「おいおい!そろそろ覚悟決めようぜマイエネミー!!」
「覚悟決めないよろしくないネ」
「逃げ切れねぇの分かってんだろ?処理されねぇクソなんてねぇんだよ」
「逃げ切れないは同意ネ。けどそれワタシ達がクソ処理係みたいでよくないヨ」
「ん?合ってるだろ」
「合ってないヨ。クソにまみれてるのあんただけねグレイ」
「うっせぇんだよダ=フイ!!!」

ドジャーを追ってくるグレイとダ=フイ。
ドジャーの俊敏な動きに修道士ながらついてきている。
さすが44部隊といったところか。

「しぶてぇな・・・・」

灰色の街並みをかき分ける。
ドジャーは山中を走るが如く、
複雑な99番街の地形を走り回り、跳び回っていた。
もちろん速さという一点においてはドジャーに分がある。
が、
ドジャーの役目はこの二人をひきつけておく事。
オトリだ。
全力を出せば逃げ切れない事もないだろうが、
そうも行かない。
付きつ付かれずの距離を保って逃げるしかない。

「早くしろよイスカ、アレックス・・・・・
 さすがに俺だっていつまでも逃げ切れるもんじゃねぇぜ・・・・」

逃げながらボヤく。
ドジャーは知らない。
イスカもアレックスもそんな状況ではないと。
二人ともここに駆けつけるのは無理だという事を。

「くそっ、これ以上行くと99番街から出ちまうぜ」

逃げ場。
これ以上はなかった。
このまま逃げ続けると99番街の端の端。
さすがにドジャーとしてはイスカとアレックスを待つ身。
99番街から出るわけには行かなかった。
そして街の端に追い詰められているこの状況。
グレイとダ=フイのせいだ。
あの二人はただドジャーを追うのでなく、
追い詰める追い方をしていた。

「さすが44部隊ってか?抜け目ねぇなクソ・・・・」

知らず知らず、
いや、ドジャーの思考に関係なく、
追い詰められていたのだ。

「しゃぁねぇかチクショウ!」

ドジャーは逃げるのをやめた。
路地で足にブレーキをかける。

「お?」
「止まったネ」

グレイとダ=フイもドジャーの前でブレーキをかける。

「諦めたみてぇだな」
「観念したみたいネ。その潔さとてもヨロしいヨ」

「あぁ、観念したぜ。ったくよぉ」

ドジャーは両手にダガーを取り出す。
クルクルと手元で回して遊び、
やれやれと口元を歪ませる。

「戦って時間稼ぐしかねぇ。相手してやるよ」

ドジャーのその言葉。
戦意を表すその言葉。
だが、その言葉に対し、
グレイはポケットに両手を突っ込んだまま軽く息を漏らすように笑い、
ダ=フイは「あいやー・・・」と言って首を振りながらあざけ笑っていた。

「分かってないネ。えと・・・ドジャーだったカ?ドジャー、あんた馬鹿アルか?
 ワタシたち44部隊を二人同時相手する。ソレ勝てるはずないネ」

「勝てなくてもいいんだよ。時間を稼げれば・・・・な」

「それが頭おかしいヨ。44部隊ナメてるネ。ワタシ達ロウマ隊長に認められし精鋭ヨ。
 終焉戦争含めてあんたくらいの男何回も戦ったネ。でも負けてないから今ココいるよ」

まぁその通りだった。
44部隊といえば戦闘が仕事の王国騎士団超精鋭部隊だ。
ドジャーぐらいの人間とは何度も戦ってきたのだろう。
まぁ、
ドジャーももちろん弱いわけではないが、
特別すぎるほど抜きん出た実力を持っているわけではない。
最強部隊と言われた彼らから見ればナメられて当然程度の実力で、
ありふれた実力の対戦相手なのだ。

「ま、油断はしないよ」
「一応一年前ロウマ隊長に認められてるからな」
「ワタシらの中でそれは何よりも高等なステータスアルよ」

ロウマ=ハート。
彼らがいかに彼を信用・・・・
いや、崇拝しているか分かる。
彼の言葉が全て。
命令とかではなく、
ロウマのいう事を信じきっている。
彼らにとっては神よりも尊い存在なのだろう。

「チッ、一年前ねぇ・・・思い出したくねぇな。
 あん時は俺と張り合ってるしな胸糞わりぃ。便所にも流れねぇ気分だ。
 思い出すだけで蛆虫が這うみてぇにドロドロした気分が沸いてきやがる」
「アィヤー。そういやグレイあの時ドジャーに負けてたネ。いい気味ネ」
「ま・・・・・負けてねぇよ!!!」
「負けたネ」
「負けてねぇってんだクソ野郎!あれは俺が勝ったのにその後でこいつが攻撃してきやがったんだ!」
「言い訳ご苦労さんアルよ」
「言い訳じゃねぇよ!ありゃぁ殺し合いじゃなくて勝ち負けをだなぁ!」
「黙るヨロシ。44部隊の恥さらしネ」
「んだとクソ野郎」

グレイがダ=フイに詰め寄り、
至近距離でガンを付ける。
ダ=フイも睨み返す。

「サラセンの男みんなキレやすいネ」
「うっせぇ、クソ関係ねぇだろ。俺は俺だ。そしてダ=フイ。てめぇはいつもそれだ。
 何かっつーとサラセンサラセン。マサイマサイ。
 クソ漏らすガキみてぇに連呼しやがって胸糞わりぃんだよ。
 何がマサイだってんだ。あんな肥溜めみてぇな汗臭ぇ田舎町」
「・・・・・・・・マサイ馬鹿にしたネ。マサイ一族は誇りある部族ヨ」
「あ、そ。サラセンに一掃させられといて何が誇りだ。そんなもん紙と一緒に便所に流しちまえ」
「もう一度マサイを馬鹿にしたら殺すヨ」
「クソクソクソクソ!マサイなんてクソって言葉にしか聞こえねぇな!
 マサイってクソに蝿がたかってらぁ!野糞の町だクソったれ。クセェんだよてめぇら」
「死ぬヨロシ」

ダ=フイがスネイルシャベリンを回す。
そして本気の殺気と共にその槍をグレイの首元に突き出して止めた。

「何やってんだあいつら・・・・」

ドジャーはそれを遠目で見ながら思った。
何やら自分と戦うはずの二人が勝手にケンカを始めた。
サラセンの修道士と
マサイの修道士。
犬猿の仲とは聞いていたが、これほどとは。

「ほっときゃ勝手に死ぬかもな」

ドジャーはそんな事を企む。
今にも殺し合いをしそうなグレイとダ=フイ。
止める理由は何一つない。
勝手に仲間同士でケンカし、
そして同士討ちにでもなってくれれば願ったり叶ったりだ。
まぁそうはならなくとも、
少なくとも時間は稼げる。

「やんのか野糞野郎」
「サラセンの男は口だけ達者な不良修道士ネ」
「そうか。野糞はしゃべれねぇんだったな」
「前言撤回ネ。あんたの口から出るのクソって言葉ばかりよ。
 グレイ。あんた顔についてる口(ソレ)・・・・ケツの穴だったわけネ。
 上から下から、穴という穴からクソいうの垂れ流して凄いね」
「ぁあん?」

ポケットに両手を突っ込んだまま、
グレイはダ=フイを睨む。
一方ダ=フイはグレイの首元にスネイルシャベリンを突きつけたまま、
好きのない構えで睨みつけている。

「・・・・・・・」
「・・・・・・・」

一触即発。
目を離せばどちらかが死んでいそうな状況。
もしくは両方か。
ドジャーはそれを見ながら、
こっそり「がんばれー」とかつぶやいていた。

「・・・・・・・・・チッ」
「まぁそうアルね。まずは王国騎士団としての意志ね」
「あぁ。その後でもクソ野郎の処理はできる」
「マサイの意思は後回しネ」

グレイとダ=フイは同時にドジャーの方を向いた。

「・・・・・げ・・・・結局かよ・・・・・・」

期待していた事は起こらなかった。
結局のところ、
やっぱり44部隊と1対2で戦わなければいけないらしい。

「おい、マイエネミー。選ばしてやる」

「あん?」

「俺ら二人と同時にヤるか?それとも俺とタイマンでやるかだ。
 大で流すか小で流すかって選択だ。クソには調度いい二択ってな。
 まぁ俺としては前の決着をつけてぇからタイマンを希望するけどな。
 やっぱテメェのケツはテメェで拭いておきてぇ。
 汚ぇオメェっていう過去がケツにこびり付いたままじゃ寝るにも寝れねぇ。
 紙でふき取ってまるめて流してやるよ。犬も食いやしねぇ」

グレイはそう言い、
両手をポケットに突っ込んだままアゴで挑発した。
1対1を御所網らしい。
願ってもないことだ。
2対1では万に一つも勝ち目はないが、
1対1ならば可能性がかなりあがる。
とにかく速さを生かして逃げながらチャンスを見つければいいのだから。
さらにグレイ一度やっている相手。
糸口は見つかるはず・・・・・。
だが、

「カッ!そりゃぁタイマンを希望してぇとこなんだけどな。
 おめぇの意志はともかくよぉ、そっちのアルアル野郎はどうなんだ?
 グレイが勝手に決めた私情を飲んでくれる保障はあんのかよ」

「ないネ」
「あぁん?」
「グレイの事なんて知らないヨ。ワタシはとりあえずこいつ殺して、
 そんでアレックス部隊長殺して、最後にグレイ殺す。それでいいネ」
「こいつはやらせろっつってんだダ=フイ!!」
「いやアルよ。お前の主張なんてどうでもいいネ。
 ワタシにはただの寄り道よ。早く終わらせたいだけネ」

グレイとダ=フイは睨み合ったあと、
ドジャーに近づいてきた。
歩み寄ってきた。
仲良く・・・ではなく、
ゆっくり二人の距離が離れるようにドジャーに歩み寄ってくる。
仲の悪いことだ。
わざわざチームプレイではなく、
別々で攻撃してくるつもりだ。

「結局俺に選択肢なしで2人相手ってことね・・・カッ・・・・・めんどくせぇ・・・」

どうするか・・・
相手は修道士。
近づかれたら終わりだ。

「あ、マイエネミーよぉ。ダ=フイの得意技はナーブダウンだ。
 近づかれるんじゃねぇぞ。気絶させられてそれで終わりになっちまう」
「バラすないねグレイ」
「てめぇに手柄もってかれたくないんでね」
「ほんとサラセンの男は勝手でムカつくね」

「・・・・・・・」

なおさら近づかれるわけにはいかなくなった。
気絶。
それは死を意味する。
こんなところでぼんやり気絶するのは勝負が決まったようなものだ。
・・・・・・近づかれてはいけない。

「じゃぁご馳走をくれてやるしかねぇな!!」

ドジャーはダガーを投げた。
右、左と二本。
グレイに投げ飛ばした。

「食らっちまいな!」

ダガー投げ。
これしかない。
距離をとったまま戦うしかないのだ。
自分は安全に、かつ攻撃を加えなければならない。

「ペッ、上等だクソ野郎」

グレイは両手をポケットに入れたまま、動じない。
ダガーが二本がグレイに飛んでいっているのに、
やはりポケットから両手を出す気はなく、
そして特に身構えたりはしない。

「だがそりゃぁ前も見たぜ!」

グレイは余裕の回し蹴り。
左、右と一回転。
ドジャーのダガーを両方蹴り弾いた。

「マイエネミー!そりゃぁ一度破られてんだろ?
 一度流れたクソはもう帰ってこねぇんだよ」

「じゃぁこっちだ!」

ドジャーはまたダガーを取り出す。
今度は2本づつ。
計4本。
それをすぐさま投げる。
グレイではなく、
ダ=フイの方へ。

「まるで遊戯ネ」

通用しなかった。
ダ=フイはスネイルシャベリンの中心を軸に、
シャベリンを扇風機のように高速回転させた。
まるで盾のように円を描くシャベリン。
それはドジャーのダガーを全て弾いた。

「カっ・・・」

まぁ時間稼ぎにダガーを投げ続けようと思っていたが、
まさかグレイ、ダ=フイ両方に対して全く通用しないとは思わなかった。
はっきり言って余裕だ。
余裕をもたれすぎている。
二人ともダガーを投げられた所で臆する事がない。
あ、飛んできた→バチン。
そんなお気楽に弾かれてしまうのだ。

「さぁてこちらの番だぜマイエネミー」
「覚悟するヨロシ」

左からグレイ。
右からダ=フイがゆっくり迫る。
近づかれてはいけない。
距離を保ち、
ダガーで時間を稼がなければ・・・・。

「ダ=フイ。俺に合わせろよ」
「イヤネ。お前の動きを予測しようと思うだけでヘドが出るネ」
「うっせ。俺からお前にあわせる事はしねぇからな」
「気が合うネ。ワタシもヨ。なんでワタシ達こうも仲良しアルか?」
「だな。お互いがお互いを嫌いって事だけはどこの誰よりも通じ合ってるな」
「あぁ死ねばいいネ」
「お前が死ね」
「死ぬヨロシ」
「黙れ。ゴミと混ざって腐って死ね」
「で、どう戦うアルか」
「決まってんだろ?それぞれ好き勝手にやるぞ」
「ダネ。最初からそれしかないネ」

グレイが両手を突っ込んだまま首をコキコキと鳴らす。
ダ=フイが両手でスネイルシャベリンをグルングルンと回す。
ゆっくり、
ゆっくりと左右から近づいてくる。
そして・・・
両方とも一度動きが止まる。
止まったと思うと・・・・。

「いくヨ」
「しゃぁクソッタレ!!!」

合わせたか合わせてないか、
グレイとダ=フイが同時に突っ込んできた。

「クソッ、やべぇっての!」

ドジャーは走る。
このままでは二人に挟み撃ちだ。
二人の真ん中。
二人の間を駆け抜ける。

「逃がさないヨ」

ダ=フイは読んでいたかのようにドジャーを追いかける。
読んでいたかのような方向転換。
ドジャーは逃げるしかない。
止まったら終わりだ。

「だが機動力ならこっちが上だぜっ!」

ドジャーがそのまま走りこむ。
ダ=フイが追う。
修道士とは思えない動き。
そこらの盗賊より速い。

「でも俺の動きにゃついてこれねぇだろ」

「前向いて言った方がいいヨ」

「!?」

ドジャーの目の前。
壁。
家。
そしてこのブレーキの利かない速度。
・・・・・・ぶつかる。

「なーんてな」

ドジャーはそのまま跳ぶ。
そして家の壁に着地し、
そのまま後ろに跳ぶ。
いわゆる三角飛び。
家の壁を使っての180度ターン。
調度ダ=フイを飛び越す形で。

「お前が壁に激突しな」

ドジャーはダ=フイの背後で言う。
ダ=フイ。
彼が修道士を軽く超えた速度を持っているからこそ・・・・
そのスピードが命取り。
そのまま壁に激突・・・・・

「44部隊ナメるないヨ」

違う。
ダ=フイは地面にシャベリンは突き刺した。
走りながら棒槍を突き刺し、

「ホイヤ」

槍を軸にターン。
地面に刺したシャベリンを掴んで180度ターン。
まるで曲芸。

「あらら・・・・・運動神経抜群ってわけね・・・・」

そしてそのままダ=フイはドジャーに向かって・・・・

「死ねマイエネミー!!!!!」

「!?」

いや、
背後。
ドジャーの背後からグレイの声。
振り向くと・・・・・・
グレイが跳びこんできている。

「のぁ!?」

「吹っ飛べ!!」

ドジャーは咄嗟に避ける。
横にぐるんと回転してなんとか避ける。
そしてグレイ。
グレイはそのまま家の壁へ突っ込んでいった。
と思うと・・・・
轟音。
レンガの砕ける音。
グレイの蹴りが99番街の家の壁に突き刺さり、
壁ごと突き破った。

「け、蹴りの威力じゃねぇぜ・・・・」

「チ・・・はずしたか」

崩れた家の中で、
グレイはツバを吐き捨てる。
ポケットに両手を入れたまま、
瓦礫と化したレンガに八つ当たり。
グレイが踏み潰したレンガの破片は粉々に砕け散る。

「なにやってるか!グレイ!」
「あん?蹴りだよ蹴り。見れば分かんだろ」
「あんたがやらなくても今ワタシが殺せてたネ!邪魔するないヨ!」
「お前がやっちまいそうだったからやったんだよ」
「何?ならアレか?邪魔するの目的か?」
「そうだ」
「死ぬヨロシ」
「やだね」
「大体今の軌道じゃワタシにも当たってたネ」
「だからやったんだよ」
「ならアレか?ワタシもあわよくばヤっちまおう思てたのカ?」
「そうだ」
「死ぬヨロシ」
「やだね」

グレイとダ=フイがまた睨み合う。
またもうドジャーは無視だ。
犬猿の仲。
もう好きにやって欲しい。

「カッ・・・だがマジで潰しあってくれるかもな・・・使わねぇ手はねぇ・・・・・」

「勘違いするないヨ」

ドジャーの声が聞こえてたかのように、
ダ=フイがドジャーを睨む。

「ワタシら仲間割れする。それはお前関係ないヨ。ワタシらの勝手ネ。
 でもこの"関係ない"の意味分かるカ?つまりあんたはその程度て事ネ。
 ワタシらが仲間割れする余裕があるいう事ヨ。オマケって事ネ」
「いつでも倒せるって事だマイエネミー。お前に集中しなくてもな。
 その程度なんだよマイエネミー。あんま失望させてんじゃねぇぞ?」

「・・・・・・・カッ」

言い訳も、
言い返す言葉もなかった。
実際勝てる見込みがあるのだろうか。
やはり・・・・
逃げ続けるしかないのか。

「そうネ。選択肢は逃げるしかないネ」

「なっ!?お前心でも読めるのか!?」

「違うヨ。あんたには"それ"しか出来る選択肢がないって事ネ。
 どう考えても太刀打ちできる術ないヨ。ならソレしかないネ」
「だが失望させんじゃねぇぜ?逃がさねぇために俺らはこんな事言ってる。
 こう言えばお前は逃げねぇだろ?こうまで言われて逃げねぇよなマイエネミー!!」

「・・・・・・・」

「まぁどっちでもいいネ」

ダ=フイはシャベリンを回転させる。
そして回転を止めて槍を左脇に挟んだと思うと、
右手を突き出して構えた。

「どっちにしろ死ぬからネ」

ダ=フイが・・・・・走ってきた。
低姿勢で走りこんでくる。
あっという間だ。
あっという間に距離を詰め、
スネイルシャベリンを横に大きく振る。

「やられてたまるかよ!!!」

ドジャーはそれを縄跳びのように飛び越える。
上にジャンプして避ける。
だが、

「それでも死んじゃうわけよ!!!クソ食らえ!!」

ジャンプで逃げた空中。
そこにはグレイが待ち構えていた。
グレイはドジャーの動きを読んですでに跳んできていた。

「ネリっ!!!」

グレイが空中で足を高く上げる。
自分自身の頭を超えるように、
二つの足が一本の直線になるように、
足を大きく振りかぶる。

「チャギッ!!!!!」

そしてブースターでも付いているかのように足が勢いよく叩き落される。
カカトから真っ直ぐ落とされる。

「がっ!!!」

空中でのネリチャギ。
グレイの得意技の一つ。
それがドジャーに直撃する。
最大限まで溜め、振り落とされたカカトは、
ドジャーに直撃し、
ドジャーは凄い勢いで地面へと叩きつけられた。

「ぐっ・・・・きくな・・・・・」

口から血が零れ落ちる。
芯を貫かれたようなダメージ。
そして空中から叩き落されたのにも関わらず、
体は埋め込まれたように地面に突き刺さる。

「邪魔するないヨ!ワタシがヤる言ってるネ!!!」

痛みを楽しんでいる場合じゃない。
地面に横たわったドジャーの視界。
目の前にはダ=フイ。
槍を頭の上で回転させながら、
ドジャーに・・・・

「死ぬヨロシ」

槍を突き刺す。
ドジャーは間一髪で避ける。
後ろに跳ね跳ぶ。

「クソッ・・・・俺はボーナスキャラじゃねぇんだぞ・・・・次から次へと・・・・」

「そう。次から次へとネ」

「うぉっ!」

ダ=フイがまだ攻撃してくる。
槍を回転させながら。
ドジャーは後退して避ける。
後ろ向きに下がる。
ダ=フイが攻撃してくるからだ。

「はいやっ!」

ダ=フイの槍。
棒術。
回転を利用してドジャーにシャベリンを振ってくる。
何度も何度も。
ドジャーは後退しながら避ける。

「はいっ!やっ!あいやっ!!」

だが止まらない。
ダ=フイが槍を回転させながら、休む間も無く攻撃してくるからだ。
槍の先(さき)と柄(え)で交互に。
半回転してシャベリンの先。
半回転してシャベリンの柄。

「せぃ!てやっ!」

半回転。
半回転。
シャベリンの先。
シャベリンの柄。
止まる事のないシャベリン。
ドジャーは後退しながら見定めて避けるしかないが、
止まらない。
ダ=フイの棒術は止まる事のない回転。

「クソッ!これが棒術ってやつかよ!やっかいだな」

「マサイの伝統ネ。シャベリンは槍にあらずヨ。
 武器自体の力に頼らない武具術。これが修道士のあるべき姿ネ」

「避けにきぃな・・・・」

「そうネ。いつまでも避けきれないヨ!」

その通りだった。
ダ=フイの攻撃。
とまることのないスネイルシャベリン。
後退しながら避けるしかないドジャー。
いつまでも避けきれない。
その理由はドジャーが背後に感じた。

「チっ・・・壁かよ!」

ドジャーの背中に冷たいレンガの感触。
追い詰められた。
背中に壁。
目の前にダ=フイ。

「死ぬヨロシ」

ダ=フイの槍が振りかぶられ、
ドジャーに・・・・

「俺の獲物っつってんだろがクソっ!!!!!」

突然横から声。
声が近づいてくると思うと・・・・

「烈っ!!!」

ドジャーの体が浮いた。
足をかけられたのだ。
グレイが横から走りこんできて、
スライディングのような攻撃。
烈。
派生型のスキルだが、
蹴り技に特化したグレイは直で烈を放ってくる。

「くっ・・・・」

ともかく・・・・
ドジャーは浮いた。
数cmだが、足をかけられバランスを崩す。

「また邪魔するアルかっ!!」

ドジャーがグレイの烈でバランスを崩したお陰で、
ダ=フイの槍はドジャーに当たらず、
壁に突き刺さった。
まぁグレイの狙いだろう。
ダ=フイにドジャーをとられたくないという。
助かった。
犬猿の仲のお陰で敵に助けられた。

が、
それも一瞬だった。

その間は・・・わずかだっただろう。
足をかけられてバランスを崩しただけなのだから。
だがその1秒を満たすか満たさないかの一瞬は致命的すぎた。

「だがやるのはワタシよ」

「やべ・・・・」

今さっきのダ=フイの攻撃は当たらずに壁に突き刺さったが、
ダ=フイはすぐさま自分の体を半回転させる。
半回転させ、槍を抜き、
そのままその回転の反動で・・・・

「ぐぁっ!!!」

ドジャーの頭にシャベリンの柄が直撃する。
柄とはいえ反動を活かしたその攻撃は強力で、
ドジャーは攻撃を喰らった頭から真横に吹っ飛んだ。

「くっ・・・そ・・・・・」

ドジャーは体勢を整える間も無く、
地面を転がる。
吹っ飛ばされて転がる。
そしてやっと止まった。

「痛っ・・・・ってぇな・・・・」

頭がガンガンする。

「クラクラするぜ・・・・シャベリンの柄でおもくそ頭にぶつけやが・・・・」

痛みが走る頭。
そこに痛み以外の電気信号が送られる。
視界。
目の前。
もうダ=フイは迫ってきてる。

「しつけぇんだよっ!!!」

ドジャーはすぐさまダガーを取り出す。
4本。
そして左、右と投げつける。
が、

「お遊戯ネ」

やはりダ=フイには効かない。
走りながらシャベリンを回転させる。
回転の盾。
まるでプロペラの盾。
ダガーは弾かれ、
ダ=フイのシャベリンがドジャーに迫る。

「せやっ!」

シャベリンの先がドジャーを襲う。
間一髪避ける。
腕に切り傷を入れられたがかすり傷だ。

「てぃや!」

だがダ=フイの攻撃は・・・・やはりそれで終わらない。
シャベリンを半回転させ、
シャベリンの柄がドジャーの腹に突き刺さる。

「ごわっ・・・・」

ドジャーの口から血と血でないモノが吐きだされる。
腹への鈍い痛みに体が・・・・

「マイエネミーは俺の獲物っつってんだろがっ!!!」

声と共に、
突如ドジャーが吹き飛ぶ。
横からまたグレイ。
おもくそな蹴り。
ドジャーに直撃し、ドジャーはただのモノのように吹っ飛んだ。
地面を転がり、
家の壁に激突すると同時に、
ドジャーの口から血が吐き出された。

「・・・・がはっ・・・・」

すぐには立ち上がれなかった。
ダメージが大きすぎるのだ。
壁を背もたれにしたまま、
ドジャーは前を見る。
向こうにダ=フイとグレイ。

「・・・ハァ・・・・・・・・・・たまんねぇよ・・・・・」

頭も腹も。
全身に痛みを抱えながら、
クラクラする視界の先に見える二人の修道士の姿。

「もう終わりかマイエネミー」

ポケットに両手を突っ込んだままそう言うグレイ。
両手を完全に封印したまま戦っているというのに、
あの動き。
あの攻撃。
変幻自在の蹴りと、
ゴールドシューズだけで言い表せない蹴りの攻撃力。

「やっぱこんなもんネ。ロウマ隊長もたまには見込み違う事もあるヨ」

ダ=フイはシャベリンを回転させながら、そう言う。
槍を使った棒術。
そして機動力。
特異な武術を使うダ=フイ。
さらにグレイの話ではナーブダウンが得意技という話。
それさえまだ使ってきていない。

「・・・・・・・・勝てる気がしねぇ・・・・」

弱音を吐いた。
ポロりと出た言葉で、
そして本音だった。
実際時間を稼ぐのが目的だったが、
あわよくば好機にもっていきたかった。
だが、それどころか時間を稼ぐことさえ出来なかった。

「アレックスならどうしたかな・・・・44部隊2人相手とかだったら・・・・
 まぁ・・・・あいつの事だから同士討ちとか狙うんだろな・・・・
 だがなんとも思いつかねぇ・・・・せっかくあいつら犬猿の仲なのによ・・・・」

犬猿の仲。
グレイとダ=フイ。
お互いを憎み合った仲間。
足を引っ張り合う戦闘。
だが、それでもドジャーは負ける。
二人が張り合っているからこそ立て続けの攻撃がきたともいえるが、
何にしろ手も足も出なかったのだ。
・・・・・
さらに・・・・
こちらの攻撃は一度も当たっていない。

「マイエネミー。てめぇはそんな蟻クズみてぇなやつだったのか?
 俺はな。エドとワイトの分までお前を踏みつけなけりゃいけねぇ。踏み越えなきゃいけねぇ。
 どんなクソも踏み越える。この両足でな。だがなんなんだクソ野郎!
 お前は蟻んこだよ。よそ見してる奴に知らん間に踏みつけられる蟻んこだ。
 俺ぁ"踏みつけごたえ"が欲しいんだよ。"プチッ"じゃなく"グチャっ"だ」

「・・・・・・」

向こうの事情など知ったこっちゃない。
だが、
この状況。
どうしたものか・・・・

「イスカ・・・・アレックス・・・・早くしろよ・・・・」

待ち望んでいた。
だが、
彼らはこない。
これないのだ。

「来る保障もねぇわな・・・・あいつらだって44部隊と戦ってんだ・・・・」

ため息が出る。
そしてダ=フイが・・・・とうとう飽きたようだった。

「もういいネ。終わりにするヨ」

シャベリンを回す。
これみよがしに回す。
回しながら歩んでくる。
今のこの体で・・・・避けられるか?
ダ=フイの攻撃を避けきれるか?
こっそりセルフヒールで回復をはかっているとはいえ、
何度やっても同じ事になるのは目に見えている。
だが・・・・

「やってやるしかねぇ・・・・」

刺し違える覚悟が必要だ。
刺し違える覚悟で・・・・
さらにそれを乗り越える覚悟。
死んだらなんにもならない。
必要なのは死の覚悟で、
死を欲してはいけない。
死を覚悟しながらも・・・・生き残る。
それをする。
ドジャーは決意した。

「いいネ」

ダ=フイが歩んできながら言う。

「さっきは諦めが見えたヨ。でも今はまだ諦めない目ネ。
 その目はいいヨ。ロウマ隊長はそこに目をつけたに違いないアルよ」

「・・・・・そりゃどうも・・・・」

「でも詰みアルよ」

ダ=フイが左脇にシャベリンを挟み、
右手を突き出して構える。

「死ぬヨロシ」

ダ=フイのシャベリンがドジャーに・・・・・


「アィヤっ!!!」

突然ダ=フイが吹っ飛んだ。
真横にだ。
何かが直撃したようだ。

「何アルか?!」

ダ=フイは吹っ飛んだ先で、
槍を地面に突き刺し体勢を整えた。
ダ=フイが真っ先に見たのはグレイ。
グレイを睨む。
が、

「俺じゃねぇよ。そんなクソみてぇな目で見んなっての」

グレイが邪魔をしたわけじゃないようだ。
グレイはポケットに両手を突っ込んだまま首を振り、
そしてアゴを向ける。
アゴで一方向を指す。

「アレだアレ」

ダ=フイとドジャーがそちらを見ると、
屋根の上。
屋根の上に一人の男。
両手を斜めに突き上げてポーズをとる男が一人。

金髪の短髪。
頭に猿をのっけた修道士。

「ジャジャーン!!よばれて飛び出てパンパカパーン!
 悪ある所に〜オイラあり〜!オイラ行く所に悪がある〜!
 はびこる悪は許せないジャン!それがヒーローの心意気!」

チェスターだった。

「オイラが来たからにはもう安心ジャン!平和は守られたも当然ジャン!
 なんたってオイラはヒーロー!スーパーヒーローチェスター君!
 悪という悪をバッタバッタとなぎ倒し!メッタメッタとぶっ倒す!」

「おいチェスター」

「さらにはみなぎる必殺技!数々の必殺技はもう凄い!
 オイラのカッコイイ必殺技でオイラはかっこよく敵を倒し!
 スーパーヒーロー的な活躍でオイラは一躍・・・・」

「おいチェスター!!!!!」

ドジャーが怒鳴るように叫ぶと、
チェスターはやっと口を止め、
ポーズを決めたままドジャーの方を向いた。

「なんだよドジャーっ!今まだいいとこだっ!」

「あー・・・はいはい。いいとこ邪魔してすいませんね・・・・」

「ほんとだっ!邪魔ジャン!大事なとこなんだぜっ!」

「知るかっ!必要ねぇよそんなカッコワリィ登場!」

「カッコイイジャン!超カッコイイジャン!ヒーローを妬むなよっ!」

「どうでもいいんだよっ!俺が聞きてぇのはなんでおめぇがここにいるんだよって事だ!」

「それはここに悪があるから」

チェスターはポーズを変える。
頭の上で猿のチェチェも同じポーズをする。

「悪がある所にオイラあり。オイラ行くところに悪があり!」

「いいからっ!」

「よくないジャン。ねー、チェチェー♪」
「ウキー♪」

チェスターがチェチェと一緒に首を傾げる。
グレイとダ=フイは違う意味で同時に首を傾げる。

「・・・・・・・猿が来たぞ猿が」
「猿を乗せた猿が来たネ」
「なんなんだアレ。糞の一種か?」
「GUN'Sの時にも見たアルよ。忘れたアルか?サラセンの男は記憶力悪いネ。
 あいつは『ノック・ザ・ドアー』のマーチェ。本名はチェスターだったカ?」
「あー。攻城で外門吹っ飛ばすやつか。うちの奴も攻城で手合わせしたっつってたな」
「攻城の常連ネ」
「どっかの攻城で死んじまえばよかったのに」
「それ以前にGUN'Sの時に取り逃がしたネ。獲物増えたアルよ」

チェスターは屋根の上、
口を尖らせてブー垂れていた。

「むー・・・・。まだヒーローとしての認知度が足りないみたいジャン」

「ジャンじゃなくてよぉ。質問に答えろよチェスター。なんでここにいんだよ」

「んえ?そんなん本部戻ったらジャスティンが教えてくれたんジャン。
 なんとドジャーがアレックスと会いに行くって!
 面白そうだからオイラも追いかける形でここに向かったんジャン」

「追いかける形って・・・・・なんでこんな今更来るんだよっ!遅ぇだろ!」

「ゲート持って無かったから走って来たんジャン」

「走っ・・・・・」

ドジャーは言葉に詰まった。
今現在、
ゲートがないからといって町まで徒歩で移動する人間など聞いた事ない。

「そしたら道迷ってスオミについちゃってさぁ」

「はぁ!?」

「あれはビックリしたジャンねっチェチェ」
「ウキウキー」

それはビックリする。
そこまで猛烈に方向音痴な人間は見たことがない。
たとえ道に迷ったとして、
間違えたまま突き進む根性が信じられない。

「だからスオミからまた走ってきたんジャン」

「ス、スオミでゲートを買え!!!」

「あ、そうか」

チェスターは頭をポリポリとかいた。
金髪で輝く短髪。
その頭をチェスターがかくと、
頭の上でチェチェも自分の頭をかいた。

「で、」

チェスターがあらためてニコりと笑い、
グレイとダ=フイの方を見る。

「ヒーローが助けにきたわけジャン?オイラはあいつらを倒せばいいわけだねっ」

なんともまぁ・・・・
呆れる事だ。
だが、
ドジャーはフッと笑う。

「あぁ。その通りだ」

ヒーローとかそういう理屈はいい。
どうでもいいし、
興味もない。
だが・・・・
たしかに救いの手だ。
こんなに助かる助けはない。

「よーしっ!」

チェスターは屋根の上から跳ぶ。
空中でクルクルと回転した後、
地面にトタンと着地する。

「スーパーヒーローの力みせてやるジャン!!!」

「あぁ、そうしてくれるとマジ助かるぜ」

「だっろぉ?ピンチの時にかけつける。まさにヒーロージャンね」

「カッ、ピンチになる前に駆けつけてくれると嬉しかったけどな。・・・・・・・よっと」

ドジャーが跳ね起きる。
跳ね起きて、チェスターの横に歩く。
腕をぐるんぐるんと回し、
首をならす。

「よっしゃ。そこそこに回復したみてぇだ」

体の回復。
全快ではないが、セルフヒールで時間を稼いだだけはあった。
調子はいい。
・・・・いや、
そのお陰じゃぁない。
チェスターが来たからだ。
性格はこんなだが、
《MD》では最大戦力と言ってもいい。
チェスター単体ならば44部隊にひけをとらない。

そしてそれ以上に・・・・・
仲間の応援。
これ以上に心強いものはなかった。
ドジャーは知らぬ間に心に力が漲っていた。
弱音とかは忘れていた。
とぼけた態度のチェスター。
彼のそれが全てをかき消した。

「んじゃいっちょやる?やっちゃう?」

「おう。やるかヒーローさんよ。活躍次第で遅刻の反省文は免除してやる」

「遅刻って言うなってぇ〜。だってさドジャー」

チェスターは拳を突きつける。
グレイとダ=フイの方へ。

「ヒーローは・・・・・・遅れて登場するもんジャン」

「カッ、迷惑なもんだ」

「でもその方がカッコイイジャン?」

「・・・・・・ケッ」

ドジャーはツバを吐き捨てた後、
両手にダガーを抜き、
クルクルと高速回転させる。
そしてそれをピタリと止めて言う。

「まぁ、確かに逆転劇のがカッコイイわな」

「分かってるジャン♪そして・・・・・」

チェスターは突き出した拳に力を入れる。

「スーパーヒーローは絶対に負けないぜ!」

ドジャーとチェスターは同時に笑った。









                 






SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送