「男の子だ!男のが生まれたぞぉーーー!!!」

スオミの名門一家の一つ。
マウンティー家。
そこに一人の男の子が生まれた

「おぉ!まさしく男の子じゃ!マウンティー一家にも400年ぶりの男の子が!」
「予言の通りじゃないか!」
「あぁ!生まれたぞ!"神の子"だ!」

何故か女の子しか生まれない不思議なマウンティー一家。
マウンティー一家は代々当主によそ者(婿)をとってきたが、
とうとうマウンティー純血の血筋が生まれたのだ。
その男の子はその名家で期待の中で産まれた。
生まれる一週間前に
水晶(オーブ)で占いが行われた結果。
性別は男。
そして本当に男の子が生まれた。
女しか生まれなかったマウンティー一家にとって
これは一大事的な奇跡であった。

そして水晶に刻まれていた言葉。

"生まれる男の子は神の子だ。名は・・・・・"

「名前だ!」
「予言どうり男の子が生まれたんだ!名前も予言どうりにすべきだ!」
「えぇそうしましょう。
 この子の名前は水晶に刻まれていた"神の名前"・・・・・"LOKI"・・・・・"ロキ"と・・・・・」

その日。
それがロキ・マウンティーという子の誕生だった。

マウンティー一家の皆は一喜一憂だった。
この神の子に期待が膨らむ。
そしてきっとこの子は凄い子になる。
周りの期待ばかりがつのっていった。



だが・・・・



「ロキは本当に神の子なのか?」




その不安がつのり、爆発したのは
ロキが生まれてから3年の月日がたった時だった。








「もう我慢ならん!どうなってるんだ!」
「どうなってるもなにも決まってるでしょう!この子は未熟児だったんだ!」
「三歳にもなってまだハイハイもできないんだぞ!」

ロキの成長速度は異常に遅かった。
未だミルクを飲ませてもらっている状況。
ベッドに寝かされたまま生きる三歳児。
誰もが疑うのは当然だ。
神の子と期待に胸を膨らましていたのだから。

「だがオーブには神の子だとっ!」
「水晶占いはハズレだったんだ!よく考えてもみろっ!
 何の因果か女しか生まれなかったマウンティー一家に男の子が生まれた!
 これは奇跡じゃない!マウンティーの血筋にとっておかしな子だということ!
 歯車がはずれたと同じ事なんだ!出来損ないが生まれて当然だ!」
「いえ、それよりもこの子をこのまま育てていいのかしら
 女しか生まれない家に生まれた男の子。これは災いをもたらすんじゃ・・・・」
「災い!?そういえばLOKIというのは"災いの神の名"だぞ!」
「な、なんだと!?」
「じゃぁこの子は災いの子じゃないか!」
「す・・・捨てるべきなのでは」
「そうだ捨てちまえ!災いを呼ぶぞ!」
「誰が捨てに行くんだ・・・・バチがあたりそうじゃないか?」
「そうだ!街端に住む乞食にでも捨てに行かせろ!」





ロキを捨てる計画はその日のうちに行われた。
スオミの街の端に住む乞食。
その乞食に小銭で依頼し、
どこか森にでも捨ててきてくれと。
乞食は喜んでロキを捨てにいった。



スオミの森の中。
乞食は見知らぬ赤ん坊ロキを抱えて歩く。
はしたお金をもらった。
人一人の命を捨てるぐらいでお金がもらえるのだ
乞食にとってこんないい事はなかった。
だが、乞食は苦しい生活をしてきた分
このロキに"可哀想"といった感情も感じていた。

「どこに捨てようか」

だが乞食の目にある場所が映った
スオミの森のその一角。
森の中というのに岩がゴツゴツと生えている不思議な場所があった。

「ここにしよう。ここならこの可哀想な子に誰か気付き、拾ってくれるかもしれない」

その岩場
その中の割れ目にロキは置かれた。
まるで岩に挟まれるような光景でロキは無邪気に寝ている。

「じゃぁ赤ちゃんまたな。いい人に拾われるといいな」

そう言って乞食はロキを置いて帰ろうとした
だが乞食はふとある事を思いついてロキのもとに戻った。

「誰かが拾った時のために名前書いといてやろう
 えぇ〜っと・・・この子の名前は・・・なんつったか。あぁ、ロキだったな。
 でも俺は学がないから文字というもんがよく分からんな
 ロキってどんなツヅリだ?・・・・・ま、読めればいいか」


乞食は足元の草をチギリ、握って汁を出した。
そしてロキの手を掴み、
汚い字で"ROKI"と書いてその場を離れた。

ロキは手に草の汁で書いた名が記されたまま
岩の隙間で何も知らぬ寝顔をしたまま、
すやすやと吐息をたてていた。









拾い手は案外早く現れた。

ロキが捨てられてたった3時間ほど。

それは不幸中の幸いだった。

だが、逆。
その幸い中の不幸。

ロキを見つけたのは魔物だったのだ

それも魔物中の魔物
人間界にもその名を轟かす"カプリコ三騎士"だった

「応応!人間の赤ん坊が落ちてるぜ!」
「・・・・・・・落ちてるんじゃない。捨てられたんだろ」
「だろうな。だがなんとも不思議な光景だ。
 この岩肌のひとつの割れ目に捨てられた子。
 この光景はまるでこの岩からこの子が産まれたみたいじゃないか」

ただ人間の赤ん坊が捨てられているというだけ。
だが、森の中で、やけに岩がゴツゴツしたその場所。
その不思議さも助けて、その赤ちゃんは何か不思議な魅力を持っていた。

「で、どうするよ」
「・・・・・・・どうするも何も人の子。ほおっておくだけだ」
「違う違う。どうせほうっておいても死ぬんだぜこのガキ?
 じゃぁよ、いっその事俺達の手で・・・・・・」

アジェトロはロキに向かってカプリコソードを突きつけた。
凶器・暴力といったものを知らない人間の赤ん坊に。
それ以前にロキはすやすやと寝ている。
いや・・・・
突然目を覚ました

「あ゙ーあー」

状況の分かってない赤ん坊ロキは
無邪気な笑顔でアジェトロのカプリコソードの先端を掴んだ。
場合が場合だが、
アジェトロは自分の剣を掴まれるという事は生涯初だった。

「・・・・・不思議なガキだ」
「応。まるで神の子にでも見つめられているようだな」
「・・・・・・・・連れ帰るか?」

エイアグの提案。
あまりにも突然の意見だが、
アジェトロとフサムは反対も質問もしなかった。
何故か同じような考えが浮かんでいたのだ。

「・・・・・・決定だな」
「我ら三人で育てるとしよう」
「名前はどうするんだ?」
「・・・・・手を見てみろ」

乞食が書いたロキの名前。
学がない者が書いたことが見て取れる、文体も何もない汚い字。
さらに汚れている上に草の汁で書いた文字である。
読み取りにくい

「PI・・・・O・・・KJ・・・?いや、R・・・・O・・・KIか?」
「きったなくて読み取りにくいな。ところどころ汚れて消えてやがる」
「薄汚い奴が草の汁で書いた文字だからな」
「まぁこの名前の通りじゃなくてもいいんじゃねぇか」
「・・・・・・エイアグ。決めてくれ」

エイアグは頷いた後、
ロキを見つめ、
そしてロキのいる光景を見て決めた。

「岩の隙間で寝ていたROKIという赤ん坊。
 まるで岩から産まれたように見えるな。
 ・・・・・・この子の名前は"ROKKIE"。ロッキー(岩より生まれし子)だ」
「・・・・・ロッキーか」
「また堅っくるしい考えで名前をつけるよなエイアグは」






それがロキ・・・・いや、ロッキーの第二の生活の始まりだった。












-十と数年後 カプリコ砦 エイアグの家-




「アジェパパ〜〜!いくよ〜〜!」

カプリコハンマーを振り落とすカプリコ。
いや、その姿はカプリコの身なりだが人間。
カプリコのような身長だが人間。
ロッキーだった。

アジェトロはカプリコソードでハンマーをいなす。

「応応!いい感じになってきたぞロッキー!」

「でしょぉ〜〜〜?」

「・・・・・・ロッキー。アジェトロの荒い戦いばかりするのは感心せんぞ
 ・・・・・・自分が稽古をつけてやる」

「え〜〜・・・。フサパパの稽古つまんないんだも〜ん」

「・・・・・・」
「ハハハ!フサム!お前は子供相手に堅苦しすぎなんだよ!」

ロッキー・アジェトロ・フサムが庭で稽古中だった。
もちろんアジェトロとフサムの稽古ではない。
ロッキーの稽古だ。
これはもう日課であり、
アジェトロとフサムの楽しみでもあった。

パンパンっと手を叩く音が聞こえた。
エイアグが家から出てきたのだ。

「もう暗くなってきた。稽古は終いだ。ロッキー。明日も朝から稽古だ。そろそろお寝んねだぞ」

「はぁ〜〜ぃ。エイアグパパ」

ロッキーはカプリコハンマーをぽぃっと捨て、
トタトタと小走りで家の中に入っていった。

エイアグはアジェトロとフサムに話しかけた。

「調子はどうだ?」
「応応!同じカプリコ三騎士様に調子を聞くかいエイアグ?」
「アジェトロ。お前の調子じゃない。ロッキーのだ」
「あ〜あ〜。エイアグの溺愛っぷりが出たぜ。なんだかんだで一番パパしてるからな」
「・・・・・いや、むしろママだな」

アジェトロとフサムは笑う。
エイアグはハッと気付いて自分の身なりを見た。
食器の片付けをしていた時のままのエプロン姿だ。
三騎士のエプロン姿など世間に見せれたもんじゃない
エイアグは焦りながらエプロンをたたんだ。

「で、でどうなんだロッキーは。成長してるか?」
「・・・・・・してる。著しいさ」
「応。が、やっぱ・・・・・違う意味では成長していないな」
「・・・・・違う意味というか真っ当な意味でな」
「やはりか・・・・・」

ロッキー。
それは不思議な子だった。
もう生まれてから十と半ばほどの年になったんじゃないだろうか。
カプリコといえど人間の成熟した身長は知っている。
だが、ロッキーは未だ・・・・
1mもない体。
カプリコ達と比べて大差ないのだ。

「始めは・・・・こんな環境で育ててしまったからかと思ったが」
「・・・・・違うな。生まれつきだ」
「"成長が遅い"ってことだな」

成長が遅い。
そう、ロッキーは成長が著しく遅かった。
体のサイズ。そして精神年齢。
それらは恐らく人間でいう4歳ほどではないだろうか
十代半ばであの体。そしてあの無邪気さ
脳を含めた成長のスピードが遅いのだ。
恐らく4倍ほども

「捨てられて当然だな」
「・・・・・・人間だったら気味悪がるのも頷ける」
「こんないい子なのに・・・・可哀想な体に生まれちまったせいでな・・・・・」
「可哀想?」

エイアグが言葉をはさむ。

「本当に可哀想な体なのだろうか」
「・・・・?」
「どういうことだ」
「考えても見ろ。ロッキーはもう十数年生きているがまだ4歳ほどだ
 成長や精神年齢という意味でな・・・・だがそれなのに・・・・・この強さ」
「強さに関しては俺らが鍛えたのが活きてるわけだよな」
「・・・・・・・・才能もある」
「そういう事は問題じゃない。大事なのは"実質4歳でこの強さ"ということだ」

アジェトロとフサムは言葉を返さず黙って聞いた。

「人の4倍ほど遅い成長。だがそれでもこの十数年の"経験"だけは当然残っている。
 ・・・・つまり人の4倍生きれるだろうロッキーには4倍の経験値を手に入れる機会があるんだ
 これはもう神がロッキーに遣わした特異すぎる才能だ
 ロッキーは"物凄く"なるぞ。それはもう我ら三騎士が作った伝説など抜くほどのな
 まさしく・・・・・・・・・・"神の子"だ」

アジェトロとフサムは真剣な顔でその話を聞いた後。
フッと笑って話した。

「散歩がてらスオミの森にいっただけなのによ。凄いもん拾っちまったな」
「・・・・・神が落ちてたのだからな」
「応、だがよエイアグ。ひとつ気に入らないことがある。そこだけ訂正してくれ」
「なんだ?」
「ロッキーは神の子じゃない。俺達"三騎士の子"だ。
 ロッキーをここまで育てたのは神じゃない。俺達・・・・・・そうだろ?お応?」
「・・・・そうだな」
「ロッキーは俺達の子だ。・・・・・・たとえ人間だろうと」











ロッキーはカプリコ砦で平穏に育った。
いや、平穏とは少し違ったかもしれない。
カプリコには天敵がいるし、
人間だって襲ってくる。

ロッキーも戦う時がまばらにあった。

そしていつの間にか人の間を中心にひとつのあだ名がつけられた



『ロコ・スタンプ』

















-数年後-



「うわぁぁぁあ〜〜〜!!皆ぁ〜〜!
 隣のおじさん!おばさぁ〜ん!!砦のみんなぁああ〜〜!!」


燃え盛るカプリコ砦。

その日は特別な日だった。

それは宿敵ノカンとの最終決戦。
カプリコ総出で戦争に出陣した。
負けるはず無いとロッキーは思っていた。
何せ負ける姿など見たことの無い偉大な三匹の父親がいる。
パパたちがいる限り負けるはずがない。

だが結果は・・・・・悲惨だった。

ノカンとカプリコの戦争終了間際。
人間の大群が押し寄せてきたのだ。

人間は容赦なくロッキーの家族ともいえるカプリコ達を殺していった。
十数年の思い出が火に焼かれ、
ロッキーは泣いた。
偉大な父達に守られて生きてきたため
大事なものを失うというのは初めての経験だった。
その"初めて"
その規模が桁違いすぎた。
4・5歳に満ちたか満ちてないかという精神年齢。
その中に込められた十数年の思い出。
その9割5分が赤い火と人間の手で消されていっているのだ。

「ロッキー様!避難を!」

一人のナイトカプリがロッキーを掴むようにして連れてこうとする。

「いやだぁ〜〜!みんなを守るんだぁぁ〜〜〜!!!」

「三騎士の息子様に死なれては困るんです!
 お父さん方に会うためにあなただけはせめて生きなければ!」

「あ゙ぁぁぁ〜〜〜〜〜!!!!!」
























「無事だったかロッキー!よかった・・・・」

「・・・・・」

放心状態のロッキー。
心へのダメージが大きすぎたのだ。

エイアグとアジェトロとフサム。
かけてやる言葉が見つからないが、
エイアグは話を進めた。

「悲しいだろうが聞いてくれロッキー。まだルアスの森には騎士団がうろついている。
 カプリコとノカンの残党狩りだ。危険なんだ」

「・・・・・・」

「だがお前は幸い人間だ。人間の町に避難するんだ。そうすれば助かる」

「・・・・・・・・・・・・・・やだ」

ロッキーは静かに顔をあげた。

「僕はぁ〜!人間じゃないもん!カプリコだよ!カプリコ砦の皆と同じカプ・・・・」
「ロッキー!」

エイアグが怒鳴る。
ロッキーはビクっとした。
普段はやさしいエイアグパパ。
だがそれはエイアグが本当にロッキーの事を思って怒る時の表情だとロッキーは知っていた。

「お前は・・・・町へいくんだ」



































ロッキーはただただ歩いていた。
ローブをずるずるとひきずり。
カプリコハンマーをずるずるとひきずり。
戦争での悲しみをずるずるとひきづっていた。
ひきづってもひきづっても消えない重い想いの重荷。
その重荷はロッキーの心まで重く落としていた。

まずここはどこなんだろうか。
ルアスに間違いない。
まぁどうでもいいような気もする。
でもお腹がすいた。

ロッキーは知らないが、
ここはルアスの99番街。
迷える人間がたどり着く地の果て。
荒れたスラム街。

いつの間にか暗い夜
遠くで狼の遠吠えが聞こえる。
暖かいカプリコの皆に囲まれ、
一人きりの夜など無かったというのに。
精神年齢4・5歳のロッキーには怖く、つらい夜。
99番街の路地をただ延々と歩く。
ロッキーがつまづいた。
近くにいた人間がそれを見てニヤニヤしていた。
治安のいい場所じゃないくらいはロッキーにも分かった。
襲われていないのが不思議なくらいだった。

「あ・・・・」

そんなロッキーに
ひとつの明かりが目に飛び込む。
そして・・・・・おいしそうな匂い。
ロッキーはいてもたってもいられなくなり、
その匂いと光を放つ建物のドアを押し開いた。

開けた瞬間聞こえてくる楽しそうな音楽と人の声。
そして並ぶテーブルとそこの上の食べ物と酒
よだれが落ちそうだったが
ロッキーはどうしていいか分からずフラフラと店内を歩いた。
そしてカウンターの前まで行くと、
ひとつ空いているカウンターの席を見つけた。
とりあえず座ればいいのかなとロッキーは、
自分の体と比べると高い椅子にピョンッと飛び乗る。
そしてキョロキョロと周りを見回した。

「あら、小さなお客さんね」

赤い服をきた人間が出てきた。
ロッキーには人間の見分けがよくつかなかったが、
派手な赤い服でその人間を記憶した。

「坊やお金(グロッド)は持ってるの?」

「グロッドォ〜?」

頭の上に"?"を浮かべるロッキー。
だが何かを思い出し、右手で左手をポンっ・・・と叩いた。
たしかパパ達がサラセンで"買い物"ってのをする時に使っていたやつだ。
そして自分がそれを持っていない事も分かった。
ロッキーはブンブンと頭を振る。

「あら・・・・」

その赤い服の人間の反応で、ロッキーは唐突に理解した。
そのグロッドというものがないため自分はご飯が食べれないのだと・・・・。
ひきづっていた悲しみも重なり、
ロッキーの目に涙が溜まり始めた。

「あらあら泣かないで、ほら、今日はこのマリナがおごってあげるわ」

「ほんと〜!?」

ロッキーにひさびさの嬉しさが滲んだ。

「カッ!ガキは泣けば飯が食えるのかマリナ。そりゃたいしたもんだな
 赤ん坊は泣くのが仕事たぁよく言ったもんだ。これだからガキは・・・・・」

横のテーブルのピアスの人間が言った。
そのテーブルには三人の人間が座っていた。
そのピアスの人間と、
なんかモジャモジャした頭のモリモリした人間と、
なんかサッパリした髪の毛の長い人間

「いいじゃないのドジャー。あんただってツケばっかじゃない」
「あ〜うっせぇうっせぇ!こんなマズい飯に金なんか払えるかよ。なぁジャスティン」
「だなドジャー。俺は今日始めてこの店に来たけどこんなヘドロのような黒いスープは初めてだ
 酒がうまくて、店主が美人な事だけが救いだがよくこれで開店できたもんだぜ。
 ドジャー。なんでこんな店に俺を呼んだんだ?」
「そりゃぁメッツがな、この店の店主に・・・・」
「あーあーあーあー!!!ドジャーうるせぇうるせぇ!」
「カカカッ、分かってる分かってる」
「そういう事か、メッツ。女の落とし方教えてやろうか?」
「い、いらねぇっつーの!」
「じゃぁ何しにきてんだよ。酒は苦手で飯はマズいんだぜ」
「あ〜・・・・・・・・・・・おっ!ガキンチョ!ちょっとこっち座れよ」
「カッ、逃げやがった」
「逃げたな」

突然ロッキーは頭を掴まれる。
モリモリの人間にだ。
でっかい手だ。
カプリコにはこんな大きな手をした人はいない。
そしてロッキーはそのままUFOキャッチャーのぬいぐるみのようにクレーン式に運ばれ、
そのテーブルの椅子に着地した。

「ガキンチョ、名前は?」

「ロ、ロッキ〜だよぉ〜」

「ろぉ、ろぉっきぃ〜だよぉ〜」

ピアスの人間がロッキーのマネをしだした。
長い髪の人間とモリモリの人間がそれをみて笑った
いや、モリモリの人間は大爆笑して腹を抱えていた。

「見ない顔だが、どっから来たんだ?」

「ん〜と・・・・カプリコ砦〜」

「は?」
「何言ってんだこいつ」
「親とはぐれて混乱してるんじゃないか?」

「違うもん・・・・・パパが町に行けって・・・・」

「ガハハ!パパってもしかしてカプリコなんじゃねーの!」

「そうだよぉ〜」

「あぁん?カプリコが親父なわけねぇだろ」
「わかんないぞドジャー。そういえばカプリコに見えなくもないんじゃないか」
「んなわけあるか」

ピアスの人間がロッキーに手を伸ばす。
そして深めにかぶっていたウルフキャップを外してしまった。

「あぁ〜!返してよぉ〜〜!」

焦るロッキー。
ピアスの人間はニヒヒと笑っている。

「ほれ、やっぱ人間じゃねぇか」

「僕はカプリコだよぉ〜!!」

「「「あいあい」」」」

その人間達は同時に返事をしながらカップを手に取った。























ロッキーは目を覚ました。
昼の日差しがまぶしい。
見渡すと、ここは昨日の"酒場"という場所だった。
テーブルで寝たままになっていたようだ。
誰もいない酒場のテーブルで目を覚まし、
ロッキーはズレたウルフキャップを整えた。

昨日は朝までしゃべっていた。
人間とこんなにしゃべったのは初めてだったが、楽しかった。
とりあえず昨日の三人と店主だけ覚えた。
ドジャーとメッツとジャスティンとマリナ。
人間も悪い人ばかりじゃないと知った。
いや、あの三人は悪い人かもしれないけどいい人だった。

だが、ロッキーは思いつき、ドキッとした。
昨日は無我夢中で人間としゃべっていたが、
人間はカプリコ砦にヒドいことしたやつらだ。
そんな人間なんていうやつらと仲良くなんて・・・・・

「あらロッキー君起きたのね」

店の奥からマリナが出てきた。

「あんまりスヤスヤ寝てるから起こすのも悪いと思っちゃってね」

言うなりマリナは手にもつ濡れ布巾でテーブルを磨き始めた。

「昨日は楽しかったわね」

マリナがそう言う。
楽しかった。たしかに楽しかった。
だけど今思うと人間と楽しくしゃべってしまった事に嫌悪感があった。

「わたしはロッキー君が言ってた事信じるわ。カプリコ砦で暮らしてたっての
 実はわたしもこの間までモンスターと暮らしてたのよ?」

「え?」
「モンスターにもいいやつ悪いやつがいるのよね」
「・・・・・いいやつわるいやつ〜?」
「そう。ロッキー君のお父さんは悪いモンスターだったの?」

ロッキーは一生懸命首を振った。
パパ達が悪いやつなわけがない
そしてマリナを見つめて聞いた。

「じゃぁ〜人間にもいいやつとぉ〜わるいやつがいるのぉ〜?」

「そりゃそうね」

マリナが微笑んだ。




ガランガランと扉が開く音がする。



入ってきたのは昨日の三人。
ドジャーとメッツとジャスティンだった。

「おぉ!いいとこに二人そろってやがる」
「ガハハ!一石二鳥ってやつだな」
「レディーを鳥扱いするのは許せないぜメッツ」

しゃべりながらズカズカと入ってくる。

「どうしたの?まだ開店してないわよ?」
「まーまーまーまーまー。おい、ガキ。ロッキーっつったな」

「〜〜〜?」

「カプリコ三騎士の養子!お前なんだろ?ロッキー。
 昨日親がカプリコとか言ってたもんなぁ。今なら信じる。信じるぜぇ〜?
 今日一日だけで噂が広がっててよぉ。戦争で逃げ落ちた三騎士の養子が・・・」
「おいドジャー」
「あ、っと悪い」

戦争という言葉のところに気を使ってくれたのだろうか

「んでロッキー。お前三騎士の息子なら強いんだよな?な?言ってたもんな昨日」

「うん。つよいよぉ〜」

「じゃぁギルドに入らないかい?《MD》っていうんだけど今日から作ろうと思ってるんだ」
「あ、マリナ。お前はもう決定だから」
「え!?なんでよ!あんた達と知り合って間もないのになんであたしが!?」
「カカカッ!お前がこの街に来たとき・・・・っつーかこの店のっとる時?
 あの暴れようは凄かったからな。戦力が欲しいんだよ戦力がな」
「べ・・・・別に戦力になってもならなくても入ればいいんじゃないかぁ?」
「ハハッ、メッツが一番必死だな」
「うっせぇ!」

メッツがジャスティンに殴りかかった。
だがジャスティンは笑いながらサラリと避ける。

「はぁ・・・まぁいいわよ。私もこの街に来てばっかりだから繋がりは欲しかったしね」
「繋がりより料理の腕のほうなんとかしてくれよ?」
「う、うるさいわね!すぐ上手になるわ!」
「で、ロッキー。お前はどうなんだ?」

「・・・・・・」

ギルドっていうのはよく分からないけど仲間の事だろう。
ロッキーは首を縦に振らなかった。
たしかにこの人たちは嫌いじゃない・・・・
嫌いじゃないけど人間と一緒なんて・・・・
いや、人間の事を嫌いじゃない自分の事が、死んだカプリコのみんなに申し訳がない。

「ぼくは〜・・・・・」

「あぁもうクソ!ガキはグダグダするから嫌なんだ!
 あいあい、もう決定な!お前がなんと言おうと決定!分かったか?」

「でもぼくは人間となんて〜〜・・・・」

「ガハハ!俺らとお前の何が違うってんだ!」


気付いた。
その言葉で。
いや、
初めてロッキーは受け入れたのだ。
だが人間と繋がりを持つという事に対してではない。

自分が・・・・・・・・人間だという事。

「ぼく・・・・・・・・入る」

「おっしゃ決定!」
「あと他に誰を誘う気なの?」
「ここに来る途中にチェスターの了解はとったぜ」
「他にめぼしい奴いるか?聖職者とか」
「だから聖職者は俺がいるだろ」
「お!あいつは!こないだ医者になったレイズとか・・・・・・」

あーだこーだとしゃべる4人。

その光景を静かにロッキーは見守っていた。
コレでよかったんだ。
最初から分かってた。
そう、
自分がカプリコの皆と違う者だと。
だがそれに気付かないフリをしていた。
いや、認めたくなかった。
パパ達もおじさんや近所のおばさんや友達や、
やさしいプラコの兄ちゃんや厳しいロードカプリコのおばあさん。
皆と自分が無関係だと。
違う者だと。
だが、そんな問題。
最初から関係なかったんだ。
それは自分が人間を嫌わない・・・・とかそういう問題以前に、
カプリコの皆は人間の僕を仲間として・・・家族として見てくれてる。

最初から、カプリコとか人間とかたいした問題じゃなかったんだ。

それに気付き、ロッキーは晴れ晴れした気持ちになった。

もしかしたらエイアグパパはそれに気付かせるために町にこさせたのかもしれない。





ロッキー。
初名ロキ・マウンティー

LOKI・・・つまり神の子としてスオミに産まれ。
カプリコ三騎士の養子・・・つまり伝説の子として育つ。
そしてカプリコを襲うノカンや人間の間では『ロコ・スタンプ』・・・・化け物として恐れられる。

一度として人間として扱われなかった。

そんなロッキーの今までの生活

それが、初めて人との触れ合いを受け入れた事で、


これからの生活が"人"生と呼ばれるものへと変わることができた



だが人の4倍生きるロッキーの人生の中では、

ここまでの話などまだまだ始まってばかりなのかもしれない












                 






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