《メイジプール》との戦いの後、

ロッキーはまたカプリコ砦へと戻った。
最強のパパ達といつもどおりの生活に戻ったのだ。
ついでに、帰ってすぐカプハンで家がひとつ吹っ飛んだらしい。
当分はカプハンがお気に入りの無邪気な兵器にカプリコ達も大変だろう

メッツはレイジで体を酷使したので病院・・・・
というのは建前で、
白十字病院で入院のフリをしている。
今一番危険なレイズの警護を踏まえてのんびりするらしい。
もちろんメッツの本心は"誰かさんのお見舞い"が欲しいわけである。

その当のマリナはというと・・・・
久しぶりに実家に行ったようだ。
妹マリンの葬儀をしっかりしてやりたいそうだ。
ひともんちゃくあるだろうが、
まぁ心配はないだろう。



そしてアレックスとドジャー。
彼らは・・・・・

「はいはい皆さん手ぇあげてくださ〜い。ばんざぁ〜ぃって」
「おう、動くな動くな。財布が盗りにくくなるだろが」



カツアゲしていた。















S・O・A・D 〜System Of A Down〜

<<死んだ宿と冠とひきこもり>>











正しく言うなら"逆カツアゲ"
それも"カツアゲ後"だ

10分前、突然「オブジェをよこせ」と突っかかってきた男女5人。
ドジャーとアレックスの返事は 「「いや」」
すると男女5人は「ならば痛い目を見ることになるぞ」と言ってくる。
ドジャーとアレックスの返事は 「「いや」」
リーダー格の男がぶちきれて「んなワガママが通ると思ってんのか!」と叫ぶ
ドジャーとアレックスの返事は 「「イエス。アイアム」」


そんで

あーだ

こーだ

んで今に至る。

ドジャーのスパイダーウェブによって、
足元ががんじがらめになってる男女5人ほどは
身動き一つできない状態。
単純なる王手。
チェックメイト。

戦利品回収へGO。

スパイダーウェブの蜘蛛の糸で動けない者達から、
ドジャーがサイフを抜き取っていく。

「お、あんたの財布なかなか太ってるじゃねぇか!
 俺に盗られるために溜めてたんだな。カカカッ!ありがとよぉ」
「チクショゥ・・・・・」

さすが本職。
ドジャーは手馴れたものである。
一方アレックス。

「あぁ、もう・・・・だからさぁ女盗賊さん・・・・
 隙をついてスパイダーカットで脱出しようとしないでください。
 足元の魔方陣(ダンスフロア)が見えないんですか?パージ(燃や)しますよ?」
「うっさい!」
「はいはい。もともとはあなた方が襲ってきたんだから恨まないでくださいね。
 お財布を拝借させていただきますよ。あ、セクハラとか言わないでくださいね」

そう言ってアレックスは財布を抜き取る。
環境は人を変える。
いや、もともとこういう人間だったのだろう。
丁寧に誠実に悪いことをするアレックスは素敵である。

アレックスは財布を「はいドジャーさん」と言ってドジャーに投げつけた。
ドジャーは片手でそれをキャッチし、
パウチに終う。

「おっしゃ儲けた儲けた!腹いっぱいだぜ。じゃぁな。皆さんよぉ」
「もう襲ってこないでくださいね〜」

財布を全て戴いたのを確認し、
アレックスとドジャーはその場を立ち去ろうとする。
もともとは向こうが勝手に襲ってきたのだ。
報復の逆カツアゲ。
罪悪感というものはない。
まぁこの二人にもともと罪悪感があるかは分からないが・・・・

「クソォ!絶対オブジェを・・・・いや!仕返しをさせてもらうからな!」
「我らがギルド!《10x10蟲(てんとうむし)》を怒らせた罪はでかいからな!」

スパイダーウェブで動きを封じられたまま、
輩が叫ぶ。

「おーぅ。今度はもっと金溜めて襲ってこいよぉ〜」
「僕的には面倒なのでこないで欲しいですけどね」

ドジャーが後ろ手で返事しながら、

アレックスとドジャーは5人組を置き去りにその場を離れた。


こうして他愛のない逆カツアゲは終わった。


慣れた99番街の道。
灰色で廃れたスラム街。

そんないつもどおりの道を
いつもどおりに二人は歩く。

少し太った財布を嬉しそうに見つめるドジャーに、
アレックスは話した。

「あんな小さいギルドまで狙ってくるようになりましたね」
「ん?あぁそうだな。ったく面倒な話だぜ」
「面倒?儲けといてよく言いますよ」
「カッ!ノリノリだったくせによぉ。お主も悪よのぉ〜ってか?このやろっ」

ドジャーはアレックスをこづく。

「別にあーゆー事が好きなわけじゃないです。
 ただお金を稼がないとまた"おあずけ"を食らいますからね」

アレックスにとって食事より大事なものはない。

「カッ!だが儲けられるのは今みたいなアホの時だけだぜ?
 もし大型ギルドが攻めてきたら本当に面倒なだけの話だ。むしろやべぇ」
「あぁ、あり得ますよ。あんな小さなギルドがすでにオブジェの情報を掴んできている段階なんです」
「メイジプール級・・・・・・・・・いや、GUN'Sが攻めてくるのも時間の問題か・・・・・」

ドジャーは突然歩くのをやめ、
大事な相棒(サイフ)を懐にしまった。

「・・・・・・・小さな出来事だけどよぉ。このカツアゲはひとつの"区切り"になる出来事かもな」
「区切り・・・ですか?」
「あぁそうだ。さっきも言ったが、あんなプチギルドまでオブジェの情報を掴んできてる
 これはかなりのキーポイントだ。当の俺らがのんびりしてる間にも世界は着実に動いてるってこった」
「今日の新聞を見たらまたギルドが何個も潰れてましたしね
 多分ここ最近。この短期間だけで世界のギルドは2/3くらいに減ってるかもしれません」
「世界中が俺らの存在に気付くのも時間の問題・・・・・・ってわけだ」
「少し・・・・頭を捻り始めなきゃいけない時期ってわけですね」
「そういうこった」

ドジャーは両手を頭の後ろに回す。
それでも歩みはとめず、
二人は歩いていた。

「しゃぁねぇ・・・・・・・。集めるかな」
「へ?何をです?」
「集合させるって言ってんだよ。《MD》をよ」
「全員ですか?それきっと万国の変わった動物ビックリ博覧会になりますね」
「だぁれが変人だってぇ?」
「変"人"とは言ってませんよ」

・・・とドジャーで遊びながらも。
それは楽しみだ・・・とアレックスは思う。
が、逆に不安もあった・・・。
だがいろいろとハッキリさせるチャンスでもある。

「ま、すぐには集まれねぇ。連絡とれねぇの多いからな」
「困ったノラ猫ちゃん集団ですね」
「猫は猫でもライオンばっかだけどな。すぐ噛み付くぜ?
 で、・・・・・・だからよ。それまで俺らでやることやっとかなきゃな」
「やること・・・・・・・・・・って言いますと・・・・・」

アレックスが腰の高級マネーバッグを見る。

「"コレ"の置き場ですか」
「イエス。ビンゴ」
「考える事は同じですね」

オブジェの置き場。
それは自分自身も思っていたことだった。

メイジプールとの戦い・・・・
正しくは魔女ルカとの戦いだが、
その時、最悪オブジェ自体がオジャンになるところだった。
さらに言えば取られていた可能性さえあった。
何があるか分からない時代。
自分で持ってるのが一番だと思っていたが・・・・・・・・
やはり危うかった。

どこか・・・
安全な隠し場所が必要だ。

ドジャーがふと歩みを止めた。

「あそこが・・・・・・・・いいか」

ドジャーが
ふと歩みを止めて、
ふと言った言葉。

「あそこ?」

アレックスはキョロキョロと見回す。

「いや、思い出したんだ。いいところがある。まず見つからない場所だ。万が一にもな
「凄い自信ですね」
「こっちだ。ついてこいアレックス」
「・・・・・?」

ドジャーは突然歩く方向を変える。
99番街の生活にも慣れたアレックスだが、
それはまだいった事のない方向だった。
狭いスラム街だが、
生活するには大きい。
いった事ない場所はまだまだある。

「結構街はずれの方に行きますね」
「あぁ、ルアス99番街と隣街の境目の辺でよ
 昔メッツとジャスティンと一緒にたまたま見つけた場所なんだよ」
「ジャスティン?」
「ん?あぁ。昔のギルメンだ」

昔の・・・・・・
つまり今はギルメンじゃない人。
ケンカ別れでもしたのか。
それとも・・・・・死んでしまったのか。
あまり深く追求しない方がいいかもしれない。

「ついた。ここだぜ」

ドジャーが歩みを止める。
そこは本当にルアスのはずれ。
廃れた街、ルアス99番街よりも廃れている。
なぜなら建物が一件しかないからだ。

「宿屋・・・・・・・ですか?」
「あぁ。かなり昔に潰れた宿屋だ。
 ピエルだとかなんとかって奴が経営してたらしいが、まぁ見たことねぇ
 持ち主の消息も分からないせいで取り壊しもされない・・・・・・ゴーストハウスさ」
「ゴーストハウス・・・・・・・ですか」

納得する。
見上げるようにアレックスはその宿を見る。

その宿屋。
見たままの廃墟。
壁にはひび割れ、
窓は割れ、
植物のツタが絡まり、
錆びた鉄骨。

生命を感じさせない廃墟。
まるで永遠の眠りについた。
そう・・・・・死んだ宿といった印象を受ける。

「入るぜ」

ドジャーは傾いたドアを蹴破り、
中に入っていった。
アレックスも後を追う。

「・・・・・・・肝試しの下見気分ですよ」

中に入ったアレックスはそう思った。
ホコリが凄い。
コホコホとせきこんでしまう。
そして暗い。
灯りなんて壊れているので当然なのだが・・・・

「幽霊でも出そうってか?」
「出るっていうか絶対いますよコレ・・・・・」
「カカカッ!アレックス!おめぇ案外幽霊とか信じる性格なんだな」
「信じてますよそんなの・・・・・・当たり前じゃないですか僕は聖職者ですよ?
 魂を呼び戻す蘇生スペルがあるなら、幽霊やアスガルドもあっても不思議じゃないです」
「なるほどな」

そう言いつつドジャーは「よっ」と飛び越える。
飛び越えたのはカウンター。
カウンターの中に入ってアレックスを手招きした。
アレックスもカウンターを飛び越える。

「残念だけどよ。会うのは幽霊じゃねぇ」
「別に幽霊にも会いたくないです・・・・・・・って・・・・"会う"?」
「おう。ここには変人が一人住んでるのさ」

そう言ってドジャーはカウンターの内側で、
地面の一枚のタイルを剥がした。
すると・・・・・・

「階段?」

そこに現れたのは地下への階段だった。
暗い暗い暗闇へと階段が続いている。

「こんなとこに・・・・・人がいるっていうんですか?」
「あぁ。ミダンダス=ヘヴンズドアって奴だ。
 ミダンダスは・・・・・・・・・・ま、言ってしまえば"世界一のひきこもり"なのさ」
「ひきこもり・・・・・・・ですか」
「違う。世界一のひきこもりさ。ミダンダスの野郎はよ。
 この誰もこない死んだ宿の、誰も見つけないような隠し階段の下で・・・・・・」
「下で?」
「もう10年以上暮らしてる」
「・・・・・・・・・・そりゃ最強だ」
「カカッ!そうだろ?そしてオブジェを隠すには最高の場所だ。じゃぁ降りるぜ」

そう言ってドジャーは階段に足を踏み込む。
暗い暗い階段。
それはまるで地獄にでも続いているようだった。





                 






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