「なけよ・・・・へへ・・・・なくしかないだろ?そうすれば死ななくて済むかもしれないぜ?」
「レオ。早く切ってしまいなさい。情けは無用だわ」
「強がりはよしてくださいよ?あとがないのはそっちも同じです」
「ホッホ。ワシには全てお見通しじゃ。ブラフなぞ通用せんぞ。
 戦況から起死回生。身の危険からなんもかんも
 経験とは年を重ねる事で養われるんじゃぞ・・・・・・・さぁ・・・・・ゆくぞ」

チャン老師の腕がゆっくり動く、
そして・・・・
響く音。
獣の骨で出来たソレは、
緑の地面に叩きつけられ、
乾いた音を鳴り響いた。

空気が思い。
はりつめる・・・とはこういう時の事を言うのだろう。
そして一人の・・・・
オープの唇が動いたとき、

全ては終わった。


「ロンです!タンピン三色ドラでマンガン!!逆転です!!!」

「「「だぁ〜〜〜!!!!」」」

浴衣姿のレオ、シズ、チャンの三人が同時に唸りながら後ろに倒れる。
オープがニヤニヤ笑いながら「やった!」と喜んでいた。

「またオープの勝ちかよっ!」
「もうスッカラカンじゃわい・・・」
「へへっ、先輩達ゴチソウ様です〜♪」
「いくらづつなの?」
「あー・・・馬足して合計俺がオープに5万グロッ・・・・」
「あ、裏ドラものってました!」
「・・・・んだってぇ!?」
「・・・・たまらんわい・・・・・」
「休暇て来てんのに今月分もってかれるなんてやってられないわ・・・。
 あ、・・・ねぇ!ナッグとアンリ!ちょっときなさい」

シズの呼びかけ。
それはある意味命令の始まり。
部屋の隅で観戦していたナッグとアンリだが、
顔を見合わせた後、
景気よく同時に「「はい!」」と返事した。

「なんですかシズ先輩」

「えぇーっとね。ちょっとひとっ走りしてお酒買ってきてぇ〜」

「えぇ!?そんな、ここはレビアっすよ?!外は極寒の大雪・・・・・な、なぁアンリ?」
「そ、そうですよ・・・そんなにお酒飲みたいなら自分で・・・・」

「先輩のいう事が聞けないの?」

「「・・・・・・・」」

シズの冷たい目線はナッグとアンリを突き刺し、
諦めのため息をつかせるのに十分だった。

「あ、俺の分もヨロシクぅ!」
「ホホ、ワシは焼酎がエェのぉ。ミルレス産のやつじゃ」
「僕はチューハイとポテチのウメセイジリーフ風味お願いします」
「あ、それ俺も欲しい!それ二つな!」
「私のお酒は三本ね」

「あ〜あぁ〜・・・っとメモメモ・・・メモだアンリ!」
「えっと・・・チャン老師が焼酎のぉ・・・・・」

「スルメもじゃなっ。欠かせんわい」
「あっ、なんかレビア産のお菓子も食べたいですね」
「あ、ビール追加」
「多いにこしたことはないわね。私も。えぇ〜っとあと・・・・・」

「「・・・・・・・・・・・」」


ナッグとアンリはため息しかでなかった。


















数十分後。
レビア外。




「へっくしゅんっ!!!・・・・・・・・なぁアンリ?」
「何よ・・・へっくしゅん馬鹿野郎みたいなノリで呼ばないでくれる?」
「あぁ、悪ぃ悪ぃ。でもなんかよ・・・・・不公平感じないか?な、アンリ?」
「・・・・・・・・わ、私に言わないでよ!」

雪が降る。
綺麗だが、冷たい冷たい雪が降る。
つまり寒い。
もう本当に寒い
なぜこんな寒い思いをしているのだろうか。

これは社員旅行で温泉に入りにきたはずだ。
そうなのだ。
社員旅行なのだ。
温泉なんだ。
レビアの隠れ観光スポットでもある温泉。
それに入りにきたのだ。
いや、実際入った。
とても気持ちのいい、暖かい露天風呂だった。
でも今寒い。
何故か。
それは悲しき下っ端だからだ。

「先輩達はどーせまた旅館のコタツに入って4人で麻雀してんだぜ?どうなんだよこれアンリ!?」
「私に言わないでよ!しょーがないでしょ!
 レオ先輩は怖いし、チャン老師はすっごい年上だし!
 シズ先輩は怖いし、オープ先輩は年下だけど先輩なんだし・・・・」
「下っ端はつらいなぁ・・・・アンリ・・・・」
「下っ端がつらくない所なんてないわよ・・・・」
「じゃぁ俺達はいつ下っ端じゃなくなるんだアンリ?」
「知らないわよ!とりあえずこんな寒い中パシりをさせられなくなってからね」

ナッグとアンリのため息は、
真っ白の冷気と共にレビアの夜空に消えていった。
ナッグとアンリは会社《モスディドバスターズ》の下っ端社員だ。
1人の社長と4人の先輩。
そしてナッグとアンリの7人構成。
少数の組織だが、
それゆえにまた下っ端はツラい。
そう。ツラい・・・。

「このパシり代も俺らが立て替えるのかなアンリ・・・」
「でしょうね・・・」
「クソォー!せっかく温泉旅行に来たんだからゆっくりしてぇよ!なぁアンリ!」
「そうよ!旅行中くらいは上下関係廃止して欲しいわ!」

レビアの雪道の中。
二人の愚痴と共に足跡が残されていく。

「大体レオ先輩もチャン先輩もシズ先輩もオープ先輩も勝手なのよ!」
「そうだそうだ!もし俺らが先輩だったとしても後輩にこんな酷い仕打ちしなかったよなアンリ?」
「そうよそうよ!むしろ甘いくらいが調度いいのよ!」
「先輩達も社長みたいに人格者になるべきなんだよなアンリ?」
「そうよ!それならきっといい会社になってるわよ!」
「それは後輩がこんな寒い中パシりをさせられなくてもいい会社ってわけだ。な、白熊?」
「そっ!・・・・・へ?白熊?」
「ん?白熊・・・・・・」

ナッグとアンリが横を向く。
雪で真っ白なレビアの町。
雪が降りしきる真っ白な空。
そしてナッグとアンリの横には・・・・・・・
雪のように真っ白な・・・・・・・・ブロニン。

「えっと・・・・どちら様かなアンリ・・・・」
「わ、私に聞かないでよ・・・・」

目が合う。
白熊モンスターブロニン。
なんでいるのか知らないが、
とにかくいるのだ。
固まるナッグとアンリ。
寒いのに変な汗が出る。

(ブ、ブロニン・・・・・・勝てると思うか?アンリ?)
(・・・・・こないだディドにさえ追いかけられた私達が勝てると思ってるの?)
(・・・・・・・・だな。でもなんでブロニンが町に・・・・襲ってくるかなアンリ・・・)
(で、でもおとなしそうな感じも・・・・・)

ナッグとアンリは同時にブロニンを見つめる。

・・・・・・

「クァァアアア!!!」

「「ほぎゃああああああああ」」

突然牙と爪を立てて雄たけびをあげるブロニン。
ナッグとアンリは雄たけびのような悲鳴をあげ、
一目散に逃げ出した。

走る。
逃げる。
レビアの白い雪道を、
ただただ走る。

「ななななななんで買い物の途中でモンスターに会うんだよアンリィイイイイ!!!!????」
「私に聞かないでよぉおおおお!!!!こんなそこら中どこ見ても雪だらけなら、
 モンスターだって自分の暮らし場から迷ってくるんじゃないのぉおおお!?!??!」
「ななななななんで襲われるんだよぉおおおおアンリィイイイイ!!!!!????」
「し、知らないわよ!ってアッ?!」

アンリは気付いて止まる。
雪の道にブレーキをかけた跡が残る。

「ちょ、止まるなよアンリ!」
「大丈夫。もう追いかけてきてないわ。でも大変!」
「何がだよアンリ?」
「買い物袋が・・・・・・」
「あっ・・・・・」

気付くと、
ナッグもアンリも先輩達のお遣いの物を無くしていた。
逃げる拍子にどっか落としてきてしまったのだ。

「やべ・・・・どうするんだよアンリ?先輩達に怒られるぞ・・・・」
「ど、どうするったって・・・・グロッド余ってる?」
「・・・・・余ってるわけないだろアンリ・・・・・」
「・・・・・・・・・」

ナッグとアンリの頭の中に、
先輩達の怒る姿が浮かぶ。
レオ先輩、チャン先輩、シズ先輩、オープ先輩。
同時に集中砲火のような野次が飛んでくるに違いない。
そして・・・・さもなくば旅館から追い出され・・・・
寒い夜空の町に。。。。

「うぅ・・・考えたくもない・・・・」

レビアの寒い気候だけではない、悪寒が走り、
ナッグとアンリはブルブルと震えた。

「あっ!見ろよアンリ!」
「へ?・・・・・・あっ?!」

ナッグが指差した先。
それは・・・・小さなスルメ。
しかも点々と続いている。

「もしかして・・・さっきのブロニンは私達が買いだしした食糧が標的・・・・・」
「ブロニンがも・・・もってっちゃったのかアンリ?!」
「そうっぽい・・・・」
「・・・・・・・・・・・」

ナッグとアンリは顔を見合わせる。
そしてアンリがため息をついたあと、
スタッフを取り出して言う。

「やるしかないわね・・・・」
「や、やるって何をだよアンリ!?」
「ブロニンから取り返すに決まってるでしょ!」
「のぇぇ!?マジかよアンリ?!」
「先輩達に怒られてもいいの!?それにこんなだから先輩達に見下されるのよ!?」
「ゔ・・・・・・・・・・」

ナッグも少し考えた後、
鞘からソードを取り出した。
ボロボロに刃の欠けたソードを。

「しょうがないな・・・・やるかアンリ。『ぎざっ刃』ナッグと、」
「『アーリークロス』アンリの、」
「「白熊討伐!!!」」

ナッグとアンリは顔をもう一度見合わせ、
お互いにウンと頷いたあと、
点々と落ちているスルメを辿り、走り出した。

下っ端とは思えない、
勇敢な顔つきだった。


























「こごどごだよアンリ゙ぃいいいいいい!!!!い」
「じ、じらないばよぉおおおおおお!!!!」

鼻水と情けない言葉をだらだらと溢し、
迷う二人の姿。
ナッグとアンリ。

周りは大吹雪。
前も後ろも大吹雪。
突風。
寒い。
冷凍庫の方がマシだ。
まるで雪の海の中を歩いているかのよう。
前も後も上も下も
眼前すべてが雪雪雪。
真っ白。

「俺達どっちにずずんでんだおアンリぃいいいい!!」
「わがらないばよぉおおおお!!!!どこ見ても雪雪雪雪ぃいいいい!!!」
「どこもまっじろだぁぁああああああ!!!!!」

凍りつく鼻水でまともにしゃべれない。
もうどこがどこかも分からない。

スルメの後を追うなど無理だった。
レビアは雪が降っているのだ。
スルメなどドンドン埋もれていく。
そして・・・・

ここはもうレビアかどうかも分からない。

「ざむぃいいいいいい」
「じぬぅうううううう」

数時間前には暖かい温泉に入っていたのが夢のようだ。
レビアの暖かい露天風呂。
肌に優しい効能のある露天風呂。
風呂から出てもまだこれでもかというほどポカポカ。
それを考えると・・・・・
ナッグの意識は薄れて・・・・

「ちょ、ぢょっとナッグぅうううう!歩きながら寝うなあ゙ぁぁぁああ!死ぬわよぉおお!!!」
「ア・・・アスガルドが見える・・・・・」
「見るなぁぁああ!寝うなああああ!死ぬなぁナッグぅううううう!!!」

ナッグを抱えてアンリは歩く、
ふと、見えた。
小さな黒いなにか。
人?物?
違う。
穴。
穴だ。

「あそこまでいくから死ぬなないでよナッグぅうううう!!!」

そうして数メートルの距離の穴まで、
数分をかけ、
なんとかアンリは
ナッグをひきづりながら小さな洞窟にたどり着いた。

「す、少しはあったかいわね・・・・」

極寒の雪の中にいたせいか、
その小さな洞窟は暖房がきいてるかのようにあったかく感じた。
洞窟というよりは洞穴というほどの大きさだが。

「ついたわよナッグ。起きなさい」
「・・・・・・・・ん?え・・・・・なにここ天国かアンリ?」
「・・・・・まぁ天国よりはいい所よ」

そう言いつつアンリとナッグは洞窟の壁にもたれかかった。
そして洞窟の出口から見える外の景色を見る。
いや、景色なんて言えるものではない。
雪が吹き荒れているだけ。
外は真っ白。
滝の内側にいるような印象だ。

「ここ・・・どこなんだろうなアンリ・・・」
「さぁ・・・レビアから離れちゃったことは間違いなさそうね・・・」
「レビアの外ぉ?!一人前の人でもアンタゴン無しでは出歩かないっていうんだぞアンリ!?」
「私達は半人前の上にアンタゴン無しだからこうなってるわけよ・・・・」
「・・・・・・・・・なるほど」

ため息がまるで凍える冷気のようだ。
もう凍りついた鼻水をはじめ、
全身に感覚がない。
ガタガタと震える。
今ダガーでも渡されたら、
自動でめった刺しでもできそうだ。

そしてこれからどうすればいいんだろう。
そう考えたとき、
分かりきっていたことだが、
認めたくない事を認めなければならなくなる。

「なぁ、アンリ・・・・」
「なによ・・・・」
「俺達ってまさか・・・・・・・・・・・遭難・・・・してるよな?」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「アレ言わなきゃダメ?」
「お決まりだからなアンリ・・・・。もう言うチャンスないかもしれないし・・・」
「・・・・・・・・」

アンリは少し息を吸い込んだ後、口を開く。

「"そーなん"です・・・・・」

寒い中で言う寒いギャグ。
自分が悲しくて出る涙さえ極寒で凍り始めた。

「あぁ・・・・寒い・・・お腹減ったぁ・・・」
「だなぁ・・・アンリ・・・・」
「なにかあったかいものが食べたいわ・・・・」
「そんなもんあるわけないだろアンリ・・・・」
「あるわよ・・・ひとっぱしりしてなんでも屋(コンビニ)にでも行ってこれば・・・・」
「そんなんどこにあんだよアンリ・・・・」
「そりゃぁ・・・・・レビアにでも行けば・・・・」
「・・・・・・・」

話してて悲しくなってくる。

「想像と妄想で我慢するしかないなアンリ。
 朝まで我慢すれば吹雪もやむかもしれないし・・・・・」
「そんなに我慢できないわ!サムいのよ!腹ペコなのよ!」
「しょーがないだろ!だから想像してみろよアンリ!少しお腹ふくれるかもしれないだろ!」
「・・・・・・・・」

しょうがないからガタガタと震えながら想像する。
温泉旅館で食べた精進料理。
素っ気無い味だったが、それがまた高貴な感じがした。
いや、だが今食べたいのももっと簡単なものだ。
肉まん、おでんに焼き鳥・・・・
そういったものさえあれば・・・・

「こう・・・・庶民的なものがいいわね・・・・こう、単純な香りがパァー・・・・っと広がって」
「お、匂いがしてきたしてきた。いいぞいいぞアンリ」
「馬鹿ね。想像だけで匂いなんて・・・・」

急に目が覚める。
アンリとナッグは同時に目を合わせる。
そしてその目線は同時に動く。
それは洞窟の奥。
匂う。
匂うのだ。
先ほどまで鼻水まで凍っててわからなかったが、
洞窟の奥で・・・食べ物に匂いが・・・・

「まさかっ!?なぁアンリ?!」
「えぇ、そのまさかよ・・・・この穴・・・もしかして・・・・」

そのもしかして。
洞窟をゆっくりゆっくり進む。
といってもそんな大きい穴じゃない。
奥まですぐに確認できる小さい穴。
そして奥にはなにやら・・・・
白い毛むくじゃらの塊。
それは・・・

「ブロニンだ!まるまって寝てやがるぞアンリ!」
「えぇ、それにその横!」

そこに転がっているのは・・・
間違いなく自分達が買出しにいかされた酒とそのツマミ達。
つまり、
偶然だろうがなんだろうが、
買出した物をパクったブロニンを見つけたのだ。

「やった!やったぜアンリ!」
「えぇ!半分食い散らかされてるけどもうそれくらいは許すわ!」

ナッグとアンリは嬉しそうに近寄る。
もう目線は食べ物に釘付け・・・・
食べれる。
飲める。
そして目的を達成・・・・

「グルゥ・・・」

一瞬で食べ物への興味を失った。
そして二人に冷たい汗がたれる。
その汗は寒さで凍りつきそうなほどヒヤッとした。

ブロニンの寝言のような鳴き声。
まさか・・・起き・・・・

ナッグとアンリはゆっくり目線をブロニンに戻す。

「グルル・・・・」

・・・・・
バッチリ起きてた。

「あ・・・・おはようございます・・・・」

アンリの言葉と共に、
ブロニンは雄たけびを上げながら体勢をひるがえす。
牙をたて、
こちらに頭を向けながら、怒り震えている。

「やべ・・・どうするんだよアンリ?!」
「どうするったって・・・・・」
「・・・・・・・やるのか?」
「・・・・・・・しかないでしょ!」

ナッグはソードを、
アンリはスタッフを構える。

「ここここ・・・・こいっ!」

ナッグが言う、
と同時。
答えたかのようにブロニンが跳んだ。
一瞬だった。
ナッグの横をかすめた。
身動きひとつとれなかった。
自分の頬に切り傷があるのに気付いてやっとナッグは動いた。

「い゙・・・・・血!血ぃいい!!?!?!?アンリ!早くヒール!ヒール!!!」
「う、うるさいわね!すぐに・・・・」

「がるるるるるる!!!!」

「「ひぃ!?」」

勝てるのか?
どうなんだ。
いや、勝たなければならないんだ。
この小さな洞窟の中。
外は極寒の吹雪。
ある種のデスマッチだ。
それを思うと、
覚悟が決まった。

(ナッグ・・・)
(なんだよアンリ・・・)
(わたしがオトリになるわ・・・・その間に斬りつけて)
(しょぼい作戦だなアンリ・・・)
(でも効果はてき面よ。先輩達がいっつも討伐でやってるじゃない)
(先輩達か・・・・・)

ナッグとアンリは思い浮かべる。
先輩達の顔を。

     「ハハハッ!お前ら誘導作戦もできねぇのか!?」
     「討伐の基本ですよキ・ホ・ン」
     「だからあんた達はいつまでも下っ端なのよ」
     「ホホ、お使いさえもできんようじゃぁ下っ端さえ失格じゃな」

想像の中の先輩方が言う。
ナッグとアンリは想像の先輩方の発言にピキッっとくる。
黙ってられない。
下っ端と・・・
出来損ないと見下されたままでいいのか。

「やるしかねぇなアンリ」
「よね」

アンリが急にスタッフを捨てる。
そして

「ほらほら!熊さぁーん!おいしそうなアンリちゃんよぉー!」
「うまそうじゃねぇよアンリ・・・」
「うっさいわね!」

アンリはナッグを一回殴ってから挑発を再開する。

「熊さぁーん!あたしを攻撃しないとせっかくパクった食べ物も食べちゃうわよー!」

アンリが熊の食べ物・・・・
といってももともと自分達が買い出して来た食べ物を手に掴み、
食べる振りをする。

「ガルゥゥ!!!クガアアァッァアア!!!!」

ブロニンはまさに挑発にのってきた。
目の色を変え、
牙をみせ、
爪をたて、
飛び掛ってきた。

「キャァ!!!」

アンリにまさにブロニンの攻撃が・・・・

「・・・・・・・・・」

アンリは咄嗟につぶってしまった目を、
ゆっくり開けた。
すると・・・・・

「はぁ・・・はぁ・・・・はぁ・・・・・」

目の前には息を切らしたナッグと、
その手にもつ血のりのついたぎざっ刃ソード。
そして白い体に赤い切れ目の入ったブロニンが横たわっていた。

「やった・・・やったぞアンリ!」

アンリは喜びの声をあげる前に、
安心と疲れで、
そのまま眠ってしまった。































「・・・・・・・リ・・・アンリ!」

アンリはハッと起きる。
夢も見ていない。
記憶だけが飛んでいる。

「ナッグ!ブロニンはどうなったの!?吹雪は!?今何時?!」

アンリはキョロキョロと周りを見渡す。
場所は変わっていない。
やはりあの洞窟だ。
だが、状況が違った。

「誰がナッグだ」

アンリを揺り起こしたのは・・・

「レオ先輩!!!」

「ったく。ダメな後輩だな」

と同時に轟音が鳴り響く。
洞窟の外からだ。
洞窟の外はもう吹雪が吹き止み、
白銀の雪原が広がっていた。
雪が降っていたときには美しさのかけらもなかったが、
今見るとキラキラと美しい雪原。
そして音。
それは魔法の音らしい。

「外で・・・先輩達が戦ってるんですか?」

「そ、先に起きたナッグもな」

「え?何と戦ってるんですか?」

「ブロニンだよ。昨日社長がレビアの町長から仕事とってきたんだよ
 ったく休暇で羽のばしにきたってのによぉ
 レビアの町長ときたら、俺らがモンスター討伐会社《モスディドバスターズ》だって知ると、
 最近町に出没するブロニンを討伐してくれって依頼してきたんだとよ」

レオがクィっと洞窟の外にアゴをやると、
外には沢山のブロニンがいた。
十数匹はいるだろう。

「じゃ、俺も加勢にいくからよ、お前も手伝えよ!」

そう言ってレオは洞窟の外に出るなり、

「あーあー!!ナッグ!そうじゃねぇ!倒す事ばっかを先に考えるな!
 オープがスパイダーしやすいように誘導すんだよ!
 それとチャン老師の魔法範囲の邪魔すんなよ!巻き込まれてぇのか!?
 ・・・あっ!馬鹿!だからってシズの補助範囲から出るんじゃねぇ!」

叫びながらブロニン狩りに参加しだした。

「・・・・・・・」

アンリは状況の移り変わりにすぐに頭を切りかえれないでいた。
さっきまで遭難して、
洞窟でブロニンと戦って・・・
いや、その前に温泉に・・・・

と、思っていると、
突然洞窟にブロニンが転がってきた。
人より二回りも大きな体をしたブロニン。
だが、それは真っ二つになっていた。

「目が覚めたようだな」

そこには大剣をかついだ戦士がいた。

「ルースター社長!・・・は、はい!レオ先輩に起こされまして」

「そうか。まぁあまり無理するな。状況の変化に頭も体も追いついてないだろう。
 とにかく落ち着くまでゆっくりしてろ。体を休めるのも大事だからな」

それだけ行ってルースターは背を向けた。
戦闘に戻ろうとしている。

「しゃ、社長は私達下っ端の体まで心配してくれるんですね・・・・」

「・・・・・?」

ルースターはその問いに足をとめた。

「あ、いえ・・・先輩達と違って優しいなぁと思って・・・・」

「・・・・・ふっ」

ルースターは軽く笑ってまたアンリに近寄った。
そして大剣を地面に突き刺し、
アンリに言った。

「勘違いをしているようだが、ここに来たのはあいつらが言い出したんだぞ?」

「へ?」

「社長様が温泉でくつろいでるって時に駆け込んできてな
 それでいきなり「アンリとナッグが帰ってこない!!」・・・・・だとよ
 そっからすぐさま夜中だってのにレビアの寒空へ部下探しの旅だ」

「で、でも・・・これは仕事だからだってレオ先輩が・・・・」

「そんなもん口実だ。恥ずかしいんだろう
 あいつらはあれで後輩が可愛くてたまらないんだ」

ルースターが外を見ろと親指を突き刺す。
外で戦ってる先輩達の姿。
さすが・・・・
と思っていると、同じ下っ端であるナッグの情けなさが目立ち始める。
そしてそれを怒鳴る先輩。
やはり怖い・・・・

・・・・じゃない。

気にかけてくれているのだ。
命がけの戦闘の中だというのに。

「俺はいい部下をもった」

社長のルースターがボソリと言った。
笑みを含んだ言葉だった。
ナッグとアンリにとってのあの優秀な先輩方。
レオ、シズ、チャン、オープの事だろう。
そう思うと・・・
聞いてみたかった。

「私もいい部下ですか?」

「そうだ。そしてお前らは・・・・いい上司をもった。そうだろ?」

ルースターが笑うと、
アンリはまるでマラカスのようにウンウンと勢いよく首を縦に振った。

「それよりもソレだ」

ルースターが指差す。
洞窟の奥。

「あ・・・買出しの物ですか?それが半分以上は・・・」

「違う。そこの死んでるブロニンだ。
 それはここらのブロニンの長だ。お前とナッグでやったんだろ?」

「へ?ブロニンの長・・・」

「そう。だから今回の仕事は順調に終わりそうだ。
 偶然だろうが手柄だぞ。帰ったら何かおごってやる」

ルースターはまた軽く笑った。

「本当ですか!?」

「その前に仕事だ」

「はぃ!!!!!」

アンリは嬉しそうに洞窟から飛び出す。
雪が積もった雪原。
同じ社員達・・・先輩達の戦う雪原という名の仕事場に。

「せんぱーい!わたしも手伝いますー!!!!」

「あっ馬鹿!今でてくんな!」
「せっかくのフォーメーションが台無しですよアンリさん!
 やっとナッグさんがうまく動けるようになってきたんですから!」
「ちょ、アンリあんたスタッフはどうしたのよ!」

「あ、洞窟の中だ・・・・」

「何しに出てきたのよ!」
「ホホ、・・・役にたたんわ足引っ張るわじゃの・・・先が思いやられるわい」









1人の頼もしい社長と、
4人のやり手の先輩社員。

そして2人の半人前下っ端。


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