「そうか」

王座の上でアインハルトは笑った。
傍らにはロゼ。
小さな肩のを抱きかかえ、
アインハルトは王座で左足の上に右足を重ねてふんぞり返る。

「どう見てもツヴァイだな」

ピルゲンから渡されたSSを見て、
アインハルトはそう言った。
アインハルトが座る王座の周り。
そこには数人の男女がいた。
ロウマ。
ピルゲン。
ジャンヌダルキエル。
全て絶騎将軍(ジャガーノート)だ。

「どうお考えですか?ディアモンド様」

ピルゲンが問いかける。
アインハルトに問いかけると共に、
腕を組んで目を瞑っているロウマにも目をやる。
ロウマはそれに気付き、
片目を開ける。

「何見ているんだピルゲン。意見を聞いているのはアインにだろう」
「いえ、そうでございますね」

ピルゲンは小さく笑いながら目をそらした。
ロウマに何かを訴えかけているようだ。
ツヴァイについて。

「我が主アインハルト様。その者は一体どのような?」

「カスだ」

ジャンヌダルキエルの問いに対して、
アインハルトは答えになっていない答えをハッキリ返した。
その言葉に偽りはないのだろうが・・・・
戸惑うジャンヌダルキエルに対し、
ピルゲンがクスりと笑いながら代わりに答えてやる。

「かつてディアモンド様を兄と呼んでいた方でございますよ」
「我が主の弟君か」
「双子でございます」
「双子!?・・・・それは大層な実力を持つ人間だったのでしょうね」

「我がカスだと言ったのが聞こえなかった?」

アインハルトの言葉に、
ジャンヌダルキエルはビクりと体を震わす。
神聖なる女神の体は恐怖で凍りつく。

「申し訳ありません・・・我が主」

神が人間にする謝罪。
その人間の横では、
どう見てか弱く貧弱な女が馴れ馴れしくしている。

「ツヴァイか。懐かしい名だ」

アインハルトは、
傍らのロゼの肩を握り、
潰れるほどに力を入れた。
ロゼは激痛に顔を歪ませるが、
文句と小さな悲鳴一つあげず、
笑顔で我慢していた。

「我が殺してやったんだったな。ん?・・・・なぜ殺したんだったか。
 あぁ。悲しみを知ってみたくて殺したんだったな。
 だがあいつを殺したところで悲しみは無かった。無駄死にのカスだ」

ただのきまぐれで殺した自分の分身。
それに対してカス呼ばわり。

「捨て置け」

アインハルトは短くそう言った。

「放っておくのでございますか?」
「ツヴァイという者が生きていた理由も謎ですが、
 我が主の双子であるならば多大な力を持っていると考えられます」

「捨て置けといった。二度も言わすな」

アインハルトの言葉で静まる。
絶対的な声。
この男が言う事は理由を別にして絶対。

「今更どうなる。長く生きながらえている間なにもしてこなかったのだ。
 ただの屍と変わらん。生きていても死んでいても同じ事だ。
 我の目の届かぬところで勝手に生きて勝手に死ね」

まるで・・・
何も関係ないゴミのような言い分。
たった一人の肉親であり、血を分かつ双子であるのにも関わらず・・・。

「なら俺が始末しておこう。過去の清算はしておくに限る」

ロウマはそう言い、
王座の間から出て行こうとした。
だが、
黒い闇を通し、
ピルゲンが移動してロウマを遮った。

「ディアモンド様は捨て置けに言ったのでございますよ」

ピルゲンは他の者には見えないようにロウマに笑いかけた。
ロウマは苦笑いをした。



ツヴァイ。
ツヴァイ=スペーディア=ハークス。
2の名前を持つ者。
アインハルトが殺した。

だが・・・
ロウマが助けた。



---------------


その日、
王座のことだった。

「何を・・・何をしてるんだアイン!!!!」

「哀れみというものを感じてみたくなった。
 双子であるツヴァイを失ってみればそれを感じれるかと思ったのだが・・・・」

同じ血がアインハルトの腕に流れる。
赤い絨毯に滴り落ちる。

「血で汚れた。それくらいにしか感じぬな」

そこにはツヴァイの死体。
アインハルトが殺した。

「やはりこんなものか。だが惜しい者を亡くしたな。
 我と血を同じくする者だけあって使える者だったのだがな」

無残に死に絶えるツヴァイ。

「ツヴァイのせいで王座が汚れたな。なぜ血肉とは汚く臭いものなのだろうな。
 明日までに掃除させておけ。一応まだあと少々は使うつもりの場所なのだからな」

そう言い、
アインハルトはその場を後にした。

「くそっ・・・」

ロウマはWISオーブを取り出す。
アインハルトがいなくなったのを見計らって。

「何をしておいでですかロウマ殿」
「決まっている。ツヴァイを蘇生する。まだ間に合うかもしれんからな」
「それはディアモンド様の意志に反します」

ロウマはピルゲンに掴みかかる。

「ピルゲン。これはこのロウマの意志だ。アインは関係ない」
「ディアモンド様が関係ない?貴方物凄い事を言っていますよ」
「分かっている」

ロウマはWISオーブで連絡を再開する。

「だがツヴァイを見捨てるわけにはいかない。ラツィオの二の舞にするわけにはいかないんだ」
「私はディアモンド様の意志に逆らうわけにはいきませんな」

そんなロウマに対し、
ピルゲンが詰め寄る。
片手に剣が現れる。
黒い剣。
妖刀ホンアモリ。

「ピルゲン・・・・」

ロウマの鋭い目線がピルゲンを突き刺す。

「邪魔するなら貴様をこのロウマが喰う事になるぞ」
「それは恐縮でございますね」

ピルゲンは妖刀ホンアモリを振り上げる。

「・・・・・・」

だが、
ピルゲンの手から黒き刀は消え去った。

「私も死にたくありませんので・・・・・貸しでございます。これは大きな貸しですよ」
「・・・・・・・・礼を言う」
「礼?言うなら私が言いたいところでございますね」

ピルゲンはもう一度妖刀ホンアモリを出し、
ヒゲを歪ませながらロウマの首元に突きつける。

「あなたを脅す大きなネタが出来たのでございますよ。
 貴方は必ず後悔することになります。時がたてばたつほどね。
 私は協力するのではございません。ロウマ殿。あなたを追い詰めるのでございます。
 コレは全てあなた一人でやった事。私は何の関係もない。何も・・・ね。
 ただあなたが裏で行った大きな過ちを・・・・私が知る。私が作る。
 この一件で世界最強の男ロウマ=ハートに私が首輪と付ける事ができる」
「・・・・・・・・・くだらん事ばかり考える奴だ」
「ホメ言葉でございましょう?」



------------------------------------

そうして、
ロウマは密かにツヴァイを蘇生した。
蘇生したのはピルゲンだ。
だから、知っているのはロウマとピルゲンのみ。
ツヴァイは人目の触れぬところへ・・・
サラセンの森へと隠した。

だが・・・・・

「本当にスペーディア殿なのでございますか?」

ロウマにしか聞こえないようにピルゲンは言った。

「分からん・・・・」
「どうするのです?面白い事になりましたね」

ピルゲンが怪しく笑う。

「これであなたは一環の終わりかもしれません。
 私は大好きですよ。人の苦しみ。人の困難が・・・・ね」


「おしゃべりが好きになったようだな」

アインハルトが冷たく笑いながらロウマとピルゲンに言う。
ロウマとピルゲンは、
しょうがなく元の位置に戻る。

心境はバラバラだった。
ロウマとピルゲンにも疑問だった。
ツヴァイを助けた二人にとっても、
ツヴァイが生きている事は不思議だった。


何故なら・・・・
ツヴァイの蘇生がうまくいかなかったからだ。


ツヴァイがアインハルトにつけられた傷は、
深すぎて、
大きすぎて、
蘇生できるものではなかった。
魂が戻ったところで・・・その状態で生き返るなんて事は不可能だった。
サラセンの森に連れて行ったが、
ツヴァイは間も無くもう一度死んだ。

ツヴァイは死んだのだ。
蘇生もできなかった。
じゃぁあのSSの者は誰なのか。
アメットで顔が隠れているが、
どう見ても・・・・アインハルト。
いや、ツヴァイの姿だ。
やはり・・・・ツヴァイなのだろうか・・・・・







「いい事聞いちゃった♪」

物陰で一人の男が笑った。












































「暗ぇ、だりぃ、つまんねぇなぁ」

ドジャーが両肩両腕をあげながらアクビをする。
アクビと同時に片目から涙がこぼれる。
退屈の涙だ。

「文句ばっか言ってないで歩けよドジャー」
「文句しか言うことねぇからだろうが」

暗い森道を、
ドジャー、ジャスティン、アレックスの3人は歩いていた。
ここはサラセンの森。
年中暗く、
年中日の当たらない森。
暗闇を好むモンスター達が徘徊し、
生活している。
草木の無い固い地面の上、
足を前に出して3人は進んだ。

「何度か来たことありますが、不気味なとこですね」
「そうですね」
「・・・・・・・なんですかドジャーさん・・・その反応」
「あん?なんだ?どんな反応期待してたんだよ」
「いえ・・・別に・・・なんか寒気がしたから・・・」
「カッ」

暗い森の中。
ほとんど光の届かない森の中。

「で、どこ向かってんだよジャスティン」
「どこもクソも、この写真の男を探すんだから目的地なんてねぇよ」
「闇雲に歩くしかないですね」
「なんだそりゃ。ふざけてんのか?」
「じゃぁドジャーならどうするんだよ」
「そうだな・・・・・」

ドジャーは歩きながら少し考える。

「ここは俺の勘でビシィーっと!」
「それを闇雲に歩くっていうんだよ」
「・・・・・ですよねー」

ドジャーは肩を落とした。

「でもジャスティンさん」
「ん?」
「さっきから何かしら目的地があって歩いてるように感じるんですが」
「あぁ。実はな」

ジャスティンがMAP(地図)を広げる。

「俺達は今この辺なんだが、この辺り。ここを目指してる」

ジャスティンが地図の一箇所を指差す。
ドジャーはすぐさま地図の位置など理解できず、
首を傾げていたが、
仕事で慣れているアレックスにはすぐ分かった。

「ルケシオンの森との境目あたりですか」
「なんかあんのか?」
「連絡をとってあってな。合流する」
「誰とですか?」
「いちいち遠まわしにすんな。さっさと言えよエロガッパ」
「あぁ実はな。・・・・・・・・・・・・・・誰がエロガッパだ」
「いや、いいから言えって」
「・・・・・・」

ジャスティンはWISオーブを取り出し、
軽くポォンと投げ上げてキャッチした。

「さっきジャッカル=ピッツバーグに連絡を入れておいた」
「ジャッカルだぁ?」
「それって先ほど本拠地で言ってた海賊団の?」
「そう。俺らはサラセンの森から。あっちはルケシオンの森から歩いてきて合流する事になってる」
「合流ですか」
「カッ、なんであんなぶっきらぼうなんて呼ぶんだよ」
「決まってるだろ。もしもツヴァイという男がいたとして・・・・・・俺らでどうにかなるか?」
「騎士団長の双子の弟ですよ?」
「・・・・・・・ッ・・・!」

ドジャーが強がりを返すこともできなかった。
どうすることもできなそうだったからだ。

「カッ!!んじゃなんだ?なんでわざわざ現地合流なんだよ。
 揃ってからこりゃぁよかったじゃねぇか。そうだろ?そうだよなぁ」
「俺には俺の考えがあるんだ」
「わかんねぇなぁ」
「僕には分かりますけどね」

ドジャーは舌打ちをする。

「・・・んだよ」
「こんなSSだけで場所を特定する事は不可能ですからね。
 そしてこの場所にずっといるとも思えない。 んじゃぁどこにいるんでしょう?
 サラセンの森を移動して、ルケシオンの森。さらにカレワラの森かもしれません」
「分かんねぇよ」
「だから二手に分かれて合流するんですよ。
 その船長(キャプテン)ジャッカルさんはルケシオンの森から。
 僕らはサラセンの森から探索しがてら合流する」
「広い範囲じゃぁないが挟み撃ちの形でしらみつぶしていくんだよ」
「はいはい。俺にゃぁ分からない作戦があるんですねっと」

ドジャーはふてくされながら歩く。

「カッ、ピッツバーグがきたとこで勝てるとは思わねぇけどな。
 そのツヴァイってやつが情報通りだとしたらよぉ。それでも手も足もでねぇだろ」

そして文句と正直な意見だけは言う。
まぁその通りだ。
アインハルトほどの実力があったら手も足もでないだろう。
だがまぁ・・・・
それ以前に実在しているかどうかも分からない。

「もう一つ手は打ってあるさ」
「ジャッカルさんの他にですか?」
「あぁ。こっちの切り札はヤバいぜ?」
「どうやべぇんだよ」
「傭兵だ。聞いた事くらいあるだろ?"DTW"・・・・《ドライブ・スルー・ワーカーズ》。
 チェスターを雇ってた時期もあったからコネがあった。金次第で動いてもらえる」
「傭兵ギルドですか。攻城戦によく来てたみたいですね」
「いくらかかったんだよ」
「今日だけで1億グロッド」
「い・・」
「1億!?」
「後払いでチェスターもちだけどな。そしてあそこの頭の実力なら・・・・互角もありえる」

アインハルトの分身に対し、
互角と言い切れる。
どんな人間なのか・・・。

TRRRRRRRR

「お?」

ジャスティンがWISを見る。

「ウワサをすればその傭兵君からだ」

ジャスティンはアレックスとドジャーに笑いかけながら、
軽快にWIS着信をとった。

「はいはい。こちらジャスティン。こっちはとっくに森についている。
 そっちは・・・・・ん?・・・・・・・あぁ聞いている。ん?・・・・・・・・はぁ!?」

何やら
アレックスとドジャーは顔を見合わせた。

「馬鹿野郎!金を払えばなんでも・・・あ?・・・チッ・・ふざけ・・・あっおい!!切るな!!」

ツー・・・ツー・・・という
虚しい音が響き、
その電源を切らずにジャスティンはそのままアレックス達の方を見た。

「あのクソ傭兵共!!」

そう言いジャスティンはWISオーブを地面に叩きつける。
普段は落ち着いているジャスティンらしからぬ行動。

「・・・・・・なんだって?」
「なんとなく内容は予想できますけど」
「・・・チッ・・・多分間に合わないとか言ってきやがった。前の仕事がつっかえてんだってよ。
 こっちは1億だしてんだぞ1億・・・。なのに現金払い以外は信用できねぇてよぉ!
 金が確認できない限り、1グロッドだろうが出してる方を優先するそうだ」
「ありゃりゃ」
「前払いにすればよかったんじゃないですか?」
「そうだぜ。後払いなんかにするからよぉ・・・」
「いるかいないかも分からないツヴァイだぞ。それに1億ポンッと前払いできるか?」
「「・・・・・・・・」」

まぁなにはともあれ、
ジャスティン自慢の切り札とやらはご破算らしい。
ともなると、
《BY−KINGS》。
ピッツバーグ海賊団とやらのジャッカルという男に頼るしかないらしい。

「まぁ落ち着いてくださいジャスティンさん・・・」
「あぁ・・・」
「で、そのジャッカルって奴はどこで合流するんだ?」
「さっきの地図のところだ」
「見てもよく分からないってんだよ」
「もうすぐそこだ。だが、その前にちょっと寄り道していいか?」
「寄り道?」

暗いサラセンの森。
土しかない闇の森。
こんなところで寄り道。
・・・どこに・・・。

「トイレですか?」
「違う」

ジャスティンは、
一人突然わき道に入っていった。

「?」
「・・・・・はぁ・・・・そういやそうだったな・・・」
「何がですか?」
「ついてきゃ分かる」

アレックスとドジャーもジャスティンの後についていく。
人が通った跡の少ないわき道。
枯れた長い草をかき分け、
デコボコの土の段差を昇ったり降りたり。

「こんな先に何があるんですか?」

アレックスがそう言いながら道をかき分けていると、
突如少し広い場所に出た。
そこにジャスティンは居た。
そこは・・・・墓だった。
サラセンの森やルケシオンの森。
カレワラの森の各所に散らばる、
墓達。
その一つ。
ジャスティンが前に立っている墓には、
"Last-Tir"
と書かれていた。

「ラスティルさんの墓ですか・・・・」
「あぁ」

ジャスティンは墓を見たまま、
墓の前にしゃがみ、返事をした。

「立場が立場だからな。今目立つ所に墓を立てることは叶わなかった。
 だからラスティルにはこんな日の当たらない所で眠ってもらっている」
「コロニーじゃだめだったんですか?」
「馬鹿かアレックス。ラスティルが死んだ次の日に見つけたわけじゃねぇ」
「あぁそうか」

そう言いながら、
アレックスもジャスティンに並び、
ラスティルの墓の前に座る。
そして目を瞑った。

「・・・・・・・」

悔やみの言葉を言うべきか迷った。
どう言えばいいのか。
"殺してごめんなさい"とでも言うのか。
そうだ。
ラスティルの命を奪ったのはアレックスとドジャーだった。
しょうがなかった・・・・・・・・なんて言葉は使えない。
そんな理由でジャスティンの大切な人の命を奪っていいのか。

「しょうがなかったさ」

ジャスティンが言った。
まるで心を見透かしたように。

「そう思うのが一番だと決めたよ。ドジャーと君を恨むのはお門違いだ。
 だがそれでもやるせない気持ちがあるのは本音だ。
 だからといってどうなる。やりなおせない。ラスティルは帰ってこない。
 なら・・・しょうがないんだ。それが一番なんだよ。とてもいい言葉さ」

引きずっているのだろう。
だが、
恋人の命を引きずりながらも前を見るため、
ジャスティンはそう気持ちを固めた。
アレックスはただ・・・
ラスティルの墓に安らかに(アーメン)と祈った。

「ハニー。また来るよ」

ジャスティンはそう言って立ち上がった。
アレックスも立ち上がって墓から離れる。
だが、ジャスティンはまだ墓の前にいた。

「すぐ来るに決まってるじゃないか。君は俺の最後の彼女なんだ。
 ずっと君だけだ。このグッバイのあとにはすぐにハローがくる。
 少し待っててくれ。また来る。未練でくるんじゃない。会いたいから来るのさ」

ジャスティンは最後に墓にキスをしてアレックス達の方へ戻った。

「相変わらずくっせぇなオイ」

ドジャーがジャスティンの肩に腕を回す。

「虫唾が走るセリフだぜぇ?ほれみろよ。鳥肌が収まらねぇ」
「分かってないなドジャー。男が可笑しいと思うぐらいのセリフ。
 綺麗すぎるくらいのロマンチックな言葉を女は待ってるものなんだ」
「あっそ。んじゃお前ホストでもやれ」
「恋は売り物じゃないさ」
「カカカッ・・・死ね」

ドジャーはツバを吐き捨てた。
だがまぁ、
本気で馬鹿にしてるわけじゃないのは分かる。
ドジャーが一番ジャスティンの事を分かっているのだから。

「さっ、目的地に急ごうぜ」

ジャスティンは心ごと切り替えるが如く、
そう言って一番に歩き出した。

「待ってください」

アレックスが突然言った。

「ん?」
「なんだ?ラスティルの墓にまだ用でも?」
「いえ・・・・ジャスティンさん・・・・今まで気付かなかったんですか・・・・?」
「は?」

アレックスはそう言って、
突然歩き出す。
墓。
墓の隙間を。
ここは墓場だ。
実はラスティルの墓以外にも多くの墓が並んでいる。
そしてその一番奥。
アレックスはそこで止まった。
そこには一本の槍は地面に突き刺さっていた。

「これは・・・・王国騎士団の槍です・・・・そして・・・・」

アレックスは埃をフッと息で吹き払い、
そこに刻まれた字を読む。

「ツヴァイ=スペーディア=ハークス・・・ここに眠る・・・・」
「っ!?」
「なんだとっ?!」

ジャスティンとドジャーが駆け寄る。
そして見る。

「「・・・・・・・」」

確かに墓には、
槍の墓にはそう刻まれていた。
ツヴァイの墓だ。

「ツヴァイは・・・やっぱ死んでるのか・・・」
「・・・・・・・分かりません」
「分かりませんって・・・墓があんじゃねぇか。つまり死んでるってことだろ」
「なんでですか?墓があるだけです。ただ槍が刺さってるだけです。
 死んでるとは書いてありますけどね。書いてあるだけで保障なんてどこにもない」
「この墓は・・・"フェイク"って事かい?」
「その可能性はもっと低いです」
「・・・・?」
「?」
「こんな人目のつかないところになんで墓を作るんですか?」
「そりゃ・・・・ツヴァイってのは噂ではアインハルトに殺されたんだろ?」
「それならあんまり表ざたにしたくねぇんじゃねぇのか?」
「一般人に知れ渡るぐらい噂になってる事をわざわざ隠すんですか?
 そして双子の兄弟とはいえ・・・・騎士団長がわざわざ墓なんて作りますか?」
「考えられないな」
「じゃぁやっぱりその墓はフェイクってことじゃねぇか」
「いえ・・・誰かがなんらかの理由でここに作った・・・恐らくロウマさん」

よくアレックスの話が見えてこない。

「この墓は本物です。本物だからここにある。墓が一目につかないからこそ本物である可能性が高い」
「じゃぁやっぱり死んでるんじゃねぇか!!」
「いえ・・・墓があるだけです」

話がループする。
死んでいる確定的証拠にだけはならないとだけは言いたいらしい。

「掘り起こすか?それなら間違いなく分かるだろ」
「白骨が出てきたからなんなんですか?それがツヴァイさんの骨だと僕達がどうやって判断するんですか?」
「結局どっちにしろ分からねぇってことじゃねぇか!!」
「そうです」

アレックスが真剣な顔で言う。

「ただ・・・死んでいる可能性が少し高くなりました」
「じゃぁあのSSの人間は誰なんだよ」
「それも謎です・・・ですが・・・・」

アレックスが少し俯き、
自信なさげに言う。

「SS越しにも分かる絶対的威圧感・・・・僕はツヴァイさんには会った事ないですが、
 あれは間違いなく騎士団長と同じ、得異質的な・・・・この世に他に類を見ないものです。
 こんな墓があっても・・・そのSSがツヴァイさんでないわけがないというか・・・・」
「証拠的にはツヴァイは死んでるとしか思えないが、このSSに写ってるのもツヴァイとしか思えないと」
「そうです」
「だーかーーーら!!!」

ドジャーがイラついて言う。

「結局どっちか分かんねぇんだろ!!!」

まぁそういうことだ。
だが、
逆に言えば可能性は二つ。

ツヴァイが生きている。
または・・・・・・・・SSの人間が偽物。
どちらもそうである可能性があり、
どちらでもそうでない根拠がある。

「まぁ考えてもしかたがない」
「ですね」
「行こうぜ」

そうして三人は墓場をあとにした。

ただ、
どちらである可能性もあるならば・・・・

生きていた方が反乱軍的にはわずかな希望が見出せる。
どうなるかは分からないが、
生きている事を信じたいところだった。
そうしなければやっていられない。




深い闇。
暗い森。
冷たい土。
枯れた木。
魔物の声。

そんな虚しい道をまた歩く。
同じことの繰り返し。
ドジャーがため息を吐く。

「もういっかい言うけどよぉ」
「つまんないですか?」
「そうだつまんねぇ。見ろよこの景色!絶景だ!どこを見ても黒黒黒!どこも一緒の景色だ!」

まぁ・・・そうだけど・・・・

「なんでこんな暗いんだよこの森!モヤシでも作ってんのか!?」
「暗けりゃモヤシ作ってんのかよ・・・・」
「でも作れそうですね。モヤシっていうのは塩コショウを・・・」
「どうでもいい!」
「なんなんですか・・・まぁオバケ屋敷だと思って歩けばいいじゃないですか」
「偽のオバケが出るからオバケ屋敷なんだよ!ここはマジでモンスターでるだろが!」
「んじゃ逆に偽お化け屋敷ですね」
「ややこしいわ!」

まぁ退屈なのはアレックスも一緒だが、
ドジャーを馬鹿にしていればヒマはどれだけでも潰せた。
それよりもまぁ、
一応探索してるんだからヒマヒマ言わないで欲しい。

「まぁお化けって言えばよう。ツヴァイも死んでるんだからお化けかもな」
「「・・・・・」」

それはあまり笑えない。
本当に雲を掴むような・・・
霧の中を探索しているようなものなのだ。
生きているかどうか分からない。
死んだ者を探す。
疑心暗鬼の中での行動。
もしもいたとして見つけられるとは限らない。
長い年数見つからずに隠れ住んでいた事になるのだから。
居ても居なくとも、
結果が得られるとは限らない探索。

「とりあえず着いたぞ」
「ん?」

ジャスティンが足を止める。

「どこに?」
「いや、だからジャッカル=ピッツバーグとの合流地点だよ」
「あぁそうか。忘ってたわ」
「ですけどこの様子だと先に着いちゃったみたいですね」

その場所には誰もいなかった。
暗い森。
それはサラセンの森でもルケシオンの森でも同じだ。

「まぁじっくり探索してくれてんだろ」
「いや、来たぞ」

ドジャーが指を指す。
その先。
ルケシオンの森側からゆっくり近づいてくる者。

「あぁ、あれだな」

・・・。
3人組だ。
先頭に男が一人。
大きな何かを引きずっている。
あれがジャッカル=ピッツバーグという男だろう。
横に成人前後の女性。
もう片方の横。
そこには・・・ピンキオ?

「おぉーーっす!遅くなったってなもんだぁ」

その男は言うなり、
引きずっていたものを下ろす。

「こりゃぁ手土産だ。くってくれやぁ!」

ザコパリンクだった。

「食ってくれやぁって・・・」
「いきなり何持ってきてんだ・・・ルケから持ってきたのか・・・」
「まぁ食べますけどね」
「食うな!」

ドジャーに一発殴られ、
そのままアレックスは目線を上げた。
ジャッカル。
ジャッカル=ピッツバーグ。
まさに海賊といった身なりをしていた。

「べらんめぇ。ジロジロ見るんじゃねぇぜ!」

ディークハットに海賊服。
上から下まで海賊だ。
ディークハットに自慢げに輝くドクロマーク。
片目には眼帯。
そして左腕がヒジから先が無く、
代わりにハンガーの先のような形をしたダガーがついていた。
左手がダガーになっているのだ。

「あなたが船長(キャプテン)ジャッカルさんですか」

「おうよ」

「手配書で見たのと違いますね。手配書はもう少し太ってみえましたが・・・」

「てやんでぃ!あんなもん昔の俺だ!陸で生活しなきゃならなくなったからなぁ!
 こちとら生まれも育ちも海人(うみんちゅ)だからな。陸ってぇもんは馴染めねぇぜ。
 だからストレスでやせちまったんだよ!だがまぁ・・・いい男になったろ?」

まぁたしかに・・・
口調とは正反対にワイルドな風貌である。
カッコイイと聞かれれば断然カッコイイ人間だ。
だが口調のせいでやけに安っぽく感じる。

「親父っ!!恥ずかしい事べらべら言わないでよ!」
「なんでぃ。親父がいい男になったんだからいいじゃねぇか」

横の女性が言った。
関係的には言葉通り娘か何かなんだろう。
海賊娘。
頭にはバンダナが巻いてあった。

「始めまして、バンビ=ピッツバーグっていいます。ほら親父!」
「あぁもう!分かったっての馬鹿娘!俺ぁジャッカル=ピッツバーグだ」

いや、
まぁそれは分かってるけど・・・・

「ピンキッドでヤンス!!」

下から声が聞こえた。
本当に下だ。
それはピンキオだった。
頭にバンダナを巻いたピンキオ。
モンスターもギルメンというのは本当のようだった。

「ジャッカル、バンビちゃん、ピンキッド。よく来てくれた」

「おうよ」
「ジャスティンさん!バンビちゃんはやめてって言ってるでしょ!」

「あ、あぁ・・・悪い。子供扱いは嫌いだったんだったっけか・・・」
「そんな毛も生えてないガキはどうでもいいっての」

「あん!?なんだって!?」

海賊娘が、聞き捨てならないと言った表情で怒るが、
ドジャーは軽く無視をして話を続ける。

「ジャッカル。3人できたのか?」

「おうよ。そりゃそうでぃ。ゾロゾロ来るもんでもねぇだろ。目立つしな」

「そりゃそうだが、一人でこないならもうちょいマシなの連れて来いよ。
 ガキ娘とピンキオってんじゃぁ締まらねぇよ。役に立たねぇしよぉ」

「あんだってぇ!」
「失礼でヤンス!!」

このピンキオはどこでこんな口調を覚えてきたんだろうか。
わざわざ頑張って"ヤンス"とかつけてるんだろうか。
ツッコムべきなのだろうか。

「まぁ歩いてきてお疲れのとこなんだが、今すぐにでも探索を再開したい。
 お互い手がかり無いみたいだしな。大丈夫か?少しくらいなら休憩もとってもいいんだが」

「てやんでぃ!!!ルケっ子の体力なめんじゃねぇ!
 海の男はちょっとやそっとじゃへこたれねぇぜぃ!!」

ジャッカルは左腕を右腕で掴んで見せる。
左腕は先がカギヅメになっているダガーだ。

「この左手と左目がうずくんでぃ。ロウマに一杯くわせてやれってな!
 それまでは止まるわけにはいかねぇんだよ。前進全速で帆を張って生きていく」

ジャッカルがニヤりと笑い、
ディークハットを少し下ろす。
ロウマにやられたという左手と左目。
ギルドを大半やられたという。
恨みもあるのだろう。

「でも親父ぃ〜ぼく達は少し休みたいなぁ」
「バァロゥ!!ルケっ子が弱音吐くんじゃねぇ!!」
「でも親びん。疲れたでヤンスよぉ〜」
「ぬぅ・・・・・」

ジャッカルが少し腕を組んで考える。

「愛する子分達を考えるのも船長の役目だな」

腕を組んだまま、
考えるジャッカル。
うーんと唸りながら、
ディークハットがズルりと少しずれ落ちた。

「集合!!」

そしていきなり叫んだと思うと、
海賊と海賊娘とピンキオで、
3人(2人+1匹)の円陣を組み始めた。
何やら会議みたいに話し込んでいる。
ボソボソと、
ゴニョゴニョと。
円陣を組んで。
どんだけ仲いい海賊団なんだ。

「おし!」
「よし!」
「ヤンス!」

3人が同時に振り向く。

「「「休もうっ!!」」」

「・・・・」
「あいよー・・・」

いきなり暗い森の真ん中で休むことになった。
冷たい土の上に座り込む6人。
いや、5人と1匹。
MDと海賊団。
アレックス、ドジャー、ジャスティン。
ジャッカル、バンビ、ピンキッド。
闇の森の中、
焚き火をつけて囲む。

「さっさと済ませて帰りてぇのによぉ」
「でもまぁ万全をきすのは大事ですよ」
「相手はあのアインハルトの弟だからな」

ジャスティンはそう言い、
焚き火に薪を投げ入れた。

「って熱ぃよクソ。焚き火いらねぇだろ!」
「こうするとモンスターが寄り付かなくなるんですよ」
「そういう事だ」

「ほぇ〜・・・考えてんだねぇ。ぼく達海賊は海の上で焚き火なんてしないもんね」
「出会ったら出会ったでぃ!ルケっ子は当たって砕けろだ!」
「そうでヤンス!モンスターなんて怖くないでヤンス!!」

ピンキッドの言葉。
それに反応して全員が目線を向ける。

「アレックス。何が寄り付かなくなるって?」
「えぇ〜っと・・・・」

「バァロゥ!!ピンキッドをモンスター扱いすんじゃねぇ!」
「親びん・・・・」

ジャッカルの威勢のいい声。
ピンキッドは微妙な目で見た。
「いや・・・自分は正真正銘モンスターだけど・・・」みたいな。
訳のわからないフォローを入れられて困っている。
だがそのままジャッカルは続ける。

「ピンキッドはモンスターとか以前に・・・俺の・・・子分でぃ!!」
「お・・・親びーーん!!」

バンダナを付けたピンキオは、
ピョコピョコと走り、
ジャッカルに飛びついた。
なんと安っぽい話だろう。
こんなんで感動できるならドラマも小説もいらない。

「で、どう探すんだよ」
「どう探すって・・・」
「正直見つかる気しねぇんだよ。偶然に期待しろってか?
 そんな世の中楽にできてねぇぞ。普通に考えりゃ見つかる可能性はほぼ皆無だ」
「まぁそうですけど・・・」
「だが探さないと始まらないだろう」
「まぁそうだけどよぉ、なんか闇雲にってんじゃぁ俺もゲンナリだぜ」

「べらんめぃ!!」

ジャッカルが立ち上がる。

「この俺がなんの策も無しに来たと思ってんのかコンチクショウめっ!ルケっ子なめんなよ!」

そう言い、
ジャッカルは何かを掴んだ。
頭だ。
ピンキッドの頭。
バンダナを巻いたピンキオは、
ボールのように、
クレーンゲームのようにジャッカルの手につかまれた。

「うちのピンキッドがやるぜ」

ピンキッドがビックリしていた。
明らかに自分が何をするのだと困惑していた。

「なんだ?そのペンギンみたいな野郎がなんかできるのか?」
「匂いとか?」

「バァロゥ!!こいつはモンスターなんだからモンスターと話せるんだ。
 そこら辺のモンスターから情報収集すれば何十倍も楽だぜ」

おぉ。
少し見直した。
そういう考えだったのか。
たしかにそれは効率的だ。
かなり現実味のある作戦だ。
森の中でモンスターに聞くことは、
街の中で人に聞くようなものなのだから。

「親びーん・・・さっきはモンスターじゃなくて子分って言ってくれたでヤンス・・・」
「おぉそうだな。お前はモンスターと話せる子分だ」

どうでもいい。
だがアレックスはふと思い出した。
モンスターと話せるという部分で。
ロッキー・・・。
彼は今どこで何をしているんだろうか。
無事であるはずだが・・・・。

「でもそのツヴァイってのは本当にいるんでヤンスか?」
「いてもどうにかできるレベルなのかしらね」
「べらんめぇ!!!」

ジャッカルはピンキッドをポトンと落とし、
鉤爪になっている左手をまた掲げる。

「この『海猫』ジャッカル様がケチョンケチョンにしてやんぜ!」
「よっ!親父!」
「よっ!親びん!」
「カッコイイー!」
「さすが海の男でヤンス!!」

「「「・・・・・・・・」」」

照れるジャッカル。
煽る子分。
だが、
アレックス達は白い目で見るだけだった。

「あの・・・・」

あまりに温度差のある3人と3人の間を裂くように、
アレックスは小さく話しかけた。

「『海猫』ってあだ名の由来は知りませんけど一応・・・・・・・ジャッカルって動物は猫じゃありませんよ・・・・」

3人(2人+1匹)の動きがピタりと止まる。
固まる。
図星・・というか。
海猫というあだ名をジャッカルという名前からとったのだろう。
知らなかった真実を知らされ、
固まる。

「しゅ・・・・」

ジャッカルが固まったまま言う。

「集合!!」

また三人は集合した。
円陣を組む。
向き合って話す。
ボソボソ。
ゴニョゴニョ。
あまりに図星だったのだろう。

「おし!」
「よし!」
「ヤンス!」

3人は円陣をやめる、
そして、
海賊娘が一歩前に出た。
そして手を挙げる。

「今から『海猫』の称号はこのバンビ=ピッツバーグが引継ぎます!」

「バンビって動物も猫じゃないですよ」

「え・・・」
「しゅ、集合!」

「それはもういい」

3人はあたふたとする。
海賊野郎と、
バンダナ女、
バンダナピンキオが慌てふためく。
そんなに大事な事だったんだろうか・・・・。

「なぁにが偉そうに称号だ・・・親離れもできてねぇガキがよぉ・・・」

ドジャーの言葉に、
バンビはムッとした。

「なんか言った!?」

「言ったぜ。出るとこも出てねぇような乳臭ぇガキがいっちょ前な事言うなって言ってんだ。
 役にも立たねぇしよぉ。自分だけ浮いてんの分かってねぇのか?なんでいるんだオメェ」

「な・・・なにぃ・・・・ぼくを馬鹿にすんな・・・・」

「なぁなぁアレックス知ってるか?あのぺたんこ娘の実力」
「え・・・・いや・・・・・」
「あんな。あいつほんっと役に立たねぇの。海賊の娘なのに盗賊じゃねぇんだ。
 才能が無かったからな。だから戦士目指したんだってよ。ダガー(短剣)使う戦士。
 だけどよぉ・・・カカカッ!!使えるスキルなんだと思う?使えるスキルだよ」
「さ・・・さぁ・・・・」
「"アピール"だよ。アピールオンリー!!そりゃねぇってのなぁ!カカカッ!!」

ビッ!・・・と・・・突然。
ドジャーの目の前に何かが突きつけられた。
それはカギヅメの形をしたダガー。
ジャッカルの左腕だった。
ジャッカルは眼帯をしていない方の目でドジャーを見据える。

「ドジャー。たしかにバンビはまだまだ未熟者の娘でぃ。
 だがな、子分を馬鹿にされちゃぁ黙ってられないよなぁ」
「親父・・・」
「たしかに男手一つで育ててこんなへんくつな娘になっちまったがな。
 これでもピッツバーグ家の・・・・"海賊王"の血が流れてんだぜ」

そう言い、
ジャッカルはドジャーの目の前から左腕をひいた。
ヒュンっと腕を振ったあと、
カギヅメダガーで海賊帽のズレを直した。
チャラけた海の男の、
真剣なる本性といったところか。

「ケッ、」

ドジャーは、
まるで町中の安い不良みたいな、
情けない姿だった。

「ドジャーさん。まるで町中の安い不良みたいな情けなさですね」
「いちいち思ってることを口に出すな」

そんな姿も、
まるで町中の安い不良のような・・・・
まぁもういいか。

「バンビ」

ジャッカルは右手の平をバンビのバンダナの上に乗せる。

「こんな時代に生まれちまったが、テメェもピッツバーグだ。
 デムピアスの血を大事にしろ。お前もいつか7つの海を旅する事になる」
「わ、わかってるよっ!」
「いつかこのへし曲がったデムピアスダガーをお前に・・・・・」

突然だった。
地響き。
地面が揺れる。
ドシンドシンと、

「なんだっ!!」

ジャスティンが慌てて火を消す。
焚き火をファイアダウンで消す。
そして全員が周りを見渡す。
だが暗くて分からない。

「何かが近づいてる・・・」
「あんまり音を立てるな」
「分からないが気付かれる」

だが、
それも無駄だった。
地響きは大きなり、
近づいてきているのが分かる。
そして・・・・
ソレは輝いた。
見上げると、
二つの輝く目が・・・
無機質に赤く光っていた。
全体が見えた。

「なっ!!?」
「スマイルマンだとっ!!?」

それは・・・
巨大なスマイルマンだった。
不思議ダンジョンで見た。
GUN’Sとの戦いで見た。
機械仕掛けのスマイルマンだった。

「なんでこんなところに!?」
「分からねぇ!分からねぇが!!」

ドジャーがダガーを抜く。

「間違いなく味方じゃねぇ!」
「ですね」

アレックスも槍を抜き、
ジャスティンも鎌を構える。

「ちょちょ!何あれ何あれ!?」
「非常事態でヤンス!!!」

バンビとピンキッドが慌てふためく。
始めて見るのだろう。
バンダナ二人がその場でアタフタアタフタ。

「なんでだ・・・・こんなところに生息しているわけがない・・・」
「っていうか生息するものじゃないですよね・・・・」
「こんなん森に居たらすぐ噂がたつっての」

何故いるのか分からない。
だが、
そんな事より重要なのは・・・・
勝てるかどうかという事。

「やれやれ、陸も楽じゃねぇもんだな」

ジャッカルは一度海賊帽を深くかぶりなおし、
片目で見上げる。

「ギ・・・・・ガ・・・・・・・・」

スマイルマンは鳴き声のようなきしみをあげた。

「ここは俺に任せな」

ジャッカルが言う。

「は?」
「一人でやるってのか?」
「できるんですか?」

「べらんめぇ。できなきゃ言わねぇよ」

「そりゃぁいい度胸だ。できなきゃ笑うぜ?」

「てやんでぃ!ルケっ子に二言はねぇよ」

スマイルマンが大きく腕を振り上げる。
大きな大きな機械の腕が天に突き刺さるように振り上げられる。
誰もがソレに見入った。
当然だ。
あれが振り下ろされたら全員ペシャンコだからだ。
だから気付かなかった。
ジャッカルが飛びついたことに。
一瞬だった。

ジャッカルは一度スマイルマンのボディを踏み蹴り、
そして一気に頭に駆け上がった。
頭の前に着地する。
一瞬少しデェークハット(海賊帽)が跳ね上がり、
ジャッカルの頭の上に着陸した。
帽子のドクロが笑う。

「ガラクタめ・・・・・ニンブルフィンガー!!!」

ジャッカルは左腕を突き刺した。
カギヅメを。
機械の、
スマイルマンの頭部に突き刺した。
ニンブルフィンガー。
相手からグロッドやアイテムを盗み取る技。

「海賊王はどんなものでも盗む・・・・」

左腕がスマイルマンに突き刺さったまま。
ジャッカルは右腕で自分の帽子を整えなおした。
そして眼帯のついていない方の目で笑う。

「それが例え命でもなっ!!!!」

そして引き抜いた。
バギバギっときしみ砕ける音と共に、
左腕のカギヅメダガーがスマイルマンの頭部から引き抜かれる。
と、同時に、
カギヅメで"スマイルマンの内臓"が引き抜かれた。
よく分からない鉄片や、電気コード。
パルプや機械片がカゲヅメで引き抜かれ、
バリバリと電気が弾ける。

「あばよ。海じゃぁないが・・・藻屑になりな」

ジャッカルが帽子を片手で押さえながら、
スマイルマンから飛び降りる。
と同時に、
スマイルマンの頭部が大爆発した。
様々な機械の破片が飛び散り、
まわりに花火のように散乱する。
その中で、
海賊帽子を片手で押さえたジャッカルが着地した。

「どうでぃ?」

眼帯をした顔がこちらを見て笑う。
海賊帽子のドクロも笑った気がした。

「すげぇ・・・」
「スマイルマンを一撃か・・・・」

認めるしかなかった。
何度か対峙したことがあるが、
スマイルマンに楽勝などということは一度もなかった。
44部隊でさえ多人数で相手する。
一人で倒しているのを見たことがあるのは・・・ロウマぐらいだった。
船長(キャプテン)ジャッカル・・・
たしかに凄・・・・

「いでっ!」

スマイルマンの破片がジャッカルの頭にあたった。
露骨に痛がるジャッカル。

「親父っ!」
「親びんっ!」

頭をかかえるジャッカルに、
二人の子分がかけよる。
・・・・
まぁ少し間の抜けたやつだが、
実力は本物のようだった。
アレックスは、
ただボンヤリとポンコツジャンクになった頭のないスマイルマンを見ていた。

「でで・・・べらんめぃ!痛くねぇやい!」
「でも親父・・・」
「右目から涙出てるでヤンス!」
「バァロゥ!!ルケっ子は泣かねぇ!ルケっ子が泣いていいのは蜂に刺された時だけだ!」

なんだそのこだわり・・・・

「でもなんでこんなところにスマイルマンが・・・・」
「さぁな」

ドジャーは突然ダガーを投げた。
あらぬ方向へ。
そしてそのダガーは地面に突き刺さった。

「あいつに聞いてみな」

それで全員が振り向いた。
そちらの方向に。

暗い森の中、
そこに・・・
一つの影があった。
それは・・・騎士の姿をしていた。
見たことのある姿。
顔は見えない。
深くアメットを被り、
口元以外は隠れている。
だが、
長く・・・引きずるほどに長い髪。
漆黒の黒。
暗黒のように黒い髪。

「・・・・・・・・・」

その男は口元を笑みで歪ませた。

「アインハルト!?」
「いや・・・・ツヴァイか?!」

全員が構える。
各々の武器を。
構えて睨む。
目の前の騎士に。


「やるじゃないか♪・・・・・なんちって♪」

アメットを被った騎士は、
唯一見える表情。
口元を歪ませて言う。

「違う・・・・」

アレックスはつぶやいた。

「この人はツヴァイさんじゃない・・・・」

「あれま」

ツヴァイの姿をした男は、
口元に驚きを見せた。

「こんな簡単にバレちゃうか。凄いねぇ♪でもうーん・・・・・。
 とってもエリートな変装だと思ったんだけどな・・・・・・なんちって♪」

とぼけた口調。
様子が全く違う。
アインハルトでもツヴァイでもあるはずがなかった。
言うなれば、
まず声からして違った。
口調もふざけすぎている。
完全におちょくるような口調。

「てめぇ・・・・誰だ・・・・」

「僕ですかぁ?そうだなぁ・・・・いろいろ呼ばれるよね♪」

また口元を笑みで歪ませる。

「科学者。天才。エリート。偉人。廃人。超頭脳。発明家。研究者・・・・・・・オタク♪
 悪い呼び方も良い呼び方もあるね。でも戦闘面でいえば・・・・"召喚師"かな」

「召喚師?」
「なんだその職業・・・・」
「どうでもいい!てめぇは誰なんだ!」

「イヒ♪イヒヒヒ・・・・アハハハハハハ!!!」

突然大笑いを始めるその男。
両手を広げ、
ツヴァイの姿をしたその男は笑いあげる。
そしてピタリと笑うのをやめ、
ニヤけながら言う。

「ツヴァイだよ♪」

「ウソをつくなっ!」

「ホントだよ♪・・・・なんちって♪・・・・やっぱウソーン♪・・・・・・イヒ♪・・・・・イヒヒヒヒヒ♪
 ウソっていうか・・・ん〜・・・・僕が作った変身スクロールだったんだけどなぁ♪
 エリート的に・・・天才的に・・・・こういう楽しい発明も楽しんでもらえないと!
 失望だなぁ・・・・名誉ある発明はいつになっても理解されないものだ・・・・・・・・・・・・なんちって♪」

「このっ・・・おちょくりやがって!!!もう誰でもいい!」

ドジャーはダガーを投げようとする。

「誰でもいい?心外だなぁ。でも君達にも興味のある呼び方をするなら・・・・・」

また口元が笑みで歪む。

「絶騎将軍(ジャガーノート)♪」

「な!?」

「・・・・・なんちって♪・・・・ウッソー♪・・・・・・でも本当♪・・・・どっちだろう?・・・・・・イヒヒヒヒヒ♪」

突然ツヴァイの姿をした男の周りが煙に包まれた。
逃げた?
違う。
姿を変えた。

「ホントでしたぁーン♪・・・・・イヒヒ♪・・・・・アハハハハハハハハハハハハハ!!!!」

いや、戻ったというべきか。
立ち込める煙。
大笑いの中から
その中から現れた男・・・・・
いや・・・・女?
違う。
モンスター・・・・

「こんにちは♪メデューサだよ♪」

すぐ分かった。
これも変身スクロールだ。
この男は・・・・

「なめてやがるっ・・・」
「ふざけやがってっ!!!!」

「おっとっと・・・間違えちゃった♪・・・・なんちって♪・・・・・・・・・・アハハハハハハハハハハ!!!!」

おちょくるその男。
もう一度煙に撒かれた。
煙と共に、
笑い声と共に、

「・・・イヒ♪・・・・・イヒヒヒヒ・・・・・・・・・・・・」

その男はまた姿を変えた。
煙の中からまた現れる姿。
それは・・・
今度はちゃんとした人間の姿だった。
聖11服と呼ばれるフライアフロックを着て、
黒髪に無精ひげを生やした男。
まるで一般人にしか見えないその男。
これももしかしらた偽りの姿かもしれない。
だが、明らかに壊れた垂れた眼。
歪んだ口元。
それは明らかに彼自身のものだ。
その中に見せる・・・・・・・・凄み。

「天使だったりして・・・・なんちって♪」

突如、
その男の服に煙が包んだ。
・・・・と思うと・・・男の服。
フライアフロックに羽が生えた。
天上服?
いや、
明らかに異色の天上服だろう。
だが、
答えをまったく無視をして、
男は壊れたように笑い、
話す。

「こんにちは・・・・ドラグノフ=カラシニコフだ。お別れに言いに来たよ・・・・・なんちって♪
 でも嘘じゃないけど♪・・・・あれ?どっちだろう?・・・・・・・・・・・イヒ♪・・・・アハハハハハハハ!!!!」

翼の生えた一般人。
だが普通の男から180度ズレたその男は、
天使・・・・いや、悪魔からも嫌われるような下品な笑い声をあげ続けた。















                 






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