「あーぃ。帰ってきたぜ」 エースは王宮の一部屋のドアを開ける。 開けると小さな部屋。 本棚と武具用具。 そして机があるだけのシンプルな部屋作り。 そこはユベンの仕事部屋だった。 「遅かったな」 「あぁ、あのイスカって女侍を部下に任せてきたからな。 今頃牢屋ん中に連行されてんだろ。・・・・・"運がよければな"。 変態の相手させられてない事を祈っといてやるぜ。どうでもいいけどな」 「そうか。まぁお前が無事で何よりだ」 ユベンは机の上にヒジを置き、 少し間を置いた。 黙っていてもなんなので先にエースが切り出した。 「・・・・・・で、どうなった?俺の処罰はよぉ」 「大丈夫だ。お前はなんとか44部隊に復帰できるだろう」 「お?マジか?・・・・・・ふぅ・・・・それは良かった。 本当に安心したぜ。今死んだら死ぬに死に切れねぇからな」 「・・・・言葉おかしいぞ」 「いや、だってよぉ。見てくれよコレ」 そう言ってエースは上着を広げる。 数々の武器。 名前達。 そこの一つ。 一つだけ異彩を放つほどの存在感を持った武器。 忘却のスワードロングソード。 名刀セイキマツだ。 「やっべぇだろ。カージナルっつーんだぜ?これ。 俺のネームコレクションん中でも最高の一品だ。こりゃ毎日磨くわ。 素晴らしい名前ってのは不滅じゃないといけねぇからな。 偉人の名は死んでも残るだろ?歴史とかによ。 そしてこの"名前"も今俺の懐の中で生き続けてる。 剣聖ルイス=カージナルは死んでもその名が残るってことだ」 嬉しそうに話すエース。 コレクションを自慢する戦士。 まるで全てのコレクションが自分の物のように。 いや。自分自身かのような口ぶり。 名無しのエース。 そんな彼だからこその人の武器への愛着かもしれない。 「俺もこんな名前が欲しいぜ・・・・・・・・・・ってあら?」 「ん?なんだ?」 「いや、そういやユベン。今日はお前、戦況の報告聞かねぇのな。 律儀なお前はいつもは絶対聞いてくるはずなのによぉ」 「・・・・・・・・いや、報告は来ている」 「は?なんでだよ。他の奴らからか?」 「いや、連絡部からだ」 「あぁ、偵察きてたのか。・・・ったくよぉ。団員俺らの方に裂けるなら手伝えって話だよな」 「今回はお前らの独断で、正式な作戦ではないからな。 それがアインハルト様の思惑の上で踊らされた独断であってもだ」 「ケッ、捨て駒ちゃん帰ってきました・・よ・・・・・っおい!ちょっと待て!」 エースは机を叩き、 体を乗り出す。 「報告は来ているからっ!?もう聞く事はないっ!? つまり99番街での戦闘は終わったってことだよな! それにさっきお前・・・・「お前はなんとか部隊に復帰できるだろう」って・・・・ それつまり・・・・俺だけって事か!?戦闘は終わったのに俺だけしか帰ってきてないのか!?」 ユベンは言葉を返さなかった。 ただ額に片手を当て、 「なによりじゃない・・・」 とつぶやいただけだった。 「くっ!ふざけんな!ありえないだろ!俺たちゃ無敵の44部隊だぞ! 腐ってもサクラコだぞ!?グレイだぞ!?ダ=フイだぞ!?ヴァーティゴだぞ!? あんな薄汚れた奴らに負けるような奴らじゃねぇ!隊長の44部隊はよぉ!」 「いや・・・・」 「ん?」 「お前が思っていう状況とは多少違うが・・・・」 「それはどういうこった」 「いや・・・・結局は同じか・・・・何よりじゃぁない・・・・・」 -99番街- 「はぁ・・・・・疲れた・・・・・・」 アレックスは地べたに座り込みながらため息をついた。 「カッ、それはおめぇだけじゃねぇっての」 ドジャーは座り込むアレックスの横に立ち、 ダガーの手入れをしている。 「正直生きてるのが不思議でしゃぁねぇよ」 「ですね・・・・」 「44部隊が5人だぜ?5人。中小ギルドぐらいなら潰せる数だ」 「倒せたのは4人ですけどね」 エース。 サクラコ=コジョウイン。 グレイ。 ダ=フイ。 ヴァーティゴ=U218。 話を照らし合わせると、 エース以外は倒した事になる。 そしてそのエースはイスカを連れ去った。 殺されていないだろう事だけが唯一の希望だ。 そう考えれば全員生還したともいえる。 「一番勝率があると思ってたのはイスカだったんだがな」 「不意打ちかもしれませんね。ヴァーティゴさんを隠してましたし」 「あいつは不意打ちに強ぇぜ?」 「それを上回ってくるのが44部隊です。何か揺さぶりをかけたのかもしれませんしね」 「カッ!あいつの心が揺れる理由なんて一つしかねぇな」 マリナだ。 何かしらマリナの情報を掴んだのかもしれない。 または惑わされただけか。 今になっては分からない。 「イスカさんは気になりますが、こちらの死人は0で4人倒せました。 はっきり言って規格外にいい結果だと思いますよ」 「あぁ。ま、こいつがこなけりゃ結果は逆だったろうけどな」 そう言ってドジャーは足元の何かを蹴飛ばす。 チェスターだ。 未だ寝ている。 気絶したままだ。 のん気なものだ。 だが、チェスターがこなければたしかに結果は逆だっただろう。 ドジャーはグレイとダ=フイの二人がかり。 いや、悪くはヴァーティゴも含めて44部隊の修道士三人がかりの可能性もあった。 その後アレックスもトドメを刺されて終了。 最悪だ。 「まさに救いのヒーローですね」 「カッ、チェスターが起きてる時に言うなよ?調子こいてうぜぇからな。 ただでも全身傷だらけでヘトヘトなのに耳元ではしゃがれたら疲れ倍増だ。 疲れてる上にガキの相手するほどボランティア精神ないんでね」 「なんか休日のお父さんみたいな意見ですね」 「ばっ!?・・・・お父さんだぁ!?」 「一年で性格老けましたねドジャーさん」 「・・・・・カッ、お前はまんまだクソッタレ。一年間そのまんまの性格が斜め上に成長してやがる」 ドジャーは不機嫌にツバをダガーに拭きかけ、 ダガーの手入れを再開した。 「十分ですよ。真っ直ぐ生きるなんてつまらないです」 「ごもっとも・・・・・・・だっ!」 ドジャーは磨いていたダガーを投げた。 そしてダガーは壁に突き刺さる。 「よし、こんなもんか」 ダガーの切れ味を試したかったのだろう。 満足そうにドジャーは壁のダガーを引き抜きに行った。 「ダガーなんてどんどん消耗してくんだから手入れなんてしなくていいじゃないですか」 「バッカか?お前馬鹿か?だから大事にすんだよ。金かかんだろ金! ダガーごときに金使うくらいならどんどん再利用するっての」 「貧乏性ですね」 「んだと!?エコだよエコ!俺は世界に優しいんだっての! 殺しの道具もリサイクル!」 「んじゃぁボランティア精神あるんじゃないですか」 「うっせ!あれやこれやとよく皮肉がどんどん思いつくもんだな! カッ、これからはテメェの食費がかかるんだよ! 政治家も真っ青になる詐欺みてぇな食費がな! やりくりしてかなきゃすぐ金なんてなくなるんだ馬鹿。このごく潰し」 「お母さんみたいな意見ですね」 「・・・・・・・っ!ぶっ殺すぞてめぇ!」 「やめてくださいドジャー(お母)さん。死にたくないですから」 「うっせ!殺す!俺のコスト削減運動として殺すっ! この世のエコロジーのためにお前を抹殺してやる!」 「朝だぁあああああああ!!!!!」 突然の叫び声。 タイミングを考えない突然の声。 デカい声にビックリすると、 真横でチェスターが両手を広げて飛び起きていた。 「朝じゃねぇよ・・・・・」 起きてばかりで爽快なチェスター。 そこに真横からドジャーが言う。 「あれ?ドジャー?アレックスも・・・・。なんでオイラん家にドジャーとアレックスがいんの?」 「お前ん家じゃねぇよ・・・・」 「ほえ?」 チェスターが周りを見渡すと、 やっとそこがルアスの99番街だと気付いたようだった。 「なんだこれ。オイラなんでこんなとこで寝てたんだっけ?」 「アホかお前。どんだけお前は猿頭なんだ・・・・」 「修行の途中に寝ちゃったんだっけ?」 「だーかーーらーー!!俺達は44部隊と・・・」 「あっ!チェチェは!?チェチェはどこいった!?」 「・・・っ!?このっ猿・・・・」 「うき?」 呼ばれると、 チェスターの懐からワイキベベが顔を覗かせた。 「あ!こんなとこで寝てたのか」 「ウキ!!」 「あ、で?オイラはなんでここにいんの?」 「カッ!教えてやんねー」 「すぐスネるんだから・・・・チェスターさん。そこ見てみてください。きっと思い出しますよ」 アレックスが指で指し示す。 その先。 そこには横たわるダ=フイ。 死に絶えたダ=フイの死体。 「あ・・・・・」 チェスターはやっと思い出したようで、 何かしら思いつめるように顔をうつむけた。 そして自分の拳を握り締め、 ボソりと言った。 「そっか・・・・オイラ倒したのか・・・・・」 「「倒してねぇーよ(ないです)」」 「・・・・あれ?違うの?」 「ダ=フイさんは僕が倒しました」 「カッ、てめぇはダ=フイに気絶させられて今の今までスヤスヤだ。 気絶からそのまま寝息をたて始めた奴は初めてみたぜ」 「あっれぇー・・・・知らず知らずオイラが倒したのかと・・・・」 「おめぇはアレックスこなきゃ死んでたんだぜ?感謝しとけよ」 「いえいえ、チェスターさんが来なかったら僕らも死んでましたから」 「そ、そだよな!オイラ重要だったよな!」 「そうですね」 「はいはい」 「へへん!やっぱりヒーロー!ピンチに駆けつけ!敵をさっそうと倒し! 仲間を助け!かっこよく世界の平和を守りぬくーーー!!!」 「うきーーーーー!」 チェスターとチェチェがポーズを決める。 相変わらずだ。 まぁ体中怪我だらけだが元気そうで何よりだ。 「・・・・・・・・・ない・・・・・・・・」 突然アレックスがボソりと呟いた。 「あん?何言ってんだアレックス」 「ないんですよ!!!」 ドジャーとチェスターは顔を見合わせた。 「だから・・・・」 「何がジャン?」 「チェスターさんが起きて気付いたんですけど・・・・」 アレックスが指を指す。 「ヴァーティゴさんの死体がないんです!」 「なっ!?」 「へ?」 アレックスが指差した先。 崩れた壁。 溜まった血。 全てはもとのまま。 だが・・・・ そこにあるべきだったヴァーティゴの死体がそこには無かった。 「クソ・・・・俺は・・・・・・俺・・・・は・・・・・うっ・・・・・・」 ヴァーティゴはヨロヨロと歩く。 血を滴り落としながら、 壁にもたれ掛りながらゆっくりと歩く。 「・・・・・・・・・・・・・まずは・・・・生き残る事だ・・・・・クソ・・・・・ ・・・・・・俺はなんでも・・・・・貫ける・・・・・全てを掘り進む男だ・・・・・・」 地面と壁に、 血の道筋ができる。 ずりずりと、 壁を伝いながら数センチずつ進む。 「・・・・・・生き残れば・・・・・・成長ができる・・・・・・・・ ・・・・・・隊長が教えてくれたんだ・・・・・・人は・・・・成長して強くなれる・・・・・・・ ・・・・・・・・・・今打開できない壁も・・・・・・・・・・・・己を信じて・・・・・・・ ・・・・・・成長して・・・・・強くなって・・・・・・・壊せるようになればいい・・・・・・・と・・・・・・・・」 彼を生かしたのは、 彼の特有のタフさではない。 生き残る。 ヴァーティゴはその一念で歩いていた。 壁にすがらないと歩めない。 血が出すぎている。 ハッキリいって死ぬ寸前だ。 だが、歩かなければいけない。 何かを求めて。 ゲートは持ってきていなかった。 こんな展開になるとは夢にも思っていなかったからだ。 「・・・・・・・・今立ち塞がっている壁も・・・・・打開するために・・・・・・ ・・・・・・・・・・なんとか・・・・・・・・なんとか・・・・・・・生・・・・・・・・・・・き・・・・・・・」 とうとうヴァーティゴは倒れた。 「・・・・・ぐっ・・・・・・・」 力が出ない。 視界が90度反転。 視界の半分が地面。 目眩がする。 視界がぼやける。 もう死ぬのか・・・・ ただそう思った。 「・・・・・・・・・・・ん?・・・・・・・」 ぼやける視界の先。 壁を伝って何かが歩いてくる。 いや、壁ではない。 自分が真横に倒れているのだから、 ただ向こうから人が歩いてくるだけだ。 屈強な足。 「・・・・・・・・・仲間・・・・・か・・・・・・・・敵・・・・・・・か・・・・・・・」 最後の力でヴァーティゴは視界を上に向けた。 「・・・・・・・・・!?・・・・・・・・・・・あんたは・・・・・・・・・・・・・・・」 -ルアス城- 「どういう事なんだユベン!俺の考えてる通りじゃないとかよぉ! 結局は同じとかよぉ!意味が分からねぇんだよ!」 ユベンは額に手を当てたままだった。 机の上で、 力なく返事もしない。 「なぁ・・・俺の考えてる通りじゃねぇってことはよぉ。 もしかしたら他の4人が全滅したわけじゃねぇってことか? なぁ?そうだろ?そういうことだよな。誰か生きてんだよな? サクラコか?グレイか?ダ=フイか?それともヴァーティゴか?」 「・・・・・・・・・ヴァーティゴだ」 それを聞き、 エースは表情が緩んだ。 「・・・・そ、そうか・・・いやさ、俺達5人は裏切る形で99番街いったろ? そして最終的には死ぬ覚悟だったんだ。あいつらも俺も死ぬことに意義はねぇよ。 だけど俺だけおめおめ生き延びたんだじゃぁな、夢見も悪くて仕方ねぇからな」 「いや・・・・」 ユベンは表情を変えない。 「言ったろ?やはり同じなんだよエース・・・・何よりじゃぁないんだ・・・」 「・・・・・なんだよ。どういう事なんだ」 「お前を引き戻すために上と・・・・まぁピルゲン将軍とかけあったんだ。 ロウマ隊長の権力もあるからな、しぶしぶ受け入れてくれた」 「ハハッ!さすが隊長だな!ピルゲンの野郎も形無しだぜ」 「だが・・・・俺達は王国騎士団の意志を継いでるが・・・・"帝国アルガルド騎士団"だ」 「・・・・・・・まぁそうだがよ」 「その頂点はアインハルト様だ。今回の99番街での騒動はアインハルト様の差し金だ。 ただの余興。楽しみ。アインハルト様が手をいれ、見てみぬふりをして楽しんだ結果でしかない。 アレックス部隊長の裏切りも分かってて楽しみ、お前らを捨て駒にするよう仕組んだ。 ・・・・・・・・・・・・・・・・だが、それでも帝国アルガルド騎士団なんだよ俺達は」 「だから何が言いてぇんだよ!」 「ピルゲン将軍曰く・・・・・・アインハルト様の意思とはいえ、今回の件は見過ごせないと。 それはそうだ。隊長格であるアレックス部隊長の裏切り。1000人の精鋭の全滅。 そして44部隊の敗北。それを99番街(街人の底辺)にやられたんだぞ? 面目ってのがある。世界を力だけで支配していくための面目がな」 「なるほどな・・・・・・・で?どう処理するつもりなんだ?」 「"一切の掃除"だよ」 ユベンは両手を組み合わせた。 そしてユベンはエースを真剣な目で見たまま続ける。 「処理係が派遣された」 「処理係?」 「全てを踏み消す。そういう事だ。分かるか?この意味が。・・・・何よりじゃない・・・ つまるところその処理係の仕事は・・・・99番街を荒らしまくる。それだけだ。 騎士団の力を指し示し、ナメた奴らを完膚なき目に合わせる。無差別にな」 「・・・・・・・・・それってまさか・・・・」 「あぁ、ヴァーティゴが生きてようと全部踏み消す。そういう事なんだよ」 エースの力が抜ける。 「・・・・ハハ・・・結局のところ・・・・・俺以外の奴らは何にしろ処理されて・・・・ 99番街はグチャグチャにされて・・・・アレックス部隊長らも終わりか・・・・ 99番街でビッグバンが起きるようなもんだ。完璧なバッドエンドだな・・・・ クソッ、こんな事ならあいつらの名前を形見として奪っとくんだったな」 「また4名失うのか・・・悔やみきれないな」 「ユベン。あんたは悔やまなくていいぜ。捨て駒にされた俺達。 そんな俺達に生きる糸を垂らしたじゃねぇか。俺しかその糸を掴めなかったがな。 前を向こうぜ。隊長ならそういう筈だ。俺達は騎士なんだからな」 「あぁ・・・そうだな」 「で、その処理係ってのはどんなもんなんだ? アレックス部隊長の策略も見事だったが精鋭1000人で潰せなかったんだぜ? その処理係ってのはどんだけの規模だっつー話だよ」 「規模?そんな単語は使わない」 「あ?」 「処理係は・・・・・・・たった一名だ」 「おいアレックス。チェスターも起きたしそろそろ行くぞ」 「そうですね。少し休養が必要です」 「へへーん!オイラはまだバリバリ元気だぜっ!」 「カッ!なぁーに言ってんだ。寝たからだろ!ぐっすりとよぉ! 大体何が元気だ。おめぇだって怪我だらけだしかなり消耗してんじゃねぇか」 「こんなん平気だっ!」 チェスターはいつも全力で生きている。 だからかなりのダメージを受けている今でも、 まるで全快のような雰囲気だった。 「チェスターさん」 「何?アレックス」 「元気ならカッコイイわけじゃないですよ?」 「へ?なんでだよ!やっぱ元気な分、敵を簡単に倒せちゃったって感じジャン!」 「いえいえ、名誉の負傷ってやつですよ。苦労と苦戦。それを乗り越えた者が一番カッコイイ。 何かを成し遂げた英雄や勇者は傷だらけなものですよ。それが勲章なんですから。 そうじゃありませんか?だから今一番重症な僕みたいなのがカッコイイんですよ」 「えーーーっ!!!」 「何言ってんだアレックス!見た目はお前が一番重症だけだよぉ。 俺が一番重症だ。ほとんど蹴撃ばっか食らったから血があんまり出てないだけなんだぜ? つまり陰で苦労し、実は一番傷だらけの俺が一番イカすんじゃね?」 「そ、そーんな事ないジャン!オイラが一番カッコイイ! オイラはここに来るまでスオミ行ってさらにそこからここまで走ってきたんジャン! 戦闘前の消耗が一番激しかったのオイラだもんね!オイラが一番凄い!」 「僕なんて早朝から騎士1000人引き連れてきたんですよ? この日のためにいろいろと確実に作戦が通るように確認もしてましたし、 だから昨日以降も仕事づくし休み無し。昨日なんてほとんど寝てません。頑張ったでしょ?」 「カッ!俺だって寝てねぇんだよ!昨日なんて2時間しか寝てねぇもん」 「ふっ、僕はほぼ徹夜ですよ」 「オ、オイラは・・・・・」 なんの勝負だ。 ・・・・・・・・と言ってやりたくなる。 苦労自慢コンテスト。 だがこんな他愛のない事でケンカできるだけ、 彼らに余裕が出来たという事。 そして幸せだという事だろう。 だが彼らには賞賛を与えるべきだ。 勝算はわずかな確率だった。 だが確率という運の絡んだ数字で計算するべきでもないかもしれない。 わずかな可能性の勝利を・・・・自力で掴み取ったのだから。 ほんの束の間の勝利を。 「ん?」 突然、 チェスターが何かに気付き、 キョロキョロと辺りを見渡した。 「あん?どうしたチェスター。バナナでも探してんのか?」 「え、そうなんですか?バナナだったら僕も一緒に探しますよ」 「違うジャン!」 「じゃぁどうしたんですか?」 「なんかさ。近づいてるんだよ」 またキョロキョロと見回し始めた。 でも何も確認できず、 チェスターは「?」と首を傾げた。 「いや、なんかさ。すっげぇ気を感じるんだよ」 「気?」 「うん。エネルギーっていうか、気力っていうか精神力っていうかさ。 師匠と違ってオイラは気を探るのは得意じゃないんだけどさ。 勝手にビンビン感じる感じるんだよね。なんか動物みたいな気が・・・・」 しかしどこから感じるとか分からないと言った様子。 「気のせいかなぁ・・・」 「カッ!気のせい気のせい。疲れてんだよテメェはよぉ」 「でもすっごいぜ?なんかもう物凄い化け物みたいなさ」 「ちょっと気になりますね・・・・」 「まー本当にオイラが疲れてるだけかもしんないけどなっ。 おかしくなかったらこんな気の奴どうやったって・・・・・・・・・・」 「ドッゴォラアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」 「「「!?」」」」 突然すぐ近くに・・・・・・何かが降ってきた。 それはまるで隕石かのようだった。 地面と衝突し、地面が爆発したかのように飛び散った。 地面が揺れた。 「な、なんだぁ!?」 大砲でも飛んできたかの様な有様だった。 落下地点から近辺10数メートル破片が飛び散る。 周りを包み込むかのような砂煙。 「なんか落ちてきたっ!」 「メテオ!?」 「い、いや声がしてましたけど・・・・・・・・・」 その路地自体が壊れたかのような衝撃。 砂煙。 落下地点が見えない。 いや・・・・ 砂煙が晴れて・・・・・・ 「しゃぁあ!!オラァアアアアアアアア!!!!!!」 砂煙の中から・・・・ 一人の男が出てきた。 着地で出来たクレーターの真ん中で、 力強く拳を握り、両手を広げる・・・屈強な男。 鋼鉄のような体。 人間の体とは思えないほどの屈強さが見て取れる。 毛皮で出来たような衣類。 首元に野生動物の毛で出来たファー。 真上に剣山のように伸びる茶髪。 天に向かって茶色に爆発したような髪・・・・。 ロウマとはまた違い、 本当の獣のタテガミのような髪の毛だ。 「ん?こいつらか?こいつらだなゴラァアアアアアアアアア!!!!!!」 耳が潰れそうな叫び声。 遠吠え。 周り一帯が震える。 世界が揺れるかのよう。 「くっ・・・」 「うるせぇ!」 アレックス達は咄嗟に耳を塞いだ。 それくらい馬鹿デカい声。 獣の咆哮。 「ナッハハハッ!!!!こんななまっちょろい男共が俺様の相手だとぉ!!! 燃えねぇなぁあああ!!!こんなんじゃ俺様の心がメチャ熱く燃え滾(たぎ)らねぇぜ!!!!」 「こ、声でけぇ・・・・」 「なんなんだよっこいつっ!すっごいゴツいけどっ!」 「・・・・・・・」 アレックスは何かに気付いた。 この風貌。 只者じゃない事は見て、いや感じ取れる。 だが、何か記憶にあるような・・・ 見たことはないような・・・聞いた事はあるような・・・・ 「ちょっ!ドジャー!アレックス!あれっ!!」 チェスターが何かに気付いて指を指した。 その先。 その獣のような男の右手の中。 右手で何かを掴んでいた。 ・・・・・頭だ。 頭を掴み、人を一人鷲掴みにしている。 誰かは分かる。 その背格好。 両手のドリル。 そしてスキンヘッド。 「ありゃぁ44部隊の!」 「ヴァーティゴさんですね・・・・」 見たところすでに死んでいるようだった。 「あぁぁあ!?こいつぅう?!こいつか!!こいつぁ俺様の仲間だっ!!! だがこいつは裏切り者でなぁぁあ!それはメチャ許せんだろぉおお!!! 裏切るなんて事は漢のすることじゃねぇぇええ!!漢じゃねぇぇええ!!!! 漢ってのはよぉおお!!!!正々堂々メチャ真っ直ぐ生きてけやぁぁああああ!!! 何からも逃げずにメチャ強く生きてくのが漢ってもんだろゴラァァアアアアアア!!!」 耳が痛い。 周りを揺さぶるような叫び声。 体のダメージのせいだと思っていたが、 この獣のような咆哮を耳にすると尻込みしそうになる。 とりあえずこの男は裏切り者のヴァーティゴを始末しにきたのだろうか。 44部隊にも理由があったろうが、 それも考えないほど純粋で一直線な性格なようだ。 「な、なんだよこいつ・・・・・」 「リヨンより暑苦しい男だな・・・・」 「でも何やら危険そうですね。敵わない・・・って事だけは肌で感じます」 「オイ!!!お前らぁぁあああ!!!」 その男はこちらを指し示す。 「お前らはこの男みてぇにメチャ貧弱野郎じゃねぇぇよなぁぁああああ!!!」 その男は、 突然右腕を振りかぶったと思うと・・・・ 投げた。 ヴァーティゴを投げ飛ばした。 まるで野球ボールを投げるかのよう簡単に。 ヴァーティゴの死体は家の壁に直撃し、 家の壁を貫通し、 さらに奥の方で破壊音がした。 まるで鉄球を投げたかのようだった。 「しゃぁあああ!!!漢らしく名乗らせて貰おうかぁあああああああ!!!」 男は突然地面に拳をつきたてた。 拳は地面を貫通し、 クレーターになっていた地面にさらに穴を空けた。 いや・・・・・ その穴からさらにひび割れる。 タイルの地面の下。 堅い岩盤になっている地面に穴が空き、ひび割れた。 ただの拳で・・・・。 「俺様の名前!!俺様の名前はギルヴァング=ギャラクティカぁ!!! 世界一の漢ぉおお!!!ギルヴァング=ギャラクティカだ!!!おぉぼえとけっ!!!」 「ギル・・・っ!?」 アレックスはその名を聞いて、 体が冷えていくのが分かった。 「に・・・逃げますよ・・・・・」 「えー!」 「・・・・なんだよアレックス。嫌な予感すんじゃねぇか・・・・」 アレックスは苦笑いがやっと出る程度だった。 「ギルヴァング=ギャラクティカ・・・・詳しくはまた後で話しますが・・・・ かつてロウマさんと対等に戦ったと言われている男・・・・実質戦闘面では騎士団No.2です・・・・」 「ぁああん!?」 「いえ・・・身体能力という一点に関しては世界一でしょう・・・・ 全生物一の化け物・・・・絶騎将軍(ジャガーノート)ギルヴァング=ギャラクティカ・・・・・」 「絶騎将軍(ジャガーノート)!?」 「ロウマクラスの化け物どもかっ!いや、ちょい待て!お前騎士団って!」 「詳しくは後で話します!僕だって実現する人だと思ってなかったんですから! なんにしろ今の状態で勝算は1%もありません!逃げますよ!!!」 「逃げるぅう?」 ギルヴァングがこちらを睨む。 獣のようなその目力。 視線だけで強烈な威圧感。 「そいつぁぁあ漢らしくねぇぇ!!!メチャ許せんなぁああああああ!!!!! ぉぉぉおおとこならぁぁあああああ!!!当たってブチ壊れろやぁぁあああああ!! いっぞっ!!いっぞオラっ!!!ドッゴォオオラァアアアアアアア!!!!!!」 |
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