「タバコの使いもロクにできねぇのかテメェは!?」

鈍い痛み。
おもくそに殴られ、
リュウは吹っ飛んだ。
部屋の障子にぶつかり、
障子は破れ、骨木は砕け、
リュウは衝撃で頭を怪我し、流血した。

「俺はタール12mlの"巨石"を買ってこいっつったんだ"竜の字"!
 "マイソシア3"なんて甘ったるいヤニ買ってきやがって!」

「売り切れてたんでさぁワシオ組長・・・・」

「じゃぁ探して持ってこんかい!」

そう言い、組長ワシオはリュウの顔を蹴飛ばした。
すでに流血していたリュウの顔を蹴られ、
血しぶきが飛び散った。
だが組長ワシオは何一つ気にしない。
それどころか血だらけのリュウの首根っこを掴みあげ、
顔を近づけてさらに怒鳴る。

「竜の字よぉ。おめぇはこの《小鷲組》の盃(さかずき)ぃもらったもんだろ。
 そしたら親の命令は絶対だ。親の俺がヤニ買ってこいっつったら死んでも買ってこい」

リュウは、
首根っこを掴まれたまま、
血だらけになりながら、
それでも臆する事なく落ち着いて返す。

「ワシオ組長。あっしが盃(さかずき)を誓ったんは《昇竜会》にでさぁ・・・・」

「同じこったろが!《昇竜会》直系《小鷲組》ぃ!おんどりゃその構成員だ!
 そんでこの俺が仕切る《小鷲組》でシャリ食ってんだろが!
 食わせてもらってる子は文句言わずにただ親の言葉に従いやがれ!」

「・・・・・・・」



リュウが黒いスーツを着るようになってから10年以上たっていた。
もうすぐ年も二十代も半ばを過ぎる。
まぁガキの頃から極の道を歩んできたことになる。

が、そんな長い年月ヤクザをやっていれば、
どんな若かろうがさすがに舎弟がついてもおかしくない。
だがリュウは全く出世できないでいた。

厳しい極道。
この曲がった道の中で、
リュウの真っ直ぐさは浮いていた。
それはすぐに目に付き、
他の極道の反感を買う。

組長に殴られる蹴られるは毎日と言ってもいい。
身内に骨を折れたなんてそう珍しい事でもない。

ここにはリュウの欲しいもの。
義理と人情なんてものはカケラもなかった。



リュウは何も返事をせず、
ワシオ組長の目を見ていた。

「その目つきが気に入らねぇんだよ!」

そう言い、
ワシオはリュウを乱暴に突き出した。
リュウは壁にぶつかる。
だからと言って文句をいう事も許されない。
許されていたとしても、
リュウの確固たる意思はそれをしなかっただろう。
だが、
リュウが口を出す場合は大概こういう時だ。

「おい野郎共。ゴト(仕事)行くぞ!」
「「「へい」」」
「今日は11番街の雑貨屋いくからな!ミソギ徴収すっぞ!」

「待ってくだせぇワシオ組長!」

リュウは膝に手を当て、
頭を下げてワシオに話しかけた。
血を地に垂らしたまま。

「なんや竜の字!まだなんかあんのか!?」

「あの雑貨屋は指定のミソギを払ってるはずでさぁ・・・・・
 必要以上の金とるんわ筋が通ってやせん。仁義に反しやす。
 考えを改めなすっちゃぁくれやせんでしょうか・・・・・・・」

「なめとんかワレ!?」

組長ワシオは突然机の上の灰皿を手で掴み、
それをおもくそリュウに投げつけた。
流血しているリュウの頭にそれが直撃する。
さすがのリュウも、
この衝撃で頭をやられ、
ドサっと倒れた。

「甘っちょろい事言ってんじゃねぇぞ竜の字!!
 お前まさか極道入っといてピンフ(平和)やら説こうとしてんと違うだろうな」

またワシオはリュウの側へ寄り、
倒れたリュウの頭を、
髪の毛の握って持ち上げる。

「いいか竜の字。よぉ聞け。極の道に必要なのは善行じゃねぇ。さらに悪行でもねぇ
 ただ必要なのは主従関係だ。親の命令だけ聞いてそれを行う。それだけだ
 それだけできりゃぁ楽しく生きれるし出世もできる。
 だがお前は仁やら余計なもんでそれを拒む。だからテメェは万年構成員止まりなんだ!!!」

リュウはクラクラする頭で、
なんとか返事する。

「・・・・でも・・・・・あっしは・・・・・それでも筋の上を歩みてぇんでさぁ・・・・・・」

「じゃぁ三途の上でも歩いてろ!」

そう言い、
ワシオはリュウの頭を地面に叩きつけた。
リュウの意識はそこで途切れた。

















目が覚めた。
リュウは布団を跳ね除ける。
勢いよく上半身を起こす。

が、あれだけ頭を打ち付けられたのだ。
まだ頭がクラっとした。
毎度の事だが本当に三途が見えた気もした。
しかも痛みは頭だけではない。
体中から痛みが走った。

どうやら気を失った後も何度も痛めつけられたようだ。

「目ぇ覚めたかリュウ坊」

フラつく頭を右手で支え、
声のした方を見る。
そこには1人の男がいた。

「ナカゴヤの親っさん・・・・」

それはタツノスケ=ナカゴヤ。
《昇竜会》の大親。
総会長。
数百〜千とも言われるヤクザ会の頂点の男である。

「またワシオにこっぴどくやられたようだな」

そう言い、
ナカゴヤは冷えたオシボリをリュウに放り投げた。
リュウはそれを受け取り、額に当てた。


リュウは昔ナカゴヤに命を助けられた事があった。
恩義を感じ、
それでいて尊敬もした。
そして《昇竜会》へ入る事を決めたのだった。
他のヤクザと違い、ナカゴヤは敬に値する男だ。
仁義を知り、
義理と人情を愛する男。
リュウはこんな男になりたかった。

そんな素晴らしきヤクザが布団の上のリュウに言う。

「リュウ坊。お前さんは真っ直ぐすぎる。
 他の"子"ぉ共にゃぁそれがどうしようもなく煙たいんだろう。
 少し肩の力を抜いてみたらどうだ?」

「ですがぁ親っさん。あっしはあんたみてぇな男になりてぇと思ったんでさぁ。
 後生。この恩をあんたに捧げると決めたあの日から、あっしゃぁあんただけを見てきやした。
 義理と人情を志し、何事も筋を踏み外さねぇあんたみてぇになりてぇと思ったんでさぁ
 この気持ち。お分かりなすっちゃぁくれやせんか」

「まぁそうだろうな。その芯たる心。そう曲げられないのがお前だからな」

ナカゴヤはそう言い、穏やかに笑った。
そしてタバコを手に取る。
リュウはすぐさまライターを取り出し、
頭を下げながら火を差し出した。

「この献身さ。ワシオ相手にもできねぇのか?」

ナカゴヤはそう言って煙を吐き出した。

「・・・・・・・無理でさぁ。ワシオ組長にはどうやったって敬の念を持てやせん。
 あん方のやり方は筋が通ってねぇ。仁もない。
 あの親子の主従関係は義理じゃぁねぇ。義も理もないもんですからねぇ
 お仏が説いたとしてもどうやったってテウチできない道理ってなもんで・・・・」

「そうか・・・」

「ナカゴヤの親っさん!あっしは親っさんの下で五体を削ってでも働きてぇんでさぁ!
 親っさんのために手となり子となり血となり!後生を全てをそそいだっていいんですさぁ!」

「《小鷲組》も《昇竜会》の傘下だ。直系の下で働くのは俺の下で働くのも同じだ」

「親っさんの《昇竜会》はたしかに十数の組を傘下に置く大ギルドでさぁ・・・・大変なのも・・・・」

「リュウ坊」

ナカゴヤは強めにリュウの名を呼んだ。
目は真剣だった。
そして突然自らの上着を投げ飛ばし、
背をリュウへ突きつけた。

そこには、
鮮やかで豪快な

竜の刺青があった。

「これが見えるだろう竜の字」

「・・・・・・へい」

「竜ってのはな。鯉だ」

「鯉?」

「そう。鯉が登竜門という滝を登り、そして竜になる。
 華やかだが弱弱しい。地の下、水中を泳ぐだけの鯉だった者が、
 世界を一つ見下ろす大空を駆け巡る王者に成り果てる。俺もそうだった」

「あっしも・・・・竜になりてぇもんでさぁ」

「だがなリュウ坊。最初から竜として生まれてくるやつなんざぁいねぇ。
 始まりはいつも水の中だ。鯉として。またはタツノオトシゴなんて生き物もいるな。
 水の中を知っているものだけが大空を駆け巡る者になれる道理がこの世のツネだ。
 地の下できっかり根を張ったものだけが、上へ向かって伸びる大木になれるようにな。
 極道も一緒だ。いや、堅気の親子関係でさえな。
 人は生まれたら最初は必ず"子"だ。長き"子"の時代を生きてからこそ"親"になれる。
 "子"を知らない者は大きな親にはなれん。子を知れリュウ坊。お前にはそれが必要だ」

「・・・・・・・・・分かりやす親っさん。心に響くお言葉を頂戴できてありがたいもんでさぁ。
 ですがぁナカゴヤの親っさん・・・・。子は・・・いつの日も親を選べないもんなんでしょうか
 ワシオの組長のような筋のない親の子でいたくはないんでさぁ・・・・」

「だからお前は子の気持ちを知り。いい親になれと言っている。竜になれリュウ坊」

「・・・・・・・・・」

「それと一つ勘違いをしているぞリュウ坊」

「はい?」

「お前は俺の子だ」

「親っさん・・・」

「リュウ。いい名じゃないか。自信を持て。何かの因縁か、俺と同じ"竜の字"をもってるんだ。
 このタツノスケ=ナカゴヤとな。それにいい眼を持ってる。竜の如く強き目だ。
 お前はいい竜になれる。いつの日か、この《昇竜会》を背負えるほどにな」

「親っさん!!!」

リュウは布団から飛び起き、
膝に手を当て、
頭を下げて話す。

「名はリュウ。性はカクノウザン。手前不肖ながら《昇竜会》の血になったもんでさぁ!
 そして恩親が言うならば、あっしは竜になりやす。あっしが持つのは竜の眼ではなく竜の芽。
 育てと言われりゃ育ちましょう。昇れと言われりゃ昇りやしょう。
 子が故、親がため命の限り。そしていつか大木のような竜になってみせまさぁ!」

ナカゴヤはフッと笑った。

「長生きしたくなるな。お前を見届けたいものだ」

「そんな親っさん。まだ45でしょうや。花散らぬ年。
 三途に寄るにゃぁまだまだ早いってなもんです」

「そうだな。だが、水を出て空に飛び立つと・・・・・・・・・・・・逆に空の川が近くなるもんでな」

































「会長が死んだ!!」
「毒殺らしいぞ!?」

数日後だった。

その日。
《昇竜会》全体は騒ぎという名の祭に飲まれた。

最頭が死んだ。
タツノスケ=ナカゴヤ。
あまりのあっけない死に様。
それも状況からいって他殺。
内部の犯行。

騒ぎは尋常じゃなく、
その日、
《昇竜会》全構成員が闇市場(ブラックマーケット)に集められた。

「親殺しだ!親殺しが起こったぞ!」
「犯人は誰なんだ!?」
「そんなもん組会食の途中に死んだんだ!直系のどっかの組のもんに決まってる!
 どっかの組長だ!あの日は全組長が出席していた!」
「どこのモンだ!?《青波組》か?」
「ち、違う!うちはタスノスケの親父に信服していた!」
「じゃぁ《星野組》だろ?!」
「ばか言え!同じルアス地区なら《虎神組》や《焼燕組》。《巨仁組》だって怪しいもんだ!」
「一番席が近かったのは《小鷲組》だぜ!」
「仲悪かった《赤帽組》や《白虎組》が権力増強のためにかもしれねぇぞ!」

口々に暴言を投げかけあう。

リュウは・・・・失望した。

あまりに大きなものを失ったせいで、
涙で濡れ果てている自分の瞳。
それを通して見えるくだらない人間達。

自分の恩親が死んだのだ。
なのにこの者達は、
それを悲しむより先に誰が殺したとかそんな話ばかり。

涙の一つも知らないのかこいつらは。
きっとこの後はこんな話になるに違いない。

"誰が継ぐか"

そしてそれはリュウの予想通りになった。

「次の会長は誰になるんだ?」
「そんなもんこの《小鷲組》にきまってらぁ!《昇竜会》直系の中で一番権力がでけぇんだからな!」
「黙れワシオ!!そんなもんテメェが勝手に言ってるだけじゃねぇか!」
「勢力で言ったらスオミを単体で担当しているこの《青波組》だろ!?」
「いや!ナカゴヤの親父貴が掲げていた仁を掲げるこの《巨仁組》が正当だ!」
「竜の後はやっぱ虎だろ。この《白虎組》が・・・」
「《虎神組》だって虎だ!」

くだらない・・・
くだらなすぎる・・・・
なんてやつらだこいつらは・・・

親が死んだってのに、
代わりの親を決めようとしている。
親から多くのものをもらっておいて、
その孝行な気持ちはないのか。

「ナカゴヤの親っさん・・・・あんたが望んだのはこんな家族なんですかい・・・・」

リュウはタツノスケ=ナカゴヤの事を思い出す。
素晴らしい人だった。
敬の念を払っても払いきれないお人だった。
苦しい極道生活を強いられていた自分が、
頑張れる兆しをくれる唯一の存在。
それはある種の神。
竜という神話のようである。

「周りがこれだから・・・・あんたはあっしに竜になれと言ったんでさぁね・・・・」

その時だった。
闇市場全体が騒然とした。
どよどよとしている。

理由はすぐ分かった。
1人の男がなにやら紙を持って叫んでいる。

「遺言だー!!遺言が見つかったぞー!!!!」

遺言?
殺された者が遺言?
いや、ナカゴヤは生前リュウに話したことがあった。
自分の死を予言しているような事を。
分かっていたのだ。
自分が傘下の組長の誰かに・・・・・・自分の息子達の誰かに殺されることを。
だから用意してあったのだろう。

遺言書を持ってきた男が叫びながら遺言書を開いた。

「読み上げる!!!」

闇市場全体が静かになった。
そんな中、
その男の言葉だけが数百の男達の耳の興だった。

「もし私が死んだ場合の跡継ぎは・・・・・・・・・・・《小鷲組》とする」

「っしゃぁあーーーー!!!!」

1人の男が歓喜の声をあげた。
ワシオ組長だった。
その声を愚かだった。
ナカゴヤ会長が死んだ事に対する悲しみが一切含まれておらず、
まるで宝くじが当たったかのような純粋なやらしい笑みだった。

リュウは不快でたまらなかった。

「ハッハー!聞いたか野郎共!今日から《昇竜会》はこのワシオ様のもんだぁ!
 いや、むしろ《小鷲会》に改名するかな!
 いいか!この俺のいう事は絶対だからな!なんたってお前ら全員の親・・・・」

「だが、」

遺言書を読み上げていた男がさらに続ける。

「頭は《小鷲組》が構成員。リュウ=カクノウザンに任命する」

リュウは驚きで顔をあげた。
意味が分からなかった。

それ以上に意味が分かっていなかったのは他のヤクザ達だった。

「誰だ?カクノウザンって?」
「知らねぇ・・・ただの構成員だろ?」
「なんだってそんな下っ端が・・・・」
「あぁ!俺知ってるぜ!ナカゴヤの親父がやけに入れ込んでた野郎だ!」
「あ〜。あのいい図体してる奴か」
「だからってなぁ」

ざわざわと闇市場全体がどよめく。
この異例の発表に納得がいかないようだ。
当然といえば当然である。
リュウ自体さえよく納得がいっていなかった。

だが一番納得のいっていない男が叫んだ。
怒鳴った。

「ふざけんな!!!!」

ワシオ組長だった。

「リュウやと!?なんであんなヒヨッコが跡継ぎなんだ!!!
 どう考えても跡目は俺だろ!!!このワシオ様だ!じゃねぇとナカゴヤを殺した意味が・・・・」

ワシオはハッとして口をつぐんだ。
そして「いや、冗談だけどよ」と無理な訂正をした。

それを口切に、
場の全体はもうグチャグチャだった。
そこら中で罵声がとんだ。
ケンカも始まる。
完全に《昇竜会》は崩れていた。
人と人がぶつかり合う。
血肉が飛ぶ。
罵声が飛ぶ。
ドスが抜かれ、
銃が撃たれる。

「やめておくんなせぇ!!!!!」

闇市場全体に大きな声が響き渡った。
リュウの声だった。

「なんだてめぇは?」

「あっしは・・・・名をリュウ。性はカクノウザンと申しやす」

その言葉に、
周りはまたどよめきへと戻った。
そしてリュウを中心に円形ができた。

リュウは遺言書も持っていた男から遺言書を奪う。
そしてその遺言書を広げながら、
大声で説っした。

「この遺言書によっちゃぁ!不肖ながらあっしが跡目って事になりやす!
 二代目《昇竜会》会長!リュウ=カクノウザンをここに宣言させていただきましょう!」

一瞬シン・・・となった後。
まるでダムが崩壊したように騒がしくなった。
罵声。
罵声。
罵声。

「ふざけんな!」
「だぁれが納得するかアホォが!!!」
「てめぇなんかがこのでかい極道もんの集まりを束ねられるかってんだ!!!」

罵声と物がぶつけられる。

そんな中。
リュウも思う。
束ねられるか?
何故自分なんだ。

ナカゴヤの親っさんが自分に目をつけてくれてた事は分かる。
その期待に応えられる自信もある。
だが・・・・早い。
この間そんな話をしてばかりだ。
子を知らぬ者は親になれぬ。
いや、なれるがいい親にはなれない。
ずっと《昇竜会》の末端・・・・つまり土の中で生活してきた自分。
水の中で泳ぎ、溺れているしかできなかった自分。
そんな自分にいきなり竜のように飛びたてというのか・・・・。

いや、違う。
これはナカゴヤの親っさんがくれた試練。
登竜門だ。
これを超え・・・・

鯉から竜になれという。

「静かにしておくんなせぇ!!」

またリュウが叫ぶ。
その声でたしかに静かになったが、
先ほどとは違い、
納得いかない人間達はまだ罵声を飛ばしている。
それを無視してリュウは話を続ける。

「ともかくナカゴヤの親っさんに命を受け、あっしが大親でさぁ。
 だからここで一つだけ、親としても命を預けさせていただきましょう」

「じゃかましいわ竜の字!!!!」

しゃがれた大声が飛ぶ。
ワシオの声。

「ふざけてんのかワレ!!!んなもん誰も納得いくか!!」

そう言い、
ワシオは剣(ドス)を抜いた。

「もう知るか!わけわからんわ!てめぇのタマぁだきゃぁとったる!!」

リュウはフゥとため息をついた。
そして闇市場に落ちていた木刀を拾う。

「ナカゴヤの親っさん・・・・あっしみたいな海を泳ぎきれてない鯉が昇ろうとするとこうなるんでさぁね
 まだまだあっしにゃぁ根っこができてやせん。土から竜の芽だせるにゃぁ早いってんもんです。
 だからこそ・・・・親っさんが突きつけたこの状況の意味も分かりまさぁ・・・・・」

「何ブツブツ言ってやがる竜の字!?念仏かこの野郎!?」

「念仏?・・・ハハッ、ワシオ組長。皮肉で言っただけでしょうがまぁその通りでさぁ
 あっしからナカゴヤの親っさんに捧げる念仏にゃぁ違いねぇ」

「訳分からん事ばっか・・・・・・・・・言ってんじゃねぇぞヒヨッコが!!!」

ワシオが斬りかかってきた。
リュウはそれを木刀で防ぐ。

「戦い方も知らねぇヒヨッコがよぉ」

ワシオは笑った。
ワシオは最悪な男だが、
暴力で成り上がったからには強い男だった。
経験、能力。そして非情。
さらに剣と木刀。
全てにおいてワシオに有があった。

「おら!おらぁ!」

ワシオが何度も斬りかかってくる。
リュウはそれをなんとか木刀で防ぐ。
無骨な戦い方。
構えもなにも知らないリュウの戦い方。
それは周りから見たらリュウがまだ斬られていないのが不思議なほどだった。

防ぐので精一杯なのにどうやって勝つ。

だが、そんなリュウにナカゴヤの記憶が一筋通る。



   リュウ坊。お前にゃぁガタイはあるがぁ戦作法ってもんがてんでなっちゃぁいねぇ
   まるで荒っぽい猛獣みたてぇだ。激しく不明確で揺らめく・・・荒っぽさ。
   だけどよぉ。お前にゃぁ誰よりも強ぇ武器を持ってる。
   それは"芯"だ。腹にくくった何一つ曲げねぇ"芯"はダイヤモンドより堅ぇ。
   お前はいい竜になれる。

   一本の"芯"の入った竜にな


甲高い音と、
鈍い音。
その二つが同時に鳴った。

リュウの木刀がワシオの横腹にめり込んでいた。

「ごが・・・が・・・・がは・・・・」

ワシオは腹を抱え、
あぶくを吹きながら膝をつく。

「が・・・・馬鹿な・・・・・木刀で剣を折・・・・だ・・・と・・・・」

そう言い、
ワシオは頭から地面に倒れこんだ。

リュウの一振り。
それが勝負を決めた。
たった一振り。
それだけだった。

俗に言われる"クリティカル"と呼ばれるものだった。
芯の入ったリュウの一撃は、
ワシオの剣を折り、そのままワシオの横腹にまで直撃した。

大木のようにまっすぐ。曲がらない一撃。

市場全体がシンとなった。

リュウは落ち着いていた。
そして周りを見渡し・・・
言う。

「皆さん聞いておくんなせぇ。《昇竜会》の頂点として一つ親命令を出させていただきやす
 ・・・・・今を持って、《小鷲組》をはじめ《昇竜会》の直系の組(ギルド)は全て解体しまさぁ」

全体がキョトンとしたままだった。
直系の組を全て解体。
いうところ。
それはつまり・・・・・・《昇竜会》の解散。

「あっしのこの頂点はこの一瞬で終わりでさぁ」

と言いながら、
リュウは遺言書を破り捨てた。
だが話はそこで終わらなかった。

「そしてぇ。ここに新しく・・・・《昇竜会》の結成を宣言しやす
 傘下も何もありやせん。たった一つの血の繋がり《昇竜会》という組を!
 ナカゴヤの親っさんの掲げていた"仁義"と"筋"。義理と人情を聖典としたぁ団体でさぁ!
 また1からの開演ときちゃぁ納得のいかねぇもんは離れてもらっても構いやせん
 あっしにゃぁまだ皆を納得させるほどの根っこがございやせんからね。
 が、あっしにゃぁ曲がらねぇ"芯"がある!たった一つの筋でさぁ!
 仁義という名の大風呂敷に!いつかあっしは包み込んでみせると約束しやしょう!」

まだ静かだった。

だが、
少しづつ。
そして少量の拍手が奏でられてきた。
歓声。
決して多いものではなかったが、
リュウを認めた者達の歓声だった。


親っさん・・・・
これでよかったんでやしょう・・・。
あっしにゃぁまだまだ親として足りねぇ分が多すぎる。
あんたがくれた竜の風呂敷は大きすぎやす。
しかし、
また土の根っこから始めさせていただきやす。
そして・・・
きっと親っさんに認められるほど昇ってみせやしょう。
鯉が滝を登り、
そして空を駆け巡る竜になるまで昇ってみせやしょう。

そして昇りに昇り・・・・
大空まで昇る事ができやしたら、
親っさん。
あんたは笑ってくれやすね。
そのためなら
天の世界が近くまで昇ってみせまさぁ!








新生《昇竜会》

リュウを頭とするそのヤクザ団体は、
この日立ち上げられた。
が、
最初は100人ほどだった。
ナカゴヤを信仰していた者と、
リュウを認めた者しかついてこなかったから。
が、
これからまた10年近い長い年月をかけ、
《昇竜会》はマイソシアでTOP3に入るギルドにまで昇りつめる。

一度たりとも
筋からはずれず。
ゆっくりゆっくりと滝という逆流を登り、
そして誰もが認める竜となった。

水の中を知ったからこそここまでなれた。

水を知っている鯉だからこそ、
滝を登れ、
そして竜になれた。

"水"と"竜"という字を合わせると"滝"という字になる。

その滝。


これを超えたこの男の名前は



昇竜(リュウ)と言った。






「リュウの親っさん!」

「なんだタカ坊」

「とうとうGUN'Sを中心に王国騎士団を潰す計画が立ってます」

「・・・・・・・・そこに仁義はあるか?」

「へい」

「ならようがす!」


立ち上がったその男。
背負うように着た黒スーツ。
それを脱ぐと、

そこには尊敬するナカゴヤと同じ。

仰々として、
優雅で、
そして豪快な竜の刺青が、

恥じることなる背中を泳いでいた。










                 






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