星の数ほどある命。

だが、
たった一つの星が、
空を全て夜空に変えてしまう事がある。


太陽さえ落ちた時、



いくら待っても・・・・・・朝はもうこない。












「生まれた!生まれたぞお前!よく頑張った!!」
「えぇ」

ルアスの一つの家の中。
・・・・・・豪邸と呼んでもいいだろう。
エリートと呼ばれる家庭があった。
ハークス家。

ただ、エリートと言っても特に秀でた一家でもなかった。
上級階級の一つ。
ただその程度の家だった。
特に特筆すべき点はない。
極ありふれた家庭。

だがそこで・・・・・


彼は生まれてしまった。



「男の子だ!」

彼は・・・・
異端児と呼んでも良かった。
いや、外見は何も変わったところはない。
極普通の赤ん坊だった。
違うところ・・・・
そう、
あえて・・・・
その時点での一つ違うところでいえば・・・・

生まれたその子は産声をあげなかった。

「泣かないわね?普通は産まれたら大きな声で泣くはずなのに・・・・」
「まさか・・・・未熟児?」
「そ、そんなわけないでしょ!!私達の子がそんな・・・・」
「そうだよな・・・・うん。いや!ここは良く考えようじゃないか!
 ただ泣かなかっただけだ!たいした問題じゃないさ!」

生まれたその子は・・・・
彼は・・・・
すでに"理解"していた。
もちろん言葉というものを理解していたわけではない。
だが産まれた瞬間、彼は一瞬で判断していた。
今泣くことに意味があるのか?
彼は世に出てすぐ、
世の中を観察し始めていた。

「この子の名前決めましょうよ」
「そうだな・・・・男の子だったわけだよなぁ・・・・」
「いい名前が欲しいわね」
「じゃぁこんなのはどうだ!」

男は紙と筆を取り、
嬉しそうに文字をつづった。

「俺達の最初の子!そしていつでも上を・・・頂点を目指して欲しいという意味で"1"!
 "1(アイン)"!この子の名前はアインハルトだ!」
「アインハルト・・・・いい名前ね」
「あぁ!そしてミドルネームだけど・・・・こんなのはどうかな」

上流階級の彼らの家にはミドルネームが存在していた。
男はまた紙と筆をとる。
そして・・・・

「・・・・・・ダイヤモンド?」
「いや、ダイヤモンドと書いてディアモンドだ。
 産まれてきても泣かなかった堅い心。最も堅き石のような男の子だ!
 だからこの子は世界で一番堅い心を持つ子。アインハルト=ディアモンド=ハークスだ!」

「アインハルト=ディアモンド=ハークス・・・・・・ほんとにいい名前ね・・・・・」

アインハルトを産んだ女は、
そう微笑みながらも・・・・何か苦しんでいた。
汗が・・・汗が滝のように流れ出ていた。
男は喜びのあまり気付いてなかったが、
実は先ほどからずっとだった。

「ど、どうしたんだお前!大丈夫か!?」
「えぇ・・・でも・・・・・」

男は焦り、
そしてあわてふためく。
だが・・・
目の前で起きた光景に目を丸くした。

「・・・・・・ふ、双子!?」

もう一人・・・
アインハルトが産まれた数分の後に・・・・
もう一人赤ん坊が産まれてきたのだ。

「ハ・・・ハハッ・・・・・・双子・・・双子か!」
「あはは・・・まさか私のお腹の中にもう一人いたなんてね・・・・」
「この子は泣いてるな・・・元気な証だ!こっちの子は俺に似るはずだな!
 よ、よし!この子の名前は・・・・・ツヴァイだ!
 二番目の子だからな!2を意味する2(ツヴァイ)だ!!」
「アインと・・・・ツヴァイ・・・・まるで一郎と次郎みたいなネーミングね」
「そ、そんな言い方するなよ」
「フフッ・・・でもきっとあなたのような立派な騎士になるわ」
「あぁ!この子達はきっと立派な騎士になるぞ!!!!」

幸か不幸か。
たしかに片方の子はその後世界の頂点にたどり着くことになる。
片方。
頂点というものは二つ存在しない。
だから一人が頂点に立つ事になる。

たった一人の絶対的な存在として。


















S・O・A・D 〜System Of A Down〜

<<天上天下唯我独尊(ジ・アイン)>>













数年の年月がたった。
アインハルトとツヴァイは9つほどになる年だった。

「兄上・・・・オレは・・・・」

ツヴァイは目の前の双子の兄に話しかける。

「なんだ?」

年はまだ若年。
若年だというのに・・・・
ツヴァイは自分と兄との違いに恐怖していた。
アインハルトにもそれは分かっていた。
人の考えなど手に取るように分かる。
思考を少しひねれば分かることだ。

双子で、
ほぼ同じ時に産まれたのに、
何がこうも違うのだろうか。
子供の思考があるとは思えなかった。
畏怖。
アインハルトという自分の分身に対し、
ツヴァイは恐怖を覚えていた。

「オレは兄上が怖い・・・・同じ人間で・・・・同じ時に産まれたのに・・・・
 まったく別の存在のような・・・・・何か心の底に闇が住んでいるようで・・・」

「闇・・・か」

幼くはなくとも、
子供の目とは思えない邪悪の瞳。
ツヴァイはアインハルトが自分と同じ瞳を持っているとは思えなかった。

「俺には闇というものを悪く表現する意味が分からないな。
 だが、全てを飲み込む黒・・・・・という意味では俺は少々闇に似ているかもしれない」

アインハルトはなんでも出来た。
なんでも・・・・・・・・・便利な言葉だ。
だが、実際にそうだった。

「ツヴァイ。俺と同じく優秀なお前にこれが出来るか?」

アインハルトがツヴァイの目の前に投げ捨てたのは、
スペルブック。
"ファイアボール"と書いてある。

「・・・・・・まぁ・・・・読んで少し勉強すればこれくらいの低級スペルなら・・・・」

ペラペラとめくるツヴァイ。
だが、それを見てアインハルトは言う。

「それを読むか読まないかで、すでに俺とお前は違う」

「え?」

「俺はそのスペルブックを開いたこともない。が・・・・・」

突然、
少々暗がりだった部屋が照らされる。
火・・・。
炎だ。
アインハルトの指先に炎が渦巻いている。

「少しやり方を想像すればできる・・・・火を出したいだけだ。
 どうすればいいか、それを考えれば自分の中だけで結果は出る。
 学ぶ必要などない。0と1さえ知れば、全ての数字が分かるように」

「・・・・・そんな事をできるのは兄上だけだ。オレだって優秀だけど種類が違うよ・・・・
 教えられなくとも自分でなんでも出来てしまう・・・・。
 まるで・・・・人を・・・世界まで丸ごと必要としていないような・・・・・」



「アイン!ツヴァイ!準備ができたぞ!」

部屋を開けるなり、
父が持っていたのは鎧だった。

「ハハッ!まさかお前ら二人揃って中等部に飛び級とはなっ!
 父さんも母さんもお前らが自慢でたまらないぞっ!」

小学部に飽きた。
教師なんて馬鹿なカス。
他のガキ共も全てカスだ。
さっさと上にでも行くかと考えた結果の進級だった。
アインハルトにとっては、
カス中のカス共と肩を並べるのにはストレスがあった。
少しはましになるかと思ってのことだ。

「ありがとうございます父上。オレは期待に応えます」

ツヴァイは父に向かって笑いかけた。
父の笑顔に二言はなかった。
だが・・・
その父の顔も、
アインハルトを見ると濁った。

「・・・あ・・・あぁ。鎧はここに置いていくぞ・・・・」

父はそう言うなり、
王国騎士団養成学校の鎧を置いて部屋から出て行った。
父もまた・・・・
アインハルトに畏怖を感じていた。
特に粗暴があるわけではない。
ただ、何にもなつかず、
何にも興味を示さない我が子。
自分に向かって笑ったところさえも見た事がない。
父は心の底で恐怖していた。
まるで、
まだ幼い我が子に見下されているような感覚まで覚えた。
そしてアインハルトからすれば・・・・
それは事実でもあった。

「兄上・・・・父上はオレらの事を誇りに思ってくれてて・・・・
 それで愛してくれているんだ。感謝の言葉くらい・・・・」

「感謝?」

アインハルトは小さく見下したように笑った。
たまに見せる笑顔などこんなものだった。

「感謝か・・・まぁ感謝するにはするかな。"俺を存在させた"ということに。だが・・・・・・・」

アインハルトは最後までは言わなかった。




















また年月が過ぎた。
アインハルトとツヴァイの高等部入学が決まった日だった。
雨の降る日だった。
暗い部屋の中で

アインハルトの手は・・・・・赤く染まっていた。
赤く・・・滑る液体にまみれて。

「兄上・・・・なんで・・・・なんで・・・・・」

横ではツヴァイがかがんで泣いている。
それはそうだ。

目の前で父親と母親が死んでいるのだから。

「なんで!なんでなんだ兄上!彼らはオレ達の親なんだぞ!!」

雷が鳴り、
天が叫ぶ。
アインハルトの渇いた目が雷光で照らされたと思うと、
アインハルトはツヴァイに言葉を吐き捨てた。

「用済みになったからだ」

「用済・・・・」

ツヴァイは頭が混乱した。
理由の・・・
理由の意味が分からなかった。

「昔から思っていた。いや分かっていたんだ。俺は特別だと。
 だが、俺も人という生物だ。成長しなければならない。
 その中で俺はまだ未熟だった。この者達を利用する事も必要だった。
 だが・・・・・・・もうその必要はない。いや、当の昔からだがな。
 この男と女を利用するだけしてやった。そして・・・・・ふといらなくなったと思った。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だから殺した」

ツヴァイには、
目の前の存在が分からなくなってきていた。
実の父と母を・・・・・"この男と女"などという呼び方をするこの存在に。
ツヴァイは父と母を失った悲しみで・・・・
いや・・・・
この目の前の存在への恐怖で涙していた。

「何故泣く・・・ツヴァイ。他人が死んだだけだろう」

「・・・・他人?・・・・・・・・・兄上・・・・この人達は・・・オレ達と血が繋がってたんだよ・・・・」

「だからなんだ?・・・・・他人に違いない。異なる物体だ。
 親と呼ばれる存在でありながら、すでに俺より劣等なる存在になっていたこの者達。
 そしてもういらんと感じた。カスだ。このカス共に何か存在価値があるか?」

「いらないから・・・自分より弱いから・・・・・・親を殺すなんて・・・・」

「それ以外に何がある。親?血が繋がっている?・・・・・体が繋がっているわけではない。
 この者達を殺しても俺は何も傷つかない。痛みもない。心も・・・感情もな。
 まるで空き缶を踏み潰すように何も感じなかった。殺しというよりは処分に近い」

ツヴァイには・・・・
もうかける言葉はなかった。
この人は・・・
こういう人なのだと。
他人をまっとく受け入れない。
自分という孤高の存在。

「ツヴァイ・・・・」

アインハルトは血塗られた手で、
ツヴァイのアゴに手を添える。

「お前は優秀だ。お前の言う"血"というやつだろうか。俺と同じ"血"・・・・。
 不甲斐なりに俺についてきている。俺の才能に近しい存在。優なる存在だ。
 ・・・・・・・・・・だがお前もこの者達と同じだ。お前もただの他人。
 俺が必要ないと思えば・・・・・・・・・・・・・・・・お前も処分する」

夜の雷光に照らされたアインハルトの怪しい微笑は、
ツヴァイの心に突き刺さり、
そして決心をさせられた。

この人は孤高の存在。
何もかも受け付けないたった一つの存在。
そう、
双子である自分さえも・・・・・

そして・・・・
生きるため・・・・
この人のために生きなければならないと・・・・・・・・
























王国騎士団高等部。

とりあえずのところは・・・・
平和だった。

そしてアインハルトにとって、
ここは少し面白い所でもあった。

「お前は皆から怖がられているぞアイン。分かっているのか?」
「・・・・・・・・ふん」

横にいるのはロウマ。
ロウマ=ハートという男だ。
今まで出会った存在の中では一番使える男だった。
そこらのカス共とは違う。
負ける気はしないが、
武力という点だけでは目を見張るものがある。

そして
この世代の王国騎士団養成学校のメンバーは優秀だった。
飛び級、編入などが交じり合い、
年齢が疎らな特殊な世代だったが、
それこそが優秀者が集まってきている証なのだろう。

世間では今の世代を"黄金世代"と呼んでいた。
この黄金世代。
そしてこれから10年後の王国騎士団は、
全52の部隊のうち半分を彼らの世代で占める事になるのだった。
そして・・・・
アインハルトは密かに彼らの中から使えるものを厳選していた。

「ロウ、お前が我と並んでいるとは思わないが、我らは優なる存在だ。
 カス共から見れば眩しく、手の届かない恐怖も感じるだろうよ」

この世代、
特に特筆すべきは4人。

アインハルト=ディアモンド=ハークス
ツヴァイ=スペーディア=ハークス
ロウマ=ハート。
ラツィオ=グローヴァー。

この4名は養成学校の中でも特別な存在だった。
能力が特に秀でているのだ。
そして世間。
周りの者達は彼らの名前の一辺を象り、
ダイヤ。
スペード。
ハート。
クラブ。
という文字をからめ、
『4カード』と呼んでいた。


「アイン」

隣のロウマが話しかけてくる。

「皆はお前を恐れている。そしてお前もそれを受け入れている。
 お前はそれでいいのだろう。だがな・・・・」
「ロウ」

アインハルトがロウマの言葉を止め、
軽く笑う。

「我が受け入れるかどうかではない。そのうちそんなものは関係なくなる。
 我に選ばれるか選ばれないか。・・・そしてついて来ざるを得なくなる」
「・・・・・・・・・アイン。お前・・・・何を考えている」
「お前はついて来るか?ロウ」
「・・・・・さぁな」
「ついてくるさ」









アインハルト達はその後も、
特に問題を起こすこともなく学院まで進む。
そして、黄金世代が全て卒業し、
それぞれの進路についた。
大部分は王国騎士団に入団した。

もちろん、
アインハルトとツヴァイもだ。

と、同時。
その日。



王国騎士団の部隊長が4名。
原因不明で死亡した。


















「くだらん組織だ・・・・」

暗い部屋の中、
アインハルトは酒を片手にボヤいた。
王国騎士団本拠地、ルアス城の一室。
その暗い部屋に一つのテーブル。
そこに4人が腰掛けていた。

「そんな事を言うなよアインハルト。
 不幸のせいとはいえ、俺達4人は入団から部隊長に抜擢されたんだぞ?
 王国騎士団始まって以来の快挙らしい。そこは喜び、名誉に思うべきだ」

そう言ったのはラツィオ。
ラツィオ=グローヴァーだった。

「・・・・・ふん」

ロウマは横で興味がなさそうにグラスに手をかけた。
この小さな部屋に集まった4人。

アインハルト
ツヴァイ
ロウマ
ラツィオ

養成学校では『4カード』と呼ばれていた者達だ。
そして入団と共に欠員した4人の部隊長の枠に収められた功績者達だ。

「ツヴァイ、アインハルト、ロウマ。俺はな、絶対に騎士団長になるぞ」

そう言いながらラツィオはグラスを一気に飲み干し、
さらに話しを続ける。

「現王であるアスク=ルアス王は素晴らしい方だ。
 平和を重んじて民の事を常に考えてらっしゃる。
 俺はこの王の下で・・・・いや、この世界のために働きたい」

「酔いすぎているぞラツィオ」

「ハハッ、そうかもなツヴァイ。いやまぁ嬉しくてね」

笑顔でラツィオはまたグラスに酒を注ぎ始めた。

「・・・・・・たしかにこの中ではお前が一番騎士団長の素質があると思うぞ」

そう言ったのはロウマだった。

「それは何よりだな。嬉しい事言ってくれるじゃないかロウマ。お世辞か?」

「・・・フッ。無意味に世辞を言う趣味はない。ただ器という意味でいっただけだ。
 このロウマのように、ただ武力だけが優れているようでは
 この平和主義の騎士団を引っ張っていくのにはお門違いだ。
 そしてアインやツヴァイのように天性的に神がかった能力があっても
 思想がなければならない。この平和主義の王国騎士団を担っていく・・・・・な」

ラツィオは酔いもあり、嬉しそうな表情を返した。
アインハルトとツヴァイが睨むような殺気をロウマに発しているのにも気付かなかった。
そしてロウマは気付いていたが、
無視して話しを続ける。

「ラツィオ。お前は平坦だ。学力、武力。全ての能力が誰よりも"ずば抜けているだけ"。
 平均の能力を5としたら、お前は全ての能力が9であるというだけの平坦な男だ」

「褒めてるのかそれ?」

「あぁ。だがこの中の誰も持っていない能力をお前は持っている。
 それは堅実さだ。お堅いくらいの堅実さだ。そしてそれが生む守りの精神。
 平和主義のこの王国騎士団にはなければならないものだ。
 お前は味方も民も、そしてこの世界(マイソシア)も全てを守れる男になるだろう」

「そりゃなによりだ」

嬉しそうに口に酒を運ぶラツィオ。
ラツィオ=グローヴァー。
彼にはたしかにその素質があった。
アインハルト、
ツヴァイ、
ロウマという逸材と
同時の時代に生きてきたのにもかかわらず、
世間では、将来の騎士団長はラツィオだというのが有説だった。

「あー。俺が騎士団長になったらどうするかな。
 あぁ俺さ、ユベンっつー年の離れた弟もいるんだけどな。
 コネで騎士団いれちゃうか?・・・・なーんてな。俺はそーいうの大嫌いだっての。
 まぁーでも可愛く幼い弟のため、俺は立派な騎士団員になってやりたいな。
 あ、そーいやアレだろ?聖職科だったエーレンとアクセルのガキ・・・・・」

「ラツィオ」

アインハルトの声。
大きな声ではなかったが、
暗く、
突き抜けるような声。
その声にラツィオは語りを止めた。
酔いが覚めた気分だった。

「な、なんだよアインハルト・・・・怖い顔して・・・・」

「一つだけ。一度だけ聞く。・・・・・・我についてくる気はないか?」

「・・・・・・・は?お前についていく?何言ってるんだ。俺達は今日から同じ部隊長なんだぞ?」

「何もかもを捨て、我の下につく気はないかと聞いている」

「質問の意味が分からないな」

「逆に言おう。我は全てを消し去ってでも上に立つ。その下に来るか・・・・と聞いている」

暗い部屋、
テーブルにグラスが叩き付けられる鈍い音がする。

「・・・・・・・何を企んでいるんだアインハルト!」

「何を?・・・・フッ。言ったばかりだ。いらんものは捨て、我は上に立つ」

「・・・・まさか・・・・突然死した部隊長4人ってのもお前が・・・・」

「わざわざ道を4つ開けたのは我ら4人分という意味だ。優なる我ら4人分だ。
 ツヴァイはついてくる。ロウには後で聞く。そしてお前はどうする・・・・・」

「馬鹿馬鹿しぃ!!!」

ラツィオはテーブルの上のグラスを払いのけた。
割れる音。
普段の温厚で誠実なラツィオにはあるまじき気性。

「何よりじゃぁないな・・・・・お前はこの平和な世界を崩そうとしてるのかっ!?
 ふざけるな!お前なんかに何ができる!たった一人の人間で世界がどう・・・・」

「もういい」

アインハルトは呆れたように小さく微笑を払った。
まるでこういう結果になるだろうと予想していて、
実際にそうなったとでも言いたげに。

「ツヴァイ。席を開けろ」

「はい。兄上」

ツヴァイが立ち上がる。
席を立つ。
そしてツヴァイのアインハルトに似た漆黒の眼は、
ラツィオを見据えていた。

「な・・・なんだツヴァ・・・・・・・ウグッ!!」

そして鮮やかに、
なんのためらいもなく、
ツヴァイはラツィオに槍を突き刺した。

「やはり4つ分も席を作る必要はなかったな」

アインハルト自身は全く微動だにせず、
ただテーブルにひじをついて微笑していた。
ラツィオの足が崩れる。

「・・・・・お・・・・・ま・・・ぇ・・・・・・・・」

槍が突き刺さったまま、
血を滝のように流したまま、
ラツィオはひざをつき、アインハルトを睨む。
が、
ツヴァイがその槍を引き抜き、
もう一度ラツィオに突き刺した時、
もうラツィオの息は無かった。

「・・・・・・ふん。カスめ」

アインハルトは鼻で笑ったあと、
漆黒なる目をロウマに動かす。

「お前はどうする。ロウ」

「・・・・・・・・・」

ロウマは返事をせず、
ただ表情を強張らせてアインハルトを睨んでいた。

「ロウ、お前は我と同じ・・・世の中のルールを決めるほどの力を持っている。
 わがままの出来る権利。全てを抑えつけて好き勝手できる力。
 自分自身が法になれるほどの力だ。お前にも素質がある。使ってやれる。
 ロウ。LAW(法)の名を持つものよ。我についてこい。・・・・・・・これは命令だ」

「・・・・アイン。お前は・・・・」

「我の質問に答えろ。お前に選択権などはない。言っただろう?
 つまるところ・・・・お前はついてこざるを得ない」

「・・・・・・・・・」



























さらに5年がたった。

「ツヴァイ。次はあいつを殺せ。35番態の部隊長だ。
 名は忘れた。どうでもいい。ただ邪魔で・・・・・気に入らない」

「十分な理由です兄上」

表向きには未だ平和だった。
毎年、
何人も部隊長が原因不明で死んでいく事を除けば、
世の中も王国騎士団も平和だった。
平和というものは人の感覚を堕落させる。
人は皆、
平和主義の部隊長ばかりが不穏な死を遂げていることを、
特に大きく気にしたりはしなかった。

「いつまで続ける気だアイン。暗殺などしなくともお前は十分に・・・・・」

「ロウ。考えるな。ツヴァイのようにお前も我の道具として動けばいい」

「・・・・・・・それは御免だ」

「だがお前は我についてきている」

「・・・・・・・・」

アインハルトの功績には目を見張るものがあった。
着々と功績を挙げ、
出世の道を歩んでいた。
そしてそれに邪魔な者は消している。
順調な道を自ら作り出しているのだ。

・・・・・・・・だが、
部隊長の上の地位は騎士団長のみ。
現騎士団長。
アンドリュー=ハード。
初老体でありながら、最強の騎士。
その位置に行くのは至難であった。
そして・・・
騎士団長という地位。
その位置に行くだけでは駄目だとも分かっていた。
それだけでは満足もいかない。

そして・・・・・・
計画は動いた。


「アンドリュー騎士団長・・・提案があります」

頭を下げるのも、
敬語を使うのも、
この一連の事。
自分の計画が叶った時。
その時が最後だと考えていた。

そのために、
何も問題を起こさず、
今日のこの日まで大人しくしていた。

「デムピアスを討伐しましょう」

この提案が通った日。
それが彼の一歩。
そして世界の最後が決まったのかもしれない。















騎士団内は慌しかった。
それはそうだ。
この日、デムピアスの討伐が行われるからだ。
騎士団長のアンドリューを含め、
系30部隊による最大規模の計画。
慌しくもなる。
まだ若い部隊長達にこの計画は重い故に、
アインハルトの部隊以外はベテランの部隊ばかり。
だが・・・・・それも計算のうちだった。

出陣の合図が鳴った。
王国騎士団の計30部隊は一斉に歩を進めた。
ルケシオンの砂浜にエルモアの足音が響く。
音はデムピアス要塞へ続く。
























「終わりだ・・・・」
「勝てるわけなかったんだ!!!」
「ルアス王の言うとおり、人間として平和を求めていれば・・・」
「デムピアスなんか相手にできるもんじゃなかったんだ!!」

デムピアスの間。
海賊王デムピアス。
人が最も恐れるモンスターの王。
それが・・・・
目の前に立ちはだかる。
なんとも巨大な体。
包み込まれるほど大きな体。
暗きこの間の天井を全て包み込むほどの大きさ。
そしてなんと強大なモンスターなのか・・・・。

転がっている騎士の数。
鎧を着た屍。
500?
1000?
数千?
この世でこれほどの数の死体を見たこともない。
数え切れない人間の死骸。
血溜まりと死臭。
生き残っているのはわずか1000ほどの騎士。

だが敵はデムピアスだけでなく、
数百のデムピアス部下もいる。

「海賊王デムピアス・・・・か。面白い輩だ。
 我とて現段階ではアレを倒すとなるとただでは済まないだろうな」

アインハルトは、
最後尾。
騎士団長アンドリューの傍らで、
誰にも聞こえないよう小さくボヤいた。
そしてあまりに強大すぎるデムピアスを前にし、
恐怖。
それを・・・・・・・・

微塵も感じなかった。

「ダメか・・・・」

騎士団長のアンドリューがつぶやいた。
最強とうたわれる騎士団長から出た弱音。
当然だ。
町一つ分の数にも匹敵する最強の王国騎士団部隊。
現時点で歴史上の最強部隊と言ってもいい。
それが・・・・・壊滅しようとしているのだ。
騎士団長とて弱音はこぼれる。
だがアインハルトはそれを鼻で笑い、
こいつもやはりカスかと心の中であざけ笑った。
そして言ってやる。

「騎士団長。私がオトリになりましょう。その間に退却を」

「・・・・なにっ?」

アンドリュー騎士団長が驚きの声をあげる。
が、
すぐに表情を戻す。
心の感情を動かすのがうまい人である。
一瞬で心で決心がついたのだろう。

「いや・・・・」

騎士団長のアンドリューが、
口元を緩めながら言う。

「民を守る王国騎士団が騎士団長として、ワシがオトリになろう」

アンドリューが勇敢に言う。
まさしく騎士団長の鏡とでも言うべき男。
素晴らしく、
・・・・・・・なんとも愚か。
アインハルトはあざ笑いがこみ上げたが、
必死にこらえた。

そしてさらに笑いの込み上げてくるような状況が起こる。

「騎士団長様が犠牲になる必要なんてない!」
「俺達は騎士団だ!」
「退いてたまるかよ!」
「マイソシアの平和のために・・・・この命尽きるまで!」

生き残った兵士達の目に輝きが増す。
そう、
全ての兵が自らを犠牲にして、
勝てるわけのないデムピアスに立ち向かおうというのだ。
なんと・・・・愚かで、
なんと楽しい状況だろうか。
アインハルトは愉快でたまらなかった。
人の前ではあまり感情を表に出さないアインハルトだが、
人だ。
感情はある。
感情がある悪魔ほど時に恐ろしい。

目の前で仲間とやらがドンドンと死んでいく。
内心は怖いのに、死に飛び込んでいく。
本心は逃げたいのに、勇気を盾に恐怖に飛び込んでいく。
そして死んでいく。
血が飛ぶ。
死骸が飛び散る。
仲間が死んで、
自分も死ぬと分かっているのに、
狂ったかのように敵に飛び込んでいく勇敢な騎士達。
なんと頼もしいのだろうか。
笑いがこみ上げてくる。

そして・・・・

気付くと、
仲間(騎士)は全て死んでいた。


暗きデムピアスの間。
うごめくデムピアス部下達。
赤く、臭く、横たわる数千の騎士達。
数千の騎士の死体。
数千の赤い屍。
地獄絵図。
いや、地獄より多い死体の数。
見晴らす限りに重なる屍。
死体の山。
赤黒の野。
血肉の海。
肉塊の地。


アインハルトは死体の臭さにむかついたが、
たまらなく可笑しく、

数千の屍の上で一人笑って立っていた。


「そこの人間。ただ一人残ったお前だ」

高きところから、
デムピアスが声を落としてくる。

「お前・・・・・・・只者ではないな。感じ取れる。
 お前は人間の力を超えている。お前は何なのだ」

死体の山の上で、
アインハルトは怪しく笑いながら答える。

「我か?我はアインハルト=ディアモンド=ハークス。
 この世でたった一人。至高の存在になる者だ」

「・・・・・・ふむ。欲高き者アインハルトよ。・・・・・・どうする。
 どうやらお前とこのデムピアスが戦えば、相殺も免れぬ。それでもなお戦うか?」

「黙れ」

アインハルトの漆黒の目がデムピアスを睨む。
数千の仲間の屍の上で、
アインハルトは殺気を漂わせる。
黒き殺気。

「カスめ。選択肢を与えるのは我だ。海賊王デムピアスよ。お前に選択肢などない」

「・・・・・・・なんたる傲慢。殺してやろうか」

「命令するのは我だ。デムピアス・・・・・・・・我の下につく気はないか?」

「・・・・・」

デムピアスの巨体。
その両腕が大きく広がる。

「危うき人間だ。闇が魔物にまで広がらぬうちに殺しておくか」

「ならお前が死ね」






































「よくやってくれた。アインハルト=ディアモンド=ハークス君」

王宮の一室。
よく装飾された最高級の部屋。
アインハルトの向かいに立っているのは・・・・・
この国の国王。
アスク=ルアス王。

「王国騎士団、数百年以上前からの遥か長き念願。
 まさかあのデムピアスの討伐に成功する日がくるとは。
 ・・・・・だが君一人しか生還者がいない事は誠に残念で仕方が無い。
 アンドリュー騎士団長を含め、皆よい騎士達じゃった・・・・」

「おっしゃるとおりです」

そんなことは欠片も思っていない。
カス共が死んだ・・・程度にしか。

「アンドリュー君の後任。つまり次期騎士団長には君を推薦しようと思う。
 なぁに。誰も文句を言わんよ。功績は目を見張るものがあるし、
 残りの団員の中では一番だと誰もがわかっている。
 そしてあのデムピアスに挑み、たった一人生還した勇士なのだから」

アインハルトは、小さく怪しく微笑した。
そんな事にも気付かず、
ルアス王はアインハルトの肩に一度手を置き、
そして一枚の紙切れを渡す。

「後任の推薦状だ。あとは君がサインするだけで君は騎士団長だ。
 引き続き騎士として、そして騎士団長として、このマイソシアを平和に導いてくれ。
 君を先頭とし、この世界の平和を守り通してくれ」

「いや、変えてやる。このくだらん世界をな」

「・・・・・・?」

一瞬だけ疑問を・・・・・首を傾げる時間がルアス王にはあった。
が、次の瞬間ルアス王の首は飛んでいた。
民に愛され、
平和を愛する最高の王の首は、
粗末に高級絨毯の上に転がった。
血の吹き出すボールのように。

「お前らカス共の思想など、カスから生まれた脆弱なゴミクズだ。
 ・・・・・・・ふん。邪魔は全て消えた。あとは我の思うまま・・・・・」

突如ドアの開く音がした。
アインハルトは咄嗟に振り向く、
そこには目を見開いた一人の男が立っていた。

「そんな・・・こんな事がございますとは・・・・」

それはピルゲンという男だった。
鼻の下にヒゲを蓄えた部隊長の男。

「ふん。我も油断があったな。喜びで気配を察するのを忘れていた。
 ・・・・・・・・見られてはしょうがない。悪いがお前には死んでもらう」

「素晴らしい」

アインハルトは眉を傾けた。
この男の返答に。

「いや、本当に素晴らしい。至極素晴らしい。まさに素晴らしさの極み。
 躊躇いもなく殺気を向け、向けた瞬間には人の命を奪い、罪悪感の欠片も感じない。
 邪魔なものは殺す。ただ己の理想がためだけに。・・・・貴方は私が追い求めた存在でございます。
 こんな素晴らしい存在が身近にいたとは・・・・歓喜の極みでございます」

ピルゲンは片膝をつき、
アインハルトに頭(こうべ)を垂れる。

「私の上に立つ者。いや、私を利用していただくに相応しい存在を見つけました。
 今この場に立ち会えたことを酷く神とやらに感謝しましょう。
 まさかルアス王が"病にかかる"現場に立ち会えますとは」

「病・・・・か。・・・・・・ふん。面白いことを言うな」

「はい。そこで首になって転がっているルアス王。彼は"病に伏せった"。
 それだけでございます。私はこれからずっと周りにそう言い続けましょう。
 王は病に伏せっているとね。王が死んでも後継者はいます。
 が、王が病であるだけならば・・・・・・騎士団の全権は貴方様にあります。
 王は病に伏せっただけ。現実などどうでもいいのです。貴方様の前では・・・ね」

アインハルトは笑った。
自分の考えていた計画と同じ事を、
瞬時に理解し判断できる男。

「いいだろう。使ってやる」

「ありがたき幸せ」























その日から、
世界は変わった。

アインハルト=ディアモンド=ハークスという、
絶対的な存在による独裁。
たった一人、
絶対的な力を持ち、
全ての者をひれ伏させる権利を持った男による、
わがままの許された世界。
世界はオモチャと化した。

民に請求される過剰な仕打ち、
生活も苦しくなるほどの税金。
戦力をあげていく騎士団。
常時行われる戦争。

王国騎士団を中心に、
世界は血が好きになった。
苦渋を楽しむようになった。
戦いを好むようになった。
死を受け入れるようになった。
生きるために従順を心に誓った。

そんな世の中が何年も続いた。

そして、

「飽きてきたな」

王座に座りながら、
アインハルトはボソりと言った。

王座、
その場にいたのは・・・・

ロウマ、
ツヴァイ。
そしてピルゲン。


「兄上。飽きた・・・・・・といいますと?」

「この王国騎士団にだ。我が力を付けるには最適だったが、もうその必要もない。
 十分に楽しんだ。だが元から構成されていた組織などつまらぬ。
 人の作りしものに組み込まれるなど我あってはならない」

「その通りでございます」

ピルゲンは嬉しそうに頭を下げる。

「具体的には何がしたいんだアイン」

ロウマが傍らで腕を組んで聞く。

「王国騎士団を処分する」

「なっ」

さすがのロウマも、
その言葉には目を見開いた。

「馬鹿な・・・ふざけるのも大概にしろよアイン。
 王国騎士団がなくなればマイソシア事体の治安は無に帰すも当然だ」

「ふざける?そうだな。ふざけているな。そう・・・・我にとってはただの余興だ。
 世界などさながら玩具にすぎない。我の楽しみのために・・・・滅びればいい」

「アイン・・・お前・・・・。忘れているのか?お前の独裁による民の苦渋を!
 善都市、悪都市を好き勝手に陥れているだけでなく、
 アベル・オレン・タコル・マサイの4都市まで間接的に半壊させ、
 カプリコ砦・ノカン村を含む多くのモンスター地区を余興だけで地図から消したではないか。
 それだけでも・・・・・それだけでも許されぬ事なんだぞ!なのに何故次は仲間なのだ!」

「仲間?ただの駒(カス)だろう」

「くっ・・・・」

ロウマはもう言葉も出なかった。
神よりも傲慢なこの男に、
何を言っても無駄だった。

「ピルゲン」

「はっ」

「王国騎士団に対抗できるギルドを急造しろ。そうだな、ドラグノフでも使え。
 そして戦争を起こすぞ。我が王国騎士団を潰す楽しき戦争をな」

「かしこまりました」

ロウマは表情を強張らせる。

「アイン!何故戦争を起こす意味がある!」

「厳選する」

「・・・・・・・なんだと?」

「戦争を起こし、それでも生き残れるような使える者だけを次の我の道具として使ってやるのだ。
 まぁゲームだな。敗者(使えぬカス)は死ねばいい。まぁ数人我が選んだ者だけは免除するがな。
 だがロウ。・・・・・・・・・戦争(ゲーム)にはお前も参加しろ。楽しいぞ?
 そして生き残れ。その後・・・・・また我が使ってやる。道具としてな」

「・・・・くっ」

「あぁ、その間我はアスガルド(天上界)にでも遊びに行ってくるとする。
 神とやらの方が我の手下として使えるかもしれんからな。
 ついでだからお前の部下、44部隊のやつも10名ほど持っていくぞ」

「アイン。人を弄びすぎだ。お前は・・・・哀れみというものを知らないのか」

「哀れみ・・・・」

アインハルトは少し押し黙り、
考えるそぶりを見せた。
ロウマには、
アインハルトとて哀れみという言葉に反応するのだなと感じたのだが・・・

「ふん。そうだな。興味ある。実に興味があるぞ」

違った。

「ツヴァイ。こちらに来い」

ツヴァイは突然よばれたが、
命令通りアインハルトの近くに歩み寄った。
そして・・・

「・・・・・!?・・・・あ・・・・が・・・・・・」

アインハルトの腕がツヴァイの腹を突き破った。

「・・・・・あ゙・・・・にぅえ・・・・・何故・・・・・・・・」

血が滴り落ちる。
アインハルトの黒い鎧に赤い血が黒く浸み込む。

「全ての行動に意味があると思うか?意味もなく死ぬこともある」

言うと同時に、
アインハルトは腕を引き抜き、
ツヴァイはその場で・・・・・・・死に絶えた。
一瞬。
たった一瞬の出来事だった。
思いついたかのように・・・・・
アインハルトはツヴァイを殺した。

「何を・・・何をしてるんだアイン!!!!」

「哀れみというものを感じてみたくなった。
 双子であるツヴァイを失ってみればそれを感じれるかと思ったのだが・・・・」

同じ血がアインハルトの腕に流れる。
赤い絨毯に滴り落ちる。

「血で汚れた。それくらいにしか感じぬな」

実の双子。
ツヴァイを殺した。
きまぐれで。
たった一瞬のきまぐれだけで、
実の双子を殺した。
だが・・・・・とくに悲しみを感じなかった。

「やはりこんなものか。だが惜しい者を亡くしたな。
 我と血を同じくする者だけあって使える者だったのだがな」

自分で殺しておいて、
アインハルトはそんな事を言う。
双子のツヴァイを・・・・
唯一生まれてこの方、生涯を共にした者を殺した。
なのに悲しみなど一片も感じていない。
まるで喜怒哀楽の中から"哀"だけ抜け落ちているかのように。

「ツヴァイのせいで王座が汚れたな。なぜ血肉とは汚く臭いものなのだろうな。
 明日までに掃除させておけ。一応まだあと少々は使うつもりの場所なのだからな」

そう言い、
アインハルトはその場を後にした。



























-現在-











アインハルトはまたこの世に光臨した。

アスガルドから帰ってきた。
少々の部下だけを率い、
神に挑むという愚かな行動。

なのに・・・・・
彼は神に打ち勝った。

絶対神セトを殺し、
アスガルドを半壊させた。

そして一部の神族までも部下にひきいれた。
翼を背に生やした世界でも最も優なる存在が、
彼に向かって頭(こうべ)を垂れる。


アインハルトが求めるべき、
最強の団体が完成した。
《帝国アルガルド騎士団》。
名の通り、
アスガルドもミッドガルドも全て(all)。
人も魔物も神も、
全てを率いた絶対的な軍団。


古き王座に腰掛けるアインハルト。
傍らには・・・・数人。
昔と同じくロウマとピルゲンの顔がある。



「入れ」

アインハルトが言う。
と、同時に王座の入り口が開く。

「失礼します」

そこにいたのは・・・・・
アレックス=オーランドという男だった。
アレックスは膝を突いて話す。

「ご命令どおり、スオミの反乱分子の討伐を終えました」

「ご苦労だったな。アレックス」

王座に腰掛けながら、
頭(こうべ)を垂れるアレックスを、
ゴミを見るかのように見下すアインハルト。

「苦労ばかりお前に押し付けて悪いなアレックス」

「いえ、貴方はそれが楽しいのでしょう」

「もちろんだ」

アインハルトは怪しい笑みをアレックスに投げかける。
喜びを帯びた目。

「アレックスよ。我がお前を目のかたきにする事に文句があるか?」

「いえ、ただ悪趣味だと思うだけです」

「フフッ・・・・ハハハハハっ!」

アインハルトは大きな笑い声をあげる。
アインハルトがここまで楽しむのはアレックスを前にしている時だけだ。

「アレックス殿。ディアモンド様に向かって言葉が過ぎますよ」

「いい、ピルゲン。言わせておけ。こいつは言われた事は全てやっている。
 道具としては何も問題ない。こいつは無駄口の多い狗。そういうことだ。
 そしてこいつは生き残った。終焉戦争とも呼ばれる我のゲームをな。
 我に選ばれたんだよアレックスは。我の玩具に・・・・・・・な」

アレックスは顔を上げる。
そして強い目でアインハルトを見て言う。

「騎士団長。一つだけ聞かせてください」

「なんだアレックス」

「世界はあなたを中心に回っているとお考えですか?」

それを聞くと、
アインハルトは笑う。
鼻で笑い、
あざけ笑い、
心の底からくだらない質問だと感じる。
そして答える。

「いいかアレックス」

「・・・・・・はい」





「我を中心に世界が回っているのではない。世界は・・・・・・・・我が回す」





世界は一人の男のためだけに、
日の光の当たらない夜空だけを眺めるようになった。




                 






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