「なんだかんだで降らないね〜 雨」
「代わりに飴が降ってくれると嬉しいんですけどね」
「え〜〜?痛いよ多分〜」
「その痛みを超えてこそ本当の美味しさがあるんですよ」
「へ〜。アレックスは詳しいな〜」

アレックスとロッキーは歩いていた。
アレックスは少し早歩きで歩く。
それは仕事を急いでいるからではない。
少し早歩きで歩くと、
ロッキーが一生懸命小走りで追いかけてくるのが面白いからだ。
いつか転ぶんじゃないかというハラハラ感を楽しんでいた。
とてもサディスティックだ。

「アレックス〜〜もうちょっとゆっくり歩いてよ〜」
「雨が降ってきちゃうじゃないですか」
「多分もう降らないよ〜〜」

アレックスはもうちょっとこの意地悪を続けていたかった。
いつもはMD内でどちらかと弄られキャラなのだ。
たまには逆の事もしてみたい。
顔に似合わず性格の悪いアレックスである。

「降りますって。ほら、ロッキー君見てください」

アレックスが空を見上げる。
空には暗雲が立ち込めていた。
雨をいつでも落とせるんだぞ?という空の意思表示にも見える。

「きっと大雨ですよ〜。それはもう雷が落ちてくるほどのね!」

アレックスはロッキーにイヤらしい笑みを浮かべながら言った。
ちょっと驚かす感じに。
ロッキーは・・・・

「えぇ!オ、オヘソ隠さなきゃ〜!!」

と大慌てをした。
そういった反応が楽しくてアレックスは意地悪をやめられなかった。

「ほらほら雷が落ちてきますよ〜。今にもピカー!って!」

そのアレックスの言葉。
その言葉と同時。
当たりが一瞬光った。
光に満ちたと言っていいほどの光。
そして衝撃。
音。
そして、一瞬で黒焦げになる真横の木。
カミナリが落ちたのだ。

「ほ、ほんとに落ちたぁ〜〜!」

ロッキーは大慌て
ヘソを隠しながら近くをグルグルと回った。
人々と魔物達が恐れる『ロコ・スタンプ』もこうなるとただの子供である
驚いたのアレックスもであった

「ビ、ビックリしたぁ・・・・僕がモノボルトでも使えるようになったかと・・・・・」

いや、待てよ
もしかしたら僕のモノボルトなんじゃないだろうか。
きっと僕には隠された才能とかあって
この雨がそれを引き出す引き金になったとか・・・・
よし・・・・

アレックスは空に両手を突き上げる。

「いでよモノボルト!!」

・・・・・
だが空に返事は無かった。
ただ無言のまま
静寂をアレックスへプレゼントしただけだった。

「何やってるの〜?アレックス〜?」

ロッキーの純粋無垢な質問はどんな魔法より強烈に思えた。

「ねぇ〜アレックス〜〜。"いでよ"って何〜?"いでよ"って〜〜」
「・・・・・いや、なんでもないんですよ・・・・・」


「オホホホホ!なんなのかしらね馬鹿わ。頭がおかしいのかしら。ねぇピエトロ?」
「にゃ♪」











S・O・A・D 〜System Of A Down〜

<<姉と妹と雨と5と魔道ギルド>>












アレックスをあざ笑う声。
アレックスはムッとしてそちらに顔を向ける。
そして視線の先。
そこには一人の女性と一匹のケティがいた。

「・・・・・ケティだ・・・・」
「猫だぁ〜!!!」

いや、ケティは置いておいて、
女性の方。
大事なのはそっちだ
・・・・その容姿。

色白の肌。
長い八重歯。
紫の唇・・・・・・いやこれは口紅かもしれないが
長く尖った耳。
なにより黒いトンガリ帽子に黒いローブと右手のホウキ。
そしてただならぬ雰囲気。

「あなた・・・・魔女(モンスター)ですか?」

アレックスは神妙な顔つきで言う。
ロッキーは「え?え?」とアレックスとその魔女の顔を交互に見たが、
よく状況が分からないので黙っていた。

「わらら?わらわは魔女ではないですわ。まぁかといって人間でもなくてよ」
「?・・・・・どういう・・・・」
「まぁ聞きなさい。わらわはルカ=ベレッタ。『マジョ・ラ・サンダ・ラ』のルカですわ
 わらわは人間の子。そして魔女の子。人間と魔女の間に生まれた"ハーフウィッチ"ですわ」
「半魔族ってことですか。それは珍しいですね。さすが《メイジプール》といったところですね」
「あら、あまり驚かないのね」
「えぇ!?人間と魔女の子ぉ!!??・・・・・・・・・・・・こんな反応がよかったですか?」

アレックスはクスりと笑いながら言った。

「ふざけた男ですわ。このルカ様をなめるなんてね
 あとついでに言っておくとわらわは《メイジプール》のメンバーじゃなくてよ?」

魔女ルカの足にケティが「にゃぁ〜」と擦り寄る。
ルカはそんなケティの頭を撫でながら話を続けた。

「わらわは《GUN'S Revolver》の六銃士(リヴォルヴァーナンバー)のNo.5ですわ」

アレックスは咄嗟に身構えた。
槍を両手に持って突き出す。
目つきも変わる。

ロッキーも、よく分かっていないがとりあえずハンマーを構えた。

「ヴァレンタインさんと同じ・・・・六銃士の方ですか・・・・」
「あら、こちらの情報の方が驚いたようですわね。それにね、とぉーってもお金持ちですわ」

ルカはオホホホホと笑う。
ケティもそれにあわせてニャニャニャニャと笑っていた。

「それはどうでもいいです・・・・」
「あら、金欲ないのね」

ルカが残念そうに指をチョィと振る。
ボワンと小さな煙が出たと思うと
ルカの手の上にはスペルブックのようなメモ帳ような本が出てきた。
それをぺらぺらとめくる。

「えぇと、あなたがアレックス=オーランド君かしら?
 《MD》に騎士は・・・・・・・一人ですわね。うん。間違いないですわ。
 元騎士団の騎士団の生き残り、『カクテル・ナイト』ですわね」

ルカはスペルブックのようなメモ帳を片手に、そんな確認をする。
チラチラとアレックスの方を見ながら。
それは魔女らしき魔性の視線だった。

「それでこっちが・・・・・あらぁ」

魔女ルカの眼に嬉しさのような感情が映った。
そしてその眼はロッキーの方を見つめている。

「これが有名な『ロコ・スタンプ』ちゃんね♪」

ルカはペロリと舌で唇を舐めた。
そして本を片手でパタンと閉じると本は煙をあげて消えた。
それより魔女ルカの眼はロッキーに集中していた。

「可愛いわぁ〜・・・・可愛い上に珍しい。珍品・珍獣は集めつくしてきたけど珍人は初めてですわぁ
 是非!是非わらわのコレクションに加えたいものですわ!・・・・・・・・・でも」

魔女ルカの憂いの眼が冷たい眼に変わる。
その冷線はアレックスに向けられていた。

「あなたは要らないですわ。消し炭になっちゃいなさい!」

ルカが突然ホウキを空へと突き出す。
そして呪文の詠唱を始めた。

「我、望みしは自ら下した判への助力、それは天罰の力、それは愚民には眩しき光の裁き!
 神よ力を貸したまへ、そして雲を刺し殺し、地を貫きたまへ!降り注げ!クロスモノボルト!!!」

一瞬天が・・・・・いや、辺り全体が白く眩しく輝いた。
だがそれは本当に一瞬。
その次の瞬間には
大きな轟音と共に、無数の雷(モノボルト)が降り注いだ。

そのモノボルトの数。
クロスモノボルトというだけあって、
雷と雷が交差するかと思うほどの野太い9本の雷。
それがアレックスの周りに半径十数メートルに降り注いだ。

・・・・・・・・・偶然だった。
たまたま周りにあった数本の木が避雷針になった。
数本の雷は木を炭クズにし、
残りの数本の雷はアレックスを直撃せずに落雷地点がズレた。

「あら、悪運をお持ちのようですわね」
「・・・・・・・・クッ」

完全なる偶然。
ただのそれだけで命を救われた。
アレックスの周りには9つの黒い焦げ後。
その一つ一つがティラノも一撃で真っ黒になるんじゃないかという跡。
当たると・・・・ヤバい。
いや、死ぬかも。
さすが世界最大ギルドの六大オフィサー。
魔法の力もハンパではない。

「もう一回幸運はなくてよ?」

ルカがもう一度ホウキを振り上げた。

ヤバい。
たしかにもう一度の幸運はない。
先ほどは周りの木が避雷針になってくれたが、
その木は全部燃えカスになってしまっているのだ。
もう一度唱えられたら・・・・アウト。
頼まれてもいないレントゲン撮影でお陀仏である。

「我、望みしは自ら下した・・・・・」
「待った!!」
「は?」
「待った待ったタイム!!」

アレックスは両手をパーのまま突き出して言った。
正真正銘の"待った"
将棋の時に叫ぶような、
はたまた犬に言い聞かせるような。

「戦闘中に待ったなんて言う人は始めてですわ・・・・
 変な人ですわ・・・・・・・ここにきて命乞いとは・・・ビックリして本当に待ってしまいましたわ」
「いえ、この"待った"は命乞いではありません。忠告です」
「このルカ=ベレッタ様に忠告?頭が高いわね」
「まぁ聞いてください魔女さん。あなたのクロスモノボルトが直撃したら
 僕が持ってるシンボルオブジェクトまで真っ黒焦げになっちゃいますよ?」

アレックスは腰の高級マネーバッグをパンッパンッと叩き、
ニヤりと笑った。

「・・・・・・・・そんな大事なものわざわざ戦場に持ってくるはずがないじゃないの
 今の言葉はわらわに攻撃をさせないようにするためのただのハッタリでしょう?」
「それでも持ってたら?」

魔女ルカの表情は険しくなる。
アレックスの表情も緊迫する。
そしてあくびをたてるロッキーとケティ。

「持ってるはずがないですわ」
「それでも持ってたら?」
「・・・・・・・・ハッタリですわ!」
「もう一度だけ言います。"それでも持ってたら"?
 あなたのような高威力の魔術師だとこういう時困りますね
 オブジェクトは欲しい。でも僕を倒したい。どっちもこなすのは至難です。
 あの辺の木と一緒で攻撃=炭クズなわけですから」
「・・・・・・・・・・」

魔女ルカはGUN'Sの六銃士だけあって強力な魔術師だ。
いや、物凄い。
クロスモノボルトで放たれる9本の落雷は、
その一つ一つが大木を跡形も失くすほどの攻撃力。
一撃必殺。
だからこそ・・・・
アレックスを倒したときオブジェも無事なわけがない。

「わらわに問題を定義するなんて・・・・・愚弄する気か!!」

ルカは怒りで眉間にしわがよる。
ルカの足元のケティは心配そうにルカに擦り寄る。

「ニャァニャァニャニャウ」
「・・・・・・まぁそうねピエトロ」

ニャァニャァ言っているだけにしか聞こえないが・・・・
そのケティの言葉をルカは理解したようだ。

「ロッキー君。あのピエトロってケティはなんて言ってるんですか?」
「ケティって〜あの猫だよね〜?」
「そうです」
「それが〜・・・ぼくにはなんて言ってるか分んないんだぁ〜・・・・」

ロッキー君でも分からない?
モンスターの言葉が分かるはずなのに・・・
普通のケティじゃないんだろうか

「そうねピエトロ。うん。そうですわ」

ルカの決断に
ピエトロというケティは歯を閉めたまま口を大きく開いてニヤけた。
ケティ独特の笑い方だ。
ルカはホウキをアレックスの方に突き出した。

「カクテルナイトさん。やっぱりわらわはあなたを殺すことに決めましたわ」
「え?だから僕はオブジェを持ってるかも・・・・・」
「関係ないですわ」
「関係ない?」
「たしかにわらわはギルドのためにシンボルオブジェクトも欲しいですわ
 さすれば常人には見たことの無いほどの大金や権力といった物が手に入りますものね
 でもそういった権力や大金、そういったものにわらわはさほど興味がないの」

そう言いながらルカはケティを抱きかかえた。
そして頭を撫でる。
ケティはルカの腕の中で気持ち良さそうゴロゴロいっていた。

「人が欲しがる富や名声・権力。そういったものはわらわもう手に入ってますの
 知ってます?ちょっと経済の世界に詳しければわらわの名前にピンっとくるはずなんだけどね」

経済・・・・?
アレックスは頭をひねる。
富を持っているという事は富豪?
魔女の富豪なんて聞いた事・・・・・・あッ。
アレックスは思いついたような顔をした

「思い当たりがあるようね。
 そう、わらわがカレワラWIS(Witch Inter Servis)局を立ち上げましたの
 WIS通信を作ったのはわらわ。今は一線を退いて会長をやってますのよ」

カレワラWIS局。
世界中に分布する世界最大の会社。
いまやWISオーブの普及率は物凄い。
一人一個持っているのが当然という時代。
そんなWIS通信などを主に取り扱ってる会社の会長。
それはつまり実質・・・・・。

「世界一の富豪ってところですわ!」

ルカは自慢げにオホホホホと笑う。
それを後押しするかのようにケティもニャハハと笑っていた。

「実力があるならそれをビジネスに繋げてなんぼですわ!
 そうすればお金や権力なんてものは後からついてくるものですわ!!」

アレックスとロッキーは「オォー」と拍手した。
それ自体は本当に凄い事だからである。
でもロッキーは拍手しながらも意味が分かってなかったらしく、
アレックスがWISオーブを取り出して「コレを作った人」と教えたら
もう一度「オォー!」とパチパチ両手一杯拍手していた。
もう純真からくる拍手だった。

「ま、わらわの凄さは分かったみたいですわね
 まぁつまるところわらわはそこまで権力やお金に興味がないわけですわ
 なにせ有り余ってるますので、オホホホホホ」

ルカは片手を頬に当てて笑う。
まぁたしかに羨ましい話だ。

「だからオブジェに関してはもうどうでもいいですわ
 あなたが持ってなかったとしても、持ってたとしても、黒焦げになったとしても
 ギルドには"持ってませんでしたわ"・・・・・とだけ報告することにしますわ」
「それはまた・・・・ナイスな判断ですね
 世界最大の遺産が炭になって「あら燃えちゃいましたわ」で済ませられるのは
 あなたぐらいのものだと思いますよ・・・・・・・」
「あら、褒め言葉としてとっておきますわ」
「で、オブジェが狙いじゃないのに何故まだ戦わなきゃいけないんですか?」

アレックスの問いに魔女ルカは唇をペロリと舐めた。

「先ほども言いましたでしょう?そこにいるロコ・スタンプちゃん。
 "ソレ"をわらわのコレクションに加えたいんですわ
 有り余るほどお金を持ってるとなんでも手に入るものですわ、
 でも"それでも手に入らないモノ"だけが欲しいんですわ」
「つまり・・・・・・・・珍品コレクターってわけですか」
「わたしは魔女ほどノンビリで欲の無い性格じゃないですわ
 半分人間の血が混じってるからこそ非常に欲張りなの。
 これまでも金という金によりをかけてきましたわ。ねぇ〜ピエトロちゃん」

ルカはピエトロの頭を撫でる。
ピエトロはゴロゴロと頭をかきながらルカの愛情に甘えた。

「とにかく珍しいものならなんでもいいのですわ
 七色に輝く染色剤、呪い巻物を30回唱えたオクタソード
 飲んでも減らないヘルリラに、パンドラの箱
 損傷のないレドギア帽子、80カラットもあるシュガーキューブ
 所持者が死んだのに消えなかった呪いのカミュベルト」

う、これは長そうな自慢話だ・・・・

「珍品だけじゃなくて珍獣だって集めてますわ
 スカイミグルやアーミラムというアスガルドに生息するというモンスターの数々
 洞窟の奥地に生息する黒いブロニン、永久稼動のテュニ。
 戦闘型の凶暴なピンキオに、マナリクシャでできたポンゼキ
 《ハンドレッズ》が百鬼夜行で捕らえたというネクロケスタ
 倒すのに10年かかったという女王エニステミに、緑色のディド」

最後のってただのプロブじゃ・・・・

「それらのコレクションに珍人が混じってもいいと思いませんこと?」

ルカがまたペロリと唇を舐める。

「ロッキー君を捕らえて・・・・コレクションにしたい・・・・よく分かりました」
「え〜!!ぼくコレクションにされちゃうの〜??!!」

理解遅・・・

「ロコ・スタンプちゃんだけじゃなくてそのオーブも欲しいですわ
 生きたフェイスオーブ・・・・・・オリオールちゃん♪わらわは欲張りですの」
「で、コレクションにしたその・・・・生き物達はどうするんです?」
「それはできれば生かして檻にでも入れて飼いたいですわ。
 でもそれでも危険な生物は・・・・・標本ですわね」

当たり前じゃないのといった感じの顔をする。
そして魔女の妖美な笑みがロッキーを見つめる。

「自分の趣味のためだけに生き物を檻に入れて飼ったりや殺して標本にするなんて・・・・」
「そんな子達が部屋にズラァーと並んでますのよ?絶景じゃございませんの?」
「・・・・僕には病院や研究所のホリマリン漬けの部屋しか想像つきません」
「何か問題でもありますの?」
「別に・・・・・趣味は個人の自由です。
 ただあなたの趣味は"悪趣味"だって言いたいんですよ」
「悪趣味・・・・よく言われますわ」
「でしょうね」
「でもなんでわらわの趣味は悪趣味なんて言われるのか分かりませんわ」
「分からないのは・・・・・・・・・・あなたにモラルや正常な精神が無いからです」
「モラルや正常な精神?」

ルカは上目遣いに考える仕草をした。
そして言う。

「それはどこに売ってますの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あなたもうダメだ」














                 






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