「死ねやっ!!!」

響く銃声。
ドジャーに向けられたライフルが口から白い光を発した。
闇の森の中に銃声がこだまし、
弾が突き抜ける。

「チッ!!」

ドジャーが咄嗟に横っ飛びで避ける。
服の一部を突きぬけ、
ライフルの弾は背後へ飛んでいった。

「キャッ!!」
「わわっ!!」

バンビとピンキッドが隠れていた木。
枯れ木。
そこにライフルの弾が直撃する。

「「・・・・・・」」

煙をあげながら、
枯れ木に突き刺さる弾丸。
危ないところだった。
流れ弾でお陀仏になるところだった。
だが木に隠れているバンビとピンキッドは、隠れている立場なので文句も言えない。
黙って汗をたらした。

「避けよったな。さすがやドジャーはん。さすがわいが認めたスピードやで。
 さらに速くなりおったか?せやけどそれもまだまだや。まだ・・・・」

ライフルになっている右腕をもう一度ドジャーに向ける。

「最速にはまだ遠い。光速にはまだ届かへん」

「カッ・・・・・」

ドジャーの袖の中から、
ダガーが滑り落ちてきて、
ドジャーの右手に収まる。

「なんで生きてやがるエンツォ!!!」

ドジャーはそう言い、
ダガーを投げつける。
しかし、
エンツォは機械で出来た左腕・・・・
そのナイフになっている左腕で、
いとも簡単にドジャーのダガーを弾いた。

「わいはちゃんと死んだ。やけど生き返った。いや生かされた。このサイコドクターにや」

エンツォは、
機械で出来た左目でドラグノフを見る。
ドラグノフは怪しく笑っていた。

「いやー♪なかなか面白い素体だと思ってねぇー。
 僕の技術力でもなかなかこの速度は発揮できないんだよね」

ドラグノフは、
言いながらエンツォを触る。
まず色が抜け落ち、
真っ白になった髪を。

「血が足りてなかったからヘリクシャのパイプを体中に回してね。
 イヒヒ♪もう体の損傷酷くて血だけじゃ動かない状態だったしね♪
 それで無くなった両腕に機械のパーツを付けてぇ・・・・
 ・・・・・あ♪これ僕の趣味ね♪こだわったんだよぉ?それでねぇ・・・」

「もうえぇわ」

エンツォはドラグノフを払いのける。
興味はドジャーにしかないといった様子。

「とにかく殺すで」

「しつけぇなぁてめぇも」

エンツォがゆっくり・・・
機械化した右腕・・・。
ライフルをドジャーに向けたまま歩き寄る。
血の通ってない白髪。
機械の義眼。
銃になっている右腕。
左腕は機械仕掛けのナイフ。
体中に管。
白髪のサイボーグ・・・・といったところか。

「はやく撃ってこいよ」

「黙りや」

ドジャーにライフルを向けたまま、
ゆっくり近づくエンツォ。
だが・・・・
すぐに撃ってくる気配はない。
逆にドジャーもライフルの銃口を向けられているのに、
逃げようという気配はない。

銃を向ける者。
銃を向けられる者。

「動きぃや」

「なんでテメェに言われて動かなきゃいけねぇんだ」

「言うたやろ。わいが世界最速や。あんさんを殺して再証明するんや。
 動くあんさんを撃ち落してこそ・・・・・意味があんねや」

「知るかそんなもん。そこらへんで鴨でも撃ってろ」

銃口はドジャーに向いたまま。
ゆっくり近づくエンツォ。
動かないドジャー。
そして一番辛抱できないのは・・・・ドラグノフの方だった。

「動けよもぅ!・・・・なんちって♪・・・でも・・おーいエンツォ君〜?
 改造人間エンツォ=バレット君〜?見てる僕がヒマなんだよねー。
 動いてくれないかな?じゃないとつまんないから違う人召喚するよ?
 選手交代しちゃうよ?イヒ♪代わりなんていくらでもいるんだからね」
「・・・・さっいわボケェ!!!」

エンツォの右腕のライフル。
それが瞬間的に動いた。
照準が180度動く。
と同時に・・・・・。
閃光が輝く。
銃声と共に。

「あれれ・・・・」

エンツォの弾丸がドラグノフの胸を突き抜けた。

「反抗的だなぁ・・・・・・・・・・・イヒ♪」

だが、
ドラグノフの胸の穴は瞬間的にふさがっていく。
グチュグチュと音を奏でながら、
銃痕は塞がっていった。

「化けもんやな」

エンツォはライフルをドジャーに戻す。

「せやけどわいに命令すんなやドラグノフ。あんさんには感謝はしとるが尊敬はしてへん。
 道具になったつもりもあらへん。わいよりトロい奴はわいの後ろで背中を眺めとけばええ。
 ドジャーはん。あんさんもや。最速より偉いもんはあらへん。あんさんには・・・・速さが足りへん」

「カッ・・・・」

また硬直状態。
ライフルを向けたままのエンツォ。
動かないドジャー。

「どないしたんやドジャーはん・・・動きぃや。ビビって動けへんか?」

「さぁな」

「撃ってまうで?」

「撃ってみろよ」

「はんっ・・・・・」

エンツォの左目。
赤い・・・・機械仕掛けの血の通っていない左目。
その中の義眼が少し動いた。

「分かってんねやっ!!!!」

エンツォのナイフ仕掛けの左腕が振り切られる。
真横に。

「ちっ!!!!」

そこにはジャスティンが飛び掛っていた。
不意打ちを狙っていたのだ。
鎌を振り上げ、
エンツォに飛び掛っていた。

「クソッ!!!」

ジャスティンの胸が・・・かっ切られる。
血しぶきがあがる。
エンツォの左腕がジャスティンの胸を薄く切り裂いた。

「そんなコスい手にかかるかボケェ!」

「痛ぅ・・・・・」

ジャスティンは斬り飛ばされて着地。
胸を押さえる。

「バレたかっ!!」
「カッ!!そううまくもいかねぇか!!」
「もうちょっと気をひきつけとけよドジャー」
「っせぇな」

ドジャーとジャスティンは構える。
だが・・・

「なっ!いつの間に?!」
「いねぇ!!どこいった?!!」

すでにエンツォの姿がそこには無かった。

「あんまなめんなや?」

「・・・・・・・・・・」

エンツォの声に気付き、
ドジャーとジャスティンが振り向くと・・・・

「すいません・・・・・」

アレックスだった。
エンツォに後ろに回りこまれていた。
エンツォに後ろからナイフとライフルを突きつけられている。
不意打ちを狙っていたのだろう。
だが結果は最速男に回り込まれて人質状態。

「トロいもんは・・・・・」

エンツォはアレックスを蹴り飛ばす。

「のいてろっ!!!」

そしてアレックスの背中に弾丸を撃ち込む。

「うっ!!!」

脇下。
アレックスの体に穴が空く。
一瞬細く血が吹く。

「大丈夫かアレックスっ!」
「まぁまぁ・・・ですか・・・」

ドジャーとジャスティンがアレックスに近寄る。
ジャスティンもアレックスも、
軽症ではないが重症ではない傷を簡単につけられた。

「遅い事は罪や。分かったやろ」

エンツォが見下す。
その透き通るような白髪が、太陽の光を突き通し輝く
闇に映える白髪のサイボーグ。
復活した血足らずの死人。

「・・・・・・・・」

エンツォの目が泳ぐ。

「もう一匹おんな」

まるで消えたようなスピード。
エンツォが踏み切ると同時に、
残像しか残らない速さでエンツォが動く。
そのコンマ何秒後、
金属がぶつかる音が聞こえた。

「うっぉ!ビックリしたぁ!!!」

ジャッカルだった。
ジャッカルのカギヅメにひっかかる形で、
エンツォの左腕のナイフがぶつかっている。
エンツォの機械で出来た間接。
そのナイフ。
それは微動だにせず、
ジャッカルの腕を止めていた。

「べらんめぇ・・・やるねぇあんた。押し切れねぇ」

「もう速さだけやないねん」

「言うねぇ"お揃い"さん」

ジャッカルの左手。
エンツォの左手。
お互い手首がなく、
ダガーナイフが埋め込まれている左手。
それがぎりぎりと押し合う。

「あんさんと一緒にすんなや」

「てやんでぃ!なめんなよ!」

左手を押し合ったまま、
エンツォの顔と、
ジャッカルの顔が近づく。
お互い唯一の肉眼である右目を近づける。

「ルケっ子をナメると痛い目みるぜ」

「どうでもえぇ。死にや」

「っ!?」

エンツォはジャッカルの額に銃口を向けた。
右腕のライフル。
そのライフルの銃口は的確にジャッカルの額を捉える。

「チッ!!!」

ジャッカルは咄嗟にしゃがむ。
と同時に聞こえる銃声。
ライフルの弾はジャッカルの海賊帽のドクロにぶつかり、
金属音をあげた。

そして続けざま。

「ごふっ・・・・」

そんなジャッカルの腹に、
エンツォの蹴りが突き刺さる。

「トロいもんに興味はあらへん」

エンツォの決して大きない体は、
腹をかかえるジャッカルを見下した。

「そう、興味あらへんねや」

「死ねっ!!!」
「てぃ!!!」

エンツォの背後。
そこにジャスティンとアレックスが飛び掛っていた。

「あんたらにもなぁ!!」

鎌。
槍。
二つの武器が、
エンツォの背後に向け・・・・振り落とされる。
そしてそれはエンツォに直撃した。

「っ!?」
「・・・・・いない!!!」

また目にも止まらぬ動き。
捉えたと思っていたが、
ジャスティンの鎌とアレックスの槍は、
地面に突き刺さっているだけだった。

「これが速さや」

二人の背後下でエンツォの声が聞こえる。
アレックスとジャスティンの背後下。
そこにエンツォ。
体勢を低くした状態で両手を広げ、
右腕のライフルをジャスティンに。
左腕のナイフをアレックスに突きつけていた。

「最強の速さは誰にも捉えられん。追いつかない存在。手の届かない存在。
 それには誰も触れられへん。何もする事ができへん。一切手の届かない才能や。
 最強の力も、最強の能力も、触れられへんもんには無意味。無関係や。
 何もかもを超越した存在。それは誰よりも速いこと。それは誰よりも強いことや」

エンツォがまた消える。
いや、消えたわけじゃない。
速すぎて見えないだけ。
足音だけが聞こえる。
たまに地面に砂埃が巻き上がる。
だが、目が追いつかない。

「あんさんらは全員もう・・・・一回づつ死んだな」

聞こえる足音。
揺れる声。
残像も見えないスピード。
駆け回る。
まるで透明のチーターが走り回っているかのように。
闇の森の中を何かが走りまわる。

「そいでな・・・・」

一度音が消えた。
走り回るエンツォの存在感が消えた。
・・・・・と思うと。

「!?」

すべる音。
地面を体ごとすべる音。

「あんさんを殺してわいは頂点やっ!!」

エンツォ。
速度を活かしたまま体ごとすべらし、
地面スレスレからドジャーにライフルを向ける。

「クソッ!!!」

ドジャーが両手にダガーを取り出す。

「アホんだらっ!!ダガーがライフルの連射速度に追いつくかいなっ!!!」

銃声。
3発。
連続で鳴り響くと同時に、
音速の世界をくぐりぬけてドジャーの元へ。

「俺を遅漏と思ってんじゃねぇ!!」

ドジャーは地面スレスレを飛んでくる弾丸を跳び避ける。
いや、逆に向かうによう飛び込み、
高速で弾丸とすれ違う。
エンツォとドジャーだけが確認できる世界。
1秒の中の世界。
いや、
036(ゼロスリーシックス)。
瞬きの中の世界。
"一瞬"の世界。

「ご馳走をくれてやらぁ!!!」

左手のダガーを飛びつきながら投げつけ、
ドジャーもダガーを追いかけるようにエンツォに向かう。

「じゃかしいっ!!」

エンツォが左腕でダガーを弾く。
そのコンマ数秒後。
言うならば一瞬ででライフルをドジャーに向ける。
まっすぐ機械仕掛けの右腕を、
最速で飛びついてくるドジャーに向ける。

「・・・・・・!!?」

だが、そこにドジャーはいなかった。
ライフルの先。
そこはもぬけのカラ。

「俺の方が速かったみてぇだな!!」

ドジャーの動き。
一瞬でエンツォの後ろに回りこむ。
音速の世界。
エンツォを上回っ・・・・

「それはありえへん」

「なっ!?」

後ろに回ったはずだったが、
後頭部に悪寒を感じたのはドジャーの方だった。

「わいは光速の中の存在や」

エンツォのライフルの銃口がドジャーの後頭部にぶつかる。
一瞬で後ろに回りこんだドジャー。
そのさらに後ろに・・・・・
一瞬で回り込んだ。
刹那の速さ。
瞬きのヒマもない移動速度。

「あんさんの後頭部にライフル向けるんはもう何回目や?
 あんさん何回死んでんやろな。奇跡やで。今生きてるんわな。
 いや、言うならば・・・・・あんさんはわいの意思一つで生きてるゆーこっちゃ」

「カッ、自己評価高すぎるんじゃねぇのか?」

「さいでっか?」

「っていうか今さら六銃士なんて過去の遺物に偉そうにされてもなぁ」

「なめとんな」

ライフルの銃口をドジャーにさらに押し付ける。

「あんさんら、六銃士に一回でもタイマンで勝ったか?勝(まさ)ったと言えるか?
 ヴァレンタインにもルカにもタカヤにもスミスにも。そしてわいも今まだ生きとる。
 ジャスティンはんも落ちぶれたもんやな。こんなんと肩を並べて」

「俺をなめてくれてるみたいだなエンツォ」

ジャスティンが横から言う。
エンツォの細い目が向く。
そこにいたジャスティン。
胸から血を垂れ流しながら。
鎌を両手で持っている。

「俺も同僚にナメられるほど・・・・弱くはないつもりだ!」

ジャスティンが鎌を叩きつける。
鎌の柄を地面にぶつける。
と同時に、
ドジャーの体が光始める。

「ちぃ!リベレーションかっ!!!」

ドジャーとほぼ接触状態。
超近距離状態にエンツォ。
もう遅い。
ドジャーを媒体に女神が召喚される。
そしてドジャーを中心に聖なる光が周りを覆った。

「女神に愛されて逝きな」

ジャスティンがニヤりと笑った。
そして光が晴れ、
ドジャーの姿がもとに戻る。

「クッソ・・・なんかこれ気持ち悪ぃな・・・・・で!やったかエンツォは!!」

「誰がやられるか」

全員が一斉に振り向いた。
そこにはエンツォが居た。
あの距離での攻撃を避けたというのか。
一瞬で避けきったというのか。

「やけど危なかったっちゃぁ危なかったわ」

右腕。
そこから電気がバチバチと弾けていた。
ドジャーに突きつけていたライフル。
その右腕。
それが半分砕け散っていた。
右腕から電気コードが数本垂れ落ち、
そこから血ではない液体を垂らしながら電気が痺れ弾けていた。

「あの距離で避けますか・・・・不意打ちに近かったのに・・・・」

「あんさんらには一度言うたよな?わいが六銃士ん中じゃいっちゃん強いってな。
 まぁそんなこっちゃどうでもえぇ。・・・・おいドラグノフ!!ライフルが壊れおった!直しぃや!!」
「直せ直せってぇー。直せるはずがないだろぉ?」
「なんやて?」
「・・・・なんちって♪うっそーん!直せるよ」
「・・・・・・・・・」

エンツォの姿が消える。
また高速移動。
そして瞬きの間にドラグノフの真横まで移動していた。
そして左腕のナイフを突きつける。

「つべこべ言わんと直せゆーとんねん」
「すぐには無理に決まってるだろぉー?無理言う実験体だなぁ。
 その右腕は君の好みに合わせて軽量化してるんだからね。
 ゴールドパウダーを燐粉状のまま混ぜ合わせて強度をあげつつ・・・・」
「御託はえぇ言うてんのや!直せ言うたら直せ!!」
「・・・・・・・・・・・」

ドラグノフは黙って本・・・・記憶の書を開いた。
すると・・・・

「おい!なんの真似や!」

エンツォの体が光に包まれていく。

「何ってぇー?そんなの直せって言われたから直すんだよ。
 こんなところで直せるわけがないだろー?バカだなー。一回研究室に戻す」
「ちょ、待て!わいは・・・・」

だが、
エンツォの意志を無視し、
体は転送の光で包まれていく。

「くっ!!ドジャーはん!あんさん覚えときぃや!!わいは何度でもあんさんを殺しに来るからな!
 世界(マイソシア)中のどこに逃げても無駄や!しつこく捕まえたる!!
 わいは世界で最速!追いつけへんもんはこの世にあらへんからな!」

そこでエンツォは光に包まれ、
天へと昇っていった。

「全くぅ。あいつは脳みそも入れ替えとけばよかったかな・・・・・なんちって♪」

ドラグノフはユックリこっちを見た。
首から順に、
下から首を上へあげるように。

「さて・・・・・次はどうしようか・・・・・・」

ドラグノフはまた記憶の書を開く。
めくられていくページ。

「また召喚する気ですよっ!」
「くそっ・・・面倒なのが去ったと思ったら・・・」

記憶の書に書かれた大量の座標。
無限にも近い戦力。
召喚される敵。
それにどれだけ苦労しようが、
どれだけ圧勝しようが関係ない。
ドラグノフには関係がないのだ。
ゲームで言う所の・・・・ドラグノフはプレイヤーにあたる。
実際に戦わないこその・・・強さ。

「やっぱあいつを叩くしかないな」
「ですね・・・・」
「べらんめぇ・・・・でもどうすんだ?あいつは傷が再生するんだろ?」
「カッ・・・・頭を叩くんだ。脳は再生しねぇ」
「なんで言い切れるんだよドジャー」
「なんかソレっぽいじゃねぇか」
「「・・・・・・・」」

ドジャーの理由は不十分だが、
たしかに狙うならば頭だった。
脳というデリケートな部分。
特化型ブレシングヘルスでも再生しきれない可能性は高い。
・・・・・・・というよりも。
脳は何か少しの異常があればオジャンなのだ。
脳の一部でも再生不能になれば、
もうどうやったって無敵ではないだろう。

「・・・・・・・イヒ♪」

ドラグノフは少し笑った。
そして・・・・・

「・・・・・・イ・・・ヒヒ・・・・・アハハハハハハハハハハハハ!!!!!!」

両手を広げて大きく笑いだした。

「アハハハハ!!!君達勘違いしてるね!おーーーーーーきな勘違いだ!!
 君はどうやったってこのエッリィーートな僕を倒せはしないっ!!」

ドラグノフはニタニタ笑う。

「・・・・・・なんちって♪ウッソォーーン!確かに倒せるよ!けど・・・倒せはしない」

「何言ってんだこいつ・・・・頭おかしいなやっぱ」
「それは最初から分かってましたよ・・・・」

「理由そのいちぃいいい!」

ドラグノフは記憶の書を突き出す。
広げて突き出す。
風でペラペラとページがめくれる。

「これで召喚し続ける!そんな事は君達も分かってると思うよ?僕も分かってるよ?
 イヒ♪なんちって♪でもね、さっきエンツォにやったように・・・・逆もできるわけだ」

ドラグノフは相変わらずニタニタ笑い、
記憶の書をペラペラとめくりだす。
そして・・・・

「ぼーん♪」

ふざけた言葉と共に・・・・
突如目の前の枯れ木が輝き始める。
人間やモンスターではなく、
ただの枯れ木がだ。
そして・・・・・
枯れ木は光に包まれて空へと飛んだ。

「記憶の書って便利だねぇ♪・・・・・・これで終焉戦争の時も遊んだなぁ・・・・
 あ、これね。僕の記憶の書ってさ!座標からいろいろと召喚できるでしょ?
 本人の意思とは別に・・・・・・・ね?・・・・・・イヒ♪」

ドラグノフは楽しそうに首を動かしながら話を続ける。

「無理矢理転送してこれるならその逆もできるわっけー♪
 あ、意味は逆だけど原理は全く一緒でぇ〜・・・・ってま!それはいっか♪
 とにかくエンツォを無理矢理転送したように・・・・」

ドラグノフの目が鋭くこちらを見据える。

「一定の距離内にいる者なら・・・・・無理矢理転送しちゃう事ができるわけね」

ドラグノフがニタニタと笑う。
アレックス達は気付くと一歩後ずさりしていた。

「なるほど・・・・・」

つまるところ・・・
近づかれたら転送されてしまうのだ。
戦うもクソもない。
近場であれば、やろうと思えばドラグノフはアレックス達を転送できる。
登録してあればどこでもだ。
たとえば・・・・
ルアス城の牢屋の中に。
たとえば・・・・
ミルレスの谷底に。
たとえば・・・・
海のど真ん中に。

「ズルって楽しいね!僕自身は凄く弱いのに勝てちゃうんだ!・・・・イヒヒ♪
 さすがエリート♪なんというチート♪でもだからこそ絶騎将軍(ジャガーノート)!」

戦わない強者。
己の身を削らず、
楽してズルして相手を倒す。

「理由そのにぃいいいいいい♪」

ドラグノフは白い歯を出してこちらに言いつける。

「僕の手札はどう考えても君達より強い!あ、そうだ。
 君達に興味があったから新しいテュニは君達をモデリングして・・・・ま!見てもらうか♪」

ドラグノフはニタニタとページをめくる。
何かを召喚する気だ。
止めなくてはいけない。
だが・・・・
転送の話のせいで少し迷いがあった。

「クソッ!!この距離からならっ!!」

ドジャーはダガーを投げつけようとしたが、
遅かった。

「さぁ登場〜♪」

光が固い地面に衝突した。
一際大きな光だった。
巨大な何かが転送されてきた。
砂煙と共に・・・・何かが姿を現す。

「僕の発明の最新にして最高傑作〜!」

それは・・・・
大きな大きな機械。
黄色のボディ。
丸型の黄色い胴体に、
細長い手足が伸びた機械。
規格外のサイズをしたテュニだった。

「ドラグノフ発明"テュニ B-182式 code=MD"!すっごいなぁー!」

「な、なんだあのデッケェテュニは!?」
「てやんでぃ!!!俺ぁルケっ子だがあんなん見たことねぇぞ!」
「ルケシオンの浜辺でも海賊要塞でも見たことないわ!」
「っていうかMDってどういう事だ?」

「見れば分かるよ!!・・・・・なぁ〜んちってね♪」

テュニB-182式の目が光る。
まるで起動を教えているかのように、
巨大なテュニの無機質な目が輝いた。

「気をつけろっ!」
「何をしてくるかわかんねぇぞ!!」
「少し様子を見てみるべきですね」
「俺とアレックス君はエンツォにやられたダメージもあるしな」
「少しづつ回復はしてますが・・・・傷が傷なので・・・」
「カッ、まぁいきなりアレにつっかかろうとは・・・」
「・・・・・・・ルケっ子に自重しろってか?」

ジャッカルが海賊帽を被りなおし、
前に出る。

「お・・・おいジャッカル!!」
「べらんめぇ!!!受身にまわるなんてルケっ子の名が廃るってもんでぃ!!!」
「ばっ・・・・やめろジャッカル」
「ドジャーさん」

止めようとするドジャーを、
アレックスが逆に止め、首を振った。
ジャッカルが歩んでいく。

「なんだよアレックス!」
「とりあえず実験です」
「はぁ!?」
「展開的にジャッカルさんがあのテュニの引き立て役になる展開なので、
 このまま行かせて様子を見るのも面白いかなぁ・・・て」
「・・・・・・・・・お前とことん性悪だな」
「オチャメって言ってください。まぁ僕らの中ではジャッカルさんが一番強いです。
 だからやられてしまう可能性も少ないと思います。僕達は何か打開策を探させてもらいましょう」

・・・・と言いながらも、
あの巨大なテュニだ。
もしかしたらダメかもしれない。
アレックスは心の中でアーメンと祈った。

「親父いけー!」
「親びんがんばるでヤンスー!」
「おーよ」

だが、
相手の大きさに物怖じせず、
ジャッカルは近寄る。

「よぉはスマイルマンと同じってなもんでぃ」

もう一度海賊帽をかぶり直し、
眼帯のついていない・・・・片目でテュニを見上げる。

「海賊王は・・・・どんなものでも盗み取る!!!」

いきなり走りこみ、
少し助走をした後・・・跳ぶ。
大きな跳躍。
そしてそのままテュニに丸型の胴体へ・・・・・

「例え命でもなっ!!ニンブルフィ・・・・」

突然だった。
テュニの胴体。
そこが勢いよくバコンっと縦に開いた。
フタが開くように。
ジャッカルはそれが直撃し、
まるでフライパンで目玉焼きが飛ばされるようにポーンと吹っ飛んだ。

「・・・・・・・・」
「使えねぇ・・・・」
「俺らあれより弱いのか・・・・・・」

3人のため息と同時に、
ジャッカルは地面に墜落した。

「親父っ!」
「親びんっ!」

側の枯れ木からバンビとピンキッドが出てきて心配する。
ついでに言うと、
アレックス達は何一つ心配していない。

「それよりアレ見ろ!!」

ジャスティンが指を指す。
テュニの胴体。
その外面が四角に開き、
中から何か・・・・筒のようなものが。

「発射準備〜♪」

ドラグノフの言葉と共に、
テュニの開いた胴体から、その筒がゆっくり出てきた。
筒。
その中からさらに一段階小さな筒が出てきて、
さらにその筒の中からもう一段階小さな筒が出てきた。
まぁ言うなら警棒のように伸びたのだ。
そしてアレックス達に向いている。

「テュニショットverイミットゲイザー!!発射っ!!!」

閃光。
衝撃と共に、筒が反動でひっこみ、
そして筒の先から何かが発射された。
それは・・・・気の塊。
エネルギーの弾。
・・・・・イミゲ。

「うわっ!!!」
「のぁ!!」

アレックス達は散り散りに跳び避ける。
そしてイミゲは後ろの枯れ木に直撃し、
枯れ木は直撃点に円形の穴が空いて吹き飛んだ。

「イヒ♪・・・・・アハハハハハハハハ!!!どうだい!イミットゲイザー砲だ!
 君達の友達のチェスター君をモデリングして作ったんだ!」

「チェスターをモデリングだと?」
「テュニがイミゲなんて・・・・」
「ちょっと待てっ!さっきあいつMDをモデリングしたとか言ってたぞ!」
「・・・・・?」
「まさか他にもっ!!」

「そのまさかだったりしてー♪」

テュニの目が光る。
そして細い左手と右手。
その先から3本づつ小さな筒が飛び出した。

「イヒヒ♪テュニショットverマリナ!MB16mmマシンガンっ!!撃てぃ!!!」

「避けろっ!!」
「隠れてっ!!!」

テュニの両手の三本筒が、
高速で回転を始める。
そして放たれる・・・・・・・マシンガン。
魔力の結晶。
マジックボールの弾丸。
それが連射される。

「わわっ!!!」

アレックスは慌てて岩陰に隠れる。
チュチュチュンと地面が弾ける。
あの連射と弾丸。
確かにマリナのマジックボールにそっくりだった。

「ちょっ!ドジャーここは俺が隠れてんだよっ!」
「もうちょぃ詰めれるだろ!」

向こうの岩陰には、
ジャスティンとドジャーが隠れていたが、
あまり大きくないその岩陰には二人分隠れるスペースは無かった。
はみ出ている。
そしてジャスティンとドジャーはお互い押し合っている。

「どけよジャスティン!俺が隠れるってーのっ!」
「馬鹿っ!怪我人を弾丸の中に放り出す気か!?
 見ろっ!ほれ!エンツォにやられた傷!胸がバッサリだ!」
「知るか!そんなん血ぃ出てるけど皮一枚やられただけだろっ!」
「うるせぇ!お前はすばしっこいんだから他に隠れろっ!」
「おわっ!ちょっ!」

ジャスティンがドジャーを押し出す。
ドジャーが見晴らしのいいところに転がった。
ドジャーがテュニを見る。

「・・・・・ハ、ハロー・・・・」

返事をするようにテュニは目を輝かせ、
両手をドジャーに向ける。
そしてマシンガンがドジャーに放たれる。

「のぁ・・・わっ!!!」

弾丸が雨のように飛んでくる。
ドジャーは慌てて両手と両足で、
動物のように地面を走り回り、
枯れ木の後ろに飛び込んだ。

「あ、あぶねぇ・・・」

一息つくドジャー。
連射されるマシンガン。
横降りの雨のようにドジャーの周りを通過していく弾丸。
なんとか枯れ木が頼りなくも守ってくれる。

「・・・・・・・ギ・・・・・ガ・・・・・・」

テュニは連射を止めない。
枯れ木がどこまでもってくれるか・・・それを心配するドジャー。
だが、
そんな心配は要らなかった。

「イヒ♪」

ドラグノフの笑い声と共に、
テュニの目が光り、
腹部の筒がもう一度光りだす。

「やべっ!!!イミゲ砲かっ!!」

「あたぁーーりぃーー!!♪」

マシンガンの中、
発射されるイミットゲイザー。

「うわっっと!!!」

それはドジャーの隠れている枯れ木に直撃し、
枯れ木は吹き飛んだ。

「くそぉっ!!!」

また森の中で丸見え状態のドジャー。

「狙いをしぼらてたら駄目かっ!」

ドジャーの姿が突如消える。
インビジブル。
姿を消せば、テュニの照準を迷わせる事が出来るとふんだ。
そして実際に、
テュニはドジャーの居場所を見失った。

「考えたねー♪けど!数撃てば当たるんじゃなーい?」

マシンガンの連射をやめない。
無差別乱射。
そこら中のいたるところにマジックボールの弾丸がぶつかる。
適当。
だがそこら中に線を描くようにマシンガンが撃ちつくす。
雨嵐。

「あぁもう!!いつか当たっちまう!!アレックス!!ジャスティン!助けろ!」

どこから分からないとこから、
ドジャーの声がアレックス達に飛ぶ。

「残念だドジャー・・・」
「僕達にはどうしようもできません・・・・」
「できるだろっ!!自分たちは隠れてるからってこの白状者!!」
「でもなぁアレックス君」
「はい。僕達怪我してますしねぇ」
「見てくれよアレックス君、俺の胸の傷」
「ジャスティンさんも見てください。脇の下に穴開いちゃったんですよ」
「どっちももう塞がり始めてんじゃねぇか!!さっさとどけッ!!」
「いやいや」
「ここはドジャーさんが行くべきです」
「だな。むしろ逝っちまえ」
「こ・・・この・・・テメェら・・・・」
「大丈夫ですドジャーさんっ!」
「もしもの時は俺達が蘇生してやる」

アレックスとジャスティンが同時に親指を立てる。

「お、お前らが死んじまえっ!」

聖職者とは思えない二人の行動に腹を立てるドジャー。
というかまるで涙目の捨て台詞だ。
だが、
それどころじゃなかった。
ドラグノフが笑う。

「イヒ♪このMB16mmマシンガンが当たらないってのは凄いねぇー。
 じゃぁレベルアップだ!難易度アップ!!アハハハハハ!!!」

テュニの目が光る。
そして・・・・
今度は胴体の両肩部が開いた。

「なんだあれ・・・・」

そこから出てきたのはレール。
楕円を描くレール。
そこには・・・・無数のダガーが並んでいた。

「テュニショットverドジャー!スペツナズダガー!!発射っ!!」

発射という言葉と同時に発射を始めたのは・・・・・ダガー。
ドジャーの投げダガーを模した、ダガー射出。

「や、やべぇ・・・・」

両手のマシンガンの弾幕の中、
さらに両肩から発射されるダガー。
まるであのテュニを中心に、
雨やら雹やら何もかもが発射されているような、
天気の真ん中のような・・・・
そんな凶器の台風のど真ん中。

「アハハハハハハハハ!!!!逃げて逃げて!!がんばってー!・・・・・なんちって♪」

「こんなん避けきれ・・・わっと!!」

インビジで隠れながらも、
流れ弾が飛んでくる。
こんな凶器の雨嵐・・・・いつか当たってしまう。
ドジャーはキョロキョロと隠れるところを探した。

「あったっ!!」

上部は吹き飛んでいるが、
まだ隠れるスペースのある枯れ木を見つけた。
と思うと・・・・

「どっかぁぁぁあああん!・・・・なんちって♪」

大きな発射音と共にその枯れ木が吹き飛んだ。
またイミットゲイザー砲。
残っていた隠れ蓑が目の前で吹き飛んだ。

「・・・・・・ひでぇ・・・・」

ドジャーは呆然とした。

「あぁ・・・ドジャー・・・ゲームオーバーか・・・」
「力になれなくてすいません・・・アーメン」
「う、うるせぇ!お前らがどけばいいんだろが!
 悠長に安全なところに隠れやがって!それでも聖職・・・あっ!」

何かを思いつき、
すぐさま走り出した。
と同時に、
インビジの効果は切れた。
あまり得意ではないので継続時間が短い。

「お?蜂の巣タイムかな?アハハハハハハハ!!!!」

マシンガン。
スペツナズダガー。
イミットゲイザー砲。
全てがドジャーに向く。
そして当の本人は、
必死に走りこんでいた。
その顔には、
考えがあってこその笑顔があった。

「カカッ!!あの胴体!真下は死角と見たぜ!!!」

弾丸とダガーの嵐の中、
ドジャーは必死に・・・奇跡的に走りこみ、
テュニの真下を目指す。

「だけどレベルアァーーップ!!難易度アァーーップ!!」

またテュニの目が光る。
そして・・・
テュニの胴体下が開き、
筒の付いた棒が飛び出した。

「テュニショットverアレックス!パージ火炎放射!ファイヤ!」

胴体下から吹き出す火炎。
パージフレアと違い赤い炎だが、
それが吹き付ける。

「のぁっ!!!」

せっかくテュニの真下についたが、
吹き付ける火炎放射。

「ちょちょちょちょ!!」

テュニの股間の下で逃げ惑うドジャー。
股間から生えた火炎放射が、
回転しながらドジャーを追う。

「クソッ!これならどうだ!!!」

ドジャーは火炎放射の根元に飛びつく。

「熱っ!!」

だが我慢。
火炎放射器自体に飛びつけば火炎自体には当たらない。

「レベェーールアァァァァーーップ!」

「ちょっ!!まだあんのかよっ!!」

「イヒ・・・・・アハハハハハハ!!!!」

テュニの目が光り、
背中が開く。
背中部分が四角型に開かれる。
そしてカコカコカコと音と共に、
他間接の物体・・・・
その先に・・・・・
ハンマー。

「ロッキーのカプリコハンマーだよぉーーーん!!!」

マジックハンドの間接のような、
それでいて自由自在に曲がる鉄の関節。
その先にハンマー。
細かい所に凝っているようで、
ハンマーの面にオリオールの絵が描いてある。

「く、くそっ!!!」

ドジャーが火炎放射から飛び降りる。
だが、
ハンマーがそれを追い、
ドジャー目掛けて叩きつけてくる。
ハズレ。
だがもう一度。
ハズレ。
逃げ惑うドジャー。
まるでモグラ叩きのように。

「やばいっ!!やばいっ!!マジヤバイっ!!!」

火炎放射から逃げながら、
ハンマーを避ける。
ここから逃げなければ・・・・
だが、
テュニの下から逃げたら、
今度は蜂の巣に・・・・・

「ドジャーさんっ!!!」
「ん?・・・・おゎっ!」

アレックスの叫び声。
と同時に、
地面から炎が吹き上がった。
蒼白い炎。
アレックスのパージフレアだ。
それはテュニの片足を焼き払った。
テュニのバランスが崩れる。

「今です!逃げてください!!」

片足を失ったテュニは、
胴体から大きく傾き、
倒れてくる。

「ナイスだアレックスっ!!!」

落ちてくる胴体から逃げるように、
ドジャーは走り抜けた。
そして一目散にアレックス達の方へ走る。

「でも隠れる場所はないですけどね」

到着したドジャーに向かってアレックスは言い放つ。

「代われっ!!アレックスかジャスティンが俺に場所を譲れ!」
「またそれかよドジャー」
「なぁーに言ってるんですか。ドジャーさんだから逃げ切れてるんですよ」
「そうだぜ。それにもうちょいテュニの真下でおとなしくしててくれたら、
 俺がお前を媒体にリベレーションしてダメージを与えられたかもしれなかったのに」
「うるせぇ!!!媒体っていうか生贄だったじゃねぇか!」

突如機械の間接の音が聞こえる。
それに気付き、
ドジャーは振り返った。
テュニの壊れた足。
胴体から新しい足がガシャガシャと生えてきた。
そして元どおり。

「・・・・・・・」
「予備も万端ですか・・・」
「どうすりゃいいんだあれ・・・・」

全身武器武装の鉄壁殺人マシーン。
どうすると言われても、
分からないから隠れている。

「イヒ・・・・・・・アハハハハハハハ!!!!」

笑うドラグノフ。
それが異常に憎たらしい。

「あいつを殺った方が早ぇな」
「ですね・・・・」
「っていうかそれしかない」

情けないが、
テュニB-128式とかなんとかに勝てると思えない。
というか勝ったところでなんなんだ。
ドラグノフを倒すのが一番手っ取り早く。
そして効率的だ。

「しゃぁねぇ・・・・俺が・・・・」
「待って!ドジャーさん!!」

アレックスがドラグノフに分からないようにドジャーに知らせる。
その先。
そこにはジャッカル。
ジャッカルが裏を回ってドラグノフに近づいている。
ドラグノフは気付いていない。

「カッ、俺が標的にされてたかいもあったってもんだな・・・・」

バレないよう、
だが、息を呑んでそれを見守る。
ドラグノフの後ろにソッと近づくジャッカル。

「イヒ・・・・・君達が僕に勝てない理由をもう一個教えようか」

アレックス達に言うドラグノフ。
あまり聞きたくない事だが、
むしろそれがチャンス。
こちらに注目している間にジャッカルが・・・・・

「理由そのさぁぁああああああん!!!!」

ドラグノフが記憶の書を開く。

「僕は居ても居なくてもいいんだ・・・・・・・イヒ♪」

突如ドラグノフに光が包む。

「!?」
「まさか!!」

「そのまさか♪イヒ♪」

「あいつっ!」
「あのテュニだけ置いて逃げる気だっ!!」

ジャッカルも気付き、
一気にドラグノフに走りこむ。
だが・・・・
遅かった。

「ニンブルっ!!」

「ばいびー♪イヒ♪」

ドラグノフは手を振りながら、
空へと転送されて飛んでいった。

「フィンガーッ!」

ジャッカルのニンブルフィンガーは、
むなしく空振りに終わった。
海賊のお頭でも、空気中を空振っては何も盗めないようだ。
いや、虚しい空気は盗んだかもしれない。

「くそぉおおおおお!!!ちくしょうめ!!!!」

ジャッカルが声をあげる。
だが、
同時にある事に気付く。
テュニの・・・・・・再起動音。

「べらんめぇ・・・・こいつはどうやって倒すってんだ・・・・」

見上げるほど大きな鉄の塊。
そして武器の塊。
テュニの目が光る。
そしてテュニの肩口が開き、
さらに太い上向きの筒が飛び出した。

「なんだアレ・・・」
「なんで斜め上を向いてんだ?空撃用か?」
「・・・・・・いえ・・・・もしかしたら・・・・」

アレックスは悪寒を感じる。
そして・・・・

「伏せてっ!!!」
「あん?」
「へ?」

アレックスの声と同時に、
火薬の音がし、
筒から何かが飛び出す。
どんどんと飛び出す。
発射される。

「あ、ありゃぁ!!」
「爆弾(サンドボム)!!??」
「verエクスポさんってとこですねっ!!」

放射線を描き、
爆弾が射出されてくる。
爆弾砲弾。
ボムの爆発には隠れ蓑も意味をなさない。


「親父・・・・これヤバいんじゃない・・・・」
「親びぃーん・・・・」

バンビとピンキッドがジャッカルに言う。
ジャッカルは呆然としていた。

「べ、べらんめぇ!!ルケっ子にピンチなんざねぇ!」

ジャッカルはテュニを睨みつける。
機械に向かってガンを飛ばす。
まぁ、爆弾の砲台がアレックス達に向けられているからこそだが・・・

「ヤバいでヤンスよ親びぃーん!」
「逃げようよー!ねぇ親父ーー!」

バンビがジャッカルの裾を引っ張る。
だが、
ルケっ子ジャッカルはテコでも動かなかった。

「あいつらだって頑張ってんだからここでやらなきゃルケっ子の恥さらしよ!」

逃げる。
そんな事をするわけにはいかない。
海賊として、
ルケっ子として。
真っ直ぐな性分がそうさせた。

「でも親父・・・・」
「あいつらもう・・・・・逃げてるッスよ・・・・」
「なっ!?」

ジャッカルが振り向くと、
さっきまでアレックス達が居た所には、
もう誰もいなかった。

「あ、あの野郎共・・・・」

そして機械の音。
恐る恐る見てみると、
テュニの照準が完璧にジャッカル達に向いていた。

「やっぱ逃げるぞっ!!!」
「「賛成っ!」」









「はぁ・・・はぁ・・・・」

アレックス達は闇の森の中を走っていた。
そして息を切らしながらやっと止まる。

「・・・も・・・もうここまでこれば大丈夫でしょう・・・・」
「・・・・疲れた・・・・」
「たまんねぇよ・・・」

ジャスティンは鎌を杖がわりに寄りかかり、
ゼェゼェと息を整え、
ドジャーはもう疲れて固い地面に座り込んだ。

「・・・・ふぅ・・ジャッカル置いてきたけどよかったのか?」
「カッ、見てみろよ。あいつらが死ぬタマじゃねぇよ」

後ろを振り返ると、
ジャッカル達がこちらに走ってきていた。
ジャッカルは帽子を押さえながら、
バンビは女とは思えないような必死さで、
ピンキッドは短い足を限界まで動かしていた。

「なんつーか、爆弾で吹っ飛ばされてもよぉ、「おぼえてろよー」とか言いながらどっか飛んでって、
 そんで次週ピンピンになってるタイプっつーの?そんな三人組って感じじゃね?」
「いや・・・・分からんでもないけどよ・・・」
「実際は死ぬでしょう・・・・」

その、ドジャーに言わせるところのお馬鹿海賊3人組が、
やっとここまで走ってきた。

「追いついた・・・」
「はぁ・・・」
「疲れたでヤンス・・・・」

三人は一緒にバタァーっと倒れた。

「オトリご苦労さん」
「あのテュニB-182式ってのは撒いてきたか?」
「大丈夫だ・・・・機動力はねぇみてぇだ・・・・って!!」

ジャッカル、バンビ、ピンキッドは、
ガバッと同時に起き上がる。

「てめぇら!!」
「なんであんたら逃げてんのよっ!」
「そうでヤンス!」
「え・・・・そりゃぁ・・・戦う意味ないじゃないですか・・・」
「ドラグノフもいなくなったんだしな」
「大体ドラグノフを倒すのが目的でもなかったしよぉ」
「「「・・・・・」」」

海賊三人組はあきれた。

「だからって一瞬で逃げることを判断するたぁ・・・お前らあれだな・・・」
「あんまりカッコイイ人生歩んできてないわね・・・」
「でヤンス・・・・」
「ほっとけ」
「うっせぇ」
「余計なお世話です」

3人は涼しい顔をして言った。
逃げる事に恥らいのカケラも持ってないようだ。

「さて、再開しましょうか」
「なにを?」
「何をって・・・・捜索ですよ・・・・」
「ツヴァイのな」
「あぁそうか」

本来の目的を忘れている。

「だがよぉ・・・・」

ジャッカルが周りを見回しながら言う。

「ここどこだ?」

そう聞かれ、
全員が辺りを見回した。
光りのほとんど届かない闇の森。
固い地面。
枯れ木。
同じような景色。
まぁしいていえば枯れ木が他より多い場所であるぐらい。

「結構逃げてきたでヤンスよ?」
「ここサラセンの森?」
「いや、あそこはルケシオンの森との境目だったしな」
「カレワラの森って可能性もあるぜ」

ジャスティンが地図(MAP)を広げる。
そして周りを見回す。
だが・・・・
当たり前だが特徴になるようなものはあるはずがなく、
場所を確認するのは不可能と判断して地図を畳んだ。

「とりあえず歩くか・・・・」

まぁそうするしかない。
6人は歩く。
闇の森を。
どちらに進んでいるかもわからない。
北か東か、
南か西か。
とりあえず逃げてきた方と逆に進んでみた。
固い地面は疲れにくいが、
足が痛くなる感じがした。
ここに来た当初から換算するとかなりの時間になるからだ。

「ねぇねぇ、しりとりしよー」
「黙れ小娘」

雑談もなく淡々と歩く一同。
それに耐えかねたバンビがそう言ったが却下された。
それには理由があった。
しりとりなんてしたくもなかったというのもあるが、
それ以上に・・・・なにか緊迫していた。
どことも変わらないはずの景色。
だからこその疲れかもしれない。
どこまでいっても同じ景色。
進んでいるのかもわからない。
遭難する時はこういう時なんだろうなぁとも思う。

「ねぇ・・・いったんゲートで帰らない?」
「確かに迷ってきてるでヤンス」
「今更か?」
「アホか」
「目的を考えると逆に迷うぐらいがいいと思いますよ」

心配になるのも無理はなかった。
ほとんどしゃべらない。
ただ淡々と歩いてる。
目的地もない。
テュニもかなり遠くなのだろう。
静かな森の中でもテュニの機械音はまったく聞こえない。
この静かさ。
張り詰めたような静かさ。
それが心配を呼ぶ。
いや、
この静かさこそが異常で、
気付かずとも誰もがそれを感じ取っていた。

「・・・・・・・静かね」
「またこのガキは分かりきった事を口に出す・・・」
「いや・・・・その事ですけど・・・・」
「ん?」
「静か過ぎませんか?」

木の揺れる音がした。
枯れた木はカサカサと音が鳴る。
この辺りで唯一の音。
無音なる闇の森。

「別に・・・こんなもんだろ」
「いえ・・・静かすぎます」
「そりゃぁ皆分かってんだよ。だからなんだってんだ」
「いや、俺にはアレックス君の言いたい事は分かるよ」

ジャスティンが立ち止まる。
そして空を見上げるように、周りを見渡した。
いや、耳を澄ましたというべきか。

「モンスターがいないんだ。全くな」
「あぁ・・・」
「そういえばそうだな」
「鳴き声も聞こえない」
「近場にいるような気配もないですね」

森というのはモンスターの巣窟だ。
来た当初は何度もはち合わせた。
だが、ここには居ない。
たまたま居ないのか?

「気配っつえばよぉ。何かしら感じねぇか?」
「あん?」
「だからモンスターはいないって言ってるじゃん親父・・・」

ジャッカルだけが感じたのか。
気配。
何かが居る気配?
いや、野性のモンスターの気配さえしない。

「何が気配だ。なんもいねぇっての」
「でもなんとなく分かるな。こう・・・・なんか黙らされるような感じはあるな。
 押し付けられる気配っていうか雰囲気っていうか・・・・そういうもんはある」
「まぁ分からんでもねぇけどな」
「こんな気味の悪い場所ならしょがないかもね」
「モンスターにとっても気味悪いでヤンスからね」
「いや・・・近いです」

アレックスがそう言った。
少し俯いて言う。

「・・・・・・何がだ?」
「皆が皆感じているこの感じです・・・・。幾度と感じたことがある・・・。
 まるで無理矢理強制されるような感覚・・・・・これは・・・・・・」

突如音が・・・・
いや、鳴き声が響き渡った。

「なんだ?」
「・・・・あっちだ」

何かの鳴き声が聞こえた方向。
そちらへ向かう。
この静けさの中だからこそ明らかに怪しい。
だが、
誰も走って向かうなんてことはしなかった。
誰ともなくゆっくりそちらへ向かう。

「・・・・・」

枯れ木と固い土。
ゆるやかに、
たまに突発的にでこぼことしている地面。
暗い、
その森を歩む。
そして・・・・・

全員が足を止めた。
鳴き声の正体。
エルモアだった。
森の中にエルモア。
とても美しいエルモアだった。
スッキリとしたライン。
引き締まった体。
長い鬣。
高級馬のようにも見えた。

「どうした"E-U"」

その馬に伸びる手。
ゆっくりと優しく首背中を撫でる。
いつからそこに居たのか。
いや、ずっと居たのだろう。
切り株に座った一人の・・・・・

「・・・ん?誰だお前ら」

その者はこちらに気付いて言った。
古びた鎧。
黒く、吸い込まれるような印象さえある。
切り株の横には槍が倒れている。
明らかに長い・・・黒い槍だった。
力強く・・・そして整った体。
絞りきったように引き締まった体をしている。
顔は・・・・・アメットを深くかぶって見えない。
口元だけが見える。
その口元だけを見ると・・・・
いや、見とれるように見てしまう。
力強さの中に妖美な魅力。
そして暗い闇の中でさえ映える・・・・長い長い漆黒の髪。
まるで・・・・・

「迷い人か。珍しい。普通に歩いてきたらこんな所にはたどり着かないはずだが」

切り株に座ったまま、
膝の上に肘を置いたまま、
その者は言う。
動作一つもしない。
まるで人形か死骸のように。

「帰り道なら教えるが」

「いえ・・・・」

初めてしゃべったのはアレックスだった。
誰もしゃべるのを忘れていた。
見入っていた。
そしてアレックスが確信を聞いた。

「あなたが・・・・・・ツヴァイ=スペーディア=ハークスさんですね」

「・・・・・・・・・」

黒い鎧を纏ったその者は、
すぐに返事をしなかった。
だが、
口元を少しだけ緩ませて答えた。

「そういうことか」

そして少しだけ顎を上げて言う。

「ツヴァイは死んだ。帰れ」

それはまるで命令だった。
アインハルトに言われるような、
そんな服従を・・・言われた事をさせられそうな言葉。
美しい声だとも思った。
神も服従してしまいそうな・・・・。

「いえ・・・・話してみるとそれこそ確信できます・・・あなたはツヴァイさんです。
 あなたは騎士団長に似すぎています。面影も・・・雰囲気も・・・
 ツヴァイさん。僕達はあなたを求めてきました。是非話を・・・・」

「ツヴァイは死んだっ!!!」

その者は大きな声をあげた。
唯一見せる口元を大きく広げ、
ひるんでしまいそうな声をあげた。
近くの枯れ木に静かに潜んでいた鳥達が、
今の声で逃げるように一斉に飛び去った。

そしてその者は立ち上がった。
地面にまでつきそうな漆黒の髪が切り株にかかる。

「人違いだ。帰れ」

「・・・・・・・」

「そのツヴァイという者はアインハルトという実の双子の兄に殺された。
 腹に大穴を空けてな。それで生きている者がいるか?分かったら失せろ」

アメットに隠れているが、
その目はこちらを睨んでいると分かった。
殺気にも似ていた。

「・・・・・・・じゃぁあなたは誰なんですか」

「オレはただの亡霊だ」

その者は振り向く。
マントがなびき、
背中を向けた。

「ツヴァイなどという者はここにはいない。そしてオレなどという存在もここにはいない。
 帰れ。探すなら他を当たれ。もう二度と会うこともないだろう。消えろ。オレも消える」

静かに、
ただ森の奥にまで突き通るような声でそう言った。
どうやっても無理だ。
そう説得させられてしまうような声だ。
だが・・・・
アレックスだけが耐性があるように返す。

「じゃぁいいです。あなたがツヴァイさんじゃなくても。
 ただ興味が沸きました。あなた説得してもいいですか?亡霊さん」

「・・・・・・・・」

その者は静かに・・・・黒き長槍を拾った。
そして振り向き様にこちらに槍を突き出す。
完成された精密な動きだった。

「もう何も答えない。ただお前らに選択肢をやる」

槍をヒュンと下ろす。

「失せろ。さもなくばオレの手によって塵(ちり)と化す事になる」

漆黒の騎士。
あきらかなる殺気。
確認せずとも本気だと分かる。
そして・・・・やりあえば殺されることも分かった。
勝敗などという考えが皆の頭に浮かばなかった。
ただ、殺されると感じた。

「逃げるか死ぬかですか。騎士団長と同じで勝手に命令しますね。
 ・・・・でもその選択はお断りします。その二つの道。それはあなたが決めた道だ。
 それに大体・・・・・・僕は強制されるのが大っ嫌いなんですよ。特に自分勝手なのはね」

アレックスが槍を握る。

「僕の道は僕で決めます」

槍を強く握り、
強く言った言葉。
だが、
アレックスのその手も言葉も、
裏側には恐怖が隠れて震えていた。

「・・・・・・・・生きる道を用意してやったんだぞ」

「・・・・なんであなたに命を決め付ける権利があるんですか?」

漆黒の騎士の口元。
それが歪んだ。

「言っても分からぬ・・・・カスが!!」

殺気が倍増した。
闇に包まれた森が、
まるで真っ暗に塗りたくられたような感覚さえ覚える。

「命を粗末にしたな迷い人。命は1という絶対値。それを投げ捨てたと判断する。
 愚か者共め・・・・・・オレをツヴァイだと勘違いしたまま塵となるがいい。
 消えろ。消えうせろ。消し炭にしてやる。カスも残らんほど・・・・・無に帰(き)すがいい」












                 






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