スオミの森
アレックスらがいる場所からひとつ離れた一角。



「あら、雷みたいね」

マリナが言う。
ギターを担いだまま、
そらを見上げた。

雨が・・・・・・・・降ってきた。
突然だったが、

土砂降りだ。

「何が・・・・・・・・・「大きくなったわね」よ・・・・・・・・」

その言葉にマリナはもう一度目線を下げる。
その目線の先には・・・・・妹、マリン。


「本当の事を言ったまでよマリン。かなり久しぶりだしね
 こんなに大きくなってるとは思わなかったわ」
「私だってお姉ちゃんがこんなにもオバサンになってると思わなかったわ」
「オ、オバ!?私はまだにじゅ・・・」
「でも・・・・」

マリナの言葉を聞かずにマリンは話を続ける。

「変わったわねお姉ちゃん」
「あなたこそメイジプールのGMだなんて大出世じゃない
 それにあだ名なんだっけ?『クーラ・シェイカー』だっけ。カッコイイじゃない」
「私のことはいいの!!」

マリンは叫んだ。
妹だけにマリナによく似た顔立ち。
短い髪型を伸ばしたらマリナと見分けが付かないんじゃないだろうか。
そんな顔が強張っている。
そんな顔に雨が鞭打つ。

「なんで家から出て行ったの・・・・・・・・いや、なんで逃げたの!?」
「逃げたくもなるわ、あんな家。実力が全ての名門シャル家
 マジックボールしかできない私にとっては居心地がいいわけないじゃない。
 マリン。あなたのように才能があったら私だって頑張ってたかもね」
「それはお姉ちゃんがスペルブックもロクに見ようとしないからじゃない!」
「だって出来る気がしないんだもん」

マリンは明らかに怒っていた。
数年・・・いや、2ケタを超える年を超えた再会。
言いたい怒りをぶち込んでいるようだ。
言葉と共に雨も降り注ぐ。

「先に言っておくわお姉ちゃん。出来ることなら私はお姉ちゃんと戦いたくない」
「あら、でも私は仕事なの」
「そんな仕事!」
「なんにしろ・・・・・・・あなたの《メイジプール》がオブジェを欲しがってて私が《MD》である限り
 いつかは戦わなきゃいけないのよ?その決着を早めにつけに来ただけ」
「お姉ちゃんはいつも勝手だわ!」

少しの無言の中。
雨の音が演奏する。

「ママとパパと・・・・いえ、シャル家のみんなにはお姉ちゃんに会い次第始末しろって言われてるわ
 "あいつはシャル家の面汚しだから"って・・・・・・・」
「あら、じゃぁちょうどよかったじゃない」
「・・・・・・・・・いやに挑発するわねお姉ちゃん」
「言ってるでしょ?戦わないといけないのよ私達は」
「戦いたがってるように感じるわ」
「私は私なりの生活を手に入れたの。ハッキリ言って気に入ってるわ
 でもひとつやり残したことがあるなら・・・・それは家のこと。
 負けて逃げたままじゃ少し気に食わない・・・・ってところかしら」
「私達を見返したいの?」
「そういう事」
「魔法は使えるようになったの?」
「ぜぇーんぜん。未だマジックボールだけ」
「なのになんで!」
「魔法に縛られたシャル家を見返してあげたいの。人生それだけが全てじゃないってね」

マリナはギターを一度弾いた。
ポロォンという音色は、
雨のため、あまり響かなかった。

「お姉ちゃん。私達の名前の意味知ってる?」
「知ったことじゃないわ」
「マリンとマリナ。両方壮大なる"海"を冠してつけたそうよ」
「あら、結構いい名なのね」
「そうよ。海。それほど大きな存在になれって意味なの
 でもお姉ちゃんは海どころか・・・・・・・汚い汚い・・・・小さな小さな井戸の水の中」
「そこが気に入ってるのよ。いいところよ99番街」
「もう海になる気がないなら・・・・・・・・お姉ちゃん」

マリンはスタッフを構えた。

「人知れず波に飲まれちゃうしかないのよ!!!
 壮大なる水の神よ、今をもってその姿を変え、我に力を与えたまえ」

マリンの目の前に水の・・・・いや、氷の玉が浮かび上がる。

「お姉ちゃんは井の中の蛙よ!!!大海を知って!!!フリーズブリード!!!!!!」

氷球が発射される。
氷の結晶をキラキラと溢しながら、
まるで海を突き抜ける勢いで、
マリナに向かってきた。

「氷使いだから『クーラ・シェイカー』か。でもそれよりさ、マリン。
 井の中ってのはいいけど、レディに対してカエルは失礼じゃない?」

マリナはギターを抱えるように構える。

「MB16mmマシンガン!!!」

光るマズルフラッシュ(銃光)
その瞬間、幾数もの弾丸がギターの先端から放たれる。
秒間数十の弾丸は
途切れる事のない雨の音より速く、
タンゴのリズムを奏でた。

弾丸はフリーズブリードを撃ち放つ。
氷球は堅い。
が、
数十、いや、数百という弾丸をうけ、
空中で粉々になった。
粉々になったフリーズブリードの破片は、空中で乱反射して、
美しく散った。

「魔法を覚えてないとは言ったけど、私が成長していないとは言ってないわよマリン」

マリンは無表情だった。
そして口を開いた。

「マジックボールの弾丸・・・ね
 MB(マジックボール)を小粒状までに凝縮して連射。
 ワイキギターの性能もあるんでしょうけど、なかなか面白いわざだわ」
「あら、一瞬で見抜くなんてやるじゃない」
「でもあくまで最弱スペルの工夫ね」
「工夫?大事じゃないの。料理も戦いも工夫は大事だわ
 うちのアホなGMも言ってたわ。一発一発が弱いなら足す。実力は足し算だってね」
「そんなことはもういいの。もうすぐお姉ちゃんが死ぬ。それだけの時よ」
「それは嫌だわ」
「雨、降ってるわね」
「?」

マリンは手を差し出す。
幾数もの雨はマリンの手を打ちつけた。

「雨も水。だけどねお姉ちゃん。海にとったら雨なんてどんだけ降ろうが関係ないわ
 壮大なる大海にとったら雨なんて表面を打ちつけて吸収されるだけの存在
 お姉ちゃんもそう。お姉ちゃんのお遊び技なんて私の前では小さなものなの」
「あら、そうかしら?」
「そうよ。お姉ちゃんは海に飛び込む勇気がなくて、井戸に逃げ込んだカエル」
「カエルは失礼だって言ってるでしょ?」
「お姉ちゃんは・・・・・・・・・・・海(マリン)に沈むって言ってるの!!!!
 放大なる海よ、その力は何もかもを飲み込む巨口、海に住まぬ者はその力に屈す、
 弱者が、波に負け、流れに負け、身動きもとれぬその壮大なる力を貸したへ、
 それは氷の型(かた)をとった津波!いま、万物を飲み込め!アイススパイラル!!!!!」

風。
風が吹きつける。
キラキラ輝く風。

「・・・・冷気?」

そう、冷気。
冷気がマリンから放たれる。
氷がキラキラと輝く冷気。
いや、冷気はオマケ。
紐のような・・・・氷のツルが伸びている。
細い細い氷の紐。
幾数ものそれが冷気を発しながら渦巻き、
光を乱反射しながらマリナの方へと飛んでくる。
それは紐状の・・・冷気の津波。

「どんな攻撃も一緒よ!!!」

マリナがギターを構える。
そして発射。
16mmのマジックボールによる弾丸。
乱射。
打ち尽くす勢いの発砲。
だが、
細い紐で形状されているアイススパイラル。
弾丸はうまく当たらない。
氷の紐がそよ風のように淡々とマリナへ迫る。

「津波に弾丸を撃ち込んでも、大海の波は止まらない」
「クッ、」

マリナは弾丸を打ち続ける。
が、無駄。
弾丸を撃ち込むたびにアイススパイラルは少し飛び散るが、
何事も無かったかのように飛んでくる。
そして、
その氷の紐達が、
まるで蛇のようにマリナに撒きついた。

「海に沈んで、お姉ちゃん」

マリナに撒きついた紐状の氷達は、
マリンの言葉と共に凍りついた。
凍る。
撒きついた部分。
と言っても全身だ。

マリナは・・・・
まるで彫刻のように氷漬けにされた。

「聞こえる?聞こえるよねお姉ちゃん」

マリンは一歩一歩氷付けのマリナに近寄る。
が、マリナは氷漬けにされて声は出せなかった。
身動きひとつもできなかった。
が、

割れる音。
氷のだ。

「うそ・・・」

マリナの右手が氷を砕いて飛び出した。
続いて次々と全身の氷が割れていく。
そして彫刻のようにマリナを捕らえていた氷は全部割れた。
マリナの周りに氷の破片が飛び散った。

「力には自信あるのよ。これでもサバイバルして生きてた時期もあってね」
「・・・・・・・・・魔術師が氷を砕くほど腕力つけてどうするのよ・・・・」
「あら、冗談に決まってるじゃない。氷の中でマジックボール撃ちまくってあげただけよ」
「いちいち冗談を言うようになったのねお姉ちゃん」
「ま、サバイバルってのも・・・・・・・・・・・」

マリナはギターを逆向きに構える。
まるでこん棒のように。

「力に自信があるのも"ウソ"ではないけどね」

マリナはウインクしながらギターを構え続ける。
近距離戦を誘っている。
ハッキリいっておかしな事だ。
魔術師の・・・・・エリートの中のエリート。
そんなマリンが近距離戦で戦うメリットなんかない。
近距離戦の誘いにのるはずがないのだ。
だが、

「さっきも言ったけど・・・・雨なんて降り注いでも、海にぶつかっては混ざるだけの存在
 大海にとって飲み込まれるだけの存在。私の場合もそう。私は海(マリン)。雨を利用できるわ」

マリンのスタッフを持つ右手。
不思議・・・・といっては失礼だが、
周りの雨が・・・そのスタッフに引き寄せられているようだった。
マリンのスタッフと右手に凝縮されていく。
そして・・・・・・・・

「これは私のオリジナルよ。名づけて"氷槍アイスランス"」

マリンの右手とスタッフを軸に、そこには凍り付けの槍ができていた。
ツララのようにマリンの手から伸びる氷。
アイスランスをそのまま右手に装着した形だ。

「さすが『クーラ・シェイカー』って呼ばれるだけはあるわね」
「これでも《メイジプール》のGMだからね。魔術師の弱点の近距離戦も克服してるの
 これで・・・・・・確実にお姉ちゃんを・・・・・・・・・・・・・殺してあげるわ」
「殺せるもんならね」
「殺すわ。近距離戦で負けたら、お姉ちゃんはシャル家を出たことを後悔できるでしょ」
「もう一度言うわ。殺せるもんならね」

マリナが勢いよく踏み込む。
ギターを振り上げて突っ込む。
マリンも右手のアイスランスを構えながら走る。
雨の中、海の名を持つ二人が走る。
そして真ん中で・・・・・・ぶつかる。

ぶつかったギターとアイスランス。
いや、ぶつかったというのは懸命ではない。
砕かれたのはアイスランス。
勢いとギターの質量、そしてマリナの腕力。
それらにアイスランスは負け、
氷を撒き散らしながら粉々になった。

「あなたの負けよ・・・・・・・マリン」
「いや、負けたのはお姉ちゃんよ」

振り切ったマリナのギター。
砕かれたマリンの右手のアイスランス。
だがマリナは気付く、
最初から氷でギターと張り合えるはずがない。
それに気付かないほどマリンは馬鹿なはずもない。
ハッと気づく。

「バイバイお姉ちゃん」

アイスランスは、左手にもあったのだ。
マリンは気付かないうちに左手にもアイスランスを形成していた。
右手は囮。
最初から捨てたのだ。
狙いは最初から・・・・左手のアイスランス

「あぶっ!」

マリンの左手
アイスランスが突かれる。
それをマリナは皮一枚でかわす。
いや、かわすという表現ではおかしい。
皮一枚もっていかれているのだから。
大ダメージではないが、大げさに血が飛ぶ。

「てぇりゃあああああああああ!」

お返しとばかりにマリナはギターを振る。
力任せの大降り。

「甘いわ、氷盾アイスボール!」

だがマリンはそれを読んでいたようで、両手を凍らす。
十字に組んだ両手は球体の氷で固められた。
それはまるで盾のように。

ギターが氷にぶつかる激しい音をたてる。
マリナのギターは、もちろん氷を砕いたが。
それもマリンの思考の上。
マリンは氷を砕かれながらも、逆にその反動でマリナと距離をとる。
マリナのギターでわざと吹っ飛ばされたのだ。

また二人の間に距離が開く。
二人の間には振り進む雨。

「わかる?お姉ちゃん。お姉ちゃんじゃ私を倒せないのよ
 海の広さがわかった?泳ぎ始めてもいないお姉ちゃんなんかに私は倒せないわ」
「・・・・まだ分からないわ」
「分かるじゃない。近距離戦でも私に勝てないじゃない」
「じゃぁ・・・・・遠距離戦で決着を付けましょ」

マリナがギターを構える。

「何言ってるのおねえちゃん。私は世界最高の魔道ギルド《メイジプール》のGM
 そんな私に遠距離戦を挑むっていうの?・・・・・・・・馬鹿になっちゃったのお姉ちゃん?」
「馬鹿かどうかは別として、自信はあるわ」
「自信は別にして、馬鹿よ」
「・・・・・・馬鹿かもしれないわね。ただ、さっきあなたが近距離戦で私を倒そうとしたように
 私も遠距離戦であなたを倒してこそ・・・・・・見返せるってもんでしょ?」
「それが馬鹿なのよ!!!」

マリンもスタッフを構えた。

「最後よお姉ちゃん!」
「ええ、マリン。これで終わらせましょ。この一瞬で」
「お姉ちゃん。もう一度だけ忠告しとくわ。・・・・・・"井の中の蛙よ・・・・・・・大海を知れ"」

雨の中、
対峙する二人。
先に動いたのマリン。
スタッフを前に突き出す。
現れたのは小さなアイスボール。

「あら、可愛いアイスボールねマリン。それじゃぁ本当にカエルしか倒せないわよ」
「逆よ、お姉ちゃんがカエルになるの」

マリンはさらに魔力を込める。
すると、先ほどアイスランスを生成した時のように、
周りの雨がそのアイスボールに吸い込まれていった。
雨が海に組み込まれていくように、
アイスボールを雨を吸収するたびに大きくなっていた。
それはただ大きくなっていくだけではない。
見るだけでも分かる。
魔力が凝縮され、硬く、堅く、固く。
一つの岩のように固められていく。
そして、マリンの前に一つの最強の氷の玉が形成された。
アイスボールとは思えない・・・・巨大で凶悪な氷弾。

「諦めるなら今のうちよ。なんたってお姉ちゃんはマジックボールしかできないんだから」
「諦める?マジックボールしかできない事が諦めの理由にならないわ
 一つ、言ってなかった事があったわマリン」

マリナが構えたギター。
その先端が光り始める。

「マジックボールはね。"私の色"。私に最高に合った色なのよ。
 マジックボールしかできないんじゃない。マジックボールが得意技なの」

マリナのギターの先端。
そこにはマジックボール。
それは・・・・ドンドンと大きくなる。
マリナの魔力を全てを吸い込んでいくように。
ドンドンと、
光を吸収していくように。
膨れ上がるマジックボール。
そして、マリンのアイスボールと同程度の大きさにまで大きくなった。
それはマジックボールと呼んでいいのか分からないほどの
巨大で、凶悪なマジックボール。

「な、なにそのマジックボール・・・・ありえないわ・・・・・・」
「MB(マジックボール)はね、マリン。魔法の中で唯一本人の魔力自体を飛ばすスペルなのよ
 威力は本人の魔力次第でどこまでも大きくなるスペル。
 だから、小さく凝縮してマシンガンにすることもできる。
 その逆で一発に魔力を放大に込めてぶっ放すこともできる。
 まるで料理のようね。全ては料理人の腕次第・・・・って事よ」

雨の中。

姉と


マジックボールと
アイスボール

「決着をつけましょ」

マリナの笑顔。
それが引き金。

「アイスボール!!!!」
「MB1600mmバズーカ!!!!」

二つの玉が放たれる。
氷の玉と
魔力の玉。
二つの魔法の塊が、
何事も干渉せず、
ただ真っ直ぐ。
ただ真っ直ぐ突き進む。

そして二人の中点で・・・・・
ぶつかる。

押し合う二つの魔弾。
唸る轟音。

だが、
それも長く続かなかった。

魔力次第でどれだけでも強くできるマジックボール。

一方アイスボール・・・・・。
自然界の摂理。
最低温度という名の限界値。
セッ氏−273℃。

砕かれたのは・・・・・・アイスボールだった。

「そんな・・・・・・・」

マリンにマジックボールが直撃する。
マリンは吹っ飛ぶ。
マリンは木にぶつかる。
そして・・・・・マリンは倒れる。

マリンの・・・・負けだった。

「クソォ・・・・お姉ちゃんに・・・・・・負けるなんて・・・・・・」

マリンに近寄るマリナ。
それを見てマリンはまだ立ち上がろうとする。

「あら、やっぱあのアイスボールのせいで威力がかなり弱まってたみたいね
 致命傷はあたえられなかったみたい」

だが、マリンは立ち上がれないほどのダメージを受けていた。

「マリン。たしかにね。私は魔法の勉強を全然しなかったわ。
 スペルブックや、魔術の教科書なんてちょっと開いてすぐポイッ・・・って感じだったわ」
「・・・・・」
「でもね。私が見た魔術の教科書。唯一目を通した最初のページ。そこにはこう書いてあったわ
 ・・・・・・・・・・・・・"魔術の基本はMB(マジックボール)。MBに始まりMBに終わる"」

マリンは一瞬笑った。

「まさかお姉ちゃんに説教されるとはね・・・・・・・」

そんなマリンに
マリナはギターの先端を突きつけた。

「本心・・・・もうちょっと話をしたかったわ」
「私もよ」

二人は、
姉妹は
笑っていた。







                 






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