「これで2対2。俄然イケる気がしてきたぜ」

ドジャーがほくそ笑む。

「お仲間ちゃんが来て大喜びだなマイエネミー」
「確かにそっちの猿は凄いヨ。けど見込み違いネ」

「やい!オイラは猿じゃねぇよ!ヒーローだ!」

「じゃぁヒーロー猿ネ」

「それならよし」
「いいのかよ・・・・」

満足げなチェスターに呆れる。
頼もしい加勢のはずだが、
なんだか気が抜ける。

「ま、ヒーロー猿君は確かに凄いヨ。攻城戦で幾度と戦いみてるからネ。
 44部隊の修道士を除けば世界で一番と思ってもいいアル」

チェスターがさらに鼻を高くする。
持ち上げられる事がとにかく好きらしい。
満面の笑みだ。

「おい・・・チェスター・・・言われた意味分かってんのか?」
「え?オイラが一番って事だろ?」
「ばっか・・・・44部隊の修道士を除けばっつったろ・・・・
 あいつら二人とも修道士だ。お前より強いって主張してんだよ」
「な、なにぃいいい!!!」

チェスターの表情が一辺。
犬が吠えるように。
いや、猿の怒り姿。
見ざる聞かざる怒り猿。
我慢ならないようだ。

「いーよ!おっし!オイラの力見せてやるよ!スーパーヒーローの力をなぁ!
 一辺にかかってこいよ!まとめてボッコボコにしてやんジャン!」
「ちょ・・・チェスター・・・・せっかく2VS2になったんじゃねぇか・・・・」
「ドジャーはダメージ受けてるんだからいいの!そこで寝てればいいジャン!」
「あーっそ。お前がいいならそれでいいけどよ」
「いい!」
「ダメだっての!2対1じゃ同じ事だ!負けるだろが!」
「負けないの!」
「どっからその自信が出てくんだよ!」
「ヒーローは絶対に負けないからジャンっ!!!」

もう何を言っても無駄だ・・・。
ドジャーは顔に手を当ててため息を漏らす。
まぁいい。
チェスターは怒るだろうが、
加勢するのはドジャーの勝手だ。
正直な予想だと、
よくも悪くもチェスターは44部隊と互角だろう。
つまるところ・・・・勝つ可能性は五分五分。
協力するのが一番いい。

「クククっ・・・・俺もそっちのクソ猿と同じ意見だなぁ」

グレイがほくそ笑んで言う。

「タイマンがご所望・・・と。それは俺もだ。分けようぜ?
 猿とダ=フイ。マイエネミーと俺。どうだ?」

「オイラは二人ともぶっ倒してやるって言ってんジャン!」

「ワタシはノったネ。グレイと一緒に戦わなくていいと思うとせいせいするヨ」

「決まりだな」

グレイはニヤりと笑い、
ドジャーを見る。
そしてアゴで一方向を指し示した。

「ついてこいマイエネミー。便所の世界へご案内だ」

そう言い、
グレイは違う方へ走っていった。
場所を変えてタイマンをするぞ。
ついてこい。
そういう意味だろう。
そうもしてる間にグレイの姿は見えなくなった。

「・・・・・・・」

その場に残るのは・・・・
ダ=フイ。
チェスター。
ドジャー。

「よし、なんか知らんけど2対1だ」

「うぉい!!!ついてこいっつってるだろクソっ!!!」

向こうの方でグレイが叫んだ。
まさか誘われてついてこないとは思っていなかったようだ。

「だぁれが行くか」

ドジャーとしては44部隊とタイマンなんてやりたくなかった。
チェスターはともかく、
ドジャーからしたら少々勝利の望みが薄いからだ。
だが、

「行っちゃえよドジャー」
「ぁん?」
「オイラはオイラ自身の力を見せ付けてやりたいんだ。
 ヒーローの力をさっ。だからドジャーと一緒にはオイラ戦わないぜ?」
「・・・・・・・・ったくメンドくせぇなぁ!!」

ドジャーは頭をポリポリとかいたあと。
グレイのいる方へ向かった。
チェスターとダ=フイを残し、
ドジャーはグレイの方へ向かう。

「あいつとタイマンか・・・・前は不意ついてズル勝ちだったしな・・・・」

ドジャーは走りながらそんな事を考える。
以前。
ロウマと会った時。
正直なところ・・・・
歯が立たなかった。
負けたと見せかけて勝っただけだ。
今回はそれが・・・・ない。
終わりは死だからだ。

「観念したみてぇだなマイエネミー」

曲がり角を曲がった所でグレイが待ち構えて笑っていた。
両手にポケットを入れたまま余裕の笑み。

「もう少し人のねぇとこまで離れるぞ。マジに邪魔されたくねぇからな」

「カッ!男にそう誘われると気持ちわりぃな。
 わりぃが、俺はケツの方は一生ヴァージンって決めてるからな?」

「クソ気持ちわりぃ事言ってんじゃねぇよ!!
 その顔の真ん中についてるケツの穴をふさげ。黙ってついてこい」

「へいへい分かりましたよセンセー」

グレイが背を向け、
また走り出す。
さらに遠くへ誘おうとしている。
完全にチェスターから切り離すつもりだ。
本気でタイマンをするつもりだ。

「チッ」

ドジャーもそれを追いかける。
タイマン・・・・
その場へといざなわれる。

「・・・・・だが・・・・てめぇと違って俺はマジに張り合おうなんて思ってねぇんだぜ」

ドジャーは追いかけながらボソりとそう言う。
そして・・・・
走りながら両手。
4本の煌めくダガー。

「ふん・・・・わりぃが気付かず死んでくれ。ご馳走くれて・・・」

「やめときなマイエネミー」

向こうを向いて走ってるグレイが、
ドジャーがダガーを投げようとしてるのを見ているが如く、
そう言った。

「カッ!気付かれてたか」

「おいマイエネミー。勝ちゃぁいいってか?」

「あん?」

「まぁそれがお前の・・・・マイエネミーの強さなんだろうよ。
 だから俺の理論やら考えなんざクソ食らえなんだろうな。だがよ・・・・」

グレイが走るのをやめ、
こちらを振り向く。
ドジャーも止まった。

灰色の町の一角。
二人は対峙する。

グレイはツバを吐き捨て、
ポケットに両手をつっこんだまま、
ガラにもなく真面目な顔つきで話し始めた。

「だがよマイエネミー。そんな楽して勝とうってチンケな考えで俺を殺せると思うか?
 俺ぁ無敵の44部隊として幾多の戦場を駆け抜けてきた。戦場を踏み潰してきた。
 この足でな。この二つしかない足でだ。この両足だけでだ。クソ最高だろ?」

「カッ!そりゃクソ立派なお足様だな」

「そうだ。歩くも走るも蹴るもクソ踏むも・・・・・全部この足でだ。この二つの足だけでだ。
 そしてあんたの考えてるチンケな考えってのはよぉ。その途中で幾多と踏み潰してきたんだ」

グレイがふと右足をあげたと思うと、
その足で思いっきり地面を踏みつけた。
地面を蹴ったと言ってもいい。
同時に地面にヒビが入り、
破片が舞った。

「分かるかマイエネミー」

「さぁな。まぁ俺みたいな勝てばいいって奴なんてラクショーってこったろ?」

「そうだ。そういうチンケなもんってのはよぉ、いくら踏み潰しても俺は成長できねぇ。
 それをマイキャプテンは教えてくれた。正しいクソの踏み方をよぉ!
 踏みつけるのは地面に這い蹲ったゴミじゃねぇ!そんなん勝手に潰れるだけだ!
 自分が昇っていきたいと思うなら・・・・踏み台になるものを踏みつけなきゃならねぇ。
 自分より強いやつ。打開できない状況。そういうもんを俺ぁ踏み越えてきた!
 一個づつ階段を上がっていくようによぉ!それで俺は今ここにいんだ!
 分かるかこの痴話が!俺ぁクソだらけの地面から離れたんだよ!!」

グレイが睨む。
ドジャーを真っ直ぐ。

「・・・・・だから何が言いてぇんだ」

「分かんねぇか。分からねぇよな。テメェはまだ地面に這い蹲ったゴミだからな!
 だがテメェはエドとワイトを殺した。俺の義弟達をだ」

「別にお前はソックス兄弟に特別な感情持ってなかったんじゃなかったのか?」

「あぁ、別に家族愛とかそういうクセェもん持ち合わせてねぇよ。
 奴らはただの腹違いのクソだ。同じ血の通ってるクソ同士ってだけだ。
 だがテメェはエドとワイトを踏みつけたことで俺の"なんか"を踏みつけた」

「わけわかんねぇ・・・・・・まぁとりあえずイラつくって事な」

「そうだ。そしてそんなテメェがチンケな蛆虫みてぇに俺に向かってくるのか?
 俺はテメェをチョイと踏み潰すだけか?潰す感触もないクソ野郎なのか?
 俺の肥やしにもならねぇのか?俺が踏み越える価値もねぇのか?あん!?どうなんだ?!」

グレイは・・・・
とにかくドジャーに真面目にやってもらいたいようだった。
エドとワイトを殺した奴。
それが半端で価値のないやつであって欲しくない。
踏み潰すに値する相手であって欲しい。
口下手なようだが、
そういう事だろう。

「カッ、俺ぁ別にテメェの期待に応えようなんて思ってねぇんだよ」

「じゃぁ無理矢理にでも応えてもらう」

グレイはビッと足を突き出した。
突き出したまま止めた。

「ただ道端のクソのように死ぬか。それとも聳え立つクソのようになるか。
 マイエネミー。てめぇが選べ。死に方を選ばせてやる」

「人をクソクソ言うんじゃねぇよ」

「マイエネミー。てめぇは踏み潰される存在だ。クソに違いねぇだろ?
 だがな、テメェは踏み越えるに値する聳え立つクソであってくれよ」

「いいから来いって」

「お望みなら流してやるよぉ!クソを流すのが俺の仕事だ!
 流してやる!クソにお似合いの場所へご案内だ!地獄への配水管へなっ!」

グレイが走りこんでくる。
自慢の足を大きく振り、
地面を踏みしめて走りこんでくる。

「カッ!」

真正面から受けるわけにはいかない。
完全に近距離戦は不利だ。
だが、
ドジャーが避けようとする前にすでにグレイは迫ってきていた。
グレイは足を振り上げる。

「ヘドぶちまけなっ!!」

ドジャーの腹をめがけておもくそな蹴り。
ドジャーは避けた。
さすがにここまでの大振りを避けるくらいはわけなかった。
ドジャーが自慢の瞬発力で後ろに跳ぶ。

「当たらなけりゃ自慢の足も扇風機だなっ!!」

後ろに跳びながら、
ドジャーはダガーを二本投げる。
放たれた二本の閃光。
まぁそれもグレイは簡単に蹴り弾いた。

「てめぇのダガーも当たらなきゃションベンだぜ?」

「上等」

ドジャーは着地しながら笑った。
また対峙するドジャーとグレイ。
舞うダガー。
ドジャーが投げ、グレイに弾かれた二本のダガーだ。
そのダガーが空中を舞っていた。
クルクルと・・・・

「そういやマイエネミーよぉ」

「あん?」

「てめぇのご馳走ってのは・・・・・・・」

グレイは足を後ろに溜める。

「返品可能だったけかぁ!?」

グレイが突然の回し蹴り。
左・右と、
連続の回し蹴り。
その回し蹴りと同時に、
二回の金属音。
ダガーだ。
ドジャーの投げた二本のダガー。
弾いて舞っていたダガーをグレイは蹴った。

「なんじゃそりゃっ!」

グレイが蹴飛ばした二本のダガーはドジャーに向かう。
ドジャーは避ける。
自分にダガーが飛んでくるとは思わなかった。
避けながら舌打ちする。

「チッ・・・・遠距離からコツコツ安全にってわけにもいかねぇってか?」

「そういうこった。かなしぃねぇ」

「!?」

いつの間に。
グレイはドジャーのすぐ傍まで走りこんできていた。

「吹っ飛べやっ!!!」

グレイの回し蹴り。
避ける動作中だったドジャーは・・・
それの直撃を受けた。

「ごぁっ!!」

ジャストミート。
サッカーボールのようにクリティカルヒット。
ドジャーは血反吐を吐きながら吹っ飛ぶ。
まっすぐ吹っ飛び、
家の窓ガラスを割って突き抜けた。

「おいコラ!こんなもんかマイエネミー!」

割れた窓ガラス。
家の中まで吹っ飛んだドジャー。

「チンケなりになんかやってみろよ!!!匂ってこねぇぜ?くせぇクソの匂いがな!」

ポケットに両手を突っ込んだまま、
割れた窓ガラスを見つめるグレイ。
はやく立って来い。
踏みつけてやるから。
そんな目だった。

「どうしたコラ!ゴミクズは寝転がってお終いか!?
 くさった残飯みてぇにゴミ箱に入って終わ・・・・・・・・・チッ!!」

突然グレイは何かに気付き、
跳び避ける。
そしてグレイの肩口から血が吹き出た。

「カッ!はずしたか!!」

何も無いところから、
ドジャーの姿があらわになった。

「やるじゃねぇかマイエネミー!インビジで回り込まれてたとはなっ!」

「ずりぃとでも言うか?」

「言わねぇよ!てめぇがそれでいいならそれで勝ってみやがれ!」

「カッ!許可されなくともそうするけどな!俺は俺だ!
 てめぇの意見なんざクソ食らえなんだよっ!」

「だが・・・・」

グレイは着地と同時に、
ドジャーへ突っ込む。

「さっきのキックは痛かったみたいだなぁマイエネミー!大当たりだねぇ!」

迫るグレイ。
そう。
こっそりインビジで後ろに回ったはよかったが、
さきほどのグレイのキックは直撃していた。
かなりのダメージであった。

「うっせ!立ってりゃいいんだよ!」

ドジャーが迫るグレイにダガーを振り付ける。
小さなダガーによる横斬撃。
だがグレイはそれを掻い潜るように滑り込む。

「烈っ!!」

足払い。
派生技の直出し。
ドジャーの足をグレイの足がひっかける。
そして一瞬ドジャーのバランスが・・・・・

「またこれかよ!」

「反吐ぶちまけやがれマゾ野郎!!マシンガンキック!!!」

両足による連打。
連撃。
連蹴。
目にも留まらぬ連続蹴りが、
ドジャーに直撃する。

「くっ・・・そったれっ!!!」

ドジャーはまた吹っ飛ばされる。
地面をゴロゴロと転がり、
血を口から垂らしながらも体勢を立て直す。

「こっちもご馳走をくれてやらぁっ!!!」

体勢を立て直したと同時に投げるダガー。
すでにまたグレイは走りこんできている。

「きかねぇっつってるだろっ!てめぇの耳は腐ってんのか!?」

グレイは走りながら回し蹴りでダガーを弾き、
そしてその勢いのままドジャーに飛び込む。
跳ぶ。
ドジャーに向かって跳んで突っ込む。

「マイエネミー!てめぇはワイトとエドの分まで痛みを感じなっ!
 ワイトもエドも腐った地獄って肥溜めでてめぇを見てるぜ!
 殺してぇ!踏み潰してグチャグチャにしちまいてぇってな!!!」

空中でグレイは両足をドジャーに突き出す。

「右足(ワイト)と左足(エド)でも食らっとけ!ダブルマシンガンキックだ!!!」

そして・・・
グレイは空中からマシンガンキック。
両足。
右足(ワイト)と左足(エド)。
それらは彼らではないが、
彼らを宿すが如く。
心、精神を込めるが如く。
そして彼らが生きているが如く。
グレイの両足のマシンガンキックがドジャーに炸裂する。

「ぐぁっ!!!」

「ハッハー!ご機嫌かマイエネミー!両足でのマシンガンキックだ!
 痛くて気持ちいいだろ!?イッちまいそうか!?イッちまうだろ!」

「くっ・・・」

ドジャーは両手で必死に防ごうとするが、
一撃一撃が重く、
そして数の多すぎる連打。
空中からドジャーを踏みつけるように、
グレイのダブルマシンガンキックが襲う。

「チクショッ!!!いったん立て直しだ!」

「ん?」

グレイが疑問に思った時、
もう遅かった。
マシンガンキックの餌食のドジャー。
そのドジャーから・・・・・・何かが吹き出した。

「ゴハッ!・・・かッ!・・・がはっ!!」

煙。
ドジャーから煙が噴出したのだ。

「ゴホッ・・ゴホッ・・・・クソ野郎!!!スモークボムか!!」

グレイが後ろに下がる。
煙から逃れるように。

「くそっ!めざてぇ陳腐な技使いやがっ・・・」

煙が晴れた。
だがそこにドジャーはいなかった。

「インビジ?!・・・・・いや・・・」

グレイは見逃さなかった。
ドジャーが路地裏の方へ走りこんでいくのを。

「逃がすか!!!」

グレイも追いかける。
路地裏の中へと入っていく。

「どこだ!どこいきやがった!猫みてぇに逃げおおせるのか!?あん!?
 てめぇの人生は行き止まりなんだよ!逃げ込もうとも地獄逝きだ!」

路地裏を走るグレイ。
狭かったりそこそこの幅があったり。
まばらな路地裏。
曲がりくねったり、
行き止まりだったり。
99番街の路地裏。
まるで迷路。

「・・・・・自分の得意な地形に連れ込んだつもりかマイエネミー」

グレイはツバを吐き捨てる。
周りを見渡す。
全て同じ景色。
迷路。
もうどこから入ってきたかも分からない。
99番街のラビリンス。
建物を入り乱れ、
太陽の光さえ迷い込む。

「カカッ!やっぱ初めてのやつにゃぁ99番外の路地はキチィわな」

突然どこからかドジャーの声がする。

「くっ!どこだマイエネミー!」

グレイは見渡す。
だが視界が悪い。
入り組んだ路地裏。
ドジャーの姿は見当たらない。

「見つけられるわけねぇよ。アスレチックみてぇなもんだ。
 盗賊の屋敷みてぇなもんだよ。隠れる場所なんて腐るほどあんだ」

「そこかっ!!!」

グレイが壁を蹴飛ばす。
灰色のレンガの壁は、砕け散った。
だが砕け散っただけだった。

「無理無理。迷子の子猫ちゃんよぉ。俺はインビジもしてっからな。
 やっぱ俺はチェスターとは違うわ。不利から逆転とか嫌だね。
 自分に有利なまんま楽に勝てればそれが一番ってな♪」

「チッ!!!」

グレイはまた壁を蹴飛ばす。
だが壁の感触だけ。
砕け散る壁。
舞う砂埃。
カラカラと砕けた後の音だけが虚しく響く。

「どこにいやがる!」

「教えるかバーカ。少し体力回復しねぇと危ねぇしな」

「腐れチンケな考えだぜ!」

回し蹴り。
また壁が破壊される。
無意味なる破壊音。
99番目のラビリンス。
入り組んだ路地裏で暴れるグレイ。

「あんま暴れんなよグレイ。俺の故郷だぜ?」

「クソッ!知るかボケ!故郷だぁ?そんな心温まる臭い響きは大っ嫌いでね。
 消臭してやるよ!蝿舞うお前の血の腐敗した匂いでなっ!!」

またグレイは壁を蹴る。
周りを破壊しつくすかのように、
蹴る。
壊れる。

「カカカカッ!!」

どこからか聞こえるドジャーの笑い声。

「わぁーってるよグレイ。てめぇの作戦もな」

「ほぉ?言ってみなマイエネミー」

「OK。簡単だ。そうやって混乱してるふりして周りの壁を一掃する気だろ?
 周りの隠れれそうなところ全部破壊してあぶりだすつもりだ。当たってるだろ?」

「お、やるじゃねぇかマイエネミー。そうだ。そん通り」

「そりゃ嬉しいねぇ。なんか景品出るのか?」

「残念だったな。景品は旅行券だ。地獄観光無期限の旅お一人様ご招待。
 そして俺がこの腐敗したゴミ箱・・・・99番街の掃除サービスもセットで付けとくぜ。
 お掃除が大好きでね。たまにゃぁ便所以外も掃除するのもいいから・・・・なっ!!!」

グレイがまた壁を蹴飛ばす。
飛び散る派遣。
レンガの花火。
砕ける壁。

「あーあ。そんな事してると雷親父が叱りに出てくるぜ?」

「クソ上等」

「ま、あんまり掃除させられるとこっちも本当に隠れてられねぇな」

小さく金属が擦られる音がした。
静かな路地裏。
入り組んだ路地裏。
このどこかに・・・・・
インビジしたドジャーがいる。

「そろそろご馳走をくれてやるか」

ヒュンッ!
と風を切る音。
それが響くと同時に、
どこからかグレイに迫るダガー。

「やっと攻撃してきたか!」

グレイは狭い路地の中で、
それをなんなく避ける。

「墓穴掘ったなマイエネミー!!!」

グレイが踏み込む。
一点。
路地裏のある一方を見つめ、ニヤりと笑いながら。

「ダガーはそっちから飛んできた!てめぇの位置は掴んだぜっ!!!」

そしてグレイが予測を付けた方へ走り込もうとした時だった。

「・・・・・あん?」

グレイは背中に違和感を感じた。

「・・・・・痛っ!!!」

背中にダガーが刺さっていた。

「カカッ!ご馳走のお味はどうだグレイ」

どこからか声が聞こえる。
ドジャーの声。
という事は・・・・
ドジャーはダガーを投げてきたのだ。
投げてグレイの背中に刺した。
しかし・・・

「クソッ!!なんで背中に当たる!一本目のダガーが飛んできた方とは逆方向だぞ!!」

「答える義理はねぇなぁ♪さぁてどんどんいくぜ!」

静かなる路地裏。
だからこそ聞こえる金属音。
ドジャーのダガーの音だ。
またどこからかグレイへダガーが・・・・

「当たるかってのクソ!」

グレイは瞬時に判断し、
ダガーを避ける。
しかし、
また・・・・。
まただった。
肩口に痛み。
ダガーが刺さっている。

「なっ・・・どこから・・・・」

「ほれほれ!バイキングだ!食いたいだけ食らいなっ!!」

沢山の金属音。
そして・・・・

「なんだこの数は!?」

視界にチラりと見えたダガー達。
避けなくては・・・
そんな一瞬の出来事だった。
ダガー。
ダガーダガーダガー。
ダガーは一斉に飛んできた。
前。
後ろ。
左。
斜め。
右。

「どうなってんだっ!!!」

グレイが跳び避ける。
だが、
様々な方向から無数に襲ってくるダガー。
グレイの運動神経をもってしても、
この狭い路地では全て避けきる事は不可能だった。

「ぐっ!!」

足の腿にカスる。
ホホにカスる。
右腕に刺さる。

「くそ・・・早くマイエネミーを見つけねぇと・・・・」

一斉に飛んできたダガーがやみ、
その隙にグレイはキョロキョロと見渡す。
迷路のような路地裏。
やはりドジャーの姿はない。

「あぁー。やっぱ一斉に投げてちゃダメだな。効果的だが休めねぇ。
 いや、今ならとっとと仕留めれるかな。カッ、どっちにすっかな。
 贅沢な悩みだねぇ♪44部隊の倒し方を悩めるなんてよぉ」

そんなのん気な考え事。
そしてどこかでヒュンッ!と風を切る音。
グレイは振り向く。
ダガーが飛んできている。
一本のダガー。
しかし、

「ふん。マイエネミー。てめぇでも手元が狂う時があんだな」

そのダガーはグレイの方へ向かってきているが、
外れるコースだった。
避けなくとも当たらない。

「いや、ビンゴ。大当たりだぜ?」

「はっ?・・・何・・・・」

グレイはその時気付いた。
飛んできたそのダガー。
外れコースのダガー。
しかし、
そのダガーは・・・・・・

「反射!?」

壁にぶつかりコースを変えた。
反射。
跳弾。

「くっ!!!」

グレイはなんとか避けた。
横腹に切り傷が入る程度だった。

「・・・・・・・チッ・・・・・・・・そういう事だったのか・・・」

ドジャーはこの路地の中で、
反射を使って攻撃してきていた。
ダガーを壁という壁に反射させ、
攻撃元を特定させない。
そして様々な方向からダガーが飛び交う。

「そそ。まぁそゆ事だ。俺も無駄に一年過ごしてたわけじゃなくてよぉ。
 やっぱ俺もこれからの強敵に勝つには何が必要かって考えたわけだ。
 カッ、強くなるためってのは考えた事もなかったしな。苦労したぜ。
 まぁ結局のとこ・・・・・・・・至った結果はまた"工夫"だったわけだ」

跳弾。
クッションダガーとでもいうべきか。
一年でできる事。
技の習得。
自分にあった技をだ。
ドジャーは結局"工夫"なんていう、あたかもアイデアだけで生み出したかのように言っているが、
実際これを思い通りにやるためにはかなりの苦労があった。
そしてやっと一年で実戦で使えるほどまで習得できた。

「もちろん百発百中じゃぁねぇけどな」

そう。
ほとんどは適当でもある。
ダガーの反射など、綺麗にいくわけがない。
実際、
先ほどの雨嵐のようなクッションダガーの連発も、
ほとんどはグレイに当たらなかった。
だが、
数本でも当たればいいのだ。

「数撃ちゃ当たる。好きな言葉だぜ?才能ってのはな・・・・足し算だからな。
 ま、残念な事にこの技を使える場所があんまねぇってのが問題だな。
 あぁー俺ってばマヌケだねぇ。実用性無い技覚えちまったぜ」

「チッ、調子こいてんじゃねぇぞマイエネミー・・・・」

「いや、楽しくてよぉ!カカカッ!これが努力が報われる喜びってやつかぁ?
 今度この技を使える場面なんてねぇかもしれねぇからドジャーちゃん感激ってか♪
 さぁて続きやっか!ドジャーレストランにようこそクソ野郎!
 お代はいらねぇ動けなくなるまでたらふく食ってけや!ご馳走のフルコースだぜ!!!」

静かになったと思うと、
鳴り響きだす金属音。
反射音。
一つではない。
沢山の反射音。
壁という壁をダガーが反射している音。

「きたかっ!!」

また至る所からダガーが飛んできた。

「クソッ・・・・」

避けるグレイ。
だが避けきれない。
至る所から襲い掛かる刃物。
致命傷は避けながらも、
グレイの体を切り刻む。
血が舞う。

「・・・・けど・・・肥溜めの中にこそチャンスは埋ってるもんなんだぜ!」

グレイが目を光らせる。
切り刻まれながら、
血を吹き出しながら、
避けながら。
そして一箇所に目がいき、
それを目で捉えた。

「こっちだ!!!」

それは一本のダガー。
特に特別なダガーではない。
ただグレイが的確に軌道を確認できたダガー。
グレイはそのダガーの方へ突っ込む。

「待ってなマイエネミー!」

そのダガーは寸前のところでグレイのホホをかする。
そしてそのダガーが飛んできたほうへグレイは走る。

「馬鹿かグレイ。そのダガーは跳弾っつってんだろ。
 ダガーが飛んできた方に向かっても俺ぁいねぇんだよ」

そう。
ダガーは反射してグレイを襲っているのだ。
ダガーが飛んできた方へと走っても、
そこはただの壁・・・・。
しかし、

「だからだぜマイエネミー!!」

グレイは跳ぶ。
その壁に向かって。
そして壁に足をかける。

「この壁で反射して俺に向かってきたなら!!!」

グレイは壁に足をかけたまま、
振り向く。

「反射角度はこっち!!!」

壁を蹴る。
三角とび。
それはドジャーのダガーを予測した・・・・
巻き戻しの動き。
ダガーの軌道を逆に行く。
糸を辿るように・・・・

「ダガーの軌道を辿ればよぉ・・・・・最後にゃお前に辿り着くってことだ・・・ぜっ!!!」

一つの屋根の上。
何も無い屋根。
しかしグレイはそこを・・・・・・
思いっきり蹴飛ばす。
空気を。
空間を。
そして・・・・・・手ごたえ。
いや足ごたえ。

「ぐっ・・・・」

ドジャーがいたのだ。
インビジのドジャー。
半分は適当なグレイの蹴りも、
予測が的中し、ドジャーをとらえた。
ドジャーが吹っ飛ぶ。
インビジで隠れていた体があらわになりながら、
屋根の上を転がる。

「チッ・・・こんな早く破られるとわ・・・」

ドジャーは屋根の上で口を拭う。
拭った手は血で染まった。
だがそんな事を気にしている場合ではない。
ドジャーは両手にダガーを取り出し・・・

「ネリッ・・・・」

「!?」

すでにグレイは詰めていた。
修道士の格闘センス。
グレイは間髪いれずに攻撃を加えることに長けているようだ。

「カッ・・・・休ませろよクソッ!!」

「チャギッ!!!!!」

ドジャーにグレイのネリチャギが炸裂する。
屋根の上。
そこで食らうカカト落とし。
グレイのゴールデンシューズが叩き落され、
ドジャーが叩き付けられる。
屋根の上に?
違う。
屋根の突き破って家の中に叩き落された。

「がはっ!!」

空き家か人が住んでいる家かは分からない。
ただかなり広めの家だ。
大きな部屋。
まぁそんな事はどうでもいい。
ドジャーはその部屋の中に叩きつけられ、
横たわっていた。

「っ・・・・マジ痛ぇ・・・・」

体の表と裏。
両方に走る激痛。
屋根の上で食らったネリチャギ。
そして叩きつけられたダメージ。
両方の痛み。

「そろそろ腐り時か?マイエネミー」

部屋の上。
砕けた天井。
パラパラと落ちる天井の破片。
そして天井の穴。
そこから見えるグレイの顔。
屋根の上。

「よっと」

グレイはポケットに両手を突っ込んだまま、
屋根の上から、天井の砕けた穴を落ちてきた。
そして着地したと思うと、
目の前のドジャーを見下ろす。

「もう動けねぇって顔してんなマイエネミー」

「カッ・・・・お陰様でな・・・・大当たりだ・・・・・」

ドジャーはもうボロボロだった。
ダメージ。
それも蓄積されたダメージだった。
斬り傷ならともかく、
重く、体に響く蹴り。
ダメージは蓄積される。

そしてドジャーは、その蹴りからかなりの重症を受け、
チョコチョコと回復してはまた受けてきた。
ハッキリ言って蓄積されたダメージはかなりの量で、
それはすでに致命傷と呼べる域にまできていた。

「だが実はまだ動けるんだろ?」

グレイがドジャーを睨んで言う。

「あーあー。んなことねぇよ。俺もダメだわ。動けねぇー。こぉーさーん」

「よくそんなにポンポンと相手をなめられるもんだな。
 まぁてめぇは嘘付きだからな。徹底的にやるぜ。俺の最高の技でな」

グレイがポケットに両手を入れたまま、
足を・・・・・

「閃っ!!!」

足を突き出した。
閃。
修道士のスキルで派生技だ。
だが足技に特化したグレイはそれを直で出す事ができる。

「ぐっ・・・」

その前蹴りがドジャーの面先に当たる。
かなり痛いが、
先ほどのまでの蹴りほどではない。
それはそうだ。
閃という技の本質は、
目標を見定めるための動作だからだ。
そう。
次の派生技への・・・・

「反吐ぶちまけな」

グレイが背中を向ける。
いや、体をひねっている。
回転の予備動作。
両足に溜める力。
両足に込める力。
そしてグレイは回転を始めると同時に・・・少し跳んだ。

「連衝撃っ!!!!」

それは足技による連衝撃。
グレイ特有の連衝撃。
ひねった体から繰り出される両足。
両足の回し蹴り。
間髪入れない二発の強力な連撃。
グレイの最高の蹴りが二連発で来ると考えてもいい。

「・・・・・・・がっ・・・はっ・・・・・・・」

ドジャーが吹っ飛ぶ。
狭く、広い部屋の中。
ドジャーが部屋の端まで吹っ飛ぶ。
そして部屋の頑丈な壁にぶつかった。
頑丈なる壁は、ドジャーの背中の大きさと同じへこみが出来、
ドジャーはその壁にずるりと崩れ落ちた。

「終わりか・・・・マイエネミー・・・・・」

グレイが近づく。
壁にもたれかかって崩れているドジャーに。
もう死んでいるかのような姿だ。
そんなドジャーにグレイはゆっくり近づく。

「く・・・・・・・・そ・・・・・・・・・・」

「あっけねぇもんだな。やはりチンプなやつぁそんなもんだ。いや・・・・」

グレイは自分の全身を見る。
血だらけだ。
実際ドジャーのダガーでかなりのダメージを受けている。
致命傷がないだけ幸いだが、
血が流れすぎた。
このまま倒れてしまってもいい状態。

「あんたはやっぱ強かったぜ。そりゃ勝つ事だけに命かけてんだもんなぁ。
 つまるとこ・・・このクソ試合の勝ちってのは相手を殺す事だ。
 殺すことに執着すりゃそりゃ俺も苦労するわ。半端じゃぁなかったぜ」

「・・・・・・・・カッ・・・・・・・・そりゃ・・・・・・・・・あり・・・・・がと・・・・・よ」

「どういたしましてクソ野郎」

グレイが生気のないドジャーを見下ろす。

「いい勝負だったなぁマイエネミー・・・・・・・・終わりにするか・・・・トドメだ・・・・
 だってよぉ・・・・・・・・・てめぇがそんな簡単にくたばるわけねぇもんなっ!!!!!!」

グレイは突然的に足を振りかぶり、
ドジャーを蹴り飛ばそうとする。

「カッ!!バレバレかよっ可愛げねぇなぁ!!」

死んだかのように崩れていたドジャーだったが、
咄嗟に跳ね起きる。
うまくチャンスを伺うつもりだったが、
バレてりゃしょうがない。
ダガーを両手に構え、
グレイに対抗する。

「てめぇの脳みそクソ色かマイエネミー!!!俺の蹴りをダガーで止めれるかっ!!!」

グレイの強力な蹴り。
それがドジャーに迫る。
ダガーを持つ腕。
ドジャーの筋力ではどうやっても止めれない強力な蹴り。
しかしドジャーは蹴りに手を伸ばす。
ダガーを持つ手を。

「反吐ぶちまけなっ!!!」

グレイの強力な蹴り。
それがドジャーに・・・・

いや、
空を切った。
空を切り、
そのままグレイの蹴りは壁を突き破った。

「なっ!?」

「こっちだ!!」

ドジャーの声。
背後。
ドジャーは一瞬でグレイの背後に回っていた。

「ラウンドバックかっ!!」

グレイは咄嗟に振り向く。
そのまま後ろから背負い締めにされては、以前戦ったときと同じ決着。
その瞬間的な運動神経。
その前にグレイは振り向く。

「グレイっ!!!ここで逃すわけにはいかねぇんだよっ!!」

ドジャーは掴みかかる。
乱暴に、
グレイの体ごと掴みかかる。

「らぁ!!!」

そしてそのまま後ろの壁。
砕けていない壁へとグレイの体を叩きつける。

「ゴハッ・・・・」

ドジャーの左手は、
グレイの首を掴んでいた。
グレイの首を掴んだまま、
壁に叩きつけ、張り付けている。

「終わりだっ!!!」

ドジャーの右手。
ダガーを持つ右手。
振りかぶる。
壁に叩きつけたグレイにそのままダガーを・・・・
振り落とす。

「くそったれっ!!」

グレイは咄嗟に前蹴り。

「がっ・・・」

ドジャーの腹への前蹴り。
ドジャーはその瞬間吹っ飛ばされる。
前蹴りで突き放される。

「はぁ・・・・はぁ・・・・」

ダガーは・・・外れた。
壁に突き刺さっている。
そしてドジャーはヨロヨロと地面に手をついている。

「カッ・・・・最後のチャンスだったのに・・・・はずしたか・・・・」

「危なかった・・・今のはかなりの・・・・クソやべぇ状況だった・・・・・」

グレイ自体は立っているのがやっとのようだった。
だが部屋の中心に転がるドジャー。
ドジャーほどのダメージではない。
この状況。
また仕切りなおしで、
外ほど広くないこの部屋。
この一件の家の中。
グレイに有利。
言うならばグレイの勝ちが決まったようなもの。

「残念だったな・・・・マイエネ・・・・」

グレイがドジャーに近づこうとした時だった。
不意に異変に気付いた。
近づけない。
いや・・・・・

「カカッ・・・・動けねぇだろ・・・・」

地面に手を着いたまま、
ドジャーはフラフラと顔を上げる。
その顔はニヤりと笑っていた。

「言ったろ?最後のチャンスだったってな・・・」

「・・・・・・いつの間に・・・・」

グレイの両足。
動かない理由。
それが絡み付いていた。
スパイダーウェブ。
蜘蛛の糸がグレイの足に絡みつき、
そして・・・・肩。
左肩も動かない。
見てみると・・・・
貼り付けにされていた。
最後のドジャーのダガー攻撃。
あれは攻撃ではなかった。
最初から外すつもりだったのだ。

グレイの衣服を壁に貼り付けにするために。

「念のためってな・・・・ダガーを振り下ろしながら俺はスパイダーウェブ使ってたんだ。
 あの振り下ろす動作ん中にはスパイダーウェブの動作が含まれてたってわけだ。
 ダガーか蜘蛛・・・・どっちか成功すりゃぁどうにかと思ってたが・・・・カカカッ・・・両方かかるとはな・・・・」

ドジャーがフラフラと立ち上がる。
そしてフラりとグレイを見る。

「さて、勝ったぜクソ野郎♪」

ドジャーはダガーを突き出して言った。

「・・・・・・多分だけどな」

格好を決めてまで言ったが、
少し自信がなかった。
スパイダーで自慢の足を封じ、
体をダガーで張り付けにしている。
グレイに反撃の術などない。
だが・・・44部隊なら・・・グレイならまだ反撃の方法が・・・

「ふっ・・・」

グレイは張り付けにされたまま小さく笑った。
そして言った。

「マイエネミー・・・・お前の勝ちだ・・・」

両手をポケットに突っ込んだまま、
グレイは張り付けにされたまま、
堂々とそう言った。

「マジにもう手も足もでねぇよ。手はともかく足が出なきゃお手上げなんでね」

「そりゃぁ嬉しい自己申告だ」

「ガキに手足をもがれたアリンコの心境だぜクソ」

「カッ、残念だったな」

「あぁ残念だ。んでもって・・・犬も食わねぇ異質な感情があんぜ。
 よく分かんねぇけどよぉ。認めてんだよ。今の状況に納得してんだ。
 なんだコレ。むかついて死にたくなるな」

「・・・・あん?なんだ?マゾだったのか?」

「ククッ・・・糞気持ち悪ぃ。ドブ川の匂いのする腐った気持ちだ。
 だがそうだったのかもな。・・・・・テメェの強さを証明できてよぉ」

「?・・・・・何言ってんだテメェ」

「あのなマイエネミー。てめぇはマイキャプテンに認められた男なんだぜ?
 マイキャプテンってのはよぉ・・・俺らの全てだ。神より尊い存在なわけだ。
 44部隊ってのはマイキャプテンに認められて・・・全員マイキャプテンに拾われた存在だ」

「神様ロウマ様はドブ川でゴミ拾いがお好きなようでご苦労なこった」

「そうだ。俺らゴミクズを拾い、育てあげてくれたのがマイキャプテンだ。
 だからマイキャプテンについていき、マイキャプテンだけが心の便りだ。
 それでそれを奪われた俺達は今ここでこんな暴走した戦いなんて起こしてる」

グレイは堂々としていた。
自由を奪われ、張り付けにされた状態でも、
ポケットに両手を入れるポリシーは貫き、
堂々と話していた。

「そんな俺らの全てであるマイキャプテン。お前は認められた。その意味が分かるかクソ野郎。
 それの証明が出来たんだんだ。分からねぇなら絵本でも作って説明してやろうか?」

「カッ!負ける気だったって言いてぇのか?言い訳上手だな」

「いや、分かったんだ。糞の中に手を突っ込んでやっと分かった。
 てめぇがマイキャプテンに認められた理由がな」

「・・・・・・・・」

ドジャー自身、
それに心当たりがなかった。
何が・・・自分の中の何が、
この44部隊達も認める何かだったのか。

「それはな。勝ちを勝ち取る力だマイエネミー」

「・・・・・訳分からん言葉だな」

「・・・・マイキャプテンはよぉ・・・己を信じて己を鍛え上げ・・・そして向上していく。
 その積み重ねが必要だと俺らに教えてくれている。クサったガキの先公みてぇな教えだが、
 俺らはそれを心に刻んでいる。そうやって・・・自らを信じていけば強くなれると。
 勝ちなんて結果は後からついてくる。自分を成長させていった後にな。気持ち悪い話だ」

「だがお前もそうしてる・・・・そうだろ?」

「あぁそうだ。俺達はそうやって"勝って当然の実力"を手に入れてきた。
 だがお前は違う。マイエネミー。てめぇには勝って当然の力なんてねぇんだよクソッタレ。
 えらくヘナチョコで小ズルくて・・・・曖昧な力・・・強さなんてねぇ。ザコ野郎だ」

「んだよ。なんなんだ?なんか俺を褒めようとしてくれてんじゃねぇのかよ」

「焦るな早漏野郎。すぐイッちまうからテメェはクソ野郎なんだぜ
 ・・・・・・・・・・・で、お前にあるもんはな・・・・勝ちを勝ち取る力だ。
 てめぇには勝って当然の力なんざねぇ・・・・だけど・・・クソっ・・・・だけどよぉ・・・・
 てめぇは勝ちを掴み取れる力がある。勝てねぇのに勝つ力・・・・それがテメェだ・・・
 それを今回戦って気付いたんだよ・・・・マイキャプテンの認めた理由だ・・・・」

「勝ちを掴み取る力ねぇ・・・・まぁ結果主義だからな。
 勝てばいい。実力の上下なんてさらさら興味ねぇからな」

「喜べよ。豚みてぇにな。今俺がこうなってんのはその証明なわけなんだからよぉ。
 だって俺のが断然てめぇより強いんだぜ?分かってるか?あん?」

「勝ちゃぁいいんだよ勝ちゃぁ!」

「ふん・・・それだ・・・・クソむかつく話だ。
 努力も積み重ねもよぉ、全部台無しにしてくれる最高のクソ野郎だなテメェはよぉ」

「ありがとうよ」

ドジャーは右手にダガーを取り出した。

「よく分からねぇ長ったるい話ありがとよ。そろそろお別れといこうぜ?」

「こいクソ野郎」

「・・・・・・・」

ドジャーは何も言わず、
一本のダガーを投げつけた。

「ぐっ・・・」

それは張り付けになっているグレイの腹に突き刺さる。
腹のど真ん中だ。
刺さったダガー。
腹から零れ落ちるように大量の血液が流れ出す。

「・・・・ハハハッ!こりゃ痛ぇな!じわじわ死が流れ込んでくるぜクソッタレ!
 マイエネミー!てめぇもなかなかサドいなおい!この色男が!」

グレイの口と腹から、
溢れ出すように流れ落ちる。
このまま死んでいくのも時間の問題だろう。

「おいおいおい痛ぇなぁマイエネミー!さっさとトドメにしてくれよクソ野郎!」

「・・・・・カッ、俺もこんな悪趣味な事したくねぇんだけどな」

ドジャーがダガーを両手に取り出す。
そして、
一本づつ投げていく。
グレイに向かって。
右手。
左手と、交互に投げるダガー。
そして・・・・・・8本のダガーが突き刺さった。

「・・・・・・・なんのつもりだマイエネミー」

8本のダガーはグレイに命中しなかった。
8本のダガーはグレイを囲むように、
つまるところ、その8本のダガーはさらにグレイを張り付けにした。
衣服にかかり、張り付けになるグレイ。

「よっと」

ドジャーが右手を振る。
と、同時。
グレイの足元が煌く。
スパイダーカット。
ドジャーはグレイにかかっている蜘蛛を解除した。

「・・・・なんだ・・・なんのつもりだマイエネミー!意味がわかんねぇんだよ!
 なんかしみったれた痴話でも持ち出すか気か!?なんかの遊びか!?あん!?」

「ま、遊びだな」

ドジャーはダメージも残っており、
フラフラと振り向く。
この家のドアの方へ。
背を向けて歩いていった。
そしてドアノブに手をかける。

「てめぇの両足だけ解放した。自慢の両足をな。
 その代わりに全身ダガーで張り付けにさせてもらったけどな。
 あとはテメェがその腹の傷でくたばるのを待つだけってなもんだ」

「・・・・・・・なんで俺の両足を解放した」

「自慢の両足なんだろ?根性見せてみな。
 俺からの敬意のプレゼントだ。いろいろ教えてもらった授業料だ。
 ありがたくもらっとけ。んじゃぁな。もう会いたくねぇから一生バイバイ」

ドジャーは後ろを向いたまま、
軽く手を振り、
ドアから出て行った。

壊れ果てた部屋。
その壁。
ダガーで張り付けにされているグレイだけが残った。

「・・・・・・・・痛っ・・・」

腹にブッサさっているダガー。
流れ落ちる血液。
何リットル出ているのだろうか。
血の水溜りが出来ている。

「・・・・クソっ・・・マイエネミーめ・・・・」

グレイは張り付けにされたまま、
ポケットに両手を突っ込んだまま、
血のツバを吐き捨てた。

「そういう事か・・・。生かしやがったなあのクソッタレ・・・・。
 俺の脚力で無理矢理脱出できねぇこともねぇからな。
 または・・・・・ポリシーを捨てて両手でダガー引き抜けってか?」

今のこの状況。
脱出する術はあった。
足が解放されているのだ。
このまま真後ろの壁を蹴り壊すやら、
ポケットから両手を出してダガーを引き抜くやら。
グレイならば脱出可能な状況でもあった。

「・・・・・・・・・・」

だがグレイは動かなかった。
腹から血が流れ落ちていく。
思考も、
時間も、
自分の血液も、
全て流れ落ちていく。

「だぁーれが・・・・テメェの手助けなんかに乗るかよ・・・・・」

グレイはそう強がった後、
大きく吐血した。
体が寒い。
もう時間がない事を感じ取れる。

「俺ぁなぁ・・・腐ってもマイキャプテン率いる44部隊のグレイだぜ・・・・
 44部隊として・・・マイキャプテンの部下として死ぬために・・・・
 今日ここに来たんだ・・・・自分の命が惜しいなんてくだらねぇ理由のために・・・
 誇りまで捨ててたまるかよ・・・・あのクソッタレ・・・・」

もう完全に体の力が抜けていた。
張り付けにされたからだ。
もう自分の力で立っていられない。
ダガーに吊り下げられるように、
なんとか張り付けられている状況だ。
なんとか立ち上げられている状況だ。

「あー・・・これが死か・・・なんか気持ちいいねぇ・・・・・
 これが覚悟ってやつなんだなマイキャプテン・・・・
 受け入れる事ができれば・・・どんな時でも強くなれるんだな・・・・
 こりゃいいわ・・・・リストカッターの気持ちも分かる気がすんぜ・・・・」

グレイの首が傾いた。
力が出ない。
全身に感覚がない。

「・・・・死ぬんだなぁ・・・俺はよぉ・・・・でもよぉ・・・
 なんなんだろぅな・・・・なんで俺まだギリギリ立ってんだろな・・・」

虚ろな目で・・・
グレイは見下ろした。
下を見下ろした。
ぼやける視界の中。

両足に・・・・
自分の両足に・・・・
二人の少年が掴みかかっていた。

抱きつくかのように自分の足を掴んでいる。
同じ顔の少年だ・・・・

「・・・・あぁ・・・エド・・・ワイト・・・・てめぇらか・・・・・
 ハハッ・・・・でかくなったなぁ・・・・えと・・・今年でいくつだっけ・・・・
 7つだったな・・・・ちゃんと数えてたんだぜ・・・・」

記憶も意識も虚ろだった。
視界の先に昔の記憶が映し出される。
過去のエドとワイトが、
必死にグレイの足を掴む。

「・・・・・だなぁ・・・やっぱ俺ぁオメェらが気になってたんだな・・・・・
 クソ人間って共感と・・・・・血かねぇ・・・・自分が他に二人いるわけだからな・・・・
 認めたくなかったけどよぉ・・・・痴話だな・・・・俺にもそういう感情あったわけか・・・・・」

もう頭の中が真っ白になりそうだった。
だが、
足は立っていた。
記憶のエドとワイトが必死にグレイの足を掴んでいた。

「・・・・そういう事か・・・・・・・俺ぁ・・・お前らが支えだったんだな・・・・・・
 てめぇらが・・・・・どう腐るか見届けてやろうと思ってたつもりが・・・・・・・
 てめぇらはいつの間にか・・・・・俺の心の支えだったんだな・・・・つまんね・・・・・」

全身が消えてなくなった感覚がした。
周りの空間が、
全てなくなった。
真っ暗で真っ白で。
自分の体もなくなった。
だが、両足を掴む二人の少年。

「・・・・・・・・・・だよな・・・・・・・・・・両足は・・・・・・・踏みつける・・・・・ためのもんじゃねぇよな・・・・・・・
 ・・・・両・・足・・・・・・・・・は・・・・・・・・・・命を支え・・・るための・・・・・・・・もんだな・・・・・・・・・」



そして何もかもがなくなった。



「・・・・・・・・・王国騎士団に・・・・・・・・栄光・・・・・・あれ・・・・・・・・・・・」




静かな部屋の中。

張り付けになった一人の修道士は、


両足を誇示したまま絶命した。












                 






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