「離せ!この下郎どもめ!」

イスカは暴れる。
繋がれた両手を振り、
抵抗する。

「暴れてもしょうがないぜ」
「それはあんたが一番分かってんだろ?」
「「大人しくしてろよ」」

二人の男。
似た顔をした二人組だ。
話によると44部隊の男らしい。
彼らがイスカを連行する。

「ったく。エースはよくこんなの捕まえたな」
「ふん締めるだけでも大変だったのにな」

二人の男は、
縛られているイスカをさらに左右から抑えながら、
暗い、
細い道を進んでいく。

「拙者をどこに連れて行くつもりだ」

王宮。
ルアス城の中。
それは分かっている。
不甲斐なくも捕まり、
連行されたのだ。
だが、
それにしては湿っぽく・・・
暗い廊下。

「どこって・・・なぁ」
「なぁ」
「「牢屋に決まってるじゃん」」

まぁ・・・
そうだろう。
捕まったのだからそうなるだろう。
その後・・・殺されるとしても。

「なるほど地下牢か。だからこうも偏屈な道なのだな」

地獄への道のようにも感じる。
まるで迷路。
地下迷路だ。
灰色が暗さで黒く装飾されている。
コンクリートに8方が囲まれた迷宮。

「なんでも昔は"ギルドダンジョン"とか呼ばれていたらしい」
「攻城の勝者が探索するな」
「城主の財産が保管されてるからな」
「ギルド金庫もここにあるからな」
「でも騎士団が頂点に立ってからは長く使われてない」
「攻城の勝者がいないんだからな」
「だからこの地下迷宮もお払い箱」
「ドラグノフの野郎が改造してこの有様だ」
「「ただの使われない地下道だ」」

ルアス城地下。
ギルドダンジョン。
イスカは連行されながらしっかりと目に焼き付ける。

絶対に抜け出してやる。

それがイスカの心にあるからだ。
そのためにはこの迷宮の地理を頭に焼き付けておかなければならない。
暗く湿った地下迷宮。
なにやら肉片のようなものも落ちている。
死体?
まぁ何に使われているのか分からないが、
基本的には誰も寄り付かない場所なのだろう。

「・・・・・・・・・?」

気配を感じる。
人のものとは思えない。
魔物?
住み着いているのか
いや、気のせいだろう

「ったく。俺達もヒマじゃないってのになぁ」
「外で運動してぇなぁ」
「野球をな」
「サッカーをな」

そうこうしている間に、

「「ついたぞ」」

牢屋だった。
地下の中に並ぶ牢屋。
長い長い牢屋。
左右に鉄格子が並んでいる。
何部屋あるのか。
暗く、奥が見えない。

「あんたの部屋は一番奥だ」
「さっさときてくれ」
「「俺らも手荒なマネはしたくない」」

さらに連れられる。

牢屋の道を真っ直ぐ進む。

「だせーー!」
「いらっしゃぁーい♪」
「クソ!!てめぇら死ね!!」
「新人!新人!!」
「うぅ・・・うぅ・・・・」
「女だ!女ぁぁあ!!」

牢屋。
鉄格子と壁だけの境目。
左右全て鉄格子の道。
そのほとんどの部屋の中に人間がいた。
処理されてない体毛。
洗っていない不清潔な人間達。
イスカが通るたび、
鉄格子まで寄ってきて言葉を煽る。

「ひひ・・・・」
「うぉ、リーガー兄弟だ。初めてみた」
「出してぇぇ!!もう悪い事しねぇよぉ!」
「ヒュー♪お侍さんベッピンだねぇ!」
「助けて・・・助けて・・・」

「くだらん囚人だらけだな」

牢に閉じ込められた者達。
イカれた物。
うずくまる者。
泣く者。
煽る者。
様々な人間が閉じ込められている。

「囚人?」
「どうだかな」
「犯罪者より邪魔者が多い」
「アインハルト様の邪魔者がな」
「反乱者」
「抵抗者」
「そんな奴らがぶち込まれるのさ」
「正義に反して捕まってるわけじゃないんだ」
「「悲しいもんだな」」

なるほど。
そう思う。
自分もそうだからだ。
犯罪を犯して捕えられたわけじゃない。
まぁ・・・元を辿れば自分も犯罪者。
賞金首なので文句など言えないが・・・・

「ついたぞ」
「ここだ」

一番奥だった。
長い長い牢屋の道を超え、
突き当たり、一番奥。
一つ特別性の鉄扉があった。
まるで化け物でも閉じ込めておくような、
特注の牢屋が突き当たりにあった。

「これはいい待遇だな」

「違う」
「お前はこっちだ」

イスカはすぐ横の牢屋に押しいれられた。

「くっ・・・・」

何も特別扱いではなかった。
特注の牢屋ではなく、
並ぶ鉄格子の牢屋の一つ。。
その一番奥というだけだった。

「じゃぁな」
「元気でな」
「「機会があったら外で遊ぼうぜ」」

二人の男は牢屋に鍵を閉め、
どこかに行ってしまった。

牢屋。
この個室。
窓もなく、
鉄格子で遮られているだけのコンクリートの部屋。
汚いベッドとトイレ。
何かしら湿っている。
この不清潔なところでこれから生きていくのか・・・・

「たまらぬな・・・・だが不覚をとった拙者が悪・・・・・」

イスカは・・・・そこで言葉を止めた。
いや、止めたのでなく・・・止まった。
何もかも。
脳の思考回路も。
視覚に流れ込んできたソレ。
ソレを見たら真っ白に・・・・

「マリナ殿っ!!!!!!」

イスカは飛び出す。
そして鉄格子にぶつかる。

「マリナ殿っ!!マリナ殿マリナ殿マリナ殿っ!マリナ殿ぉおおおお!!」

「・・・・・・?」

目の前の牢屋。
向かいの牢屋。
その牢屋のベッドの上で蹲る者。
女性・・・。
それはどう見ても・・・マリナだった。

「・・・・・・イスカ?」

マリナは目を見開いて顔を上げた。
少しやつれている。
だが正真正銘マリナだ。

「なんでここに・・・・」

「マリナ殿っ!!マリナ殿っ!!!」

イスカは鉄格子を揺らす。
鉄格子を殴る。
だが鉄格子はビクともしない。
近くの牢屋の囚人からブーイングが聞こえてくるだけだ。

「無理よイスカ。私も結構いろいろ試したからね」

マリナはソッと苦笑いをした。
だがイスカはやめず、
鉄格子を揺らしながらマリナに叫ぶ。

「マリナ殿っ!なんでこんなところにっ!拙者はずっと・・・ずっと探しておったのだ!」
「なんでってねぇ・・・・」

マリナはもう一度苦笑いをする。

「単純明快よ。捕まったのよ。一年前にね。
 私の力じゃあの地獄の戦場から生還するのは無理だったわ」
「否!拙者の力が及ばなかっただけで!マリナ殿は何も!」
「変わってないわねぇあんたは」

マリナは微笑んだ。
久しぶりに見た笑顔。
この笑顔が見たかった。
だが・・・
少しやつれた顔での笑顔。
それを見ると怒りが煮えたぎってくる。

「くそっ!騎士団の奴ら!よくもマリナ殿をこんな目にっ!
 許さぬ!こんな不衛生な場所でマリナ殿が弱ってしまったら!」
「まぁまぁイスカ。暴れても無駄よ。少し冷静になりなさいって」

マリナがイスカをなだめる。

「これでも一応この間までいい生活させてもらってたのよ?
 こんな地下牢じゃなくてちゃんとした王宮の個室でね。
 まぁ監禁には変わりないけど、衣食住は全部揃えてもらえるいい生活だったわ。
 料理もやらしてもらえたしね。ただ・・・・・昨日いきなりここにぶち込まれてね」
「昨日?マリナ殿もこの地下牢に来たのは昨日なのか」
「うん。まぁつまるところ・・・・・あれから調度一年目の日って事ね」

それはつまり・・・・
アレックスの裏切りが理由だろう。
それを境目にここにぶち込まれた。

「でもご無事でよかった・・・・」
「あら?これが無事なのかしら?」
「あ、いや・・・ただ生きていた事がむしょうに嬉しくて・・・・」

無事かと言われればどうかは分からない。
マリナは明らかにやつれている。
生活は一年間不自由のないものだったかもしれないが、
ストレスか何かだろう。

イスカの心の中に嬉しさがあることは否めなかった。
もしかしたら・・・死んでしまったのではないか。
そんな事を思っていたのだから。

「でも何故騎士団のやつらはマリナ殿を生かしておいたのだろう・・・」
「なぁーにぃ?死んじゃえって思ってたの?」
「ち、違う!滅相も無い!ただ捕えておくメリットはなんだったのか・・・・」
「あー、まぁ私も最初は不思議だったけどね。途中で考えるのやめたわ。
 考えても答え出てこないしね。何かしら理由があるにしてもロクな事じゃないわ」

マリナを捕えていた理由。
たしかに考えても現時点では分からないし、
ろくでもないことだろう。

「それよりイスカ」

マリナは向かいの牢屋のベッドの上で、
優しく微笑んで言った。

「ありがとう」

突然言われたお礼。
イスカには何がなんだか分からなかった。

「何の礼か分からんのだが・・・マリナ殿」
「何言ってんの?店守っててくれたんでしょ?それとも守っててくれなかったの?
 あんたなら守っててくれると思って安心してたんだけどなぁ〜」
「!!? Queen Bはちゃんとお守りした!安心してくだされ!」

マリナは・・・
自分を信じてくれていた。
何も情報がなくとも、
自分がそうしていると信じてくれていた。
そう思うとむしょうに嬉しかった。
あの虚しい一年は・・・無駄ではなかった。
何一つ悔いはない。

「マリナ殿」
「・・・・ん?」
「絶対に脱獄してやりましょう!!」

なんと不謹慎なことを叫ぶものだ。
マリナも驚いていた。
だがイスカは居ても立ってもいられないのだ。
目の前に最愛の女性がいる。
そして目に見えるほど、話して分かるほどにいつもより元気がない。
一刻も早くここから連れ出してあげたい。

「どうやって?」
「・・・・・」

イスカは黙り込んだ。
そこまで考えていない。
とりあえず自分の腰に手を回す。
クセだ。
だが剣など没収された。
剣無き侍役立たず。

「うぉおおおお!!!」

なのでとりあえずイスカは鉄格子を揺らした。
鉄格子を壊そうとした。
だがビクともしない。
当然だ。

「・・・・・全く・・・いつも考えなしなんだから」

マリナがため息をつく。
イスカは少ししょんぼりした。

「でも・・・その発想。少し元気が出たわ」

マリナはそう言うなり、
立ち上がった。
そして拳を思いっきり。

「てぇい!!」

壁にぶつけた。
壁に腕の跡が残る。
どんな怪力が備わっているのか・・・・

「あぁーもぉー!ムシャクシャしてきたわ!そうよね!
 このマリナさんを一年も監禁して、その上こんなとこにぶち込んで!
 許せないわよね!目にものを見せてやるわ!
 この罪は万死に値する!騎士団の奴らに万倍にして返してあげるわ!」

いつもの・・・
いつものマリナだった。
それを見るとイスカにも元気が出る。
この人を・・・
この人をまた外の世界に連れて行ってあげたい。
そのためならどんな事でも。

「でもとりあえず方法思いつかないわね」
「え?」
「とりあえずはボォーっとしてましょうか。汚いところだけど死ぬわけじゃないしね。
 それに私がここに居るって知らなくても、イスカが今回捕まったからね。
 もしかしたらドジャー達が助けに来るかもしれないわね!イスカ!ナイス失態よ!」

嬉しいやら嬉しくないやら・・・
褒められてるやら貶されてるやら・・・。
だが、
必ずマリナを連れて脱獄してやる。
イスカはそれだけを心に刻んだ。
















S・O・A・D 〜System Of A Down〜


《 墓の上で嘆くもの」(The one want to nothing) 》












「さぁて。飛ぶぜ?いいかアレックス」

ミルレスの外れ。
といってもミルレスはほとんど廃墟も同然であるため、
人気はどこもない。
そこに立っているアレックスとドジャー。

「ダメって言ったら?」
「・・・・おめぇはなんでいちいちそうも面倒なんだ」
「ドジャーさんをからかうと僕が楽しいからです」
「カッ!それはそれは・・・・・あまりにも納得できる理由でムカツいてくんぜ」
「僕の思うつぼですね」
「あーそうだよ!少し黙れ!」

アレックスはクスりと笑う。

「ま、行きましょうか。"本拠地"ってところに」
「おうよ」

ドジャーは記憶の書を取り出す。
今回アレックスとドジャーの目的地。
それは・・・・反乱軍の秘密基地とやらだ。
これからの事を考えると、
まずそれが第一だ。
個人だけで帝国を倒せるものではない。
作戦を立てるにしろ、
まずいろいろと知っておきたかった。
そして自分だけでなく、
ドジャーのこの一年の功績とやらを。

「ほんじゃ飛ぶぜ」
「ダメって言ったら?」
「無視だ。それはもういい」

ドジャーはもう一度周りを見渡し、
人がいない事を確認したあと、
記憶の書のある1ページを開いた。
と同時に、
アレックスとドジャーは光に包まれ、
空へととんだ。
































アレックスとドジャーの光。
その光が急降下し、
そしてある場所にたどり着いた。

「ついたぜ」

アレックスが周りを見渡す。
思いがけない場所だった。
周りの風景。
いや、
まず場所からだろう・・・・。

・・・・・・・洞窟だ。

真上。
そこだけが空間。
吹き抜けになって太陽が照らしている。
周りに木々が見える。
どこかの森の中なのだろう。
そのどこかの森の中に大きく開いた穴とでも言うべき場所。

森の中の大きなアリの巣。

「どこなんですか?ここ」
「どこか分からないから秘密基地ってやつなんだろうけどな。
 ま、どこかって言うと"スオミの森"付近だ」
「スオミの森ですか・・・」
「そ。そしてこの洞窟は・・・・・・・昔"スオミダンジョン"と呼ばれていたところだ」

スオミダンジョン。
聞いた事ある。
スオミの森にある地下洞窟だ。
昔王国騎士団による討伐により、
入り口が崩れて立ち入る事が出来なくなったと聞いた。
地図から消えたダンジョン。

「なるほど・・・たまたまスオミダンジョンの天井が崩れた場所を見つけたんですね」
「そうだ。どうやったって見つからねぇよ。記憶の書で直にここに降ってこない限りな。」

スオミの森の地下にアリの巣のように存在するスオミダンジョン。
入り口は破壊されている。
だが、
たまたま天井が崩れた一箇所。
入り口なきダンジョン。
たしかにここは安全かもしれない。

「ってぇ事でこのスオミダンジョンが俺らの本拠地だ。ようこそ"反抗期の巣窟"へ」

ドジャーが手を広げる。
そしてアレックスが周りを見渡す。

人。
そう人がいるのだ。
大勢・・・。
100や200なんて数じゃない。
もっと・・・
もっと沢山の人々。

「おいっ!新人だぞ!」
「騎士だ騎士だ」
「新しい仲間かしら?」
「おいおいまさか帝国の奴じゃないだろうな」

そう。
この洞窟。
街のように人が住んでいるのだ。
かなりの数。
ここから見えるだけでも
数百は超えているだろう。

テントがある。
沢山の道具。
家だ。
彼らはここに住んでいるんだ。
テントだけでなく、
軽い建築物もある。
洞窟の中に・・・・

「彼らはなんですか?」
「見たまんまだ。住んでるんだよこのスオミダンジョンにな。
 つまるところ疎外者だ。上の世界で生きていけない奴らだよ。
 元15ギルド員だから見つかり次第殺されるとか、
 そういう奴らに場所を提供してるんだ。もち仲間でもある」

洞窟の中にひっそりと住む人々。
帝国アルガルド騎士団とは合わない人間。
理由はいろいろだろう。
帝国に逆らいたい。
帝国から嫌われている。
帝国の世の中で生きたくない。
そして・・・・・・・帝国に一矢報いてやりたい。
そんな人々がここで生活している。

「基本的に奴らには"時"が来るまで出入りは禁止してる。
 この隠れ家を出入りしていいのはギルドマスターやら、
 反乱軍の重要関係者だけだ。ま、俺もその一人に入るわけだ」
「あんまり頻繁に出入りしてたらバレちゃいますもんね」

帝国に見つかったらこの隠れ家も終わりだ。
帝国のたった一人にでもバレたら終わりなのだ。
徹底しなければならない。
だから重要人物以外は出入り禁止。

「"来たなら出るな"。悲しいがそれがここのルールだ。
 つまり長い奴はミルレスでの戦争後から一年間ここを出ていない」
「一年も・・・・ですか」
「あぁ。自給自足だ。見ろよ」

ドジャーが指を指す。
そこは・・・畑だった。
洞窟の中に畑?

「この天井が崩れた入り口だけは日の光が差すからな。
 畑も作ってある。出入りを禁止しているからには食料もここで作らなきゃいけねぇからな。
 まぁどうしても手に入らないもんは幹部クラスが外から調達してくるけどよぉ」

畑。
なかなか見事なものだ。
洞窟の地面など堅くて耕しにくいに決まっている。
だが立派な畑が出来ている。
ここの人間にとって、
世界はここなのだ。
このスオミダンジョンだけが行動範囲。
だからこの中でだけで何かをしていかなければならない。

「ま、説明はこんくらいでいいだろ。奥行くぜ」

ドジャーがついて来いと腕を振る。
アレックスはそれについていく。
スオミダンジョンの奥へと。

ドンドンと日の光が消えていく。
日の光が差しているのは、
天井の崩れているあの入り口だけなのだろう。
そこから先は人工的な光で照らされていた。
ロウソク、魔電灯。
暗く湿ったダンジョンの中に、
ボンヤリ光る灯り。

「結構沢山人がいますね」
「そりゃいるさ。世間から省かれたやつってのは少なくねぇんだよ」

洞窟の通路にもやはり家がある。
それはやはりテントだったり、
木を簡単に組み立てたものだったり、
レンガを積んだものだったり。
人が生活しているのだ。
このダンジョンで。
辛そうだが、ちゃんと生活している者達の顔だ。
笑顔がある。
会話がある。
雑談がある。
世間話がある。
このご時勢のこの地面下で、
人間らしい生活が存在していた。
ここまで歩いてきただけでも数千の人が暮らしているのだと分かる。
子供も居ればか弱い女性もいる。
街。
ここは一つの街だった。

「俺らも当分ここ暮らしだからな」
「了解です」
「お?素直だな。なんか文句くると思ったけどよ」
「御飯は食べれると分かりましたから」
「問題はそこだけかよ・・・・」
「はい」
「もっとこう・・・なんでこんな洞窟でホームレスみたいな生活しなきゃなんないんだ!
 ・・・・・・・とかそういう文句はねぇのか?気ぃ使ってんなら言えよ」
「家が欲しかったら建てればいい。お腹が空くなら作ればいい。ここはそういう場所でしょ?」
「・・・・・ハハッ、お前のそういう解釈が好きだぜ」

そう。
ここは不自由という名の自由な場所なのだ。
99番街と同じ。
何もルールがないのだ。
法というルールが。
だからこそ力を合わせて生きていく原始的な場所。
だが・・・アレックスはそういう世界が必要だと思っていた。
それはずっと思っていた事だった。
オブジェを盗んだときからずっとだ。

「あれが本部だ」

目の前に少し大きめのプレハブが見えた。
一階建ての安っぽいプレハブ。
だが、
他の建物よりはしっかりしているだろう。
暗く、
湿った洞窟の奥。
人工的な光で照らされたプレハブ。

「よぉーっす。帰ったぜ」

ドジャーがガタガタのドアを開ける。
開けるとそこは40畳ほどの空間だった。
一部屋には大きいが、
その一部屋だけのプレハブ小屋。
大きなテーブルと、椅子がまばらに並ぶ。
武器が立て掛けてあったり、
汚いソファが置いてあったり、
娯楽が落ちていたり、
なんとも役にたたなそうな物ばかりの棚が並んでいたり。

「なんか不良少年達の秘密基地みたいですね・・・・」
「それで十分だ」

そして・・・・何人か人がいた。

「あーーもう!!これ以上こっちの経費は削れないわ!」
「何言ってんのお姉ちゃん!!畑に使うお金は削れないのよ!」
「んじゃぁマリの方で削ってよ。あたいの方はもう削れませ〜ん」
「まってよルエン、スシア・・・こっちはまだ計算中で・・・」

ルエン・マリ・スシア。
ロイヤル三姉妹だ。
それぞれ書類を机の上にぶちまけ、
算盤を弾いている。

「なんでこんなに足りないの!」
「あの極潰しの海賊野郎のせいじゃない?」
「基本的にギルドからの入金が少なすぎ・・・・あっ!!」

ルエンがドジャーの姿に気付き、
椅子から立ち上がる。
書類が舞った。

「いいところに来たねドジャー!今月分もこの巣(コロニー)のお金足りないのよ」

ルエンがずかずかと近づいてくる。

「また貯金下ろすわよ!いいわね」

「あ・・・あぁ好きにしてくれ・・・」
「貯金ってなんですか?」
「チェスターのだよ。溜め込んでるからな。どうしても足りない時だけ使わせてもらってんだ」

「ってあら、アレックス君じゃない」

「お久しぶりですルエンさん。スシアさん、マリさん」

スシアは机で優しく手を振った。
マリはこちらも見ずに軽く手を挙げただけで、
算盤を弾くのに必死だ。

「ルエンさん達もここの住人なんですね」

「住人なんてもんじゃないわよ!迷惑しちゃうわ!」
「マリお姉ちゃんのせいだもんねー」
「・・・・・何回もその話はやめてよ」

マリはショボんとしながら算盤を弾くことでごまかした。

「マリが《GUN'S Revolver》だっけ?あれの人間でしょ?だから上じゃ暮らせないわけよ」
「15ギルドの人間なんて上じゃぁ即牢獄か、処刑だもんね」
「だからあたいらも巻き添えで地下行きってわけ」

アレックス的にはその事情よりも、
3姉妹が再び一緒に暮らしている事を聞きたいかった。
だがヤボな話かもしれない。

「カッ、まぁこいつらには助かってるぜ。アベル出身の生粋の商業娘3人組だ。
 反乱軍とこの地下の"事務仕事"は全部この3人に任せてある」

「簡単に言うわね・・・・」
「こっちはもう算盤と数字付きの紙切れを見るのもイヤになってきてるってのにね」
「腰が痛くて商業病になりそうだわ」

・・・・・と文句を垂れながらも、
三姉妹はまんざらでもなさそうだった。
家庭の事情。
この3人はかなり長い間離れ離れだったはずだ。
それがまた家族のように文句を言い合っている。
今も苦しい生活かもしれないが、
この3姉妹にとってはこれでよかったのかもしれない。

「あ、そういや今チェスターが入院してっからよ。金使い放題だ。もうほとんど下ろしちまおうぜ」

なんと酷い事を考える人だ。
人徳的にありえない。

「なにそれー」

マリが算盤と書類を投げ出す。

「んじゃ今やってる数字合わせ意味ないんじゃない!」
「もっと早く言ってよもー!」
「チェスター君の貯金って使った分差し引いてもまだ10億グロッドくらいあったでしょ?」

10億・・・・
とてつもない数字だ。
チェスターはそんなお金の使い道がないのだから欲の無い男だ。
だが、
彼の稼いだお金が人々を生かしているならば、
やはり彼はヒーローと呼ばれるに値する。

「何言ってんのよ。ここでの生活があとどれくらい続くのか分からないのよお姉ちゃん」
「あぁまぁ・・そうね。貯めとくに越したことないか。
 10億ったってこれだけの人間の生活に当てると余る額じゃないわ」
「でもとりあえず2億くらいは一気に施設完備に使いましょ」
「そうね。居心地は大事だわ。水をもっと多めに引っ張ってくる工事をして〜」
「あと食料をもっと確実に確保できる環境だけ作っておきましょ」
「ミルレスに作った仮設水田も帝国に潰されたわよー。
 地下にはもう食料作るスペースないから何かしら対策たてないと」
「家無しがまだ78人いるのよ〜?そっち先じゃない?」
「人は増える一方だからそっちが先かもね。材料多目に発注しといて。
 人手だきゃあるんだから空いてる男に家造りやらせとけばいいわ」

三姉妹が書類を囲んで睨めっこだ。
なかなか頼りになるお嬢さん方である。

「ちゃんと仕組みできてるんですね」
「あぁ。生きることに必死だからな。俺らはこのスオミダンジョンを巣(コロニー)って呼んでる」
「アリの巣みたいなもんですからね」
「カッ!俺らはアリンコよりしぶといけどな」

そう言ってドジャーは汚いソファに寝転がった。
アレックスは適当に槍を立て掛け、
そのソファに腰掛ける。
見渡すとやはりゴチャついた部屋だ。
仕事場とか休憩場とか関係ない。
まさに子供の秘密基地みたいな場所だった。
けん玉が落ちていたのでふと拾ったが、
まぁ別に遊びたくもないのですぐ横に置いた。

「で、ドジャーさん。この会議室みたいな所に案内されたわけですけど、
 何いきなりグータラしてんですか。「ここが俺のオアシスだ」みたいな態度とられても・・・」
「あ?・・・・いや、主役がいねぇんじゃどうしようもねぇ」
「主役?」
「ジャスティンだよ。あいつに説明させる」
「あぁなるほど」
「俺はちゃんと全部把握してるわけじゃねぇからな」
「でしょうね」
「なんだその納得。ケンカ売ってんのか?」
「ケンカは売りませんが酷く納得です」

「あらま。やっぱドジャーはそんなもんよねぇ」
「難しい事は分からないけど頑張りますみたいな?」
「苦労は認めるけどねぇ」

「うっせぇぞ三姉妹!テメェらは算数でもしてろ!」

「あらあら。この巣(コロニー)の生命線に何てこというのかしらね」
「小遣い減らしちゃえばいんじゃない?お姉ちゃん」
「大体あたいらが仕事してるのにソファに寝転がって文句言う根性が凄いわね」

「カッ、これだから仕事する女はウゼェ」

ドジャーはソファの上で寝返りをうつ。
顔を逆に向ける。

「あーら。男女差別する気?」
「仕事しない男に言われたくないわねー」
「女が仕事して何が悪いのよ」

「うるせぇうるせぇうるせぇ!世の中女に有利に出来すぎてんだよ!
 男に任せてグータラ生きるもよし。夢を持って仕事するもよし。
 なんじゃそりゃ。ケンカ売ってんのか?どんだけ自由なんだよ」


「お前が仕事や夢を語れる人生を歩んでると思わなかったぜ」

ドアが開いた。
と同時に一人の男が入ってきた。

「あ、ジャスティンさん」
「やぁアレックス君。久しぶりだな。無事合流できたみたいで良かったよ」
「無事でもなかったんですけどね」
「まぁまぁ。挨拶だよ」

ジャスティンはアレックスに笑顔を振りまいた後、
歩く。
ソファの前まで。
逆を向いて寝転んでいるドジャーの前まで。

「ほれドジャー、疲れてんのは分かるけどよ。人前でグータラすんなって」
「いでっ!」

ジャスティンはドジャーを蹴飛ばし、
さらに奥へ歩いていく。
そして一番奥の少し大きめの椅子に腰掛けた。
特注っぽい椅子だ。

「んじゃ改めて・・・・・・。ようこそアレックス君。"反抗期の巣窟(コロニー)"へ」

ジャスティンは特注の椅子にふんぞり返って言う。

「誰様だテメェは!!」

ドジャーがそんな姿を黙っているはずがなかった。
というか蹴られたのが許せないのだろう。

「いいじゃないかドジャー。少しカッコつけたかっただけだ」

アレックスはクスりと笑い、
立ち上がって移動する。
ジャスティンの近くの椅子へ。
テーブルを挟んで向かいになる形で。
ドジャーは相変わらず汚いソファで寝転んでいる。

「って事でさっさと本題を聞きたいんですけど」
「だろうね。ま、この場所についてはあらかた聞いてるんだよな?」
「はい。騎士団から反する者。または疎外された者。自由に生きたい人。
 そういう人がこのスオミダンジョンに集まってるんですよね?」
「そういう事」

ジャスティンは両肘をテーブルの乗せる。

「でもアレックス君が聞きたいのは・・・反乱軍の戦力の方だろ?」
「ドジャーさんより話が早くて嬉しいです」
「だろ?」
「うっせぇ!!そう思って俺はジャスティンを待ったんだよ!!」

ドジャーがソファに寝転がりながら、
こちらに罵声を飛ばす。

「分かった分かった。話の邪魔をしないでくれドジャー」
「カッ、」
「で、率直に言うよアレックス君」
「はい」
「戦力についてだが・・・・・・・・・」

ジャスティンの顔が真剣になる。
少し間を置き、
ゆっくりと口を動かす。

「3000」

数。
それだけを簡潔に述べた。

「3000人ですか」
「どう思った?」
「そうですね・・・・」

アレックスは少し考え、
言いづらいような口ぶりで言った。

「正直・・・・・辛い数です」
「だろうな」
「もちろん騎士団に対抗しようという人が3000人もいる。
 それは逆にいえば多いくらいの数です。贅沢な数です。
 ですが、3000なんて戦力は騎士団の前では前菜ですね」
「・・・・・・正直すぎるな」
「はい。嘘言ってもしょうがないですから。
 予想の範囲を上回っても下回ってもいない数でした」
「君には敵わないな・・・・」

ジャスティンはまた椅子にもたれかかる。
予想はしていたが、
アレックスから聞かされると現実を受け止めさせられる。
現戦力では敵わないという現実を・・・。

「・・・そうなると・・・・・・"質"なんですけど」
「質か。まぁ3000人の構成って形で話すよ」

ジャスティンはまたテーブルの上に両肘を乗せる。
と思うと、
片腕を伸ばし、
マリの机の上にあった書類の一枚をとってアレックスの目の前に差し出した。

「3000のうち、半分はGUN'Sの残党だ」
「それまた荒っぽい割合ですね」
「だな。GUN'Sの残兵なんてとても精鋭とは呼べない。ほとんどはミルレスで死んだからね。
 召集されなかった底辺と、なんとか生き残った・・・・って程度を合わせて1500って話かな」
「寄せ集めギルドのGUN'Sがまとめてるのは?」
「俺とマリさ」

ジャスティンが仕事中のマリを見た。
マリはチラりとだけ目線を返し、
また書類という恋人に目を戻した。

「六銃士である俺と、再装填メンバーのマリ。それだけでなんとか繋ぎとめてるって感じだよ」
「なるほど」
「だから半分を占めるGUN'Sをまとめてる者って事で納得してもらい、
 俺が反乱軍のリーダー的な位置に座らしてもらってる。必要な役割だからな。」
「はいはーい」

ドジャーがソファの上で手をブランブランさせる。

「反乱軍のリーダーであるジャスティンさんにしつもーん。
 そのリーダーさんのギルド《MD》のマスターは俺だぜー?分かってるかおい」
「分かってるっての。少し黙ってろドジャー」
「カッ、」

どれだけひねくれてるのだろうか。
まぁ、ジャスティンが反乱軍のリーダー。
それはなんとなく予想できていたことだ。
他に適任者がいないからだ。
ドジャーは自由すぎて大軍を指揮するに向いていない。
というか本人だって面倒くさがるだろう。

「で、残りのメンバーだが」

ジャスティンはさらに書類を引っ張ってくる。
3枚の書類だった。

「GUN'Sはザコ兵のみと考えてくれ。そして戦力になるギルド。
 それは基本的にこの3ギルドだけだ。この3っつのギルドが反乱軍の要だ」
「えぇーっと・・・・」

アレックスは3枚の書類を見る。
一つ一つがギルドの書類だった。
丁寧な字。
三姉妹の字だろう。
丁寧な仕事をする事務員だ。
だがそんな事はいい。
問題は内容だ。

「《メイジプール》、《昇竜会》、《BY-KINGS(ピッツバーグ海賊団)》・・・ですか」
「なんとなく質問は分かるから説明しとくよ」

話の分かる人だ。

「まず《メイジプール》な。たしかに壊滅した。全滅っていってもいいギルドだ。
 だがただ一人の生き残り・・・フレア=リングラブを中心に再結成した。
 スオミの魔術師はプライドが高い。易々と帝国の狗にはなりたくないという者が多かったようだ」
「数は?」
「残念ながら50〜100ってとこか」
「ただ・・・・・精鋭だってことですね」
「そういう事」

ジャスティンはニヤりと笑って返す。

「これが全部魔術師なんだ。個人のレベルも高いな。
 戦争規模の戦いになったら彼ら《メイジプール》は千にも勝る戦力になるだろう」

魔術師。
それは重要な役職だった。
攻城戦などでも重要視される。
その攻撃範囲と威力がハンパないからだ。

「まぁ昔の《メイジプール》に比べたら1回りも2回りも劣化してるがな。
 あくまでスオミで募った寄せ集め。統率力もフレアがいてこそのもんだ」

メイジプールのトドメを刺したのは・・・・
自分達だった。
もしフレアごと完全壊滅していたらこの規模の戦力が今無かった。
そう思うとやはり昨年、已む無くともメイジプールと戦ったのが悔やまれる。

「で、《昇竜会》だ」

ジャスティンは書類を変える。

「あの・・・・」
「分かってる。リュウの話だろ?」
「はい」
「予想してる結果と変わらないよ。・・・・・・・・・・惜しい男を亡くした」
「そうですか」

死亡は報告されていた。
ただ、
もしかしたら・・・・。
そうも考えていた。

「はっきり言う。大きすぎる大黒柱リュウ=カクノウザンを失った《昇竜会》。
 やはり・・・・昔と比べれば劣化版とでも言うしかない」
「数は」
「500。ミルレスでの戦争で半数以上が死んだ。これでも少し増えた数なんだ。
 逆に言えば、独自の逃走ルートを持っていたからこそ半分も生きながらえる事ができた」
「リュウさん亡き後、誰が指揮を?」
「トラジ=テンノウジ」

よく知らない。
だが恐らくリュウの隣にいた若頭(オフィサー)。
それがトラジなのだとなんとなく理解した。

「リュウから正式に愛木刀"大木殺"を受け継いだからだ。下からの不満もない」
「不満がないのはそれだけじゃないでしょう」
「・・・・・・・?」
「そのトラジさんが昇竜会を継いだが・・・・トラジさんを含め、皆リュウさんを信仰して動いている。
 今でも心にはリュウ=カクノウザンが組長。頭と思って行動している・・・・・でしょ?」
「アレックス君・・・君は鋭すぎて助かるよ」

ジャスティンはため息交じりに笑った。

「そう。トラジは今も"リュウの親っさん"を忘れずにいる。
 実質頭でありながら、今でも若頭(オフィサー)を名乗っている。
 今でも昇竜会を繋ぎとめているのはリュウ=カクノウザンなのさ」

納得がいく。
たった一人の志。
それに集いしヤクザ達。
彼らは未だ心変わらず動く。
理由はたった一つ。
リュウの意思。
"仁義"
その二文字のためだけに、
彼らは帝国には屈しない。

「奴ら500が最大戦力だと思ってくれ」
「カッ、ヤクザが最大戦力ねぇ。俺達省かれ者にはお似合いだな」

ドジャーがソファの上から言う。
なんだかんだで会話に混じりたいんじゃないか?

「で・・・最後に・・・・《BY-KINGS》」

知り会った事の無い名のギルドだ。
だが名前はよく聞く。
ルケシオンの海賊団。
15ギルドの一つだ。

「こっちはこっちでほとんど壊滅状態だ」
「・・・・・きいてます。昨年ロウマさんと44部隊の襲撃にあったと」
「そうだ」
「規模は?」
「300といたところか。まぁなかなか使える分には頭数はいる。
 だが《昇竜会》と《メイジプール》と違うところは・・・・ギルドマスターが生きてる事か」

ギルドマスター。
《メイジプール》は世界最強の魔術師と言われた魔道リッド。
《昇竜会》は不屈の大黒柱リュウを失っている。
それゆえに劣化している。
だが・・・《BY−KINGS》は違うらしい。

「ギルドマスターは"船長(キャプテン)ジャッカル"。ジャッカル=ピッツバーグだ。
 代々伝わるルケシオンの海賊一族の現頭だ。何代目だったかな・・・・」
「そのジャッカルさんという人は・・・・44部隊に襲われてよく無事でしたね」
「無事じゃぁないさ」
「ありゃ・・・」
「ジャッカルはロウマに襲われて片目と片腕を失っている」
「逆にロウマさんからそれだけの被害だった事に賞賛しますよ」
「あぁ。かなりのやり手だ。反乱軍の中でも個人的な白兵戦力はジャッカルが一番かもしれない」

チェスターがいるのにも関わらず、
そう言うのはかなりの戦闘力の持ち主という事だろうか。
単純に15ギルドの頭という立場を考えただけで、
リュウのような強さはもっていると想像はできる。

「で、300って数ですが」
「あぁ、44部隊に襲われて7割ほどのギルドメンバー(クルー)を失ったと言っていた。それと船5隻」
「船?」
「海賊なんだ。海軍なんだよ」
「あるほど・・・」
「海に逃れたからこそ44部隊からも逃げ切れたらしい」
「でもルアスに海はないですよ。帝国相手には使えません」
「あぁ。だが海軍はどこかで使えるかもって話だ。
 少なくとも海の上であいつらに敵うやつはいない。帝国にもな」
「陸戦では役に立たないですか?」
「いや、そうでもない。だからこの要の3つの1つなんだ」
「具体的には?」
「カッ、勉強好きだねぇ」

ドジャーがまた横から言ってくる。
するべきなんだからさせてくれ。
ナマケモノはなまけててくれ。

「具体的には・・・・魔物が絡んでることか」
「魔物?」
「ギルドメンバーに魔物がいるんだよ。だから正式な数は分からない。
 もしかしたら500を超えてるのかもしれないしよく分からんギルドだ」

魔物もギルドメンバー・・・
たしかにそれは特殊だ。
そして要に成りえるギルドでもある。
向こうにも魔物はいるのだから。

「ま、あとは中小ギルドが規模に関わらずいれると2・30ギルドいる。
 10人規模やら2人しかいないギルドやら様々だがな。
 人間的な質を考えてもそこら辺は雑兵程度に考えてくれればいい」
「とにかく3000」
「そう。とにかく3000。これが反乱軍の規模だ。
 皆必死だよ。生き残るためにな。しかも全員が全員反抗の意思が強いわけじゃない。
 15ギルドに加担していたから已む無くこっち側にいるってやつもいるな。
 《BY-KINGS》が典型的だ。あまり戦う意志が見られない。已む無く参加している感じだ。
 その他にも、ただこっちが面白そうだと思ったからだとか、
 家族をこのコロニーで養っていくために・・・・なんてやつもいる。
 人手はたしかにある。余るほどな。だが戦力は足りない。この一言に尽きる」

ジャスティンはそう言って黙った。
頭の痛いところだ。
なんとも・・・難しい話だ。

戦力は3000。
そして戦力にならないその家族達もコロニーで暮らしているのだろう。
このコロニーは一つの国のようなものだ。
その社会を構築していく中、
戦力についても考えなければならない。
その天秤。
ジャスティンじゃジャスティンなりにかなりの辛い仕事だっただろう。

さらに戦力。
増強したいところだ。
だが、15ギルドのように已む無く疎外されたものたち。
それは全て反乱軍の中にもういるだろう。
ならば・・・
わざわざ帝国に逆らおうと思う輩がこれから増えるのか?
・・・・・・・・・無理だ。

「3000で何が出来るんだよ」

ドジャーが分かっている事を軽くのべる。

「あっちは数万って話じゃねぇか。それに絶騎将軍(ジャガーノート)、44部隊。
 カッ、お祭り騒ぎだな。勝てる気がしねぇ。1mmもな」

まぁ全く勝利の見えてこない話だ。
だが・・・
やらなくてはならない。
でも少しだけこの場を和らげるとっておきがある。
それをアレックスは隠し持っていた。

「あの・・・・ついでに僕からお土産があるんですけど」

アレックスが微笑んで言う。

「・・・・いりますか?」
「土産?」
「なんだそりゃ」
「欲しいですか?」
「いちいち面倒なやつだな・・・」
「一体なんなんだ?」

アレックスは微笑んだまま、
懐を漁る。
そして出てきたのは一枚の紙切れだ。
それをテーブルの上に置く。
・・・・。
名前が並んでいる。
とてつもない数の名前だ。

「なんのリストだ?」
「兵士2000人のリストです」
「は!?」
「にせっ・・・」

ジャスティンが目を見開く。
ドジャーもソファから飛び起きる。
3姉妹も仕事の手を止めてこちらを見た。

「2000?2000って何?」
「ただの名前表なの?」

「いいえ。・・・・・・反乱軍に2000。追加して欲しいって事ですよ」

ジャスティンとドジャーは顔を見合わせる。
3姉妹もガヤガヤと話し始めた。
それはそうだ。
3000しかいない反乱軍。
そこに突然2000追加すると言い出したのだから。

「おいおい。2000なんてどっから捻り出したんだ・・・」
「途方も無い数だぞ・・・大型ギルド級じゃないか」
「反乱の意思がある奴らが2000も外にいたとは思えねぇ」
「はい」

アレックスは自慢げに微笑む。

「外にいないなら中ですよ」
「中?」
「騎士団の中です」

騎士団の中。
つまり帝国アルガルド騎士団の中から2000も兵を引き抜いてきたというのか。

「どうやって・・・」
「簡単です。・・・って簡単じゃぁなかったけど・・・」
「いいから言えよ」
「はい。まぁ・・・・ただ"帝国のやり方が気に入らない人〜〜"って手を挙げてもらっただけです」
「は?」
「はぁ?」
「僕は毎日のように反乱軍狩りをしていたことを知っていますよね?」
「あぁ」
「困らされたもんだ」
「その討伐をする前に僕が必ずあることをします」
「あぁ。なんかあれか」

ドジャーが思い出したように指をさす。

「なんかYES・NOで答える質問みたいなやつな」
「はい」
「でもあれは誠実な者を解雇して、クズばかりを部隊に残すためのものじゃないのか?
 そうやってクズを集めてそれを今回99番街で潰すためのさ」
「それもあります」
「・・・・?」
「つまるところ解雇した人全員に連絡をいれてあるんですよ」

アレックスは懐からまた何かを取り出す。
小さな封筒だ。

「この封筒は解雇する人に渡していたものです。
 ゲートと、退団金。表向きにはそうですが、実はもう一つ入っています。
 それが・・・・・僕の意思を書いた紙。WISとメモ箱の連絡先付きのね」
「それで・・・募ってたのか」
「はい。信頼できます」
「何を根拠にだ」
「これでも僕は偉いんですよ?」

アレックスはまた自慢げに言う。

「なのにその僕が、解雇するって言うにも関わらず・・・そして帝国に反する意見だと分かっていて・・・
 皆の前で討伐に反対する者。それはとても信頼できる強靭な意志です。
 ハッキリ言って自殺行為の反論意見です。『仲間殺しのカクテル・ナイト』の前で言うのはね。
 でも彼らはそれでも反論した。民を傷つけたくないと。帝国は間違っていると。
 帝国に堂々と反論する意思を持っている人々です。正義の塊みたいな人達ですね」
「それが・・・・」
「2000人です」

ジャスティンもドジャーも3姉妹も、
納得したかのようにため息をついた。

「コツコツ集めましたよ。毎回毎回少しづつでした。
 誰も反対しない討伐もありましたし、名乗り出てくるのが数人なんてこともザラでした。
 でも昨年は実働300日くらい働かされましたからね。終わってみれば2000」
「・・・・・・おつかれさん」
「アレックス君。君は本当に頼りになるな」
「ほんとねー。誰かさんとは大違いね」
「事務泣かせの誰かさんとはねー」
「あ?俺の事か?あ?俺の事かおいロイヤル姉妹」
「「「誰かしらねー」」」

仲のいいことだ。

「2000か・・・」

ジャスティンはまだ信じられないといった表情でそのリストを見た。
3000の反乱軍が、
突然この紙一枚で5000になったのだ。
しかも全員意志を持つ騎士達。
反乱の意志のある強靭なる2000。
戦闘が仕事の者達でもある。
ハッキリ言ってこれほど理想的な増援はない。

「ハハっ・・・まさか数分で転がり落ちるとはなぁ」
「落ちる?」
「GUN'Sの割合が多かったからこそ俺がリーダーで成り立ってたんだからな」
「低迷おつかれージャスティン」
「うるせぇなドジャー・・・」
「あ、それより今日にでも連絡しときたいんですけど」
「あぁこの2000にか」
「このコロニーに2000も追加大丈夫ですか?」

「まっかせときな」

ルエンが言う。

「チェスター君の金はほとんど使う事になるけどね、
 人が増えても人手も増えるなら困ることありゃしないよ」
「いや、お姉ちゃん・・・食料問題だけちょっと心配よ・・・・」
「それに一日で2000も駆け込んだら目立つわね」
「分割していきましょ。一日100づつくらいかしら。それでも多いかしらね・・・」
「スパイが混ざりこんでないかって心配もあるわよ?」
「大丈夫よ。だからこのコロニーは入ったら出さないってルールなのよ」

ロイヤル3姉妹はまたガヤガヤと相談を始める。
本当に優秀な事務員である。
慣れているものだ。

「ドジャー。お前はアレックス君っていう本当に優秀な恋人に出会えたな」
「誰が恋人だ誰が」
「えぇ?ドジャーさん僕を捨てる気ですか?」
「・・・・・・・」
「そんな・・・あんなに毎日楽しい夜だったのに・・・一年の遠距離恋愛で切り捨てられるなんて・・・・」
「だ、黙れ!お前冗談まで悪趣味になったな!」
「ほんとですね」
「自覚があって言ってるからなおさらな。ただごく潰しって意味だけはあってるぜ」

ドジャーはそう言い、
ソファにごろんと寝転がりなおした。

「あ、あと僕的な作戦いいですか?」
「大歓迎だよ。それが聞きたいからこそなんだから。頼りにしてる」
「まぁ・・・頼りにできるほど現実味のある作戦じゃぁないんですが・・・参考までに」

アレックスは少し真面目な顔に戻り、
話す。

「こうやって戦力を整えていて思ったんです。戦力は増やすだけじゃだめだと。
 できれば一挙両得。減らして増やす。これが理想だって」
「減らして増やす?」
「つまり今回僕の2000人の兵。これは帝国の兵を2000減らしてこちらが2000増えた」
「4000に値する実績ね」
「考え直すと物凄いことじゃない」
「ありがとうございます。ただ、これからも戦力を増強しないと勝てない。
 まだまだ5000じゃ簡単に踏み潰される数です」
「・・・・・で、減らして増やす」
「帝国からさらに引っ張ってくるってか?」
「それも難しいです。めぼしい人を狙って部隊を編成して引き抜きを狙ってましたからね。
 これ以上引き抜くのは難しいです。できても少数でしょう。バレる可能性のほうが高いです」
「2000人バレずに引き抜けたって方が奇跡よね」
「いえ、気付かれていたかもしれません。ピルゲンさんか騎士団長にはね。
 ただ・・・・泳がされていた。遊びですよ。僕の動きなんてね」
「で?」
「はい。それが遊びじゃすまない"穴"が帝国にはあります」
「穴?」
「騎士団長の絶対的な服従社会。力による制圧。
 ハッキリ言って刃向かう人なんていない。全ての人が屈しています。
 だけど・・・・・あまりに重要な部分がそうではないんです。それを先ほど確信しました」
「さっき?」

皆は黙ってアレックスを見る。
アレックスは頷いて言った。

「44部隊ですよ」

アレックスが言っても、
皆は静かに真剣に聞いていた。

「ロウマさんは騎士団長に服従しているのか?・・・というと違います。
 唯一騎士団長に意見や反論を言える持ち主ですね。
 そして44部隊。彼らは・・・・帝国なんかじゃない。そんな意志は持ち合わせていない。
 ただ彼らはロウマさんというカリスマに付いてきているだけ」
「なるほど・・・」
「99番街でグレイらも似たようなこと言ってたな」
「だからこそ襲ってきたわけですからね」
「44部隊の離反か・・・できたら物凄い事だな。一気に形勢が傾く」
「はい。まぁできないでしょうけどね」

お前が言ったんだろといった目で皆がアレックスを見た。
まぁそのカギがあるとはいえ、
ハッキリ言って現実味のない話だ。
まず根本的にアレックスの事を恨んでいる奴が多い。
そして何故かは分からないが・・・・
ロウマはアインハルトの下にずっといるのだから。
今更愛想を尽かすとも思えない。
最悪と分かっていて下にいるのだから。

「だが今から44部隊をどうこうするって言っても動けないな」
「ですね」
「なら俺の方から提案いいか?」

そう言い、
ジャスティンは一枚の紙切れをテーブルの上に置いた。
手を紙の上に置き、
内容は見えない。

「先ほど情報屋ウォーキートォーキーマンからある情報を買った。あ・・・・その前に・・・」
「ん?」
「なんですか?」
「これはチェスターには言わないで欲しいんだが・・・3老が死んだ」
「なっ!?」
「ほんとですか!?」
「あぁ。ギルヴァングって奴に重症を負わせたが、あえなく敗北したらしい」
「レン爺が死んだってのか!ふざけんな!」

ドジャーがソファーから飛び起き、
ジャスティンに詰め寄る。
無理も無いだろう。
アレックスも少し話はきいた。
レン爺にはかなり子供の頃から世話をしてもらっているらしい。
それが死んだときかされたら・・・

「3老はカプリコ三騎士にも値する能力の持ち主だぞ!」
「老いもあるだろうけどな・・・・絶騎将軍(ジャガーノート)の実力がそこまでのものということだ」
「くっ・・・」

ドジャーは言葉に出来ないといった表情で歯を食いしばった。

「3老亡き後、99番街は衰退するかもしれない。
 街長も一般人だしな。とりあえず無理を言ってティル姉に頼んできたよ」
「クソ・・・・」

これも・・・・自分のせいかもしれない。
自分が99番街を戦場にしなければ・・・・。

「君に責任はないさアレックス君」

心を読み取ったかのようにジャスティンが言った。

「だが、ドジャーも悲しんでいる時はない。悲しむことは大事だけどな。
 俺がこれから言う事は・・・・・・すぐにでも行動に移して欲しいことなんだ」

ジャスティンはテーブルの上の紙を手で隠したままだった。

「俺は思うんだ。さっきも言ったが・・・・もう俺はリーダーの器じゃない」

ジャスティンは少し俯きながら言った。

「半分を占めているGUN'Sを指揮している。それだけでリーダーだったんだ。
 だが実力的にはたいしたものじゃないし、納得いっていないものも多い」
「ですが現存のメンバーの中じゃ適任だと思いますよ」
「ありがとう。だが、現存じゃないところからでも連れてくるべきなんだ」
「どういうこった」
「カリスマが必要なんだよ。俺達反乱軍にはな。
 反乱の士気をあげる頂点。強さ。カリスマ性を兼ね揃えたリーダーがな。
 そしてこれが先ほどウォーキートォーキーマンから買った情報だ」

ジャスティンがゆっくり手を紙切れからどかす。
それは・・・・
一枚のSSだった。
写りが悪い。
かなり雑なSSだ。
だが・・・
それを見ると・・・・アレックスは目を見開いた。

「これは・・・・・」

人が写っている。
よく見えないが、
分かる・・・・人とは違う存在感がある。
黒く・・・漆黒の長い髪。
アメットで顔を隠れているが・・・
それは紛れも無く・・・・

「騎士団長・・・・」

アインハルト=ディアモンド=ハークスその人だ。

「いや・・・」

アレックスはツバを飲み込み、
首を振る。

「違う・・・騎士団長じゃない・・・」
「そう」

ジャスティンはSSを持ち上げた。

「これはアインハルトじゃない。だが、存在感、姿。これはアインハルトそのものだ」
「どういう事なんだ?」
「死んでるはずです・・・・・・」
「だから何がだよ。アインハルト生きてんじゃねぇか」
「知らないんですか?もう一人いるんですよ・・・・絶対的存在っていうのは・・・・」
「は?」

本当に知らないようだった。
ドジャーは「?」を浮かべながらジャスティンとアレックスの顔を交互に見た。

「いや、生きているなんて保障はない。だから確証はないんだ」
「どこで撮ったんですか。このSSは」
「サラセンの森付近だそうだ」
「・・・・たしかに確信は持てませんね」
「だが・・・・"できたなら"・・・・それは大きな一歩になる」
「生きているなら理由がある」
「その理由によっては・・・引き込める。どれもわずかな可能性の話ですけどね」
「だから誰なんだこいつは!」

ジャスティンとアレックスはドジャーの顔を同時に見て言った。

「「ツヴァイ=スペーディア=ハークス」」
「殺された騎士団長の双子・・・」
「もう一人のアインハルトだ」











                 






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