-ルアス城-










「ディアモンド様」

王座の前。
ピルゲンは膝を付き、
頭(こうべ)を垂れる。

「なんだ。ピルゲン」

アインハルトは王座で足を組んで座りながら、
右手で女性を抱えていた。
抱えながら頭を撫でている。

「ルアス99番街に進攻した精鋭1000名。その生き残りからの報告です」

「話せ」

アインハルトはそう言うが、
ピルゲンには目もくれず、
横の女性の頭を撫でていた。
女性は女性でアインハルトに抱き寄る。

「ハッ、精鋭1000は全滅。その時・・・・アレックス殿は裏切ったとの事です」

ピルゲンはそう報告した。
だが・・・・
頭を下げたままそう報告したのにも関わらず、
アインハルトから返事が帰ってこなかった。

「・・・・・ディアモンド様?」

ピルゲンが顔をあげるが、
そこには先ほどと同じく、
女で遊ぶアインハルトの姿だった。

「ピルゲン」

「ハッ」

「本当にただの"報告"だな。状況を伝えにきただけか」

アインハルトに動揺の二文字は全く無かった。
だからどうしたとでも言いたげに。
いや、それすらも興味がないように。

「何もおかしな事ではない。アレックスが裏切るなど最初から分かっていたことだ。
 あいつはただ我を楽しませるためだけに生きている。それだけの存在だ。
 そのためだけに我が生かしたのだ。この状況も我の想像から1mmも出ていない」

「そうでございましたか」

「あぁ。今回が裏切る時だというのも分かっていた。
 それが我の思うままに動き、我の思うままの結果が行われた。それだけだ。
 それを報告として聞くも聞かぬも同じ事。我の思考と同じに世界は流れているのだから」

アインハルトはそう微笑し、
傍らの女性を見た。
そして、
その女性の顎(アゴ)にソッと手を添える。

「なぁ、ロゼ」

「はい・・・アイン様・・・」

ロゼと呼ばれた女性は、
まるで操られた道化人形のようにアインハルトを見つめ返した。
まるで感情などないように、
はたまたアインハルトの美貌の虜のように。

「お前は美しいな。ロゼ」

アインハルトはロゼの顎からソッと頬へと手を這わせる。
まるでワイングラスを持つかのように、
アインハルトはロゼの顔に手を添える。

ロゼという女性。
彼女は少々異端だった。
思うがまま、常時女を食らうアインハルトだが、
その中でもお気に入りが彼女だった。
大概の女性はアインハルトの寝室に行くことは一度だけ。
その後"処分"されるからだ。
だが彼女は違った。
王座でアインハルトの傍らに置かれている。

「お前を見ていると今にも壊したくなる」

アインハルトはそう言うと、
爪を立てた。
ロゼの顎の奥にアインハルトの爪が細くめり込み、
ロゼの首を伝って赤い血が垂れ落ちた。
まるで純粋な赤ワインが流れるように。

「アイン様が望むのであれば、私はいつでもその覚悟がございます」

ロゼは・・・・
不思議な女性だった。
少女にも近い風貌だった。
美貌。
それは神のように神秘的なものでも・・・・・ない。

まるで人形のような女性だった。
笑顔の奥で、感情が打ち消されているようで、
美しい瞳の奥はあまりに無機質で真珠のようだった。
人形のように一色の肌は、
頬を赤らめる時以外は透き通ったシルクのようで、
髪は触り心地がしないほど決め細やかだった。

「アイン様・・・・」

ロゼがアインハルトに手を伸ばす。
が・・・・

「調子に乗るなよ雌豚」

アインハルトはロゼの髪を鷲掴みにした。
ロゼは痛がり、
人形のように整った顔が苦痛に歪む。

「お前、自分が特別だとか思うなよ」

「すいませ・・・・アイン様・・・・」

アインハルトがロゼを突き放すと、
ロゼは王座の横に虚しく転がった。

「ピルゲン。アレックスは次どう出ると思う」

「・・・・そうでございますね。
 アレックス殿の事ですからすぐに目立った行動は起こしてこないでしょう」

「だろうな。だがそれではつまらん。・・・・・・・・・カスにはカスを・・・・か。
 フッ・・・・ピルゲン。すぐに我の言うとおりにしろ」

「ハッ、なんでございましょう」

「なぁにカスにはカスを。使えないものを使って遊ぼうと思うだけだ」
























-ルアス99番街-




「ねぇドジャーさん」
「なんだ」
「一回家帰りません?」
「なんでだよ。思い出にでも浸りてぇのか?」
「いえ、そういえば一年前GUN’Sを倒しに行く前に・・・・・」
「やり残したこと?」
「はい。苺大福をしまっておいたの思い出したんです」
「アホか!一年前のが食えるかっ!!!」
「甘いものを甘くみないで欲しいですね。一年くらい・・・・」
「甘いからすぐ腐るんだよっ!!!」

アレックスとドジャーは並んで歩く。
歩きながら話す。
くだらない雑談。
この廃れた灰色の街。
99番街を歩く。

なつかしい・・・・・とは思わなかった。
体が馴染み過ぎている。
まるで昨日までもこうしてこのスラム街を歩いていたような気さえする。
帰ってきた場所。
そう思った。

「で、一番聞きたい事なんですけど」

あらたまってアレックスは話しかける。
ドジャーは頭の後ろに腕を組み、
とぼけたように歩いているが、
アレックスが聞いてくる事は分かったようだ。

「他のヤツラの事か」
「はい」

ドジャーはため息をこぼし、
そのままアレックスに目をあわさず、
歩きながら答える。

「正直なとこ俺もほとんど分からねぇ。
 逆にお前側から分かる事があるんじゃねぇかって期待してたよ」
「バラバラ・・・って事ですか」
「まぁほとんどな。さすがに全員バラバラってわけじゃねぇがな」

少し不安をかき消すような答えだった。

「GUN’S戦で最後に一緒だったからな。ジャスティンは当然一緒だ」
「そりゃそうですよ。じゃなきゃあぁまでして僕が騎士団に入った甲斐がないです」
「ま、そうだな。おめぇは俺達を助けるためにあっちに下ったんだもんな」
「ホメてください」
「あいあい。ありがとよ」
「で、一緒にいるのはジャスティンさんだけですか?」
「いや、チェスターもだ」

その言葉は少し喜ばしい事だった。
ジャスティンが無事だろう事は分かっていたが、
その他にも合流できている人がいる。
それは心の中の不安を少し除いてくれた。

「さすがチェスターさんですね。あの状況から自力でどうにかしたわけですか
 あ、そういやチェスターさんは何度かアルガルド騎士団に攻め込んできたとか。
 噂程度なのでよく知らないんですけど・・・・本当なんですか?」

ドジャーは首を振りながら呆れる。
チェスターに対してだ。

「おうよ。正義感丸出しでな。ヒーロー気取りで勝手に行動しやがる。
 ったく。漫画じゃねぇんだから一人でどうこうできるかってんだ。
 あいつはいつも夢やらヒーローやらで現実を見ねぇ」
「ハハッ、チェスターさんらしいですね」
「まぁな。ま、その目立つ行動のお陰で俺らと合流できたんだけどな」
「とくかく良かったです」
「・・・・カッ、」
「でもやっぱり他の方は・・・・」
「あぁ。俺、ジャスティン、チェスター以外はバラバラだ」
「そうですか・・・・」

とりあえず合流が出来たのは3人。
最悪より一つ良い状況だ・・・と
ポジティブに考えることにした。

「あと居所が分かってるのはイスカくらいか」
「あぁ、会いましたよ」
「おぉそうか。まぁなかなか落ち込んでるみてぇでな」
「責任を背負い込みすぎてますね」
「あぁ。俺とジャスティンもまず99番街から仲間探ししてよぉ、
 さっそくイスカを見つけたと思ったらあれだ。まるで番犬みてぇに動かねぇ。
 ただご主人様(マリナ)を待ち続ける番犬みてぇにな・・・・」

・・・・
いや、
無事なだけでも十分だ。
とりあえず
ドジャー、ジャスティン、チェスター、イスカの4人。
この4人の無事が分かっただけでも心が休まる。
だが・・・・
半分も行方が分からない。
エクスポ、マリナ、ロッキー、メッツ。

「皆無事ですよねきっと」
「あいつらの無事祈ってたらヒマがいくらあっても足りねぇぜ?」
「そりゃそうですね」

一番無事な確率が高いのは・・・・ロッキーだ。
なにせカプリコ三騎士と一緒にいたのだ。
無事な可能性は高い。
だが・・・・合流できる可能性が一番低いともいえる。
あの三騎士のことだ。
もう人間側のいざこざに首を突っ込んでこないかもしれない。

エクスポは放浪癖があり、
命を粗末にはしない性格である。
無事である事を祈るだけだ。

イスカが探しても見つけられなかったマリナ。
心配な人間の一人だ。
店を一年も置き去りにするなんてマリナには考えられない。
やっかいな状況に陥っているのは間違いないだろう。

そしてメッツ・・・・。
ドジャーとジャスティンとは幼馴染。
彼らならメッツの行きそうな場所などすぐに分かる。
だがそれでも合流していないという事が不安だ。
そして・・・・話ではGUN’S戦後、動けない状況にまで陥ったと聞く。
一番生存が危ういのはメッツだ。

いや、あえて死んでいる可能性は持たない。
死んでいるはずがない。
死ぬような人達ではない。
そう・・・
心に留めた。

「そういえば、『ラグナロク』の事ですけど・・・・・」

ラグナロク。
通称だ。
呼び名は周りが勝手に決めた。
ラグナロク(世界の終焉)。
帝国アルガルド騎士団に反抗を企む集団。

「あぁ、俺とジャスティンを中心に動いてる」
「やっぱりですか」
「っつってもラグナロクなんて呼び名は周りが勝手に付けられたもんだ。
 正式名称なんてねぇ。ただの『反乱軍(レジスタンス)』だ。呼び方は人それぞれ。
 寄せ集めのギルド連合に近い」

アルガルド騎士団にいたのだから、噂はどれだけでも聞いている。
というよりも、
アレックスは討伐を任されていたのだ。
逆にいえば専門家にも近い。
反乱側であるドジャー達と出会えるのではないかという期待もあって行動していた。

反乱軍の呼び名は無数にある。

『反乱軍(レジスタンス)』『愚民軍(ザ・フール)』『グングニル(最後の希望)』
『ギルド連合(ユニオン)』『自滅者達(カミカゼ)』『ラグナロク(終焉を運ぶ者)』
『疎外された者達(オーバーズ)』『滅び待ち(カウントダウン)』『弱き怒り(ダガー)』

皮肉だらけだ。
まぁ弱小の者達。
どうやったってアルガルド騎士団には勝てないのだから、
無駄な反抗軍とも言える。
だが、
この真っ暗な世界を照らしている話題でもあるがため、
人々は彼らに心の奥で目を向けている。
それが様々な呼び名の理由。

「基本は15ギルドを中心編成してる」
「・・・・といっても残党のみですね」
「あたり。ほとんどは昨年ロウマ率いる『44部隊』に滅ぼされてるからな」
「あの頃から計画通り・・・か・・・・」
「俺らもその計画にまんまと加担させられてるしなチクショウめ」
「でもまぁ・・・・そのギルド連合ってのは裏切りが少ないんじゃないですか?
 15ギルドっていうのは終焉戦争の参加者達。だからこそ・・・・帝国の下に付くことができない人達。
 皮肉の一つにもありますけど、帝国から疎外された者達です。
 反乱軍に入って抵抗しない限り未来がない人達ですからね」
「それがそうでもねぇんだ・・・・」

ドジャーはため息をつきながら続ける。

「やっぱギルドによって考え方はそれぞれってな・・・・
 今は弱小とはいえ・・・もとは強力な大ギルド達だ・・・プライドやら堅い堅い。
 俺やジャスティンが仕切るのをいいとも思ってくれちゃぁいねぇ。
 ハッキリ言ってチームワークは皆無だ。ただの"集団"だよ。
 協力的なのは一部と見知った顔だけ・・・・・こんなんでいけるんかねぇ・・・・」
「・・・・・・・・」
「実質行動は別々が多い。"同盟"ってだけだな。
 つまるところ他ギルドは他ギルドで、『MD』は『MD』ってこった。俺らがやるしかねぇ」
「やっぱり『MD』のメンバーを探すのが先決ですね」
「あぁ。実際反乱軍の中のギルド達なんてのはよぉ、
 どこのギルドも絶世期の5分の1にも満たない戦力だしな」
「戦力・・・か」
「そこだよな」
「単純すぎて泣きたくなる差です」
「どうにかできねぇか?」
「簡単に言いますね・・・・・」
「いろいろ一年やってくれたんだろ?ちったぁそれに期待してんだ」
「まぁしてますよ」
「お?いい返事だな♪」
「まぁ詳しくは後で話します。まずその反乱軍の基地にでも連れてってくれると嬉しいんですが・・・」
「あぁ。ジャスティンも会いたがってるしな」


「残念。そりゃぁ無理だぜマイエネミー」

前から声が飛んでくる。
聞きなれた声だ。
アレックスとドジャーは立ち止まる。

目の前。
そこに並ぶ男達。

「お前らはここで死ぬ。路上で腐るクソのようにな」

ポケットに両手を突っ込んだ男。
グレイ・・・・。
44部隊のグレイ。

「会いたかったぜマイエネミー♪便所の端での再開だ。
 よくぞ便器にこびりついて待っててくれた。汚い再開ご苦労さん」

グレイはポケットに手を突っ込んだまま、
ニヤニヤと笑っていた。
そしてその後ろ。
そこにも見たことのある顔。
スネイルシャベリンを持った修道士。
ムチを持った女盗賊。
棺桶を背負った戦士。
・・・・・
44部隊。
44部隊の者が4人。

「な、なんでここに44部隊がっ!!」
「ドジャーさんっ!!!!」

アレックスは咄嗟にドジャーを押し倒しながら、
飛び込む。
路地の裏へ。
敵は何もしてきていないが、
ドジャーを抱えて家の物陰へと飛び込んだ。
路地裏へと逃げ込む。

「たた・・・・なにすんだよアレックス・・・・」

アレックスは、家の壁へ背をつけながら、
顔だけ出して44部隊の方を確認した。

「おいおい隠れんじゃねぇよアレックス部隊長。クソも逃げたら流れないってかぁ?」

体を隠しながら、
アレックスは汗を垂らして周りを確認した。

「チッ、44部隊たぁ面倒だ。どうするアレックス。逃げるか?」
「ちょっと黙っててください」

アレックスはドジャーには目もくれず、
隠れたまま周りを確認する。
汗が吹き出る。
アレックスは焦っていた。
焦りながら、
とにかく周りを確認する。

「あぁら♪さすがあたいのアレックス部隊長♪頭がよくまわるこ・と♪」
「ニッケルバッカーの狙撃の可能性を考慮・・・か・・・・」

そう。
44部隊にはニッケルバッカーというパージフレアの狙撃手がいる。
数百m離れていても狙撃可能と言われる実力。
44部隊が数人できているのだ。
ニッケルバッカーがいる可能性をまず考慮しなければならない。
そして彼の的にかかったら・・・・何も出来ずにオジャンだ。

「アィヤー。なかなかやるネ。状況判断早いアル。
 誰かさんもアレックス部隊長の爪垢飲むヨロシよ」
「んだとダ=フイ!!!ケンカ売ってんのかクソっ!!」
「サラセンの男すぐ熱くなるよくないネ。死ぬヨロシ」
「おいおいケンカしてんじゃねぇよ。やる相手は向こうだ」
「アレックス部隊長〜♪でってきて〜♪ニッケルバッカーは居ないから大丈夫よぉ〜♪」

「・・・・・・・・・・」

確かに確認したところ、
44部隊は4人だけのようだ。
だが、
敵の口だけでは信用できない。
彼らは歴戦の戦士達なのだから。

「・・・・・なんでこんな所で44部隊に会うんでしょう」
「そりゃ俺らを殺しに来たんだろうよ」
「僕が裏切る事は・・・・・バレバレだったって事ですね」

アレックスは物陰に隠れたまま、
ため息を漏らした。

「本当に4人だけかもしれませんが・・・・相手が悪いです。
 44部隊と2対4。ハッキリ言って勝ち目はないです」
「2対2だったら?」
「それでも僕は逃げたいですね」
「ま、同感だ」
「弱者が不利な状況で戦うわけにはいきません」

「なら3対4にするか?」

アレックスとドジャーが振り向く。
隠れていた路地裏。
その奥から一人歩いてくる。

「イスカ!」
「イスカさん!」
「様子が気になってな。ちょいとブラついてみたのだが・・・・
 ふん。44部隊か。なかなか面白い事になっておるな」
「いいとこに来たぜイスカ。最悪のタイミングだ」
「・・・・・のようだな」
「でも僕達もう逃げる気まんまんですよ」
「ダメだ」

イスカは鋭い目つきのまま、
ハッキリ言った。

「あ奴らからマリナ殿の情報を聞いてやる」
「げ・・・マジで言ってんのかそれ・・・・」
「彼らが知ってるとは限りませんよ?」
「可能性があるのならばやる。拙者はどうやってもマリナ殿を見つけねばならん。
 そのためならほんのわずかな可能性のために死にに行くのも悪くはない。
 拙者はすでに1%の可能性のために命を捨てる覚悟ができておる」

イスカの決意が堅固なのは見て取れた。
迷いがない。
本当に44部隊に挑むつもりだ・・・・。

「はぁ・・・・」

ドジャーはため息をつくしかなかった。

「いいところに助け舟が来たかと思ったら・・・・
 オメェますます俺らを追い込んでるじゃねぇか・・・・」
「すまぬな。退くわけにはいかんのだ」

アレックスとドジャーは顔を見合わせた後、
立ち上がって路地裏から出た。

「お、出てきた出てきた」
「当たり前でしょぅ?あたいのアレックス部隊長よ?」
「おめぇのじゃねぇよクソサド女が」

アレックス・ドジャー・イスカが並ぶ。
向こう側にも4人。
44部隊のメンバーが4人。

「おぉ♪最高だ・・・・ありゃぁ『人斬りオロチ』じゃぁねぇかぁ・・・・
 後から探すつもりだったが自分から出てくるなんて嬉しいなぁ。
 いいな・・・いい"名前"だ・・・・欲しいなぁ・・・・名前くれねぇかなぁ・・・・」

棺桶を背負った戦士が憂いた顔でイスカをジロジロ見る。

「あいつらは俺らの事よぉくご存知のようだぜ。
 俺らも相手の事分からなきゃ不利だ。ちゃちゃっと説明してくれアレックス」
「はい。まぁグレイさんはドジャーさんの知ってる通りです」

「ヘイヘイマイエネミー。やっとお前ってクソを踏みつける日が来たぜ。
 以前から靴の裏にこびりついてたまったもんじゃなかったんだ。
 こすってもへばりついてる臭い思い出を消臭させてもらうぜ」

グレイはニヤニヤ笑いながらドジャーを見ている。
ドジャーとやる気満々だ。
ポケットに入れた両手。
変わっていない。
足技に自信のあるグレイ。
44部隊が一隊員。
『デス・オン・トゥーレッグス』
一度ドジャーとはやっている。

「あっちの棺桶を背負った戦士は『AAA(ノーネーム)』のエースさん。
 上着の内側と棺桶の中に数え切れないほどの武器を備えています。
 斧・剣・ダガー・杖・楽器・ハンマー。使う武器を選びません」
「戦士はあやつ一人か。拙者がやろう」

それを聞き、
待ちわびていたかのようにエースは笑った。
イスカ。
いや、
イスカの腰の剣をジロジロと見ている。

「いいなぁいいなぁ。期待通りの展開だ・・・・最高の名前が手に入るかも・・・・
 俺の名前にならねぇかなぁ・・・悔いの残らねぇ名前が欲しいんだよぉ」

「気持ちの悪いやつだ。目がイカれてる」
「気をつけてください。彼は武器コレクターです」
「名刀セイキマツは大好物・・・か」
「そゆことです」

アレックスは視線を変える。

「あの中では一人だけ女性の方。『お蝶夫人(ピンカートン)』サクラコ=コジョウインさん。
 長いムチとスパイダーウェブが得意な方で・・・・・」

「はろぅ♪愛しのアレックス部隊長〜♪」

サクラコはウインクしながらそう言い、
アレックスに投げキッスを送ってくる。
アレックスは汗をかきながら戸惑い、
さらに話を続ける。

「何故か昔から僕を気に入ってるらしいです・・・・追伸・・・絶世のサディストです・・・・
 気に入った男をムチでしばき、もがき苦しむのを見ると興奮するらしいです・・・・」

ドジャーは哀れみをかけるような目で、
アレックスの肩に手を置いた。

「ダニエルといい・・・・・・お前・・・ほんと変な奴にモテるな・・・・」
「言わないでください・・・・」
「ま、んじゃあいつの相手はお前だな・・・」
「イヤでもそうなりますね・・・」

落ち込むたくなる。
あまりやりたくない。
今過ぐ逃げたい。
一度監禁された思い出が蘇ってくる・・・。
もうあのムチは見たくない・・・・・。

「・・・・・・そしてあそこにいる少し背の低い修道士がダ=フイさん。
 崩壊したマサラという都市の武道家の生き残りです」
「あぁ、サラセンに滅ぼされた武術都市か」
「はい。だからこそサラセンの修道士を憎んでいます。グレイさんと仲が悪いみたいですね」

「その通りアルよ。こんな奴死ねばイイね」
「てめぇが死ねっ!」
「お前が死ぬヨロシ。今ここで先に殺すあげてもいいよ」
「黙れ、先に国語の勉強でもしてろクソ野郎」

グレイはダ=フイの前にツバを吐き捨てた。
動揺してないようで、ダ=フイに殺気が巻き起こっていた。

「気をつけてください。ダ=フイさんのようなマサラ一族の戦い方は特殊です」
「なんで修道士が槍もってるんだ?」
「スネイルシャベリンですね。槍技というよりは棒術のような戦いをします」

「よろしくネ」

ダ=フイはシャベリンをクルクルと回転させながらフッと笑った。

グレイ。
ダ=フイ。
サクラコ。
エース。
44部隊が4人。
ハッキリいって正面からいっても勝ち目がない。
だが・・・
やらなきゃならないようだ。

「で、俺はグレイ。アレックスはサクラコ。イスカはエース。
 それで予約はオーバーだ。閉店また来週ってか?そういうわけにゃいかねぇよな
 ・・・・・・・・じゃぁあのダ=フイってやつは誰がやるんだよ」

そう、
さらに状況は4対3なのだ。
アレックス VS サクラコ
イスカ VS エース
ドジャー VS グレイとして、
それでもダ=フイが余る。
もちろん待っててくれなんて無理だ。

「ドジャーさんお願いします」
「はぁ!?」
「可能性の話をします。僕とイスカさん。どちらかが勝ちます。
 そしてそちらに加勢にいきます。それしかないです」
「なんで俺が2人・・・・」
「ドジャーさんなら逃げ回れるでしょう?なんとか持ちこたえてください」
「カッ!・・・命がけだな・・・自信ねぇよ。
 第一お前らが44部隊に勝てる保障さえ少ねぇんだぜ!!!」
「正直なところ僕も44部隊を相手にタイマンでも勝てる気はしません」
「だが・・・・可能性を考えるならというわけだな」
「そうです」
「案ずるな。拙者は負けん。マリナ殿のために負けるわけにはいかんからな」

イスカの目は本気だった。
見て取れるほどの戦意に満ち溢れていた。
そう言い、
イスカは鞘に手を添えて前に出た。

「死ぬ覚悟持つイイ事ね。覚悟は強さナルよ」
「まぁねぇ♪いい男の条件よ♪女なのが残念ね」
「ま、俺達44部隊の強さってぇのはロウマ隊長から教わった自信による強さ」
「ケッ便所みてぇに臭い悪臭のする話だ。だけどよぉ本当の話だな」

グレイがポケットに手を突っ込んだまま、
ダラダラと前に出てくる。
そしてツバを一度吐き捨てた後、
ニヤりと笑いながら言う。

「だが、自信の上に死の覚悟。そんなくだらねぇ痴話を持ってきてるのは俺達もだぜ。
 なんたって俺らは今日・・・今ここに・・・・・・・・・死ぬために来てるんだからな」

「は?」
「どういうこった」


























-ルアス城の一室-




ドアが大きな音を立てて開く音がした。
王宮の一室。
開いたのはユベンだった。
ユベンらしくもない感情に任せた行動。
ドアを開け放つと同時に、
その部屋に居たものにユベンは詰め寄る。

「どういう事だピルゲン将軍!!!」

机の前に座っていたピルゲンは、
形相の凄まじいユベンを見ても、
落ち着いて答えた。

「おやおやユベン殿。将軍とは嬉しい呼び方をしてくださいますな。
 絶騎将軍(ジャガーノート)に選ばれた者冥利につきるというものでございます」

「そんな事はどうでもいいんだっ!これはなんだ!!」

叫びながらユベンはピルゲンの前。
机の上に力任せに紙を叩きつける。
数枚の紙。
それがピルゲンの前の机を舞う。

「あぁ、その書類ですか。そのままの意味でございますが?」

「ふざけるなっ!!!!」

ユベンは両手を机に打ち付け、
体を乗り出してピルゲンを睨む。

「ここに書いてある奴ら!グレイ、ダ=フイ以下44部隊の数名!!!
 なんでいきなり辞団届なんか提出されてくるんだっ!!!」

机の上に汚く散らかる書類。
それは44部隊の者達の辞団届。
サクラコ=コジョウイン。
エースと言った名前と共に血印でサインされている。
今、アレックス達の前に居る者達の辞表だった。

「あいつらはそんな簡単に辞めるような奴らじゃないっ!
 たしかにおかしな奴らではあるし問題のある奴らばかりだっ!
 しかしロウマ隊長への尊敬から・・・・・裏切るなんて事は絶対ないっ!!」

ユベンは怒りに満ちていた。
納得もいかず、
ぶつけようもない疑問。
自分がそうであるように、
ロウマ=ハートに認められし者達。
その感謝と尊敬の念だけは間違いない。
それだけが部隊の絆でもあり、
それはあまりにも強固なものだった。
だから・・・・納得いかなかった。

「44部隊がロウマ殿を裏切るはずがない・・・・でございますか」

ピルゲンは落ち着いたまま、
目の前に広がった書類を拾い、
トントン、と揃えた。
そしてその動きをとめ、
ユベンを見て言う。

「だからこそ・・・・でございましょうな」

ピルゲンは書類をしまった。
ユベンは口ごもりながらも、
感情を押さえつけながら聞く。

「だから・・・どういう事なんだ・・・・」

「先刻、アレックス殿の裏切りが発覚しました」

「・・・・・アレックス部隊長が?・・・・・いや!そんな事はいいっ!
 もしかしたらとは予想はついてた事だ!
 いつかは裏切るような気はしてたさっ!それより・・・・」

「アレックス殿は討伐の仕事を一任しておりました。
 隊長経験とだけでは言い表せない仕事ぶりでございましたな。
 だからこそ・・・・・・そのポストの代わりが必要でございましてね」

「反乱軍の討伐・・・アレックス部隊長の代わりの隊長ってことか」

「それが案外いないものなのでございます。
 神族は人間なんぞ率いたがりませんし、魔族なんてもってのほか。
 人兵の部隊には人間の隊長格が必要なのでございますが・・・・、
 そうなるともう優秀で認められた人間は44部隊しかおりません」

「・・・・・・・・・・それであいつらか」

「まぁ44部隊も一隊員。ユベン殿以外には部隊を引き連れる経験もございません。
 場合によっては数千を従えねばならないのに突如的には荷が重い。
 という事でこの者達に分割して隊長を任せる事になりましたのです。
 こう考えるとアレックス部隊長の活躍は44部隊数人分の・・・・」

ユベンはまた机に手を打ち付ける。

「だからってなんでそいつらが辞めるんだよっ!!!」

「それはあの者達が言い出した事でございます」

「なっ!?・・・・なんで・・・・・」


「しょうがないさユベン」

背後から声が聞こえた。
この部屋のドア。
そこに持たれかかり、
片手にはワインを持ったヒゲの男。

「ギルバート・・・・」

「チャオ♪」

笑顔の中年の男。
44部隊の一員だ。
GUN'S戦には参加していない。
その時44部隊の数人はアインハルトと共にアスガルドに進攻していたからだ。
ギルバート=ポーラーもその一人。

「挨拶はいいギルバート。何がしょうがないんだ!俺達の仲間だぞ!」

「焦るなよニーニョ(坊や)」

そう言い、
ギルバートはワイングラスを揺らし、
感するように首を振った後、
ユベンをもう一度見る。

「あんた達と違って44部隊の中でも俺達は2年間ロウマ隊長から離れた。
 ・・・・・できる事なら俺達もロウマ隊長と共に下界で掃除がしたかったさぁ。
 だが、俺達はそれでもなんでロウマ隊長から離れたと思う?」

「・・・・・・・・」

「またロウマ隊長の下で働けるならしばし離れるのもしょうがないと思ったのさ。
 だが今回のグレイ達は違う。"転属"だ。44部隊から外されるという事。
 それが俺達44部隊にとってどういう意味か分からないはずないだろニーニョ」

「・・・・・ロウマ隊長のために働けないなら辞める・・・ってことか」

「惜しい。だが、違う。一つ言える事はグレイ達にはもう会えないって事か」

「・・・・・・?」

「アインハルト様かピルゲン将軍か、どちらの差し金かは知らないが・・・・
 グレイ達の今の行動も作戦にされているってことだ。ただの余興のな・・・・・・」









































「俺達は44部隊を外された」

ツバをまた吐き捨て、
グレイは不機嫌そうに言う。

「それもこれもあんたのせいだアレックス部隊長。
 あんたが裏切ったから俺達は転属を命令された・・・・」

「・・・・・・・・」

まぁ本当の事だろう。
アレックスは自分が抜けた後の自分の代わりまで考えてはいなかった。
というか考える必要もなかったわけだから。

「で、死にに来たってのはどういう事なんだ?」

それを聞くと、
グレイはポケットに両手をつっこんだまま、
まだ不機嫌そうだった。

「分からねぇか?分からねぇよなぁ。俺達のクソみてぇな心情なんてよぉ。
 つまるところ俺達は皆マイマスター(ロウマ隊長)に救われて、マイマスターのために生きてる。
 クソの詰まった配管の中から俺らクソを拾い上げてくれたのがマイマスターだ」
「グレイ。クソクソ言うないね。クソ呼ばわりはあんただけでいいね」
「黙れっ!本気の話をしてんだクソっ!」

グレイはダ=フイを一蹴し、
また続ける。

「つまるとこ俺達が従うのはロウマ隊長だけだってことだ。
 ロウマ隊長の手足ならともかく、"アインハルト"の道具になるつもりはねぇ。
 だから俺達はアルガルド騎士団を辞めてきた。分かるか?
 このアルガルド騎士団を辞めるって事の意味がよぉ」
「つまるところあたい達はアインハルト様の命に背いたってことなのよ」
「それが何を意味するか・・・・・」

死。
その一言に尽きる。
アインハルトの道具である以上、
それに背けば死。
それしかない。

「背けば死。だが俺達はその死を選択してきた。
 何故か?はんっ!クソでも分かる簡単な理由だ!
 俺達が従うのはマイマスターただ一人!ロウマ隊長だけだ!
 俺達のボスはアインハルトなんかじゃねぇ!マイマスターだけだ!」

死ぬと分かっていても・・・・。
主はロウマだけ。
その意志が44部隊にあった。
それはアルガルド騎士団の中でも特殊な意志。
ロウマを信仰する者達の意志。

「どうせ無くなる命。流されるクソにも劣るこの命。
 悔いの残らねぇように使わせてもらうぜ」
「俺ぁ・・・・セイキマツを手に入れて逝きてぇもんだなぁ〜。くれねぇかなぁ〜」
「あぁ〜ら♪あたいはアレックス部隊長をしごけば何も悔いも残らないわ♪」
「グレイはあの盗賊と因縁あるみたいネ。それはそれでヨロシ。
 アタシとしては始まりも終わりもこの状況もってきた部隊長やりたいね」
「ダ=フイ。てめぇは嫌いだが一理ある。だからこそここにいる。
 俺達はアルガルド騎士団員じゃねぇ。後にも先にも王国騎士団員だ。
 誇り捨てて終焉戦争から逃げたアレックス部隊長は許せねぇやなぁ」
「アレックス部隊長がオブジェを持ってかなけりゃこうはならなかったかもね♪」
「だからGUN'Sの時も俺ぁアレックス部隊長とはほとんどしゃべらなかったしな」

「えらい嫌われようだなアレックス」
「まぁしょうがないです・・・・それなりの事してきましたから・・・・」
「昔の事に後悔してはおらんよな?」
「後悔はしてますよ。ただ今は今の目の前に向かうだけです」
「オメェらしいな」

「それがクソ気に入らねぇんだよアレックス部隊長!
 逃げたくせにノウノウと前向きに生きやがって!!」
「あんたは私達からロウマ隊長と王国騎士団を奪ったネ」

八つ当たりにしか聞こえない。
だが、
ぶつけようの無い怒りが、
アレックスに飛んでくるのもしょうがないとも思っていた。
いや、そう思われた方がいい。
憎まれるような事をしたのだ。
後悔はしたい。
自分のした事への後悔のため、
憎しみは受け入れるべきなのだ。

グレイ・サクラコ・ダ=フイ・エース。
それぞれもう失う命。
その最後の灯火。
怒り。
憎しみ。

「俺らが辞めてここに来るのもアインハルトかピルゲンの思惑なんだろうな。
 44部隊でも扱いにくい奴らが選抜されてるしな。
 失ってもまぁいいか・・・ってクソみてぇに思われてるのが俺らだ・・・・」
「その命。散るのもいとわず・・・・ねぇ♪」
「だが、この命」
「最後までロウマ隊長の思想のもとに動く」
「王国騎士団員としての命だ」
「あたいらは仲いいともいえないけど」
「共通点はそこだけ」

4人は声が揃った。

「「「「王国騎士団に栄光あれ」」」」

彼は彼らとして、確固たる意思を持ってきた。
アレックスの行為。
騎士団として、
裏切り行為。
仲間が死んでいくのに一人オブジェを盗んで逃げた事。
それが・・・・許せない。
ただ、それだけ。
騎士の心。
彼らは未だ・・・・王国騎士団なのだ。
ただ王国騎士団 第44番・竜騎士部隊。
アインハルトの部下などではない。
ただ、ロウマの部下なのだ。

「さぁて・・・アレックス部隊長ってディナーは後回し・・・だ♪」

棺桶を背負った戦士。
エースが前に出た。

「イスカさんよぉ。俺にくれねぇかな・・・・その名前(武器)」

「ふん。ただではくれてやれんな」

イスカも前に出る。
イスカとエース。
二人の戦士が向かい合う。

と同時に、
横でピシィンと音が鳴り響く。
地面に打ち付けられる音。
ムチをしばく音。

「じゃぁ向こうの予定通りあたいはアレックス部隊長♪
 ゆぅ〜〜っくり。舐めて焦らして痛ぶってあげたいわぁ♪
 あ、グレイ、ダ=フイ。あたいが遊んでる間はそっちの盗賊片付けといて。
 長めに時間とってね。あたいはアレックス部隊長との愛の時間が欲しいか・・・ら♪」

サクラコはペロりと舌で唇を嘗め回す。
妖美な目線はアレックスをとらえていた。

「今から相手交代は無理ですかね・・・」

「無・理♪あたいがアレックス部隊長を逃がさないわ♪」
「チッ、本当はタイマンでマイエネミーと決着つけたかったがな。
 まぁアレックス部隊長はディナーだ。後で全員でやるぞ。
 捕えるならたしかにサクラコがうってつけだ。おい、ダ=フイ!いくぞ!」
「命令するよくないね。サラセンの男のくせに」
「マイエネミーを分けてやるってんだ!クソ感謝しろよ!」
「2対1つまらないね。よりにもよってお前となんてアタシ最悪ね」

グレイとダ=フイが同時にドジャーを見る。

「げっ、マジでこの組み合わせかよ・・・・」

ドジャーは体を翻す。
戦闘意志が感じられないくらい、一編に背後を振り向き、
そして一目散に逃げ出した。
得意の瞬足で。

「逃がすかっ!」
「観念するね」

逃げるドジャー。
それをグレイとダ=フイが追う。
さすが盗賊と修道士x2といったところか。
すぐ様姿が見えなくなった。

「・・・・・・・・」

もう一度ムチをうちつける音が響き渡る。
それはアレックスの真横で。

「どこ行くのかしらぁん♪アレックスぶ・た・い・ちょ♪」

実はアレックスはコソりコソりと逃げようとしていた。
覚悟はあるが・・・・覚悟はない。
正直なところサクラコとはやりたくないのだ。
少なくとも真正面からは・・・・
サクラコが舌を嘗め回すのが見える。
獲物を狙う蜘蛛女。
絶世のサド女。

「い・・・・一端逃げるのも作戦ですっ!!!」

アレックスもすぐさま路地裏へと駆け込んだ。

「あぁーんらぁ・・・・い・け・ず♪
 でもま・・・・逃げる蝶を捕らえるから楽しいのよね♪」

サクラコはゆっくりとアレックスを追っていった。


ドジャー x グレイ・ダ=フイ。
アレックス x サクラコ。
彼らはどこかに行ってしまった。

その場に残ったのは・・・・

「始めようかイスカさんよぉ」

棺桶を背負った戦士。
エース。
そしてイスカ。

汚い99番街。
ゴミの溢れるスラム街で、
二人の戦士が向かい合う。

「最初はどの武器にしようかなぁ・・・・」

エースが上着を広げる。
両手で広がった上着。
その中には無数の武器。
剣・斧・ハンマー・ダガー。
選ばれもしない、
様々な武器達。

「まずはジャンとエミリにしようかな」

取り出したのは剣とスタッフだった。
ジャンとエミリ。
その剣とスタッフの名前。

「これはさぁ・・・・元持ち主の名前なわけなんだよねぇ。
 こっちのエミリは顔は普通だけどいい聖職者だったなぁ。
 ジャンはすこしヘソ曲がりだったけど武器の手入れは欠かさない奴だった。
 気に入ったんだよなぁ。だから"名前"もらったんだ」

憂いに帯びたエースの目。
武器をまるで人物のように愛するかのごとく。
まるでその武器自体かその者達かのように。
武器コレクター。
いや、名前。
人生をコレクションしているかのように・・・・。

「名前をもらった?お主には名前があるではないか」

「違う。俺はエース。エース(A's)だ。
 『AAA(ノーネーム)』のエース(A's)・・・・名無しのエースなんだよっ!!」

エースが飛び出す。
右手には剣(ジャン)。
左手にはスタッフ(エミリ)。
それを広げて走りこんでくる。

「チッ」

武器が交差する。
イスカとエース。
セイキマツとジャンとエミリ。
クロスされた剣(ジャン)とスタッフ(エミリ)を、
イスカはセイキマツで受け止める。

「いい剣だ・・・・いい剣だなぁ・・・・」

武器どおし押し合いながら、
エースは喜び、
イスカよりも剣を見る。

「名前・・・俺は名前が欲しいんだ。
 人間が初めてもらうプレゼント・・・それが俺にはない・・・・
 名前だよ名前・・・。こうやって名前を集めてけば・・・・
 いつか俺の名前が見つかるような気がしてよぉ・・・・」

「悪いがこの名前はやるわけにはいかん・・・・
 このイスカという名前は大事な人に付けてもらった名前だ・・・。
 空を飛ぶ・・・・イスカという渡り鳥の名前だ・・・・・」

「いいねぇ♪気に入った♪・・・めちゃいいぜ。
 欲しい・・・・その名前が欲しいなぁ・・・・」

エースが弾く。
また距離が離れる。

「やるわけにはいかない。そしてお前はここで死ぬ」

「死ぬ覚悟できてるけど今死ぬわけにはいかねぇなぁ・・・・」

そういい、
エースは上着に剣とスタッフをしまった。

「手ごわいなぁ。名前を変えようかな」

そういい、
エースは背中の棺桶を下ろした。
そして開く。
棺桶の中は屍の山。
死体保管所。
それが棺桶。
棺桶の中にはエースに殺されてきた幾多の戦士達が眠っている。
武器という形で・・・・

「どれにしようかな・・・・」

嬉しそうにエースは獲物を選ぶ。
コレクションを探るように。
そして・・・・・

「コレにしよう♪お気に入りのコレ!」

そう言って、
エースは一つの武器を取り出した。

イスカは・・・・
目を丸くした。

「そ・・・それはっ!!!」

「いいギターだろ?"マリナ"っつーんだ」

エースが棺桶から取り出した物。
それは・・・・サンチョギター。
見慣れた・・・
見慣れすぎたギターだった。
マリナはそこにいた。

「き、貴様っ!!マリナ殿をどう・・・」

「おっと。あと一つ言い忘れてたけどよ」

エースはとぼけた顔で我を忘れそうなイスカを止める。

「俺達実は5人で来てたんだよね」

「なっ・・・・」



「ヒャッホォーーーーーーイ!!!!!!」

突如、
横の家の壁が崩れる音がした。
崩れる・・・いや、ハジケ飛ぶ。
レンガで出来た家の壁が破壊されたと思うと、
同時に一人の男が飛び出してきた。

「ヴァーティゴ様参上〜!!!掘って刻んですり潰すゥウウウウ!!!」

スキンヘッドで、
両手にドリルを装着した男だった。
完全に不意をつかれた。
ただでもマリナのギターに目を奪われていた。
そして横からスキンヘッドの男。
その攻撃を・・・・・

避ける事はできなかった。

「名前・・・・ゲット♪」

イスカは、
意識が無くなる前、
マリナの顔がふと浮かんだだけだった。


















                 






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