「矢(YEAH)ーーーー!ハッハ!武器をしまうにはまだ早いぜぇ?」

声と共に何かが飛んできた。
一つの閃光。
それはドジャーへ向かってくる。

「なんだぁ!?」

ドジャーは咄嗟に側転しながら避ける。
するとその何かは地面に突き刺さった。
地面に突き刺さったのは・・・・
・・・・氷柱・・・・
アイスアローだった。

「お?避けた?避けたかぁー。すっごいねぇ。ルー&ライス兄弟を倒しただけはあるねぇ」

その男は木の上座っていた。
見た目は魔術師。
もちろん《メイジプール》の者だろう。
だが魔術師としては少し異様な格好だった。
その男が右手に持っていたのは・・・・・

大きな弓。

「カッ!避けたもクソもわざわざお前が教えてくれたからだろが。
 何が「ヤーハッハ」だ。黙って攻撃しとけばいいものをよぉ!」
「矢ー!YEAH!矢ー!それもそうだったな。俺ってばお粗末さまでしたってなぁ
 ま、自己紹介といこうか。俺ぁ《メイジプール》の弓使い。キューピーさ・・・・・・・」
「うっせ死ね!」

キューピーが言い終わる間もなく、
ドジャーがダガーを投げた。
一本のダガーは木の上のキューピーへと真っ直ぐ飛ぶ。
真っ直ぐ、矢のように。

「てっめ自己紹介の途中で攻撃するんじゃねぇ!」
「お前の名前に興味ねぇんだよ!」
「だからって俺に辛口兄弟と同じ手が通用すると思ってんのか!!!??」

キューピーは弓を引いた。
矢はない。
だが思いっきり弓を引いた。
そして引ききった所で。
突然弓の上に矢が現れた。
魔法の矢。
ファイヤアローだ。

「SHOTッ!!!」

キューピーが弓でファイヤアローを放つ。
直線の軌道を描き、火の矢が真っ直ぐ飛ぶ。
そしてその矢は、
ドジャーのダガーを空中で打ち落とした。

「チッ、」
「いや〜・・・。せっかちだねぇあんた。自己紹介ちゃんと終わってねぇだろ」
「あ〜分かった分かった。聞いてやるから話せや」
「OKOK。俺はキューピー。《メイジプール》のオフィサーのキューピーだ。
 世間では『ショット・ショート・アーチャー』って呼ばれ・・・・」
「死ねっ!!!!」

またドジャーはキューピーが話している途中でダガーを投げつけた。

「・・・・・・・・・矢〜・・・・まいった・・・・。どれだけ学習能力のない奴だ・・・・・」

キューピーはまた弓をひく。
そして乾いた弦の音と共に矢が放たれた。
放たれたのは氷の矢。
ツララのようなアイスアロー。
堅き氷の矢が、またもやドジャーのダガーを打ち落とした。

「・・・チッ」
「"チッ"じゃねぇぞ盗賊!人の話を最後まで聞こうって気はねぇのか!?」
「うっせ!お前らドンドン出てきてよぉ!覚えきれねぇんだよ!!!!」
「だから紹介してやってんだろ!いいか?覚え切れないならもっかい言っとく
 俺はキューピー!『ショット・ショート・アーチャー』のキューピーだ!
 ショートってのは短いじゃなくて遊撃手って意味だ。そしてシュートとかけ・・・・」

またドジャーが会話中にダガーを投げようとした。
が、その動作中にすでにキューピーも弓を構えていた。
いつでも撃てるぞという構えだ。
つまりダガーを投げても投げても打ち落としてやるという構え。

「カッ、めんどくせぇ奴だ」

ドジャーは投げても無駄だと思い、投げるのをやめた。
また先ほどまでのように矢で打ち落とされる。

「いい判断だ盗賊。気付いただろう。俺達はお互い飛び道具で戦う中・遠距離型だ。
 似てるなぁ。いや、一目見た時から思った。俺達似てるぜ?」
「似てねぇよ。少なくとも・・・・・」

ドジャーはダガーを上に一回放り投げ、
それをキャッチし、
顔をキメてから言う。

「俺のがハンサムだ。違うか?」
「矢〜(YEAH)!矢〜(YEAH)!その自信家な所も似てるぜ。ま、俺も自分で言うなって感じだけどな
 ・・・・・・・・・だがな、同じ飛び道具系の戦闘術でも、俺とお前には決定的に違う事がある」
「顔だろ?」
「違うってんだ!戦闘面の話っつってんだろ!話を聞かねぇ盗賊だな・・・・・・
 ま、つまるところお前のダガーは有限だが、俺の矢は魔力がある限り無限だってことだ」

魔力による無限の矢。
しかも通常の矢より攻撃力は高いだろう。
マイソシアでポピュラーな矢状のスペルは
ファイヤアロー。
アイスアロー。
ウインドアローの三つ。
どれも三つ三色で特性の違う矢。
やっかいである。

ドジャーは左手でポリポリと頭をかきながら、
右手ではダガーをクルクルと回していた。

「カッ、ほんとめんどくさい敵と会っちまったな。
 威力に頼った隙のあるスペル使うなら逆にこっちにゃ好都合だったのによ」
「このキューピー様の実力分かったみたいだな・・・・・・・・・ドジャーさんよ」

キューピーはニカりと笑う。

「・・・・・・・・なんで俺の名を知ってやがる。ストーカーか?」
「ま、違うとも言い切れないな」
「うぇ!キモっ」

ドジャーは体を抱える。

「・・・・聞けって・・・話をよ。ま、盗み聞いてたのさ。最初からな
 そう。あんたらが変なハンマーでテレポートする前からな」

ドジャーは手元で遊んでいたダガーの回転を止めた。
そしてキューピーを睨んで聞いた。

「なんでその時攻撃してこなかったんだ?絶好のチャンスだったろうに」
「したさ。『ロコ・スタンプ』と変なドレッドだけが残った時を見計らってな」
「ロッキーとメッツか」
「俺の渾身のアイスアロー。決まった!・・・・と思ったね
 あのおかしなモップ頭にモップの串を作ってやったぜ!ってな」

キューピーはニヤけながら弓を放つマネをする。
が、その後、真面目な顔に変わり、話を続ける。

「だが逆だった。寒気がしたぜ。あのドレッド野郎・・・俺のアイスアローを避けやがった。
 後ろから撃ったのにだぜ?いきなり避けやがった。ありえねぇ。ほんと寒気がした。
 そしてあのドレッドを倒すのは無理だと思ったね。
 当然だろ?後ろから撃って当たらないのにどうやったら俺の矢が当たるんだ?
 それにその後40人がかりで火星まで吹っ飛ぶ特大魔法を打ち込んでやったのによぉ
 あのイカれたドレッド野郎・・・・・・咄嗟に地面に逃げ込みやがった。
 どちらの時も体が無意識に反応したって感じだった。ありゃ無理だ。無理無理」

キューピーは両手を広げて「反則だぜアリャァ」と言った。
ドジャーは笑った。いや大笑いだ。

「カカカッ!さすがメッツだぜ!んで?んでオメェは逃げてきたのか?
 ダッセェなオメェ!ほんとダセェ!逃げてきた上、俺にはカッコつけてよぉ!カカカッ!」

腹を抱えて笑うドジャー。
腹のソコからの大笑いと言った感じだ。
だがその笑いを突如和らげ、
今度は自信を浮かべた笑みでキューピーを見る。

「・・・・・ま、だが。俺にだってその矢は当たらねぇと思うぜ?」

そして右手で撃ってこいよと誘った。

「矢(YEAH)〜!面白ぇ!お前は本当に俺に似てる気がする!愛着沸くぜ!」
「沸かなくていいっての。ストーカーにそう言われるとブルっとくるぜ・・・・」
「そっから離れやがれ!遠くから見る事と撃つことが俺の仕事なんだっての!!
 でもま、俺は一目見て本当に思ったぜ。お前は本当に俺に似てる気がする!
 そしてもう一つ思ったんだ。あのドレッドはゴメンだが・・・・お前には勝てるってな」
「カッ!勝手に言ってやがれ!」
「あぁ言ってるぜ!そして御託はお終いだ!
 そしてお前が負ける理由はこのキューピー様が戦いで教えてやる!」

キューピーが木の上から降りてきた。
そして着地した後。
弓を引きながら言う。

「テメェのハート(心臓)を射抜いてやるぜ♪」

放たれたファイヤアロー。
だがまだこの中距離。
一般人ならともかくドジャーは避けるくらいわけない。

「ケッ!当てて見やがれ!俺の心臓はここだ!」

ドジャーは左胸を親指で刺しながら言った。

そしてドジャーは走り出す。
キューピーの方へではない。
平行方向へ。
的(まと)を絞らせない気だ。

「俺からはごちそうをくれてやらぁ!!」

走りながらドジャーはダガーを投げる。
だが当たらない。
キューピーも走っている。
ドジャーと平行線上。
盗賊と魔術師が並んで走る。

もちろんドジャーほど速くない。
だが、魔術師とは思えない速度で走りながら、
キューピーは弓で矢を放ってくる。

「SHOTっ!SHOTっ!SHOTっ!!!」
「死ね!おかわりだぜ!!!」

スオミの森にひかれる二本の直線(ライン)
平行して走るドジャーとキューピー。
そしてお互いが放つダガーと矢。
避け、
外れ、
打ち落とされの攻防一線。

「矢(YEAH)〜!ハッハ!やっぱ俺達似てるぜ兄弟!」
「何が兄弟だクソっ!勝手に兄弟にすんじゃねぇ!似てるのは戦闘方法だけだろっ!」
「でも似てるだろ?」
「カッ!!じゃぁ俺にしかない技を見せてやるぜ!」

平行線上を走り続けるドジャー。
そのドジャーは片手に・・・・
何も持ってない。
だが振りかぶる。

「隠し味だぜ!!!」

投げたのはインビジダガー。
見えないダガー。
だが確実にキューピーへと・・・・

「あれ?」

当たらなかった。
外したのか?とドジャーは不安になった。
まぁなんと言っても自分でもインビジダガーは見えないのだから。
無責任な技である。

「やっぱ似てるぜ。・・・・ドジャーさんよぉ!」
「あん?」
「"同じ技"だ。打ち落としてやったよ。俺のウインドアローで」

ウインドアロー。
風の矢。
以前アンジェロと戦った時にもやられた技。
風ゆえに見えない矢。
インビジダガーと特性は一緒だ。

「チッ・・・・」
「矢(YEAH)〜矢(YEAH)〜!!!舌打ちが多いぜ兄弟!同じ技はショックか?」
「クッソ!マネばっかしやがって!」
「マネじゃねぇって。似てるんだ・・・・・俺達よぉ」
「似てねぇって・・・・言ってるだろが!!」
「いや、似てる。戦い方だけ見ても人間的に俺とお前が似てるってわかるぜ?
 いろいろ当ててやろうか?・・・・・・・・・・・・・まずお前は努力が嫌いだ」
「・・・・・・・」

図星。
当たっていた。
ドジャーは努力嫌い。
というより面倒な事が大っ嫌いだ。

「俺はよぉ、初級(アロー系)魔術しか使えねぇんだよ。修行とかしてこなかったからな
 正直勉強、修行ってのは大っ嫌いなんだよな。お前もそうだろ?でも強くはなりてぇよな」
「・・・・わがままな野郎だな」
「だからお前もだろ?で、似てるってのは最初から"才能"の話だ
 そう、鍛錬が嫌いな俺達が人一倍な理由は・・・・・・"才能と工夫"だ」

工夫。
キューピーの弓。
普通魔術師がアロー系のスペルを放つ時、弓なんて必要ない。
だがキューピーは弓を使っている。
なぜか?
まずその方が矢速、威力が増す。
そして命中率も。
さらに言えば、放つ分のMPのコストダウンにも繋がる。

「一つ教えてやるぜドジャーさんよぉ。 
 鍛錬もしずに才能だけで戦ってる俺らみたいな奴らの話だ」
「人を怠け者みたいに言うなっての!」
「いいから聞けって!話は最後まで聞けって何回言ったぁ?俺よぉ?
 ったく。ま、ともかく今日みたいに俺らみたいな奴同士が"カチ合った"場合。
 才能VS才能・・・・・されは結局"才能の強い奴が勝つ"。簡単は方程式だろ?」
「カッ!難しく言いやがって!結局お前が言ってるのは"強い奴が勝つ"ってことじゃねぇか!」
「惜しい!一番大事なところが分かってないな!」

キューピーが弓を引く。
弓の上には・・・弓が二本。
ファイヤアローとアイスアロー。
炎と氷の矢のダブルセット。
二本同時に放つ気だ。

「お前はたった今、より才能の勝る者に負ける・・・・・・・つまり俺に負けるってことだ!!!!!」

赤と白の二つの矢。
キューピーの「SHOTっ!」っとという言葉とともに。
その二つがドジャーへ飛ぶ。
複合技。
才能と工夫によってなせる技。
二つの才能がドジャーへと飛ぶ。

「俺のが強ぇに決まってんだろが!!!」

ドジャーは進行方向を変える。
その方向は矢の方向。
飛んでくる矢を避けるのでなく・・・・・・むしろ突っ込む。

「避ける気か!?だが無駄だぜ!SHOTっ!」

キューピーの弓にはまた矢が二本。
そして放たれる。
いや、それで終わらない。
連射。
ドンドン放たれる。

だがドジャーは真っ直ぐ突っ込む。

「ヨッっと!」

最初の二つの矢。
ドジャーはそれを走りながら高速前転でくぐる。

「止まって見えるぜ!」

次の二つの矢。
体をひねりながら、その二つの矢の隙間にもぐりこんで避けた。

「カッ!まだ余裕!」

そしてその次の二つの矢。
ムーンサルトで飛び越え、ついで二つの矢を踏みつける。

「ラストだな」

そして最後の二つの矢。
片方のファイヤアローは首だけ傾けて避け、
もう一本のアイスアローは空中で・・・・掴んだ。
アイスアローはドジャーの手の中に捕えられた。

「どうだキューピー。これが俺の才能だ!速い!上手い!カッコイイってな!」

ドジャーはアイスアローを握りつぶし、
そのまま一直線にキューピーの方へ突っ込む。
最高速。
一般人には目にも留まらぬ速さ。
一瞬でドジャーはキューピーの懐まで間合いを詰めた。

「ハヤっ!」
「あぁ!そして近いぜキューピー!!これがお前の・・・・いや、弓の弱点だ!
 弓はダガーと違って放つ動作が長い!そして"灯台下は御免なさい"って武器だ!
 懐までもぐりこんでしまえば放てないし隙だらけってなぁ!じゃぁな!死んじまえ!」

ドジャーのダガーが振られる。
狙いはキューピーの横腹。
そして・・・・・・・・

刺さった。

血が流れる。
見事に横腹に差し込まれた。

・・・・・・・ドジャーの横腹に。

「・・・・・・・・・んだと?」

ドジャーの横腹に刺さっているのは・・・・アイスアロー。
その氷柱にはドジャーの血が流れ、落ちていっていた。

「矢ぁ(YEAH)!愚かだぜドジャーさんよぉ!」

キューピーがドジャーを蹴飛ばす。
吹っ飛ぶドジャー。
ドジャーは吹っ飛んだ先でなんとか回転しながら着地した。
だが吹っ飛んだ距離分、ドジャーの血が垂れていた。

横腹のアイスアローを抜き、
握りつぶす。

「どこから・・・・・矢が・・・・・・・」
「どこから?アイスアローを撃っただけだぜ?お前は勘違いしてた。それだけだ。
 俺はわざわざ弓じゃなくても普通にアイスアローを放てるんだ。
 だがこれが結果だな。俺の方が少し"才能が上回ってた"って事だな」

キューピーがドジャーに向けて弓を構える。

弓の上に矢は二本・・・・・・いや三本。
燃え盛るファイヤアロー。
冷たく、堅いアイスアロー。
そして見えにくいが空気が渦巻いてる・・・・ウインドアローだ。

「俺の才能でトドメを指してやる。特別サービス三本セット。
 熱くて寒くて気持ちいい!こんな気持ちになれるのはラッキーだぜ?
 波長の違う三種類の矢を同時に出せるのはこのキューピー様くらいなもんだ。
 才能ってやつさ。もう一度言う。"才能"だ。俺の最大の才能にひれ伏しちまいな!」
「・・・・・じゃぁ"才能の数"で決めるか?どちらが上か」

ドジャーは腰から右手に四本のダガーを取り出した。

「数?矢(YEAH)〜ハッハ!何が数だ。4本で何が出来るってんだよ!
 この矢は俺の全力だ!さっきまでと攻撃力が違うぜ!
 4本のダガーを弾きながらお前のハート(心臓)にズキューンってな!」

キューピーがそう言った後、
ドジャーは左手にも4本のダガーを取り出した。
両手に4本づつのダガー・・・・・。

「・・・・・・・・チッ、8本でも足りねぇよ!聞いてなかったのか!この三本の矢は俺の才能の塊だ!」
「じゃぁもっとおかわりが必要だな」

ドジャーが手首で腰の何かを外す。
ガーターか何かか。
その瞬間。
ドスドスドスッと地面に何かが落ちた。
いや刺さった。
足元にたくさんの何か落ちて刺さった。

ドジャーの足元に生えているそれ。
まるで草が生えているような数。
どこにそんなにもしまっていたのかを聞きたい。
それは・・・・・・・数十本のダガー。

「テ、テメェ・・・・何本ダガー持ち歩いてんだ・・・・」
「才能ってのはプラス要素。つまり強さは足し算だ。キューピー・・・。お前さっき言ったよな?
 俺達みたいな奴らが強くなるには"才能と工夫"だってよ?
 やっぱそうだよな。工夫だ。こんな細ッちょろいダガー1本1本は・・・・たいしたもんじゃねぇ」

ドジャーは地面に刺さっているダガーの一本を足で蹴上げる。
その一本のダガーはヒュンヒュンと空中に回転しながら飛び上がり、
そして・・・・・
ドジャーの指の隙間に見事にスポンとハマった。

「だが・・・これだけの数のダガーを受けたらどうなるだろうな。カカカッ!
 もう一度言ってやるよ。強さ・・・・いや、お前流に言うと"才能は足し算"だ」

ドジャーは足元のダガー拾っていく。

そして・・・・ひとつの指の間に4本。
片手に16本。
両手で・・・・・32本。

「さぁ、勉強の時間だぜキューピー。
 (俺の才能)-(お前の才能)=実力差。これはあの世でテストに出るぜ?」
「ク、クソ・・・・・」
「勉強嫌いか?キューピー。そうだよな。そう言ってたもんな。
 それに考えれば考えるほど分かっちまう。俺の才能の方が上手だってよ!」
「俺の・・・が・・・・・才能は上回ってたはずだ!!」
「カッ!御託はもういらねぇ」

ドジャーは両手を後ろに振りかぶる。
ダガーを発射するための溜めだ。
弾数は32発。
発射準備は完了した。

「さぁ、ディナータイムだ!!!!!」

ドジャーの両手が振り切られた。
そして放たれる32本の閃光。
32発同時発射のショットガン。
空気にx32の切り目を入れながらダガーが飛ぶ!

「クソったれ!SHIT!SHIT!SHOTっ!!!!!」

火と氷と風。
三本の矢をキューピーが放つ。
全魔力が込められたその三本の矢は、
想像以上に、そしてキューピーの言葉以上の威力。
ダガーを弾き落としながら進む。
3本で20本ほどのダガーを落としただろうか。
だがドジャーのダガーは32本。
つまるところドジャーの"才能"が・・・上回った。

「うわぁあああ!!」

キューピーに刺さる10本ちょいのダガー。
まるで風がキューピーに刺さったかのようだった。
キューピーは咄嗟に頭と心臓はガードしていたが、それも無駄。
体中にダガーが刺さる。
まるでバースデーケーキのロウソクのように。
そう。
致命傷というには申し分のないダメージがキューピーへと突き刺さった。

噴出する血。
だが、キューピーは倒れず、
体中にダガーが刺さった上体で立ち続けた。
だが、もう戦える体ではなかった。

「矢〜(YEAH)・・・・見事だ兄弟・・・このダガーの数はお前の才能が俺を上回った数だ・・・・・
 ありがたくあの世まで頂戴していくとするよ・・・・・・・・・」
「カッ、欲張りな奴だ」
「盗賊に・・・・そんな冗談言われたくないね・・・・・・・」

キューピーは口から垂れる血にかまわず、口を笑みで緩ませた。
だが、片膝がカクンと落ちる。

「ク・・・・ドジャーさんよぉ・・・・・最後にもっかい言うぜ・・・・
 あんたは俺に似てる・・・・・だから忠告だけしとく・・・・冥土の土産の逆ってやつだな・・・・・・」
「ほぉ、俺は病気以外はなんでも貰うタチなんだが、あんまりありがたくねぇな」
「まぁ・・・・聞いとけって兄弟・・・・」

血浸しの状態でキューピーは話を続ける。

「さっきも言ったが・・・・・俺達みたいな才能だけで生きてる奴はよぉ・・・・」
「またその話か。カッ!聞き飽きたぜ」
「だから・・・・・・・聞けって・・・・最後まで話の聞かない奴だ。
 とにかく俺達才能派ってやつは・・・・・・・つまるところどこまでいっても"秀でた才能を持った凡人"だ
 毎日剣を振って修行・努力が口癖の・・・・・・・"積み重ねてきた人間"とも違う・・・・・・・・
 お前の仲間のドレッドのやつみたいに・・・・・・・・・・"人間を超越した人間"とは違う・・・・・・
 今日の俺みたいに・・・・・・・・いつか"才能の上回った奴"と出会って・・・・負ける。それだけだ・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・言い切りやがるな」
「思い知らされたことがあんだよ・・・・・・・・・GUN'Sの・・・・エンツォ=バレットってやつだ・・・・・・・・
 俺らみたいなタイプの中では・・・・おそらく一番だろうよ・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・・・言いたいことは・・・・・・・・・・・そいつに負けんなよってことだ・・・・・・・・」
「俺に対して負けるなだと?カッ、偉そうな事言うんじゃねぇよ」

キューピーはドジャーの言葉にフッと笑って倒れた。
体中にダガーが突き刺さったまま、地面に仰向けになる。

「やっぱ似てる・・・・・・・・まぁ・・・・その話はもういいか・・・・・・・・そろそろ時間だ・・・・・・・
 アスガルド(天国)に先に行ってるぜ・・・・・・・・・」

キューピーは最後の力で弓を引く。
そして、天に向かってファイヤアローを撃ち放った。
ファイヤアローは天高く、上へ上と飛んでいった。

「ヤ〜・・・・・ハァー・・・・・・・俺の才能は天(アスガルド)をも射抜くぜ・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・・んじゃぁな・・・・・・・・・兄弟・・・・・・・・・・」

キューピーはそこで事切れた。

不等号のみで表される才能の強弱。
今回キューピーはドジャーより才能がなかった。
死んだ理由はそれだけの理由だった。

ドジャーは足元のダガーを拾う

「変な奴だ。初めて会ったってのに似てるだのなんだのってよ。
 しかも死ぬ前に敵におせっかいか・・・・・・・・・・ほんと変な奴だ」

戦いで使ったダガーを拾い集める。
そして大概集まった。
あとは・・・・キューピーに刺さったダガーだけ。
抜こうとした。
が、手が止まった。

「だけどよぉ、その変なとこ。たしかに俺の悪いクセに似てたぜ。最後にそれだけ認めてやる」

ドジャーはキューピーに刺さったダガーを抜かなかった。

「そのダガーはさっきの言葉通り天国まで持ってくがいいさ。
 俺からの冥土の土産だ。じゃぁな・・・・・・・・・・・"兄弟"」


もっと違う形で出会っていたなら、

何か違う関係になれたかもしれない

だがドジャーはそんな事を考えても無駄なので、
そう考えるのをやめた。

こういう世界だ。
そして自分がしていることはそういうことだ。

いまさらだ。

必要なのは結果だけ。


「・・・・・・・・・本当に世知辛ぇなぁ」

ドジャーは天を見上げる。

キューピーが最後に矢を撃ち放った天をだ。


まだ雨は降り始めなかった。



















                 






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