「こんなものでしょうか。皆さん終了してください」 アレックスが声をあげると、 騎士達は槍を納めた。 騎士達。 帝国アルガルド騎士団の者達だ。 そしてその槍は・・・・・・ 全て血に湿っていた。 「いやぁー、今回も殺しましたねぇアレックス隊長♪」 一人、生意気な部下がアレックスに寄ってくる。 殺す。 そう、今回の任務はそれだった。 いや、今回"も"。 今回の任務は反逆を企てるスオミの魔術師ギルドの討伐だった。 こういった任務の多くはほとんどアレックスが担当していた。 いや、させられていた。 「今回も敵は全滅ッスよ。ぜ・ん・め・つ♪」 生意気な部下はアレックスにさらに言う。 まぁいう事は結果だ。 毎回毎回・・・・皆殺しだった。 帝国・・・・いや、 アインハルト=ディアモンド=ハークスに反し者は全て削除。 それは今の世の中で当然であった。 「でもアレックス隊長はいっつも後ろで見てるばっかで楽でいいッスねー♪」 「・・・・・そんな事はないですよ」 「ま、そっスよね。なんせ世間じゃ悪名高き隊長さんだ。 世間じゃぁ『人間(仲間)殺しのカクテル・ナイト』って怖がられてるくらいですもんね」 仲間殺しか・・・・ 間違ってはいない。 アレックスは冷酷な目のまま、 部下の方へ目を戻す。 「・・・・・・・・あなた。名前はなんでしたか?」 「ありゃー。部下の名前も覚えてくんないんスか。 自分はヘイローって言います。覚えてくれましたかぁ?」 「そうですか・・・・ヘイローさん」 「はい?・・・・うぐっ!!」 ヘイローの胸元にアレックスの槍が突き刺さった。 アレックスが冷酷な目のままで突き出した腕。 そして槍を離し、ヘイローという部下の肩に手を置く。 「あなた、さっき関係ない民も殺してましたね」 「・・・・あ゙・・・・ぃ・・や・・・・・・・」 「命令違反です」 アレックスは槍を引き抜き、 サッと血を払う。 そして血に伏せったヘイローにも目もくれず、 他の仲間に号令をかける。 「いいですか。僕の命令は絶対です。命令違反者はこの者と同じになります」 「・・・・・・・・仲・・間・・・殺しめ・・・・・」 胸を刺されたヘイローが、 地べたに這い蹲ったままアレックスに言い捨てる。 「黙ってください。アーメン」 アレックスがチョィと中指を上げる。 と同時に、 ヘイローは聖なる蒼き炎に包まれ焼かれた。 黒く焦げ落ちた。 S・O・A・D 〜System Of A Down〜 <<白いカクテルは黒く濁る>> 「・・・・・・・ふぅ」 ルアス城に戻ると、 アレックスはため息を吐いた。 鎧を脱ぐと、疲れも吐き出る。 ストレスの溜まる職場だ。 自分を押し殺さないとならない。 やりたくないこともやらねばならない。 何度・・・ 何度今日のような事をしてきたか・・・・。 「お早いお帰り何よりだ。任務も慣れってことだな」 思ってもみない方から突然の声。 アレックスは声の主を確認する。 「あぁ、ユベンさんですか」 隊長用の待機室の壁にもたれかかっていたのは、 ユベン=グローヴァー。 ロウマ=ハート率いる44部隊の副部隊長。 「未だあんたが仲間ってのに違和感があるよ俺は」 「何言ってるんですか。僕が他に居たのは王国騎士団が潰れた後の一年間だけですよ?」 そう、 そしてその一年の後半は・・・・・ 「・・・・・・・・《MD》か。口惜しくはないのか?アレックス部隊長」 「・・・・・・・一年も昔の事ひきずってられませんね」 王国騎士団が潰れてから一年。 ひょんな事から《MD》というギルドに入り、 そして最強ギルド《GUN's Revolver》と戦った。 そしてそれからさらに一年が過ぎようとしている。 帝国アルガルド騎士団。 名の通り、 アスガルドもミッドガルドも巻き込んだ団体。 世界は・・・・・ もう帝国の言いなりとしか言いようが無かった。 世界全部だ。 善都市も悪都市も関係ない。 中立都市さえも言いなり。 それどころかモンスターも。 いや・・・・神の住まう所アスガルドさえも。 そして、 アレックスもまたその"言いなりの一人"という奴だろう。 「チェスでもしませんか?ユベンさん」 本当に慣れたものだ。 もう帰る場所はここなのだ。 帝国アルガルド騎士団の一隊長。 隊長といってもたいした役柄ではない。 基本的にはアインハルトと数名の権力者以外、 ただの奴隷と同じような扱いなのだから。 まぁ反乱分子の討伐を一任されている事から、 少々悪名が通る形にはなっている。 白と黒のチェスの盤面上。 アレックスは白の駒を動かしながら、 ため息をついた。 「おっと、そこでビショップを動かしてくるか。何よりじゃないな」 白と黒のチェス盤を睨み、 ユベンは腕を組んで考えていた。 まるで戦況を見据えるかのように。 「クソ。あのポーンが邪魔だな」 「ザコ兵も使いようなんですよ」 「そうだな・・・・・さながらこいつらポーンってのは・・・・」 ユベンは黒のポーンを持ち、 一歩動かす。 「俺達だな。作戦のために利用される捨て駒だ」 ユベンの言葉に、 アレックスは小さく微笑した。 「たしかにそうですね。お払い箱になったら終わりです」 アレックスは自分の倒された駒を見る。 白の駒達。 チェスというゲームの中で、負けた駒達。 もうゲームには参加できないお払い箱。 まるでこの世の全ての人々のようだ。 「チェスっていうのは面白いです。なんでこんなにも現実と似てるんでしょうか」 「チェスが現実と似てる?面白い事をいうなあんたは」 「この白と黒の盤面。まるで世界です。いつも善と悪が交差する。まさにマイソシアです。 そこを僕ら弱兵(ポーン)は一歩一歩進むしかない。いつ死ぬかも分からないのに・・・・・」 そう言い、 アレックスは白のポーンをまた一歩動かす。 「たしかにそうだな。そしていつも強者が立ちはだかってくる」 ユベンは自分の駒。 馬の形を象った黒い駒を動かし、ニヤりと笑う。 この一手に自信があるのだろう。 「そう・・・僕の人生でいつも立ちはだかってくるのは・・・・・その"駒(ナイト)"です」 アレックスは椅子にもたれかかり、 ため息をつく。 今のチェスの戦況の事もあるが、 アレックスの人生自体にもだ。 ナイト(騎士)・・・・。 いつもその言葉が大きく自分にのしかかる。 「騎士(ナイト)が邪魔・・・・か。自分自身も騎士なのによく言えたもんだな」 「ですが・・・・」 アレックスが白い駒を持つ。 そして盤面上を斜めに滑らせる。 駒を止めたと同時にユベンを見て言う。 「抜け道はどこかしらにあるものですよ。チェックメイト♪」 「ぐぁっ!」 どうにかならないものかと慌てるユベンを見て、 アレックスはクスりと笑う。 「ユベンさんは普段堅実なのにゲームになると荒が出てきますね」 「チッ・・・まぁな。だがあんたが相手だからこそとも言えるよ」 「戦術系は自信ありますからね」 「フッ、あんたは不思議な人だな」 ユベンは盤上の駒を全て手で払い、 箱に片付ける。 黒と白の駒が全て居なくなる光景は、 先ほどの話の後だと少々寂しい光景にも見える。 駒という存在が全て片付けられるという意味で・・・。 「なぁ、アレックス部隊長」 呼びかけてくるなり、 ユベンは二つの駒を取り出した。 白のビショップと、 黒のナイトだ。 「あんたはまるでこの二つの駒のようだ」 「・・・・・?」 「ビショップ(聖職者)とナイト(騎士)。そして白と黒。 それが混じりあってるのがあんただよアレックス部隊長」 「・・・・・・なるほど」 「この二つの駒のように、戦場を固定概念無く走り回る異端児だ。 白も黒も、善も悪もなく・・・・・・斜めに、時には一つ飛ばしに突然降って出てくる。 居ないと思ったらふと出てくる。生きてるか死んでるか、敵か味方かも分からない。 盤面(マイソシア)を気ままに右上左上。それがあんたさアレックス部隊長」 「ハハッ、今は味方ですよ」 「この先が分からないからあんたは怖いんだよ。『カクテル・ナイト』とはよく言ったもんだ」 アレックスは愛想笑いをするしかなかった。 なかなかグサりとくる言葉だ。 そして自分自身で自覚していることでもある。 だが・・・・ 自覚しているからこそ分かる。 今の自分は・・・・・黒。 黒い存在だ。 「正義を背負いながら反乱分子を皆殺しにする。 そんな十字を背負った悪魔・・・・・か。こちらとしては何よりだけどな」 ユベンが立ち上がる。 「アレックス部隊長。半刻後にアインハルト様がお呼びだ。 俺はそれを伝えるためにこの待機室で待っていた」 「騎士団長が?」 「あぁ。気をつけろよアレックス部隊長。あの方は俺達"駒"の事なんて何も考えていない。 場合によっては気分だけで盤面(マイソシア)ごとひっくり返してしまう方だ」 「・・・・・・・・・・」 王座のドアの前。 慣れた場所ではあるが、 この前に来ると少々が鼓動が抑えられなくなる。 「入れ」 アインハルトの声が聞こえる。 と同時に、 アレックスは王座の入り口を押し開いた。 「失礼します」 アレックスは少しを歩を進め、 赤い絨毯の上で膝をつく。 頭を下げる。 慣れた・・・・ 慣れたものだった。 そしていつも通り報告するのだ。 「ご命令どおり、スオミの反乱分子の討伐を終えました」 「ご苦労だったな。アレックス」 頭(こうべ)を垂れるアレックスを、 王座に腰掛けながら、 ゴミを見るかのように見下すアインハルト。 未だ好きなれない目だ。 何もかも見透かされているような・・・ 宇宙のような漆黒の目。 この王座には、 他にもロウマ、 ピルゲン、 そしてもう一人・・・・羽の生えた女性。 それにも関わらず、 たった一人にだけに注目してしまう。 吸い込まれる宇宙のようにアインハルトを見入ってしまう。 だが・・・ 逆らう事もできず、 ただ頭を下げる。 「苦労ばかりお前に押し付けて悪いなアレックス」 ・・・・・ 心にもない事を・・・・ よくスラスラと言ってくるものだ。 「いえ、貴方はそれが楽しいんでしょう?」 「もちろんだ」 アインハルトは怪しい笑みをアレックスに投げかける。 喜びを帯びた目。 この人はそういう人だ。 人の人生など、 オモチャ程度にしか考えていない。 そして気分だけで蟻を踏み潰すかのように命を消し去る。 「アレックスよ。我がお前を目のかたきにする事に文句があるか?」 「いえ、ただ悪趣味だと思うだけです」 「フフッ・・・・ハハハハハっ!」 アインハルトは大きな笑い声をあげる。 アインハルトがここまで楽しむのはアレックスを前にしている時だけだ。 アレックスは殺されてもいいというつもりで、 いつもこんな風に言う。 いや、言いたいから言うのだ。 黙ってはいられない。 「アレックス殿。ディアモンド様に向かって言葉が過ぎますよ」 「いい、ピルゲン。言わせておけ。こいつは言われた事は全てやっている。 道具としては何も問題ない。こいつは無駄口の多い狗。そういうことだ」 そう、 利用できるならばとりあえずは殺されない。 いらないと思われたら終わりだ。 それだけで殺される。 ・・・・いや、 廃棄処分と言ったほうがいい。 だが・・・・ 何故この人にそんな権利がある。 いや権利はある。 それだけの絶対的な力を持っているからだ。 だが・・・・・ アレックスは顔を上げる。 そして強い目でアインハルトを見て言う。 「騎士団長。一つだけ聞かせてください」 「なんだアレックス」 「世界はあなたを中心に回っているとお考えですか?」 それを聞くと、 アインハルトは笑う。 鼻で笑い、 あざけ笑い、 心の底からくだらない質問だと感じる。 「いいかアレックス」 「・・・・・・はい」 「我を中心に世界が回っているのではない。世界は・・・・・・・・我が回す」 ・・・・・・ この人は本気で言っている。 まるで茶番。 世界など茶番くらいにしか考えていない。 だが、それが愚考というわけでもなく、 実際にそれを行っていて、 実際に世界を玩具にしている。 この人にはそれだけの力があるのだから。 「おぉ。そうだ」 無垢な子供のように、 アインハルトは突然何かを思い立ったような表情をした。 悪魔の思いつきだ。 そして 「ロウ」 「・・・・?。なんだアイン」 「久しぶりにアレックスの強さというものを見てみたくはないか? お前の好きな"強さ"だよロウ。是非ともみてみたいと思う」 「・・・・アイン」 「我は見たいと言っている。何度も言わすなカスが」 「・・・・・・チッ」 ロウマは一つ舌打ちをすると、 柱に立て掛けてあった槍を手に取り、 アレックスの方へ転がした。 一本の槍はコロコロとアレックスの目の前へ転がり、 アレックスの足元にコツンと当たった。 「やるぞ。アクセルの倅(せがれ)」 「・・・・・・・・・」 アレックスは槍を拾い、手に取る。 そして体を起こし、真っ直ぐロウマを見つめる。 2mの巨体。 爆発したようなオレンジの髪(たてがみ)。 ナイフのような眉。 猛獣のような体。 世界最強・・・・ロウマ=ハート。 「こんなところで僕に命を落とせっていうんですか?」 「死ぬなら死ね。カスが」 アインハルトは嬉しそうに言い捨てる。 余興。 完全なる遊び。 アインハルトのただの思いつきで、 アレックスは突然的に命を書ける破目になった。 「・・・・・・はぁ」 ため息をつきながら、 アレックスは槍を構える。 目の前にはロウマ=ハート。 手ぶらの世界最強。 わざわざ「武器を持たなくていいのか?」などとは聞かない。 万が一にも勝てなくなる。 死ぬわけにはいかないのだ。 やらなければならない。 やらなければやられる。 余興でありながら・・・・ 人生の終わりにもなりえるのだから。 「・・・・・・・・いきますよ!!!」 走り出すアレックス。 真っ直ぐ槍を抱えながら。 2mの巨体へ向かう。 最強へと突っ込む。 「こい。喰ってやる」 微動だにしないロウマ。 無表情のままのロウマ。 だが突っ込む。 突っ込まなければならない。 だが、 そのままでは壁に激突して死ぬようなものだ。 「・・・・・・・・」 アレックスはロウマの目の前で横に跳ぶ。 横に回りこむ。 不意をついた形になったはずだ。 だがロウマはその突発的な動きに対しても、 鋭い目つきのままアレックスを追っていた。 これくらいの撹乱でどうなるとも思ってはいなかったが、 少々の撹乱はしないよりは・・・・・ 「した方がマシって事です!ブラストアッシュ!!!」 アレックスの連続突き。 ブラストアッシュ。 この一年でかなり洗練されたといえるだろう。 もう常人のソレではなく、 達人級のブラストアッシュともいえる。 常人には見えもしない連続突き。 高速の槍。 「強くなったなアクセルの倅(せがれ)。だが・・・・・遅い」 目にも留まらぬ槍の連続突き・・・・というのは、 ロウマの前では悲しい響きだ。 何せロウマには見えているのだから。 ロウマはアレックスの高速突きに手を伸ばし、 槍を・・・・・掴んだ。 素手で。 「勝負あったなアクセルの倅(せがれ)」 そう言い放ったロウマ。 だがロウマは異変に気付く。 たしかにたった一つの武器である槍を捕まれては、 それで終わり。 終わりなのだが・・・・・ ロウマが掴んだ槍。 それは・・・槍だけだった。 「ここです!!」 アレックスは懐に潜り込んでいた。 槍を離して懐に。 2mの巨体の下。 体格差を逆に利用した戦法。 「てりゃっ!!」 それはアレックスもあまりしたことのない攻撃方法。 パンチ。 ただのパンチ。 だが、渾身の力を込めたアレックスの拳は、 ロウマの腹へと・・・・・ 「悪くはなかったぞ」 ふと痛みを感じた。 と思うと・・・・・・吹っ飛ばされていた。 「ぐぁっ!!」 ロウマに蹴飛ばされたようだ。 遅い来る半身への痛み。 完全に不意をついたにも関わらずこの反撃。 やはり一筋縄ではいかなかった。 が・・・・ 「二筋縄ならどうですか?」 アレックスは吹っ飛ばされながら、 ニヤりとロウマを見据える。 そして・・・・ 吹っ飛ばされながらも右手の人差し指を・・・・・ 「アーメン!!」 上へ突き出す。 と同時に、 ロウマの真下から吹き出す。 準備していたのだ。 吹っ飛ばされながら放つパージフレア。 蒼白い聖なる炎。 最も自信のある得意技。 それが炸裂した。 間違いない。 直撃した。 「・・・・ぐっ」 アレックス自身、 吹っ飛ばされたまま王座の入り口に激突し、 入り口はガランと開いたと同時に地面に落ちた。 半身の感覚が麻痺している。 痛みでだ。 咄嗟の反撃で蹴られただけなのに・・・・このダメージ。 さすが最強と言ったところか。 だが・・・・ こちらのパージフレアの方が・・・・・・・ 「美味い戦いを喰わせてもらった」 炎の中から、 ロウマが顔を出した。 平気な顔をしている。 咄嗟で全力ではないにしろ、 得意技のパージフレアが直撃したにも関わらず、 ロウマはピンピンしていた。 「避ける事も出来たが・・・・・この炎の痛みはお前の成長の証としてもらっておく事にした」 軽く焼け焦げた鎧を身に纏い、 ロウマは素の表情のままそう言った。 「・・・・・・・ハハッ・・・。多分言い訳じゃぁないんでしょうね・・・・」 入り口でへたり込みながら、 アレックスはため息を漏らす。 全く及ばない。 自分くらいがどうこうしたくらいじゃ届かない。 これが・・・・ロウマ=ハートの力。 そしてこれが・・・・・ "絶騎将軍(ジャガーノート)"の力。 「余興にしてはキツすぎますよ・・・・」 アレックスは体を起こし、 もう一度王座の方へ歩む。 王座には相変わらず見下しながら楽しそうに笑うアインハルト。 そして、 その王座の前には・・・・3人の部下。 "絶騎将軍(ジャガーノート)" その呼び名が示すとおり、 強大すぎる力を持った者達。 アインハルト直属の絶対幹部。 言うならば、 帝国アルガルド騎士団は、 アインハルトと 数人の絶騎将軍(ジャガーノート)。 この構成だけ。 あとは・・・・・くだらない駒とでもいう存在だ。 そしてこの場にいる絶騎将軍(ジャガーノート)は3名。 世界最強の武力も持つ男。 『矛盾のスサノオ』 ロウマ=ハート。 アインハルトの忠実なる参謀として動く男。 『漆黒紳士』 ピルゲン=ブラフォード。 一部の神族を引き連れ、アインハルトに下った女神(めしん)。 『神聖なる異端者』 ジャンヌダルキエル。 アインハルトを取り巻く3人の絶騎将軍(ジャガーノート)。 圧倒的な力を持った者達。 見たことはないが、 絶騎将軍(ジャガーノート)は他にもまだ数人いるらしい。 何人いるか分からないが、 最強の騎士であるロウマと肩を並べるものが数人。 最強を冠すに恥じない者が数人。 ジャガーノート(圧倒的なる力) それは恐るべき力。 そしてその全てを纏める絶対的存在・・・・・アインハルト=ディアモンド=ハークス。 神も、 最強も、 全てを従える絶対的存在。 それが・・・こちらを見据えている。 圧倒的な力を持つ部下を引き連れて。 まるで神を象った絵画を目の辺りにしているように、 遠い光景にも見える。 「・・・・・・・」 まぁいい。 僕は・・・・・・そちら側の下に付いているのだから。 「アレックスよ」 「はい」 返事が条件反射になっている。 悲しい事だ。 「面白い見せものだった。十分に呼んだ甲斐はあった。 そして久々にこの王座に来たんだ。"この王座"にな。 久しぶりに見ていけ。この・・・・・・・愚か者の姿をな」 そう言い、 アインハルトは王座の後ろを親指で指し示す。 ここ。 ルアス城。 王国騎士団時代から使われているマイソシア最高の城。 一度は終焉戦争で滅びた城ではあるが、 まるで別物のように綺麗に片付いている。 王国騎士団絶世期のように。 そして、 一つ。 一つだけ変わらぬまま残してあるモノがある。 それは・・・・・ 「・・・・・・・ディエゴさん・・・・」 王国騎士団 第1番隊隊長。 ディエゴ=パドレスの亡骸だった。 槍を持ったまま、 鎧と骨だけになったまま、 未だこの城の王座を守り続けようと立っている骸骨。 それが・・・・ 悪趣味にもそのまま飾られている。 「よく見ろ。誇り高き騎士だ。愚かだろう?そして・・・・お前の末路でもある」 ・・・・・・・愚かだって? ディエゴさんは最後まで戦った。 終焉戦争が仕組まれたものだとも知らずに。 自分の長が仕組んだ戦争だとも知らずに。 いや、 仲間を疑う事さえせずに戦い残し、 死んでもなお亡骸のまま立ち続けている。 ・・・・・逃げた僕なんかとは違って・・・・ 「もう一度言う。これがお前の末路だ」 「どういう意味でしょうか・・・・」 「我が望んでいるのはこういう兵だ。ただ任務を遂行する駒だ。 考えず。真っ直ぐに。ただ我の命令を聞く駒だ。そういう使えるカスだ。 ディエゴはその点で優秀だったな。阿呆のように戦い阿呆のように死んだ」 アレックスは歯を食いしばる。 余り黙って聞いてられる話ではない。 誇り高き同士(とも)を侮辱されている。 「我が欲しいのはやれと言われた事はやり、死ねと言われれば死ぬ。そんな駒だ。 ・・・・・アレックス。お前は間違いなくその道を進んでくれている。 非常に喜ばしい事だ。お前はきっと我の望むまま阿呆のように死ぬだろうよ」 体が震える。 ガタガタと。 ・・・・・・怒りで震える。 いや、それだけではなく、 怒りで飛びつきそうになる自分を抑えるのに震える。 そして・・・・・ 飛びついたときの恐怖を考えると・・・・ その想像の恐怖で体が震えてしまう。 結果だけ言うと・・・・ 飛びつきたくても体が動かない。 恐怖で。 なんと情けないのか・・・・。 「震えているぞ。何を恐れているアレックス」 アインハルトの声。 それがアレックスを貫く。 まるで心を見透かされているようなタイミングで言ってくる。 邪悪な眼。 それが心までを鷲掴みにしてくる。 カスの心まで手に取るように・・・・ それが心無き魔物とは違う恐怖。 「貴方様の前で恐れがないわけがありません。我が主アインハルト様」 背中から純白の翼を生やした女神ジャンヌダルキエル。 神族でありながらアインハルトに仕える女神。 そして絶騎将軍の一人である彼女。 ジャンヌダルキエルは透き通った声でアインハルトに話す。 「所詮人間。恐れなどあって当然。低脳かつ汚れた存在なのですから。 人間など我が主アインハルト様以外は・・・・・・汚らわしい分際に他なりません」 「ほぉ」 ピルゲンが首を振りながら、 言葉を返す。 「これはこれはジャンヌダルキエル殿。それは大層な言い分でございますな。 過去長きに渡りディアモンド様に使えてきた私が低脳・・・と?」 「あぁすぐこれだ。人間はすぐ言動にムキになる。なんと低脳。なんと粗末。 汚らわしい・・・・・・あぁ汚らわしい。・・・・・・・我が主アインハルト様。 貴方様の御下にはわらわ達のような神族のみで十分だと思いますが」 「ジャンヌダルキエル」 どんな音よりも、 全ての音の中で一番強力な声。 アインハルトの一言。 それだけで全体が静まる。 そして呼ばれたジャンヌダルキエル自身も、 心が締まり、少々の緊張が感じられる。 「ハッ、なんでしょう我が主アインハルト様」 「我のやり方に文句があるのなら消すぞカスが」 「・・・・・ッ!?」 ジャンヌダルキエルは、 そのまま黙って頭(こうべ)を垂れ、 膝を突いた。 膝をつくと分かる美しい両翼。 背中から直接に生えているその純白の翼は、 人間には到達できない神々しさを覚えるが・・・・ それもたった一人の人間の前に跪いている。 神族。 アスガルドから引き連れてきた者達。 人間だけでなく、 人間を超えし翼の者達。 その神まで部下にしている。 神、 人間、 そして魔物・・・・。 アインハルトが選別した、 強大すぎる軍隊《帝国アルガルド騎士団》。 ・・・・・・・。 「何か言いたそうだなアレックス」 また見透かされたように言い放ってくる。 「あ・・・いえ・・・・・」 突如声をかけられたものだから、 少々戸惑った。 だが・・・・・ これを機会にと・・・アレックスは死ぬ思いで一言言った。 最初から機会があれば言おうと思っていたことだ。 「いや、せっかくなので一つ頼み事があります」 それを聞き、 頭を垂れていたジャンヌダルキエルが立ち上がり、 翼を広げてアレックスに言い放つ。 「頼み事だと!?無礼な!我が主アインハルト様から譲り受けるならまだしも! 汚らわしい人間如きが我が主アインハルト様に恩赦をせがむだと! 汚らわしいっ!人間とはなんと分際をわきまえぬ汚らわしい存在なのだっ!」 「いえ、僕にはその権利があるはずです」 容赦のない、 いや、むしろ自殺懇願とも言えるアレックスの言葉。 だが、アレックスは野と慣れ山となれとでも言いたげに続ける。 「僕は幾多の討伐を命令のままこなしてきました」 「だからなんだ人間如きが!我が主アインハルト様の命であればこなして当然! やれと言われたらやる!汚らわしいお前らはそれでいいのです!」 「いい、ジャンヌダルキエル。黙れ。・・・・・・アレックス。話してみろ」 「ハッ」 口惜しそうな女神を尻目に、 アレックスはまた話を続ける。 「数百の兵を率いて僕は命令通り討伐という名の虐殺を任されました。 反乱分子の撲滅。それを行い、慈悲もなく皆殺し。 さらには仲間まで殺して帰ってくるという汚名までかぶり、 僕は『人間(仲間)殺しのカクテル・ナイト』とまで呼ばれています」 「結構じゃないか」 アインハルトが嬉しそうに言う。 「はい。それは結構です。ご命令ですから。 ですが従順で優秀なこの僕の頼み事を一つ聞いてくれませんか?」 「ふん。面白そうだ。言ってみろ」 「・・・・・・・。僕の頼みは簡単です。特に恩赦というわけでもありません。 仕事がらみの事です。ただ一つ。・・・・・・・次の討伐先を選ばしてください」 「・・・・・・・・ほぉ。自分から皆殺しにする相手を選びたい・・・・という事か」 「そういう事になりますね」 アレックスは表情を強張らせたまま、 アインハルトを見据える。 目線を外せない。 いや、 自分が話す事が、アインハルトの興味から外せない。 その時は死ぬときなのだから。 だが・・・・ 大丈夫だろう。 「時期は一週間後。相手はこの帝国の世になっても全く従うそぶりを見せない者達。 なかなか手こずっているようですので僕が潰してきます」 そう・・・・ 断ち切らねばならない。 自分の手で。 全てを・・・・・・ 辛いことになろうとも、 この手で・・・・・ 「ルアス99番街の討伐をお任せください」 白と黒が混ざりし聖騎士は、 槍の矛先を灰色の街へと向けた。 灰色に染まりきらなかった白と黒は、 血の赤を望んだ。 |
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