「ご馳走をくれてやるっ!!!」

ドジャーが投げるダガー。
片手4本づつ。
計8本。
8本の閃光が、
アレックスを襲う。

「いきなりですか」

アレックスは槍を構える。
8本のダガー。
こちらは一本の槍。
以前戦ったときは・・・・4本まではなんとかなった。
2本は槍で弾き、
2本は避ける。
避けながら弾けば4本まではどうにかなる。
だが、8本となると・・・・・アウト。
分かっている。
これがドジャーの戦い方なのだ。
数という才能。
強さは足し算。
これがドジャーなりの強さを求めた答え。
戦闘法。

「じゃぁ前と同じ対策です!ブラストアッシュ!!」

アレックスの高速突き。
槍による連続突き。
以前16本までは耐えられた。
8本なら突き落とすことも可能。
そして8回の金属音と共に、
ダガーを全て突き落とした。

「・・・・・・・・やっぱりですか・・・・」

突き落とした後のアレックスの視界。
広がる景色。
そして・・・・・
先ほどまでドガーがいた屋根の上。
そこにドジャーは居なかった。
無人の空間。

「ダガーはめくらましって事ですね」

アレックスは走り出す。
どこにいるか分からないドジャーの攻撃に備えて。

一方ドジャーも分かっている。
アレックスの実力を。
誰よりも。
もちろん8本の投げダガーなど効かない事も。
そしてそれをどう防ぐのかも。
だからこその作戦。

「そーいうこった!」

アレックス背後で声がする。
また屋根の上。
走っている。
屋根から屋根へ。
家から家へ。
屋根の上を高速で移動しながら、
ドジャーはダガーを投げてくる。

「クッ!」

それを弾き落とす。
そしてアレックスも走るのを止めない。
走るのを止めてはいけない。
速さではどうしても負ける。
的を絞らせてはいけない。
逃げ回らなければならない

「ほれほれ!おかわりだぜ贅沢モン!!!」

ドジャーは屋根の上を高速で移動しながらダガーを投げてくる。
2本、3本と。
アレックスも的を絞らせないように走りながら、
自分に命中するだろうものは弾き落とす。

「いくら投げてきても無駄ですよドジャーさん!」

「カッ!初めての時もそう言ってたなっ!」

「今はさらにです。お互いがお互いの実力も戦略も分かってるんですからねっ!」

「そりゃどうかな!」

相変わらず投げてくる。
屋根の上を高速移動しながら、
アレックスへ横雨のようにダガーを投げつけてくる。
アレックスも見切る。
弾き落とす。
ドジャーの戦いはよく分かっている。
攻撃の軌道もなんとなく読める。
ドジャーは相手の動きを予測しながら、
先読みした所に投げてくる。
そして性格上・・・・少し大雑把に。

「無駄ですって」

だからこそ不規則に走りながら的を絞らせない。
これがドジャーへの対策。
知っているからこその対策。
分かり合っている者同士の戦い。
心通う殺し合い。

「無駄かどうか試してやるぜ!!」

ドジャーは一端攻撃をやめ、
走りながら両手にダガーを用意する。
8本x8本。
16本のダガー。

「ディナータイムだっ!!たらふく食らいなっ!!!」

放たれる16の閃光。
拡散しながら飛んでくるダガー弾。
まるでショットガン。
ダガーはアレックスを襲う。

「無駄なんですよっ!」

アレックスは急ブレーキをかけ、
槍を構える。
そしてもう一度・・・・

「ブラストアッシュ!!!!」

槍の高速突き。
剣山のようにも見える連突。
槍技という盾。
ドジャーの攻撃への対処法。
そして金属音。
7・8回。
自分に当たりそうなダガーは全て突き落とした。
ディナータイム完食。
全て防いだ。

「よしっ!そして・・・・」

アレックスは咄嗟に横を振り向く。
何も無い横を。
関係のない横を振り向く。
そして空を斬る。
槍を振る。
すると、
何も無い空間で金属音が鳴り響いた。

「こうくる・・・んですよね♪」

槍を振り切った状態で、
アレックスは笑顔を送る。
地面には一本のダガー。
ドジャーはまたダガーを目くらましに移動し、
見えないダガーが違う角度から放っていたのだ。
インビジダガー。
ドジャーの得意技の一つ。

「ドジャーさんには僕に16本のダガーを防がれるって分かってるはずです。
 なのに投げてきたって事は"裏"があるって事ですよね」

「チッ!当たりだ!抜け目ねぇ野郎だぜ!」

「それはホメ言葉ですね?ありがとうございます」

「さっきの戦闘見て腑抜けたかと思ったが・・・・そうじゃねぇようだな!」

「もちろんです。・・・・・・・で、ドジャーさんはどこですか?」

「カカカッ!!!」

走り回っているのか、
声は近場のどこかから聞こえてくる。
見えない声と、
見えない姿。

「分かってるクセによぉ!」

「えぇ。インビジですね」

「そゆこった!分かってて聞いてくるところが嫌いなとこだぜアレックス!」

「そんな僕の言葉をちゃんと返してくれるところが好きなところですよ♪」

「・・・・・クッ・・・・・・・訂正・・・・。お前よりそんな俺自身を嫌いになってきたぜ」

「やっぱりドジャーさんを馬鹿にするのは面白いですね♪」

と、
アレックスはそう思ったが、
まずはこの状況だ。
ドジャーは不可視。
インビジ状態。
盗賊のディテクがない限り識別不可能。
チェスターのように気を感じられれば見つけられるかもしれない。
イスカのように五感が鋭ければ見つけられるかもしれない。
だが、
アレックスはただの騎士なのだ。
並の人以上であっても、
聖騎士という事以外は至って特別な能力があるわけではない。

「さぁどうするよアレックス!!!」

「・・・・どうしましょ」

アレックスは本気で困った顔をした。
いや、本気といえば本気で困っているわけだが、
まるでなぞなぞを考えるような気楽な仕草だった。

「カカカッ!さすがのお前もお手上げだわな!
 分かってたぜ!お前にゃぁインビジが一番だと思ってたからな!」

「ですねぇ。うーん・・・・ホーリーディメンジョンで判別って手が一番・・・・
 いや、ドジャーさんは僕の事分かってますからその隙を狙ってるわけだなぁ・・・・。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、作戦考えますからもう少し待ってください」

「OK」

「30秒ください」

「1、2、30っと!!行くぜ!!!」

ため息をつくアレックス。
まぁそんなノリだとは思っていた。
そして・・・・来る。
どこからか、
見えないドジャーが迫ってくる。
どこから来るか・・・・・。

「そこだっ!!!」

金属音がまた鳴り響く。
槍とダガーが交わる音。

「チッ!!」

アレックスが振った槍。
それはドジャーの持つダガーを止めていた。
それは・・・・アレックスの背後。
アレックスとドジャーの武器が交わる。

「ハハハっ。性格悪いですからねぇドジャーさんは。
 だからどーせ・・・・・ど・う・せ来るなら背後なんでしょ?ってね♪」

「ほぉほぉ。そりゃぁ俺の事分かってくれてるようで嬉しい限りだな!」

「そりゃぁもちろん。考えてる事から日々の習慣。そして白髪の数までバッチリです」

「ウソつけっ!!」

「はいウソつきました」

「・・・・・・・」

ダガーと槍で押し合いながら、
アレックスとドジャーはそんな他愛もない会話をする。
まるでいつもの日常通りのように・・・・
だが、これは殺し合い。
殺し合いなのだ。
分かり合っている者同士の・・・・。

「カッ!!!まぁ仕切りなおしだ!!」

ドジャーが後ろにバックステップで下がる。
軽快な動き。
努力嫌いなクセに、俊敏さだけは洗練されているような動き。

「んじゃこんなのはどうだ?」

ドジャーはニヤっと笑った後、
腰のダガー達に手を伸ばす。

「俺の得意技の中にもよぉ、お前にゃぁ見せてねぇ技もあるんだぜ?」

両手で腰のダガーをいっぺんに引き抜いたと思うと、
ドジャーはそれを・・・・・
上へ投げつけた。
空中へ。
天へ向かって。
ダガーを抜いては投げ、
抜いては投げ。
何本も何本も、
空中へダガーが飛んでいく。
雨が逆昇っていくように。

「天気予報でも聞いてみなっ!降水確率・・・・100%だぜっ!」

空を一瞬見上げると、
晴れ渡る空。
青い空に輝く数十の星。
きらめく星々。
ダガーの星だ。

「落ちてくるぜ?まさに浴びるほどのご馳走ってかぁ!?」

アレックスは槍を構える。
が・・・・
戸惑う。
重力で一斉に落ちてくるだろう無数のダガー。
その対処方・・・・。

「対策があるとしたら・・・・・上に向かってブラストアッシュ・・・・
 槍を傘のように上にブラストアッシュで止めることはできます・・・・けど」

つまりそれは、
アレックスは上を向いて上を突き続けなければいけない。
黙々と上に向かってブラストアッシュ。
それはつまり・・・・

「わぁーってる!お前の事はよぉーく分かってるぜアレックス!
 お前にこれが止められるとしたらブラストアッシュだけだ!
 上に吹き出るパージフレアじゃ止めようがないからな!
 つまり・・・・・・・・隙だらけになるって事だ!!」

これから降り注いでくる数十本のダガーを防ぎきるには、
上へ向かってブラストアッシュをし続ける。
これしかない。
そして上を向いてるお馬鹿なアレックスは・・・・・・格好の標的。
ドジャーはダガー投げ放題。

「・・・・・・・・」

「俺だってお前の事は分かってんだよっ!さぁ・・・・どうするっ!」

「・・・・・・・・・・・・・でもね。僕はそれ以上にドジャーさんの事を分かってます」

「は?」

言いつつ、
アレックスは突如走り出す。
あらぬ方向に。
全力で走り出す。
そして・・・・飛び込む。
ジャンプで飛び込む。
近くの家へと。

「ドジャーさんの微妙に今一歩ツメの甘いところとかね♪」

ダガーが降り注いだ。
灰色の町並みの地面に、
ダガーのシャワーが降り注ぐ。
アレックスは安全に雨宿り。
無情に、
そして無意味に。
ダガーは雨音を奏でるだけだった。

「・・・・・・・・・クソッ・・・」

「普通に考えれば降ってくるまで時間がかかりすぎますよ。
 広い場所ならともかく、こんな路地じゃぁ無意味な技ですね。
 今度からはちゃんと考えて使ってください。
 ・・・・・・・・はぁ・・・・これだからドジャーさんはいつも今一つ・・・・」

「うっせぇ!!ちょーしこくな!」

「調子こいてたからこんなミスをしたのは誰でしょうかね?」

アレックスはニヤニヤしながら家から出てくる。
挑発されてフルフルと怒り震えるドジャー。
それを見ると、
また楽しくなってくる。

「さぁて。じゃぁ今度は僕が見せてない技でも見せましょうか」

「カッ!デマカセ好きな野郎め!」

「それはどうでしょう♪僕は出し惜しみするほうですからね。
 結構技あるんですよ?この一年で実用化してきたのも沢山ありましてね。
 『技のデパート』アレックス=オーランドと呼ばれるのも近いかもですよ?」

「あっ、そっ、じゃぁ見せてもらおうか?お前の成長ってやつをよぉ」

「んじゃ今回はコレ」

アレックスは右手で十字を描く。

「カッ!!何かと思えばパージかよ!
 お前そんなもんなぁ。遅漏技だぜ遅漏技!言ったろが!
 分かってりゃ動作見てから簡単に避けれるんだよっ!」

「フフッ、そんな予想通りにリアクションしてくれるドジャーさんが好きですよ」

言いつつ、
アレックスは目の前に魔方陣を繰り出した。
パージフレアの魔方陣が目の前に完成する。
そして・・・
槍を逆手に持ち、
槍を魔方陣に突き刺す。

「イソニアメモリー・・・・オーラランス」

魔方陣から引き抜いた槍は、
蒼白いパージの炎に撒かれていた。
槍に纏わりつく聖なる炎・・・・

「・・・・・・・・・・見た事あるっつーのっ!!!!!」

ドジャーは両手と顔に力を入れて叫ぶ。
それも予想通りのツッコミ。
アレックスはドジャーのこういうからかい概のある所がとても大好きだ。

「やっぱでまかせかよクソッ!!!」

「いえ、そこはウソつきませんよ」

アレックスは一度オーラランスを横に振る。
蒼白いオーラが横に揺れると、
神秘的に残像が残った。

「聖十字の名のもとに・・・・ってねっ!!!」

今度は縦に振り切る。
オーラランスで十字を描く。
と同時。
槍を縦に振りきると同時に・・・・・

蒼白い炎が槍から放たれた。

「な・・・・」

アレックスの槍からオーラランスの炎が飛ばされたのだ。
炎が魔法のように放たれる。
放たれた蒼白い炎の塊。
パージの炎。
オーラランスの蒼白い炎。

それは命中はせず、
ドジャーの横髪を軽く焼き、
通り過ぎていった。

「こんな感じですかね」

槍を振り切った状態でアレックスは微笑んだ。
ドジャーは苦笑いを返すしかなかった。

「その炎・・・・飛ばせるのかよ・・・・」

「はい。って言っても一回飛ばしたら元のシルバーランスに戻っちゃうんですよね。
 あまり実用的じゃないかもしれません。弾速遅すぎますし。
 無理矢理遠心力で炎を投げ飛ばしてるようなもんですから、
 新聞紙を丸めて投げるくらいの速度しかでないんですよね・・・・。
 ダメだこりゃ。威力もないし不意打ちぐらいにしか使えません」

だが、
ドジャーは苦笑いを続けるしかなかった。
なんだかんだでその不意打ちを食らい、
驚いて避ける事も忘れていたのだから。
当てる気で飛ばされていたら燃えるゴミになっていた。

「・・・・・・・・ハ・・・ハハ・・・アレックス。お前は最初で最後のチャンスを無駄にしたぜ・・・・」

「負ける敵の言葉ですね」

「うるせぇ!実際それもう一回食らうことはまずないだろ!」

「そうですね。ホント不意打ちくらいにしか使えませんもん。でも・・・・・」

アレックスは微笑み、
目線を少し下ろす。

「不意打ちに使えれば十分なんですよ」

ハッと思い、
ドジャーは足元を見る。
気付くと、
ドジャーの足元にはパージフレアの魔方陣が用意されていた。

「い、いつの間に・・・・」

「不意打ちに使えれば十分って言ったでしょ?
 言わば目くらましですよ。ビックリさせれば勝ちなんです」

こっそりと突き出していた左手の人差し指。
パージフレアの魔方陣を指している指先。
ドジャーの足元を指す指先。
アレックスがこの指先を数センチ上へ向ければ、
ドジャーはパージフレアで丸こげ。

「チェックメイトですかね」

「ったく抜け目ねぇやつだ・・・・」

ドジャーは魔方陣の上でため息をつき、
片手で顔を覆った。
もう勝負は決まったようなものだ。
誰が考えても命を握られた状態。

「だがよぉ」

顔を覆った片手。
その指の隙間からドジャーの眼光が覗く。

「お前なら分かるだろ?俺の実力って奴をよぉ。
 お前が指を上げるのより速く・・・俺は動けるぜ?」

「動ける"かも"でしょ?」

「カッ!たしかに"かも"・・・だな。だが出来るかもしれねぇって事はまだ詰んでねぇって事だぜ」

ドジャーの周りに風が巻き起こる。
ブリズウィク。
速度上昇スペル。
突如的だったので警戒を怠った。

「試してみるか?指一つVS全身運動。どっちが速いかってな」

「別にいいですよ」

「強気だな」

「僕にデメリットはないですからね。ドジャーさんが燃えるか燃えないか。
 ドジャーさんの命だけがかかってる速さ比べですもん。気楽なもんです」

アレックスは槍を地面に突き刺し、
ニコりと微笑む。

「そりゃそう・・・・」

ドジャーが話している途中。
意表をついてアレックスが瞬間的に人差し指を上げる。
と同時に吹き出す蒼白い炎。
パージフレアがドジャーの下の魔方陣から吹き上がる。

「しゃぁ!!!勝った!!!」

別の方から声。
炎の中にドジャーはいない。
パージフレアを瞬間的に避ける事に成功したのだ。

そしてドジャーの声がする方は横の家の壁。
灰色のコンクリートの家壁。
そこに着地。

「本当にそうですか・・・・ね!」

アレックスが叫ぶ。
と同時にドジャーが気付く。
跳んだ勢いで着地した家の壁。
そこにも・・・・魔方陣。

「チッ!!!」

ドジャーはすぐさままた跳ぶ。
と同時に間一髪で吹き出すパージフレア。
家の壁から真横に吹き出す。

「危ねぇ危ねぇ・・・・」

手を地面につけ、
路上を滑るようにブレーキをかけながら、
ドジャーは吹き上がった炎を見る。

「そうだったな。平面ならどこでもパージの魔方陣は設置できるんだったな!」

「そう、そこにも」

「!?」

また足元。
パージの魔方陣。
吹き出る炎。
咄嗟にバク転で避けるドジャー。
だが避けた先にも・・・・・・・・・また魔方陣。

「クソッ!!」

炎が吹き出る前に、横に飛び込む。
避ける。
またも間一髪。
飛び込んで避けた拍子に、ゴロゴロと転がり、
また家の壁へとぶつかる。
そして背中合わせになった家の壁。
そこにも勿論・・・・・・・・パージフレアの魔方陣。

「だぁー!!この野郎!!!」

避ける。
逃げる。
その先にパージフレアの魔方陣。
ドジャーは避け続けるしかんなかった。
張り巡らされている魔方陣。
いや、もちろん適当に張り巡らされているわけじゃない。
左手と右手。
アレックスは片手づつしかパージフレアは放てない。

つまるところ、
アレックスはドジャーの動きを先読みしているのだ。
いや・・・・
分かっていると言ってもいい。
ドジャーのクセ、動き、正確、運動量。
それらを熟知しているからこそ、
これだけ先回りして魔方陣を設置できる。
ドジャーは逃げ続けるしかない。

「これは面白いですね」

「こんにゃろっ!!!」

アレックスはクスクス笑いながら、
パージを設置していく。
ドジャーの動きを読みながら。

普通ならば速さの勝るドジャーが主導権を握り、
アレックスをかき回すことになるはずだが、
今は違う。
アレックスが手玉に取るように翻弄している。
両手で設置していく魔方陣と、
それに翻弄されて逃げ戸惑うドジャーの姿。
まるでアレックスの両手に糸がついていて、
ドジャーはそれで踊らされる傀儡人形(マリオネット)

「ほれほれ踊れぇ〜♪お主は私の手の中じゃぁ〜♪」

「むっ・・・かつくなオイっ!!」

「それが楽しいんですよ♪」

「それがむかつくんだよっ!」

楽しい。
本当に楽しいと思った。
もちろん性格の悪い意味でだ。、

だがそれはこの一年、
心を表に出したことなどなかったからだ。
久しぶりにありのまま、
性格の悪い自分を曝け出せた気がする。
ただ心を冷たい鬼にしていた。
だから・・・・
こんな友と自分の生死がかかっている状況でさえ、
自分をさらけ出せるのは・・・嬉しく、楽しかった。

「いつまで逃げ切れますかねぇ?」

アレックスは楽しそうに言った。
サドッ気のある血が騒ぐ。
だが、
それを自分で言っておいて違和感を感じた。

「・・・・・あれ・・・・いつまで逃げれるかって・・・・ドジャーさんが逃げっぱなしなはずない。
 そんな事・・・・・性根的に無理だ。極小の堪忍袋しか持ってないはずなのに」

「そゆことだ!」

ドジャーは逃げながらいやらしく笑う。

「この状況!俺の逃げ回る体力とオメェの魔力!どっちが先にへたれるでしょーっか!」

「・・・・・・・・なるほど」

「カカカッ!俺だってお前の事はよぉーーく。よぉーーーー・・・・・く分かってんだぜ!
 俄然お前の魔力(MP)だ!そっちの底の方が俄然浅いってもんだ!
 分かるぜぇ!なんとなくだがお前の魔力の限界は把握してっからな!」

「はぁ・・・・ドジャーさんに知恵で先に行かれるとは・・・・人生の反省点ですね・・・・」

「褒めてんのか馬鹿にしてんのかどっちだ!」

「必死に逃げ回るドジャーさんが素敵すぎて気付きませんでした。
 楽しんでると隙が出来ますね。・・・・はぁ、しょうがないです。決めますか」

アレックスは、片手づつで十字を描いた後、
両腕をクロスさせる。
十字を象るように。

「聖十字の名の下に・・・・」

突然一度止んだパージフレアの攻撃、
ドジャーはホッとして立ち止まったが、
気付くとハメられていた。
足元と横の壁。
その二つ。
縦と横。
同時に魔方陣が設置されている。
そして・・・・

「アーメンッ!!!」

縦と横。
同時に二つの火柱。
パージフレア・クロス。
吹き出す二重の炎。
十字型のパージフレアは・・・・ドジャーを包み込む。
ドジャーの姿は炎の中に消えた。

「今度は・・・・・・・決まったようですね」

「決っまらねぇよっアホッ!!!!!!」

「っ!?」

炎の中からドジャーが飛び出してきた。
避けた?
いや、確実に炎は受けたようだ。
服装も焼け焦げている。
直撃しなかったのか、
致命傷だけは避けたといった様子。
そして・・・・
炎から飛び出したドジャーは突っ込んでくる。

「カッ!!効いたぜっ!!」

真っ直ぐ突っ込んでくる。
最大速度。
ただ直線的に、
暴走列車のように。
いや、ミサイルのように。

「だが終わりだっ!!!」

「それはドジャーさんの方ですっ!!自爆してください!!」

アレックスは地面に刺していた槍を抜き、
すぐさま構える。
繰り出したのは・・・・ブラストアッシュ。
高速突き。
剣山のようにアレックスの目の前に展開される槍の連突。
ドジャーがこのまま突っ込んでくれば、
自分から串刺し。
槍とダガーのリーチ差は余りに大きい。

「自殺は趣味じゃねぇんだよっ!!!」

と、言いながらも突っ込むドジャー。
そして・・・・・

槍の中へと突っ込んだ。

「ドジャーさんの事は分かってるって言ったでしょう!!!」

振り向くアレックス。
後ろ。
背後。
そちらを咄嗟に振り向くと、
やはりドジャーは居た。
ラウンドバック。
回り込んでいた。
予想通り。
いや・・・・思い出どおり。

「それでも俺のが速ぇんだよ!!でりゃっ!!!」

ドジャーはダガーを突き出す。
だが、
アレックスも読んでいたのだ。
背後に攻撃をする準備は出来ている。
だが、
槍とダガーのリーチ差。
それはこの距離だと逆に働く。
小回りのきかない槍は、
この至近距離では圧倒的不利。

「槍は突きだけじゃないですよっ!!」

アレックスが使ったのは・・・
槍の先の逆。
・・・・・・つまり・・・・・槍の柄。
これなら無駄な動作なく背後を攻撃できる。

「ごはっっ!!!」

ドジャーの腹に突き刺さる槍の柄。
柄とはいえ重い金属。
ダメージは与えられる。
そして効果は十分といったところだ。
ドジャーのダガーは止まった。

「・・・俺・・・も分かってたぜ・・・・」

だがドジャーはニヤりと笑う。
そしてダガーを・・・・いや、
ダガーを持ってた手を槍に絡ませる。
槍を掴む。

「柄で攻撃してくるとは思わなかったけど・・・なっ!!」

「!?」

そして・・・・
アレックスから槍を奪い取った。
攻撃が狙いでなく、
アレックスから槍を奪い取るのが目的だった。
そして投げ捨てた。
手ぶらのアレックス。
槍のない騎士。
それが接近戦でどうすることができるか。
決まっている。
できることはない。
ドジャーにも分かっている。
だからこその行動。

「くっ・・・・でも手足はあるんですよ!!」

アレックスは足で蹴り上げる。
そしてドジャーの手のダガーを弾き飛ばす。
ダガーは空中を舞い、
遠くの地面に刺さった。

「これでお互い手ぶらですね・・・」

「俺はスペアが大量にあるぜ?」

「抜くヒマがあったらどうぞ?」

「・・・・カッ!そりゃそうだ」

目の前。
1mの距離。
そこに手ぶらの聖騎士と、
手ぶらの盗賊。
1mの距離で顔を合わせる。
そして同時に微笑んだと思うと

「ごぁっ!」
「痛っ!!!」

アレックスの右拳がドジャーの頬(ほほ)へ。
ドジャーの左拳がアレックスの頬(ほほ)へ・・・・
突き刺さる。
お互い少々口から血が飛び散る。

「・・・・・ったいですねぇ」

アレックスは後ろに軽く弾かれながら、
殴られたホホを撫でる。

「・・・・・・・そりゃこっちのセリフだ」

ドジャーは口から血が垂れている事に気付き、
その場で血ツバを吐き捨てる。

「「 お返し(だ!)(です!) 」」

また二つの拳。
交差する腕。
突き刺さる二つの拳。
口から飛び散る血。

そして・・・・
そこから先はメチャクチャだった。
戦いというにはあまりに乱暴で、
戦闘というにはあまりに粗末で、
勝負というにはあまりに子供らしく、
喧嘩というにはあまりに真剣だった。
つまるところ・・・・
ただの殴り合い。

「・・・・ってぇんだよっ!!!」

「ごふっ!・・・・・・・・やりました・・・・・ねっ!」

「ガッッ!・・・・・チッ・・・・・てめっ・・・・・せっかくのイケメンが台無しだろうが!」

「ごぉっ・・・・・はっ・・・・・感謝して欲しいですね・・・・・コワモテに整形させてあげてるんですよっ!」

「痛っ!・・・・余計なお世話だ馬鹿野郎!」

「ばっ・・・・馬鹿とはなんですかコソ泥っ!!!」

「うるせぇ帝国の狗っころっ!」

「ノラ犬に言われたくありま・・・せんっ!!」

「げふっ!・・・・・・・カカっ・・・・・下僕野郎のパンチなんざ痛くねぇよ!」

「っ!・・・・血ぃ垂らしながらのセリフじゃないですねっ!」

「カッ!暴食と暴言が両立する立派なお口だ・・・なっ!」

「ぐっ・・・く・・・・・・手癖が悪いと口より先に手が出ますもんねっ!」

「グォぁッ・・・・んだとこの極潰しっ!」

「ぃだっ!・・・・・・・・うるさいこの極潰されっ!」

「裏切りモンっ!」

「裏切られモンっ!」

「一年も待たせやが・・・・・・・って!」

「ガハッ!」

お互い何発殴っているのか。
お互い何発殴られているのか。
顔に。
腹に。
口から血反吐が飛び、
それでも目の前の男を本気で殴り飛ばし、
悪口を飛ばし、
本音を飛ばし、
拳を飛ばし、
血反吐が飛ぶ。

数十分殴り合っていたんじゃないだろうか。
それくらいの間、
お互い殴り合い、
顔面も変形し始めていた。
疲れ、
ダメージもあり、
フラフラの状態。
立っているのもやっとの状態。
空振りも増え始めた。
それでも弱弱しく殴り合い、
そして・・・・・

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・・・このっ・・・・・やろっ・・・・」

「・・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・・・・・早く・・・・倒れ・・・・・・」

最後にヘナヘナなパンチがお互いの顔に直撃したと思うと、
二人は方向感覚も失い、
フラフラとお互いが揺れたと思うと・・・・・・

二人同時に倒れた。
背中合わせで座り込むように。

「・・・・・・・どした・・・・もう・・・終わりか・・・・俺は・・・・まだイケるぞ・・・・」

「・・・・・・・・・・・・僕は・・・もう限界ですかね・・・・」

「・・・・カッ・・・正直なこった・・・・」

「もう立てません・・・・」

「・・・・・・・・・・・正直なとこ俺もだ・・・・・・」

背中合わせのまま、
お互いがお互いの背中を支えあった状態のまま、
二人は疲れ果て、限界が来た。

「・・・・・・・・・」

ドジャーと背中合わせのまま、
アレックスは空を見た。

見事な晴天だ。
鳥が飛んでる。
自由なものだ。
低い汚い街並みから見えるその空。
あまりに広く、
そして見覚えのある景色。

しばらく二人は黙ったまま、
背中合わせのまま、
時間が過ぎていった。

「・・・・・・・・・・」

アレックスがかける言葉はなかった。
言えることはなく、
背中を合わせているドジャーには、
全てを見透かされているようで言葉を向ける言葉できなかった。
背中合わせなお陰で、
顔を見なくていい事だけが助かったと思った。
合わす顔もない。
だが、

「アレックスよぉ・・・・」

声をかけてきたのはドジャーのほうだった。
背中合わせのまま、
ドジャーは後ろに話しかけてくる。

「お前は変わってねぇよ」

何を言い出すかと思えば・・・・
そんな事かと思った。
何を言ってるのかと思った。
この一年・・・・
変わっていないはずがない。
今は悪名高き帝国アルガルド騎士団の一隊長。
世間では『仲間殺し』なんて呼ばれている。
最悪な人間なのだ。

「何を分かったように・・・・」

「分かったさ。なんも変わってねぇよ」

「・・・・・・・・・」

根拠も何も言われてないが、
その言葉は胸に響いた。
言われたい言葉だったのかもしれない。

「僕の噂・・・・知らないんですか?」

「カッ!・・・聞いてるさ。有名人だお前は」

ほれみろ。
やっぱりでまかせ・・・・

「反乱者の討伐を一任されている隊長様だってな。
 それも反乱者は全て皆殺し。全部の全部をな。
 そして部下は全部命令で抑えつけ、やりたい放題。
 命令違反者は即刻死刑。討伐中はちゃっかりサボるが・・・・律儀に仲間は殺す。
 相手殺さないで味方ばかり殺す。だから『人間(仲間)殺しのカクテル・ナイト』」

「・・・・・・・・・・」

「ヘタれた甘ちゃんは即刻解雇。
 最近では命令じゃなくとも進んで討伐を指揮。
 世間じゃ"殺したがり"とまで言われてるぜ。
 アレックス=オーランドはアインハルトの狗。
 忠実な狗。なんでも命令にワンワンと従い、
 そんでもって冷酷な目で喜んで人を殺すってな。
 そして今回世話になった街まで潰しに来る・・・・と」

「・・・・・・・・その通りです」

その通りなのだ。
この一年でやってきた事。
それの真意はともかく、
それをやってきた。
事実なのだ。
そういう結果が出ている。
自分は鬼なのだ。
手を赤く染めている。
心のない鬼。
悪魔。
感情もなく。
殺意のクズ。
人間のクズ。
それが・・・・・・・・自分だ。

「だがなアレックス。俺はお前の事は分かってるっつったろ?」

「・・・・・・・・え?」

「お前が実際にやってきた事。最悪な聖騎士様の所業。
 オメェはそんな事したきた奴だが、そんな事するやつじゃねぇよ」

「ハハッ・・・何言ってるかよく分からないですよ。
 殴りすぎて頭おかしくなっちゃいましたか?」

「カッ、元からそんなデリケートにできてねぇよ」

「そうですよね。最初から壊れてますもんね」

「カッ!・・・・カカッ・・・・・うっせバーカ。だがやっぱオメェはオメェだ。
 なぁ、アレックス。お前はこの街が好きか?」

唐突な質問だ。
何を聞いてくるんだ。
自分は・・・・その街を襲いに来たというのに・・・・
騎士団の精鋭軍なんて連れて・・・・
なのに・・・・・
いや、
だがそう聞かれて答える質問は一つしかない。

「大好きですよ」

「だろうな」

顔は見えないが、
背中合わせのドジャーが笑ったのは分かった。

「分かってるぜアレックス」

「だから何がですか・・・・」

「今回の99番街進行は・・・・捨て駒なんだろ?」

「・・・・・・・・・・・」

アレックスは何も答えなかった。
ドジャーは今度は音で分かるほどに笑みを漏らし、
さらに続ける。

「99番街の実力はオメェはちゃんと分かってる。
 オメェが読み違える事なんてねぇ。
 連れてきたのは精鋭1000人。すげぇ軍だ。
 だが・・・・それでも99番街を潰せねぇ事は分かってた。
 なんたってお前だからな。分かってやったんだ」

「・・・・どうでしょうね」

「99番街の戦力。3老も合わせれば99番街が上。
 それも分かった上での突入。
 わざわざまとめて目立つ大通りからな。格好の標的だ。
 夜襲やら、分割して奇襲やら有効な手はいくらでもあった。
 そんでもってミルウォーキーの情報力で"読まれている事"も計算済み。
 まんまと帝国アルガルド騎士団には不利かつ、
 99番街に有利な地形と状況にお前は持っていった」

「・・・・・・・・・」

「出鼻を挫かれたのに、お前っていう指揮隊長どこかに消える。
 騎士団のヤツラは大混乱。どーすればいいのか慌てふためく。
 一方99番街は慣れた戦いと慣れた地形で自分勝手に戦う。
 どっちが優勢になるかは馬鹿が考えても分かることだ」

「・・・・・騎士団の精鋭1000の力をナメてるんですか?」

「それでも99番街が勝つだろうと計算してたからお前は来たのさ。
 今回の本当の作戦は精鋭1000って大戦力を潰す作戦。
 それをこの・・・約束の一年の日にぶつけてきた。そうだろ?」

「・・・・・・・・」

アレックスはうつむいた。
・・・・・・・・
・・・・・ただ・・・・
嬉しかった。

「いつも反乱の討伐に先陣きって出てたのもアレだろ?
 お前なりの配慮だろ?だってお前がやらなきゃアレだしな。
 お前は討伐の時いつもどっか消えるんだってな。カカッ!・・・・反乱軍の奴に聞いたぜ?
 お前コッソリ裏で反乱軍のヤツラを何人も逃がしてるんだってな。
 ・・・・・・お前は考えたわけだ。自分なら人を少しでも助けれるとな。
 他の奴に任せたら本当に反乱軍を全滅させちまう。
 この間違った世界に反抗しようって正しいヤツラをな。
 だからお前が汚名を被ってでも裏でこそこそ手回しってな。
 オメェが指揮すればは一握りだけでも助ける事が出来るから・・・・・そうだろ?」

この人は・・・・

「それにアルガルド騎士団に所属していながら、心に正義感を持ってる奴もいる。
 反乱者を皆殺しにするのはおかしいと言える正しいヤツラがな。
 お前は毎回討伐の前にそいつらは質問で選抜。
 そしてそんな清いヤツラを隊長の権限でそいつらを解雇。そりゃそうだ。
 お前の軍はお前の作戦で潰されるための腐った奴の集まりなわけだからな。
 そーゆーヤツラの命まで捨てさせちまうわけにはいかねぇもんな」

分かってくれている・・・・・
この人は・・・・・
分かってくれていた・・・・・・

「今日のため、アルガルド騎士団の戦力を削るため、
 腐った心とアルガルド騎士団の重要な戦力を兼ね揃えてる奴らを集めた。自分の隊にな。
 ・・・・ま、それでも命令違反して一般人殺すような奴らはチョイチョイ始末してたみたいだな。
 だからそういう命令だしてたんだろ?まぁ一般人ポンポンと殺すクソは殺っとかねぇとな。
 そーゆー奴らは楽しんでやってる。くだらん心でな。そしてその日やれば次もやる。
 冷酷な判断だが、お前はそんなクソより一般人の命をとった。それだけだ」

分かってくれている・・・・
何も説明しなくても・・・・
何も話さなくても・・・・・
この人は・・・・・
ちゃんと分かってくれている・・・・・

「一年か・・・・・長かったなぁ・・・・・」

「・・・・・・・・・はい・・・・」

アレックスは俯いた顔を上げることは出来なかった。

「待ったぜ。すこぶる待って待って待ちくたびれた・・・・・
 だがこの一年・・・・・オメェは悪の仮面を被った。
 汚名、批判。世間に散々悪名立てられ、仲間からも疎まれ、
 それでも心を隠したまま裏で動くしかできなかった。
 待たされたのは俺だが・・・・我慢したのはオメェなんだな・・・・」

「・・・・・・・・・」

何も言わなくても・・・・
分かってくれている。
それが・・・・
本当に嬉しかった。
心から・・・・
一年分の何かが溢れかえった。
うつむいたまま・・・・
アレックスはいつの間にか・・・・涙をこぼしていた。

背中合わせのドジャーは、
アレックスが涙を流している事には気付いたが、
それに対しては何も言葉をかけず、
背中合わせのまま、そっと頭からアレックスにもたれ掛った。

「もう一回言うぜ。オメェはなんも変わってねぇよ。
 悪の黒なんかにゃ染まらねぇ・・・・・
 かといって純白な正義でもねぇ・・・・・
 心のままアインハルトにぶつかる事もできたろうが、
 一瞬のカッコよさのために命を捨てたりもしねぇ」

「・・・・・・・・・・」

「そして決して正しいって言われるような事もしてねぇ。
 間違った事をしてるかもしれねぇし、偽善者ってのもお似合いだ。
 だけどよぉ。そりゃぁすげぇ人間らしい事だ。いや、お前らしいな。
 この街と同じ色だ。善も悪も考えず、ただ自分の思うままの事をした。
 自分の出来る範囲でな。そうだろ偽善者?。
 お前は純白のヒーローでも漆黒の悪魔でもねぇ。
 白も黒も持ってる欲張りな灰色の偽善者だ。お前の色だ。
 変わってねぇよ。そんで俺は・・・・・・そんな奴が好きだぜ?」

アレックスは涙を拭いた。
全てが吹っ切れたような気がした。
こんなに自分を分かってくれる人がいる。
安心できる・・・・
戻ってきたと・・・・・
ここが・・・・・・・・自分の居場所なんだと・・・・・・

「さぁて、そろそろお前の軍も全滅するころだぜ?
 ったく酷いやつだな。お前の作戦通りだぜ?」

「・・・・・・う、うるさいですね。幹部を除いたら騎士団最高の1000人なんですよ!
 そんな戦力を一日で削る事ができた事を褒めてくださいよ!」

「カッ!ちょっとだけ褒めてやるよ」

「・・・ふん。これでもこの一年結構いろいろやったんですからね。
 内部からチョロチョロとね。まだまだ手回しした部分は沢山あります。
 後から「さすがアレックスだぁ〜〜!」とか泣いてすがるといいです」

「カカカッ!一年も待たされたんだ。楽しみにしてんぜ?
 ま、それに俺は俺で下準備してたんだぜ?」

「・・・・・・薄っすら聞いてますよ。『(ラグナロク)』・・・・でしょ?」

「あぁ。たいしたもんじゃねぇけどな」

背中合わせのドジャーが、
何か投げたのを感じた。
空中でそれはヒュンヒュンと音を奏で、
それはアレックスの目の前に突き刺さった。
それはダガー。
ただのダガー。

「俺達の力なんざたかが知れてる。クソみてぇな話だが中の上ってとこか?
 帝国に歯向かうにゃぁ足りなすぎるちっぽけな力だ。
 ちょうどそのダガーみてぇにな。弱弱しい力だ。だが俺はそれを気に入ってる」

「集まれば・・・・それなりにはなるってことですね」

「あぁ。俺の戦い方と同じ。モノは使いようだ。
 そんでもってこんな弱弱しい刃物でもよぉ・・・・・心臓に一突き・・・・できるんだぜ」

「・・・・・・・・・・・はい」

「見せてやろうぜアレックス」

ドジャーは背中合わせのまま、
拳を肩の上に掲げた。
ドジャーとアレックスの間の部分に、
強く握ったまま。

「クソったれの逆襲をよ」

「・・・ハハッ・・・・」

アレックスは笑い、
そして・・・・・
自分の拳も握り、ドジャーの拳にコツンとぶつけた。

「目にものを見せてやりましょう」

「あぁ、やりたかねぇけどな」

「やりたくないですね。メンドくさい」

「でもしゃぁーねーわな」

「しょうがないです。だってむかつくんですもん」

「だな。むかつきゃしゃぁーねぇーよな」

「しょうがないです」

「はぁ・・・・・」

ドジャーは立ち上がり、
コキコキと首を鳴らす。
そして大きく伸びをした後、
アレックスを見て、
軽く微笑んだ。



「しゃぁーねぇーから世界でも救ってやっか」


                 






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