫通したからこそ致命傷ではなかったが、
貫通した傷が外傷を治すヒールですぐにどうこうなるものではなかった。

「手負いも何も変わらんさ」

「!?」

またすでにツヴァイが迫ってきていた。
槍はアレックスの方を向いている。

「休ませてくださいよっ!!」

アレックスは槍を思いっきり横に振る。
それは完全にツヴァイを狙ったものではなかった。
ツヴァイの槍を弾くためだけの、
それだけに徹した槍の振り。
思惑通り、
ツヴァイの槍に槍をぶつけた。
弾く。
・・・・が、
弾かれたのはアレックスの方だった。

「・・・・・・くっ!」

転がるアレックス。
脇下の傷から血が少量舞う。
だがそんな事を気にしているヒマはない。
すぐさま周りを見回した。
自分より重症の人間が二人いるのだから。

「かかってこいやツヴァイ!!!」

ジャッカルが叫ぶ。
アレックスが見ると、
ジャッカルは海賊帽を整えながら、
眼帯越しにこちらに笑いかけた。

「・・・・ありがとうございます!」

ジャッカルはアレックスの考えを察し、
オトリになってくれたのだ。
アレックスは小さく感謝の言葉を言い、
ジャスティンの方へ駆け寄った。

「ジャスティンさん!」
「ぐっ・・・・」

地面に倒れているジャスティンを両手で起こす。
が、
左腕が別の物のようにブランと垂れた。
こちらはすぐに回復というのは不可能だろう。
骨が砕けている。
アレックスはジャスティンの脇腹に手を当て、
治療を始める。
だが・・・こちらもかなり深い。

「アレックス君・・・・俺なんか治療するよりドジャーを治療した方がいい・・・・
 俺はこんな状態でも自分でそこそこ治療できるし、ドジャーはまだ使い物になる」
「・・・・・・・」

たしかに言う事はごもっともだった。
重症な方に駆け寄ったが、
最善はそちらかもしれない。

「・・・・・・・すいませんジャスティンさん」
「・・・へっ。足手まといになった俺が言いたい所だな・・・ぐっ・・・・」

ジャスティンは痛みにもだえながら、
右腕でアレックスの肩を掴む。

「ア・・・アレックス君・・・・どうにかツヴァイの至近距離まで詰めてくれ。
 3・4秒でもそれが出来たなら・・・俺がここからリベレーションをする・・・・」
「・・・・・・・難しい課題です」
「だろうな」

ジャスティンはフッと笑う。
アレックスはそんなジャスティンをソッと座らせ、
少しだけ見た後、
ドジャーの方へ走りこんだ。

「おぅらあああああ!!!」

ドジャーに駆け寄る途中、
ジャッカルとツヴァイの交戦が見える。
軽症だが肩に傷を負ったようだ。
だが、
ジャッカルはツヴァイ相手に持ちこたえている。

「凄いですね・・・」

アレックスはツヴァイの攻撃を数度やりきったのは、
自分でも奇跡的だと思っていた。
しかも自分を守っていただけだ。
だが、
ジャッカルは攻めあっている。
自分と違い、
戦っているのだ。
その実力は素直に尊敬した。

「ドジャーさん」

アレックスがドジャーに駆け寄る。

「うっせぇ!」
「え・・・いや、別にうるさくないと思いますけど・・・」
「あー・・・じゃなくてアレだ・・・・」

ドジャーはアレックスを跳ね除け、
自分で立ち上がる。

「心配されるほどじゃねぇってんだ。あの馬鹿と違ってな」

ドジャーは向こうのジャスティンを見る。
ジャスティンはそれに気付き、
顔をしかめて舌を出した。

「カッ、あいつも心配なさそうじゃねぇか」

そう言い、
ドジャーは両手にダガーを取り出す。

「投げるとジャッカルに当たる。3人でまとめていくぞ。
 そうすりゃ運がよけりゃジャスティンがリベレーションする」
「あれ?作戦聞いてたんですか?」
「あん?」

反応からするに、
どうやらそうじゃないらしい。
ただ、ジャスティンの行動がなんとなく分かったのだろう。
幼馴染という部分で、
こういう部分は羨ましい点だった。

「ぐあっ!!!」

ジャッカルが吹っ飛んできた。

「べらんめちくしょう!!!」

ジャッカルが起き上がる。
口から血が垂れていて、
それを手で拭った。

「てやんでぇ!!まとめてかかっぞ」
「お、ジャッカル好戦的だねぇ」
「はん。本当はそうでもねぇんってんだ。が・・・・」

ジャッカルはバンビとピンキッドの方をチラりと見る。

「娘と部下が見てたんじゃぁなぁ・・・へっ!べらんめバーロゥ!情けねぇとこは見せられねぇだろ!」
「死ににいく理由がそれでいいんですか?」
「てやんでぃ!!」

ジャッカルは左腕のカギヅメダガーを横に払う。

「十分に決まってんだろ」

ジャッカルのその言葉に、
アレックスとドジャーは同時に笑い、
各々の武器を構える。
向こうに・・・・
エルモアに跨(またが)ったツヴァイ。

「さぁて・・・・」

ドジャーは懐から爆弾を取り出した。
そして軽く投げる。

「戦闘再開だっ!!!」

ダガーを投げつけ、
それは爆弾に突き刺さった。
と同時、
爆弾から煙が噴出す。
スモークボム。

「いきますっ!!」
「しゃぁー!」
「おらぁあぁああ!!」

「くだらんマネを」

3人が別々に突っ込んだ。

「ドジャーと・・・アレックスつったな!」
「あん!?」
「なんですか!?」
「俺がニンブルフィンガーであいつの槍を引き剥がす!!助けろ!」
「・・・・・・・分かりました」
「カッ!しくじんなよっ!」
「べらんめぇ!!ルケっ子に二言はねぇ!」

3人同時に煙幕に突っ込み、
視界のない中から・・・同時に飛び出す。
煙幕を突破する。

「なっ!!!」
「いねぇっ!」

煙幕から抜け出ると、
そこにはツヴァイの姿は無かった。

「煙幕で逆に身を隠したか!?」
「いえ!上です!」

アレックスの声に、
ドジャーとジャッカルも同時に見上げる。
空、
空中。
そこには・・・・エルモアに乗った騎士。

「あんなんエルモアの跳躍力じゃねぇってんだクソ!!」
「気をつけてください!」

落ちてくるツヴァイ。
槍を突き出している。

「落下型チャージラッシュ!?」

普通は守護の助走を力に加える技だが、
そのまま重力を味方に突っ込んでくる。

「くっ!」
「やべぇっ!」

3人は同時に跳ぶ。
跳び避ける。

「塵になれ」

地面に突き刺さるツヴァイの槍。
固い地面は砕け、
数メートルにわたり破片を撒き散らした。
3メートルはあるんじゃないかという長槍。
それが根元まで突き刺さる分、
地面が弾けとんだ。

「クソッ!食らったた粉々だぜ」
「・・・・・」

ツヴァイという人物には初めて出会うが・・・
あらためてその凄さが・・・・

「っ!?」

アレックスに疑問が浮かんだ。
初めて会う。
知らない人物。
あれが本当にツヴァイだという保障は?

・・・・・いや、
あの絶対的な実力。
風貌。
雰囲気。
記憶。
何をとってもそう思わせる部分はある。

しかし、
まだアメットに隠れて顔をみていないし、
知らない人物なのだ。
そして死んでいる人物なのだ。
保障はない。

「でも・・・・・・・・・あっ」

そしてアレックスの頭に浮かんだのは・・・
ドラグノフだった。
さきほどドラグノフに初めて出会った時、
ドラグノフはツヴァイの変スクを発明したといって使っていた。
まぁ・・・
この漆黒の騎士の実力はドラグノフのものではない。
なら変スクを誰か実力者渡したなら?
ドラグノフなら王国騎士団。
記憶の部分も知っていておかしくないし、教える事もできる。

だが、
やはりツヴァイだと考えたほうがしっくりくる部分もある。

「アレックスっ!!!」
「!?」

ツヴァイは迫ってきていて、
そしてもう槍を振り落としている所だった。
アレックスは横っ飛びで避けるが、
チャージラッシュの衝撃を少々食らった。

「・・・っ!」
「食らいやがれっ!!」

ドジャーがダガーをツヴァイに投げつけた。
だがツヴァイはエルモアを華麗に旋回し、
無駄なくそれを避ける。

「ここだっ!!」
「たぁっ!!!」

それを好機と見て、
ジャッカルとアレックスが同時に飛び掛る。

「無駄だ」

が、
ツヴァイはエルモアの勢いを利用して一閃。
たった一振り。
それでジャッカルとアレックスの胸を切り裂いた。

「ぐっ・・・」
「痛っ!!」

ジャッカルとアレックスはたった一振りで同時に斬り落とされる。
鮮血を置いてけぼりに、
斬り落とされる。

「もらったぁあああ!!!」

何もないところから声。
何もない空間から声。

「気付かないと思ったかカスが!!」

ツヴァイは槍を持っていない左腕を振り切る。
何もない空間で鈍い音。
それと共に、
インビジが解除され、
ツヴァイの拳を頬に受けるドジャーが姿を現した。

「カッ・・・くそったれ」

ドジャーが口元の血を拭い、
視線を戻す。
エルモアに乗って通り過ぎたツヴァイが、
ターンしてまたこちらに向かってきている。

「やぶれかぶれだ!」
「一斉にいきますよ!」

配置。
3人の立ち居地を確認する。
それを見ると、いい陣形だと思えた。
3人がバラバラに・・・
そして完全に別方向からツヴァイに襲いかかれる陣形。

「誰か一人くらい当てっぞ!」
「分かってます!」
「当ててやらぁ!!」

3人は同時に跳びかかる。
エルモアに乗って突っ込んでくるツヴァイに。

「一振りで3人は斬り落とせねぇだろ!!」

突っ込んでくるツヴァイ。
跳びかかる3人。

「・・・・・・ふん」

ツヴァイは足を・・・エルモアの鞍(くら)にかけた。
・・・と思うと・・・・跳んだ。
エルモアの上から跳んだ。

そこからは・・・・スローに見えた。
華麗としか言えなかった。

空中でまずアレックスを槍で斬り落とした。
空中で回転するように槍を横に振り、
アレックスを斬った軌道、
槍の軌道に細い血液の軌跡が舞った。
横に振った槍はそのまま・・・
ジャッカルにぶつかった。
ジャッカルは左腕で止めた。
が、
ツヴァイのアメットに隠れた目はドジャーを向いていた。
それに気付いた時には遅く、
ドジャーの側頭部に・・・ツヴァイの右足が振りぬかれた。
空中での回し蹴り。
鈍い音と共に、ドジャーが吹き飛ばされる。
そしてその回転の反動のまま・・・
右腕がジャッカルの首元を掴む。
掴み、握る。
そして・・・・・・・・ジャッカルを斜め下に投げ捨てられた。

「カス共め」

そしてツヴァイはエルモアの上に着地した。
鞍の上に両足を乗せ、
低姿勢で立ったまま、
槍を水平に構えて通り過ぎた。

「ぐっ・・・」
「げはっ!!」

地面にちりじりに落下した三人。
各々が強烈なダメージを受けながら、
体を支えていた。

「ぐ・・・・・ぅ・・・・・・」

計2度斬られたアレックスは、
胸にX字の切れ目が入っていた。
もうエンツォの傷など痛みもなかった。
そして顔をあげる。

「またきます!!」

ツヴァイがターンしてこちらに向かってきている。
間髪なく、
死を運びに来る。
もう・・・・
駄目かもしれない・・・・

「しゃらくせぇ!!!」

アレックスの前を横切る影。
ジャッカルだ。
ジャッカルが飛び掛った。

「そんなに死にたいのか」

ツヴァイは槍を構え、
突き出す。

「死ぬのはテメェだ!海賊王は・・・・・・・」

ジャッカルもカギヅメになっている左腕を振りかぶる。

「どんなもんでも盗むっ!!!」

そして・・・ツヴァイではなく、
槍に振り切った。
ジャッカルの左腕が、
カギヅメが、
槍に振り切られ、ひっかかるように槍にかかる。

「かかった!パクってやらぁ!!ニンブルフィン・・・・・・」

「愚かな・・・カスがっ!!」

ジャッカルのカギヅメはツヴァイの槍を捕らえた。
ひっかけたのだ。
だが・・・・
ツヴァイの槍は・・・・
止まる事なく・・・・

ジャッカルの腹を貫いた。

「あ・・・・」

前後に吹き出す赤い血。
ジャッカルの腹を貫通する。

「ジャッカルっ!!」
「ジャッカルさんっ!!」

「カスめ」

エルモアの走行をそのまま、
ツヴァイはジャッカルを貫いたまま走った。
ジャッカルの首がカクンと落ちる。
いや、あがる。
顔があがる。
眼帯のついた目がツヴァイを睨む。

「こんちくしょうがっ!!!」

「ぐっ!!!」

ジャッカルのカギヅメが・・・
ツヴァイの槍を掴む腕に突き刺さった。
右腕にひっかけた。
初めて当たるツヴァイへの攻撃。
ツヴァイの右腕に、
カギヅメが突き刺さる。

「どう・・・だチクショウめ!!」

「この・・・・・・カスがっ!!!」

ツヴァイが走行したまま、
槍を下げる。
ジャッカルを貫いている槍の・・・・・・・
高度を下げる。

「ぐぁぁぁぁあああああ!!!」

地面に突き出された。
槍に貫通されているジャッカルは、
エルモアの走行中に、地面でこすられる。
地面にこすりつけられる。
ガリガリと地面にぶつけられる。
ジャッカルの体を削るように・・・・血しぶきが吹き出る。

「がぁぁぁあああ!!!このっ!!べらんめぇっ!!!」

「ぐっ・・・」

だがジャッカルはツヴァイの腕からカギヅメを抜かない。
根性で突き刺したままに・・・
さらに深く食い込ませる。
だが、
高速移動中のエルモアから、
地面にこすりつけられるジャッカル。
砂煙の代わりに血しぶきが舞い上がる。
ジャッカルが地面に突きつけられた場所が、
赤い血液の道が出来る。
そして・・・・

「消えろ」

「!?」

枯れ木。
進行方向に固い枯れ木。

「がっ・・・・」

そこにジャッカルだけが置いていかれるようにぶつけられた。
叩きつけられた。
枯れ木の幹は折れ飛び、
折れた箇所を中心に血しぶきが散乱した。
その箇所から数メートルにおよび、
赤いペンキが塗りたくられた。

「お・・・」
「親父っ!!!」

バンビが飛び出す。
父の元に走る。
もう全身グチャグチャになっているジャッカルの元に、
ただ必死に走る。
涙を流しながら駆け寄る。
ジャッカルの元に、
ただ父の元に。
そして手を伸ばし・・・・

「カスが」

バンビの目前の父。
ジャッカルの姿。
そこを漆黒の騎士が通過した。
エルモアが凄い勢いで通過していった。
そして・・・・・
ジャッカルの頭が飛び散った。

「親・・・・・」

ジャッカルの頭があったところには、
エルモアの蹄(ひづめ)の跡だけが残り、
半径数メートルにわたり、
放射状に血と肉塊が散乱し、
赤い肉塊だけがそこに残った。

落下してきた海賊帽子が、血溜まりの上に落ちた。

「あ・・・・ぁ・・・・」

バンビは手を伸ばしたまま、
よろよろと歩いた。
そして倒れこむように、
ジャッカルだったものの前に膝を落とす。

「あ゙ぁ・・・親・・・・・・・・・親・・父・・・・」

涙を流す娘の手は、
肉塊を拾い上げる。
もう片方の手で血を掬い上げる。
崩れた表情で涙を流しながら、
ただうめき声のような声をあげながら、
父の残骸を拾っては落としていた。

「・・・・・くっ」
「チッ・・・」

アレックス達は顔を背ける事しかできなかった。
いつもそうだ。
いつもこうだ。
自分達より勇気ある者が死んでいく。
自分達より強き者が死んでいく。
自分達より必要な者が死んでいく。

お前はこの世に必要か?と聞かれれば目を背けたくなる。
お前は立派な人間か?と聞かれれば耳を背けたくなる。
お前の方が生き残るべきか?と聞かれれば・・・・泣きたくなる。

「オレに血を流させた奴はどれだけぶりか」

エルモアの上で、
ツヴァイは言った。
右腕から血が流れていく。
それは右腕に持つ槍にうつり、
槍の上から下へ流れ、
血は槍の先から地面に落ちた。

「だが誰から見てもチェックメイトだ。強き者もさらに強き者に敗れる。
 この場にオレより強き者はいない。それが結果として提示されていくだけだ。死という形でな」

ツヴァイはエルモアの上で槍を払った。
血が払われる。

「足し算ができるか?強さの足し算をだ。それはオレに足りてるか?
 引き算はできるか?強さの引き算をだ。それで現状を理解できるだろう。
 確かにどんな可能性も0ではない。だが、あきらかにわずかだった可能性が、
 今さらに肉眼で確認できないほどわずかになったのを知れ」

闇の中に浮かぶ、漆黒の騎士。
それがとてつもなく遠い存在に見えた。
手の届かない・・・別世界の生物に。
悪魔に、
死神に、
子供が絵本で見る悪魔のように・・・・別世界の存在だった。

「今一度だけ言う。帰れ。オレの目の前から立ち去れカス共」

その言葉に・・・・最悪な事にホッとしてしまった。
悔やんだ。
帰れる。
生きて戻れる。
それに安堵を感じた事を悔やんだ。
そう感じるとジレンマが混ざり合って頭の中に浮遊感が生まれた。

「・・・・・ッ・・・・」

ドジャーが歯を食いしばっているのが見えた。
分かる。
帰るべきなのか、
それともさらに戦うべきなのか。
その選択。

漫画や物語の勇者ならば・・・残る。
当然だ。
造りものの勇者なのだから。

だが、
ツヴァイを倒してどうなる。
この男を引き込めるのか?
引き込むことなど可能なのか?
引き込めたところでどうなる。
この男は雄志を持って戦う人間なのか?
仲間を殺したこの男が仲間?

まず倒せるのか?
ほぼ不可能だ。
物語の勇敢な勇者なら立ち向かう。
馬鹿としか思えない。
物語ならわずかな可能性が叶うのだからそれはアリだ。
ルーレットの00に全てを賭ける男は勇者?・・・愚者だ。

1%の可能性を信じる。
カッコイイな。
そのためにさらに仲間を失う。
馬鹿か。

なら帰ってどうなる。
ここに仲間を失いにきただけか?

それよりまずなにより・・・・・・・・あれは本当にツヴァイなのか?

「帰るわけないだろ」

そう言ったのは・・・・
ジャスティンだった。

「愚かな選択だな」

ツヴァイがジャスティンを見据える。
ジャスティンはヨロヨロと起き上がっているだけだ。
紫色に変色し、
ガラクタに変形した左腕をぶら下げ、
右腕の鎌を杖代わりに立っている。

「愚か?・・・ハハッ。仲間の死を無駄にする方が愚かとしか思えないね」

「さらに無駄な死が増えるのにか」

「ジャッカルの死は無駄じゃねぇよ」

「戯言を。言うならばこの腕の傷ぐらいのものだろう」

「違うね」

ジャスティンはニヤりと笑い、
右腕で鎌を振り上げた。

「テメェの動きが止まった事だ!!!リベレーションっ!!!」

「!?」

ツヴァイの股下。
ガルネリウス。
E-U。
エルモア。
エルモアが光に包まれて輝く。

「チィッッッ!!!!」

ツヴァイが離れようと跳ぶ。
が、
同時に女神が召喚され、
光と共に衝撃が広がる。

「ぐっ!!!」

ツヴァイがすべるように着地する。
鎧から煙が噴いている。
直撃はしたようだ。

「小賢しいマネをっ!カスがっ!!」

「上等だ」

ジャスティンが鎌を円形に回す。

「カスをなめるなよ」

ジャスティンがニヤりと笑う。
ツヴァイにダメージを与えた。
ツヴァイをエルモアから落とした。

「いける・・・かも・・・・・」
「いや、いってやるっ!」

アレックスとドジャーも構える。
可能性。
わずかだが増えた。
1%が10%になっただけかもしれない。
1%が5%になっただけかもしれない。
1%が2%になっただけかもしれない・・・・が、
可能性が増えた。
わずかからわずかに増えた。

「わずかの可能性のために、唯一の生存の道を捨てたか」

漆黒の騎士は、
アメットの下。
口元を歪ませる。

「遠距離からいくぞ」
「・・・・ハハッ・・・残念ながら近づく勇気はないもんで」
「だな」

ジャスティンは鎌を肩に立て掛け、右手で十字を描き、
アレックスは左手で十字を描いた。
ドジャーは両手に8本のダガー。

「カスの浅知恵か」

突然ツヴァイは地面に槍を突き刺した。
完璧なる突き。
一寸のズレもなく、
精密機械のような突きが突然地面に突き刺さる。
砕けることもなく、
綺麗に差し込まれるように槍が地面に突き刺さる。

「なんだ・・・・」
「・・・・・」

「オレはオレの浅知恵だ」

と言いながら・・・・
ツヴァイは槍を地面から引き抜いた。
・・・・。
今更ながら驚かされた。
片腕で引き抜いたその槍。
その槍には・・・・・・大きな地面の塊があったのだ。
3メートルを超える岩の塊。
地面の塊。
それが槍で引き抜かれた。

「なん・・・・」
「じゃそりゃ・・・・」

何も見えない。
岩に隠れた。
地面から抜き出された地面の塊。
最強なる盾。

「くっ・・・」
「チッ!」

アレックスとジャスティンは走る。
左右に。
別々の方に。
回り込まなければならない。
接近戦を挑むわけには行かない。
岩の裏に、
地面の横側に周りこまなければ・・・・・。
遠距離から攻撃できるところに・・・。

「ふん、どちらから消してやろうか」

アメットに隠れた目が、
ジャスティンを追う。
そして逆にアレックスを追う。
どちらも同じ。
どちらから掃除するかの理由のいらない選択。
そして・・・・
ジャスティンの方に殺気は向けられた。

「死ね・・・カスが」

ツヴァイが岩陰から飛び出そうとした。
その時だった。


「っ!?」

岩が・・・
地面が崩れた。
崩れた?
いや・・・・
斬り刻まれた。
3メートルの岩が突然的に細切れになった。
ブロック状にスライスされた。
数十片の破片に切り刻まれた。
固い固い・・・地面の岩の塊がだ。

その岩陰だけじゃない。
ツヴァイの周りの枯れ木。
それも切り刻まれて吹っ飛んだ。
3〜4分割され、
切り飛んだ。

「・・・・・・なんだ」

ツヴァイが足を止める。
そして周りを見渡す。

視界の先。
アレックス、ジャスティン、ドジャー。
だが、
彼らもお互いを見回して驚いていた。
何が起こったか分からなかった。

ツヴァイが背後を振り向く。
だが・・・・
何も無い。
細切れになった枯れ木が転がっているだけだ。

「・・・・・・・・・・・・」

アメット越しに、
アレックス達を睨む。
だがアレックス達にも分からない。
何が起こったのか。
遠距離の物を切り刻む能力などもっていない。
むしろ岩を斬るほどの能力など持っているはずが・・・・・

「ヘーイヘーイヘイヘイヘイ・・・・ご注目ご苦労さんだねぇ」

等間隔の、
ゆっくりな一人の拍手の音が聞こえた。
それは逆側から聞こえた。
アレックス達の背後側から。

「いやー・・・・俺ちゃん無視されんの嫌いだかんさ」

固められた前髪が、右目を隠していた。
ペロリと出された下の先に銀色のピアスが光る。
舌先だけではなく、
鼻から左耳、
目の上にまでピアスが輝いていた。
いや、
耳にぶら下がっているのはピアスでなく・・・・指輪?

「盛り上がってるとこ邪魔してワッルいねぇ。
 うん、ほんと悪いとは思ってっぜ?反省はしてねぇけどな」

男のまぶたにピアスを付けた左目が笑みで歪む。

「・・・・・?」
「誰だテメェ・・・・」

「誰?え?何?はぁ?それって失礼じゃね?あー・・・信じられねぇなそりゃ。
 俺ちゃんら迷いに迷ってここに辿り着いたってのにねぇ。ひどくね?それ。なぁお前ら」

「あぁ、そりゃひでぇ」
「俺もひでぇと思うぜボス」
「そりゃぁあんまりだわなぁ」

背後。
その男の背後には数人。
十数人か。
似たような服の男達が並んでいた。
薄気味の悪い奴らだった。
そして全員に共通点があった。
体のどこかに同じような烙印がついているのだ。

「俺ちゃんらはあんたらに雇われてここに着たんだぜ?そこんとこ一つよろしくねぇ」

その男も、
長く垂れた右前髪をソっとズラし、
右頬に烙印された文字を見せる。
バーコードの上に烙印された赤い文字。
"D・T・W"
右の頬に刻まれていた。

「《ドライブスルーワーカーズ》のもんでぇーっすっと・・・
 お仕事承りに参りましたよぃ!地獄の沙汰の金次第。
 殺人・強姦・掃除洗濯。世界壊滅から白蟻駆除まで料金次第でなんでもどうぞ」

「テッ・・・・めぇら!!!」

ジャスティンが鎌を投げ捨て、
怒り狂って詰め寄る。
そしてそのリーダー格の男の胸倉を右腕で掴んだ。

「今更のこのこ出てきてんじゃねぇ!」

「おっとっと。おたく怒んないでよ」

「テメェら!悠長に遅刻しやがって!仕事請けるか請けねぇかも曖昧で!
 今更何様ツラで出てきた!こっちは仲間がもう一人殺(や)られたんだぞっ!」

「関係ないね」

その男の左目はジャスティンを冷たく睨んだ。

「あんたはまだ金払ってねぇ。今も金払わなけりゃ俺ちゃんらはなんもしねぇ」

「くっ・・・・」

ジャスティンの怒りは沸点を超えそうだった。

「エドガイ・・・・・・・・エドガイ=カイ=ガンマレイか」

突然ツヴァイが言った。
エドガイと呼ばれた男は、
ジャスティンに胸倉を捕まれたままニタニタと笑った。

「久方ぶりだな」

「あっれー?おたくどっかで会ったっけー?ヘヘッ、顔隠してちゃ分からねぇなぁ。
 同級生かなんかだったっけかねぇ。おーぼーえーがーねぇー・・・・なぁ」

「相変わらずふざけた奴だ」

「へへっ」

エドガイはジャスティンを払いのけた。
そして歩み寄る。
腰にぶら下げた剣が地面を引きずった。
不思議な形をした剣だ。
アスタシャという剣だろう。
だが不思議なのは剣の形状だけでなく・・・・
グリップ。
握り。
そこに・・・・引き金(トリガー)がついていた。

「おたく知ってるねぇ。どっかで見たなぁ。学校の優等生君に似たの居たなぁ」

「・・・・・・・・・・」

「アインか?ツヴァイか?ん〜・・違う気もするな。ま、誰でもいいや。仕事だ」

エドガイは振り向き、
今度は逆にジャスティンの胸倉を掴む。

「おい、金払え可愛い子ちゃん」

「ずうずうしい奴だ」

「そうねぇー、でも俺ちゃんも仕事だかんねぇ。なぁお仕事くれよ。サービスしちゃうよぉーん」

エドガイは、
ピアスの付いた舌でジャスティンの頬をナメた。
そして舌は遡っていき、
ジャスティンの耳に達した所で噛み付いた。

「痛っ!」

「もう一度言うぞ。金払え。そしたらあいつヤってやるよ」

「・・・・・・・・」

ジャスティンはエドガイを振り払う。
そして睨んで言う。

「・・・・・・・・今は持ち合わせてない」

「あーいよー。了解。おい」
「へいボス」

呼ばれて、
エドガイの仲間。
《ドライブスルーワーカーズ》の人間が紙切れを持ってきた。
首元にエドガイと同じバーコードの刻印がある。

「契約書だ」

エドガイが突きつけた紙切れ。
正式な契約書だった。
いや、請求書。
バーコードが刻印されている。

「サインと血印よろしくねぇ。はいこれペン」

「・・・・・・チッ」

ジャスティンは取り上げるようにそれを奪い、
すぐにそれを書き、
もう元から血で濡れている右手の親指で血印を押した。

「まいどぉ〜。一億グロッドか。いい買い物したぜぇおたく」

エドガイはニコりと笑い、
振り向く。
そして部下に「おい」と呼びかけ、
一人の部下から何かを受け取った。
花だった。
そしてエドガイはあらぬ方向に歩いていった。
腰にぶら下がるアスタシャが地面をひきづる。

「どこ行くんだお前!」

「はいはいちゃんと仕事はしますよーぃ。これは別料金」

エドガイは片手で手を振ったまま、
あらぬ方向に歩む。
そして、
ある場所で止まった。

「悲しいか?」

そこは・・・
ジャッカルの死体だった。
泣きじゃくり、
ぐしゃぐしゃに崩れたバンビの泣き顔を見ず、
エドガイは隣にしゃがみこんだ。

「・・・・・・・・・・なによあんた」

「死は悲しい。いつか誰にでもくるもんだが、悲しまなきゃならねぇ〜よな。
 俺ちゃんはこいつのこたぁ知らねぇ。どんな人生でどんな奴だったかも知らねぇ。
 だがこいつぁ死んだ。死んだもんには悲しんでやんなきゃぁなんねぇよな」

エドガイはピアスの付いた舌を出し、バンビに笑いかけた。
バンビは悲しみに埋った顔を、
怒りに変えてエドガイに向ける。

「あんたは殺しが仕事なんでしょっ!よくもそんな事が言えたわね!
 そんな奴に言われたくないっ!・・・・よく分からないけど・・・・
 あんたが早く来てれば親父が死ななかったかもしれないっ!」

「フッ・・・」

エドガイは鼻で笑い、
顔を横に振った。
右の前髪が揺れる。

「そうだねぇ。仕事だ。だが殺しが好きなわけじゃねぇ。おまんまのためなら喜んで人は殺すがな。
 肉食動物が草食動物を食うのと一緒でな。ハシた金のためなら人も殺すのが傭兵だ。
 だが殺すのは仕事の上だけ。生きる分だけだ。分かっちゃぁくれねぇだろうがな」

エドガイはそう言い、
手に持つ花を血溜まりの上に浮かべた。
海賊帽の横に綺麗なバラ水晶が浮かんだ。
血に溶け込むような花だった。

「こいつが天国行ったのか地獄行ったのか。それともそんなところはねぇのか。
 俺ちゃん馬鹿だから分かんねぇが、この世にいねぇことだけはたしかだ。
 そんな奴には少しだけ悲しんでやって、一言だけ言ってやりてぇ・・・"安らかに"ってな」

エドガイは、片手でバンダナをかぶったバンビの頭をクシャクシャとなで、
立ち上がった。

「さて、人でも殺すか」

エドガイは笑顔をツヴァイに向けた。

「待たせたなツヴァイ」

「ふん。覚えてるじゃないか。ふざけた奴だ」

「呼んだだけだ。お前がツヴァイかどうかなんか知らねぇなぁ。
 俺ちゃんがガッコで見たツヴァイ=スペーディア=ハークスと違って、
 何やら男らしいからなぁ。なんかあったか死人さんよぉ」

「黙れ」

「へへ、やっぱ違うなおたく」

ツヴァイはすでに他の者に興味がないといった様子だった。
アメット越しの目線は、
エドガイにのみ向けられていた。

「兄上に逆らって悠々と今も生きてるのはお前ぐらいだろうよ」

「アインハルトに従うのは嫌だったんでねぇ。自由を奪われる狗ってのはゴメンだ」

「騎士団に入る気もないのに養成学校に来ていた変人か。傭兵のくせに狗はいやか。矛盾してるな」

「俺ちゃんは根っからの傭兵だ。『ペニーワイズ(小銭稼ぎ)』のエドガイ=カイ=ガンマレイ。
 1グロッド硬貨のために殺したり殺されたりするのが性に合ってんだよ。おいテメェら!」

エドガイが振り向いて叫ぶ。

「そこのザコ3人も含めてだよおめぇら」

「あ?」
「んだと・・・・」

「こいつぁテメェらの敵う相手じゃねぇ。隅っこで震えて待ってろ」

「死ぬなよボスー」
「墓代ださねぇからなー」
「テメェ死んだら今日の夕飯代誰が出すんだよ」

「うっせ」

そしてエドガイはアスタシャを抜いた。
その剣を片手で抜き、
突きつけた。
トリガーに指をかけ、
まるで銃を構えるように。

「さてお仕事だ。ツヴァイ。思い出話は死にながらでもできる。
 血ぃ噴出してワンワン泣き叫びながら笑い話でもしようぜ」

「死ぬのはお前だエドガイ。あの世でオレに会ってこい」

「無理だねぇ。仕事は絶対だ。金を貰ったら100%仕事はするぜ。
 さてレディース・アン・ジェントルメン。俺ちゃんの死体作成講座だよん。
 モザイク一切なしの無修正でお送りすっからFxxkと手拍子よーろーしーくーねぇー。
 お代お先、命は後払い・・・・・へへっ・・・・ツリはいらねぇ・・・・とっときなっ!!!!」















                 






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