「あ〜あ!水浴びの次は崖登りってかぁ!?俺は何しに来たんだっけかぁ?!あぁん!!?
 カッ!!誰か俺の納得する答えを言ってみろやクソッタレ!!!!」

一人でキレているドジャー。
逆ギレともいえないこの怒り。
とりあえず叫ぶしかなかった。

ドジャーは絶壁を登る。
スオミの森の名物ニミュ湖。
だがこの綺麗な湖で水浴びをするものはいない。
何故か。
スオミの森に行った事がある人なら理由は述べずとも分かる。
ニミュ湖はスオミの森から遥か崖の下になるからだ。
つまり、一辺湖に落ちたら遥かなる90度の絶壁を登らないといけない。

「クソ!クソ!あとちょぃだ!」

ドジャーは絶壁の岩を掴み、
崖に隙間があればダガーを突っ込み。
少しづつ少しづつ、
地道に地道に登っていた。

ハッキリ言ってこれはドジャーにとって耐えられない。
もちろん崖を登るほどの力がないという意味ではない。
ドジャーが一番嫌いなもの。
それは努力と無駄な苦労。そしてヌルいビール。
そして今まさにその無駄な苦労をしている時である。

「だぁー!よっしゃぁ!」

崖の頂上へと到着した。
といっても山を登りきったような達成感はない。
何故なら結果的にスオミの森の普通の地面に到達しただけだからだ。
ま、ともかくドジャーはニミュ湖からスオミの森まで戻ってくる事ができた。

両足を投げ出して地面に座り込むドジャー。
もう何もやる気力がない。
もう無気力。
無駄な過程だけを越えたなんともいえない満足感の無さ。
それだけがドジャーを攻める。

だが、気付くと二人の魔術師がドジャーの前に立っていた。

「おいライス。こいつカプリコじゃないが殺っとくべきか?」
「う〜ん。殺しとくべきかもね〜ルー兄ちゃん。きっと甘ちゃんだよ」

どう見ても《メイジプール》だと思われる二人組み。
顔が似てる気がするが兄弟なのだろう。
まぁどうでもいい。
とにかく分かることは、なんか知らんがいきなり殺害予告されたという事である。

「よぉ、誰だか知らんが甘ちゃん盗賊よ。俺達の事を知りたいか?知りたいだろう?」

「・・・・・・・別に知ったこっちゃねぇな」

「まぁ聞けよ。俺らはルーとライス。
 『華麗なる辛口兄弟』と呼ばれている炎系エリート魔術師だ。そして俺は兄のルー!」
「僕は弟のライス!」
「二人揃って!」
「『華麗なる・・・・ゲフッ!」

弟の方、ライスが突然の吐血。
吐血の理由は・・・そう。
ドジャーのダガーが腹に刺さったからだ。

「ライス!ライス!!」
「痛い・・・お腹が痛いよルー兄ちゃん・・・・・」
「てめっ!盗賊!自己紹介中に攻撃すんじゃねぇ!!」

「わ、悪ぃ・・・・いや、二回も自己紹介しようとするからツッコミ代わりに投げちまった・・・」

そこまでしゃべってドジャーはハッっと思い立った。
いや、謝るのもおかしくないか?・・・・と。
まるでヒーロー物の悪役が「変身中に攻撃してすいません」と謝ってるような状況。
普通に考えたら別に敵同士。
これから殺し合いをするもの同士。
別に攻撃するのが普通なのだ。

「なんか勢いで謝っちまったじゃねぇか!」

「ライス!ライスゥウウウウウ!!!!死ぬな!死ぬなぁぁあああ!」
「うるせぇ叫ぶな!」
「これが叫ばずにいられるか!弟が死にそうなんだぞ!なんて酷いやつだ!
 俺達は二人で『華麗なる辛口兄弟』って呼ばれてるんだ!
 このルー様ひとりじゃぁ『華麗なる辛口の兄』になっちまうじゃねぇか!」
「カッ!知るか!まずそんな変なあだ名も聞いたことねぇんだよ!
 それに殺そうとしやがったんだから殺されても文句言える立場じゃないだろが!!」
「文句言うわ!一人じゃ兄弟じゃなくなっちまうって言ってるんだこの盗賊野郎!
 俺達ルーとライスが揃って初めて"華麗"になれるんだこの甘ちゃんが!!」
「・・・・・・誰が甘ちゃんだって?」
「お前だお前!俺みたいな辛口な男の前ではお前なんて甘口だ!」

ドジャーがピキっときた。
わけの分からん悪口だがピキっときた。
ちと先ほどまでのストレスもあっての事かもしれない。

「カッ!悪いけどストレスを発散させてもらうぜ。
 俺ぁ今さっきよぉ。泳がなくていい湖を泳ぎ、
 登らなくていい崖を登ってお疲れ&お怒りモードなんだ。
 その上アホが二人絡んできて「殺す」とか言ってきやがった。
 さらにこっちが攻撃したら逆ギレして俺に「甘ちゃん」とかほざきやがった。
 もう我慢ならねぇ。そしてもう御託はイラネェ。
 結局殺し合いをするんだろ?さっさと始めるぞルー兄ちゃんさんよぉ」

ドジャーは腰のダガーを両手に一本づつ手に取る。
そしてクルクル回した後、親指でピタりと止めた。

「そうだな。弟の仇だ。刺激(スパイス)を与えてやるよ甘ちゃん!」

ルーという魔術師が両手を広げる。
何か魔法を発動する気だ。

「いくぞ甘ちゃん!いきなり"8辛"でいくぜ!」

そうルーが言った瞬間。
ルーの周りに8個の火球が浮かび上がった。
火球。
つまりファイアボール。
その火球x8が円を描くようにルーを取り巻く。
ファイアボールを一気にぶつけてくる気だ。
つまり・・・・ファイアビットというスペルだ。

「食らいやがれ甘ちゃん!!!刺激タップリの熱々激辛スペルだ!!ヒーヒー言わせてやるぜ!!!」

・・・・・ルーはそう言った。
が、
ドジャーをヒーヒー言わす事は出来なかった。
ファイアビットを放つより先。
すでにドジャーが間合いを詰めていた。

「・・・・・アレ?」

ルーは信じられないといった様子。
だがルーの腹に刺さっているダガー。
それだけが結果だった。
浮かんでいた火球がフッと消える。
そしてルー自身も両手を広げたままドサっと倒れた。

「ウッソ・・・・この華麗なるルー様が・・・・激辛なルー様が・・・・・
 こんな甘ちゃんに・・・・・こんな甘っちょろくやられるなんて・・・・・・」

血を口から垂らしながら
力なく寝そべったまま、
ルーはまだ信じられないと言った様子だった。

そんなルーに向けてドジャーがダガーを向けて言った。

「オメェが負けた事自体はそんなたいした問題じゃねぇさ。
 このドジャー様が相手だったんだ。負けって結果は揺るがねぇ
 カッ!だからお前が甘ちゃんだったってわけじゃねぇんだ
 お前ら二人が強いってのは会ってすぐ分かった。正直二人がかりでこられたらヤベぇって思ったね
 だから弟の方は即効で"ヤらせて"もらった。認めたからこそ・・・な。
 戦いがこんなアッサリ終わった理由はソレ。俺とタイマンにしちまったって事さ」
「・・・・・チッ・・・・・・・・・・・」

ルーは舌打ちした後、ゴボっと大きく血をこぼした。

「辛口な俺が・・・・死ぬのか・・・・」
「ただ運が悪かったんだよお前らは。こんな俺と会っちまった・・・・って意味でな」
「あぁ・・・・・そうか・・・・・・・・まったく・・・・・・世の中世知辛ぇな・・・・・・・・・」

そう言った後。
ルーは息を引き取った。

ドジャーが目線を変えると。
同じくライスもすでに息絶えていた。

偶然出会った。
それだけでおこった殺し合い。
出会わなかったら・・・
この二人は死ななかったのだろうか。
いや、戦場では殺す・・・という事を目的で人が募っているのだ。
そんな事を考えるのも戦場ではお門違いだろう。
それにドジャーは今更殺しで罪悪感を覚える男ではない。
昔が殺し、奪い、殺し・・・・で生きてきたのだ。
だが・・・・・

「たしかに・・・・世知辛ぇよな」

ドジャーは一言そう言葉をこぼした。
そして舌打ちした後。
ダガーを腰にしまった。
















                 






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