「あー!ここに来るのも久しぶりジャン!!」


短髪で金髪の少年は辺りを見回して言う。
見慣れたこの町。
灰色のルアス99番街。
数ヶ月留守にしたって変わらない。

「相変わらずガラの悪い町だなっ!ま、故郷だから気にならないけどさっ
 それに展開的にはヒーローの帰還・・・・・・・・ってやつジャン?うぉオイラかっくぃ〜♪」

修道士特有の短丈マントを羽織い。
短髪の金髪は太陽で輝く。
その少年は歩く。
20歳というまだ幼さの残る顔立ちは、
彼の強さを微塵も思わせない。

「町がこのいつもの様子じゃぁみんなもアホやってんだろうなっ!なぁチェチェ?」
「ウキ♪」

少年の肩の上に乗っているのは小さな守護獣ワイキベベ。
その小さな猿。ワイキベベのチェチェを、
金髪の少年は指で撫でる。


少年の名は・・・・・

「あいてっ!なんでこんなとこにでっぱりがあるんだよっ!」
「ウキキキキキ♪」
「笑うなよチェチェ!」

今、ただの道端で転んだ少年の名は、



チェスター。
ユナイト=チェスター。



随一の傭兵好きで、
普段はマーチェという偽名を使っている。
『ノック・ザ・ドアー』の通称はマイソシアでかなり有名。
傭兵として攻城戦に参加しては外門をぶっ壊す事からついたあだ名。
懸賞金もケタ違い。

そして
《MD》最後の一人だ。


「あったあった"Queen B"。相変わらずきったない店だなっ!
 嫌いじゃないけどヒーローの帰り宅としては少ししまらないジャン」

そう言ってチェスターはQueen Bのドアを押し開いた。
そして酒場に入るやいなや、
片手をあげて大声をあげる。

「おいーッス!スーパーヒーローチェスター君が帰ったぜー!
 《MD》と世界の平和はこのオイラに任せなぁ!・・・・・・ってうわっ!?」

元気よく入ったチェスターだった。
が、
酒場の中はチェスターの想像とは180度違った。
机がひっくり返り、
椅子は壊れており、
酒棚の酒瓶は割れ果て、
酒が地面を濡らしている。
よく見ると血の跡も・・・
って血の跡くらいはマリナの営業方針的にいつもの事だったが、

とにかく一言で酒場の中はメチャクチャだった。

「ちょちょちょ・・・・何コレ!?どうなってんの?!客にティラノでもいたのか?」

チェスターは「どうなってんだ」と金髪の短髪をカシャカシャと掻き分ける。
混乱中である。
ふと、
突然肩に乗っていたワイキベベのチェチェがチェスターから飛び降りた。
そしてピョコピョコと走っていった。
なにかと思いきや、
チェチェが走っていった先で声がした。

「・・・・・・・チェスターか」

ふとチェスターが目をやる。
メチャメチャな店内の一角。
カウンターの前に、女が一人もたれ倒れていた。
それはイスカだった。

「イスカ!どうなってんだこりゃ!店内めちゃくちゃジャン?!
 ティラノでも暴れたのか!?それともマリナがブチ切れたのかっ?!」

その二つは対等に並ぶものなのか
イスカが答える。

「クッ・・・・少ししくじったのだ」

傷と痣だらけのイスカは身を起こす。
満身創痍だが、無事のようだ。

「しくじったって何があったんだよっ!オイラにゃ何がなんだか・・・・」
「《昇竜会》だ・・・・。乗り込んできおった・・・・・」
「《昇竜会》?《昇竜会》っつったらヤクザギルドジャン!
 なんであのヤクザどもが・・・・まさかまたマリナにショバ代払えとか言ってきたのかっ!?」
「違う・・・・オブジェだ。狙ってきおった・・・・・不覚・・・・」

オブジェ?
オブジェってあのシンボルオブジェクト?

「え?何?オブジェ?ウソ・・・・。あれってドジャーの冗談じゃなかったん?
 ただのイタズラメールかと思って無視してたけど・・・・・もしかしてちまたの噂もマジだったり?」
「あぁ。今、拙者ら《MD》がオブジェを所持しておる・・・・」

・・・・・・・ウソォン・・・・

チェスターは悔しそうに地団駄を踏んだ。

「うぇ〜!オイラのいないとこでそんな面白い事になってたなんてあんまりジャン!」
「お主が勝手に信じずブラブラしてたのであろう」
「くぁー!このスーパーヒーローをおいといてそんなドラマチックな話が進んでたのかっ!
 オイラの名声をあげるのに恰好のストーリージャン!クソッ!マジくやしぃぜ〜っ!」

事の重大さを分かってか、分からずか。
チェスターは両手を震わせて無邪気に悔しがった。
が、それを尻目にワイキベベのチェチェが「ウキぃ!ウキぃ!」と鳴き叫ぶ。
イスカに向かってだった。
イスカは傷が痛むのか、
また地面に座り込んだ。

「っとごめん。イスカ大丈夫なのか?」
「・・・・ちょっと不覚をとっただけだ。いらぬ心配だ」
「そっか。でもイスカをここまでやるなんて・・・・ヤクザもやるジャン!
 《MD》でもオイラの相手になるのはメッツとイスカくらいなもんなのにさっ!」
「やられたわけじゃないわい!」
「まったまた〜。イスカは負けず嫌いなんだからっ!」

チェスターは傷だらけのイスカの頭をポンっポンっと叩く。
手負いの虎を叩くようなものだ。
イスカにそんな事できるのは、
マリナとチェスターくらいなもんである。

「相打ち・・・ってやつだ。相手は《昇竜会》が長。リュウ=カクノウザンだった」





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- 一時間前 -



「チっ!やっぱやりやすね!イスカ嬢!2時間も戦った今、ここであっしに一撃いれるとわ!」

イスカの斬撃。
ここ一番のヒット。
腹に大きめの傷を負ったリュウ。

「こりゃヤバめの怪我でさぁ。が、こういうもんは・・・・」

リュウは腹のサラシの端と端を掴み。
そしてギュッと縛る。
自分の体を締め付ける。

「気合と根性ってなもんで」

血は・・・止まった。
どこまでも豪快な男だと思う。

「・・・・・・・・お主も負けず嫌いなもんだな」

「あぁ!負けなんてつまらもんでさぁ!
 自分の強さを誇示し!勝ちを目指すから死合は興の内ってもんでしょう?」

「フッ、同感だ」

リュウはすでに痣(あざ)だらけだった。
感性・・・というものだろうか。
リュウはイスカの攻撃をことごとくかわす。
もちろん全てかわせるわけではない。
イスカの蹴り、体打ちによる打撃だけ、
そういった致命傷にならない攻撃だけを受け、
刃は急所に到達させない。

「拙者も地に這い蹲るのは好かんのでな」

一方イスカも傷。
いや、痣だらけ。
"見切り"は得意といっても、
リュウはそれで済む実力ではない。
何発は木刀による攻撃を受けた。
一撃一撃が重い。
木の剣とは思えない攻撃力。
まるで鉄。
クラブで殴られたかと思うほどの攻撃力。

「次の一閃に・・・・かけよう。我が剣技、精神。いや、拙者の全てを」

「受けてたちまさぁ・・・・それでこそヤゴロの華。
 仁をつらぬく極の道。極道の生き様。あっしも一撃にかけてお見せいたしやしょう!」

イスカは低く構え、
そして突っ込む。

リュウも木刀を肩に構え、
突っ込む。

そして・・・
ぶつかる。

剣と木刀が吹っ飛ぶかというほどに交差する。

またも鍔迫り合い。

「お覚悟!」「覚悟してくんなせぇ!」

同時。
双方同時に剣と木刀を捨て、
蹴りに走る。

同時のウォーリアーダブルアタック。
勢いをつけた二つの蹴りは双方に直撃する。

「グッ!」
「がっ!」

双方同時に吹っ飛ぶ。
イスカはカウンターに叩きつけられ、
リュウは黒スーツのヤクザの群れの中に突っ込んだ。

そこで同時に戦う力を使い果たしていた。

「ドロー・・・ですかねリュウの親っさん」

赤スーツの若頭。
タカヤが言う。
そして右手の赤いクローアームを出してイスカの方を見た。

「あとは俺が片付けますよ」

クワガタの角のようなクローアーム。
それをガシャンと構える。

「チッ、興のそがれる事を・・・・」

イスカにはもう・・・・戦う力が残っていない。
あの赤スーツのタカヤが攻撃してきたら・・・
アウト。
ジ・エンド。
が、

「やめなタカ坊!」

部下のヤクザに支えられた状態でリュウは言う。

「なんでですか親っさん!今日は親っさんのゴロのために兵隊集めたわけじゃないんですよ!」
「あぁ、そうだ。わかってる」

リュウは部下のヤクザを手で弾き、
っそいてイスカへ言う。

「イスカさん。あんたぁ・・・・・オブジェ持ってやせんね。
 そいでもって情報をゲロする気もサラサラねぇ。そうでやしょう?」

「・・・・・」

「あんたの戦い方・・・・守る戦い方じゃぁございやせん
 攻める戦い方でさぁ。本当にただ純粋にゴロってるだけでしょう。
 ま、正直あっしもそうでやしたけどね。
 が、タカ坊の言う通り、オブジェに関してですがぁ・・・日を改めるとしやす」

「そんな!」
「いんですかいオジキ!?」
「《MD》が目の前にいるんですよ!?」

「だまりなお前ら!筋ぃ通せや!
 "本筋"に関してはもうこのお嬢からはなんも手に入らねぇ
 なら無意味なゴロするより、改めるってぇのが筋ってもんでしょうや」

ヤクザ達は黙る。
誰も言い返せない。

「イスカさんや。今度またドンパチしやしょうや。
 次んときゃぁ・・・・・どちらかが散ることにゃぁなるでしょうがねぇ」

「ふん。それも風流だな。拙者も血しぶきに踊る・・・というのが本職」

「ハハハッ!次こそ覚悟しなすってくんなせぇよぉ!」







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イスカは思い出すと、
・・・・・・・・悔しかった。

剣の戦いで勝てなかった事。
マリナのためという自分にとってこれ以上ない大儀。
そしてカージナルの剣に誓った誇り。
それを持ってして・・・
勝てなかったのだ。

「ねぇ、おーぃ!イスカってば?上の空みたいになってないでさっ!返事してくれよ!」

チェスターの声に我に戻るイスカ。

「お・・・おう・・・聞いておる」

「リュウとやったんだろ?終焉戦争で見かけたんだけどあいつスッゲェよなっ!
 一人で一部隊ぶったおしてやんの!
 あれ見た時はオイラもウォォー!とか言っちゃったジャン!燃えたジャン!
 でもなるほどねっ。リュウならイスカとやりあったってのも納得だなっ!
 あ〜!そんな強ぇやつ!やりてぇ!オイラもリュウとやってみたいぜっ!!」

チェスターは拳をギュっと握る。
幼い顔つきに力がみなぎっていた。

「《昇竜会》の規模を知って言っておるのか?
 数が多いだけではない。ヤクザ故の縦社会。
 数はGUN'sに遠く及ばぬとも、組織力だけならGUN'Sをも超越するぞ」

「別に《昇竜会》相手にしたいわけじゃないって!リュウみたいな強い奴を戦いたいのっ!
 あ、そういや《昇竜会》っていえばもう一人強そうな奴いたなぁ。なんだっけ?
 ん〜。なんか赤い奴だ。あいつもやりたいなっ!うん!やりてぇ!やりたいジャン!
 決めたっ!オイラ今から《昇竜会》んとこ乗り込んでくっぜ!」

チェスターは拳を掲げた。
まるでスポーツの試合前に、いくぞー!と意気込むように。

「乗り込む?お主ひとりでか?」
「あったり前ジャン!スーパーヒーローは一人で悪の組織に乗り込むもんジャン?」
「なぁにがヒーローだ・・・お主まだそんなこと言っておったのか・・・」
「とぉーぜんっ!オイラはスーパーヒーローになる男だぜっ!?」

チェスターはニヒヒと笑う。
ヒーロー。
まるで子供の夢。
だがそれはチェスターの志であり、
本気の夢でもあった。

「なぁ〜チェチェ?」
「ウキキ♪」

ワイキベベのチェチェが嬉しそうに飛び跳ね、
チェスターの体をかけのぼり、頭の上に乗った。

「じゃぁオイラは行ってくるぜっ!イスカは留守番よろしくなぁ〜!」

チェスターは振り返って入り口へと歩みを進める。

「留守番?・・・・拙者が?・・・・・・・・・ふむ・・・・・待てよ・・・・」

イスカは思う。
いや、心の中で思ってたつもりだが、
バッチリ声に出ていた。

「たしかに拙者はマリナ殿に留守を頼まれていた・・・・言いつけどおり留守を続けるべきか・・・
 だが、店をこんなにされて黙って椅子に座っててよいものか・・・・」

「イスカ?何をブツブツ・・・」

その怪しい小言にチェスターは足を止める。
だがイスカは自分の世界に入っているようで、
ブツブツと一人でしゃべっていた。

「否、よくないな・・・。マリナ殿の誇りを汚されてそのままなんて武士ではない。
 ここはキッカリ復讐し、修理代やらを請求してこそマリナ殿に面をあげれるというもの
 それにリュウとやらと決着もつけねばならん・・・・・よし」

「何?イスカも行くの?」

「お?よぉ分かったなチェスター」

「いや・・・そりゃね・・・・」

チェスターが短い金髪の髪をかきながらため息をつくと、
同時に頭の上のワイキベベもため息をついた。

「でも怪我だらけで大丈夫なん?」

「こんな怪我。ヘルリクシャと唾つけとけば治ろうものだ。
 それにな、《MD》とマリナ殿の威信をかけたこの戦(いくさ)。
 お主一人に頼むのは心もとない」

「何ぃ!?このスーパーヒーローチェスター君に何いってんだよっ!
 イスカだってオイラの強さ知ってるだろっ!?」

「あぁ知っておる。たしかにお主は平均だけをとれば・・・《MD》で最高レベルだ。
 メッツの次に"攻"に長け、レイズの次に"守"に長ける。
 ドジャーの次に"速く"、拙者の次に"技"に長ける」

「だろっ?だろっ?」

チェスターは腕を組んでエヘンと威張った。
頭の上でチェチェも威張る。

「が、マリナ殿の次に"怖い者知らず"で、エクスポの次に"夢に執着心が高く"、
 そしてロッキーの次に"無邪気"だ。無鉄砲すぎて何しでかすかわからぬ。
 それになにより若い。調子者の上、突っ走り過ぎる。任せてはおけん。
 さらに心もとない決め手はな。お主はその猿の次に・・・・・・・・"頭が悪い"」

「なんだってぇイスカぁ!?」
「ウキィ!?」

チェスターと頭の上のチェチェが同時に怒る。
同じ顔で。
猿顔が二つ並ぶ。
同レベル

「酷いジャン!」

「真実を述べたまで」

チェスターは「むぅ」としかめっ面をする。
頭の上のチェチェは「うきぃ!うきぃ!」と飛び跳ねて怒っていた。
が、

「でも、ま、いいや!行くならいこうぜっ!」

猿並に切り替えが早いチェスター。
怒りより好奇心が勝ったようだ。

そのあまりの純真さに、
さすがのイスカも「やれやれ」と笑みを溢した。

「そうと決まればさっそくしゅっぱ・・・・」
「ウキ?ウキキキキ!」
「おぉ、そうだったなチェチェ!戦の前には栄養補給ジャンか!
 イスカァ!ちょっと冷蔵庫借りるよっ!バ〜ナナバナナ〜♪ワイキバナナ〜♪」

そう言ってチェスターは調理場の方へ走っていく。

「好物まで猿と一緒なのだからな・・・・」

イスカはため息をついた後、
イスカは自分の剣を見る。
そして決心する。
負けない。
今度こそは、
剣のため。
誇りのため。
そして・・・マリナのため。

「んわー!?」

調理場の方から悲鳴のような声がする。
そして調理場からチェスターが猿の乗った頭だけ出した。

「何?!どうなってんのコレ?!調理場メチャメチャジャン!
 まるでバーストウェーブが爆発したみたいにっ!」

イスカはギクリとする。
そして汗が滴り落ちる。

「何々!?まさかこれもヤクザ達のせいなん?!」

「そ・・・・・・・・・そうだ!ヤクザ共の悪行だ!ま・・・まったく酷い事しおるな・・・・」

嘘も方便。
イスカはその言葉の偉大さを知った。

「だなっ!酷ぇよっ!こんな状況をマリナが見たら・・・・もうぶち切れてマシンガン乱射して、
 犯人に至っては穴だらけにした後。ギターでグチャグチャになるまで殴って、
 そんで仕上げにフライパンに乗せて燃やした後「この残飯野郎」とか言って投げ捨てられるぜっ!」

「そ、それはイヤだな・・・」

「へ?」

「い、いや・・・・ヤ・・・・・・ヤクザ許すまじ!」

イスカは剣を掲げて言う。
そして思う。

(ヤクザが来てくれてよかった・・・)














                 






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