「これが"純正バラ水晶"?へぇ、まぁピンっとはこないけどまずまず美しいかな」

エクスポはそれを手に取るなり懐にしまった。

「ここはなかなか面白いなぁ。珍品が目白押しだ」

エクスポは辺りを見回した。
部屋に広がるのが古今東西の様々な品々。
美しいもの。
凄いもの。
高級なもの。
珍しいもの。
それが部屋に飾り付けられていたり、
無造作においてあったり。

「へぇ、破神槌か。古代神話装備のレプリカじゃないか。
 失明も直す視力回復薬?ウソくさいな
 お、こっちは1000年もののモス酒。あいつが喜ぶかな」

やたらめっちゃに触りまくるエクスポ。
だが、もちろんここはエクスポの部屋ではない。
そして美術館とかそういう場所でもない。

ある大富豪の家の一部屋だ。

もちろんノックをして入ったわけでもなく。
「やぁ、こんにちは」なんて挨拶もしたはずがない。
ま、"勝手にお邪魔します"といったところだ。

なにせ彼は盗賊なのだから。

「こりゃまぁ・・・・デムピアスグッズも揃ってらっしゃる。
 へぇ、先端がカメリアン装飾の戦耳(ウォーリアイヤリング)ねぇ。
 お、全透明のディムオーブかぁ。こりゃぁ美しいね。これも貰っておこう」

エクスポの狙いは・・・・・・・物を盗むこと。
が、
金銀財宝とかそういったものが狙いではない。
そりゃぁお金は欲しいがそれは二の次。
彼が欲しいものは彼の理想。
そう、単純に彼が欲しいものは・・・・・・・

"美しい"ものだった。

「あらかた片付けたな。ん?あっちの部屋は何かな」

エクスポがふと見た扉。
それは装飾された重い扉。
ゆっくり腕で押し、扉を開ける。
するとそこは・・・・・・

暗い暗い部屋だった。
臭い。
糞尿の匂いと、
洗ってないような生き物の匂い。
そこには何十もの檻が並べてあった。
中に入っているのは・・・・・珍しいモンスターなどの生物。
標本にされているもの。
ホルマリン漬けにされているもの。
なんとか生きているもの・・・・いや、生かされているものか。

「珍獣コレクションか・・・・・・・悪趣味だな・・・・・美しくない。ここには美しさはカケラもないな。
 まったく。コレクション室というよりは猛獣倉庫。珍品コレクターが行き過ぎたってやつか」

中に入ろうとエクスポが足を踏み入れた時だった。

BOOOOOOOO!BOOOOOOOOOO!

警報が鳴り響く。

「あぁ、ボクとしたことが美しくない・・・・・トチったか」

鳴り轟く足音。
警備の者達だろう。
そしてエクスポのいる部屋のドアを、大きな音を立てて開け放った。
まぁ、無能じゃないといったところか。
ものの数秒で十数人がこの部屋にたどり着いた。

「うぉ!部屋が荒らされてる!」
「侵入者め!何者だ!」

「は?何を聞いてるんだい君は。"何者だ"って聞かれて答えるわけにはいかないよ」

「うるさいうるさい!」
「観念してお縄に付け!」

「わ、わらわのコレクションが・・・・・」

一足遅く、この豪邸の主らしき者が部屋に来た。
一目見て魔女。
とまぁ、それで驚くことはない。
あのWIS通信を設計して大成功を収めた魔女。
その豪邸だからわざわざ入ったのだから。

「貴様・・・・わらわのコレクションを盗もうとしたのか!愚民のくせに!」

エクスポは焦る様子もなく、
両手を広げてスカした態度をとる。

「まぁまぁ、落ち着けよ皆さん。美しくない
 ほら、この美しくないノイズのような警報も止めてさ
 話し合えばきっと分かるさ。そう。分かり合うことこそ一番美しい解決法さ」

「何を輩が言うか!」
「貴様!不法侵入者のくせに!」
「泥棒のくせに!」

「わらわのコレクションに手を出していて!ただで済むと思ってますの?!」

エクスポはため息をつく。

「あぁ、そうだね。ボクが悪かったよ。でもボクは思うわけだよね。
 世の中もちつもたれつ。ギヴ&テイク・・・・・・・・・
 だから悪かったという印にボクもプレゼントを君達にあげようと思うわけさ」

エクスポは懐・・・・・いやポケット?
ともかく体のどこからか"何か"をとりだす。
その"何か"。
エクスポが抱え込むほどの量。
黒く丸い。
そしてその一つ一つ。
耳を澄ませば聞こえてくる。

チチチチチチという針の音が。

「ば、爆弾だ!!!!」

「シーユービューティフォー!」

エクスポが爆弾を放り投げる。
数十個の小型爆弾。
それが部屋中にバラまかれ・・・・・

炸裂

ジョーカーポークにスモークボム。
サンドボムにソリッドボム。

様々な爆弾がそこら中で破裂し、爆発し、
部屋は混乱と煙にまかれた。

「侵入者は!侵入者はどこいった!!」

警備の者達が慌しくなる。
そして煙も晴れていく。

煙の晴れたその部屋。

そこにもうエクスポの姿はなかった。

「ば・・・爆発でわらわのコレクション達が・・・・」

魔女はガクンとその場に膝をついた。
が、
すぐさまキッとするどい目つきで警備の一人をにらめ付ける。

「あの者を!あの者を調べなさい!」

「ハッ!・・・・・あ、いえ!もしかしたらもう目星はついております!」
「あの爆弾を使った手口と美品しか盗らない習性!」
「盗賊『時計仕掛けの芸術家(チクタクアーティスト)』と思われます!」

「何がチクタクですわ・・・・わらわのコレクションを・・・・・」

魔女は一人の警備の者を指差し、
キレ口で言い放った。

「王国騎士団に手配してあの者の賞金を上乗せしなさい!
 わらわ・・・・このルカ様のコレクションの被害は少なくとも3億グロッド以上・・・・・・・・
 そのまんまあの爆弾野郎の賞金額に3億グロッド上乗せしてやりなさい!」

「「はっ!!」」















-ルアス99番街-


「今日は豊作ってとこかな」

今日の戦利品の入った袋をジャラジャラとならし、
エクスポは故郷であるルアスの隅へと帰ってきた。
いつ帰ってきても美しくないこの町。
ゴミと廃墟と荒くれ者で構成され、
強奪と虐殺と力と血で構成された町。
ルアスの端のスラム街。

そんな彼の手元の貴金属。
見せびらかしているわけではないが堂々とぶら下げている。
だが、それを見ても町の荒くれ者どもはエクスポに手を出してこない。
ジロジロと美しくない腐った眼で見てくるが、
生まれてこの方このスラム街で生きてきたエクスポ。
彼の強さはここらじゃ有名な方だからだ。


古びているが、アンティークでおしゃれなドア。
それを開けて入ったところはエクスポの家。
たった三部屋しかない小さな家だが、エクスポは気に入っていた。

「あら、おかえりエクスポ」
「ただいま・・・・っておいおいママ。またご飯を残してるのかい?」
「お残しは美しくないかい?」
「あぁ、美しくないよ」

ママ。
ベッドの上からの声。
エクスポの母は病で倒れていた。
医者になった知り合いの聖職者の話だと、
そう長くもないらしい。
もちろんそんな事はエクスポは信じていない。

「ほら、美しいだろ?」
「まぁ、いいわねぇ」

母は美術家だった。
美しいものを探求したいという理由で盗賊になった母。
優しい母だが、もちろんこんなスラム街で生きているのだ。
悪いことも多くやってきただろう。
だがそんなこと関係ない。
この町ではそれがルール。
エクスポにとってとりとめのない話。
大事なのは母が美の探究という素晴らしい目的のために生きてきたとい事だった。
だが、その夢半ば。
母は病で倒れた。

「あら、これはいいお宝だね。結構いい屋敷から頂戴してきたんじゃない?」
「そうさ」
「そりゃ大変だったろ」
「大変じゃないさ。チョロイって奴だね。美しくない。
 あぁいった美徳のなんたるかを分かってないウスノロが持ってるにはもったいないのさ」

エクスポは単純に、母のために盗賊をしていた。
母の夢。
"世界一美しいもの"
それを見つけるのがエクスポの夢でもあった。
そしてきっといろんな美しいものを母に見せてやれば、
母はそのたびに元気になる。
病気もきっと治る。

「寝込んでるママなんて全然美しくないよ」

天下のお尋ね者盗賊が、
なにを甘っちょろい事を。
いや、エクスポはたしかに二つ名の知れた盗賊だが
実質まだ16歳の少年でもあった。
普通なら母離れの時期でもあるが、
母が死にそうとあれば話は別だった。

「どうだい?ママが望むならどれだけでも盗ってきてあげるよ」
「ありがとねぇ」
「いいんだよママ。ん?親父はどこに行ったんだい?」
「隣の部屋で作業してるよ」
「まったコツコツ懐中時計を作ってるのか。親父は愚かだよ。美しくない。
 ママは美しいものが欲しいっていってるのに、親父は毎日毎日時計をいじってるだけ
 こんな苦しんでいるママのために美しいものを見せてあげたいとは思わないのかあのバカ親父は」
「いいんだよエクスポ。あの人はあの人なりに頑張ってるんだよ」
「・・・・・・・・・ふん」

エクスポは自分の父が嫌いだった。
あのバカ親父は母の事をちゃんと考えているのか。
毎日毎日机に向かって、愚かだ。美しくない。
母が求めている美徳というものを分かっているのだろうか。

まぁいい。
ボクが美しいものを盗み、
それでママが元気になれば。

その考えだけで
何日も
何日も
エクスポは美しいものだけを追い求めてきた。










-ある一日-



「ハイハイ。死にたいか?それともそのアイテムを渡すか?
 二つに一つさ。素直に渡すのが美しいとボクは思うけどね」

エクスポは今日もカツアゲ。
昨日は泥棒。
その前は強盗。
エクスポはなんでもした。
母が求めている。
美しいものを
そのためならなんでもする。
ある時は人だって殺す。
母の夢より優先すべきものはないのだから。






だが、その日はきた。
今日がその日だった。
きてしまった。







「ママ見てくれよ!これ凄いだろ!」

エクスポが叫びながら家へと飛び込む。
お気に入りのドアを開けっ放し。

「メント文化時代のミルレスの画家の絵なのさ!
 題名"デムピアスに挑む騎士と6人"!美しいのなんのって!」

嬉しそうに語りながら母のベッドへと歩みよる。

「あれ?」

ベッドの横に家族でない者がいた。
いや、
見知らぬ人物というわけではない。

「レイズ。何してるんだ?今日はママの診察日じゃないだろ?
 ミルレス白十字病院の方はどうしたんだい?
 せっかくお前みたいなのが就職できたってのにサボりは美しくないよ」

「・・・・・・・・いいところに帰ってきた・・・・・・・いや・・・・・・いいところ・・・なのかな・・・・・・・・」

「んだよレイズ。また「死ねばいいのに・・・」とか言う気かい?
 あの口癖はよくないよ。美しくない。いいかい?世の中は"美"ってのはね・・・・・・」

レイズは黙ってエクスポの肩に手を置いた。

「・・・・・・・・・・美の話は・・・・・・・お前のお袋さんにしてやれ・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・今晩で最後だ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「は?」

医者のレイズはそれっきりドアを開けて出て行った。
何を言ってるか分からないが、
とりあえず母に今日の戦利品を見せてやらなくては。
エクスポは振り返ってベッドを見る。

「・・・・・・・・・ママ・・・・・・・どうしたんだい?」

母の呼吸は荒かった。
いや、弱弱しく、それでいて整っていない。
汗の量も凄い。
弱弱しい汗が搾り出すように出ている。
顔色もまるで無機物のようだ。
分かる。
誰が見たって分かる。
元気ではない。
正常ではない。

「・・・・・・・・・・もう・・・・あたしはダメみたいだよエクスポ・・・・・・」

小鳥がささやくほど弱い声。
そんな小さな声で母は言った。

「ダメ?何言ってんだいママ!」
「いや、自分で分かるんだよ・・・・・体がねぇ・・・・」

そこで母は咳き込んだ。
血の混じったせきは布団を汚した。

「ク、クスリを!」

エクスポはすぐに棚の薬を取りに行こうとした。
だが、
母はそんなエクスポの手を握り、止める。

「もう・・・・いいのよエクスポ・・・・・・」
「そんなっ・・・・」
「わたしはもう・・・・」
「そ、そんなことはないさっ!
 ほら見てくれよママ!今日の戦利品だ!本当に美しいんだ!
 これを見れば元気になるさ!そうさ!絶対だ!」

突然ドアがバタンと開く。
隣の部屋のドア。
そこから飛ぶように出てきたのは・・・・
父だった。

「リオ!見てくれリオ!完成したんだ!!」
「親父っ!お前こんな時にまで!」
「見てくれ!世界で一番精密な懐中時計なんだ!」

父はエクスポの言葉なんて聞こえないように母に話す。
それはまるでエクスポが母に戦利品の話をしている時のように。

「この時計はなっ!何十年・・・・いや、何百年たっても狂わないんだ!
 一秒たりともな!凄いだろ?これはお前のための時計なんだ!
 お前の人生(時間)を測る時計さ!いつまでだって狂いやしない!
 お前が生きてる間ずっとだ!生きてる間ずっと狂わない時計を作ったんだ!
 だからお前だって・・・・お前自身の時間だって・・・・・・狂うはずが・・・・・・・・・」

父は涙を流していた。
懐中時計を母の手に握らせ、
その上から自分で両手を重ね、
握り締めていた。

「そうかいあんた・・・・・・・・・ありがとねぇ」

その時。
母の顔を見た時エクスポは・・・・・
なんとも分からぬ感情に見舞われた。
嬉しさ・・・
じゃなく、悲しさ?
違う。
なんというか・・・・
そうだ。
嫉妬。
それに近い感情だった。
なにせその時の母の顔。
父の懐中時計をもらった時の美しい笑顔。
それはエクスポの盗品を何度見せても一度も出したことない。
思考の美しさ。
宝石のような笑顔。
いや、宝石なんて無機物に例えるのも違う。
それは・・・・

「う・・・・」

エクスポはいろいろ考えてるうちに涙が出てきた。
そしてエクスポはうつむいた。

そんなエクスポの頭を母は撫でた。

「エクスポ・・・・・・よくお聞き・・・・・・・・」

せきをしながら母は話す。

「世界で一番美しいものはね・・・・・・・・積み重ねて・・・・積み重ねて・・・・・・そしてできたものさ
 その他にも美しいものはたくさんある・・・・けど一番美しいものはそれなのよ・・・・・・」

フルフルとふるえる弱弱しい手。
その手がエクスポの頭を撫でる。
何度も。

「花火がなんで美しいか分かるかい?・・・・・・・・・・・
 花火はさ、ヒュゥ〜・・・・・っとあがって弾ける・・・・・
 ・・・・・・・・・・それが・・・はかないなんていう人もいるけど・・・・
 違うよ・・・・・・・・あれは職人が丹精込めて作り上げたものが・・・・・はじけるから美しいのさ・・・・・」
「リオ・・・・・」
「ママ・・・・・・・・・・」
「泣かないでくれよあんた達・・・・・・・・あたしは美しい人生を生きたさ・・・・・・・
 積み重ねて積み重ねて・・・最後に華々しく散れるんだから・・・・・・・・・」
「・・・・・華々しい?」
「華々しいさぁ・・・・・・・笑って死ねるんだからねぇ・・・・・・・・・・
 いいかい・・・・・・人間ってのはね・・・・・・・・最初は泣いて生まれるんだよ・・・・・・・・
 だけど本人は泣いて生まれてきたけど・・・・・まわりの人は嬉しくて笑ってたはずさ・・・・・
 でも今は逆・・・・・あんた達が悲しくて泣いてくれてるのに・・・あたしは笑って死ねる・・・・・・・・
 こんな美しいことがあるかい?・・・・・・・・積み重ねて・・・・満足して笑って死ねるわたしは美しいさ・・・」

そこで母は大きな血を吐いた。

「リオ!」「ママ!」
「男二人が・・・・だらしないねぇ・・・
 唯一心残りなのは・・・・・・・・あんた達が笑って死ねるかってことだけさ・・・・・・・・
 あんた達も・・・・・・笑って死ねる美しい人生を歩みなよ・・・・・・・・
 積み重ねて・・・・・積み重ねた先に・・・・・・・はじけたものは・・・・・・・きっと美しくなれるんだから・・・
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・なぁ・・・・あんた・・・・・・・・エクスポ・・・・・・・今、あたしゃ美しいかい?」

エクスポと父は顔を見合わせる。
涙でクシャクシャの顔を。
そして片方づつ。
母の二つしかない美しい瞳を一つづつ見つめて言った。

「「美しいさ!!!!!」」

母はにっこり笑った。
それは母の特上の笑顔だった。
素晴らしく。
この上なく。
何よりも美しい笑顔。

死に顔という名の笑顔だった。

父は泣いた。
エクスポも泣いた。
二人して母の手を握り。
そこに握られている懐中時計に、
二人の涙が浸み込んだ。

だが、懐中時計は狂うことなく針を進めていた。























-数日後-







「うぉ!エクスポじゃねぇか!」

街を歩いてるエクスポに声をかける男。
三人組。

その声でエクスポは振り返った。

「なんだ。ドジャー・メッツ・ジャスティンの変人三人組か。
 お前らに会うなんて、今日は美しくない一日だね」

「美しくないだぁコラァ!」
「おぅおぅ!せっかく俺ら三人でギルド作ったから誘おうと思ったのによぅ!もうい・・・・」
「おいドジャー」
「あん?なんだよジャスティン」

ジャスティンはドジャーに小声で話す。

「エクスポはこないだお袋さんが亡くなったんだぜ?今はそれどこじゃねぇよ・・・・」
「うそ・・・マジか」
「あぁあぁ・・・・エクスポの野郎マザコンだったからなぁ・・・ショックでけぇだろなぁオイ」

「誰がマザコンだって?聞こえてるんだよ?まったく美しくない」

エクスポがマユゲを吊り上げて言う。
三人は「げっ」っといった反応をした。

「ワリィワリィ・・・・」
「また今度改めて話しにくるよ」

三人はそのまま立ち去ろうとする。
だが間をおいて、
エクスポは声をかけた。

「待てって。返事は早いほうがいいだろ?ボクもギルドに入るよ」

三人は驚いたように顔を見合わせ、
振り返った。

「うぉ、お前はてっきり断るかと思ってたんだけどな」
「関係に囲いなんて美しくない〜とか言いそうだしな」
「ガハハ!言いそう言いそう!」
「なんの気まぐれだい?」
「悪いが俺らがママの代わりにゃなれねぇぜ?」

「君たちがママの代わりになんてなれるわけがないだろ?
 美しさが足りないよ?知ってるかい?愚と美は相対するんだよ?」

「あーあーそうかいそうかい」
「んで?なんのきまぐれなんだ?」

「いつか君たちはボクやバカ親父の代わりになってもらうのさ」

「は?」

「簡単に言うと君たちはボクが死ぬ横でウワンウワン泣くわけ
 その真ん中でボクは美しく眠るのさ。
 ボクはこれからも美を追い求める。
 小さな美から大きな美。無機質な美から目に見えない美。
 それらを探求し続けたボクの最後はきっと美しいよ」

エクスポは右手を銃に見立ててバァンと撃つ動作をした。

「なぁにが"美しい"だってんだ」
「美しいってなんなんだよ」
「そんなわけの分からんもんより俺は食い物とタバコのがいいけどよぉ!!」

「まったく君たちはこれだから美しくない・・・・・・・・・・いいかい?美しいってのはさ・・・・・・」

エクスポは右手に取り出す。
それは懐中時計。
バカ親父がエクスポにくれたのだった。
母の遺言を叶えるために使えと。

「美しいってのは・・・・・・・・・・"積み重ねて積み重ねて・・・・・・・・そして華々しく散るもの"さ」

エクスポは母が死んでから、
部屋のいらないものを整頓していた。
盗んできた品々も売っぱらった。
そして残ったのは・・・・・
母と使っていたものだけだった。

食器や写真。
その他たくさん。
・・・・捨てられなかった。
思い出が・・・・記憶が積み重なっているからだ。
それは何よりも美しかったからだ。


「さぁて。何か美しいものでも探しにいこうかな」


エクスポの手に持つ懐中時計。
時計は一寸の狂いもなく針を進めた。

一秒。
また一秒。

それはいつまでも何かを積み上げているかのように。

時計の針を見て思う。

時を。

時間を。


人生を積み上げてきたからこそ。






人の死もまた美しいのだと。










                 






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