「チェスター!?!」

イスカが叫ぶ。
そして走る。
傍観しているヤクザ達を右手でかきわけ、
チェスターのもとにかけつけた。

「大丈夫かチェスター!?」

イスカの呼びかけに金髪の短髪が身を起こす。

「てて・・・・大丈夫じゃないけど・・・・ヒーローは諦めないもんだしね」

すでに自身でセルフヒールを始めていたチェスター。
腹から流れる二本の血。
クローアームの二枚刃の後だ。

「ナメてかかるからそうなるのだ。このたわけっ!」

イスカは自分のサラシを二巻き剥がし、
ちぎった。
そしてそれをチェスターの腹に撒きつけ縛る。
腹なので止血効果は薄いが、
それでも流血を軽減する事はできる。

「サンキュイスカ。不器用じゃないとこあんジャン!」

チェスターは立ち上がる。

「チェスター。お主は座っておれ、その怪我じゃ無理だ。あやつは拙者がヤる」
「何言ってんだよっ。イスカだってこーんな怪我してんジャン!」
「ツッ!肩を叩くな馬鹿者!」
「ハハハッ!」
「ウキキッ!」

ワイキベベのチェチェと一緒に笑った後、
チェスターは前方を見据えた。
チェスターの目線の先には・・・赤いスーツ。
タカヤ=タネガシマ。

「オイラむかついたんだよね・・・・・・オイラにやらせてくれよ」
「ふん。危なかったら拙者も手を出すぞ」
「危なくなんかならないよん♪」

「お?まだやる気かガキ。何度来ても無駄だぜ」

タカヤが余裕の顔で挑発する。

「オイラはスーパーヒーローだかんね。ヒーローは何度でも立ち上がるもんさっ!」

「まぁたしかに一度ある事は二度、そして二度あれば三度あるなんて言うなぁ。
 が、3は神聖な数字。お前みたいな野郎には三度目はねぇ!次で終わりだ!
 まだ来る気なら・・・・・・・・・それがお前の最後だと思いな!」

「別にいいよそれで。ヒーローに諦めと後まわしはないからなっ!それに・・・・・」

チェスターの右手に気が溜まりだす。

「オイラもちょっと本気になっちゃったんだよね」

チェスターの右手。
気が溜まっていく勢いが増した。
いや、右手だけでなく左手にも気が溜まっていっている。
チェスターの両手。
そこに気が凝縮されていく。

「またイミットゲイザーか?
 へっ、俺にもリュウの親っさんにも当たらなかった気鉄砲を今更かぁ?
 賢くねぇ。3倍賢くねぇぜ『ノック・ザ・ドアー』!」

「イミットゲイザーをなめるなよ!?
 ナタク流気孔武術はイミットゲイザー主体だかんね!行くぜ!はぁっ!!!」

チェスターの両手で気が弾けた。
といっても弾け飛んだわけではない。
一瞬両手で爆発したかのようになったが、
相変わらずチェスターの両手には気の塊。
そう。気の塊。
溜まった気はチェスターの両手で凝縮していた。

「師匠直伝っ!!!イミットゲイザー弐式(にしき)っ!!!!
 スペシャルグレートグローッブッ!!!!」

相変わらずセンスのない名。
が、その名の通り・・・グローブ。
チェスターの両手には、
グローブのようにイミットゲイザーで固められた気が輝いていた。

「何が弐式(にしき)だガキ!!!
 つまりは"硬気孔"ってスキルを腕だけに集めたもんだろがっ!」

「違うよーん」

「違わねぇ!3倍何も変わらねえ!三枚におろしてやるっ!!!!」

タカヤが踏み込む。
走りこんでくる。
先ほどまでと同じ、距離を縮めるための速い踏み込み。
タカヤの攻撃は全てここが起点だった。

「爆っ!!!」

あっという間に間合いを詰めたタカヤ。
繰り出すのは右手のパンチ。
右手。
つまりクローアームを装備した右手。
さきほどの爆・烈・剛衝破の三連撃は
出始めが左手の爆だったため、
チェスターはガードできたが、
今度は刃による攻撃。

「へっへー!無駄ジャン!」

止めた。
ガードした。
チェスターの腕。
イミゲを凝縮した両腕で。

「ほぉ、刃を通さねぇか。たしかにただの硬気孔たぁ違うみたいなだな。
 だが俺の攻撃は全て3発目への布石なんだよっ!!! 烈ッ!!!!!」

タカヤの連続攻撃。
鋭い蹴り"烈"。
回し蹴り・・・いや、足払いに近い蹴り。
バランスを崩すことのみを目的とした蹴り。
止められてもよし。
とにかく相手のバランスを崩すための蹴りなのだから。

「ヘヘッ!あっまいんだよぉ!」

跳ぶ。
チェスターは後方へ飛んで避けた。
宙を回転しながら、後方へ着地する。

「すばしっこさなら自信あるんだぜオイラ!ま、とにかく・・・こっちの番ジャン!!!」

今度はチェスターが踏み込む。
真っ直ぐ突っ走る。
タカヤに向かって。

「食らっちゃいなぁああああ!!!!」

そして繰り出したのはパンチ。
右のストレート。

「3倍しょっぺぇ!!!」

常人なら見切るのもツラいパンチだが、
六銃士タカヤにとってはただのパンチ。
余裕で見切ってガードする。

「ぐっ!」

重かった。
チェスターのパンチ。
その拳にはイミットゲイザーの凝縮体。
簡単に受け止め、弾き飛ばすつもりのタカヤだったが、
チェスターのパンチにむしろ押される。

「チッ!たしかに3倍面倒な攻撃力だな!・・・・・・・・ん?」

パンチを受けた後、
タカヤの目の前にチェスターはいなかった。

「どこいったガキ!」

タカヤは前左右を見回す。
そしてすぐさま上を見上げた。

「あったりー♪上ジャン!!」

「猿みたいにチョコマカしやがって!」

「ウッキー!ってね♪」

宙から落下しながら振り下ろすパンチ。
右手が真下へ向けて急降下。
チェスターのイミゲ付きの右手が落ちてくる。

「3倍あめぇ!」

すぐに見つけたからこそ反応が早かった。
タカヤは咄嗟に避ける。

タイルの砕ける音。
チェスターのパンチはタカヤに当たらず、
地面に突き刺さった。

「地面を砕くか。そのイミゲパンチも3倍侮れねぇなぁ」

「だっろ?オイラすっげぇジャン?・・・・・・ってことで寝てな!」

チェスターが突っ込み、
拳を突き出す。
イミゲのエネルギーを得た拳から繰り出されるのは、
地を砕く威力の強烈なパンチ。

「その瞬発力も3倍さすがだな・・・・・・・・・が!」

チェスターの拳が止まる。

「止めちまえば3倍関係ねぇ」

チェスターのパンチはガードされた。
いや、ガードされたどころか掴まれている。
タカヤは左手でチェスターの拳をキャッチしたのだ。
そう、片手で・・・

「ガキ。お前の強さはたしかにそこらの中小ギルドの凄腕じゃぁ相手にならねぇだろ
 それは認めてやる。3倍すげぇ・・・・と。が、相手を誰だと思ってる?
 俺は世界最強ギルドが六銃士の一人!タカヤ=タネガシマ様だぞっ!!!!」

「しゃべってんじゃねぇっ!飛んじゃいなっ!」

拳を掴まれているチェスター。
身動きはとれない。
が、その拳を振りほどくでもなく、
他の手足で攻撃するでもなく、
その掴まれた右拳に力を溜める。

「イミットゲイザー参式(さんしき)!
 0距離ロケットパァぁーーンチ!!!どっかぁああああああん!!!!」

一般ヤクザにも使った0距離から直接イミゲをぶつける技。
ヤクザに使った時とネーミングが変わっている事は放っておき、
ガードしているタカヤに、0距離から直接イミゲを叩き込む。
それはまるで腕からミサイルが発射されたかのように。

「クソッ!!!」

吹っ飛ぶタカヤ。
0距離からのイミゲは強力。
まるでイミットゲイザーに運ばれるかのよう。
地面を滑らされながら、
イミゲに押される。

「だからなめんなよって言ってんだろがっ!」

タカヤが全力で腕を開く。
さすが六銃士と言った所。
イミットゲイザーを弾いた。
イミゲはあさっての方向へ飛んでいく。

「はぁ・・・はぁ・・・・・・3倍なめた技使いやがって!」

「ナメてないジャン?ナメてないからこそ・・・・・・・本気の技を使ってるわけだかんね!!」

チェスターは左手を強く握る。
左手に滞在するイミゲ。
右手のイミゲはたった今射出しているので、
気が溜まっているのは左手だけだった。

「気を溜めなおす時間はやらねぇ!3秒もやらねぇ!!!」

タカヤが突っ込む。
踏み込み、
そして真っ直ぐ、速く。
チェスターに向かって。

「てめぇに爆・列・剛衝波の三連撃を仕掛けるのはこれで三度目だ!
 縁起いいぜ!3は俺に勇気と力を与えてくれる!!三途に送ってやるぜっ!!!!爆っ!!!!」

クローアームを突き出す。
右手のパンチ。爆。
チェスターは左手でガードした。
刃を向けられたため、
イミゲが滞在している左手でしか止められない。

「ははっ!かかったな!烈っ!!!」

鋭い回し蹴り。
チェスターの足元をえぐるように繰り出される!

「おっとっとあぶなっ!!!」

先ほどと同じく、
チェスターは後方へバク宙ジャンプ。
さすがの運動能力。
チェスターはまたしても足払いを避ける。
だがそれもタカヤの思惑の上。

「3倍待ってたぜその行動!その猿芸をよぉぉおお!!!!」

タカヤはすでに追いかけてきていた。
後方へ飛んだチェスターを。
着地際を狙う気だ。

「よっと」

チェスター。
まるでサーカスでもやっているかのような着地。
なにせ逆立ちで着地したのだから。
金髪が下を向く体勢。
チェスターは片手でバランスをとるように逆立ちしたままタカヤを見た。
タカヤはすでに目の前まで詰めてきていた。

「馬鹿が!3倍頭悪いぜ猿知恵め!!自分から悪い形で着地しやがって!
 その体勢からどうやって避ける気だ!!!俺の攻撃は3倍甘くねぇんだよ!!剛衝破!!!!!!!!」

タカヤの右手。
それは最大威力まで力を溜めたパンチ。
3連撃の締め。
3にこだわっている分、タカヤが剛衝破に込めた力は絶大だと分かる。
チェスターの身軽さなら、
普通ここからさらに跳んで避けるだろう。
が、跳ぶための反動をつける事さえ許さない、ようしゃない剛衝破(パンチ)
それがチェスターを襲う。

「どっかぁぁあああん!!!!」

だが跳んだ。
避けた。
チェスターが上空へと跳ぶ。
腕で支えていた逆立ち状態。
反動をつけなければ跳べるわけないのだが、チェスターは跳んだ。

「んだとぉ!?」

チェスターは左手のイミットゲイザーを地面に向けて発射し、
その反動で跳んだのだ。
空中でチェスターは言った。

「猿知恵をなめんなよ!どんな状況をも打破するからヒーローなんだぜ?」

そのまま落下。
タカヤの真上へ。
タカヤは反応できない。
全力を注ぎこんだ三撃目の剛衝破。
それを空振ったため、反応できなかったのだ。

「おりゃっ!ぶっとべよバーーカっ!!!!」

落下しながらの蹴り。
タカヤに直撃し、
タカヤは横に吹っ飛んだ。
そして地面を転がったあと、
体勢を立て直す。

「クッ、3倍なめやがって!だが結局はこの程度にしかこのタカヤ様には・・・・」

ふと、
気が付くと、

タカヤの左腕が飛んでいた。

「んなぁ!?」

「悪いな」

そこには剣を振り切ったイスカがいた。

「お主だけは許せなくてな。リュウとの戦の興を奪ったからではなく、お主のような輩がの。
 簡単に長年の仲間を裏切り、殺し。終いには拙者の仲間をも狙っておる。
 チェスターには悪いが、拙者もお主を斬らねば気が済まぬ」

「俺のぉおぉお!俺の腕ぇぇぇええ!」

「南無!」

「クっ!!!」

イスカが振る剣。
咄嗟に避けるタカヤ。
さすがにタカヤの反応は早い。
が、イスカの剣筋はさらに速い。

切り落とすとまではいかないが、
タカヤの右足にも深い切り傷が入る。

「くそったれ!」

タカヤが右足に大きなダメージを受け、
直立できず、地に片足を付く。
イスカに斬り落とされた腕からは血が噴出し、
右足からも血が流れ落ちる。

「俺の腕を切り落としやがって!その上この足!
 くそぉ!3倍むかつく!あぁーくそ!!!!」

イスカは振り向く。
致命傷ではないとはいえ、タカヤがもう動けないのを確認したからだ。

「後はチェスター。お主がやれ」

「おっけ!!」

チェスターが右腕に気を溜め始める。
それも特大。
今日最高の気を。

「ざけんなっくそっ!俺は六銃士が一人!タカヤ様だぞ!
 それがクソ・・・・第三者の不意打ちでこの様ぁ!?3は俺の幸福の数字のはずなのにっ!!!」

「はんっ!3がそんなに偉いのかっての!」

チェスターの右手にさらに気が溜まっていく。

「当たり前だっ!3は・・・3は全ての安定を望む数字!
 2では駄目!3で初めて安定が望める!俺を守ってくれる数字!!!
 三角形で初めて重心という安定が得られるようにっ!!!!
 ジャンケンのように三つ巴が一番公平になるようにっ!!!!3は安定の数字!!!」

「わっけわかんねぇよ」

チェスターの右手。
溜まる気。
拳が光る。
いや、拳だけでなく、
腕。
ヒジにまで気が溜まっていく。

先ほどまでの気の量が違う。
が、それを見ても、足に重症を負ったタカヤは、
避ける事もできないだろう。

「くそ・・・数えろ・・・3を思い浮かべるんだ俺・・・・3は俺に勇気と力を与えてくれる・・・・
 そ、そうだ!腕を切られた!もう四肢ではなく三肢!3は吉兆の現れだ!!!」

イスカはため息をついて言った。

「めでたいやつだな・・・・」

そう言ってる間にチェスターの気が溜まりきったようだ。
腕。
拳からヒジまでかけて気が輝く。

「じゃぁ、特大のノックをくれてやるよっ!!!」

チェスターが拳を構える。

「ハ・・・ハハッ!大丈夫だ!俺には3が味方しているっ!
 今更イミゲだろうと・・・俺には効かん!右手だけで弾く力が俺にはあるっ!
 イミゲ付きのパンチを片手で止めたようにっ!!!」

「多分無理ジャン?」

「無理なものかっ!・・・・・・・・・フ・・・ハハ!分かったぞ!やはり俺は落ち着いているっ!
 3のお陰だ!3の安定が俺の心を安定させてくれているっ!
 ここにきて・・・・・・・・・エネミーレイゾンを撃つ気だろ?!ハハッ!そうだろ!
 馬鹿め!どんな攻撃だろうと片手打ちには限界があるっ!軌道をそらすぐらいならわけねぇ!」

「エネミー?違うジャン」

チェスターの右腕が震える。
足もしっかり地面を踏みしめている。

「軌道をズラせるのは波動弾型のイミットだろ?こいつはぁ!違うぜっ!!!!
 目ぇ開いて拝みなっ!!!師匠直伝っ!!!!イミットゲイザー七式(ななしき)!!!!
 あぁぁぁ!!!!!!イィミッッッット!!!・・・・・・・・・レェェェェィィザァァァァアアア!!!!!」

突き出されるチェスターの腕。
放たれたのはイミットゲイザー。
だが、イミットゲイザーであってイミットゲイザーでなし。
イミットゲイザーが飛んでいくのではなく、
放射し続けている。
出して終わりでなく、出し続けている。
言うならば・・・チェスターの言うとおり"レーザー"
イミットゲイザーによるレーザー砲。
放射状のイミットゲイザー。
弾きようがない。

「お・・・俺には3が!!!!」

突き抜けるイミットゲイザー。
まるで閃光。
光の軌道。
突き抜けるレーザービーム。

わずか右。
タカヤの脇腹がえぐられる。
タカヤのハラワタをレーザーが飲み込んでいった。

「・・・・・・・3が・・・・ついてる・・・はず・・・・・・・」

イミットゲイザー七式(ななしき)が止む。


腹に致命傷を負ったタカヤ。
無残に地面に倒れ去った。

血が流れる。
イミゲの直撃を受けていないのは
あの状況でタカヤは少し避けたから。
六銃士は最後まで六銃士。
さすが。
が、だからといって致命傷は致命傷。
死が近づく。

地にひれ伏したタカヤ。

「情けねぇなぁ・・・・タカ坊」

それを上から見下ろす一つの影。
リュウだった。

「・・・・・・・生きてたのか親っさん・・・・・・・」
「簡単にくたばるほどやわじゃぁねぇよ」

リュウは笑って言ったが、
リュウこそ満身創痍。立っているのが不思議といった状況だった。

「親っさん・・・・・・俺が憎いだろ。んでもって俺がやられてスカっとしたろ?」
「さぁ・・・どうだかねぇ」
「子だと思ってた奴に噛みつかれたんだぜ?
 いや、子でさえない。ハメられたんだアンタぁ。俺によぉ!ケッ、俺が憎いだろォっ?!!!」
「ムカツきゃぁするがね」

タカヤは苦笑いをした。

「殺せよ親っさん。トドメさしな」
「・・・・・・・」
「トドメさせってんだ親っさんよぉ!!ケジメってやつだろ!?
 てめぇは裏切った自分の子も殺せねぇのか!?それでもヤクザの組長か!?アァン?!」
「・・・・そうだな。この道のモンにゃぁ・・・ケジメってもんがぁ必要だな」

怪しい表情をしたままタカヤが言った。
リュウが無表情で拳を振り上げる。
その振り上げられた拳は、
タカヤへ向けられ、
タカヤの命の最後をしめくくる拳。
全てのケジメ。
それのみをつける拳。

「・・・・・・・」

だが、その拳が振り落とされる事は無かった。

「・・・・・・・・・・・・・・イスカさん。あっしの代わりを務(つとめ)めちゃぁくれやせんかね
 ケジメぁ付けるんが極道の筋でさぁ・・・・けど情けねぇがあっしにゃぁできねぇもんで」
「あぁん?!なんだ親っさん!!あんたそれでもヤクザの親玉か!!!
 3倍情けねぇぜ!!黙ってても死ぬ裏切り者も殺せないってのか!!??」
「あぁ、殺せねぇな」
「んだと!?俺ぁあんたを殺そうとしたんだぞっ!!
 殺せよ・・・ヘヘッ、殺しゃぁいいじゃねぇか。スカっとすんぜ?」

タカヤが叫ぶ。
が、リュウは真剣な目をして答えた。

「親の心子知らず・・・か。聞きなタカ坊。こんな言葉がある。
 カタギだろうが極道だろうが、"子は親を殺せるが、親にゃぁ子は殺せねぇ"
 あっしにゃぁお前は殺せねぇ。どんなだろうが、あっしにとっちゃぁオメェは大事な"子"だ」

その言葉を聞き、
タカヤがよく分からないような顔をしていた。
いや、分かる。
驚いたが、
リュウの気持ちはタカヤに伝わった。

「・・・ケッ、こんな時まで"義理"かぁ親っさん」
「いや、これが"人情"だ」
「・・・・・・フハハッ!!・・あんたにゃぁかなわねぇなぁ!!・・・・・・おいイスカって奴。
 介錯頼むわ。怪我が痛くてね。さっさと殺してくれ」

イスカは黙って頷き、
タカヤに歩み寄る。

「親っさん・・・こんな最悪でクズみたいな裏切り者からの頼みだ。
 あんたぁ最後まで"子を殺せねぇような親バカ"でいてくれや」
「親を殺せねぇような子に言われたかねぇな
 お前ぐれぇの実力ならあっしを確実に即死させる事もできたはずだからな」
「ヘッ、バレてたか」

タカヤが少しだけ笑った。
冷血で最悪な人間が、
死に間際だからこそ言える本音と、笑顔だった。

「俺は俺を殺そうとした一人目の親(母親)と二人目の親(父親)を殺した
 6歳の時だ・・・・・・・・6年間の親だ。だが、あんたは違う。十数年だ。
 さっきまで気付かなかったが・・・いや、表の心が必死に隠してたが・・
 この長い期間で・・・・・俺ぁあんたを慕ってたようだ。・・・ケケッ・・・スパイのくせによ・・・・
 なぁ、リュウの親っさん・・・・・俺ぁ・・・あんたを三人目の親と思って・・・いいんだな?」
「それが・・・義理ってやつだ」
「ケッ、あんがとよ。三人目の親(リュウの親っさん)よぉ。
 やっぱ3はいいな・・・・3はイイ・・・・3は俺に幸福を運んでくれる数字だ・・・・
 ・・・・縁起がいい・・・・やっぱ世の中3だ・・・・・俺は初めて・・・・・・・安定を手に入れた・・・・・・」

イスカが剣を振り上げた。

「・・・・・・GUN'sで六銃士になってよかったぜ・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・スパイ任務のお陰で"親"ぁ手に入ったんだからな・・・・・・・・・・・」
「鷹(タカ)の字・・・・」
「ハハッ!親っさんにそう呼ばれるのはいつ以来だろうなぁ・・・・・けど、タカ坊でいいぜ・・・・
 ・・・・・・・じゃぁなリュウの親っさん・・・・・・・・先死には・・・・・・親不孝で悪ぃが・・・・な・・・・・・・・」

その次の瞬間。

タカヤの首は飛んだ。

転がるタカヤの首。
その顔は安堵の笑みを浮かべていた。
そしてソッとリュウを見つめているようでもあった。

「これでよかったんだな。リュウ」

「良ぃ悪ぃじゃねぇのが極道でさぁ・・・・」

リュウも倒れた。
地面にドスンと横たわる。
イスカとの戦いでの怪我は、やはり致命傷だったのだ。

「・・・・迷惑かけやしたなぁ・・・・・・・・けど次もまたゴロと興を咲かせて再会ってのもようがす。
 敵味方は知りやせんが、それくらい望んでも仏さんはお怒りにならんでしょう・・・・・・・」

「・・・・そうだな」

「っつってもあっしはもう死ぬかもしれやせんからこんな事言うのもナンでやすがね。
 じゃぁ・・・今生か次生かは沙汰の外として・・・・・・・また会いましょうや・・・・・・・・
 ちょっくら・・・・・タカ坊を・・・・・・・・・・・あっしの子を・・・・・・・・
 ・・・・・・・・三途の前くらいまではぁ・・・・・見送って・・・・・やろう・・・・・と・・・・・・・・・・」

そこでリュウも意識を失った。
いや、死んだのかもしれない。
血を流しすぎてる。
ヤクザ達がかけより、
治療を行い、どこかに運んでいった。



「・・・・・・やっと・・・・終わったか」

イスカがため息をついた。

「なーんかスッキリしないけどね」

チェスターは両腕を頭の後ろに回しながら言った。
少し不満そうだった。

「敵はバシっと敵らしく死ぬほうがいいと思うんだけどなっ
 あのタカヤってやつ。裏切って最悪な事したクセにイイ感じで死ぬってのはズルいぜ」
「本気で言っておるのか?」
「ジョーダン。本気じゃぁないさ。良し悪しじゃない・・・・だろ?」

チェスターは頭の上のチェチェを撫でながら言った。
考えみずなチェスターだが、人の苦悩より人の幸せの方が好きなのは当然だ。

「それよりもイスカぁ。イスカはWISの使い方下手だから気付いてないと思うけど、
 メモ箱来てるぜ?ドジャーからジャン。集合だってよ。明日」
「ふん。拙者らもイロイロはっきりさせねばならん事があるからな」
「どうなろうとオイラは自分の正義を貫くだけだけどねん♪
 敵は敵!守るべきものは守る!なんたってオイラは・・・」
「スーパーヒーロー・・・・か?」
「そっそ♪」


夕暮れ、
鳥が飛ぶ。
それは列を成して夕焼けに向かっていた。

血縁などないのに、
先頭の一匹に、
なんの疑いもなく、
鳥達は隊列を組んで飛んでいた。


義理。
義理は時として血縁より深い繋がりを生む関係。


ここには《昇竜会》という一つの繋がりがあった。



その中で子が死んだ。




それに何も思わない親はいない。















-数時間後 ミルレス白十字病院-









「リュウの親父!!」
「組長!!!生きてましたか!!」
「おぃ!リュウのオジキが目ぇ覚ましたぞ!!!」


リュウは病室のベッドに居た。
体には管が数本繋がっており、
包帯だらけ、
ベッドのまわりには黒スーツの男達がとりまいている。
心配して付きっ切りだったのだろう。
自分が危なかったんだと分かる。


「あっしは・・・・・・・生き延びちまったか・・・・・・・」


「何言ってんですかぁ!」
「組の皆ぁ!心配してたんですぜ!!!」

「お、おう・・・・・悪いな」

そう言ってリュウは、ベッドの横の机に手を伸ばす。
そこに自分の荷物があったからだ。
その中からタバコの箱を手に取り、
一本取り出して口にくわえた。


「・・・・・・・・」


「どうしたんですかオジキ?」
「タバコぉモクらねぇんですか?」
「吸いたいと思って用意しといたんですけど」


「・・・・・・・・・」


リュウはタバコを口にしたまま呆然とした後。
口にくわえたタバコを口から離した。


「あぁ・・・・吸わねぇ・・・・」


リュウはタバコをそのまま灰皿に捨てた。
灰皿で横たわる一本の健全のタバコ。
それを見据えるリュウ。
ただじっと見据える。



「火ぃ・・・・・・つける奴がいなくなっちまったからよ」




そう言ってリュウは病室の窓から空を見上げた。




鳥が飛んだ。



三羽の鷹(タカ)だった。






縁起がいいなと・・・・・・・ふと思った。























                 






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