白衣の袖に腕を通す仕事が始まって
まぁそこそこの月日が流れた
医者業ももう慣れたものだ

だが慣れないことがまだ一つあった
自分が医者をやっているという事自体だ

気付いていた
自分は人のために何かをする事に生きがいを感じる人間じゃない
もうこれだけはどうしようもない
患者を診ても
心から治してあげたいと思えない
あくまで仕事
金のため
患者達を患者として見れない
ただ"客"としか

それでも医者を続けている理由
やはり金がいいからだ
今までの数倍の金が
毎月安定して入ってくる
この魅力は変えがたいものだった
ただそれだけだった
じゃなきゃ皆死ねばいいのにと思う

こんな考えの自分を嫌いではない
別に好きでもないが変えようとも思わなかった
この闇で濁った心を持っているのが自分なのだから

だがそんな自分と逆の人間を知っていた
ヴァレンタイン院長だ
彼にだけは人生で初めて一目を置いた

全ての人間に平等で
いつも多くの人間を助けようと生きている

彼の研究の成果によって
助からなかった命が助かるというケース
その数はゆうに千を超えているだろう

彼はこの腐った世の中に舞い降りたたった一人の聖者にも思えた
自分のような暗く濁った心を持つ人間も居る中で
彼だけは輝いていた
彼を目指そうとは思わないが
彼のような人間は世に必要なのだろうと
心の底で思っていた

「Dr.レイズ。命の価値についてどう思う?」
「・・・・・・・・・・・皆平等・・・・と言わせたいんですか・・・・・・」
「そうさ。そしてより多くの人間が助かるというなら僕は何でもするよ」
「・・・・・・・・俺は・・・・・・・そんな考えは持てません・・・・・・・・・・」
「そうか・・・・残念だ。でもきっといつか僕の考えが分かってくれる日が来ると思う
 僕は一つでも多くの命を助けたい。だって命は全ての人間に平等だからね」

その日もヴァレンタイン院長は優しく笑っていた




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「ひひ・・・・危ない危ない・・・・」

ヴァレンタインは怪しく笑う
ドジャーが投げたダガー
小さな部屋で投げられたそのダガーだが
ヴァレンタインに命中する事はなかった。
ドジャーにとっては珍しくコントロールミス
ダガーは壁に突き刺さったのだった

だがヴァレンタインにアレックスの槍が迫っていった

「おっとぉ」

ヴァレンタインは小声で詠唱を始めた
そして最後に十字を切ると同時に
魔方陣が現れ、
ヴァレンタインが光に包まれる。
そしてヴァレンタインの姿が病室から消え去った

「なんだ!?」
「セルフゲート・・・・いやテレポートランダムでしょうか」
「・・・・・・・・・逃げた?・・・・・・・・・」
「・・・・・でしょうね」

ドジャーは突然壁に倒れ掛かった

「・・・・・ありゃ」
「昨日も言ったでしょうドジャーさん。血が出すぎたんですよ。ツィンさんと戦った時に」
「は?おめぇがヒールしてくれたじゃねぇか」
「ヒールはあくまで治療。元に戻すものではありません
 傷は塞ぎます。ですが失った血が戻ってくるわけじゃないです
 だから医者に行けって言ったのに・・・・・。そのせいでさっきもダガー外したり・・・・・
 あぁだらしない恥ずかしい情けないかっこ悪い」
「う、うるせぇ!  ・・・・・ん?」

病室の扉に一人の男が立っていた。
いや、立ちすくんでいたというべきか
それはよく知っている暑苦しい剣士
《騎士の心道場》の門下生リヨンだった

「し、しはぁぁあああああん!ぁああああ!しはぁぁああん!」

リヨンは叫びながら横たわるディアンへ飛びついていった
泣きついている
大粒の涙をこぼし
ただただ師範師範と叫んでいた
尊敬する師範が息を引き取ったのだ
当然だろう

「今朝はぁあああ!今朝はまだ元気だったのにいいいいいいいい!」

今朝はまだ元気だった?
なのに今は集中治療室
容態が悪化したのか?

「・・・・・・・・どけ・・・・・・・」

レイズは泣きじゃくるリヨンをディアンから弾きどかした
涙まみれの顔のリヨンが床に尻餅をついたと思った矢先
レイズがディアンに何かしはじめた
魔方陣が浮き出ている。
そして光が上へと伸びていた。
アレックスには分かる
自分も聖職者であり、
そしてやろうとしていた事であるから。
それはリバースだった

「・・・・・・・・・アレックスの言うとおり・・・・・・・・失ったものは元に戻せない・・・・・・
 ・・・・・・血だけじゃなく・・・・例えば腕が無くなったとして・・・・・・それを生やす事はできない・・・・
 ・・・・・・・だが逆に損傷がなければ・・・・・取り返しのきく早い時間なら・・・・・・・・・
 ・・・・・・・魂を呼び戻して・・・・・・・・・・まだ生き返れる・・・・・・・・・・・・」

だが容態に変動は無かった

「・・・・・・・・なんでだ・・・・・・・・・・・」

レイズは手を聴診器代わりにしたり
ディアンの体をいろいろ検査を始めた

「・・・・・・・内蔵のあっちこっちが・・・・・・・・持ってかれてる・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・これじゃぁ・・・・・・・・生き返る事はできない・・・・・・・・・」
「どういうこった。昨日のメッツからのダメージか?」
「メッツさんの攻撃で内臓が無くなるはずはありません」
「・・・・・・・・さっきまで・・・・・・・心電図が動いてたのも奇跡だな・・・・・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・機材で無理矢理・・・・・・・・・・・・植物状態にされていただけだ・・・・・・・・・」

普通に考えれば
犯人はヴァレンタインしかいない
理由は分からないが
まぁ反吐が出そうなものだろう
だがレイズはその言葉を出さなかった
ヴァレンタインを疑う事自体まだ信じられないといった状況なのだろう

その時だった
院内のスピーカーから声が聞こえた

[あーあー。ヴァレンタインだ]

「ヴァレンタインの野郎か」
「放送室に行ったんですね」
「こぃつがああああ!こいつが師範をぉおおおおおお!!!!
 悪はぁああああ!悪は許さぁああああああああああああああん!!!!!
 自分のぉおお!自分の剣でぇえええええ!叩き斬ってやるぅうううああああ!」

リヨンは血相を変えて病室から出て行った
放送室に向かったのだろう
そんな事に関係なくヴァレンタインの放送は続く

[院内の《GUN'S Revolver》の諸君に告ぐ。数人には話したが昨日オブジェの所持者が見つかった
 六銃士(リヴォルバーナンバーズ)には明日報告するつもりだったが予定が変わった。
 いろいろ準備したかったんだがな・・・・・・
 オブジェ所持者は今院内にいる。お医者さんごっこは今を持って終了だ
 各々の武器を持ち討伐を開始して欲しい。標的は4人。
 ピアスの盗賊。お人よし顔の騎士。ドレッドヘアーの戦士。そして・・・・・・Dr.レイズだ]

「カッ!《MD》狩りか」
「院内の全員がGUNSのメンバーじゃないでしょうが
 以前のリコス君の件を考えるとかなりの数でしょうね」
「・・・・・・・・院長・・・・・・・・」
「とにかく僕もヴァレンタインの元へ向かいます。ですがドジャーさんはここに居てください」
「あ?俺がお利口に留守番ができる頭のいい子に見えるか?」
「貧血人間は"足手まとい"なんですよ。ドジャーさんの心配までしてる余裕はありません
 ダガーは当たらない。貧血でうまく動けない。そんなドジャーさんの採用窓口はないですね」
「・・・・チッ」
「・・・・・・・・・・・アレックス・・・・・・・・・・・俺も行く・・・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・院長に会って・・・・・・・・・・・・・・話したい事がある・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・殺しあう事になると思いますよ。それでもいいんですか?」
「・・・・・・・・・・・・・あぁ・・・・・・・・・・・・・・」

アレックスは少し頷いて病室から出ようとした時だった
アレックスが開ける必要なくドアは開いた
そしてその先には
剣・杖・斧
およそ医者や患者には見えない武器を持った人々が立ちはだかっていた

「いたぞ!オブジェの奴らだ!」
「やれ!殺せ!」
「オブジェをとったら六銃士に褒美がもらえるぜ!」

だがそこに居た人々は
まとめて真横に吹っ飛んでいった
まるでボーリングのピンが吹っ飛ぶように

「ガハハ!まった面白そうな事になったなオラァ!」

ドレッドヘアーの男は一本の斧を担ぎ
アレックス達の眼前に現れた

「面倒事が好きなのはテメェだけだぜメッツ」
「おーぅ!大好きだぜ!当然だろ?パーティってやつだ!楽しいに決まってるぜ!
 ちと斧が一本無いせいで肩が軽くて気味悪ぃが
 こいつらを掃除するのにモップは一本でも十分事足りるってな!」
「モップならメッツさんの頭の上にあるじゃないですか」
「あ?」

レイズが気付いてクックッと笑った
メッツは「?」と両目を上に向ける
そして自分のドレッドヘアーの事を言っているんだと気付く

「テメッ!アレックス!言う事に遠慮が無くなってきたな!」
「もとから遠慮してるつもりはありませんけどね」
「ガハハ!まぁいい。お前らはさっさと行け。面倒事はカットしたい。そうだろ?」
「・・・・・・・あぁ・・・・・・・・・・・・・・頼んだぞメッツ・・・・・・・・・・・・」
「誰に言ってんだレイズ。俺に戦闘頼んだらピカイチだぜ?」
「・・・・・・・・クックッ・・・・・・・・・・・ついでに死ねばいいのにな・・・・・・・・・・・・」

「うるせぇ」と言いながらメッツはタバコに火を点けた
そして「いけ」とあごを振る
レイズとアレックスは軽く頷き合い
そして病室を出て行った。

廊下にはいつの間にか
騒ぎを聞きつけたGUN'Sのメンバーで溢れていた
各々の武器を構え
メッツを取り囲む

「ガハハハ!こりゃぁ掃除のしがいのあるこった!」

一人の医者が剣を振りかぶってメッツに向かっていった
が、メッツはその医者の頭を鷲掴みにし、
そして放り投げた。
放り投げた医者はボーリング玉。
医者達はまたボーリングのピンのように巻き込まれて倒れた
メッツは数十キロの両手斧を片手で突き出して言った

「ミルレス白十字病院内の清掃業者メッツ様!活動開始だオラァ!
 残念だったなお前ら!俺が相手なんてなぁ〜ガハハ!同情するぜ
 お前らここが病院だからって全員病院送りで済むと思うなよ?
 俺がお前らを送り届ける先は三途の川だ・・・・・・・・・・・片道だけどな!!!」

メッツは斧を振り回してGUN'Sの群れへと突っ込んだ









                 






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