「出て行かないとどうなりますか?」

アレックスは、
答えが分かっているに等しい質問をする。
そしてイスカは目をぎらつかせたまま、
剣の鞘に手を添えたまま答える。

「斬る事になるかもしれんな」

予想通りの答えにため息も出そうになる。
胸が悲しくもなる。
暗い廃れたQueen Bの中、
イスカは間違いなく殺気を持ってこちらを見据えている。

「・・・・・とりあえずその答えは先延ばしでいいですか?」

アレックスは笑顔で返した。
イスカは返事をしなかったが、
しなかったという事はとりあえずはいいという事だろう。
未だ殺気を消していないし、
鞘に手を添えたままというのも一つの意思表示だろうが・・・。

「とりあえず無事でよかったです」

「・・・・・・案ずるまでもない」

「どうやって一年前ミルレスから脱出したんですか?」

イスカは思い起こすようにため息をつき、
話した。

「・・・・・さぁな。拙者も無我夢中だった。
 ただひたすらにマリナ殿を探し回り、ただひたすらに敵を斬り続けていた。
 気付くと敵は引き上げていた。無残になったミルレスからな。
 ミルレスの壊滅が目的だったのであろう。生き残りは数えるほどもいなかったがな。
 少なくとも拙者の周りに生きている者の陰はなかった」

単純に自力で生き残った・・・・という事だろう。
まぁそれもギリギリ頷ける。
イスカ・チェスター・メッツの三人は、
《MD》の中でも戦闘力に特化した三人だ。
少なくとも彼らなら生き残ってくれるのではないかとも・・・・アレックスは考えていた。
希望にも近かった。
そして実際イスカは生き残ってて居てくれた。

「・・・・・・・とりあえず生き延びてくれていて本当に良かったです」

「何がっ!!!何が良かったのだっ!!!!」

イスカの声が狭い店に張り詰める。
確実な怒りを張り上げ、
表情は怒りで強張っていた。

「マリナ殿はまだ見つからないっ!!!
 見渡してもっ!走り回ってもっ!斬って斬って斬り続けても!!
 マリナ殿はどこにも居なかった!見つけられなかった!!」

イスカは剣を抜いた。
目にも留まらぬ速さで。
そして剣をアレックスに突きつける。
言葉と共に。

「それもこれも全部お主のせいだアレックス!!」

「・・・・・・・・」

返せるような言葉はなかった。
弁明もなく、
弁解もなく、
そしてその通りだからだ。

「拙者はあの戦いの前・・・・《MD》で揃って話し合った時・・・・
 覚えているか?拙者だけは一度エクスポの意見に賛成したな」

「はい」

エクスポの意見。
つまるところそれは反対意見。
オブジェやらなんやらの抗争は《MD》には関係ないという。
仲間が危なくなるのならばそんなものクソ食らえだという意見。
たしかにイスカはそれに賛成していた。
結局は、
マリナが参加するという事でイスカも参加に賛成したわけだが・・・・。

「あの時・・・無理矢理にでも止めておけばよかったと今は思う。
 仲間は散り散り。生きているかも分からん。
 こんな状況を・・・こんな最悪の時を運んできたのも・・・・
 全てお主だアレックス。オブジェが無ければなどとは思わぬ。
 お主が居なければ・・・・お主さえ拙者らの前に現れなければマリナ殿は・・・・」

怒りと悔しさ。
それが折り重なり、
イスカの歯は軋んでいた。

「・・・・・・きっとマリナさんは無事ですよ」

「当たり前だっ!!ミルレスのどこを探しても死体など無かった!
 それにマリナ殿が死ぬわけなかろう!死ぬわけがないっ!
 だからこうして一年もの歳月・・・・・拙者がこの店を守っているのだ!」

守っていたというのは本当だろう。
イスカの着物の汚さ。
本人自体も薄汚れている。
一年。
その長い長い歳月を・・・・
ただここで過ごしてきたのだ。
楽しさもなく、
苦しい性格の中、
希望だけを胸に。
マリナの帰りだけを信じて。

「アレックス・・・・・・お主の噂は聞いてるぞ『仲間殺しのカクテルナイト』。
 ふん。ごもっともな二つ名だ。お似合いだ仲間殺し。
 そして今度は兵を引き連れて99番街まで潰そうというのかっ!
 呆れたものだっ!お前などっ!お前など・・・・・」

イスカは剣を強く握り、
歯を食いしばった。
だが・・・
「お前など・・・・」
その先の言葉は飛んでこなかった。
堪えた・・・。
そういった様子だった。
アレックス自身もその先の言葉が出てこなくてホッとした。
そして・・・・

「・・・・・・・・また来ますイスカさん。お元気で」

アレックスは振り向いた。
出口の方へ。
ここには居られない。
イスカの無事を確認できただけでもよしと、
アレックスは出て行こうとした。
だが、
当然のように背後からイスカの声が飛んでくる。

「このまま帰るのか?拙者は剣を抜いているのだぞ」

「僕も槍を抜いたら遣り合う事になるんでしょう?
 それはイヤだからです。出来るなら遣り合いたくない」

「それでも拙者が斬りつけたら?」

「・・・・・・もちろん戦う事になります。
 僕とて懺悔だけで死ぬほど人間が出来ていません。
 それで死ぬならばとっくに自殺してます」

「だろうな・・・・偽善者め。お主は白にも黒にも染まらない偽善者(灰色)だ」

「・・・・・まさに・・・そうですね」

アレックスはそれだけ言い残し、
ドアに手をかけた。
後味は悪いが、
自分が悪いのだ。
しょうがない。
悔やんでも悔やみきれない。
だが、取り返しもつかない。
謝る事もできるが、
イスカに対し、それが無駄だとも分かっている。
逆に怒りを煽るだけだ。

「・・・・・・・」

そう思い、
一瞬思いとどまった。
ドアに手をかけたまま。

「・・・・・・すいません」

それでも・・・
謝るべきだとだけ思った。
ただの言葉。
謝罪など、
何も解決しない無力な音でしかない。
だが・・・・
言うべきだとだけ思った。

そしてドアを押し開いた。

「拙者に・・・・・」

後ろから声が聞こえた。
・・・・・。
怒りがこもっている。
当然だ。
そういう言葉だったのだから。
いや、
だが先ほどの怒りとは違う。
違う場所にぶつけているような怒り。
そして・・・
薄れるような声。

「・・・・・拙者に・・・・・・・力があればよかったのだ・・・・。
 拙者がマリナ殿を守り切れれば・・・・それでよかったのだ・・・・・。
 無力だ・・・・・なんでこんなにも無力なのだ・・・・・
 ただ・・・・・・生きて帰ってくるのを・・・・・信じて待ち続けるしかできない・・・・・・」

か細い声だった。
泣いているようにも聞こえる。
男らしき悔しさがにじみ出ている。
だが、
それだけ聞くと・・・
悔やむ女性の声だった。
アレックスは振り向かなかった。

「アレックス」

だが、
声をかけてくれた。
だから振り返った。
また、もとのイスカの顔に・・・・
もとのイスカの表情に戻っていた。
そして殺意も消えていた。

「すまなかったな。正直に話すと拙者もお主とは遣り合いたくはない」

「それはよかったです」

笑顔で返すしかなかった。

「ただ・・・お主は何を考えている。99番街を本気で潰す気で来ておるのか?」

「・・・・・・そういう軍です」

「それなら甘く見ているぞ。99番街をな。
 ここはゴミ箱だ。世界の果てと言ってもいい。
 そこに行き着き、生き残ったものがここに住んでいる。
 どいつもこいつも並大抵の男達ではない。どれだけ兵を集めようが・・・・」

「精鋭1000人です」

「ほぉ。それは大軍だな。だが、どうだろうな。
 たしかに99番街を潰しかねない戦力ではある。
 だがな・・・・この街には"3老"がいるぞ。99番街の3老だ」

「・・・・・・・」

「お主は会った事ないかもしれんが、3人ともかなりの偉人だ」

「会った事ありますよ。レン爺さんだけ。あとロン老はチェスターさんの師匠とか・・・・」

聞いた事はある。
99番街に住んでいれば当然だ。
いや、そうでなくても有名。
デイル=レン。
ナタク=ロン。
モンブ=ラン。
99番街の3老。
3人とも若き時からマイソシアに知れ渡る偉人。
老いてもその力は・・・・

「お前の方が痛手を受ける可能性があるぞ。
 こんな薄汚れた街のために精鋭1000人。
 ゴミとエリートじゃ釣り合わん」

「その通りですね」

それだけ言って帰ろうとした。
そんな話をしていると、
外の様子が気になってくる。
戦況が。
ドアを押し開く。
暗い店とは一変。
外の光が飛び込んでくる。

「策がある・・・・か。まぁアレックス。最後に一つ」

光の中でアレックスは一度止まる。

「拙者がマリナ殿を信じているように・・・・
 ドジャーはお主の事を信じているぞ」

「・・・・・・・・・・・」

「どうした?」

イスカが嬉しそうな声で聞く。
アレックスが答えにくいのを分かっているように。

「・・・・・嬉しいけど重荷ですね」

「重荷だが嬉しい・・・・だろう?」

「ハハッ、あんまり心の中まで勘ぐらないでください」

「ふん。言葉だけで心情を読み取るほど起用ではないのでな」

「そうですか。それでは不器用さん」

「あぁ、行ってこい偽善者」

アレックスは笑顔で店を出た。






























外に出ると、
騒がしさがまた一層際立つ。
戦闘中なのだと肌で感じられる。
戦っている。
味方と敵が。
敵と味方が。

「戦況は・・・・・・現時点だと劣勢というところですかね」

音で分かる。
騎士の音が少ない。
鉄の音、
規則正しい音。
それらが少ない。

荒々しい音が目立つ。
つまるところ荒れくれ者達が目立っているという事だ。
戦場はすでに99番街を包み込み始めている。
最初にミルウォーキーと出くわした場所が、
やはり戦場の中心になってはいるが、
まぁどこもかしこも戦いだらけだ。


「おっと懐かしアレックス」
「悪いけどお前の軍は全滅すっぜ♪」
「じゃっなー!」

肩をポンっと叩いて走り去っていく数人。
とくに友達とかではない。
知り合い程度。
名前さえ忘れた。
まぁたまに酒場(Queen B)で会ったりする程度の99番街仲間。
楽しそうに戦争をしている。
血のついた武器を持って「さぁ戦闘だ」って感じだ。
血で遊ぶ子供のようだ。
こう見ると99番街の人は好感を持てる。
もちろん最悪で人間のクズのような人ばかりだが、
ありのまま人間という愚かな生物を生きる人達。
その方が好きになれる。

ここには自分のような偽善者はいないのだから。


「アレックス部隊長よぉー!!!」

次に声がかかってきたのは、
その逆に最悪な人達。
最悪の反対の最悪。
善を掲げて最悪を実行する者達。
自分の部下。
帝国の騎士。

「こんなとこでサボりやがって・・・・」
「ふざけんなよっ!!」

「隊長にかける言葉じゃないですね」

「お前が隊長っぽくねぇからだろ!」
「仲間のためにちったぁ動け!仲間殺しめ!」
「このままじゃぁ騎士団も無事じゃねぇ!」
「こんな汚ぇ街潰すために大半がイカれちまう!」

「はい。そういう計算で戦闘しています」

「だと?クソッ。仲間の死まで計算か冷血隊長め」
「仲間がどんだけ死んでも任務が終われば事も無しってか?!」

「アルガルド騎士団というのはそういう団体です。
 これは騎士団長の方針でもあります。ただ使えるか使えないか。
 言われた事が出来るか出来ないか。それ以外はないです。
 犠牲なんてものはあの人の頭の中にありません」

「あぁそうかい!」
「じゃぁ俺らは俺らで好きにやらせてもらうぜ!」
「任務果たせばそれでいいんだろ!」
「犠牲なんて関係ねぇな!」

そう言い、
男達はアレックスの脇を通り過ぎ、
どこかへ行こうとする。

「止まってください。どこに行こうとしてるんですか?
 任務は任務です。ちゃんと戦ってください」

「あーはいはい。戦うさぁ」
「だが士気上昇ってやつかね」
「やっぱお駄賃があるなしでは気分も違うんでね」
「ちょいとそこの店でも家探しってなぁ」

そこの店。
つまりQueen B。

「待ってください。僕が出した命令を忘れましたか?」

「えっとぉ。戦意のある者以外に手を出さないだっけか?」
「じゃぁ空き巣はいんじゃねぇの?」
「まぁたいした物はねぇだろうけどさ」
「気分転換ってやつだ。結果だしゃぁ文句ねぇのがうちらだろ?」

「じゃぁ新たに命令です。即刻任務に戻ってください」

「・・・・これまたコロコロと・・・・」
「知らねぇよもう。相手してらんねぇ。俺は家捜しさせてもらうぜ」

一人の男は呆れたようにQueen Bへと足を運ぶ。
剣を抜き、
店のドアに手を・・・・・

「ぐぁぁああああ!!!」

男は燃えた。
蒼い炎にまみれ、
全身を焼かれた。

「止まれと言ったはずです」

パージフレアを放ったアレックスは、
人差し指を上に突き出したまま、
部下達を睨んだ。

「このっ!野郎!」
「また仲間を殺しやがった!」
「命令命令で仲間ばっか殺しやがって!!」

残り・・・3人・・・・か。

「もうあんたの下じゃぁやってらんねぇよ!」
「あんたはここで事故死だ!」
「殉職してろ!」

「はぁ・・・・いつもこれだ。自分らの事しか考えていない。
 こんなのが世界を牛耳っていていいんでしょうかねぇ」

「その頭の一つがあんただ!」
「人の事ばっか棚に上げやがって!」
「この仲間殺し!」

「ま、それもそうですけどね」

アレックスは槍を抜く。
3人・・・。
正直アレックスの実力だと、
不意をついたらともかく微妙な数だ。
雑魚ならともかく、
これでも精鋭。
腐っても精鋭だ。
つまるところ、
彼らはこれでもアルガルド騎士団内の人間の兵の中では、
幹部クラスを除けば最上位に位置する精鋭達だ。
・・・・・・・・それでも・・・・・負けないとは思うが・・・・・

「死にさらせ!!」

一人が剣を抜いて突っ込んでくる。

「それはイヤですね」

アレックスは軽く避けた後、
槍を突き出す。
・・・・・。
やはり腐っても精鋭か。
攻撃を避けたときを狙ったのだが、
それでもガードしてくる。

「こんなもんか隊長っ!」

もう一度剣を振ってくる。
今度も後ろに仰け反って避ける。
そして一突き。
今度は決まった。
男の腹にアレックスの槍が刺さる。

「な・・かま殺し・・・め・・・・」

「一人」

ふと横から重圧。
熱気。
何かと思い、
避ける。

「クッ!」

何か分からなかったが、
咄嗟に避けたのが功を奏した。
着弾点。
そこには炎。

「一人は魔術師ですか・・・面倒な・・・」

残りの二人。
魔術師と騎士。
面倒だ。
前衛と後衛を同時にというのは骨が折れる。

「あんたも終わりだ!」
「死んじまいなっ!」

騎士の男が槍を突き出してくる。
槍を合わせる。
カキンッという音と共に、
騎士はさらに一突き。
さらに一突き。
アレックスの槍と騎士の槍が弾きあう。
先ほどの剣士のようには行かない。
お互いギリギリの中距離。
同じ長さの槍での攻め合い。
押しつ押されつ。
槍を弾きあう。

「食らえ!!!」

後ろの魔術師が叫ぶと同時に、
氷の刃。
アイスアローが数本飛んでくる。

「・・・・くそっ!」

アレックスは後ろに跳ぶ。
アイスアローを避けるために。

「どしたどした隊長!」
「2対1でこんなんで隊長なんて言えるのか!?」

「隊長は隊長です・・・・」

自分の不甲斐なさを実感する。
やはり・・・・
自分が不甲斐ない。
人より実力はある。
だが・・・
やはり中の上といった能力。
努力はしてきたが、それが自分。
自分自身の能力だ。
人より大それた能力があるわけじゃない。
精鋭兵より上かどうかくらいの能力。
些細な力だ。
こんな自分が何かをする。
それは・・・・許されることなのか・・・・

「おっと!」

魔術師は足元に気がつき、
避ける。
こっそりアレックスが仕掛けたパージフレア。
気付かれた。
やはりカンもいい。
この二人に関しては実力は本当に本物だ。
そこらのギルドのオフィサークラスの実力があるかもしれない。

「コスい!コスいねぇあんた!」
「戦術戦術言ってるが!卑怯なやつ!やっぱ99番街にいたってだけはあるぜ!」

騎士の男と、
魔術師の男は大笑いする。

「これがぁ『仲間殺しのカクテルナイト』の実態だなぁ!」
「あぁ!ただの偽善者だ!」

偽善者・・・・

「命令!帝国のためっ!それを盾に自分勝手命令してるだけ!」
「命令違反の仲間を殺し!戦意のないものを殺さないって命令!」
「まるでギリギリ体面を残したいだけの善意!」
「やってることは最悪で悪魔みてぇな奴なのによぉ」
「善人の皮を少しかぶった悪魔だ!」
「一番タチが悪いぜ偽善者ってのはな!」

「・・・・・・・・・・」

本当の事だ。
部下のいう事。
自分達も最悪なくせにとも思うが、
本当の事だ。
反論の余地もない。
偽善者。
お似合いの言葉だと思う。
黒に染まりたくても白が残り、
白になろうにも黒く汚れすぎてる。
交じり合ったカクテル。
それが・・・・自分。

「さぁて!決めるか!」
「おう!」

魔術師が詠唱を始める。
騎士が槍を構える。

「・・・・・・・・」

アレックスは突っ込んだ。
策。
たいしたものはない。
実際キツいところだ。
とりあえず突っ込んだ。

「おっと?俺か!?」

アレックスが突っ込んだのは魔術師の方。

「ハハッ!まずトロい俺の方をってか!?だがこっちは二人いるんだぜ?!」

分かっている。
横からは騎士がアレックスを狙っている。
魔術師を攻撃しても騎士にやられる。
だからといって放っていて魔法を放たれたら、
魔術師と騎士のダブルで頭打ちだ。
魔術師を攻撃するしかない。

「お、おい止れって!お前詰んでるんだって!」

魔術師は言うが、
アレックスは止まらない。
そのまま魔術師に突っ込む。
そして・・・・

「ぐ・・・・」

魔術師に槍を突き刺す。
突き抜ける。

「・・・・・・・チッ・・・だが終わり・・・だ・・・・」

魔術師は息絶える前に言った。
そう。
すぐ横には騎士。
もう槍を突き出している。
避けられない。
防げない。
当たる。
どうしようもない。
覚悟していたが、
どうしようもない。
騎士の槍がアレックスを襲う。

「終わりだ仲間殺し!!!」

アレックスは悟った。
こんな所で終わりかと。
不甲斐ない。
あまりにも不甲斐なかった。
精鋭とはいえ一般兵。
強敵とはいえ名も知らない相手。
こんなものに殺されて終わり。
もっと強敵を打ち倒してきたのに、
こんな相手に倒されて終わり。
全ては水の泡。
そんな自分の無力さに・・・・・

「あ・・・・れ・・・・」

騎士は声を漏らした。
アレックスに槍を突き出していた騎士。
それは声を漏らしたと思うと・・・・・・・

頭から血を吹き出して倒れた。

よく分からなかった。
ただ、
自分が助かった事だけは分かった。
そして、
誰かが助けてくれた事も。


「だっせぇ。ほんとだっせぇなぁ!!おい!」

声が聞こえた。
上から。
上を見上げる。
逆光。
太陽がまぶしい。
太陽の中から声がしているようにも聞こえる。

「それで終わりか?ぁあん?いいのかそれで?なぁなぁアレックスさんよぉ。
 なっさけねぇ!そんな不甲斐ないようじゃママが泣くぜぇ?
 「あんたはやればできる子なのに・・・」ってぇなぁ!お笑いだ!」

太陽。
逆光の中に見える人影。
屋根の上。
そこに見えるのは・・・・

ゴーグル帽を被った男。

その男は小さな紙を投げ捨てた。
ヒラヒラと屋根の上から落ちてくる。
その紙。
アレックスは拾う。

「請求書だ。救済料50万な。現金払いでよろしく」

ゴーグル帽の男は逆光の中、
ニヤりと笑った。

「そんなお金はないですね」

「無い?無いわきゃねぇだろ隊長さん。なんたって隊長さんだ。
 お前みてぇのは大抵金目の物を持ってるって相場が決まってるんだ。
 ま、ないなら何かしら代わりに何かしらで払ってもらわねぇとな」

屋根の上の男は、
逆光の中、
影の存在のまま、
ニヤニヤと笑っている。

「殺してから奪うってのもアリだけど・・・な?」

「なんかデジャヴュですよ?」

「そうか?そうかもなぁ。そうかもしれねぇ。
 ・・・・・・にしても暑ぃ。暑いってのこの野郎!!ふざけんなっ!
 蒸すし汗かくしたまんねぇぜおい!なんの罰ゲームだこれ!
 こんなもんガラにもなく被ってくんじゃなかったぜ!!」

男は逆ギレしてゴーグル帽を投げ捨てる。
ゴーグル帽はパサりと地面に落ち、
そして男は頭を振る。

スローにも見える。
男の汗にまみれた髪がなびく。
逆光の中、汗に濡れた長髪がキラキラと光った。
その水銀色の髪が。
そして耳のピアスも輝く。
揺れ動き、銀色に輝く。

「カカカッ!やっぱいつもどおりが一番ってなっ!
 隠すにゃぁもったいねぇルックスだしよ♪」

逆光の中で光る知人の顔。
いつ見ても憎たらしい顔だ。
性格が悪そうでたまらない。

「・・・・で!で・だアレックス。一年だ。一年だぜ?
 今日で一年だ。俺が三歩で忘れる鳥頭じゃぁなけりゃぁ間違いねぇ。
 そんでお前も違ったはずだ。忘れちゃぁいねえぇし忘れてねぇよな?」

「それはこっちのセリフですよドジャーさん」

笑顔で返した。
いや、
素直に出てきた笑顔だ。

「カァ〜・・・・。いつになっても生意気だなぁオイ!
 どんな生活してきたんだ?性格悪い悪い地区出身か?
 曲がった鉄パイプみてぇにどうしようもねぇ性格だ」

「まぁ、真っ直ぐになるつもりがないから・・・ですかね♪」

「そりゃぁ困ったさんだ。表彰してやりてぇな」

「じゃぁお願いします。ドジャーさんもその表彰台にあがるでしょうけどね」

「そりゃぁねぇな。俺は生まれてこの方真っ直ぐ生きてきてるからな」

「真っ直ぐ間違った方にですね」

「カッ!・・・そ・の・と・お・りだっ!正しい道なんて真っ平ゴメンだぜ」

「でもレールに乗らないと老後が大変ですよぉ〜?
 その点僕は大丈夫ですけどね。なんたって・・・・・・」

アレックスは笑顔を残したまま、
少々睨むような真剣な顔つきになる。
そして言う。

「天下の《帝国アルガルド騎士団》ですから・・・・」

ドジャーは少し笑った後、
屋根の上から唾を吐き捨てて言った。

「そりゃぁ結構なこった。大層クソ食らえだぜ。
 不当な税金食い荒らしながらワガママに生きてくれ公務員さん」

「・・・・・・・・・・」

少々無言の時間が過ぎた。
地面から見上げるアレックス。
屋根の上で見下ろすドジャー。
そのまま時間が少々過ぎた。

「・・・・・・何か言いたい事はないんですか?」

「ん?言いたい事?カッ、言いたい事や聞きたい事なんて腐るほどあるぜ。
 お客様質問センターに問い合わせたいくらいだな。不平不満なんでも聞いてくださいませってな。
 カッ!言いたい事だらけで脳みそパンクしちまいそうだ。メモってこればよかったか?」

「それはそれは大荷物のようですね。どうぞ?」

「いーーーーや。そんなこたぁまぁ後回しってやつ?
 アレックス。テメェがこの一年でどうなったかよく知らねぇ。
 心境の変化があったのか、それとも腐ったのか。なぁ"仲間殺し"」

「・・・・・・・・・・」

「ただそれ聞いたところで俺が受け入れるかどうか別の話。
 納得するかも別の話。ムカついてキレるかどうかも別の話だ。
 ま、こんな性格だからよぉ。聞いたところでどうなるとも分からねぇ」

「そりゃそうですね。よく分かってますよ。
 結果が全てですよね『人見知り知らず』さん?」

「そういう事、まぁつまるところ・・・・・・・」

ドジャーは・・・・・
両手に4本づつのダガーを抜いた。

「言いたい事よりぶつけてやりてぇ事のが多いんだよ。
 いっぺん"やんねぇ"とな。そういう気分だ。OK?」

「分かってますよ」

アレックスも槍を抜く。

「・・・・・・・・殺す気で行くぜアレックス」

「返り討ちにする気で行きますよドジャーさん」

「ほれきた。生意気さんめ。千年早ぇ」

「でも前は僕が勝ってますからね」

「挑発も大概にしとけ。まぁ安心しろ。墓にはホロパチャーハン供えとく」

「それは・・・・死んでもお腹いっぱいですね」

「あぁ・・・・・・・・・・」

ドジャーは屋根の上で構える。
両手をクロスさせて。
ダガーを放つ構えをする。
殺す気で・・・・

「ご馳走をくれてやらぁ!!!!!」


















                 






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