雨が・・・・・・・降ってきた。

アレックスとロッキー。
そして魔女ルカ=ベレッタとケティのピエトロ。

突然の土砂降りは容赦なく打ち付ける。

それはまるで降り注ぐ海・・・・大海のようだともアレックスは思った。




「あら、どちらがダメかは試してみましょうか?」

ルカが口に手を当ててオホホホと笑う。

「現実で愚かさに気付かない人のために地獄があるんですよ」

聖職者らしきことを言うアレックス。
雨で濡れる髪と全身。

アレックスは濡れる右手で十字を描く。
そして突き出す。
おなじみのパージフレアのモーション。
アレックスの突き出す指と共に、
ルカの足元に現れる魔法陣。

「こんな遅いスペル当たりませんわ」

ルカは一歩後へ下がる。
魔方陣から出る形だ。
・・・・・と同時に吹き上がるパージフレア。
ルカの目の前に青白い炎が吹き上がった。
そしてパージがやんだ先には微笑むルカの顔があった。

「パージフレアなんてバランスもなにもない愚かな痴技ですわ
 昔の聖職者が"聖職者だって攻撃したい"と言って作り上げられただけのスペルなんですもの」
「クソォ・・・・・・だめですか」

パージは発動が遅い。
はっきり言ってそれがネックだが、
パージはアレックスの得意技でもあり、
アレックス唯一の遠距離技でもある。

「さて、"珍品財宝は引き出しにつっこめ、いらない物は燃やして捨てろ"
 かのデムピアスの言葉らしいですわ。何が言いたいか・・・・と聞かれますと・・・・・・・・・」
「僕は珍品財宝じゃないってことでしょ」
「オホホ、そういうことですわ・・・・・・・・・・ってことでシビれて黒焦げになっておしまい!!」
「や、やば」

ルカはホウキを振り上げる。
アレックスは走り出す。
だがそうしている間にもルカの詠唱が始まる。
先ほどと同じ呪文。
間違いなくクロスモノボルト。
「シビれて黒焦げになっておしまい」とか言ってるし間違いない。
走るアレックス。
いや、走れアレックス。

そして落ちる雷。

「わー!ぉわー!!」

アレックスのすぐ傍に落ちる雷。
叫ぶアレックス。
走るアレックス。

クロスモノボルト・・・・
それはまるで雷の竹やぶ。
地面に刺さるように落ちる雷。
電撃の竹やりが降り注ぐ。

「うわっうわっ!うわっっ!」

ホップステップジャンプ。
意味はないが走って飛び跳ねて
とにかく逃げるアレックス。
自分の周りには不時着するモノボルト。
その隙間を運よく潜り抜けて走る。

「・・・・チョコマカ走るネズミですわ。
 だけどしゃべる分ネズミよりもはしたないですわね」

モノボルト系のスペルの威力は強力。
だがいかんせん上空から雷を落とすスペルであるため、
命中率に乏しい。
だから昔の魔術師はこれを補うため、
モノボルトは複数雷を落とす範囲技にした。
命中力が悪くとも、数撃ちゃ当たるという技だ。
つまるところ、強力なスペルだが、
狙いを付けさせなければ、当たりづらい。
・・・・・・とアレックスは思っているが、
ゴン太い雷が降り注ぐのだ。
実際いつかは当たる。

だが、アレックスの走る先。
そこにアレックスの狙いがあった。
そしてその場所にたどり着いた。

「待った!ルカさん待ったです!」

「またそれですの?何度も"待った"が聞くと思ってますの!?」

と、言いつつ・・・・・・・・・ルカは魔法を止めた。
いや、止めざるをえなかった。

「・・・・・卑怯者」

ルカの言葉。
ニヤけながら立ち尽くすアレックス。

「この子がどうなってもいいんですか?」

アレックスが抱えるそれ。
それは・・・・・・・・・・・ロッキー。

「??」

ロッキーはアレックスに抱えられたままよく分かっておらず、
キョロキョロと見回した。

「僕にモノボルトを当てるとロッキー君まで黒焦げですよ」
「え〜〜!!僕焦げたくない〜〜!!」

ロッキーはアレックスに抱えられたままジタバタする。
が、なんとかアレックスはロッキーをなだめる。

「あぁ!わらわの可愛いロコ・スタンプちゃん・・・・」

ルカはオロオロとする。
そしてアレックスに言い放つ。

「カ、カクテル・ナイト!貴様恥ずかしくないんですの!?」
「何がですか?」
「先ほどは世界の遺産といえるオブジェを盾にして!
 今度は可愛い可愛いロコ・スタンプちゃんを盾に!それでも元騎士団ですの!?」
「だって"元"ですし」

アレックスは笑う。
自分の仲間を人質にしながら悪魔の微笑み。

「さぁて、どうしますルカさん?僕に手を出すと、ロッキー君の命の保障はないですよ!」

なにやら立場が逆転する。
攻守という意味でなく、
"善悪"という意味で。

「こ、この悪党!」
「悪党じゃないです甘党です」
「そんなこと知らんわ!」
「しゃべり方が下品になってますよルカさん。さぁ、どうします。
 魔法って選択肢をやめた方がいいんじゃないですか?」

アレックスの考え。
もう単純にあのクロスモノボルトを封じなければならない。
強力すぎる。
世界最強ギルドの六銃士・・・・・
リヴォルバーナンバーズのNO.5だけある。
一撃必殺の遠距離攻撃。

なら接近戦に持ち込めばいいんじゃないか?
駄目である。
近づいてくるのが分かればそれはそれで狙いの的。
進行方向に雷をドーン。
クロスモノボルトの餌食。

じゃぁもうクロスモノボルト自体を封じる。
それがアレックスの狙いだった。

「愚民風情のくせに・・・・・」

ルカは迷う、
というか震える。
ピクピクと顔をひくつかせながら、
それは怒り、イラツキ。
金、実力、権力。
全てを手に入れてるからこそ、
全てが思い通りになってきた人生だった魔女ルカ。

「わらわに選択肢ですって・・・・・」

欲しいものは全て手に入れてきた人生だった魔女ルカ。
だが今、思い通りにいかない。
欲しいものが手に入らない。
そのイラツキと、
貧乏臭い騎士にナメられている事が腹立たしいのだろう。

ケティがルカをなだめようと顔を摺り寄せる。
が、
それにも気付かないほどの怒り。

「あー・・・もういいですわ・・・・・」

ボソリというルカ。
魔女の目つきは悪い。

「もうそんなものいらないですわ。いや、欲しいけどいらないですわ・・・・」

どっちだ・・・・

「このわらわがナメられるくらいなら必要ない・・・・・・・
 ヘソを隠しなさい!そして黒焦げになってしまいなさい!!!!!」

ルカがホウキを振り上げる。
クロスモノボルト?
いや、違う。
呪文の詠唱がない。
普通のモノボルトだ。
早い・・・・
雨雲。
降りしきる雨の中。
その中に一本の閃光。
光った。

「避けられなぃっ!!」

降り注ぐ一本の雷。
それはまるで写真をやぶいたように、
空に亀裂が入るように。
雷が一本、空(くう)を裂いて落ちてきた。
落ちる。
そして地面に突き刺さる。
そして・・・・・・・
アレックスとロッキーに・・・・・・・・

直撃。

「オホホホホホホ!愚民が!ネズミが!!!これがわらわの力ですわ!!!
 地震・雷・火事・親父。カミナリは世の中の天災のひとつ!
 天災を扱うは天才の証!名声・実力・金・権力!これがわらわ!ルカ=ベレッタ様ですわ!!」

ルカの大きな笑い声。
雨の中、こだまする

巻き起こった煙。
その中。
出てきたのは・・・・

黒焦げのアレックス。

「アレックス〜?アレックス〜〜!!!」

ロッキーが叫ぶ。
ロッキーは・・・無事。
無傷。
当然。
避けられないと気付き、
アレックスは、ロッキーの上にかぶさり、
盾になったのだ。
ロッキーを守り、全身で雷を受けたアレックス。
その下にロッキー。

「大丈夫です・・・・・。命中と速度重視の普通のモノボルトでした
 ・・・・・といってもさすがの威力ですかね・・・・・致命傷です・・・・・・」
「大丈夫じゃないじゃん〜!」
「いや・・・自業自得ですよ・・・・・・・・・・戦略とはいえ・・・・・ロッキー君を盾にしようとしたから・・・・」
「言ってることとやってること逆じゃんか〜!!」

アレックスはゴロンと倒れる。
大の字で地面に倒れこむと、
雨が真上から降ってくるのが分かった。

「まさか撃ってくるとは思わなかったもんで・・・・」
「でもアレックスが一人で受けること〜・・・ないじゃん〜!」
「こういう時は勝手に体が動くものらしいです・・・・・・・」

アレックスの体が光る。
いつの間にか左手が自分の体に当てられていた。
それは癒しの光。

「このまま僕は少しナイトヒールで回復しています・・・・・・。その間にロッキー君は逃げてください」
「でも〜・・・・・・・」

「あらぁ〜!ロク・スタンプちゃんだけ無事ですわ〜!こんな幸運もあるんですわね!」

ルカがアレックス達の状況に気付く、
そして舌をペロリとなめまわしていた。

「ロッキー君!早く!」
「アレックス〜」

倒れるアレックスの脇に立ち、
ロッキーは話す。

「アレックスはさ〜、抱え込みすぎだよ〜?」
「へ?」
「一人でなんとかしようとかさ〜自己犠牲?っていうんだっけ〜?そんな感じばっかするよ〜」
「そうですか?」
「そうだよ〜。本当に盾にする気もないのにぼくを盾にしたりさ〜」
「さぁ〜?僕は本当にそんな事しちゃう人なんですよ?
 よく言われるんですよ。見かけは白くて中身(心)は黒い。・・・おまんじゅうみたいですよね」
「そうだよ〜!おまんじゅう人間だよ〜!!」

アレックスは気付く。
雨が顔に直接降り注いでくるから見えにくかったが、
アレックスを見下ろすロッキーの顔は怒っていた。

「アレックスなんか〜!!おまんじゅうだ!!
 さっきから僕を守ろうとしたり危険を減らそうとばっかりして〜!
 僕もね〜!強いんだよ〜!戦えるんだよ〜〜!子供扱いはなしだよ〜!」

ロッキーは最後に「このおまんじゅうアレックス〜!!」と怒鳴り
プンプンと口を膨らまして怒っていた。
アレックスはその顔を見て噴出してしまった。

「アハハ!そうですね!ロッキー君はむしろ僕なんかより強いですもんね!」
「そういう事言ってるんじゃないんだよ〜?」
「分かってますよ。ハハ。僕は外見が白くて中身(心)が黒いおまんじゅう。
 ですけど《MD》の人達はみんな外見が黒いくせに中身(心)が白い人ばかりだ!」
「んじゃぁ《MD》はオハギだね!」
「そうですね。おいしそうです」

雨の中アレックスとロッキーは笑った。

「一緒に戦いましょうかロッキー君」
「うん!」
「・・・・・って言っても僕、モノボルトの直撃のせいで動ける体じゃないんだった・・・
 ナイトヒールで少し楽にはなったけど・・・・・まだ全快では・・・・」
「じゃぁ、アレックス〜。ぼくが治したげるよ〜」

ロッキーがニヒヒと笑う。
なんの笑いかと思ったが、
カプハンの先でオリオールがウヌヌと笑っていたので察しがついた。

「さっきのテレポートランダムの時みたいに
 オリオールが直接セルフヒールをぶちこんでくれるって〜!」
「それって・・・・・」

体を治すために・・・・・・・・
カプハンの直撃を食らわないといけないってことか・・・・・・・

「ウヌノノノノ!」
「イヒヒヒ〜!!」

ロッキーがカプハンを振り上げる。

「ちょ、ロッキー君!大丈夫!自分で動きますから!」
「せぇ〜いばぁ〜い!!!」

成敗って・・・・

とアレックスが思った次の瞬間。
物凄い衝撃と共に、
目の前に星が見えた。
キラキラ輝く星がアレックスの眼前を回る。
一瞬死んだのかと思った。

元王国騎士。セルフヒールで死亡。
僕はアンデッドかっての・・・・

アレックスは首をブンブン振って、
もうろうとしていた目を開けた。
無事みたいだ。
そして首や手首を動かしてみた。

「さすが世界最高のオーブオリオールですね」

全快・・・・とはいかないものの、
体がなんとか動くまでには回復していた。
ダメージを受けることによって回復するというのは不思議な感じだったが、
まぁ・・・結果オーライといったところか。

「この回復方法はマゾの方に最適ですね」

とアレックスが立ち上がり、
体をパンパンと払った。
雨のせいで、泥だらけだから綺麗にはならなかった。

「お話は終わりましたの?」

突然の声。
ルカの声。
いつの間にかすぐ傍まで来ていたのだ。
あまりに近い声にビックリするアレックスとロッキー。

「ビックリしたぁ〜!!」
「少し逃げますよロッキー君!!」

アレックスは咄嗟にマネーバッグに手を入れる。
そして取り出した"もの"を地面に叩きつけた。
煙をあげて出てきたのは・・・・・
ジャイアントキキのG-U。
アレックスはロッキーを抱えてすぐに飛び乗る。

「G-U(ジッツー)! GO!!」
「キッ!!!」

G-Uはすぐさま走り出した。
いきなり最高速。
さすが地上最速生物ジャイアントキキ。

すぐさまルカとの距離は離れていった。

「あら、あれはもしかしてあの王国騎士団で特別調教されたっていうGシリーズ?
 これまた珍品じゃないの♪欲しいですわぁ〜・・・・・・・」

だがルカはすぐに追いかける動作はしない。
そんなルカを尻目に、
ドンドン走るアレックス。
といっても走っているのはG−Uだが。
風をかきわけ、走るキキ。

「わぁ〜!速いね〜!アレックスこんな守護動物もってたんだ〜!」
「さっきおまんじゅうとかオハギの話をしてて思い出しまして」
「速い速い〜!!」

喜ぶロッキー。
走るG−U。
スオミの森は木が少ない。
障害物が少ないため走りやすい。
少ない木をかきわけ、
G-Uは走る。

が、突然。
ピシャン!!!
という音がアレックス達の横で鳴り響く。
それはモノボルトだった。

「アレックス〜!うしろ〜!!」

ロッキーの声に振り向くアレックス。
後ろには・・・・・・

ホウキに乗ったルカがいた。
飛んでいる。
そして・・・・・・・速い。
G-Uほどではないが、
障害物のない空中を直線的に飛行する分、
G-Uのスピードについてきていた。

「オホホホ!ロコスタンプちゃん。オリオール。Gシリーズ。全て欲しいですわ♪
 け・ど。逃がすくらいなら・・・・・・・・・・黒焦げにしちゃいますわ!」
「ニャニャニャ!!」

ホウキにまたがった魔女ルカとケティのピエトロ。
キキに乗って走るアレックス達を追う。

後ろから小声で呪文の詠唱が聞こえた。
間違いなくあのスペル。
予想通り、
魔女ルカのクロスモノボルトが放たれる。

「キキッ!」

G-Uの真後ろに雷が落ちる。
走るG−U。
一発て終わりではない。
絶え間なく落ちるクロスモノボルト。
後、右、ギリギリ左。
クロスモノボルトがアレックス達を狙う。
まるで止まったら感電死だと言わんばかりに雷が落ちる。
そしてモノボルトの隙間を縫うようにG-Uはスオミの森を駆け抜ける。

「雷が止まらないよ〜!いつか当たっちゃう!」
「こういう時はね、ロッキー君」
「?」
「あたらない事を祈るんですよ。アーメン」

それじゃだめじゃんとロッキーはアレックスをポコンと叩いた。

「キキキキ!!!」

G-Uが突然泣き声をあげる。
なんだ?とアレックスが思い、前を見ようとする。
だがそれより前にロッキーがアレックスの髪の毛を掴んで叫んだ。

「アレックス〜!!前前前前前!!!!」
「うわ!ストップ!!G-Uストップ!!!」

G-Uの緊急ブレーキ。
地面をこする様にすべるジャイアントキキ。
だが無念。
とびだすな。キキは急には止まれない。
アレックス達は止まったキキの反動で吹っ飛んだ。
そして地面に転がった。

「いててて」

とアレックスは脇を見る。
すぐ1m横。
そこはニミュ湖の絶壁。
あぶなく落ちるところだった。

「もどれG-U」

その声でG-Uは卵に戻った。

「オホホホホ!デッドエンド(行き止まり)ですわね」

ルカもホウキから降りる。

アレックスとロッキーは湖の絶壁を背にして後が無い。
雨だけが容赦なく降る。

「腹をくくって戦うしかないですね・・・・」

アレックスが槍を構える。
ロッキーもカプハンを構えた。


その時、
まったく予期していない方から声が聞こえた。

「あら・・・・アレックス?」

アレックスとロッキーが振り向く。
聞き覚えのある声。

そして視線の先。


そこには木にもたれかかっているボロボロの女魔術師。
そしてその女性にギターの銃口を突きつけている・・・・マリナがいた。

偶然の遭遇。

だがこの時、
アレックスはまだ気付いてなかった。

ここに最高・・・
いや、最悪に怖い女魔術師が三人揃ってしまったという事を。







                 






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