「今日はあんまり食うなよ?」
「それは約束できませーん」

アレックスとドジャー。
灰色の町、99番街。
スラム街の薄汚れた道なり。
マリナの店"Queen B"を目指して歩く二人は、
今日も他愛のない話をしながら歩いていた。

「ばっかやろう!今月は金ピンチなんだよ!
 それもこれもお前が馬鹿みたいに食うからなんだ!馬鹿みたいにな!」
「ピンチって・・・別に貯金はあるんでしょ?」
「食費は食費。金は金」
「よく分からないけど・・・お金の管理は案外ちゃんとしてるんですね・・・」
「そりゃ金は大事だからな」
「主婦みたいですね」
「しゅ・・・・・」
「いてっ!」

ドジャーが歩きながらアレックスの頭を殴る。
アレックスは両手で頭を押さえて痛がる。

「なんで殴るんですか!」
「主婦みたいとか言うからだ!」
「主婦は悪口ですか!?」
「いや、そういう意味じゃなくてだな」
「全国の主婦に謝ってください!」
「だから!主婦って言葉自体に怒ってんじゃねぇよ!」
「じゃぁなんで殴るんですか?!」
「そりゃ・・・・だから・・・」

ドジャーが歩きながら指をアゴにあてる。
そして少し考えた後・・・

「お前が主婦とか言うからだ」
「主婦は悪口ですか?!」
「だー!!もういい!!」

アレックスはムッとなった。
そしてむくれてドジャーに言う。

「そうですか!じゃぁ今日もお腹いっぱい食べますからね!」
「な・・・・なんでそうなるんだよ!」
「お腹が減ってるからです!」
「金がねぇって言ってるだろ!」
「あるくせに!」
「それは貯金の話だろ!金は金!貯金は貯金!」
「わけがわからないです!」
「ちゃんと金の管理をしてるって事だよ!」
「なんですかそれ!ドジャーさんは主婦ですか!?」
「だぁぁぁああ!!!!!」

ドジャーが頭をかきむしる。
そして指をアレックスの鼻頭の先に突き刺す。

「いいか?今日は腹八分目までだ」
「いやです」
「駄目だ。それ以上は俺は払わねぇ」
「いやです」
「いやがってもダメだ!俺は払わないって決めてんだから後で困るのはテメェだぞ!」
「・・・・・・・・・分かりましたよ」
「お?」

ドジャーは頷きながら笑う。

「いきなり素直になったな」
「そりゃそうです」
「ん?」
「腹八分目の基準なんてドジャーさんには分かりませんからね。
 僕が満足するまで食べたら腹八分目です」
「ダメだ」
「ダメでもドジャーさんには僕の胃袋は分かりません」
「いや、お前の腹八分目は俺が決める」
「フッ・・・・・僕の胃袋は他人なんかには縛られません」
「訳分からん事でいばるな!」

そうこうしている間に、
二人の目の前には酒場Queen B。
酒場にたどり着くなり、
慣れた足つきで店に入る。
カランカランと乾いた音が店にこだまし、
マリナの声が返ってくる。
いつもどおりの光景。

「ったく。今日は腕ずくでも食い止めるからな」

そう言ってドジャーは、
いつもどおりカウンターの横のテーブルへと足を運ぶ。

「ん?なんだありゃ」

すると、
そのテーブルにはもう他の客が座っていた。
女性のようだ。
いや、女の子とでも言った方がいいか。
椅子に座ったまま足が地面につかないくらいの身長。
が、関係ない。
有無を言わず、ドジャーは背後からその女の子の客に言う。

「おい、そこは俺の席だ。VIP席だ。特等席だ。分かるか?分かるよな。
 つまり俺が飯食う場所だ。端的に言うぞ。・・・・・・・どけっ、散れっ」

ドジャーの脅し。
だが女の子は動じず、
ドジャーに背を向けたまま、
料理を食べる付けたまま、答えた。

「は?いやに決まってるじゃん!先にあたしがここに座って料理食べてるんだから!」

いや、まぁこの子が正しい。
先に座って食事を楽しんでいるのだ。
何も悪い事はない。
どくこともない。
が、ドジャーはそんな女の子の真後ろへ回り、
後ろから女の子の首に腕を回した。
そして女の子の後ろから耳元でささやく。

「なぁ・・・・どいてくれよお嬢ちゃん。な?俺今よぉ、機嫌悪ぃんだよ。
 ガキだろうが女だろうが関係ねぇ、レディファーストは終了だ。ドジャー様に席を譲りな。
 じゃねぇと料理の代わりにダガーでお前切っちまうかもしれねぇぜ」

客の首に回したドジャーの腕にはダガーが握られていた。
ほんとに切ったりする気はサラサラないだろうが、
ガキと面倒事は嫌いなドジャーにとって、
これが一番手っ取り早い最良の策と考えたのだろう。
その冷たいダガーは女の子の頬に当てられる。

「ふんっ!そんな安物ダガーで切れるもんなら切ってみなさいよ!」

「食べるわしゃべるわ・・・・口はよく動くな。女だろうがこれだからガキは嫌いだ。
 そんなお嬢ちゃんのサーロインはこの辺か?ぁあん?この頬の辺だろ?」
「そこはサーロインじゃないですよドジャーさん。サーロインはもっと背中で、
 頬の所の肉はツラミといいます。まぁ安い割にはなかなかおいし・・・・」
「うっせアレックス!」

止めるでもなくお肉のおいしいところの忠告をするアレックス。
が、脅迫中のドジャーはそんな事はどうでもよかった。
ドジャーがダガーでペチペチと女の子の頬を優しく叩く。
どけ。
じゃないとダガーでえぐるぞ・・・という脅迫。
すると、

「どかないとだれのサーロインがなんだってぇえぇぇええ?」

「あてっ!あてててててててて!!!」

女の子はドジャーのダガーをもつ手を思いっきりつねった。

「あてててっ!離せ馬鹿!」

「だぁ〜れが馬鹿よこのバァ〜〜〜〜っっカ!」

さらに女の子はドジャーの手の甲をつねり上げる。
千切れる勢い。
さすがにドジャーはダガーを落とし、痛がる。
そして地面にへたりこむ。
が、ツネりはまだ続く。

「何よこんな安物ダガーで私を脅すなんて!ドジャーのくせに生意気なのっ!
 それに人を牛みたいに言うなんて!お仕置きよ!」

「あっ?!おまっ、ティル姉の馬鹿娘じゃ・・・あててててて!ちょっ、ツネるのやめろって!」

女の子は、最後に思いっきりツネったままひっぱった後
ドジャーから手を離した。

「レディーに刃物を向けるなんて最悪だぁ!」

腰に両手を当て、
ドジャーを見下ろして言い放つ女の子。

やっと開放されたドジャーは地面で
ツネられた部分にふぅふぅーと息を吹きかける。
情けない。
だが、すぐさま睨み返す。

「てめぇ!馬鹿娘!」

「あたしはコンスタンスだぁ!!コ・ン・ス・タ・ン・ス!!
 ママにもらった大事な名前なのっ!ちゃんと呼びなさいっ!」

「うっせ!馬鹿娘で十分だ!なぁにがレディーだ!このチビが!」

「な、なぁにをぉおお!!!このモヤシぃいいいい!!!」

「待ってください!!!」

ドジャーとコンスタンスのケンカ。
その間にアレックスが割り込んだ。
両手を広げて静止する。
そして一呼吸を置いてからアレックスは言った。

「僕はお腹が空いてるんです。ケンカするなら僕が注文してからゆっくりしてください」

「「・・・・・・・・」」


































「お待ちどぉー♪ ホロパチャーハン2つ片方大盛りと、トロピカルワイキジュース。あとビールね」

店主のマリナによってトレイで料理が運ばれてきた。
ドジャーとアレックスの前にチャーハンが並べられる。
そしてジュースとビールはテーブルの中央に置かれた。

「ごゆっくりー♪」

「カッ!異物が座ってるテーブルでゆっくりできるかってんだ」

「その言葉、リベンジスピリッツで返させてもらうわ!」

「カッ!」

「ふんっ!」

料理が来た後もドジャーは不機嫌だった。
無愛想にビールに手を伸ばす。
何故不機嫌か。
決まっている。
テーブルにはドジャーとアレックス。
そして馬鹿娘・・・・しかりコンスタンスがいるのだから。

「カッ、・・・ったく・・・ティル姉に似て乱暴に育ちやがって・・・・」

「なんか言った!?」

「さぁーてね。なんも言ってねぇよ。聞こえたなら幻聴かなんかじゃねぇの?」

「なによぉ!・・・・・・・憎たらしい声した幻聴めぇ!」

「んだとっ!?」

「あれれ〜?幻聴がまたしゃべったぁ〜?」

「クソっ、黙ってやがれ馬鹿娘!なぁーまいきなんだよガキのくせに!」

同時に目線を外す。
とにかく険悪な二人。
ドジャーとコンスタンス。
アレックスは料理に夢中だったが、
スプーンを口に運ぶ合間にコンスタンスという女性を見た。

うん。小さい。
女性というよりは女の子。
小学部くらいの子にも見えるなぁ。
けどドジャーさんとタメ口聞いてるからもっと上?
このルアス99番街の人間なのかなぁ・・・・

とまぁいろいろ考えたが、
想像するのもめんどくさいので、
聞くことにした。

「え、えぇ〜っとぉ・・・・」

まぁ本人に聞くべきなのか、
それともドジャーに聞くべきか分からないので、
二人双方に目線をキョロキョロと動かした。

追伸・・・
名前なんだっけ・・・・

「えっと・・・・タンスさん?・・・コタツさん?」

「コ・ン・ス・タ・ン・ス!!!」

コンスタンスはテーブルを一度叩いたあと、
まるでドジャーがダガーを突きつけるが如く、
スプーンをアレックスに突きつけながら自分の名前を言った。

「あ、すいません。で、コタンスさんは・・・・」

「コンスタンスーーー!!!」

「・・・・・・コンスタンスさんはドジャーさんとどういう関係なんですか?」

「ん〜?自分から名乗ったら〜?それが礼儀じゃないのこの食いしん坊の極つぶしさん」

ムッ、
アレックスはピキーンときた。
なるほど。
これはドジャーさんが嫌いなタイプだと一言で理解した。
ナマイキなガキなのだ。
さすがに子供にこんな事言われれば血管が黙っていない。
どこに食いしん坊の極つぶしがいるというのだ失礼な。

・・・・いや、ま、それより話だ。

「コホン。えっと・・・・僕はアレックス。アレックス=オーランドです」

「あっそ。あらためましてわたしはコンスタンスね。聖職者よ。
 体重と年齢は聞かないでよ?レディーに失礼だからね」

いや、知りたくもないしレディーでもない。

「で、それでドジャーさんとはどういう・・・・」
「知り合いの子供(ガキ)なんだよ」

ドジャーが不機嫌そうに言った。
言った後に口に酒を運ぶ。
そしてジョッキを置き、
今度はアレックスの方を向いて豹変したように嬉しそうに話す。

「カカカッ!聞いてくれよアレックス。笑い話だ。
 こいつはかの有名なギルド、《ボトルベイビー》のメンバーなんだぜ?」

《ボトルベイビー》?
かの有名なといわれても・・・・

「そんなギルド聞いた事ないですけど・・・」
「あぁ、15ギルドの一つ《サンシャイン》は知ってるか?」
「はぁ・・・まぁ・・・ギリギリ・・・・」
「ま、《サンシャイン》自体はどうでもいいんだけどよ、
 その《サンシャイン》と仲がいいってだけでギルドごと寄生しまくってる寄生ギルドだ。
 メンバーはほんと弱い。ほんっっっ・・・・・・・と弱い。カカカッ!最弱ギルドだ!
 そしてなんてったってギルマスが弱い。一人じゃルケシオンの外も歩けない腰抜けギルマスだ。
 ウッドダガーとバグラーチュニック(賊11服)で攻城戦に出るわ、
 その上文房具より使えねぇほど役に立たない。なんでギルマス?って奴だ」
「はぁ・・・とにかくコンスタンスさんはその《ボトルベイビー》のメンバーなわけですね」

まぁつまり・・・弱い人がギルドマスターの弱いギルドの人なんだな・・・・

「なーにぃ?文句あるの?」

アレックスの目線に気付き、
コンスタンスはアレックスを睨んだ。
アレックスは慌ててチャーハンを掘る事を再開した。

「まぁいいわ。それより・・・・・・・・・」

突然コンスタンスはキョロキョロと辺りを見回す。
店内の隅々に目線を送る。
何かを探しているかのようだ。
そしてキョロキョロとしたままコンスタンスは問う。

「メッツは?メッコーはどこにいんのよ!?」

コンスタンスは探すのをやめない。
先ほどまでのドジャーへの険悪な態度から豹変し、
女の子っぽい少し高い声で「メッコーメッコー」と連呼していた。
まるで狂ったニワトリのようだ。

「コンスタンスさん。メッツさんなら家にい・・・・」
「馬鹿っ!言うんじゃねぇよアレックス!?」
「え?なんでですか?」

「ちょちょ、今メッコーはどこって言った?」

「え・・・・」

アレックスは困ったようにドジャーを見たが、
ドジャーはゆっくりと首を横に振った。

「家ね!」

聞こえてたんじゃないか・・・・

「家ってドジャー!あんたまだ昔の古臭い家に住んでるのよねっ!?」

「古臭いとはなんだ!」
「まぁたしかに古臭いですね」
「居候のお前が言うなアレックス!」

「あの家にいるのね!!!」

「しまっ!?」

ドジャーが「イ゙っ」と思った瞬間。

「メッコォオオオオ〜〜〜〜!あたしのメッコォオオオオオ〜〜〜!」

狂ったニワトリは突然椅子から飛び上がり、
有無もいわずに走り出した。
そして気付いたときには店からも飛び出していた。
店の外からどんどんフェードアウトしていく「メッコー」という鳴き声。

「あちゃぁ〜〜・・・・」

ドジャーは頭を落として片手で顔を覆った。

「なんなんですかドジャーさん?コンスタンスさんはメッツさんを探しに行ったんですか?」
「あぁそうだ。当たり。ま、俺の気持ちは大ハズレを引いた気分だけどな・・・・・・」
「なんなんですか?"メッコー"って・・・・・」
「それ自体はただのコンスタンスにとってのメッツの愛称だ。・・・・・・だが問題もまぁそこだ。
 あのガキ・・・・コンスタンスはメッツが好きで好きでしょぉがねぇんだ・・・・・」
「うへぇ〜・・・・・・」

メッツさんが好きかぁ・・・・・
まぁ"男らしさ"の面でいったらメッツさんはこの上ないだろうけど、
女の子が惚れるようなタイプには見えないけどなぁ・・・・。
目が悪いのかな?
ドジャーさんはともかく、
僕みたいなカッコカワイイ騎士がいるのに興味なさそうだったしなぁ。

「・・・・・・・アレックス。お前、アホな事考えてるだろ?」

ドジャーが言う。

「いえ、リアリティ溢れる考え事をしてただけです」

アレックスは自信満々に、
かつ笑顔でニコリとドジャーに返した。

「・・・・・。いや、ま、とにかく大変なんだ!家帰るぞ!」
「え?大変なんですか?」
「大変なんだ!いけば分かる!すぐ行くぞ!」

ドジャーが店の出口へと急ぐ。
すると店主のマリナが叫ぶ。

「ちょ、ちょっとドジャー!勘定は!」

「今日はツケで!!!」

「・・・・・・今日"も"でしょ・・・・・・」






















「ったく」

メッツは家の居間でウロウロしていた。
寝起きで少しかゆいドレッドヘアーを片手でかきあらし、
もう片手には火のついた煙草。
煙草の灰がたまったときだけ灰皿に近づき、
またウロウロしていた。

「俺が寝てる間にドジャーとアレックスの野郎どこ行きやがった・・・・
 あいつら起きた時に家に誰もいなかった子供の気持ち考えた事あんのかコラァ!!!」

自分は十分すぎるほど大人のクセに、
というより人一倍体が大きいクセに子供を引き合いにだすのはどうとも思う。

「クソォ!アレックスが居候してからいつの間にか俺の部屋とられちまってるし!
 まぁ入院生活ばっかしてたし家に帰ってこない俺が悪いんだけどよぉ!
 それでもなぁ!なんで俺が地べたで寝なきゃなんねんだオラァ!!!
 普通居候のアレックスが地べただろ!俺ぁベッドじゃないと安眠できえねぇんだコラァ!!!」

メッツが地団太を踏む。
ベッドじゃなきゃ安眠できないメッツ。
豪快な性格のクセに変なところだけデリケートだ。

「いや、お門違いか・・・くそぉ・・・アレックスの野郎口うめぇからなぁ・・・・
 たしかうまい事いいくるめられて部屋とられたんだったなぁ・・・・
 うぁっ!それよりまさかあいつら"Queen B"に飯食いにいったのか?
 クセッタレ!俺だってマリナに会いた・・・・じゃなくて腹へってんのによぉ!」

と、イラつきながらメッツが灰皿にタバコを押し付けようとした時だった。
玄関のドアチャイムが鳴った。
ベルの綺麗な音が鳴り響く。

「んあ?帰ってきたか?」

メッツはタバコを灰皿に投げ捨て、
玄関のドアノブに手をあてようとした。
が、
その前にベルのチャイム音が加速しはじめた。
連呼されるベル。
悪質な嫌がらせ級の連呼。
そしてそれと同時に、

「メッコォー!!!メッコォオオオオーーーー!!!!!」

あまり聞きたくない声が聞こえた。

「げ・・・・コンスタンスか・・・・・・」

メッツはドアノブから手を離し、
後ずさりした。

「メッコーメッコーメッコォーーーーーー!!!!!」

まるで借金取りのようだ。
いや、借金取りよりある意味大変だ。
メッツは物音をたてないようにする。

(あいつは苦手だからな・・・・)

居留守を決め込もうとした。
それが最善の策だからだ。

「メッコーメッコー!!!いないのー!?留守なのー!?」

「留守ですよーっと・・・・・・・あっ・・・・・」

「メッコー?!!??!メッコーの声?!」

「しまっ・・・・」

ドアを叩く音。
入りたがっている。
いや、むしろドアごと突破して入ってくる気だ。

「クソっ!」

メッツは体ごとドアに張り付く。
メッツのパワーある体でのバリケード。
相手は女の子だ。
さすがに突破できないだろう。
コンスタンスはドアの向こうで押し開こうとするが、
ビクともしない。

すると、
数秒も立たないうちに静かになった。
嵐の後の静けさといった感じだった。

「・・・・・・・諦めて帰ったか?」

と、メッツが思った次の瞬間。
横の窓が大きな音を立てて割れた。
パリーンと豪快に。
そして蹴り飛ばしたサッカーボールのように、
一人の小さな女が窓から転がり入ってきていた。

「・・・・マジかよ」

コンスタンスは「いてて」と痛がりながらも、
顔だけ上げた。
そして

「メッコォー!!」

歓喜の声。
コケコッコー。
次の瞬間にはもう遅い。
コンスタンスはメッツに飛び掛っていた。

「ちょ、コラぁ!!!!???」

だからもう遅い。
コンスタンスはメッツの大きな腕にしがみついていた。
メッツが「離れろ!」と叫んで腕をブンブンと振り回しても、
小柄なコンスタンスはまるで装備品のようにくっついて腕から離れない。

「だぁ〜〜〜!!!!離れろコラァァァアアア!!!!」

メッツには学習能力がないのだろうか。
ブンブン振り回してもコンスタンスが腕を離れないものだから、
今度はさらに大きくブンブン振り回した。
もう大扇風機。
グリングリンの腕を回転させる。
腕と共に頭のドレッドも揺れ回っていた。
その勢い・・・・。
たまたま通りすがりのノカンとかが頭をぶつけたら死んでしまいそうな勢い。
が、

「メッコォ〜〜〜♪」

離れない。
この装備は呪われているのではずせない。


「メッツさん!」
「メッツ!!こっちにコンスタンスが・・・・」

アレックスとドジャーが玄関に駆け込んできたが、
すぐに中の様子を見て足を止めた。
そしてドジャーはまた片手を顔にあてる。

「遅かったか・・・・」
「なんですかこの状況・・・・あのメッツさんのとんでもスーパーアームにへっついてる女の子・・・
 あの状況でも腕から離れないなんてコンスタンスさんはコアラか何かですか?」
「だぁ〜〜〜〜!!!助けてくれドジャァアア!!!アレックスゥウウウウ!!!!」

メッツが腕を振り回しながら懇願する。

「メッコォ〜♪」

腕から聞こえる嬉しそうな声。

アレックスとドジャーは「うぅん」と腕を組んで考えた。






先にアレックスがドジャーに意見を言う。

「無理矢理引き剥がしたらどうですか?」
「カッ、それができたら苦労しねぇよ。
 あいつあんなんでもリベンジスピリッツが得意でな、
 メッツの馬鹿腕大回転を超える力で引き剥がそうとして下手したら・・・」
「リベンジスピリッツによるトリプルクロスカウンターをモロ・・・・・ですか・・・・・」
「そういうこった・・・・」
「無理矢理にはがせないなんて呪いみたいですね・・・・・デロデロデロデロデッデレン」

アレックスとドジャーはそう言いながら同時にため息をついた。

「はーなーれーろーコラァァァアア!!!」

「いーやーぁあーーーー♪」

コンスタンスはメッツの腕にしがみついたまま、
回転しながら嬉しそうに返事する。
もうどうやったって剥がせる気がしない。
それを見てアレックスはポンッと手をたたき、
ドジャーに意見を言った。

「僕にいいアイデアがありますよドジャー」
「ん?なんだ」
「もうほっときましょう」
「ぉお。ナイスアイデア。他人事っちゃぁ他人事だしな」

アレックスとドジャーは同時にくるりと背を向けた。
そして家から出て行こうとした。

「だーずーけーでー・・・・」

ゴツい体した男から情けない声が聞こえてくる。
普段はコワモテのメッツ。
だがそれは、
道を歩いてたら勝手に人が避けてくような男の声ではなかった。
女の子に振り回されてる男の声。
物理的には振り回してるわけだが・・・・

アレックスとドジャーはまたため息をついた。
そしてアレックスの提案2。

「メッツさん。一番手っ取り早い方法があります。少々危険ですが・・・・」
「なんだ!?コンスタンスが離れるならなんでもいいぞ!言えコラ!」

メッツは腕を回すのをやめる。
プラーンと下がる腕には、
まるで抱き枕を抱きしめるようにコンスタンスがくっついていた。
アレックスが笑顔で言う。

「メッツさん。片腕くらい無くなってもいいですよね?」
「ちょ、アホかコラァ!!!」
「んじゃ僕の提案はもうないです」
「・・・・・・・・・」

メッツはドレッドヘアーを垂らしてうつむく。

「分かった・・・・人思いに切ってくれ・・・」
「ちょ!メッツさん!冗談ですよ!」
「うぅ・・・」

本気で困っているようだ。
そんなメッツに・・・・・いや、コンスタンスに、
今度はドジャーの提案。
ドジャーはコンスタンスに対して言った。

「ほれ、馬鹿娘。メッツより俺のがイカすだろ?どっからどう見ても色男だ。
 だからメッツから離れな。な?ほれ、こっちこいや」

「うっさいこのモヤシ男!」

コンスタンスはメッツの腕にくっついたままアッカンベーをした。

「・・・・ッ!!!」

ドジャーの額の血管がピシりと鳴ってはいけない音を奏でる。
そして瞬時にドジャーはダガーを構えた。

「へいベイビィ・・・・殺して剥がすって手もあんだぞ・・・・」
「まぁまぁドジャーさん・・・」

アレックスはピキピキとキレかけのドジャーをなだめ、
今度は自分が前に出てコンスタンスに話す。

「コンスタンスさん。どうですか。僕みたいにカッコカワイイ騎士とか・・・」

「うるさいこの食いしん坊大王め!ディドでも食べてろ!」

「・・・・・・ッ!?」

アレックスの額の血管が鳴ってはいけない音を奏でた。
そして背中から槍を取り出す。

「女の子はどんな味がするんでしょうね・・・・・」
「ちょ、落ち着けアレックス・・・・」

目の据わっているアレックスを、
ドジャーがなんとか後ろから押さえつける。

「まったく馬鹿な人達ね」

コンスタンスがメッツの腕にしがみついた格好で言う。
締まらない。
だが、そんなコアラポーズのままコンスタンスは話を続ける。

「あたしとメッツの"らんでぶー"をあんまり邪魔しないでくれるぅ?
 まったく。これだからお子ちゃまは嫌いなのよねー」

「なっ!誰がお子ちゃまだこの馬鹿娘!お子ちゃまはお前だろがお前!
 年齢も見た目も全部がぜぇーんぶな!」

「あっ!そんな事いうとぉー・・・・」

コンスタンスはメッツの腕にしがみついたまま、
片手で十字を切った。
と思うと、
次の瞬間手のひらをあらぬ方向に向ける。

「おわっ!お前!」

威力は低いがプレイア。
それは食器棚にぶつかってはじけた。
破壊音というには可愛らしく、
それでいて楽器のような綺麗な不協和音が奏でられる。
皿という皿が割れた。

「あ゙ぁあああ!この馬鹿娘っ!うちの食器になんてことをぉおお!」
「ま、まぁまぁドジャーさん・・・子供のしたことですし・・・
 それにたかが汚い食器じゃないですか・・・」
「アホっ!明日からお前何で飯食う気だ?!」
「!?・・・・・・・・コンスタンスさんっ!あなたなんてことをっ!」

「へっへぇーん♪怒れ怒れぇ〜♪そぉ〜っれもう一発〜〜!!」

もう一度放たれるプレイア。
今度は窓ガラスを割られる。
コンスタンスは入ってくる時にも割ったので、
これで二枚の窓を割っている。

「だぁ〜〜〜?!てめっこの馬鹿娘がぁぁああああ!!!!」

ドジャーがとうとうキれ、歩み寄る。
それはもちろんメッツの腕にしがみつくコンスタンスに。

「ちょ、ちょ、こっちこないでよっ!」

「無理だな。我慢の限界だ」

「あたしにはリベンジスピリッツがあるのよ!得意技よ!無理すると・・・・」

と、言いかけているコンスタンス。
ドジャーはそのコンスタンスの襟を掴み、
無理矢理引き剥がした。

「あぁ〜ん!!!」

ドジャーに襟をつかまれ、
UFOキャッチャーのように宙吊りになるコンスタンス。
ジタバタと足をばたつかせて抵抗するが、
そのコンスタンスにドジャーの顔が近づいた。
顔間30cmの距離でドジャーはイヤみったらしく言い放つ。

「てめぇの魔力なんざプレイア二発程度で切れる事ぁお見通しなんだよバァーカ」

「むぅ〜・・・・」

勝ち誇ったドジャーの顔。
コンスタンスはそのドジャーの顔を思いっきり・・・・
ひっかいた。

「ぐぁ!ッつ?!」

その拍子にコンスタンスはドジャーの腕から逃れた。
そしてアッカンベー。

ドジャーの怒りが頂点に達する。

「トサカにきたぞこのクソ娘がぁぁあああ!!!」

怒りでヘルリクみたいな色になってるドジャーの顔。
怒れるドジャーは、
有無を言わずにコンスタンスに飛びつく。
そして今度はコンスタンスの胸倉をつかみあげる。

「てめっ、子供だからって容赦してもらえると思うなよ!
 これから地獄のようなご馳走をくれてやるからなっ!
 フルコースだ!楽しみにしてやがれ!お前の泣き声が調味料だ!」

「ふーん。あたしをこらしめる気ぃ?
 それはどーかなー。多分"逆"になると思うんだけどぉ〜?」

「あん?・・・クッ・・・カカカッ!!!この状況でお前がどうやって俺をこらしめ・・・・・」

ドジャーはふと視線を落とす。
本当にふと視線に入っただけなのだが、
それはWISオーブ。
それが地面に転がってる。
だが、ドジャーのではなく。
アレックスのでもメッツのでもない。
じゃぁ誰の・・・・
決まっている。
今胸倉を掴んでいるこの小娘のものだ。
そしてドジャーはハッっとしたのと同時に・・・・
イヤな汗が出てくる。

「てめっ・・・・まさか・・・・"連絡したんじゃねぇだろうな"」
「なっ!マジかよ!?連絡しやがったのか!?」

「さぁーねぇ♪」

「ちょ、冗談じゃねぇぞ!」
「やべぇ、どーすんだドジャー?!」
「ちょっと・・・ドジャーさんメッツさん。どうしたんですか?
 まるで地震でもくるみたいに慌てて・・・・」

「ばっ、地震ならまだマシだ。地震より雷より火事より怖いやつだ!」
「?・・・えぇーっと・・・なんですかそれ?地震・・・・雷・・・・火事・・・・・おや・・・・」

「主婦よ」

突然。
アレックスの背後から声が聞こえた。
アレックスが振り向くと、
そこ、玄関には一人の綺麗な女性が立っていた。
若々しい感じはするものの
アレックス達より一回りほど年上だろうか。

「ち、違うんだティル姉!」

ティル?
酒場の時の会話からすると、
この人がコンスタンスさんのお母さんという事か。

「これには訳があってよぉ・・・」

ティルはまだ何も言ってないのに、
メッツは両手で激しく否定を表すように振りながら、
後ずさりする。
あのメッツが無条件に恐怖している。

「訳?訳ならまずドジャーの両手で掴んでるものを説明してもらうかしら?」

ドジャーはまだ自分がコンスタンスの胸倉を掴んでいる事に気付く。
そして慌ててそれを離し、
自分の両手を後ろに隠して笑顔を送った。

「違う違う!違うんだティル姉!これは・・・あぁ〜・・・ダンス!ダンスの練習だ!な、メッツ!?」
「そ、そうそう!コンスタンスがダンスを覚えたいっていうからよぉ・・・な?コンスタンス?」

だがもちろんコンスタンスはそれに同意せず、
そっぽを向いていた。

「なるほど、またうちの子いじめてたわけね悪ガキ坊's」

「だだだだだから!違うんだって!」

言い訳無用と言わんばかり。
ティルは歩み寄る。
まるで強大なモンスターが歩み寄ってくるかのような迫力があった。
知らないながら圧倒されるアレックス。
そのアレックスの横をティルは通過し、
メッツの目の前で止まった。
メッツの方が身長があるのに、
まるで見下ろしているようだった。

「え・・・えっと・・・わ、わりぃ・・・・謝るってティル姉ぇ・・・」

とりあえず謝るメッツ。
だがそんなメッツのドレッドヘアーを
ティルはおもむろに鷲掴みにした。

「謝罪は相手に頭を下げる事」

言ったと同時。
ティルはもう片方の手でメッツの腹にボディブローを決める。
メッツの鉄のような腹筋を貫いて主婦の拳が突き刺さる。
メッツは「うごぉ・・」とうめき声をあげて膝を落とした。

「分かったら外で頭を冷やしなさい」

そう言って、
メッツの頭を掴んだ片手。
それをブゥンと振り切る。
投げた。
188cmの筋肉の塊を。
片手だけで。

メッツは情けない格好で宙を舞い、
窓から外に飛んでいった。

「次!ドジャー!」

ターミネーター・・・じゃなかった。
ティルは今度はドジャーの方を向く。
ドジャーはすでに両手をあげていた。
降参のポーズ。
そして顔はひきつった笑顔になっている。

だがティルは拳に息を「ハァ・・」と吹きかけたあと、
拳を振り上げた。
ターゲットは間違いなくドジャーの頭だろう。

「こ、降参・・・・」

「却下」

拳が振り落とされた。
それはまるでフライパンを打ち鳴らしたような音を奏で、
ドジャーは両手をあげたままドサッと崩れ去った。
白目をあげて倒れる情けなさ。

「まったく・・・」
「マァマァ〜〜〜!!!」

両手を砂を落とすようにパッパッと手払うティルに、
コンスタンスが駆け寄り抱きついた。

「怖かったよぉ〜」
「そうかいそうかい」

ティルはコンスタンスを優しく抱きしめてあげた。
そして言う。

「でもあんたもどーせ迷惑かけたんでしょ!」

と言って我が娘の頭を軽く小突いた。
コンスタンスは「あてっ」っと頭を抱えた。

「喧嘩両成敗よ」

成敗がつりあってない気がする・・・・

そんな顔をしているアレックス。
そんなアレックスのほうに、
ティルの顔が振り向いた。
一人の主婦がこっちを向いただけなのだが、
アレックスは焦り、
とりあえず・・・・

「あ、え、えぇーっと・・・僕はアレックスといいます。始めまして・・・・」

「??・・・・・・・・悪ガキ坊’sの友達かなんかかしら?」
「ただの食いしん坊だよママァ」
「あら、食いしん坊なの?」

「あ、いえ・・・・僕はドジャーさんの家に居候してる身でして・・・・」

「あらそう」

そう言いつつ、
ティルは足にしがみついているコンスタンスを離す。

「じゃぁ挨拶が必要ね」

といいつつ、
ティルは首を、そして拳をコキコキと鳴らす。
嫌な予感がする・・・・・。

「初対面だからって特別扱いはしないわ。あなたも同成敗よ」

「え・・・・」

「おしおきの前に何か言い訳ある?」

停止しそうなアレックスの頭。
だがフル回転していろんな言葉が頭を渦巻いた。
普段悪知恵の働くアレックスの頭。
それがこの最悪の窮地を脱出するためにフル回転する。
そして一つの答えを導き出した。

「ぼ、ぼくは関係ないですよ・・・・」

「30点ね」

ティルが拳を構える。
アレックスは覚悟した。

「死んだら経験でお願いします・・・」

「了解」

主婦の拳が振り切られたのと同時に、
アレックスはまるで虹の弧を描くように吹っ飛んだ。
そしてフル回転していた思考が
完全に停止した。

「マァ強ぉ〜い!」
「当たり前よ。主婦は強くてなんぼよ」
「あたしも強い主婦になれるかなぁ〜?」
「ハハッ!さぁてね。まぁ私に似て強い女にはなると思うけどね」

そう言いつつ
ティルはコンスタンスのWISオーブを拾い、
そしてピポパとどこかにWIS通信をかける。

「あ、マリナかい?私よ私。あぁん?私つったら私よ。そそティルよ
 今ドジャーん家なんだけどすぐ来て。え?屍拾って欲しいだけよ。
 そそ、ドジャー達の。・・・・あ?仕事中?知るか!先生の言う事聞けないのか!?
 この町での女の生き方のノウハウを教えてやったのは誰だと思ってるの?!
 分かったらさっさと来る!デス・オア・カモン!オウケイ?!!!」

そのまま一方的にWISオーブを切る。

「ママァー?メッコォーだけ拾ってっていい?」
「あぁん?またオモチャにする気かい?ったくこんな男のどこがいいんだかねぇ
 私みたいに将来未亡人にならないか心配でたまらないよ」




















-翌日-



「・・・・・・・ててっ」

アレックスは起きるなりティルに殴られた頭をさすった。

「あ、起きたわね」

アレックスはビクっとする。
短い間にティルに対しての恐怖を植えつけられたからだ。
だが声はティルではなくマリナだった。

「さっそくティル姉さんの洗礼を受けたらしいわね」

マリナは笑顔で椅子から立ち上がった。
アレックスは割れたままの窓の外を見た。
もう次の日の夕方のようだ。

「起きたみたいだから私はもう行くわ
 酒場の開店の時間だからね。ドジャーも適当に起こしておいて」

「え?メッツさんは?」

「あぁコンスタンスちゃんに連行されたみたい。
 まぁ3日間は監禁でオモチャにされてるでしょうね」

アレックスはぞっとする。
あの子供の相手をするだけなのに、
なにかあったらあのターミネーター主婦の天罰を受けるのだ。
アレックスは心からメッツの不幸を哀れみ、
右手で十字を描いてアーメンと祈った。

「あ、そうそう。そういえばティル姉さんから伝言よ」

「え?僕にですか?」

「そうそう。
 "あの新悪ガキ坊’sの食いしん坊に今度うちに遊びにきなさいって言っておいて"
 ・・・・・・・・・だそうよ。多分ハンバーグをご馳走してくれるんじゃないかしら?
 あのハンバーグは絶品よ。地獄に夕飯を食べに行くのもアリだと思うわ」

「・・・・・・」

アレックスは、
生まれて初めておいしいご飯だろうと食べに行きたくないと感じた。














                 






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