-数日前




                              99番街外れの廃宿 地下-




「ヒャァーーーーハハハッハッハ!!!燃えた燃えたぁぁ!燃え尽きたぁああ!!」

小さな地下の一室。
そこが燃えに燃える。
敷き詰められた本棚。
その本達を薪に。
火が轟々と燃える。

そしてダニエルの笑い声が地下の小さな部屋に響く。
それは歓喜で、
愉悦で、
快感の笑い声。

「燃えーる燃えるぅ♪ミダンダス君の丸焼きぃ!ヒャーハッハッハ!」

ジャスティンはそれを入り口の階段際で黙って見ているだけだった。
傍らの彼女だけを優しく片手で抱きながら。

「ヒャーーーハッハハハハ!・・・・・・・ぁあん?」

全てを燃やした。
こんな小さな部屋。
ダニエルの炎なら一瞬で灰まみれにする事も難なくできる。
そしてそれをやった。
やったが・・・・

「いきなり失礼な方だ」

部屋の中央。
ミダンダスの周りの地面は綺麗なままだった。
ミダンダスの後ろの机も綺麗なままだった。
そして・・・
ミダンダス自身も無事・・・無傷でそこに立っていた。

「お、俺の炎が効いてねぇのか!?」

ダニエルの問いを全く無視し、
ミダンダスはジャスティンに視線を向け、
眼鏡を片手で持ち上げて言う。

「少し部下への教育がなってないようですねジャスティン」

「ハハッ、そりゃぁ悪かったなミダンダス」

ジャスティンが笑い返す。
そのジャスティンとミダンダスの対極線上で、
ダニエルが意味も分からずキョロキョロしていた。
そしてジャスティンの方を見て、
地面に一度足を叩きつけた後、言う。

「おいおい六銃士さんよぉ!どういうこった!?
 この眼鏡博士を俺が燃やしてオブジェ分捕るんじゃなかったのかぁ?」

「そうさ。そうだがちょっとお前は焦りすぎだ。
 俺の作戦をちゃんと聞かないから分かってないんだ」

「そりゃなぁん♪俺は燃やせりゃそれで満足だからなぁ〜〜ん♪」

ジャスティンは呆れもせず、
笑いながら歩く。
彼女を入り口に待たせ、歩く。
そしてダニエルの横まで歩くと、
親指でミダンダスを示す。

「まぁ聞けダニエル。お前が燃やそうとしたアレ。
 あの眼鏡野郎だが・・・・・・・・・・・・・・あれが俺らのGM、ドラグノフ=カラシニコフだ」

「はぁぁ?」

ダニエルが片眉だけ下げてミダンダスを睨む。
品定めするように首と目線を舐めるように動かしながら睨む。

「このヘンピな眼鏡野郎がGUN’Sのマスターだぁ?」

「眼鏡は関係ないでしょう。失礼な者ですね」

ミダンダスは眼鏡をクィっとあげた後、
自分の後ろの机と歩む。
そして引き出しに手をもっていき、
・・・引き出しの中から・・・・
一つの王冠を取り出した。

「これがこの間ドジャーが持ってきたものです。
 えぇ〜っと・・・・3ヶ月前くらいだったかな?」

「そんな訳ないだろ・・・・」

「そうですか?何分時間の感覚に疎くてね」

ミダンダスは眼鏡を持ち上げ、
ピントを合わせ、
そしてオブジェを見入る。

「美しいですね。これが世界の鍵・・・・・・シンボルオブジェクト
 これが私の歴史の礎(いしずえ)となるのですね」

ミダンダスは怪しく笑った後、
それを机の上に置いた。

「まったく・・・・・・・・私を燃やしてオブジェを手に入れる?
 危うくこのオブジェごと燃やしてしまうとこだったではないですか
 ジャスティン。貴方にはGUN’Sのほとんどの権利を預けているのです
 こういった事には慎重になってもらいたいものです」

「だから悪いって言ってるだろ?ミダンダス」

「部下の前でぐらいドラグノフ様と呼べと言っていますでしょう」

ミダンダスは呆れて首を振った。

「で、今回はどういった了見でここに来たのですか?
 連絡はWISで十分だと言っておいたでしょう。
 貴方がここにいて、GUN'Sは今誰が指揮をしているのですか?
 それに世界統一の下準備は進んでいるのですか?
 それと私の欲しがっている人物は捕捉できたのですか?」

「エクスポかレイズの事か?まぁ・・・それはおいおいな・・・・」

「全く。では何の用だジャスティン。
 この私の書斎を燃やしに来ただけとでもいうのですか?」

「ま、当たりだ。おい、入ってこい」

ジャスティンの一言。
その一言で入り口の向こう側から一人の男が入ってきた。
GUN’Sのメンバーだろう。
その眼鏡をかけた男は六銃士であるジャスティンの命令で、
テキパキと歩いてきた。

「俺の提案を聞いてくれよミダンダス・・・・・じゃなくてドラグノフ様。
 とりあえずさ、GUN’Sに俺がいる事が知れたらまずいんだ。
 ドジャー達も馬鹿じゃない。ここがオブジェの安全な隠し場所でない事はすぐ分かる。
 で、ここで提案だ。こいつこいつ。こいつがキーポイントなんだ」

ジャスティンはその男の肩に手を回し、
そしてミダンダスに話し始める。

「ここに用意したこの男。ま、GUN’Sのただの一般兵だ。
 ハハッ、でもどうだい?この男。あんたにそっくりだろ?」

そう。
ジャスティンが用意したその男。
その男は身長、体系などの背格好がミダンダスにそっくりだった。
眼鏡をかけている事までそっくりだ。

「こいつを身代わりにこの部屋ごと燃やしてしまおうって作戦さ。
 つまるところ・・・・あんたはここで死んだ事にするんだ。
 俺はさっきここに入った時言っただろ?あんたに"命日を届けに来た"ってさ」

「ふむ。まぁ必要以上でも以下でもない作戦ですね」

ミダンダスは眼鏡をあげながら納得する。
だが、納得どころか動揺する者がひとり・・・
それは当然・・・・・

「ちょっと六銃士様!それは私が代わりここで死ぬって事ですか!?」

「名誉の殉職ご苦労様」

ジャスティンはその男の首の後ろをトンッと叩く、
それでその男は気絶してしまった。
恐らく次目覚める頃には燃えカスになっているだろう。

「で、私の大事な研究成果達を燃やしてしまった事の責任はどうとるのです?
 私が後世に名を残すための大事な研究の結晶達。
 これらの書物を燃やしたことがどれだけ重罪な事か分かっているのですか?」

「まぁいいじゃないかミダンダ・・・・・」

ジャスティンは言葉を止めた。
ずっと友達感覚で話しかけていたジャスティンだが、
そこで言葉を止めた。
ミダンダスの目。
眼鏡の奥に潜むその目。
その目がジャスティンを捕らえていた。

「わ、悪かったミダンダス・・・・じゃ・・・・ないドラグノフ様。よかれと思ったんだ・・・・・・」

「ふん。まぁよいです。大体の事は私の頭の中に入ってますからね
 一番大事な書物は無事ですし・・・・よしとしてやりましょう」

ミダンダスは机の上の一冊の本。
スペルブックのような研究書を拾い、
脇に抱えた。

「じゃぁ私もこの機会に本拠地に戻るとしましょうか。
 あそこに戻るのはいつ以来だったでしょうかね・・・・
 4年ぶり・・・・5年ぶりでしたか?時間の感覚を忘れてよく分かりませんがね」

ミダンダスが歩む。
ダニエルの横を通り過ぎ、
ジャスティンの横を通り過ぎ、
入り口へと歩む。

「あ、ミダ・・・じゃなくてドラグノフ様。
 そういや六銃士のヴァレンタイン、ルカ、タカヤの三人が死んだんだが・・・・」

「補充しなさい」

「は?」

「再装填しなさい。死んだら補充。それだけです」

ミダンダスはそれだけ言い、
また入り口へと歩む。

「ちょ、ちょっとまてよミダンダス!
 お前はGUN’Sのギルドマスタードラグノフだぞっ!
 その忠実なる最大幹部の六銃士(リヴォルバーナンバー)が3人も死んだんだ!
 それに対してなんかないのか!?」

「何か・・・とは?」

「惜しい部下を失ったとか!それだけでも感想はないのかって聞いてるんだっ!」

「フッ、戯言を」

ミダンダスは笑い、
振り向き、
眼鏡を持ち上げた後言った。

「六銃士・・・・部下・・・・・いや、《GUN'S Revolver》など、全て"私の道具"でしかありません」

眼鏡の奥の・・・・無機質で冷酷な目。
ソレは確固たる本音を話している目だった。

「俺達六銃士を道具だとっ!?」

「そうです。六銃士というのはリヴォルバー銃の弾数。
 言う所、六銃士など"ただの弾"。私のための"使い捨ての弾"でしかない。
 私の意志で放たれ、私の思う方へ突っ込むただの鉄砲玉。
 殺せといったら相手を貫くただの道具。六銃士は道具の中で優秀というだけ。
 そして"弾丸は無くなったら補充する"。それ以外に何がありますか?」

「テメッ・・・・ミダンダス!!!」

「おっと。そういえばジャスティン。
 私は研究がしたいので、GUN’Sの主権はまたあなたに委ねておきます。
 ですが・・・・あまり《MD》の前で・・・・はしゃがない事です。
 昔の仲間だからといって変な感情など出さないように。弾丸に感情などいりません」

「俺がただの道具だと思うなよ!」

「"ただの道具です"。いいですか?気をつけてください
 あなたが"私にひいきされている"と分かれば私の正体もバレかねない。
 私は静かに研究がしたいのです。それを害さないように。
 研究は私の生き甲斐であり、私の長所。そして人に称えられるべく勲章。
 私は歴史に名を連ねる者です。その礎(いしずえ)をちゃんとこなしてください」

ミダンダスはローブを脱ぎ捨てた。
ローブは燃える本棚に投げ込まれ、
そして燃えた。

そしてミダンダスは、
力強く話す。

「いいですか?私の夢は・・・・"何よりも大きく、そして何よりも小さい"!!!!」

ミダンダスは拳を握り締め、
そして話を続ける。

「私の夢は歴史に名を連ねる事。そうですね・・・・・・
 1000年・・・いや10000年後の教科書。その片隅にソっと名を連ねる。
 大きく取り上げられなくともいいのです。一行だけでもいいのです。
 私の偉大な功績をのちに伝え、私という存在を後世に残したいだけ。
 そんな何よりも小さい思いが・・・・・・・・・・・私の夢です。
 私はそのためだけに・・・・・・・・・・"世界を手に入れる"。
 書物に載る数センチの私の名前。それを載せるためだけに世界には変わってもらう。
 このギルドも・・・・・今生きる人々も、そのための・・・私の歴史のただの礎(いしずえ)です」

ミダンダスは振り向き、
背を向ける。

「今後の世界に名も残らぬ所で、あなた方はただ私のために働きなさい。
 あなた方はただの弾丸。最後に引き金に引くのは・・・・私だけでいい。
 "全ては私に繋がっている"。そういう理(ことわり)・・・・・・以上(それだけ)だ」

それだけ言い残し、
ミダンダスは先に階段を上がっていった。

響く足音が消えていく。

燃える小部屋の中、
ジャスティンとダニエルが残された。

「クソッ!」

ジャスティンは炎に燃える本棚に腕を打ちつける。

「おいおい六銃士様ん?何をそんなにイラついてんだって〜〜の」

「ミダンダスの野郎・・・・俺達を道具扱いしやがって・・・・
 いや、それでも・・・せめて死んだ六銃士の3人に言葉をくれてやれよ・・・・
 俺だって好きな奴らじゃなかったが・・・・・・・・・・・・死んだんだぞ!
 GMとして何か!何か一言だけでも言ってやる事があるだろっ!それを道具だとっ!」

ジャスティンはイラつく。
あんまりな部下への扱い。
これが世界最強ギルド《GUN'S Revolver》の実態。
ジャスティンからしたら・・・・
どうしても《MD》と比べてしまう。

「い〜んじゃねぇ〜の〜?」

ダニエルが気軽に言う。

「道具道具!弾丸弾丸!上等じゃねぇのよぉ♪
 俺ぁ燃やせればそれでいいからな!燃やしてぇってこの願望!
 これだけを満たせりゃなんだっていいってぇのぉ〜〜〜〜♪」

「チッ、お前は気軽でいいことだな」

ジャスティンが皮肉を言う。

「なぁ〜に言ってんだ。あんたも一緒一緒ぉん♪」

「俺も一緒だと?」

「そっそー♪いいかい六銃士様よぉ。俺達ぁ弾丸よ。上等じゃんか♪
 いいか〜い?銃ってのは使える弾丸の種類が限られている。弾丸を選びようがないんだ。
 だが弾丸からしたら自分にあった銃はたくさんある。
 分かったろ?"銃が弾丸を使うが、銃を選ぶのは弾丸の方"ってこと♪」

「銃を選ぶのは・・・弾丸」

ジャスティンの目に力が入る。

「そうだな・・・・・そうだ。俺が自分の目的のためにGUN’S(ココ)に入ったんだ。
 俺の目的のため・・・・俺の夢のために・・・・GUN’Sの力を欲した・・・・。
 そうだ・・・・・俺は俺で・・・・あいつを利用してやる。その程度の考えじゃないか。
 たしかにお前と同じだな、ダニエル」

ニヤニヤ笑うダニエルを一度見た後、
ジャスティンは歩む。
机の上のオブジェ。
それを手に取る。

「使われてやるよミダンダス。いや、ドラグノフ様よぉ。
 俺は俺の目的を叶えるためにな。
 それまで俺は・・・・・弾となって突き進んでやる」

オブジェを持ってジャスティンは入り口へと歩む。
そして歩きながらボソリと言った。

「そして・・・・・・ドジャー・・・・もしもの時は・・・俺がお前を貫くぞ・・・・」

その気持ちを・・・
ジャスティンは深く胸に刻んだ。

「ヒャハハハハ!あんたもなかなか面白ぇな!燃やしてぇ♪
 あんたみたいな奴を燃やすとたまんねぇんだよなぁ♪
 ・・・・・・けどまぁお仕事も大事ってかぁ?料理人はツラいねぇ!」

ダニエルは地面に落ちている男を拾う。
ミダンダス似の男。
気絶しているその男の首を持って持ち上げる。

「六銃士様よぉ!あとはこいつ燃やして置いときゃいんだろ?
 じゃぁあとは俺の好きなようにさせてもらうぜぇーん♪
 こいつの意識が戻ってから燃やす♪その方が気持ちいいからな!いいだろ?」

「悪趣味なことだ・・・・・・・好きにしろ」

「♪」

嬉しそうなダニエルだけを残し、
ジャスティンは入り口に待たせていた彼女に
「待たせてゴメン」
とだけ言って一緒に出て行った。




一時間ほど後、

ここはただの灰しか残っていなかった。
地上の宿屋自身もダニエルの趣味に燃え、
地下はまる焼きになり、
そこに"作られたミダンダスの死体"だけが形を残していた。









こののち、

ジャスティンは部下を引き連れて"Queen B"を訪れた。

元仲間達のもとへ。







「フフ・・・・派手にやりなさい。部下もなにもかも派手に殺し合えばいい。
 《MD》でもなんでも使って戦争を作ればいい・・・・・・・・・
 そうすれば・・・そうあれば・・・・・それだけ私の名も高くなる。
 後世の書物に記される文の見栄えもよくなる。
 それだけ・・・・・・・それだけのために・・・・・・・・・・・・・・・・多くの者は死ねばいい」

ミダンダス=ヘヴンズドア
もとい、
ドラグノフ=カラシニコフは、
楽しくて・・・
楽しくてしょうがなかった。





                 






SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送