「少年。ここで何しておるんじゃ?」

老人は尋ねた。
少年。
それはルアス99番街の道端にいた少年。
昼も夜も危険なスラム街で、
まだ3・4歳くらいの少年だろうか。

「遊んでるの」

少年は地面にしゃがみこみ、
両手には二つの人形。
片手には見るからにワルモノの人形。
片手には見るからに正義の味方の人形。
それをぶつけあって遊んでいた。

「一人で遊んでおるのか?」
「うん」
「毎日か?」
「うん」
「この街は危険なんじゃぞ?毎日一人で遊ぶなぞ・・・・」
「んーん。昨日までは一人じゃなかったんだ」

少年は言う。
老人は疑問を感じながら、少年の横に座った。
少年は話を続ける。

「いつもはね。ママとパパと、大きいお兄ちゃんと小さいお兄ちゃんと、
 あと弟とお姉ちゃんと遊んでた・・・・・・・・」
「家族がたくさんいるんじゃな。で、なぜ今日は一人なんじゃ?」
「みんな死んじゃった・・・・・」

少年は遊んでいた手を止める。
泣き出しそうな顔をしていた。

「話してくれんか?ワシ様が聞いてやる」
「ワシ様?変なの」
「そうかの?まぁ聞いてやるから話してみんか」

少年はうつむく。
そしてゆっくりと話し出した。

「強盗が来たんだ・・・・それでみんな殺しちゃったんだ・・・・
 お兄ちゃんの痛そうな声とかお母さんの叫び声とか聞こえたんだ・・・・
 ・・・・・僕は怖かったからトイレに隠れてた・・・ずっと・・・・」

少年はワルモノの人形を地面に叩きつけ、
正義の味方の人形をギュっと握った。
老人は黙って聞いていた。

「お父さんはね。この間の誕生日にこの人形をくれたんだ。
 ここは怖い街だけど、怖いことが起きても大丈夫だって言ってた。
 この人形みたいな正義のヒーローが助けてくれるからって・・・・・
 僕はトイレの中でずっとヒーローを待ってたんだ・・・でも・・・・・・」

少年の顔には涙がこぼれてきていた。
幼く、小さな顔から、
大きな涙が伝って落ち、
手に握る人形にこぼれた。

「ヒーローなんて・・・いなかったんだ・・・・・」

少年は正義の味方の人形も投げ捨てた。

こんな幼い子供には酷な話だ。
ルアス99番街では日常茶飯事な出来事とはいえ、
この少年の"たった一つの日常茶飯事"が崩されたのだから。

「少年や・・・・・・・・名はなんという」

老人はソっと聞いた。
少年は二回鼻をすすった後、
ゆっくり答えた。

「チェスター・・・ユナイト=チェスター・・・・」
「そうか。チェスターや」

老人はソっと老いた手をチェスター頭の上に置いた。
そしてゆっくり撫でながら話す。

「ヒーローがいるかいないか・・・・そりゃぁワシ様にもわからん
 お前さんを助けてくれなかったのならいないのかもしれん
 それともどこかで人を助けてるのかもしれん
 じゃがあくまで"かもしれん"というだけじゃ。
 悪者は確実にいるのに、正義の味方はいるか分からないなんて酷い話じゃな」
「・・・・・・・」
「じゃが、いないのならお前さんがなればいい」
「・・・・・?」

少年チェスターは顔をあげて老人の顔を見た。
その目は真っ直ぐ老人を見据えていて、
老人の目も真っ直ぐチェスターを見据えていた。

「・・・・僕がヒーローに?」
「うむ。助けてもらおうなんて考えが駄目とは言わん。
 が、人を助けるヒーローはカッコイイと思わんか?」
「・・・・・・・思う」
「なりたくないか?」
「・・・・・僕になれるかな・・・・・」
「なれるとも」

老人は立ち上がる。

「ワシ様のもとで修行せんか?」
「おじいちゃん誰?」
「ワシ様はナタク=ロン。ロン爺と言えば分かるかの?」
「・・・・・・知らない」
「・・・そうか。これでも若いころはバリバリだったんじゃがの。
 今でも99番街の3老が一人として・・・・とまぁいいか」
「ねぇ、修行すれば僕は強くなれるかなぁ?」
「強くなろうとしたものだけが強くなれる。
 人を助けようと思ったものだけが人を助けられる。
 が、助けを求めているだけの者は・・・弱い」
「弱い事は悪いこと?」
「悪くはないのぉ。じゃが、弱い者を助けれるのは強い者だけじゃ
 それに強い者の方が・・・カッコイイじゃろ?」

老人ロンはニカっと笑った。

「うん!!」

少年チェスターはその時、初めてロンに笑顔を見せた。

「ロンじいちゃん!僕、ヒーローになりたい!」
「そうか。じゃぁ今日からワシ様の事は師匠と呼べ」
「ししょー!」
「もう一回!」
「しっしょー!!!!」


その日からロンとチェスターの生活は始まった。






















-チェスター7歳-




「腰が入っとらんぞチェスター!」
「あいっ!」

99番街の一角。
そこで修練を積む少年が一人と、それを教える老人が一人。
7歳になる少年チェスターは、
一生懸命カカシに拳を打ち込んでいた。
カカシはサラセンからかっぱらってきた物だ。
そのカカシに拳を打ち込むたび、カカシはギシッと悲鳴をあげた。

「てやっ!てやっ!」

チェスターは拳を打ち込む、
時には蹴りを放つ。
そのたびにギシっとカカシを悲鳴を漏らす。

「ほれほれっ!そんなんじゃ悪者どころかカカシも倒せんぞぃ!!」
「あぁーっりゃっ!!!」

チェスターの渾身を込めた蹴り。
それがカカシに突き刺さる。
と、同時に、
カカシの上半身が折れて吹き飛んだ。

チェスターはロンに向けて笑顔で言う。

「へへっ、何を倒せないって師匠?」
「ぬ・・・たった5年ほどでよくぞここまで成長できるものじゃな・・・」
「そりゃぁオイラ、朝から晩まで修行してんジャンっ!
 一日12時間も修行してりゃぁ猿でも強くなるって!
 きっとオイラさっ!そろそろ師匠より強く・・・・あれ?」

チェスターの目の前にロンの姿はなかった。
チェスターは慌てて当たりをキョロキョロと見回す。
が、突然体が潰れ傾き、
チェスターは地面に叩きつけられた。
地面に横たわるチェスターの上には、
ロンが腰掛けていた。

「ワシ様より強い?まっだまだじゃわい」
「くっそー・・・・」

チェスターはロンにつぶされたままむくれた。

「ふむ。じゃが基礎体力は完璧とは言わんがもう十分じゃわい
 そろそろ次の段階に入るかの」
「何々!?とうとう技を教えてくれるの?!」
「じゃな」
「やったーっ!!!」

チェスターは上に乗っていたロンを跳ね除けて飛び上がる。
体いっぱいを使った喜びの表現。

「やった!やった!技!技!ひゃほーい♪」
「これ、落ち着けチェスター・・・」
「しゃぁ!しゃぁ!技!技!ひゃっほーぃ!」
「落ち着かんか!」

ロンはチェスターにゲンコツをお見舞いする。
チェスターの頭はカナヅチを打ち付けたような鈍い音を立てた。
チェスターは頭を抱えて痛がる。
が、喜びはさらにその上をいっているようだ。

「いいかチェスター。何度も見せてやったが、ナタク流気孔武術は"気"の武術じゃ」
「うんうん!」
「いいか見ておれ」

ロンは拳に力を込める。
すると気が拳に溜まり始める。

「おーぅりゃぁぁあ!!!」

拳を突き出すと共に
ロンの拳から波動弾が発射される。
イミットゲイザー。
その波動弾はそのまま空き家に直撃し、
空き家に巨大な穴を開けた。
二階にまで空いたその大きな穴は、カラカラと残骸の音を奏でていた。

「いつ見てもすっげぇ・・・・」
「これがイミットゲイザーじゃ。ワシ様の武術は全てこれが基本じゃ」
「えっと・・・どうやるんだっけ・・・」

チェスターは拳に気を溜めようとする。

「馬鹿モン!いきなりできるわけないじゃろう!
 いいかチェスター。お主は戦闘力は十分じゃが、気の理解についてはまだカラッキシじゃ
 イミットゲイザーより先に少しづつ気を自在に操れるように・・・・」

ロンが話している途中。
突然バチッという音が鳴る。
ロンは慌てて音の方を見た。
そこには壁。
そして小さな焼け跡があった。

「小さいけど出たぁ!」

ロンは呆然とした。
今まで何度もチェスターにイミゲを見せた事はある。
だがその修行はおろか、原理も何もまだ全く教えていない。
なのに・・・・

「豆みたいなものとはいえ・・・いきなりイミゲが出せるとは・・・ワシ様もビックリじゃ・・・
 それも両手でなく片手で撃てるとは・・・・末恐ろしい子じゃわい・・・・・・」
「へへっ!この調子だったらすぐにマスターしちゃうジャン!?」
「調子にのるなっ!」

ロンのゲンコツ。
またもや鈍い音と共に、
チェスターの頭の上にタンコブができた。
チェスターは痛がって地面にへたり込んだ。



「ガハハハ!また怒られてやがるっ!」
「カカッ!毎日毎日日暮れるまで修行修行!精の出るこったな!」
「朝から晩まで・・・このガキとロン老師もよくやるものだな」

チェスターが顔をあげると、そこには柄の悪い3人組がいた。

「なんじゃ、悪がき3人か」
「ぉお!ドジャー!メッツ!ジャスティン!」

「おいロン爺!たまにはチェスターじゃなくてレン爺の相手もしてやれよ!
 あの爺さんまだ酒も飲めねぇ年の俺を酒場に誘うんだぜ?」
「よく言うぜドジャー。お前も自分から勝手に飲んでるくせに」
「ガハハ!違ぇねぇ!」

「うるさぃうるさぃ。毎日遊んでるお主らと違ってチェスターは修行してるんじゃ
 夢のためにの。邪魔するでない。ほれシッシッ」

ロンは片手で3人組を追い払う。
3人組は不愉快そうに去っていった。

「さて、チェスター」
「あーぃ?」
「修行の続きじゃ」
「分かってるよ!オイラヒーローになるんだもんね!」
「そうじゃ」

ロンは笑った。

「じゃぁとりあえずルケシオンまで走るぞ!」
「えー!!!気の修行って言ったジャン!」
「それを踏まえてじゃ。基礎能力の修行は今まで通り、その上に実践と気の修行じゃ
 ルケシオンまでの途中のモンスターは全部倒すぞ
 そんでルケシオンダンジョンのモンスター相手に気の修行じゃ
 あそこには堅いモンスターがおる。気の修行にはもってこいじゃ」
「そういう事ならやったろうジャン!!」
「もちルケシオンまで休憩無しでダッシュじゃ」
「げ・・・・・無理ジャン・・・」
「ばっかもーん!」
「へぶしっ」

ロンの豪快なパンチ。
吹っ飛ぶチェスター。
そのままチェスターが壁にぶつかるまで吹っ飛んだ。

「てて・・・」
「お前には夢があるんじゃろう!?ヒーローになるんじゃろう!?
 こんな事さえ投げ出しといて夢が叶うと思っとるのかっ!」
「し、師匠・・・・」

チェスターの目が潤む。
顔には赤い拳の跡。

「オイラが間違ってたぜシショー!」
「そうじゃ!」
「シショー!」
「もっと大きい声で!」
「シショー!!」
「もう一回!」
「シッショー!!!」


こうして修行の日々は続く。





















-チェスター8歳-



「どっかぁぁあああん!!!」

飛ぶイミットゲイザー。
それはドロイカンナイトに直撃する。
海風漂うルケシオンダンジョン。
ヤシの実が転がる砂浜に、
ドロイカンナイトが無残に崩れ去った。

「ふむ。イミットゲイザーもかなりのものになってきたのぉ」
「あったり前ジャン!オイラってすげぇし!」
「アホか!ワシ様の教え方が凄いんじゃ!!!」
「いてっ!だからってぶつなよ師匠!」
「ふん、慢心するからじゃ」

ルケシオンのビーチ。
老人ロンとチェスター。
もう一年近くルケシオンで修行している。
もち、ルアス99番街から毎日通ってだ。
一日でルケシオンとルアスを往復するアホは、
マイソシア中を探してもこの二人だけだろう。

そして

「師匠!もうこの辺モンスターがいないぜ!」

ロンとチェスターの周り。
そこには倒れ去ったモンスター達。
木に垂れ下がるサンチョワイキ。
砂浜に横たわるマレックス。
浅瀬に浮かぶザコパリンク。

この二人の修行のためにルケシオンのモンスターが全滅するのではないか。
いや、さすがにそんな事はありえないだろうが、
毎日数十匹のモンスターを狩って、
往復10時間かけてルアス・ルケ間を全力ダッシュ。
化け物じみている。
というより片道5時間でルケにたどり着くなど、
普通の人間にはできない。



「HEYヘーーーィ!今日もノってるねぇーぃ!」

サメギターを持った突然背の高いモンスターが現れた。
片手でギターをかき鳴らしながら歩いてくる。

「シャークか。修行の邪魔しにきたのか?」

「違うぜ違うぜぇーぃ!それは迷い鳥が運ぶ誤解という名のファンタジーだぜーぃ!」

シャークはギャィーンとギターをかき鳴らす。
そして気持ち良さそうにフルフルと震えた。

「何の用じゃシャーク」

「OK、あんさー、今日もここ一帯のモンスターの死骸をもらってってもいいんだよねーぃ?
 ベイベー達にはいらないモノでも俺には空腹を満たす絶頂のエクスタシーなんだぜーぃ!」

「あーあーこんなもん持ってけ持ってけ」
「こんなゲテモノ食べる気がしれないジャン・・・バナナのがおいしいのにさっ」

「どんなものでもデリシャスに、愛はデンジャラスに、そして夢とアンビシャス♪
 ベイベー!ルケシアンドリーミン!ルケシアンドリーミン!♪」

ギターをかき鳴らしながら突然歌いだすシャーク。
周りも見えてない様子で、広い海の空間にギターと歌声が響く。
熱唱。
熱奏。
ロンとチェスターは呆れた。

「変な歌・・・・・オイラにゃぁ歌は分かんないや・・・」
「ワシ様もじゃ・・・・レン爺にもよく聴かされるが、歌の何がいいのやら・・・」
「帰ろうぜ師匠・・・・」
「じゃな、そろそろ帰らんとルアスに着くのが夜中になる」

ロンとチェスターがそこを後にしようとした。

「OH〜YEAH!!帰るのかーぃ?挨拶もなく黙って帰るなんて酷いぜーぃ!
 人と出会いと別れは、言葉という切符を買って進むトレインロードだぜーぃ?
 WOW,WOW!グッバイという一輪の贈り花は心を癒すビューティホートレジャー!」

「あいあい・・・さよなら」
「また明日も来るからまっとれや」

「OKベイベー!OH、そういえば、この間から俺ん家に女の子が住み始めたんだぜーぃ?
 ベイビーはマリナっていうんだ。今度挨拶にカモンベイベー!
 きっとあのベイビーも喜びのハッピーボンバーが炸裂ダイナマイツだぜーぃ!」

「シャークん家にねぇ。変な奴ジャン?」
「女の子がこんな所に住もうなんて頭がおかしいのぉ」

「こんな所まで毎日往復するベイベー達に言われたくない事サンダーの如くだぜーぃ!
 それに俺がここに住んでいるのはデムピアス討伐の案内人だからだぜーぃ?
 これはある意味名誉と光栄が混じり弾けるクロスファイヤー!・・・・ってあれ?」

もうシャークの目の前にロンとチェスターはいなかった。






「はぁ・・・あいつの話は長いからのぉ・・・」
「だねっ、師匠」

ルケシオンダンジョンをダッシュしながら走る二人。
帰宅途中だ。
ここからルアスまで5時間のダッシュが始まる。
よくもまぁこんな元気があるものだ。

「で、チェスターよ」
「あい?」
「お前の頭の上のもんはなんじゃ?」
「へ?」

チェスターはキキッ!とブレーキをかける。
そして頭の上をまさぐる。

「何これっ!?」

チェスターが頭の上をまさぐり、掴んだモノ。
それは猿。
とてもとても小さいワイキベベの赤ちゃんだった。

「うわっ!うわっ!いつからオイラの頭の上に?!」
「ほっほ。お前は頭の中身がカラッポだから軽くて気付かなかったか?」
「うるさいジャン師匠!こ、こらっ離れろ!」

チェスターは手で掴んだワイキベベを投げようとした。
が、生まれたばかりと思われるワイキベベを投げるのは忍びなかった。
だからチェスターはワイキベベを手の上に乗せたまま固まった。
しかもそのワイキベベの小さな瞳はチェスターを見つめていた。
そして聞き取れないほどの鳴き声をあげた。

「なんだぁ?こいつ」
「ふむ。チェスターを親だと思ってるんじゃないか?」
「はぁ!?なんでっ!?」
「顔とか猿みたいだからじゃないかの?」
「オイラは人間だー!!」

海辺に響くほどにチェスターは叫ぶ。
するとワイキベベは怖くなったのか、
泣き出した。

「うわっ!うわっ!泣き出したジャン!」
「あーあ。子を泣かすとは酷い親猿じゃの」
「猿じゃないっての!・・・って泣き止んでくれよぉ!
 困るジャンオイラ・・・・あーどうしよ・・・・・・・えっと・・・えっと・・・あっ!」

チェスターは思いついたように懐を探り、
あるものを取り出した。

「ほれ!ワイキバナナ!猿ならこれ食べるだろ!」
「・・・猿なら食べるだろうものを常時携帯しているお前はなんなんじゃ・・・」
「師匠がバナナは栄養あるからなんとかって言ってたんジャン!」
「たしかに言ったがの・・・・お前は好きで食っとるじゃないか
 ワシ様は一日三食バナナ食べるほどの愛バナナ家じゃないわい」
「バナナを悪く言うなよ師匠!!」
「お前がおかしいと言っておるのじゃ!!」

チェスターとロンが口げんかしている間。
ワイキベベはワイキバナナの隅をかじっていた。
小さな口で一生懸命食べる猿。
いつしか小猿は泣き止んでいた。

「あー・・・どうしようコイツ・・・」
「飼えばいいじゃろ?」
「オイラが!?」
「お前さんが」
「オイラは猿じゃないジャン!」
「人間だって猿くらい飼うわい。守護動物ってやつじゃ」
「んー・・・・」

チェスターはワイキベベを見る。
まぁ・・嫌いではない。
それにこの危険な場所に小猿一匹置いていくわけにはいかない。
しょうがない・・・・

「んじゃぁそうしようかな・・・」
「ほっほ。ソックリ親子じゃな」
「似てないジャン!」
「怒った顔が猿ソックリじゃて。・・・・で、名前はどうするんじゃ?」
「えー・・・思いつかないな・・・・」
「んじゃチェチェでどうじゃ?」
「なんでチェチェ?」
「お前にそっくりだからチェスター2号でチェチェじゃ」
「・・・・・」

チェスターはため息をついた。
まぁそれでいいやと。

「よろしくな・・・チェチェ・・・」
「そんなため息なぞついておるな」
「だって師匠〜こんなの連れてても邪魔だよ」
「馬鹿モンっ!!!」
「ほぎゃぁ!!!」

ロンの豪快なアッパー。
チェスターは真上に10m吹っ飛び、
そして砂煙をあげて砂浜に墜落した。

「お前はただ強くなりたいのか!?違うじゃろう!?
 お前は何かを守る強さ。ヒーローとしての強さが欲しいんじゃろ?」
「!?」

チェスターは目を見開く。

「そうジャン!オイラスーパーヒーローになるんだもんねっ!」
「じゃろう?じゃから調度いいじゃろう」
「だねっ!よく分かってる!さすが師匠!」
「ほっほ。もう一回言え」
「シショーーー!!」
「もっと大きな声でっ!!!」
「シッショーーーーー!!!」


海岸。
そして海の向こうへと、
叫び声が木霊した。















-チェスター10歳-


「ま、参った!参った!」

その魔術師は叫ぶ。
周りにはその魔術師のギルメンが横たわっている。

「そうか!オイラに参ったか!」

「ま、参った・・・・」

「もう一回っ!」

「・・・・・・・・・・・・参った・・・・・」

「へへーん!」

チェスターは腰に手を当て威張る。
そして頭の上で喜ぶチェチェを撫でた。

「くそ・・・・『メトロシティ』の奴らめ・・・・
 こんな強い傭兵連れてくるなんてズリぃぜ・・・・」




チェスターは傭兵としてよくギルド対決に駆り出されるようになっていた。
腕利きの傭兵。
しかもまだ10歳のガキンチョ。
イミットゲイザー使い。
それらのお陰でチェスターは偽名マーチェの名で有名になっていた。

傭兵というのはロンの提案だった。
一応ナタク流気孔武術の技、
つまりイミットゲイザーを利用した技は一回り教わった。
基礎体力も十分。
あとは経験。
モンスター以外にも対人戦の経験を積むべきとの師匠の教え。
その上で、傭兵業というのはこれ以上ないカッコウの修行だった。
理由をもって人と戦う事ができ、
その上、生活費が工面できるのだから。

「儲かった儲かった♪」

今回稼いだお金(グロッド)を嬉しそうにジャラジャラと揺らす。
そして寄ったのは果物屋。
ワイキバナナを2フサ買い、
一本千切って頭の上のチェチェに渡す。
そして一本自分で手に取る。
チェスターとチェチェ。
二人(匹)は同時にバナナを口に頬張り、
同時に幸せそうな顔を放った。
猿の笑顔x2はルアス99番街で輝いた。



「まったバナナかよ!」
「ガハハ!まったくお前は猿だな!」
「いや、モンキーだ」
「チンパンジーだな!」
「よ、モンキチ!」
「モンキーチェスター!」
「略してモンスターってかぁ?」

幸せな南国時間を邪魔しにきたのは
三人組。
99番街では有名な、柄の悪い三人組だ。

「なんだぁ・・・ドジャスティンじゃん・・・・」

「まとめるなっ!」
「ってか俺の名前入ってねぇ!」
「メッツとまとめられたくないからそれはいいけどな」

ドジャスティン+aは口々にしゃべる。
ピアスの盗賊と
鎌を持った聖職者、
そして両手斧を二つもったゴリラの口げんか。

「動物園でも見られない風景だねチェチェ」
「うき♪」

と、猿は言った。

「うっせサル!」
「サーール!」
「チェスター。ちょっと話を聞いてくれないか」
「アホ猿!」
「サルチェスター!」
「ドジャー、メッツ。お前らも黙れ・・・・そんなだからお前らはモテないんだ」

ドジャーとメッツは同時に「ケッ」と言って唾を吐き捨てた。
チェスターはめんどくさそうに聞いた。

「なんだよ話って。どーせたいした話じゃないジャン?」

「あー、まぁ聞けって」
「俺らギルド作ったんだ」
「簡単な話。お前入らねぇか?」
「って入れ!」

チェスターは「ンー」と考えた。
猿知恵をフル回転させる。
そして結論は出た。
入る意味無し。

「オイラは別にいいや。めんどくさい。大体ギルドなんて作ってどうするん?
 スーパーヒーローチェスター君の力がいるならオイラ傭兵として手伝うジャン?」

「カッ!金払ってまでお前の手助けなんているか!」
「ガハハ!違ぇねぇ!」
「ったくお前らは・・・話をマイナス方向にもってくなよ」

ジャスティンは呆れてため息をつく。
その上チェスターは話した。

「オイラには夢があるんだよね。ヒーローになるって大きな夢ジャン?
 だから寄り道してるヒマはないんだよねっ!だからギルドの話は残念っ!」

それチェスターの話。
それを聞いてドジャーとメッツは笑い出した。

「ガハハ!ヒーローだってよっ!だっせ!」
「でもま、夢ねぇ」
「なぁチェスター聞いてくれ。俺らのギルド名は『MD』意味は・・・」
「メジャードリームだ!」
「くそったれの逆襲!」
「・・・・まぁって事だ。ドリーム。夢だ。
 俺にも夢がある。このルアス99番街をメジャーにしようって夢だ。
 それでこのギルド『MD』の主旨はな、
 このマイナーな99番街をナメた奴らを見返そうって感じだ」

「ふーん・・・」

ジャスティンからはよくその話を聞かされていた。
だから特にそれ自体はどうでもよかったが、
夢・・・という言葉にチェスターは少し興味を持った。
が、それが決め手になるには少し好奇心が欠けていた。

「おいおい、チェスター決めちまいなっ!」
「お前も99番街は好きだろ?」

「好きだけどさっ・・・・」

99番街。
スラム街。
生まれ育った街。
悪人ばかりだが、
とてもいい街で、好きである。
そしてこの街にいたからこそ、
師匠と出会えたのだ。

「やった方がいいぜ?その方が死んだロン爺も報われるってもんだろ?」

「師匠・・・・」

師匠ロン=ナタク。
チェスターの頭の中で、
ロンとの修行の日々が巡った。

厳しかった師匠。
すぐ怒って殴る師匠。
強そうな輩を簡単に倒してしまう師匠。
一緒に楽しそうに修行をする師匠。
おいしそうに今日の朝ごはんを食べる師匠。

・・・・ん?今日の朝ごはん?

「おい!師匠はまだ死んでないジャン!!!」

「「「・・・・・」」」
「冗談に決まってるだろ・・・」
「どんだけ頭の回転が遅いんだ・・・」
「ガハハ!馬鹿だバーカ!猿並みの脳みそ!」
「でもロン爺。もう本当に死にそうなんじゃねぇか?年が年だしよ」

「んー・・・たしかに昔と違って元気なくなってきたかなぁ・・・
 最近は片手で20キロのバーベル3個しか持てないし」

「「「十分元気だろ」」」

3人は同時に呆れた。

「で、どうすんだチェスター?」
「入るのか入らないのか」

「んー・・・・」

チェスターは迷う。
そして斜めに頭をかしげた。
斜めの頭の上でチェチェも頭をかしげた。


「入ったらいいじゃろう」

後ろからの声。
それはロンだった。

「あ、師匠」
「入ったらいいぞチェスター」
「なんで?」
「ギルドじゃろう?戦闘の機会も増える。修行の機会が増えるという事じゃ
 それに仲間。ヒーローには仲間も必要じゃろう?」
「なるほどねー」

「アホかロン爺!」
「なんかそれじゃぁ俺らが"チェスターの仲間達"みたいな感じじゃねぇか!」

「ほっほ。みんな似たり寄ったりじゃの」
「んじゃギルド入るよ師匠!」
「それがええ。何よりお前はたくさんの家族を失っておる。
 たくさんの仲間の中で生きるというのもお前自身必要じゃろうて」
「し、師匠・・・・」

チェスターの目が潤む。
ついでにチェチェの目も。

「師匠!師匠はオイラの事をそんなに考えてくれてたのかっ!」
「当たり前じゃ。ワシ様はお前の師匠じゃぞ?」
「師匠!」
「そうじゃ師匠じゃ」
「シショーーーー!!!」
「そうじゃ!」
「シショォォーーーー!!!」
「もっと大きい声で!」
「シッショォオオオーーーーーー!!!」

叫ぶチェスター。
三人は呆れてその姿を見ていた。

「なんだこいつら・・・」
「猿の子は猿・・・」
「アホの弟子はアホ・・・か・・・・」

三人は同時にため息をついた。


「シショーーーー!!!」
「もう一回!!」
「シッショォオオオオオオオオーーーーーーーーーー!!!!」


ルアス99番街に声が木霊した。










これからチェスターはさらに有名になっていく。

傭兵業をさらに重ね、

力をメキメキとつけていく。


攻城戦にも顔を出すようになった。

開始と同時にチェスターが外門を壊す。


王国騎士団が頭を悩ますほどの実力。

懸賞金も跳ね上がっていった。


そして攻城戦に出るたびに

外門を壊す男チェスター。
偽名マーチェ。



いつしかマイソシア中で二つ名が轟いていた。


傭兵屋『ノック・ザ・ドアー』



でもこれも

チェスターのヒーローへの道の

まだ途中かもしれない。



とにかくチェスターは

あやふやで、
それでいて明確に心に刻んだ夢、

ヒーローを目指す。

ヒーローの中のヒーロー。

スーパーヒーローを。




もちろん

いまだ彼の家には、


正義の味方の人形が窓際に座っていた。















                 






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