「放送室!放送室はどこだぁああああああ!」

リヨンはGUNSの下っ端の胸倉を掴んで叫ぶ。
床には倒れたGUNSのメンバーが数人。
リヨンの実力なら下っ端など訳はなかった。

「そ、そこの廊下の角を曲がった所です・・・・」

リヨンはそれを聞くと、
その男を病院の壁にぶち当て、
先を急いだ。

リヨンの怒りは尋常じゃなかった。
おそらくこの病院内で、一番その殺気は際立っていただろう。
『ナイトマスター』ディアンの存在はそれほどリヨンの中で大きかった。
はっきりいって心の中での主柱。
リヨンの心の中でディアンはいつも大きく太く聳え立っていた。



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-数年前-


「ぐあぁあああ!」

吹き飛ばされるリヨン。
剣の腕なら誰にも負けないと思っていた
だが手も足も出なかった
こんな屈辱はない。

「HAHAHA!そんなもんか若造」
「うるさぁああああい!うるさい!自分はぁああ!自分はぁあああ!
 世界中に蔓延る悪を斬るためぇえええ!誰にも負けるわけにはいかないいいい!」
「これから俺様に負けるのにか?いや、もう負けているか。HAHAHAHA!」
「まだぁああ!まだ自分は負けてないいいいいい!!!」
「HAHA!道場をやぶりに入って来た時といい。威勢だけはいいのだからな」
「自分はぁああ!このリヨンは威勢だけの男ではなああああああああい!」

リヨンは立ち上がり、剣を構えなおす。

「まだ立ち上がるかリヨンとやら。だがなぜこの《騎士の心道場》をやぶりにきた
 この道場が・・・・いや、この俺様、ディアン様が悪だと思ったのか?」
「違う!!!」
「じゃぁなんなんだ」
「ここはぁああ!この道場はぁぁああ!戦士を騎士に育てていると聞くぅうう!
 そしてその騎士のほとんどは認められて王国騎士団に入団するとぉおおお!
 自分はぁあぁっぁあ!自分は世界の悪を斬るため騎士団に入りたいんだぁあああ!」
「じゃぁ門下生になりたいのか?」
「違う!自分はぁぁぁああ!ナイトマスタァァアア!お前を倒しにきたあああ!
 お前を倒せばぁぁぁあ!自分の実力は認められるはずっっ!
 すればすぐにでも王国騎士団に入れるはず!自分はぁぁぁ!だから自分はぁぁぁああ!」
「HAHAHA!そういう事か!だがこの俺様に手も足も出ていないじゃないか」
「くっ!くそぉおおおお!くそぉおおおおおお!」

リヨンは剣を振り上げてディアンへ立ち向かった。
だがディアンはいとも簡単に槍で剣を弾き、
そしてピアシングスパインを放つ。
そのピアシングスパインは、リヨンの眼前でピタリと止まった。

「HAHA!素質は悪くない。だが俺様に勝とうにはまだ早い」
「・・・・・・」

リヨンはその場に崩れた。
自分はまだまだ実力不足だと思い知った。
こんな腕じゃ
世界の悪共を斬る力はない。
悪を滅するためにはもっと・・・・もっと強さが必要だ。
強く・・・・強くなりたい。
もっと・・・・・・

「もっと・・・・・」
「ん?」
「もっと強くなって!あんたにもう一度挑戦するっっ!」
「ほぉ・・・・HAHA!その諦めない姿勢気に入った!威勢も過ぎれば立派だな!
 リヨンと言ったな。お前道場に入らないか?」


突然の出来事でリヨンは戸惑った。
自分は悪を斬りたい。
そのために王国騎士団に入りたい。
道場に入るなんて頭になかった。

「強くなりたいのだろう?俺様の道場は強くなるところだ。
 いや、道場という所はそういう所だ」

リヨンは黙った。
はっきり言って今まで人を頼った事などなかった
このディアンという男は本当に強い。
尊敬できるほどの強さだ。
今まで人の力を認めるなんて事はリヨンにはなかった。
頭の中にあるのはいつも悪。
悪を斬り、悪を滅する。
その正義感だけで他は見えていなかった。
自分が斬る。
悪斬は自分がやるべき事だと
いつも自分自分で一人だった。
だが・・・・・

「強く・・・・・」
「ん?」
「強くぅううう!強くしてくれるのかぁぁっぁあああ?!」
「あぁ」
「悪をぉおお!どんな悪も斬れるほどにかぁああああああ!?」
「HAHA!もちろんだ!」
「あんたほどに強くなれるのかぁあああああ!?」
「俺様ほど?・・・・HAHAHAHAHA!それはどうかな!」
「え?」
「俺様は天才だからな!俺様ほどになれるかは知らん
 何せこのディアン様は生まれてこの方負けたことがない
 だから他の者が俺様ほどになれるかなんて想像もつかん
 何せ騎士の頂点の称号『ナイトマスター』もらっているわけだからな」
「だが俺はあんたほどぉ!あんたほどの強さが欲しいんだぁああああ!
 悪をぉおおおお!悪を許すわけにはいかないからぁああああああああ!」

ディアンは笑った。
なんで笑ったのかよく分からなかったが
その独特の笑い方にリヨンは引き込まれそうになった
器の大きさというのだろうか

「HAHAHAHA!じゃぁ言える事は一つ!
 このディアン様のようになれ!技を真似ろ!盗め!俺様になれ!
 それが俺様ほどになる一番近道だと言っておこう!」

槍を高々とかざすディアン。
リヨンは思った。
いや、尊敬という念を持った。
何故かは分からない。
ただ圧倒的な強さ。
その大きな強さに引き込まれた。
この人に着いて行こう。
唐突にそう思った。

リヨンはディアンの前で片膝をつく。
そして地面に剣を置き、頭を下げたまま言った。

「このリヨン=オーリンパック!これからあなたを師範と呼ばせて戴きます!!!」


これが騎士技を使う剣士の誕生日だった。




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「貴様がヴァレンタインか!!!!」

廊下に立っていた一人の医者。
リヨンはそう問いたが答えは分かっていた
この男がヴァレンタインだと。
師範を殺した男だと。
何故分かったか
悪の匂いがするからだ。
悪だ、こいつは
分かる。
自分が憎むべき相手
悪は・・・・

「悪はゆるさぁぁあああああん!自分がぁぁっぁあ!
 このリヨン=オーリンパックが叩っ斬ってやるぅううううう!」
「おやおや、威勢のいい方だ。僕は君を知ってるよリヨン=オーリンパック
 昨日は《MD》の騎士に景気よくやられていたね。見ていたよ
 だが叩き斬る?君の師範である『ナイトマスター』がやられたのに君が僕を?
 ・・・・・ひひ・・・・・頭おかしいんじゃないか?精神科医を紹介しようか?」
「うるさい!!うるさぁああああい!弱っていた師範を殺しただけのクセにぃいいい!」
「あぁ・・・・たしかにそうだね。でも戦いにおいて君も相手の弱点をつくだろ?
 それと同じ事さ。"人、病に勝てず"。健康体より楽な時に殺るのも弱点をつくのと同じ」
「何故!何故師範を殺したぁあああああああ!医者だろう!」
「まぁ僕なりの理由があってね。君の師範は死してなお役に立ってもらうよ
 人の命は平等。死も同じくしてだ。その機会を僕が選んでるだけさ」
「悪だ・・・・」
「ん?」
「お前は正真正銘の悪だ!!!悪は!!自分がぁぁあ!自分が叩き斬る!!!」
「・・・・・・・・ひひ・・・・・・・・・やってみな・・・・・・・・・・」
「ああぁぁぁぁぁぁく!!そぉおおぉぉぉおく!ざぁあああぁぁぁぁあああああん!!!!」

リヨンは剣を中段に構えたまま突っ込んだ
長い長い廊下を。
まっすぐ。

「他愛無い」

ヴァレンタインは指で十字を描く。
そして前へ突き出した。
プレイア。
その衝撃がリヨンを襲う。

「くっ!」

リヨンは剣で見えないプレイアの衝撃を防いだ。
いや、防ぎきれなかった。
剣ごとリヨンは吹っ飛ぶ。

「ったく。病院の廊下は走らないで欲しいな
 それより僕のプレイアを受けて壊れないとは・・・・その剣なかなかだな
 セイキマツの贋作だったか?レプリカとはいえいい剣だ」
「と、当然だぁああ!これは道場に入った時にぃいいいい!
 師範から頂いた物だぁあああああ!自分にぃいい!自分にピッタリだとぉおおおお!」
「ピッタリ?そうかな?僕には豚に真珠という言葉がピッタリだと思うけどね」
「うるさぁぁぁぁあああい!」

倒れたリヨン。
ヴァレンタインが近づいてくる。
リヨンはすぐさま立ち上がった。
が、その時にはすでにヴァレンタインはまた十字を描ききっていた。
二発目のプレイア。
剣で受けるヒマはない
今度は直撃を食らった。
腹にだ。
見えないプレイアの衝撃を受け、
ものすごい勢いでリヨンは吹っ飛ぶ。
そして後ろの壁へと叩き付けられる。
いや、叩き付けられるという表現は適切でなかった。
リヨンは壁にめり込んだ。
コンクリートの壁に。
有り得ない威力だった。
このプレイアは聖職者の攻撃力ではない。

「が・・・・がは・・・・」

リヨンは大量の吐血をして地面にうつ伏せに倒れた。
体がいう事を聞かない。
こんなあっけなく。
簡単に・・・・

「僕は期待外れとは言わないよ。君は強いだろう。世間的にはね
 でも最強ギルド《GUN'S Revolver》の六銃士の一人の僕と、
 Bクラス程度のギルドの看板剣士では力の差は歴然ってだけだ」
「師範は・・・・師範はぁぁ・・・その看板にぃぃ・・・自分を・・・・自分を選んでくれたぁぁあああ!!」
「そんな話には興味ない。だが君に興味があるかもしれない話をしてやる
 僕は命は平等に扱う。僕は君を君の師範と同じように扱ってやる。嬉しいだろ?
 実際殺すだけだけどね・・・・ひひ・・・・・君はなかなかいい体をしている。面白そうだ。
 まぁまだ戦うというなら付き合ってやってもいいけど」
「く・・・・自分は・・・・自分は・・・・」
「さっきまでの威勢はどうしたんだいリヨン君」

威勢・・・・・

            HAHA!その諦めない姿勢気に入った!威勢も過ぎれば立派だな!
            リヨン。お前の良さは威勢とその負けん気だ
            そういうモノをもっている奴が強くなるんだ
            期待してるぞリヨン。
            お前は俺様のようになれる!俺様のようになれ!

師範・・・・・

「もう戦う元気はないみたいだな。じゃぁ君の師範のようにしてやるか」
「師範のように・・・・・・」
「ん?」
「自分はぁぁあああ!自分は師範のようなぁあああ!強い!強い男になるんだぁああああ!」

リヨンは立ち上がる。
剣を持ち、
戦う姿勢を見せる。
悪を斬るために。

「じゃぁ望みどおり・・・・」
「師範じきでぇえええええええええええん!!!!!!!!!」

リヨンは剣を突き出していた。
ヴァレンタインより早く、速く。
それは剣によるピアシングスパイン。
満身創痍の体でありながら
完璧なものだった。
そう、
言うならば騎士を極めた男のように。

「ぐっ!」

リヨンの剣がヴァレンタインの胸に突き刺さる。
深く。
ヴァレンタインの胸から血が流れ落ちる。

「このクソ戦士が!!」

ヴァレンタインのプレイアが発動する。
これまでで一番のプレイア
最大出力。
それを至近距離で受ける。
直撃。
さきほど叩きつけられた壁にもう一度たたきつけられる。
致命傷。
いや・・・・
即死級のダメージだ
もうリヨンの息は・・・・・・・・

「・・・・・くそ、手間かかけさせやがってクソ剣士が・・・
 ・・・・・・やっかいな傷を負ってしまったじゃないか・・・・・」

ヴァレンタインは自分の体からリヨンの剣を抜く。
そしてその傷口にヒールをかけ始めた。

「勢い余って全力を出してしまった。この男の体はもう使えないな
 まったく。一つの大事な命を無駄にしやがって」

ヴァレンタインは背中を向けて歩いていった。

リヨンの意識。

もう死んでいるのか
それとも命の淵なのか。

死の世界なのか
幻覚なのか

天国(アスガルド)という所なのか
それともただの夢なのか

ただ
ぼやける視界の先

そこにはディアンが立っていた。



  「お前も死んじまったかリヨン」
  「師範・・・・・?」
  「だが最後のお前。あれは最高だったぞ。まるで俺様のようだった
   最後の最後に俺様になれたな!HAHA!」
  「そ、そんな!自分は!自分なんて師範と比べたらまだまだ!」
  「いや、強くなった。お前は強くなったぞ」
  「師範・・・・」
  「・・・で、どうするリヨン。アスガルドの先はよ。
   お前は悪を斬ってきた。きっと天国にいけるはずだろう。俺様と一緒にいくか?」
  「いえ・・・・」
  「いかないのか?」
  「自分は・・・・」
  「・・・・・?」
  「自分はぁああああ!自分は地獄に行きますぅう!地獄で悪という悪を斬ってきますうう!」
  「・・・・・・HAHA・・・・HAHAHAHA!!お前らしいな!
   そうだな!悪は許さん!!!・・・・だったな」
  「はいぃい!」
  「もっと強くなってこいリヨン」
  「は、はい!師範!しはぁぁん!全ての悪を斬りきったその時!その時はぁぁあ!
   もう一度ぉお!もう一度師範に挑戦させて戴きますぅぅうう!!!!」
  「HAHAHA!それでこそ俺様の門下生だ」
  「はぃいい!!このリヨン!!リヨン=オーリンパックはぁああ!
   死してなおあなたをぉおおお!あなたをぉおおおおお!
   師範と呼ばせていただきますううううううう!」




リヨン=オーリンパックは死んだ。


だが、彼の意思、威勢。
それは死んでも死にきることはなかった。
           
そして悔いもなかった。
夢か幻か
それがなんであろうと

最後の最後にディアンに

強くなったと言ってもらえたから










                 






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